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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087755
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】卵巣刺激器具及び卵巣刺激方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/34 20060101AFI20230619BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230619BHJP
【FI】
A61B17/34
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202217
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】509298012
【氏名又は名称】公立大学法人宮城大学
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】598133665
【氏名又は名称】学校法人国際医療福祉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】池内 真志
(72)【発明者】
【氏名】小林 仁
(72)【発明者】
【氏名】森本 素子
(72)【発明者】
【氏名】横尾 正樹
(72)【発明者】
【氏名】河村 和弘
【テーマコード(参考)】
4B065
4C160
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065CA44
4B065CA60
4C160FF48
(57)【要約】
【課題】卵巣不全を治療可能な卵巣刺激器具を提供する。
【解決手段】
複数のマイクロニードル10を備える、卵巣刺激器具。卵巣刺激器具において、複数のマイクロニードル10のそれぞれの直径が250μm以下であってもよい。卵巣刺激器具が、複数のマイクロニードル10を収納するよう構成された筒状部11をさらに備えていてもよい。卵巣刺激器具が、複数のマイクロニードル10を筒状部11の内外に移動させるよう構成された移動機構をさらに備えていてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマイクロニードルを備える、卵巣刺激器具。
【請求項2】
前記複数のマイクロニードルのそれぞれの直径が250μm以下である、請求項1に記載の卵巣刺激器具。
【請求項3】
前記複数のマイクロニードルを収納するよう構成された筒状部をさらに備える、請求項1又は2に記載の卵巣刺激器具。
【請求項4】
前記複数のマイクロニードルを筒状部の内外に移動させるよう構成された移動機構をさらに備える、請求項3に記載の卵巣刺激器具。
【請求項5】
前記複数のマイクロニードルが複数のマイクロニードル集合体に含まれ、
前記複数のマイクロニードル集合体を接続する弾性接続部をさらに備え、
前記移動機構が、前記弾性接続部を前記筒状部の内外に移動させることにより、前記複数のマイクロニードル集合体を前記筒状部の内外に移動させるよう構成されている、
請求項4に記載の卵巣刺激器具。
【請求項6】
前記筒状部外で前記弾性接続部が直線状であり、前記筒状部内で前記弾性接続部が折りたたまれるよう構成されている、請求項5に記載の卵巣刺激器具。
【請求項7】
非ヒト動物の体外で、請求項1から6のいずれか1項に記載の卵巣刺激器具で卵巣を刺激することを含む、卵巣に刺激を与える方法。
【請求項8】
非ヒト動物の体内で、請求項1から6のいずれか1項に記載の卵巣刺激器具で卵巣を刺激することを含む、卵巣に刺激を与える方法。
【請求項9】
非破壊検査により前記体内の前記卵巣刺激器具と前記卵巣の位置を確認しながら、前記卵巣刺激器具を前記卵巣に接触させる、請求項8に記載の卵巣に刺激を与える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵巣刺激器具及び卵巣刺激方法に関する。
【背景技術】
【0002】
