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  • 特開-細胞評価方法および細胞評価装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086104
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】細胞評価方法および細胞評価装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20230614BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230614BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/34 A
C12M3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186861
(22)【出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021200380
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】井上 彩織
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA01
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR69
4B063QR90
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】線状構造を有する細胞について、より優れた細胞を選別する。
【解決手段】線状構造を有する細胞を撮像して画像を取得する、撮像ステップと、前記画像から、前記細胞の細胞体から延伸する線状部の成長状態を示すデータを取得する、データ取得ステップと、前記データから前記線状部の成長状態を判定する、判定ステップと、を含む、細胞評価方法であって、前記データは、前記画像を処理することにより算出される、前記線状部の面積占有率および到達距離のデータを含む、細胞評価方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状構造を有する細胞を撮像して画像を取得する、撮像ステップと、
前記画像から、前記細胞の細胞体から延伸する線状部の成長状態を示すデータを取得する、データ取得ステップと、
前記データから前記線状部の成長状態を判定する、判定ステップと、
を含む、細胞評価方法であって、
前記データは、前記画像を処理することにより算出される、前記線状部の面積占有率および到達距離のデータを含む、細胞評価方法。
【請求項2】
前記線状構造を有する細胞は神経細胞であり、
前記細胞体から延伸する線状部は樹状突起および/または軸索である、請求項1に記載の細胞評価方法。
【請求項3】
前記判定ステップは、
線状部の成長段階とその面積占有率および到達距離が関連付けられた線状部データベースに基づいた機械学習により、前記データから、前記細胞の予測成長度を表すスコアを算出することを含む、請求項1に記載の細胞評価方法。
【請求項4】
前記データは、細胞体形状の画像データをさらに含み、
前記判定ステップは、
細胞体の成長段階とその形状が関連付けられた細胞体形状データベースに基づいた機械学習により、前記細胞体形状の画像データから、前記神経細胞の成長状態を判定することを含む、請求項2に記載の細胞評価方法。
【請求項5】
前記判定ステップは、
神経線維とその特性が関連付けられた神経線維データベースに基づいた機械学習により、前記データから、前記神経細胞の成長状態を判定することを含む、請求項2に記載の細胞評価方法。
【請求項6】
線状構造を有する細胞を撮像して画像を取得する、撮像部と、
前記画像から、前記細胞の細胞体から延伸する線状部の成長状態を示すデータを取得する、データ取得部と、
前記データから前記線状部の成長状態を判定する、判定部と、
を含む、細胞評価装置であって、
前記データは、前記画像を処理することにより算出される、前記線状部の面積占有率および到達距離のデータを含む、細胞評価装置。
【請求項7】
前記線状構造を有する細胞は神経細胞であり、
前記細胞体から延伸する線状部は樹状突起および/または軸索である、請求項6に記載の細胞評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞評価方法および細胞評価装置に関し、特に、線状構造を有する細胞の成長状態を判定する細胞評価方法および細胞評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、神経細胞等の線状構造を有する細胞については、染色し、目視での観察によりその成長状態を評価していた。しかしながら、染色することにより細胞がダメージを受けること、目視での観察による評価は客観性に欠ける場合があること等が課題となっていた。
