(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084589
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】スパッタ装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20230612BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230612BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C14/06 K
C23C14/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198867
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石橋 翔太
(72)【発明者】
【氏名】北田 亨
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA21
4K029BC03
4K029BD01
4K029CA05
4K029DA04
4K029DA10
4K029DC03
4K029DC16
4K029DC39
4K029DC46
4K029EA00
4K029EA05
4K029JA01
(57)【要約】
【課題】ターゲットの間に配置される遮蔽板から膜が剥離することを抑制するスパッタ装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】処理容器と、前記処理容器内に設けられ、第1材料によって形成される第1ターゲットと、前記処理容器内に設けられ、前記第1材料とは異なる第2材料によって形成される第2ターゲットと、前記処理容器内に設けられ、基板を載置する載置部と、前記第1ターゲットと前記第2ターゲットの間に配置される遮蔽板と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記遮蔽板に成膜された膜の膜ストレスを低減する処理を行う、スパッタ装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器と、
前記処理容器内に設けられ、第1材料によって形成される第1ターゲットと、
前記処理容器内に設けられ、前記第1材料とは異なる第2材料によって形成される第2ターゲットと、
前記処理容器内に設けられ、基板を載置する載置部と、
前記第1ターゲットと前記第2ターゲットの間に配置される遮蔽板と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記遮蔽板に成膜された膜の膜ストレスを低減する処理を行う、
スパッタ装置。
【請求項2】
前記遮蔽板を回転させる回転機構を備え、
前記制御部は、
前記遮蔽板に成膜された膜の膜ストレスを低減する処理として、前記第1ターゲットに対する面と前記第2ターゲットに対する面とが反転するように前記遮蔽板を回転させ、前記遮蔽板に前記第1材料の膜と前記第2材料の膜とを積層する、
請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記第1材料と前記第2材料との組み合わせは、WとSi、WBとSi、WCとSi、WCとWB、WとRuのうちのいずれかである、
請求項2に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記第1材料はWであり、
前記第2材料はSiであって、
前記遮蔽板に成膜される膜におけるWの組成比は、5%以上70%以下である、
請求項2に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記第1ターゲットからスパッタされたスパッタ粒子が前記遮蔽板に堆積することを抑制する抑制ガスを供給する抑制ガス供給部を備える、
請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のスパッタ装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記遮蔽板に成膜された膜の膜ストレスを低減する処理として、前記基板に成膜処理を施した際に前記遮蔽板に成膜された膜と膜ストレスの向きが異なる膜を前記遮蔽板に成膜する、
請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記基板に成膜処理を施す際、Arガスを前記処理容器内に供給して、前記第1ターゲット及び前記第2ターゲットをスパッタし、
前記遮蔽板に膜ストレスの向きが異なる前記膜を成膜する際、Krガスを前記処理容器内に供給して前記第1ターゲットをスパッタする、
請求項6に記載のスパッタ装置。
【請求項8】
