(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083964
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】シール部材の取り外し方法、及び気体供給ノズル
(51)【国際特許分類】
F16J 15/00 20060101AFI20230609BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20230609BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
F16J15/00 D
H01L21/02 Z
F16J15/10 C
F16J15/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197998
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 威
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA17
3J040BA02
3J040EA16
3J040EA22
3J040FA05
3J040HA03
3J040HA15
3J040HA30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溝部に収容された環状のシール部材を簡便に取り外す技術を提供する。
【解決手段】密閉空間を有する装置を構成し、互いに当接する第1の部材の第1の当接面61と第2の部材の第2の当接面との間に配置される環状のシール部材5を取り外すにあたり、前記第1の当接面には、前記シール部材を収容する溝部6と、前記溝部に収容された前記シール部材との間に気体が流れる流路を形成し、前記溝部の開口の縁部から突出するように開口させた気体導入流路と、が設けられている。そして、前記気体導入流路の開口に気体供給ノズル84を接続する工程と、前記気体供給ノズルから前記気体導入流路に高圧気体を供給し、前記溝部と前記シール部材との間に進入させて、前記シール部材を前記溝部から押し出す工程と、を実施する。
【選択図】
図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉空間を有する装置を構成し、互いに当接する第1の部材の第1の当接面と第2の部材の第2の当接面との間に配置された環状のシール部材の取り外し方法であって、
前記第1の当接面には、前記シール部材を収容し、前記第1の当接面において開口する溝部と、前記溝部に収容された前記シール部材の側面との間に隙間を形成して気体が流れる流路を構成すると共に、前記第1の当接面と対向する位置から見たとき、前記溝部の開口の縁部から突出するように前記流路の端部を開口させた気体導入流路と、が設けられていることと、
高圧気体を供給するための気体供給ノズルを、前記気体導入流路の開口に接続する工程と、
次いで、前記気体供給ノズルから前記気体導入流路に高圧気体を供給することにより、前記溝部と前記シール部材との間に前記高圧気体を進入させて、前記シール部材の少なくとも一部を前記溝部から押し出す工程と、を含むことと、を有する方法。
【請求項2】
前記溝部は、アリ溝である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記気体導入流路は、前記第1の当接面に前記アリ溝を形成するフライス加工を行った際に、上部側の切削径よりも下部側の切削径の方が大きなエンドミルを進入させたエントリーポイントである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記エントリーポイントである前記気体導入流路の開口は、前記第1の当接面と対向する位置から見たとき、前記溝部の開口の縁部の一方側のみから突出するように形成されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記密閉空間を有する装置には、前記第1の当接面と前記第2の当接面との間に前記シール部材が配置された前記第1の部材と前記第2の部材との部材当接部が複数、設けられていることと、
前記複数の部材当接部には、前記気体導入流路の開口の開口径が相違するものが含まれていることと、
前記気体供給ノズルを接続する工程では、前記気体導入流路の開口の前記開口径に対応させて、前記高圧気体を吐出する吐出口の口径が相違する前記気体供給ノズルを接続することと、を有する、請求項1ないし4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記密閉空間を有する装置は、真空容器に基板を収容し、前記真空容器に処理ガスを供給して前記基板の処理を行う基板処理装置である、請求項1ないし4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
