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特開2023-85782圧縮機用リングバルブの試験方法、及び圧縮機用リングバルブの試験装置
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  • 特開-圧縮機用リングバルブの試験方法、及び圧縮機用リングバルブの試験装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085782
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】圧縮機用リングバルブの試験方法、及び圧縮機用リングバルブの試験装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 51/00 20060101AFI20230614BHJP
   F16K 51/00 20060101ALI20230614BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230614BHJP
【FI】
F04B51/00
F16K51/00 F
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200000
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】奥 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 桂
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 剛
(72)【発明者】
【氏名】山本 篤
(72)【発明者】
【氏名】関根 一郎
【テーマコード(参考)】
2G024
3H066
3H145
【Fターム(参考)】
2G024AA15
2G024AD01
2G024CA30
2G024DA12
3H066AA01
3H066BA12
3H066BA15
3H066BA16
3H066BA31
3H145FA03
3H145FA16
3H145FA22
3H145FA23
3H145FA24
(57)【要約】
【課題】圧縮機の稼働条件を再現した環境下でリングバルブを試験できる圧縮機用リングバルブの試験方法、及び圧縮機用リングバルブ試験装置を提供する。
【解決手段】圧縮機用リングバルブの試験方法は、リングバルブ試験装置を用いて圧縮機用のリングバルブを試験する圧縮機用リングバルブの試験方法であって、圧縮機のバルブシートを模した模擬バルブシートと、リングバルブを案内するためのガイドと、模擬バルブシートに向けてリングバルブを付勢するためのスプリングとを含むリングバルブ試験装置にリングバルブを装着する装着工程(S11)と、装着工程の実行によって模擬バルブシートに着座したリングバルブに対して、模擬バルブシートから離隔する離隔方向を向く衝撃力を付与する衝撃力付与工程(S13)と、衝撃力が付与されたリングバルブの応答を示すパラメータを計測する計測工程(S15)とを備える。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングバルブ試験装置を用いて圧縮機用のリングバルブを試験する圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
圧縮機のバルブシートを模した模擬バルブシートと、前記リングバルブを案内するためのガイドと、前記模擬バルブシートに向けて前記リングバルブを付勢するためのスプリングとを含む前記リングバルブ試験装置に前記リングバルブを装着する装着工程と、
前記装着工程の実行によって前記模擬バルブシートに着座した前記リングバルブに対して、前記模擬バルブシートから離隔する離隔方向を向く衝撃力を付与する衝撃力付与工程と、
前記衝撃力が付与された前記リングバルブの応答を示すパラメータを計測する計測工程と
を備える圧縮機用リングバルブの試験方法。
【請求項2】
前記衝撃力付与工程では、前記リングバルブのうちで前記模擬バルブシートと対向する面であるシート面に対して、圧力の印加によって発生する前記衝撃力を付与する
請求項1に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法。
【請求項3】
前記衝撃力付与工程では、前記離隔方向へ移動する前記リングバルブが反対方向への移動を開始する前に、前記衝撃力の付与が終了する
請求項1または2に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法。
【請求項4】
前記衝撃力付与工程では、高圧空間と低圧空間とを仕切る弁を操作することで、前記衝撃力を付与する
請求項1乃至3の何れか1項に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法。
【請求項5】
前記計測工程では、前記リングバルブに取り付けた少なくとも1つのひずみゲージの出力結果に基づき、前記リングバルブで発生するひずみを前記パラメータとして計測する
請求項1乃至4の何れか1項に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法。
【請求項6】
前記計測工程では、前記少なくとも1つのひずみゲージは、前記リングバルブのうち前記模擬バルブシートと対向する面であって、前記スプリングとは反対側に位置する面であるバックシート面に取り付けられる
請求項5に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法。
【請求項7】
