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特開2023-86118宇宙機用ポリイミド、宇宙機用ポリイミドフィルム及びこれを含む宇宙機用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086118
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】宇宙機用ポリイミド、宇宙機用ポリイミドフィルム及びこれを含む宇宙機用部材
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20230614BHJP
   B64G 1/22 20060101ALI20230614BHJP
   B64G 1/50 20060101ALI20230614BHJP
   B64G 1/44 20060101ALI20230614BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C08G73/10
B64G1/22
B64G1/50 Z
B64G1/44 300
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195072
(22)【出願日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2021199785
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100132296
【弁理士】
【氏名又は名称】神宝 正文
(72)【発明者】
【氏名】森 亮
(72)【発明者】
【氏名】木本 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】梅田 花織
【テーマコード(参考)】
4F071
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AA86
4F071AF20
4F071AF45Y
4F071AG14
4F071AH07
4J043PA04
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA44
4J043SA46
4J043SA47
4J043SA85
4J043SB01
4J043SB02
4J043SB03
4J043TA14
4J043TA22
4J043TA43
4J043TA44
4J043TA47
4J043TA70
4J043TA71
4J043TB01
4J043TB02
4J043UA032
4J043UA052
4J043UA122
4J043UA132
4J043UA142
4J043UA151
4J043UA152
4J043UA162
4J043UA231
4J043UA252
4J043UA262
4J043UA332
4J043UA382
4J043UA672
4J043UA712
4J043UA761
4J043UA771
4J043UB011
4J043UB012
4J043UB021
4J043UB022
4J043UB062
4J043UB121
4J043UB122
4J043UB152
4J043UB302
4J043UB402
4J043VA012
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA062
4J043VA092
4J043VA102
4J043XA14
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA12
4J043ZA14
4J043ZA32
4J043ZB11
4J043ZB51
4J043ZB60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】宇宙機用材料として適用した際、大気残留成分である酸素分子に由来する原子状酸素への耐性に優れ、かつ、加熱に伴うアウトガス成分の発生が少ないポリイミドフィルム及びそれに使用されるポリイミドを提供する。
【解決手段】ジアミンに由来する構造単位と芳香族酸二無水物に由来する構造単位とを有する宇宙機用ポリイミドであって、ジアミンに由来する構造単位として、少なくとも、下記式(1)で表される珪素含有ジアミン(ただし、数平均分子量は500以下である。)に由来する構造単位を含み、ジアミンに由来する構造単位全体に対して前記珪素含有ジアミンに由来する構造単位の比率が5~100モル%である、宇宙機用ポリイミド。

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数3~20の二価の脂肪族炭化水素基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基であり、mは、1又は2である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンに由来する構造単位と芳香族酸二無水物に由来する構造単位とを有する宇宙機用ポリイミドであって、ジアミンに由来する構造単位として、少なくとも、下記式(1)で表される珪素含有ジアミン(ただし、数平均分子量は500以下である。)に由来する構造単位を含み、ジアミンに由来する構造単位全体に対して前記珪素含有ジアミンに由来する構造単位の比率が5~100モル%であることを特徴とする、宇宙機用ポリイミド。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数3~20の二価の脂肪族炭化水素基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基であり、mは、1又は2である。)
