IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人茨城大学の特許一覧 ▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

特開2023-85361フォトダイオードおよび光感応デバイス
<>
  • 特開-フォトダイオードおよび光感応デバイス 図1
  • 特開-フォトダイオードおよび光感応デバイス 図2
  • 特開-フォトダイオードおよび光感応デバイス 図3
  • 特開-フォトダイオードおよび光感応デバイス 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085361
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】フォトダイオードおよび光感応デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20230613BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20230613BHJP
   H01L 29/41 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01L31/10 H
H01L31/10 A
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
H01L29/44 P
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044737
(22)【出願日】2023-03-20
(62)【分割の表示】P 2020121662の分割
【原出願日】2018-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018067691
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鵜殿 治彦
(72)【発明者】
【氏名】朝日 聰明
(57)【要約】      (修正有)
【課題】Mg2Si材料との付着力が高い、光感度も含めた総合的な性能を向上させる電極構成を有する半導体フォトダイオードを提供する。
【解決手段】マグネシウムシリサイド結晶のpn接合と、p型マグネシウムシリサイドに接する材料を含む電極と、n型マグネシウムシリサイドに接する材料を含む電極とを含むフォトダイオードで、p型マグネシウムシリサイドに接する材料は、仕事関数が4.81eV以上で、かつシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料でニッケル等からなり、n型マグネシウムシリサイドに接する材料は、仕事関数が4.81eVよりも小さく、かつシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料でアルミニウム等からなり、分光感度が、分光感度スペクトルにおいて波長1350nmにピークを有し、0.14A/W以上であることを特徴とするフォトダイオード。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムシリサイド結晶のpn接合と、p型マグネシウムシリサイドに接する材料を含む電極と、n型マグネシウムシリサイドに接する材料を含む電極と、を含むフォトダイオードであって、
前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料は、仕事関数が4.81eV以上で、かつシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料であり、
前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料が、ニッケル、コバルト、白金、パラジウム、イリジウム、レニウム、ロジウム、ベリリウム、セレン、テルルからなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金であり、
前記n型マグネシウムシリサイドに接する材料は、仕事関数が4.81eVよりも小さく、かつシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料であり、
前記n型マグネシウムシリサイドに接する材料が、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、銀、銅、亜鉛、カドミウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステンからなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金であり、
分光感度が、分光感度スペクトルにおいて波長1350nmにピークを有し、0.14A/W以上であることを特徴とするフォトダイオード。
【請求項2】
前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料は、仕事関数が5.11eV以上で、かつシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料であり、
