(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087126
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】生体内留置クリップ
(51)【国際特許分類】
A61B 17/122 20060101AFI20230615BHJP
A61B 17/128 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
A61B17/122
A61B17/128
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076915
(22)【出願日】2023-05-08
(62)【分割の表示】P 2020509339の分割
【原出願日】2019-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2018069010
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 竜朗
(72)【発明者】
【氏名】水野 光
(72)【発明者】
【氏名】二宮 正和
(57)【要約】
【課題】管腔臓器の外側から蛍光体の発光を視認しやすく、管腔臓器内壁への取付安定性に優れたものとしうる生体内留置クリップを提供すること。
【解決手段】弾力で略V字状に開脚する一対のアーム板部22と、金属板からなり、アーム板部22の各先端部に形成してある爪部23と、を持つクリップ本体2を有する生体内留置クリップ1である。爪部23の外面に、励起光の照射により赤色ないし近赤外光を発光する蛍光色素を含む蛍光体3が具備してあり、前記蛍光体は、前記蛍光色素を含む高分子材料組成物の押出成形体または射出成形体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力で略V字状に開脚する一対のアーム板部と、
金属板からなり、前記アーム板部の各先端部に形成してある爪部と、を持つクリップ本体を有する生体内留置クリップであって、
少なくともいずれか一方の前記爪部の外面に、励起光の照射により赤色ないし近赤外光を発光する蛍光色素を含む蛍光体が具備してあり、
前記蛍光体は、前記蛍光色素を含む高分子材料組成物の押出成形体または射出成形体であることを特徴とする生体内留置クリップ。
【請求項2】
前記蛍光体が、前記爪部から前記アーム板部の外側に突出している請求項1に記載の生体内留置クリップ。
【請求項3】
前記蛍光体が、前記爪部から先端に向けて突出している請求項1または2に記載の生体内留置クリップ。
【請求項4】
前記蛍光体が、前記爪部の外面から前記アーム板部の外面にまで連続して具備してある請求項1~3のいずれかに記載の生体内留置クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば内視鏡を利用して管腔内に挿入されて、管腔の外部から位置を視認可能なマーカーとして利用することができる生体内留置クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食道、胃、大腸等の消化管の癌等の疾患は、主として消化管の粘膜から発生し進行する。同様に、肺癌は、主として気管粘膜から発生し、膀胱癌は、主として膀胱粘膜から発生し進行する。そのため、消化管、気管、膀胱等の管腔臓器の疾患の診断を確定させるには、内視鏡を管腔臓器内に挿入して粘膜を観察し、患部組織を生検することが必須となっている。そして、その確定診断に基づき、患部組織は必要に応じて外科的に切除される。
【0003】
しかしながら、外科的切除術において、外科医は管腔臓器の外側からアプローチするため、患部を直接的に視認することはできない。すなわち、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下では、肉眼または腹腔鏡で消化管、肺または膀胱を観察した場合、見えるのは粘膜ではなく、消化管漿膜面、気管漿膜面、膀胱腹膜面である。そのため、管腔臓器の外側から観察した場合でも切除域を確定できるように、管腔臓器の内部にマーカーを取り付けることが必要となる。
【0004】
このようなマーカーとして、体内の粘膜に係止するクリップに近接して留置され、近赤外光を発するLEDまたは蛍光発光物質で形成された発光体からなる外科手術用マーカーが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上述の外科手術用マーカーにおいて、発光体としてLEDを使用したマーカーは電源の供給を必要とするので装置構成が複雑となり、内視鏡の処置具案内管に通すことができるように、マーカーをコンパクトに形成することが困難である。また、上述の外科手術用マーカーにおいて、蛍光発光物質で形成された発光体を使用するものは、管腔臓器の外側から励起光を照射することにより蛍光を発光するとされており、蛍光を発光させるための電源の供給が不要となっているが、管腔臓器の外側(漿膜側)に出射する蛍光の強度が弱く、実際上、管腔臓器の外側から発光部位を視認することは困難である。
【0006】
上述したような外科手術用マーカーの欠点を改良するものとして、特許文献2では、アーム部を有するクリップ本体とアーム部を閉じることができるようにクリップ本体に締着される筒状部材を備え、筒状部材に粘膜(管腔臓器内壁)を圧迫し、かつ、赤色ないし近赤外光を発光する蛍光色素を含む押圧部を設けた生体圧迫クリップが提案されている。このクリップでは、蛍光色素を含む押圧部が管腔臓器壁を圧迫した状態で管腔臓器内壁に取り付けられるので、管腔臓器壁(特に血液に含まれるヘモグロビン)を透過する際の蛍光の減衰が最小限に留められる結果として、蛍光を管腔臓器の外側から観察した場合でも、発光部位を良好に視認できるとされている。しかしながら、特許文献2に示すクリップでは、蛍光色素を含む樹脂材料でアーム部を閉じるための筒状部材(締め付けリング)を構成しているため、アーム部による管腔臓器内壁への締め付けが緩くなり易く、クリップ本体の取付安定性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-218680号公報
