IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社東北マグネットインスティテュートの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085266
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/01 20060101AFI20230613BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20230613BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20230613BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B32B15/01 Z
B32B7/025
H05K9/00 H
C22C45/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033919
(22)【出願日】2023-03-06
(62)【分割の表示】P 2021056051の分割
【原出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515317466
【氏名又は名称】株式会社東北マグネットインスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠貴友
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】澤 康之介
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 三津雄
(57)【要約】
【課題】低周波領域における電磁波シールド効果を向上させる積層体を提供すること。
【解決手段】少なくとも1つの非磁性金属層と、少なくとも1つの磁性金属層とを含み、当該磁性金属層の少なくとも1つがアモルファス相を含む、積層体。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの非磁性金属層と、少なくとも1つの磁性金属層とを含み、前記磁性金属層の少なくとも1つがアモルファス相を含む積層体。
【請求項2】
前記アモルファス相を含む前記磁性金属層の結晶化度が10%以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記積層体の少なくとも一部が成形加工されている、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記非磁性金属層の厚みが4~100μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記磁性金属層の厚みが4~100μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記非磁性金属層と前記磁性金属層との合計厚みが15~150μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記非磁性金属層は、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔及び銅合金箔からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記アモルファス相を含む前記磁性金属層では、Fe、Ni、Coの合計量が65.0~90.0原子%であり、Cuの量が0~2.0原子%であり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、残部がB、Si、P及びCからなる群からなる少なくとも1種及び不純物であり、Fe、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が65.0~90.0原子%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記アモルファス相を含む前記磁性金属層では、Fe、Ni、Coの合計量が65.0~92.0原子%であり、Cuの量が0~2.0原子%であり、Ti、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、B、Si、P及びCの合計量が0~10.0原子%であり、残部がZr、Hf及びNbからなる群から選択される少なくとも1種及び不純物である請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記アモルファス相を含む前記磁性金属層では、Feの量が79.0~88.0原子%であり、Bの量が5.0~15.0原子%であり、Siの量が0~8.0原子%であり、Pの量が1.0~8.0原子%であり、Cの量が0~5.0原子%であり、Cuの量が0~1.4原子%であり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、Fe、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が79.0~88.0原子%であり、Fe、B、Si、P、C、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が100%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記非磁性金属層の導電率が30.0×106S/m以上であり、前記アモルファス相を含む前記磁性金属層の飽和磁束密度が1.50T以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項12】
少なくとも1つの前記非磁性金属層と、少なくとも1つの前記アモルファス相を含む前記磁性金属層とが接触している、請求項1~11のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項13】
非磁性金属と、アモルファス磁性金属とを含む材料を積層して未焼成積層体を形成する積層工程を含む積層体の製造方法。
【請求項14】
さらに、前記未焼成積層体の前記アモルファス磁性金属の層の結晶化度が10%以上になるように、前記未焼成積層体を焼成する焼成工程を含む、請求項13に記載の積層体の製造方法。
【請求項15】
さらに、前記焼成工程の前に、前記未焼成積層体を所定の形状に加工する成形加工工程を含む、請求項14に記載の積層体の製造方法。
【請求項16】
さらに、前記成形加工工程前に、前記未焼成積層体の前記アモルファス磁性金属の結晶化度が10~75%になるように、前記未焼成積層体を予備焼成する予備焼成工程を含む、請求項15に記載の積層体の製造方法。
【請求項17】
前記積層工程では、前記非磁性金属と前記アモルファス磁性金属とが表面活性化接合法によって接合される、請求項13~16のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。とりわけ、本発明は、電気・電子機器の被覆材又は外装材として使用される電磁波シールド材を構成できる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対する関心が全世界的に高まっており、電気自動車やハイブリッド自動車といった二次電池を搭載した環境配慮型自動車の普及が進展している。これらの自動車においては、搭載した二次電池から発生する直流電流をインバータを介して交流電流に変換した後、必要な電力を交流モーターに供給し、駆動力を得る方式を採用するものが多い。インバータのスイッチング動作等に起因して電磁波が発生する。電磁波は車載の音響機器や無線機器等の受信に障害となることから、インバータ或いはインバータと共にバッテリーやモーター等を金属製ケース内に収容して、電磁波をシールドするという対策が行われてきた(特許文献1:特開2003-285002号公報)。
【0003】
