(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085674
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】焙焼小麦ふすま加工品
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20230614BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199840
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】北川 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣田 郁美
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 守紘
(72)【発明者】
【氏名】武谷 圭子
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LE30
4B023LG06
4B023LK02
4B023LP07
4B023LP15
(57)【要約】
【課題】本発明は、小麦ふすまの美味しさを引き出す新たな手法を提供することを目的とする。
【解決手段】油脂含量が15質量%超であり、かつ水分含量が5.7質量%未満である、焙焼小麦ふすま加工品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂含量が15質量%超であり、かつ水分含量が5.7質量%未満である、焙焼小麦ふすま加工品。
【請求項2】
前記焙焼小麦ふすま加工品1gに内部標準物質として1ppmの4-メチルチアゾール溶液1mLを加えてGC-MSで測定した場合に、1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒドと4-メチルチアゾールとのピーク面積比(1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド/4-メチルチアゾール比)が0.0004超である、請求項1に記載の焙焼小麦ふすま加工品。
【請求項3】
小麦ふすまが、小麦胚芽をさらに含む、請求項1又は2に記載の焙焼小麦ふすま加工品。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の焙焼小麦ふすま加工品を含む、焙焼小麦ふすま調理用組成物。
【請求項5】
油脂と小麦ふすまの混合物を、その品温が120℃超となる条件で熱処理する工程(焙焼工程)を含む、焙焼小麦ふすま加工品の製造方法。
【請求項6】
前記混合物において油脂と小麦ふすまの質量比(油脂:小麦ふすま)が、15超から60以下:85未満から40以上である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焙焼工程において、前記品温を120℃超にて5~120分間維持することを含む、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記焙焼工程の終了後、さらに前記混合物を冷却する工程を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合物が、小麦ふすまと品温が60℃以上に予め加熱された油脂との混合物である、請求項5~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記小麦ふすまが、小麦胚芽をさらに含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記焙焼工程により、前記混合物の水分含量が5.7質量%未満となる、請求項5~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂と小麦ふすまとを含む混合物を、焙焼して得られる焙焼小麦ふすま加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりから、小麦ふすま(「小麦ブラン」とも称される)への関心が高まっている。小麦ふすまは、ビタミン、ミネラル、不溶性食物繊維等の成分に富み、健康食品素材として高いポテンシャルを有する。そのため、小麦ふすまを利用した加工品や食品の開発が進められ、報告されている。
【0003】
特許文献1には、小麦ふすま等の食物繊維含有素材100質量部と油脂0.01~5.0質量部との混合物を加熱処理する、食物繊維含有素材加工品の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、焙焼小麦ふすま100質量部あたり130~400質量部の量の水と2質量部以上の油脂を添加混合することを含む、小麦ふすま素材の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、小麦ふすま100質量部に対して、常温(室温25℃)で液状の油脂である大豆油を35質量部添加し、撹拌、混合した後、その混合物を室温20℃で1時間放置した(熟成工程)ことにより、穀粉組成物(ふすま組成物)を得たことが開示されている。
【0006】
特許文献4には、加熱溶解させマーガリン10gと、粉砕した小麦ふすま100gとを混合、攪拌し、マーガリンコーティングふすまを製造したことが開示されている。
【0007】