処理容器と、前記処理容器内に設けられ、第1材料によって形成される第1ターゲットと、前記処理容器内に設けられ、前記第1材料とは異なる第2材料によって形成される第2ターゲットと、前記処理容器内に設けられ、基板を載置する載置部と、前記第1ターゲットと前記第2ターゲットの間に配置される遮蔽板と、前記遮蔽板を回転させる回転機構と、を備えるスパッタ装置の制御方法であって、
前記遮蔽板を回転させ、前記遮蔽板に前記第1材料の膜と前記第2材料の膜とを積層する、
スパッタ装置の制御方法。
【請求項9】
処理容器と、前記処理容器内に設けられ、第1材料によって形成される第1ターゲットと、前記処理容器内に設けられ、前記第1材料とは異なる第2材料によって形成される第2ターゲットと、前記処理容器内に設けられ、基板を載置する載置部と、前記第1ターゲットと前記第2ターゲットの間に配置される遮蔽板と、を備えるスパッタ装置の制御方法であって、
Arガスを前記処理容器内に供給して、前記第1ターゲット及び前記第2ターゲットをスパッタして、前記基板に成膜処理を施す工程と、
Krガスを前記処理容器内に供給して前記第1ターゲットをスパッタして、前記遮蔽板に膜ストレスの向きが異なる膜を成膜する工程と、を繰り返す、
スパッタ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパッタ装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターゲットから放出されるスパッタ粒子をウエハ等の基板に入射させて成膜を行う基板処理装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、複数のターゲットの隣接する対の間に延在するプロセスシールド(遮蔽板)を備えるプロセスチャンバが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、ターゲットの間に配置される遮蔽板から膜が剥離することを抑制するスパッタ装置及び制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るスパッタ装置は、処理容器と、前記処理容器内に設けられ、第1材料によって形成される第1ターゲットと、前記処理容器内に設けられ、前記第1材料とは異なる第2材料によって形成される第2ターゲットと、前記処理容器内に設けられ、基板を載置する載置部と、前記第1ターゲットと前記第2ターゲットの間に配置される遮蔽板と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記遮蔽板に成膜された膜の膜ストレスを低減する処理を行う。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、チャンバの壁面から膜が剥離することを抑制するスパッタ装置及び制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る基板処理装置の断面模式図の一例である。
【
図2】基板処理装置における成膜処理を説明するフローチャートの一例である。
【
図3】膜の組成と膜ストレスとの関係を示すグラフの一例である。
【
図4】基板処理装置における成膜処理を説明するフローチャートの他の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
<基板処理装置>
一実施形態に係る基板処理装置1について、
図1を用いて説明する。
図1は、一実施形態に係る基板処理装置1の断面模式図の一例である。
【0011】
基板処理装置1は、処理チャンバ10と、ガス供給部20と、スパッタ粒子放出部30a,30bと、基板支持部40と、スパッタ粒子遮蔽機構50と、排気装置60と、を備える。基板処理装置1は、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition)装置であって、処理チャンバ10内で、スパッタ粒子放出部30a,30bから放出されたスパッタ粒子(成膜原子)を基板支持部40に載置された半導体ウエハ等の基板Wの表面に堆積させ、成膜する装置である。
【0012】
処理チャンバ10は、上部が開口されたチャンバ本体10aと、チャンバ本体10aの上部開口を塞ぐように設けられた蓋体10bと、を有する。蓋体10bは、側面が傾斜面として形成されている。処理チャンバ10の内部は、成膜処理が行われる処理空間Sとなる。
【0013】
処理チャンバ10の底部には、排気口11が形成されている。排気口11には、排気装置60が接続されている。排気装置60は、圧力制御弁、および真空ポンプを含む。処理空間Sは、排気装置60により、所定の真空度まで真空排気される。
【0014】
処理チャンバ10には、処理空間S内にガスを導入するためのガス導入ポート12が挿入されている。ガス導入ポート12には、ガス供給部20が接続されている。ガス供給部20からガス導入ポート12に供給されたスパッタガス(例えば、不活性ガス)は、処理空間S内に導入される。
