(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084568
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】負極活物質、負極活物質の製造方法、負極、電池セル
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20230612BHJP
【FI】
H01M4/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198824
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 駿
(72)【発明者】
【氏名】川治 純
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 智宏
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050GA02
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】鉄ニオブ複合酸化物で形成された高容量な負極活物質、その製造方法、それを用いた負極および電池セルを提供する。
【解決手段】負極活物質は、次の一般式(1);Fe
1-xM1
xNb
11-yM2
yO
29-zA
zで表される金属酸化物であり、M1およびM2は、それぞれ独立に、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ta、WおよびSnからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、F、Cl、Br、NおよびSからなる群より選択される一種以上の元素、または、酸素欠陥を表し、0≦x<1、0≦y<11、0≦z<29を満たす数であり、金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を有し、一次粒子径が700nm未満である。負極活物質の製造方法は、Feの錯体およびNbの錯体が溶解した水溶液を調製する工程と、水溶液を乾燥ないし濃縮させてアモルファス状の前駆体を生成させる工程と、前駆体を焼成する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式;Fe1-xM1xNb11-yM2yO29-zAz・・・(1)で表される金属酸化物であり、
前記一般式(1)において、M1およびM2は、それぞれ独立に、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ta、WおよびSnからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、F、Cl、Br、NおよびSからなる群より選択される一種以上の元素、または、酸素欠陥を表し、0≦x<1、0≦y<11、0≦z<29を満たす数であり、
前記金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を有し、一次粒子径が700nm未満である負極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の負極活物質であって、
前記一次粒子径が100nm以上400nm以下である負極活物質。
【請求項3】
請求項1に記載の負極活物質であって、
前記一般式(1)において、0<xまたは0<yである負極活物質。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の負極活物質を製造する製造方法であって、
少なくともFeの錯体およびNbの錯体が溶解した水溶液を調製する工程と、
前記水溶液を乾燥ないし濃縮させてFeおよびNbを含むアモルファス状の前駆体を生成させる工程と、
前記前駆体を焼成して前記金属酸化物を生成させる工程と、を含む負極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の負極活物質を含む負極。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の負極活物質を含む電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極活物質の製造方法、負極、電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、炭素材料が広く用いられている。一般的な負極活物質である黒鉛は、約370mAh/gの理論容量を有する。しかし、黒鉛を用いた電池では、充放電サイクルに伴って電池寿命が低下し易い課題がある。電池寿命の低下の一因としては、電池の作動時に負極の表面に形成されるSEI(Solid Electrolyte Interface)が知られている。
【0003】
SEIは、電解液の分解物に由来する有機被膜であり、負極の電位が0.1V(vs.Li/Li+)程度まで低下したときに形成される。従来、SEIの形成を抑制して、電池寿命を改善するために、約0.7V(vs Li/Li+)以上で動作する負極活物質の研究・開発が進められている。
【0004】
特許文献1には、以下の内容が開示されている。「一般式LixFe1-yM1yNb11-zM2zO29(1)で表され、直方晶型の結晶構造を有するリチウムニオブ複合酸化物を含み、前記一般式(1)において、0≦x≦23、0≦y≦1及び0<z≦6であり、M1及びM2はそれぞれ独立して、Fe、Mg、Al、Cu、Mn、Co、Ni、Zn、Sn、Ti、Ta、V及びMoからなる群より選択される少なくとも1つを含む活物質。」(請求項1参照)、「優れた低温レート性能及び高いエネルギー密度を示すことができる二次電池を実現することができる活物質、この活物質を含む電極、この電極を具備する二次電池、この二次電池を具備する電池パック、及び、この電池パックが搭載されている車両を提供することを目的とする。」(段落0010参照)
【0005】
LiαFeNb11O29(α=0~23)で表される鉄ニオブ複合酸化物の理論容量は、最大で23個のリチウムイオンが吸蔵・放出されるとして、約390mAh/gと計算されている。このような鉄ニオブ複合酸化物や、そのFe、NbないしOを他元素に置換した置換体は、理論容量に対して実効容量が低く現れることが知られている。例えば、FeがCrで置換された置換体の放電容量は、270mAh/g程度であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LiαFeNb11O29(α=0~23)で表される鉄ニオブ複合酸化物や、そのFe、NbないしOを他元素に置換した置換体は、高容量な負極活物質として期待されている。しかし、理論容量に対して実効容量が低い点に課題を抱えている。実効的な放電容量を向上させる方法としては、負極活物質を微粒子化して、粒子内におけるリチウムイオンや電子の移動距離を短縮する方法が考えられる。
【0008】
従来の鉄ニオブ複合酸化物や、その置換体は、主に固相法によって合成されている。粉末同士を固相反応させる固相法では、負極活物質を微粒子化するにあたり、焼成後に粉砕を行う必要がある。しかし、粉砕を行うと、結晶歪みを生じるという問題がある。一次粒子径が700nm程度未満に微粒子化されており、且つ、結晶歪みが少ない負極活物質が得られないため、電池セルの高容量化が妨げられている。
【0009】
