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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086411
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】電解質組成物、電極、及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230615BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230615BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20230615BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20230615BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20230615BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20230615BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M4/62 Z
H01M10/056
H01M6/18 A
H01M6/18 B
C01G15/00 B
C01G25/00
C01G35/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200915
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】土居 篤典
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀人
(72)【発明者】
【氏名】久世 智
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H024
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA06
4G048AB01
4G048AC04
4G048AC06
4G048AD01
4G048AD03
4G048AD07
4G048AE06
5G301CD01
5H024AA01
5H024AA02
5H024AA11
5H024AA12
5H024DD17
5H024EE06
5H024EE07
5H024EE09
5H024FF21
5H024FF23
5H024HH00
5H024HH01
5H029AJ06
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM11
5H029AM12
5H029DJ09
5H029DJ15
5H029EJ05
5H029EJ07
5H029HJ00
5H029HJ02
5H050AA12
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA12
5H050EA15
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA30
5H050FA16
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】
イオン伝導性を維持しつつ、柔軟性の高い電解質組成物を提供すること。
【解決手段】
ハロゲン化物又は酸化物である無機固体電解質と、フィブリル化する樹脂と、を含み、無機固体電解質とフィブリル化する樹脂の合計量に対して、無機固体電解質の含有量が65体積%以上である、電解質組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化物又は酸化物である無機固体電解質と、
フィブリル化する樹脂と、を含み、
前記無機固体電解質と前記フィブリル化する樹脂の合計量に対して、前記無機固体電解質の含有量が65体積%以上である、電解質組成物。
【請求項2】
無機固体電解質がハロゲン化物である、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
アルカリ金属イオン輸率が0.6以上である、請求項1又は2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記フィブリル化する樹脂がフッ素含有樹脂又はアクリル系樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項5】
前記フィブリル化する樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項6】
前記無機固体電解質がリチウムイオン伝導体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項7】
前記ハロゲン化物が、M α β・・・(1)で表される、請求項1~6のいずれか一項に記載の電解質組成物。
(式(1)において、0<β≦1.1であり、αについて、1.6≦α≦3.5である。Mは、アルカリ金属であり、Mはアルカリ金属以外の金属元素であり、Xはハロゲン元素である。)
【請求項8】
請求項1~7いずれか一項に記載の電解質組成物を含む、固体電解質。
【請求項9】
請求項1~7いずれか一項に記載の電解質組成物と、活物質と、を含む、電極。
【請求項10】