【特許文献2】国際公開第2015/182737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、管腔臓器の外側から蛍光体の発光を視認しやすく、管腔臓器内壁への取付安定性に優れたものとしうる生体内留置クリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る生体内留置クリップは、
弾力で略V字状に開脚する一対のアーム板部と、
前記アーム板部の各先端部に形成してある爪部と、
一対の前記アーム板部の長手方向に沿って移動可能に前記アーム板部に取り付けられ、前記爪部の方向に移動させることにより、一対の前記アーム板部を閉脚させる締め付けリングと、を持つクリップ本体を有する生体内留置クリップであって、
少なくともいずれか一方の前記爪部の外面に、励起光の照射により赤色ないし近赤外光を発光する蛍光色素を含む蛍光体が具備してあることを特徴とする。
【0010】
本発明の生体内留置クリップは、たとえば内視鏡およびクリップ装置などを用いて管腔臓器内まで搬送されて、管腔臓器内壁に取り付られる。クリップを取り付けると、クリップ本体の爪部の外面に具備された蛍光体が管腔臓器内壁に押しつけられることになる。
【0011】
したがって、本発明の生体内留置クリップによれば、管腔臓器壁を透過する際の蛍光の減衰が最小限に留められ、管腔臓器の外側から蛍光体の発光を視認しやすい。また、アーム板部を閉脚させる締め付けリングを蛍光体で構成する必要がないので、締め付けリングの設計に制約がなく、クリップを管腔臓器内壁への取付安定性に優れたものとしうる。なお、管腔臓器の外側からの蛍光体の発光の視認は、光の波長等に応じて、腹腔鏡等の撮像装置による画像認識により行ってもよく、あるいは目視により行ってもよい。
【0012】
蛍光体は、爪部からアーム板部の外側に突出していてもよい。また、蛍光体は、爪部から先端に向けて突出していてもよい。さらに、蛍光体は、爪部の外面からアーム板部の外面にまで連続して具備してあってもよい。さらに、締め付けリングは、金属製であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の生体内留置クリップのアーム板部が開脚した状態における全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のクリップのアーム板部が閉脚した状態を示す斜視図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施形態のクリップ装置の外観を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1のクリップを管腔臓器内に留置した状態を模式的に示す図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の他の実施形態の生体内留置クリップのアーム板部が開脚した状態における全体構成を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明のさらに他の実施形態の生体内留置クリップのアーム板部が開脚した状態における全体構成を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明のさらに他の実施形態の生体内留置クリップのアーム板部が開脚した状態における全体構成を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明のさらに他の実施形態の生体内留置クリップのアーム板部が開脚した状態における全体構成を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、
図9のクリップのアーム板部が閉脚した状態を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、
図9のクリップを管腔臓器内に留置した状態を模式的に示す図である。
【
図12】
図12は、本発明のさらに他の実施形態の生体内留置クリップのアーム板部が開脚した状態における全体構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の生体内留置クリップ1は、たとえば生体内の管腔臓器内壁に取り付けられて管腔の外から位置を視認することができるマーカーとして用いられ、クリップ本体2と蛍光体3とを有する。
【0016】
クリップ本体2は、連結板部21、一対のアーム板部22および締め付けリング24を備えている。連結板部21は、略U字状に折り曲げられた形状を有し、U字状の各端部にそれぞれ連続して、その先端側に向かって略V字状に開脚するようにアーム板部22,22が一体的に形成されている。
【0017】
締め付けリング24は、アーム板部22の基端側の連結板部21にスライド可能に外嵌されるリング状に形成された部材である。締め付けリング24は、後述する
図3Aに示すインナーシース52およびインナーシース52に対して進退自在に配置され、連結板部21に着脱可能(係脱可能)に連結(係合)される連結フック51を有するクリップ装置5を用いて、スライドされる部材である。
図1および
図2に示す締め付けリング24は、連結板部21に
図3Aに示す連結フック51が連結された状態で、
図4Bに示すように連結フック51をインナーシース52の先端部から内部に引き込むことにより、インナーシース52の遠位端で押されてスライドして、アーム板部22を閉脚させる。
【0018】
図1に示すように、各アーム板部22の先端部には、爪部23が一体的に形成されている。爪部23は、アーム板部22の先端において、内側(すなわち、閉じ方向)を指向して折り曲げられている。各爪部23は、その先端の中間部分に凹陥する切欠部23aを有している。
【0019】
連結板部21、一対のアーム板部22、および一対の爪部23は、一枚の薄く細長い板材を折り曲げ成形することにより形成されている。これらを構成する板材の板厚は、特に限定されないが、好ましくは0.10~0.30mmである。板材としては、弾性を有する金属板が好ましく、たとえばステンレス鋼板が用いられる。また、本実施形態では、締め付けリング24も金属で構成してあり、その材質は、特に限定されず、アーム板部22等を構成する板材と同様な金属(たとえばステンレス鋼)で構成してもよく、あるいは、アーム板部22等を構成する板材とは異なる金属、たとえばチタン合金、金、アルミニウムなどで構成されていてもよい。