気体供給ノズルであって、
密閉空間を有する装置を構成する互いに当接する第1の部材の第1の当接面と第2の部材の第2の当接面との間に配置された環状のシール部材を収容する溝部と、前記溝部に収容された前記シール部材の側面との間に形成される隙間に、前記シール部材の少なくとも一部を前記溝部から押し出す高圧気体を供給するよう接続可能に構成された気体供給ノズル。
【請求項8】
前記気体供給ノズルは、前記第1の当接面に押し当てることにより、前記溝部の開口の縁部から突出した気体導入流路の開口に接続するため、平坦な先端面を有し、且つ、前記先端面が前記気体導入流路の開口の口径よりも大きな外径を有するように構成された、請求項7に記載の気体供給ノズル。
【請求項9】
前記気体供給ノズルは、前記気体導入流路の開口内に挿入可能な外径の先端部を有し、前記先端部には、前記溝部側へ向けて配置される傾斜面が形成され、当該傾斜面には、前記高圧気体を供給するための吐出口が形成されている、請求項7に記載の気体供給ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シール部材の取り外し方法、及び気体供給ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(Flat Panel Display)や半導体装置の製造装置には、真空容器内に基板であるガラス基板やウエハを配置し、処理ガスを供給して、エッチング処理や成膜処理などを行うものがある。これらの装置においては、処理ガスの供給系統や、真空容器、真空容器の排気系統などの密閉された空間(密閉空間)を形成するため、これらの機器を構成する複数の部材間に、多数のシール部材が設けられる。また、基板に露光用のレジスト液や現像液を塗布する塗布、現像装置や、洗浄液によって基板を洗浄する洗浄装置においても、多数のシール部材が使用される。シール部材としては、環状のO-リングを採用する場合が一般的である。
【0003】
これらO-リングは、1台の装置に数十個~100個以上も設けられる場合がある。このため、装置のメンテナンスの際には、これら多数のO-リングを取り外す作業が発生する。一方で、確実な気密性能を発揮するためには、O-リングを各部材の所定の位置に正確に取り付ける必要がある。そこで、O-リングを取り付ける位置に溝部を設け、この溝部内にO-リングを収容した状態で使用することがある。特に、O-リングの脱落を防ぐために、溝部としてしばしばアリ溝が用いられる。溝部に収容されたO-リングは、従来、ピックアップ用の治具を用いて取り外していたが、多数のO-リングの取り外しは、長い時間を要する作業となってしまう。
【0004】
特許文献1には、Oリングを取り付ける溝部の外周に、ピンセットなどの治具を挿入する取り外し用窪みを設ける技術が記載されている。また、特許文献2には、Oリングが設けられたアリ溝の底部に、耐圧容器の側面と導通する導通孔を連通させ、圧縮空気などの流体によりOリングを浮き上がらせてアリ溝より取り出す技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-298893号公報
【特許文献2】実開昭61-89553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、溝部に収容された環状のシール部材を簡便に取り外す技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、密閉空間を有する装置を構成し、互いに当接する第1の部材の第1の当接面と第2の部材の第2の当接面との間に配置された環状のシール部材の取り外し方法であって、
前記第1の当接面には、前記シール部材を収容し、前記第1の当接面において開口する溝部と、前記溝部に収容された前記シール部材の側面との間に隙間を形成して気体が流れる流路を構成すると共に、前記第1の当接面と対向する位置から見たとき、前記溝部の開口の縁部から突出するように前記流路の端部を開口させた気体導入流路と、が設けられていることと、
高圧気体を供給するための気体供給ノズルを、前記気体導入流路の開口に接続する工程と、
次いで、前記気体供給ノズルから前記気体導入流路に高圧気体を供給することにより、前記溝部と前記シール部材との間に前記高圧気体を進入させて、前記シール部材の少なくとも一部を前記溝部から押し出す工程と、を含むことと、を有する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、溝部に収容された環状のシール部材を簡便に取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】O-リングが設けられている基板処理装置の一例である。