特許文献5には、約5重量%~約25重量%の含水量を有する挽きふすま及び胚芽成分を、約141℃~約210℃の温度まで加熱し、その含水量を、約30重量%~約75重量%減少させ、含水量が約1.5重量%~約10重量%である乾燥した挽きふすま成分を得ることを含む、挽きふすま及び胚芽成分の風味及び食感を改善するための方法が開示されている。
【0008】
特許文献6には、小麦ふすま100質量部に対して100~300質量部の水を共存させ、60~150℃で加熱処理することを含む、小麦ふすま加工品の製造方法が開示されている。
【0009】
一方、小麦ふすまは特有の不快臭を有することから、食品素材として利用することが難しい場合があり、その適用範囲を広げる妨げとなっていた。そのため、当該分野においては、小麦ふすまの風味を改善するための手法が切望されており、従来、様々な検討がなされてきた(例えば、特許文献1,2,4-6等)。しかしながら、従来の改善技術を用いて得られた小麦ふすまにおいても、十分な美味しさが感じられない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2018-201380号公報
【特許文献2】特開2018-088872号公報
【特許文献3】特開2015-133952号公報
【特許文献4】特開平11-75746公報
【特許文献5】特表2016-501556公報
【特許文献6】特開2018-186840公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、小麦ふすまの美味しさを引き出す新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、小麦ふすまを油脂と共に焙焼して得られた、油脂の含量が15質量%超であり、かつ水分含量が5.7質量%未満である焙焼小麦ふすま加工品が、ナッツのような小麦らしい香ばしい香りとコクを有することを見出した。
【0013】
本発明は、これらの新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] 油脂含量が15質量%超であり、かつ水分含量が5.7質量%未満である、焙焼小麦ふすま加工品。
[2] 前記焙焼小麦ふすま加工品1gに内部標準物質として1ppmの4-メチルチアゾール溶液1mLを加えてGC-MSで測定した場合に、1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒドと4-メチルチアゾールとのピーク面積比(1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド/4-メチルチアゾール比)が0.0004超である、[1]の焙焼小麦ふすま加工品。
[3] 小麦ふすまが、小麦胚芽をさらに含む、[1]又は[2]の焙焼小麦ふすま加工品。
[4] [1]~[3]のいずれかの焙焼小麦ふすま加工品を含む、焙焼小麦ふすま調理用組成物。
[5] 油脂と小麦ふすまの混合物を、その品温が120℃超となる条件で熱処理する工程(焙焼工程)を含む、焙焼小麦ふすま加工品の製造方法。
[6] 前記混合物において油脂と小麦ふすまの質量比(油脂:小麦ふすま)が、15超から60以下:85未満から40以上である、[5]の製造方法。
[7] 前記焙焼工程において、前記品温を120℃超にて5~120分間維持することを含む、[5]又は[6]の製造方法。
[8] 前記焙焼工程の終了後、さらに前記混合物を冷却する工程を含む、[5]~[7]のいずれかの製造方法。
[9] 前記混合物が、小麦ふすまと品温が60℃以上に予め加熱された油脂との混合物である、[5]~[8]のいずれかの製造方法。
[10] 前記小麦ふすまが、小麦胚芽をさらに含む、[5]~[9]のいずれかの製造方法。
[11] 前記焙焼工程により、前記混合物の水分含量が5.7質量%未満となる、[5]~[10]のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、小麦ふすまの美味しさを引き出す新たな手法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、100℃、110℃、120℃、130℃、及び140℃の焙焼工程に付されて得られた焙焼小麦ふすま加工品、及び、焙焼工程に付されていない(未加熱)小麦ふすま加工品における、香気成分(1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド)のガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリー分析法を用いた測定結果を示す。各値は、香気成分と添加した内部標準物質とのピーク面積比(n=3の平均値)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
小麦の粒(種子)は、一般的に、発芽のための養分が含まれ小麦粉になる部分である「胚乳」と、表皮部分にあたる「外皮」と、将来的に芽になる部分である「胚芽」の3つに分けることができる。
【0017】
本発明において「小麦ふすま」とは、小麦の粒の表皮部分にあたる「外皮」を指し、小麦の粒から胚乳と胚芽を取り除いたものを意味する。
【0018】
本発明において「小麦ふすま」は、脱脂されたものであっても、未脱脂(全脂)のものであってもよい。
【0019】