前記装着工程では、前記模擬バルブシートと並ぶように配置される模擬バルブバックシートを含む前記リングバルブ試験装置に前記リングバルブを装着し、
前記計測工程では、前記少なくとも1つのひずみゲージは、前記リングバルブのうち前記模擬バルブバックシート側の面であって、前記スプリングと接触する面であるバックシート面に取り付けられる
請求項5に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法。
【請求項8】
前記計測工程では、非接触センサを用いて前記リングバルブの傾きまたは速度の少なくとも一方を計測する
請求項1乃至7の何れか1項に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法。
【請求項9】
圧縮機のバルブシートを模した模擬バルブシートと、
圧縮機用のリングバルブを案内するためのガイドと、
前記模擬バルブシートに向けて前記バルブシートを付勢するためのスプリングと、
前記模擬バルブシートに着座した前記リングバルブに対して、前記模擬バルブシートから離隔する方向を向く衝撃力を付与するように構成される衝撃力付与部と
を備える圧縮機用リングバルブの試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機用リングバルブの試験方法、及び圧縮機用リングバルブの試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リングバルブを備える圧縮機が知られている。例えば、特許文献1に開示される圧縮機は、吸入バルブ及び吐出バルブを備える。吸入バルブと吐出バルブはいずれも、圧縮機に設けられる圧縮室などにおける圧力変動に伴い作動するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5863135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らの知見によれば、圧縮機の稼働時に吸入バルブまたは吐出バルブなどのリングバルブには、上記の圧力変動によって衝撃力が付与される。このときにリングバルブに関する事象を詳らかにできれば、圧縮機の仕様に応じたリングバルブの設計が可能となる。従って、圧縮機の稼働条件を再現した環境下でリングバルブを試験することが望まれる。
【0005】
本開示の目的は、圧縮機の稼働条件を再現した環境下で試験できる圧縮機用リングバルブの試験方法、及び圧縮機用リングバルブの試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リングバルブの試験方法は、
リングバルブ試験装置を用いて圧縮機用のリングバルブを試験する圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
前記圧縮機のバルブシートを模した模擬バルブシートと、前記リングバルブを案内するためのガイドと、前記模擬バルブシートに向けて前記リングバルブを付勢するためのスプリングとを含む前記リングバルブ試験装置に前記リングバルブを装着する装着工程と、
前記装着工程の実行によって前記模擬バルブシートに着座した前記リングバルブに対して、前記模擬バルブシートから離隔する離隔方向を向く衝撃力を付与する衝撃力付与工程と、
前記衝撃力が付与された前記リングバルブの応答を示すパラメータを計測する計測工程と
を備える。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リングバルブの試験装置は、
圧縮機のバルブシートを模した模擬バルブシートと、
圧縮機用のリングバルブを案内するためのガイドと、
前記模擬バルブシートに向けて前記リングバルブを付勢するためのスプリングと、
前記模擬バルブシートに着座した前記リングバルブに対して、前記模擬バルブシートから離隔する方向を向く衝撃力を付与するように構成される衝撃力付与部と
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、圧縮機の稼働条件を再現した環境下で試験できる圧縮機用リングバルブの試験方法、及び圧縮機用リングバルブの試験装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る圧縮機の概念的な断面図である。
図2】第1の実施形態に係る試験装置の概念的な説明図である。
図3】一実施形態に係る供試ユニットの概念的な説明図である。
図4】一実施形態に係る圧縮機用リングバルブの試験方法のフローチャートである。
図5】一実施形態に係る吐出バルブの応答を示すパラメータの概念的なグラフである。
図6】第2の実施形態に係る試験装置の概念的な説明図である。
図7】他の実施形態に係る仕切作動部の概念的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0011】
<1.レシプロ圧縮機10の概要>
図1は、本開示の一実施形態に係るレシプロ圧縮機10(以下、「圧縮機10」という場合がある)の概念的な断面図である。圧縮機10は、例えば、凝縮器及び蒸発器などの複数の熱交換器を含んだ冷凍サイクルに組み込まれる。冷凍サイクルとしては、2元冷凍サイクル、2段圧縮冷凍サイクル、または逆ブレイトン冷凍サイクルなどが挙げられる。この場合、圧縮機10によって圧縮されるガスは冷媒ガスである。他の実施形態では、圧縮機10は内燃機関などに組み込まれてもよく、圧縮機10によって圧縮されるガスは燃焼ガスなどであってもよい。
【0012】
