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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087138
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】磁性部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20230616BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20230616BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20230616BHJP
   B23K 26/361 20140101ALI20230616BHJP
   B23K 26/354 20140101ALI20230616BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230616BHJP
   C22C 38/02 20060101ALN20230616BHJP
【FI】
H02K15/02 K
C21D8/12 D
H02K1/22 A
B23K26/361
B23K26/354
C22C38/00 303U
C22C38/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201323
(22)【出願日】2021-12-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「部素材の代替・使用量削減に資する技術開発・実証事業」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 典彦
【テーマコード(参考)】
4E168
4K033
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
4E168AC01
4E168AD03
4E168AE01
4E168CB04
4E168DA28
4E168EA15
4E168JA02
4K033AA01
4K033AA02
4K033PA05
4K033PA07
4K033PA08
5H601AA26
5H601CC01
5H601CC02
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601GA02
5H601GA24
5H601GA34
5H601GB12
5H601GB33
5H601KK29
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB02
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP06
5H615SS00
5H615TT13
(57)【要約】
【課題】電磁鋼板の一部の非磁性化と電磁鋼板の有効活用による歩留り向上とを両立できる磁性部材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の磁性部材の製造方法は、電磁鋼板の所定領域を非磁性化する改質工程を備える。改質工程は、高エネルギービームを特定軌跡(t)に沿って走査させて電磁鋼板(M)へ照射する特定照射工程を含む。特定軌跡は、電磁鋼板上に隣接して設定される除去予定域(101)と残存予定域(111)とを通過し、始点(p0)および終点(p1)が同じ除去予定域内にある。本発明によれば、例えば、改質工程後の電磁鋼板一枚から、ロータコア片(1)とステータコア片(2)の両方を打抜き等により分取できる。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板の所定領域を非磁性化する改質工程を備え、
該改質工程は、高エネルギービームを特定軌跡に沿って走査させて該電磁鋼板へ照射する特定照射工程を含み、
該特定軌跡は、該電磁鋼板上に隣接して設定される除去予定域と残存予定域とを通過し、始点および終点が同じ該除去予定域内にある磁性部材の製造方法。
【請求項2】
前記特定照射工程は、前記残存予定域の少なくとも一部を溶融させる工程である請求項1に記載の磁性部材の製造方法。
【請求項3】
前記電磁鋼板は、前記改質工程後の一枚からロータコア片とステータコア片の分取が予定されている請求項1または2に記載の磁性部材の製造方法。
【請求項4】