【
図2A】O-リングを収容した溝部の第1の構成例を示す平面図である。
【
図2B】O-リングを収容した溝部の第2の構成例を示す平面図である。
【
図3】溝部の形成方法の一例を示す縦断側面図である。
【
図4】O-リングを取り外すエアガンの構成例を示す側面図である。
【
図5】気体供給ノズルの第1の構成例を示す斜視図である。
【
図6】前記気体供給ノズルの使用態様例を示す縦断側面図である。
【
図7A】前記気体供給ノズルの作用例を示す第1の斜視図である。
【
図7B】前記気体供給ノズルの作用例を示す第2の斜視図である。
【
図8】気体供給ノズルの第2の構成例を示す斜視図である。
【
図9】前記気体供給ノズルの使用態様例を示す縦断側面図である。
【
図10】大型O-リングを収容した溝部の構成例を示す平面図である。
【
図11A】大型O-リングを取り外す作用例を示す第1の縦断側面図である。
【
図11B】大型O-リングを取り外す作用例を示す第2の縦断側面図である。
【
図12】比較例1、2にて使用した治具の外観写真である。
【
図13】実施例、比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<エッチング装置1>
初めに、環状のシール部材であるアリ溝6が取り付けられる基板処理装置の一例として、FPD用のガラス基板Gに対してエッチング処理を行うエッチング装置1の構成例について、
図1を参照しながら簡単に説明する。
本例のエッチング装置1は、真空容器21内の載置台3上にガラス基板Gを載置し、当該ガラス基板Gに対してプラズマ処理を実施するように構成されている。真空容器21内には、ゲートバルブ16により開閉される搬送口22を介してガラス基板Gが搬送され、当該真空容器21の内部空間は、複数の排気路231を介して真空排気機構23により真空排気されるように構成される。排気路231には、例えばAPC(Automatic Pressure Control)バルブなどの圧力調整部232が介設されている。真空排気機構23は、複数の排気路23のそれぞれに設けてもよいし、共通して設けてもよい。
【0011】
載置台3はプラズマ生成用の電極を兼ねるものであり、例えばプラズマ生成用の高周波電源31及びイオン引き込み用のバイアス電力を供給する高周波電源32が夫々整合器311、321を介して接続されている。この例の載置台3には、温調媒体流路33が内蔵され、ガラス基板Gを設定温度に維持するように構成される。載置台3は絶縁部材34により支持されると共に、ガラス基板Gの受け渡しに用いられる昇降ピン35が昇降機構351により昇降可能に挿通されている。
【0012】
真空容器21の天井部には、載置台3と対向するように、上部電極4が配置されている。上部電極4はガスシャワーヘッドを兼用するものであり、中空状に形成されていて、その下面には多数のガス吐出孔41が設けられている。ガスシャワーヘッドである上部電極4は、バルブV1と流量調整部43とを備えたガス供給路42を介して、処理ガスのガス供給源44に接続されている。
【0013】
このエッチング装置1によれば、外部から搬送されたガラス基板Gが載置台3上に載置されると、真空容器21内を真空排気機構23により真空排気して所定の真空度に調節した後、処理ガスであるエッチングガスを供給する。一方、載置台3にプラズマ発生用、及びイオン引き込み用の高周波電力を印加し、ガラス基板Gの上方側の空間に形成されたプラズマを利用して、ガラス基板Gに対するエッチング処理を実行する。所定の期間が経過したら、エッチングガスの供給、高周波電力の印加を停止し、真空容器21内の圧力調節を行った後、処理後のガラス基板Gを搬出する。
【0014】
<O-リング5の配置例>
以上に説明したエッチング装置1は、密閉空間においてガラス基板Gにエッチングガスを供給し、真空容器21内の真空排気を行うように構成されているところ、本開示の「密閉空間を有する装置」に相当している。このエッチング装置1には、内部を気密に保つため、環状のシール部材である多数のO-リング5が設けられている。
【0015】
図1には、エッチング装置1に設けられている多数のO-リング5の配置位置の一部を例示してある。
図1には、ガス供給路42の末端部のフランジと上部電極(ガスシャワーヘッド)4との間、上部電極4の外周側に設けられたフランジと、真空容器21の上面の開口の周囲に形成され、当該フランジを受ける段差部との間、真空容器21に設けられた覗き穴24の周囲の壁部と、この覗き穴24を覆う窓部241との間、下部電極である載置台3と、載置台3を支持する絶縁部材34の段差部との間、真空容器21の下面部と、排気路231の末端部のフランジとの間を、O-リング5の配置位置として例示している。