また、自動車に限らず、通信機器、ディスプレイ及び医療機器を含め多くの電気・電子機器から電磁波が放射される。電磁波は精密機器の誤作動を引き起こす可能性があり、更には、人体に対する影響も懸念される。このため、電磁波シールド材を用いて電磁波の影響を軽減する各種の技術が開発されてきた。例えば、銅箔と樹脂フィルムとを積層してなる銅箔複合体(積層体)が電磁波シールド材として用いられている(特許文献2:特開平7-290449号公報)。銅箔は電磁波シールド効果を有し、樹脂フィルムは銅箔の補強のために銅箔上に積層される。また、絶縁材料からなる中間層の内側と外側とにそれぞれ金属層を積層した電磁波シールド構造も知られている(特許文献3:特許第4602680号公報)。また、ベース基板と、ベース基板の一面に形成されて金属層および高屈折率層(五酸化ニオブ)を含む複数の反復単位膜で構成された積層部材とを具備する電磁波遮断用光学部材も知られている(特許文献4:特開2008-21979号公報)。
【0004】
さらに、近年、電気・電子機器の小型化や高能率化により、電磁波シールド効果に対する要求がますます高まっている。特に、例えば電気自動車のモーター周辺のインバータなど、電源・駆動に関連する電気・電子機器からは、低周波領域(典型的には、周波数1MHz以下の領域)で強い磁界ノイズが発生する場合が多い。そのため、より高い電磁波シールド効果をもたらす電磁波シールド材が必要とされる。
【0005】
電磁波シールド効果を大きく向上する方法として、特許第6278922号公報(特許文献5)のような技術もある。当該文献では、少なくとも3枚の金属箔が絶縁層を介して積層された構造を有する電磁波シールド材が提案されている。この電磁波シールド材では、金属箔を3枚以上積層することで、金属箔の合計厚みが同じだとしても金属箔が単層の場合や金属箔を2枚積層する場合に比べて、シールド効果が顕著に向上することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-285002号公報
【特許文献2】特開平7-290449号公報
【特許文献3】特許第4602680号公報
【特許文献4】特開2008-21979号公報
【特許文献5】特許第6278922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5に開示される方法では、全体的に電磁波シールド効果が向上したものの、低周波領域における磁界ノイズに対するシールド効果の向上は限られている。本発明者らが原因を探索したところ、従来から電磁波シールド材に使用する金属箔の材料自体が、低周波領域における磁界ノイズに対して、シールド効果が低いことが分かった。そのため、中周波から高周波までの領域の磁界ノイズのみならず、低周波領域においても磁界ノイズを低減できる新規材料の開発が望まれている。
【0008】
また、電磁波シールド材は、それが適用される電気・電子機器の形状等に適合するために、絞り加工や曲げ加工などの成形加工を行うことが必要となることがある。一般的に、電磁波シールド材に使用される金属箔の厚みは、数μmから数十μmであるため、成形加工時に割れが発生しやすい。そのため、成形加工が必要である場合には、成形加工時に電磁波シールド材が割れるのを防止することが重要である。そのため、種々の成形加工に対応できるように、成形性を向上させた新規材料を提供できれば、新規材料を適切な形状に加工することによって、新規材料は、より多くの電気・電子機器に対して電磁波シールド効果(特に、低周波領域における磁界ノイズの低減)を付与することができる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、中周波から高周波までの領域の磁界ノイズに対する電磁波シールド効果を維持したまま低周波領域における電磁波シールド効果を向上させた積層体を提供することを課題とする。また、本発明は、別の一実施形態において、そのような積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の通り、本発明者らは、従来の材料では、低周波領域における磁界ノイズに対するシールド効果が不足していることを発見した。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、非磁性金属と結晶化度の低いアモルファス磁性金属とを積層して作製した積層体は、低周波領域から高周波領域までの幅広い帯域で高い電磁波シールド効果を有していることを見出した。また、発明者らは、この積層体を所定の形状に成形加工してみたところ、積層体に生じる割れを効果的に低減することができることを見出した。さらに、アモルファス磁性金属を含む磁性金属層を一部又は全部結晶化させることにより、低周波領域における電磁波シールド効果をさらに高めることができることを見出した。
【0011】
また、本発明は、上記知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0012】
[1]
少なくとも1つの非磁性金属層と、少なくとも1つの磁性金属層とを含み、前記磁性金属層の少なくとも1つがアモルファス相を含む積層体。
[2]
前記アモルファス相を含む前記磁性金属層の結晶化度が10%以上である、[1]に記載の積層体。
[3]
前記積層体の少なくとも一部が成形加工されている、[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]
前記非磁性金属層の厚みが4~100μmである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層体。
[5]
前記磁性金属層の厚みが4~100μmである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の積層体。
[6]
前記非磁性金属層と前記磁性金属層との合計厚みが15~150μmである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層体。
[7]
前記非磁性金属層は、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔及び銅合金箔からなる群から選択される、[1]~[6]のいずれか1項に記載の積層体。
[8]
前記アモルファス相を含む前記磁性金属層では、Fe、Ni、Coの合計量が65.0~90.0原子%であり、Cuの量が0~2.0原子%であり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、残部がB、Si、P及びCからなる群からなる少なくとも1種及び不純物であり、Fe、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が65.0~90.0原子%である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の積層体。
[9]
前記アモルファス相を含む前記磁性金属層では、Fe、Ni、Coの合計量が65.0~92.0原子%であり、Cuの量が0~2.0原子%であり、Ti、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、B、Si、P及びCの合計量が0~10.0原子%であり、残部がZr、Hf及びNbからなる群から選択される少なくとも1種及び不純物である[1]~[7]のいずれか1項に記載の積層体。
[10]
前記アモルファス相を含む前記磁性金属層では、Feの量が79.0~88.0原子%であり、Bの量が5.0~15.0原子%であり、Siの量が0~8.0原子%であり、Pの量が1.0~8.0原子%であり、Cの量が0~5.0原子%であり、Cuの量が0~1.4原子%であり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、Fe、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が79.0~88.0原子%であり、Fe、B、Si、P、C、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が100%である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の積層体。
[11]
前記非磁性金属層の導電率が30.0×106S/m以上であり、前記アモルファス相を含む前記磁性金属層の飽和磁束密度が1.50T以上である、[1]~[10]のいずれか1項に記載の積層体。
[12]
少なくとも1つの前記非磁性金属層と、少なくとも1つの前記アモルファス相を含む前記磁性金属層とが接触している、[1]~[11]のいずれか1項に記載の積層体。
[13]
非磁性金属と、アモルファス磁性金属とを含む材料を積層して未焼成積層体を形成する積層工程を含む積層体の製造方法。