前記残存予定域は、前記ステータコア片に近接している前記ロータコア片の周端域である請求項3に記載の磁性部材の製造方法。
【請求項5】
前記改質工程は、前記周端域の少なくとも一部に、略径方向へ貫く非磁性部を形成する請求項4に記載の磁性部材の製造方法。
【請求項6】
前記除去予定域は、前記ロータコア片のスロット域である請求項3~5のいずれかに記載の磁性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板からなる磁性部材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
交番磁界中で使用される磁性部材は、磁気回路の形成、渦電流損失(鉄損)の抑制、強度の確保等を図るため、所定形状に打ち抜いた電磁鋼板の積層体からなることが多い。また、その積層体の一部は、高性能化や低損失化(効率化)等の観点から、非磁性化されることもある。このような非磁性化に関連する記載が、例えば、下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-304670
【特許文献2】特開2011-6741
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、電磁鋼板の積層体からなるロータコアのブリッジ部を、非磁性塗料の拡散浸透処理により非磁性化することを提案している([0018]、[0019]、[0022]等)。また特許文献1は、そのロータコアのブリッジ部を、レーザ溶接後の歪み導入により非磁性化することも提案している([0025]等)。
【0005】
特許文献2は、打抜き前または打抜き後の電磁鋼板(積層前)に塗布した非磁性化用インクへ電子ビーム照射し、電磁鋼板中のFeと非磁性化用インク中のCr-Niとを溶融合金化(オーステナイト化)することにより、局所的な非磁性領域を形成することを提案している([0029])。
【0006】
もっとも、いずれの特許文献にも、レーザビームや電子ビームの照射経路(走査軌跡)について具体的な記載や示唆はない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、新たな磁性部材の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究した結果、電磁鋼板を非磁性化するために照射する高エネルギービームの新たな経路を着想して具現化した。これを発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《磁性部材の製造方法》
(1)本発明は、電磁鋼板の所定領域を非磁性化する改質工程を備え、該改質工程は、高エネルギービームを特定軌跡に沿って走査させて該電磁鋼板へ照射する特定照射工程を含み、該特定軌跡は、該電磁鋼板上に隣接して設定される除去予定域と残存予定域とを通過し、始点および終点が同じ該除去予定域内にある磁性部材の製造方法である。
【0010】
(2)本発明によれば、電磁鋼板の非磁性化に際して、電磁鋼板を犠牲(無駄)にする領域を抑制して、電磁鋼板を有効活用できる。換言すると、電磁鋼板を分離(打抜き等)する形状自由度や電磁鋼板の歩留り等を向上させつつ、電磁鋼板の所定領域を非磁性化できる。
【0011】
この機序は次のように考えられる。高エネルギービーム(単に「ビーム」ともいう。)の照射により電磁鋼板の所定領域(一部さらにいえば局部)を非磁性化する場合、ビームの照射開始位置(始点)付近は加熱不足になり易い。例えば、ビーム照射により電磁鋼板を溶融させる場合なら、その始点付近に未溶解部ができ易い。一方、ビームの照射終了位置(終点)付近には、熱収縮が生じ易い。例えば、ビーム照射により電磁鋼板を溶融させる場合なら、その終点付近に引け巣が生じ易く、さらには、引け巣付近にクラックが生じ易い。一方、そのような欠陥部は、通常、ビーム照射の始点と終点の中間(始点と終点を結ぶ途中経路)には生じ難い。
【0012】
本発明では、電磁鋼板へ照射するビームの軌跡(経路)の始点と終点を、非磁性化する残存予定域(またはその一部)に隣接している一つの除去予定域に集約している。このため、ビーム照射により生じ得る欠陥部も一つの除去予定域に集約され、電磁鋼板上における分散(点在)が抑制される。その結果、欠陥部の除去に必要な電磁鋼板の領域を縮小でき、一枚の電磁鋼板から分取できるピースの形状自由度の拡大や電磁鋼板の歩留り向上が図られる。
【0013】
《磁性部材》
