(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087838
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】オルガノポリシロキサン組成物、その硬化物、電子部品封止剤、電子部品、および半導体チップの保護方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20230619BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20230619BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20230619BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20230619BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230619BHJP
H01L 33/56 20100101ALI20230619BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/16
C08K5/098
H01L23/30 R
H01L23/30 F
H01L33/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202339
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 亮介
【テーマコード(参考)】
4J002
4M109
5F142
【Fターム(参考)】
4J002CP043
4J002CP121
4J002CP122
4J002DD047
4J002EG047
4J002EX037
4J002EZ006
4J002FD156
4J002GJ02
4M109EA10
4M109EB02
4M109EB04
4M109EC05
4M109EC11
4M109GA01
4M109GA02
5F142AA44
5F142AA52
5F142AA63
5F142AA75
5F142CG05
5F142CG16
5F142FA18
5F142GA21
(57)【要約】
【課題】 低弾性率、低応力で強度、耐寒性、透明性に優れ、更にセリウム化合物の添加により長時間の高温条件でもこれら特徴を維持し、特にその内部に強い温度勾配が生じる場合でもクラック・剥離等が生じにくい硬化物を与える硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】 ヒドロシリル化反応により架橋するオルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサン、200℃で1時間暴露した時の質量減少率が2.0質量%以下である非反応性オルガノポリシロキサン樹脂、および任意にアルカリ金属シラノレートと少なくとも1種以上のセリウム塩化物および・またはカルボン酸塩の反応生成物を含有するヒドロシリル化硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均して少なくとも2個有し、25℃における粘度が10~10,000mPa・sの範囲内であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)200℃で1時間暴露した時の質量減少率が(B)成分の質量に対して2.0質量%以下である、下記式:
(R1
3SiO1/2)a(SiO4/2)b(R2O1/2)c
(式中、各R1は独立して、1~10個の炭素原子を有し脂肪族炭素-炭素二重結合を含まない一価炭化水素基;R2は水素原子又は1~10個の炭素原子を有するアルキル基;a、b、cは0.35≦a≦0.55、b=1-a、0≦c≦0.05を満たす数)で表される、オルガノポリシロキサン樹脂:10~80質量部、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有し、25℃における粘度が2~10,000mPa・sの範囲内であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン:組成物全体に占めるケイ素原子に結合したアルケニル基1個当りケイ素原子に結合した水素原子が0.5~2.0個となる量、
(D)ヒドロシリル化反応用触媒:(A)から(C)が反応し硬化するのに十分な量、および任意で
(E)(e1)アルカリ金属シラノレートと(e2)M1Clyで示される塩化物および(R4COO)yM1で示されるカルボン酸塩(式中、R4は同種または異種の一価炭化水素基、M1はセリウム又はセリウムを主成分とする希土類元素混合物、yはM1の原子価により1~3)から選ばれる少なくとも1種以上の塩、の反応生成物:0~10質量部、
を含有するオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
M4Q構造の含有量が1.0質量部以下である請求項1のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が