【請求項2】
前記芳香族酸二無水物に由来とする構造単位として、少なくとも、1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物及び3,3´,4,4´-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種類以上に由来する構造単位を含む、請求項1に記載の宇宙機用ポリイミド。
【請求項3】
ジアミンに由来する構造単位として、さらに、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン及び9,9-ビス(4- アミノフェニル)フルオレンから選ばれる1種類以上を含む、請求項1に記載の宇宙機用ポリイミド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の宇宙機用ポリイミドを90重量%以上含む、宇宙機用ポリイミドフィルム。
【請求項5】
窒素気流下、180℃で0.5時間の熱処理により発生する環状シロキサンが、フィルム1gあたり1μg以下である、請求項4に記載の宇宙機用ポリイミドフィルム。
【請求項6】
真空下、20℃、フィルム厚25μm、照射量1.0×1020~2.0×1021atoms/cmの条件で原子状酸素を照射したことによる、照射範囲における重量減少率が0.5重量%以下である、請求項4に記載の宇宙機用ポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項4に記載の宇宙機用ポリイミドフィルムを含む、宇宙機用材料。
【請求項8】
請求項4に記載の宇宙機用ポリイミドフィルムを使用してなる、低軌道衛星用太陽電池パネル構造体。
【請求項9】
請求項4に記載の宇宙機用ポリイミドフィルムに金属膜が積層されてなる、積層フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載の積層フィルムを使用してなる、低軌道衛星用サーマルブランケット。
【請求項11】
請求項10に記載のサーマルブランケットが機体の表面又は内部に使用されてなる、人工衛星。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星部材、特に低軌道衛星のパネル構造体等の宇宙機用部材として有用なポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間では、真空、放射線、太陽からの紫外線、地球による太陽光反射・赤外放射、スペースデブリメテオロイドのような微小粒子の存在、日照と日陰の繰り返しによって生じる温度サイクル、地球大気残留成分といった、大気中と異なる様々な環境因子がある。したがって、人工衛星、人工惑星、宇宙探査機、宇宙ステーション等の宇宙機やそれを構成する材料は、大気圏内でのみ使用する機体・材料とは異なる設計をする必要がある。
【0003】
また、同じ宇宙空間でも、当該宇宙機の軌道高度や軌道傾斜角によって、環境因子の影響が異なる。例えば、高度700km以下、特に100km以上700km以下の地球観測衛星が周回する軌道(以下、低高度軌道と呼ぶ)では、大気成分である酸素の残留に由来する原子状酸素(Atomic Oxygen:以下、AOと呼ぶ)の濃度が高い。AOは、酸素分子が太陽光に含まれる真空紫外線を吸収して光解離することによって生じる。このAOと、秒速約8kmで飛行する宇宙機が衝突することにより、宇宙機及びそれを構成する材料が大きなダメージを受けることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
宇宙機を構成する主要な有機材料として、ポリイミドが挙げられる。ポリイミドは、主鎖に剛直な芳香環とイミド環を有するため、耐熱性や太陽光及び放射線に対する安定性に優れる。この特長をいかし宇宙機の熱保護膜(サーマルブランケット)に適用されている。サーマルブランケットは、ポリイミドフィルムに金、銀又はアルミを蒸着させた多層膜である。これにより、太陽光による熱の流入と宇宙機内部からの熱の放出を制御し、宇宙機内部の温度を適当な範囲に保つことができる。
【0005】
しかし、人工衛星や宇宙ステーションのように上記低高度軌道において長期間活動する宇宙機では、従来のポリイミドフィルム(Kapton(登録商標))ではAOへの耐久性が十分でなかった(非特許文献2)。すなわち、かかる用途にKapton(登録商標)を使用すると、AOの照射によってエロ―ジョン(浸食)が起こり、サーマルブランケットとしての熱制御機能が著しく低下してしまう。
【0006】
さらに、ポリイミドフィルムのAOへの耐久性を向上させる手法として、フッ素原子、リン原子、シリコン原子の導入が有効であることが知られている。例えば、本発明者らは、特定のシロキサン骨格を主鎖に有するポリイミドフィルムがAOへの耐久性に優れることを見出した(非特許文献3)。
【0007】
すなわち、上記特定のシロキサン骨格を主鎖に有するポリイミドフィルムでは、AOによるエロ―ジョンがほとんど起こらなかった。これは、ポリイミドフィルム表面でSiOの薄膜層が形成し、それがAOに対する保護層として機能したと考えられている。シロキサン骨格を主鎖に有するポリイミドとしては、特許文献1、2に記載されているようなポリイミドが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5948545号公報