【0020】
アーム板部22は、それぞれ、基端部22aと把持部22bとを有している。各アーム板部22の把持部22bには、それぞれ貫通孔22cが形成されている。これらの貫通孔22cは、アーム板部22(把持部22b)の所望の強度を損なうこと無く形成されている。これらの貫通孔22cは、アーム板部22が締め付けリング24で閉脚される際の弾性(反発力)調整の観点から形成されている。
【0021】
連結板部21にスライド可能に嵌め込まれた締め付けリング24は、略円筒状のリング部材から構成されている。ただし、締め付けリング24は、線材をコイル状に巻回してなるスプリングで構成されてもよい。締め付けリング24は、その内側の案内孔に、連結板部21が挿通され、連結板部21の外周とアーム板部22の基端部22aの外周との間を軸方向に移動(スライド)可能に装着(外嵌)されている。なお、
図2に示すように、締め付けリング24が連結板部21の外側に外れないように、連結板部21には、ストッパ用凸部21aが形成してある。
【0022】
図1に示すように、締め付けリング24が、アーム板部22の後方寄り(連結板部21)に配置された状態では、アーム板部22は自己の弾性により開いた(開脚した)状態になっている。なお必要に応じて、
図2に示すように、締め付けリング24を基端部22aの先端寄りの位置(把持部22b寄り)に移動(スライド)させることにより、アーム板部22を閉じた(閉脚した)状態にすることができる。
【0023】
図1に示すように、少なくともいずれか一方の爪部23の外面には、励起光の照射により赤色ないし近赤外光を発光する蛍光色素を含む蛍光体3が具備してある。一対の爪部23は、噛み合うことが可能になっており、噛み合った状態で、外側に位置する爪部23の外面には少なくとも蛍光体3が装着してあることが好ましい。爪部23の外面への蛍光体3の装着は、接着やインサート成形などにより行われる。
【0024】
蛍光体3の形状は、本実施形態では、爪部23の外面形状と同じであるが、異なっていてもよい。蛍光体3は、蛍光色素を含む高分子材料組成物により形成されていることが好ましい。蛍光色素としては、600~1400nmの赤色ないし近赤外の波長域の蛍光を発するものが好ましい。このような波長域の光は、皮膚、脂肪、筋肉等の人体組織に対して透過性が高く、生体の組織表面下5mm~20mm程度まで良好に到達することができる。
【0025】
上述の波長域の蛍光を発する蛍光色素としては、リボフラビン、チアミン、NADH(nicotinamide adenine dinucleotide)、インドシアニングリーン(ICG)等の水溶性色
素や、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物等の油溶性色素をあげることができる。中でも、生体内で溶出することなく安定に高分子材料中に保持される点から高分子材料に相溶性の高い色素が好ましく、特に、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物等が蛍光の発光強度に優れ、ポリウレタン等の高分子材料に対する相溶性、耐光性、耐熱性にも優れる点で好ましい。
【0026】
蛍光色素を含む高分子材料組成物における蛍光色素の好ましい濃度は、蛍光色素やバインダーとする高分子材料の種類にもよるが、通常、0.1~0.001質量%とすることが好ましい。
【0027】
蛍光色素を含有させる高分子材料としては、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー等に、必要に応じて硬化剤を配合したものを使用することができる。
【0028】
高分子材料に蛍光色素を含有させる方法としては、たとえば、二軸混練機を使用して高分子材料に蛍光色素を混練する方法を挙げることができる。その後、押出成形または射出成形にて所定形状に成形し、必要に応じて後加工を施すことで、蛍光体3を得ることができる。蛍光体3は、接着やインサート成形などの手段で爪部23の外面に固定される。
【0029】
なお、蛍光色素を含む高分子材料組成物には、必要に応じて硫酸バリウム等の造影剤を添加してもよい。これにより、生体内で管腔臓器内壁を挟持していた生体内留置クリップ1が管腔臓器内壁から外れたり、蛍光体3がクリップ本体2から脱落したりしても、管腔臓器内の蛍光体3を、X線を用いて撮影することにより追跡することも可能となる。
【0030】
また、蛍光体3は、クリップ本体2の爪部23の外面に、蛍光色素を含有する塗料でコートしたものであってもよい。また、蛍光体3は、蛍光色素を含む高分子材料組成物で形成された板材に、蛍光色素を含有しない透明材料で外表面をコートしたり二層化したりしたものであってもよい。また、蛍光色素を含有しない材料で形成された板材の表面に蛍光色素をゼラチン等で固定したものでもよい。蛍光体3の厚みは、十分な蛍光特性が得られるように決定され、特に限定されないが、好ましくは1~5000μmである。
【0031】
本実施形態では、たとえば
図5に示す内視鏡と
図3Aに示すクリップ装置5などを用いて、生体内留置クリップ1を
図5に示す管腔臓器4の内部まで搬送し、クリップ1を管腔臓器4の内壁の特定の位置に取り付ける。たとえば管腔臓器4の内壁に存在する粘膜(管腔臓器内壁)4aの一部に生じている腫瘍4bの周りに、その位置を特定するために、取り付ける。管腔臓器4の内壁に取り付けられるクリップ1は、単一でも複数でもよいが、複数であることが好ましい。
【0032】
ここで、生体内留置クリップ1を、
図5に示す内視鏡6の処置具案内管を介して体内に搬送し、体内組織を把持して留置(クリッピング)するための
図3Aに示すクリップ装置5について説明する。
【0033】
クリップ装置5は、連結フック51、インナーシース52、駆動ワイヤ53、アウターシース54、補強コイル55、第1スライダ部56、ベース部57、および第2スライダ部58を有する。
【0034】
