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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086722
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】試験測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 13/00 20060101AFI20230615BHJP
   G01R 13/20 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
G01R13/00
G01R13/20 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197582
(22)【出願日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】63/288,493
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/981,022
(32)【優先日】2022-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391002340
【氏名又は名称】テクトロニクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】カン・タン
(57)【要約】
【課題】試験測定装置の性能指数として、エントロピー値を利用する。
【解決手段】試験測定装置10には、被試験デバイス(DUT)から信号を受信するポート12と、信号をデジタル化して波形データを作成するADC18と、ディスプレイ26と、プロセッサ22がある。プロセッサ22は、波形データから2次元ヒストグラムであるアイ・ダイヤグラムを生成し、次いで、その各列のエントロピー値を算出して水平エントロピー・ベクトル集合を生成し、その各行のエントロピー値を算出して垂直エントロピー・ベクトル集合を生成する。各エントロピー・ベクトル集合の低エントロピー値は、アイ開口部の位置を特定するのに利用できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験デバイス(DUT)から信号を受けるポートと、
上記信号をデジタル化して1つ以上の波形データを生成する1つ以上のアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)と、
ディスプレイと、
1つ以上のプロセッサと
を具え、
該1つ以上のプロセッサが、
上記1つ以上の波形データから1つ以上の次元を有するヒストグラムを生成する処理と、
上記ヒストグラムの上記1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理と
を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するよう構成される試験測定装置。
【請求項2】
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、2次元ヒストグラムを生成する処理と、上記2次元ヒストグラムの各列のエントロピー値を計算して水平エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせる請求項1の試験測定装置。
【請求項3】
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、更に、上記水平エントロピー・ベクトルの集合の1つ以上の低エントロピー値又は最小値を求める処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせる請求項2の試験測定装置。
【請求項4】
2次元ヒストグラムとしてアイ・ダイアグラムを生成する処理と、上記アイ・ダイアグラムの表示に関する自動設定の1つとして、上記水平エントロピー・ベクトルの集合の1つ以上の低エントロピー値又は最小値を利用して、波形の測定時に上記アイ・ダイアグラムのアイ開口部の水平方向の位置を特定する処理を1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するよう更に構成される請求項3の試験測定装置。
【請求項5】
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、2次元ヒストグラムを生成する処理と、上記2次元ヒストグラムの各行のエントロピー値を計算して垂直エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理を1つ以上のプロセッサに行わせる請求項1の試験測定装置。
【請求項6】
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、更に、上記垂直エントロピー・ベクトルの集合の少なくとも1つ以上の低エントロピー値又は最小値を求める処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせる請求項5の試験測定装置。