請求項1~7いずれか一項に記載の電解質組成物を含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質組成物、電極、及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の固体電解質層など、イオン伝導性を有する固体電解質が注目されている。固体電解質は、電解液とは異なり、不燃性であり安全であること、溶媒の分解による気体の発生がなく高容量化が期待できること、などの利点を有している。固体電解質は、電解質材料を焼結、圧粉等することにより一体化するか、樹脂等のバインダーにより結着して形成されている場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/261758号
【特許文献2】国際公開第2021/131716号
【特許文献3】中国特許出願公開第112216863号明細書
【特許文献4】国際公開第2020/220697号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chemical Engineering Journal 421 (2021) 129965
【非特許文献2】Advanced Energy Materials, 2020, 10, 1903376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電解質材料を焼結、圧粉等して一体化した固体電解質の場合、イオン伝導が固体電解質内での電解質粉末同士の界面での接触に依存しているため、イオン伝導の障壁が大きく、また、電極との界面の接触も取りにくく、様々な形状に対応しにくい。一方、バインダーを使用した電解質層では、電解質層の柔軟性を向上するために多量のバインダーを使用量する必要があり、イオン伝導性が低下する傾向がある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性を維持しつつ、柔軟性の高い電解質組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような電解質組成物を含む電極及び電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解質組成物は、ハロゲン化物又は酸化物である無機固体電解質と、フィブリル化する樹脂と、を含み、無機固体電解質とフィブリル化する樹脂の合計量に対して、無機固体電解質の含有量が65体積%以上である。
【0008】
無機固体電解質がハロゲン化物であると好ましい。
【0009】
アルカリ金属イオン輸率が0.6以上であると好ましい。
【0010】
フィブリル化する樹脂がフッ素含有樹脂又はアクリル系樹脂であると好ましい。
【0011】
フィブリル化する樹脂がポリテトラフルオロエチレンであると好ましい。
【0012】
上記無機固体電解質がリチウムイオン伝導体であると好ましい。
【0013】
上記ハロゲン化物が、M α β・・・(1)で表されると好ましい。
(式(1)において、0<β≦1.1であり、αについて、1.6≦α≦3.5である。Mは、アルカリ金属であり、Mはアルカリ金属以外の金属元素であり、Xはハロゲン元素である。)
【0014】
本発明の固体電解質は、上記電解質組成物を含む。
【0015】
本発明の電極は、上記電解質組成物と、活物質と、を含む。
【0016】
本発明の電池は、上記電解質組成物を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イオン伝導性を維持しつつ、柔軟性の高い電解質組成物を提供することができる。また、本発明によれば、そのような電解質組成物を含む電極及び電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1の電解質組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、実施例2の電解質組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3は、実施例3の電解質組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
図4図4は、実施例4の電解質組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
図5図5は、実施例5の電解質組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
図6図6は、比較例4の電解質組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
図7図7は、比較例5の電解質組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る電解質組成物は、ハロゲン化物(ハロゲン化物固体電解質)又は酸化物(酸化物固体電解質)である無機固体電解質と、フィブリル化する樹脂と、を含み、無機固体電解質とフィブリル化する樹脂の合計量に対して、無機固体電解質の含有量が65体積%以上である。このような電解質組成物によれば、電解質組成物のイオン伝導性を維持しつつ、柔軟性の高い電解質組成物を提供することができる。
【0020】