本発明は、上述した製造方法により得られる磁性部材としても把握される。なお、本明細書でいう「磁性部材」は、中間品でも最終品でもよい。中間品は、例えば、電磁鋼板(素材、原材料)にビーム照射して一部が非磁性化された中間材、さらに工程(例えば、分離工程(打抜き等)、整形工程(平坦化、トリミング等)、熱処理、絶縁処理など)が施された仕掛品である。最終品は、例えば、改質工程後に分離された電磁鋼片を積層した積層体(例えば、コア)、その積層体に別な工程・処理を施したり他部材(例えば、磁石やコイル等)を付加したりした電磁部材(例えば、界磁子や電機子)である。
【0014】
《その他》
(1)本明細書でいう「改質」または「非磁性化」は、改質前の電磁鋼板(「基材」ともいう。)に対して磁化され難くすること(磁束を通り難くすること)を意味する。例えば、(初)透磁率の低下、飽和磁束密度の低下、磁気抵抗の増大等が、改質または非磁性化に相当する。電磁鋼板の母材である強磁性体は、改質または非磁性化により、通常、組成や組織が変化して、反磁性体、常磁性体または反強磁性体のいずれかとなる。代表的な非磁性化は、フェライト相やマルテンサイト相のオーステナイト化である。
【0015】
(2)本明細書でいうビームの「軌跡」は、ビーム中心の経路に基づいて定まる。特に断らない限り、ミクロ的な経路ではなく、マクロ的な経路をビームの軌跡とすれば足る。また、軌跡に係る「始点」や「終点」は、ビーム径のみならず、ビーム照射に伴う熱影響域等も考慮して、除去予定域内に設定されるとよい。
【0016】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~ymm」はxmm~ymmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】電磁鋼板の分割例を示す想定図である。
図1B】その一部の拡大図である。
図2A】改質工程の実施例を示す模式図である。
図2B】その実施例に基づく実験例を示す写真である。
図3A】改質工程の第1比較例を示す模式図である。
図3B】その第1比較例に基づく実験例を示す写真である。
図4A】改質工程の第2比較例を示す模式図である。
図4B】その第2比較例に基づく実験例を示す写真である。
図5A】レーザの特定軌跡の一例を示す模式図である。
図5B】レーザの特定軌跡の別例を示す模式図である。
図6A】ロータコアのブリッジ域にもうける非磁性部を例示する模式図である。
図6B】そのブリッジ域へ照射するレーザの走査軌跡を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書中に記載した事項から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を上述した本発明の構成に付加し得る。方法に関する構成要素も物(磁性部材等)に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0019】
《電磁鋼板》
電磁鋼板は、具体的な磁気特性(透磁率、飽和磁化等)、組成、組織、厚さ、形状等を問わない。代表的な電磁鋼板は、例えば、bcc結晶構造(フェライト相)で、ケイ素鋼(例えば、Si:1~5質量%を含む鉄合金)からなる。その厚さは、例えば、0.1~1.0mmさらには0.2~0.7mmである。薄過ぎると、積層数の増加(コスト増加)、非磁性部の強度低下、ビームの照射条件の狭小化等を招く。厚過ぎると、鉄損の増加、改質工程による歪みの増加等を招く。
【0020】
電磁鋼板は、方向性電磁鋼板でも無方向性電磁鋼板でもよい。電動機(発電機を含む/単に「モータ」という。)には、例えば、無方向性電磁鋼板が用いられる。電磁鋼板は、通常、少なくとも一方の表面が絶縁被覆されている。但し、改質工程後に絶縁被覆(絶縁膜形成)がなされる場合、改質工程前の絶縁被覆は必ずしも必須ではない。
【0021】
《改質工程》
(1)改質工程は、ビーム照射により電磁鋼板の所定領域を非磁性化する。非磁性化は、例えば、bcc構造(α相)からfcc構造(γ相)へ変化するオーステナイト化や変態、電磁鋼板の母材とγ相安定化元素との合金化など、所定領域の組織や組成等が変化して生じる。
【0022】
改質工程の代表例として、電磁鋼板上に付与した改質材(剤)と電磁鋼板(ケイ素鋼等)とをビーム照射により加熱溶融(混合・撹拌)した後、冷却凝固させる合金化がある。また、溶融凝固に限らず、アブレーションによる組成変化または組織変化により改質工程がなされてもよい。改質材の付与は、ビーム照射域の雰囲気制御によりなされてもよい。
【0023】
(2)特定照射工程は、ビームを特定軌跡に沿って走査させてなされる。特定軌跡は、残存予定域の少なくとも一部(改質予定部)を通過すると共に、始点および終点がその残存予定域に隣接している除去予定域内にある限り、具体的な経路を問わない。