【請求項7】
2次元ヒストグラムとしてアイ・ダイアグラムを生成する処理と、上記アイ・ダイアグラムの表示に関する自動設定の1つとして、上記垂直エントロピー・ベクトルの集合の少なくとも1つ以上の低エントロピー値又は最小値を利用して、波形の測定時に上記アイ・ダイアグラムのアイ開口部の垂直方向の位置を特定する処理を1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するよう更に構成される請求項6の試験測定装置。
【請求項8】
試験測定装置において被試験装置(DUT)から信号を受ける処理と、
1つ以上のアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)を用いて上記信号をデジタル化して波形データを生成する処理と、
上記波形データから1つ以上の次元を有するヒストグラムを生成する処理と、
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理と
を具える試験測定方法。
【請求項9】
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理が、2次元ヒストグラムを生成する処理と、上記2次元ヒストグラムの各列についてエントロピー値を計算して水平エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理とを含む請求項8の試験測定方法。
【請求項10】
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について上記1つ以上のエントロピー値を求める処理が、上記水平エントロピー・ベクトルの集合の最小エントロピー値及び上記水平エントロピー・ベクトルの集合の複数の低エントロピー値の集合のうちの少なくとも1つを求める処理を含む請求項9の試験測定方法。
【請求項11】
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理は、2次元ヒストグラムを生成する処理と、上記2次元ヒストグラムの各行についてエントロピー値を計算して垂直エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理とを含む請求項8の試験測定方法。
【請求項12】
上記1つ以上のエントロピー値を求める処理が、上記垂直エントロピー・ベクトルの集合の複数の低エントロピー値の集合及び上記垂直エントロピー・ベクトルの集合の最小エントロピー値のうちの少なくとも1つを求める処理を含む請求項11の試験測定方法。
【請求項13】
上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理が、
2次元ヒストグラムであるアイ・ダイヤグラムを生成する処理と、
上記アイ・ダイヤグラムの各列についてエントロピー値を計算して水平エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理と、
上記アイ・ダイヤグラムの各行についてエントロピー値を計算して垂直エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理と、
上記水平エントロピー・ベクトルの集合に基づいて、水平低エントロピー値を求める処理と、
上記垂直エントロピー・ベクトルの集合に基づいて、垂直低エントロピー値を求める処理と、
上記水平及び垂直低エントロピー値に基づいて、上記アイ・ダイヤグラムのアイ開口部の位置を特定する処理と
を更に具える請求項8の試験測定方法。
【請求項14】
上記波形データに関する性能指数として、上記1つ以上のエントロピー値を利用する処理を更に具える請求項8の試験測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試験測定装置及び方法に関し、特に、測定値として波形データのエントロピー値を利用する試験測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速シグナリング規格は、データ・センタその他のアプリケーションのための更に高速な要求を満たすように進歩し続けている。例えば、26Gb/s及び53Gb/sのNRZ、26GBaud及び53GBaudのPAM4、32GBaudのPAM4は、100/200G/400Gbイーサネット(登録商標)及びPCIe(Gen6)で使用される。詳しくは、非特許文献1から3を参照されたい。
【0003】