無機固体電解質は、アルカリ金属を含有していてよい。すなわち、無機固体電解質は、アルカリ金属含有ハロゲン化物、又はアルカリ金属含有酸化物であってよい。このような無機固体電解質は、アルカリ金属イオンの伝導性が高いため好ましい。特に、本実施形態の無機固体電解質は、界面を形成しやすく高いイオン伝導度を発現する観点から、アルカリ含有ハロゲン化物であることが好ましい。無機固体電解質に含まれるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、リチウムが好ましい。すなわち、無機固体電解質はリチウムイオン伝導体、ナトリウムイオン伝導体、カリウムイオン伝導体であってよく、リチウムイオン伝導体であると好ましい。
【0021】
アルカリ金属含有ハロゲン化物としては、アルカリ金属と、アルカリ金属以外の金属元素と、ハロゲンを含む化合物が挙げられる。アルカリ金属含有ハロゲン化物におけるアルカリ金属のモル含有率は20~40モル%であると好ましく、25~35モル%であるとより好ましい。また、ハロゲン元素のモル含有率が50~70モル%であると好ましく、55~65モル%であるとより好ましい。なお、本明細書において、特に断らない限り、各元素のモル含有率は、化合物に含まれる全原子数(モル)に対するモル含有率である。
【0022】
アルカリ金属含有ハロゲン化物としては、例えば、以下の組成式(1)で表される化合物が挙げられる。
α β・・・(1)
ここで、Mは、アルカリ金属であり、Mはアルカリ金属以外の金属元素であり、Xはハロゲン元素である。α及びβは、化合物全体の電荷が中性となるように選択すればよいが、例えば、βについて、式(1)において、0<β≦1.1であってよく、0.5≦β≦1であってよく、0.8≦β≦1であってよい。αについて、1.6≦α≦3.5であってよい。
【0023】
アルカリ金属含有ハロゲン化物に含まれるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、リチウムが好ましい。
【0024】
アルカリ金属含有ハロゲン化物に含まれるハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素のうちいずれであってもよいが、塩素、臭素及びヨウ素のうち少なくとも一つであることが好ましく、塩素、及び臭素の少なくとも一方であることがより好ましく、塩素であることが更に好ましい。
【0025】
アルカリ金属以外の金属元素のモル含有率は、15モル%以下であってよく、3~12モル%であってよい。アルカリ金属以外の金属元素としては、2価以上の金属元素であってよく、2~4価の金属元素であると好ましい。より具体的には、アルカリ金属以外の金属元素としては、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類元素、p-ブロックの金属元素等が挙げられ、具体的には、Al、Ga、In、Sc、La、Y、Zr、Sn、Nb、Ta、Bi、Zr、Sm、Sb、Ti及びHfからなる群から選択される少なくとも一つの元素であってよく、In、Zr又はYであってよい。
【0026】
アルカリ金属含有ハロゲン化物は、単斜晶又は三方晶の結晶構造を有するものであってよい。
【0027】
アルカリ金属含有ハロゲン化物は、アルカリ金属以外の金属元素及びハロゲン元素の少なくとも一方が、2種以上の元素を含むものであると好ましい。
【0028】
アルカリ金属含有ハロゲン化物がハロゲン元素を2種類以上含む場合、当該ハロゲン元素の組み合わせは任意であってよく、ハロゲン元素同士のモル比も任意であってよい。例えば、組成式(1)で表される化合物のうち、2種類以上のハロゲン元素を含むとしては、以下の組成式(2)で表される化合物が挙げられる。
α βCl6-γX1γ・・・(2)
ここで、式(2)において、X1は、塩素以外のハロゲン元素であり、臭素又はヨウ素であると好ましく、臭素であるとより好ましい。γは、0≦γ<1であってよく、0.01≦γ≦0.8であってよく、0.02≦γ≦0.7であってよく、0.1≦γ≦0.6であってよく、0.2≦γ≦0.6であってよい。M、M、α及びβは、式(1)と同じ意味である。
【0029】
アルカリ金属含有ハロゲン化物が2種以上のアルカリ金属以外の金属元素を含む場合、アルカリ金属以外の金属元素は、同じ価数の元素のみを含んでいてもよく、異なる価数の元素を含んでいてもよい。アルカリ金属以外の金属元素同士のモル比は、任意であってよい。2種以上のアルカリ金属以外の金属元素を含むアルカリ金属含有ハロゲン化物としては、以下の組成式(3)で表される化合物が挙げられる。
αB1 δB2 ε・・・(3)
B1及びMB2 εは、それぞれアルカリ金属以外の金属元素であって、互いに異なる金属元素である。MB1は、例えば、アルカリ金属含有ハロゲン化物に含まれるアルカリ金属以外の金属元素のうち、70モル%以上、又は80~99モル%を占める元素であってよい。MB1としては、Al、Ga、In、Sc、La、Y、Zr、Ti又はHfであってよく、In、Zr又はYであってよい。MB2の含有量は、アルカリ金属含有ハロゲン化物に含まれるアルカリ金属以外の金属元素のうち、30モル%以下、又は1~20モル%を占める元素であってよい。MB2は、具体的には、Bi、Zn、Zr、Sn、Nb、Ta等であってよい。δ及びεは、0<δ+ε≦1.1であってよく、0.5≦δ+ε≦1であってよく、0.8≦δ+ε≦1であってよい。M、α及びXは、式(1)と同じ意味である。
【0030】
アルカリ金属含有ハロゲン化物は、以下の組成式(5)で表される化合物であってもよい。
αB1 δB2 εCl6-γX1γ・・・(5)
、MB1、MB1、X1、α、γ、δ及びεは、式(2)及び(3)と同じ意味である。
【0031】
アルカリ金属含有ハロゲン化物としては、LiInCl、LiYCl、LiZrCl、LiInBr、LiYBr、LiZrCl5.95Br0.05、NaYCl、NaYBr等が挙げられる。
