(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084633
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/02 20060101AFI20230612BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20230612BHJP
C22C 33/04 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
C22C33/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001491
(22)【出願日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2021198512
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山内 逸平
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA26
4K001DA05
4K001HA01
(57)【要約】
【課題】ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元することによりフェロニッケルを製造する製錬方法において、得られる還元物の品質の低下を抑え、効率的な操作によりフェロニッケルを製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を還元することによってフェロニッケルを製造する製錬方法であって、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する工程と、混合物を還元炉内に装入し混合物を加熱して還元処理を施す工程と、を含み、還元する工程では、還元炉1として、還元処理を行う熱処理部11と、熱処理部11に接続される投炭部21と、を備える炉を用い、還元処理の途中の段階において、混合物を熱処理部11から投炭部21に移動させその投炭部21にて混合物に炭素質還元剤を追加供給し、その後、炭素質還元剤を追加供給した混合物を、再度、熱処理部11に移動させて還元処理を行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を還元することによってフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石と前記炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、
前記混合物を還元炉内に装入し、該混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、
を含み、
前記還元工程では、
前記還元炉として、前記混合物を加熱して還元処理を行う熱処理部と、前記熱処理部に接続される投炭部と、を備える炉を用い、
前記還元処理の途中の段階において、前記混合物を前記熱処理部から前記投炭部に移動させ、該投炭部にて該混合物に炭素質還元剤を追加供給し、
その後、前記炭素質還元剤を追加供給した混合物を、再度、前記熱処理部に移動させて還元処理を行う、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
還元処理の終了後、得られた還元物を前記投炭部に移動させ、該投炭部にて該還元物を冷却する、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記投炭部の床面には炭素質還元剤が敷かれ、該投炭部にて前記還元物を冷却する、
請求項2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
前記還元炉における前記投炭部は、ガス置換可能な構造を有している、
請求項1乃至3のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項5】
前記還元工程では、
柄と、該柄の先端に連結された試料載置部とを有する試料用柄杓を用い、該試料載置部に前記混合物を載置させた状態のまま、前記還元炉の熱処理部にて還元処理を行い、
前記還元炉における前記熱処理部と前記投炭部との間の前記混合物の移動を、前記試料用柄杓を移動させることによって行う、
請求項1乃至4のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項6】
前記還元工程では、
還元温度を1200℃以上1500℃以下として還元処理を施す、
請求項1乃至5のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元することによりフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用してフェロニッケルを製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用してミックスサルファイドを製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
ニッケル酸化鉱石を製錬する場合、まず、その原料鉱石を塊状物化、スラリー化等するための処理(還元処理に先立つ「前処理」)が行われる。具体的に、その前処理では、ニッケル酸化鉱石を塊状物化、すなわち粉や微粒の形状から塊状にするにあたり、まず、ニッケル酸化鉱石以外の成分、例えばバインダーや還元剤と混合して混合物とし、水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば10mm~30mm程度の塊状物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」という)とするのが一般的である。
【0004】