そこで、本発明は、鉄ニオブ複合酸化物で形成された高容量な負極活物質、その製造方法、それを用いた負極および電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係る負極活物質は、次の一般式;Fe1-xM1xNb11-yM2yO29-zAz・・・(1)で表される金属酸化物であり、前記一般式(1)において、M1およびM2は、それぞれ独立に、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ta、WおよびSnからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、F、Cl、Br、NおよびSからなる群より選択される一種以上の元素、または、酸素欠陥を表し、0≦x<1、0≦y<11、0≦z<29を満たす数であり、前記金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を有し、一次粒子径が700nm未満である。
【0011】
また、本発明に係る負極活物質の製造方法は、前記の負極活物質を製造する製造方法であって、少なくともFeの錯体およびNbの錯体が溶解した水溶液を調製する工程と、前記水溶液を乾燥ないし濃縮させてFeおよびNbを含むアモルファス状の前駆体を生成させる工程と、前記前駆体を焼成して前記金属酸化物を生成させる工程と、を含む。また、本発明に係る負極は、前記の負極活物質を含む。また、本発明に係る電池セルは、前記の負極活物質を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、鉄ニオブ複合酸化物で形成された高容量な負極活物質、その製造方法、それを用いた負極および電池セルを提供することができる。前記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】電池セルに内蔵される電極体の一例を示す斜視図である。
【
図2】実施例1に係る負極活物質のXRD測定結果を示す図である。
【
図3】実施例1に係る負極活物質のXRDスペクトルの一部を拡大した図である。
【
図4】実施例1に係る負極活物質を観察したSEM像である。
【
図5】実施例2に係る負極活物質を観察したSEM像である。
【
図6】実施例3に係る負極活物質を観察したSEM像である。
【
図7】実施例4に係る負極活物質を観察したSEM像である。
【
図8】比較例1に係る負極活物質の粒子径分布の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る負極活物質、その製造方法、それを用いた負極および電池セルについて説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
以下の説明は、本発明の内容の具体例を示すものである。本発明は、以下の説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。本発明には、実施形態とは異なる様々な変形例が含まれる。実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0016】
本明細書に記載される「~」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値とする意味で使用する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値や下限値は、段階的に記載されている他の上限値や他の下限値に置き換えてもよい。本明細書に記載される数値範囲の上限値や下限値は、実施例中に示されている数値に置き換えてもよい。
【0017】
本明細書では、二次電池としてリチウムイオン二次電池を例にとって、実施形態についての説明を行う。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンの電極への吸蔵と電極からの放出によって電極間に電位差を生じさせ、それによる電気エネルギを貯蔵する、或いは、利用可能とする電気化学デバイスである。
【0018】
本発明の対象としては、リチウムイオン二次電池とは別の名称で呼ばれる二次電池、例えば、リチウムイオン電池、非水電解質二次電池、非水電解液二次電池等も含まれる。本発明の技術的思想は、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池、亜鉛二次電池、アルミニウムイオン二次電池等に対しても適用することができる。
【0019】
以下で例示している材料群から材料を選択して用いる場合、本明細書に開示されている内容と矛盾しない範囲で、その材料を単独で用いてもよく、複数の材料を組み合わせて用いてもよい。また、本明細書に開示されている内容と矛盾しない範囲で、以下で例示している材料群以外の材料を用いてもよい。
【0020】
<電池セル>
図1は、電池セルに内蔵される電極体の一例を示す斜視図である。
図1に示すように、電池セル1000は、正極100と、負極200と、セパレータ300と、不図示の外装体と、を備えている。正極100と負極200は、セパレータ300を挟んで積層されている。正極100、負極200およびセパレータ300によって、電極体400が形成されている。
【0021】
電極体400は、不図示の外装体に収容される。
図1において、電極体400としては、平板状の一個が示されているが、外装体には、複数の電極体400を積層して内蔵することもできる。電極体400と、不図示の外装体と、配線部品、封止・絶縁部品、安全部品等によって、単電池としての電池セル1000が形成される。
【0022】
正極100は、正極合剤層110と、正極集電体120と、正極タブ130と、を有している。図示した正極100において、正極合剤層110は、平板状の正極集電体120の両面に形成されている。正極タブ130は、正極集電体120の端部に、平板状の突片として設けられている。
【0023】
負極200は、負極合剤層210と、負極集電体220と、負極タブ230と、を有している。図示した負極200において、負極合剤層210は、平板状の負極集電体220の両面に形成されている。負極タブ230は、負極集電体220の端部に、平板状の突片として設けられている。
【0024】
集電体120,220や、電極タブ130,230は、スポット溶接、超音波接合等の各種の方法で互いに接合することができる。外装体に内蔵される電極体400同士は、電気的に並列に接続してもよいし、複数の電極体400のうちの一部または全部を電気的に直列に接続してもよい。電極タブ130,230は、外部端子と電気的に接続される。
【0025】
外装体の内部には、電極間に電荷のキャリアを伝導させるための電解液が注入される。外装体に収容された電極体400は、電解液に浸漬された状態で保持される。電極体400や電解液は、外装体、ガスケット等の封止部品によって封止されて、水分、空気等との接触が阻止される。
【0026】
電池セル1000の形状は、筒形、角形、ボタン形、ラミネート形等のいずれであってもよい。
図1において、電極体400は、平板状の電極が積層された積層型とされている。しかし、電極体400は、電池セル1000の形状等に応じて、帯状の電極が螺旋状に巻回された巻回型等としてもよい。
【0027】
外装体は、筒形電池、角形電池、ボタン形電池等の場合、金属缶として設けることができる。金属缶は、例えば、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等を用いて形成することができる。
【0028】
外装体は、ラミネート形電池の場合、袋状のラミネート容器として設けることができる。ラミネート容器は、多層フィルムをヒートシール、接着剤等で貼合して形成することができる。多層フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、アルミニウム箔等の各種のフィルムを積層して形成することができる。
【0029】
<正極>