本発明において「小麦ふすま」の形態(大きさ、もしくは粒度)は特に限定されず、例えば、通常の小麦粉の製粉工程で得られるフレーク状のもの、それをさらに粉砕工程に供したもの、及びそれらの混合物を利用することができる。小麦ふすまの粉砕は、粉砕機、例えばターボミル、インパクトミル、ハンマーミル等を用いることができる。さらに、粉砕された小麦ふすまを篩等にかけ、その大きさ(もしくは粒度)を調整してもよい。小麦ふすまの形態(大きさ、もしくは粒度)は、最終的に製造される焙焼小麦ふすま加工品の利用態様や用途に合わせて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0020】
本発明において「小麦ふすま」は、従来公知の一般的な方法に従って、小麦の粒(種子)より製造されたものを用いてもよいし、あるいは市販品(例えば、ウィートブランM、ウィートブランMP、ウィートブランDF(フレッシュフードサービス株式会社)等)を用いてもよい。なお、一般的な方法に従って製造された、又は市販の「小麦ふすま」は乾燥体であり、その水分含量は100質量部あたり、0.5~11.0質量部、例えば、7.1質量部程度である。
【0021】
本発明において「小麦ふすま」には、小麦胚芽が配合されていてもよい。小麦胚芽の配合量は特に限定されるものではないが、例えば、小麦ふすまに対して0.5~50質量%、好ましくは5~40質量%の範囲から適宜選択することができる。このような小麦ふすまは、従来公知の一般的な方法に従って、小麦の粒より製造された小麦ふすまと小麦胚芽とを所定の配合割合で混合して製造されたものを用いてもよいし、あるいは市販品(例えば、ウィートブランS、ウィートブランP(フレッシュフードサービス株式会社)等)を用いてもよい。
【0022】
本発明において「油脂」とは、食用に供される動植物性油脂(食用油とも呼ばれる場合がある)を意味し、このような油脂としては、例えば、植物性油脂(例えば、キャノーラ油、菜種白絞油、大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ゴマ油、米油、米糠油、ツバキ油、ベニバナ油、オリーブ油、アマニ油、シソ油、エゴマ油、ヒマワリ油、パーム油、茶油、ヤシ油、アボガド油、ククイナッツ油、グレープシード油、ココアバター、ココナッツ油、小麦胚芽油、アーモンド油、月見草油、ひまし油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、ローズヒップ油、ブドウ油、カカオ油、ホホバ油、パーム核油、モクロウ、キャンデリラロウ、カルナバロウ等)や動物性油脂(例えば、牛脂、豚油、鯨油)、ならびにそれらの水素添加油脂、分別油脂、及びエステル交換油脂等の硬化油脂;ショートニング、マーガリン、バター;ワックス類(例えば、キャンデリラワックス、ライスワックス、カルナバワックス、ミツロウ、サトウキビロウ、パラフィンワックス、ラノリン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、オゾケナイト等);飽和脂肪酸(例えばオクタン酸、ラウリン酸等)、不飽和脂肪酸(例えばオレイン酸、リノール酸等)、モノアシルグリセロール(例えば1-モノオレイン等)、ジアシルグリセロール(例えば1,2-ジオレイン等)、トリアシルグリセロール(例えばトリオレイン等)、リン脂質(例えばレシチン等)等が挙げられるが、これらに限定はされない。油脂は好ましくは、植物油脂であり、さらに好ましくはパーム油である。油脂はいずれか単独で用いてもよいし、異なる油脂を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」は、小麦ふすまと油脂を含む混合物の焙焼加工品である。
【0024】
小麦ふすまと油脂を含む混合物の焙焼は、従来公知の一般的な方法により行うことができ、例えば、鍋、ロータリー式焙焼窯、流動層焙焼機等(これらに限定はされない)を用いて行うことができる。本発明において焙焼工程は、前記混合物の品温が120℃超、例えば、122℃以上、125℃以上、好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上であり、焙焼温度の上限は例えば169℃以下、好ましくは165℃以下となる温度にて行う。好ましくは、焙焼工程において、前記品温の温度は5~120分間、好ましくは10~90分間、より好ましくは30~80分間維持する。焙焼温度及び/又は時間の条件が、上記範囲に届かない場合には焙焼が十分でなく、良好な風味が得られない場合がある。また、焙焼温度及び/又は時間の条件が、上記範囲を超える場合には、焦げ臭や焦げ味等が感じられ、良好な風味が得られない場合がある。本発明においては、上記焙焼条件に付されて得られたものを「焙焼小麦ふすま加工品」と称する。
【0025】
前記混合物において、油脂の配合量は15質量%超、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。油脂の配合量の上限は特に限定されないが、60質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。また、前記混合物において、小麦ふすまの配合量は85質量%未満、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。小麦ふすまの配合量の下限は特に限定されないが、40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。油脂の配合量が15質量%以下である場合には、油脂と小麦ふすまとが十分に混合されない場合があり、また、焙焼後に焦げ臭や焦げ味等が感じられ、良好な風味が得られない場合がある。前記混合物において、油脂と小麦ふすまの配合比(油脂:小麦ふすま)は、15超から60以下:85未満から40以上、好ましくは20~50:80~50であり、より好ましくは25~45:75~55であり、さらに好ましくは30~40:70~60である(質量比)。