近年、撮像画像からオブジェクトを抽出し、神経突起の長さや面積を用いて、神経細胞の生育状態を判定する細胞評価方法が検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-207993号公報
【特許文献2】特開2021-27836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らにより更なる検討が進められた結果、細胞の情報伝達のためには、神経細胞については、樹状突起および/または軸索から構成される神経線維(神経突起)は、太く、本数が多く、広がりをもつことが重要となる。このことから、神経細胞における神経線維の面積占有率と先端位置を評価することで、より情報伝達に優れた神経細胞を選別することが可能となることが判明した。
【0005】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、線状構造を有する細胞について、より優れた細胞を選別する細胞評価方法および細胞評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであって、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の第1の態様は、線状構造を有する細胞を撮像して画像を取得する、撮像ステップと、前記画像から、前記細胞の細胞体から延伸する線状部の成長状態を示すデータを取得する、データ取得ステップと、前記データから前記線状部の成長状態を判定する、判定ステップと、を含む、細胞評価方法であって、前記データは、前記画像を処理することにより算出される、前記線状部の面積占有率および到達距離のデータを含む、細胞評価方法である。
このような方法により、神経細胞や毛髪細胞のような線状構造を有する細胞について、より優れた細胞を選別することができる。
【0007】
また、上記態様では、前記線状構造を有する細胞は神経細胞であり、前記細胞体から延伸する線状部は樹状突起および/または軸索であることとしてもよい。
これにより、より優れた神経細胞を選別することができる。
【0008】
また、上記態様において、前記判定ステップは、線状部の成長段階とその面積占有率および到達距離が関連付けられた線状部データベースに基づいた機械学習により、前記データから、前記細胞の予測成長度を表すスコアを算出することを含むこととしてもよい。
このようにすることで、成長度が高いと予測される細胞を予め選別することができる。
【0009】
また、上記態様において、前記データは、細胞体形状の画像データをさらに含み、前記判定ステップは、細胞体の成長段階とその形状が関連付けられた細胞体形状データベースに基づいた機械学習により、前記細胞体形状の画像データから、前記神経細胞の成長状態を判定することを含むこととしてもよい。
このようにすることで、神経細胞の成長状態を評価し、成長度が高い神経細胞を選別することができる。
【0010】
また、上記態様において、前記判定ステップは、神経線維とその特性が関連付けられた神経線維データベースに基づいた機械学習により、前記データから、前記神経細胞の成長状態を判定することを含むこととしてもよい。
このようにすることで、画像処理のみでは除き切れないノイズや異物の影響を受けにくくなり、より高精度に神経細胞の成長状態を判定することができる。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、線状構造を有する細胞を撮像して画像を取得する、撮像部と、前記画像から、前記細胞の細胞体から延伸する線状部の成長状態を示すデータを取得する、データ取得部と、前記データから前記線状部の成長状態を判定する、判定部と、を含む、細胞評価装置であって、前記データは、前記画像を処理することにより算出される、前記線状部の面積占有率および到達距離のデータを含む、細胞評価装置である。
このような装置により、神経細胞や毛髪細胞のような線状構造を有する細胞について、より優れた細胞を選別することができる。
【0012】
また、上記態様では、前記線状構造を有する細胞は神経細胞であり、前記細胞体から延伸する線状部は樹状突起および/または軸索であることとしてもよい。
これにより、より優れた神経細胞を選別することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、線状構造を有する細胞について、より優れた細胞を選別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、画像処理の工程を説明する模式図である。
図2図2は、画像処理後の画像を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の第1の態様に係る方法は、線状構造を有する細胞を撮像して画像を取得する、撮像ステップと、前記画像から、前記細胞の細胞体から延伸する線状部の成長状態を示すデータを取得する、データ取得ステップと、前記データから前記線状部の成長状態を判定する、判定ステップと、を含む、細胞評価方法であって、前記データは、前記画像を処理することにより算出される、前記線状部の面積占有率および到達距離のデータを含むことを特徴の1つとする。