【0032】
アルカリ金属含有ハロゲン化物を製造する方法としては、特に限定されないが、原料に対してボールミルを行ってアルカリ金属含有ハロゲン化物を得る工程を備えるものが挙げられる。原料としては、特に限定されないが、アルカリ金属を含む原料は塩化リチウム等のアルカリ金属ハロゲン化物であってよい。アルカリ金属以外の金属元素を含む原料としては、当該金属元素のハロゲン化物であってよい。目的とするアルカリ金属含有ハロゲン化物の組成となるように、適宜これらの原料を選択することができる。
【0033】
ボールミルの条件としては特に限定されないが、回転数200~700rpmで10~100時間とすることができる。粉砕時間は、好ましくは24時間~72時間、より好ましくは、36~60時間である。
ボールミルに用いるボールとしては、特に限定はされないが、ジルコニアボールを用い得ることができる。用いるボールの大きさとしては特に限定はされないが、2mm~10mmのボールを用いることができる。
ボールミルを上記の時間で行うことで充分に各原料が混合され、メカノケミカル反応が促進されることによって、得られる化合物のイオン伝導度を向上させることが可能である。
【0034】
アルカリ金属含有酸化物としては、アルカリ金属及びアルカリ金属以外の金属元素を含む酸化物が挙げられる。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、リチウムが好ましい。アルカリ金属以外の金属元素としては、アルカリ土類金属元素、希土類元素、遷移金属元素(亜鉛族を含む)、周期表のp-ブロックの金属元素が挙げられる。
【0035】
アルカリ土類金属元素は、Be、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Mg、Ca、及びSrならなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Srであってよい。
【0036】
希土類元素は、Sc、Y及びランタノイドであってよく、Sc、Y、La及びNdからなる群から選択される一種であってよい。
【0037】
遷移金属元素は、周期表における第4周期~第6周期の遷移金属元素であってよく、Zr、Ta、Ti、V、Sb及びNbからなる群から選択される少なくとも一種であってよく、Zr、Ta、及びNbからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。
【0038】
アルカリ金属含有酸化物は、カルコゲン(酸素除く)、ハロゲン、周期表における第15族(窒素族)の元素、周期表における第14族(炭素族)の元素、周期表における第13族(ホウ素族)の元素等の非金属元素を含んでいてもよい。これらの元素の中でもフッ素原子が好ましい。
【0039】
アルカリ金属含有酸化物の結晶構造は、ガーネット型の結晶構造、ペロブスカイト型の結晶構造、層状岩塩型構造、NASICON型結晶構造、LISICON型結晶構造、又はオリビン型結晶構造等であってよいが、非晶質であってもよい。ガーネット型の結晶構造は、立方晶又は正方晶であってよい。
【0040】
ガーネット型結晶構造を有するアルカリ金属含有酸化物としては、LiLaZr12、LiLaNb12、LiBaLaTaO12等が挙げられ、これら化合物の元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb、及びランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも一種の元素で置換したガーネット類似型結晶も上記アルカリ金属含有酸化物として使用できる。ペロブスカイト型結晶構造を有するアルカリ金属含有酸化物としては、Li0.35La0.55TiO、Li0.2La0.27NbO等が挙げられ、これら化合物の元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb及びランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも一種の元素で置換したペロブスカイト類似型結晶も上記アルカリ金属含有酸化物として使用できる。NASICON型結晶構造を有するアルカリ金属含有酸化物としては、Li1.3Ti1.7Al0.3(PO、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO、Li1.4Al0.4Ti1.4Ge0.2(PO等が挙げられ、これら化合物の元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb及びランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも一種で置換したNASICON類似型結晶も上記アルカリ金属含有酸化物として使用できる。LISICON型結晶を有するアルカリ金属含有酸化物としては、Li14ZnGe16等が挙げられ、これら化合物の元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb及びランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも一種の元素で置換したLiSICON類似型結晶も上記アルカリ金属含有酸化物として使用できる。アルカリ金属含有酸化物は、Li3.40.6Si0.4、Li3.60.4Ge0.6、Li2+x1-x、などのその他の結晶構造を有するものであってもよい。ナトリウムを含む酸化物としては、NASICON型構造を有する、NaZrSiPO12固体電解質、β―アルミナ固体電解質(NaO-11Al)等であっても良い。