早発卵巣不全は、40歳未満で卵巣内残存卵胞が急激に減少し、無排卵・無月経とそれに伴う不妊を呈する女性疾患である。早発卵巣不全に対する初の積極的不妊治療法である卵胞活性化療法は、摘出した卵巣皮質を断片化し、断片化した卵巣皮質を薬剤を添加した培養液で培養した後に卵巣漿膜下へと自家移植する手法である。当該方法により、患者自身の卵巣から得られた胚による妊娠・挙児に成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-208962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
卵胞活性化療法は、2回以上の腹腔鏡手術が必要であり、患者身体に対する侵襲性が高いこと、術技の特殊さからごく限られた医療施設でのみ治療が実施されているという課題がある。そこで、本発明は、体内又は体外で早発卵巣不全に限られない卵巣不全を治療可能な卵巣刺激器具及び卵巣刺激方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様に係る卵巣刺激器具は、複数のマイクロニードルを備える。
【0006】
上記の卵巣刺激器具において、複数のマイクロニードルのそれぞれの直径が250μm以下であってもよい。
【0007】
上記の卵巣刺激器具が、複数のマイクロニードルを収納するよう構成された筒状部をさらに備えていてもよい。
【0008】
上記の卵巣刺激器具が、複数のマイクロニードルを筒状部の内外に移動させるよう構成された移動機構をさらに備えていてもよい。
【0009】
上記の卵巣刺激器具において、複数のマイクロニードルが複数のマイクロニードル集合体に含まれ、複数のマイクロニードル集合体を接続する弾性接続部をさらに備え、移動機構が、弾性接続部を筒状部の内外に移動させることにより、複数のマイクロニードル集合体を筒状部の内外に移動させるよう構成されていてもよい。
【0010】
上記の卵巣刺激器具において、筒状部外で弾性接続部が直線状であり、筒状部内で弾性接続部が折りたたまれるよう構成されていてもよい。
【0011】
また、本発明の態様に係る卵巣に刺激を与える方法は、ヒト又は非ヒト動物の体外で、上記のいずれかに記載の卵巣刺激器具で、ヒト又は非ヒト動物の卵巣を刺激することを含む。
【0012】
また、本発明の態様に係る卵巣不全の治療方法は、ヒト又は非ヒト動物の体外で、上記のいずれかに記載の卵巣刺激器具で、ヒト又は非ヒト動物の卵巣を刺激することを含む。
【0013】
また、本発明の態様に係る卵巣に刺激を与える方法は、ヒト又は非ヒト動物の体内で、上記のいずれかに記載の卵巣刺激器具で卵巣を刺激することを含む。
【0014】
上記の卵巣に刺激を与える方法において、非破壊検査により体内の卵巣刺激器具と卵巣の位置を確認しながら、卵巣刺激器具を卵巣に接触させてもよい。
【0015】
また、本発明の態様に係る卵巣不全の治療方法は、ヒト又は非ヒト動物の体内で、上記のいずれかに記載の卵巣刺激器具で卵巣を刺激することを含む。
【0016】
上記の卵巣不全の治療方法において、非破壊検査により体内の卵巣刺激器具と卵巣の位置を確認しながら、卵巣刺激器具を卵巣に接触させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、卵巣不全を治療可能な卵巣刺激器具及び卵巣刺激方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る卵巣刺激器具を示す模式図である。
図2】実施形態に係る卵巣刺激器具を示す模式図である。
図3】実施形態に係る卵巣刺激器具の一例を示す写真である。
図4】実施形態に係る卵巣刺激器具を示す模式図である。
図5】実施例1に係る卵巣刺激器具の製造方法を示す模式図である。
図6】実施例1に係る卵巣刺激器具の写真である。
図7】実施例1に係る卵巣刺激器具の模式図である。
図8】実施例2に係るマウスの卵巣に刺激を与える方法を示す写真である。
図9】実施例2に係るマウスの卵巣に刺激を与える方法を示す写真である。
図10】実施例2に係る嫡出された卵巣を示す写真である。
図11】実施例2に係る嫡出された卵巣組織を示す写真である。
図12】実施例2に係る嫡出された卵巣組織を示す写真である。
図13】実施例3に係るマウスの卵巣に刺激を与える方法を示す写真である。
図14】実施例3に係るマウスの卵巣に刺激を与える方法を示す写真である。
図15】実施例3に係るマウスの卵巣に刺激を与える方法を示す写真である。
図16】実施例3に係る排卵数を示すグラフである。
図17】参考例1に係るアクチン繊維の相対面積を示すグラフである。
図18】参考例1に係る細胞の蛍光写真である。