このような細胞評価方法を用いることにより、機能的により優れた細胞を選別することが可能となる。
また、上記各ステップは、コンピューター読取可能な手段に記憶されたコンピュータープログラムに含まれ、コンピューターにより実行されることとしてもよい。本発明の別の一態様は、上記コンピュータープログラムを含むコンピュータープログラム媒体である。
【0016】
本発明の第2の態様に係る方法は、線状構造を有する細胞を撮像して画像を取得する、撮像部と、前記画像から、前記細胞の細胞体から延伸する線状部の成長状態を示すデータを取得する、データ取得部と、前記データから前記線状部の成長状態を判定する、判定部と、
を含む、細胞評価装置であって、前記データは、前記画像を処理することにより算出される、前記線状部の面積占有率および到達距離のデータを含むことを特徴の1つとする。
このような細胞評価装置を用いることにより、より機能的に優れた細胞を選別することが可能となる。
上記態様において、撮像部は、例えば、顕微鏡装置であり、データ取得部は、例えば、中央処理装置(CPU)、半導体メモリおよびハードディスクなどを備えたコンピューターから構成されるものであり、例えば、ハードディスク等の記憶媒体に本発明の判定プログラムの一態様がインストールされている判定部を備える。
【0017】
(線状構造を有する細胞)
線状構造を有する細胞は、神経細胞、毛髪細胞等が挙げられるがこれらに限定されず、線状構造を有し、成長により細胞の延伸部が延伸するものであればよい。
線状構造を有する細胞の線状部とは、細胞が神経細胞である場合、神経線維を指し、神経線維は、樹状突起と軸索とから構成される。
また、評価対象となる細胞は、単一種の細胞のみであってもよく、複数種の細胞で構成される細胞群であってもよい。
【0018】
(撮像)
撮像は、例えば、CCD(Charge-Couple Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサなどの撮像素子を備えた明視野顕微鏡装置を用いて、培養容器内に収容された細胞を撮像し、撮像した細胞の画像を出力する。具体的には、培養容器内に収容された細胞の明視野像が撮像素子に結像され、撮像素子から細胞画像として明視野画像を出力する。
【0019】
なお、撮像素子としては、RGBのカラーフィルターが設けられた撮像素子を用いてもよく、モノクロの撮像素子を用いることとしてもよい。顕微鏡装置としては、明視野顕微鏡装置に限らず、位相差顕微鏡装置、微分緩衝顕微鏡装置等を用いることとしてもよい。撮像される細胞画像としては、複数の細胞が分散して分布した画像であってもよく、スフェロイドのように細胞同士が凝集して塊になっている画像であってもよく、オルガノイドのように三次元的につくられた細胞の画像であってもよい。
また、撮像の際に使用される培養容器は、目的とする細胞が培養できれば、細胞培養用ディッシュ等の市販のものでよく、特に限定されない。
【0020】
(データ取得)
撮像した細胞画像について、必要に応じて(例えば、ノイズや異物、細胞体など線状部以外の部分が画像中にある場合)以下のような画像処理を行った後に、データ取得する。
具体的には、例えば、図1に示されるように、上記細胞画像(元画像)に対して閾値切り捨て処理を行った画像(画像1)を生成する。閾値切り捨て処理とは、各画素の明るさ(輝度)において、所定の閾値を設定し、閾値より上(明るい)の輝度をもつ画素に対しては閾値まで輝度を下げ、閾値より下(暗い)の輝度をもつ画素に対してはその輝度を保持する処理である。この処理により、データ取得の目的とする部分(線状構造を有する細胞の線状部、例えば、神経線維)以外の部分、例えば、異物、線状構造を有する細胞の細胞体等の部分をマスクすることができる。
【0021】
次に、画像1に対して適応的閾値処理を実施した画像(画像2)を生成する。適応的閾値処理とは、設定した領域範囲ごとに閾値を設定し、二値化する処理であり、画像内の影やノイズの影響を低減し得るものである。この画像2を反転させ(画像3)、データ取得の目的とする部分(例えば、神経線維)のみを抽出する。
【0022】
上記のような画像処理を必要に応じて行った後に、画像処理演算により、線状部の面積占有率、培養容器内における位置から得られる到達距離等を含む、線状部の成長状態を示すデータを求める。
培養容器内における位置とは、例えば、図2に示されるように、撮像した細胞画像を縦8×横8に分割し、64の区画を定めることにより検出される位置である。このようにすることで、神経線維の伸長開始位置(細胞体と神経線維との分岐点)および先端位置(到達位置)を検出して神経線維の到達距離(伸長距離)を算出し、かつ、各区画の神経線維の面積占有率を算出することができる。
【0023】
(データ)
細胞の細胞体と該細胞体から延伸する線状部の成長状態を示すデータとしては、画像処理演算により抽出した部分(例えば、神経線維)の面積占有率、到達距離、細胞体形状のデータ等が挙げられるが、これらに限定されず、抽出した部分の長さ、太さ、密度等が含まれることとしてもよい。