【0015】
処理チャンバ10の側壁には、基板Wを搬入出するための搬入出口13が形成されている。搬入出口13は、ゲートバルブ14により開閉される。処理チャンバ10は、搬送チャンバ(図示せず)に隣接して設けられており、ゲートバルブ14が開かれることにより、処理チャンバ10と搬送チャンバ(図示せず)が連通するようになっている。搬送チャンバ(図示せず)内は所定の真空度に保持され、その中に基板Wを処理チャンバ10に対して搬入出するための搬送装置(図示せず)が設けられている。
【0016】
スパッタ粒子放出部30aは、ターゲット(第1ターゲット)31aと、ターゲットホルダ32aと、絶縁部材33aと、電源34aと、マグネット35aと、マグネット走査機構36aと、を有する。また、スパッタ粒子放出部30bは、ターゲット(第2ターゲット)31bと、ターゲットホルダ32bと、絶縁部材33bと、電源34bと、マグネット35bと、マグネット走査機構36bと、を有する。
【0017】
ターゲット31a,31bは、成膜しようとする膜の構成元素を含む材料からなる。ターゲット31aは、第1材料で形成される。ターゲット31bは、第2材料で形成される。以下の説明において、ターゲット31aを形成する第1材料はタングステン(W)であり、ターゲット31bを形成する第2材料はシリコン(Si)であり、基板Wにタングステンシリサイド(WSi)膜を成膜する場合を例に説明する。なお、タングステン膜は、膜ストレス(内部応力)が大きいため、膜厚が厚くなると膜ストレスによって剥離するおそれがある。
【0018】
ターゲットホルダ32a,32bは、導電性を有する材料からなり、絶縁部材33a,33bを介して、処理チャンバ10の蓋体10bの傾斜面の、互いに異なる位置に取り付けられている。
図1に示す例において、ターゲットホルダ32a,32bは、遮蔽板51を挟んで、互いに対向する位置に設けられている。ターゲットホルダ32a,32bは、基板支持部40に支持された基板Wに対して斜め上方にターゲット31a,31bが位置するように、ターゲット31a,31bを保持する。
【0019】
電源34a,34bは、それぞれターゲットホルダ32a,32bに電気的に接続されている。電源34a,34bは、ターゲット31a,31bが導電性材料である場合には、直流電源であってよく、ターゲット31a,31bが誘電性材料である場合には、高周波電源であってよい。電源34a,34bが高周波電源である場合には、整合器を介してターゲットホルダ32a,32bに接続される。ターゲットホルダ32a,32bに電圧が印加されることにより、ターゲット31a,31bの周囲でスパッタガスが解離する。そして、解離したスパッタガス中のイオンがターゲット31a,31bに衝突し、ターゲット31a,31bからその構成材料の粒子であるスパッタ粒子が放出される。
【0020】
マグネット35a,35bは、ターゲットホルダ32a,32bの裏面側に配置され、マグネット走査機構36a,36bによってY方向に往復運動(揺動)することができるように構成されている。マグネット走査機構36a,36bは、例えば、ガイド37a,37bと、駆動部38a,38bと、を有する。マグネット35a,35bは、ガイド37a,37bによりY方向に往復運動することができるように案内されている。駆動部38a,38bは、ガイド37a,37bに沿って、マグネット35a,35bを往復運動させる。
【0021】
解離したスパッタガス中のイオンは、マグネット35a,35bの磁界によって引き込まれ、ターゲット31a,31bに衝突する。マグネット走査機構36a,36bがマグネット35a,35bをY方向に往復運動させることにより、イオンがターゲット31a,31bに衝突する位置、換言すれば、スパッタ粒子が放出される位置が変化する。
【0022】
また、処理チャンバ10内のターゲット31a,31bと対向する位置には、基板Wを水平に載置する基板支持部40の載置部41が設けられている。載置部41は、軸部材42を介して処理チャンバ10の下方側に配置された駆動機構43に接続されている。駆動機構43は、載置部41を回転させる機能を有している。また、駆動機構43は、昇降ピン45を介して真空搬送装置(図示せず)と基板支持部40との間で基板Wの受け渡しを行う際の受渡位置と、スパッタ時における処理位置との間で、載置部41を昇降させる機能を有している。
【0023】
軸部材42は、チャンバ本体10aの底部を貫通して、駆動機構43に接続されている。軸部材42がチャンバ本体10aの底部を貫通する位置には処理チャンバ10内を気密に保つシール部44が設けられている。
【0024】
昇降ピン45は、基板Wの下面から3ヶ所で支持するように3本設けられ、昇降部46により支持部材47を介して昇降する。
【0025】
また、載置部41内には、加熱機構(図示せず)が設けられており、スパッタ時に基板Wを加熱できるように構成されている。
【0026】