これらのアプリケーションでは、リアルタイム・オシロスコープと等価時間オシロスコープが、デバッグ及び特性評価や大量生産のための研究開発(R&D)において、広く利用されている。オシロスコープは、概して、1次元ヒストグラム及び2次元ヒストグラムの主要なプロットを提供する。例えば、ディスプレイ上の波形について、ユーザは、波形の2次元の区画を選択でき、すると、装置が、その波形の垂直又は水平の1次元ヒストグラムを提供しても良い。また、ユーザは、アイ・ダイアグラムと呼ばれる複数波形の特定の表示の中のある区画を選択し、垂直又は水平のいずれかを1次元ヒストグラム用に選択できる。これに代えて、ユーザは、アイ・ダイアグラムの両方の次元のデータを2次元ヒストグラムとして使用できる。プロットとともに、平均、標準偏差、最小、最大などの典型的な統計値が表示され、これらの値は、様々な信号分析と測定に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-257329号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Specifications | PCI-SIG」、PCI-SIG、特に「PCI Express Base Specification Revision 6.0, Version 1.0」、[online]、[2022年11月23日検索]、インターネット<https://pcisig.com/specifications/>
【非特許文献2】「P802.3bs/D3.5, Oct 2017 - IEEE Draft Standard for Ethernet Amendment 10: Media Access Control Parameters, Physical Layers and Management Parameters for 200 Gb/s and 400 Gb/s Operation」、IEEE、[online]、[2022年11月23日検索]、インターネット<https://ieeexplore.ieee.org/document/8067664>
【非特許文献3】「P802.3cd/D3.5, Sep 2018 - IEEE Approved Draft Standard for Ethernet Amendment: Media Access Control Parameters for 50 Gb/s and Physical Layers and Management Parameters for 50 Gb/s, 100 Gb/s, and 200 Gb/s Operation」、IEEE、[online]、[2022年11月23日検索]、インターネット<https://ieeexplore.ieee.org/document/8472333>
【非特許文献4】「エントロピー」の記事、Wikipedia(日本語版)、[online]、[2022年11月23日検索]、インターネット<https://ja.wikipedia.org/wiki/エントロピー>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製造業者は、被試験デバイス(DUT)が、上述したような規格に従って動作することを確認する必要がある。概して、これら規格は、1つ以上の性能指数(FOM:figure of merit)を使用して性能を測定する。これには、多くの場合、パルス振幅変調4(PAM4)信号のTDECQ(transmitter dispersion eye closure quaternary)、SNDR(signal-to-noise and distortion ratio)など、様々な測定値の複雑で時間のかかる計算が含まれる。
【0007】
同様の問題が、連続時間線形イコライザ(continuous time linear equalizer:CTLE)、フィード・フォワード・イコライザ(feedforward equalizer:FFE)、判定帰還型イコライザ(decision feedback equalizer:DFE)などの等化処理フィルタを最適化する場合にも生じる。これらのプロセスは、非効率な側面があるので、もっとシンプルで、高速な測定が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
エントロピーは、科学的概念と測定可能な物理的特性の両方を含み、最も一般的には無秩序、ランダム性又は不確実性の状態に関連している。エントロピーは、古典熱力学、統計物理学、情報理論など、様々な分野で研究されてきている。オシロスコープで試験される信号は、概して、情報理論が基本である通信システムに関連している。
【0009】
しかし、試験測定システム、特にオシロスコープは、エントロピーを利用していない。本願の実施形態は、エントロピーの概念を利用するもので、特に、いくつかの一般的なオシロスコープの測定及び分析タスクをより効率的に行うために、エントロピーの概念を利用する装置及び方法を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、エントロピー値又はエントロピー・ベクトルを生成する試験測定装置の実施形態を示す。
図2図2は、エントロピー測定を行うのに使用できる2つの1次元ヒストグラムの例を示す。
図3図3は、4値パルス振幅変調(PAM4)信号のアイ・ダイアグラムの一例を示す。
図4図4は、PAM4信号のアイ・ダイアグラムから導出された水平エントロピー・プロットを示す。
図5図5は、PAM4信号のアイ・ダイアグラムから導出された垂直エントロピー・プロットを示す。