本開示の一実施形態に係る圧縮機10は、クランクケース16と、クランクケース16に収容される複数の気筒40とを備える。各気筒40は、ピストン42が収容されるシリンダ室Scを内側に形成する。各々のピストン42は、クランクケース16に設けられた軸受50によって支持されるクランク軸48に、コネクティングロッド52などを介して接続されている。また、クランク軸48の一端はモータ54に連結されており、モータ54の駆動によって各ピストン42は各気筒40の内部で往復動することができる。
なお、図1で示す例示的な実施形態では、例えば4個または8個などであってもよい複数の気筒40の一部を省略して2個の気筒40を代表的に示している。クランクシャフトのトルク変動を抑えるため、複数の気筒40ではクランクの方向を変えている。気筒40内のピストン42は異なる位相で往復動するようにクランク軸48に接続されている。
【0013】
気筒40の一端側(図1では気筒40の上端側)には、吐出バルブ12を支持するためのバルブプレート44が設けられる。バルブプレート44に形成される開口の内側には、バルブシートの一例であるディスチャージバルブシート70が配置される。ディスチャージバルブシート70は、ボルト68によってバルブケージ66と結合されており、ディスチャージバルブシート70とバルブケージ66との間ではリングバルブとしての吐出バルブ12が保持される。バックシートの一例であるバルブケージ66は、ヘッドスプリング64によって気筒40に向けて付勢されている。また、バルブケージ66に設けられたスプリング穴69に収容されるバルブスプリング67によって、吐出バルブ12はディスチャージバルブシート70に向けて付勢されている。さらに、バルブケージ66には、吐出バルブ12の往復移動を案内するための吐出バルブガイド56が設けられる。吐出バルブガイド56は、バルブケージ66の周方向に延在する壁面であり、バルブケージ66の径方向の一方側(図1の例では径方向の内側)を向く。
【0014】
本開示の一実施形態に係る圧縮機10は、気筒40の周囲に設けられるリングバルブとしての吸入バルブ63と、吸入バルブ63が着座するように構成される吸入バルブシート61をさらに備える。吸入バルブシート61はバルブシートの一例である。吸入バルブ63に対して吸入バルブシート61とは反対側には、バックシートの一例である吸入バックシート71が設けられる。吸入バックシート71には、吸入バルブ63の往復移動を案内するための吸入バルブガイド57が設けられる。本実施形態の吸入バルブガイド57は、吸入バックシート71の周方向に延在する壁面であり、吸入バックシート71の径方向の一方側(図1の例では径方向外側)を向く。なお、圧縮機10は、吸入バルブ63を吸入バルブシート61に押し当てる吸入バルブスプリング(図示外)を備えてもよい。吸入バルブスプリングは、例えば吸入バルブ63と対向して接触するプレート形状を呈し、吸入バルブ63と吸入バックシート71との間に配置される。
【0015】
図1で示される圧縮機10の動作概要は以下の通りである。モータ54の駆動に伴いピストン42が下降してシリンダ室Sc内の密閉空間が減圧されると、気筒40の外側に形成されている吸入空間Siの圧力が密閉空間の圧力を一定程度上回る。吸入バルブシート61に着座していた吸入バルブ63が押し上げられ、吸入バックシート71に衝突する。このとき、吸入空間Siにあるガスが吸入バルブシート61を通ってシリンダ室Scに吸入される。その後、ピストン42が下降を終えて上昇を開始する。ピストン42によってガスが圧縮されて密閉空間が加圧される結果、吸入バルブ63は押し下げられて吸入バルブシート61に着座する。ピストン42がさらに上昇して密閉空間の圧力が吐出空間Sdの圧力を一定程度上回ると、吐出バルブ12がディスチャージバルブシート70から押し上げられ、バルブケージ66に衝突する。このとき、シリンダ室Scにある圧縮ガスは吐出空間Sdに吐出される。その後ピストン42が下降を始めると、シリンダ室Scの密閉空間の圧力が減圧され、吐出バルブ12は、バルブスプリング67に付勢されてディスチャージバルブシート70に着座する。
【0016】
本例の圧縮機10が上記のように動作する場合、吐出バルブ12は、ディスチャージバルブシート70及びバルブケージ66との衝突を繰り返し、吸入バルブ63は、吸入バルブシート61及び吸入バックシート71との衝突を繰り返す。これらの衝突の周期はいずれも、ピストン42の往復動作の周期と同じである。つまり、吐出バルブ12及び吸入バルブ63は短時間の間に非常に多くの衝突を繰り返す。この衝突においてバルブで発生する応力が過大であると、バルブが破損に至るおそれがある。従って、圧縮機10が規定の仕様を発揮するためには、衝突に伴いこれらバルブにおいて発生する応力を正確に把握する必要がある。また、衝突が発生するときのこれらバルブの速度または傾き(姿勢)も併せて正確に把握し、こういった類の情報が、衝突に耐えうるバルブの設計に活用されることが好ましい。そこで本開示では、圧縮機用リングバルブの試験装置1(以下、単に「試験装置1」という場合がある)が用意される。以下の説明では、第1の実施形態に係る試験装置1A(1)と、第2の実施形態に係る試験装置1B(1)とが用意される。以下、順にその詳細を例示する。
【0017】
<2.第1の実施形態に係る試験装置1A>
図2図5を参照し、吐出バルブ12を試験するように構成された、第1の実施形態に係る試験装置1A(1)を例示する。図2は、第1の実施形態に係る試験装置1A(1)の概念的な説明図である。図3は、本開示の一実施形態に係る供試ユニット101A(101)の概念的な説明図である。図4は、本開示の一実施形態に係る圧縮機用リングバルブの試験方法のフローチャートである。図5は、本開示の一実施形態に係る吐出バルブ12の応答を示すパラメータの概念的なグラフである。
【0018】
図2に示すように、本実施形態の試験装置1Aは、供給源20、衝撃力付与部80、及び供試ユニット101A(101)を備える。供給源20は、例えば空気などであってもよいガスを高圧状態にして貯留する。供給源20は、ガスを貯留する代わりに液体を貯留してもよい。該液体は、供給源20から排出される過程でガスに変化する。