【特許文献2】特開2019-77863号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R.C.Tennyson,Proc. of the Behavior of Systems in the Space Environment, Kluwer Academic Publishers,233(1993)
【非特許文献2】B.A.Banks,A.Snyder,S.K.Miller,Issues and Consequences of Atoinic Oxygen Undercutting of Protected Polymers in Low Earth Orbit. NASA/TM-2002-211577(2002)
【非特許文献3】宮崎英治, 高度数百kmの低高度宇宙環境に耐えるポリイミドについて, MATEARIAL STAGE Vol.10,No.10(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
宇宙機用材料として、AOの照射を受けた際、エロ―ジョン及び表面物性の変化がより一層小さい材料が求められている。
さらに、従来のシロキサン骨格を主鎖に有するポリイミドフィルムを宇宙機用材料として使用する際、ポリイミドフィルムからの「アウトガス」の発生の防止が課題である。ここでの「アウトガス」とは、宇宙空間等の真空環境下や大気中の加熱環境下等において、フィルム中に含有していた低分子有機物がガス化し、フィルムから放出される現象のことである。このような環境下で放出された低分子有機物は、宇宙機を構成する各機器の表面に付着し、当該機器の機能を低下させる。例えば、太陽光反射板、サーマルブランケット及び放熱板の太陽光吸収率の増加や、鏡及びレンズの透過率・反射率の低下の原因となる。シロキサン骨格を主鎖に有するポリイミドフィルムのアウトガス成分としては、低分子環状シロキサンが挙げられる。
【0011】
本発明の目的は、前記の状況に鑑み、宇宙機用材料として適用した際、AOへの耐性に優れ、かつ、加熱に伴うアウトガス成分の発生が少ないポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の構造のポリイミド及びこれを使用したポリイミドフィルムが、上記特性を満足することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、ジアミンに由来する構造単位と芳香族酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドであって、
ジアミンに由来する構造単位として、少なくとも、下記式(1)で表される珪素含有ジアミン(ただし、数平均分子量は500以下である。)に由来する構造単位を含み、
芳香族酸二無水物に由来とする構造単位として、好ましくは、1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物及び3,3´,4,4´-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種類以上に由来する構造単位を含み、
ジアミンに由来する構造単位全体に対して前記珪素含有ジアミンに由来する構造単位の比率が5~100モル%であることを特徴とする宇宙機用ポリイミドに関する。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数3~20の二価の脂肪族炭化水素基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基であり、mは、1又は2である。)
【0014】
また、本発明は、前記ポリイミドを90重量%以上含むことを特徴とする、宇宙機用ポリイミドフィルムに関する。
【0015】
また、本発明の宇宙機用ポリイミド及び宇宙機用ポリイミドフィルムは、宇宙機の部材として好適に使用することができる。特に、本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、低軌道衛星用太陽電池パネル構造体に好適に使用できる。また、前記宇宙機用ポリイミドフィルムに金属膜が積層されてなる積層フィルムは、低軌道衛星用サーマルブランケットに好適に使用でき、さらに、前記サーマルブランケットは、必要により積層されて、人工衛星の機体の表面又は内部に好適に使用される。
【0016】
本発明において、「宇宙機」とは「ISO 14950:2004(en)Space systems Unmanned spacecraft operability」で定義される、大気圏外(宇宙空間)で使用することを想定した人工物を指す。宇宙機としては、人工衛星、人工惑星、宇宙探査機、宇宙ステーションが例示される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の宇宙機用ポリイミド及びそれから得られる宇宙機用ポリイミドフィルムは、従来のシロキサン骨格を主鎖に有するポリイミドフィルムと比較して、加熱時のアウトガス成分が少ない。また、AOへの耐性にも優れる。したがって、人工衛星、宇宙ステーション等の宇宙空間を飛行する機体である宇宙機に好適に適用でき、特にAOの濃度が高く影響を受ける高度100km~700kmの低高度軌道、中でもAOの濃度がきわめて高くその影響が大きい高度150km~300kmの超低高度軌道で使用する宇宙機の部材に好適に適用できる。前記宇宙機の部材としては、低軌道衛星用太陽電池パネル構造体、及びサーマルブランケットが特に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の宇宙機用ポリイミドは、ジアミンに由来する構造単位と芳香族酸二無水物に由来する構造単位とを有する宇宙機用ポリイミドであって、