図6図6は、PAM4信号のアイ・ダイアグラムから導出された水平エントロピー・プロットと垂直エントロピー・プロットの組み合わせを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、試験測定装置10の一実施形態の例のブロック図を示す。試験測定装置10には、1つ以上のポート12があり、これは、任意の電気信号伝達媒体又は光信号を電気信号に変換する光信号伝達媒体であっても良い。ポート12の夫々は、試験測定装置10の各入力チャンネルから構成されても良い。
【0012】
ポート12は、被試験デバイス(DUT)からの被試験信号を受けて、それをサンプラ・トラック・アンド・ホールド回路14に送る。トラック・アンド・ホールド回路14は、1つ以上の高分解能アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)18が、アナログ・デジタル変換を行うのに十分な時間、信号をトラッキングして安定した値に維持する。ADC18は、1つ以上のプロセッサ22の制御下で、クロック・シンセサイザ16からサンプル・クロックを受けても良い。
【0013】
ADC18は、トラック・アンド・ホールド回路14からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。ADC18にはサンプリング・レートがあり、これについては以下で詳しく説明する。例えば、ADC18は、数ギガ・サンプル毎秒(GS/s)から数百ギガ・サンプル毎秒までの信号をサンプリングできる。いくつかの構成では、ADC18は1GS/sから200GS/sの間でアナログ信号をサンプリングできる。別の構成では、ADC18は、2GS/sから25GS/sの間で、アナログ信号をサンプリングできる。ADC18からのデジタル化された信号(波形データ)は、次いで、アクイジション・メモリ20に記憶される。アクイジション・メモリ20は、例えば、所定のメモリ長を有する循環型メモリであっても良い。アクイジション・メモリ20に取り込まれた波形データ(以下、単に「波形」とも呼ぶ)は、周知のように、多くの場合、トリガ・イベントの発生に応じて、メモリ19に転送されて保存される。ADC18は、12ビットADCなどの単一の高分解能ADCとしても良い。又は、ADC18が、複数のADCから構成されても良く、この場合、これらADCをインタリーブ動作させることで、1つのADCのように動作して、高速なサンプリングを実現しても良い。
【0014】
1つ以上のプロセッサ22は、メモリ19に記憶された命令を実行するように構成されてもよく、そのような命令によって示される任意の方法や関連するステップを実行しても良い。一実施形態では、1つ以上のプロセッサ22は、デジタル化された波形データを取り込んで、1つ又は2つの次元を有するヒストグラムを生成する。次に、1つ以上のプロセッサ22は、ヒストグラムを使用して1つ以上のエントロピー値を計算する。試験測定装置10は、次いで、試験測定装置10上のメモリ19やその他のメモリ中のエントロピー値を使用しても良い。こうしたメモリとしては、プロセッサ・キャッシュ、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、ソリッド・ステート・メモリ、ハード・ディスク・ドライブ又は任意の他のメモリ形式として実装されても良い。更には、試験測定装置10がネットワークに接続されていれば、クラウド上にエントロピー値を保存し、必要に応じて、クラウド上からエントロピー値を読み出すようにすることでメモリとして機能させても良い。これらメモリは、データ、コンピュータ・プログラム・プロダクト及びその他の命令を格納するための媒体として機能する。
【0015】
ユーザ・インタフェース24は、1つ以上のプロセッサ22に結合される。ユーザ・インタフェース24は、ディスプレイ26上のグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を使って、ユーザが試験測定装置10をインタラクティブに操作できるようにするために、キーボード、マウス、トラックボール、タッチスクリーン、その他の操作装置を有していても良い。ディスプレイ26は、デジタル・スクリーン、ブラウン管ベースのディスプレイ又は任意の他のモニタであっても良く、波形、測定値及び他のデータをユーザに表示する。
【0016】
オシロスコープなどの試験測定装置の基本的な機能の1つとして、水平又は垂直のヒストグラムを生成するものがある。これらヒストグラムは、各ビン(bin:値の区間、階級の幅)がヒット数(典型的には1次元)を格納している。ヒストグラムを使用すると、試験測定装置は、平均、標準偏差、最小値、最大値、ピーク・ツー・ピーク値などの他の統計値も提供できる。ヒストグラムには、既に確率情報が含まれているため、ユーザは、提供される統計情報のリストにエントロピー値を追加しても良い。
【0017】
