(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087565
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】量子ドット発光素子及び表示装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/15 20230101AFI20230616BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20230616BHJP
H10K 59/00 20230101ALI20230616BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20230616BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20230616BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
H05B33/22 D
H05B33/14 Z
H01L27/32
H05B33/22 B
G02B5/20
G09F9/30 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202023
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】都築 俊満
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有希子
(72)【発明者】
【氏名】本村 玄一
【テーマコード(参考)】
2H148
3K107
5C094
【Fターム(参考)】
2H148AA19
3K107AA05
3K107BB01
3K107BB02
3K107BB03
3K107BB04
3K107BB06
3K107CC07
3K107DD57
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
3K107FF06
5C094AA08
5C094BA27
5C094FB01
5C094JA11
(57)【要約】
【課題】色純度の高い緑色発光が可能な量子ドット発光素子を提供する。
【解決手段】陽極30,190及び陰極90,130と、該陽極30,190と陰極90,130との間に配置された発光層60,160と、前記陽極30,190及び陰極90,130の一方と前記発光層60,160との間に配置された電荷輸送層50,150と、を具える量子ドット発光素子10,110であって、前記発光層60,160が、量子ドットを含み、前記電荷輸送層50,150が、次式(1):波長域500~550nmの最大透過率/波長域550~600nmの最小透過率≧1.1の関係を満たすことを特徴とする、量子ドット発光素子10,110である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された発光層と、前記陽極及び陰極の一方と前記発光層との間に配置された電荷輸送層と、を具える量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットを含み、
前記電荷輸送層が、下記式(1):
波長域500~550nmの最大透過率/波長域550~600nmの最小透過率≧1.1 ・・・ (1)
の関係を満たすことを特徴とする、量子ドット発光素子。
【請求項2】
前記電荷輸送層は、波長530nmでの透過率が95%以上である、請求項1に記載の量子ドット発光素子。
【請求項3】
前記電荷輸送層は、波長600nmでの透過率が85%以下である、請求項1又は2に記載の量子ドット発光素子。
【請求項4】
前記電荷輸送層が、フタロシアニン系化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の量子ドット発光素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット発光素子及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表示装置に求められる重要な特性の一つとして、色再現性がある。特に、スーパーハイビジョンの表色系(国際規格ITU-REC BT.2020)は、自然界に実在する内の99%の物体色の色域を包含しており、映像を表示する表示装置には、広い色域の色再現性が求められ、自発光型の表示装置の場合、青、緑、赤各色の色純度を高くする、即ち、発光スペクトルの半値全幅(FWHM)を狭くする必要がある。
【0003】
