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特開2023-86621コイル、単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086621
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】コイル、単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/00 20060101AFI20230615BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C30B15/00 Z
C30B29/06 502G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201285
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】山田 惇弘
(72)【発明者】
【氏名】末若 良太
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG30
4G077EJ02
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができる、単結晶製造装置用磁石に用いられるコイルを提案する。
【解決手段】本発明によるコイル1は、チョクラルスキー法により、坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ単結晶を引き上げる単結晶の製造装置用磁石に用いられるコイルである。ここで、上部に凹部1aを有し、環状であることを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により、坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置用磁石に用いられるコイルであって、
上部に凹部を有し、環状であることを特徴とするコイル。
【請求項2】
チョクラルスキー法により、坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置において前記水平磁場を印加するための単結晶の製造装置用磁石であって、
2個の同一の形状および同一の大きさのコイルを有し、前記2個のコイルは前記水平磁場の印加方向に垂直な面に対して対称に配置されており、前記2個のコイルの双方が、請求項1に記載の環状コイルであることを特徴とする単結晶の製造装置用磁石。
【請求項3】
原点O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となる磁場分布を発生できる、請求項2に記載の単結晶製造装置用磁石。
【請求項4】
請求項2または3に記載された前記磁石を備え、前記磁石によって前記融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載された単結晶の製造装置を用い、前記水平磁場を印加して単結晶を引き上げる、単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記単結晶はシリコン単結晶である、請求項5に記載の単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル、単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスの基板としては、シリコンなどの半導体の単結晶で構成されたものが使用されている。こうした半導体の単結晶を製造する代表的な方法として、チョクラルスキー(Czochralski、CZ)法を挙げることができる。CZ法は、坩堝に半導体の原料を収容して溶融し、溶融した単結晶の原料に種結晶を着液して引き上げることによって、種結晶の下方に単結晶を育成して製造する方法である。
【0003】
上記単結晶の原料が収容される坩堝としては、一般に石英製のものが使用されている。そのため、坩堝に収容された単結晶の原料融液が速く対流すると、石英製の坩堝に含まれる酸素の溶解量が増加し、単結晶の酸素濃度が高くなる。そこで、坩堝内の原料融液に水平磁場を印加して原料融液の対流を抑制しながら単結晶を引き上げることによって、単結晶の酸素濃度を制御することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図1は、水平磁場印加方式の単結晶の製造装置の一例を示している。この図に示した単結晶の製造装置100は、チャンバー11内に、単結晶(例えば、シリコン)16の原料(例えば、多結晶シリコン)を収容する坩堝12と、該坩堝12内の原料を加熱して原料融液13とするヒーター14と、坩堝12の下部に設けられ、坩堝12を円周方向に回転させる坩堝回転機構15と、単結晶16を育成するための種結晶17を保持する種結晶保持器18と、該種結晶保持器18が先端に取り付けられているワイヤーロープ19と、該ワイヤーロープ19を回転させながら単結晶16、種結晶17および種結晶保持器18を回転させつつ引き上げる巻取り機構20と、を備える。また、チャンバー11の下部外側には、坩堝12中のシリコン融液13に水平磁場(横磁場)を印加する複数のコイル22を有する磁石21が配置されている。
【0005】