[14]
さらに、前記未焼成積層体の前記アモルファス磁性金属の層の結晶化度が10%以上になるように、前記未焼成積層体を焼成する焼成工程を含む、[13]に記載の積層体の製造方法。
[15]
さらに、前記焼成工程の前に、前記未焼成積層体を所定の形状に加工する成形加工工程を含む、[14]に記載の積層体の製造方法。
[16]
さらに、前記成形加工工程前に、前記未焼成積層体の前記アモルファス磁性金属の結晶化度が10~75%になるように、前記未焼成積層体を予備焼成する予備焼成工程を含む、[15]に記載の積層体の製造方法。
[17]
前記積層工程では、前記非磁性金属と前記アモルファス磁性金属とが表面活性化接合法によって接合される、[13]~[16]のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、中周波から高周波までの領域の磁界ノイズに対する電磁波シールド効果を維持したまま低周波領域における電磁波シールド効果を向上させた積層体を提供することができる。結果として、電気・電子機器に混入するノイズを大きく低減することができる。また、電気・電子機器を軽量化及び小型化することができる。さらに、本発明の別の実施形態によれば、そのような積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明の一実施形態に係る積層体の一例である。
図1B】本発明の一実施形態に係る積層体の一例である。
図1C】本発明の一実施形態に係る積層体の一例である。
図1D】本発明の一実施形態に係る積層体の一例である。
図1E】本発明の一実施形態に係る積層体の一例である。
図1F】本発明の一実施形態に係る積層体の一例である。
図1G】本発明の一実施形態に係る積層体の一例である。
図1H】本発明の一実施形態に係る積層体の一例である。
図2】結晶化度と飽和磁束密度との間の関係の一例である。
図3】本発明の別の実施形態に係る積層体の製造方法のフローチャートである。
図4A】成形後に割れが発生した積層体(不良の結果)を示す図である。
図4B】成形後に割れが発生しなかった積層体(良の結果)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0016】
(1.積層体)
本発明の一実施形態に係る積層体1は、図1Aに示すように、非磁性金属層2と磁性金属層3とを含み、この磁性金属層3は、アモルファス相を含む。この積層体1は、低周波から高周波までの広い周波数帯域の電磁波を十分に遮蔽することができる。この非磁性金属層2は、図1Aに示すように、1つの金属の層であってもよく、図1Bに示すように、複数の金属の層であってもよい。同様に、磁性金属層3も、図1Aに示すように、1つの金属の層であってもよく、図1Cに示すように、複数の金属の層であってもよい。また、非磁性金属層2は、少なくとも1つあればよく、図1D及び図1Eに示すように、他の層の数に応じて複数であってもよい。積層体1が複数の非磁性金属層2を含む場合、各非磁性金属層2が同じ構成であってもよく、異なる構成であってもよい。同様に、磁性金属層3も、少なくとも1つあればよく、図1Eに示すように、他の層の数に応じて複数であってもよい。積層体1が複数の磁性金属層3を含む場合、各磁性金属層3が同じ構成であってもよく、異なる構成であってもよい。なお、図1Fに示すように、積層体1が非金属層4を含んでもよい。この非金属層4は、1つの非金属の層であってもよく、図1Gに示すように、複数の非金属の層であってもよい。また、非金属層4は、図1Fに示すように、1つであっても、図1Hに示すように、他の層の数に応じて複数であってもよい。積層体1が複数の非金属層4を含む場合、各非金属層4が同じ構成であってもよく、異なる構成であってもよい。
【0017】
電磁波シールド効果を高めるために、非磁性金属層2の厚みと磁性金属層3の厚みとの総合計が、15μm以上であることが好ましい。また、成形性を高めるために、この総合計が、150μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることが更により好ましく、60μm以下であることが最も好ましい。このため、積層体1の厚みは、15~150μmであってもよい。
【0018】
コストの観点からは、非磁性金属層2は1つであってもよい。一方、非磁性金属層2の合計厚みが同一であっても、積層体1が非磁性金属層2の間に磁性金属層3が存在する構造を有すると、2つの層が電磁波シールド効果に与える相乗効果により積層体1の電磁波シールド効果が高まる。また、電磁波が反射する面(層内の異質材接触面)の数を増加させることができるため、電磁波の反射回数が増加し、電磁波を減衰させることができる。そのため、同一の電磁波シールド効果の場合、積層体1の厚みを低減することもできる。したがって、非磁性金属層2が2つ以上あることが好ましい。また、コストの観点から、非磁性金属層2が、5つ以下であることが好ましく、4つ以下であることがより好ましく、3つ以下であることが最も好ましい。
【0019】
同様に、コストの観点から、磁性金属層3は1つであってもよい。一方、磁性金属層3の合計厚みが同一であっても、積層体1が磁性金属層3の間に非磁性金属層2が存在する構造を有すると、2つの層が電磁波シールド効果に与える相乗効果(例えば、磁性体中の磁束密度の変動時に、磁束の集中域の外側に渦電流を形成してより確実に磁束を捉えたり、発生する電界変動をシールド外へ漏らしたりしない効果)により積層体1の電磁波シールド効果が高まる。また、電磁波が反射する面(層内の異質材接触面)の数を増加させることができるため、電磁波の反射回数が増加し、電磁波を減衰させることができる。そのため、同一の電磁波シールド効果の場合、積層体1の厚みを低減することもできる。したがって、磁性金属層3が2つ以上あることが好ましい。また、コストとの観点から、磁性金属層3が、5つ以下であることが好ましく、4つ以下であることがより好ましく、3つ以下であることが最も好ましい。
【0020】
アース接続を容易にするために、非磁性金属層2とアモルファス相を含む磁性金属層3とが接触していることが好ましく、非磁性金属層2と磁性金属層3とが全て接触していることがより好ましい。すなわち、非磁性金属層2と磁性金属層3とが交互に配列するように積層されていることが好ましい。特に、30.0×106S/m以上の導電率を有する金属を含む非磁性金属層2とアモルファス相を含む磁性金属層3とが接触していることが好ましい。
【0021】
本明細書では、非磁性金属層2は、20℃でのSI単位での体積磁化率が-1.0~1.0の金属の層と定義され、一般的なフェライト磁石を近づけてもフェライト磁石に吸い寄せられないことで確認できる。例えば、このような金属として、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)及びこれら列挙元素を主成分として含む合金(例えば、銅合金)が挙げられる。これらの材料は、通常比透磁率が1前後(0.9~1.1)でもある。
【0022】
交流磁界や交流電界に対する積層体1のシールド効果を高める観点から、非磁性金属層2に含まれる金属が高い導電性を有することが好ましい。具体的には、20℃での導電率が、1.0×106S/m以上であることが好ましく、10.0×106S/m以上であることがより好ましく、30.0×106S/m以上であることが更に好ましく、50.0×106S/m以上であることが最も好ましい。例えば、このような金属として、導電率が約33.0×106S/mのアルミニウム、導電率が約58.0×106S/mの銅、導電率が約61.4×106S/mの銀が挙げられる。非磁性金属層2としては金属箔、メッキ、ペースト、スパッタなど種々の形態を適用しうるが、実用上、金属箔が使用しやすい。導電率とコストとの双方を考慮すると、積層体がアルミニウム又は銅(例えば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔及び銅合金箔)を含むことが実用上好ましい。特に、非磁性金属層2が銅を含むと好適である。導電率の上限は、200×106S/mであってもよい。なお、導電性は、JIS H0505(1975)に規定される四端子法により決定される。
【0023】