【0016】
これらの配置位置において、各O-リング5は、各部材の当接面間に配置されている。そして、この当接面を構成する一方の部材には、O-リング5を収容するための溝部であるアリ溝6が形成されている。アリ溝6が形成されている部材(
図1中の上部電極4のガス供給路42との接続部、真空容器21の上面の開口の周囲の段差部、覗き穴24が形成された真空容器21の壁部、絶縁部材34の段差部、真空容器21の下面部)は、本開示の第1の部材に相当している。一方、アリ溝6に収容されたO-リング5を挟んで第1の部材と当接した状態となる部材(
図1中のガス供給路42のフランジ、上部電極4の外周側のフランジ、窓部241、載置台3、排気路231のフランジ)は、本開示の第2の部材に相当している。また、第1の部材が第2の部材と当接する面は第1の当接面となり、第2の部材が第1の部材と当接する面は第2の当接面となる。
【0017】
<アリ溝6の構成>
以下、
図2A~
図11Bを参照しながら、アリ溝6内に配置されたO-リング5を取り外す手法について説明する。なお、これらの図のうち、座標軸を併記した各図は、第1の部材61の当接面(第1の当接面)を第2の部材の当接面(第2の当接面)側に向ける方向をZ軸に設定してある。
図2Aは、比較的小径の小型O-リング5aが配置される第1の部材61の平面図である。小型O-リング5aが配置される位置としては、ガス供給路42のフランジと上部電極4の上面との間、真空容器21の壁部と窓部241との間を例示できる。第1の部材61には、エッチングガスなどの流体が流れる流体流路611を囲むようにアリ溝6が形成されている。アリ溝6は、第2の部材との当接面(第1の当接面)側へ向けて開口するように設けられている。
【0018】
さらに、本例の第1の部材61を当接面と対向する位置から見たとき(図中のZ軸側から平面視したとき)、当該当接面には、アリ溝6の開口の縁部から突出するようにエントリーポイント(Entry Point:EP)601、602が開口している。
図2Aに示す例では、アリ溝6の外周側の縁部から外方側へ突出するようにEP601が開口している。また、
図2Bに示す例では、アリ溝6の外周側及び内周側のそれぞれの縁部から、さらに外方側及び内方側へ突出するようにEP602が開口している。
【0019】
図3(a)、(b)に示すように、これらのEP601、602は、上部側の切削径よりも下部側の切削径の方が大きなエンドミル7を用いてアリ溝6のフライス加工を行った際に形成される。なお、図示の便宜上、これらの図において、エンドミル7の刃は、記載を省略してある。
【0020】
初めに、
図2AのEP601が形成される加工手法について、
図3(a)、(b)を参照しながら説明する。
フライス加工によりアリ溝6を形成する際には、予め形成しておいた不図示のドリル穴に沿ってエンドミル7を進入させ、切削径の方が大きなエンドミル7の下部の回転に対応した形の縦穴を形成する(
図3(a))。この縦穴がエンドミル7を進入させるためのEP601に相当する。
【0021】
しかる後、
図3(b)に示すように流体流路611が形成されている方向へ向けてエンドミル7を移動させる。すると上部側の切削径よりも下部側の切削径の方が大きなエンドミル7によって第1の部材61が切削され、エンドミル7の側面形状に沿った傾斜面が形成される。その後、
図2Aに示すように、流体流路611を囲む周方向に沿ってエンドミル7を一周させるフライス加工を行う。そして、EP601の形成位置にエンドミル7が戻ってきたら、エンドミル7をEP601内に進入させた後、取り出す。
上述の加工動作により、
図6に示すように、逆テーパー状の側壁面を有するアリ溝6が形成される。そして、アリ溝6の外周側の縁部から外方側へ突出するようにEP601が開口した状態となる。
【0022】
一方、
図2Bに示されているEP602の場合には、
図3(a)に示すように、EP602を形成した位置から、そのままアリ溝6を形成するフライス加工を開始すると、アリ溝6の外内周の双方の縁部から突出するようにEP602が開口した状態となる。
【0023】
ここで出願人は、
図2Aに示すように、アリ溝6の外周側の縁部のみから外側へ突出するようにEP601を形成すること、言い換えると、流体流路611側へ突出しないようにEP601を形成することを提案している(例えば特開2020-196053)。この構成により、EP601の形成位置を流体流路611から遠ざけ、例えば真空容器21内でのガラス基板Gの処理により生成した反応生成物がEP601内に堆積することを抑制している。反応生成物の堆積抑制により、パーティクルの発生や、機器の腐食の発生を抑えることができる。