正極100の正極合剤層110は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な正極活物質を含有する。正極合剤層110は、正極活物質を含む正極合剤を用いて形成される。正極合剤層110は、正極合剤層110の導電性を向上させるための導電剤、正極活物質や導電剤を結着させるためのバインダ等を含んでもよい。また、正極合剤層110は、固体電解質を含んでもよい。正極合剤層110にイオン伝導率が高い固体電解質を用いると、正極中におけるイオン伝導性を向上させることができる。
【0030】
正極活物質としては、LiCo系複合酸化物、LiNi系複合酸化物、LiMn系複合酸化物、LiCoNiMn系複合酸化物、LiFePO4系複合酸化物、LiMnPO4系複合酸化物等の各種の活物質を用いることができる。正極活物質の具体例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、LiMn2O4等が挙げられる。正極活物質としては、これらの遷移金属を異種元素で置換した置換体を用いることもできる。異種元素としては、例えば、Co、Ni、Mn、Al、Ti等が挙げられる。
【0031】
正極合剤層110の導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、導電性高分子等を用いることができる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。カーボンナノファイバとしては、ピッチ系カーボンナノファイバ、PAN系カーボンナノファイバ等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリアセン等が挙げられる。導電剤の量は、例えば、正極合剤層110当たり、1~30質量%とすることができる。
【0032】
正極合剤層110のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等を用いることができる。バインダの量は、例えば、正極合剤層110当たり、1~20質量%とすることができる。
【0033】
正極集電体120としては、金属箔、穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等を用いることができる。正極集電体120の材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等が挙げられる。正極集電体120の厚さは、機械的強度とエネルギ密度とを両立する観点からは、好ましくは10nm~1mm、より好ましくは1~100μmとする。正極タブ130は、正極集電体120と同様の材料で形成することができる。
【0034】
<負極>
負極200の負極合剤層210は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な負極活物質を含有する。負極合剤層210は、負極活物質を含む負極合剤を用いて形成される。負極合剤層210は、負極合剤層210の導電性を向上させるための導電剤、負極活物質や導電剤を結着させるためのバインダ等を含んでもよい。また、負極合剤層210は、固体電解質を含んでもよい。負極合剤層210にイオン伝導率が高い固体電解質を用いると、負極中におけるイオン伝導性を向上させることができる。
【0035】
負極活物質としては、後記するように、一般式(1);Fe1-xM1xNb11-yM2yO29-zAzで表される金属酸化物であって、結晶構造が単斜晶系であり、一次粒子径が700nm未満である活物質が用いられる。負極活物質は、一次粒子によって構成されてもよいし、一次粒子同士が凝集ないし焼結した二次粒子によって構成されてもよい。
【0036】
負極合剤層210の導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、導電性高分子等を用いることができる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。カーボンナノファイバとしては、ピッチ系カーボンナノファイバ、PAN系カーボンナノファイバ等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリアセン等が挙げられる。
【0037】
負極合剤層210の導電剤としては、一般式(1)で表される金属酸化物との接触性が良好な導電剤が好ましい。一般式(1)で表される金属酸化物と比較して、導電剤の一次粒子径が小さく、導電剤の比表面積が大きいと、互いの接触性が良好になる。このような導電剤を用いると、導電性に優れた導電ネットワークを形成できる。
【0038】
好ましい導電剤の具体例としては、カーボンブラック「Super P」(MTI社製、比表面積:62m2/g)や、アセチレンブラック「HS-100」(デンカ社製、比表面積:39m2/g)が挙げられる。導電剤の量は、例えば、負極合剤層210当たり、1~30質量%とすることができる。
【0039】
負極合剤層210のバインダとしては、スチレン-ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等を用いることができる。バインダとしては、カルボキシメチルセルロース等の増粘性の樹脂を併用してもよい。バインダの量は、例えば、負極合剤層210当たり、1~20質量%とすることができる。
【0040】
負極集電体220としては、金属箔、穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等を用いることができる。負極集電体220の材料としては、銅、ステンレス鋼、チタン、ニッケル等が挙げられる。負極集電体220の厚さは、機械的強度とエネルギ密度とを両立する観点からは、好ましくは10nm~1mm、より好ましくは1~100μmとする。負極タブ230は、負極集電体220と同様の材料で形成することができる。
【0041】
<合剤層形成法>
合剤層110,210は、活物質とバインダや導電剤を溶媒中で混練して合剤を調製し、合剤を集電体に塗工し、塗工した合剤を乾燥させて形成することができる。集電体上に形成した合剤層は、活物質が所定の密度となるようにプレス成形する。合剤層は、塗工から乾燥までの工程を繰り返して、集電体上に積層することもできる。合剤層を形成した集電体は、必要に応じて、打ち抜き加工、切断加工等を施して電極とすることができる。
【0042】
合剤の混練は、プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、バタフライミキサ、二軸混練機、ボールミル、ビーズミル等の各種の装置で行うことができる。原料や合剤を分散させる溶媒としては、電極に応じて、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、水等の各種の溶媒を用いることができる。合剤を塗工する方法としては、ロールコート法、ドクターブレード法、ダイコート法、ディッピング法、スプレー法等の各種の方法を用いることができる。
【0043】
<セパレータ>
セパレータ300は、電極間の短絡を防止する一方で、電極間でイオンを伝導させる媒体として働く。セパレータ300は、ポリプロピレン、ポリエチレン-ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂や、ガラス繊維、有機繊維等で、微小な空孔を有する絶縁性の微多孔膜、多孔質シート、不織布等として形成することができる。或いは、絶縁性の固体電解質として形成することができる。
【0044】
