(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084792
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】摩擦試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20230613BHJP
F16N 29/02 20060101ALI20230613BHJP
F16N 29/00 20060101ALI20230613BHJP
F16N 39/00 20060101ALI20230613BHJP
F16N 7/38 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
G01N19/02 A
F16N29/02
F16N29/00 D
F16N39/00
F16N7/38 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199088
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛久
(57)【要約】
【課題】潤滑油に添加する添加剤の最適な配合割合を、少ない試験回数で把握することを可能とする。
【解決手段】循環ポンプ40は、循環流路70内の潤滑油100を循環させる。シリンジポンプ20は、循環流路70内の潤滑油100に対して、摩擦性能を変化させる添加剤110を、単位時間当たり一定の注入量で連続的に注入する。スタティックミキサ30は、シリンジポンプ20により添加剤110が注入された後の潤滑油100を循環流路70内において攪拌する。油槽50は、循環流路70内において循環している潤滑油100を貯留する。摩擦係数測定機60は、油槽50内に貯留された潤滑油100を用いて、シリンジポンプ20による添加剤110の注入開始からの時間経過に応じた摩擦係数の変化を測定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環流路内の潤滑油を循環させる循環ポンプと、
前記循環流路内の潤滑油に対して、摩擦性能を変化させる添加剤を、単位時間当たり一定の注入量で連続的に注入する注入機構と、
前記注入機構により添加剤が注入された後の潤滑油を前記循環流路内において攪拌する攪拌部と、
前記循環流路内において循環している潤滑油を貯留する油槽と、
前記油槽内に貯留された潤滑油を用いて、前記注入機構による添加剤の注入開始からの時間経過に応じた摩擦係数の変化を連続的に測定する測定部と、
を備えた摩擦試験装置。
【請求項2】
前記注入機構が、シリンジ内に格納された添加剤をプランジャにより押し出すことにより添加剤を単位時間当たり一定の注入量で潤滑油に対して連続的に注入するシリンジポンプである請求項1記載の摩擦試験装置。
【請求項3】
前記注入機構が、前記循環流路内を循環する潤滑油の総体積の10000分の1以上かつ100分の1以下の体積の添加剤を毎分注入可能に構成されている請求項2記載の摩擦試験装置。
【請求項4】
前記測定部が、前記油槽内に設置され、回転する円盤状試料上に荷重を加えた接触子を接触させて摩擦係数を測定する回転式の摩擦係数測定機である請求項1から3のいずれか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項5】
前記油槽から前記循環流路内に流入する潤滑油中に含まれる金属粉を除去するためのフィルタをさらに備えた請求項1から4のいずれか1項記載の摩擦試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油に添加する添加剤の配合割合を把握するための摩擦試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素系合成潤滑油であるPAO(Poly-Alpha-Olefins:ポリ-α-オレフィン)は、様々な機器の潤滑油として用いられている。このような潤滑油に対して、例えばオレイン酸等の添加剤を添加することにより摩擦係数を小さくして、摩擦性能を向上させることが知られている。
【0003】
添加剤は潤滑油と比較し高価である場合が多いため、潤滑油に添加する添加剤の配合割合は必要最低限としたい。しかし、添加する添加剤の配合割合が低すぎると良好な摩擦性能が得られない場合がある。また、必要以上に添加剤を添加するとかえって摩擦係数が大きくなってしまう場合もある。そのため、潤滑油に添加する添加剤の配合割合には最適な範囲がある。
【0004】
しかし、潤滑油と添加剤には様々な種類があり、潤滑油と添加剤の組み合わせ毎に最適な配合割合を決定しなければならない。
【0005】