このような単結晶の製造装置10を用いて、以下のように単結晶16を製造することができる。すなわち、まず、坩堝12中に所定量の単結晶の原料を収容し、ヒーター14で加熱して原料融液13とするとともに、磁石21により、原料融液13に対して所定の水平磁場を印加する。
【0006】
次に、原料融液13に対して水平磁場を印加した状態で、種結晶保持器18に保持された種結晶17を原料融液13に浸漬する。そして、坩堝回転機構15により坩堝12を所定の回転速度で回転させるとともに、種結晶17(すなわち単結晶16)を所定の回転速度で回転させながら巻き取り機構20で巻き取って、種結晶17および該種結晶17上に成長させた単結晶16を引き上げる。こうして、所定の直径を有する単結晶を製造することができる。
【0007】
上記磁石21を構成するコイル22としては、例えば、図2(a)に示すような横長の環状矩形のものを挙げることができる。そして、磁石21は、図2(b)に示すように、チャンバー11の周囲に対向して配置された2つのコイル22を用いて構成することができる。なお、上記コイル22は、図2(b)に示すように、その外面22a側に湾曲しており、その内面22bがチャンバー11側に向けて配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-204312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記単結晶16の製造の際、原料融液13の流動分布の変動により、単結晶16と原料融液13との界面(以下、「結晶/融液界面」とも言う。)に供給される原料融液13の温度が変化すると、単結晶16の直径(以下、「結晶径」とも言う。)が変動する。そのため、結晶径の変動に合わせて単結晶16の引き上げ速度(以下、「結晶引き上げ速度」とも言う。)を調整して、結晶径を一定にしている。しかしながら、結晶引き上げ速度は、単結晶16の品質に影響する結晶欠陥の制御にも用いられており、結晶引き上げ速度の変動は、製造される単結晶16の品質(結晶欠陥)の変動に繋がる。そのため、結晶引き上げ速度は、設定値に対する変動が小さいことが好ましい。
【0010】
また、製造された単結晶16から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下は、ウェーハ外周部の機械的強度を低下させ、デバイス製造時の熱処理により変形する要因になる。そのため、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下量は小さいことが好ましい。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、単結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができる、単結晶の製造装置用磁石に用いられるコイルを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]チョクラルスキー法により、坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置用磁石に用いられるコイルであって、
上部に凹部を有し、環状であることを特徴とするコイル。
【0013】
[2]チョクラルスキー法により、坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置において前記水平磁場を印加するための単結晶の製造装置用磁石であって、
2個の同一の形状および同一の大きさのコイルを有し、前記2個のコイルは前記水平磁場の印加方向に垂直な面に対して対称に配置されており、前記2個のコイルの双方が、前記[1]に記載の環状コイルであることを特徴とする単結晶の製造装置用磁石。
【0014】
[3]原点O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となる磁場分布を発生できる、前記[2]に記載の単結晶製造装置用磁石。
【0015】
[4]前記[2]または[3]に記載された前記磁石を備え、前記磁石によって前記融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置。
【0016】
[5]前記[4]に記載された単結晶の製造装置を用い、前記水平磁場を印加して単結晶を引き上げる、単結晶の製造方法。
【0017】
[6]前記単結晶はシリコン単結晶である、前記[5]に記載の単結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
単結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】水平磁場印加方式の単結晶の製造装置の一例を示す図である。
図2】従来の磁石を構成するコイルの一例を示す図であり、(a)は全体図、(b)はコイルの配置を説明する図である。
図3】シミュレーションにより得られた原料融液表面の原料融液の流動分布を示す図である。
図4】本発明によるコイルの好適な一例を示す図であり、(a)は全体図、(b)は正面図、(c)は上面図である。
図5】本発明による磁石の一例におけるコイルの配置を説明する図である。
図6】原点O、点Bおよび点Cの位置を説明する図であり、(a)は坩堝を上方から見た図、(b)は坩堝を側方から見た図である。