また、処理チャンバ10には、一方のターゲット31a(31b)から放出されたターゲット粒子が他方のターゲット31b(31a)に付着するといった、所謂クロスコンタミネーションを防止するためのスパッタ粒子遮蔽機構50が設けられている。
【0027】
スパッタ粒子遮蔽機構50は、遮蔽板51と、軸部材52と、駆動機構53と、シール部54と、を備える。
【0028】
遮蔽板51は、処理チャンバ10内のターゲット31aとターゲット31bとの間に配置され、一方のターゲット31a(31b)から放出されたターゲット粒子が他方のターゲット31b(31a)に付着することを防止する。
【0029】
軸部材52は、蓋体10bを貫通して、駆動機構53に接続されている。軸部材52が蓋体10bを貫通する位置には処理チャンバ10内を気密に保つシール部54が設けられている。
【0030】
処理チャンバ10には、遮蔽板51にターゲット粒子が堆積することを抑制する堆積抑制ガスを供給する堆積抑制ガス導入ポート55が挿入されている。堆積抑制ガス導入ポート55には、堆積抑制ガス供給部56が接続されている。堆積抑制ガス供給部56から堆積抑制ガス導入ポート55に供給された堆積抑制ガス(例えば、不活性ガス)は、遮蔽板51のタングステンターゲット側の面に吹き付けられる。
【0031】
制御部70は、コンピュータからなり、基板処理装置1の各構成部、例えば、電源34a,34b、駆動部38a,38b、駆動機構43、昇降部46、駆動機構53、排気装置60等を制御する。制御部70は、実際にこれらの制御を行うCPUからなる主制御部と、入力装置、出力装置、表示装置、記憶装置とを有している。記憶装置には、基板処理装置1で実行される各種処理のパラメータが記憶されており、また、基板処理装置1で実行される処理を制御するためのプログラム、すなわち処理レシピが格納された記憶媒体がセットされるようになっている。制御部70の主制御部は、記憶媒体に記憶されている所定の処理レシピを呼び出し、その処理レシピに基づいて基板処理装置1に所定の処理を実行させる。
【0032】
次に、一実施形態に係る基板処理装置1における成膜処理について
図2を用いて説明する。
図2は、基板処理装置1における成膜処理を説明するフローチャートの一例である。
【0033】
ステップS101において、基板Wを処理チャンバ10に搬入する。具体的には、制御部70は、ゲートバルブ14を開ける。搬送チャンバ(図示せず)に設けられた搬送装置(図示せず)は処理チャンバ10内に基板Wを搬送し、基板Wを載置部41に載置する。搬送装置が搬入出口13から退避すると、制御部70は、ゲートバルブ14を閉じる。
【0034】
ステップS102において、基板Wに成膜処理を施す。制御部70は、基板処理装置1を制御して、基板Wにタングステンシリサイド(WSi)膜を成膜する。ここでは、載置部41を回転させながら、ガス導入ポート12からスパッタガスとしてArガスを供給し、ターゲット31a,31bからスパッタ粒子を放出させ、基板Wにタングステンシリサイド(WSi)膜を成膜する。ここで、ターゲット31aとターゲット31bとの間には、遮蔽板51が設けられており、クロスコンタミネーションを防止する。また、遮蔽板51のターゲット31aの側の面には、タングステンが堆積し、遮蔽板51のターゲット31bの側の面には、シリコンが堆積する。
【0035】
ステップS103において、基板Wを処理チャンバ10から搬出する。具体的には、制御部70は、ゲートバルブ14を開ける。搬送チャンバ(図示せず)に設けられた搬送装置(図示せず)は処理チャンバ10内の載置部41から基板Wを搬出する。搬送装置が搬入出口13から退避すると、制御部70は、ゲートバルブ14を閉じる。
【0036】
ステップS104において、遮蔽板51に成膜される膜のストレスを低減する処理として、遮蔽板51を反転する。具体的には、制御部70は、駆動機構53を制御して、遮蔽板51を180°反転する。換言すれば、ターゲット31aに対する面とターゲット31bに対する面とが反転するように遮蔽板51を回転させる。さらに換言すれば、タングステンが堆積した遮蔽板51の一方の面をターゲット31bに向け、シリコンが堆積した遮蔽板51の他方の面をターゲット31aに向ける。
【0037】
ステップS105において、処理を終了するか判定する。処理を終了せず、次の基板Wに対して成膜処理を行う場合(S105・NO)、制御部70の処理はステップS101に戻る。
【0038】
ここで、2枚目の基板Wに対してステップS101~103の処理が施される。ここで、1枚目の基板Wの処理の際にシリコンが堆積した遮蔽板51の他方の面にはタングステンが堆積する。また、1枚目の基板Wの処理の際にタングステンが堆積した遮蔽板51の一方の面にはシリコンが堆積する。そして、ステップS101~105の処理を繰り返すことにより、遮蔽板51の両面には、タングステンとシリコンが交互に堆積する。
【0039】
そして、処理を終了すると判定すると、(S105・YES)、制御部70の処理を終了する。
【0040】