【0041】
アルカリ金属含有酸化物を製造する方法としては、特に限定されず、原料を焼成する工程を含む方法が挙げられる。原料としては、特に限定されず、アルカリ金属を含む原料としては、アルカリ金属の酸化物、炭酸塩等が挙げられる。アルカリ金属以外の金属元素を含む原料としては、当該金属を含む酸化物、炭酸塩等が挙げられる。フッ素等により、アルカリ金属含有酸化物の一部を置換する場合、フッ素を含む原料としては、金属フッ化物等が挙げられる。金属フッ化物は、他の原料と共に焼成してもよく、他の原料を焼成して得られたアルカリ金属含有酸化物に金属フッ化物を混合して加熱することにより置換反応を行ってもよい。
【0042】
本実施形態の電解質組成物は、バインダーとしてフィブリル化する樹脂を含む。フィブリル化している状態とは、ポリマーが繊維状となっていることを指す。フィブリル化する樹脂は、無機固体電解質と混合する際、電池等の電解質層を形成する際などに生じるせん断力によって容易に繊維化する。本実施形態の電解質組成物には、長さが10μm以上であるフィブリル化した樹脂が含まれることが好ましい。
【0043】
フィブリル化する樹脂としては、フッ素含有樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0044】
フッ素含有樹脂としては、主鎖として炭素鎖を有する樹脂が好ましい。このような樹脂としては、エチレン性不飽和基及びフッ素原子を有する単量体を重合して得られる化学構造を有する単独重合体又は共重合体が挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロピルビレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレンエチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)、ポリビニルフルオライド(PVF)等が挙げられる。またPTFEをアクリル樹脂で変性したものも挙げられる。PTFEをアクリル樹脂で変性したものとしては、三菱ケミカル株式会社製メタブレン(登録商標)Aタイプ等が挙げられる。電解質組成物は、これらのうち、1種又は2種以上を含んでいてよい。
【0045】
フィブリル化するアクリル系樹脂としては、例えば、特開昭48-56925号公報、特開2000-73229号公報等に開示されている樹脂が挙げられる。具体的には、アクリロニトリル系重合体を含む樹脂(アクリロニトリル系樹脂)が挙げられる。アクリロニトリル系重合体としては、例えば、アクリロニトリルと、他のエチレン性不飽和基を有する単量体との共重合体が挙げられる。当該共重合体における(メタ)アクリロニトリルに由来する単位(アクリロニトリルのラジカル付加重合により得られる単位)の含有率は80質量%以上であると好ましい。また、他のエチレン性不飽和基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル等のアルキル(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、メタクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、スチレン、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸塩、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等が挙げられ、これらの1種のみ又は2種以上を使用してよい。フィブリル化するアクリル系樹脂としては、アクリロニトリルに由来する単位の含有率が異なる二種又は二種以上のアクリロニトリル系重合体を含む樹脂、又は50~80質量%のアクリロニトリル系重合体と20~50質量%のポリ(メタ)アクリル酸エステルとを含む樹脂などが挙げられ、さらに内部水分量が130~300質量%であると好ましい。ポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のホモポリマーが挙げられる。なお、内部水分率は、内部水分率は樹脂を加速度1000Gで2分間脱水した後の質量Aと、その繊維をさらに絶乾した後の質量Bとから次の式を用いて計算されるものである。
内部水分率(質量%)=[(A-B)/B]×100
なお、本明細書において、アクリル系樹脂とは、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸誘導体に由来する単位の少なくとも一種を含む樹脂であり、重合体同士の混合物であってもよい。同様にアクリロニトリル系重合体は、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位を有する重合体(アクリロニトリル系重合体)を含む樹脂である。また、本明細書において(メタ)アクリル酸との用語は、アクリル酸及び(メタ)アクリル酸の両方を指すものとし、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸誘導体についても同様である。
【0046】
無機固体電解質の含有量は、イオン伝導性を高める観点から、無機固体電解質とフィブリル化する樹脂の合計量に対して、70体積%以上であると好ましく、75体積%以上であるとより好ましく、80体積%以上であると更に好ましい。また、無機固体電解質の含有量は、バインダーの結着力を確保する観点から、無機固体電解質とフィブリル化する樹脂の合計量に対して、99.9%体積以下であると好ましく、99.5体積%以下であるとより好ましい。
