(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084553
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】鋳型炭素材料の製造方法、触媒の製造方法、固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法、及び燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20230612BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20230612BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20230612BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230612BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20230612BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20230612BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20230612BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/96 B
H01M4/88 C
H01M8/10 101
B01J23/42 M
B01J32/00
H01G11/42
H01M4/86 B
H01M4/88 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198797
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝
(72)【発明者】
【氏名】日吉 正孝
(72)【発明者】
【氏名】小村 智子
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
5E078
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G146AA01
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5E078AA03
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5H018AA06
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5H126BB06
(57)【要約】
【課題】炭素収率が高く、歩留まりの良い鋳型炭素材料の製造方法、それを利用した、触媒の製造方法、固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法、及び燃料電池の製造方法の提供。
【解決手段】下記要件(A)を満たす炭素源と下記要件(B)を満たす鋳型源を原料に用いる鋳型炭素材料の製造方法。
(A)炭素源が、含酸素官能基2個以上及び含窒素官能基2個以上の少なくとも一方を有し、且つ、不活性雰囲気下の熱重量分析において、5質量%減量に到達する温度T0.05が200℃以下の芳香族化合物を含む。
(B)鋳型源が、マグネシウム、アルカリ土類金属及びアルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(A)を満たす炭素源と下記要件(B)を満たす鋳型源を原料に用いる鋳型炭素材料の製造方法。
(A)炭素源が、含酸素官能基2個以上及び含窒素官能基2個以上の少なくとも一方を有し、且つ、不活性雰囲気下の熱重量分析において、5質量%減量に到達する温度T0.05が200℃以下の芳香族化合物を含む。
(B)鋳型源が、マグネシウム、アルカリ土類金属及びアルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種である。
【請求項2】
前記炭素源において、前記芳香族化合物は、2個以上の前記含酸素官能基のうち、少なくとも2個の前記含酸素官能基の間に2個以上の炭素原子が介在する化合物である請求項1に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭素源において、芳香族化合物は、単環の芳香族化合物、及び2環の芳香族化合物から選択される少なくとも1種であり、前記含酸素官能基はカルボキシル基であり、含窒素官能基はアミノ基である請求項1又は請求項2に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記2環の芳香族化合物が、ナフタレン骨格を有する化合物である請求項3に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記炭素源において、芳香族化合物は、3環以上の芳香族化合物であり、前記含酸素官能基がカルボキシル基又は水酸基であり、含窒素官能基はアミノ基である請求項1又は請求項2に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記3環以上の縮合環構造を有する芳香族化合物が、アントラキノン骨格を有する化合物、及びアントラセン骨格を有する化合物から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
【請求項7】
前記鋳型源が、マグネシウム及びカルシウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
【請求項8】
前記鋳型源が、炭酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも1種である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の鋳型炭素材料の製造方法に得られた炭素材料を担体とし、前記担体の表面に触媒成分を担持する触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の触媒の製造方法により得られた触媒を用いる固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法により得られた触媒層を用いる燃料電池の製造方法。
【請求項12】
前記固体高分子形燃料電池用触媒層は、カソード側の触媒層である請求項11に記載の燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳型炭素材料の製造方法、触媒の製造方法、固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法、及び燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳型炭素材料は、鋳型となる化合物の表面に炭素を被覆した後に、鋳型成分を除去することで、鋳型の形状を反転することを形状的特徴とする炭素材料である。