例えば、特許文献1には、ベース潤滑油に性能強化剤を第2の流体として注入して攪拌して再循環するシステムにおいて、システム条件パラメータを直接的又は間接的に測定して、測定されたシステムパラメータからベース潤滑油に加えるべき第2の流体の量を計算するようにしたシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に開示されたシステムは実際のエンジン運転条件下等において、ベース潤滑油に加える第2の流体の量を調整しようとするものであり、ベース潤滑油に加えるべき第2の流体の量をどのように計算するかの具体的な方法は開示されていない。そのため、この特許文献1に開示されたシステムにおいて、ベース潤滑油に配合する第2の流体の最適な配合割合を得るためには、ベース潤滑油に加える第2の流体の量を様々に変化させる必要がある。
【0008】
このように従来では、潤滑油に対する添加剤の最適な配合割合を決定する際には、予め異なる配合割合で添加剤を潤滑油に添加した複数の試験油を準備して、それぞれの試験油に対して摩擦試験を実施して、その試験結果に基づいて最適な配合割合を決定していた。しかし、摩擦試験を行う場合、その試験結果には繰り返し誤差が含まれるため、1つの試験油に対して複数回の試験を繰り返し行う必要がある。また、摩擦試験では試験片の摩耗状態、試験片のばらつき、試験片どうしのあたり具合等により、試験回数が増加するに応じて様々な誤差が発生し得る。そのため、1組の潤滑油と添加剤の組み合わせにおける最適配合割合を決定するためだけでも、配合割合を変化させた試験油の数に繰り返し試験回数を乗じた数の摩擦試験が必要となり、潤滑油の開発期間と開発費用を増加させる要因となっている。
【0009】
本発明の目的は、潤滑油に添加する添加剤の最適な配合割合を、少ない試験回数で把握することが可能な摩擦試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の摩擦試験装置は、循環流路内の潤滑油を循環させる循環ポンプと、
前記循環流路内の潤滑油に対して、摩擦性能を変化させる添加剤を、単位時間当たり一定の注入量で連続的に注入する注入機構と、
前記注入機構により添加剤が注入された後の潤滑油を前記循環流路内において攪拌する攪拌部と、
前記循環流路内において循環している潤滑油を貯留する油槽と、
前記油槽内に貯留された潤滑油を用いて、前記注入機構による添加剤の注入開始からの時間経過に応じた摩擦係数の変化を連続的に測定する測定部とを備えている。
【0011】
本発明では、潤滑油を循環ポンプにより循環流路内において循環させた状態で、注入機構により添加剤を時間あたり一定の注入量で連続的に注入しつつ、添加剤が注入された潤滑油を攪拌部により攪拌し、油槽内で測定部により摩擦試験を連続的に行って摩擦係数の変化を記録する。そのため、本発明によれば、試験開始からの経過時間と記録された摩擦係数の変化から、潤滑油に対する添加剤の最適な配合割合を把握することが可能となる。
【0012】
また、本発明の摩擦試験装置の他の態様では、前記注入機構を、シリンジ内に格納された添加剤をプランジャにより押し出すことにより添加剤を単位時間当たり一定の注入量で潤滑油に対して連続的に注入するシリンジポンプとするようにしてもよい。
【0013】
シリンジポンプは少量の液体を単位時間当たり一定の注入量で注入するのに適しており、この態様の本発明によれば、添加剤を一定の注入量で正確に潤滑油に対して注入することが可能となる。
【0014】
また、本発明の摩擦試験装置の他の態様では、前記注入機構を、前記循環流路内を循環する潤滑油の総体積の10000分の1以上かつ100分の1以下の体積の添加剤を毎分注入可能に構成するようにしてもよい。
【0015】
さらに、本発明の摩擦試験装置の他の態様では、前記測定部を、前記油槽内に設置され、回転する円盤状試料上に荷重を加えた接触子を接触させて摩擦係数を測定する回転式の摩擦係数測定機とするようにしてもよい。
【0016】
回転式の摩擦係数測定機は、往復式のもの等よりも摩擦係数を連続的に測定するのに適しており、この態様の本発明によれば、添加剤の注入開始からの時間経過に応じた摩擦係数の変化を連続的に正確に測定することが可能となる。
【0017】
また、本発明の摩擦試験装置の他の態様では、前記油槽から前記循環流路内に流入する潤滑油中に含まれる金属粉を除去するためのフィルタをさらに備えるようにしてもよい。
【0018】