ペレットは、例えば、水分を飛ばすためにある程度の通気性が必要となる。また、ペレット内で還元が均一に行われないと、組成が不均一になってメタルが分散、偏在してしまうことがある。そのため、混合物を均一混合したり、ペレット還元時に可能な限り均一な温度と保持することが重要となる。
【0005】
加えて、還元されて生成したフェロニッケルを粗大化させることも重要となる。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm~数100μm以下程度の大きさである場合では、スラグと分離することが困難となり、フェロニッケルの収率が大きく低下してしまう。このことから、還元後に生成したフェロニッケルを有効に粗大化する技術が必要となる。
【0006】
また、近年は、ニッケル品位が高く不純物が少ない鉱石は少なくなりつつあり、高品質のフェロニッケルを製造するためには様々な鉱石を効率よく処理してデータを蓄積することが求められる。
【0007】
例えば、還元炉に少量のペレットを装入し、還元処理を行い、生成した還元物の取り出しを行って、各種特性を調べたりする。しかしながら、処理温度は1000℃~1500℃前後の高温であり、ペレットの装入や取り出しは容易ではない。従来、そのような操作において、比較的高温に耐えられる金属で作った還元処理専用の杓等を用いて、ペレットを炉内に装入したり、生成した還元物を取り出したりしていたが、温度が高いためその杓が曲がってしまい、取り出しに際して炉内壁に引っかかる等の不具合が生じて、必要以上の時間を要し、その結果正確な知見を得ることが困難となることがあった。
【0008】
特に、試験に用いる小型の還元炉では、外気の影響を避けるために、試料の出し入れに用いる炉外との開口部はできるだけ小さく設置することが好ましく、このような小さな開口部では、杓の取り出しに際して炉壁に引っかかり易く、取り出しが困難になることがある。そして、円滑に杓を取り出すことができないと、炉内での還元状況の正確なデータを得ることができず、操業に反映させることが難しくなる。
【0009】
また、概して小型の炉では、高温状態にある還元炉内の還元度を安定して調整し維持することも容易ではない。例えば、還元炉の加熱にバーナー等を使用すると燃料燃焼用の空気を多量に使うために、酸素の混入も避けられない。一方で、加熱の燃料として石炭やLNGを使うと、燃料には水分が含有されたり燃焼に伴って水が発生するため、発生した水分によって、生成したフェロニッケルメタルの酸化が進行することがある。
【0010】
以上のように、ニッケル酸化鉱石を炭素質還元剤と共に混合し還元して、フェロニッケルメタルを効率よく得るために、実験を精度よくかつ効率よく行えること必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述したような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元することによりフェロニッケルを製造する製錬方法において、得られる還元物の品質の低下を抑え、効率的な操作によりフェロニッケルを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、混合物を加熱して還元処理を行う熱処理部と、その熱処理部に接続される投炭部と、を備える還元炉を用い、還元処理の途中の段階において、混合物を熱処理部から投炭部に移動させてその混合物に炭素質還元剤を追加供給することで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)本発明の第1の発明は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を還元することによってフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石と前記炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、前記混合物を還元炉内に装入し、該混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、を含み、前記還元工程では、前記還元炉として、前記混合物を加熱して還元処理を行う熱処理部と、前記熱処理部に接続される投炭部と、を備える炉を用い、前記還元処理の途中の段階において、前記混合物を前記熱処理部から前記投炭部に移動させ、該投炭部にて該混合物に炭素質還元剤を追加供給し、その後、前記炭素質還元剤を追加供給した混合物を、再度、前記熱処理部に移動させて還元処理を行う、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、還元処理の終了後、得られた還元物を前記投炭部に移動させ、該投炭部にて該還元物を冷却する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記投炭部の床面には炭素質還元剤が敷かれ、該投炭部にて前記還元物を冷却する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0017】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記還元炉における前記投炭部は、ガス置換可能な構造を有している、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0018】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記還元工程では、柄と、該柄の先端に連結された試料載置部とを有する試料用柄杓を用い、該試料載置部に前記混合物を載置させた状態のまま、前記還元炉の熱処理部にて還元処理を行い、前記還元炉における前記熱処理部と前記投炭部との間の前記混合物の移動を、前記試料用柄杓を移動させることによって行う、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0019】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記還元工程では、還元温度を1200℃以上1500℃以下として還元処理を施す、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元することによりフェロニッケルを製造する製錬方法において、得られる還元物の品質の低下を抑え、効率的な操作によりフェロニッケルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れを示す工程図である。