【0019】
本開示の一実施形態に係る衝撃力付与部80は、衝撃波管ユニット(ショックチューブユニット)である。衝撃力付与部80は、供給源20に接続されるガス供給ライン81と、ガス供給ライン81からガスが供給される配管85とを備える。図2で例示されるガス供給ライン81には、上流側から順に、圧力調整弁89及び遮断弁88が設けられる。配管85は、供給源20から供給されるガスを高圧の状態で蓄積するように構成される高圧配管85Hと、高圧配管85Hの下流側(図2の例では右側)に配置される低圧配管85Lとを含む。高圧配管85Hの内部空間である高圧空間Shと、低圧配管85Lの内部空間である低圧空間Slは、仕切作動部87A(87)によって仕切られる。仕切作動部87Aが作動することによって、高圧空間Shと低圧空間Slは互いに連通するようになる。一例として仕切作動部87Aは弾性を有するシート材であり、作動に伴い破裂するように構成される。より具体的な一例として、仕切作動部87Aはメンブレンである。
【0020】
図3で例示されるように、本開示の一実施形態に係る供試ユニット101Aは、圧縮機10のディスチャージバルブシート70(図1参照)を模した模擬バルブシート105A(105)と、バルブケージ66を模した模擬バルブバックシート109A(109)とを備える。模擬バルブシート105Aと模擬バルブバックシート109Aは、それぞれの軸線方向が互いに平行になるよう、並んで配置されており、これらのシートの間に吐出バルブ12が配置される。模擬バルブシート105Aは、低圧配管85Lの下流端(図2の例では右端)に接続されており、低圧空間Slから排出されるガスを吐出バルブ12に案内するように構成される。
【0021】
本例の模擬バルブシート105Aは、ディスチャージバルブシート70に対して供試用の追加工が施されることで得られる。具体的な一例として、模擬バルブバックシート109Aとは反対側に向けて開放されたシート孔195が模擬バルブシート105Aに設けられている点で、模擬バルブシート105Aとディスチャージバルブシート70は互いに異なる。本例では、模擬バルブシート105Aと模擬バルブバックシート109Aを互いに結合させる締結部材115の軸部は、シート孔195から露出している。締結部材115には、軸方向に開放された孔115Aが形成されている。また、本例の模擬バルブバックシート109Aは、バルブケージ66に対して供試用の追加工が施されることで得られる。具体的な一例として、模擬バルブシート105Aとは反対側に向けて開口するバックシート孔199が模擬バルブバックシート109Aに設けられている点で、模擬バルブバックシート109Aとバルブケージ66は互いに異なる。
【0022】
また、バックシート孔199は、模擬バルブシート105A側に向けても開口しており、その内側には非接触センサ160が取り付けられる。非接触センサ160は、吐出バルブ12までの距離に応じた信号を出力するように構成され、プロセッサ及びメモリを含む演算装置170に接続されている。非接触センサ160は、一例として渦電流式変位センサである。なお、非接触センサ160は、超音波センサまたはレーザ距離センサなどであってもよい。
【0023】
非接触センサ160は信号を継続的に出力するように構成される。従って、演算装置170は、非接触センサ160の出力結果の経時的な変化に基づいて、往復移動する吐出バルブ12の速度を取得することも可能である。さらに本実施形態では、詳細な図示は省略するが、模擬バルブバックシート109Aの周方向に沿ってバックシート孔199は複数(より具体的には3つ)設けられ、各バックシート孔199の内側に非接触センサ160が設けられている。従って、吐出バルブ12を構成する複数の部位のそれぞれにおける位置を演算装置170は取得する。つまり、演算装置170は、往復移動する吐出バルブ12の傾き(姿勢)を取得することも可能である。
【0024】
本開示の一実施形態に係る供試ユニット101Aは、さらに、吐出バルブ12を案内するためのガイド106A(106)と、模擬バルブシート105Aに向けて吐出バルブ12を付勢するためのスプリング108Aとを備える。ガイド106Aは、既述の吐出バルブガイド56(図1参照)と略同一形状であり、スプリング108Aは、既述したバルブスプリング67(図1参照)と略同一形状である。以上の構成によって、供試ユニット101Aは、吐出バルブ12が圧縮機10の稼働時に動作する環境を再現することができる。
【0025】
本実施形態では、吐出バルブ12のうちで、模擬バルブシート105Aと対向する面であって、スプリング108Aとは反対側の面であるシート面39Aに、少なくとも1つのひずみゲージ130が設けられる。より具体的には、複数のひずみゲージ130が、吐出バルブ12の周方向に沿って等間隔に配置されている。ひずみゲージ130の個数は一例として10個以上である。各ひずみゲージ130は、配線136を介して演算装置170に接続されている。吐出バルブ12のひずみは吐出バルブ12で発生する応力と相関する。従って、演算装置170は、少なくとも1つのひずみゲージ130の出力結果に基づき吐出バルブ12で生じるひずみを計測することで、吐出バルブ12で生じる応力を演算により求めることができる。なお、配線136の一部は、上述した締結部材115に形成される孔115Aの内側に配置されており、孔115Aから外部に引き出された配線136が演算装置170に接続されている。
【0026】