この態様の本発明によれば、測定部において摩擦係数の変化を連続的に測定する際に発生した金属粉がフィルタにより除去されて循環流路内を循環してしまうことを防ぐことができ、測定される摩擦係数の精度をより高くすることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、潤滑油に添加する添加剤の最適な配合割合を、少ない試験回数で把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態の摩擦試験装置10の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示したシリンジポンプ20の構造を示す図である。
【
図3】
図1に示したスタティックミキサ30の構造を示す図である。
【
図4】
図1に示した摩擦係数測定機60の構造を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態の摩擦試験装置10における試験条件を示す図である。
【
図6】
図5に示した試験条件に基づく試験結果のグラフを示す図である。
【
図7】比較例1による摩擦試験結果のグラフを示す図である。
【
図8】比較例2において用いた試験油の配合割合を示す図(
図8(A))、及び比較例2における摩擦試験の試験結果を示すグラフ(
図8(B))である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の一実施形態の摩擦試験装置10の構成を示す全体図である。
【0023】
本実施形態の摩擦試験装置10は、
図1に示されるように、潤滑油100が循環する循環流路70の途中に、注入機構であるシリンジポンプ20と、攪拌部であるスタティックミキサ30と、循環ポンプ40と、油槽50が設けられた構成となっている。そして、油槽50内には、潤滑油100を用いた摩擦試験を行って摩擦係数を測定する摩擦係数測定機60が設置されている。
【0024】
本実施形態の摩擦試験装置10では、閉じた流路である循環流路70内を潤滑油100が循環しており、この潤滑油100に対する添加剤110の最適な配合割合を決定することを目的とした摩擦試験が行われるように構成されている。
【0025】
なお、本実施形態においては、潤滑油100として、PAO4規格のポリ-α-オレフィン系の合成潤滑油を用いた場合について説明する。そして、この潤滑油100にオレイン酸を添加剤110として添加する場合について説明する。なお、潤滑油100と添加剤110の組み合わせはこのような種類の組み合わせに限定されるものではなく、潤滑油に対して、摩擦性能を変化させる、具体的には摩擦性能を向上させるような添加剤を添加する場合でも本発明は同様に適用可能である。なお、ここで摩擦性能を向上させるとは、摩擦係数を低減させることを意味する。
【0026】
循環ポンプ40は、循環流路70内の潤滑油100を循環させる。循環ポンプ40の毎分の循環流量は、循環流路70内を循環する潤滑油100の総量に対して、10分の1から10倍程度のものが好適に使用可能である。ここで、本実施形態では、循環流路70内を循環する潤滑油100の総量(総体積)が40mlである場合について説明する。つまり、循環ポンプ40の毎分の循環流量としては、4ml~400ml程度のものが好ましい。なお、本実施形態の循環ポンプ40としては、毎分の循環流量が100mlのものを使用した場合について説明する。
【0027】
なお、循環ポンプ40、循環流路70を構成する配管のいずれも、使用される潤滑油100の種類、測定しようとする油温に応じた耐熱性のあるものでなくてはならない。
【0028】
シリンジポンプ20は、循環流路70内の潤滑油100に対して、摩擦性能を変化させる添加剤110を、単位時間当たり一定の注入量で連続的に注入する注入機構として機能する。
【0029】
シリンジポンプ20は、シリンジ内に格納された添加剤110をプランジャにより押し出すことにより添加剤110を単位時間当たり一定の注入量で潤滑油100に対して連続的に注入する。
【0030】
なお、シリンジポンプ20は、循環流路70内を循環する潤滑油100の総体積の10000分の1以上かつ100分の1以下の体積の添加剤110を毎分注入可能に構成されているものが好適である。
【0031】
例えば、本実施形態では、上述したように、循環流路70内を循環する潤滑油100の総量(総体積)が40mlであるため、シリンジポンプ20は、毎分の注入量が0.004~0.4mlの間で制御可能なものが適している。
【0032】
なお、本実施形態においては、シリンジポンプ20の毎分の注入量が0.025mlであるものとして説明する。
【0033】
また、シリンジポンプ20から潤滑油100に注入する添加剤の最大量としては、潤滑油100の総体積の1000分の1から10分の1程度のものが好適に使用できる。つまり、本実施形態では、循環流路70内を循環する潤滑油100の総量(総体積)が40mlであるため、シリンジポンプ20内には、0.04~4mlの添加剤110を予め入れておくことが好ましい。なお、本実施形態においては、シリンジポンプ20内に0.5mlの添加剤110を予め入れて試験を行うものとして説明する。