【
図2】還元炉の構成の一例を示す図であり、当該還元炉の本体部となる熱処理部の構成を説明するための図である。
【
図3】還元炉の構成の一例を示す図であり、当該還元炉の熱処理部に接続された投炭部の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0023】
≪1.ニッケル酸化鉱石の製錬方法≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を炭素質還元剤と混合し、その混合物に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、フェロニッケルメタルとスラグとを生成させるものである。
【0024】
具体的に、ニッケル酸化鉱石の製錬方法では、少なくとも、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、得られた混合物を還元炉内に装入しその混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、を有する。
【0025】
このとき、本実施の形態に係る製錬方法では、その還元炉として、混合物を加熱して還元処理を行う熱処理部と、熱処理部に接続される投炭部と、を備える炉を用いて還元処理を行うようにし、還元処理の途中の段階において、混合物を還元炉の熱処理部から投炭部に移動させ、その投炭部にて炭素質還元剤を追加供給する。また、炭素質還元剤を追加供給した混合物を、再度、熱処理部に移動させて還元処理を行う。
【0026】
このような方法によれば、例えば還元処理中に酸素や水分によって部分的に酸化してしまったメタルを再び還元することができ、品質や特性が向上したフェロニッケルメタルを、効率的な操作によって製造することができる。
【0027】
また、詳しくは後述するが、好ましくは、柄と、その柄の先端に連結された試料載置部とを有する試料用柄杓を用い、試料載置部に混合物を載置させた状態で、還元炉の熱処理部にて還元処理を行うようにし、還元炉における熱処理部と投炭部との間の混合物の移動は、その試料用柄杓を移動させることによって行う。このような方法によれば、簡易な操作で適切に混合物を移動させて炭素質還元剤を追加供給でき、また再度熱処理部に戻して還元処理を継続することができる。これにより、品質低下を抑えながら、効率的にフェロニッケルを製造することができる。
【0028】
≪2.製錬方法のプロセスについて≫
上述したように、ニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物に対して、還元炉にてその混合物を加熱してニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金(フェロニッケル)のメタルを生成させるものである。なお、還元処理により得られた還元物からメタルを分離(スラグからメタルを分離)することで、フェロニッケルを得ることができる。
【0029】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、
図1に示すように、ニッケル酸化鉱石を含む原料と炭素質還元剤と混合する混合処理工程S1と、得られた混合物を所定の形状に成形する混合物成形工程S2と、成形された混合物を還元炉にて所定の還元温度で還元加熱する還元工程S3と、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する回収工程S4と、を有する。
【0030】
[混合処理工程]
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的には、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm~0.8mm程度の粉末を混合して混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0031】
混合処理工程S1では、混合性を高めるために混練を行ってよい。例えば、二軸混練機等により混合物を混練することにより混合物にせん断力を加えることで、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて、より均一に混合できる。また、各々の粒子の密着性を高めることができ、得られる混合物に対して均一な還元処理が行い易くなる。
【0032】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されず、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、構成成分として、酸化ニッケル(NiO)と酸化鉄(Fe2O3)とを含有する。
【0033】
上述したように、混合処理工程S1では、ニッケル酸化鉱石に対して特定量の炭素質還元剤を添加して混合し混合物とする。炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、炭素質還元剤としては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と同等の粒度を有するものであることが好ましい。炭素質還元剤とニッケル酸化鉱石の粒度が同等であると、均一に混合し易くなり、その結果還元反応も均一に生じさせることができ好ましい。
【0034】