【0026】
前記混合物の水分含量は、焙焼工程を経て、後述の焙焼小麦ふすま加工品の水分含量の範囲となればよく、特に限定されるものではない。例えば、前記混合物の水分含量は、6質量%未満(例えば、5.9質量%以下、又は5.8質量%以下)、好ましくは5.7質量%以下(例えば、5.6質量%以下、5.5質量%以下、又は5.4質量%以下)、より好ましくは5.3質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、例えば、4.3質量%以下、3.6質量%以下とすることができる。一般的に、小麦ふすまと比べて小麦胚芽に含まれる水分含量は少ないことから、小麦胚芽が配合された小麦ふすまを用いた場合には、小麦ふすまのみの場合と比べて前記混合物の水分含量を少なくすることができる場合がある(例えば、水分含量は2.8質量%未満、好ましくは2.6質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは2.3質量%以下(例えば、2質量%以下、1.7質量%以下)等)。
【0027】
前記混合物の調製においては、小麦ふすまを、予め品温が60℃以上、好ましくは80℃以上に加熱された油脂と混合するのが好ましい。加熱された油脂の品温の上限は、特に限定されないが、例えば110℃以下、好ましくは100℃以下とすることができる。小麦ふすまを予め品温が100℃以上に加熱された油脂と混合することによって、攪拌効率が良くなる。
【0028】
上記焙焼工程の終了後、前記混合物の品温を室温まで冷ますことにより、本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」を得ることができる。前記混合物の品温を冷ます工程は、前記混合物を冷却して品温を急速に下げるのが好ましい。前記混合物の冷却は、従来公知の一般的な方法により行うことができ、例えば、冷蔵庫、冷凍庫、エアブラスト式のトンネルフリーザー、スパイラルフリーザー、ワゴンフリーザーや急速凍結庫、ブライン式のフレキシブルフリーザー等(これらに限定はされない)を用いて行うことができる。冷却工程は、焙焼工程の終了後30分間以内、好ましくは15分間以内に、前記混合物の品温を130℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下に急速に低下させることにより行うことができる。前記混合物を冷却し、急速に品温を低下させることによって、香気成分の消失を抑制することができ、良好な風味を有する焙焼小麦ふすま加工品を得ることができる。
【0029】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」における、油脂の含量は15質量%超、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。油脂の含量の上限は特に限定されないが、60質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。油脂の含量が15質量%以下である場合には、油脂と小麦ふすまとが十分に混合されない場合があり、また、焦げ臭や焦げ味等が感じられ、良好な風味が得られない場合がある。本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」において、油脂の含量は15質量%超60質量%以下、好ましくは20質量%以上50質量%以下、より好ましくは25質量%以上45質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上40質量%以下である。本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」に含まれる油脂には、上述の油脂だけでなく、小麦ふすまや小麦胚芽(小麦胚芽が含まれる場合)に由来する脂質が含まれてもよい。
【0030】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」における、水分含量は5.7質量%未満(例えば、5.6質量%以下、又は5.5質量%以下)、好ましくは5.4質量%以下(例えば、5.3質量%以下、5.2質量%以下、又は5.1質量%以下)、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4.7質量%以下、例えば、4質量%以下、3.5質量%以下、3.3質量%以下、3質量%以下、2.5質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、1質量%以下である。水分含量の下限は特に限定されないが、0質量%超、例えば、0.5質量%以上である。水分含量が5.7質量%以上である場合には、油脂と小麦ふすまとが十分に混合されない場合があり、また、良好な風味が得られない場合がある。本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」において、水分含量は0質量%超5.7質量%未満、好ましくは0質量%超5.4質量%以下、より好ましくは0質量%超5質量%以下、さらに好ましくは0質量%超4.7質量%以下である。一般的に、小麦ふすまと比べて小麦胚芽に含まれる水分含量は少ないことから、小麦胚芽が配合された小麦ふすまを用いた場合には、小麦ふすまのみの場合と比べて「焙焼小麦ふすま加工品」における水分含量を少なくすることができる場合がある(例えば、水分含量は0質量%超2.5質量%未満、好ましくは0質量%超2.3質量%以下、より好ましくは0質量%超2.2質量%以下、さらに好ましくは0質量%超2質量%以下等)。本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」において、水分含量には小麦ふすまに由来する水分だけでなく、油脂や小麦胚芽(小麦胚芽が含まれる場合)に由来する水分が含まれてもよい。