(A-1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子内に少なくとも2個有し、25℃における粘度が10~10,000mPa・sの範囲内である、下記の一般式(1)で表される分枝状オルガノポリシロキサン
(R3SiO1/2)d(R2SiO2/2)e(RSiO3/2)f (1)
(式中、Rは、それぞれ独立に一価の炭化水素基を表しその全てのうち少なくとも2個はアルケニル基であり、d、e、fは0.1≦d≦10.0、80.0≦e≦99.8、0.1≦f≦10.0、またd+e+f=1を満たす数)、および
(A-2)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子内に少なくとも2個有し、25℃における粘度が10~10,000mPa・sの範囲内である直鎖状オルガノポリシロキサン、
のいずれかの1種類又は混合物である請求項1または2に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
前記(A-1)成分の、前記ケイ素原子に結合した一価の炭化水素基すべてのうち、0.25~4.00モル%が、アルケニル基である、請求項3に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
前記(C)成分が
(C-1)25℃における粘度が2~1,000mPa・sの範囲内であり、ケイ素に結合した水素原子を1分子中に2個有する鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン:組成物全体に占めるケイ素原子に結合したアルケニル基1個当りケイ素原子に結合した水素原子が0を超え2.0以下の個数となる量、であり、任意に
(C-2)25℃における粘度が2~1,000mPa・sの範囲内であり、ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に3個以上有し、かつ、R4SiO3/2(式中、R4は一価炭化水素基)またはSiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%含有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン:組成物全体に占めるケイ素原子に結合したアルケニル基1個当りケイ素原子に結合した水素原子が0.1~0.8個となる量、
を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
前記(E)成分が、0.5~5.0質量%のM1原子を含有する、請求項1または2に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン組成物を含む、電子部品封止剤。
【請求項8】
実質的に透明である、請求項7に記載の電子部品封止剤。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなり、JIS K2220で規定される1/4ちょう度の直読値が10~150の範囲内である、オルガノポリシロキサン硬化物。
【請求項10】
実質的に透明である、請求項9に記載のオルガノポリシロキサン硬化物。
【請求項11】
請求項7または請求項8に記載の電子部品封止剤若しくは請求項9または請求項10に記載のオルガノポリシロキサン硬化物を備えた電子部品。
【請求項12】
パワーデバイスに搭載された、請求項11に記載の電子部品。
【請求項13】
前記電子部品が、光電子部品である、請求項11に記載の電子部品。
【請求項14】
一般照明器具、ディスプレイ用部材、光学部材または光電子部材に搭載された請求項13の電子部品。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン組成物、請求項7に記載の電子部品封止剤若しくは請求項9に記載のオルガノポリシロキサン硬化物を用いることを特徴とする、半導体チップの保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化して透明性と強度に優れる硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物に関し、更に、特定の添加物により耐熱性、特に高温下における部材内部の温度差が生じても耐クラック性に優れたオルガノポリシロキサン硬化物を与える、オルガノポリシロキサン組成物に関する。また、本発明は、当該オルガノポリシロキサン組成物を含む電子部品封止剤および前記オルガノポリシロキサン硬化物を備えた電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、シロキサン単位が重合したオルガノポリシロキサンを主剤として含み、架橋剤などと反応してオルガノポリシロキサン硬化物となる。硬化性オルガノポリシロキサン組成物のうちヒドロシリル化反応により硬化する組成物は、一般的にはケイ素原子に結合したビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基とも言う)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、およびヒドロシリル化触媒を含有し、前記SiH基とアルケニル基の付加反応により硬化する組成物である(例えば、特許文献1~4)。