ジアミンに由来する構造単位として、少なくとも、下記式(1)で表される珪素含有ジアミン(ただし、数平均分子量は500以下である。)に由来する構造単位を含み、
芳香族酸二無水物に由来とする構造単位として、好ましくは、1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物及び3,3´,4,4´-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種類以上に由来する構造単位を含み、
ジアミンに由来する構造単位全体に対して前記珪素含有ジアミンに由来する構造単位の比率が5~100モル%であることを特徴とする、宇宙機用ポリイミド。
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数3~20の二価の脂肪族炭化水素基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基であり、mは、1又は2である。)
【0019】
なお、ポリイミドの構造単位とその割合は、原料であるジアミンと酸二無水物の種類と使用割合によって定まるので、ポリイミドを構成する構造単位は、使用するジアミンと酸二無水物により説明する。ポリイミドを製造する際のジアミンと酸二無水物の使用割合は、ポリイミドにおけるそれぞれに由来する構造単位の存在割合と一致する。
【0020】
上記式(1)で表される珪素含有ジアミンは、当該化学構造からなり、mが1又は2であり、かつ数平均分子量が500以下であることが特徴である。
【0021】
前記珪素含有ジアミンをモノマーとして使用してポリイミドフィルムを作製した場合には、加熱時、環状シロキサン等のアウトガス成分の発生が極めて少ない。具体的には、窒素気流下、180℃で0.5時間の熱処理により発生する環状シロキサンが、ポリイミドフィルム1gあたり1μg(1ppm)以下となる。さらに、本発明のポリイミドフィルムは、AO照射による重量減少が抑制される。つまりAO耐性に優れる。
【0022】
上記式(1)で表される珪素含有ジアミンにおいて、主鎖のシロキサンユニットの繰り返し単位数を表すmは1又は2であるが、環状シロキサンの発生量抑制の観点から、m=1がより好ましい。また、珪素含有ジアミンの分子量は数平均分子量が500以下であり、環状シロキサンの発生量及びAO耐性の観点から、より好ましい数平均分子量は400以下であり、さらに好ましくは300以下である。珪素含有ジアミンの数平均分子量は、液体クロマトグラフィー又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0023】
また、上記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数3~20の二価の脂肪族炭化水素基である。好ましくは、AO耐性の観点から、炭素数1~6のアルキレン基、特にメチレン基、エチレン基又はプロピレン基である。
また、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基である。好ましくは、AO耐性の観点から、メチル基である。
式(1)中、R、R、R、R、R及びRは、互いに異なっていても同一であっても良い。
【0024】
また、上記式(1)で表される珪素含有ジアミンに由来する構造単位は、ジアミンに由来する構造単位全体の5~100モル%を占める。5モル%未満であると、ポリイミドフィルム表面におけるSiOの薄膜層形成が十分でなく、AO耐性が損なわれるため好ましくない。ジアミンに由来する構造単位全体に対する前記珪素含有ジアミンに由来する構造単位のより好ましい下限は20モル%であり、さらに好ましくは50モル%であり、さらに好ましくは65モル%である。
【0025】
一方、耐熱性、環状シロキサンの発生量の観点から、前記珪素含有ジアミンに由来する構造単位の好ましい上限は90モル%である。ジアミンに由来する構造単位全体のすべてが前記珪素含有ジアミンの1種若しくは複数の組み合わせに由来する構造単位で占められていても良い。
【0026】
本発明の宇宙機用ポリイミドにおいては、上記式(1)で表される珪素含有ジアミンに加えて、芳香族ジアミンを使用することができる。使用される芳香族ジアミンは、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)及び9,9-ビス(4- アミノフェニル)フルオレン(BAFL)から選ばれる1種類以上の芳香族ジアミンである。BAPP及び/又はBAFLを使用することで、ポリイミドフィルムの耐熱性、及びAO耐性が向上するので好ましい。
【0027】
すなわち、本発明の好ましい態様の一つは、ポリイミドを構成するジアミンに由来する構造単位が、式(1)で表される珪素含有ジアミンと前記芳香族ジアミンの組み合わせからなることである。
【0028】
ポリイミドを構成する前記芳香族ジアミン(BAPP及び/又はBAFL)に由来する構造単位は、ジアミンに由来する構造単位全体の0~95モル%の範囲である。AO耐性の観点から、前記芳香族ジアミンに由来する構造単位の好ましい上限は80モル%であり、さらに好ましくは50モル%であり、さらに好ましくは35モル%である。一方、耐熱性、環状シロキサンの発生量の観点から、前記芳香族ジアミンに由来する構造単位の好ましい下限は10モル%である。
【0029】
また、上記式(1)で表される珪素含有ジアミン、並びに、前記芳香族ジアミン(BAPP及び/又はBAFL)に加えて、他のジアミン(以下、「第三のジアミン」という。)を使用してもよい。前記第三のジアミンとしては、耐熱性、AO耐性の観点から、芳香族環を1個以上有するジアミンが適する。
【0030】