鋳型炭素材料の製造方法は、例えば、ポリビニルアルコールに代表される汎用樹脂を炭素源とし、酸化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属の化合物を鋳型源とし、各々を十分に混合し、非酸化性雰囲気で600℃~1500℃で熱処理した後に、鋳型源を酸で溶解除去するなど、何らかの方法で、炭素源を炭化すると共に鋳型源を除去するというプロセスである。
酸化マグネシウム、酸化カルシウムは、塩酸、硫酸等で容易に溶解させることが可能であるため、これらの化合物を鋳型源に用いた鋳型炭素材料が検討されることが多い。
【0003】
また、炭素被覆する過程で、通常600℃以上1500℃の温度で加熱処理を行うため、その加熱処理過程で酸化マグネシウム、又は酸化カルシウムに化学変化するような化合物(例えば、炭酸塩、水酸化物、硫酸塩など)を、鋳型源に用いることも可能である。
【0004】
炭素被覆するための加熱処理の温度は、目的に応じて選定される。たとえば、官能基を多量に含むような非晶質性の高い多孔質炭素材料を調製したければ、600℃~900℃が選ばれる。結晶性の高い多孔質炭素材料を得たければ、1000℃を超えて調製する。
ただし、炭化カルシウムなど炭化物、又は、金属アセチリドの生成を伴う高温での処理は避ける必要がある。実際には、炭素被覆するための加熱処理の温度は、1800℃程度が限界となる。
【0005】
鋳型炭素材料は、いわゆる賦活法により製造される多孔質炭素材料(活性炭等)に相当する多孔質炭素材料の一つとして分類されている。
鋳型炭素材料の構造的特徴は、賦活法による多孔質炭素材料が外部から酸化消耗により内部に向かって細孔を成長させるのに対し、鋳型炭素材料は、最表面は製造法等の影響を受けるが、材料内部の細孔構造が原則的に均質であり、一般に、細孔が等方的に連結している。これが、特に、賦活法賦活法による多孔質炭素材料の細孔構造と対比される、鋳型炭素材料の構造的特徴である。
【0006】
等方的な細孔の連結を有する鋳型炭素材料は、固体高分子形燃料電池の分野では、連通孔と称されることもあり、材料内部のガスの流通性の良さ(拡散が速い)が、触媒の担体として用いたとき、発電性能の向上をもたらすと信じられており、有望な材料として考えられている。
また、鋳型炭素材料では、原理的に鋳型を写し取り反転した細孔が得られるため、ミクロ孔から数10nmの範囲で、均一性の高い細孔構造を得ることが可能である。これは、賦活法で形成される細孔が、ミクロ孔からメソ孔まで幅広く分布せざるを得ないのとは対照的である。
【0007】
鋳型炭素材料における炭素層の厚みは、鋳型源と炭素源の混合比を変えることで自由に制御できるため、質量あたりの比表面積の自由度は高い。
【0008】
鋳型炭素材料は、多孔質炭素材料であるので、例えば、いわゆる活性炭と呼ばれる炭素材料が適用される分野(例えば、特定のガスの選択的吸着、液相中の特性の構造を持った分子の選択的吸着などの吸着剤の分野)、ケッチェンブラックが適用されるような固体高分子形の燃料電池の触媒担体としての分野、スーパーキャパシターの電極の分野などに適用される。
鋳型炭素材料に特有と思われる分野は、等方的細孔の連結を活かした材料内部の高い拡散性を活かす使い方である。
【0009】
例えば、ゼオライトを鋳型とするミクロ孔のみから成る多孔質炭素材料で、鋳型の種類を選定し、細孔内への炭素被覆をプロピレンガスを原料としたCVDで条件を最適化することにより、多孔質炭素の表面積としては、驚異的な4000m2/gに至ることが報告されている。(非特許文献1)
細孔径が原子レベルの0.数nmオーダーであるために、被覆する炭素壁は単原子層で、且つ、曲率を維持するために5員環、7員環などを含む細孔壁で形成される。
そのため、上述のように質量あたりの細孔容積および細孔表面積は大きいが、他方、曲率を伴う炭素構造で芳香族構造に比較して機械的強度および化学的安定性において劣位な傾向を持つ。
【0010】
一方、クエン酸マグネシウムを、窒素雰囲気下、900℃で1時間加熱処理し、得られたMgO粉末とポリビニルアルコール粉末とを混合した後、窒素雰囲気下、900℃で1時間処理する鋳型炭素材料の製造方法も知られている(非特許文献2)。
【0011】
また、C数が6以上の有機酸Mgを原料とし、不活性雰囲気化で300℃以上に加熱し、その後、冷却して酸洗浄することを特徴とする活性炭の製造方法も知られている(特許文献1)。この活性炭の製造方法では、炭素源として、クエン酸及びポリビニルアルコール(PVA)が使用されている。
【0012】
また、有機質樹脂を、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩よりなる群から選択されるアルカリ土類金属化合物の少なくとも1種と混合し、非酸化性雰囲気で加熱焼成する工程を含む活性炭の製法であって、焼成して炭素かした後に生成するアルカリ土類金属酸化物の結晶子サイズによって、活性炭の細孔サイズを調整する活性炭の製造方法も知れている(特許文献2)。この活性炭の製造方法では、炭素源として、炭素源としてポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等の樹脂材料が使用されている。
【0013】
また、アルミナのナノ粒子(結晶子サイズが平均10nm、市販品)に、メタンを炭素源のガスとして用いた熱CVD処理を行って、多孔質炭素材料の製造方法も知られている(特許文献3)。この多孔質炭素材料の製造方法では、熱処理温度、ガス濃度、処理時間などの実験条件を十分に最適化することにより、炭素層を2層以下に制御した炭素膜で被覆したアルミナのナノ粒子を得た後、フッ化水素酸類溶液でアルミナを溶解し、蒸留水で希釈した後に濾過し、再度、蒸留水で分散した後に濾過、もう一度繰り返した後の粉末を真空乾燥して、多孔質炭素を得ている。
【0014】
さらに、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を鋳型源とする鋳型炭素材料の製造方法の知られている(特許文献4)。この鋳型炭素の製造方法は、メソ細孔を有し、かつ耐酸化性及び電気伝導性が高い鋳型炭素材料を得る方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008-013394号公報
【特許文献2】特許4955952号
【特許文献3】特開2015-164889号公報
【特許文献4】特開2021-034128号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Formation of new type of porous carbon by carbonization in zeolite nanochannels, Chemistry of materials, 2, 609-615(1997)
