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特開2023-86486中空粒子の製造方法、及び樹脂組成物の製造方法
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  • 特開-中空粒子の製造方法、及び樹脂組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086486
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】中空粒子の製造方法、及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/02 20060101AFI20230615BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230615BHJP
   C08F 12/36 20060101ALI20230615BHJP
   C08F 8/06 20060101ALI20230615BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230615BHJP
   C08L 25/02 20060101ALI20230615BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B01J13/02
C08F2/44 B
C08F12/36
C08F8/06
C08L63/00 A
C08L25/02
C08J7/00 306
C08J7/00 CER
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201040
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】柳生 左京
【テーマコード(参考)】
4F073
4G005
4J002
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4F073AA01
4F073BA19
4F073BB03
4F073CA01
4G005AA04
4G005AB13
4G005BA03
4G005BB08
4G005BB19
4G005DC03Y
4G005DC09Y
4G005DD12Z
4G005DD15Z
4G005EA05
4G005EA06
4J002BC012
4J002CD051
4J002FA102
4J002FB042
4J002FB072
4J011PA23
4J011PB37
4J011PC02
4J011PC07
4J100AB15Q
4J100AB16P
4J100AL08R
4J100AL62R
4J100AL63R
4J100EA12
4J100FA02
4J100FA03
4J100FA21
4J100GC26
4J100GD01
4J100GD02
4J100HA61
4J100HB07
4J100HE01
4J100HE29
(57)【要約】
【課題】樹脂との密着性を向上可能な中空粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂を含むシェル及び当該シェルに取り囲まれた中空部を備える原料用中空粒子を準備する工程と、気相中で前記原料用中空粒子にプラズマ処理を行うことにより、前記原料用中空粒子の表面に反応性基を導入する工程とを含む、中空粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含むシェル及び当該シェルに取り囲まれた中空部を備える原料用中空粒子を準備する工程と、
気相中で前記原料用中空粒子にプラズマ処理を行うことにより、前記原料用中空粒子の表面に反応性基を導入する工程とを含む、中空粒子の製造方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理が、O、HO、NH及びNからなる群から選ばれる少なくとも1種のガスを含む雰囲気下で行われる、請求項1に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項3】
前記原料用中空粒子のシェルが、前記樹脂として、全単量体単位100質量%中に架橋性単量体単位を60質量%以上含む重合体を含有する、請求項1又は2に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項4】
前記原料用中空粒子のシェルに含まれる前記樹脂が、全単量体単位100質量%中に炭化水素単量体単位を50質量%超過含む重合体を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項5】
前記原料用中空粒子のシェルに含まれる前記樹脂が、全単量体単位100質量%中にアクリル系単量体単位を50質量%超過含む重合体を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項6】
前記原料用中空粒子の空隙率が50%以上であり、空隙率が50%以上の中空粒子を得る方法である、請求項1~5のいずれか一項に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項7】
前記原料用中空粒子の体積平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、体積平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下の中空粒子を得る方法である、請求項1~6のいずれか一項に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法により、表面に反応性基を有する中空粒子を製造する工程と、
前記中空粒子、及び前記中空粒子が表面に有する前記反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂を混合する工程とを含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空粒子の製造方法、及び当該中空粒子を含有する樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空粒子(中空樹脂粒子)は粒子の内部に空洞があるため、軽量化、断熱化、低誘電率化等の目的で、樹脂、塗料又は各種成形体等に添加されて用いられており、その用途は、自動車、自転車、航空、電気、電子、建築、家電、容器、文具、工具、履物等の広範な分野に及ぶ。
【0003】
中空粒子を添加した各種組成物及び成形体の軽量化、断熱化、低誘電率化等の効果を向上させるためには、中空粒子が、他の材料との混練時及び混練後の成形時において高い空隙率を維持できることが望ましい。
例えば、特許文献1には、成形加工時の空隙率の変化が小さい中空粒子として、シェルに含まれる樹脂が、架橋性単量体単位を30~100質量部含む中空粒子が開示されている。特許文献1には、耐熱性の高い粒子を得るために、(メタ)アクリル酸等のカルボキシ基含有単量体単位を更に含有させてもよい旨が記載されている。
また、特許文献2には、真球状である比率が高く、強度を確保しつつ、中空率を高くでき、分散性に優れる中空粒子として、3つ以上の重合性二重結合を有し、かつ、カルボキシ基を有する多官能モノマー(A)を1種以上含有する架橋性モノマーの重合体を含む中空樹脂粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/066704号
【特許文献2】特開2021-88641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の中空粒子を樹脂に含有させた樹脂組成物は、中空粒子を含有しない樹脂組成物に比べて、引張強度や曲げ強さ等の外力に対する強度に関する物性が低下するという問題がある。更に、従来の中空粒子を樹脂に含有させた樹脂組成物を、電子回路基板等の電子部品の絶縁樹脂又は封止樹脂等に用いた場合には、中空粒子を含有する樹脂層と銅箔との密着性が低いことで十分な銅箔ピール強度が得られないという問題や、PCT(プレッシャークッカーテスト)等の信頼性試験で吸湿による不具合が起きやすい等の問題がある。これらの問題は、樹脂組成物中の中空粒子と樹脂との密着性が不十分であることに起因すると考えられる。
【0006】
本開示の課題は、樹脂との密着性を向上可能な中空粒子の製造方法を提供すること、及び、当該製造方法により得られる中空粒子を含有する樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、気相中で中空粒子にプラズマ処理を行うことにより、効率良く粒子表面に反応性基を導入することができ、樹脂との密着性を向上可能な中空粒子が得られることを見出した。
【0008】
本開示は、樹脂を含むシェル及び当該シェルに取り囲まれた中空部を備える原料用中空粒子を準備する工程と、
気相中で前記原料用中空粒子にプラズマ処理を行うことにより、前記原料用中空粒子の表面に反応性基を導入する工程とを含む、中空粒子の製造方法を提供する。
【0009】
本開示の中空粒子の製造方法においては、前記プラズマ処理が、O、HO、NH及びNからなる群から選ばれる少なくとも1種のガスを含む雰囲気下で行われることが好ましい。
【0010】
本開示の中空粒子の製造方法においては、前記原料用中空粒子のシェルが、前記樹脂として、全単量体単位100質量%中に架橋性単量体単位を60質量%以上含む重合体を含有することが好ましい。
【0011】
本開示の中空粒子の製造方法においては、前記原料用中空粒子のシェルに含まれる前記樹脂が、全単量体単位100質量%中に炭化水素単量体単位を50質量%超過含む重合体を含有していてもよい。
或いは、本開示の中空粒子の製造方法においては、前記原料用中空粒子のシェルに含まれる前記樹脂が、全単量体単位100質量%中にアクリル系単量体単位を50質量%超過含む重合体を含有していてもよい。
【0012】
本開示の中空粒子の製造方法においては、前記原料用中空粒子の空隙率が50%以上であり、空隙率が50%以上の中空粒子を得る方法であることが好ましい。
【0013】
本開示の中空粒子の製造方法においては、前記原料用中空粒子の体積平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、体積平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下の中空粒子を得る方法であることが好ましい。
【0014】
本開示は、前記本開示の中空粒子の製造方法により、表面に反応性基を有する中空粒子を製造する工程と、
前記中空粒子、及び前記中空粒子が表面に有する前記反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂を混合する工程とを含む、樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
上記の如き本開示は、樹脂との密着性を向上可能な中空粒子の製造方法を提供し、更に、当該中空粒子と樹脂を含有する樹脂組成物の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の原料用中空粒子の製造方法の一例を説明する図である。
図2】懸濁工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
なお、本開示において、数値範囲における「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
また、本開示において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの各々を表し、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの各々を表し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及びメタクリロイルの各々を表す。
また、本開示において、重合性単量体とは、付加重合が可能な官能基(本開示において、単に重合性官能基と称する場合がある)を有する化合物である。本開示において、重合性単量体としては、付加重合が可能な官能基としてエチレン性不飽和結合を有する化合物が一般に用いられる。
本開示においては、重合性官能基を1つだけ有する重合性単量体を非架橋性単量体と称し、重合性官能基を2つ以上有する重合性単量体を架橋性単量体と称する。架橋性単量体は、重合反応により樹脂中に架橋結合を形成する重合性単量体である。
また、本開示において、誘電特性が良好であるとは、比誘電率及び誘電正接が低いことを意味し、比誘電率及び誘電正接が低いほど、誘電特性が良好であるとする。
【0018】
I.中空粒子の製造方法
本開示の中空粒子の製造方法は、樹脂を含むシェル及び当該シェルに取り囲まれた中空部を備える原料用中空粒子を準備する工程と、
気相中で前記原料用中空粒子にプラズマ処理を行うことにより、前記原料用中空粒子の表面に反応性基を導入する工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
表面に反応性基を有する中空粒子は、当該反応性基と反応し得る官能基を有する樹脂と組み合わせて使用することにより、中空粒子が表面に有する反応性基と、樹脂が有する官能基とが反応して架橋結合を形成することができるため、中空粒子と樹脂との界面を密着性に優れたものとすることができる。