図4を参照して、試験装置1A(1)を用いて吐出バルブ12を試験する圧縮機用リングバルブの試験方法を例示する。以下の説明では、ステップを「S」と略記する場合がある。はじめに、試験装置1Aに吐出バルブ12を装着する装着工程が実行される(S11)。具体的には図3に示すように、吐出バルブ12は、模擬バルブシート105Aと模擬バルブバックシート109Aとの間に配置され、且つ、スプリング108Aによって付勢される。これにより、吐出バルブ12は模擬バルブシート105Aに着座し、吐出バルブ12の装着は完了する。このとき、複数のひずみゲージ130が吐出バルブ12のシート面39Aに取り付けられる。
【0027】
次いで図4に示すように、装着工程の実行によって模擬バルブシート105Aに着座した吐出バルブ12に対して、模擬バルブシート105Aから離隔する離隔方向を向く衝撃力を付与する衝撃力付与工程が実行される(S13)。
【0028】
例えば、図2に例示される仕切作動部87Aが作動して、高圧空間Shと低圧空間Slは互いに連通するようになる。より詳細な一例として、仕切作動部87Aがメンブレンである実施形態では、例えば高圧空間Shと低圧空間Slとの圧力差が規定値以上になるとメンブレンが破裂する。高圧配管85Hから低圧配管85Lに瞬時的にガスが流れて、低圧空間Slの圧力は印加される(このとき圧力調整弁89は、高圧空間Shにおける圧力の変化速度を調整する機能を果たす)。圧力印加により生じた衝撃波が、模擬バルブシート105を経由して吐出バルブ12に伝わる。吐出バルブ12のシート面39Aには、模擬バルブシート105Aから離隔する離隔方向(矢印S)を向く衝撃力が付与される。吐出バルブ12は、ガイド106Aによって案内されながら、離隔方向へ移動する。
なお、メンブレンが破裂する圧力差である上記の規定値は、例えば、メンブレンの膜厚、硬さ、または剛性などに応じて定まる。つまり、低圧空間Slにおける印加圧力は、メンブレンの特性値に基づき定まる。
他の実施形態では、圧力調整弁89が操作されることで高圧空間Shにおける圧力が規定圧力に達した後、仕切作動部87Aを作動させ(例えばメンブレンを電熱線または針などで破裂させ)、低圧空間Slの圧力を印加してもよい。
【0029】
なお、衝撃力が付与された直後、遮断弁88は開状態から閉状態に切り替わり、吐出バルブ12への衝撃力の付与は終了する。より詳細には、高圧配管85Hに設けられた圧力計が下がりはじめてから規定時間が経過したことを条件に遮断弁88は閉状態に切り替わる。従って、遮断弁88はコントローラ(図示外)によって制御されることが好ましい。
【0030】
図4に示すように、衝撃力が付与された吐出バルブ12の応答を示すパラメータを計測する計測工程が実行される(S15)。本例では、応答を示すパラメータとして、吐出バルブ12のひずみと、吐出バルブ12の位置とが計測される。演算装置170は、ひずみゲージ130の出力結果に基づき吐出バルブ12のひずみを取得し、非接触センサ160の出力結果に基づき吐出バルブ12の位置を取得する。これにより、吐出バルブ12で発生する応力と、往復移動する吐出バルブ12の傾き(姿勢)及び速度とが特定される。
【0031】
図3を参照し、計測工程が実行されるときの吐出バルブ12の動作を説明する。衝撃力の付与によって模擬バルブシート105Aから離隔した吐出バルブ12は、スプリング108Aの付勢力に抗ってガイド106Aによって案内されながら移動し、模擬バルブバックシート109Aに衝突する(本例ではこの衝突前に、上述の遮断弁88は閉状態への切替えを終えている)。その後、スプリング108Aの付勢力によって吐出バルブ12の移動方向は切り替わり、吐出バルブ12は反対方向への移動を開始する。ガイド106Aによって案内されながら反対方向に移動する吐出バルブ12は、模擬バルブシート105Aに衝突する。吐出バルブ12は、さらにその後、模擬バルブバックシート109Aに向かって跳ね返る。このように、吐出バルブ12が模擬バルブバックシート109Aと模擬バルブシート105Aとに対して順に衝突をするとき、上記のパラメータが計測される。
【0032】
パラメータの計測結果は、図5において概念的に示される。同図では、吐出バルブ12に付与される衝撃力の経時的な変化が上段のグラフで示される。また、非接触センサ160の出力結果の経時的変化が中段のグラフで、ひずみゲージ130の出力結果の経時的変化が下段のグラフでそれぞれ示される。本実施形態では、非接触センサ160は3つ設けられ、ひずみゲージ130は10個以上設けられるが、概念図としての図5では、各々の計測結果を代表的に1つずつ示す。
【0033】
同図で示されるtfは、遮断弁88の作動タイミングであり、吐出バルブ12に対する衝撃力の付与が終了するタイミングである。上述したようにtfは、衝撃力を付与された吐出バルブ12が移動方向を離隔方向から反対方向に切り替えるタイミング(t1)よりも前のタイミングである。コントローラ(図示外)は、高圧空間Shにおける圧力低下を圧力計の出力結果に基づき検知してから規定時間経過後に遮断弁88を閉状態に切り替える。この規定時間が一例として、供試ユニット101Aの固有周期の1/4以上且つ1/2以下に設定されることで、tfはt1よりも前になる。なお、固有周期は、吐出バルブ12の質量、吐出バルブ12に作用する衝撃力、及びスプリング108Aのバネ定数などに基づき予め算出することが可能である。他の実施形態では、上述の規定時間は、圧縮機10のピストン42の周期の1/4以上且つ1/2以下に設定されてもよい。遮断弁88は、吐出バルブ12が往復移動を終えて停止するまで閉状態を維持する。つまり、衝撃力の付与は、吐出バルブ12の往復移動を終えて停止するまで再開されない。
【0034】