図7】本発明による単結晶の製造装置の一例を示す図である。
図8】従来例のコイルおよび発明例のコイルによる磁束密度分布を示す図であり、(a)はx軸方向、(b)はy軸方向、(c)はz軸方向にそれぞれ沿った磁束密度である。
図9】固液界面の平均温度の時間変動を示す図である。
図10】ウェーハ中心からの距離と酸素濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(コイル)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明によるコイルは、チョクラルスキー法により、坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ単結晶を引き上げる単結晶の製造装置用磁石に用いられるコイルである。ここで、上部に凹部を有し、環状であることを特徴とする。一般的に、単結晶の製造装置用磁石に用いられる従来のコイル形状は、その上部が凹凸のない形状(図2)であったり、円弧を描く形状であったりする。しかし、本発明によるコイルは、その上部の形状が従来のコイルの形状と異なり、コイル上部が凹状でありコイル開口部の形状もその上部が凹状であることを特徴とする。
【0021】
本発明者らは、単結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができる方途について鋭意検討した。その過程で、単結晶の製造装置用の磁石に用いられるコイルに着目した。
【0022】
上述のように、原料融液13の流動分布の変動により結晶/融液界面に供給される原料融液13の温度が変化すると、結晶径の変動に合わせて結晶引き上げ速度が調節され、結晶径を一定に制御しているが、これは単結晶16の品質の変動に繋がる。
【0023】
上記原料融液13の流動分布の変動は、磁石21により原料融液13に磁場を印加して、原料融液13内の電流および磁場によるローレンツ力を発生させることによって、抑制することができる。原料融液13の流動分布の変動を抑制するためには、原料融液13に高い磁束密度の磁場を印加することが好ましい。
【0024】
これに対して、製造された単結晶から得られるウェーハの外周部の酸素濃度の低下は、ウェーハ外周部の機械的強度を低下させ、デバイス製造時の熱処理により変形する要因になる。したがって、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下量は小さいことが好ましい。
【0025】
図3は、シミュレーションにより得られた原料融液13表面の原料融液13の流動分布を示している。図3に示すように、結晶引き上げ時の結晶/融液界面では、磁場中を回転させている単結晶16内に生じた誘起電流および磁場によるローレンツ力により、表面の原料融液13を取込む対流が生じる。原料融液13表面には、蒸発により酸素濃度が低下した原料融液13が存在しており、単結晶16がこうした低酸素濃度の原料融液13を取り込むことによって、ウェーハ外周部の酸素濃度低下が生じていると考えられる。したがって、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下を抑制するためには、単結晶16付近の原料融液13に低い磁束密度の磁場を印加することが好ましい。
【0026】
このように、結晶引き上げ速度の変動を抑制する点では、原料融液13に高い磁束密度の磁場を印加することが有効である一方、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下を抑制する点では、原料融液13に低い磁束密度の磁場を印加することが有効であり、結晶引き上げ速度の変動の抑制と、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下の抑制とはトレードオフの関係にある。
【0027】
本発明者らは、結晶引き上げ速度の変動の抑制と、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下の抑制とを両立できる方途について鋭意検討した。その結果、上部に凹部を有する環状のコイルに想到したのである。このようなコイルを用いて磁石を構成することにより、単結晶16周囲の原料融液13に対しては低い磁束密度の磁場を印加できる一方、それ以外の原料融液13に対しては高い磁束密度の磁場を印加することができ、結晶引き上げ速度の変動の抑制と、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下の抑制とを両立することができる。こうして、本発明を完成させたのである。
【0028】
上記説明から明らかなように、本発明によるコイルは、その形状に特徴を有するものであり、その他の構成は限定されず、従来公知のものを適切に使用することができる。以下、本発明によるコイルを具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0029】
図4は、本発明による単結晶の製造装置用の磁石を構成するコイルの好適な一例を示しており、(a)は全体図、(b)は正面図、(c)は上面図をそれぞれ示している。図4に示したコイル1は、上部に凹部1aを有し、環状に構成されている。より具体的には、コイル1は、図4(b)に示すように、鉛直方向に延びる2つの第1の部分2と、水平方向に延びる2つの第2の部分3と、第1の部分2と第2の部分3とを接続する4つの接続部分4とを有する。