そして、本開示の製造方法によれば、気相中でプラズマ処理を行うことにより、原料用中空粒子の表面に、樹脂との密着性を向上させるために十分な量の反応性基を効率良く導入することができる。
特許文献1、2に記載されるように、カルボキシ基含有単量体等の反応性基含有単量体を、中空粒子の骨格となる重合体の形成に用いた場合は、反応性基をシェルの外側表面に位置させることが困難であり、反応性基含有単量体の添加量を増やしても、十分な量の反応性基を中空粒子の表面に存在させることは困難である。また、シェルに含まれる反応性基量が多いほど、中空粒子は誘電特性が悪化する傾向があるため、中空粒子の誘電特性を維持したまま、樹脂との密着性を向上させることが困難であるという問題もある。
これに対し、本開示の製造方法によれば、原料用中空粒子の樹脂組成を変えずに、粒子表面に効率良く反応性基を導入できることから、誘電特性に優れる原料用中空粒子を用いることにより、表面に反応性基を有する誘電特性に優れた中空粒子を得ることが可能である。
【0020】
本開示において、中空粒子が表面に有する反応性基は、組み合わせて用いる樹脂が有する官能基との化学反応により、中空粒子と樹脂との間に架橋を与える基である。
上記反応性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、エポキシ基、チオール基、イソシアネート基、カルボキシ基、無水カルボン酸基、スルホ基、クロロスルホ基、ニトリル基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルコキシシラン基、シラノール基等が挙げられる。上記反応性基は、樹脂が有する官能基と反応し得るものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされない。また、本開示の中空粒子が表面に有する反応性基は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0021】
本開示の中空粒子と組み合わせて用いる樹脂は、用途に応じて適宜選択することができる。選択された樹脂が有する官能基に応じて、当該官能基と反応し得る反応性基を中空粒子に導入してもよい。
樹脂が有する官能基がエポキシ基である場合、中空粒子が有する反応性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシ基、無水カルボン酸基等が好ましい。
樹脂が有する官能基がカルボキシ基又は無水カルボン酸基である場合、中空粒子が有する反応性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基等が好ましい。
樹脂が有する官能基がアミノ基である場合、中空粒子が有する反応性基としては、例えば、カルボキシ基、エポキシ基等が好ましい。
以下、本開示の中空粒子の製造方法に関し、原料用中空粒子を準備する工程と、プラズマ処理工程について、順に説明する。
【0022】
1.原料用中空粒子を準備する工程
原料用中空粒子は、樹脂を含有するシェル(外殻)と、当該シェルに取り囲まれた中空部とを備える粒子である。
本開示において、中空部は、樹脂材料により形成される中空粒子のシェルから明確に区別される空洞状の空間である。中空粒子のシェルは多孔質構造を有していても良いが、その場合には、中空部は、多孔質構造内に均一に分散された多数の微小な空間とは明確に区別できる大きさを有している。誘電特性等の観点からは、密実なシェルを備えることが好ましい。
中空粒子が有する中空部は、例えば、粒子断面のSEM観察等により、又は粒子をそのままTEM観察等することにより確認することができる。
また、優れた誘電特性を発揮する点からは、中空部が空気等の気体で満たされていることが好ましい。
なお、これらの原料用中空粒子の特徴は、通常、後述するプラズマ処理工程後に得られる本開示の中空粒子においても維持される。
【0023】
本開示に用いられる原料用中空粒子としては、付加重合可能な重合性単量体の重合体を、シェルの骨格成分として含むものを好ましく用いることができる。
上記重合性単量体としては、中空粒子の作製に従来用いられている公知の重合性単量体を用いることができ、特に限定はされないが、架橋性単量体を含むことが好ましい。重合性単量体が架橋性単量体を含むと、得られる中空粒子が球状になりやすく、粒子内にはシェルから明確に区別される中空部が形成されやすい。
また、誘電特性に優れる中空粒子を得る点からは、重合性単量体が、炭化水素単量体を含むことが好ましい。一方で、アクリル系単量体は、重合反応が安定し易い点から好ましく用いられる。
なお、本開示においては、炭素と水素からなる重合性単量体を炭化水素単量体と称し、炭素と水素からなる架橋性単量体を架橋性炭化水素単量体と称し、炭素と水素からなる非架橋性単量体を非架橋性炭化水素単量体と称する。
また、本開示においては、重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体をアクリル系単量体と称し、重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する架橋性単量体を架橋性アクリル系単量体と称し、重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する非架橋性単量体を非架橋性アクリル系単量体と称する。架橋性アクリル系単量体においては、少なくとも1つの重合性官能基が(メタ)アクリロイル基であればよいが、全ての重合性官能基が(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。
【0024】
[架橋性単量体]
架橋性炭化水素単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルジフェニル、及びジビニルナフタレン等が挙げられる。中でも、重合反応が安定し易く、誘電特性、耐溶剤性、強度及び耐熱性等に優れる中空粒子が得られる点から、ジビニルベンゼンが好ましい。
架橋性アクリル系単量体としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリルプロピル(メタ)アクリレート等の2官能のもの;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート及びこれらのエトキシ化体等の3官能以上のものが挙げられる。中でも、重合反応が安定し易く、かつ、強度に優れる中空粒子が得られる点から、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートが好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
更に、架橋性単量体としては、ジアリルフタレート等の架橋性アリル系単量体等を挙げることもできる。
これらの架橋性単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
中空粒子の強度を向上する点からは、重合性官能基を2つのみ有する2官能の架橋性単量体と、重合性官能基を3つ以上有する3官能以上の架橋性単量体とを組み合わせて用いることも好ましい。2官能の架橋性単量体として好ましいものは、上述した通りである。3官能以上の架橋性単量体としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0025】
[非架橋性単量体]
重合性単量体は、非架橋性単量体を含んでいてもよい。
非架橋性炭化水素単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、エチルビニルビフェニル、エチルビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;等が挙げられる。中でも、中空粒子の誘電特性を向上する点から、芳香族ビニル単量体が好ましく、特にエチルビニルベンゼンが好ましい。
非架橋性アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。中でも、重合反応が安定し易い点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、ブチルアクリレート、及びメチルメタクリレートがより好ましい。
更に、非架橋性単量体としては、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;ハロゲン化スチレン等のハロゲン化芳香族ビニル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;等を挙げることもできる。
これらの非架橋性単量体はそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
原料用中空粒子は、上記重合性単量体の重合体をシェルの主成分として含み、当該重合体が、中空粒子のシェルの骨格を形成するものであることが好ましい。
原料用中空粒子において、上記重合性単量体の重合体の含有量は、シェルの全固形分100質量%中、好ましくは96質量%以上、より好ましくは97質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、より更に好ましくは99質量%以上である。上記重合体の含有量を上記下限値以上とすることにより、中空粒子の誘電特性、強度、耐圧性を向上することができる。
【0027】
また、原料用中空粒子は、シェルに含まれる上記重合体中の全単量体単位100質量%に対し、架橋性単量体単位の含有量が、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。架橋性単量体単位の含有量が上記下限値以上であると、粒子内に中空部が形成されやすく、粒子が球状になりやすく、更に、シェルの架橋密度を高めることができるため、中空粒子の耐溶剤性、強度、耐圧性、耐熱性等を向上させることができるというメリットもある。
上記重合体が非架橋性単量体単位を含有する場合、架橋性単量体単位の含有量は、上記重合体中の全単量体単位100質量%に対し、例えば、98質量%以下であってもよく、96質量%以下であってもよい。
【0028】
また、架橋性単量体単位が、2官能の架橋性単量体に由来する単量体単位と、3官能以上の架橋性単量体に由来する単量体単位とを組み合わせて含む場合は、シェルの強度を向上する点から、架橋性単量体単位の合計質量100質量%に対し、3官能の架橋性単量体に由来する単量体単位の含有量が、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量以上、更に好ましくは30質量部以上であり、一方、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
【0029】
本開示の中空粒子を、誘電特性が良好なものとする観点からは、原料用中空粒子が含む上記重合体中の全単量体単位100質量部に対し、炭化水素単量体単位の含有量が、好ましくは50質量%超過、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、上記重合体が炭化水素単量体単位からなることが特に好ましい。なお、中空粒子の誘電特性を大きく損なわない範囲でヘテロ原子を含む重合性単量体単位を含んでいてもよく、例えば、炭化水素単量体単位の含有量が、上記重合体中の全単量体単位100質量部に対し、99質量%以下であってもよく、98質量%以下であってもよい。
【0030】
重合反応の反応性の観点からは、重合性単量体の主成分としてアクリル系単量体を用いることが好ましい。この場合、原料用中空粒子が含む上記重合体中の全単量体単位100質量部に対し、アクリル系単量体単位の含有量が、好ましくは50質量%超過、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、上記重合体がアクリル系単量体単位からなることが特に好ましい。なお、重合反応の安定性を大きく損なわない範囲で、アクリル系単量体以外の重合性単量体を用いてもよく、例えば、アクリル系単量体単位の含有量が、上記重合体中の全単量体単位100質量部に対し、99質量%以下であってもよく、98質量%以下であってもよい。
【0031】
また、本開示の中空粒子の誘電特性の低下を抑制する点から、原料用中空粒子のシェルの全固形分100質量%中、上記重合体以外の成分の含有量が、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、より更に好ましくは1質量%以下である。
なお、原料用中空粒子に含まれる上記重合体以外の成分としては、例えば、未反応のまま残留した重合性単量体、上記重合性単量体の重合体とは異なる重合体、粒径制御剤、重合開始剤の分解物、重合性単量体の原料に不純物として含まれる低分子化合物等が挙げられる。これらは、低沸点のもの(例えば沸点200℃以下)は中空粒子の製造過程で通常除去されるが、高沸点のもの(例えば沸点250℃以上)は、除去されずに残留する場合がある。
【0032】
原料用中空粒子は、空隙率が、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは65%以上、より更に好ましくは70%以上である。空隙率が上記下限値以上であることにより、中空粒子は、誘電特性に優れ、更に、軽量性、耐熱性及び断熱性等にも優れる。中空粒子の空隙率の上限は、特に限定はされないが、中空粒子の強度の低下を抑制し、潰れにくくする点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下である。
【0033】