tfよりも後のタイミングを示すt1において、吐出バルブ12は模擬バルブバックシート109Aに衝突し、t2によって示されるタイミングにおいて吐出バルブ12は模擬バルブシート105Aに衝突する。そして、それぞれの衝突に応じて、吐出バルブ12のひずみは瞬時的にピークになる。演算装置170は、ひずみゲージ130と非接触センサ160のそれぞれの出力結果に基づき、衝突が起きたときの吐出バルブ12で発生する応力、及び、衝撃力が付与されてから吐出バルブ12の衝突が起こるまでの時間、衝突が起こるときの吐出バルブ12の傾き(姿勢)を取得することができる。つまり、衝突が起こるときの吐出バルブ12に関する事象を詳らかにできる。
【0035】
上記構成によれば、試験装置1Aに装着された吐出バルブ12に対して衝撃力が付与されると、吐出バルブ12は、模擬バルブシート105Aから離隔した後にスプリング108Aによる付勢力によって模擬バルブシート105Aに衝突する。計測工程(S15)では、吐出バルブ12が模擬バルブシート105Aに衝突するまでの応答を示すパラメータとして、吐出バルブ12のひずみと吐出バルブ12の位置(速度及び傾き)とを取得する。よって、圧縮機10の稼働条件を再現した環境下で吐出バルブ12を試験できる圧縮機用リングバルブの試験方法が実現する。計測工程によって取得されたパラメータである吐出バルブ12のひずみ(応力)と吐出バルブ12の位置(速度及び傾き)は、吐出バルブ12の設計に反映され、所望の機能を発揮することができる吐出バルブ12の開発に寄与できる。
【0036】
また、衝撃力付与工程(S13)では、吐出バルブ12のシート面39Aに対して、低圧空間Slにおける圧力の印加によって発生する衝撃力が付与される。上記構成によれば、実際の圧縮機10が稼働するときに気筒40での圧力変動によって生じる衝撃力を衝撃力付与工程で再現することができる。よって、圧縮機10の稼働条件をより忠実に再現することができる。また、圧縮機10の稼働時には吐出バルブ12が傾いた姿勢で往復動し得ることが発明者らによって確認されており、衝撃力付与工程ではこのような吐出バルブ12の動作を再現することができる。
【0037】
また、衝撃力付与工程(S13)では、離隔方向へ移動する吐出バルブ12が反対方向への移動を開始する前に、衝撃力の付与が終了する。発明者らの知見によれば、実際の圧縮機10が稼働するとき、気筒40の内部で繰り返される圧力変動によって往復移動を続ける吐出バルブ12は、周方向に回転する傾向にある。上記構成によれば、吐出バルブ12に衝撃力を付与する時間が短時間になるので、衝撃力が比較的長い時間に亘り付与されるときに発生しうる、吐出バルブ12の周方向の回転を抑制することができる。これにより、吐出バルブ12の計測を安定的に実行することができる。例えば、吐出バルブ12の周方向の回転が抑制されるので、ひずみゲージ130に接続される配線136の絡みつき又は断線を回避できる。よって、ひずみの計測を安定的に実行することができる。
【0038】
また、計測工程(S15)では、吐出バルブ12に取り付けた少なくとも1つのひずみゲージ130の出力結果に基づき、吐出バルブ12で発生するひずみをパラメータとして計測する。上記構成によれば、吐出バルブ12で発生する衝撃応力を取得でき、吐出バルブ12の開発に活用することができる。
【0039】
また、計測工程(S15)では、少なくとも1つのひずみゲージ130は、吐出バルブ12のシート面39Aに取り付けられる。上記構成によれば、衝撃力付与工程の実行に伴って吐出バルブ12が周方向に回転する場合であっても、ひずみゲージ130に取り付けられる配線136とスプリング108Aとの干渉を抑制することができる。よって、安定的な計測を実行することができる。
【0040】
また、計測工程(S15)では、非接触センサ160を用いて吐出バルブ12の傾きまたは速度の少なくとも一方を計測する。上記構成によれば、衝撃力を付与される吐出バルブ12の詳細な挙動を把握することができ、吐出バルブ12の開発に活用することができる。
【0041】
<3.第2の実施形態に係る試験装置1B>
図6を参照し、吸入バルブ63を試験するように構成された、第2の実施形態に係る試験装置1B(1)を例示する。図6は、第2の実施形態に係る試験装置1Bの概略的な説明図である。以下では、試験装置1Aと共通する構成についての説明を省略または簡略化する。
【0042】
試験装置1Bは、供試ユニット101A(図3参照)に代えて、供試ユニット101B(101)を備える。供試ユニット101Bは、圧縮機10の吸入バルブシート61を模した模擬バルブシート105B(105)と、吸入バックシート71を模した模擬バルブバックシート109B(109)と、吸入バルブ63の往復移動を案内するためのガイド106Bとを備える。ガイド106Bは、吸入バルブガイド57(図1参照)と略同一形状であり、模擬バルブシート105Bは、吸入バルブシート61と略同一形状である。模擬バルブバックシート109Bは、吸入バックシート71に供試用の追加工を施すことで得られる。具体的には、模擬バルブバックシート109Bには、周方向に配列される複数のバックシート孔197が設けられる。複数のバックシート孔197のいずれかには、非接触センサ160が設けられ、別のバックシート孔197には、ひずみゲージ130に接続される配線136が引き出されている。
【0043】
本実施形態では、模擬バルブシート105Bと模擬バルブバックシート109Bとの間に設けられた吸入バルブ63のうちで、模擬バルブシート105Bとは反対側の面であるバックシート面38Bに、少なくとも1つのひずみゲージ130が設けられる。ひずみゲージ130に接続される配線136は、バックシート孔197の内側から外部に引き出されている。吸入バルブ63が模擬バルブシート105Bと模擬バルブバックシート109Bとの間で往復移動するとき、ひずみゲージ130はバックシート孔197の内側に進入するので、ひずみゲージ130と模擬バルブバックシート109Bとの衝突は回避される。
【0044】