前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料が、ニッケル、白金、パラジウム、イリジウム、セレンからなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金であることを特徴とする請求項1に記載のフォトダイオード。
【請求項3】
前記n型マグネシウムシリサイドに接する材料は、仕事関数が4.51eVよりも小さく、かつシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料であり、
前記n型マグネシウムシリサイドに接する材料が、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ヒ素、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルからなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金であることを特徴とする請求項1または2に記載のフォトダイオード。
【請求項4】
前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料を含む電極が、前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料と、さらにこれに接する他の別の材料をさらに含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のフォトダイオード。
【請求項5】
前記他の別の材料が、前記p型マグネシウムシリサイドに接触する材料として選択された金属である場合を除き、金、パラジウム、白金からなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金であることを特徴とする請求項4に記載のフォトダイオード。
【請求項6】
前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料が、厚さ1~1000nmの薄膜となっていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のフォトダイオード。
【請求項7】
前記p型マグネシウムシリサイドが、銀をドープしたマグネシウムシリサイドであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のフォトダイオード。
【請求項8】
少なくとも一方の電極が、内側に開口を有するリング状電極であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のフォトダイオード。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のフォトダイオードを含むことを特徴とする光感応デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムシリサイドを用いたフォトダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
人工知能(AI)等に関する近年の飛躍的な技術革新に伴って、人の目や手に代わって自動で監視、制御を行うシステムの研究開発も精力的に行われている。このような自動監視、自動制御システムにおいては、光、温度、音声等の様々な入力情報を基に適切な応答動作が決定されるため、入力信号を感知するためのハードウェアがシステム全体の中でも重要な役割を果たす一つのキーデバイスとなる。とりわけ光の入力信号を感知するという点においては、人の目を代替するか、場合よっては人の目で感知できない領域の情報までをも感知できるようなデバイスを用いることにより、高度な自動監視、自動制御を実現することが可能になる。
【0003】
光の入力信号に感応するデバイスとしては、光の信号を電子的に処理することが可能な電気信号に変換する素子を有するものが挙げられる。その基本的な素子の例として、半導体材料を用いた光検出素子があり、その中でもpn接合を用いたフォトダイオードが知られている。
【0004】
半導体材料を用いたフォトダイオードは、半導体材料が有するバンドギャップに応じて感応する波長領域が異なっている。夜間の自動監視や自動車の自動運転などにも対応できるような高度の制御を行うためには、可視光領域の光や画像の情報以外にも赤外線領域の光に関する入力情報が必要となる。そのため、赤外線領域で高感度に光の入力を感知できるフォトダイオードを含む素子、デバイスに対する要請は強く、各種の半導体材料を用いた積極的な検討と開発が進められている。
【0005】
短波長(概ね波長0.9~2.5μm)の赤外線領域の光の検出を想定したフォトダイオードとして、InGaAs、HgCdTe、InAsSbといった化合物半導体材料を用いたものが既に知られている。しかし、これらの半導体材料は、化合物材料中に希少元素を含んでいたり、生体に有害で環境負荷が高かったりするという欠点を有している。そこで、本発明者らは、資源として天然に豊富に存在し、生体に対する害が少なく安全性が高い材料であるマグネシウム(Mg)とシリコン(Si)とから構成される化合物半導体であるマグネシウムシリサイド(Mg2Si)の結晶性材料を作製して(非特許文献1)、これを用いたフォトダイオードを提案、作製し、これまでに所定の成果が得られている(非特許文献2、3)。
【0006】