中空粒子の空隙率は、中空粒子の見かけ密度D及び真密度Dから算出される。
中空粒子の見かけ密度Dの測定法は以下の通りである。まず、容量100cmのメスフラスコに約30cmの中空粒子を充填し、充填した中空粒子の質量を精確に秤量する。次に、中空粒子が充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たす。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(I)に基づき、中空粒子の見かけ密度D(g/cm)を計算する。
式(I):
見かけ密度D=[中空粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
見かけ密度Dは、中空部が中空粒子の一部であるとみなした場合の、中空粒子全体の比重に相当する。
【0034】
中空粒子の真密度Dの測定法は以下の通りである。中空粒子を予め粉砕した後、容量100cmのメスフラスコに中空粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量する。あとは、上記見かけ密度の測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空粒子の真密度D(g/cm)を計算する。
式(II):
真密度D=[中空粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
真密度Dは、中空粒子のうちシェル部分のみの比重に相当する。上記測定方法から明らかなように、真密度Dの算出に当たっては、中空部は中空粒子の一部とはみなされない。
【0035】
中空粒子の空隙率(%)は、中空粒子の見かけ密度Dと真密度Dにより、下記式(III)により算出される。
式(III):
空隙率(%)=100-(見かけ密度D/真密度D)×100
【0036】
原料用中空粒子の体積平均粒径は、用途に応じて適宜調整することができ、特に限定はされないが、下限としては、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは2.0μm以上である。原料用中空粒子の体積平均粒径が上記下限値以上であると、粒子同士の凝集性が小さくなるため、優れた分散性を発揮することができる。
原料用中空粒子の体積平均粒径の上限は、低誘電率化又は低誘電正接化のために用いる中空粒子においては、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは8.0μm以下、更に好ましくは5.0μm以下である。体積平均粒径が上記上限値以下の中空粒子は、粒径が十分に小さいため、電子回路基板等の基板材料として好適に用いられ、厚みの薄い小型基板にも添加することができる。一方、耐圧性と機械的強度のバランスの観点からは、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
【0037】
原料用中空粒子の形状は、内部に中空部が形成されていれば特に限定されず、例えば、球形、楕円球形、不定形等が挙げられる。これらの中でも、製造の容易さ及び耐圧性等の観点から球形が好ましい。
原料用中空粒子は、1又は2以上の中空部を有していてもよいが、高い空隙率と、機械強度との良好なバランスを維持する点、及び誘電特性を向上する点から、中空部を1つのみ有するものが好ましい。また、原料用中空粒子が備えるシェル、及び、中空部を2つ以上有する場合に隣接し合う中空部を仕切る隔壁は、多孔質状となっていてもよいが、誘電特性を向上する点から、密実であることが好ましい。
原料用中空粒子は、平均円形度が、0.950~0.995であってもよい。
原料用中空粒子の形状のイメージの一例は、薄い皮膜からなりかつ気体で膨らんだ袋であり、その断面図は図1の(5)中の中空粒子10の通りである。この例においては、外側に薄い1枚の皮膜が設けられ、その内部が気体で満たされる。
なお、粒子形状は、例えば、SEMやTEMにより確認することができる。
【0038】
原料用中空粒子の粒度分布(体積平均粒径(Dv)/個数平均粒径(Dn))は、例えば、1.1以上2.5以下であってもよい。当該粒度分布が2.5以下であることにより、圧縮強度特性及び耐熱性が粒子間でバラつきの少ない粒子が得られる。また、当該粒度分布が2.5以下であることにより、例えば、本開示の中空粒子を添加したシート状の樹脂成形体を製造する際に、厚さが均一な製品を製造することができる。
中空粒子の体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)は、例えば、粒度分布測定装置により中空粒子の粒径を測定し、その個数平均及び体積平均をそれぞれ算出し、得られた値をその粒子の個数平均粒径(Dn)及び体積平均粒径(Dv)とすることができる。粒度分布は、体積平均粒径を個数平均粒径で除した値とする。
【0039】
後述するプラズマ処理工程の前後で、上述した中空粒子の空隙率、体積平均粒径、形状、及び粒度分布は通常変化しない。よって、これらの物性については、所望の物性を有する原料用中空粒子を用いることにより、本開示の製造方法により得られる中空粒子を、所望の物性を有するものとすることができる。
【0040】
原料用中空粒子は、中空粒子を製造するための公知の方法により製造してもよいし、市販の中空粒子を用いてもよい。
本開示において、原料用中空粒子として使用可能な市販の中空粒子としては、例えば、積水化成品工業(株)製のテクポリマー(登録商標)シリーズのサブミクロンサイズ(TP-HS)及びナノサイズ(TP-NH)等を挙げることができる。
【0041】
原料用中空粒子を製造する方法としては、公知の方法を採用することができ、特に限定はされないが、例えば、懸濁重合法、シード乳化重合法、シード分散重合法等を挙げることができる。中でも、粒径の制御が容易である点から、懸濁重合法が好ましい。
懸濁重合法による中空粒子の製造方法は、重合性単量体、疎水性溶剤、重合開始剤、分散安定剤、及び水系媒体を含む混合液を懸濁させることにより、重合性単量体と疎水性溶剤が相分離し、重合性単量体が表面側に偏在し、疎水性溶剤が中心部に偏在した分布構造を有する液滴が水系媒体中に分散してなる懸濁液を調製し、この懸濁液を重合反応に供することによって液滴の表面を硬化させて疎水性溶剤で満たされた中空部を有する中空粒子を形成するという基本技術に従うものである。懸濁液中の単量体組成物の液滴内では、各材料が各自の極性に従って分布するため、相対的に極性が低い疎水性溶剤は液滴の中心に偏在し、相対的に極性が高い重合性単量体が液滴の表面側に偏在することとなる。
【0042】
懸濁重合法による原料用中空粒子の製造方法の好ましい一例として、例えば、以下の工程を含む製造方法を挙げることができる。なお、技術的に可能である限り、各工程、及び、その他の付加的な工程の2つまたはそれ以上を、一つの工程として同時に行っても良いし、順序を入れ替えて行っても良い。例えば、混合液を調製する材料を投入しながら同時に懸濁を行うというように、混合液の調製と懸濁を一つの行程中で同時に行ってもよい。
【0043】
(1)混合液調製工程
重合性単量体、疎水性溶剤、重合開始剤、分散安定剤及び水系媒体を含む混合液を調製する工程
(2)懸濁工程
前記混合液を懸濁させることにより、重合性単量体、疎水性溶剤及び重合開始剤を含有する単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程
(3)重合工程
前記懸濁液を重合反応に供することにより、樹脂を含むシェルに取り囲まれた中空部を有し、かつ前記中空部に疎水性溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程
(4)固液分離工程
前記前駆体組成物を固液分離することにより、中空部に疎水性溶剤を内包する前駆体粒子を得る工程、及び
(5)溶剤除去工程
前記固液分離工程により得られた前駆体粒子に内包される疎水性溶剤を除去し、中空粒子を得る工程。
なお、原料用中空粒子の製造方法の説明においては、表面に反応性基を有しない原料用中空粒子のことを、単に中空粒子と称する場合がある。
また、本開示においては、中空部が疎水性溶剤で満たされた中空粒子を、中空部が気体で満たされた中空粒子の中間体と考えて、「前駆体粒子」と称する場合がある。本開示において「前駆体組成物」とは、前駆体粒子を含む組成物を意味する。
【0044】
図1は、本開示の原料用中空粒子の製造方法の一例を示す模式図である。図1中の(1)~(5)は、上記各工程(1)~(5)に対応する。各図の間の白矢印は、各工程の順序を指示するものである。なお、図1は説明のための模式図に過ぎず、本開示の製造方法は図に示すものに限定されない。また、本開示の製造方法に使用される材料の構造、寸法及び形状は、これらの図における各種材料の構造、寸法及び形状に限定されない。
図1の(1)は、混合液調製工程における混合液の一実施形態を示す断面模式図である。この図に示すように、混合液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する低極性材料2を含む。ここで、低極性材料2とは、極性が低く水系媒体1と混ざり合いにくい材料を意味する。本開示において低極性材料2は、重合性単量体、疎水性溶剤及び重合開始剤を含む。
図1の(2)は、懸濁工程における懸濁液の一実施形態を示す断面模式図である。懸濁液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する単量体組成物の液滴8を含む。単量体組成物の液滴8は、重合性単量体、疎水性溶剤及び重合開始剤を含んでいるが、液滴内の分布は不均一である。単量体組成物の液滴8は、疎水性溶剤4aと、重合性単量体を含む疎水性溶剤以外の材料4bが相分離し、疎水性溶剤4aが中心部に偏在し、疎水性溶剤以外の材料4bが表面側に偏在し、分散安定剤(図示せず)が表面に付着した構造を有している。
図1の(3)は、重合工程により得られる、中空部に疎水性溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物の一実施形態を示す断面模式図である。当該前駆体組成物は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する、中空部に疎水性溶剤4aを内包する前駆体粒子9を含む。当該前駆体粒子9の外表面を形成するシェル6は、上記単量体組成物の液滴8中の重合性単量体の重合により形成されたものであり、当該重合性単量体の重合体を樹脂として含む。
図1の(4)は、固液分離工程後の前駆体粒子の一実施形態を示す断面模式図である。この図1の(4)は、上記図1の(3)の状態から水系媒体1を除去した状態を示す。
図1の(5)は、溶剤除去工程後の中空粒子の一実施形態を示す断面模式図である。この図1の(5)は、上記図1の(4)の状態から疎水性溶剤4aを除去した状態を示す。前駆体粒子から疎水性溶剤を除去することにより、気体で満たされた中空部7をシェル6の内部に有する中空粒子10が得られる。
以下、上記5つの工程及びその他の工程について、順に説明する。
【0045】
(1)混合液調製工程
本工程は、(A)重合性単量体、(B)疎水性溶剤、(C)重合開始剤、(D)分散安定剤、及び(E)水系媒体を含む混合液を調製する工程である。混合液は、本開示の効果を損なわない範囲において、その他の材料を更に含有していてもよい。
【0046】
混合液が含有する(A)重合性単量体としては、上述したものと同様のものを用いることができる。
混合液中の重合性単量体の含有量は、特に限定はされないが、中空粒子の空隙率、粒径及び機械的強度のバランスの観点から、水系媒体を除く混合液中成分の総質量100質量%に対し、好ましくは30~60質量%、より好ましくは40~50質量%である。混合液中の重合性単量体の含有量が上記範囲内であると、空隙率が50%以上の中空粒子が得られやすく、重合性単量体の含有量を上記範囲内で少なくするほど、得られる中空粒子の空隙率は大きくなる傾向がある。
また、中空粒子の機械的強度の観点から、混合液中で油相となる材料のうち疎水性溶剤を除いた固形分の総質量100質量%に対する重合性単量体の含有量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、更に好ましくは99質量%以上である。
なお、本開示において固形分とは、溶剤を除く全ての成分であり、液状の重合性単量体等は固形分に含まれるものとする。
【0047】
(B)疎水性溶剤
本開示の製造方法で用いられる疎水性溶剤は、非重合性で且つ難水溶性の有機溶剤である。
疎水性溶剤は、粒子内部に中空部を形成するスペーサー材料として働く。後述する懸濁工程において、疎水性溶剤を含む単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液が得られる。懸濁工程においては、単量体組成物の液滴内で相分離が発生する結果、極性の低い疎水性溶剤が単量体組成物の液滴の内部に集まりやすくなる。最終的に、単量体組成物の液滴においては、その内部に疎水性溶剤が、その周縁に疎水性溶剤以外の他の材料が各自の極性に従って分布する。
そして、後述する重合工程において、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子を含む水分散液が得られる。すなわち、疎水性溶剤が粒子内部に集まることにより、得られる前駆体粒子の内部には、疎水性溶剤で満たされた中空部が形成されることとなる。
【0048】