図19】参考例1に係る細胞の蛍光写真である。
図20】参考例2に係るHippoシグナル関連遺伝子の発現を検査する方法を示す模式図である。
図21】参考例2に係るHippoシグナル経路を示す模式図である。
図22】参考例2に係る遺伝子の相対発言量を示すグラフである。
図23】参考例2に係る遺伝子の統計解析結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0020】
実施形態に係る卵巣刺激器具は、図1に示すように、複数のマイクロニードル10を備える。複数のマイクロニードル10は、図2に示すように卵巣30を刺すために使用される。複数のマイクロニードル10のそれぞれの直径は、例えば、250μm以下、200μm以下、あるいは150μm以下であるが、これらに限定されない。マイクロニードル10の好ましい直径は動物ごとに異なり得るが、マイクロニードルを卵巣に刺した後に、卵巣における細胞間接着が回復する直径であればよい。
【0021】
実施形態に係る卵巣刺激器具は、図1に示すように、複数のマイクロニードル10を収納するよう構成された筒状部11をさらに備えていてもよい。また、卵巣刺激器具は、複数のマイクロニードル10を筒状部11の内外に移動させるよう構成された移動機構を備えていてもよい。移動機構は、例えば、複数のマイクロニードル10に接続された棒状部材12を備えていてもよい。棒状部材12を筒状部11の中に入れ、棒状部材12を筒状部11の内部で移動させることにより、図3に示すように、棒状部材12に接続された複数のマイクロニードル10が筒状部11の中に収納されたり、筒状部11から突出したりする。
【0022】
複数のマイクロニードル10は、マイクロニードル集合体13に含まれていてもよい。換言すれば、複数のマイクロニードル10は、マイクロニードル集合体13を構成していてもよい。マイクロニードル集合体13において、複数のマイクロニードル10は、アレイ状に配置されていてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。複数のマイクロニードル10のそれぞれの先端方向から見て、複数のマイクロニードル10は矩形状に配置されていてもよいし、図4に示すように円形状に配置されていてもよい。
【0023】
複数のマイクロニードル10は、支持体14上に配置されていてもよい。移動機構は、支持体14に接続されていてもよい。
【0024】
実施形態に係る卵巣刺激器具は、複数のマイクロニードル集合体13どうしを接続する弾性接続部15を備えていてもよい。弾性接続部15は、超弾性体であってもよい。移動機構は、弾性接続部15に接続されていてもよい。移動機構によって、弾性接続部15を筒状部11の内外に移動させることにより、複数のマイクロニードル集合体13を筒状部11の内外に移動させることが可能である。
【0025】
筒状部11外では、弾性接続部15は、筒状部11に対して略垂直方向に直線状となり、弾性接続部15に接続されたマイクロニードル集合体13は、筒状部11に対して略垂直方向に配置される。筒状部11内に弾性接続部15が引き込まれると、筒状部11内で弾性接続部15は折りたたまれ、弾性接続部15に接続されたマイクロニードル集合体13どうしが向き合って筒状部11内に格納される。
【0026】
実施形態に係る卵巣に刺激を与える方法は、図2に示すように、ヒト又は非ヒト動物の体内又は体外で、上述した卵巣刺激器具を用いて、卵巣30を刺激することを含む。卵巣刺激器具で卵巣30を刺激することにより、卵巣30における細胞の増殖が促進され、卵巣不全が治療される。これにより、不妊が治療される。ヒト又は非ヒト動物の体内で卵巣30を刺激する場合、膣に孔を設け、膣の孔から卵巣30に向けて卵巣刺激器具を挿入する。エコー装置20、X線装置、及びCTスキャン装置等を用いて、非破壊検査により体内の卵巣刺激器具と卵巣30の位置を確認しながら、卵巣刺激器具を卵巣30に接触させてもよい。また、卵巣刺激器具が卵巣30に近づくまでマイクロニードル10を筒状部11内に収納することにより、マイクロニードル10が膣等を傷つけることを防止することが可能である。
【0027】
(実施例1:マイクロニードルアレイの製造)