近年、下記特許文献1や非特許文献1に開示されているように、半導体ナノ結晶からなる量子ドットを発光材料として用いた電界発光素子(量子ドット発光素子)が提案されている。量子ドットは、結晶粒径を変えることにより発光色を制御することができ、粒径分布を均一にすることによりFWHMを狭くすることができる。そのため、量子ドットは、表示色域の広い表示装置用の発光材料として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】シラサキら(Y.Shirasaki et.al),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),7,13(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、量子ドットを発光材料とする検討が進んでおり、特に緑色発光材料においては、色純度の向上に向けてFWHMの狭小化が必須であるが、量子ドットの粒径制御には限界があるため、FWHMの狭小化は容易でない。更には、量子ドット発光素子においては、しばしば、主発光成分以外の微小な副発光成分の混入による色純度低下も問題となる。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、色純度の高い緑色発光が可能な量子ドット発光素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる量子ドット発光素子を具え、広色域表示が可能で、発光特性に優れた表示装置を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、緑色発光が可能な量子ドット発光素子において、電極(正極又は負極)と発光層との間に、波長域500~550nmの透過率(最大透過率)が高く、波長域550~600nmの透過率(最小透過率)が低い材料からなる電荷輸送層(正孔輸送層又は電子輸送層)を設けることで、FWHMを狭小化でき、また、副発光成分を除去でき、高色純度の緑色発光が可能な量子ドット発光素子を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
本発明の量子ドット発光素子は、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された発光層と、前記陽極及び陰極の一方と前記発光層との間に配置された電荷輸送層と、を具える量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットを含み、
前記電荷輸送層が、下記式(1):
波長域500~550nmの最大透過率/波長域550~600nmの最小透過率≧1.1 ・・・ (1)
の関係を満たすことを特徴とする。
かかる本発明の量子ドット発光素子は、色純度の高い緑色発光が可能である。
【0010】
本発明の量子ドット発光素子において、前記電荷輸送層は、波長530nmでの透過率が95%以上であることが好ましい。この場合、色純度の更に高い緑色発光が可能となる。
【0011】
本発明の量子ドット発光素子において、前記電荷輸送層は、波長600nmでの透過率が85%以下であることが好ましい。この場合も、色純度の更に高い緑色発光が可能となる。
【0012】
本発明の量子ドット発光素子においては、前記電荷輸送層が、フタロシアニン系化合物を含むことが好ましい。この場合、色純度の更に高い緑色発光が可能となる。
【0013】
また、本発明の表示装置は、上記の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。かかる本発明の表示装置は、広色域表示が可能で、発光特性に優れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、色純度の高い緑色発光が可能な量子ドット発光素子を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる量子ドット発光素子を具え、広色域表示が可能で、発光特性に優れた表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の量子ドット発光素子の構造の好適実施態様を示す概略図である。
【
図2】量子ドットの構造の好適態様を示す模式図である。
【
図3】実施例1で用いた正孔輸送材料の吸収及び透過スペクトルである。
【
図4】実施例1及び比較例1の量子ドット発光素子の電界発光(EL)スペクトルである。
【
図5】実施例1及び比較例1の量子ドット発光素子の発光の色度図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の量子ドット発光素子及び表示装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0017】
<量子ドット発光素子>
本発明の量子ドット発光素子は、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された発光層と、前記陽極及び陰極の一方と前記発光層との間に配置された電荷輸送層と、を具える。そして、本発明の量子ドット発光素子においては、前記発光層が、量子ドットを含み、前記電荷輸送層が、下記式(1):
波長域500~550nmの最大透過率/波長域550~600nmの最小透過率≧1.1 ・・・ (1)
の関係を満たすことを特徴とする。
なお、前記電荷輸送層の透過率(最大透過率、最小透過率)は、分光光度計で測定できる。
【0018】