第三のジアミンの例を挙げると、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(別名;2,2’-ジメチル-ベンジジン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2, 6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、
【0031】
4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3’-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、
【0032】
1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾールが挙げられる。
また、これら第三のジアミンは単独で使用してもよく、又は2種以上併用することもできる。
【0033】
好ましくは、ポリイミドを構成する第三のジアミンに由来する構造単位は、ジアミンに由来する構造単位全体の20モル%以下であり、より好ましくは10モル%以下である。
【0034】
本発明の宇宙機用ポリイミドは、酸二無水物に由来とする構造単位として、少なくとも、芳香族構造を骨格に含む酸二無水物(以下、「芳香族酸二無水物」という。)に由来する構造単位を含む。芳香族酸二無水物を使用することで、ポリイミドフィルムの耐熱性等の特性が向上する。1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物(PMDA、「ピロメリト酸二無水物」ともいう。)、3,3´,4,4´-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(ODPA)、3,3´,4,4´-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)及び3,3´,4,4´-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から選ばれる1種類以上に由来する構造単位を含むことが好ましい。以下、PMDA、ODPA、DSDA及びDSDAを総称して、「好ましい芳香族酸二無水物」ともいう。つまり、本発明のポリイミドを製造する際には、前記好ましい芳香族酸二無水物から選ばれる1種類以上が使用されることが好ましい。これら好ましい芳香族酸二無水物を使用することで、ポリイミドフィルムの耐熱性等の、宇宙機用ポリイミドフィルムに要求される特性がより向上する。
【0035】
ポリイミドを構成する前記の芳香族酸二無水物に由来する構造単位は、好ましくは、酸二無水物に由来する構造単位全体の50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上である。芳香族酸二無水物に由来する構造単位全体のすべてが前記好ましい芳香族酸二無水物、すなわち、PMDA、ODPA、DSDA、BPDA、又は、これらの2種若しくは3種の組み合わせに由来する構造単位で占められていても良い。
【0036】
また、PMDA、ODPA、DSDA及び/又はBPDAに加えて、他の酸二無水物(以下、「第二の酸二無水物」という。)を使用してもよい。前記第二の酸二無水物としては、耐熱性、AO耐性の観点から、芳香族環を1個以上有する酸二無水物、つまり、芳香族酸二無水物が適する。
【0037】
第二の酸二無水物としては、芳香族系のテトラカルボン酸の酸二無水物を使用することが出来る。例えば、4,4’-(2,2’-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、
【0038】
ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、
【0039】
2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’’,4,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’’,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、
【0040】
ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、
【0041】
2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}、トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、
【0042】
ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物などが挙げられる。また、これらは単独で使用してもよく又は2種以上併用することもできる。
【0043】
ポリイミドを構成する第二の酸二無水物に由来する構造単位は、酸二無水物に由来する構造単位全体の20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0044】
本発明においては、上記珪素含有ジアミンを含むジアミンと芳香族酸二無水物を含む酸二無水物とを0.9~1.1のモル比で使用し、有機極性溶媒中で重合する公知の方法によって、本発明のポリイミドの前駆体(以下、「本ポリイミド前駆体」ともいう。)を製造することができる。例えば、窒素気流下N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性アミド系溶媒にジアミンを溶解させた後、酸二無水物を加えて、室温で3~20時間程度反応させることにより本ポリイミド前駆体が得られる。速く反応をさせるために、40℃~80℃の温度で15分~5時間加熱してもよい。