図5に示すように、ポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる基板上に、弾性接続部材として、直径が0.4mmの超弾性ワイヤ(吉見製作所)を配置した。弾性接続部材の両端のそれぞれの両側に沿って、直径120μmのマイクロニードルを0.4mm間隔でPDMSからなる基板に刺した。マイクロニードルの数は、弾性接続部材の各端の片側あたり7本であった。PDMSからなる基板へのマイクロニードルの刺し込み深さは約2mmであった。
【0028】
弾性接続部材とマイクロニードルの周囲に光硬化樹脂を滴下し、紫外線を照射することによって、弾性接続部材にマイクロニードルを固定した。その後、PDMSからなる基板を除去し、マイクロニードルの固定位置から後端側を切除した。これにより、図6に示すように、弾性接続部材の両端にマイクロニードルアレイを形成した。
【0029】
図7に示すように、弾性接続部材の中央付近に直径0.4mmのピアノ線を回し、ピアノ線を内径1.5mmのインナーパイプの先端に固定した。さらに、インナーパイプを、外径4mm、内径3mmのアウターパイプに挿入した。インナーパイプの後端をアウターパイプの後端から離れるように引くと、弾性接続部材がピアノ線に引かれて折れ曲がり、弾性接続部材の両端のマイクロニードルアレイどうしが向かい合った状態で、アウターパイプ内に格納された。インナーパイプの後端をアウターパイプの後端に近づくように押すと、弾性接続部材とマイクロニードルアレイがアウターパイプの先端から押し出され、弾性接続部材は、直線状の形状に回復した。
【0030】
(実施例2:卵巣組織の損傷の評価)
生後8週のメスの複数のマウスのそれぞれに全身麻酔をかけ、左右の側腹部をステンレスハサミで切開し、左右の卵巣とその周辺の脂肪組織を露出させた。図8に示すように、左側の卵巣に対してマイクロニードルアレイを5、6回刺入し、血液や体液の流出が見られる場合はウエスで拭き取った。また、図9に示すように、右側の卵巣に対して直径300μmの30G注射針(ディスポーザブルニードル、Dentronics)を5、6回刺入し、血液や体液の流出が見られる場合はウエスで拭き取った。血液や体液の流出が停止した後、両側の卵巣を体内に戻し、腹膜及び皮膚を縫合した。全身麻酔によるマウスの体温低下を防ぐために、全身麻酔の効果がなくなりマウスが活動を再開するまでは、39℃のウォームプレート(Microwarm Plate、 Kitazato)にマウスを横たえた。
【0031】
上記の操作から1時間後及び24時間後にマウスを屠殺し、両側の卵巣を摘出し、図10に示すように、固定液(ブアン液、富士フイルム和光純薬)に浸した。固定した計4個の卵巣を表面から0.1mm間隔でスライスして卵巣切片を得た。卵巣切片をHE染色して画像を撮影し、卵巣組織の損傷を観察した。
【0032】
30G注射針及びマイクロニードルアレイを刺入した後の卵巣組織の写真をそれぞれ図11及び図12に示す。30G注射針を刺入して1時間経過した後の卵巣では、図11(a)の矢印で示された位置に刺入があった結果、点線で示す領域に卵巣組織の破壊が観察され、その面積は65473μm2であった。また、図11(b)に示すように、30G注射針を刺入して24時間経過した後においても、25497μm2の領域に卵巣組織の破壊が観察された。
【0033】
一方、マイクロニードルアレイを刺入して1時間経過した後の卵巣では、図12(a)の矢印で示された位置にマイクロニードルの刺入があったが、30G注射針の刺入で観察されたような広範囲にわたる組織の破壊は観察されず、刺入点における細胞間接着の剥離のみが観察された。また、図12(b)に示すように、マイクロニードルを刺入して24時間後においても組織の破壊は観察されず、刺入1時間後と比較して、細胞間接着の一部が回復している様子が観察された。
【0034】
(実施例3:刺激による卵胞発育促進効果)
生後8週のメスのマウスに全身麻酔をかけ、側腹部をステンレスハサミで切開し、図13に示すように、片側の卵巣とその周辺の脂肪組織を露出させた。卵巣嚢を切開し、卵巣を完全に露出させた後、図14に示すように、マイクロニードルアレイを用いて5回、卵巣全体に偏りなく刺入刺激を加えた。血液や体液の流出が見られる場合は、ウエスで拭き取った。
【0035】
血液や体液の流出が停止した後、図15に示すように、卵巣を体内に戻し、腹膜及び皮膚を縫合した。全身麻酔によるマウスの体温低下を防ぐために、全身麻酔の効果がなくなりマウスが活動を再開するまで、39℃のウォームプレートにマウスを横たえた。この操作を行った日を0日目として7日目に、排卵誘発剤hCGをマウスに投与した。その後、マウスを屠殺し、両側の卵管を解剖して組織学的に排卵数を計数した。以上の操作を12匹のマウスに対して行い、マイクロニードルアレイによる刺激を行った卵巣側の卵管における排卵数と、マイクロニードルアレイによる刺激を行わなかった卵巣側の卵管における排卵数を比較した。