半導体装置に用いられる電極として、導電性と化学的な安定性、さらには形成の容易さ等の観点から、非特許文献2でも用いられているように、金(Au)電極がしばしば用いられている。しかしながら、Auは化学的に安定であるために、特にSiやSi系の化合物と容易に反応せず、半導体との接触界面において付着力に劣る傾向がある。そのため、半導体の接触界面から電極の剥離、脱離が生じやすく、実用デバイスの現実的な使用環境を考えた場合、デバイスの耐久性、操作性には問題がある。
【0007】
このような問題を解決するために、Si系の半導体デバイスにおいては、Au電極と半導体の接触面との間に別の金属材料を介在させて、電極材料と半導体材料との接触界面における付着力の改善を図ることが行われている。非特許文献3には、Au電極と半導体材料であるMg2Siの接触面の間にチタン(Ti)を介在させることが開示されている。これによって、半導体材料としてMg2Siを用いたフォトダイオードにおいても、実用デバイスを想定した場合に問題とならない程度の付着力を有するような電極を得ることができている。
【0008】
しかしながら、その後さらにMg2Siに特有の物性を考慮した場合に、電極と半導体材料との付着力という点に加えて、さらに光感度も含めた総合的なデバイス性能を向上させるためには、Mg2Siに直接接触する電極材料がTiであることが必ずしも最善であるとは限らず、別観点からの電極材料の検討が必要であることが明らかになってきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K. Sekino et al., Phys. Proc., Vol. 11, 2011, pp. 170-173
【非特許文献2】T. Akiyama et al., Proc. Asia-Pacific Conf. Semicond. Silicides Relat. Mater. 2016, JJAP Conf. Proc. Vol. 5, 2017, pp. 011102-1-011102-5
【非特許文献3】K. Daitoku et al., Proc. Int. Conf. Summer School Adv. Silicide Technol. 2014, JJAP Conf. Proc. Vol. 3, 2015, pp. 011103-1-011103-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示の技術は、上述した技術課題を解決しようとするものであり、Mg2Si材料との付着力が高いのみでなく、光感度も含めた総合的な性能を向上させる電極構成を有する、Mg2Siを半導体材料として用いた半導体フォトダイオードを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の技術の前提となる基礎的な知見として、本発明者らはMg2Siという化合物半導体の基礎的な物性を明らかにする過程において、Mg2Siのエネルギー準位に関する固有の物性値に着目した。Mg2Siという化合物についての詳細な物性については明らかでなかった部分が多いが、本発明者らは非特許文献1に開示した内容に基づいてさらに検討を進めた結果、Mg2Siにおける電子親和力(真空準位と伝導帯とのエネルギー準位差)は4.51eVとなる事実を認識した。そして、このMg2Siにおける固有の物性値を考慮すれば、電極材料を適切に選択することによって、Mg2Siフォトダイオードの特性をさらに向上させることができる技術手段を着想した。
【0012】
具体的には、以下に示すとおり、Mg2Siと電極材料のエネルギー準位の関係を適切に調整することで、半導体/電極の界面においてフォトキャリアの輸送方向に対するエネルギー障壁が生じないようにする技術である。図1にMg2Siフォトダイオードの基本的な構成の例を、また図2に、図1の構成においてp型Mg2Si部102に直接する電極材料103がTi(非特許文献3でも使用されている材料)、n型Mg2Si部101に直接する電極材料105がAlである場合のpn接合および電極近傍領域のエネルギー準位図を示す。光入射によってpn接合の空乏層(および拡散長)201で生じたフォトキャリアである電子-正孔対のうち、電子202はエネルギー準位がより低い方へ、正孔203はエネルギー準位がより高い方へ移動しようとする。
【0013】
ここで問題となるのはp型Mg2Siと電極の仕事関数の差異である。半導体の仕事関数は、電子親和力に伝導帯からフェルミ準位までのエネルギー差ΔEFを加えた値である。フェルミ準位は半導体内のキャリア濃度で変化し、Mg2Siにおいてはn型ではΔEFは0から0.3eVの間、p型ではΔEFは0.3から0.6eVの間の値を取る。前記に示したMg2Siにおける電子親和力からp型Mg2Siの仕事関数は4.81から5.11eVの間となる。従来ここに用いられている電極の材料であるTiの仕事関数は約4.33eVであり、前記に示したMg2Siにおける仕事関数の最低値4.81eVと比較して低い。そのため、p型Mg2Siと電極との界面において正孔に対するエネルギー障壁204が生じ、生じた正孔のうち電極に到達できるものの割合が少なくなり、生じたフォトキャリアを有効に光電流として検出できない懸念がある。
【0014】
これに対し、図3に示すように、p型Mg2Siに接触する電極材料を、仕事関数が上記4.81eV以上の値を有する材料とすれば、p型Mg2Siと電極との界面において正孔に対するエネルギー障壁は無くなるか、実用上問題とならない程度にエネルギー障壁の影響を小さくでき、フォトキャリアとして生じた電子-正孔対のうちの正孔も、その多くが電極に到達できることとになって、光電流の値に有効に寄与できることになる。