【0024】
また、
図2Aに示す構成のEP601は、アリ溝6からO-リング5を取り外すための本例の手法を適用するに好適な構成となっている。そこで、以下の説明では、
図2Aに示すEP601が設けられたアリ溝6からO-リング5を取り外す場合について説明する。
なお後述するように、
図2Bに記載のEP602が設けられたアリ溝6に対して、本例の手法を適用することも可能である。
【0025】
<気体導入路、及び気体供給ノズル84>
本例においては、アリ溝6からO-リング5を押し出すための気体を導入する気体導入流路として上述のEP601を利用する。このEP601に対しては、気体供給ノズル84を用いて高圧気体が供給される。
図4は、エアガン8に気体供給ノズル84を設けた例を示している。エアガン8は、市販のものを利用することが可能であり、本体81に設けられたアダプタ86に対し、継手85を介して気体供給ノズル84を取り付けている。
【0026】
このエアガン8の本体81をエア供給ライン83に接続し、レバー82を作動させることにより、気体供給ノズル84から高圧気体が供給される。高圧気体としては、例えば工場用力として供給される清浄空気を利用することが可能である。また、「高圧」とは、大気圧より高い圧力の気体であり、一般的な工場用力の清浄空気として、0.4~1MPaの範囲内の圧力を例示するこができる。
【0027】
図5は、気体供給ノズル84の構成例の外観斜視図を示している。当該図に示すように、この例の気体供給ノズル84は、直管状の本体部841の端部に円錐状の先端部842を設けた構成となっている。また先端部842の先端面843は、本体部841の軸方向と直交する平坦な面となっている。そしてこの先端面843に、高圧気体を吐出するための吐出口845が形成されている。
【0028】
<作用説明>
上述の構成の気体供給ノズル84を用い、アリ溝6からO-リング5を取り外す操作の内容を説明する。
図6、
図7Aに示すように、気体供給ノズル84は、エアガン8に取り付けた状態にて、先端面843が第1の部材61の当接面に押し当てられる。これにより、気体導入流路であるEP601に対して気体供給ノズル84が接続された状態となる(気体供給ノズル84を接続する工程)。なお、
図6、
図7Aにおいて、エアガン8の記載は省略してある(以下、
図7Bについても同じ)。また、作業効率の観点からは、気体供給ノズル84を第1の部材61の当接面にネジなどによって固定しない方が好ましい。
【0029】
ここで
図6に示すように、気体供給ノズル84の先端面843の外径は、EP601の開口の口径よりも大きく形成されている。この構成により、気体供給ノズル84をEP601に接続したとき、先端部842の先端部がEP601内に入り込むことなく、EP601の開口を気体供給ノズル84の先端面843で覆った状態とすることができる。この結果、気体供給ノズル84の吐出口845がEP601の開口と連通した状態となり、気体供給ノズル84からEP601に高圧気体を導入することができる。
【0030】
図2Aを用いて説明したように、本例のEP601は、当接面と対向する位置から見て、アリ溝6の開口の縁部から突出するように開口している。この構成に伴い、
図6に示すように、アリ溝6に収容されたO-リング5の側面とEP601の側壁面との間には隙間が形成され、この隙間が気体の流れる流路となる。なお、O-リング5の断面が円形である場合、多角形のような辺を有しないため所謂「側面」に相当する箇所が特定できないが、便宜上、アリ溝6の内壁に対応したO-リング5の表面部分をO-リング5の「側面」と呼ぶこととする。
【0031】
次いで、
図7Bに示すように、気体供給ノズル84からEP601に高圧気体を供給する。図中、白抜きの矢印は、気体の流れを模式的に表している(後述の
図11Bにおいて同じ)。ここで
図6に示すように、アリ溝6の下部側の左右両隅の領域と、例えば断面形状が円形に構成されたO-リング5との間には、隙間が形成される。EP601に供給された高圧気体は、この隙間内に進入、充満する。
【0032】
さらに気体供給ノズル84からの高圧気体の供給を継続すると、O-リング5とアリ溝6との間の隙間内の気体の圧力が上昇する。この結果、
図7Bに示すように、O-リング5の少なくとも一部がアリ溝6から押し出される(O-リング5をアリ溝6から押し出す工程)。押し出されたO-リング5は、手で容易にアリ溝6から取り外すことができる。
【0033】
ここで、
図2Aに示すEP601は、アリ溝6の外周側の縁部のみから外側へ突出するように構成されている。このため、