【0024】
(判定)
上記データから、線状部の成長状態を判定する。細胞が神経細胞である場合、撮像した細胞画像における神経線維の面積占有率が高く、および到達距離の長い細胞は、成長状態が高いと判断される。
具体的には、例えば倍率20倍で撮像した細胞画像で判定する場合、神経線維の面積占有率が25~33%であり、到達距離が細胞体間距離と同等である場合には、成長状態が高いと判断される。対象となる細胞の種類や濃度により、上記判定基準は変動する。
【0025】
上記判定は、コンピューターにおける機械学習により行われることとしてもよい。
一実施形態の判定ステップでは、線状部の成長段階とその面積占有率、到達距離、培養日数、培養環境等が関連付けられた線状部データベースに基づいた機械学習により、上記画像処理演算で得られたデータに基づいて、細胞の予測成長度を表すスコアを算出する。
【0026】
上記判定は、種々の成長段階の細胞データに基づき、判定対象となる細胞の成長度を予測してスコアを出力するように、予め機械学習された予測器により行われることとしてもよい。予測器の機械学習は、例えば、以下のように行われる。
まず、所定の細胞培養期間に取得した複数の細胞画像から、上記画像処理演算により面積占有率、到達距離などの評価結果を取得する。
次に、上記評価結果と、培養日数、培養温度、培養湿度、CO濃度などの培養環境データ等のデータを学習データとし、ランダムフォレストによりスコア化する。スコアは、例えば、成長が良好な細胞は「スコア10」、成長が乏しい細胞は「スコア1」のように10段階で表すこととしてもよい。
このようにして細胞画像から得られた評価結果、培養日数、培養環境データと、上記スコアの対応関係が予測器によって機械学習され、上記の判定に用いられる。
【0027】
上記機械学習のアルゴリズムとしては、ランダムフォレストに限定されず、線形回帰や決定木、k近傍法(k-NN)、ニューラルネットワーク、ナイーブベイズ、ロジスティック回帰、サポートベクターマシン(SVM)などを用いることができる。
【0028】
別の一実施形態の判定ステップでは、上記データは、細胞体形状の画像データをさらに含み、細胞体の成長段階とその形状が関連付けられた細胞体形状データベースに基づいた機械学習により、細胞体形状のデータから神経細胞の成長状態を判定する。
【0029】
上記判定は、種々の成長段階の細胞体形状の画像データに基づき、判定対象となる神経細胞の成長度を予測して成長度を出力するように、予め機械学習(ディープラーニング)された予測器により行われることとしてもよい。予測器の機械学習は、例えば、以下のように行われる。
まず、種々の成長段階の、少なくとも2枚以上の細胞画像を取得し、細胞画像内に存在する細胞体をアノテーション(教師データ作成)した(1)学習画像データを作成する。
次に、上記アノテーションした細胞体を有する細胞について、上記画像処理演算により抽出した部分(例えば、神経線維)の面積占有率、到達距離等の(2)成長度を算出する。
このようにして取得された(1)学習画像データと(2)の成長度との対応関係が予測器によって機械学習され、上記の判定に用いられる。
【0030】
上記機械学習の手法としては、CNN(Convolutional Neural Network)を用いることとしてもよく、具体的には、物体検出を行うR-CNN(Regions with Convolutional Neural Network)、YOLO(You Only Look Once)、SSD(Single Shot Multi Box Detector)等を用いることとしてもよい。
【0031】
さらに別の一実施形態の判定ステップでは、神経線維とその特性が関連付けられた神経線維データベースに基づいた機械学習により、神経細胞の成長状態を判定する。
【0032】
上記判定は、種々の成長段階の神経線維とその特性データに基づき、判定対象となる神経細胞の成長状態を判定するように、予め機械学習(ディープラーニング)された予測器により行われることとしてもよい。予測器の機械学習は、例えば、以下のように行われる。
まず、複数の細胞画像を取得し、上記画像処理演算により、神経細胞の成長状態の評価結果を取得する。
次に、評価結果をもとに前記複数の細胞画像をそれぞれラベル付けする。例えば、「神経線維なしの領域」、「神経線維あり(面積占有率小)」、「神経線維あり(面積占有率大)」など、神経線維の面積占有率や神経線維の太さなどによってクラス分けすればよい。
なお、神経細胞の成長状態の評価は、本実施形態に一例として記載される画像処理演算とは異なる方法において評価することとしてもよく、評価者が目視により神経線維の状態を評価し、入力装置を用いてその評価結果を入力することとしてもよい。
このようにして取得された細胞画像とそのラベル付けとの対応関係が予測器によって機械学習され、上記の判定に用いられる。
【0033】