疎水性溶剤としては、重合性単量体に含まれる架橋性単量体よりも水に対する溶解度が小さい有機溶剤を選択することが好ましく、架橋性単量体の種類に応じて公知の疎水性溶剤を適宜選択することができ、特に限定はされない。疎水性溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテルエステル類;及び炭化水素系溶剤を挙げることができ、中でも炭化水素系溶剤を好ましく用いることができる。
炭化水素系溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2-メチルブタン及び2-メチルペンタンなどの鎖状炭化水素系溶剤、及びシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びシクロヘプタンなどの環状炭化水素系溶剤を含む脂肪族炭化水素類;並びに、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類等を挙げることができる。
これらの疎水性溶剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
疎水性溶剤としては、中でも、中空部が形成されやすく、更に、除去が容易で中空粒子における疎水性溶剤の残留量が低減されやすい点から、重合性単量体が炭化水素単量体を50質量%超過含むものである場合は、鎖状炭化水素系溶剤が好ましく、炭素数5~8の鎖状炭化水素系溶剤がより好ましく、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン及びオクタンからなる群から選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
一方、上記と同様の観点から、重合性単量体がアクリル系単量体を50質量%超過含むものである場合は、炭素数4~7の炭化水素系溶剤が好ましく、炭素数5又は6の炭化水素系溶剤がより好ましい。ここで、炭化水素系溶剤としては、芳香族炭化水素類であっても、脂肪族炭化水素類であってもよいが、中でも脂肪族炭化水素類が好ましい。
【0049】
また、特に限定されないが、疎水性溶剤の沸点は、後述する溶剤除去工程で除去されやすい点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは100℃以下であり、一方で、前駆体粒子に内包されやすい点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上である。
なお、疎水性溶剤が、複数種類の疎水性溶剤を含有する混合溶剤であり、沸点を複数有する場合は、当該混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が高い溶剤の沸点が上記上限値以下であることが好ましく、当該混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が低い溶剤の沸点が上記下限値以上であることが好ましい。
【0050】
また、本開示の製造方法で用いられる疎水性溶剤は、20℃における比誘電率が2.0以下であることが好ましい。比誘電率は、化合物の極性の高さを示す指標の1つである。疎水性溶剤の比誘電率が2.0以下と十分に小さい場合には、単量体組成物の液滴中で相分離が速やかに進行し、中空が形成されやすいと考えられる。
20℃における比誘電率が2.0以下の疎水性溶剤の例は、以下の通りである。カッコ内は比誘電率の値である。
ペンタン(1.8)、ヘキサン(1.9)、ヘプタン(1.9)、オクタン(1.9)、シクロヘキサン(2.0)。
20℃における比誘電率に関しては、公知の文献(例えば、日本化学会編「化学便覧基礎編」、改訂4版、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、II-498~II-503ページ)に記載の値、及びその他の技術情報を参照できる。20℃における比誘電率の測定方法としては、例えば、JIS C 2101:1999の23に準拠し、かつ測定温度を20℃として実施される比誘電率試験等が挙げられる。
【0051】
混合液中の疎水性溶剤の量を変えることにより、中空粒子の空隙率を調節することができる。後述する懸濁工程において、重合性単量体等を含む油滴が疎水性溶剤を内包した状態で重合反応が進行するため、疎水性溶剤の含有量が多いほど、得られる中空粒子の空隙率が高くなる傾向がある。
本開示において、混合液中の疎水性溶剤の含有量は、重合性単量体100質量部に対し、50質量部以上500質量部以下であることが、中空粒子の粒子径を制御しやすく、中空粒子の強度を維持しながら空隙率を高めやすく、粒子内の残留疎水性溶剤量を低減しやすい点から好ましい。中でも、空隙率を上述した好ましい範囲にする観点から、混合液中の疎水性溶剤の含有量は、重合性単量体100質量部に対し、より好適には70質量部以上300質量部以下であり、更に好適には90質量部以上200質量部以下である。
【0052】
(C)重合開始剤
本開示の製造方法においては、混合液が、重合開始剤として油溶性重合開始剤を含有することが好ましい。混合液を懸濁後に単量体組成物の液滴を重合する方法として、水溶性重合開始剤を用いる乳化重合法と、油溶性重合開始剤を用いる懸濁重合法があり、油溶性重合開始剤を用いることにより懸濁重合を行うことができる。
油溶性重合開始剤は、水に対する溶解度が0.2質量%以下の親油性のものであれば特に制限されず、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t一ブチルパーオキシド一2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシジエチルアセテート、t-ブチルパーオキシピバレート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等を挙げることができる。中でも、本開示の製造方法では、重合性開始剤として有機過酸化物を用いることが好ましい。有機過酸化物は、重合反応を促進しやすいため未反応の重合性官能基量を低減するでき、また、重合反応後に分解物が残留しにくいため、中空粒子の誘電特性の悪化を抑制することができる。シェル中に残留した未反応の重合性官能基や重合開始剤の分解物は、シェルの分子運動性を増大するため、これらの残留量が多いと、中空粒子の誘電正接が上昇する場合がある。
【0053】
混合液中の重合性単量体100質量部に対し、重合開始剤の含有量は、好適には0.1~10質量部、より好適には0.5~7質量部、さらに好適には1~5質量部である。重合開始剤の含有量が上記下限値以上であると、重合反応を十分進行させることができ、上記上限値以下であると、重合反応終了後に油溶性重合開始剤が残存するおそれが小さく、予期せぬ副反応が進行するおそれも小さい。
【0054】
(D)分散安定剤
分散安定剤は、懸濁工程において、単量体組成物の液滴を水系媒体中に分散させる剤である。本開示においては、懸濁液中で液滴の粒子径をコントロールし易く、得られる中空粒子の粒径分布を狭くできる点、及びシェルが薄くなりすぎることを抑制して、中空粒子の強度の低下を抑制する点から、分散安定剤として、無機分散安定剤を用いることが好ましい。無機分散安定剤によるこのような効果は、特に、無機分散安定剤を後述する粒径制御剤と組み合わせて用いる場合に発揮されやすい。
無機分散安定剤としては、例えば、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等の硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等の炭酸塩;リン酸カルシウム等のリン酸塩;酸化アルミニウム、及び酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム及び水酸化第二鉄等の金属水酸化物;等の無機化合物が挙げられる。これらの無機分散安定剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記無機分散安定剤の中でも、上述した硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、金属水酸化物等の難水溶性金属塩が好ましく、金属水酸化物がより好ましく、水酸化マグネシウムが特に好ましい。
なお、本開示において難水溶性金属塩は、100gの水に対する溶解度が0.5g以下である無機金属塩であることが好ましい。
【0055】
本開示においては、特に、難水溶性の無機分散安定剤を、コロイド粒子の形態にて水系媒体に分散させた状態、すなわち、難水溶性の無機分散安定剤コロイド粒子を含有するコロイド分散液の状態で用いることが好ましい。これにより、単量体組成物の液滴の粒径分布を狭くすることができることに加え、洗浄により、得られる中空粒子中における無機分散安定剤の残留量を容易に低く抑えることができる。
難水溶性の無機分散安定剤コロイド粒子を含有するコロイド分散液は、たとえば、水酸化アルカリ金属塩及び水酸化アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種と、水溶性多価金属塩(水酸化アルカリ土類金属塩を除く。)とを水系媒体中で反応させることで調製することができる。
水酸化アルカリ金属塩としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。水酸化アルカリ土類金属塩としては、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
水溶性多価金属塩としては、上記水酸化アルカリ土類金属塩に該当する化合物以外の水溶性を示す多価金属塩であればよいが、例えば、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム金属塩;塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム金属塩;塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム金属塩;塩化バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウムなどのバリウム塩;塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛などの亜鉛塩;などが挙げられる。これらの中でも、マグネシウム金属塩、カルシウム金属塩、およびアルミニウム金属塩が好ましく、マグネシウム金属塩がより好ましく、塩化マグネシウムが特に好ましい。なお、水溶性多価金属塩は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記した水酸化アルカリ金属塩及び水酸化アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種と、上記した水溶性多価金属塩とを水系媒体中で反応させる方法としては、特に限定されないが、水酸化アルカリ金属塩及び水酸化アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の水溶液と、水溶性多価金属塩の水溶液とを混合する方法が挙げられる。
【0056】
分散安定剤の含有量は、特に限定はされないが、重合性単量体と疎水性溶剤の合計質量100質量部に対し、好適には0.5~15質量部であり、より好適には1~10質量部である。分散安定剤の含有量が上記下限値以上であることにより、単量体組成物の液滴が懸濁液中で合一しないように十分に分散させることができる。一方、分散安定剤の含有量が上記上限値以下であることにより、造粒時に懸濁液の粘度が上昇するのを防止し、懸濁液が造粒機で閉塞する不具合を回避することができる。
また、分散安定剤の含有量は、水系媒体100質量部に対し、通常2質量部以上15質量部以下であり、3質量部以上8質量部以下であることが好ましい。
【0057】
(E)水系媒体
本開示において水系媒体とは、水、親水性溶剤、及び、水と親水性溶剤との混合物からなる群より選ばれる媒体を意味する。
水と親水性溶剤の混合物を用いる場合には、単量体組成物の液滴を形成する観点から、当該混合物全体の極性が低くなりすぎないことが重要である。この場合、例えば、水と親水性溶剤との質量比(水:親水性溶剤)を99:1~50:50としてもよい。
本開示における親水性溶剤は、水と十分に混ざり合い相分離を起こさないものであれば特に制限されない。親水性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF);ジメチルスルフォキシド(DMSO)等が挙げられる。
【0058】
混合液は、本開示の効果を損なわない範囲において、上述した(A)~(E)の材料とは異なるその他の材料を更に含有していてもよい。
【0059】
前記の各材料及び必要に応じ他の材料を混合し、適宜攪拌等することによって混合液が得られる。当該混合液においては、上記((A)重合性単量体、(B)疎水性溶剤及び(C)重合開始剤などの親油性材料を含む油相が、(D)分散安定剤及び(E)水系媒体などを含む水相中において、粒径数mm程度の大きさで分散している。混合液におけるこれら材料の分散状態は、材料の種類によっては肉眼でも観察することが可能である。
混合液調製工程では、前記の各材料及び必要に応じ他の材料を単に混合し、適宜攪拌等することによって混合液を得てもよいが、シェルが均一になりやすい点から、重合性単量体、疎水性溶剤及び重合開始剤を含む油相と、分散安定剤及び水系媒体を含む水相とを予め別に調製し、これらを混合することにより、混合液を調製することが好ましい。本開示においては、難水溶性の無機分散安定剤をコロイド粒子の形態にて水系媒体に分散させたコロイド分散液を、水相として好ましく用いることができる。