【非特許文献2】A review of the controle of pore structure in MgO-templated nanoporous carbons, Carbon, 48, 2690-2707(2010))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述の例において、例えば、ゼオライトを鋳型とした炭素材料では、鋳型として用いるゼオライト自体が分子篩機能を持つ、すなわち、数Åオーダーの細孔直径であり、したがって、その細孔を被覆する炭素の厚みも、1原子層そのものが1nm以下であるため、CVD(Chemical Vapour Deposition)などの気相法を用いた合成法を用いざるを得ない。その場合、工業材料規模の量産には不向きな材料となる。
一方で、特許文献1~3に例示されるようなMgO等を鋳型源とする鋳型炭素材料の製造方法は、簡便な製造法であるため、製造プロセス・生産規模という観点では工業材料に向く。しかしながら、炭素源として用いる樹脂の重量に対し、鋳型炭素を構成する炭素としての歩留まりは、本発明者らが鋭意検討した結果、高々10数%に留まるという課題がある。
【0018】
ここで、一般に、活性炭、ケッチェンブラック等を代表とする賦活系の多孔質炭素材料は、1500℃以上の非酸化性雰囲気での加熱処理により細孔容積と比表面積が大幅に減少してしまう。炭素材料の化学的安定性の確保や強度の制御のために、非酸化性雰囲気での加熱処理は、まさに加工処理の常法であり、加熱処理により細孔構造の変化は小さいものが望まれる。この観点で、鋳型炭素材料は好ましい材料である。
【0019】
そのため、炭素収率が高く、歩留まりの良い鋳型炭素材料の製造方法が要望されているのが現状である。
なお、特許文献4に例示される、鋳型炭素材料の製造方法では、耐酸化消耗性に優れる鋳型炭素材料が得られる点については記載されているが、細孔構造を自由に制御可能で、且つ、炭素収率が高く、歩留まりの良い鋳型炭素材料が得られることについて記載されていない。特に、炭素収率の向上と耐酸化消耗性の両立の向上には、細孔を形成する炭素壁の平均的な厚み、すなわち、炭素の芳香族網面の積層枚数を多くすることが、芳香族性を高めることと同等以上に重要である。特許文献4に記載の錯体系の原料は、金属原子に対する炭素数を増やすことができないため、炭素収率の向上と耐酸化消耗性の改善には原理的な課題を有する。
【0020】
そこで、本発明の課題は、炭素収率が高く、歩留まりの良い鋳型炭素材料の製造方法、それを利用した、触媒の製造方法、固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法、及び燃料電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
課題を解決するための手段は、次の態様を含む。
<1>
下記要件(A)を満たす炭素源と下記要件(B)を満たす鋳型源を原料に用いる鋳型炭素材料の製造方法。
(A)炭素源が、含酸素官能基2個以上及び含窒素官能基2個以上の少なくとも一方を有し、且つ、不活性雰囲気下の熱重量分析において、5質量%減量に到達する温度T0.05が200℃以下の芳香族化合物を含む。
(B)鋳型源が、マグネシウム、アルカリ土類金属及びアルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種である。
<2>
前記炭素源において、前記芳香族化合物は、2個以上の前記含酸素官能基のうち、少なくとも2個の前記含酸素官能基の間に2個以上の炭素原子が介在する化合物である<1>に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
<3>
前記炭素源において、芳香族化合物は、単環の芳香族化合物、及び2環の芳香族化合物から選択される少なくとも1種であり、前記含酸素官能基はカルボキシル基であり、含窒素官能基はアミノ基である<1>又は<2>に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
<4>
前記2環の芳香族化合物が、ナフタレン骨格を有する化合物である<3>に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
<5>
前記炭素源において、芳香族化合物は、3環以上の芳香族化合物であり、前記含酸素官能基がカルボキシル基又は水酸基であり、含窒素官能基はアミノ基である<1>又は<2>に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
<6>
前記3環以上の縮合環構造を有する芳香族化合物が、アントラキノン骨格を有する化合物、及びアントラセン骨格を有する化合物から選択される少なくとも1種である<5>に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
<7>
前記鋳型源が、マグネシウム及びカルシウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種である<1>~<6>のいずれか1項に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
<8>
前記鋳型源が、炭酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも1種である<1>~<7>のいずれか1項に記載の鋳型炭素材料の製造方法。
<9>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の鋳型炭素材料の製造方法に得られた炭素材料を担体とし、前記担体の表面に触媒成分を担持する触媒の製造方法。
<10>
<9>に記載の触媒の製造方法により得られた触媒を用いる固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法。
<11>
<10>に記載の固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法により得られた触媒層を用いる燃料電池の製造方法。
<12>
前記固体高分子形燃料電池用触媒層は、カソード側の触媒層である<11>に記載の燃料電池の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、炭素収率が高く、歩留まりの良い鋳型炭素材料の製造方法、それを利用した、触媒の製造方法、固体高分子形燃料電池用触媒層の製造方法、及び燃料電池の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係る燃料電池の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