【0030】
また、上側の第2の部分3は、水平方向の延びる2つの第1のサブ部分31と、第1のサブ部分31よりも下方に位置して水平方向に延びる1つの第2のサブ部分32と、鉛直方向に延びる2つの第3のサブ部分33と、第1のサブ部分31または第2のサブ部分32と第3のサブ部分33とを接続する4つのサブ接続部分34とを有する。そして、コイル1の凹部1aは、第2のサブ部分32と2つの第3のサブ部分33と4つのサブ接続部分34とで画定されている。なお、図4(a)~(c)に示した例においては、上側の第2の部分3の中央にて凹部1aが設けられている。
【0031】
このような構成を有するコイル1を単結晶の製造装置用磁石に適用し、チャンバー11の周囲に配置して、コイル1に電流を流す。これにより、単結晶16付近の原料融液13には低い磁束密度の磁場を印加させつつ、それ以外の単結晶16から離れた原料融液13に対しては高い磁束密度の磁場を印加することができる。その結果、単結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができる。
【0032】
上記コイル1の凹部1aの深さ(すなわち、第1のサブ部分31の上面31aと第2のサブ部分32の上面32aとの間の距離(高さの差))および幅(すなわち、第2のサブ部分32の長さ)は、原料融液13を収容する坩堝12の寸法に応じて適切に設定することができる。例えば、凹部1aの深さは、コイル高さの40%~60%の高さとすることが好ましい。なお、「コイル高さ」とは、コイル1の開口部において上下方向の最も長い部分の長さを意味する。すなわち、図4に示したコイル1については、上側の第2の部分3の第1のサブ部分31の下面31bと、下側の第2の部分3の上面3aとの間の距離である。また、図4(a)~(c)に示した例においては、第1のサブ部分31の上面31aおよび下面31b、第2のサブ部分32の上面32a、下側の第2の部分3の上面3aは、いずれも水平面に平行な面である。
【0033】
また、凹部1aの幅は、育成する単結晶の結晶径に対して90%~110%の幅とすることが好ましい。なお、第2の部分3が図4に示したように外面1d側に湾曲している場合には、「凹部の幅」は、コイル1を正面視した際の凹部1aの内面1dでの長さを意味する。結晶径は、300mm以上(例えば、φ300mmウェーハ用のシリコン単結晶の場合には直径301~340mm、φ450mmウェーハ用のシリコン単結晶の場合には直径451~500mm)とすることができ、本発明は、結晶径が300mm以上の単結晶の製造に好適である。
【0034】
コイル1は、図4に示した形状の支持体を用意し、図4(a)に示すように、支持体の外形を画定する外周面1b、または支持体の開口部を画定する内周面1cに凹部(図示せず)を設け、巻線を上記凹部に収容して巻き回して構成することができる。また、コイル1は、支持体を設けずに、図4に示した形状に巻き回して樹脂で固めて構成することもできる。
【0035】
また、巻線を支持体の外周面1bまたは内周面1cに巻き回す場合、支持体の外周面1bまたは内周面1cは、コイル1を構成する巻線を円滑に巻き回せるように、その角部がアール(丸み)を有していることが好ましい。また、巻線を支持体に巻き回さない場合、角部にてアールを付けて巻き回すことが好ましい。
【0036】
なお、コイル1は、例えば図4(a)および(c)に示すように、その外面1d側に湾曲していることが好ましい。これにより、コイル1の内面1eをチャンバー11側に向けてコイル1をチャンバー11の外壁に沿って配置することができ、コイル1の配置に必要なスペースを節約してコンパクトに構成することができる。しかし、コイル1は必ずしも湾曲している必要はなく、平坦なコイル1としてもよい。
【0037】
また、図4に示したコイル1の凹部1aは矩形であるが、それに限定されず、半円状や半楕円状、矩形以外の多角形など、任意の形状とすることができる。
【0038】
(単結晶の製造装置用磁石)
本発明による単結晶の製造装置は、チョクラルスキー法により、坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ単結晶を引き上げる単結晶の製造装置において水平磁場を印加するための単結晶の製造装置用磁石である。ここで、磁石は、複数のコイルを有し、複数のコイルの一部あるいは全てが、上述した本発明によるコイルであることを特徴とする。
【0039】
図5は、本発明による磁石の一例におけるコイルの配置を説明する図である。なお、図1に示した単結晶の製造装置100と同じ構成には同じ符号が付されている。図5に示した単結晶の製造装置用磁石50は、図4に示した本発明によるコイル1を2個備えており、これら同一の形状および同一の大きさの2個のコイル1が対称性をもって(すなわち、xz面(水平磁場の印加方向に垂直な面)に対して対称に)チャンバー11の周囲に対向して配置されている。上述のように、コイル1は、上部に凹部1aを有しているため、単結晶16付近の原料融液13には低い磁束密度の磁場を印加させつつ、それ以外の単結晶16から離れた原料融液13に対しては高い磁束密度の磁場を印加することができる。これにより、単結晶の製造装置に適用された際に、単結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができる。
【0040】