【0024】
始点と終点は、ビームが連続して照射される一連の範囲(一筆書きの範囲)内で定まる。非磁性化される一領域に対して、複数の特定軌跡(複数組の始点と終点)が設定されてもよい。その際、始点と終点の各組は、同じ除去予定域内にあっても、異なる除去予定域内にあってもよい。
【0025】
(3)高エネルギービームは、例えば、エネルギー密度(フルエンス)が大きいレーザや電子ビームである。レーザは、種類(増幅媒質、励起源、光共振器等)、出力、エネルギー密度、照射エリア、オーバーラップ率等が適宜、選択・調整される。レーザは、連続波レーザでもパルスレーザでもよい。レーザの一例として、増幅媒質に光ファイバー(例えば、コアに希土類元素をドープしたダブルクラッドファイバー)を用いたファイバーレーザ(固体レーザの一種)がある。ファイバーレーザは、例えば、半導体レーザ(LD)を励起源として、入射側の光反射ミラーと出力側の低反射ミラーを光共振器として備える。
【0026】
(4)電磁鋼板上に付加される改質材には、例えば、粉末、インク(ペースト、スラリー)、シート(フィルム)等がある。粉末は、例えば、非磁性化する電磁鋼板の所定領域上に擦切り等により付加される。擦切りは、所定領域に対応して電磁鋼板上に形成した窪み(凹部)や、電磁鋼板上に載置した型枠等を利用してなされる。インク(スラリー)は、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等により所定領域上に付加される。シート(フィルム)は、例えば、予め所望形状に成形(型抜き等)された状態で、所定領域上に貼着される。
【0027】
《他工程》
(1)ビームの照射痕(適宜「ビード」という。)が、電磁鋼板の基面(非改質表面)から盛り上がっているとき、それを電磁鋼板の基面以下(平坦状態でも、さらに窪んだ状態でもよい。)にする整形工程を行うとよい。整形工程は、改質工程の直後になされてもよいし、後述する積層工程の際に併せてなされてもよい。整形工程は、ビーム照射による電磁鋼板の熱歪み等の除去を兼ねてもよい。
【0028】
(2)ビームが照射される表面付近が非絶縁状態となるとき、絶縁処理工程がなされてもよい。絶縁処理工程は、例えば、絶縁樹脂塗布、化成処理(例えばリン酸塩処理)等によりなされる。また絶縁処理工程は、積層時の対面間に絶縁空間を形成する加工工程でもよい。加工工程は、上述した整形工程を兼ねてもよい。
【0029】
(3)改質工程後の電磁鋼板の分割(分断)により、所望形状の電磁鋼片が得られる(分離工程)。分離工程は、例えば、プレス加工(打抜き加工)、レーザ加工等によりなされる。分離工程と上述した整形工程および/または絶縁処理工程との前後関係は問わない。分離工程後に、さらにトリミングや仕上処理等がなされてもよい。分離工程の際に、レーザ照射の始点や終点を含む除去予定域が併せて除かれるとよい。
【0030】
(4)一部が非磁性化された電磁鋼片は、積み重ねられて積層体となる(積層工程)。複数の電磁鋼片の固定は、プレス加工等によるかしめ、溶接等によりなされる。積層体は、さらに、寸法精度を確保する仕上加工等がなされてもよい。
【0031】
《用途例》
磁性部材として、例えば、電動機(発電機を含む。)のロータコア片やステータコア片、またはそれらの積層体(ロータコアやステータコア)がある。
【0032】
電磁鋼板一枚からロータコア片とステータコア片を分取する場合、例えば、ロータコア片のスロット域が除去予定域となり、ステータコア片に近接しているロータコア片の周端域が残存予定域となる。なお、インナーロータ片なら外周端域が、アウターロータ片なら内周端域が残存予定域となる。
【0033】
周端域に形成される非磁性部は、磁力線の閉ループ(磁力線の短絡)を抑止できる限り、その形態(形状、幅等)や配置等を問わない。例えば、非磁性部は、スロット(磁石孔)の枠辺となるブリッジ域(周端域)を、少なくとも一箇所で略径方向に貫いていればよい。
【実施例0034】
モータのコア(積層体)の製造に用いるロータコア片とステータコア片を、1枚の電磁鋼板から分取する場合を例示しつつ、本発明について具体的に説明する。
【0035】
《概要》
図1Aに示すように、1枚の電磁鋼板Mから、ロータコア片1とステータコア片2を打抜く場合を考える。ロータコア片1とステータコア片2は、磁石埋込型同期機(「IPMモータ」という。)のロータコア(積層体/図略)とステータコア(積層体/図略)の製造に用いられる。なお、説明の便宜上、適宜、電磁鋼板Mの打抜き前の各部(二点鎖線で示す仮想部分)と電磁鋼板Mの打抜き後の各部(実線で示す実部分)は、各図において同符号を付した。