【0031】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」は、上述の焙焼工程に起因して含有量が高められた香気成分を含むことを特徴とする。このような香気成分としては、1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド等が挙げられるが、これらに限定はされない。これら香気成分の含有量の増大は、焙焼工程後の焙焼小麦ふすま加工品の良好な風味に寄与し得る。
【0032】
焙焼小麦ふすま加工品における香気成分の定量は、ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリー(以下、「GC-MS」と記載する)分析法を用いて行うことができる。GC-MS分析法は従来公知の手法により行うことができる。特に、内部標準物質として「4-メチルチアゾール」を使用した、後述の実施例に具体的に記載した試料の調製法、測定条件を用いて好適に行うことができる。
【0033】
本発明の焙焼小麦ふすま加工品において、香気成分の含有量は、所定量の焙焼小麦ふすま加工品に所定量の内部標準物質を加えて、GC-MSで測定した場合の香気成分と内部標準物質とのピーク面積比(「香気成分/内部標準物質比」)で表すことができる。
【0034】
本発明の焙焼小麦ふすま加工品における1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒドの含有量は、焙焼小麦ふすま加工品1gに内部標準として1ppmの4-メチルチアゾール溶液1mLを加えてGC-MSで測定した場合に、1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒドと4-メチルチアゾールとのピーク面積比(以下、「1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド/4-メチルチアゾール比」と記載する)が0.0004超、好ましくは0.0005以上である、より好ましくは0.0007以上、さらに好ましくは0.001以上、よりさらに好ましくは0.002以上(例えば、0.0025以上)である。1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド/4-メチルチアゾール比が0.0004以下である場合には、焙焼が十分ではなく、好ましい風味が十分に得られない場合がある。1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド/4-メチルチアゾール比の上限は特に限定されないが、例えば、0.1以下、0.01以下、0.008以下、0.006以下、又は0.005以下である。本発明の焙焼小麦ふすま加工品における1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド/4-メチルチアゾール比は、0.0004超0.1以下、好ましくは0.0005以上0.01以下、より好ましくは0.0007以上0.008以下、さらに好ましくは0.001以上0.006以下、よりさらに好ましくは0.002以上0.005以下である。
【0035】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」は、ブロック状、フレーク状、粉末状、顆粒状、ペースト状等の任意の形態とすることができる。本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」には、必要に応じて、飲食品の製造において一般的に用いられている、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等を含めることができ、所望の形態へと製造することができる。
【0036】
「賦形剤」としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、ブドウ糖、コーンスターチ、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0037】
「滑沢剤」としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル等のシュガーエステル類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリルアルコール、粉末植物油脂等の硬化油、サラシミツロウ等のロウ類、タルク、ケイ酸、ケイ素等が挙げられる。
【0038】
「結合剤」としては、例えば、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0039】
「崩壊剤」としては、例えば、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0040】
得られた焙焼小麦ふすま加工品は、適当な容器に充填・密封され、加熱殺菌処理等に付された後、提供することができる。