【0015】
このような知見と着想に基づき、本開示は以下の発明を提供するものである。
1)マグネシウムシリサイド結晶のpn接合と、p型マグネシウムシリサイドに接する材料を含む電極と、n型マグネシウムシリサイドに接する材料を含む電極と、を含むフォトダイオードであって、
前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料は、仕事関数が4.81eV以上で、かつシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料であり、
前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料が、ニッケル、コバルト、白金、パラジウム、イリジウム、レニウム、ロジウム、ベリリウム、セレン、テルルからなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金であり、
前記n型マグネシウムシリサイドに接する材料は、仕事関数が4.81eVよりも小さく、かつシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料であり、
前記n型マグネシウムシリサイドに接する材料が、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、銀、銅、亜鉛、カドミウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステンからなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金であり、
分光感度が、分光感度スペクトルにおいて波長1350nmにピークを有し、0.14A/W以上であることを特徴とするフォトダイオード。
2)前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料を含む電極が、前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料と、さらにこれに接する他の別の材料をさらに含むことを特徴とする前記1)に記載のフォトダイオード、
3)前記他の材料が、前記p型マグネシウムシリサイドに接触する材料として選択された金属である場合を除き、金、パラジウム、白金からなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金であることを特徴とする前記2)に記載のフォトダイオード、
4)前記p型マグネシウムシリサイドに接する材料が、厚さ1~1000nmの薄膜となっていることを特徴とする前記1)~3)のいずれか一に記載のフォトダイオード、
5)前記p型マグネシウムシリサイドが、銀をドープしたマグネシウムシリサイドであることを特徴とする前記1)~4)のいずれか一に記載のフォトダイオード、
6)少なくとも一方の電極が、内側に開口を有するリング状電極であることを特徴とする前記1)~5)のいずれか一に記載のフォトダイオード、
7)前記1)~6)のいずれか一に記載のフォトダイオードを含むことを特徴とする光感応デバイス。
【発明の効果】
【0016】
本開示の技術によれば、化合物半導体であるMg2Siのpn接合を用いたフォトダイオードにおいて、Mg2Siと電極材料との付着力が高いのみでなく、Mg2Siから電極に到達できるフォトキャリア、特にp型Mg2Siから電極に到達できる正孔を大幅に増大できるため、光感度を含めた総合的な性能を向上させた半導体フォトダイオードを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Mg2Siフォトダイオードの基本構成
図2】従来のTi電極の場合のエネルギー準位図
図3】本開示の技術におけるエネルギー準位図
図4】実施例1と比較例1の分光感度スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の技術によるフォトダイオードは、基本的な構成として、Mg2Si結晶のpn接合と、p型Mg2Siに接する材料を含む電極と、n型Mg2Siに接する材料を含む電極とを有するものである。Mg2Siは結晶性の材料で構成し、単結晶であることが好ましい。ノンドープのMg2Siは通常n型の伝導性を示すが、その一部にp型不純物を導入するなどしてMg2Siのpn接合を形成したものをダイオードの中心構成とし、これに光電流を取り出すための電極を設けて、本開示のフォトダイオードとする。
【0019】
本開示のフォトダイオードは、p型Mg2Siに直接接する電極の材料の仕事関数が4.81eV以上で、かつSiと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料であることを特徴とするものである。前述したとおり、Mg2Siにおける電子親和力は4.51eVであり、その仕事関数はキャリア濃度に対応して変化し、n型Mg2Siでは4.51から4.81eVの間、p型Mg2Siでは4.81から5.11eVの間となる。このため、p型Mg2Siに接する電極の材料を仕事関数が4.81eV以上のものとすれば、pn接合の空乏層と拡散領域で形成されたフォトキャリアの電子-正孔対のうち、電極へ輸送される正孔に対してp型Mg2Siと電極の界面でエネルギー障壁を無くすことができるか、実用上問題とならない程度にエネルギー障壁の影響を小さくでき、キャリアの収集効率を大きく高めることができる。