このように油相と水相を予め別に調製した上で、これらを混合することにより、シェル部分の組成が均一な中空粒子を製造することができ、中空粒子の粒径の制御も容易となる。
【0060】
(2)懸濁工程
懸濁工程は、上述した混合液を懸濁させることにより、疎水性溶剤を含む単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程である。
単量体組成物の液滴を形成するための懸濁方法は特に限定されず、公知の懸濁方法を採用することができる。懸濁液を調製する際に使用できる分散機としては、例えば、大平洋機工社製、製品名:マイルダー、株式会社ユーロテック製、製品名:キャビトロン、及びIKA製、製品名:DISPAX-REACTOR(登録商標)DRSシリーズ等の横型又は縦型のインライン型乳化分散機;プライミクス株式会社製のホモミクサーMARK IIシリーズ等の乳化分散機等を挙げることができる。
【0061】
懸濁工程で調製される懸濁液においては、上記親油性材料を含みかつ1~50μm程度の粒径を持つ単量体組成物の液滴が、水系媒体中に均一に分散している。このような単量体組成物の液滴は肉眼では観察が難しく、例えば光学顕微鏡等の公知の観察機器により観察できる。
懸濁工程においては、単量体組成物の液滴中に相分離が生じるため、極性の低い疎水性溶剤が液滴の内部に集まりやすくなる。その結果、得られる液滴は、その内部に疎水性溶剤が、その周縁に疎水性溶剤以外の材料が分布することとなる。
【0062】
図2は、懸濁工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。図2中の単量体組成物の液滴8は、その断面を模式的に示すものとする。なお、図2はあくまで模式図であり、本開示における懸濁液は、必ずしも図2に示すものに限定されない。図2の一部は、上述した図1の(2)に対応する。
図2には、水系媒体1中に、単量体組成物の液滴8及び水系媒体1中に分散した重合性単量体4cが分散している様子が示されている。液滴8は、油溶性の単量体組成物4の周囲を、分散安定剤3が取り囲むことにより構成される。
単量体組成物中には油溶性重合開始剤5、並びに、重合性単量体及び疎水性溶剤(いずれも図示せず)が含まれる。
液滴8は、単量体組成物4を含む微小油滴であり、油溶性重合開始剤5は当該微小油滴の内部で重合開始ラジカルを発生させる。したがって、微小油滴を成長させ過ぎることなく、目的とする粒径の前駆体粒子を製造することができる。
このような油溶性重合開始剤を用いた懸濁重合法においては、重合開始剤が、水系媒体1中に分散した重合性単量体4cと接触する機会は存在しない。したがって、油溶性重合開始剤を使用することにより、目的とする中空部を有する樹脂粒子の他に、比較的粒径の小さい密実粒子等の余分な樹脂粒子が副成することを抑制できる。
【0063】
(3)重合工程
本工程は、上述した懸濁工程により得られた懸濁液を重合反応に供することにより、樹脂を含むシェルに取り囲まれた中空部を有し、かつ中空部に疎水性溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程である。前駆体粒子は、単量体組成物の液滴に含まれる重合性単量体の重合により形成され、前駆体粒子が備えるシェルは、上記重合性単量体の重合体を樹脂として含む。
重合方式に特に限定はなく、例えば、回分式(バッチ式)、半連続式、及び連続式等が採用できる。
重合温度は、好ましくは40~90℃であり、より好ましくは50~80℃である。
重合温度に昇温する際の昇温速度は、特に限定はされないが、好ましくは10℃/h~60℃/h、より好ましくは15℃/h~55℃/hである。
また、重合の反応時間は、好ましくは1~48時間であり、より好ましくは4~36時間である。
重合工程においては、疎水性溶剤を内部に含む単量体組成物の液滴のシェル部分が重合するため、上述したように、得られる前駆体粒子の内部には、疎水性溶剤で満たされた中空部が形成される。
【0064】
(4)固液分離工程
本工程は、上述した重合工程により得られる、前駆体粒子を含む前駆体組成物を固液分離することにより、前駆体粒子を含む固体分を得る工程である。
【0065】
前駆体組成物を固液分離する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。固液分離の方法としては、例えば、遠心分離法、ろ過法、静置分離等が挙げられ、この中でも遠心分離法又はろ過法を採用することができ、操作の簡便性の観点から遠心分離法を採用してもよい。
固液分離工程後、後述する溶剤除去工程を実施する前に、予備乾燥工程等の任意の工程を実施してもよい。予備乾燥工程としては、例えば、固液分離工程後に得られた固体分を、乾燥機等の乾燥装置や、ハンドドライヤー等の乾燥器具により予備乾燥する工程が挙げられる。
【0066】
(5)溶剤除去工程
本工程は、前記固液分離工程により得られた前駆体粒子に内包される疎水性溶剤を除去する工程である。
前駆体粒子に内包される疎水性溶剤を気中にて除去することにより、前駆体粒子内部の疎水性溶剤が空気と入れ替わり、気体で満たされた中空粒子が得られる。
【0067】
本工程における「気中」とは、厳密には、前駆体粒子の外部に液体分が全く存在しない環境下、及び、前駆体粒子の外部に、疎水性溶剤の除去に影響しない程度のごく微量の液体分しか存在しない環境下を意味する。「気中」とは、前駆体粒子がスラリー中に存在しない状態と言い替えることもできるし、前駆体粒子が乾燥粉末中に存在する状態と言い替えることもできる。すなわち、本工程においては、前駆体粒子が外部の気体と直に接する環境下で疎水性溶剤を除去することが重要である。
【0068】
前駆体粒子中の疎水性溶剤を気中にて除去する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。当該方法としては、例えば、減圧乾燥法、加熱乾燥法、気流乾燥法又はこれらの方法の併用が挙げられる。
特に、加熱乾燥法を用いる場合には、加熱温度は疎水性溶剤の沸点以上、かつ前駆体粒子のシェル構造が崩れない最高温度以下とする必要がある。したがって、前駆体粒子中のシェルの組成と疎水性溶剤の種類によるが、例えば、加熱温度を50~200℃としてもよく、70~200℃としてもよく、100~200℃としてもよい。
気中における乾燥操作によって、前駆体粒子内部の疎水性溶剤が、外部の気体により置換される結果、中空部を気体が占める中空粒子が得られる。
【0069】
乾燥雰囲気は特に限定されず、中空粒子の用途によって適宜選択することができる。乾燥雰囲気としては、例えば、空気、酸素、窒素、アルゴン等が考えられる。また、いったん気体により中空粒子内部を満たした後、減圧乾燥することにより、一時的に内部が真空である中空粒子も得られる。
【0070】
別の方法として、重合工程で得られたスラリー状の前駆体組成物を固液分離せずに、前駆体粒子及び水系媒体を含むスラリー中で、当該前駆体粒子に内包される疎水性溶剤をスラリーの水系媒体に置換することにより、疎水性溶剤を除去してもよい。
この方法においては、疎水性溶剤の沸点から35℃差し引いた温度以上の温度で、前駆体組成物に不活性ガスをバブリングすることにより、前駆体粒子に内包される疎水性溶剤を除去することができる。
ここで、前記疎水性溶剤が、複数種類の疎水性溶剤を含有する混合溶剤であり、沸点を複数有する場合、溶剤除去工程での疎水性溶剤の沸点とは、当該混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が高い溶剤の沸点、すなわち複数の沸点のうち最も高い沸点とする。
前駆体組成物に不活性ガスをバブリングする際の温度は、中空粒子中の疎水性溶剤の残留量を低減する点から、疎水性溶剤の沸点から30℃差し引いた温度以上の温度であることが好ましく、20℃差し引いた温度以上の温度であることがより好ましい。なお、バブリングの際の温度は、通常、前記重合工程での重合温度以上の温度とする。特に限定はされないが、バブリングの際の温度を、50℃以上100℃以下としてもよい。
バブリングする不活性ガスとしては、特に限定はされないが、例えば、窒素、アルゴン等を挙げることができる。
バブリングの条件は、疎水性溶剤の種類及び量に応じて、前駆体粒子に内包される疎水性溶剤を除去できるように適宜調整され、特に限定はされないが、例えば、不活性ガスを1~3L/minの量で、1~10時間バブリングしてもよい。
この方法においては、前駆体粒子に水系媒体が内包された水系スラリーが得られる。このスラリーを固液分離して得られた中空粒子を乾燥し、中空粒子内の水系媒体を除去することにより、中空部を気体が占める中空粒子が得られる。
【0071】
スラリー状の前駆体組成物を固液分離した後、前駆体粒子中の疎水性溶剤を気中にて除去することにより中空部が気体で満たされた中空粒子を得る方法と、前駆体粒子及び水系媒体を含むスラリー中で、当該前駆体粒子に内包される疎水性溶剤をスラリーの水系媒体に置換した後、固液分離し、前駆体粒子中の水系媒体を気中にて除去することにより中空部が気体で満たされた中空粒子を得る方法を比べると、前者の方法は、疎水性溶剤を除去する工程で中空粒子が潰れにくいという利点があり、後者の方法は、不活性ガスを用いたバブリングを行うことにより疎水性溶剤の残留量が少なくなるという利点がある。
その他、重合工程の後、固液分離工程の前に、重合工程で得られたスラリー状の前駆体組成物を固液分離せずに、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を除去する方法として、例えば、所定の圧力下(高圧下、常圧下又は減圧下)で、前駆体組成物から前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を蒸発留去させる方法;所定の圧力下(高圧下、常圧下又は減圧下)で、前駆体組成物に窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスあるいは水蒸気を導入して蒸発留去させる方法;を用いてもよい。
【0072】
(6)その他
上記(1)~(5)以外の工程としては、例えば、下記(6-a)洗浄工程や下記(6-b)中空部の再置換工程を付加しても良い。
(6-a)洗浄工程
洗浄工程とは、前記溶剤除去工程前に、前駆体粒子を含む前駆体組成物中に残存する分散安定剤を除去するために、酸またはアルカリを添加して洗浄を行う工程である。使用した分散安定剤が、酸に可溶な無機分散安定剤である場合、前駆体粒子を含む前駆体組成物へ酸を添加して、洗浄を行うことが好ましく、一方、使用した分散安定剤が、アルカリに可溶な無機化合物である場合、前駆体粒子を含む前駆体組成物へアルカリを添加して、洗浄を行うことが好ましい。
また、分散安定剤として、酸に可溶な無機分散安定剤を使用した場合、前駆体粒子を含む前駆体組成物へ酸を添加し、pHを、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、および蟻酸、酢酸等の有機酸を用いることができるが、分散安定剤の除去効率が大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0073】
(6-b)中空部の再置換工程
中空部の再置換工程とは、中空粒子内部の気体や液体を、他の気体や液体に置換する工程である。このような置換により、中空粒子内部の環境を変えたり、中空粒子内部に選択的に分子を閉じ込めたり、用途に合わせて中空粒子内部の化学構造を修飾したりすることができる。
【0074】
2.プラズマ処理工程
プラズマ処理工程は、気相中で上記原料用中空粒子にプラズマ処理を行うことにより、上記原料用中空粒子の表面に反応性基を導入する工程である。
上記プラズマ処理は、気相中で原料用中空粒子にプロセスガスを接触させるプラズマ処理であればよく、プラズマ処理の条件は、原料用中空粒子の表面に反応性基を導入できるように適宜設定することができ、特に限定はされない。
【0075】
プラズマ処理に用いるガスとしては、例えば、O、HO、NH及びNからなる群から選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。
及びHOの混合ガス、或いはOガスを用いることにより、粒子表面に水酸基及びカルボキシ基から選ばれる少なくとも1種の反応性基を導入することができる。O及びHOの混合ガスとしては、例えば、60~90℃に加温した純水にOガスをバブリングさせたものを好ましく用いることができる。中でも、上記反応性基の導入効率に優れる点から、O及びHOの混合ガスが好ましい。
NH及びNから選ばれる少なくとも1種のガスを用いることにより、粒子表面にアミノ基(-NH)を導入することができる。中でも、アミノ基の導入効率に優れる点から、NHガスが好ましい。
【0076】
プラズマ処理に用いる装置、条件等は、産業的に利用される各種のプラズマ処理に通常用いられている装置、条件等とすることができる。粒子表面への反応性基付与のための化学反応をより促進する観点から、グロー放電を用いるプラズマ処理装置が好ましく、プラズマが粒子表面に均一に接しやすい点から、回転軸をグロー放電電極とする回転式のドラム型処理槽を備えるプラズマ処理装置がより好ましい。そのようなより好ましいプラズマ処理装置としては、例えば、回転式卓上真空プラズマ装置YHS-DφS(:製品名、(株)魁半導体製)を挙げることができる。
【0077】