固体電解質としては、Li10Ge2PS12、Li2S-P2S5等の硫化物系固体電解質や、Li7La3Zr2O12等のガーネット型固体電解質や、La2/3-xLi3xTiO3等のペロブスカイト型固体電解質や、NASICON型固体電解質や、イオン液体を樹脂や無機粒子に担持させた固体電解質や、高分子ゲルによるゲル電解質等を用いることができる。固体電解質を用いると、電池セルの全固体化や、電極体400同士の直列化が可能になる。
【0045】
セパレータ300は、材料の種類に応じて、電極間に配置する方法や、電極上に塗布等で形成する方法によって形成できる。セパレータ300の厚さは、絶縁性と電池セルのエネルギ密度とを両立する観点からは、好ましくは10nm~1mm、より好ましくは100nm~100μmとする。
【0046】
<電解液>
電解液は、電荷のキャリアとなる電解質と、電解質を分散・溶解させる溶媒と、を含む組成とされる。電解液は、電池セル1000のサイクル特性や安定性、電解液の難燃性等を向上させる目的で、各種の添加剤が添加されてもよい。但し、セパレータ300として固体電解質を用いる場合は、電解液を用いなくてもよい。正極100、負極200等を電解液に浸漬させる代わりに、これらの電極間に固体電解質を充填できる。
【0047】
電解質としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6や、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のリチウムイミド塩や、リチウムビスオキサレートボラート等を用いることができる。電解質としては、LiPF6が特に好ましい。
【0048】
溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、γ-ブチロラクトン、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン等の各種の溶媒を用いることができる。
【0049】
<負極活物質>
負極活物質としては、次の一般式(1)で表される金属酸化物であり、単斜晶系の結晶構造を有し、一次粒子径が700nm未満である活物質を用いる。
Fe1-xM1xNb11-yM2yO29-zAz・・・(1)
但し、一般式(1)において、M1およびM2は、それぞれ独立に、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ta、WおよびSnからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、F、Cl、Br、NおよびSからなる群より選択される一種以上の元素、または、酸素欠陥を表し、0≦x<1、0≦y<11、0≦z<29を満たす数である。
【0050】
一般式(1)で表される金属酸化物は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能であり、系外から電子が注入されると、リチウムイオン等のカチオンを吸蔵し、系外に電子が放出されると、リチウムイオン等のカチオンを放出する。遷移金属、酸化物イオン等の価数変化によって、リチウムイオンの吸蔵・放出に対する可逆的な電荷補償を行う。
【0051】
一般式(1)で表される金属酸化物は、電池の充電時にはリチウムイオンを吸蔵し、電池の放電時にはリチウムイオンを放出するため、リチウムイオン二次電池の負極活物質として機能することができる。このような負極活物質は、インサーション型と呼ばれている。
【0052】
一般式(1)で表される金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を有しており、単位格子が、a≠b≠c、α=γ=90°、且つ、β≠90°を満たす。一般式(1)で表される金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を体積比で50%以上の主相として有する酸化物であって、FeNb11O29で表される鉄ニオブ複合酸化物、ないし、その構成元素の一部が異種元素で置換された置換体、ないし、酸素の一部が欠損した酸素欠損体に相当する。
【0053】
FeNb11O29は、Nb12O29のニオブイオンが鉄イオンで置換された構造を有している。Nb12O29の結晶構造は、ReO3型の単位格子が4×3で配列したブロック構造で構成されており、シア構造(shear structure)を持つ。Nb12O29の結晶構造中では、金属(M)に6個の酸素(O)が配位したMO6の八面体が、互いに頂点を共有し、ブロック構造間では互いに稜を共有して、平面構造を形成している。
【0054】
FeNb11O29では、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う電荷補償に、Fe、Nb等が関与する。そのため、FeNb11O29によると、約1.0~2.5V(vs Li/Li+)において、リチウムイオンの可逆的な吸蔵・放出が可能である。また、MO6八面体間にトンネル構造を持つ結晶構造によって、リチウムイオンの高い伝導性が得られる。
【0055】
そのため、一般式(1)で表される金属酸化物によると、SEIの生成電位である約0.7V(vs Li/Li+)以上で作動し、SEIが形成されない効率的な負極が得られる。SEIの形成による容量低下、負極の高抵抗化、サイクル特性の悪化等が起こらなくなるため、サイクル特性や電池寿命が良好な電池セルを得ることができる。
【0056】
また、FeNb11O29は、結晶系が多形性を示し、直方晶系(orthorhombic)の結晶構造、および、単斜晶系(monoclinic)の結晶構造のうち、いずれかをとることが知られている。直方晶と単斜晶では、ReO3型の単位格子が配列したブロック構造間の結合が異なる。FeNb11O29は、焼成温度が約1250℃を超える場合、直方晶系となり、焼成温度が約1250℃未満である場合、単斜晶系となる。
【0057】
従来のFeNb11O29に基づく置換体や酸素欠損体は、比較的高温で焼成されているため、直方晶系の結晶構造として得られている(X. Lou et al., Electrochimica Acta 245, 2017, 482-488や、X. Lou et al., ChemElectroChem 2017, 4, 3171-3180参照)。また、これらの置換体や酸素欠損体は、固相法で合成されているため、一次粒子径を700nm未満程度に微粒子化するのが困難である。焼成後に粉砕処理を行うと、結晶歪みを生じるため、充放電容量やイオン伝導性が損なわれる。また、高温での固相反応により、焼成前の微粒子化による一次粒子径の微粒子化には、限界がある。
【0058】
これに対し、本発明では、負極活物質として、単斜晶系の結晶構造を有する一般式(1)で表される金属酸化物を合成する。また、一般式(1)で表される金属酸化物を合成する方法として、液相法の一種であるアモルファス金属錯体法を用いる。アモルファス金属錯体法は、金属錯体の溶液を濃縮、乾燥ないし熱処理してアモルファス状の前駆体を形成し、アモルファス状の前駆体を焼成して酸化物を合成する方法である。
【0059】
一般式(1)で表される金属酸化物を単斜晶系の結晶構造とすると、直方晶系の場合と比較して、電池セルを高容量化することができる。また、単斜晶系の結晶構造は、約1250℃未満の低温で焼成されるため、直方晶系の場合と比較して、結晶粒子径の粗大化を抑制できる。そのため、充放電反応の均一性や可逆性が高く、高い実効容量を示す負極活物質を得ることができる。
【0060】
また、アモルファス金属錯体法を用いると、粒子内に鉄やニオブが均一性高く分散した前駆体を微粒子として得ることができる。このような微粒子を焼成すると、一般式(1)で表される金属酸化物の一次粒子径を700nm未満とすることができる。焼成後の粉砕処理が不要になるため、粒子内に結晶歪みが生じるのを回避して、高いイオン伝導性や実効容量を確保できる。