このように、基板処理装置1によれば、ターゲット31aとターゲット31bとの間に遮蔽板51を設けることにより、クロスコンタミネーションを防止することができる。
【0041】
換言すれば、ターゲット31aから放出されたタングステンのスパッタ粒子が、ターゲット31bの非エロージョン部に付着してタングステン膜を成膜し、ターゲット31bの非エロージョン部に成膜されたタングステン膜が膜ストレスによって剥離するおそれがある。これに対し、基板処理装置1は、ターゲット31aとターゲット31bとの間に遮蔽板51を設けることにより、ターゲット31aから放出されたタングステンのスパッタ粒子がターゲット31bに到達することを防止する。また、ターゲット31bの非エロージョン部にタングステン膜が成膜されることを防止する。また、ターゲット31bの非エロージョン部から剥離したタングステン膜が基板Wの表面に付着することを防止する。
【0042】
次に、遮蔽板51に成膜される膜の膜剥がれについて説明する。
図3は、膜の組成と膜ストレスとの関係を示すグラフの一例である。横軸は、タングステンシリサイドの組成を示す。左端はシリコン膜(W:0%、Si:100%)を示し、右端はタングステン膜(W:100%、Si:0%)を示し、左から右に向かってタングステンシリサイドにおけるタングステンの組成比が大きくなる。縦軸は、膜に生じる膜ストレスであり、プラス側がTensile(引張応力)、マイナス側はCompressive(圧縮応力)である。
【0043】
図3に示すように、タングステン膜は、高い膜ストレスを有している。このため、遮蔽板51の表面に堆積したタングステンがタングステン膜を形成し、膜ストレスによって遮蔽板51の表面からタングステン膜が剥離するおそれがある。また、剥離した膜は、基板Wの表面に付着するおそれがある。
【0044】
これに対し、基板処理装置1では遮蔽板51を反転させることにより、遮蔽板51の表面には、タングステンとシリコンとが交互に堆積した積層構造とすることができる。これにより、遮蔽板51の表面に形成される膜をタングステンシリサイド膜とすることができる。ここで、
図3に示すように、タングステン(W)単体で形成されるタングステン膜と比較して、タングステン(W)及びシリコン(Si)から形成される膜は、結晶性が低下することにより、膜ストレスが低下する。これにより、遮蔽板51の表面から膜が剥離することを抑制し、剥離した膜が基板Wの表面に付着することを抑制することができる。
【0045】
なお、
図3に示すように、遮蔽板51に成膜されるWSiにおけるWの組成比は、5%以上70%以下が好ましい。これにより、膜ストレスを低減することができる。また、遮蔽板51に成膜されるWSiにおけるWの組成比は、15%以上25%以下がより好ましい。これにより、膜ストレスを更に低減することができる。
【0046】
なお、
図3に示すフローチャートにおいては、基板Wの成膜処理を1枚行うごとに遮蔽板51を回転させるものとして説明したが、これに限られるものではなく、所定の枚数ごとに遮蔽板を回転させる工程であってもよい。
【0047】
また、
図3に示すフローチャートにおいては、遮蔽板51に成膜されるタングステンシリサイドの膜の組成比は、基板Wに成膜されるタングステンシリサイドの組成比に従う。
【0048】
このため、ステップS102において、堆積抑制ガス導入ポート55から遮蔽板51のターゲット31aの側の面に向けて堆積抑制ガス(例えば、Arガス)を供給する。これにより、遮蔽板51にタングステン粒子が堆積することを抑制することができる。即ち、基板Wに成膜されるタングステンシリサイドの組成比と遮蔽板51に成膜されるタングステンシリサイドの組成比とが異なるようにすることができる。これにより、基板Wに成膜される膜におけるタングステンの割合(例えば90%)が大きい場合であっても、遮蔽板51に吸着するタングステンを堆積抑制ガスで低減することにより、基板Wに成膜される膜におけるタングステンの割合を例えば5%~70%に減少させ、膜ストレスを減少させることができる。
【0049】
なお、基板処理装置1は、基板WにWSi膜(ターゲット31a:W、ターゲット31b:SiSi)を成膜するものとして説明したが、これに限られるものではない。基板処理装置1は、WBSi(WB、Si)、WCSi(WC、Si)、WBC(WC、WB)、WRu(W、Ru)を成膜する構成であってもよい。
【0050】
また、基板処理装置1は、処理空間SにN2ガスを供給することにより、WSiN(W、Si)、WBSiN(WB、Si)、WCSiN(WC、Si)、WBCN(WC、WB)、WRuN(W、Ru)を成膜する構成であってもよい。
【0051】
次に、一実施形態に係る基板処理装置1における成膜処理について
図4を用いて説明する。
図4は、基板処理装置1における成膜処理を説明するフローチャートの他の一例である。
【0052】