図6を用いて説明したように、気体供給ノズル84の先端面843で、EP601の開口を覆うと、気体供給ノズル84と連通した気密な空間を形成することができる。この構成により、気体供給ノズル84から供給された高圧気体が外部へ漏れ出しにくく、比較的少量の高圧流体で効率的にO-リング5を押し出すことができる。
【0034】
この点、
図2Bに記載のように、アリ溝6の外内周の双方の縁部から突出するように開口したEP602では、
図2AのEP601と比較して、EP602の開口面積が小さく、高圧気体を流入させにくい。また、EP602に気体供給ノズル84を接続したとき、この接続位置から見て、O-リング5を介して反対側の位置にもう一つのEP602が開口した状態となる。このため、気体供給ノズル84と連通した気密な空間を形成することが難しく、供給した高圧気体の一部がO-リング5を押し出すために使われずに、外部へ漏れ出してしまうおそれがある。
但し、
図2Bに示す構成のEP602であっても、十分な圧力及び流量の高圧流体を供給すれば、本例の手法を適用して、アリ溝6からO-リング5を押し出すことは可能である。
【0035】
次に、本開示の技術を適用するに当たっての、O-リング5を収容する溝部がアリ溝6によって構成されていることの利点について説明する。例えば縦断面が矩形状の溝部に対しても、O-リング5を収容することは可能である。一方で、溝部の縦断面が矩形状の場合、溝部がアリ溝6である場合と比較して、O-リング5の側面と溝部の側壁面との間に形成される隙間は小さくなる。このため、アリ溝6の場合と比較して、高圧気体が進入しにくく、O-リング5を押し出す力が弱くなってしまう場合がある。
【0036】
また、アリ溝6は、開口の幅が狭くなっているため、ピックアップ用の治具を用いてO-リング5を取り出しにくい構造である。一方で、既述のように、溝部の縦断面が矩形状の場合と比較して、O-リング5とアリ溝6との間に形成される隙間は大きいため、高圧気体を利用した取り外しに適した溝部の構造であると言える。
【0037】
一方で、縦断面が矩形状の溝部にO-リング5が収容されている場合であっても、十分な圧力及び流量の高圧流体を供給すれば、本例の手法を適用して、溝部からO-リング5を押し出すことは可能である。
ここで、縦断面が矩形状の溝部を形成するためには、例えば、上部側の切削径と下部側の切削径とが等しい、円筒状のエンドミル7を用いてフライス加工を行う。この場合、EP601の直径と、溝部の開口の幅とはほぼ等しくなるので、
図3(a)の状態から溝部を形成したとしても、EP601の開口は、溝部の縁部から突出した状態とはならない。従って、溝部の縁部から突出した状態のEP601の開口を形成するためには、例えば
図3(b)を用いて説明した手法適用して加工を行うことが必要となる。
【0038】
また
図1を用いて例示したように、エッチング装置1においては、様々な位置に第1の部材と前記第2の部材との部材当接部が設けられ、これらの部材当接部に各々O-リング5が設けられている。このとき、各当接部に設けられるO-リング5には、気密保持のための耐圧性能などに応じ、太さの異なるものが用いられる場合がある。この場合、O-リング5の太さに対応した幅を有するアリ溝6を形成しなければならない。アリ溝6の幅は、エンドミル7の切削径により変化するため、複数の部材当接部の中には、EP601の開口径が異なるものが含まれることになる。
【0039】
この点、既述のように、気体供給ノズル84は、エアガン8から取り外し可能な構成となっている。そこで、高圧気体を吐出する吐出口845の口径や先端面843の直径が相違する複数種類の気体供給ノズル84を準備しておくことができる。これにより、EP601の開口径に対応させ、これらの気体供給ノズル84を取り換えて使用することが可能となる。
【0040】
<他の例に係る気体供給ノズル84a>
図8、
図9に記載の気体供給ノズル84aは、先端部842に傾斜面844が形成されている点において、先端面843が平坦となっている、
図5、
図6に示す気体供給ノズル84と異なる。
本例の気体供給ノズル84aにおいて、先端部842は、傾斜面844が形成された部分をEP601内に挿入することが可能な直径となっている。そして、
図9に示すように、O-リング5の上面及び側面を覆うように傾斜面844の形成部分をEP601内に挿入することにより、気体供給ノズル84と連通した気密な空間を形成することができる。
この構成によっても、気体供給ノズル84aから供給された高圧気体が外部へ漏れ出しにくく、比較的少量の高圧流体で効率的にO-リング5を押し出すことができる。
【0041】
<大型O-リング5bの取り外し>
図2A、