【0061】
また、一般式(1)で表される金属酸化物の一次粒子径が700nm未満であると、粒子内におけるリチウムイオンや電子の拡散移動距離が短縮される。拡散移動距離が短縮されると、粒子内の電気化学的に活性な領域が拡大するため、実効的な放電容量や充電容量を向上させることができる。また、粒子内の広範囲にわたって電気化学反応の可逆性が高められるため、初回充放電サイクル等におけるクーロン効率を向上させることができる。
【0062】
なお、一般式(1)には、全てのリチウムイオンが脱離した完全放電状態の金属酸化物が示されている。しかし、一般式(1)で表される金属酸化物は、任意の個数のリチウムイオンが吸蔵された充電状態であってもよい。一般式(1)で表される金属酸化物は、充電状態では、LiαFe1-xM1xNb11-yM2yO29-zAzで表される。例えば、0<α≦23を満たす。
【0063】
一般式(1)のM1は、主として鉄(Fe)に置換させるための元素を表す。M1で表される元素としては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)が挙げられる。M1で表される元素としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。
【0064】
M1で表される元素は、Feとイオン半径が近いため、Feに置換させると、結晶構造の安定性を確保しつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変することができる。また、価数変化を生じる金属元素をFeに置換させると、電荷補償性や電子伝導性を向上させることができる。
【0065】
M1で表される元素としては、Al、Ti、Cr、Co、Ni、Cuが好ましく、Feによる電子状態の調整に有効な点や、作動電位内で酸化還元反応し易い点等から、Al、Tiがより好ましい。なお、M1で表される元素は、主として八面体MO6の金属サイトに置換されるため、結晶構造上は、Nbに置換されてもよい。
【0066】
M1の係数xは、1未満であり、安定な結晶構造を保つ観点等からは、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下である。また、M1の係数xは、0以上であり、M1で表される元素を積極的に添加する場合、0を超える数や、0.01以上、0.05以上、0.1以上等とすることができる。このような範囲であると、安定な結晶構造を保ちつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変できる。
【0067】
一般式(1)のM2は、主としてニオブ(Nb)に置換させるための元素を表す。M2で表される元素としては、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、錫(Sn)が挙げられる。M2で表される元素としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。
【0068】
M2で表される元素は、Nbとイオン半径が近いため、Nbに置換させると、結晶構造の安定性を確保しつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変することができる。また、作動電位内で価数変化を生じる金属元素Nbに置換させると、電荷補償性や電子伝導性を向上させることができる場合がある。
【0069】
M2で表される元素としては、Ti、V、Mo、Ta、W、Snが好ましく、イオン半径等の点で、TaまたはWが特に好ましい。なお、M2で表される元素は、主として八面体MO6の金属サイトに置換されるため、結晶構造上は、Feに置換されてもよい。
【0070】
M2の係数yは、11未満であり、安定な結晶構造を保つ観点等からは、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは1以下、更に好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.2以下である。また、M2の係数xは、0以上であり、M2で表される元素を積極的に添加する場合、0を超える数や、0.01以上、0.05以上、0.1以上等とすることができる。このような範囲であると、安定な結晶構造を保ちつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変できる。
【0071】
M1で表される元素およびM2で表される元素は、少なくとも一方が導入されることが好ましい。すなわち、係数xおよび係数yは、少なくとも一方が0を超える数であり、0<xまたは0<yを満たすことが好ましい。異種元素置換の効果の観点からは、少なくともM2で表される元素が導入されており、0<yを満たすことがより好ましい。
【0072】
一般式(1)のAは、酸素(O)に置換させるための元素、または、結晶構造中に導入される酸素欠陥を表す。Aで表される元素としては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、窒素(N)、硫黄(S)が挙げられる。Aで表される元素としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。また、Aで表される元素と酸素欠陥の両方が導入されてもよい。
【0073】
Aで表される元素は、Oとイオン半径が近いため、Oに置換させると、結晶構造の安定性を確保しつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変することができる。また、酸素欠陥は、ReO3型の単位格子中に、空乏なサイトを形成するため、リチウムイオンの拡散速度や、周囲の電子伝導性を向上させることができる場合がある。
【0074】
Aの係数zは、29未満であり、好ましくは1.5以下である。また、Aの係数zは、0以上であり、Aで表される元素や酸素欠陥を積極的に導入する場合、0を超える数や、0を超える数や、0.01以上、0.05以上、0.1以上等とすることができる。このような範囲であると、安定な結晶構造を保ちつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変できる。
【0075】
一般式(1)で表される金属酸化物の一次粒子径は、700nm未満であり、好ましくは100nm以上700nm未満であり、より好ましくは100nm以上400nm以下である。一次粒子径が小さいほど、粒子内におけるリチウムイオンや電子の拡散移動距離が短縮されるため、実効的な放電容量や充電容量や、クーロン効率を向上させることができる。また、一次粒子径が100nm以上であると、比表面積が過大にならないため、副反応やバインダ添加量を抑制できる。
【0076】
一般式(1)で表される金属酸化物の一次粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて、SEM画像上の一次粒子の長軸径として求めることができる。例えば、約3~10視野以上のSEM画像を撮像し、数十~数百個以上の粒子の長軸径を計測して、その平均値を一次粒子径とすることができる。
【0077】
一般式(1)で表される金属酸化物の結晶構造は、X線回折(X‐ray diffraction:XRD)測定によって確認することができる。CuKα線で粉末X線回折測定を行い、スペクトルをリートベルト法で解析して、格子定数、原子座標、サイト占有率等を求めて結晶構造を同定する。また、負極活物質の化学組成は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(Inductively Coupled Plasma optical emission spectrometry:ICP)、蛍光X線分析(X-ray fluorescence analysis:XRF)等によって確認することができる。