また、磁石50は、後述する原点O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となる磁場分布を発生できることが好ましい。
【0041】
本発明者らは、コイル1の第2のサブ部分32の下面32bの最も低い高さ位置の点を含む平面と結晶引き上げ軸との交点である磁場中心を原点Oとした座標系において、特定の位置(点)での磁束密度と、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動および結晶の引き上げ速度の変動とが密接に関連していることを見出した。
【0042】
なお、一般的に、単結晶の製造装置用磁石50の中心軸(図4における一点鎖線参照)は結晶引き上げ軸と一致するため、磁石50が単結晶の製造装置から外されている場合、すなわち磁石単体の場合には、原点Oは、図4の第2のサブ部分32の下面32bの最も低い高さ位置の点を含む平面と、磁石50の中心軸との交点であると定義できる。
【0043】
磁石50に配置されるコイル1が互いに対向する2個のみの場合には、原点Oは、第2のサブ部分32の下面32bの最も低い高さ位置の2点を結んだ線と磁石50の中心軸との交点と定義する。上記2点を結んだ線と磁石50の中心軸とが交わらない場合には、上記2点を結んだ線を磁石50の中心軸と交わるように水平移動させた際の上記2点を結んだ線と磁石50の中心軸との交点と定義する。図4に示すように第2のサブ部分32の下面32bが水平面である場合には、原点Oは、下面32bを含む水平面と、磁石50の中心軸との交点である。
【0044】
ここで、原点Oと坩堝12内の原料融液13の液面(原料融液13の表面)との位置関係について説明する。本発明による磁石50を単結晶の製造装置に設置して、水平磁場を印加しながら単結晶を製造する場合、一般的に坩堝12内の原料融液13の液面の高さ位置は、コイル1の高さ方向の中間位置近傍となる。そのため、磁石50を単結晶の製造装置に設置して、水平磁場を印加しながら単結晶を製造する場合、本発明の特徴であるコイル1の凹部1aの下面32bの最も低い高さ位置と、坩堝12内の原料融液13の液面の高さ位置とは略一致すると考えてよい。そのため、本発明による磁石50を単結晶の製造装置に設置して、水平磁場を印加しながら単結晶を製造する場合、原点Oは、坩堝12内の原料融液13の液面と結晶中心軸との交点とみなしてよい。
【0045】
すなわち、磁石50により坩堝12に磁場が印加されており、原点Oが原料融液13の表面と同じ高さ位置に配置されている状態で、図6(a)および(b)に示すように、原点Oを通り、水平面上に投影された磁場の方向に平行な軸をy軸、水平面上に投影された磁場の方向に垂直な軸をx軸とし、原点Oを通り、水平面に垂直な軸をz軸とする。このとき、本発明者は、結晶引き上げ開始時において、z軸上の坩堝12内側(内壁)の点を点Aとしたときに、点Aでの磁束密度が、結晶引き上げ方向の単結晶の酸素濃度の変動に密接に関連していることを見出した。これは、坩堝12の底部での磁束密度が低い場合には、原料融液13の対流を制御するローレンツ力の強度が小さくなり、坩堝12の回転によるせん断力の影響が大きくなって原料融液13の流動分布の変動が大きくなり、これが酸素濃度の変動に影響するためと考えられる。
【0046】
また、本発明者らは、x軸上の坩堝12内側(内壁)の点を点Bとしたときに、点Bでの磁束密度が、無欠陥の単結晶を引き上げる際の結晶引き上げ速度の変動に密接に関連していることを見出した。これは、シリコンなどの伝導体の原料融液13に水平磁場が印加されると水平磁場の方向の周りを回るロール状の対流が生じるが、点Bでの磁束密度が高い場合には、上記上昇流および下降流の制動性が高められ、固液界面の温度の変動が抑制されて、結晶引き上げ速度vの変動が抑制されるためと考えられる。
【0047】
このように、本発明者らは、上記点Aおよび点Bでの磁束密度を所定の範囲、具体的には、原点O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、上記融液に対して水平磁場を印加して単結晶を引き上げることにより、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、無欠陥の単結晶を製造できることを見出したのである。
【0048】
原点Oでの磁束密度をMとした場合に、点Aでの磁束密度を0.58M以上とすることにより、単結晶における結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制することができる。好ましくは、点Aでの磁束密度を0.64M以上とする。これにより、単結晶における結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動をさらに抑制することができる。
【0049】
また、点Bでの磁束密度を1.47M以上とすることにより、無欠陥の単結晶の結晶引き上げ速度の変動を抑制することができる。好ましくは、点Bでの磁束密度を2.23M以上とする。これにより、無欠陥の単結晶の結晶引き上げ速度の変動をさらに抑制することができる。
【0050】
また、点C(0mm,400mm,0mm)での磁束密度を点Bでの磁束密度よりも小さくすることが好ましい。これにより、原料融液13の対流変動をさらに抑制することができる。
【0051】