「好ましい態様の組み合わせ」は、より好ましい態様である。
【0025】
本発明の鋳型炭素材料の製造方法は、下記要件(A)を満たす炭素源と下記要件(B)を満たす鋳型源を原料に用いる製造方法である。
(A)炭素源が、含酸素官能基2個以上及び窒素官能基2個以上の少なくとも一方を有し、且つ、不活性雰囲気下の熱重量分析において、5質量%減量に到達する温度T0.05が200℃以下の芳香族化合物を含む。
(B)鋳型源が、マグネシウム、アルカリ土類金属及びアルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種である。
【0026】
本発明の鋳型炭素材料の製造方法では、炭素収率が高く、歩留まりの良い鋳型炭素材料の製造方法となる。そして、本発明の鋳型炭素材料の製造方法は、次の知見から見出された。
【0027】
まず、従来の鋳型炭素材料の製造方法では、通例では、鋳型源としてセラミックス(MgO、CaO、アルミナ等)と炭素源として樹脂とが用いられる。樹脂の加熱分解して生じた気体成分が、セラミックス表面に炭素膜を形成したのがきっかけで、樹脂の分解生成物に特有の現象と思わせることが、専ら樹脂を炭素源に用いた原因だと思われる。一方で、プロピレンガスを用いた熱CVDによるセラミックスへの炭素被覆も一般的な技術として周知であり、この二つの現象が、セラミックスへの炭素被覆が本質的に熱分解したガス状の低分子が本質的に重要と思われるきっかけとなった。
樹脂として用いられるのは、モノマー構造中に酸素を含むものが多く、典型的なのが、式(-(CH2-CHOH)n-)で表されるポリビニルアルコールである。
これらの樹脂は、単に非酸化性雰囲気中で、例えば600℃以上に加熱処理すると、熱分解して、何も固形物は残らない。ところが、MgO、CaO、アルミナ等のセラミックスと共存させると、分化したガス状化合物がセラミックスに吸着し、炭素膜として残存する。この現象を、これまでは、熱CVDと同様と捉えたため、ラジカル状化合物に特有の現象と考えてきた。
【0028】
一方、本発明者らは、炭素源として用いる材料がどのような素過程を経て、炭素化し、鋳型源の表面に沈着しているのか、その機構を原子レベルで検討した。その結果、次の知見を得た。
まず、炭素源としての樹脂の分解は、必ずしも必要ではなく、含酸素官能基又は含窒素官能基を複数持つ低分子化合物を樹脂の代わりに用いることで、樹脂よりもはるかに高い炭素収率を得ることが可能である。これは、マグネシウム、アルカリ土類金属及びアルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種を鋳型源に用いるとき、以下に述べるような機構により、炭素収率が高まるためである。
【0029】
含酸素官能基又は含窒素官能基が、鋳型源(鋳型源が、マグネシウム、アルカリ土類金属及びアルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種)に対して、鋳型源に強い親和性を有する。そのため、炭素源として、鋳型源に親和性を有する含酸素官能基又は含窒素官能基が2個以上存在する分子構造を持つ芳香族化合物を用いて、鋳型源と非酸化性雰囲気で加熱すると、炭素収率が高くなる。
原子レベルでの炭素源の炭素固定の反応の素過程は、明確ではないが、少なくとも、炭素源となる分子構造の含酸素官能基2個以上で、炭素源が鋳型源表面に固定し、熱的過程で炭酸の形で酸素が抜けるときに、2つの含酸素官能基の間の分子構造が固定化されるものと推察される。同様に、含窒素官能基2個以上で、熱的過程で窒素が抜けるときに、2つの含窒素官能基の間の分子構造が固定化されるものと推察される。
【0030】
式(-(CH2-CHOH)n-)で表されるポリビニルアルコール等のような典型的な樹脂材料を炭素源に用いる場合も、熱分解して生じるガス状の化合物は、構造中に必ず酸素原子を含むため、複数の含酸素官能基又は複数の含窒素官能基が含まれた化合物だけが高い炭素収率となるがその確率が低いために全体としての炭素収率が低いものと推察される。
【0031】
以上の知見から、本発明の鋳型炭素材料の製造方法では、炭素収率が高く、歩留まりの良い鋳型炭素材料の製造方法となることが見出された。
【0032】
以下、本発明の鋳型炭素材料の製造方法の詳細について説明する。
【0033】
本発明の鋳型炭素材料の製造方法は、例えば、炭素源と鋳型源とを混合する混合工程、第1の加熱工程、鋳型源除去工程、及び第2の加熱工程を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0034】
(混合工程)
本工程では、炭素源と鋳型源とを混合する。
【0035】
-炭素源-
炭素源は、含酸素官能基2個以上及び含窒素官能基2個以上の少なくとも一方を有し、且つ、不活性雰囲気下の熱重量分析において、5%減量に到達する温度T0.05が200℃以下の芳香族化合物が少なくとも適用される。
【0036】
芳香族化合物において、含酸素官能基および窒素官能基を2個以上であるが、炭素収率向上の観点から、2個以上6個以下が好ましく、2個以6個以下がより好ましい。
含酸素官能基としては、カルボキシル基、水酸基等が挙げられる。窒素官能基としては、アミノ基等が挙げられる。
【0037】
芳香族化合物において、2個以上の含酸素官能基又は窒素官能基のうち、少なくとも2個の含酸素官能基又は窒素官能基の間に介在する炭素原子の数は、炭素収率向上の観点から、2個以上が好ましく、2個以上5個以下がより好ましく、2個以上4個以下が好ましい。
ここで、2個の含酸素官能基又は窒素官能基の間に介在する炭素原子の数は、含酸素官能基又は窒素官能基の炭素原子(例えば、カルボキシル基の炭素原子)を含まず、2個の含酸素官能基又は窒素官能基の間に直鎖状に連なった炭素原子の数である。つまり、2個の含酸素官能基又は窒素官能基の間に介在する炭素原子が置換基(例えばアルキル基等)を有する場合、2個の含酸素官能基又は窒素官能基の間に介在する炭素原子の数は、置換基の炭素原子の数は含まない。
また、2個の含酸素官能基又は窒素官能基の間に介在する炭素原子の数は、最も近い含酸素官能基又は窒素官能基の間に介在する炭素原子の数である。
【0038】
芳香族化合物における官能基は、鋳型源であるマグネシウム、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、硫酸塩、又は水酸化物に強く吸着し、炭化過程で炭素源が熱分解して鋳型源の無機化合物と酸素又は窒素含有官能基とが強く結合し、炭素源の分解物が気相で消失するのを抑制する機能を果たす。したがって、そもそも、炭素源が炭化過程において熱分解することが前提となる。つまり、芳香族化合物は、不活性雰囲気下の熱重量分析において、5%減量に到達する温度T0.05が、200℃以下で満たされる必要がある。