炭素質還元剤の混合量は、特に限定されないが、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100%としたとき、50.0%以下の割合とすることが好ましく、40.0%以下とすることがより好ましい。ここで、酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と言い換えることができる。このように、炭素質還元剤の混合量を、化学当量の合計値を100%としたときに50.0%以下の割合とすることで、還元反応を効率的に進行させることができる。なお、炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値を100%としたときに、10.0%以上の割合とすることが好ましく、15.0%以上の割合とすることがより好ましい。
【0035】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤のほか、任意成分として添加する鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば鉄品位が50%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0036】
下記表1に、混合処理工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(重量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0037】
【0038】
[混合物成形工程]
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1で得られた混合物を成形する工程である。具体的には、原料粉末を混合して得られた混合物を、ある程度の大きさ以上の塊に成形し、次の還元工程S3での還元処理に際して、還元炉内に混合物を例えば積層して投入できるようにする。
【0039】
混合物を成形することで得られる塊状化物(ペレットとも称する)の形状としては、直方体状、円柱状、球状等とすることができる。このような形状であれば、混合物を成形し易く、成形にかかるコストを抑えることができる。また、これらの形状は、複雑なものではないため、不良品が出ることがほとんどなく成形における収率は極めて高い。また、直方体状、円柱状、球状の形状であれば、還元炉内で積層し易くなり、還元時に処理する量を多くすることが可能となる。そして、一つのペレットの形状を巨大化しなくても、還元時の処理量を増やすことができ、取り扱いも容易であり、また還元炉への装入時等に崩れ落ちたりすることがなく不良等が発生し難くなる。
【0040】
成形(塊状化)した混合物のペレットの体積は、特に限定されず、例えば8000mm3以上とすることができる。ペレットの体積が小さすぎると成形コストが高くなり、また還元炉に装入するのに手間がかかる可能性がある。さらに、ペレットの体積が小さい場合には、ペレット全体に占める表面積の割合が高くなるため、表面と内部とで還元の差の現れやすくなり、フェロニッケルの品質に影響を及ぼす可能性がある。混合物のペレットの体積を8000mm3以上とすることで、成形コストを抑えることができ、取り扱いも容易なり好ましい。さらに、高い品質のフェルニッケルを製造することができる。
【0041】
混合物を成形した後には、乾燥処理を施すようにしてもよい。混合物中の水分により、還元処理における急激な昇温によって混合物中の水分が一気に気化、膨張して、混合物が粉々になってしまうこともある。そのため、混合物成形工程の後に乾燥工程を設け、混合物を乾燥するようにしてもよい。例えば、乾燥工程では、混合物の固形分が70重量%程度で、水分が30重量%程度となるように乾燥処理を施すことができる。
【0042】
混合物に対する乾燥処理の方法は、特に限定されず、例えば150℃~400℃の熱風を塊状物に対して吹き付けて乾燥させることができる。なお、比較的大きな塊状の混合物である場合、乾燥前や乾燥後の混合物にひびや割れが入っていてもよい。塊が大きい場合は、割れ等によって表面積が大きくなってもその影響は僅かである。
【0043】
下記表2に、混合物(乾燥処理後)における固形分中組成(重量部)の一例を示す。なお、混合物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0044】
【0045】
[還元工程]
(還元処理について)
還元工程S3では、混合物成形工程S2で得られた混合物(成形物)を、還元炉内において所定の還元温度に還元加熱する。このような還元処理により、ニッケル酸化鉱石を含む混合物に対する製錬反応(還元反応)が進行して、メタルとスラグとが生成する。
【0046】
還元処理の温度(還元温度)としては、1200℃以上1500℃以下とすることが好ましく、1250℃以上1450℃以下とすることがより好ましい。このような範囲の還元温度とすることで、効率的にかつ確実に還元反応を進行させて、所望とする特性のフェロニッケルを得ることができる。
【0047】
なお、還元処理においては、混合物中のスラグは半熔融して液相と固相が混在した状態となるが、既に分離して生成したメタルとスラグとは混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、装入する混合物と比較すると50%~60%程度の体積に収縮している。
【0048】
(還元炉について)
さて、本実施の形態においては、還元処理にて用いる還元炉として、混合物を加熱して還元処理を行う熱処理部と、熱処理部に接続される投炭部と、を備える還元炉を用いることを特徴としている。
【0049】
図2は、還元炉の斜視図であり、当該還元炉の本体部となる熱処理部の構成を説明するための図である。
図2に示すように、還元炉1は、箱型形状を有する箱型炉とすることができる。この箱型形状の炉本体の内部において、処理対象の混合物を加熱して還元する還元処理が行われる。すなわち、還元炉1において熱処理部11を構成する。
【0050】