プラズマ処理に用いるガスの流量は、ガスの種類に応じて適宜調整することができ、特に限定はされないが、十分な量の反応性基を粒子表面に導入する点から、好ましくは20sccm以上、より好ましくは30sccm以上、更に好ましくは40sccm以上であり、一方で、粒子の誘電特性の低下を抑制する点からは、好ましくは100sccm以下、より好ましくは80sccm以下、更に好ましくは60sccm以下である。なお、本開示においてsccmとは、大気圧下、0℃における1分間あたりの流量(cm)であり、1sccmは1.667×10-8/sに換算することができる。
また、他のガス成分の混入や十分な数の電離イオンを生成させる観点から、プラズマ処理に用いるガスの純度は、好ましくは99体積%以上、より好ましくは99.9体積%以上である。後述する各実施例では純度99.9体積%のガスを用いた。
【0078】
また、上記プラズマ処理は、特に限定はされないが、原料用中空粒子に反応性基を導入しやすい点から、処理槽に原料用中空粒子を導入した後、5Pa以下の真空状態を維持しながらプロセスガスを所定流量導入し、処理槽内の圧力が後述する好ましい範囲内となるように調整することが好ましい。
上記プラズマ処理において、処理槽内の圧力は、プロセスガスの種類に応じて適宜調整することができ、特に限定はされないが、十分な量の反応性基を粒子表面に導入する点から、好ましくは10Pa以上、より好ましくは20Pa以上、更に好ましくは30Pa以上であり、一方で、粒子の誘電特性の低下を抑制する点からは、好ましくは300Pa以下、より好ましくは200Pa以下、更に好ましくは150Pa以下、より更に好ましくは100Pa以下である。
【0079】
上記プラズマ処理の出力は、プロセスガスの種類に応じて適宜調整することができ、特に限定はされないが、特に限定はされないが、十分な量の反応性基を粒子表面に導入する点から、好ましくは20W以上、より好ましくは30W以上、更に好ましくは40W以上であり、一方で、粒子の誘電特性の低下を抑制する点からは、好ましくは300W以下、より好ましくは200W以下、更に好ましくは100W以下、より更に好ましくは70W以下である。
【0080】
上記プラズマ処理の処理時間は、プロセスガスの種類に応じて適宜調整することができ、特に限定はされないが、十分な量の反応性基を粒子表面に導入する点から、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、更に好ましくは30分以上、より更に好ましくは40分以上であり、一方で、粒子の誘電特性の低下を抑制する点からは、好ましくは180分以下、より好ましくは120分以下、更に好ましくは100分以下、より更に好ましくは80分以下である。
【0081】
上記プラズマ処理の処理温度は、プロセスガスの種類に応じて適宜調整することができ、特に限定はされず、例えば、0~200℃であってもよいし、15~100℃であってもよい。
【0082】
3.中空粒子の物性
本開示の製造方法により得られる中空粒子の物性に関し、空隙率、体積平均粒径、形状、及び粒度分布については、原料用中空粒子で説明した通りである。
本開示の製造方法により得られる表面に反応性基を有する中空粒子は、周波数1GHzにおける比誘電率が、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.50以下、更に好ましくは1.40以下であり、下限は特に限定はされず、例えば1.00以上であってもよい。
また、本開示の製造方法により得られる表面に反応性基を有する中空粒子は、周波数1GHzにおける誘電正接が、好ましくは3.00×10-2以下、より好ましくは6.00×10-3以下、更に好ましくは4.00×10-3以下、より更に好ましくは3.00×10-3以下であり、下限は特に限定はされず、例えば1.00×10-4以上であってもよい。
本開示において、中空粒子の比誘電率及び誘電正接は、摂動方式の測定装置を用いて測定される。
【0083】
本開示の製造方法により得られる中空粒子は、熱分解開始温度が、好ましくは150~400℃、より好ましくは200~350℃である。熱分解開始温度が上記範囲内にある中空粒子は、耐熱性に優れる。
本開示において、中空粒子の熱分解開始温度は、5%重量減少したときの温度で、TG-DTA装置により、空気雰囲気下で、空気流量230mL/分、昇温速度10℃/分の条件下で測定できる。
【0084】
4.中空粒子の用途
本開示の製造方法により得られる中空粒子の用途としては、例えば、自動車、電気、電子、建築、航空、宇宙等の各種分野に用いられる低誘電体、断熱材、遮音材及び光反射材等の部材、食品用容器、スポーツシューズ、サンダル等の履物、家電部品、自転車部品、文具、工具等における添加剤としての用途を挙げることができる。本開示の製造方法により得られる中空粒子は、他の材料との混練時及び混練後の成形時に潰れ難く、成形体に添加された場合に、軽量化材、断熱材、防音材、制振材等としての効果に優れるため、成形体用添加剤として好適であり、樹脂との混練時及び混練後の成形時においても潰れ難く、樹脂との密着性に優れるため、樹脂製成形体用添加剤としても利用することができる。
本開示の製造方法により得られる中空粒子は、樹脂と強化繊維を用いて形成される繊維強化成形体においても、フィラーとして含有させることができる。
また、本開示の製造方法によれば、誘電特性に優れる中空粒子を得ることができる。誘電特性に優れる中空粒子は、電気又は電子の分野において、低誘電率又は低伝送損失を実現するための添加剤として好適に用いられ、例えば、電子回路基板材料として好適に用いられ、具体的には、本開示の製造方法により得られる中空粒子を、電子回路基板の絶縁樹脂層に含有させることにより、絶縁樹脂層の比誘電率を低下させ、電子回路基板の伝送損失を低減することができる。
また、本開示の製造方法により得られる中空粒子は、他にも、層間絶縁材料、ドライフィルムレジスト、ソルダーレジスト、ボンディングワイヤ、マグネットワイヤ、半導体封止材、エポキシ封止材、モールドアンダーフィル、アンダーフィル、ダイボンドペースト、バッファーコート材、銅張積層板、フレキシブル基板、高周波デバイスモジュール、アンテナモジュール、車載レーダーなどの半導体材料における添加剤としても好適に用いられる。これらの中でも、層間絶縁材料、ソルダーレジスト、マグネットワイヤ、エポキシ封止材、アンダーフィル、バッファーコート材、銅張積層板、フレキシブル基板、高周波デバイスモジュール、アンテナモジュール、車載レーダーなどの半導体材料における添加剤としても特に好適である。
また、本開示の製造方法により得られる中空粒子は、高空隙率を有し、潰れ難く、耐熱性にも優れるため、アンダーコート材に要求される断熱性、緩衝性(クッション性)を満たし、感熱紙用途に即した耐熱性も満たす。また、本開示の中空粒子は、光沢、隠ぺい力等に優れたプラスチックピグメントとしても有用である。
更に、本開示の製造方法により得られる中空粒子は、内部に香料、薬品、農薬、インキ成分等の有用成分を浸漬処理、減圧または加圧浸漬処理等の手段により封入できるため、内部に含まれる成分に応じて各種用途に利用することができる。
【0085】
II.樹脂組成物の製造方法
本開示の樹脂組成物の製造方法は、上述した方法により、表面に反応性基を有する中空粒子を製造する工程と、
前記中空粒子、及び前記中空粒子が表面に有する前記反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂を混合する工程とを含むことを特徴とする。
【0086】
[バインダー樹脂]
中空粒子が表面に有する反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂は、上述した本開示の製造方法により得られる中空粒子と混合する際に、上記官能基を有していればよく、中空粒子の反応性基と、バインダー樹脂の官能基とが反応して架橋結合を形成した後においては、バインダー樹脂は上記官能基を有していなくてもよい。
また、反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂は、中空粒子と混合する際において、未反応の単量体、プレポリマー又はマクロモノマーであってもよいし、重合体であってもよいし、ポリアミック酸のような硬化樹脂の前駆体であってもよい。
【0087】
上記官能基を有するバインダー樹脂としては、中空粒子が有する反応性基の種類に応じて選択される官能基を有するバインダー樹脂を、公知のバインダー樹脂の中から適宜選択すればよく、特に限定はされない。
カルボキシ基と反応し得る官能基としては、例えば、エポキシ基、水酸基、アミノ基、イソシアネート基等を挙げることができ、これらの官能基を有するバインダー樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂、或いはこれらの前駆体等を好ましく用いることができる。
水酸基と反応し得る官能基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシ基等を挙げることができ、これらの官能基を有するバインダー樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、或いはこれらの前駆体等が挙げられる。
アミノ基と反応し得る官能基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシ基等を挙げることができ、これらの官能基を有するバインダー樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、或いはこれらの前駆体等が挙げられる。
エポキシ系樹脂は、少なくとも硬化剤との硬化反応前の状態でエポキシ基を有する。ポリイミド系樹脂は、硬化反応(イミド化反応)前のポリアミック酸の状態でアミノ基及びカルボキシ基を有する。ウレタン系樹脂は、少なくとも硬化剤(イソシアネート化合物)との硬化反応前のポリオールの状態で水酸基を有する。
これらの官能基を有するバインダー樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、熱可塑性樹脂であってもよく、或いは常温で硬化可能な接着剤であってもよい。
また、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びウレタン系樹脂は、誘電特性が良好なため、低誘電率化及び低誘電正接化が求められる用途においても好ましく用いられる。
【0088】
エポキシ系樹脂としては、例えば、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、イソシアヌラート型エポキシ樹脂、フェノールフタルイミジン型エポキシ樹脂、フェノールフタレイン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ系樹脂は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
また、中空粒子が有する反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂としては、当該官能基により変性した変性樹脂を挙げることもできる。そのような変性樹脂としては、例えば、酸変性ポリオレフィン系樹脂、及びエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂等の変性ポリオレフィン系樹脂を挙げることができる。
例えば、溶融状態の変性ポリオレフィン系樹脂中に、反応性基を有する中空粒子を混合した場合、高温状態での混合になるため、熱により、変性ポリオレフィン系樹脂が有する官能基と、中空粒子が有する反応性基との反応が進行し、架橋結合が形成される。
【0090】
表面に反応性基を有する中空粒子と、上記官能基を有するバインダー樹脂を混合する工程では、本開示の効果を損なわない範囲において、上記官能基を有するバインダー樹脂と併せて、上記官能基を有しないバインダー樹脂を添加して混合していてもよい。上記官能基を有しないバインダー樹脂としては、例えば、公知の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等から適宜選択することができ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)等を挙げることができる。
なお、バインダー樹脂と中空粒子との密着性を向上する観点から、上記官能基を有しないバインダー樹脂の含有量は、上記官能基を有するバインダー樹脂100質量部に対し、好ましくは90質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0091】
樹脂組成物の全固形分100質量%中のバインダー樹脂の含有量は、特に限定はされないが、下限としては、機械的強度を向上する点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。一方、上限としては、中空粒子を十分に含有させる点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0092】
[硬化剤]
本開示の樹脂組成物の製造方法では、表面に反応性基を有する中空粒子と、上記官能基を有するバインダー樹脂を混合する工程の際、或いは当該工程の後で、上記バインダー樹脂を硬化させるための硬化剤を更に添加して混合していてもよい。
硬化剤は、バインダー樹脂の種類に応じて公知のものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされないが、エポキシ系樹脂の硬化剤としては、例えば、アミン類、酸無水物類、イミダゾール類、チオール類、フェノール類、ナフトール類、ベンゾオキサジン類、シアネートエステル類、及びカルボジイミド類等を挙げることができる。
硬化剤の含有量は、特に限定はされず、例えば、バインダー樹脂100質量部に対し、5~120質量部であってよい。