この点、例えば、アントラキノン及びフェナントレンキノンは、キノン型の含酸素官能基を二つ持つが、温度T0.05が200℃以下の芳香族化合物に該当しない。キノン型官能基は非常に安定性が高く、炭化過程において熱分解することはなく昇華して炭化歩留りは実質的にゼロとなるためである。
なお、不活性雰囲気下の熱重量分析において、5質量%減量に到達する温度T0.05の測定方法は、後述する実施例で説明する通りである。
【0039】
ここで、芳香族化合物は、単環の芳香族化合物、2環以上の芳香族化合物(2環以上の縮合多環芳香族化合物、2環以上の非縮合多環芳香族化合物)が挙げられる。なお、報告族化合物は、芳香族複素環化合物も含む。
単環の芳香族化合物は、ベンゼン骨格を有する化合物、複素員環(ピリジン骨格を有する化合物、ピリミジン骨格を有する化合物、トリアジン骨格を有する化合物、ピロール骨格を有する化合物、フラン骨格を有する化合物、トリアジン骨格を有する化合物等)等が挙げられる。
2環以上の縮合多環芳香族化合物は、2個以上の芳香環が縮合した化合物であり、ナフタレン骨格を有する化合物、アントラセン骨格を有する化合物、アントラキノン骨格を有する化合物、フェナントレンキノン骨格を有する化合物、窒素を含む3環骨格を有する化合物(例えば、1-アザフェナントレン、4-アザフェナントレン、9-アザフェナントレン、1,10-フェナントロリン、9-アザアントラセン、9,10-ジアザアントラセン等)、ピレン骨格を有する化合物、ペリレン骨格を有する化合物、フェナンスレン骨格を有する化合物、ペンタセン骨格を有する化合物、コロネン骨格を有する化合物等が挙げられる。
2環以上の非縮合多環芳香族化合物は、2個以上の芳香環が直接または架橋員(脂肪族炭化水素基、窒素原子、硫黄原子等)により相互に連結された化合物であり、ビフェニル骨格を有する化合物、ターフェニル骨格を有する化合物、トリフェニルメタン骨格を有する化合物等が挙げられる。
【0040】
芳香族化合物としては、炭素収率向上の観点から、単環の芳香族化合物、及び2環の芳香族化合物(好ましくは2環の縮合多環芳香族化合物)から選択される少なくとも1種であり、含酸素官能基がカルボキシル基であり、含窒素官能基がアミノ基である化合物が好ましい。
2環の芳香族化合物としては、2環の縮合多環芳香族化合物が好ましく、ナフタレンが好ましい。
【0041】
芳香族化合物としては、炭素収率向上の観点から、3環以上の芳香族化合物であり、含酸素官能基がカルボキシル基又は水酸基であり、含窒素官能基がアミノ基である化合物も好ましい。
3環以上の芳香族化合物としては、3環以上の縮合多環芳香族化合物が好ましく、アントラキノン骨格を有する化合物、及びアントラセン骨格を有する化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
ここで、炭素収率向上の観点から、芳香族化合物において、全ての含酸素官能基の総酸素数は、4以上が好ましく、4以上8以下が好ましい。また、全ての含窒素含有基の総窒素数は、2以上が好ましく、2以上4以下が好ましい。
なお、2個以上のカルボキシル基は、無水物を形成していてもよい。2個以上のカルボキシル基は、アルキル金属の塩を形成していてもよい。つまり、例えば、カルボン酸無水物基を一つ有する芳香族化合物は、2個のカルボキシル基を有する芳香族化合物に該当する。
また、アミノ基としては、アミノ基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基が挙げられる。2級アミノ基としては、-NR1H(R11は炭素数1~6のアルキル基)が挙げられる。3級アミノ基としては、-NR2R3(R2、R3は各々独立して炭素数1~6のアルキル基)が挙げられる。これらの中でも、アミノ基としては、1級アミノ基が好ましい。
【0043】
芳香族化合物の炭素数は、炭素収率向上の観点から、6~30が好ましく、6~24がより好ましく、10~20がさらに好ましい。
ここで、芳香族化合物の炭素数は、含酸素官能基及び含窒素官能基の炭素原子も含めた炭素数である。
【0044】
芳香族化合物のうち、2個以上のカルボキシル基を有し、単環又は2環の芳香族化合物としては、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ベンゼンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物等が挙げられる。また、ベンゼンの含窒素複素員環のジカルボン酸、ナフタレンの含窒素複素員環のジカルボン酸、及び、それら無水物等も挙げられる。
【0045】
2個以上のカルボキシル基を有し、3環以上の芳香族化合物としては、フェナントレン、アントラセン、ピレン、コロネンのポリカルボン酸が挙げられる。また、これら3環以上の芳香族化合物の含窒素複素員環も挙げられる。
【0046】
2個以上の水酸基を有し、3環以上の芳香族化合物としては、アントラキノン、フェナントレンキノン、ジヒドロキシアントラキノン、テトラヒドロキシアントラキノン、ジヒドロキシアントラセン等が挙げられる。
【0047】
2個以上のアミノ基を有し、単環又は2環の芳香族化合物としては、ジアミノベンゼン、ジアミノナフタレン、含窒素のベンゼン環を有するジアミン、含窒素のナフタレン環を有するジアミン等が挙げられる。
【0048】
2個以上のアミノ基を有し、2環以上の芳香族化合物としては、ジアミノアントラキノン、ジアミノアントラセン、ジアミノフェナントレン、トリアミノアントラキノン等が挙げられる。
【0049】
炭素源は、上記芳香族化合物以外に、樹脂を併用してもよい。ただし、上記芳香族化合物の配合量は、例えば、全炭素源に対して30質量%以上(好ましくは40質量%以上)とする。
炭素源としての樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸等の、炭素源として利用される周知の樹脂が挙げられる。
【0050】
-鋳型源-
鋳型源としては、鋳型源が、マグネシウム、アルカリ土類金属及びアルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種が適用される。ここで、アルカリ土類金属としては、カルシウム、バリウム、ストロンチウム等が挙げられる。
【0051】
Mg及びアルカリ土類金属の酸化物としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム等が挙げられる。
Mg及びアルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、等が挙げられる。
Mg及びアルカリ土類金属の硫酸塩としては、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム等が挙げられる。