本発明の量子ドット発光素子においては、発光層が量子ドットを含み、陽極及び陰極の一方と発光層との間に電荷輸送層が配置されており、該電荷輸送層が上記式(1)の関係を満たし(即ち、波長域500~550nmの最大透過率が波長域550~600nmの最小透過率の1.1倍以上であり)、500~550nmの領域の緑色の発光成分の透過率が高く、また、550~600nmの領域の副発光成分の透過率が低いため、発光スペクトルの半値全幅(FWHM)を狭小化でき、また、副発光成分を除去できる。そのため、本発明の量子ドット発光素子は、色純度の高い緑色発光が可能である。
【0019】
前記波長域500~550nmの最大透過率は、色純度の更に高い緑色発光を得る観点から、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。また、前記波長域550~600nmの最小透過率は、副発光成分を除去して、色純度の更に高い緑色発光を得る観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、より一層好ましくは80%以下、特に好ましくは5%以下である。
【0020】
次に、本発明の量子ドット発光素子の2つの好適実施態様を
図1に示す。
図1(a)は、下部電極(例えば、透明電極)を陽極として用いた順構造の量子ドット発光素子であり、
図1(b)は、下部電極(例えば、透明電極)を陰極として用いた逆構造の量子ドット発光素子である。
【0021】
図1(a)において、量子ドット発光素子10は、基板20上に、陽極30、正孔注入層40、正孔輸送層50、発光層(緑色発光層)60、電子輸送層70、電子注入層80、及び陰極90を、この順に積層した構成を有する。
また、
図1(b)において、量子ドット発光素子110は、基板120上に、陰極130、電子注入層140、電子輸送層150、発光層(緑色発光層)160、正孔輸送層170、正孔注入層180、及び陽極190を、この順に積層した構成を有する。
【0022】
なお、正孔注入層40,180、正孔輸送層50,170、電子輸送層70,150、電子注入層80,140は、全て必要というわけではなく、それぞれの層が複数の役割を受け持つ構造となっていてもよい。例えば、一つの層で、正孔注入層と正孔輸送層を兼用したり、電子注入層と電子輸送層を兼用したりすることも可能である。
陽極30,190、正孔注入層40,180、正孔輸送層50,170、発光層60,160、電子輸送層70,150、電子注入層80,140、陰極90,130の形成方法は、特に限定されるものではなく、真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の方法を用いることができる。
【0023】
ここで、
図1(a)における正孔輸送層50、或いは、
図1(b)における電子輸送層150は、上述した本発明の量子ドット発光素子の電荷輸送層に相当し、500~550nmの領域での透過率(最大透過率)が高く、550~600nmの領域での透過率(最小透過率)が低いことを特徴とし、これにより、外に放出される緑色発光のスペクトルが狭小化し、或いは、副発光成分が除去され、色度が改善する。
以下、
図1(a)の順構造の量子ドット発光素子について説明する。
【0024】
(基板)
前記基板20は、当該基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明な材料からなることが好ましい。かかる透明な材料としては、ガラス、石英、プラスチックフィルム等を例示することができる。ここで、プラスチックフィルムの材質としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、基板20の材料は、必ずしも透明な材料である必要はない。基板20として、不透明基板を用いる場合、該不透明基板としては、例えば、着色したプラスチックフィルム基板、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板等が挙げられる。
また、基板20として、例えば、プラスチックフィルム等の可撓性基板を用い、その上に量子ドット発光素子を形成した場合には、画像表示部を容易に変形することのできるフレキシブル量子ドット発光素子とすることができる。
前記基板20の平均厚さは、特に限定されるものではないが、0.001~30mmが好ましく、0.01~1mmがより好ましい。
【0025】
(陽極)
前記陽極30は、基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明で導電性の高い材料からなることが好ましい。この場合、陽極(即ち、透明陽極)30としては、例えば、インジウム-錫-酸化物(以下、ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(以下、IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、陽極30の材料は、必ずしも透明な材料である必要はないため、陽極30として、金属電極を用いてもよい。ここで、陽極30の材料としては、仕事関数が比較的大きい金属が好ましい。仕事関数の大きい金属を用いることにより、陽極30から有機層への正孔注入障壁を低くすることができ、正孔を注入させ易くすることができる。陽極30に用いる金属としては、例えば、Al、Au、Ag、Pt、Ni、W、Cr、Mo、Fe、Co、Cu等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