非磁性金属層2が銅箔を含む場合、銅の純度が高いほど、積層体1の電磁波シールド効果が向上する。そのため、銅の純度が、99.5質量%以上であることが好ましく、99.8質量%以上であることがより好ましい。銅の純度が100質量%以下であってもよい。また、銅箔の伸びを高めるために、銅箔が任意元素としてリン(P)、Sn、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、Zn、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、珪素(Si)及びAgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。銅箔がPを含む場合、Pの量が、50質量ppmであることが好ましく、10~50質量ppmであることがより好ましい。また、銅箔がSn、Mn、Cr、Zn、Zr、Mg、Ni、Si及びAgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む場合、これら元素の合計量が、2000質量ppm以下であることが好ましく、200~2000質量ppmであることがより好ましい。例えば、銅箔は、99.5質量%又は99.8質量%の銅と、上記任意元素及び不純物からなる残部とからなる。銅箔は、圧延銅箔、電解銅箔、メタライズによる銅箔のいずれであってもよい。圧延銅箔は成形性(特に、屈曲性及び絞り加工性)に優れるため、銅箔が圧延銅箔であることが好ましい。
【0024】
非磁性金属層2として銅箔を用いる場合、銅箔の厚みが十分に大きいと、非磁性金属層2の強度及び延性が十分に高いため、積層体1の成形性を高めることができる。そのため、非磁性金属層2の厚みが4μm以上であることが好ましい。また、非磁性金属層2の厚みが大きいと、非磁性金属層2による電磁波シールド効果が増加する。そのため、非磁性金属層2の厚みが、6μm以上であることがより好ましく、8μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがより好ましい。非磁性金属層2の厚みが十分に小さいと、非磁性金属層2の強度が十分に小さいため、積層体1の成形性を十分に高めることができる。そのため、非磁性金属層2の厚みが、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、45μm以下であることが更により好ましく、40μm以下であることが最も好ましい。積層体1が複数の非磁性金属層2を含む場合、1つの非磁性金属層2が上述の厚みの範囲内であってもよく、一部の非磁性金属層2が上述の厚みの範囲内であってもよく、全部の非磁性金属層2が上述の厚みの範囲内であってもよい。
【0025】
耐熱性や耐食性といった耐環境性を高めるために、非磁性金属層2がAu、Ag、Sn、Zn又はこれら列挙元素を主成分として含む合金(例えば、Sn合金として、Sn-Ag合金、Sn-Ni合金、Sn-Cu合金が挙げられる)を1種以上含んでもよい。先述の列挙元素及びそれらの合金は、積層体1の最表面に存在することが好ましい。コスト低減の観点から、非磁性金属層2がSn又はSn合金を含むことが好ましい。また、層間の密着性を高めるために、非磁性金属層2が凹凸を有してもよい。この凹凸は、例えば、後述の粗化処理によって形成することができる。積層体1は、先述の列挙元素及びそれらの合金のみからなる非磁性金属層2を含んでもよく、この非磁性金属層2の厚みは、0.001~10μmであると好ましい。
【0026】
本明細書では、磁性金属層3は、20℃でのSI単位での体積磁化率が10以上の金属の層と定義され、一般的なフェライト磁石を近づけるとフェライト磁石に吸い寄せられることで確認できる。例えば、このような金属として、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれら列挙元素を主成分として含む合金(例えば、Fe-Niのような鉄合金)が挙げられる。これらの材料は、通常比透磁率が1よりも十分に大きい(例えば、5~106)。
【0027】
また、この磁性金属層3のうち少なくとも1つは、アモルファス相を含む。アモルファス相は、明確な結晶構造を持たない相であり、透過電子顕微鏡における電子回折パターンとしてブロードな円環状の電子回折図形が取得できた場合に、磁性金属層3がアモルファス相を含むと判断する。特に、アモルファス相が多い場合には、前述の電子回折図形の取得に加え、後述のX線回折法によりブロードなピークとして容易に特定できるので、透過電子顕微鏡での回折パターンの取得に代えることができる。アモルファス相を含む磁性金属層3としては、例えば、アモルファス相を単独で含むアモルファス金属もしくはアモルファス相中に結晶相が分散したナノ結晶金属が挙げられる。このような磁性金属層3は、磁壁の幅に相当する領域において磁気異方性を非常に小さく制御でき、磁力線を効果的に磁性金属層3の面内に散らすことで磁性金属層3全体を磁界に対する遮蔽に利用することができる。そのため、低周波の磁界ノイズを効率よく低減することができ、積層体1の軽量化に有効である。なお、一般的な薄手の磁性金属は、マクロな方向性を有するため、磁性金属が有する透磁率を十全に利用できていない可能性がある。
【0028】
積層体1の寸法を増大させることなく直流磁界や低周波の磁界ノイズに対する積層体1の電磁波シールド効果を高める観点(最適動作点近傍で製品を利用する観点)から、磁性金属層3に含まれる金属が高い飽和磁束密度や高い比透磁率を有することが好ましい。具体的には、20℃での飽和磁束密度が、0.50T以上であることが好ましく、1.00T以上であることがより好ましく、1.50T以上であることがより好ましく、1.60T以上であることが更により好ましく、1.70T以上であることが最も好ましい。飽和磁束密度の上限は、2.50Tであってもよい。この飽和磁束密度は、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer、VSM)によって測定される。また、積層体1や磁性金属層3に含まれる金属について、20℃での微分比透磁率の最大値が、1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、5000以上であることが最も好ましい。この微分比透磁率の上限は、1.0×106であってもよい。なお、本明細書では、微分比透磁率は、磁束密度の変化を磁界の変化(14.4A/m)で除し、この値を比透磁率に変換した値(107/4πを乗じた値)と定義される。この微分比透磁率は、BHトレーサにより測定される。また、微分比透磁率の最大値は、所定方向での微分比透磁率(第1の微分比透磁率)の最大値とこの所定方向に対して垂直な方向の微分比透磁率(第2の微分比透磁率)との平均値で定義される。さらに、標準的な用途では、磁気特性が方向性(異方性)を有さないことが電磁波環境に応じた設計を製品に対して適用する必要がないため重要である。そのため、第1の微分比透磁率の最大値と第2の微分比透磁率の最大値とが同等であることが望ましい。例えば、第1の微分比透磁率の最大値を第2の微分比透磁率の最大値で除した値が0.90~1.10であることが好ましく、0.95~1.05であることがより好ましく、0.98~1.02であることが最も好ましい。また、例えば、第1の微分比透磁率の最大値と第2の微分比透磁率の最大値との差を微分比透磁率の最大値で除した値が、0.10以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.05以下であることが最も好ましい。
【0029】
磁性金属層3がアモルファス相に加え小さなサイズの金属の結晶相(結晶粒)を含むと、上述の磁気異方性や保磁力を大きくすることなく、飽和磁束密度を高めることができる。この結晶粒の平均結晶粒径は、60nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、25nm以下であることが更により好ましく、20nm以下であることが更により好ましく、15nm以下であることが最も好ましい。この平均結晶粒径は、3nm以上であってもよい。この平均結晶粒径は、X線回折法(X-ray Diffraction、XRD)によって得られるスペクトル中の金属結晶のメインピークをシェラー法によって解析することによって求められる。このシェラー法におけるシェラーの定数として0.90を用いる。
【0030】