【0041】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」は、ナッツのような小麦らしい香ばしい香りと、コクを有し、一般的な小麦ふすまと比べて増強された小麦の好ましい風味を有する。本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」を食品の製造に用いることで、当該食品に好ましい風味を付与することができる。
【0042】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」は、飲食品の製造において一般的に用いられている、油脂、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、澱粉質原料やその分解物、増粘多糖類、香辛料、調味料等の一又は複数の成分と一緒に含めて、調理用組成物の形態として提供、利用することができる。
【0043】
本発明の焙焼小麦ふすま加工品を含む調理用組成物(以下、「焙焼小麦ふすま調理用組成物」と記載する場合がある)に利用可能な「油脂」、「賦形剤」、「滑沢剤」、「結合剤」、及び「崩壊剤」としては上記定義のものが挙げられる。
【0044】
「澱粉質原料」としては、例えば、澱粉(小麦澱粉、コーンスターチ、コメ澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉、加工澱粉等)、穀粉(小麦粉、コーンフラワー、ライ麦粉、米粉、あわ粉、きび粉、はと麦粉、ひえ粉、蕎麦粉等)等が挙げられ(これらに限定はされない)、また「澱粉質原料の分解物」としては、例えば、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、還元デキストリン、還元マルトデキストリン、多孔性デキストリン等が挙げられる(これらに限定はされない)。
【0045】
「増粘多糖類」としては、例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グアガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、ウェランガム等が挙げられる(これらに限定はされない)。
【0046】
「香辛料」としては、例えば、胡椒、唐辛子、クミン、コリアンダー、カレーパウダー、タイム、セージ、ターメリック、クローブ、フェヌグリーク、ガーリックパウダー、キャラウェー、マスタード、パプリカ等が挙げられる(これらに限定はされない)。
【0047】
「調味料」としては、例えば、砂糖、食塩、うまみ調味料、酸味料、酵母エキス、醤油、野菜ブイヨン、肉エキス、乳製品(バター、粉乳、生クリーム、クリーミングパウダー等)、アミノ酸等が挙げられる(これらに限定はされない)。
【0048】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品を含む調理用組成物」には必要に応じてさらに、飲食品の製造において一般的に用いられている、希釈剤、安定化剤、等張化剤、pH調製剤、緩衝剤、湿潤剤、溶解補助剤、懸濁化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、香料、酸化防止剤等を含めることができる。
【0049】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品を含む調理用組成物」は、その利用態様や用途に合わせて、飲食品の製造において一般的に用いられている方法により、所望される任意の形態(例えば、ブロック状、フレーク状、粉末状、顆粒状、ペースト状等)に製造することができる。
【0050】
一実施形態において、本発明の「焙焼小麦ふすま加工品を含む調理用組成物」は、「ルウ」等の調味組成物として利用することができる。「ルウ」とは、カレー、ビーフシチュー、クリームシチュー、ハヤシライスソース、ハッシュドビーフ、スープカレー、スープ、及びその他各種ソースを調理する際に使用する調理材料を意味する。
【0051】
また、別の態様において、本発明の「焙焼小麦ふすま加工品を含む調理用組成物」は、小麦粉食品を製造する用途に使用される原料組成物として利用することができる。「小麦粉食品」とは、小麦粉に水を加えて作製された「生地」、「ドウ」、「バッター」等を加熱調理して得られる食品を意味し、例えば、パン類、ケーキ類(パウンドケーキ、スポンジケーキ、ホットケーキ等)、焼き菓子(クッキー、サブレ、ビスケット、クラッカー等)、麺類(うどん、中華麺、パスタ(マカロニ、スパゲティ等)等)、皮や衣(餃子の皮、焼売の皮、春巻きの皮、中華まんの皮、てんぷらの衣、カツの衣等)、可食容器(ソフトクリームコーン、モナカ皮、ウエハース等)等が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明の「焙焼小麦ふすま加工品を含む調理用組成物」は、これら食品の「生地」、「ドウ」、「バッター」等を作製する際に原料の一つとして含めることができる。
【0052】
本発明の「焙焼小麦ふすま加工品を含む調理用組成物」は、本発明の「焙焼小麦ふすま加工品」と上述のその他の成分とを、混和、攪拌することにより製造することができる。各成分は全て一緒に混和、攪拌してもよいし、各成分を別々にもしくは任意の組み合わせで順次添加して(順序は問わない)混和、攪拌してもよい。得られた「焙焼小麦ふすま加工品を含む調理用組成物」は、適当な容器に充填・密封され、加熱殺菌処理等に付された後、提供することができる。
【0053】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0054】