【0078】
一般式(1)で表される金属酸化物を用いた負極活物質の比容量(放電容量)は、初期放電時において、好ましくは290mAh/g以上、より好ましくは300mAh/g以上である。このような比容量であると、一次粒子径が700nm以上である場合と比較して、高容量な電池セルが得られる。
【0079】
一般式(1)で表される金属酸化物を用いた負極活物質のクーロン効率は、初期充放電時において、好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、更に好ましくは92%以上である。このようなクーロン効率であると、一次粒子径が700nm以上である場合と比較して、充放電サイクルに対して実効容量が大きい電池セルが得られる。
【0080】
初期放電時の比容量や、初期充放電時のクーロン効率は、一般式(1)で表される金属酸化物を作用極、金属リチウムを対極とした単極セルにおいて、初回等の充放電時に測定できる。理論容量に対して低レートで、0.8Vまで放電し、十分な緩和の後、3.0Vまで充電して、放電および充電された電気量を求める。クーロン効率は、放電容量Wcと充電容量Wdとの比(Wc/Wd)として求める。
【0081】
<負極活物質の製造方法>
一般式(1)で表される金属酸化物は、アモルファス金属錯体法によって製造される。アモルファス金属錯体法によって生成させたアモルファス状の前駆体を、約1250℃未満で焼成することによって、単斜晶系の結晶構造を有する一般式(1)で表される金属酸化物を合成できる。
【0082】
本実施形態に係る負極活物質の製造方法は、単斜晶系の結晶構造を有する一般式(1)で表される金属酸化物を製造する製造方法であって、金属錯体が溶解した原料水溶液を調製する水溶液調製工程と、原料水溶液からアモルファス状の前駆体を生成させる前駆体生成工程と、アモルファス状の前駆体を焼成する焼成工程と、を含む。
【0083】
水溶液調製工程は、少なくとも鉄(Fe)の錯体およびニオブ(Nb)の錯体が溶解した原料水溶液を調製する工程である。原料水溶液は、出発原料であるFeを含む塩、Nbを含む塩、および、錯形成剤を、水に溶解させて調製することができる。一般式(1)で表される金属酸化物において、FeやNbをM1やM2で置換する場合には、Feを含む塩やNbを含む塩と共にM1ないしM2を含む塩を用いるか、Fe、Nb、M1およびM2のうちの一種以上を含む複塩を用いる。
【0084】
Feを含む塩や、Nbを含む塩や、M1ないしM2を含む塩は、各元素が所定のモル比となるように秤量して、イオン交換水、純水等に溶解させる。錯形成剤としては、キレート剤や、クエン酸等の錯化剤を用いることができる。錯形成成分は、錯形成剤として添加されてもよいが、出発原料である塩として添加されてもよい。原料水溶液には、粒子径や粒子形態を制御するために、pH調整剤、分散剤等の添加剤が添加されてもよい。
【0085】
Feを含む塩としては、例えば、クエン酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)アンモニウム、シュウ酸鉄(III)、シュウ酸鉄(III)アンモニウム、酢酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、硫酸鉄(III)アンモニウム、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)等や、これらの水和物等を用いることができる。
【0086】
Nbを含む塩としては、例えば、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム、塩化ニオブ(V)や、ニオブペルオキソ錯体等のニオブ錯体等を用いることができる。M1ないしM2を含む塩としては、水溶性であり、不要成分が揮発性・脱離性である限り、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩等や、各種の錯体等を用いることができる。
【0087】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等の適宜の種類を用いることができる。キレート剤は、例えば、金属イオンに対して同等のモル比で添加することができる。
【0088】
錯化剤としては、例えば、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸テトラメチルアンモニウム、無水クエン酸、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸テトラメチルアンモニウム等や、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、サリチル酸等の有機酸を用いることができる。錯化剤は、例えば、金属イオンに対して1倍量以上10倍量以下のモル比で添加することができる。
【0089】
前駆体生成工程は、原料水溶液を乾燥ないし濃縮させてFeおよびNbを含むアモルファス状の前駆体を生成させる工程である。Feの錯体やNbの錯体等が溶解した原料水溶液を、乾燥ないし濃縮させて、原料水溶液に含まれる主要な水分を除去する。水分を除去すると、Fe、Nb、M1、M2等が均一性高く分散したアモルファス状の前駆体が得られる。アモルファス状の前駆体は、ゲルを形成していても良い。
【0090】
原料水溶液の乾燥や濃縮は、加熱蒸発、減圧蒸発、強制乾燥、自然乾燥等の適宜の方法で行うことができる。例えば、原料水溶液は、80℃以上200℃以下等で加熱濃縮させることができる。加熱の温度は、沈殿、偏析等を生じない限り、一定に制御してもよいし、可変的に制御してもよい。
【0091】
焼成工程は、アモルファス状の前駆体を焼成して一般式(1)で表される金属酸化物を生成させる工程である。アモルファス状の前駆体中には、Fe、Nb等が均一性高く分散している。このような前駆体を必要に応じて解砕してから焼成すると、前駆体中に成分が十分に拡散した状態で、結晶構造の形成を進行させることができる。そのため、Fe、Nb、M1、M2等が均一性高く分散した結晶性が高い金属酸化物を得ることができる。
【0092】
前駆体の焼成は、一段階の熱処理で行ってもよいし、複数段階の熱処理で行ってもよい。但し、一般式(1)で表される金属酸化物の結晶性を向上させる観点からは、複数段階の熱処理で行うことが好ましい。複数段階の熱処理を行って、結晶構造の形成前に錯形成成分などの脱離性の不要成分を除去しておくと、放電容量や充電容量やクーロン効率を向上させることができる。
【0093】
複数段階の熱処理は、錯形成成分等の有機成分や水分等の脱離性の不要成分を除去するための前熱処理と、アモルファス状の前駆体を酸化させて一般式(1)で表される金属酸化物を生成させる本焼成と、を含むことが好ましい。本焼成の後には、酸素欠陥等の格子欠陥を除去するポストアニールとして後熱処理を行ってもよい。前熱処理や後熱処理は、例えば、300℃以上700℃以下等で行うことができる。
【0094】
本焼成の温度は、好ましくは900℃以上である。また、本焼成の温度は、好ましくは1250℃以下、より好ましくは1200℃以下、更に好ましくは1150℃以下、更に好ましくは1100℃以下、更に好ましくは1050℃以下である。温度が約1250℃を超えると、直方晶系の結晶構造が形成され易くなる。一方、温度が約1250℃以下であると、単斜晶系の結晶構造を形成できる。温度が900℃以上で低いほど、結晶粒子の粗大化を避けつつ、固相反応を進行させることができる。
【0095】