また、図2に特定の化学組成(実施例の化学組成)及び10A/m以下の保磁力を有する材料における一例として示すように、金属の結晶相の量が多くなるほど、飽和磁束密度が増加する。そのため、金属の結晶相の量を利用可能な金属の結晶相の量の最大値まで高めることが望ましい。結晶化度を利用可能な金属の結晶相の量の最大値に対する金属の結晶相の量と定義すると、この結晶化度が、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更により好ましく、90%以上であることが最も好ましい。この結晶化度は、100%以下であってもよい。一方で、結晶化度が高くなると、磁性金属層3が脆くなり、積層体1の成形性が低下する。そのため、成形加工が必要とされる場合には、成形加工前の結晶化度が、75%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。飽和磁束密度と成形性との両者のバランスを鑑みると、結晶化度が、10~75%であることが好ましく、40~60%であると最も好ましい。一般的な薄手の磁性金属は脆いため、成形加工する際に割れが発生しやすい。割れが発生した場合、積層体1が磁界ノイズを低減する効果も低下する。この際、割れから磁界ノイズが漏れている可能性がある。なお、結晶化度は、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、DSC)により決定される。このDSCによる測定では、材料の両面における後述の金属結晶相率がともに1%以下の材料(例えば、液体急冷後でかつ結晶化前の材料)から得られたDSCカーブの金属結晶相の生成に起因する発熱量(ピーク面積から算出)を全発熱量ΔH(all)(すなわち100%)と定義する。同様に、測定対象の材料から得られたDSCカーブの金属結晶相の生成に起因する発熱量(ピーク面積から算出)を残発熱量ΔH(bal)と定義する。また、結晶化度は、全発熱量ΔH(all)から残発熱量ΔH(bal)を差し引いた値を全発熱量ΔH(all)で除し、100を乗ずることにより得られる(すなわち、結晶化度は、(ΔH(all)-ΔH(bal))/ΔH(all)×100により算出される)。なお、金属結晶相の生成に起因するピークが化合物相等の金属相以外の相に起因するピークと重なる場合には、ピーク分離を行い、金属結晶相の生成に起因するピークを特定する。金属結晶相率は、アモルファス相起因のブロードなピークが得られる主要位置における全ての相に対する金属の結晶相の割合と定義される。この金属結晶相率は、XRDによって得られるスペクトルを用いて国際公開第2017/022594号に開示された結晶化度の決定方法により決定する(すなわち、この国際公開におけるXの値を金属結晶相率と定義する)。このXRDでは、両面を測定できる場合、その両面の平均値で定義され、片面のみ測定できる場合、その片面において定義され、表面を測定できない場合、中央(厚さの半分の位置)において定義される。金属結晶相率は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、40%以上であることが最も好ましい。この金属結晶相率は、99%以下であってもよく、70%以下であってもよい。
【0031】
さらに、磁性金属層3に残留する磁化を低減するために、20℃での保磁力が、50A/m以下であることが好ましく、20A/m以下であることがより好ましく、10A/m以下であることが更により好ましく、5A/m以下であることが最も好ましい。この保磁力は、BHトレーサにより測定される。
【0032】
例えば、磁性金属層3に残留する磁化を低減するために、化合物相(例えば、Fe2BやFe3P)の量を十分に低減することが望ましい。この化合物相の量は、XRDによって得られるスペクトル中に検出されない程度低減することが好ましい。例えば、国際公開第2017/022594号に開示された方法を利用する。すなわち、化合物結晶相率を、上記の主要位置における全ての相に対する化合物相の割合と定義する(すなわち、この国際公開におけるYの値を化合物結晶相率と定義する)。化合物結晶相率は、2%以下であると好ましく、1%以下であるとより好ましい。この化合物結晶相率は、0%以上であってもよい。この化合物相が多くなると、磁性金属層3中のアモルファス相の量が低下する。
【0033】
磁性金属層3は、薄帯を含んでもよく、粉体を層状に成形した材料を含んでもよい。磁性金属層3が連続していると、磁束の漏れが少なくなるため、積層体1の遮蔽能力が向上する。そのため、磁性金属層3は、薄帯を含むことが好ましい。また、薄帯の割れが少ないことが好ましい。特に、磁性金属層3を貫通する割れがないことが好ましい。
【0034】
また、磁性金属層3に含まれる金属の化学組成は、特に限定されないが、例えば、以下の化学組成を選択できる。
【0035】
Fe、Ni、Coは、強磁性を有し、飽和磁束密度を高める。そのため、Fe、Ni、Coの合計量が65.0~100原子%であることが好ましい。この金属がアモルファス相を含む場合、アモルファス相の安定性の観点から、Fe、Ni、Coの合計量が65.0~92.0原子%であることが好ましい。例えば、このような金属として、硼素(B)、Si、P及び炭素(C)からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Fe、Ni及びCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む合金やZr、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Fe、Ni及びCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む合金が挙げられる。
【0036】
B、Si、P、C、Zr、Hf、Nbは、アモルファス相の熱安定性を高める。そのため、B、Si、P、C、Zr、Hf、Nbの合計量が8.0原子%以上であることが好ましい。一方、高い飽和磁束密度を得るために、この合計量が、35.0原子%以下であることが好ましい。主にFe、Ni、Coよりも原子半径が小さいB、Si、P、Cによりアモルファス相に熱安定性を付与する場合には、B、Si、P、Cの合計量が、10.0原子%以上であることが好ましく、12.0原子%以上であることがより好ましく、14.0原子%以上であることが最も好ましい。一方、高い飽和磁束密度を得るために、この合計量が、35.0原子%以下であることが好ましく、20.0原子%以下であることがより好ましく、16.0原子%以下であることが更により好ましく、15.0原子%以下であることが最も好ましい。B、Si、P、Cは、互いにアモルファス相中における活量を大きく増加させてアモルファス相の安定度を大きく高めるため、B、Si、P、Cからなる群から選択される元素が2種以上であることが好ましく、3種以上であることがより好ましく、4種であることが最も好ましい。主にFe、Ni、Coよりも原子半径が大きいZr、Hf、Nbによりアモルファス相に熱安定性を付与する場合には、Zr、Hf、Nbの合計量が、5.0原子%以上であることが好ましく、8.0原子%以上であることがより好ましい。一方、高い飽和磁束密度を得るために、この合計量が、15.0原子%以下であることが好ましく、10.0原子%以下であることがより好ましい。
【0037】
Fe、Ni、Coの中でもFeがコストの面で優位である。また、原子半径が大きい元素よりも原子半径が小さい元素がアモルファス相の安定性を保ちながら高い飽和磁束密度を得るのに有利である。そこで、以下では、一例として、Feが磁性金属層3の主成分であり、B、Si、P及びCからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む化学組成について説明する。なお、本例の場合、FeとBとSiとPとCと任意元素(Cu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及び希土類元素(REM))と不純物との合計量は、100原子%である。
【0038】
Feは、強磁性を有し、飽和磁束密度を高める。そのため、Feの量が、65.0原子%以上であることが好ましく、70.0原子%以上であることがより好ましく、75.0原子%以上であることがより好ましく、79.0原子%以上であることがより好ましく、81.0原子%以上であることが更により好ましく、83.0原子%以上であることが最も好ましい。一方、アモルファス相の安定性を高めるために、Feの量が、92.0原子%以下であることが好ましく、88.0原子%以下であることがより好ましく、86.0原子%以下であることがより好ましく、85.0原子%以下であることが最も好ましい。