【0036】
その結果、図16に示すように、マイクロニードルアレイによる刺激を行わなかった卵巣側の卵管における排卵数は3.5±0.854(Mean±SE)であった。これに対し、マイクロニードルアレイによる刺激を行った卵巣側の卵管における排卵数は、6.5±0.862(Mean±SE)であった。2群間による対応のある両側t検定におけるp値は0.0048であった。当該結果は、マイクロニードルアレイを卵巣に刺入すると、組織損傷やそれに伴う出血を抑えながらも、広範囲にわたって細胞接着が剥離して卵巣が刺激され、卵胞の発育が促進されたことを示している。
【0037】
(参考例1:刺激によるアクチン重合促進効果)
刺激によるアクチン重合促進効果を、培養したヒト卵巣顆粒膜細胞により検証したので、以下に説明する。直径35mmのポリジメチルシロキサン(PDMS)上で培養しているヒト卵巣顆粒膜細胞(KGN)の培地に、アクチン染色プローブ(SiR-ACTINKIT、Spirochrome)を終濃度が1000nmol/Lとなるよう加えた。次に、KGNと培地を37℃のCO2インキュベータ内に2時間静置することで、KGNのF-アクチンをシリコンローダミン(SiR)で修飾した。その後、KGNに対し、マイクロニードルアレイを用いて数回の刺入刺激を与えた。刺激を与えた直後から、蛍光顕微鏡(BZ-9000、KEYENCE)を用いて、30分ごとに、12時間にわたって、KGNの蛍光画像のタイムラプス撮影を行った。撮影は、マイクロニードルアレイ刺入刺激を受けた5ヶ所(MNA1から5)と、受けなかった5ヶ所(NC1から5)と、のそれぞれに対して、縦1091μm×横1449μmの範囲で行った。
【0038】
ImageJ(NIH)を用いて得られたタイムラプス蛍光観察画像をグレースケール化し、閾値を設定した。各タイムラプス蛍光観察画像について、閾値を超えた領域の面積を計測することで、アクチン繊維が存在する領域の面積を計測した。さらに、それを1フレーム目でのアクチン繊維が存在する領域の面積で除算することで、1フレーム目、すなわち刺激直後の状態に対する、アクチン繊維が存在する領域の相対面積の経時的な変化を算出した。
【0039】
各領域の各時間における、刺激直後の状態に対するアクチン繊維が存在する領域の相対面積の経時変化を図17に示す。12時間経過時における、アクチン繊維が存在する領域の相対面積の平均及び標準偏差は、刺激を与えなかった群(NC1から5)では1.62±0.22であったのに対し、刺激与えた群(MNA1から5)では4.39±0.76であった。また、2群に対するWelchの両側t検定をしたところ、経過時間30分から1時間30分まではp<0.05、経過時間2時間以降の全てはp<0.01であった。
【0040】
刺激を与えなかった部位NC5及び刺激を与えた部位MNA5における0時間、6時間、及び12時間経過時の蛍光観察画像を図18及び図19に示す。刺激を与えなかった部位NC5では、0時間において、各細胞が培養基材上に平たく伸長している様子が観察された。一方、矢印に示す位置にマイクロニードルによる刺入刺激が与えられたMNA5では、0時間において、培養基材上に平たく伸長していない細胞が多く観察された。一部の細胞について、細胞-細胞間あるいは細胞-培養基材間接着が剥離していると考えられる。
【0041】
さらに、刺激を与えた部位MNA5では、6時間後、及び12時間後において、剥離された接着を回復しながら、刺激を与えなかったNC5と比較して急速にアクチン繊維が伸長している様子が観察された。以上から、マイクロニードルアレイで卵巣を刺激することにより、細胞接着が剥離され、F-アクチンの重合が促進されることが示された。
【0042】
(参考例2:刺激によるHippoシグナル関連遺伝子発現促進効果)
図20に示すように、直径35mmのポリジメチルシロキサン(PDMS)上で培養しているヒト卵巣顆粒膜細胞(KGN)の直径4mmの領域に対して、合計針数が144、針密度が11.46個/mm2のマイクロニードルアレイを用いて、9回の刺入刺激を与えた。
【0043】