前記陽極30の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、50~200nmが更に好ましい。
【0026】
(正孔注入層)
前記正孔注入層40は、陽極30からの正孔注入を容易にする目的で用いる。正孔注入層40の材料としては、無機材料、有機材料のいずれも用いることができる。無機材料としては、酸化モリブデン(MoO3)、酸化バナジウム、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化マンガン等が挙げられる。また、有機材料としては、低分子材料、高分子材料のいずれも用いることができるが、高分子材料の例としては、PEDOT:PSS等が挙げられる。なお、PEDOTは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を示し、PSSは、ポリ(スチレンスルホン酸)を示す。正孔注入層40には、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔注入層40に用いる材料としては、正孔注入性の観点から、PEDOT:PSS又は酸化モリブデンが好ましい。
前記正孔注入層40の平均厚さは、特に限定されるものではないが、1~500nmが好ましく、3~50nmが更に好ましい。
【0027】
(正孔輸送層)
前記正孔輸送層50は、陽極30から注入した正孔を発光層60まで輸送するために用いる。正孔輸送層50は、500~550nmの領域で透過率(最大透過率)が高く、550~600nmの領域で透過率(最小透過率)が低い光学特性を有することを特徴とする。ここで、量子ドット発光素子10から放出される緑色発光を効率よく取り出すために、正孔輸送層50の500~550nmの領域の透過率は、高い程よいが、正孔輸送層50の530nmにおける透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、緑色発光の色純度の低下の原因となる余分な光を効果的にカットするため、正孔輸送層50の550~600nmの領域の透過率は、低い程よいが、正孔輸送層50の600nmにおける透過率は、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、より一層好ましくは80%以下、特に好ましくは5%以下である。正孔輸送層50の波長530nmでの透過率が95%以上である場合、色純度の更に高い緑色発光が可能となり、また、正孔輸送層50の波長600nmでの透過率が85%以下である場合も、色純度の更に高い緑色発光が可能となる。
【0028】
正孔輸送層50には、前記光学特性を満たす材料であれば、無機材料、有機材料のいずれも用いることができる。また、有機材料の場合、高分子材料、低分子材料のいずれも用いることができる。低分子材料の場合、下記の構造式(1-1)~(1-4):
【化1】
で示される材料のような、フタロシアニン系化合物を用いることが好適である。正孔輸送層50がフタロシアニン系化合物を含む場合、色純度の更に高い緑色発光が可能となる。
【0029】
前記フタロシアニン系化合物とは、フタロシアニン骨格を有する化合物を意味し、フタロシアニン骨格は、4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋された構造を有する複素環骨格である。フタロシアニン系化合物は、フタロシアニン骨格を有する金属錯体であってもよく、金属錯体を構成する金属としては、特に限定されないが、例えば、Cu、Zn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Mn、Mg、Ti、Be、Ca、Ba、Cd、Hg、Pb、Sn等が挙げられる。また、金属錯体は、酸化された金属を有していてもよく、酸化された金属としては、TiO、VO、MnO等が挙げられる。
【0030】
前記正孔輸送層50の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0031】
(発光層)
前記発光層60は、量子ドットを含み、好ましくは半導体微粒子からなる量子ドットを含む。該発光層60では、陽極30から注入された正孔と陰極90から注入された電子とが再結合して、量子ドットが励起状態となり、基底状態に戻るときに放出されるエネルギーにより発光が得られる。
発光層60の発光色は、発光層60に含まれる量子ドットの結晶粒径や種類(材質)によって変化させることができる。ここで、量子ドットの結晶粒径は、所望の発光色に応じて選択でき、例えば、1~20nmが好ましく、2~10nmが更に好ましい。量子ドットの典型的な構造を、