【0039】
Bは、アモルファス相の熱安定性を特に高める。そのため、Bの量は、0.1原子%以上であることが好ましく、1.0原子%以上であることがより好ましく、5.0原子%以上であることがより好ましく、7.5原子%以上であることが更により好ましく、8.0原子%以上であることが最も好ましい。一方、高い飽和磁束密度を得るために、Bの量が、16.0原子%以下であることが好ましく、13.0原子%以下であることがより好ましく、11.0原子%以下であることが更により好ましく、10.0原子%以下であることが更により好ましく、9.4原子%以下であることが最も好ましい。Si、P及びCの量に応じてBの量は0原子%であってもよい。
【0040】
Siは、アモルファス相の熱安定性を高め、熱処理時の化合物相の生成温度を高くする。そのため、Siの量は、0.1原子%以上であることが好ましく、0.2原子%以上であることがより好ましく、0.5原子%以上であることがより好ましく、1.0原子%以上であることが更により好ましく、2.0原子%以上であることが最も好ましい。また、Siは、酸化によりシリカの表面被膜を形成でき、磁性金属層に絶縁性や耐食性を付与する。この場合、Siの量は、8.0原子%以上であることが好ましく、10.0原子%以上であることがより好ましい。一方、高い飽和磁束密度を得るために、Siの量が、15.0原子%以下であることが好ましく、10.0原子%以下であることがより好ましく、8.0原子%以下であることがより好ましく、5.0原子%以下であることが更により好ましく、4.0原子%以下であることが最も好ましい。B、P及びCの量に応じてSiの量は0原子%であってもよい。
【0041】
Pは、アモルファス相の熱安定性を高め、熱処理時に結晶粒を微細に維持する。そのため、Pの量は、0.1原子%以上であることが好ましく、1.0原子%以上であることがより好ましく、2.0原子%以上であることが更により好ましく、3.0原子%以上であることが最も好ましい。一方、高い飽和磁束密度を得るために、Pの量が、15.0原子%以下であることが好ましく、10.0原子%以下であることがより好ましく、8.0原子%以下であることが更により好ましく、5.0原子%以下であることが最も好ましい。B、Si及びCの量に応じてPの量は0原子%であってもよい。
【0042】
Cは、アモルファス相の熱安定性を高める。そのため、Cの量は、0.1原子%以上であることが好ましく、0.5原子%以上であることがより好ましく、1.0原子%以上であることが最も好ましい。一方、高い飽和磁束密度を得るために、Cの量が、10.0原子%以下であることが好ましく、8.0原子%以下であることがより好ましく、5.0原子%以下であることが更により好ましく、3.0原子%以下であることが最も好ましい。B、Si及びPの量に応じてCの量は0原子%であってもよい。
【0043】
また、入手容易な熱処理方法でアモルファス相中に安定的に結晶粒を分散させて飽和磁束密度を安定的に高めるために、例えば、磁性金属層3が任意元素としてCuを含んでもよい。Cuの量は、0.1原子%以上であることが好ましく、0.4原子%以上であることがより好ましく、0.5原子%以上であることが更により好ましく、0.6原子%以上であることが最も好ましい。アモルファス相の熱安定性及び高い飽和磁束密度を維持する観点から、Cuの量は、2.0原子%以下であることが好ましく、1.5原子%以下であることがより好ましく、1.1原子%以下であることが更により好ましく、1.0原子%以下であることが更により好ましく、0.9原子%以下であることが最も好ましい。Cuの量は、0原子%であってもよい。
【0044】
上記に加え、上記特性に関する追加の効果やその他の特性を付与するために、例えば、磁性金属層3が、任意元素として、チタン(Ti)、Zr、Hf、バナジウム(V)、Nb、タンタル(Ta)、Cr、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)及びREMからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。これら元素のうち、Coは、高価であるが、Feとの組み合わせで飽和磁束密度を大きく向上する。そのため、Coの量が、0.1原子%以上であることが好ましく、1.0原子%以上であることがより好ましく、3.0原子%であることが最も好ましい。Feを主成分とするコスト上の利点を考慮すると、Coの量は、Feの量の半分もしくは30.0原子%以下であってもよい。また、Niは、飽和磁束密度をそれほど低下させることなく、耐食性を向上させることができる。そのため、Niの量が、0.1原子%以上であることが好ましく、1.0原子%以上であることがより好ましく、3.0原子%であることが最も好ましい。Feを主成分とするコスト上の利点を考慮すると、Niの量は、15.0原子%以下であってもよい。FeとNiとCoとの合計量は、65.0~90.0原子%であることが好ましい。上記特性に関する追加の効果やその他の特性を付与する場合であっても、飽和磁束密度を高く維持する観点から、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量は、8.0原子%以下であることが好ましく、5.0原子%以下であることがより好ましく、3.0原子%以下であることが更により好ましく、1.0原子%以下であることが最も好ましい。Fe、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量は、65.0~90.0原子%であることが好ましい。これら任意元素は、0原子%であってもよい。なお、REMは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)である。
【0045】
上記に加え、磁性金属層3は、不可避的に不純物を含んでもよい。但し、不純物の量は、0.5原子%以下であることが好ましく、0.1原子%以下であることがより好ましく、0.05原子%以下であることが更により好ましく、0.01原子%以下であることが最も好ましい。例えば、不純物として、O、N、S、Pb及びCdが挙げられるが、これらに限られない。不純物は、0原子%であってもよい。
【0046】
したがって、本発明の一実施形態では、アモルファス相を含む磁性金属層では、Fe、Ni、Coの合計量が65.0~90.0原子%であり、Cuの量が0~2.0原子%であり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、残部がB、Si、P及びCからなる群からなる少なくとも1種及び不純物であり、Fe、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が65.0~90.0原子%である。
【0047】
また、本発明の別の一実施形態では、アモルファス相を含む磁性金属層では、Fe、Ni、Coの合計量が65.0~92.0原子%であり、Cuの量が0~2.0原子%であり、Ti、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、B、Si、P及びCの合計量が0~10.0原子%であり、残部がZr、Hf及びNbからなる群から選択される少なくとも1種及び不純物である。
【0048】
また、本発明の別の一実施形態では、アモルファス相を含む磁性金属層では、Feの量が79.0~88.0原子%であり、Bの量が5.0~15.0原子%であり、Siの量が0~8.0原子%であり、Pの量が1.0~8.0原子%であり、Cの量が0~5.0原子%であり、Cuの量が0~1.4原子%であり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が0~8.0原子%であり、Fe、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が79.0~88.0原子%であり、Fe、B、Si、P、C、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Ag、Zn、Al、Sn、As、Sb、Bi及びREMの合計量が100%である。
【0049】
本例において、アモルファス相を含む磁性金属層3として、国際公開第2010/021130号に開示される合金組成物を好適に用いることができる。したがって、国際公開第2010/021130号の開示内容が本明細書の内容に矛盾しない限りにおいて全て引用により本明細書に取り込まれる。