【0045】
重合に使用する有機極性溶媒としては、他にジメチルホルムアミド、2-ブタノン、ジグライム、キシレン、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。また、溶解性を高めるために、キシレン、ヘキサンなど追加することができる。
本ポリイミド前駆体は、ジアミンと酸二無水物が完全にイミド結合を形成しておらず、一部がアミド結合で留まっている構造からなる。ポリイミド前駆体の分子末端を芳香族モノアミン又は芳香族モノカルボン酸二無水物で封止してもよい。
【0046】
本発明の宇宙機用ポリイミドは、本ポリイミド前駆体をイミド化して得られる。イミド化は、熱イミド化法又は化学イミド化法等により行うことができる。熱イミド化は、本ポリイミド前駆体の溶液を、180℃~360℃程度の温度で10分~20時間程度熱処理することにより行われる。必要な機械特性に応じて、熱処理温度を180℃~360℃の間で変更することは可能である。
【0047】
熱イミド化は、酸二無水物やジアミンの種類、溶剤の種類の組み合わせを選択すれば、イミド化が比較的短時間で完了する。溶剤を除去する予備加熱を含めて60分間以内の熱処理で行うことも可能である。
化学イミド化は、ポリイミド前駆体溶液に脱水剤と触媒を加え、30℃~60℃で化学的に脱水反応を行う。代表的な脱水剤としては無水酢酸が、反応触媒としてはピリジンが例示される。
【0048】
本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、本ポリイミド前駆体又は本発明のポリイミドの溶液を、ガラス、金属、樹脂などの任意の支持基材上に塗布し、熱処理をして得られる。
本ポリイミド前駆体の溶液を使用する場合は、150℃以下の温度で2分~60分間溶液を熱して溶剤を除去した後、180℃~360℃程度の温度で10分~20時間程度熱処理して熱イミド化することにより行うことができる。
本発明のポリイミドの溶液を使用する場合は、150℃以下の温度で2分~60分間溶液を熱して、溶剤を除去することにより行うことができる。
【0049】
本ポリイミド前駆体の好ましい重合度は、ポリイミド前駆体溶液のE型粘度計による測定粘度として1,000~100,000cPであり、好ましくは3,000~10,000cPの範囲にあることがよい。また、ポリイミド前駆体の分子量はGPC法によって求めることができる。本ポリイミド前駆体の好ましい分子量範囲(ポリスチレン換算)は、数平均分子量で15,000~250,000、重量平均分子量で30,000~800,000の範囲であることが望ましいが、これらは目安であり、この範囲外のポリイミド前駆体すべてが使用できないというわけではない。なお、本発明のポリイミドの好ましい重合度(分子量)も、本ポリイミド前駆体の分子量として記載した前記範囲と同じ範囲にある。
【0050】
本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、所望の物性に応じて、他の任意の成分を10重量%以下の範囲で加えてもよい。ここで他の任意の成分としては、本発明の宇宙機用ポリイミド以外のポリイミド、有機フィラー、無機フィラーが挙げられる。低軌道衛星用の部材(太陽電池パネル構造体、サーマルブランケット等)へ適用する場合、本発明の宇宙機用ポリイミドを90重量%以上含むことが好ましい。より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上である。
【0051】
本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、加熱時のアウトガス発生量が低いものである。具体的には、厚さ25μmの状態において、窒素気流下、180℃で0.5時間の熱処理により発生する環状シロキサンが、フィルム1gあたり1ppm以下であることが好ましい。環状シロキサンの発生量が前記の範囲であれば、低高度軌道で使用する宇宙機の部材(太陽電池パネル構造体、サーマルブランケット等)やフレキシブル回路基板等の、アウトガス成分の低減が求められる用途へ好適に適用できる。
【0052】
また、本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、AO耐性が高いものである。具体的には、厚さ25μmの状態において、真空下、20℃、フィルム厚25μmの照射量1.0×1020~1.0×1021atoms/cmの条件でAOを照射したことによる照射範囲における重量減少率が0.5重量%以下であることが好ましい。ポリイミドフィルムの前記重量減少率は、より好ましくは0.3重量%以下である。ポリイミドフィルムのAO照射重量減少率がこの範囲であれば、低高度軌道又は超低高度軌道で使用する宇宙機の部材(太陽電池パネル構造体、サーマルブランケット等)等の、AOへの耐久性が求められる用途へ好適に適用できる。ここで、「真空下」とは、大気圧よりきわめて低い圧力の状態のことをいう。具体的には、100Pa以下であり、特に、10-8Pa~10-1Pa、さらには10-8Pa~10-5Paである。
【0053】
また、本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、厚さ25μmの状態において、真空下、20℃、照射量1.0×1020~1.0×1021atoms/cmの条件でAOを照射したことによる、照射前後の太陽光吸収率の変化率が±10%以下であることが好ましい。また、前記照射前後の垂直赤外放射率の変化率が±10%以下であることが好ましい。これらの範囲であれば、低高度軌道で使用する宇宙機の部材(太陽電池パネル構造体、サーマルブランケット等)の、AOへの耐久性が求められる用途へ好適に適用できる。好ましくは、前記照射前後の太陽光吸収率の変化率及び垂直赤外放射率の変化率は、±5%以下である。