本焼成の時間は、好ましくは2~24時間、より好ましくは2~12時間である。一般式(1)で表される金属酸化物の結晶系は、熱処理の時間に依存しない。しかし、この範囲で本焼成の時間が長いほど、均一性が高い金属酸化物を焼成することができる。また、この範囲で本焼成の時間が短いほど、結晶粒子が粗大化し難くなり、熱処理のコストも削減される。
【0096】
本焼成の雰囲気は、酸化性雰囲気および非酸化性雰囲気のいずれとしてもよい。酸化性雰囲気としては、酸素雰囲気、大気雰囲気等が挙げられる。非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、一酸化炭素雰囲気、希ガス雰囲気等が挙げられる。非酸化性雰囲気であると、酸素欠損型の結晶構造が得られ易くなる。Aで表される元素を導入する場合は、雰囲気ガスに、塩素ガス、臭素ガス等のハロゲンガス、アンモニア、一酸化窒素等を混合することができる。
【0097】
焼成工程は、適宜の熱処理装置によって行うことができる。熱処理装置としては、バッチ式焼成炉および連続式焼成炉のうち、いずれを用いてもよい。焼成炉の具体例としては、マッフル炉等の雰囲気炉、大気炉等や、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン、プッシャーキルン、ベルトキルン等が挙げられる。
【0098】
以上の負極活物質の製造方法によると、単斜晶系の結晶構造を有する一般式(1)で表される金属酸化物が、アモルファス状の前駆体を焼成することによって得られる。アモルファス状の前駆体は、液相中の錯体から生成されるため、鉄、ニオブ等の元素が均一性高く分散した状態になる。そのため、このような前駆体を焼成すると、鉄、ニオブ等の元素が均一性高く分散した結晶性が高い負極活物質が得られる。
【0099】
また、アモルファス金属錯体法を用いると、一次粒子径を微粒子化させる程度の粉砕力で行う合成後の粉砕処理を省略することができる。このような粉砕処理を行わなくとも、錯体濃度、前駆体の析出条件等を調節することによって、一般式(1)で表される金属酸化物の一次粒子径を700nm未満に微粒子化することが可能である。粉砕処理によって結晶歪みが導入されるのを回避できるため、イオン伝導性や、放電容量、充電容量、クーロン効率を向上させることができる。
【0100】
以上の製造方法によって得られる負極活物質は、負極の材料として用いることができる。負極活物質を、バインダ、導電剤等と、溶媒中で混練すると、負極合剤を調製できる。負極合剤を負極集電体に塗工し、塗工した負極合剤を乾燥させることによって、
図1に示すような負極合剤層(210)を形成することができる。
【0101】
また、以上の製造方法によって得られる負極活物質は、
図1に示すような負極合剤層(210)を形成することにより、正極(100)と、負極(200)と、セパレータ(300)と、を備える電池セル(1000)に用いることができる。電池セル(1000)は、複数のセルを互いに電気的に接続することにより、組電池を形成することもできる。
【0102】
負極活物質として一般式(1)で表される金属酸化物を用いると、SEIが形成されない約0.7V(vs Li/Li+)以上で動作し、且つ、充放電反応の均一性や可逆性が高く、高い実効容量やクーロン効率を示す高容量な電池セルが得られる。SEIが形成されない電位で動作するため、負極の高抵抗化、サイクル特性の悪化等が起こり難くなり、サイクル特性や電池寿命が良好になる。また、異種元素置換や酸素欠陥を導入すると、更なる高容量化、充放電の可逆性の向上、サイクル特性の向上等を図ることができる。
【0103】
一般式(1)で表される金属酸化物を用いた電池セルの用途は、特に限定されるものではない。電池セルは、例えば、携帯電話、携帯用パソコン等の移動体用電源や、電気自動車、ハイブリッド自動車、鉄道車両、ハイブリッド鉄道車両、船舶等の電源や、電力貯蔵用の定置電源等の各種の用途に用いることができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、以上の説明に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない限り、当業者による様々な変更・修正が可能である。実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【実施例0105】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0106】
<負極活物質の合成>
<実施例1>
FeNb11O29で表される負極活物質を、アモルファス金属錯体法を用いて、次の手順で合成した。クエン酸鉄(III)n水和物0.2mmolと、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム・n水和物2.2mmolを、イオン交換水50gに完全に溶解させて、金属錯体が溶解した原料水溶液を得た。次いで、原料水溶液を100℃で加熱濃縮させてアモルファス状の前駆体を得た。そして、アモルファス状の前駆体を350℃で1時間にわたって前熱処理を施し、水分や有機成分を除去した。その後、アモルファス状の前駆体を粉砕し、アルミナボートに乗せて、大気雰囲気下、900℃で4時間にわたって焼成して負極活物質を得た。
【0107】
<実施例2>
FeNb11O29で表される負極活物質を、アモルファス金属錯体法を用いて、次の手順で合成した。硝酸鉄(III)九水和物0.2mmolと、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム・n水和物2.2mmolと、エチレンジアミン四酢酸0.2mmolを、イオン交換水50gに完全に溶解させて、金属錯体が溶解した原料水溶液を得た。その後、実施例1と同様の工程に供して負極活物質を得た。
【0108】
<実施例3>
FeNb11O29で表される負極活物質を、アモルファス金属錯体法を用いて、次の手順で合成した。硝酸鉄(III)九水和物0.2mmolと、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム・n水和物2.2mmolと、クエン酸水素二アンモニウム2.4mmolを、イオン交換水50gに完全に溶解させて、金属錯体が溶解した原料水溶液を得た。その後、実施例1と同様の工程に供して負極活物質を得た。
【0109】
<実施例4>
FeNb11O29で表される負極活物質を、アモルファス金属錯体法を用いて、次の手順で合成した。硝酸鉄(III)九水和物0.2mmolと、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム・n水和物2.2mmolと、クエン酸水素二アンモニウム12mmolを、イオン交換水50gに完全に溶解させて、金属錯体が溶解した原料水溶液を得た。その後、実施例1と同様の工程に供して負極活物質を得た。
【0110】
<比較例1>
FeNb11O29で表される負極活物質を、固相法を用いて、次の手順で合成した。FeとNbのモル比が1:11となり、総重量が2gとなるように、α-Fe2O3の粉末とNb2O5の粉末を秤量した。秤量した粉末2gと、エタノール6gと、直径1mmのジルコニア製のボール20mgをボールミルポットに封入し、800rpmで1時間の湿式混合を行った。混合後に遠心分離を行って沈殿物を回収し、60℃で10時間以上にわたって真空乾燥させた。乾燥後の前駆体粉末をアルミナボートに乗せて、大気雰囲気下、900℃で4時間にわたって焼成して負極活物質を得た。
【0111】
<結晶構造の同定>