図3Bに示すように、チューブ状のアウターシース54には、同じくチューブ状のインナーシース52が挿通されており、インナーシース52には駆動ワイヤ53が挿通されている。インナーシース52はアウターシース54内で摺動(スライド)可能となっており、駆動ワイヤ53はインナーシース52内で摺動(スライド)可能となっている。
【0035】
アウターシース54は可撓性を有する中空チューブからなり、本実施形態ではコイルチューブを用いている。コイルチューブとしては、金属(ステンレス鋼)等からなる長尺平板を螺旋状に巻回してなる平線コイルチューブを用いることができる。ただし、丸線コイルチューブまたは内面平コイルチューブを用いてもよい。アウターシース54の先端部の内径は、2~3mm程度である。
【0036】
インナーシース52は可撓性を有する中空チューブからなり、本実施形態ではワイヤチューブを用いている。ワイヤチューブは、たとえば金属(ステンレス鋼)等からなる複数本のワイヤ(ケーブル)を中空となるように螺旋状に撚ってなる中空撚り線からなるチューブである。なお、インナーシース52としては、主としてワイヤチューブを用い、その先端側の一部のみをコイルチューブとしたものを用いてもよい。インナーシース52の先端部の内径は、1.5~2.5mm程度である。
【0037】
駆動ワイヤ53は可撓性を有するワイヤからなり、本実施形態ではワイヤロープを用いている。ワイヤロープは、たとえば金属(ステンレス鋼)等からなる複数本のワイヤ(ケーブル)を螺旋状にねじってなる撚り線からなるロープである。ただし、駆動ワイヤ53としては、インナーシース52と同様なワイヤチューブを用いてもよい。
【0038】
図3Aに示すクリップ装置5の遠位端に配置される連結フック51は、その先端に向かって略V字状に配置された弾性体からなる一対のアーム部51a,51aを有し、インナーシース52との協働によって、開脚(開いた)状態と閉脚(閉じた)状態の二つの状態をとり得るようになっている。連結フック51のアーム部51a,51aの先端部には、内側(互いに相対する側)に折り曲げられることにより爪部が形成されており、クリップ本体2の連結板部21を把持して連結できるようになっている。
【0039】
連結フック51の基端部は、一対のアーム部51a,51aの基端部に連続して略U字状に形成されたU字状部となっている。連結フック51は、弾性体からなる一つの細長い板材を適宜に折り曲げる(塑性変形させる)ことにより形成することができる。特に限定されないが、連結フック51を構成する板材の板厚は0.20~0.24mm程度であり、幅は0.6mm程度である。板材としては、たとえばステンレス鋼が用いられる。
【0040】
連結フック51の基端部は、インナーシース52内にスライド可能に挿入された駆動ワイヤ53の先端(遠位端)に、レーザ溶接等により固定されている。駆動ワイヤ53の遠位端に略円環状の円環部材をレーザ溶接等により固定し、この円環部材に連結フック51のU字状部を通すことにより、連結フック51を駆動ワイヤ53に対して首振り可能としてもよい。
【0041】
アウターシース54の基端(近位端)側近傍は補強コイル55に挿入されて該補強コイル55に一体的に固定されている。補強コイル55は第1スライダ部56に一体的に固定されており、第1スライダ部56の内側にベース部57の遠位端側の部分が挿入配置されている。第1スライダ部56は、ベース部57に対して、先端(遠位端)側に移動した位置と基端部(近位端)側に移動した2つの位置との間で位置決め可能にスライドし得るようになっている。
【0042】
ベース部57には、第2スライダ部58がスライド可能に保持されており、ベース部57にはインナーシース52が固定されている。駆動ワイヤ53の近位端は第2スライダ部58に固定されている。
【0043】
第2スライダ部58をベース部57に対して先端側(遠位端側)にスライドさせると、インナーシース52が駆動ワイヤ53に対して引き込まれて、駆動ワイヤ53の先端の連結フック51がインナーシース52の先端から突出して、自己の弾性により開脚する。第2スライダ部58をベース部57に対して基端側(近位端側)にスライドさせると、駆動ワイヤ53がインナーシース52に対して引き込まれて、駆動ワイヤ53の先端の連結フック51がインナーシース52内に入り込みつつ、徐々に閉脚し、インナーシース52内に埋没することにより、完全に閉脚するようになっている。
【0044】
第1スライダ部56をベース部57に対して基端側の位置にスライドすると、インナーシース52をアウターシース54の先端から突出させることができ、反対に、第1スライダ部56をベース部57に対して先端側の位置にスライドすると、インナーシース52の先端をアウターシース54内に収納(埋没)させることができるようになっている。
【0045】
次に、生体内留置クリップ1の使用方法の一例について、
図4A、
図4Bおよび
図5を参照して説明する。クリップ本体2の連結板部21の内側に形成される連結孔25に、クリップ装置5の連結フック51を係合させ、連結フック51をインナーシース52の内部に引き込むことで、連結フック51が閉脚し、生体内留置クリップ1のクリップ本体2がインナーシース52の先端に取り付けられる(
図4A参照)。
【0046】
この状態で、生体内留置クリップ1(クリップ本体2および蛍光体3)が連結されたインナーシース52の遠位端部をアウターシース54内に引き込み、生体内留置クリップ1の全体をアウターシース54の遠位端部の内側に収容する(
図4B参照)。この状態では、クリップ本体2の締め付けリング24は連結板部21に位置した状態であり、アーム板部22はアウターシース54の内壁の作用によって閉脚している。
【0047】
図5に示す内視鏡6を用いて、生体内留置クリップ1が装着されたクリップ装置5のアウターシース54の遠位端部を、管腔臓器4の内部まで挿入する。次いで、
図3Aに示すアウターシース54を近位端側にスライドさせることにより、生体内留置クリップ1をアウターシース54の遠位端から突出させる。これにより、
図4Aに示されているように、アーム板部22が自己の弾性により開脚した状態となる。
【0048】
アーム板部22が開脚した状態で、たとえば、
図5に示す腫瘍4bなどの病変部分の周囲に位置させる。次いで、