Mg及びアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、炭素収率向上の観点から、炭素源としては、マグネシウム、アルカリ土類金属及びアルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物から選択される少なくとも1種が好ましく、マグネシウム及びカルシウムの、酸化物、炭酸塩、並びに酸化物から選択される少なくとも1種がより好ましく、炭酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも1種がより好ましい。
なお、アルミニウムの、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、並びに水酸化物のうちでは、酸化アルミニウムが好ましい。
【0053】
-炭素源と鋳型源との混合比-
炭素源と鋳型源との混合比(鋳型源/炭素源)は、鋳型源と炭素源中の炭素Cのモル比で、0.1~15.0が好ましく、0.5~10.0がより好ましい。それにより、目的とするBET比表面積および細孔分布の鋳型炭素材料(つまり多孔質炭素材料)が得られる。
【0054】
(第1の加熱工程)
第1の加熱工程では、例えば、炭素源と鋳型源との混合物を、不活性ガス雰囲気下で、昇温速度5~30℃/分で、800~1100℃まで昇温し、その温度で10~200分保持する。
この熱処理により、炭素源の炭素化と並行して、鋳型源を熱分解及び酸化し、炭素と鋳型(つまりマグネシウム、アルカリ土類金属又はアルミニウムの酸化物)との複合体を得る。
【0055】
(鋳型源除去工程)
鋳型源除去工程では、炭素と鋳型(つまりマグネシウム、アルカリ土類金属又はアルミニウムの酸化物)との複合体を酸洗することで、鋳型を酸洗液中に溶解する。これにより、炭素と鋳型との複合体から鋳型を除去する。それにより、多孔質炭素材料中間体を得る。
酸洗に用いる酸は、鋳型が可溶であればよく、好ましい例としては、硫酸が挙げられる。酸洗後、炭素材料を水洗し、乾燥させる。
【0056】
(第2の加熱工程)
第2の加熱工程では、例えば、得られた鋳型炭素材料の中間体を、不活性ガス雰囲気下で、2300~2600℃で、0.5~3.0時間保持する。
この熱処理により、鋳型炭素材料の結晶性が高まり、高温での耐久性(酸化消耗耐性)が向上する。
なお、第2の加熱工程後、鋳型炭素材料の中間体に対して、2400℃以上の黒鉛化処理を実施してもよい。
【0057】
以上の工程により、目的とする鋳型炭素材料(つまり多孔質炭素材料)が得られる。
【0058】
本発明の鋳型炭素材料の製造方法は、活性炭と呼ばれる炭素材料が適用される分野(例えば、特定のガスの選択的吸着、液相中の特性の構造を持った分子の選択的吸着などの吸着剤の分野)、ケッチェンブラックが適用されるような固体高分子形の燃料電池の触媒担体としての分野、スーパーキャパシターの電極の分野などに適用される。
【0059】
<触媒の製造方法>
本発明の鋳型炭素材料の製造方法は、触媒の製造方法に適用可能である。本発明の触媒の製造方法は、担体として、上記本発明の鋳型炭素材料の製造方法に得られた炭素材料の表面に触媒成分を担持する触媒の製造方法である。
触媒成分としては、個体高分子形燃料用触媒が代表的な触媒として挙げられる。触媒成分は、白金、白金合金等が挙げられる。白金合金の合金成分としては、金、銀、クロム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、スズ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム等が挙げられる。
その他、触媒成分としては、固体高分子形燃料用触媒が代表的な触媒として挙げられる。触媒成分は、白金、白金合金等が挙げられる。白金合金の合金成分としては、Au、Ag、Cr、Fe、Ti、Mn、Co、Ni、Mo、W、Al、Si、Zn、Sn、Ru、Rh、Pd、Os、Ir等が挙げられる。
【0060】
本発明の触媒の製造方法は、固体高分子形燃料電池用触媒層、Li空気電池に代表されるような金属空気電池の空気極、レドックスフロー電池の電極など、広い反応表面積を提供し、且つ、化学的・電気化学的な高い安定性が求められる電極の製造用途に適用することができる。
【0061】
<固体高分子形燃料電池の製造方法>
本発明の鋳型炭素材料の製造方法は、固体高分子形燃料電池(又はその触媒層)の製造方法に適用可能である。
製造する個体高分子形燃料電池は、例えば、
図1に示す固体高分子形燃料電池100が挙げられる。固体高分子形燃料電池100は、例えば、セパレータ110、120、ガス拡散層130、140、触媒層150、160、及び電解質膜170を備える。
【0062】
セパレータ110は、アノード側のセパレータであり、水素等の燃料ガスをガス拡散層130に導入する。セパレータ120は、カソード側のセパレータであり、酸素ガス、空気等の酸化性ガスをガス拡散凝集相に導入する。セパレータ110、120の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用されるセパレータであればよい。
【0063】
ガス拡散層130は、アノード側のガス拡散層であり、セパレータ110から供給された燃料ガスを拡散させた後、触媒層150に供給する。ガス拡散層140は、カソード側のガス拡散層であり、セパレータ120から供給された酸化性ガスを拡散させた後、触媒層160に供給する。ガス拡散層130、40の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池に使用されるガス拡散層であればよい。ガス拡散層130、40の例としては、多孔質炭素材料(カーボンクロス、カーボンペーパー等)、多孔質金属材料(金属メッシュ、金属ウール等)等が挙げられる。
なお、ガス拡散層130、140の好ましい例としては、ガス拡散層のセパレータ側の層が繊維状炭素材料を主成分とするガス拡散繊維層となり、触媒層側の層がカーボンブラックを主成分とするマイクロポア層となる2層構造のガス拡散層が挙げられる。
【0064】
触媒層150は、いわゆるアノードである。触媒層150内では、燃料ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、燃料ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
H2→2H++2e- (E0=0V)
【0065】
酸化反応によって生じたプロトンは、触媒層150、及び電解質膜170を通って触媒層160に到達する。酸化反応によって生じた電子は、触媒層150、ガス拡散層130、及びセパレータ110を通って外部回路に到達する。電子は、外部回路内で仕事をした後、セパレータ120に導入される。その後、電子は、セパレータ120、ガス拡散層140を通って触媒層160に到達する。
【0066】
アノードとなる触媒層150の構成は特に制限されない。すなわち、触媒層150の構成は、従来のアノードと同様の構成であってもよいし、触媒層160と同様の構成であってもよいし、触媒層160よりもさらに親水性が高い構成であってもよい。