【0036】
図1AのA部を拡大した図1Bに示すように、ロータコア片1は8磁極用であり、その1磁極あたり、ボンド磁石を一体成形する略U文字状のスロット101、102と、それらの外周端側にブリッジ111、112との形成が予定されている。打抜き前のスロット101、102(スロット域)と軸穴10は除去予定域、ブリッジ111、112(ブリッジ域)は残存予定域に相当する。
【0037】
ステータコア片2は48極用であり、その1極あたり、櫛歯状のティース211、212と、それらの両側にあるスロット201、202、203との形成が予定されている。打抜き前のスロット201、202、203(スロット域)は除去予定域、ティース211、212(ティース域)とヨーク21は残存予定域に相当する。なお、便宜上、ロータコア片1やステータコア片2の各部に関する説明は、代表的な一部のみを適宜抽出して行い、周方向に繰返し現れる他部についての説明は省略した。
【0038】
ちなみに、1枚の電磁鋼板Mから打抜くロータコア片1とステータコア片2との間にできる環状の隙間cが、IPMモータのエアギャップに反映される。エアギャップはモータ性能に影響するため、例えば、cは0.2~1mmさらには0.3~0.7mm程度とされるとよい。
【0039】
《改質工程》
(1)打抜き前の電磁鋼板Mに対して、ブリッジ111、112となる予定域の一部を非磁性化する改質工程の概要を図2Aに示した。先ず、その予定域およびその周辺に改質材層311、312を設ける(工程I)。改質材層311、312は、例えば、Cr-Ni合金粉からなり、擦切りや塗布により形成される。
【0040】
次に、改質材層311、312上からレーザ照射する。レーザ照射は、スロット101、102となる予定域に始点p0と終点p1があり、ブリッジ111、112となる予定域を通過する軌跡t(特定軌跡)に沿って、レーザのビーム中心を走査させる(工程II/特定照射工程)。これにより、レーザ照射域には、電磁鋼板Mと改質材層311、312が溶融混合および冷却凝固してできたビードb(レーザ照射痕/非磁性部)が形成される。
【0041】
ここで、レーザ照射の軌跡tは、ブリッジ111、112を略半径方向に貫くビードbが少なくとも一つできるように設定した。また、ブリッジ111、112にできるビードbが、打抜き時の隙間cを越えてステータコア片2側に及ばないように、その軌跡tを設定した。なお、レーザ照射は、電磁鋼板Mの両面側(表面側と裏面側)から行ってもよい。もっとも、電磁鋼板Mの一面側からレーザ照射を行うだけでも、電磁鋼板Mの一面側から他面側に到るビード(厚さ方向に貫通したビード)が形成され得る。
【0042】
その後、余分な改質材層311、312を除去した電磁鋼板Mを、所定形状の金型で打抜き加工する(工程III)。これにより、ブリッジ111、112の一部に非磁性部121、122を有するロータコア片1が、ステータコア片2と共に得られる。打抜き加工時、レーザ照射の始点p0および終点p1にできた欠陥部(未溶解部、引け巣等)は、スロット101、102の形成と共に除去される。
【0043】
(2)上述した軌跡tに沿うレーザ照射を、改質材を付加した電磁鋼板へ行った実験例を図2Bに示した。電磁鋼板には、日本製鉄株式会社製50HXT780T(厚さ:0.5mm)を用いた。改質材には、Cr-50質量%Ni合金粉(日本ウェルデング・ロッド株式会社製ウェルパウダー)を用いた。電磁鋼板への改質材の付加は、電磁鋼鈑に載置した薄板(厚さ0.4mm)上で、粉末を擦切って行った。レーザ照射は、シングルタイプのファイバーレーザ(レーザ発信機:株式会社IPG製YLS-2000-SM、ファイバーコア径:24μm、光学系:株式会社安川電機製3Dガルバノスキャナ、集光径:36μm)を用いて、340W、11mm/s、振幅幅0.6mm、Arフロー条件下で行った。
【0044】
なお、図2Bに示した軌跡tは、便宜上、略U字状の経路となっているが、実際には約4mmの略直線的な往復状の経路とした。また、図2Bに併せて示したスケールの一目盛(最小目盛)は0.5mmである。
【0045】
図2Bからわかるように、レーザ照射の始点p0付近には未溶解部ができ、終点p1付近には引け巣ができた。引け巣が生じる位置をより具体的にいうと、終点p1より少し手前側(図2Bの上側)であった。
【0046】