図2(a)に示す。
図2(a)に示す量子ドット1は、半導体微粒子からなるコア2とよばれる中心部分と、コア2の表面を覆うリガンド3と呼ばれる有機物と、からなる。
【0032】
前記量子ドットのコア部分を構成する半導体の例としては、II-VI族の化合物、II-V族の化合物、III-VI族の化合物、III-V族の化合物、IV-VI族の化合物、I-III-VI族の化合物、II-IV-VI族の化合物、及びII-IV-V族の化合物、例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTe、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、GaSe、InN、InP、InAs、InSb、TlN、TlP、TlAs、TlSb、PbS、PbSe、PbTe、CuInS等が挙げられる。
【0033】
前記量子ドット1は、
図2(b)に示すように、コア2の周りを取り囲むように一層または複数層の半導体層があってもよい。ここで、コア部分を取り囲む半導体層は、シェル4と呼ばれる。シェル4の部分を構成する半導体も、コア2の部分を構成する半導体と同様の組成の半導体を用いることができる。
コア2の部分を構成する半導体或いはコア/シェル構造のシェル4の部分を構成する半導体の表面には、通常は、反応性の高いダングリングボンドが存在する。該ダングリングボンドの存在により、表面が化学的に不安定になる上、量子ドット(半導体微粒子)自体の凝集の原因にもなる。従って、量子ドットにおいては、半導体微粒子表面を安定化すると共に、半導体微粒子の凝集を抑制するため、半導体微粒子表面をリガンド3とよばれる有機配位子によりキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングするためのリガンド3の部分に親油性の長鎖アルキル基等が含まれると、有機溶剤に対しての溶解性が向上するため、量子ドットを有機溶媒に溶解させた量子ドット溶液を調製することができる。
【0034】
これらの量子ドット或いは量子ドット溶液の製造方法としては、特に限定されないが、特許第5190260号公報、特表2009-504422号公報等に記載されている方法等が挙げられる。量子ドット溶液、或いは、量子ドットと有機材料とを混合した溶液を調製し、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の湿式法によって、量子ドットを含む薄膜を成膜することで発光層を形成することができる。
【0035】
発光層60は、量子ドットのみからなる構成としてもよいし、量子ドットと無機材料や有機材料とを混合した構成としてもよい。有機材料としては、低分子材料、高分子材料のいずれも用いることができる。また、発光層60には、量子ドット以外にも、有機エレクトロルミネッセンス材料を用いることもできる。例えば、発光層60は、量子ドットに加えて、電子輸送材料や正孔輸送材料等の電荷輸送を補う材料を含んでもよい。電子輸送材料としては、後述の電子輸送層70に使用する材料を利用できる。また、正孔輸送材料としては、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)等が挙げられる。
【0036】
発光層60の成膜方法としては、特に限定されないが、量子ドットを有機溶媒や水に溶解させた溶液を調製し、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等によって成膜することができる。このとき、赤、緑、青に発光する材料を微細に塗分けすることで、カラー表示が可能な表示装置の画素とすることができる。
前記発光層60の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~50nmが更に好ましい。
【0037】
(電子輸送層)
前記電子輸送層70は、陰極90から注入した電子を発光層60まで輸送するために用いる。電子輸送層70を構成する材料としては、無機材料であっても、有機材料でもよい。有機材料の場合は、高分子材料、低分子材料のいずれも用いることができる。電子輸送層70を構成する材料として、含窒素複素環を含む低分子材料或いは高分子材料を用いると、陰極90から注入された電子が効率よく電子輸送層70中を移動し、発光層60の量子ドットに電子が効率良く注入されるため、高効率の発光素子を得ることができる。前記含窒素複素環としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、トリアゾール環、フェナントロリン環等が挙げられる。
前記電子輸送層70の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0038】
(電子注入層)
前記電子注入層80は、陰極90からの電子注入を容易にするために形成する。該電子注入層80には、有機材料、無機材料のいずれも用いることができる。電子注入層80に用いる代表的な材料としては、フッ化リチウム(LiF)、酸化リチウム(Li2O)等が挙げられる。