【0067】
触媒層160は、いわゆるカソードである。触媒層160内では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。酸化反応で発生した水は、未反応の酸化性ガスとともに固体高分子形燃料電池100の外部に排出される。
O2+4H++4e-→2H2O (E0=1.23V)
【0068】
このように、固体高分子形燃料電池100では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0069】
触媒層160には、本発明の鋳型炭素材料が含まれている。すなわち、触媒層160は、本発明の鋳型炭素材料と、電解質材料と、燃料電池用触媒とを含む。これにより、触媒層160内の触媒利用率を高めることができる。その結果、固体高分子形燃料電池100の触媒利用率を高めることができる。
【0070】
なお、触媒層160における燃料電池触媒担持率は特に制限されないが、30質量%以上80質量%未満であることが好ましい。ここで、燃料電池触媒担持率は、触媒担持粒子(鋳型炭素材料に燃料電池用触媒を担持させた粒子)の総質量に対する燃料電池用触媒の質量%であることが好ましい。この場合、触媒利用率がさらに高くなる。なお、燃料電池触媒担持率が30質量%未満となる場合、固体高分子形燃料電池100を実用に耐えるようにするために触媒層160を厚くする必要が生じうる。一方、燃料電池触媒担持率が80質量%以上となる場合、触媒凝集が起こりやすくなる。また、触媒層160が薄くなりすぎて、フラッディングが起こる可能性が生じる。
【0071】
触媒層160における電解質材料の質量I(g)と触媒担体用炭素材料の質量C(g)との質量比I/Cは特に制限されないが、0.5超5.0未満であることが好ましい。この場合、細孔ネットワークと電解質材料ネットワークとが両立でき、触媒利用率が高くなる。一方、質量比I/Cが0.5以下となる場合、電解質材料ネットワークが貧弱になり、プロトン伝導抵抗が高くなる傾向にある。質量比I/Cが5.0以上となる場合、電解質材料によって細孔ネットワークが分断される可能性がある。いずれの場合にも、触媒利用率が低下する可能性がある。
【0072】
また、触媒層160の厚さは特に制限されないが、5μm超20μm未満であることが好ましい。この場合、触媒層160内に酸化性ガスが拡散しやすく、かつ、フラッディングが生じにくくなる。触媒層160の厚さが5μm以下となる場合、フラッディングが生じやすくなる。触媒層160の厚さが20μm以上となる場合、触媒層160内で酸化性ガスが拡散しにくくなり、電解質膜170近傍の燃料電池用触媒が働きにくくなる。すなわち、触媒利用率が低下する可能性がある。
【0073】
電解質膜170は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。電解質膜170は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードである触媒層160に導入する。ここで、電解質材料の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料であればよい。好適な例は固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料、すなわち、電解質樹脂である。電解質樹脂としては、例えば、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子(例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマー又はベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー)等が挙げられる。もちろん、電解質材料は他の種類の電解質材料であってもよい。このような電解質材料としては、例えば、無機系、無機-有機ハイブリッド系等の電解質材料等が挙げられる。なお、固体高分子形燃料電池100は、常温~150℃の範囲内で作動する燃料電池であってもよい。
【実施例0074】
<実験例>
表1~表4に示す種類及び量の、炭素源および鋳型源を混合した。粒子同士は可能な限り粒子径が小さい方が第一の加熱工程で均一な焼成物を形成することになるので、炭素源と鋳型源は、試験に供する前に、乳鉢、遊星ボールミルなどで粉砕し、体積平均粒子径が、1.0~10.0μmに調製したものを用いた。混合は、乳鉢を用いて少なくとも数分以上の時間をかけて混合したものを用いた。
ここで、炭素源に用いる化合物は、不活性雰囲気下の熱重量分析を評価した。熱重量分析には、リガク社製TG-DTA8122を用い、昇温速度10℃/分で室温(25℃)から500℃まで昇温し、アルゴンガス流通条件において、5質量%減量に到達する温度T0.05を算出した。そして、T0.05が200℃以下を満たすものを〇、満たさないものを×として、表1~表4に記載した。
次に、混合物を、ガス流通型の横型管状電気炉を用いて、アルゴンガスを流通させながら焼成(第一の加熱処理)して、炭素と鋳型との複合体を得た。具体的には、アルゴンは線速度3cm毎分の流量で流通させ、昇温速度20℃毎分で、室温から900℃まで昇温し、900℃で1時間保持した後に放冷し100℃以下になったところで取り出し、炭素と鋳型との複合体の複合体を得た。
次に、複合体を乳鉢で軽く解砕した後、20質量%の硫酸水溶液に分散させて、90℃で40時間撹拌後、メンブレンフィルターで吸引濾過し、再度、蒸留水に分散し濾過を2回繰り返し、洗浄した。これにより鋳型を除去した。
次に、洗浄物を100℃の温風乾燥機で水分を除去後、90℃5時間真空乾燥し、鋳型炭素材料の中間体を得た。
次に、得られる鋳型炭素材料の結晶性を高めるために、鋳型炭素材料の中間体に対して、不活性ガス雰囲気中、1500℃で1.0時間の第二の加熱処理を施した。その後、鋳型炭素材料の中間体に対して、黒鉛化処理(加熱処理)を実施した。
以上の工程を経て、鋳型炭素材料(つまり、多孔質炭素材料)を得た。
【0075】
なお、特許文献4の実施例1の記載を再現して、ベンゼン-1,4-ジカルボン酸カルシウム塩を得た(実験例番号Ar1-12)。すなわち、反応容器に純水2L、水酸化カルシウム1mol、テレフタル酸1molを入れ、80℃で3時間混合してテレフタル酸カルシウム塩を調製した。調製したテレフタル酸カルシウム塩を、24時間静置した。その後、テレフタル酸カルシウム塩を濾過し、115℃で24時間乾燥し、粗粉砕した。得られたベンゼン-1,4-ジカルボン酸カルシウム塩を、上述の第一の加熱処理以降は同じ手続きにより、鋳型炭素材料(つまり、多孔質炭素材料)を得た。
【0076】
<評価>
得られた鋳型炭素材料(つまり、多孔質炭素材料)について、次の評価を実施した。
【0077】
(炭素収率)