還元炉1は、特に限定されないが、所定の位置にバーナー12が設けられ、バーナーによる加熱によって還元処理を実行するバーナー炉とすることができる。還元炉1の加熱方式としてバーナー加熱(バーナー炉)を採用することで、優れた燃焼性により熱処理部11の内部を加熱することができ、好ましい。なお、バーナーの燃料は、LPG等の気体燃料、重油等の液体燃料、石炭やコークス等の固体燃料のいずれであってもよいが、その中でもより燃焼性に優れている点でLPGが好ましい。
【0051】
熱処理部11においては、その箱型の所定の面(炉の内面)に接して配置される試料台13が設けられている。試料台13は、処理対象である混合物を載置して、還元処理を行うための台である。試料台13の上面には、炭素質還元剤等の還元剤を敷いておいてもよい。なお、詳しくは後述するが、還元処理は、柄31と、その柄31の先端に連結された試料載置部32とを有する試料用柄杓3を用い、試料載置部32に処理対象の混合物を載置させた状態で行われる(
図3参照)。したがって、試料台13には、混合物を載置した試料用柄杓3が置かれる。
【0052】
熱処理部11の側面には、内部と外部とを仕切る仕切り板11aが設けられている。仕切り板11aは、開閉可能な扉状の構造を有している。熱処理部11においては、仕切り板11aを介して処理対象の混合物が装入され、また、仕切り板11aを介して混合物や処理後に得られる還元物が取り出される。仕切り板11aは、板状の断熱ボードやレンガ、断熱ウール等で構成することができる。熱処理部11では、処理対象の混合物を内部に装入したのち、仕切り板11aを閉めて還元処理を実行する。このように、仕切り板11aを閉めるという簡易な操作で、熱処理部11の内部空間を密閉空間にすることができ、熱処理部11内の温度低下を防ぐことができる。
【0053】
また、還元炉1には、例えばその上部面(天井面)に、炉内(熱処理部11内)のガスを排気する排気口14が設けられている。
【0054】
図3は、還元炉1の側面図であり、還元炉1の熱処理部11に接続された投炭部21の構成を説明するための図である。
図3に示すように、還元炉1おいては、熱処理部11に対して投炭部21が接続されている。投炭部21は、例えば、熱処理部11と同様に箱型形状を有するものであり、熱処理部11の所定の面に接続されている。
【0055】
熱処理部11と投炭部21とは、上述した熱処理部11における仕切り板11aと、投炭部21における熱処理部11側の仕切り板21aとを介して接続されている。投炭部21の仕切り板21aは、処理部11の仕切り板11aと同様に、開閉可能な扉状の構造を有している。したがって、処理対象の混合物は、投炭部21に装入されたのち、扉状の仕切り板21a,11aを通って、熱処理部11内に装入される。
【0056】
仕切り板21aについても、板状の断熱ボードやレンガ、断熱ウール等で構成することができる。また、熱処理部11の仕切り板11aと投炭部21の仕切り板21aとは、構造的に共通化して構成することもできる。
【0057】
投炭部21では、処理対象の混合物に対して炭素質還元剤を供給する。より具体的には、還元処理の途中の段階において、混合物を熱処理部11から投炭部21へと移動させたのち、その投炭部21にて混合物に対し炭素質還元剤を追加供給する。炭素質還元剤を追加供給する流れについては、後で詳述する。また、投炭部21では、還元処理を開始するに先立ち、その投炭部21を介して熱処理部11に装入される混合物に対し、あるいは混合物の周囲(試料用柄杓の試料載置部)に、炭素質還元剤を供給するようにしてもよい。このように、投炭部21は、混合物に対する還元剤供給室として機能する。
【0058】
また、投炭部21は、熱処理部11での還元処理後に得られた還元物を冷却するための冷却室としても機能する。熱処理部11における還元処理後、得られた還元物を、扉状の仕切り板11a,21aを介して投炭部21に移動させ、投炭部21にてその還元物を所定の温度にまで冷却する。
【0059】
ここで、冷却室として機能する投炭部21においては、例えばその床面に、炭素質還元剤が敷かれていてもよい。このように、好ましくは、投炭部21において炭素質還元剤を敷き、その状態の投炭部21に還元処理で得られた還元物を移動させて冷却を行うことで、床面に敷いた炭素質還元剤が加熱されて不可避的に混入した酸素と反応しその酸素を消費することで、冷却に供した還元物の酸化をより効果的に防ぐことができる。なお、炭素質還元剤の量(床面における敷き詰め量)としては、投炭部21内を還元雰囲気にでき還元物が酸化されることを防ぐことができれば、特に限定されないが、床面に敷き詰めた状態となるような量であることが好ましい。
【0060】
また、投炭部21は、雰囲気ガスを置換できる構造を有していることが好ましい。置換するガスとしては、不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスを流して雰囲気を置換することで、詳しくは後述するように還元処理の途中の段階において投炭部21にて混合物に炭素質還元剤を追加供給する際も、生成したメタルが酸化することを抑制できる。また、得られた還元物を投炭部21にて冷却する際にも、流通させた不活性ガスが冷却用ガスとして作用して冷却を促進することができる。また、その冷却の際にも、不活性ガスであることにより、得られた還元(メタル)の酸化を抑制することができ、品質の低下を防ぐことができる。なお、不活性ガスとして、特に限定されないが、比較的安価で、安定的に入手できる点から、窒素、アルゴン等とすることができ、また二酸化炭素でもよい。
【0061】
投炭部21には、仕切り板21aと対向する位置に、処理対象の混合物を装入する、また還元処理により得られる還元物を取り出すための装入/取出口21bが設けられている。装入/取出口21bは、蓋体であり、仕切り板21aと同様に、開閉可能な扉状の構造を有している。また、装入/取出口21bは、極力空気が入らないように、二重構造の扉(二重扉)とすることが好ましい。投炭部21に混合物を装入する際には、装入/取出口21bを開放して行い、熱処理部11での還元処理時、投炭部21での還元剤供給時、及び投炭部21での冷却時には、装入/取出口21bを閉めた状態で各操作を実行する。