図4Aに示すインナーシース52を駆動ワイヤ53に対して遠位端側にスライドさせることにより、締め付けリング24がアーム板部22の先端側にスライドする。その結果、アーム板部22が徐々に閉脚し(互いに近づき)、粘膜4aの一部が挟み込まれる。
【0049】
インナーシース52を駆動ワイヤ53に対して遠位端側にさらにスライドさせて、締め付けリング24をアーム板部22の先端側に移動させ、生体内留置クリップ1のクリップ本体2を完全に閉脚させる。この状態で、インナーシース52を駆動ワイヤ53に対して近位端側にスライドさせて、連結フック51をインナーシース52の遠位端から押し出して開脚させ、クリップ本体2の連結フック51による把持(係合)を解除する。これにより、
図5に示すように、生体内留置クリップ1による粘膜4aの一部に対するクリッピングが完了する。
【0050】
次に、いったん内視鏡からクリップ装置5を抜き去ってから、別途用意された他の生体内留置クリップ1を、クリップ装置5(またはクリップ装置5と同様の構成を備える別途用意されたクリップ装置)の遠位端部に装着する。次に、別の生体内留置クリップ1が装着されたクリップ装置5の遠位端部を、腫瘍4bを挟んで反対側に位置する部位の近傍まで搬送する。次いで、前述と同様にしてクリップ1による粘膜4aの一部へのクリップを行うことができる。このようにして複数のクリップ1を、腫瘍4bの周りに位置する粘膜4aにクリッピングすることができる。
【0051】
このように本実施形態では、
図5に示す内視鏡6と
図3Aに示すクリップ装置5などを用いて、生体内留置クリップ1を管腔臓器4の内部まで搬送し、クリップ1を特定の位置に取り付ける。クリップ1を取り付けると、クリップ本体2の爪部23の外面に具備された蛍光体3が管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込んで押しつけられる。蛍光体3が押しつけられた部分では、粘膜4aの下層の血管網を圧縮することになり、血管から血液を排除することができる。その結果、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下において、励起光を管腔臓器4の外側(漿膜側)から内側(粘膜側)に向けて照射すると、粘膜下層の血管網の血液に含まれるヘモグロビンに吸収されにくくなり、爪部23の外面に具備された蛍光体3に励起光が到達し易くなる。
【0052】
爪部23の外面に具備された蛍光体3は、励起光の照射により赤色ないし近赤外光を発光する蛍光色素を含有している。 したがって、管腔臓器4の外側から照射された励起光は、ヘモグロビンでほとんど吸収されることなく、蛍光体3の蛍光色素に効率よく吸収され、それにより蛍光体3の蛍光色素から発せられる蛍光も、ヘモグロビンでほとんど吸収されることなく管腔臓器4の外側に出射する。よって、管腔臓器4の粘膜4aに取り付けた蛍光体3の発光を、管腔臓器4の外側から良好に視認することが可能となる。また、締め付けリング24が金属製であることから、生体内留置クリップ1の締め付けが緩くなることは少なく、クリップ1の取付安定性も向上する。なお、管腔臓器4外部からの蛍光体3の発光の視認は、励起光の波長と蛍光の波長に応じて、励起光の影響をうけずに蛍光を視認しやすい手段を選択して行えばよく、たとえば近赤外光カメラを備える腹腔鏡や医療用近赤外光カメラシステムなどの撮像装置による画像認識により行ってもよく、あるいは目視により行ってもよい。
【0053】
開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下において、管腔臓器4の外側から照射された励起光により蛍光体3が発光すれば、蛍光体3が発した光を、たとえば目視または撮像装置により撮像し、管腔臓器4の外側から、蛍光体3の位置を特定し、そこから腫瘍4bなどの病変部分の位置を特定することができる。そのため、通常のメスや高周波ナイフなどを用いて、必要最小限の範囲のみで、腫瘍4bに対応する管腔臓器4を外側から切除することができる。なお、腫瘍4bの切除と共に、クリップ1も体外に取り出すことができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、
図6A~
図6Cを参照して説明する。なお、
図1~
図5を参照して説明した第1実施形態からの変更点を中心として説明する。
【0055】
図6A~
図6Cに示すように、本実施形態の生体内留置クリップ1aでは、蛍光体3aの形状および構成を変更している以外は、第1実施形態の生体内留置クリップ1と同様である。すなわち、本実施形態では、クリップ本体2は、第1実施形態のクリップ本体2と同様であり、蛍光体3aのみが、第1実施形態の蛍光体3と異なり、蛍光体3aには、爪部23からアーム板部22の外側に突出している突出部30が一体的に形成してある。
【0056】
突出部30は、各蛍光体3aに設けられ、クリップ本体2の爪部23とアーム板部22との境界から、爪部23の外面を延長するようにアーム板部22の外側に向けてクリップ本体2から離れる方向に突出している。突出部30は、蛍光体3aと一体に形成され、たとえば蛍光色素を含む高分子材料組成物で構成してある。
【0057】
本実施形態でも、
図5に示す内視鏡6と
図3Aに示すクリップ装置5などを用いて、生体内留置クリップ1aを管腔臓器4の内部まで搬送し、クリップ1aを特定の位置に取り付ける。クリップ1aを取り付けると、クリップ本体2の爪部23の先端部が管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込んで、爪部23の外面に具備された蛍光体3aが粘膜4aに押しつけられる。蛍光体3aが押しつけられた部分では、粘膜4aの下層の血管網を圧縮することになり、血管から血液を排除することができる。その結果、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下において、励起光を管腔臓器4の外側(漿膜側)から内側(粘膜側)に向けて照射すると、粘膜下層の血管網の血液に含まれるヘモグロビンに吸収されにくくなり、爪部23の外面に具備された蛍光体3aには、励起光が到達し易くなる。特に本実施形態では、突出部30の存在により、蛍光体3aの面積が大きくなっており、蛍光面積が大きいので、蛍光による光を特に視認しやすい。その他は、上述した第1実施形態と同様である。