前記電子注入層80の平均厚さは、特に限定されるものではないが、0.5~200nmが好ましく、1~100nmが更に好ましい。
【0039】
(陰極)
前記陰極90は、前記基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、金属の薄膜を用いることができる。ここで、陰極90の材料としては、仕事関数が比較的小さい金属が好ましい。仕事関数の小さい金属を用いることにより、陰極90から有機層への電子注入障壁を低くすることができ、電子を注入させ易くすることができる。陰極90に用いる金属としては、例えば、Al、Mg、Ca、Ba、Li、Na等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
前記基板20や下部の陽極30が透明でない場合には、上部電極となる陰極90は、透明電極とする。ここで、該透明電極の材料としては、特に限定されないが、例えば、インジウム-錫-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
前記陰極90の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、30~150nmが更に好ましい。
【0040】
以上、
図1(a)の順構造の量子ドット発光素子10について説明したが、
図1(b)の逆構造の量子ドット発光素子110でも、本発明の目的を果たすことができる。
この場合、電子輸送層150は、500~550nmの領域で透過率(最大透過率)が高く、550~600nmの領域で透過率(最小透過率)が低い光学特性を有することを特徴とする。量子ドット発光素子110から放出される緑色発光を効率よく取り出すために、電子輸送層150の500~550nmの領域の透過率としては、高い程よいが、電子輸送層150の530nmにおける透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、緑色発光の色純度の低下の原因となる余分な光を効果的にカットするため、電子輸送層150の550~600nmの領域の透過率は、低い程よいが、電子輸送層150の600nmにおける透過率は、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、より一層好ましくは80%以下、特に好ましくは5%以下である。電子輸送層150には、例えば、上述のフタロシアニン系化合物を用いることができる。
【0041】
その他、陰極130については、基板120側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明で導電性の高い材料を用いることが好ましい。この場合、陰極(透明陰極)130については、
図1(a)の陽極(透明陽極)30と同じ材料を用いることができる。
電子注入層140、発光層(緑色発光層)160、正孔注入層180については、それぞれ、
図1(a)の順構造の量子ドット発光素子で記述した材料を用いることができる。
正孔輸送層170については、正孔を輸送する有機材料および無機材料を用いることができる。
また、陽極190については、基板120側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、仕事関数が比較的大きい金属を用いることが好ましい。
【0042】
(用途)
本発明の量子ドット発光素子は、後述する表示装置を始め、照明機器、バックライト、電子写真、照明光源、露出光源、標識、看板、インテリア等にも利用できる。
【0043】
<表示装置>
本発明の表示装置は、上述の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。本発明の表示装置は、色純度の高い緑色発光が可能な量子ドット発光素子を具えるため、広色域表示が可能で、発光特性に優れる。本発明の表示装置は、上述した量子ドット発光素子の他に、表示装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【実施例0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
(量子ドットの合成)
J.カクら(J.Kwak et al.),ナノ・レターズ(Nano Letters),12,2362(2012)に開示されている方法に従って、緑色発光を示す量子ドットCdSe/ZnS(コア/シェル型の量子ドット)を合成した。具体的には、0.2mmolの酸化カドミウム、4mmolの酢酸亜鉛、4mmolのオレイン酸を100mLフラスコに入れ、圧力100mTorrにて150℃で30分加熱することで、オレイン酸亜鉛(Zn(OA)2)を得た。次に、反応物を窒素で満たし、15mLの1-オクタデセンを加えた後、305℃まで昇温した。昇温したところで、反応物に対して、0.1mmolのセレン粉末と3.5mmolの硫黄粉末を溶解させたトリオクチルフォスフィン2mLを素早く加えた。反応液の温度を300℃に保ち、量子ドットCdSe/ZnSを成長させた。10分後、反応を完了させるために反応液の温度を室温まで下げた。合成した量子ドットを再沈殿/再分散により精製し、量子ドットCdSe/ZnSのクロロホルム分散液を得た。