【0054】
本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムの使用形態には制限はないが、宇宙空間を飛行する機体である宇宙機用の材料、特に、低軌道衛星用太陽電池パネル構造体や低軌道衛星用サーマルブランケットとして使用する場合、他の物質との積層体として使用することが好ましい。
【0055】
低軌道衛星用太陽電池パネル構造体として使用する場合、これに限定しないが、アルミハニカムプレートの上に本発明のポリイミドフィルム貼り付け、さらにその上にシリコン接着剤で太陽電池を貼り付けた構成を例示することができる。
【0056】
また、低軌道衛星用サーマルブランケットとして使用する場合、本発明のポリイミドフィルムの両面又は片面に金、銀又はアルミに例示される金属膜が積層された積層フィルムを例示することができる。ポリイミドフィルムへの金属膜の積層は、シート状の金属膜を貼り付けてもよいし、蒸着法等により数百オングストロームの厚さに積層してもよい。この積層体の上に、さらに本発明のポリイミドフィルム、金属層を繰り返し積層して多層体としてもよい。
【0057】
本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、上記のとおり、アウトガスの発生が少なく、かつ、AO照射に対する耐久性に優れる。そのため、上記低軌道衛星用太陽電池パネル構造体や低軌道衛星用サーマルブランケット等の低高度軌道、特に高度100km~700kmの空間領域で使用する宇宙機(人工衛星、宇宙ステーション等)の部材として特に好適に使用することができる。
【実施例0058】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0059】
実施例及び比較例で使用する材料の略号及び評価方法を示す。
(酸二無水物)
・DSDA:3,3´,4,4´-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物
・ODPA:3,3´,4,4´-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物
・BPDA:3,3´,4,4´-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
・PMDA:1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物
(ジアミン)
・珪素含有ジアミンA:式(1)で表されるジアミノシロキサン(但し、R及びRは1,2-プロピレン基、R、R、R及びRはメチル基;m=1と2の混合物、数平均分子量=249)
【0060】
・珪素含有ジアミンB:下記式(2)で表されるジアミノシロキサン(但し、m=1~20の範囲内の混合物、数平均分子量=約740)
・珪素含有ジアミンC:下記式(2)で表されるジアミノシロキサン(但し、m=1~20の範囲内の混合物、数平均分子量=約1000)
・珪素含有ジアミンD:下記式(2)で表されるジアミノシロキサン(但し、m=1~20の範囲内の混合物、数平均分子量=約1240)
・珪素含有ジアミンE:下記式(2)で表されるジアミノシロキサン(但し、m=1~20の範囲内の混合物、数平均分子量=約2000)
・珪素含有ジアミンF:下記式(3)で表されるジアミノシロキサン(但し、j、nは共に1以上であり、jとnの合計数=2~20の範囲内の混合物、数平均分子量=約1320)
【0061】
【化3】
【0062】
【化4】
【0063】
・芳香族ジアミンBAPP: 2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン
・芳香族ジアミンBAFL:9,9-ビス(4- アミノフェニル)フルオレン
実施例及び比較例で調製したポリイミドフィルムは、以下の試験方法により評価した。
【0064】
(AO耐性試験)
ポリイミドフィルムの試験片(φ25mm、厚さ25μm)のうちφ20mmの円形範囲に対し、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センター真空複合環境試験設備AO照射装置により、10-5Paの真空下で3×1020~1×1021atoms/cmの照射量のAOを照射し、エロ―ジョンの指標として照射範囲における照射前後のポリイミドフィルムの重量当たりの質量減少率を測定した。
併せて、太陽光吸収率測定装置((株)日立ハイテクノロジーズ製;分光光度計U-4100、測定波長領域250nm~2500nm、入射角5°)により、AO照射前後のポリイミドフィルムの太陽光吸収率の変化率を測定し、また、垂直赤外放射率測定装置(AZテクノロジー社製;放射・反射計TESA2000)により、垂直赤外放射率の変化率を測定した。変化率の評価において、数値が増加した場合を+、減少した場合を-で表す。
【0065】
(アウトガス試験)
ポリイミドフィルムの試験片(3mm×20mm、厚さ25μm)を、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)を使用して、前記試験片を180℃、30分間加熱することにより発生するアウトガス成分を分析した。その結果、アウトガスとして、シロキサンユニット数3~20の環状シロキサンの、それぞれの発生量が、全てポリイミドフィルム1gあたり1μg(1・BR>垂垂香J以下であった場合は◎、前記各シロキサンユニット数の環状シロキサンのうつ、どれか一つでも1μg(1ppm)を超えた場合は×と評価した。GC-MSの測定条件を以下に記載する。