【0034】
スタティックミキサ30は、シリンジポンプ20により添加剤110が注入された後の潤滑油100を循環流路70内において攪拌する攪拌部として機能する。
【0035】
油槽50は、循環流路70内において循環している潤滑油100を貯留する。油槽50には、潤滑油100の温度を直接調整するような機能を設けるようにしてもよいし、温度調節機能を有する油槽を別に設けるようにしてもよい。なお、温度調節機能を有する油槽を別に設ける場合には、循環ポンプ40の毎分の循環流量が、循環流路70内を循環する潤滑油100の総量に対して10分の1から10倍程度となるように油槽50の容量を決定する必要がある。
【0036】
摩擦係数測定機60は、油槽50内に貯留された潤滑油100を用いて、シリンジポンプ20による添加剤110の注入開始からの時間経過に応じた摩擦係数の変化を連続的に測定する測定部として機能する。
【0037】
摩擦係数測定機60は、油槽50内に設置され、回転するディクス試験片(円盤状試料)上に荷重を加えたボール試験片等の接触子を接触させて摩擦係数を測定する回転式の摩擦係数測定機である。なお、摩擦係数測定機60の詳細な構成については後述する。
【0038】
フィルタ80は、油槽50から循環流路70内に流入する潤滑油100中に含まれる金属粉を除去するために設けられている。摩擦係数測定機60では、ディスク試験片とボール試験片等の接触子を接触させた状態でディスク試験片を回転させるため、金属粉が発生する。そして、この金属粉が循環流路70を循環する潤滑油100に混入すると、摩擦係数測定機60における摩擦係数の測定に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、本実施形態の摩擦試験装置10では、フィルタ80を油槽50の潤滑油100の出口部分に設置することにより金属粉の潤滑油100への混入を防いで、摩擦係数の測定精度を高めるようにしている。
【0039】
次に、
図1に示したシリンジポンプ20の構造を
図2に示す。
【0040】
シリンジポンプ20は、
図2に示すように、添加剤110が内部に封入されているシリンジ(外筒)22、プランジャ(内筒)23およびステッピングモータ等のモータ21を備えており、モータ21が回転することによりプランジャ23が押されるように構成されている。
そして、シリンジポンプ20では、プランジャ23が押されることにより、シリンジ22内に封入された添加剤110が筒先から押し出されるようになっている。
【0041】
シリンジポンプ20は、上記のように構成されていることにより、添加剤110を単位時間当たり一定の注入量で循環流路70内の潤滑油100に連続的に注入する注入機構として機能している。
【0042】
次に、
図1に示したスタティックミキサ30の構造を
図3に示す。
【0043】
スタティックミキサ30は、循環流路70内を循環する潤滑油100を流路形状により効率的に混合・攪拌するように構成されており、例えば、株式会社ノリタケカンパニー製のスタティックミキサを用いることができる。具体的には、スタティックミキサ30は、配管内において複数の攪拌エレメント31、32が交互に配列された構成となっている。この攪拌エレメント31、32は、それぞれ、長方形の板が180度ねじられた形状となっており、攪拌エレメント31は右方向にねじられ、攪拌エレメント32は左方向にねじられた形状となっている。このようにねじれ方向が異なる複数の攪拌エレメント31、32が交互に配列されていることにより、スタティックミキサ30内を流れる潤滑油100は、配列された攪拌エレメント31、32により分割、転換、反転されて乱流攪拌される。なお、
図1、
図3では、説明を簡単にするために、攪拌エレメント31、32がそれぞれ2つずつ配置されている場合を図示しているが、実際にはもっと多くの攪拌エレメント31、32がそれぞれ配置されている。
【0044】
スタティックミキサ30がこのように構成されているため、シリンジポンプ20により循環流路70内に注入された添加剤110は、スタティックミキサ30により潤滑油100と素早く混合されることになる。
【0045】
なお、循環流路70内を循環する潤滑油100の総流量に応じて決定される流量に合った仕様のスタティックミキサ30を選択する必要がある。
【0046】
次に、
図1に示した摩擦係数測定機60の構造を
図4に示す。
【0047】