上記機械学習の手法としては、CNN(Convolutional Neural Network)を用いてもよく、具体的には、物体検出を行うR-CNN(Regions with Convolutional Neural Network)、YOLO(You Only Look Once)、SSD(Single Shot Multi Box Detector)等を用いてもよい。
【0034】
また、上記各実施形態における、細胞の予測成長度を表すスコアの算出および神経細胞の成長状態の評価を、組み合わせて判定に使用することとしてもよい。
【実施例0035】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例I)
培養条件
市販の健常iPS由来運動神経細胞およびALS患者由来運動神経細胞(iXCells社製)を、低接着表面を有するU底96ウェルプレート(EZ-BindShutII、ADCテクノグラス社製)に6.4×10cells/wellの濃度で播種して、それぞれのスフェロイドを作製した。
上記スフェロイドを7日間培養した後、市販のマウス腫瘍由来基底膜抽出物をコーティングしたマイクロ流路プレート(国際公開第2021/015213号に記載の方法で作成)の一方のウェルに播種し、スフェロイドから軸索が十分伸長するまで培養し、21日目の細胞について、それぞれ評価を行った。
【0037】
評価方法
マイクロ流路プレートを顕微鏡装置(Leica製、型番:DMi8)に設置し、対物レンズ倍率10倍で撮像することにより8bitの細胞画像を得た。得られた細胞画像を、MATLAB(登録商標)関数を使用したプログラムによるオリジナルアプリに入力した。
当該アプリにおいて、まず撮像した細胞画像のうち、軸索の存在する範囲のみを範囲選択し、指定した範囲において標準化を実施することで画像の信号強度を揃えた。その後、標準化した画像について適応的閾値処理を実施し、これにより得られた画像の輝度を反転させることで、神経線維部分のみをハイライトさせた画像を得た。
得られた画像を縦8×横8の64分割の区画に分け、各区画における軸索の面積占有率を算出した。また、最も長い軸索について、伸長開始位置と先端位置から軸索の到達距離を算出した。
【0038】
結果
健常iPS由来運動神経細胞の軸索の到達距離は最長で0.200mmであった。また、得られた各区画の面積占有率を表1に示す。
ALS患者由来運動神経細胞の軸索の到達距離は最長で0.175mmであった。また、得られた各区画の面積占有率を表2に示す。
これらの結果から、健常iPS由来運動細胞のほうが、ALS患者由来運動神経細胞よりも軸索の成長状態がよいと判定することができる。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
(実施例II)
培養条件
市販のドーパミン神経細胞(FUJIFILM Cellular Dynamics社製)を、ポリ-D-リジンコーティングした平底96ウェルプレート(3516、Corning社製)に4×10cells/wellの濃度で播種し13日間培養した後、それぞれ評価を行った。
評価方法
ウェルプレートを顕微鏡装置に設置し、対物レンズ倍率20倍で撮像することにより8bitの細胞画像を得た。得られた細胞画像をMATLAB(登録商標)関数を使用したプログラムによるオリジナルアプリに入力し、神経線維(樹状突起および軸索)部分のみをハイライトさせた画像を得た。
得られた画像を縦5×横7の35分割の区画に分け、各区画における神経線維の面積占有率を算出した。また、最も長い神経線維について、伸長開始位置と先端位置から神経線維の到達距離を算出した。
結果
ドーパミン作動神経の神経線維の到達距離は最長で0.167mmであった。また、得られた各区画の面積占有率を表3に示す。この結果から、神経細胞が凝集や剥がれを起こすことなく均一に神経線維を伸長させており良好な結果であることが分かる。
【表3】
【0042】
(実施例III)
実施例Iで培養した細胞について、ディープラーニングされた予測器により成長状態の判定を行った。
まず、予測器を以下のように作成した。
スフェロイドをマイクロ流路プレートに播種した日を培養0日とし、培養27日目、43日目の37ウェル分の細胞画像をそれぞれ縦8×横8の64分割し、プレートの縁が映り込んでいない32枚×2日分×37ウェル=2368枚の画像を学習データとして確保した。この学習データについて、目視にてA:神経線維なしの領域、B:神経線維あり(面積占有率小)、C:神経線維あり(面積占有率大)の3つにクラス分けを行った。この細胞画像とラベルとの対応関係をCNNを用いて学習させることにより、予測器を作成した。
実施例Iで撮像した健常iPS由来運動神経細胞およびALS患者由来運動神経細胞の培養21日目の細胞画像をこの予測器に入力した。健常iPS由来運動神経細胞画像では、64分割した画像のうちA:17枚、B:20枚、C:27枚となった。これに対し、ALS患者由来運動神経細胞画像では、64分割した画像のうちA:30枚、B:32枚、C:2枚となった。
上記の結果から、健常iPS由来運動細胞のほうが、ALS患者由来運動神経細胞よりも軸索の成長状態がよいと判定することができた。