分析法:加熱発生ガスガスクロマトグラフィー質量分析法
サーマルデソープションシステム:Turbo Matrix 650ATD (Perkin Elmer)
GC-MS:Jms-Q1000GCK9 Ultra Quad GC/MS (JEOL)
カラム:VF-5ms 30m×0.25mm×0.25μm
カラム昇温条件:40℃(3min)保持→10℃/min.昇温→280℃(23min)保持
キャリアガス:ヘリウム
MSイオン化法:EI法
測定範囲(m/z):10~500
【0066】
(ガラス転移温度;Tg)
ポリイミドフィルムの試験片(5mm×70mm)を動的熱機械分析装置にて23℃から400℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、tanδ極大値を示す温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0067】
(引張り弾性率;E')
ポリイミドフィルムの試験片(12.4mm×160mm)を、テンションテスターを用い、10kgの荷重を加えながら50mm/minで引っ張り試験を行った。
【0068】
(実施例1)
1000mlのセパラブルフラスコに酸二無水物DSDA(0.11モル)、200gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)及び200gのキシレンを装入し、室温で混合した、次に滴下ロートを用いて珪素含有ジアミンA(0.085モル)を滴下し、この反応溶液を攪拌下で氷冷し、芳香族ジアミンBAPP(0.025モル)を添加し、室温にて2時間攪拌し、ポリイミド前駆体溶液を得た。なお、酸二無水物(a)とジアミン全量(b)のモル比(a/b)は、1.0とした。このポリイミド前駆体溶液を190℃に昇温し、20時間加熱、攪拌し、重量平均分子量(Mw)20,000のポリイミドの溶液を得た。このポリイミド溶液を離型フィルム上に塗布し、乾燥してフィルム化し、離型フィルムを剥離し、ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムの物性は、ガラス転移温度Tg=150℃、引張り弾性率E'=1.75GPaであった。
得られたポリイミドフィルムについて、AO耐性試験及びアウトガス試験を行った結果を表3に示す。
【0069】
(実施例2~11、比較例1~7)
酸二無水物(a)及びジアミン(b)を表1及び表2に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体溶液を調製し、さらにポリイミドフィルムを得た。表1及び表2の数字は、酸二無水物の使用量(モル)に対する酸二無水物又はジアミンの使用量(モル)の比を示す。
得られたポリイミドフィルムについて、AO耐性試験及びアウトガス試験を行った結果を表3及び表4に示す。
【0070】
(実施例12)
1000mlのセパラブルフラスコに酸二無水物PMDA(0.11モル)、400gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を装入し、室温で混合した。次に滴下ロートを用いて珪素含有ジアミンA(0.033モル)を滴下し、この反応溶液を攪拌下で氷冷し、芳香族ジアミンBAPP(0.077モル)を添加し、室温にて2時間攪拌し、ポリイミド前駆体溶液を得た。なお、酸二無水物(a)とジアミン全量(b)のモル比(a/b)は、1.0とした。このポリイミド前駆体溶液を離型フィルム上に塗布し、200℃のオーブンにて20分間乾燥及び加熱しイミド化させた後、離型フィルムを剥離し、ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムの物性は、ガラス転移温度Tg=250℃、引張り弾性率E'=2.40GPaであった。
得られたポリイミドフィルムについて、AO耐性試験及びアウトガス試験を行った結果を表3に示す。
【0071】
(実施例13~15)
酸二無水物(a)及びジアミン(b)を表1に示す組成に変更した以外は、実施例12と同様にしてポリイミド前駆体溶液を調製し、さらにポリイミドフィルムを得た。表1の数字は、酸二無水物の使用量(モル)に対する酸二無水物又はジアミンの使用量(モル)の比を示す。
得られたポリイミドフィルムについて、AO耐性試験及びアウトガス試験を行った結果を表3に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
実施例及び比較例の結果から、本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムが、AO照射に伴う質量減少が小さく、AO照射に伴う太陽光吸収率の変化が小さく、AO照射に伴う垂直赤外放射率の変化が小さいことが明らかである。また、本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、加熱に伴う、アウトガスの発生も少なかった。
【0077】
このことは、本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムが低軌道衛星用太陽電池パネル構造体や低軌道衛星用サーマルブランケット等の低高度軌道で使用する宇宙機(人工衛星、宇宙ステーション等)の部材として好適であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の宇宙機用ポリイミドフィルムは、特に、宇宙機の部材として好適に利用可能である。