【0050】
例えば、アモルファス相中に安定的に結晶粒を分散させる場合であって、PとCuとの相乗効果(結晶粒微細化)を重視する場合には、Pの量(原子%)に対するCuの量(原子%)の割合が、0.08~0.80であることが好ましく、0.08~0.55であることがより好ましい。
【0051】
また、例えば、不純物を除き、組成式がFeabSicxyCuzである場合、Feの量(a)が79.0~88.0原子%であり、Bの量(b)が5.0~15.0原子%であり、Siの量(c)が0~8.0原子%であり、Pの量(x)が1.0~8.0原子%であり、Cの量(y)が0~5.0原子%であり、Cuの量(z)が0~1.4原子%であることが好ましい。
【0052】
磁性金属層3の厚みが十分に大きいと、磁性金属層3の強度が十分に高いため、積層体1の加工性を高めることができる。そのため、磁性金属層3の厚みが4μm以上であることが好ましい。また、磁性金属層3の厚みが大きいと、磁性金属層3による電磁波シールド効果が増加する。そのため、磁性金属層3の厚みが、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更により好ましい。磁性金属層3の厚みが十分に小さいと、磁性金属層3の強度が十分に小さいため、積層体1の成形性を十分に高めることができる。そのため、磁性金属層3の厚みが、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、45μm以下であることが更により好ましく、40μm以下であることが最も好ましい。積層体1が複数の磁性金属層3を含む場合、1つの磁性金属層3が上述の厚みの範囲内であってもよく、一部の磁性金属層3が上述の厚みの範囲内であってもよく、全部の磁性金属層3が上述の厚みの範囲内であってもよい。
【0053】
また、積層体1が任意で非晶質相を含まない磁性金属層3を含んでもよい。例えば、耐熱性や耐食性といった耐環境性を高めたり、層間の密着性を高めたり、直流磁界に対する積層体の遮蔽能力を高めたりするために、この磁性金属層3がFe、Ni、Coからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。特に、耐熱性や耐食性といった耐環境性を高める場合には、磁性金属層3が積層体の最表面に存在することが好ましい。このような磁性金属層3として、NiやFe-Niが挙げられる。これらNi及びFe-Niは、箔の積層だけでなくめっきや蒸着によっても形成できる。
【0054】
非磁性金属層2及び磁性金属層3の他、積層体1が任意で非金属層4を含んでもよい。例えば、耐熱性や耐食性といった耐環境性を高めたり、層間の密着性を高めたりするために、非金属層4がクロム化合物を含んでもよい。また、層間の密着性を高めるために、非金属層4がポリマーを含んでもよい。例えば、ポリマーが、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル、シリコン樹脂、ポリ酢酸ビニル、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、フェノール樹脂、シアノアクリレートから選択される少なくとも1種であってもよい。コスト面からは、ポリマーが、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニルであることが好ましい。また、例えば、層間や表面に絶縁性を付与するために、非金属層4が絶縁層を含んでもよい。特に、耐熱性や耐食性といった耐環境性を高める場合には、非金属層4が積層体1の最表面に存在することが好ましい。単位厚み当たりの積層体1の電磁波シールド効果を高めるために、非金属層4の厚みは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更により好ましく、5μm以下であることが最も好ましい。また、非金属層4の厚みは、0.1μm、1.0μm、1.5μm又は2.0μm以上であってもよい。
【0055】
(2.積層体の製造方法)
本発明の別の実施形態に係る積層体の製造方法は、図3のフローチャートに示すように、非磁性金属とアモルファス相を含む磁性金属(アモルファス磁性金属)とを含む材料を積層して未焼成積層体を形成する積層工程を含む。この積層工程により前述の非磁性金属層と磁性金属層とを形成する。これら層に使用する材料及び層の構成については、前述の通りであるので、割愛する。
【0056】
用途に応じた成形加工が必要な場合、未焼成積層体を所定の形状に成形加工する成形加工工程を含んでもよい。この成形加工工程は、例えば、切断、打ち抜き、深絞り、張り出し、曲げ等の加工を含んでもよい。
【0057】
アモルファス磁性金属の結晶化度を高めて積層体の電磁波シールド効果を高める場合や成形加工工程によって生じた歪を低減する場合には、本製造方法が、焼成工程を含むと好ましい。この焼成工程では、未焼成積層体又は後述の前焼成済積層体から焼成済積層体を形成する。但し、結晶化度の増加と共にアモルファス磁性金属は脆化するため、成形加工工程後に焼成工程を含むと好ましい。焼成工程によって得られるアモルファス磁性金属の結晶化度が、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更により好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更により好ましく、90%以上であることが最も好ましい。この結晶化度は、100%以下であってもよく、100%未満であってもよい。熱処理条件は、材料に応じて変化させることが好ましい。例えば、熱処理温度は、350~650℃であってもよく、金属結晶相が析出する温度よりも高く化合物結晶相が析出しない温度よりも低い温度で行うことが好ましい。熱処理時間は、例えば、1~3600秒であってもよい。
【0058】
また、加工工程後の結晶化を安定的に行ったり成形加工工程における成形性を調整したりするために、積層工程と成形加工工程との間に予備焼成工程を含んでもよい。この予備焼成工程では、未焼成積層体から前焼成済積層体を形成する。成形加工工程における成形性を維持するために、予備焼成工程によって得られるアモルファス磁性金属の結晶化度が、75%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更により好ましく、10%以下であることが最も好ましい。この結晶化度は、0%以上であってもよく、5%以上であってもよい。また、焼成工程における結晶化の安定性を確保するために、予備焼成工程によって得られるアモルファス磁性金属の結晶化度が、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、50%以上であることが最も好ましい。
【0059】
非磁性金属及びアモルファス磁性金属の製法は、限定されない。例えば、非磁性金属が銅箔である場合、銅箔が、圧延銅箔、電解銅箔、メタライズによる銅箔のどれであってもよい。また、アモルファス相を含む磁性金属は、気相、液相のどちらの急冷法で製造されていてもよい。例えば、このような製造方法として、薄帯の場合、単ロール法、双ロール法、溶射法、めっき法及び蒸着法が挙げられる。粉体の場合、薄帯を粉砕する方法の他、水アトマイズ法やガスアトマイズ法が挙げられる。非磁性金属及びアモルファス磁性金属に追加の処理がなされた材料を用いてもよい。例えば、アモルファス磁性金属中に予め含まれる歪の量を調整して熱処理後の材料の寸法変化による反りを軽減するために、アモルファス磁性金属に予め熱処理をした材料を使用してもよい。この場合であっても、結晶化度は、限定されない。但し、十分な成形性が必要な場合には、結晶化度が0~5%であると好ましい。また、例えば、追加の電磁波シールド効果、耐環境性や密着性の積層体への付与を目的として、各種めっき(Au、Ag、Sn、Ni、Fe-Ni合金、Zn、Sn合金[Sn-Ag、Sn-Ni、Sn-Cu])、各種化成処理(クロメート処理)、粗化処理がなされた材料を非磁性金属及びアモルファス磁性金属として使用してもよい。耐環境性とコストとの両面からは、材料がSnめっき又はSn合金めっきを含むことが好ましい。密着性の観点からは、粗化処理がなされた材料を使用することが好ましい。これらの追加の処理が材料に対して複数なされていてもよい。
【0060】