上記のような神経線維データベースに基づく機械学習により、神経細胞の成長状態を判定することができた。
【0043】
(実施例IV)
実施例IIで培養した細胞について、細胞を播種した日を培養0日目とし、培養1日目の段階で細胞画像を取得し、培養13日目の成長度を予測した。
成長度を予測するための予測器を以下のように作成した。
学習データとして、培養1日目時点での細胞画像1と細胞画像1と同位置で撮像した培養13日目時点での細胞画像2を複数枚ずつ準備した。細胞画像1と細胞画像2をMATLAB(商標登録)関数を使用したプログラムによるオリジナルアプリに入力し、面積占有率と到達距離を算出した。この算出結果(面積占有率、到達距離)と、培養日数、培養温度、培養湿度、CO濃度、細胞種、細胞濃度、表面改質剤種、表面改質剤液濃度、細胞培養プレート材質からなる培養データを学習データとしてランダムフォレストによりスコア化した。スコアは、表4のように基準を定め、「面積占有率スコア」×「到達距離スコア」=「成長度スコア」とし、「成長度スコア」の値が大きいほど良好に成長する、と予測した。
なお、スコア化の基準となる面積占有率は細胞画像から算出した各区画の面積占有率の平均面積占有率を指し、到達距離は細胞画像中の最も長い神経線維についての到達距離を指す。また、到達距離スコア基準については、本実施例では、96ウェルプレートでの細胞培養を前提とした値を示す。
【表4】
以上のように、培養データと培養13日目の成長度スコアの対応関係を学習させて、予測器を作成した。
続いて、実施例IIで培養した細胞について、培養1日目の細胞画像を取得し、予測される培養13日目の成長度スコアを算出した。
具体的には、まずウェルプレートを顕微鏡装置に設置し、対物レンズ20倍で撮像することにより10ウェル分の8bit画像を得た。これらの画像をMATLAB(商標登録)関数を使用したプログラムによるオリジナルアプリに入力し、神経線維(樹状突起および軸索)部分のみをハイライトさせた画像を得た。これらの得られた画像を縦5×横7の35分割の区画に分け神経線維の面積占有率を算出し、最も長い神経線維について到達距離を算出した。
上記算出結果と培養日数、培養温度などの培養データを予測器に入力したところ、「面積占有率スコア」2×「到達距離スコア」3=「成長度スコア」6の結果を得た。この結果から、成長が良好に進むと判断し、培養を継続したところ、予測された通り、実施例IIに記載の良好な成長状態の神経細胞を得た。
上記のような神経線維の成長段階とその面積占有率および到達距離が関連付けられた神経線維データベースに基づく機械学習により、神経細胞の成長を予測し、判定することができた。
【0044】
(実施例V)
実施例IIで培養した細胞について、細胞播種した日を培養0日目とし培養1日目の段階で細胞画像を取得し細胞体形状から培養13日目の成長度を予測した。
成長度を予測するための予測器を以下のように作成した。
学習データとして、培養1日目時点での細胞画像1と細胞画像1と同位置で撮像した培養3日目時点での細胞画像2、同様に撮像した培養5日目、7日目、9日目、11日目、13日目、18日目時点での細胞画像3、4、5、6、7、8を複数枚ずつ準備した。これらの細胞画像1~8をMATLAB(商標登録)関数を使用したプログラムによるオリジナルアプリに入力し、評価結果(面積占有率と到達距離)を得た。また、細胞画像1~8中に存在する細胞体をラベリングしアノテーション画像を得た。以上の評価結果とアノテーション画像を学習データとしてCNNによりスコア化した。スコア化は実施例IIIと同様の方法で行った。
続いて、実施例IIで培養した細胞について、培養1日目、3日目、5日目の細胞画像を取得し、予測される培養13日目の成長度スコアを算出した。
具体的には、まずウェルプレートを顕微鏡装置に設置し、対物レンズ20倍で撮像することにより10ウェル分の8bit画像を得た。これらの画像をMATLAB(商標登録)関数を使用したプログラムによるオリジナルアプリに入力し、神経線維(樹状突起および軸索)部分のみをハイライトさせた画像を得た。これらの得られた画像を縦5×横7の35分割の区画に分け、神経線維の面積占有率を算出し、また、最も長い神経線維について到達距離を算出した。
この算出結果と細胞画像を予測器に入力した結果、面積占有率スコア3×到達距離スコア3=成長度スコア9の結果を得た。この結果から、成長が良好に進むと判断して培養を継続し、予測された通り、実施例IIに記載の良好な成長状態の神経細胞を得た。
上記のような細胞の成長段階とその形状等が関連付けられたデータベースに基づく機械学習により、神経細胞の成長を予測し、判定することができた。
【0045】
(比較例)
実施例Iで撮像した健常iPS由来運動神経細胞およびALS患者由来運動神経細胞の細胞画像から、上記アプリにて、両細胞における軸索の長さの平均値をそれぞれ算出した。健常iPS由来運動神経細胞の軸索の平均長さは1.12mmであり、ALS患者由来運動神経細胞の軸索の平均長さは1.15mmであった。これらの結果から、軸索の平均長さを比較するだけでは、両細胞の成長状態の違いを判別することはできなかった。
図1
図2