始点p0と終点p1の中間経路にできたビード(非磁性部)は良好であった。この実験例から、例えば、ビードの欠陥部(未溶解部、引け巣)をスロット101の形成時に除去しつつ、良好なビード部分をブリッジ111の非磁性部121として残存させ得ることが確認された。また、ビードの端部を隙間c内に収めてステータコア片2側へ越境させないようにできることも確認された。
【0047】
《比較例》
(1)第1比較例として、図3Aに示す軌跡tに沿ってレーザ照射を照射する場合を示した。その実験例を図3Bに示した。図3Bに示した軌跡tは、約10mmの略一直線状の経路とした。便宜上、既述した部材や部位には同符号を付し、それらの詳細な説明は省略した(以下同様)。また、実験に用いた電磁鋼板やレーザ照射条件等も、図2Bに示した実験例に関して既述した通りである(以下同様)。
【0048】
図3Aに示す軌跡tは、スロット101、102の予定域に始点p0があり、ブリッジ111、112の予定域を通過して、その外周側に終点p1がある。この場合、終点p1の少し手前にできる欠陥部(引け巣)は、隙間c内に収まらず、ステータコア片2となり得る領域にまで及ぶ。このような欠陥部の除去を考慮すると、1枚の電磁鋼板Mから、ロータコア片1とステータコア片2を同時に分取できないことがわかる。
【0049】
(2)第2比較例として、図4Aに示す軌跡tに沿ってレーザ照射を照射する場合を示した。その実験例を図4Bに示した。本比較例では、電磁鋼板Mから先に打抜いたロータコア片1にレーザ照射を行い、ブリッジ111、112の改質(非磁性化)を行った。レーザ照射の軌跡tは、実施例(図2A参照)と同様にした。
【0050】
本比較例の場合、レーザ照射の始点p0および終点p1に形成される欠陥部(未溶解部、引け巣等)は、スロット101、102の形成により除去される。しかし、ロータコア片1の外周端側にある狭幅なブリッジ111、112には、レーザ照射に伴う引け巣等により欠損が生じた。
【0051】
《軌跡》
(1)所定領域を非磁性化でき、改質工程後の電磁鋼板から所望の電磁鋼片を歩留りよく分取できる限り、ビームを走査させる軌跡は種々あり得る。例えば、図2Aに示した略U字状の軌跡tを、図5Aに示す略升状(略コ字状)の軌跡t1としてもよいし、図5Bに示す略線分状(往復状)の軌跡t2としてもよい。
【0052】
なお、本実施例や本明細書でいう軌跡は、特に断らない限り、ビーム中心が電磁鋼板上に描く概観的な主経路である。詳細に観察したとき、ビーム中心は、例えば、主経路に対して交差したり揺動したりする従経路を辿ってもよい。具体例として、ミクロ的に観ればジグザグした従経路tsを辿りつつ、マクロ的に観れば直線状の主経路tmを辿る軌跡がある(図6B参照)。
【0053】
(2)図6Aに示すように、ロータコア片1のスロット101は、例えば、左右に2分割されたスロット1011、1012からなる。このとき、スロット1011、1012の外周端域にあるブリッジ1111、1112には、既述した改質工程により、非磁性部1211、1212が形成される。
【0054】
ところで、スロット1011とスロット1012の間(非周端域)にできるブリッジ1113にも非磁性部1213が形成されるとよい。非磁性部1213は、図6Bに示す直線的な軌跡(主経路tm)に沿ってレーザ照射されて形成されてもよい。その軌跡には、ミクロ的にジグザグな従経路tsが含まれてもよい。
【0055】
勿論、非磁性部1213を非磁性部1211、1212と同様に形成してもよい(図2A図2B参照)。つまり、スロット1011またはスロット1012の一方(除去予定域)に始点p0および終点p1がある軌跡に沿ってレーザを走査させて(特定照射工程)、非磁性部1213を形成してもよい。
【0056】
さらに、非磁性部1213を複数の特定軌跡に沿って形成してもよい。例えば、スロット1011(除去予定域)に始点p0および終点p1がある第1軌跡と、スロット1012(除去予定域)に始点p0および終点p1がある第2軌跡とに沿ってレーザを走査させて(特定照射工程)、非磁性部1213を形成してもよい。この点は、非磁性部121(1211、1212)についても同様である。例えば、スロット101(除去予定域)に始点p0および終点p1がある第1軌跡と、ステータコア片2側のスロット202(除去予定域/図1B参照)に始点p0および終点p1がある第2軌跡とに沿ってレーザを走査させて(特定照射工程)、非磁性部121を形成してもよい。
【符号の説明】
【0057】
t 軌跡
p0 始点
p1 終点
M 電磁鋼板
1 ロータコア片
2 ステータコア片
101 スロット
111 ブリッジ
121 非磁性部
311 改質材層
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B