図2は、2つの1次元(1D)ヒストグラムの例を示しており、横軸はビンの位置を表し、縦軸は各ビンにおけるヒット数を表す。ヒストグラムの各バーは、特定のビンでのヒット数を表し、図示する各ヒストグラムには、ゼロでないヒット数を持つビンが4つある。これら2つの1次元(1D)ヒストグラムの例では、これらのエントロピー値が等しい。しかし、標準偏差の値は異なっている。このように、エントロピー値は、オシロスコープが提供する平均、標準偏差、最小、最大などの典型的な統計値ではカバーしない、ある特定の統計的特性を明らかにする。2次元(2D)ヒストグラムの場合、エントロピー値は、水平軸に沿って又は垂直軸に沿って、エントロピー値の集合又はエントロピー・ベクトルの集合(set:セット)を形成する。
【0018】
1次元ヒストグラムの場合、エントロピー値は、次の数式1で計算できる。
【数1】
ここで、nは、ビンの数である。また、p(k)は、k番目のビンの正規化されたヒット数であって、次の数式2で計算される確率(probability)を表す。
[数2]
p(k)=ヒット数(k)/総ヒット数
【0019】
ランダムなビット・シーケンスを持つ理想的なNRZ信号の場合、ユニット・インターバル(UI)の中心を横切るヒストグラムには、同じヒット数のビンが2つだけある。これら2つのビンは、ビット1とビット0を表す。そのエントロピーは、数式1から、1に等しくなる。理想的なPAM4信号には、シンボル0、1、2、3を表す4つのビンがある。そのエントロピーは、2に等しくなる。シンボル間干渉(ISI)などの障害が信号中にある場合、エントロピー値は増加する。
【0020】
アイ・ダイアグラムは、試験測定装置によって被試験信号の波形データから生成され、被試験信号の様々な分析で一般的に使用されるが、2次元のヒストグラムを含み、図3に示すように、水平及び垂直ビン(bin)が2次元グリッド(格子、碁盤目)を形成する。この実施形態の目的のために、ヒストグラムを生成する処理は、アイ・ダイアグラムを生成する処理を含むのであるが、これは、アイ・ダイアグラム自体が、複数波形の2次元(2D)ヒストグラムだからである。例えば、アイ・ダイアグラムの横軸上の各位置には、垂直方向の位置に複数の値(ヒット)があり、列(column)を形成する。アイ・ダイアグラムの個々の行(raw)又は列(column)のみを使用することで、1次元のヒストグラムが作成される。このヒストグラムからエントロピー値を計算できる。水平エントロピー・ベクトルの集合(set:セット)は、アイ・ダイアグラム中の全ての列についてエントロピー値を計算することから得られる。即ち、列の位置とエントロピー値の組からなるベクトルが得られる。試験測定装置は、その値の集合を使用して、図4に示すように水平エントロピー・プロットを表示できる。
【0021】
図4から、水平位置の最小エントロピー値は、アイが垂直方向に最も開く場所に対応する水平位置にあることがわかる。エントロピー値が最小値に達する場所を探すことで、アイが垂直方向に最も開く水平位置を見つけることができる。これは、PAMnでうまく機能する。このとき、この「n」は、2、3、4及びその他の値としても良く、エントロピーの計算は同じである。図4は、破線に沿って、エントロピーが、どこでその最小値に達するかを示し、そして、垂直方向のアイの開口部に関して最も好ましい(最も開いている)水平線上の位置を示す。オシロスコープなどの試験測定装置は、アイが最も開く場所を見つけるために、通常、水平自動設定を実行する。複数の局所的(ローカル)な最小値がある状況を処理するために、ローパス・フィルタをエントロピー・ベクトルに適用して曲線を滑らかにし、アイが最も垂直方向に開く位置に対応する、より広い範囲(グローバル)から見た最小値(グローバル最小値)を得るようにしても良い。こうしたフィルタとしては、例えば、0.2UIから0.4UIの間の幅を有するボックスカー・フィルタ(boxcar filter)を用いても良い。
【0022】
同様に、アイ・ダイアグラムの個々の行を使用すると、2番目の1次元ヒストグラムが得られる。このヒストグラムからエントロピー値を計算できる。この場合、アイ・ダイアグラムの全ての行についてエントロピー値を計算することから、行の位置とエントロピー値の組というベクトルであるエントロピー・ベクトルの集合の形で垂直エントロピー値を計算する。次いで、試験測定装置は、図5に示すように、これらの値をエントロピー・プロットとしてプロットできる。
【0023】
図5に示すように、最小エントロピー値は、アイが水平方向に最も開く3つの垂直レベルで生じる。エントロピー値が、どこで複数の低エントロピー値からなる集合(set:セット)として局所的な最小値(複数個)に達するか(又は、別の例では、エントロピー値がどこで1つの最小値に達するか)を探すことによって、エントロピー値をアイが水平方向に最も開く垂直レベルを見つけるために利用できる。図5に示す3つの破線は、水平方向のアイ開口に関する最も好ましい(各レベルで最も開いている)3つの垂直レベルを示している。上述のように、試験測定装置は、測定分析及び自動設定のために、この判断を行う必要がある。各アイに複数の局所的な最小値がある状況を処理するために、ローパス・フィルタを垂直エントロピー・ベクトルの集合に適用して曲線を滑らかにし、各アイが最も水平方向に開く位置に対応する、より広い範囲(グローバル)から見た唯一(ユニーク)の最小値(グローバル・ユニーク最小値)を得るようにしても良い。こうしたフィルタとしては、例えば、信号振幅をn-1で割ったものの0.1から0.2の間の幅を有するボックスカー・フィルタであっても良く、ここで、nは、PAMn信号のレベル数である。