硬化性オルガノポリシロキサン組成物はSiH基とアルケニル基の比率などによりその硬化物の架橋密度を設計することができ、硬化物に望ましい物理的・化学的特性を付与することができる。特に、「シリコーンゲル」と称される低架橋密度のオルガノポリシロキサン硬化物の多くは耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、および電気絶縁性等に優れ、低弾性率且つ低応力である。この低弾性率且つ低応力、という、各種エラストマーなど他の材料には見られない特徴を生かし、ゲル状オルガノポリシロキサン硬化物は車載電子部品、民生用電子部品、ディスプレイ用部材等の電子部品の保護に封止材として、又は部材の貼り合わせに用いられている。近年では、これら部材等への高信頼性化などの要求から、ゲル状オルガノポリシロキサン硬化物を含むオルガノポリシロキサン材料に、より優れた強度が求められている。特に、車載部品としてのディスプレイやアウトドアスポーツ向けの小型カメラなどには強い或いは継続的な振動などに晒されるため、貼り合わせ部分の強度が求められる。
【0003】
更に、用途によってはオルガノポリシロキサン硬化物にこれまでにも増して耐寒性、耐熱性が求められてきており、広い温度域に渡っての、物理的強度を含む信頼性の向上が望まれている。一例として、近年では、パワーデバイスと呼ばれる、電力の制御や変換を行う高電圧・大電流下で作動する電子部品用途の普及に伴い、これらの電子部品、特にシリコンチップの動作温度が従来の150℃程度から175℃程度まで上昇した。さらにはSiC半導体の普及により、動作温度は200℃以上が求められることが多くなっている。このため、これらのデバイスに保護材として使用されるゲル状オルガノポリシロキサン硬化物の耐熱性を種々の耐熱性添加剤を加えることにより向上させる方法が提案されている(例えば特許文献4~7)。これらの耐熱性添加剤を含むオルガノポリシロキサン組成物を硬化させたオルガノポリシロキサン硬化物には200℃を超える温度に長時間晒されてもその低弾性率を保有できるだけの耐熱性を示すものもある。
【0004】
しかしながら、パワーデバイスの信頼性確保には使用されるオルガノポリシロキサン硬化物が高耐熱性であるだけでは不十分である。パワーデバイスに使用されるパワー半導体モジュールはその稼働中に発熱するが、その熱源はモジュールの底面であり、デバイスの形状または構造によっては保護材として使用されているオルガノポリシロキサン硬化物のうち、モジュール底面付近のみが高熱に曝され、同一部材内で多大な温度差が生じる場合がある。このような部材内の温度差に起因する温度勾配は、オルガノポリシロキサン硬化物内部の膨張率の差として内部応力を発生させ、特に時間経過/サーマルサイクルとともに、オルガノポリシロキサン硬化物にクラック(亀裂やひび割れ)が生じ、その保護機能が劣化するという問題があった。特許文献4等に記載のオルガノポリシロキサン組成物は、200℃を超える高温下でも弾性特性に優れたオルガノポリシロキサン硬化物を与えるものであるが、部材内の温度差に起因するクラックの発生防止という技術的課題に対し、未だ改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭48-017847号公報
【特許文献2】特開昭56-143241号公報
【特許文献3】国際公開第WO2015/034029号
【特許文献4】特開平08-225743号公報
【特許文献5】国際公開第WO2015/111409号
【特許文献6】特開2018-053015号公報
【特許文献7】特開2021-011510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、オルガノポリシロキサン組成物からなる電子部品封止剤およびオルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなる電子部品用貼り合わせ部材の、保管、保存、信頼性の課題を解決することを目的とする。また、オルガノポリシロキサン組成物を硬化して得られるオルガノポリシロキサン硬化物の性能の向上、つまり従来のオルガノポリシロキサン硬化物の強度が、望まれる強度に満たないこと、高温での長期使用によって弾性率、応力および高透明性の劣化が起こること、また部材内部での大きな温度差が生じる場合にオルガノポリシロキサン硬化物内部でクラックが発生しやすいこと、という課題を改善することを目的とする。さらに、本発明は、電子部品に使用されたオルガノポリシロキサン硬化物の不十分な強度や耐熱性、またその劣化などに起因する電子部品の信頼性や使用継続時間の低下を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件発明者は、鋭意検討した結果、上記課題の解決には組成物内に、低分子量のシロキサンオリゴマーを含まず、一定量以上の分岐シロキサン単位を有しアルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン樹脂を含む、ヒドロシリル化反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物を調製し、その硬化物を用いることが有効であることを見出した。すなわち、本件発明者は、(A)25℃における粘度が10~10,000mPa・sの範囲内であり、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均して少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)200℃下で1時間暴露した時の質量減少率が2.0質量%以下である、一般式