積層工程において、接着剤を介することなく層間を密着させる場合には、例えば、表面活性化接合法を使用してもよい。この表面活性化接合法では、非磁性金属の表面とアモルファス磁性金属の表面とを活性化させ、活性化した両金属の表面を接触させて接合する。接触には、重ね合わせロールによる圧着を用いることができる。両金属の表面の活性化方法として、例えば、イオンエッチング法、真空中での乾式成膜法が挙げられる。各金属の表面の活性化方法は、互いに同じでもよく、互いに異なってもよい。また、接着剤を用いる場合には、例えば、前述のポリマーに対応した接着剤(例えば、ウレタン樹脂の場合には、ポリオール及びイソシアネート)を使用することができる。この場合、接着剤の耐熱条件とアモルファス磁性金属の熱処理条件とを比較して接着剤が劣化しないようにアモルファス磁性金属の熱処理を調整することが好ましい。
【0061】
また、積層体に美観や耐環境性、その他の特性を付与するために、最終工程で積層体の表面に対して表面処理がなされてもよい。接着剤を付与した積層が必要な場合は、この表面処理の一環として、例えば、追加の積層工程を付与してもよい。この追加の積層工程の後に熱処理を行ってもよい。この場合において、接着剤やポリマーを使用する場合には、熱処理温度が、接着剤やポリマーの耐熱温度よりも低い温度であることが好ましい。
【0062】
製品としての積層体は、未焼成積層体、前焼成済積層体、焼成済積層体のいずれであってもよく、成形加工の有無を問わない。未焼成積層体や前焼成済積層体であっても、電磁波に対する十分なシールド効果を有する場合には、そのまま使用することもできる。目的に応じて、アモルファス磁性金属の結晶化の程度を調整するとよい。
【0063】
上述の実施形態に係る積層体及び積層体の製造方法は、特に、電気・電子機器(例えば、インバータ、通信機、共振器、電子管・放電ランプ、電気加熱機器、電動機、発電機、電子部品、印刷回路、医療機器等)の被覆材又は外装材、電気・電子機器に接続されたハーネスや通信ケーブルの被覆材、電磁波シールドシート、電磁波シールドパネル、電磁波シールド袋、電磁波シールド箱、電磁波シールド室など各種の電磁波シールド用途に利用することが可能である。
【実施例0064】
以下に、本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらは本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0065】
非磁性金属として圧延銅箔を使用した。この圧延銅箔は、厚さ12μmの純銅[非磁性(反磁性)]であり、20℃での導電率が58.0×106S/mであった。また、アモルファス磁性金属として単ロール法により製造したアモルファス金属薄帯を使用した。このアモルファス金属薄帯では、金属結晶相率が0%(株式会社リガク製MiniFlex600にてCuターゲット、管電圧40kV、管電流15mA、ステップサイズ0.01°、スキャン速度10°/分の条件で薄帯の両面を測定した[θ-2θ法])であり、結晶化度が0%(定義)であり、厚さが25μmであり、飽和磁束密度が1.57T(東英工業株式会社製VSM-P7-15により8×8mmのサンプルの飽和質量磁化を測定し、この飽和質量磁化に4πとアルキメデス法で求めた密度とを乗ずることにより飽和磁束密度を求めた)であり、保磁力(理研電子株式会社製Model BHS-40により10×70mmのサンプルを測定した)が16.5A/mであった。化学組成がFe84.89.4Si0.53.5Cu0.81.0(原子%)[磁性(強磁性)]であり、不純物の量(前述の6元素を除く元素の合計量)が0.1原子%以下であった。長さと幅とがほぼ同じになるように銅箔とアモルファス金属薄帯とを切断した。
【0066】
実施例1~5では、圧延銅箔の表面とアモルファス金属薄帯の表面とをイオンエッチング(プラズマ)により活性化させ、ロールで圧延することにより接合した(表面活性化接合)。この接合により、未焼成積層体を形成し、銅箔によって非磁性金属層を、アモルファス金属薄帯によってアモルファス相を有する磁性金属層を構成した。これら実施例の未焼成積層体の一部を455℃に設定した炉長0.75mの炉内に1.5m/分の速度で通過させ、磁性金属層の一部を結晶化させて前焼成済積層体を形成した(予備焼成工程)[結晶化度53%](パーキンエルマー製DSC8500にて20mgのサンプルを40℃/分の加熱速度で測定した)。また、実施例の未焼成積層体及び前焼成済積層体の一部を、平坦に保ちながら炉内で1℃/分の加熱速度で425℃まで加熱し、10分保持した後、炉冷することにより、磁性金属層を十分に結晶化させて焼成済積層体を形成した(焼成工程)[結晶化度99%以上]。また、微分比透磁率の最大値(理研電子株式会社製Model BHS-40により測定)は、実施例1、4及び5に対して、それぞれ1.5×104、1.2×103及び6.9×103であった。同様に、第1の微分比透磁率(長手方向)の最大値を第2の微分比透磁率(幅方向)の最大値で除した値は、実施例1、4及び5に対して、それぞれ0.94、0.97及び1.01であった。加えて、第1の微分比透磁率の最大値と第2の微分比透磁率の最大値との差を微分比透磁率の最大値で除した値は、実施例1、4及び5に対して、それぞれ6.3×10-2、2.6×10-2及び9.9×10-3であった。
【0067】
実施例6では、アモルファス金属薄帯を490℃に設定した炉長0.75mの炉内に1.0m/分の速度で通過させ、アモルファス金属薄帯を一部結晶化させた[結晶化度60%、飽和磁束密度1.75T]。この結晶化させたアモルファス金属薄帯を接着剤により銅箔(厚み12μm)と接着し、積層体を形成した。この接着により、非磁性金属層(銅箔)に対して非磁性層(樹脂フィルム[接着剤由来])が接し、この非磁性層に対してアモルファス相を有する磁性金属層(アモルファス金属薄帯)が接していた。接着剤としてウレタン系接着剤を使用したため、非磁性層はウレタン樹脂の層であった。なお、実施例1~6では、各層の端面が一致するように各層が積層されていた。
【0068】
比較例1では、銅箔(厚み12μm)をそのまま用いた(非磁性金属層のみに対応する)。比較例2では、アモルファス金属薄帯(厚み25μm)をそのまま用いた(磁性金属層のみに対応する)。
【0069】
表1には、実際の積層体の層構成の他、焼成の構成及び磁性金属層の結晶化度及び平均結晶粒径を記載した。
【0070】
(電磁波シールド効果の評価)
各実施例及び各比較例の積層体を電磁波シールド効果評価装置(テクノサイエンスジャパン社 型式TSES-KEC)に設置して、500kHz及び1MHzの周波数、20℃の温度の条件下で、KEC法により電磁波シールド効果を評価した。評価基準は以下のとおりである。
[周波数500kHzにおけるシールド効果の評価]
A:磁界シールド効果が35.0dB以上
B:磁界シールド効果が25.0dB以上35.0dB未満
C:磁界シールド効果が25.0dB未満
[周波数1MHzにおけるシールド効果の評価]
A:磁界シールド効果が40.0dB以上
B:磁界シールド効果が30.0dB以上40.0dB未満
C:磁界シールド効果が30.0dB未満
[磁界シールド効果の総合評価]
A:500kHz、1MHzにおける評価がともにA
B:500kHz、1MHzにおける評価のうちどちらかでB評価あり
C:500kHz、1MHzにおける評価のうちどちらかでC評価あり
【0071】
(成形性)
各実施例及び各比較例の積層体から、125mm×125mmの試験片を切り出し、銅箔が外側になるようにΦ18mmの丸棒に試験片を巻き付けた後に展開し、試験片の表裏面に割れが発生しているかを判定した。非磁性金属層又は磁性金属層を貫通する割れが観察される場合には「B」(不良)と評価し、非磁性金属層及び磁性金属層の両方に貫通する割れが観察されない場合には「A」(良)と評価した(図4A及び図4B参照)。また、成形加工工程を適用しない場合にも、「A」(良)と評価した。
【表1】
【0072】
(表1)
表1によると、非磁性金属層とアモルファス相を含む磁性金属層とを含む積層体は、非磁性金属層のみや磁性金属層のみよりも電磁波シールド効果が高かった。また、アモルファス相を含む磁性金属層の結晶化度を適切に調整することにより、十分な成形性を確保したまま低周波領域での電磁波シールド効果を高めることができた。なお、非磁性金属層を設けていることにより、中~高周波域でも高い電磁波シールド効果を発揮していた。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図2
図3
図4A
図4B