【0020】
また、p型Mg2Siに直接接する電極の材料は、上記のように仕事関数が4.81eV以上であるとともに、Siと反応してシリサイドを形成するか、またはマグネシウムと合金を形成する材料とする。このように、Mg2Siに直接接する電極の材料をSiと反応してシリサイドまたはマグネシウムと合金を形成する材料とすれば、Mg2Siと電極材料が接する界面においてMg2Si中のSiの一部と電極材料の一部とを反応させることによって強力な結合を形成することができ、p型Mg2Siと電極との間の付着力を実用デバイスとして用いる場合にも耐える程度に高いものとすることができる。
【0021】
本開示のフォトダイオードにおいて、p型Mg2Siに直接接する仕事関数が4.81eV以上で、Siと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する電極材料としては、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ベリリウム(Be)、セレン(Se)、テルル(Te)からなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金を用いることができる。p型Mg2Siに直接接する電極材料にこのような金属材料を用いれば、この金属材料にさらに別の金属材料を設けた電極構成とした場合の金属同士の界面での接着力も優れたものとすることができる。
【0022】
従来公知の技術において、p型Mg2Siとこれに直接接する電極の界面で形成されるエネルギー障壁が問題となることは前述したとおりであるが、n型Mg2Siとこれに直接接する電極の界面でも同様の問題は存在する。n型Mg2Siと電極の界面における多数キャリアは電子となるため、界面で電極へ輸送される電子に対するエネルギー障壁が形成されないようにするには、n型Mg2Siに直接接する電極材料の仕事関数を、n型Mg2Siの仕事関数4.81eV以下とする。その上で、電極材料をシリコンと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料とすることで、Mg2Siとの間で良好な付着力を得ることができるようにする。
【0023】
上述したように、仕事関数が4.81eV以下で、Siと反応してシリサイドを形成するかマグネシウムと合金を形成する材料として、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ガリウム、インジウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、銅、亜鉛、カドミウム、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)からなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金を挙げることができる。なお、従来技術である非特許文献3では、n型Mg2Siに直接接する電極材料として、仕事関数が4.26eVのAgが使用されている。
【0024】
本開示のフォトダイオードにおいて、p型Mg2Siに接する電極は、p型Mg2Siに直接接する材料と、さらにこれに接する他の別の材料を含む構成の電極としてもよい。このような構成とすることにより、電極材料をp型Mg2Siに直接接する材料一種類のみで構成した場合と比較して、電極全体の特性を所望の特性に変え、より特性の向上を図ることができるようになる。例えば、p型Mg2Siに直接接する材料よりも導電性の高い材料を組み合わせたり、化学的安定性の高い材料を組み合わせたりした構成の電極とすることで、電極全体の電気特性の改善や耐久性、対候性を向上することができる。
【0025】
そのような材料として、例えばAu、Pd、Ptからなる群から選択される少なくとも一以上の金属または合金を挙げることができる。適切なパッシベーション処理によって電極のうちAuまたはPdあるいはその合金部分のみが表出するような構造を形成すれば、p型Mg2Siに直接接する電極材料が酸化等によって劣化しやすい材料であったとしても電極材料の劣化を防止して、耐久性、対候性の高いフォトダイオードを実現することが可能になる。
【0026】
また、本開示のフォトダイオードにおいて、p型Mg2Siに直接接する材料の具体的な配置形態等は特に制限されるものではないが、具体的な態様としては、厚さ1~1000nmの薄膜となっているものを挙げることができる。厚さが1nm未満ではp型Mg2Siに十分な付着力を得ることができない可能性がある。厚さが1000nmを超えると電極がはがれやすくなったり、電極の電気抵抗が高くなり、光電流の低下を招く恐れある。厚さは5nm以上、あるいは8nm以上とすることもでき、500nm以下、100nm以下とすることもできる。
【0027】
本開示のフォトダイオードの中心構成となるMg2Si結晶のpn接合は、通常n型となるノンドープMg2Si結晶の一部にp型となる不純物をドープすること等によって形成できることは前述したとおりであるが、このようなドーパント不純物としてAgを挙げることができる。Agは、熱処理によってMg2Si結晶の内部に拡散して、局所的にAgがドープされたMg2Si構造を比較的容易に形成できる元素である。
【0028】