(R1
3SiO1/2)a(SiO4/2)b(R2O1/2)c
(式中、各R1は独立して1~10個の炭素原子を有し炭素-炭素二重結合を含まない一価炭化水素基、R2は水素原子又は1~10個の炭素原子を有するアルキル基、a、b、cは、0.35≦a≦0.55、0.45≦b≦0.65、0≦c≦0.05、かつa+b=1を満たす)で表されるオルガノポリシロキサン樹脂、(C)25℃における粘度が2~10,000mPa・sの範囲内であり、1分子中にケイ素結合水素原子を少なくとも2個有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(D)ヒドロシリル化硬化用の触媒、を含有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いることにより、上記課題のうち強度と接着強度に関する課題を解決できることを見出し、更に(E)特定量の(e1)アルカリ金属シラノール化合物と(e2)塩化セリウム塩またはセリウムのカルボン酸塩、の反応生成物を加えることによって耐熱性およびクラック発生に係る課題を解決できることを見出し本発明に到達した。また、当該オルガノポリシロキサン組成物からなる電子部品封止剤や貼り合わせ剤、当該オルガノポリシロキサン組成物を硬化させて得られるオルガノポリシロキサン硬化物およびそれからなる貼り合わせ部材、またこれらを備えた電子部品により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
より具体的には、本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、前記(A)成分100質量部に対し、上記(B)成分を10~80質量部、上記(C)成分を組成物全体に占めるケイ素原子に結合したアルケニル基1個当りケイ素原子に結合した水素原子が0.5~2.0個となる量、上記(D)成分を(A)から(C)が反応し硬化するのに十分な触媒量、含む。更に、耐熱性が求められる場合は上記(E)成分を0~10.0質量部 含む組成物である。(E)成分は0.5~5.0質量%のセリウム原子などを含有するものでもよく、添加する場合その量は前記オルガノポリシロキサン組成物全体に対して(E)成分中のセリウム原子などの含有量が0.005~0.15質量%となる量としてもよい。
【0009】
また、前記(A)成分および(C)成分は、分枝状、直鎖状、またはこれらの混合物である形状のものでもよい。
【0010】
さらに、本発明は、前記オルガノポリシロキサン組成物を含む電子部品封止剤、特に、パワーデバイス用の封止剤を提供する。この封止剤は実質的に透明であっても良い。また、前記オルガノポリシロキサン組成物を含む電子部品用貼り合わせ部材を提供する。
【0011】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は硬化性であり、ヒドロシリル化反応により硬化物が得られる。本発明は、このオルガノポリシロキサン硬化物を提供する。本発明のオルガノポリシロキサン硬化物は、実質的に透明であり、硬化反応完了直後にはJIS K2220で規定される1/4ちょう度の直読値が10~150の範囲内である。本発明のうち(E)成分を含む耐熱性を向上させた硬化物の場合、225℃で1000時間保持した後においても硬化反応完了直後の1/4ちょう度の直読値の50%以上を保つものである。オルガノポリシロキサン硬化物は電子部品の保護のためおよび貼り合わせの維持に用いることができる。本発明のオルガノポリシロキサン硬化物は実質的に透明であってもよい。
【0012】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物およびこれらの封止材や貼り合わせ部材は、半導体などの電子部品に触れまたはその周辺に配置し、加熱により硬化させ硬化物をその場に配置することができる。よって本発明はこのようなオルガノポリシロキサン硬化物を備えた電子部品を提供する。また、電子部品が発光ダイオードなどの光学部品や光電子部品であれば、前記オルガノポリシロキサン硬化物を備えた一般照明器具、光学部材または光電子部材を提供する。特に、前記(E)成分を含むオルガノポリシロキサン硬化物を備えた、過酷な環境下で使用される半導体チップ、またそれを備えたデバイスを提供する。当該半導体チップには、LED等の発光半導体素子やパワー半導体が含まれ、本発明は特に耐熱性・耐寒性を持つパワーデバイスを提供する。
【0013】