図7Bなどでは、アリ溝6から小型O-リング5aを取り外す例について説明した。一方で、アリ溝6には周長が10cm~数mにもなる大型O-リング5bが設けられる場合もある。
図1に示したエッチング装置1において、大型O-リング5bが配置される位置としては、上部電極4のフランジと、真空容器21の上面の開口の周囲の段差部との間、真空容器21の下面と排気路231のフランジとの間、載置台3と絶縁部材34の段差部との間を例示できる。
【0042】
例えば
図10には、
図1に示す真空容器21の上面に形成され、上部電極4が配置される開口621の周囲に設けられた段差部に対してアリ溝6を形成し、大型O-リング5bを収容した例を示している。この例においても、
図2A、
図6を用いて説明した例と同様のEP601が形成されている。
【0043】
大きさが相違する場合であっても、大型O-リング5bを取り外す手法に相違はない。即ち、
図11Aに示すように、気体供給ノズル84をEP601に接続する。しかる後、気体供給ノズル84から、EP601に高圧気体を供給する。EP601に供給された高圧気体は、大型O-リング5bとアリ溝6との隙間内に進入する点は、
図6を用いて説明した例と同様である。
【0044】
一方で、大型O-リング5bの周長が長い場合には、圧力損失も大きく、大型O-リング5bとアリ溝6との隙間全体に高圧空気が行き渡ることが困難な場合もある。但し、高圧気体を連続的に供給することにより、例えば高圧気体の進入が行き詰まった位置の圧力が上昇し、
図11Bに示すように大型O-リング5bの少なくとも一部がアリ溝6から押し出される。押し出された大型O-リング5bは、手で容易にアリ溝6から取り外すことができる。
【0045】
以上に説明した各実施の形態に係る手法によれば、以下の効果がある。EP601を利用してアリ溝6に高圧気体を供給することにより、アリ溝6に収容されたO-リング5を押し出して、簡便に取り外すことができる。
【0046】
本例のO-リング5の取り外し法を適用可能な密閉空間を有する装置は、
図1に例示したエッチング装置1に限定されない。真空容器21内に基板であるガラス基板Gや半導体ウエハを配置し、成膜ガスを供給して成膜処理を行う成膜装置や、アッシングガスを供給して不要なレジスト膜の除去を行うアッシング装置に設けられたO-リング5に対して適用することもできる。また、基板に露光用のレジスト液や現像液を塗布する塗布、現像装置や、洗浄液で基板を洗浄する枚葉式やバッチ式の洗浄装置に設けられたO-リング5について、本例の手法を用いて取り外しを行ってもよい。
さらには、基板処理装置に限定されず、基板を基板処理装置間において移送する装置の油圧系統を構成する部材間に設けられるO-リング5や、基板を保管する装置の清浄空気若しくは温度調節媒体の循環系統を構成する部材間に設けられるO-リング5など、密閉空間を有し流体をシールする構造を有する各種の装置に対しても、本例の手法を適用することが可能である。
【0047】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【実施例0048】
(ベンチマークテスト)
異なる手法を用いてアリ溝6からO-リング5を取り外すベンチマークテストを行い、作業の所要時間を比較した。
【0049】
A.テスト条件
金属板の表面に、外径14mmのO-リング5を収容可能であり、
図2A、
図6に示すEP601を備えた構成のアリ溝6を10個形成し、これらのアリ溝6から全てのO-リング5を取り外す作業を実施した。全体の取り外し作業に要した時間から、1個当たりの平均の作業時間(取り外し時間)を算出した。
(実施例)
図5に示す構成の気体供給ノズル84を用い、
図6~
図7Bを用いて説明した手法によりO-リング5を取り外した。エアガン8には、高圧流体として0.5MPaの空気を供給した。
(比較例1)
図12(a)に示す構成の先端が扁平な治具を用い、手作業によりO-リング5を取り外した。
(比較例2)
図12(b)に示す構成の先端が鋭利な治具を用い、手作業によりO-リング5を取り外した。
【0050】
B.テスト結果
図13に、実施例及び比較例1、2に係るベンチマークテストの結果を示す。
図13の縦軸は、1個当たりのO-リング5の平均の取り外し時間を示している。
図13に示すように、本例の手法を適用した実施例では、O-リング5の平均の取り外し時間は1.6秒であり、最も短かった。これに対して、扁平な治具を用いた比較例1では、7.3秒、鋭利な治具を用いた比較例2では4.8秒と、実施例の3~4倍以上の取り外し時間を要した。
このように、本例のO-リング5の取り外し方法は、治具を用いた従来法と比較して、O-リング5の取り外し作業に要する時間を大幅に短縮することができる。