【0047】
電解質組成物における無機固体電解質とフィブリル化する樹脂との合計量は、電解質組成物の全量に対して70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。
【0048】
電解質組成物における無機固体電解質及びフィブリル化する樹脂以外の成分としては、有機溶媒、LiPF、LiBF等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0049】
本実施形態の電解質組成物のアルカリ金属イオンの輸率は、0.60以上であると好ましく、0.65以上であるとより好ましく、0.7以上であると更に好ましく、0.8以上であると特に好ましい。輸率は、室温(25℃)で測定された輸率であってよい。
【0050】
本実施形態の電解質組成物は、高いイオン伝導性を有し、柔軟であるため、イオン伝導性材料として様々な用途がある。例えば、正極、負極、及び正極と負極の間に挟まれた電解質層を有するリチウムイオン電池等の電池において、正極、負極及び電解質層のそれぞれの材料として好適に使用でき、正極又は電解質層の材料として使用することが好ましい。
【0051】
電池の電解質層(固体電解質)として使用する場合、電解質組成物を所定の形状に成形した成形体として使用することが好ましい。成形は加圧成形などにより行うことができる。
【0052】
電解質層としては、複数の層を有していて良い。例えば、本実施形態の電解質層に加え、硫化物固体電解質層を有する構成であっても良い。本実施形態の電解質と負極の間に硫化物固体電解質層を有する構成であっても良い。硫化物固体電解質としては特に限定はされないが、例えば、LiPSCl、LiS-PS、Li10GeP12、Li9.612、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、LiPSなどが挙げられる。
【0053】
本実施形態の電解質組成物を電極の材料として使用する場合、電解質組成物と活物質とを混合して使用する。すなわち、本実施形態の電極は、上記電解質組成物と活物質とを含む。
【0054】
電極が正極である場合、当該正極は、上記電解質組成物と正極活物質とを含む。正極は、電解質組成物及び正極活物質以外にも必要に応じて導電助剤等を含んでいてよい。正極は、これらの材料を含む層が集電体上に形成されたものであってよい。正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)と、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム含有複合金属酸化物が挙げられる。このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiNiMnCo1-x-y[0<x+y<1])、LiNiCoAl1-x-y[0<x+y<1])、LiCr0.5Mn0.5、LiFePO、LiFeP、LiMnPO、LiFeBO、Li(PO、LiCuO、LiFeSiO、LiMnSiOなどが挙げられる。
【0055】
リチウムイオン電池の負極としては特に限定されず、負極活物質を含み、且つ必要に応じて導電助剤、結合剤等を含むものであってよい。例えば、Li、Si、Sn、Si-Mn、Si-Co、Si-Ni、In、Auなどの金属及びこれらの金属を含む合金、グラファイト等の炭素材料、当該炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質などを挙げることができる。
【0056】
集電体の材質は特に限定されず、Cu、Mg、Ti、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Ge、In、Au、Pt、Ag、Pd等の金属の単体又は合金であってよい。
【0057】
本実施形態の電池は、正極、負極及び電解質層の少なくとも一つの材料として上記電解質層を含む。電池の電極又は電解質層が上記電解質組成物を含む場合、電解質組成物に含まれる樹脂はフィブリル化している。
【実施例0058】
(実施例1)
-70℃以下の露点を有するアルゴン雰囲気中(以下、乾燥アルゴン雰囲気と記載する)で、LiCl及びInClを秤量し、原料を用意した。
遊星ボールミル装置(ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社製、PM 400)を用いてメカノケミカル的に原料を反応させ、LiInCl(仕込み組成)を得た。具体的には、まず、遊星ボールミル用の50mlの容積のジルコニアポットに上記原料を入れ、直径4mmのジルコニアボールを65g投入した。上記遊星ボールミル装置により、48時間、380rpmの条件でボールミルを行うことにより、上記化合物を得た。
なお、ボールミルは、10分間回転させる毎に、インターバルとして1分間停止させ、回転方向を時計回りと反時計回り交互に切り替えるモードで実施した。
得られたLiInClについて、25℃での粉末X線回折測定により、結晶構造の評価を行った。粉末X線回折測定の測定条件について、下記の条件にて実施した。
測定装置: Ultima IV (株式会社 リガク 製)
X線発生器: CuKα線源 電圧40kV、電流40mA
X線検出器: 半導体検出器
測定範囲: 回折角2θ=10°~80°
スキャンスピード:4°/分
解析の結果、結晶構造は、単斜晶の空間群C2/mに帰属された。