1.加工品の調製
(1)調製方法
油脂は、パーム油を利用し、予め品温150℃に加熱して下記調製に用いた。
【0055】
小麦ふすま、小麦胚芽、及び小麦ふすまと小麦胚芽の混合物(以下、「ミックス」と記載する)は、それぞれ「ウィートブランMP」、「ハイギーSP」、及び「ウィートブランMP」(フレッシュフードサービス株式会社)を用いた。
【0056】
油脂と小麦ふすま、小麦胚芽、又はミックスとをそれぞれ、下記表1、表2、表3 に記載の配合で混合し、片手鍋に入れて直火で撹拌しながら、品温150℃まで加熱し、品温150℃到達後はその温度を40~60分間維持して処理した(焙焼工程)。加熱処理後、間接的な水冷によって30分間以内に品温130℃以下まで冷却する工程を経て、室温まで冷ますことによって、各種配合の異なる焙焼小麦ふすま加工品、焙焼小麦胚芽加工品、焙焼小麦ミックス加工品を得た。
【0057】
なお、表1、表2、表3には小麦ふすま、小麦胚芽、及び小麦ミックスに由来する、焙焼工程の前後の水分含量を併記する。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
(2)評価方法
得られた各種加工品について、日頃から訓練を受けた6名のパネラーによって、その混合具合、粘度、香りについて、評価した。また、得られた各種加工品をそれぞれ湯ときして喫食し、その風味を評価した。
【0062】
(3)評価結果
評価結果を、以下の表4、表5、表6に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
これらの結果より、油脂を15質量%超、より詳細には20質量%以上の量で配合し、焙焼工程に付すことによって得られた、所定の含水量を有する小麦ふすまの加工品は、良好な風味を有することが確認された。
【0067】
2.香気成分の測定
焙焼工程の加熱処理による香りや風味への影響を評価すべく、各種加工品における香気成分値の測定を行った。
【0068】
(1)内部標準溶液の作成
内部標準物質として4-メチルチアゾールを用い、内部標準溶液として1ppmの4-メチルチアゾール溶液を作成した。
【0069】
(2)試料の調製
上述の焙焼小麦ふすま加工品(実施例1)の調製において、焙焼工程における加熱品温を100℃、110℃、120℃、130℃、又は140℃とした以外は同じ方法にて各種加工品を調製し、1gをSPMEバイアルに秤量した。そこへ、1ppmの4-メチルチアゾール溶液を1mL加え、混合し、キャップで密閉し、SPME-GCMS分析に供した。同様に、パーム油と小麦ふすまを50:50(質量)で混合した焙焼工程に付されていない(未加熱)小麦ふすま加工品を調製し、固相マイクロ抽出(SPME)-GCMS分析に供した。
【0070】
(3)SPME-GCMS分析条件
分析には、Thermo Fisher Scientific社のGCMS(TRACE1310 Gas Chromatograph,QExactive GC-Orbitrap MS)を使用した。SPMEとして、RESTEK社のRestek PAL SPME Arrow 120um Carbon Wide Range(WR)/PDMSを使用した。ファイバーを密閉したバイアル内で60℃15分間暴露して、揮発成分を吸着させた後に、GCMSへインジェクションした。GCMS条件を次に示す。
【0071】
使用カラム:Thermo Fisher Scientific社のTG-WAXMS(60m×0.25mm、0.25μm)
カラム昇温条件:(i)40℃から昇温開始→(ii)10℃/分の条件で7分間加熱し110℃まで昇温→(iii)2℃/分の条件で35分間加熱し180℃まで昇温→(iv)30℃/分の条件で2.17分間加熱し、245℃まで昇温させて、8.8分間保持させて終了(昇温開始から52.97分経過)
【0072】
(4)ピーク面積比の算出方法
1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒドの代表的なmsフラグメントであるm/z 94.0288(保持時間45.2min)と4-メチルチアゾールの代表的なmsフラグメントであるm/z 99.0137(保持時間14.0min)をイオンクロマトグラム抽出し、それぞれのピーク面積を算出した。下記の計算式を元に、ピーク面積比を算出した。
ピーク面積比=(1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒドのピーク面積)/(4-メチルチアゾールのピーク面積)
【0073】
(5)結果
各試料における、1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒドの各香気成分の測定結果を
図1に示す。各値は、各香気成分と4-メチルチアゾールとのピーク面積比(n=3の平均値)を示す。
【0074】
加熱品温130℃、140℃で処理した焙焼小麦ふすま加工品の1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒド/4-メチルチアゾール比は、それぞれ0.0011、0.0025であり、未加熱の小麦ふすま加工品、加熱品温120℃で処理した焙焼小麦ふすま加工品の当該比0.0002、0.0004より顕著に高い値を示した。
【0075】
これらの結果より、焙焼工程に付されて得られた焙焼小麦ふすま加工品では、香気成分1H-ピロール-2-カルボキシアルデヒドの量が増すことが確認された。焙焼小麦ふすまを含有する焙焼小麦ミックス加工品においても、同様の結果が確認された。