【0024】
図6は、水平及び垂直エントロピー・プロットを組み合わせたアイ・ダイアグラムを示す。先に示した水平エントロピー・プロットと垂直エントロピー・プロットから、水平方向にオセットされたオフセット線610と、垂直方向にレベルが異なる3つのレベル線620、622及び624の交点は、破線で示されているように、3つのアイの開口部の中心を指している。
【0025】
先の説明は、水平エントロピー・データ又は垂直エントロピー・データのいずれもが、表示のための水平又は垂直自動設定と、測定及び分析に利用できることを示している。
【0026】
図4の水平エントロピー・プロットは、アイ・ダイアグラムのアイが垂直方向に閉じるほど、エントロピー・ベクトル値が大きくなることを示している。このため、エントロピーは、性能指数(FOM)の候補としてふさわしいものとなっている。エントロピー値は、数式1を用いて素早く計算できる。水平エントロピーの計算では、その基礎となる信号が、NRZ、PAM4又は他のPAMnのいずれであるかを知る必要はない。SNDRやTDECQなどの他の性能指数よりも、計算がはるかに簡単で、イーサネット(登録商標)やPCIeなどの業界標準で要求されるCTLE/DFE最適化などの特定の最適化問題を解くのが、より効率的になる。
【0027】
エントロピー値は、表示、測定及び分析の自動設定を実行するために利用される。エントロピーは、性能指数(FOM)としても利用できる。エントロピーは、簡単な計算で、効率的に得られる。
【0028】
本開示技術の態様は、特別に作成されたハードウェア、ファームウェア、デジタル・シグナル・プロセッサ又はプログラムされた命令に従って動作するプロセッサを含む特別にプログラムされた汎用コンピュータ上で動作できる。本願における「コントローラ」又は「プロセッサ」という用語は、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、ASIC及び専用ハードウェア・コントローラ等を意図する。本開示技術の態様は、1つ又は複数のコンピュータ(モニタリング・モジュールを含む)その他のデバイスによって実行される、1つ又は複数のプログラム・モジュールなどのコンピュータ利用可能なデータ及びコンピュータ実行可能な命令で実現できる。概して、プログラム・モジュールとしては、ルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造などを含み、これらは、コンピュータその他のデバイス内のプロセッサによって実行されると、特定のタスクを実行するか、又は、特定の抽象データ形式を実現する。コンピュータ実行可能命令は、ハードディスク、光ディスク、リムーバブル記憶媒体、ソリッド・ステート・メモリ、RAMなどのコンピュータ可読記憶媒体に記憶しても良い。当業者には理解されるように、プログラム・モジュールの機能は、様々な実施例において必要に応じて組み合わせられるか又は分散されても良い。更に、こうした機能は、集積回路、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)などのようなファームウェア又はハードウェア同等物において全体又は一部を具体化できる。特定のデータ構造を使用して、本開示技術の1つ以上の態様をより効果的に実施することができ、そのようなデータ構造は、本願に記載されたコンピュータ実行可能命令及びコンピュータ使用可能データの範囲内と考えられる。
【0029】
開示された態様は、場合によっては、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア又はこれらの任意の組み合わせで実現されても良い。開示された態様は、1つ以上のプロセッサによって読み取られ、実行され得る1つ又は複数のコンピュータ可読媒体によって運搬されるか又は記憶される命令として実現されても良い。そのような命令は、コンピュータ・プログラム・プロダクトと呼ぶことができる。本願で説明するコンピュータ可読媒体は、コンピューティング装置によってアクセス可能な任意の媒体を意味する。限定するものではないが、一例としては、コンピュータ可読媒体は、コンピュータ記憶媒体及び通信媒体を含んでいても良い。
【0030】
コンピュータ記憶媒体とは、コンピュータ読み取り可能な情報を記憶するために使用することができる任意の媒体を意味する。限定するものではないが、例としては、コンピュータ記憶媒体としては、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、電気消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM)、フラッシュメモリやその他のメモリ技術、コンパクト・ディスク読み出し専用メモリ(CD-ROM)、DVD(Digital Video Disc)やその他の光ディスク記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置やその他の磁気記憶装置、及び任意の技術で実装された任意の他の揮発性又は不揮発性の取り外し可能又は取り外し不能の媒体を含んでいても良い。コンピュータ記憶媒体としては、信号そのもの及び信号伝送の一時的な形態は除外される。