ステップS201において、基板Wを処理チャンバ10に搬入する。具体的には、制御部70は、ゲートバルブ14を開ける。搬送チャンバ(図示せず)に設けられた搬送装置(図示せず)は処理チャンバ10内に基板Wを搬送し、基板Wを載置部41に載置する。搬送装置が搬入出口13から退避すると、制御部70は、ゲートバルブ14を閉じる。
【0053】
ステップS202において、基板Wに成膜処理を施す。制御部70は、基板処理装置1を制御して、基板Wにタングステンシリサイド(WSi)膜を成膜する。ここでは、載置部41を回転させながら、ガス導入ポート12からスパッタガスとしてArガスを供給し、ターゲット31a,31bからスパッタ粒子を放出させ、基板Wにタングステンシリサイド(WSi)膜を成膜する。ここで、ターゲット31aとターゲット31bとの間には、遮蔽板51が設けられており、クロスコンタミネーションを防止する。また、遮蔽板51のターゲット31aの側の面には、Arでスパッタされたタングステンが堆積し、遮蔽板51のターゲット31bの側の面には、シリコンが堆積する。
【0054】
ステップS203において、基板Wを処理チャンバ10から搬出する。具体的には、制御部70は、ゲートバルブ14を開ける。搬送チャンバ(図示せず)に設けられた搬送装置(図示せず)は処理チャンバ10内の載置部41から基板Wを搬出する。搬送装置が搬入出口13から退避すると、制御部70は、ゲートバルブ14を閉じる。
【0055】
ステップS204において、基板Wの処理が所定の処理枚数経過したか否かを判定する。所定の処理枚数経過していない場合、制御部70の処理は、ステップS201~S203を繰り返す。所定の処理枚数経過すると、制御部70の処理は、ステップS205に進む。
【0056】
ステップS205において、ダミー基板を処理チャンバ10に搬入する。具体的には、制御部70は、ゲートバルブ14を開ける。搬送チャンバ(図示せず)に設けられた搬送装置(図示せず)は処理チャンバ10内にダミー基板を搬送し、ダミー基板を載置部41に載置する。搬送装置が搬入出口13から退避すると、制御部70は、ゲートバルブ14を閉じる。なお、ダミー基板は、基板Wと同様の形状を有している。
【0057】
ステップS206において、遮蔽板51に成膜される膜のストレスを低減する処理として、ステップS202とは異なる処理条件でターゲット31aをスパッタする。
ここでは、ガス導入ポート12からスパッタガスとしてKrガスを供給し、ターゲット31a,31bからスパッタ粒子を放出させる。これにより、遮蔽板51のターゲット31aの側の面には、Krでスパッタされたタングステンが堆積する。
【0058】
ステップS207において、ダミー基板を処理チャンバ10から搬出する。具体的には、制御部70は、ゲートバルブ14を開ける。搬送チャンバ(図示せず)に設けられた搬送装置(図示せず)は処理チャンバ10内の載置部41からダミー基板を搬出する。搬送装置が搬入出口13から退避すると、制御部70は、ゲートバルブ14を閉じる。
【0059】
ステップS208において、処理を終了するか判定する。処理を終了せず、次の基板Wに対して成膜処理を行う場合(S208・NO)、制御部70の処理はステップS201に戻る。そして、処理を終了すると判定すると(S208・YES)、制御部70の処理を終了する。
【0060】
このように、基板処理装置1によれば、ターゲット31aとターゲット31bとの間に遮蔽板51を設けることにより、クロスコンタミネーションを防止することができる。
【0061】
また、Arガスでスパッタされたタングステンで成膜されるタングステン膜の膜ストレスは、Compressive(圧縮応力)となる。一方、Krガスでスパッタされたタングステンで成膜されるタングステン膜の膜ストレスは、Tensile(引張応力)となる。
【0062】
即ち、遮蔽板51のターゲット31aの側の面には、Compressive(圧縮応力)の膜とTensile(引張応力)の膜とが交互に積層される。これにより、遮蔽板51のターゲット31aの側の面に成膜される膜の膜ストレスを低減することができる。これにより、遮蔽板51の表面から膜が剥離することを抑制し、剥離した膜が基板Wの表面に付着することを抑制することができる。
【0063】
なお、ArガスとKrガスで、膜ストレスの向きが変わる金属材料としては、Wに限られるものではなく、Mo、Cr等がある。これらの膜についてもWと同様に適用してもよい。
【0064】
以上、基板処理装置1について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【符号の説明】
【0065】
W 基板
S 処理空間
1 基板処理装置
10 処理チャンバ
12 ガス導入ポート
20 ガス供給部
30a,30b スパッタ粒子放出部
31a,31b ターゲット
40 基板支持部
50 スパッタ粒子遮蔽機構
51 遮蔽板
52 軸部材
53 駆動機構
54 シール部
55 堆積抑制ガス導入ポート
56 堆積抑制ガス供給部
60 排気装置
70 制御部