【0058】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、
図7を参照して説明する。なお、
図1~
図5を参照して説明した第1実施形態からの変更点を中心として説明する。
【0059】
図7に示すように、本実施形態の生体内留置クリップ1bでは、蛍光体3bの形状および構成を変更している以外は、第1実施形態の生体内留置クリップ1と同様である。すなわち、本実施形態では、クリップ本体2は、第1実施形態のクリップ本体2と同様であり、蛍光体3bのみが、第1実施形態の蛍光体3と異なり、蛍光体3bには、爪部23から爪部23の先端に向けて突出している爪状突出部32が一体的に形成してある。
【0060】
爪状突出部32は、各蛍光体3bに設けられ、クリップ本体2の爪部23の先端から、爪部23の外面に沿って爪部23から離れる方向に突出して、その先端は鋭利に形成されている。爪状突出部32は、蛍光体3bと一体に形成され、たとえば蛍光色素を含む高分子材料組成物で構成してある。
【0061】
本実施形態でも、
図5に示す内視鏡6と
図3Aに示すクリップ装置5などを用いて、生体内留置クリップ1bを管腔臓器4の内部まで搬送し、クリップ1bを特定の位置に取り付ける。クリップ1bを取り付けると、爪状突出部32と共にクリップ本体2の爪部23の先端部が管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込んで、爪部23の外面に具備された蛍光体3bが粘膜4aに押しつけられる。蛍光体3bが押しつけられた部分では、粘膜4aの下層の血管網を圧縮することになり、血管から血液を排除することができる。その結果、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下において、励起光を管腔臓器4の外側(漿膜側)から内側(粘膜側)に向けて照射すると、粘膜下層の血管網の血液に含まれるヘモグロビンに吸収されにくくなり、爪部23の外面に具備された蛍光体3bには、励起光が到達し易くなる。特に本実施形態では、爪状突出部32の存在により、蛍光体3bの面積が大きくなっており、蛍光面積が大きいので、蛍光による光を特に視認しやすい。その他は、上述した第1実施形態と同様である。
【0062】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について、
図8を参照して説明する。なお、
図1~
図5を参照して説明した第1実施形態からの変更点を中心として説明する。
【0063】
図8に示すように、本実施形態の生体内留置クリップ1cでは、蛍光体3cの形状および構成を変更している以外は、第1実施形態の生体内留置クリップ1と同様である。すなわち、本実施形態では、クリップ本体2は、第1実施形態のクリップ本体2と同様であり、蛍光体3cのみが、第1実施形態の蛍光体3と異なり、蛍光体3cには、爪部23の外面からアーム板部22の外面にまで連続して形成してある延長部34が一体的に形成してある。
【0064】
延長部34は、各蛍光体3aに形成され、爪部23の外面からアーム板部22における把持部22bの外面にまで連続して形成してあり、延長部34の内面の一部は、アーム板部22に形成してある貫通孔22cの内部に入り込んでいてもよい。貫通孔22cの内部に延長部34の一部が入り込むことで、蛍光体3cがクリップ本体2から脱落しにくくなり好ましい。延長部34は、蛍光体3cと一体に形成され、たとえば蛍光色素を含む高分子材料組成物で構成してある。なお、延長部34は、アーム板部22の内側にも形成してあってもよい。
【0065】
本実施形態でも、
図5に示す内視鏡6と
図3Aに示すクリップ装置5などを用いて、生体内留置クリップ1cを管腔臓器4の内部まで搬送し、クリップ1cを特定の位置に取り付ける。クリップ1cを取り付けると、延長部34と共にクリップ本体2の爪部23の先端部が管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込んで、爪部23の外面に具備された蛍光体3cが粘膜4aに押しつけられる。蛍光体3cが押しつけられた部分では、粘膜4aの下層の血管網を圧縮することになり、血管から血液を排除することができる。その結果、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下において、励起光を管腔臓器4の外側(漿膜側)から内側(粘膜側)に向けて照射すると、粘膜下層の血管網の血液に含まれるヘモグロビンに吸収されにくくなり、爪部23の外面に具備された蛍光体3cには、励起光が到達し易くなる。特に本実施形態では、延長部34の存在により、蛍光体3cの面積が大きくなっており、蛍光面積が大きいので、蛍光による光を特に視認しやすい。その他は、上述した第1実施形態と同様である。
【0066】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について、
図9~
図11を参照して説明する。なお、
図8を参照して説明した第4実施形態からの変更点を中心として説明する。
【0067】
図9に示すように、本実施形態の生体内留置クリップ1dは、蛍光体3d_1を有する。蛍光体3d_1は、先端突出部35_1を有するという点において、第4実施形態における蛍光体3cとは異なる。蛍光体3d_1は、一対のアーム板部22,22のうち、一方のアーム板部22の先端部に形成された爪部23に具備されている。なお、本実施形態では、生体内留置クリップ1dには、蛍光体3d_1に加えて、蛍光体3d_2,3d_3が具備されている。
【0068】
蛍光体3d_3は、扁平板状の蛍光体からなる。蛍光体3d_3は、一対のアーム板部22(把持部22b)の各々の内面に取り付けられており、把持部22bは蛍光体3d_3と蛍光体3d_1(3d_2)とで挟み込まれている。
【0069】
蛍光体3d_2は、一対のアーム板部22,22のうち、他方のアーム板部22に具備されている。他方のアーム板部22に具備された蛍光体3d_2には、先端突出部35_2が一体的に形成されている。先端突出部35_2は、突起形状を有し、アーム板部22(把持部22b)の先端部からアーム板部22の先端外方に突出している。