得られたLiInClとポリテトラフルオロエチレン(PTFE、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、商品名:ファインパウダー6-J)とを体積比で96:4の割合で、メノウ乳鉢によるハンドミルで混合し、電解質組成物を得た。
【0059】
(実施例2)
LiInClとPTFEとを体積比で83:17の割合で混合したこと以外は、実施例1と同様に電解質組成物を製造した。
【0060】
(実施例3)
LiInClをガーネット型酸化物固体電解質であるLi6.6LaZr1.6Ta0.412(LLZT、豊島製作所製)に変更し、LLZTとPTFEとを体積比で99:1の割合で混合したこと以外は、実施例1と同様に電解質組成物を製造した。
【0061】
(実施例4)
LiInClとPTFEとを体積比で99:1の割合で混合したこと以外は、実施例1と同様に電解質組成物を製造した。
(実施例5)
実施例1と同様の条件で、LiCl、LiBr、及びZrClを秤量し、原料を用意した。実施例1と同様に、遊星ボールミル装置(ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社製、PM 400)を用いてメカノケミカル的に原料を反応させ、LiZrCl5.95Br0.05(仕込み組成)を得た。
得られたLiZrCl5.95Br0.05について、上記の条件で25℃での粉末X線回折測定により、結晶構造の評価を行った。
解析の結果、結晶構造は、三方晶の空間群P-3m1に帰属された。
得られたLiZrCl5.95Br0.05とポリテトラフルオロエチレン(PTFE、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、ファインパウダー6-J)とを体積比で96:4の割合で、メノウ乳鉢によるハンドミルで混合し、ペレット状の電解質組成物を得た。
【0062】
(比較例1)
実施例1と同様に製造したLiInClに樹脂を加えずに圧粉して得られた圧粉体を使用した。
【0063】
(比較例2)
実施例1と同様に製造したLLZTに樹脂を加えずに圧粉して得られた圧粉体を使用した。
【0064】
(比較例3)
LiInClとPTFEとを体積比で63:37の割合で混合したこと以外は、実施例1と同様に電解質組成物を製造した。
【0065】
(比較例4)
LLZTとポリ(エチレンオキシド)(PEO)とを体積比で10:90の割合で混合したこと以外は、実施例3と同様に電解質組成物を製造した。なお、使用したPEOは、フィブリル化しなかった。使用したPEOの情報は、下記である。
試薬会社:Aldrich、製品番号:181986
製品名:ポリ(エチレンオキシド) average Mv 100,000, powder
【0066】
(比較例5)
LLZTとポリ(エチレンオキシド)(PEO)とを体積比で90:10の割合で混合したこと以外は、比較例4と同様に電解質組成物を製造した。
【0067】
実施例1~5及び比較例1~5で得られた電解質組成物、電解質の圧粉体及び焼結体の各電解質材料について以下の各種測定を行った。
【0068】
<イオン伝導度の測定>
枠型、パンチ下部及びパンチ上部を備える加圧成形ダイスを用意した。なお、枠型は、絶縁性ポリカーボネートから形成されていた。また、パンチ上部及びパンチ下部は、いずれも、電子伝導性のステンレスから形成されており、インピーダンスアナライザー(Solatron Analytical社製 Sl1260)の端子にそれぞれ電気的に接続されていた。
【0069】
上記加圧成形ダイスを用いて、下記の方法により、イオン伝導度が測定された。まず、乾燥アルゴン雰囲気中で、実施例及び比較例の各電解質材料を、枠型の中空部に鉛直下方から挿入されたパンチ下部上に充填した。そして、パンチ上部を枠型の中空部に上から押し込むことにより、加圧成形ダイスの内部で、電解質材料に200MPaの圧力が印加された。圧力が印加された後、治具でパンチを上下から締め付けて固定し、一定圧力が保持されたままの状態で、上記インピーダンスアナライザーを用いて、電気化学的インピーダンス測定法により、25℃における電解質材料のインピーダンスが測定された。
【0070】
インピーダンス測定結果から、Cole-Cole線図のグラフを作成した。Cole-Cole線図において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点でのインピーダンスの実数値を、電解質材料のイオン伝導に対する抵抗値と見なした。当該抵抗値を用いて、以下の数式(III)に基づいてイオン伝導度(σ25℃)が算出された。
σ=(RSE×S/t)-1・・・(III)
ここで、
σはイオン伝導度であり、
Sは、電解質材料のパンチ上部との接触面積(枠型の中空部の断面積に等しい)であり、
SEは、インピーダンス測定における電解質材料の抵抗値であり、
tは、圧力が印加された際の電解質材料の厚みである。
【0071】
<応力耐性の評価>
ステンレス製のサンプル封入部の内径が10mmである円筒型の金型を用い、37MPaの一軸圧力を印加して、成形体を作製した。得られた成形体について、金型から取り出した状態で185MPaの一軸圧力を印加した際の、成形体の割れの有無を確認した。結果を表1に示す。
なお、表1において、「割れ無し」は、電解質組成物が粘土状であり、塑性的に変形して割れの無い成形体が得られたことを示す。一方、表1において、「割れ有り」は、電解質材料が圧力によって割れ、一体化された成形体が得られなかったことを示す。
【0072】