また、バックシート面38Bと模擬バルブバックシート109Bとの間であって、ひずみゲージ130を避けた位置には、圧縮機10の吸入バルブスプリング(図示外)と同一形状のスプリング(図示外)が設けられてもよい。このスプリングは、バックシート面38Bに接触する。
【0045】
試験装置1Bにおいても、既述の方法によって、吸入バルブ63に対して衝撃力を付与することが可能である。また、衝撃力が付与された吸入バルブ63の応答を示すパラメータであるひずみと、吸入バルブ63の位置(速度及び傾き)を取得することができる。説明の重複を避けるため、その詳細な説明は省略する。
【0046】
少なくとも1つのひずみゲージ130は、バックシート面38Bに取り付けられる。上記構成によれば、衝撃力付与工程(S13)の実行に伴って模擬バルブバックシート109Bまたは模擬バルブシート105Bの少なくともいずれかに衝突した吸入バルブ63において発生する応力を正確に計測することができる。よって、吸入バルブ63の開発に活用することができる。
【0047】
<4.他の実施形態に係る仕切作動部87の例示>
図7は、他の実施形態に係る仕切作動部87B(87)の概念的な説明図である。仕切作動部87Bは、高圧空間Shと低圧空間Slとを仕切る弁である。より具体的には、仕切作動部87B(87)は、スリーブ92と、スリーブ92の内部を往復動するように構成されるスプール95と、スリーブ92の内部でスプール95と連結するバネ91とを備える往復式のスプール弁である。スリーブ92は、ガス供給ライン81から分岐する分岐ライン99と接続されており、分岐ライン99に設けられる圧力調整弁98によって、スリーブ92の内部圧力は調整可能である。仕切作動部87Bの作動部97が押圧されて、スプール95がバネ91の弾性変形量を増大させるように移動すると、高圧空間Shと低圧空間Slは連通するようになり、吐出バルブ12または吸入バルブ63に衝撃力が付与される。その直後、バネ91の復元力によって、スプール95は作動部97と共に逆方向に移動し、高圧空間Shと低圧空間Slは互いに非連通となる。なお、仕切作動部87Bは、往復式のスリーブ弁である代わりに、スプール95がスリーブ92の軸方向回りに回転する回転式のスプール弁であってもよい。
【0048】
衝撃力付与工程(S13)では、高圧空間Shと低圧空間Slとを仕切る弁である仕切作動部87Bを操作することで、吐出バルブ12または吸入バルブ63に衝撃力が付与される。上記構成によれば、所望のタイミングで複数回に亘って吐出バルブ12または吸入バルブ63に衝撃力を付与することができる。よって、メンブレンの交換作業が発生しないので、吐出バルブ12の応答パラメータを効率的に取得することができる。よって、試験を効率化することができる。
【0049】
本開示は、以上説明した幾つかの実施形態に限定されない。第1の実施形態に係る試験装置1Aにおいて、ひずみゲージ130の取り付け位置は、吐出バルブ12のうちシート面39Aとは反対側の面であってもよい。あるいは、第2の実施形態に係る試験装置1Bにおいて、吸入バルブ63のうちバックシート面38Bとは反対側の面にひずみゲージ130が取り付けられてもよい。この場合、ひずみゲージ130の配線136を配置するためのシートバルブ孔(図示外)が、模擬バルブシート105Bに供試用の追加工が施されることで設けられてもよい。また、衝撃力の付与は、低圧空間Slにおける圧力の印加によって行われる代わりに、インパルスハンマまたは加振機が用いられてもよい。
【0050】
<5.まとめ>
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0051】
1)本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リングバルブの試験方法は、
リングバルブ試験装置(1)を用いて圧縮機用のリングバルブ(吐出バルブ12、吸入バルブ63)を試験する圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
圧縮機(10)のバルブシート(ディスチャージバルブシート70、吸入バルブシート61)を模した模擬バルブシート(105)と、前記リングバルブを案内するためのガイド(106A、106B)と、前記模擬バルブシートに向けて前記リングバルブを付勢するためのスプリング(108A)とを含む前記リングバルブ試験装置(1)に前記リングバルブを装着する装着工程(S11)と、
前記装着工程の実行によって前記模擬バルブシートに着座した前記リングバルブに対して、前記模擬バルブシートから離隔する離隔方向を向く衝撃力を付与する衝撃力付与工程(S13)と、
前記衝撃力が付与された前記リングバルブの応答を示すパラメータを計測する計測工程(S15)と
を備える。
【0052】
上記1)の構成によれば、リングバルブ試験装置に装着されたリングバルブに対して衝撃力が付与されると、リングバルブは模擬バルブシートから離隔した後にスプリングによる付勢力によって模擬バルブシートに衝突する。計測工程では、リングバルブが模擬バルブシートに衝突するまでの応答を示すパラメータを取得する。よって、圧縮機の稼働条件を再現した環境下で試験できる圧縮機用リングバルブの試験方法が実現する。計測工程によって取得されたパラメータは、リングバルブの設計に反映され、所望の機能を発揮することができるリングバルブの開発に寄与できる。
【0053】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
前記衝撃力付与工程では、前記リングバルブのうちで前記模擬バルブシートと対向する面であるシート面(39A)に対して、圧力の印加によって発生する前記衝撃力を付与する。
【0054】