【0070】
先端突出部35_2は、扁平板状の蛍光体からなり、その先端に向かうにしたがって、幅方向および厚み方向に先細となっている。そのため、先端突出部35_2は突き刺し性に優れており、クリップ1dを管腔臓器4の内壁に取り付けたときに、先端突出部35_2を管腔臓器4の内壁の粘膜4aに容易に食い込ませることが可能となっている。
【0071】
先端突出部35_2の肉厚は、上記第4実施形態で示した蛍光体3cの肉厚と同程度、またはそれよりも厚くなっている。そのため、先端突出部35_2には十分な強度が付与され、クリップ1dを管腔臓器4の内壁に取り付けたときに、先端突出部35_2を管腔臓器4の内壁の粘膜4aに、折れ曲がることなく食い込ませることが可能となっている。
【0072】
先端突出部35_2は、アーム板部22の長手方向に沿って突出しており、アーム板部22の先端部からの突出長L1と、蛍光体3d_2の全長Lとの比L1/Lは、好ましくは0.15~0.50である。この点は、先端突出部35_1についても同様であり、先端突出部35_1および先端突出部35_2の各々の突出長は略等しくなっている。
【0073】
図10に示すように、蛍光体3d_1は、一対のアーム板部22,22を閉脚させたときに、外側に配置される方の爪部23に具備されている。この爪部23に具備された蛍光体3d_1には、先端突出部35_1が一体的に形成されている。先端突出部35_1は、突起形状を有し、爪部23の外面から(あるいは、アーム板部22(把持部22b)の先端部から)、アーム板部22の先端外方に突出している。
【0074】
先端突出部35_1の形状は爪部23の外面の形状に対応しており、先端突出部35_1の一部(側方部36)は爪部23の延在方向に突出している。爪部23の大部分は、先端突出部35_2の側方部36の一端で覆われている。
【0075】
爪部23の延在方向に沿う側方部36の長さL2は、爪部23の延在方向に沿う長さと同程度であるか、それよりも短い。そのため、一対のアーム板部22,22を閉脚させたときに、先端突出部35_1が先端突出部35_2に接触することがなく、先端突出部35_1,35_2によってクリップ1dによるクリッピングが阻害されることがない。
【0076】
また、上記長さL2は、蛍光体3d_1の先端に向かうにしたがって短くなっており、先端突出部35_1は、全体として、その先端に向かうにしたがって先細となっている。そのため、先端突出部35_1は突き刺し性に優れており、クリップ1dを管腔臓器4の内壁に取り付けたときに、先端突出部35_1を管腔臓器4の内壁の粘膜4aに容易に食い込ませることが可能となっている。
【0077】
先端突出部35_1には、その先端の中間部分に凹陥する切欠部35aが形成されている。ただし、爪部23に切欠部23a(
図9参照)が形成されていない場合は、切欠部35aを省略してもよい。
【0078】
先端突出部35_1は、その形状(断面形状)が略C字形状となるように、幅方向に沿って湾曲(屈曲)している。また、先端突出部35_1は、先端突出部35_2よりも体積(あるいは、面積)の大きな蛍光体で構成されている。そのため、先端突出部35_1の蛍光強度は、先端突出部35_2の蛍光強度よりも大きくなっている。
【0079】
蛍光体3d_1,3d_2の外面は、クリップ1dの全体をクリップ装置5のアウターシース54の遠位端部の内側に収容しやすくする観点から(
図4B参照)、蛍光体3d_1,3d_2の幅方向(アーム板部22の幅方向と同様)に沿って湾曲している。
【0080】
本実施形態でも、
図5に示す内視鏡6と
図3Aに示すクリップ装置5などを用いて、生体内留置クリップ1dを管腔臓器4の内部まで搬送し、クリップ1dを特定の位置に取り付ける。クリップ1dを取り付けると、クリップ本体2の爪部23の先端部と共に先端突出部35_1,35_2が管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込んで、先端突出部35_1,35_2(特に、先端突出部35_1,35_2の最先端部)が粘膜4aに押しつけられる。先端突出部35_1,35_2が押しつけられた部分では、粘膜4aの下層の血管網を圧縮することになり、血管から血液を排除することができる。その結果、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下において、励起光を管腔臓器4の外側(漿膜側)から内側(粘膜側)に向けて照射すると、粘膜下層の血管網の血液に含まれるヘモグロビンに吸収されにくくなり、蛍光体3d_1,3d_2の先端突出部35_1,35_2やアーム板部22の外面に設けられた蛍光体3d_1,3d_2には、励起光が到達し易くなる。特に本実施形態では、先端突出部35_1の存在により、蛍光体3d_1の面積が大きくなっており、蛍光面積が大きいので、蛍光による光を特に視認しやすい。その他は、上述した第4実施形態と同様である。
【0081】
また、本実施形態では、一対のアーム板部22,22の各々に蛍光体3d_1,3d_2が具備されている。そのため、
図11に示すように、蛍光体3d_1および蛍光体3d_2を管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込ませたときに、クリップ1dが一対のアーム板部22,22の一方側に倒れることを防止し、クリップ1dが粘膜4aに対して略垂直に立設した状態を維持することができる。
【0082】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について、
図12~
図14を参照して説明する。なお、
図8を参照して説明した第4実施形態からの変更点を中心として説明する。
【0083】
図12に示すように、本実施形態の生体内留置クリップ1eは、クリップ本体2’と、蛍光体3eとを有する。蛍光体3eは、先端突出部35eを有するという点において、第4実施形態における蛍光体3cとは異なる。
図14に示すように、クリップ本体2’は、アーム板部22に加えて、アーム板部22’を有する。
【0084】
アーム板部22’は、把持部22b’を有するという点において、アーム板部22bとは異なる。把持部22b’には、その先端の中間部分に凹陥する切欠部25が形成されており、把持部22b’の先端部には爪部23が具備されてはいない。