【0062】
(還元処理における操作について)
上述した構成を有する還元炉1を用いた還元処理では、まず、投炭部21の装入/取出口21bを開けて内部に装入し、さらに仕切り板11a,21aを開けてその投炭部21に接続されている熱処理部11の内部へと装入し、試料台13に載置する。
【0063】
ここで、還元処理においては、試料用柄杓を用いて処理対象である混合物試料の装入や取り出しを行う。
図4は、試料用柄杓3の構成の一例を示す図である。試料用柄杓3は、柄31と、柄31の先端に連結された試料載置部32と、を備えている。試料用柄杓3において、柄31は、作業者がその手あるいは機械により把持する部分であり、棒状体により構成されている。試料載置部32は、柄31の先端に連結されており、その上面(載置面32a)に試料、すなわち処理対象の混合物を載置させる。なお、
図4では、試料載置部32として直方体状のもので構成されている例を示しているが、これに限られず、例えば試料である混合物の載置面が凹部を構成し、四方に壁面が立設され、上面が開口した容器のようなもので構成されていてもよい。
【0064】
還元処理においては、試料用柄杓3の試料載置部32に試料である混合物を載置し、その状態で、作業者の手あるいは機械により柄31を把持して、投炭部21に装入する。その後、投炭部21の内部から仕切り板11a,21aを開き、試料用柄杓3の柄31を押し込むようにして、試料載置部32の部分を熱処理部11内に入れる。
【0065】
このとき、熱処理部11内に入れた試料用柄杓3を、試料台13の中央部付近まで移動させた後、試料用柄杓3それ自体を試料台13の上に置き、その状態のまま(混合物を収容した試料用柄杓3を載置させた状態のまま)還元処理を開始する。すなわち、還元処理に際して、試料用柄杓3を熱処理部11内に残したまま加熱を開始する。このような方法によれば、処理対象の混合物を試料用柄杓3に載置させ、あとはその試料用柄杓3を、投炭部21を経由して熱処理部11に出し入れする操作を行うだけで、還元処理を実行することができる。これにより、例えば、試料用柄杓3から試料台13上に混合物を移し変えるとき等にその混合物が試料台13から落下するといった誤操作を防ぐことができる。また、バーナーによる加熱が均一に生じなくなるといった不具合を防ぐこともできる。
【0066】
なお、このような態様の場合、試料用柄杓3の試料載置部32に、灰や炭素質還元剤等を敷いておいてもよい。これにより、その試料載置部32の載置面での混合物の融着を防ぐことができる。
【0067】
また、このように試料用柄杓3を熱処理部11内に残した状態においては、その試料用柄杓3の柄31の主な部分は、投炭部21に位置するようになる(
図3参照)。そして、試料用柄杓3の柄31の部分が投炭部21内に位置するようにして還元処理を開始することで、還元処理の加熱によって試料用柄杓3の柄31が熱変形してしまうことを防ぐことができる。還元処理は、例えば1200℃~1500℃程度の高温条件にて行うため、試料用柄杓3の柄31が熱変形して曲がってしまうことがある。この点、柄31の部分が投炭部21内に位置されるように保持しておくことで、熱変形を防ぐことができる。
【0068】
なお、例えば、投炭部21と熱処理部11とを仕切る仕切り板11a,21aの下端部に、試料用柄杓3の柄31が貫通するような例えば半円状の孔を形成させておくことで、試料用柄杓3を熱処理部11内に残して仕切り板11a,21aを閉めた状態としても、その仕切り板11a,21aによって熱処理部11内の密閉性を確保することができる。
【0069】
さて、本実施の形態に係る方法では、還元処理の途中の段階において、還元処理中の混合物を熱処理部11から投炭部21に移動させ、その投炭部21にて混合物に炭素質還元剤を追加供給するようにする。そしてその後、炭素質還元剤を追加供給した混合物を、再度、熱処理部11に移動させて還元処理を継続する。
【0070】
このように、還元処理の途中の段階において、炭素質還元剤を追加供給する、すなわち補給することで、還元処理中に燃焼ガスに含まれる酸素や水分によって部分的に酸化してしまったメタルを再び還元することができ、品質や特性を向上させることができる。また、再度加熱処理する際にも、混合物試料の表面に還元剤が存在することによって、酸化を抑制することができる。
【0071】
また、上述したように、投炭部21は熱処理部11に連続して接続されている。そのため、還元処理途中の混合物に炭素質還元剤を補給するにあたっても、その混合物を大気中に取り出すことなく行うことができ、生成しているメタルの酸化を防ぐことができる。
【0072】
ここで、還元炉1における熱処理部11と投炭部21との間の混合物の移動は、試料用柄杓3を移動させることによって行う。
【0073】
上述したように還元処理においては、試料用柄杓3の試料載置部32に処理対象の混合物を載置させた状態のまま、熱処理部11にて還元処理を行う。そして、還元処理の途中の段階において混合物を熱処理部11から投炭部21に移動させるに際しては、仕切り板11a,21aを開いた後に、試料用柄杓3の柄31を把持して投炭部21の側からその試料用柄杓3を引き出すようにして、混合物が載置された試料載置部32の部分を投炭部21内に移動させる。その後、投炭部21において、試料載置部32に載置した混合物に炭素質還元剤を追加し補給する。
【0074】
炭素質還元剤を補給した混合物を再度熱処理部11に移動させる際にも、試料用柄杓3の柄31を把持して投炭部21の側からその試料用柄杓3を押し出すようにして、混合物が載置された試料載置部32の部分を熱処理部11内に移動させる。その後、その熱処理部11にて、還元処理を継続する。
【0075】
このように、熱処理部11と投炭部21との間の混合物の移動を、試料用柄杓3を移動させることによって行うことで、スムースでかつ確実に操作することができる。
【0076】