【0031】
通信媒体とは、コンピュータ可読情報の通信に利用できる任意の媒体を意味する。限定するものではないが、例としては、通信媒体には、電気、光、無線周波数(RF)、赤外線、音又はその他の形式の信号の通信に適した同軸ケーブル、光ファイバ・ケーブル、空気又は任意の他の媒体を含んでも良い。
【0032】
加えて、本願の説明は、特定の特徴に言及している。本明細書における開示には、これらの特定の特徴の全ての可能な組み合わせが含まれると理解すべきである。ある特定の特徴が特定の態様又は実施例に関連して開示される場合、その特徴は、可能である限り、他の態様及び実施例との関連においても利用できる。
【0033】
また、本願において、2つ以上の定義されたステップ又は工程を有する方法に言及する場合、これら定義されたステップ又は工程は、状況的にそれらの可能性を排除しない限り、任意の順序で又は同時に実行しても良い。

実施例
【0034】
以下では、本願で開示される技術の理解に有益な実施例が提示される。この技術の実施形態は、以下で記述する実施例の1つ以上及び任意の組み合わせを含んでいても良い。
【0035】
実施例1は、試験測定装置であって、被試験デバイス(DUT)から信号を受けるポートと、上記信号をデジタル化して1つ以上の波形データを生成する1つ以上のアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)と、ディスプレイと、1つ以上のプロセッサとを具え、該1つ以上のプロセッサは、上記1つ以上の波形データから1つ以上の次元を有するヒストグラムを生成する処理と、上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するよう構成される。
【0036】
実施例2は、実施例1の試験測定装置であって、上記ヒストグラムを生成する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、1次元ヒストグラムを生成する処理と、上記1次元ヒストグラムからエントロピー値を計算する処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせる。
【0037】
実施例3は、実施例1又は2のいずれかの試験測定装置であって、上記ヒストグラムを生成する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、2次元ヒストグラムを生成する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせる。
【0038】
実施例4は、実施例3の試験測定装置であって、上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、上記2次元ヒストグラムの各列(column)のエントロピー値を計算して水平エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせる。
【0039】
実施例5は、実施例4の試験測定装置であって、上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、更に、上記水平エントロピー・ベクトルの集合にローパス・フィルタを適用する処理と、上記水平エントロピー・ベクトルの集合の1つ以上の低エントロピー値又は最小値を求める処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせる。
【0040】
実施例6は、実施例3の試験測定装置であって、上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、2次元ヒストグラムの各行のエントロピー値を計算して垂直エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理を1つ以上のプロセッサに行わせる。
【0041】
実施例7は、実施例6の試験測定装置であって、上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムは、更に、ローパス・フィルタを垂直エントロピー・ベクトルの集合に適用する処理と、上記垂直エントロピー・ベクトルの集合の少なくとも1つ以上の低エントロピー値又は最小値を求める処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせる。
【0042】
実施例8は、実施例3の試験測定装置であって、上記1つ以上のプロセッサは、2次元ヒストグラムであるアイ・ダイアグラムの表示に関する自動設定の1つとして、エントロピー・ベクトルの集合を使用し、波形の測定時にアイ・ダイアグラムのアイの開口部の位置を特定する処理を1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するよう更に構成される。
【0043】