次の通り、各例の鋳型炭素材料の製造方法における炭素収率を求めた。
原料に用いた炭素源の質量に対する、鋳型源除去工程後の炭素の質量の質量比率を炭素収率として定義し、下記の方法にて測定した。
即ち、前述の第一の加熱処理である900℃1時間保持後のサンプルを、硫酸溶液処理とその後の洗浄処理により鋳型を除去し、更に、真空管処理まで施して得られた鋳型炭素の中間体の質量を計量し、その質量を、原料に用いた炭素源の質量で割って、炭素収率を%表示で算出した。
【0078】
(触媒の調製、触媒層の作製、MEAの作製、燃料電池の組立、及び電池性能の評価)
得られた鋳型炭素材料を用い、以下のようにして触媒金属が担持された固体高分子型燃料電池用触媒を調製し、また、得られた触媒を用いて触媒層インク液を調製し、次いでこの触媒層インク液を用いて触媒層を形成し、更に形成された触媒層を用いて膜電極接合体(MEA: Membrane Electrode Assembly)を作製し、この作製されたMEAを燃料電池セルに組み込み、燃料電池測定装置を用いて発電試験を行った。以下、各部材の調製及び発電試験によるセル評価について詳細に説明する。
【0079】
(1) 固体高分子型燃料電池用触媒(白金担持炭素材料)の作製
得られた鋳型炭素材料を、蒸留水中に分散させ、この分散液にホルムアルデヒドを加え、40℃に設定したウォーターバスにセットし、分散液の温度がバスと同じ40℃になってから、撹拌下にこの分散液中にジニトロジアミンPt錯体硝酸水溶液をゆっくりと注ぎ入れた。その後、約2時間撹拌を続けた後、濾過し、得られた固形物の洗浄を行った。このようにして得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、乳鉢で粉砕し、次いで水素を5体積%含むアルゴン雰囲気中200℃で1時間熱処理をして白金触媒粒子担持炭素材料を作製した。
なお、この白金担持炭素材料の白金担持量については、鋳型炭素材料と白金粒子の合計質量に対して40質量%となるように調整し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES: Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)により測定して確認した。
【0080】
(2) 触媒層の調製
以上のようにして調製された白金担持炭素材料(Pt触媒)を用い、また、電解質樹脂としてDupont社製ナフィオン(登録商標:Nafion;パースルホン酸系イオン交換樹脂)を用い、Ar雰囲気下でこれらPt触媒とナフィオンとを白金触媒粒子担持炭素材料の質量に対してナフィオン固形分の質量が1.0倍、非多孔質炭素に対しては0.5倍の割合で配合し、軽く撹拌した後、超音波でPt触媒を解砕し、更にエタノールを加えてPt触媒と電解質樹脂とを合わせた合計の固形分濃度が1.0質量%となるように調整し、Pt触媒と電解質樹脂とが混合した触媒層インク液を調製した。
【0081】
このようにして調製された固形分濃度1.0質量%の各触媒層インク液に更にエタノールを加え、白金濃度が0.5質量%のスプレー塗布用触媒層インク液を作製し、白金の触媒層単位面積当たりの質量(以下、「白金目付量」という。)が0.2mg/cm2となるようにスプレー条件を調節し、上記スプレー塗布用触媒層インクをテフロン(登録商標)シート上にスプレーした後、アルゴン中120℃で60分間の乾燥処理を行い、触媒層を作製した。
【0082】
(3) MEAの作製
以上のようにして作製した触媒層を用い、以下の方法でMEA(膜電極複合体)を作製した。
ナフィオン膜(Dupont社製NR211)から一辺6cmの正方形状の電解質膜を切り出した。また、テフロン(登録商標)シート上に塗布されたアノード及びカソードの各触媒層については、それぞれカッターナイフで一辺2.5cmの正方形状に切り出した。
このようにして切り出されたアノード及びカソードの各触媒層の間に、各触媒層が電解質膜の中心部を挟んでそれぞれ接すると共に互いにずれが無いように、この電解質膜を挟み込み、120℃、100kg/cm2で10分間プレスし、次いで室温まで冷却した後、アノード及びカソード共にテフロンシートのみを注意深く剥ぎ取り、アノード及びカソードの各触媒層が電解質膜に定着した触媒層-電解質膜接合体を調製した。
【0083】
次に、ガス拡散層として、カーボンペーパー(SGLカーボン社製35BC)から一辺2.5cmの大きさで一対の正方形状カーボンペーパーを切り出し、これらのカーボンペーパーの間に、アノード及びカソードの各触媒層が一致してずれが無いように、上記触媒層-電解質膜接合体を挟み、120℃、50kg/cm2で10分間プレスしてMEAを作製した。
なお、作製された各MEAにおける触媒金属成分、炭素材料、電解質材料の各成分の目付量については、プレス前の触媒層付テフロンシートの質量とプレス後に剥がしたテフロンシートの質量との差からナフィオン膜(電解質膜)に定着させた触媒層の質量を求め、触媒層の組成の質量比より算出した。
【0084】
(4) 燃料電池の発電特性評価
(低電流特性の評価)
各試験例で調製され、また、準備された触媒担体用多孔質炭素材料を用いて作製したMEAについて、それぞれセルに組み込み、燃料電池測定装置にセットして、次の手順で燃料電池の性能評価を行った。
反応ガスについては、カソード側に空気を、また、アノード側に純水素を、それぞれ利用率が40%と70%となるように、大気圧下にセル下流に設けられた背圧弁で圧力調整し、背圧0.04MPaで供給した。また、セル温度は80℃に設定し、また、供給する反応ガスについては、カソード及びアノード共に、加湿器中で60℃に保温された蒸留水でバブリングを行い、80℃のセルに対し、60℃加湿のガスを供給し発電評価を行った。
【0085】
このような設定の下にセルに反応ガスを供給した条件下で、負荷を徐々に増やし、電流密度100mA/cm2におけるセル端子間電圧を出力電圧として記録し、燃料電池の性能評価を実施し、下記の合格ランクと不合格ランクの基準で評価を行った。結果を表~表4に示す。
〔合格ランク〕
◎:100mA/cm2における出力電圧が0.880V以上であるもの。
〇:100mA/cm2における出力電圧が0.870V以上であるもの。
〔不合格ランク〕
×:100mA/cm2における出力電圧が0.870V未満であるもの。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
上記結果から、本発明例の鋳型炭素材料の製造方法では、炭素源として樹脂材料を適応した比較例と同等以上に、炭素収率が高く、歩留まりの良い鋳型炭素材料の製造方法であることがわかる。
【0094】
なお、以下、表中の略称等の詳細について示す。
ATQ:アントラキノン
PVA:ポリビニルアルコール(重量平均分子量=10000)
PEG:ポリエチレングリコール(重量平均分子量=600)
PAA:ポリアクリル酸(重量平均分子量=10000)