また、還元処理の終了後には、投炭部21の内部から仕切り板11a,21aを開いて、還元処理により得られた還元物を、熱処理部11から投炭部21を経由して取り出す。
【0077】
還元物の取り出しに際しては、投炭部21において還元物の冷却を行う。投炭部21は、上述したように不活性ガスを流通させてガス置換可能な構造を有している。このことから、流通させた不活性ガスが冷却用ガスとして作用して、効率的にかつ急速に還元物を所定の温度にまで冷却することができる。また、不活性ガスが充満している投炭部21内の環境下では、得られた還元物のメタルが酸化することを抑制でき、品質の低下を防ぐことができる。
【0078】
投炭部21での還元物の冷却は、投炭部21の内部から仕切り板11a,21aを閉めた状態で行う。これにより、熱処理部11からの高温の熱が投炭部21内に入り込むことを防いで、効率的に冷却を行うことができる。冷却時間としては、還元物を所定の温度にまで冷却できれば特に限定されないが、好ましくは10分以上の時間をかけて行う。10分以上の冷却により、還元物の温度を1000℃以下にまで低下させることができ、その後に投炭部212から還元物を取り出しても、生成したメタルの酸化を抑制できる。
【0079】
また、投炭部21は、熱処理部11に連続して接続されているため、熱処理部11での還元処理により得られた還元物を大気中に取り出すことなく冷却することができる。高温に加熱された状態の還元物をそのまま大気中に取り出した場合、生成したメタルの酸化が急速に進行して、メタル特性が低下するとともに、メタルの回収率が大きく低下する。この点、投炭部21が熱処理部11に接続された還元炉1を用いて還元処理を行うことで、高温の還元物に対する冷却操作を、その投炭部21にて効率的に行うことができ、メタルの酸化を効果的に防ぐことができる。
【0080】
さらに、好ましくは、冷却室として機能する投炭部21の床面に予め炭素質還元剤を敷いておき、そのような状態の投炭部21に還元物を移動させて冷却する。これにより、床面に敷いた炭素質還元剤が加熱されて不可避的に混入した酸素と反応しその酸素を消費することで、冷却に供した還元物の酸化をより効果的に防ぐことができる。
【0081】
以上のような還元工程S3での還元処理を行うことで、精度よく確実に、かつ効率的にフェロニッケルを製造することができる。
【0082】
[回収工程]
回収工程S4では、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混合物(混在物)からメタル相を分離して回収する。
【0083】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0084】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、上述した還元工程S3における処理で得られた、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0085】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによってメタル相、すなわちフェロニッケルを回収する。
【実施例0086】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
<1.フェロニッケルの製造>
以下に示すような条件で、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元してフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法を実行した。
【0088】
(混合処理工程)
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉(微粉炭):炭素含有量76重量%、平均粒径約75μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe2O3)とを過不足なく還元するのに必要な量を100%としたときに32.0%の割合となる量で含有させた。
【0089】
(混合物成形工程)
次に、得られた混合物を、パン型造粒機を用いて造粒し、φ15.0±0.7mmの大きさに篩った。その後、試料については、還元前に、固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように170℃~250℃の熱風を吹き付けることで乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後の試料の固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0090】
【0091】
(還元工程)
次に、篩った試料(混合物試料)を14個に分け(実施例1~11、比較例1~3)、還元炉(バーナー炉)を用いて加熱して還元処理を施した。
【0092】
このとき、実施例では、還元炉として、
図2及び
図3に模式図を示したような投炭部21が接続された還元炉1を用いた。具体的には、還元炉1として、箱型のバーナー炉であって、混合物試料を加熱して還元処理を行う熱処理部11と、熱処理部11に接続される投炭部21と、を備える炉を用いた。投炭部21は、不活性ガスによりガス置換可能な構造を有するものであった。還元炉1において、投炭部21と熱処理部11とは、板状の断熱ボードからなる仕切り板21a,11aを介して接続されており、その仕切り板21a,11aは投炭部21の内部から開閉可能なものであった。なお、還元炉は、バーナーが備えられており、燃料には微粉炭、LPG、重油、及びコークスを用いた。
【0093】
また、試料である混合物の還元炉1への装入は、
図4に模式図を示したような試料用柄杓3を用いて行った。試料用柄杓3は、柄31と、柄31の先端部に試料載置部32と、を備えるものであり、その試料載置部32の上面に灰(主成分はSiO
2、その他の成分としてAl
2O
3、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に混合物試料を載置するようにした。