さらに、本開示のフォトダイオードにおいて、電極の具体的な構造や形状等も特に制限されるものではないが、具体的な一態様として、少なくとも一方の側の電極を内側に開口を有するリング状電極として構成する例を挙げることができる。上述したように、pn接合がMg2Siの表面から深さ方向の所定の位置に形成されるような構造の少なくとも一方の側の表面に、内側に開口を有するリング状電極を形成すれば、電極の開口部を通過した光が広範囲のpn接合でフォトキャリアを励起することができるため、光感度の高いフォトダイオードを実現することができる。
【0029】
なお、図1の構成は、p型Mg2Siに接する側の電極をリング状に形成したものであるが、これに限られるものでなく、n型Mg2Siに接する側の電極をリング状に形成したものや、両側の電極をリング状に形成したものとしてもよい。また、本開示でいう「リング状」とは円形に限られるものでなく、楕円形や多角形も含めた環状の形状を意味するものである。
【0030】
そして、上述したような構成のMg2Siフォトダイオードを基本的な素子構成として、光検出器や撮像デバイス等の様々な光感応デバイスを構成することができる。特に、本開示のMg2Siフォトダイオードは、短波長赤外領域の中でも900~1900nmの波長領域の赤外線に対して良好な感度特性を有し、このような波長領域での使用を想定した光感応デバイスに好適に用いることができる。
【0031】
本開示のフォトダイオードは、特にその製造方法が限定されるものでなく、上述したフォトダイオードの構成が実現できる手段であれば、如何なる手段を含む方法で製造されたものであってもよい。以下に本開示のフォトダイオードの構成を具現化するために用いることができる製造方法、製造に係る技術手段の一例を示すが、これに限られるものではない。
【0032】
まず、本開示のフォトダイオードの中心構成となるMg2Si結晶のpn接合を形成するため、Mg2Siの結晶性材料を準備する。Mg2Siの結晶性材料としてMg2Siの単結晶材料が好ましいことは前述したとおりであるが、Mg2Siの単結晶材料は、例えば非特許文献1に開示されているような公知の方法によって得ることができる。本開示のフォトダイオードを形成するためには、Mg2Siの結晶性材料を、予め厚さ0.1~5mm程度の板状の基板とし、表面を研磨して用いることがプロセス上好ましい。
【0033】
Mg2Siのpn接合を形成するために、上記に準じて準備したMg2Siの結晶性材料の一部にp型不純物をドープする。ノンドープのMg2Siはn型の導電性を示すため、その一部にp型不純物をドープしてMg2Siの結晶性材料の一部領域をp型のMg2Siとすることにより、ノンドープ領域との境界にMg2Siのpn接合が形成されることになる。
【0034】
Mg2Siの結晶性材料の一部にp型不純物をドープする手段、およびp型不純物種(ドーパント)については特に限定されるものでなく、所望の手段、ドーパントを用いることができるが、ここではAgをドーパントに用い、熱拡散によってドープする方法を例として挙げる。Mg2Siの結晶性材料の表面にAgを拡散源として配置し、不活性雰囲気中で加熱してAgをMg2Siの結晶性材料の表面から内部に熱拡散させる。拡散源となるAgは、内部に熱拡散するのに必要な分量を、真空蒸着やスパッタリング等によってMg2Siの結晶性材料の表面に配置形成することができる。上述した熱処理の条件は、拡散速度や形成する拡散領域の深さ、すなわちpn接合を形成する位置を考慮の上で調整し、設定することができる。例えば、熱処理温度は400~550℃、熱処理時間は30秒~30分の範囲を目安として設定すればよい。
【0035】
次に、pn接合が形成されたMg2Si結晶のp型とn型それぞれの領域について、光電流を取り出し検出するために必要な電極を形成する。p型とn型のそれぞれの領域のMg2Si結晶の表面に電極を形成するための具体的手段も特に制限されるものでなく、電極材料等に応じて真空蒸着、スパッタリング、めっき法等の公知の手段を適用して形成すればよい。このとき、非特許文献2や3に開示されているように、マスキングやフォトリソグラフィ技術等を用いて、リング状の電極や所望の電極パターンを形成することもできる。
【0036】
上記に加えて、さらに必要に応じて別の材料の電極形成を行って多層電極としたり、保護層を形成したり、エッチングや研磨等を行って不要な構成を一部除去したりする操作を付加的に行ってもよい。上記に具体的に言及した手段や条件はあくまで一例であって、これ以外の手段や条件であっても、本開示のMg2Siフォトダイオードの本質的な構成が得られるものであれば、それを適用することは何ら妨げられるものでない。
【実施例0037】
以下、本開示の技術的内容を実施例、比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例、比較例の記載は、あくまで本開示の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものでない。
【0038】
(実施例1)
Mg2Siの結晶性材料として、非特許文献1に開示された方法に準じた垂直ブリッジマン法によって育成されたn型Mg2Siの単結晶材料を準備し、これを(110)面で切り出して両面を鏡面研磨後洗浄し、厚さ1mmのMg2Si単結晶基板とした。基板のキャリア濃度は6×1015cm-3である。この基板の一方の表面上の一部に、拡散源となる直径800μmのAg層を真空蒸着法によって形成した後、アルゴン(Ar)雰囲気中にて450℃で10分間熱処理することで、n型Mg2Si基板の一方の表面から深さ方向へAgの熱拡散を行い、n型Mg2Si結晶の一部領域にp型Mg2Si層の形成を行った。