点Aおよび点Bでの上記磁束密度への制御は、磁石50の構成に依存するものの、コイル1を適切な位置に配置し、コイル1に印加する電流の大きさおよび向きを調整することにより行うことができる。例えば、図4に示したコイル1を用いる場合、凹部1aのない位置でのコイルの高さH1を750mm、凹部1aのある部分での高さH2を375mm、湾曲したコイルの曲率半径を900mm、第2の部分3の第1のサブ部分31を45°(すなわち、凹部1aの部分が90°)で構成し、コイル1に流れる電流および向きを制御することによって、点Aおよび点Bでの磁束密度を上記のように制御することができる。
【0052】
(単結晶の製造装置)
本発明による単結晶の製造装置は、単結晶の原料の融液を収容する坩堝と、該坩堝の周囲に配置された、上述した本発明による磁石とを備え、上記磁石によって融液に水平磁場を印加しつつ単結晶を引き上げる単結晶の製造装置である。
【0053】
図7は、本発明による単結晶の製造装置の一例を示している。なお、図1に示した単結晶の製造装置100と同じ構成には同じ符号が付されている。図7に示した単結晶の製造装置70においては、図1に示した単結晶の製造装置100における磁石21に代えて、上述した本発明による磁石50を備えている。上述したように、磁石50は、2個の同一の形状および同一の大きさのコイルを有し、この2個のコイルは水平磁場の印加方向に垂直な面に対して対称に配置されており、また2個のコイルの双方が、上部に凹部1aを有し、環状である本発明によるコイル1で構成されている。これにより、単結晶16を引き上げる際に、単結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができる。その結果、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下が抑制された無欠陥の単結晶を製造することができる。
【0054】
(単結晶の製造方法)
本発明による単結晶の製造方法は、上述した本発明による単結晶の製造装置を用い、上記磁石により原料の融液に対して水平磁場を印加して単結晶を引き上げることを特徴とする。
【0055】
上述のように、本発明による単結晶の製造装置70を用いることにより、単結晶16を引き上げる際に、単結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができる。その結果、ウェーハ外周部の酸素濃度の低下が抑制された無欠陥の単結晶を製造することができる。
【0056】
上記単結晶16は、CZ法により製造できるものであれば特に限定されないが、酸素濃度の変動が小さなシリコンの単結晶を好適に製造することができる。
【実施例0057】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0058】
図8は、図2に示した従来のコイル(従来例)、および図4に示した本発明によるコイル(発明例)による磁束密度分布を示しており、(a)はx軸方向、(b)はy軸方向、(c)はz軸方向にそれぞれ沿った磁束密度である。なお、図8において、いずれの図も上記原点Oを原点としている。
【0059】
図8(a)に示すように、発明例のコイル1は、従来例のコイル22の磁束密度分布に対して、x軸方向の磁場分布では、融液領域の磁束密度を変化させずに結晶/融液界面における磁束密度を下げられることが分かる。また、図8(b)に示すように、発明例のコイル1は、y軸方向の磁場分布では、従来例のコイル22の磁束密度よりも小さい磁場を形成できることが分かる。さらに、図8(c)に示すように、発明例のコイル1は、z軸方向の磁場分布では、磁束密度のピークを融液側にシフトさせ、かつ最大値を大きくすることができ、融液領域の磁束密度は高く、結晶領域の磁束密度は低い磁場を形成できることが分かる。
【0060】
図9は、固液界面の平均温度の時間変動を示している。図9から明らかなように、坩堝12に収容された原料融液13に印加された磁束密度が高い方が、固液界面の平均温度の時間変動が小さいことが分かる。これにより、結晶引き上げ速度の変動、ひいては製造される単結晶の品質の変動を抑制することができる。
【0061】
図10は、ウェーハ中心からの距離と酸素濃度との関係を示している。この図に示すように、発明例のコイル1を用いた場合には、従来例のコイル22に比べて、ウェーハ外周部での酸素濃度の低下を抑制できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、結晶の引き上げ速度の変動を抑制しつつ、製造した単結晶から得られたウェーハの外周部の酸素濃度の低下を抑制することができるため、半導体ウェーハ製造業において有用である。
【符号の説明】
【0063】
1,22 コイル
1a 凹部
1b 外周面
1c 内周面
1d 外面
1e 内面
2 第1の部分
3 第2の部分
3a 上面
4 接続部分
11 チャンバー
12 坩堝
13 原料融液
14 ヒーター
15 坩堝回転機構
16 単結晶
17 種結晶
18 種結晶保持器
19 ワイヤーロープ
20 巻き取り機構
21,50 磁石
22a 外面
22b 内面
31 第1のサブ部分
31a 上面
31b 下面
32 第2のサブ部分
32a 上面
32b 下面
33 第3のサブ部分
34 サブ接続部分
70,100 単結晶の製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10