マイクロニードルアレイで刺激から4時間後に,生検トレパン(BP Series、kai industries)を用いて、KGNの刺激を与えた領域を中心として同心円状にKGNとPDMS培養基材を切断し、直径4mmの刺激領域(以下、「φ4」とも呼ぶ。)、その周辺の直径6mmの円環状領域(以下、「φ6」とも呼ぶ。)、及び直径8mm円環状領域(以下、「φ8」とも呼ぶ。)をサンプルとして回収した。また、ネガティブコントロールとして、刺激を与えなかった細胞についても同様に直径4mmの領域(以下、「NC」とも呼ぶ。)をサンプルとして回収した。回収したサンプルのそれぞれを500μLのQIAzol Lysis Reagent(Qiagen)に溶解し、溶解液を調製した。
【0044】
溶解液をボルテックスミキサー(VTX-3000L、LMS)を用いて3000rpmで300秒ミキシングし、-80℃及び室温で凍結融解した。その後、溶解液に140μLのクロロホルムを加えて激しく撹拌し、4℃,12000×(サンプル重量)rpmで15分間遠心分離した。水層を新たな1.5mLチューブに移し、水層に1.5倍容量のエタノールを加えてピペッティングを行うことで、RNAが沈殿したサンプルを調製した。
【0045】
その後、miRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて精製RNA溶液を調製した。RNA濃度を計測した後、表1に示すような配合で精製RNA溶液の一部をOrigo(dT)プライマー及びdNTPと混合し、ミリQ水で希釈して、160ngのRNAを含むRNA-プライマー溶液を調製した。このRNA-プライマー溶液を65℃で5分加熱することで、RNA末端とプライマーとを結合させた。続いて、表2に示すような配合で、RNA-プライマー溶液の一部とバッファ類(SuperScript III、Invitrogen)を混合し、逆転写反応溶液を調製した。この逆転写反応溶液を50℃で50分加熱した後に、85℃で5分加熱することでcDNAを合成し、cDNA溶液を調製した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
表3に示すような配合で、cDNA 溶液の一部と、各種遺伝子のプライマー(Perfect Real Time Primer、タカラバイオ)、蛍光試薬(SYBR Green、Invitrogen)とを混合し、PCR溶液を調製した。プライマーの標的遺伝子は、FRMD、Merlin、MST1、MST2、SAV1、LATS2、MOB1、YAP、及びTAZとし、ノーマライザ遺伝子はGAPDHとした。これらの標的遺伝子は、図21に示すHippoシグナル経路内で、上流から下流にかけて位置している。PCR溶液に対し、Eco Real Time PCR System(illumina)を用いて温度サイクルを45回繰り返し、cDNAを増幅し、検出した。その後、ΔΔCt法により、標的遺伝子発現を相対的に定量した。
【0049】
【表3】
【0050】
NCにおける各標的遺伝子の発現量を1とした場合の各検体における遺伝子の相対発現量を図22に示す。また、NCにおける標的遺伝子の発現量と、φ4、φ6、及びφ8における標的遺伝子の相対発現量と、に対するWelchの両側t検定の結果を図23に示す。
【0051】
図22に示すように、Hippoシグナル経路の下流に位置するLATS2、MOB1、及びYAPの発現量は、φ4、φ6、及びφ8において減少していた。図21に示したように、これらの遺伝子は、Hippoシグナル経路の細胞基質内の最下流に位置するYAP/TAZのリン酸化と核外移行を正に制御している。また、LAST2及びMOB1は、F-アクチンにより負の制御を受けている。
【0052】
したがって、マイクロニードルで刺激された細胞において、F-アクチンの重合が促進され、LAST2及びMOB1の発現が抑制される。マイクロニードルアレイで刺激された細胞の近傍の細胞にもシグナルが伝達され、LAST2及びMOB1の発現が抑制される。その結果、マイクロニードルで刺激された細胞を中心とする広い範囲の細胞において、YAP/TAZの脱リン酸化と核内移行が促進され、卵巣細胞の増殖が促進されることが示された。
【符号の説明】
【0053】
10・・・マイクロニードル、11・・・筒状部、12・・・棒状部材、13・・・マイクロニードル集合体、14・・・支持体、15・・・弾性接続部、20・・・エコー装置、30・・・卵巣
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