摩擦係数測定機60としては、様々なタイプの測定機を使用することが可能であるが、摩擦係数を連続的に測定できることから、回転式のものが好適できある。特にボールオンディスクタイプの回転式摩擦係数測定機では、試験片の片当たりが生じにくいため好適に使用することができる。
【0048】
本実施形態における摩擦係数測定機60は、
図4に示すように、アーム63の先端にボール試験片62が取り付けられ、回転するディスク試験片61に、荷重が加えられたボール試験片62を接触させて摩擦係数を測定するような構成となっている。
【0049】
ディスク試験片61としては、例えば、直径60mm、厚さ5mmのSUJ2により構成されたディスクが用いられる。また、ボール試験片62としては、例えば、直径5mmのSUJ2により構成された金属球が用いられる。
【0050】
摩擦係数をより精度良く測定するために、上部試験片を3球式として、下部に設置するディスク試験片の保持器にジンバル機構を設けたものが特に好適に使用することができる。
【0051】
なお、摩擦係数を安定して測定するために、添加剤110を潤滑油100に注入する前に慣らし試験を実施することが望ましい。使用する試験片と条件によっても異なるが、摩擦係数が安定するまでの時間として最低10分間程度の慣らし試験を実行した後に、添加剤110の潤滑油100への注入を開始すると良い。
【0052】
本実施形態の摩擦試験装置10では、潤滑油100を循環ポンプ40により循環流路70内において循環させた状態で、シリンジポンプ20により添加剤110を時間当たり一定の注入量で連続的に注入して、添加剤110が注入された潤滑油100をスタティックミキサ30により攪拌し、油槽50内で摩擦係数測定機60により摩擦試験を連続的に行って摩擦係数の変化を記録する。そのため、本実施形態の摩擦試験装置10によれば、試験開始からの経過時間と記録された摩擦係数の変化から、潤滑油100に対する添加剤110の最適な配合割合を把握することが可能となる。
【0053】
次に、本実施形態の摩擦試験装置10による実際の試験結果について説明する。
【0054】
本実施形態の摩擦試験装置10における試験条件を
図5に示す。なお、
図5に示した試験条件には上記において既に説明した試験条件も含まれている。
【0055】
まず、摩擦係数測定機60においてボール試験片62をディスク試験片61に押し当てる際の荷重を、50N(初期最大ヘルツ圧力2.7GPa(パスカル)に設定して試験を行った。また、ディスク試験片61の回転速度は60rpm、ディスク試験片61上においてボール試験片62が移動する円軌道の回転半径は10mmに設定した。つまり、すべり速度は62.8mm/秒となる。そして、試験温度は室温として、慣らし時間は10分とした。また、上述したように循環ポンプ40の循環流量は毎分100ml、シリンジポンプ20における添加剤110の注入速度は毎分0.025mlである。なお、潤滑油100としては、エクソンモービル社製のPAO4規格のSpectraSyn4を用いた。
【0056】
上記のような試験条件に基づく試験結果のグラフを
図6に示す。
図6では、同じ条件で実施した2回の試験結果が示されている。
図6を参照すると、試験開始からの摩擦係数の変化が連続的にグラフとして示されているのが分かる。
【0057】
今回の摩擦試験では、慣らし時間10分(600秒)経過後に、シリンジポンプ20において添加剤110の注入を開始した。
図6を参照すると、いずれの試験結果においても、摩擦係数の測定開始から1020秒経過したあたりから摩擦係数が低下し、1200秒以降(添加剤110注入後600秒以降)は安定して低い値となっているのが分かる。
【0058】
そして、添加剤110の注入を開始してから600秒経過するまでに潤滑油100に注入した添加剤110の注入量は下記の式により算出される。
【0059】
添加剤110の注入量=注入速度×注入開始からの経過時間
【0060】
図6に示した試験結果例を参照すると、添加剤110の注入量は下記のように算出される。
【0061】
0.025(ml/分)×600(秒)/60=0.25(ml)
【0062】
このような試験結果から潤滑油100に対して添加剤110を配合する場合には、40mlの潤滑油100に対して、0.25ml以上の添加剤110を配合する必要があることが分かる。なお、2回の試験結果では、摩擦係数の絶対値は異なるものの、摩擦係数が低下するために必要な添加剤110の配合量に違いはなく、最適な配合量を求めるうえで、繰り返し誤差を考慮する必要がないことが分かる。
【0063】
なお、シリンジポンプ20において添加剤110を潤滑油100に注入したとしても、即座に摩擦係数測定機60のける測定結果が変化するわけではなくある程度のタイムラグが発生する。このようなタイムラグを考慮して添加剤110の最適は配合割合を決定する場合には、循環流路70内を循環する潤滑油100が少なくとも1周する時間を考慮するようにしてもよい。