<走査型電子顕微鏡(SEM)による観察>
走査型電子顕微鏡JCM-7000(日本電子株式会社製)を用いて、観察を行った。加速電圧15kV、高真空モードの条件で観察した。
図1~7に実施例1~5及び比較例4~5の電解質組成物のSEM像を示す。図1~5からわかるように、実施例1~5の電解質組成物においてはPTFEが10μm以上の長さでフィブリル化しているのに対し、比較例4及び5の電解質組成物ではPEОはフィブリル化していなかった。
【0073】
<リチウムイオン輸率の測定>
乾燥アルゴン雰囲気中で、内径10mmの絶縁性の筒の中に、実施例1~5の各電解質組成物を100mgを入れ、200MPaの圧力を印加し、第1の固体電解質層が形成された。
次に、第1の固体電解質層の上下の両側に、硫化物固体電解質LiPSClを接触させるようにして60mg入れ、積層体を得た。積層体に200MPaの圧力を印加し、第2、第3の固体電解質層が形成された。第1の固体電解質層は、第2、第3の固体電解質層に挟まれていた。
次に、第2、第3の固体電解質層にそれぞれIn箔60mg、を接触させるようにして入れ、さらにLi箔2mgをIn箔と接触させるように入れ、積層体を得た。積層体に200MPaの圧力を印加し、第1、第2の電極が形成された。
ステンレス鋼で形成された集電体が第1電極及び第2電極に取り付けられ、次いで、当該集電体にリード線が取り付けられた。全ての部材はデシケータ中に配置され、密閉されており、このようにして電解質組成物の輸率測定用のセルが得られた。
室温(25℃)で、電解質組成物の輸率測定用のセルに10mVを印加し、初期電流値(I)および、電圧印加後、10000秒経過した時の電流値(Iss)を測定し、得られた値を次式に代入してリチウムイオン輸率(tLi+)を求めた。
Li+=Iss/I
【0074】
<コインセル作製>
実施例1で作製した電解質組成物を用い、コインセルを作製した。
具体的には、乾燥アルゴン雰囲気中で、実施例1の電解質組成物、及びLiNi1/3Mn1/3Co1/3、及びアセチレンブラックをそれぞれ29質量部、67質量部、4質量部秤量し、乳鉢で混合することで、正極材混合物を得た。
得られた混合物6.2mgをアルミメッシュに乳棒を用いて押し当てることで圧力を印加し、接着することで、正極層を作製した。正極層に対して、実施例1の電解質組成物を150mg、正極層上に配置し、一軸圧プレスを用いて110MPaの圧力を印加することで、正極層上に固体電解質層を作製した。さらに、固体電解質層の上に金属Inを60.5mg、金属Liを2.3mgを載置し、圧力を110MPa加えて一体化させることにより、負極層を形成した。正極層、固体電解質層、負極層と一体化した積層体について、SUS製のスペーサーで挟み、コインケースに入れてかしめることにより、コインセルを作製した。
【0075】
<コインセルの充放電試験>
充放電試験機としては、下記の製品を用いて実施した。
充放電試験機:東洋システム株式会社 TOSCAT-3100
60℃において、0.1CのCレートで充放電試験を実施した。
定電流定電圧(CCCV充電)で、0.1CのCレートに対応した電流密度で上記のコインセルを3.7Vまで充電を行った。
放電は、0.1CのCレートに対応した電流密度で、上記のコインセルを1.9Vまで放電した。
充放電試験の結果、充電容量は123mAh/gであり、放電容量は20mAh/gであった。
一方、比較例1、比較例2で同様の方法でコインセルを作製したが、正極層と固体電解質層を形成することができず、充放電試験を実施することが出来なかった。
【0076】
<圧粉セル二次電池の作製>
乾燥アルゴン雰囲気中で、実施例4の電解質組成物、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、及びアセチレンブラックをそれぞれ29質量部、67質量部、及び4質量部秤量し、乳鉢で混合することで、混合物を得た。
内径10mmの絶縁性の筒の中で、実施例4の電解質組成物を100mg、上記の混合物を15mgを順に積層して、積層体を得た。積層体に200MPaの圧力を印加し、第1電極(上記混合物の層)及び第1の固体電解質層(上記リチウム含有塩化物の層)が形成された。
次に、第1の固体電解質層に、硫化物固体電解質LiPSClを接触させるようにして60mg入れ、積層体を得た。積層体に200MPaの圧力を印加し、第2の固体電解質層が形成された。第1の固体電解質層は、第1の電極と第2の固体電解質層に挟まれていた。
次に、第2の固体電解質層にIn箔60mg、を接触させるようにして入れ、さらにLi箔2mgをIn箔と接触させるように入れ、積層体を得た。積層体に200MPaの圧力を印加し、第2電極が形成された。
ステンレス鋼で形成された集電体が第1電極及び第2電極に取り付けられ、次いで、当該集電体にリード線が取り付けられた。全ての部材はデシケータ中に配置され、密閉されおり、このようにして実施例4の圧粉セル二次電池が得られた。
【0077】
<圧粉セル二次電池の充放電試験>
得られた実施例4の圧粉セル二次電池について、60℃において、充放電試験を実施した。
0.1Cと1Cの2通りのCレートで充放電試験を実施した。
定電流定電圧(CCCV充電)で、それぞれのCレートに対応した電流密度で3.7Vまで充電を行った。放電は、それぞれのCレートに対応した電流密度で、1.9Vまで放電した。
充放電試験の結果、0.1C、1CのCレートでの放電容量はそれぞれ、171mAh/gと、85mAh/gであった。
【0078】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7