【0039】
次に、形成されたp型Mg2Si層の表面に、内径500μm、幅75μm、厚さ10nmの円形リング状Ni層をスパッタ法によって形成した。そして、形成したNi層の直上に、Ni層と同サイズで厚さ300nmのAu層を真空蒸着法によって形成した。この例では、Mg2Si結晶のpn接合において、p型Mg2Siに直接接する材料は仕事関数が5.15eVのNiであり、このNiの層とその直上に形成されたAu層とを含む構成がp型Mg2Si側の電極となる。さらに、基板の反対側のn型Mg2Siの面の全体に、仕事関数が4.28eVのAlの層を真空蒸着法によって300nmの厚さで形成し、これをn型Mg2Si側の電極とした。なお、上記の拡散条件からp型領域のキャリア濃度は1×1019cm-3であり、p型、n型各領域のキャリア濃度からこの時のp型Mg2Siの仕事関数は約5.09eV、n型Mg2Siの仕事関数は約4.62eVと見積もられる。
【0040】
このようにして作製したMg2Siフォトダイオードについて、分光感度特性の評価を分光感度スペクトルを測定することにより行った。測定は、ハロゲンランプからの光を分光器で分光して上記のように形成したフォトダイオードに対してリング状電極の開口側から入射し、得られる光電流をオペアンプを用いた回路で増幅し、これをロックインアンプを用いて検出することで行った。
【0041】
図4(実線)に波長1300~2200nmの分光感度スペクトルを示す。このスペクトルから、分光感度は波長1350nmにピークを有し、その最大値は約0.14A/Wであることが確認された。また、電極の付着力の評価を、JIS H8504に準拠したテープ試験方法によって行ったところ、pnいずれの側の電極もテープに付着した電極は電極面積の5%以下であり、電極の付着力について問題となるような点は認められなかった。
【0042】
(比較例1)
p型Mg2Si層の表面に直接接触する電極層の材料をTiとした以外は実施例1と同様の手順でフォトダイオードを作製した。つまり、この例では、Mg2Si結晶のpn接合において、p型Mg2Siに直接接する材料は、仕事関数が4.33eVのTiの層であり、このTi層とその直上に形成されたAu層とを含む構成がp型Mg2Si側の電極となる。反対側のn型Mg2Siの全面に接する電極は実施例1と同様にAlである。そして、この例についても、実施例1と同一の手段、条件で分光感度特性の評価を行った。なお、実施例1と同様にp型、n型各領域のキャリア濃度からこの時のp型Mg2Siの仕事関数は約5.09eV、n型Mg2Siの仕事関数は約4.62eVと見積もられる。
【0043】
図4(破線)に波長1300~2200nmの分光感度スペクトルを併せて示す。スペクトルの形状は概ね実施例1のスペクトルに相似した形状を示している。しかしながら、ピーク位置における分光感度の最大値は約0.08A/Wに満たず、実施例1のおおよそ57%未満にとどまっていることが確認された。なお、この例でも、JIS H8504に準拠したテープ試験方法による電極の付着力の評価結果は、pnいずれの側の電極もテープに付着した電極は電極面積の5%以下であり、電極の付着力については問題となるような点は認められなかった。
【0044】
これらの結果を表1にまとめて示す。
【表1】
【0045】
上記の結果より、電極とMg2Siとの付着力に関しては、何れの例においても大きな問題は認められていない。これは、Mg2Siに直接接触する材料がいずれもSiと反応してシリサイドを形成する材料であるためであると考えられる。しかし、分光感度の値には実施例と比較例との間で顕著な差異が認められた。p型Mg2Siに直接接する材料が仕事関数5.15eVのNiである実施例1は、p型Mg2SiとNi電極層の界面で正孔の輸送に対してエネルギー障壁が形成されないため、多数キャリアである正孔が効率良く電極へ到達することができるものと考えられる。
【0046】
これに対し、p型Mg2Siに直接接する材料が仕事関数4.33eVのTiである比較例1は、光入射によってフォトキャリアが生じても、そのうち正孔の一部分はp型Mg2SiとTi電極層の界面で形成されるエネルギー障壁によって電極への輸送が阻まれ、光電流として有効に検出されていないと考えられる。これらのことから、p型Mg2Siに直接接する材料の仕事関数を本開示の技術思想に基づいて適切に選択、調整することが、Mg2Siフォトダイオードの性能を顕著に向上させる上で非常に効果が大きいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本開示の技術によれば、Mg2Siのpn接合を用いたフォトダイオードにおいて、従来よりも光感度を大幅に向上させることができる。そのため、Mg2Siを利用したフォトダイオードが想定している短波長(概ね波長0.9~2.5μm)の赤外線領域のセンシング、撮像を目的とした各種デバイスの性能を飛躍的に向上することが可能になる。それに伴い、当該波長域における各種画像分析、画像診断等の技術、さらにはそれらを利用した自動監視、自動制御技術と、それらの技術を用いた産業分野等にも多大な貢献が期待できる。
【符号の説明】
【0048】
104 p型Mg2Siに直接接する材料に接する別材料電極
301 空乏層および拡散長
302 電子
303 正孔
図1
図2
図3
図4