【0046】
(構造式(1-2)で表される材料の吸収及び透過率スペクトル)
図3に、構造式(1-2)で表される材料を真空蒸着した薄膜(15nm)の吸収及び透過率スペクトルを示す。500~550nmの領域の透過率は高く、波長域500~550nmの最大透過率は100%であり、530nmにおける透過率は99%である。また、550~600nmの領域の透過率は低く、波長域550~600nmの最小透過率は83%であり、600nmにおける透過率は83%である。吸光度Absと透過率Tの関係は下記で表すことができる。
Abs=α×l=log(I
0/I)、T=I/I
0×100 [%]
ここで、α:薄膜の吸光係数[nm
-1]、l:薄膜の膜厚[nm]、I
0:入射光強度、I:透過光強度である。
これらの関係より、例えば、仮に、構造式(1-2)で表される材料の薄膜を20nmの厚さで製膜した時の透過率を計算すると、波長域500~550nmの最大透過率は100%であり、530nmにおける透過率は99%、波長域550~600nmの最小透過率は78%であり、600nmにおける透過率は78%となる。
【0047】
(量子ドット発光素子の作製)
図1(a)に示す構造の本発明に従う量子ドット発光素子を次のようにして作製した。
まず、ガラス基板20にITOからなる陽極30を形成し、これを複数のライン状にパターニングした。
次に、正孔注入層40として、PEDOT:PSS(ヘレウス社、AI4083)をスピンコート法によって成膜し、180℃にて30分間加熱乾燥した。
次に、正孔輸送層50として、構造式(1-2)で表される材料を真空蒸着より20nm成膜した。前述の構造式(1-2)で表される材料の吸収スペクトルの結果から、構造式(1-2)で表される材料の20nmの薄膜の波長域500~550nmの最大透過率は100%、530nmにおける透過率は99%、波長域550~600nmの最小透過率は78%、600nmにおける透過率は78%となる。
次に、発光層60として、量子ドットCdSe/ZnSのクロロホルム分散液(4mg/mL)とポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のクロロホルム溶液(4mg/mL)を混合して調製したインクを、スピンコート法(回転数2000rpm)により塗布成膜し、100℃で40分加熱乾燥した。
次に、基板を真空蒸着装置に入れ、真空蒸着法により、電子輸送層70として1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼンを35nm、電子注入層80としてフッ化リチウム(LiF)を1nm、陰極90としてAlを100nm順次成膜した。
なお、
図1(a)には示していないが、窒素ガスで満たされたグローブボックス中で、封止用ガラスの周縁部に紫外線硬化樹脂を塗布した後、量子ドット発光素子を形成した前記基板の周縁部に貼り合せて、封止を行った。
【0048】
(量子ドット発光素子の特性評価)
上記の量子ドット発光素子の陽極30側に正、陰極90側に負となるように電圧を印加して、電界発光(EL)スペクトルを観測した。その結果、ピーク波長530nm、FWHM41nm、CIEx,y=(0.2084,0.7171)の高色純度の緑色発光が得られた。
【0049】
<比較例1>
(量子ドット発光素子の作製)
正孔輸送層50の成膜工程を除いたこと以外は実施例1と同様の方法で、量子ドット発光素子を作製した。
【0050】
(量子ドット発光素子の特性評価)
実施例1と同様の方法で、比較例1の量子ドット発光素子の特性評価を行った。その結果、ピーク波長は実施例1と同じ530nmであるが、FWHMは43nm、CIEx,y=(0.2144,0.7106)であった。
以上の結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
図4に、実施例1と比較例1の量子ドット発光素子の発光スペクトルを示す。
比較例1の量子ドット発光素子のFWHMは43nmであるのに対し、実施例1の量子ドット発光素子のFWHMは41nmであり、FWHMが狭小化していることが示された。これは、本発明の量子ドット発光素子においては、550nm以上の領域の発光が構造式(1-2)で表される材料からなる正孔輸送層に効果的に吸収されたためである。
【0053】
図5に、実施例1と比較例1の量子ドット発光素子の発光の色度図を示す。
実施例1の量子ドット発光素子は、発光スペクトルのFWHMの改善により、比較例1の量子ドット発光素子よりも色度が改善していることが示された。
本発明の量子ドット発光素子は、色純度の高い緑色発光が可能であり、量子ドット発光素子を利用した発光素子産業、照明機器産業、表示装置産業において利用することが可能である。また、本発明の量子ドット発光素子は、色純度に優れる発光を必要とする様々なデバイス、製品に応用することが可能であり、表示装置、照明機器、バックライト、電子写真、照明光源、露出光源、標識、看板、インテリア等の分野で好適に使用できる。