【0064】
例えば、本実施形態の場合には、循環ポンプ40の毎分の循環流量が100mlであり、循環流路70を循環する潤滑油100の総量が40mlであるため、24秒((40ml/100ml)×60)で潤滑油100は循環流路70内を1周する。そのため、添加剤110の注入量を算出する際に、添加剤110の注入開始からの経過時間からタイムラグ分の時間を減じて添加剤110の必要な配合量を算出するようにしてもよい。
【0065】
[比較例1]
次に、循環ポンプ40を停止させて循環流路70内の潤滑油100を循環させずに、シリンジポンプ20を使用せずに添加剤110を、10分間の慣らし時間の経過後にスポイトにて1分毎に0.025mずつ油槽50内の試験箇所の近傍に滴下した場合を比較例として説明する。この比較例による摩擦試験結果を
図7に示す。特に言及した以外の試験条件は上記で説明した本発明の実施形態と同様の試験条件である。
【0066】
図7に示した比較例1においても同じ条件で試験を2回実施したが、いずれの試験結果においても摩擦係数はほとんど低下せず、添加剤110を滴下しただけでは、摩擦係数の低減効果が得られていないことから、潤滑油100に添加剤110が溶解していないことが分かる。
【0067】
[比較例2]
次に、循環ポンプ40を停止させて循環流路70内の潤滑油100を循環させずに、添加剤110を潤滑油100に注入することなく、予め添加剤110が配合された複数種類の潤滑油100を試験油として用いて摩擦試験を行った場合を比較例として説明する。この比較例においても、特に言及した以外の試験条件は上記で説明した本発明の実施形態と同様の試験条件である。
【0068】
この比較例において用いた試験油の配合割合を
図8(A)に示す。
図8(A)を参照すると、40mlの潤滑油100に対して配合した添加剤110の量が異なる複数の試験油1~6の組成が示されている。この比較例では、このような配合割合が異なる試験油を用いて、それぞれ30分の摩擦試験を行って、30分後の摩擦係数を測定した。試験は各試験油についてそれぞれ3回ずつ行った。
【0069】
この比較例における摩擦試験の試験結果のグラフを
図8(B)に示す。
【0070】
3回の摩擦試験結果の平均値を見ると、試験油3で摩擦係数の低下がみられ、試験油4、5、6では安定して低い摩擦係数を示しているのが分かる。この試験結果より、40mlの潤滑油100に対して配合する添加剤110の必要量は、0.2mlと0.3mlの間であることが分かる。
【0071】
この結果は、上記で説明した本発明の一実施形態において、0.25mlの添加剤110を配合した時に摩擦係数が低下した結果と一致するが、同一条件で3回の試験を行って試験結果の平均値を出さないと、本発明の一実施形態と同様な判断ができないことが分かる。本発明の一実施形態では、2回の摩擦試験を行うだけでよかったが、この比較例においては、18回の摩擦試験を行う必要である大幅に摩擦試験回数が増加しているのが分かる。
【0072】
さらに、この比較例では、0.2mlと0.3mlの間に最適な配合割合があると分かっただけであり、さらに0.25mlという最適な配合割合を得ようとした場合、さらに試験油を追加して、摩擦試験を追加して実施する必要がありさらに試験回数が増加することになる。
【0073】
これに対して、上記で説明した本発明の一実施形態の摩擦試験装置10では、2回の摩擦試験を行うだけで、添加剤110の最適な配合割合を把握することができているため、潤滑油100に添加する添加剤110の最適な配合割合を、少ない試験回数で把握することが可能となっているのが分かる。
【0074】
なお、上記の本発明の一実施形態の摩擦試験装置10についての試験結果ではより正確を期すために2回の摩擦試験を行っていたが、1回の摩擦試験を行うだけでも潤滑油100に添加する添加剤110の最適な配合割合を把握することが可能である。
【0075】
[変形例]
上記実施形態では、潤滑油100がPAOであり、添加剤110がオレイン酸である場合を用いて説明したが、本発明はこのような組み合わせに限定されるものではなく、上記以外の潤滑油と添加剤との間で最適な配合割合を決めるような場合でも本発明を同様に適用することができるものである。
【符号の説明】
【0076】
10 摩擦試験装置
20 シリンジポンプ
21 モータ
22 シリンジ(外筒)
23 プランジャ(内筒)
30 スタティックミキサ
31、32 攪拌エレメント
40 循環ポンプ
50 油槽
60 摩擦係数測定機
61 ディスク試験片
62 ボール試験片
63 アーム
70 循環流路
80 フィルタ
100 潤滑油
110 添加剤