さらに、本発明のオルガノポリシロキサン組成物およびこの硬化物を用いて、半導体チップを保護する方法を提供する。特に耐熱性と耐寒性が要求される場合への応用も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、その硬化後は、本質的なゲル強度に優れ、一般的に難しいとされる、針入度で測定されるゲル硬度のロット毎のばらつきを抑えた量産性に優れる硬化物を与えることを特徴とする。また、この組成物にセリウムを含む成分を加えれば、200℃を超える高温下での耐熱性および透明性に優れ、高温での長期使用によっても低弾性率、低応力および高透明性を維持することができ、かつ、高温の熱源を硬化物の底面のみに設置する場合に代表されるように長時間に亘って部材内部での大きな温度差が生じる場合であっても、クラックが発生し難いオルガノポリシロキサン硬化物を与えることができる。さらに、本発明により、この組成物からなる電子部品封止剤および前記オルガノポリシロキサン硬化物を備えた電子部品を提供することができる。
【0015】
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物は、従来のオルガノポリシロキサン硬化物よりも優れた強度を持つため、封止剤、または貼り合わせ部材として車載電子部品、民生用電子部品、ディスプレイ用部材等の電子部品に使用した際、これらの部品をより長期的に保護することができ、その信頼性を向上させる。更に、耐熱性を付与した本発明のオルガノポリシロキサン硬化物をICやハイブリッドIC等の電子部品の保護用途に用いた場合、SiC半導体で求められるような200℃以上の高温下でも透明性を維持するとともに、強度に優れ、耐熱性および耐寒性に優れるので、長期耐久性の向上が期待できる。また、熱源の配置等により、オルガノポリシロキサン硬化物内部での大きな温度差が生じる使用条件や、極端な、また部分的な温度変化に晒される宇宙空間や極限環境でも、クラック等の問題を生じ難く、経時劣化を起こし難いことから、このような使用条件下でも高信頼性且つ高耐久性の電子部品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、各成分について詳細に説明する。なお、本明細書において、シロキサン単位は、シリコン原子に隣接するシロキサンの酸素が何個結合しているかにより、M単位(A3SiO1/2)、D単位(A2SiO2/2)、T単位(ASiO3/2)、Q単位(SiO4/2)と表すことがあり、このときAは-OSi以外の基または原子である。また、粘度は、JIS K7117-1に準拠してB型粘度計を用いて、25℃において測定した値である。
【0017】
[硬化性オルガノポリシロキサン組成物]
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
(A)成分はアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の主剤(ベースポリマー)の一つである。このオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基(以下、「ケイ素原子結合アルケニル基」ともいう)を分子中に平均して少なくとも2個含有し、25℃において10~10,000mPa・sの範囲内の粘度を有する。より具体的には、(A)成分は以下の(A-1)成分および(A-2)成分のいずれか1種類またはこれらの混合物であり、さらに、任意で(A-3)成分としてアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂を含んでもよい。(A-1)成分はオルガノポリシロキサン硬化物に耐寒性を付与することができ、(A-2)成分はオルガノポリシロキサン硬化物の強度を向上させることができる。発現させたい特性に応じて、(A-1)成分と(A-2)成分を組み合わせても良い。また、後述の(B)成分との組み合わせで耐寒性を向上させることも可能であるので、以下にこれらの組み合わせについても述べる。
【0018】
(A-1)成分は分岐状オルガノポリシロキサンであり、ケイ素原子結合アルケニル基を分子中に平均して少なくとも2個含有する。(A-1)成分は、一定量のRSiO3/2(式中、Rは一価炭化水素基)単位により分岐した構造を有してもよい。(A-1)成分は、好適には以下の平均構造式(1)で表すことができる:
(R3SiO1/2)d(R2SiO2/2)e(RSiO3/2)f (1)
式1中、Rは、一価の炭化水素基を表し、d、eは、fはそれぞれ正数であり0.1≦d≦10.0、80.0≦e≦99.8、0.1≦f≦10.0、d+e+f=1を満たす。(A-1)成分の重合度(DP)は好ましくは200以下である。
【0019】
(A-1)成分の分岐状オルガノポリシロキサンは、特定量の分岐構造を有するものである。具体的には、(A-1)成分を構成する全シロキサン単位のうち、R3SiO1/2単位がモル%として0.1以上、1.0以上、または3.0以上であり同時に10.0以下であり、R2SiO2/2単位がモル%として80.0以上であると同時に99.8以下、98.9以下、または96.9以下であり、RSiO3/2単位がモル%として0.1以上、1.0以上、または3.0以上であり同時に10.0以下である。すなわち、式1中のd:e:fの比が、これらモル%の比に相当する。(A-1)成分が、こうした分岐構造を有することにより、特に低温下において耐寒性に優れるオルガノポリシロキサン硬化物を得ることができる。なお、上記のR2SiO2/2単位と、RSiO3/2単位と、R3SiO1/2単位のモル比は、核磁気共鳴(NMR)によって測定して求めた値である。