【0093】
[中空粒子]
本開示の樹脂組成物の製造方法に用いられる中空粒子は、上述した本開示の製造方法により得られる中空粒子である。中空粒子の含有量は、特に限定はされないが、樹脂組成物の全固形分100質量%中、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは5~30質量%であり、更に好ましくは5~15質量%である。中空粒子の含有量が上記下限値以上であることにより、樹脂組成物の低誘電率化、軽量化、断熱化等の効果を向上することができる。中空粒子の含有量が上記上限値以下であることにより、樹脂組成物中に樹脂を十分に含有させることができるため、成形体としたときの物性の低下を抑制し、機械的強度を向上することができる。
また、特に限定はされないが、バインダー樹脂と中空粒子との密着性を向上する観点から、反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂100質量部に対する中空粒子の含有量が、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。
【0094】
[その他の添加剤]
本開示の樹脂組成物の製造方法では、表面に反応性基を有する中空粒子と、上記官能基を有するバインダー樹脂を混合する工程の際、或いは当該工程の後で、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じ、相溶化剤、紫外線吸収剤、着色剤、熱安定剤、フィラー等の添加剤、及び溶剤を更に添加してもよい。
また、本開示の製造方法により得られる樹脂組成物は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維等の有機又は無機の強化繊維を含有するものであってもよい。
【0095】
本開示の樹脂組成物は、例えば、前記本開示の中空粒子と、前記バインダー樹脂と、更に必要に応じて添加される添加剤等とを混合することにより得られる。本開示の樹脂組成物中のバインダー樹脂が熱可塑性樹脂である場合は、溶融させた熱可塑性樹脂に、前記本開示の中空粒子と、更に必要に応じて添加される添加剤とを加えて溶融混練することにより混合してもよい。
【0096】
本開示の製造方法により得られる樹脂組成物は、中空粒子が表面に有する反応性基と、バインダー樹脂が有する官能基とが反応して架橋結合を形成する前の樹脂組成物であってもよいし、当該架橋結合を形成した後の樹脂組成物であってもよい。当該架橋結合を形成した後の樹脂組成物においては、中空粒子の表面とバインダー樹脂とが共有結合により結合されているため、バインダー樹脂と中空粒子との界面の密着性に優れる。当該架橋結合を形成する前の樹脂組成物は、当該樹脂組成物を硬化物又は成形体等にする過程で、中空粒子が表面に有する反応性基と、バインダー樹脂が有する官能基とを反応させて架橋結合を形成することにより、バインダー樹脂と中空粒子との界面が密着性に優れたものとなる。
また、表面に反応性基を有する中空粒子、及び当該反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂以外の成分を更に含有する場合においても、バインダー樹脂と中空粒子との界面の密着性を優れたものとすることができる。これは、バインダー樹脂が有する官能基と、中空粒子の表面に有する反応性基との親和性が高いことにより、樹脂組成物中においては、上記官能基を有するバインダー樹脂が、中空粒子の周囲に偏在しやすく、バインダー樹脂が有する上記官能基と、中空粒子が表面に有する反応性基とが架橋結合を形成することができるためと推定される。
【0097】
中空粒子が表面に有する反応性基と、バインダー樹脂が有する官能基とが反応して架橋結合を形成した後の樹脂組成物を得る場合は、本開示の樹脂組成物の製造方法は、表面に反応性基を有する中空粒子と、当該反応性基と反応し得る官能基を有するバインダー樹脂を混合した後に、中空粒子が表面に有する反応性基と、バインダー樹脂が有する官能基とを反応させて架橋結合を形成する工程を含むことが好ましい。
中空粒子が表面に有する反応性基と、バインダー樹脂が有する官能基とを反応させて架橋結合を形成する方法としては、例えば、上記中空粒子及びバインダー樹脂を混合した後に加熱する方法を挙げることができる。ここで、加熱は、例えば、バインダー樹脂が熱可塑性樹脂の場合に樹脂の溶融粘度を下げて成型加工するための加熱、バインダー樹脂が熱硬化性樹脂の場合に樹脂を硬化させるための加熱、或いは、樹脂組成物が溶剤を含む場合に樹脂組成物を乾燥させるための加熱等であってよい。加熱条件は、加熱の目的に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、中空粒子の反応性基と、バインダー樹脂の官能基とを反応させる観点からは、50~300℃の温度で、合計1~24時間の加熱を行うことが好ましい。或いは、上記中空粒子及びバインダー樹脂を混合し、常温でバインダー樹脂の硬化反応を行うことによっても、当該硬化反応に伴って、中空粒子が表面に有する反応性基と、バインダー樹脂が有する官能基とを反応させて架橋結合を形成することもできる。
【0098】
また、本開示の製造方法により得られる樹脂組成物は、液状樹脂組成物であってもよいし、樹脂成形体であってもよい。
本開示の製造方法により得られる液状樹脂組成物としては、例えば、硬化反応前の液状のバインダー樹脂を含むもの、溶剤に各成分を溶解又は分散させてなるもの、或いは、バインダー樹脂が熱可塑性樹脂であり、当該樹脂が溶融していることにより樹脂組成物が液状となっているもの等を挙げることができる。
本開示の製造方法により得られる樹脂成形体は、例えば、上記液状樹脂組成物を公知の方法により成形体としたものを挙げることができる。本開示の製造方法により得られる樹脂成形体は、通常、乾燥、硬化又は溶融のための加熱処理、或いは常温での硬化反応を経て得られるものであるため、中空粒子が表面に有する反応性基と、バインダー樹脂が有する官能基との反応により形成された架橋結合を有し、中空粒子とバインダー樹脂との界面の密着性に優れる。
【0099】
本開示の製造方法により得られる液状樹脂組成物が、硬化反応前の液状のバインダー樹脂に中空粒子等を含有させてなる液状樹脂組成物、又は、溶剤に各成分を溶解又は分散させてなる液状樹脂組成物である場合は、例えば、支持体に液状樹脂組成物を塗布し、必要に応じて、乾燥し、硬化させることより樹脂成形体を得ることができる。
前記支持体の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の樹脂;銅、アルミ、ニッケル、クロム、金、銀等の金属等を挙げることができる。
液状樹脂組成物を塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ディップコート、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコート、グラビアコート等が挙げられる。
液状樹脂組成物が溶剤を含有する場合は、前記塗布の後、液状樹脂組成物を乾燥させることが好ましい。乾燥温度は、バインダー樹脂が硬化しない程度の温度とすることが好ましく、通常、20℃以上200℃以下、好ましくは30℃以上150℃以下である。また、乾燥時間は、通常、30秒間以上1時間以下、好ましくは1分間以上30分間以下である。
樹脂組成物の硬化反応は、バインダー樹脂の種類に応じた方法により行われ、特に限定はされない。加熱により硬化するバインダー樹脂を含む場合、硬化反応のための加熱の温度は、樹脂の種類に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、通常、30℃以上400℃以下、好ましくは70℃以上300℃以下、より好ましくは100℃以上200℃以下である。また、硬化時間は、5分間以上5時間以下、好ましくは30分間以上3時間以下である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブンなどを用いて行えばよい。
なお、硬化反応前の液状のバインダー樹脂、及び、溶剤に溶解又は分散されるバインダー樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
【0100】
本開示の製造方法により得られる液状樹脂組成物が、バインダー樹脂として熱可塑性樹脂を含有し、当該樹脂が溶融していることにより液状樹脂組成物になっている場合は、当該液状樹脂組成物を、押出成形、射出成形、プレス成形、圧縮成形等の公知の成形方法で所望の形状に成形することにより、本開示の樹脂成形体を得てもよい。
【0101】
樹脂成形体の形状は、特に限定はされず、成形可能な各種形状とすることができ、例えば、シート状、フィルム状、板状、チューブ状、及びその他の各種立体的形状等の任意の形状とすることができる。また、樹脂成形体が繊維を含む場合は、樹脂成形体中の繊維が不織布状であってもよい。また、樹脂成形体が繊維を含む場合は、前述したような樹脂及び繊維を含有する繊維強化プラスチックに本開示の中空粒子を添加した樹脂組成物の成形体であってもよい。
【0102】
本開示の製造方法により得られる樹脂組成物の用途としては、例えば、上述した本開示の中空粒子の用途のうち、樹脂組成物を使用可能な用途を挙げることができる。
【実施例0103】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本開示を更に具体的に説明するが、本開示は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0104】
[実施例1]
(1)混合液調製工程
まず、下記材料を混合し油相とした。
ジビニルベンゼン 37.15部
エチルビニルベンゼン 1.55部
t-ブチルパーオキシジエチルアセテート(油溶性重合開始剤) 0.89部
疎水性溶剤:ヘプタン(20℃の水に対する溶解度:2.2mg/L、沸点98.4℃) 61.3部
次に、攪拌槽において、イオン交換水225部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)19.6部を溶解した水溶液に、イオン交換水55部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属塩)13.7部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性の金属水酸化物コロイド)分散液(水酸化マグネシウム10部)を調製し、水相とした。
得られた水相と油相を混合することにより、混合液を調製した。
【0105】
(2)懸濁工程
上記混合液調製工程で得られた混合液を、乳化分散機(プライミクス株式会社製、製品名:ホモミクサー)を用いて回転数4,000rpmの条件下で1分間攪拌することにより、懸濁させる処理を行い、疎水性溶剤を内包した単量体組成物の液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
【0106】
(3)重合工程
上記懸濁工程で得た懸濁液を、窒素雰囲気で80℃まで昇温し、80℃の温度条件下で24時間攪拌することで重合反応を行った。この重合反応により、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子が水中に分散したスラリー液である前駆体組成物を得た。
【0107】
(4)洗浄工程及び固液分離工程
上記重合工程で得た前駆体組成物を希硫酸により洗浄(25℃、10分間)して、pHを5.5以下にした。次いで、濾過により水を分離した後、新たにイオン交換水200部を加えて再スラリー化し、水洗浄処理(洗浄、濾過、脱水)を室温(25℃)で数回繰り返し行って、濾過分離して固体分を得た。得られた固体分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させ、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子を得た。
【0108】
(5)溶剤除去工程
上記固液分離工程で得られた前駆体粒子を、真空乾燥機にて、200℃の真空条件下で12時間加熱処理することで、粒子に内包されていた疎水性溶剤を除去し、原料用中空粒子を得た。
【0109】
(6)プラズマ処理工程
回転軸をグロー放電電極とする回転式のドラム型処理槽を備えた回転式卓上真空プラズマ装置YHS-DφS((株)魁半導体製)を用いて、得られた原料用中空粒子に対し、下記の通りにプラズマ処理を行った。
原料用中空粒子100部を処理槽に導入した。処理槽は、回転軸を水平から20度傾けて、回転速度を10rpmとした。真空ポンプにて、5Pa以下まで処理槽の真空引きを行い、ポンプによる真空引き状態を維持しながら、プロセスガスとして、70℃に加温した純水にOガスをバブリングさせたもの(O+HO)を流量50sccmで処理槽へ導入した。処理槽内が70±10Paに保たれるように調整し、出力50Wで電極間に電圧をかけ、60分間プラズマ処理を行った。このプラズマ処理により、粒子表面に水酸基(-OH)及びカルボキシ基(-COOH)が導入された実施例1の中空粒子を得た。
また、得られた中空粒子は、走査型電子顕微鏡の観察結果及び空隙率の値から、これらの粒子が球状であり、かつ中空部を有することを確認した。
【0110】
[実施例2~6]
実施例1において、上記「(6)プラズマ処理工程」でのプラズマ処理条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2~6の中空粒子を製造した。なお、処理槽内の圧力は、表1に示す圧力±10Paとした。