上記2)の構成によれば、実際の圧縮機が稼働するときに圧力変動によって生じる衝撃力を衝撃力付与工程で再現することができる。よって、圧縮機の稼働条件をより忠実に再現することができる。例えば、圧縮機の稼働時にはリングバルブが傾いた姿勢で往復動することが発明者らによって確認されており、衝撃力付与工程ではこのようなリングバルブの動作を再現することができる。
【0055】
3)幾つかの実施形態では、上記1)または2)に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
前記衝撃力付与工程では、前記離隔方向へ移動する前記リングバルブが反対方向への移動を開始する前に、前記衝撃力の付与が終了する。
【0056】
発明者らの知見によれば、実際の圧縮機が稼働するときに、断続的な圧力変動によってリングバルブは周方向に回転する傾向にある。上記3)の構成によれば、リングバルブに衝撃力を付与する時間が短時間になる。従って、衝撃力が比較的長い時間帯に亘り付与されるときに発生しうる、リングバルブの周方向の回転を抑制することができる。これにより、リングバルブの試験を容易化させることができる。
【0057】
4)幾つかの実施形態では、上記1)から3)のいずれかに記載の圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
前記衝撃力付与工程では、高圧空間(Sh)と低圧空間(Sl)とを仕切る弁(仕切作動部87B)を操作することで、前記衝撃力を付与する。
【0058】
上記4)の構成によれば、所望のタイミングで複数回に亘ってリングバルブに衝撃力を付与することができる。よって、試験を効率化することができる。
【0059】
5)幾つかの実施形態では、上記1)から4)のいずれかに記載の圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
前記計測工程では、前記リングバルブに取り付けた少なくとも1つのひずみゲージ(130)の出力結果に基づき、前記リングバルブで発生するひずみを前記パラメータとして計測する。
【0060】
上記5)の構成によれば、衝突が発生する時にリングバルブにおいて発生する衝撃応力を取得でき、リングバルブの開発に活用することができる。
【0061】
6)幾つかの実施形態では、上記5)に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
前記計測工程では、前記少なくとも1つのひずみゲージは、前記リングバルブのうち前記模擬バルブシートと対向する面であって、前記スプリングとは反対側に位置する面であるバックシート面(38B)に取り付けられる。
【0062】
上記6)の構成によれば、衝撃力付与工程の実行に伴ってリングバルブが周方向に回転する場合であっても、ひずみゲージに取り付けられる配線(136)と、スプリングとの干渉を抑制することができる。
【0063】
7)幾つかの実施形態では、上記5)に記載の圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
前記装着工程では、前記模擬バルブシートと並ぶように配置される模擬バルブバックシート(109)を含む前記リングバルブ試験装置に前記リングバルブを装着し、
前記計測工程では、前記少なくとも1つのひずみゲージは、前記リングバルブのうち前記模擬バルブバックシート側の面であって、前記スプリングと接触する面であるバックシート面(38B)に取り付けられる。
【0064】
上記7)の構成によれば、衝撃力付与工程の実行に伴って模擬バルブバックシートに衝突したリングバルブにおいて発生する応力を正確に計測することができる。よって、リングバルブの開発に活用することができる。
【0065】
8)幾つかの実施形態では、上記1)から7)のいずれかに記載の圧縮機用リングバルブの試験方法であって、
前記計測工程では、非接触センサ(160)を用いて前記リングバルブの傾きまたは速度の少なくとも一方を計測する。
【0066】
上記8)の構成によれば、衝撃力を付与されるリングバルブの詳細な挙動を把握することができ、リングバルブの開発に活用することができる。
【0067】
9)本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リングバルブの試験装置(1)
圧縮機(10)のバルブシート(ディスチャージバルブシート70、吸入バルブシート61)を模した模擬バルブシート(105)と、
圧縮機用のリングバルブ(吐出バルブ12、吸入バルブ63)を案内するためのガイド(106A、106B)と、
前記模擬バルブシートに向けて前記バルブシートを付勢するためのスプリング(108A)と、
前記模擬バルブシートに着座した前記リングバルブに対して、前記模擬バルブシートから離隔する方向を向く衝撃力を付与するように構成される衝撃力付与部(80)と
を備える。
【0068】
上記9)の構成によれば、模擬バブルシートに着座したリングバルブに対して衝撃力が付与されると、リングバルブは模擬バルブシートか離隔した後にスプリングによる付勢力によって模擬バルブシートに衝突する。よって、圧縮機の稼働条件を再現した環境下で試験できるリングバルブ試験装置(1)が実現する。
【符号の説明】
【0069】
1 :圧縮機用リングバルブの試験装置(試験装置)
10 :圧縮機
12 :吐出バルブ(リングバルブ)
38B :バックシート面
39A :シート面
80 :衝撃力付与部
105 :模擬バルブシート
106A :ガイド
106B :ガイド
108 :スプリング
109 :模擬バルブバックシート
130 :ひずみゲージ

Sh :高圧空間
Sl :低圧空間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7