実施例9は、実施例1の試験測定装置であって、1つ以上のプロセッサは、1つ以上のエントロピー値を波形の性能指数(FOM:figure of merit)として使用する処理を1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するように更に構成されている。
【0044】
実施例10は、実施例1から9のいずれかの試験測定装置であって、1つ以上のプロセッサは、エントロピー値の集合をエントロピー・プロットとして表示する処理を1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するように更に構成されている。
【0045】
実施例11は、方法であって、試験測定装置において被試験装置(DUT)から信号を受ける処理と、1つ以上のアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)を用いて上記信号をデジタル化して波形データを生成する処理と、上記波形データから1つ以上の次元を有するヒストグラムを生成する処理と、上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理とを具える。
【0046】
実施例12は、実施例11の方法であって、ヒストグラムを生成する処理は、1次元ヒストグラムを生成する処理を含み、1つのエントロピー値を計算する処理は、1次元ヒストグラムについて1つのエントロピー値を計算する処理を含む。
【0047】
実施例13は、実施例11又は12のいずれかの方法であって、ヒストグラムを生成する処理は、2次元ヒストグラムを生成する処理を含む。
【0048】
実施例14は、実施例11から13のいずれかの方法であって、1つ以上の次元のそれぞれについて1つ以上のエントロピー値を計算する処理は、2次元ヒストグラムの各列についてのエントロピー値を計算して水平エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理を含む。
【0049】
実施例15は、実施例14の方法であって、1つ以上のエントロピー値を求める処理は、水平エントロピー・ベクトルの集合にローパス・フィルタを適用する処理と、水平エントロピー・ベクトルの集合の最小エントロピー値及び水平エントロピー・ベクトルの集合の複数の低エントロピー値の集合のうちの少なくとも1つを求める処理を含む。
【0050】
実施例16は、実施例11から15のいずれかの方法であって、上記ヒストグラムの1つ以上の次元の夫々について1つ以上のエントロピー値を計算する処理は、2次元ヒストグラムの各行についてエントロピー値を計算して垂直エントロピー・ベクトルの集合を生成する処理を含む。
【0051】
実施例17は、実施例16の方法であって、1つ以上のエントロピー値を求める処理は、垂直エントロピー・ベクトルの集合にローパス・フィルタを適用する処理と、垂直エントロピー・ベクトルの集合の複数の低エントロピー値の集合と、垂直エントロピー・ベクトルの集合の最小エントロピー値のうちの少なくとも1つを求める処理とを含む。
【0052】
実施例18は、実施例15から17のいずれかの方法であって、波形の測定時に、上記アイ・ダイアグラムの表示に関する自動設定の1つとして、エントロピー・ベクトルの集合に基づいて、上記1つ以上の低エントロピー値又は最小エントロピー値を使用して、アイ・ダイアグラムのアイの開口部の中心の位置を垂直方向及び水平方向に関して特定する処理を更に具える。
【0053】
実施例19は、実施例11から18のいずれかの方法であって、上記波形データに関する性能指数(FOM:figure of merit)として上記1つ以上のエントロピー値を利用する処理を更に具える。
【0054】
実施例20は、実施例11乃至19のいずれかの方法であって、1つ以上のエントロピー値をエントロピー・プロットとして上記試験測定装置のディスプレイに表示する処理を更に含む。
【0055】
明細書、要約書、特許請求の範囲及び図面に開示される全ての機能、並びに開示される任意の方法又はプロセスにおける全てのステップは、そのような機能やステップの少なくとも一部が相互に排他的な組み合わせである場合を除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。明細書、要約書、特許請求の範囲及び図面に開示される機能の夫々は、特に明記されない限り、同じ、等価、又は類似の目的を果たす代替の機能によって置き換えることができる。
【0056】
説明の都合上、本開示技術の具体的な態様を図示し、説明してきたが、本発明の要旨と範囲から離れることなく、種々の変更が可能なことが理解できよう。従って、本開示技術は、添付の請求項以外では、限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0057】
10 試験測定装置
12 ポート
14 サンプラ・トラック・アンド・ホールド
16 クロック・シンセサイザ
18 アナログ・デジタル・コンバータ
19 メモり
20 アクイジション・メモリ
22 プロセッサ
24 ユーザ・インタフェース
26 ディスプレイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6