【0111】
[実施例7]
実施例1において、上記「(1)混合液調製工程」を下記の通りに変更し、上記「(3)重合工程」で、重合温度を80℃から65℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、実施例7の中空粒子を製造した。
実施例7の混合液調製工程は下記の通りに行った。
まず、下記材料を混合し油相とした。
ジビニルベンゼン 8.89部
エチルビニルベンゼン 6.24部
エチレングリコールジメタクリレート 26.00部
トリメチロールプロパントリアクリレート 10.30部
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤) 1.04部
疎水性溶剤:シクロヘキサン 48.10部
次に、攪拌槽において、室温条件下で、イオン交換水494.4部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)17.1部を溶解した水溶液に、イオン交換水121部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)12.1部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性の金属水酸化物コロイド)分散液(水酸化マグネシウム4部)を調製し、水相とした。
得られた水相と油相を混合することにより、混合液を調製した。
【0112】
[比較例1]
実施例1において、上記「(6)プラズマ処理工程」を行わなかった以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1の中空粒子を製造した。
【0113】
[比較例2]
特許文献2(特開2021-88641号公報)の実施例1に相当する下記方法により、比較例2の中空粒子を製造した。
まず、下記材料を混合し油相とした。
グリシン変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA-gly) 19部
グリシン変性ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA-gly) 1部
2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)(油溶性重合開始剤) 0.4部
疎水性溶剤:トルエン 80部
次に、イオン交換水400部に、ポリビニルアルコール(クラレ社製、製品名:PVA9-88)5部を加えて水溶液を調製し、水相とした。
得られた水相と油相を混合することにより、混合液を調製した。
得られた混合液を、ホモジナイザーにより、攪拌速度5000rpm、室温(25℃)の条件下で撹拌し、懸濁液を得た。
得られた懸濁液を、窒素雰囲気で70℃の温度条件下で24時間攪拌することで重合反応を行った。この重合反応により、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子が水中に分散したスラリー液である前駆体組成物を得た。
得られた前駆体組成物を濾過分離して固体分を得て、得られた固体分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させ、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子を得た。
次いで、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子を真空乾燥機にて、200℃の真空条件下で12時間加熱処理することで、粒子に内包されていた疎水性溶剤を除去し、比較例2の中空粒子を得た。
【0114】
[比較例3]
特許文献1(国際公開第2020/066704号)の製造例3に相当する下記方法により、比較例3の中空粒子を製造した。
まず、下記材料を混合し油相とした。
メタクリル酸 30部
ジビニルベンゼン 28.5部
エチルビニルベンゼン 20部
エチレングリコールジメタクリレート 30部
トリメチロールプロパントリアクリレート 20部
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤) 3部
疎水性溶剤:シクロヘキサン 100部
次に、イオン交換水800部に、界面活性剤1.0部を加えて水溶液を調製し、水相とした。
得られた水相と油相を混合することにより、混合液を調製した。
得られた混合液を、インライン型乳化分散機により攪拌し、懸濁液を得た。
得られた懸濁液を、窒素雰囲気で65℃の温度条件下で4時間攪拌することで重合反応を行った。この重合反応により、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子が水中に分散したスラリー液である前駆体組成物を得た。
得られた前駆体組成物を濾過分離して固体分を得て、得られた固体分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させ、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子を得た。
次いで、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子を真空乾燥機にて、200℃の真空条件下で6時間加熱処理することで、粒子に内包されていた疎水性溶剤を除去し、比較例3の中空粒子を得た。
【0115】
[評価]
各実施例及び各比較例で得た中空粒子について、以下の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
1.中空粒子の密度及び空隙率
1-1.中空粒子の見かけ密度の測定
まず、容量100cmのメスフラスコに約30cmの中空粒子を充填し、充填した中空粒子の質量を精確に秤量した。次に、中空粒子の充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たした。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、上記式(I)に基づき、中空粒子の見かけ密度D(g/cm)を計算した。
式(I):
見かけ密度D=[中空粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
【0117】
1-2.中空粒子の真密度の測定
予め中空粒子を粉砕した後、容量100cmのメスフラスコに中空粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量した。
あとは、上記見かけ密度の測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空粒子の真密度D(g/cm)を計算した。
式(II):
真密度D=[中空粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
【0118】
1-3.空隙率の算出
中空粒子の見かけ密度Dと真密度Dから、下記式(III)に基づき、中空粒子の空隙率を計算した。
式(III):
空隙率(%)=100-(見かけ密度D/真密度D)×100
【0119】
2.体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)の測定、並びに粒径分布(Dv/Dp)の算出
粒度分布測定機(ベックマン・コールター社製、製品名:マルチサイザー4e)を用いて中空粒子の体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)を測定し、粒径分布(Dv/Dn)を算出した。測定条件は、アパーチャー径:50μm、分散媒体:アイソトンII(:製品名)、濃度10%、測定粒子個数:100,000個とした。
具体的には、粒子サンプル0.2gをビーカーに取り、その中に分散剤として界面活性剤水溶液(富士フィルム社製、製品名:ドライウェル)を加えた。そこへ、更に分散媒体を2ml加え、粒子を湿潤させた後、分散媒体を10ml加え、超音波分散器で1分間分散させてから上記粒度分布測定機による測定を行った。
【0120】
3.中空粒子の比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)の測定
測定装置(AET社製、型式:ADMS01Nc)を用いて、周波数1GHz、室温(25℃)下における中空粒子の比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0121】
4.樹脂との密着性
エポキシ系接着剤(製品名:クイック5、コニシ(株)製)のA剤(主剤:4,4’-イソプロピリデンジフェノールと1-クロロ-2,3-エポキシプロパン重縮合物(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂))0.8gに中空粒子0.2gを添加し、均一になるまで混合した。更に、B剤(硬化剤:ポリチオール(硬化剤)、ポリアミドアミン(硬化剤)、三級アミン(硬化剤)、及びシリカの混合物)を0.9g加えて混合して樹脂組成物とした。
得られた樹脂組成物を2mm程度に薄く延ばしてから常温で24時間放置し、硬化させて成形体とした。
得られた成形体を割り、断面における中空粒子と樹脂(エポキシ系樹脂)の界面の状態をSEMで観察した。100個以上の中空粒子を観察し、凝集破壊している中空粒子の割合を算出して、下記評価基準により密着性を評価した。
なお、凝集破壊している中空粒子とは、シェルごと割れている状態の中空粒子であり、中空粒子と樹脂の界面の密着性が高いほど、凝集破壊が生じやすい。各実施例において、凝集破壊している中空粒子は、シェルは割れているものの、中空部の形状は維持されていた。
(密着性評価基準)
◎:凝集破壊している中空粒子が80%以上
〇:凝集破壊している中空粒子が60%以上80%未満
△:凝集破壊している中空粒子が30%以上60%未満
×:凝集破壊している中空粒子が10%以上30%未満
××:凝集破壊している中空粒子が10%未満
【0122】
【表1】
【0123】
表1には、各材料の添加量(質量部)、及び各測定又は評価の結果を示す。
なお、表1において、誘電正接の数値は、簡易化のために、JIS X 0210に規定される指数表記を用いる。例えば、「6.57×10-4」は「6.57E-04」と表記する。
また、表1において略称の意味は次のとおりである。
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
A-TMMT:トリメチロールプロパントリアクリレート
PETTA-gly:グリシン変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート
PETA-gly:グリシン変性ペンタエリスリトールトリアクリレート
AIBN:2,2’ーアゾビス(イソブチロニトリル)
【0124】
[考察]
比較例1では、プラズマ処理工程を行わなかったため、得られた中空粒子は樹脂との密着性に劣っていた。比較例1で得られた中空粒子は、粒子表面に反応性基を有しないため、樹脂との密着性に劣っていたと考えられる。
比較例2では、重合性単量体として用いたグリシン変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びグリシン変性ペンタエリスリトールトリアクリレートに由来する単量体単位がカルボキシ基を有する。比較例3では、重合性単量体として用いたメタクリル酸に由来する単量体単位がカルボキシ基を有する。しかしながら、比較例2、3で得られた中空粒子は樹脂との密着性に劣っていた。比較例2、3では、粒子表面にカルボキシ基を十分に存在させることができなかったためと推定される。
【0125】
これに対し、各実施例では、原料用中空粒子に気相中でプラズマ処理を行ったことにより、得られた粒子は、樹脂との密着性に優れていた。各実施例では、プラズマ処理を行ったことにより、表1に示す反応性基を、粒子表面に十分な量で導入することができたためと考えられる。
また、各実施例で得られた中空粒子は、球状で中空部を有するものであり、空隙率が高かった。各実施例では、原料用中空粒子の作製に用いた重合性単量体が、架橋性単量体を60質量%以上含むものであったため、懸濁工程において、シェルを構成する成分と疎水性溶剤とが十分に相分離して、また、強度に優れたシェルが形成されたためと推定される。
また、比較例2、3のように、反応性基を有する重合性単量体を用いても、粒子表面に十分な量の反応性基を存在させることができない上に、誘電特性が悪化する傾向がある。また、中空粒子が有する反応性基量が多いほど、中空粒子の誘電特性は悪化する傾向があり、特に、中空粒子のシェルの骨格となる重合体が、炭化水素単量体単位を多く含むものである場合にその傾向は顕著である。一方で、各実施例では、シェルの樹脂組成を変えずに、粒子表面に反応性基を導入することができたため、各実施例で得られた中空粒子は、誘電特性の悪化が抑制されたものであった。特に、シェルの骨格となる重合体が炭化水素単量体単位からなる実施例1~6では、誘電特性に優れた中空粒子が得られた。中でも、実施例4、6では、プラズマ処理の条件を調整することで、樹脂との密着性と、誘電特性とのバランスに特に優れた中空粒子を得ることができた。
【符号の説明】
【0126】
1 水系媒体
2 低極性材料
3 分散安定剤
4 単量体組成物
4a 疎水性溶剤
4b 疎水性溶剤以外の材料
4c 水系媒体中に分散した重合性単量体
5 油溶性重合開始剤
6 シェル
7 中空部
8 液滴
9 前駆体粒子
10 中空部が気体で満たされた中空粒子
図1
図2