合成した負極活物質の結晶構造を、X線回折(XRD)測定により同定した。XRD測定には、リガク社製の粉末X線回折装置であるRINT-2000を使用した。XRD測定は、次の条件で行った。X線管球:Cu、管電圧:48kV、管電流:28mA、ステップ幅:0.02度、計数時間:1.0sec。
【0112】
<粒子径の測定>
合成した負極活物質の粒子径を、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察と粒子径分布測定により評価した。SEM観察では、SEM画像を4視野取得し、画像上における一次粒子の長軸径を計測し、その平均値を一次粒子径とした。SEM観察には、日立ハイテク社製の電界放出形SEMであるS-4800を使用した。粒子径分布測定には、HORIBA社製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置であるLA-920を使用した。SEM観察と粒子径分布測定は、負極活物質の粉砕処理前および粉砕処理後のいずれかに実施した。粉砕処理は、FRITSCH社製の遊星型ボールミルを使用して湿式粉砕により行った。
【0113】
<負極の作製>
合成した負極活物質を用いた負極を、次の手順で作製した。負極活物質と、バインダのポリフッ化ビニリデン(PVDF)(クレハ社製)と、導電剤のアセチレンブラックであるHS-100(デンカ社製)を、質量比が65wt%:10wt%:25wt%となるように秤量した。秤量した負極活物質、バインダおよび導電剤を混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて混練して、負極合剤のスラリを調製した。このスラリをブレードを用いて銅箔上に塗工した。そして、銅箔を80℃で乾燥させてNMPを留去した後に、真空雰囲気下、120℃で10時間にわたって焼結させて負極を得た。
【0114】
<単極セルの作製>
作製した負極を用いて、単極セルを作製した。直径15mmの円形となるように負極を切り出し、負極合剤層の密度が1.3~1.7g/cm3となるように、油圧式プレスにより一軸プレスした。負極を作用極、リチウム金属箔を対極として、これらをセパレータを挟んで積層し、電解液を含浸させて外装体に収容した。セパレータとしては、厚さ30μmのポリオレフィン系積層セパレータ(宇部興産社製)を用いた。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を、体積比がEC:EMC=1vol%:2vol%となるように混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mとなるように溶解させた溶液を用いた。
【0115】
<負極性能の評価>
作製した単極セルを用いて、室温の初回充放電サイクルにおける充電容量、放電容量、クーロン効率を評価した。負極活物質の容量を390mAh/gと仮定して、負極に含有される負極活物質の電気量を1時間で放電する電流を1CAと定義した。単極セルを0.1CAに相当する定電流で0.8Vまで放電した後、0.1CAの定電流で3.0Vまで充電した。この初回放電過程および充電過程の電気量(mAh)を負極活物質の質量(g)当たりに規格化して、充電容量および放電容量(mAh/g)を導出した。また、放電容量を充電容量で除算して、初回充放電時のクーロン効率(%)を算出した。
【0116】
図2および
図3は、実施例1に係る負極活物質のXRD測定結果を示す図である。
図3は、
図2のXRDスペクトル一部を拡大した図である。
図2および
図3に示すように、実施例1では、24°付近と26°付近にそれぞれ1本のピークが認められた。
【0117】
この結果は、実施例1に係るFeNb11O29で表される負極活物質が単斜晶系の結晶構造であることを示している。直方晶系の結晶構造では、24°付近と26°付近に複数本のピークが現れることが確認されている。また、実施例2~4についても、XRD測定結果に基づいて、単斜晶系の結晶構造であることが確認された。
【0118】
この原因は、以下のように考えられる。従来、FeNb11O29は、950℃で単斜晶を形成し、1250℃で直方晶に変化することが報告されている(PIOTR TABERO, Ceramics, 49, (2), 126-131, (2005)参照)。FeNb11O29の結晶構造は、焼成時の温度によって熱力学的に定まり、実施例1~4で実施した900℃の焼成では単斜晶が形成されたと考えられる。
【0119】
図4は、実施例1に係る負極活物質を観察したSEM像である。
図5は、実施例2に係る負極活物質を観察したSEM像である。
図6は、実施例3に係る負極活物質を観察したSEM像である。
図7は、実施例4に係る負極活物質を観察したSEM像である。
図4、
図5、
図6および
図7に示すように、実施例1~4のいずれについても、一次粒子が凝集したモルフォロジを呈することが分かった。実施例1~4の一次粒子径は、100~400nm程度であった。一次粒子径の平均値は、実施例1では325nm、実施例2では372nm、実施例3では270nm、実施例4では251nmであることが確認された。
【0120】
図8は、比較例1に係る負極活物質の粒子径分布の測定結果を示す図である。
図8において、実線は、合成後に粉砕処理を施す前の粒子径分布の測定結果、破線は、合成後に粉砕処理を施した後の粒子径分布の測定結果である。
図8に示すように、粒子径が700nm付近のピークは、一次粒子径を微粒子化させる程度の粉砕力で粉砕処理しても、粉砕前および粉砕後で大きく変化しない結果が得られた。
【0121】
この結果は、粉砕処理で一次粒子径を微粒子化させる程度の粉砕力を加えても、結晶歪みが蓄積しない程度の粉砕処理では、一次粒子の微粒子化が困難であることを示している。比較例1に係る負極活物質のモード径は、720nmであった。
【0122】
これらの結果から、実施例1~4は、比較例1と比較して、同様の焼成条件で焼成しているにもかかわらず、一次粒子径が微粒子化されていることが確認された。実施例1~4では、液相法の一種であるアモルファス金属錯体法を用いており、焼成前の前駆体がナノサイズ化されていたことに因ると考えられる。
【0123】
表1に、負極活物質の充電容量、放電容量、初回充放電サイクルにおけるクーロン効率の結果を示す。
【0124】
【0125】
表1に示すように、実施例1~4は、一次粒子径が100~400nmの範囲にあり、比較例1と比較して微粒子化されているため、充電容量、放電容量、および、初回クーロン効率が向上する結果が得られた。
【0126】
放電容量が向上した理由は、負極活物質の一次粒子径が小さくなることによって、粒子内におけるリチウムイオンや電子の拡散移動距離が短縮され、粒子内の電気化学的に活性な領域が拡大したためであると考えられる。実施例1~4で充電容量および放電容量に差が生まれたのは、一次粒子同士の凝集具合や二次粒子の大きさにより、リチウムイオンや電子の拡散性が変化したためと考えられる。
【0127】
初回クーロン効率が向上した理由は、負極活物質の結晶性が向上し、非晶質へのリチウムイオンの不可逆的な固定化が抑制されたためであると考えられる。実施例1~4では、原料成分を含む錯体が溶解した水溶液を乾燥・濃縮させているため、鉄とニオブが原子レベルで均一性高く分散した前駆体が得られる。焼成時には、このような前駆体が焼成されたため、結晶構造の形成が進行し易くなったと考えられる。一方、比較例1では、粉末同士を固相反応させているため、鉄とニオブの拡散が不十分であった可能性がある。焼成中には、互いの酸化物の粒子内を拡散する過程が必要になり、このような過程が進んだ後に結晶構造の形成が進行したため、鉄やニオブの分布が均一にならなかったと考えられる。実施例1~4と比較例1とは、互いに同等の焼成条件とされているものの、前駆体における元素の分散状態に応じて、初回クーロン効率の相違が生じたと考えられる。