【0094】
そして、還元炉1への装入に際しては、試料用柄杓3に載置させた混合物試料を、まず投炭部21の蓋(装入/取出口21b)を開けてその内部に装入し、次に、投炭部21の側から仕切り板21a,11aを開くことによって、熱処理部11内に混合物試料を装入し試料台13に置いた。試料台13には、混合物を収容した試料用柄杓3をそのまま載置した。その後、仕切り板11a,21aを閉め、熱処理部11内を密閉空間としてバーナーによる加熱を開始し、還元処理を行った。
【0095】
また、実施例では、還元処理の途中の段階、具体的には還元時間終了の8分前に、混合物試料を熱処理部11から投炭部21に戻し、その混合物試料の上から炭素質還元剤(微粉炭)を追加供給した。なお、微粉炭の補給量は、混合物中における微粉炭の混合量を100%としたとき30%の割合の量とした。微粉炭を補給した後、再度、熱処理部11に移動させ、還元処理を続けた。
【0096】
所定の還元時間の終了後、投炭部21の内部から仕切り板21a、11aを開け、得られた還元物を載せた試料用柄杓3を取り出した。このとき、還元物を大気に取り出さずに、投炭部21内にて還元物を冷却した。投炭部21においては、不活性ガス(窒素)を20L/分の流量で流通させ続け、その不活性ガスを冷却用ガスとして15分の冷却時間で還元物を冷却した。
【0097】
冷却の終了後、投炭部21から還元物を取り出して、下記に示すニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率を測定した。
【0098】
一方、比較例では、実施例とは同じ還元炉1を用いたものの、還元処理の途中の段階において炭素質還元剤の補給は行わなかった。還元処理の終了後、投炭部21にて還元物を冷却して回収した。
【0099】
[評価]
各試料を冷却した後、下記式により定義される、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率について、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100)により分析して算出した。
ニッケルメタル率=混合物中のメタル化したNiの量÷(混合物中の全てNiの量)×100(%) ・・・[1]式
メタル中ニッケル含有率=混合物中のメタル化したNiの量÷(混合物中のメタルしたNiとFeの合計量)×100(%) ・・・[2]式
【0100】
下記表4に、還元処理の条件と、ニッケルメタル率、メタル中ニッケル含有率の算出結果をそれぞれ示す。
【0101】
【0102】
表4に示されるように、還元処理の途中の段階で炭素質還元剤を追加供給して還元処理を行った実施例1~11では、ニッケルメタル化率、メタル含有率が共に良好な結果となった。これは、炭素質還元剤を追加供給したことで、還元処理途中で部分的に酸化したメタルを再度還元でき、より十分に均一な還元処理を行うことができたためと考えられる。
【0103】
一方で、炭素質還元剤を追加供給せずに還元処理を行った比較例1~3では、実施例と比べて、ニッケルメタル化率、メタル含有率が共に低くなる結果となった。
【0104】
<2.冷却時における投炭部での還元剤床敷による効果の検証>
下記の実施例12~25では、還元処理後に得られた還元物を投炭部21にて冷却するにあたり、投炭部21の床面に予め炭素質還元剤を敷いておき、そこで冷却を行ったときの効果について検証した。
【0105】
具体的に、実施例12~22では、上述した実施例1~11と同様に、還元処理の途中の段階(還元時間終了の8分前)に、混合物試料を熱処理部11から投炭部21に戻し、その混合物試料の上から炭素質還元剤(微粉炭)を追加供給し、微粉炭を補給した後、再度、熱処理部11に移動させ、還元処理を続けるという操作を行った。また、所定の還元時間の終了後、投炭部21の内部から仕切り板21a、11aを開け、得られた還元物を載せた試料用柄杓3を取り出し、投炭部21内にて還元物を冷却した。
【0106】
投炭部21においては、予め炭素質還元剤(微粉炭)を床面に敷き詰めておき、そこに還元物を収容した試料用柄杓3を移動させた。投炭部21では、不活性ガス(窒素)を20L/分の流量で流通させ続け、10分の冷却時間で還元物を冷却した。
【0107】
一方で、実施例23~25では、投炭部21にて微粉炭の補給を行いながら還元処理を行ったものの、得られた還元物の冷却にあたっては、投炭部21の床面に炭素質還元剤を敷かなかった。なお、それ以外は実施例12~22と同様に処理した。
【0108】
実施例1~11と同様に、各試料を冷却した後、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率について、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100)により分析して算出した。下記表5に、還元処理の条件、冷却時の条件(還元剤の床敷の有無)と、ニッケルメタル率、メタル中ニッケル含有率の算出結果をそれぞれ示す。
【0109】
【0110】
表5に示されるように、床面に炭素質還元剤を敷き詰めた投炭部21にて還元物の冷却を行った実施例12~22では、ニッケルメタル化率、メタル含有率が共に良好な結果となった。これは、炭素質還元剤を追加供給して還元処理を行っただけでなく、得られた還元物の冷却を、炭素質還元剤を敷き詰めた投炭部21にて行ったことで、敷き詰めた炭素質還元剤が投炭部21内に不可避的に混入した酸素を消費するよう作用し、得られた還元物の酸化を抑制できたためと考えられる。
【0111】
一方で、得られた還元物の冷却を、炭素質還元剤を敷き詰めていない投炭部21にて行った実施例23~25では、炭素質還元剤を追加供給して還元処理を行ったことにより良好な結果ではあったものの、実施例12~22よりは若干劣る結果となった。これは、投炭部21に炭素質還元剤を敷かずに冷却を行ったため、得られた還元物が、不可避的に混入した酸素によって一部酸化したためと考えられる。