【0085】
本実施形態では、蛍光体3eを射出成型等によって形成するときに、インサート成形等により、アーム板部22’の把持部22b’が、蛍光体3eに一体化される。
図12に示すように、蛍光体3eは先端突出部35eを有しており、先端突出部35eは、爪状部37を有するという点において、
図9に示す先端突出部35_2とは異なる。
【0086】
先端突出部35eは、アーム板部22’の先端部からアーム板部22’の長手方向に沿って突出しており、その突出長L3と、蛍光体3eの全長Lとの比L3/Lは、好ましくは0.15~0.50である。
【0087】
爪状部37は、先端突出部35eの一部で構成されており、先端突出部35eの先端部に一体的に形成されている。
図13に示すように、爪状部37は、一対のアーム板部22,22’を閉脚させたときに、一方のアーム板部22に形成された爪部23の外側に配置される。なお、爪状部37を先端突出部35eの全部で構成してもよい。
【0088】
爪状部37は、先端突出部35eの延在方向に対して所定の角度で屈曲しており、内側(すなわち、一対のアーム板部22,22’の閉じ方向)に向かって延びている。爪状部37の肉厚は、上記第4実施形態で示した蛍光体3cの肉厚と同程度、またはそれよりも厚くなっている。爪状部37は、その先端の中間部分に凹陥する切欠部37aを有する。
【0089】
爪状部37は、アーム板部22の先端部に形成された爪部23に対応する形状からなり、爪部23と同様の役割を果たす。すなわち、本実施形態では、一方のアーム板部22’において、爪部23を爪状部37で代用している。これにより、一対のアーム板部22,22’を閉脚させたときに、アーム板部22の先端部に形成された爪部23と、アーム板部22’に具備された蛍光体3eの爪状部37とが係合し、爪部23と爪状部37とで、管腔臓器4の内壁の粘膜4aを掴むことが可能となっている。
【0090】
図12に示すように、本実施形態では、アーム板部22’(把持部22b’)の内面にも蛍光体3eの一部が具備されており、把持部22b’の外面と内面とが蛍光体3eで覆われている。把持部22b’の内面に形成された蛍光体3eの一部は、先端突出部35eの下面に連結されている。
【0091】
図14に示す把持部22b’の切欠部25の内部には、
図12に示す蛍光体3eが入り込む。そのため、蛍光体3eは把持部22b’に強固に固定され、蛍光体3eが把持部22b’から脱落する(滑り落ちる)ことを防止することが可能となっている。
【0092】
本実施形態でも、
図5に示す内視鏡6と
図3Aに示すクリップ装置5などを用いて、生体内留置クリップ1eを管腔臓器4の内部まで搬送し、クリップ1eを特定の位置に取り付ける。クリップ1eを取り付けると、クリップ本体2’の爪部23の先端部と蛍光体3eの爪状部37とが管腔臓器4の内壁の粘膜4aに食い込んで、先端突出部35e(特に、先端突出部35eの爪状部37)が粘膜4aに押しつけられる。先端突出部35eが押しつけられた部分では、粘膜4aの下層の血管網を圧縮することになり、血管から血液を排除することができる。その結果、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下において、励起光を管腔臓器4の外側(漿膜側)から内側(粘膜側)に向けて照射すると、粘膜下層の血管網の血液に含まれるヘモグロビンに吸収されにくくなり、蛍光体3eの先端突出部35eには、励起光が到達し易くなる。特に本実施形態では、爪状部37の存在により、蛍光体3eの面積が大きくなっており、蛍光面積が大きいので、蛍光による光を特に視認しやすい。その他は、上述した第4実施形態と同様である。
【0093】
また、本実施形態では、蛍光体3eを射出成型等で形成することにより、先端突出部35eの一部で爪状部37を構成したり、把持部22b’に滑り止め効果を有する形状(切欠部25)を導入したりする等、蛍光体3eおよびクリップ本体2’(特に、把持部22b’)の設計の自由度を高めることができる。
【0094】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、種々に改変することができる。たとえば上述した実施形態に開示された各要素は、種々に改変して組み合わせることができる。また、上述した実施形態の生体内留置クリップが用いられる生体組織としては、特に限定されず、消化管、気管、膀胱、胆管、膵管、尿管、腎菅、肝臓、腎臓、肺などの管腔臓器が例示される。また、本発明の生体内留置クリップは、管腔臓器の一部の切除手術以外の用途に用いることも可能である。
【0095】
上記第6実施形態では、蛍光体3eが、インサート成形により、アーム板部22’の把持部22b’に一体化されていたが、蛍光体3eを接着等の手段により把持部22b’に固定してもよい。
【0096】
上記第6実施形態において、アーム板部22に形成されている貫通孔22cに、蛍光体を係合してもよい。この場合、貫通孔22cの全部が蛍光体で覆われていなくてもよく、例えば貫通孔22cの周縁付近のみが蛍光体で覆われていてもよい。
【0097】
上記第6実施形態において、アーム板部22’の把持部22b’の形状は特に限定されるものではなく、適宜変更してもよい。例えば、把持部22b’の先端側に向かうにしたがって幅狭となるような切欠部25を把持部22b’に形成してもよい。
【符号の説明】
【0098】
1,1a,1b,1c,1d,1e…生体内留置クリップ
2,2’…クリップ本体
21…連結板部
21a…ストッパ用凸部
22,22’…アーム板部
22a…基端部
22b,22b’…把持部
22c…貫通孔
23…爪部
23a…切欠部
24…締め付けリング
25…切欠部
3,3a,3b,3c,3d_1,3d_2,3d_3,3e…蛍光体
30…突出部
32…爪状突出部
34…延長部
35_1,35_2,35e…先端突出部
35a…切欠部
36…側方部
37…爪状部
37a…切欠部
4…管腔臓器
4a…粘膜
4b…腫瘍
5…クリップ装置
51…連結フック
51a…アーム部
52…インナーシース
53…駆動ワイヤ
54…アウターシース
55…補強コイル
56…第1スライダ部
57…ベース部
58…第2スライダ部
6…内視鏡