【0020】
(A-1)成分における、シロキサン構造単位中のケイ素原子に結合した一価の炭化水素基(すなわち、上述したRである)は主鎖または分岐鎖の側鎖、または末端に位置し、i)脂肪族不飽和結合を含まず非置換の若しくは置換基を含む一価の炭化水素基、またはii)一価のアルケニル基である。(A-1)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を分子中に平均して少なくとも2個有する。
【0021】
Rが、i)脂肪族不飽和結合を含まず非置換のまたは置換基を含む一価の炭化水素基である場合、その炭素原子数は、1以上であり、同時に2以下、3以下、4以下、6以下、8以下、9以下、または10以下の範囲に入るいずれの整数であっても良い。Rの炭素原子数は好ましくは1~6の範囲に入る数である。脂肪族不飽和結合を含まず非置換のまたは置換基を含む一価の炭化水素基とは、具体的には、アルキル基;アリール基;アラルキル基;中でもメチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基、さらに、合成が容易であることから、特にメチル基、フェニル基例示される。または、これらの基の水素原子の一部または全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換した基、例えばクロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0022】
Rが、ii)一価のアルケニル基である場合、こうしたアルケニル基は、炭素原子数が2以上であり、同時に3以下、4以下、または6以下の範囲に入るいずれの整数でも良く、炭素原子数が2~4、あるいは2~3であるアルケニル基である。その具体例としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられ、特にビニル基が例示される。
【0023】
(A-1)成分の上記平均構造式(1)において、ケイ素原子に結合した一価の炭化水素基R全てのうち、ケイ素原子結合アルケニル基の割合がモル%として0.10以上、0.25以上、あるいは0.50以上であり、同時に4.00モル以下、あるいは2.00モル%であってよい。なお、上記のアルケニル基の量は、フーリエ変換型近赤外分光分析装置を用いて定量した値である。
【0024】
(A-1)成分の25℃における粘度は、10~10,000mPa・sの範囲内であるが、25℃で10~5,000mPa・sの範囲内、あるいは10~1,000mPa・sの範囲内であってもよい。
【0025】
(A-1)成分である分岐状オルガノポリシロキサンは、公知の方法により、所望の粘度および設計構造で合成可能である。例えば、特開昭61-16295号公報の実施例等の記載に準じて、RSiO3/2、R2SiO2/2、及びR3SiO1/2の各シロキサン単位を有する加水分解物と、ViR0
2SiOSiR0
2Vi及び環状ポリシロキサン(R0
2SiO)y(各式中、Rはアルキル基等の脂肪族不飽和結合を含まない一価の炭化水素基であり、Viはビニル基等のアルケニル基である)をカリウムシラノレート存在下、加熱し平衡重合することによって調製できる。
【0026】
(A-1)成分が上記の量のケイ素原子結合アルケニル基を含むことにより、硬化終了後JIS K 2220で規定される1/4ちょう度の直読値が10~150の範囲内である柔軟性をもったいわゆるゲル状のオルガノポリシロキサン硬化物を得ることができる。本発明において「硬化終了」とは硬化性オルガノポリシロキサン組成物を80℃で一時間静置したことを言う。
【0027】
(A-1)成分は、上記の粘度を有することにより、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の取扱作業性および流動性、並びに得られる硬化物の強度を良好なものにすることに貢献する。ここで、硬化物の強度とは、硬化物が応力を受けたとき破壊されず耐える度合いである。つまり、硬化物の破壊を起こさせる応力が大きいほど硬化物の強度が高いと言える。本発明ではこれを接着強度の測定と同様な方法で測定した。すなわち、接着強度を測定する際に剥離せず凝集破壊が起こったときには硬化物自体を破壊して測定が終了するため、接着強度試験において凝集破壊が起こった応力の数値をもって対象となったオルガノポリシロキサン硬化物の強度を表現する。
【0028】
(A-1)成分の使用により、本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、上記の強度に加えて、特に、-40℃を下回る低温下においても耐寒性に優れるオルガノポリシロキサン硬化物を与えることができる。
【0029】
(A-2)成分は直鎖状オルガノポリシロキサンであり、ケイ素原子に結合したアルケニル基を分子中に平均して少なくとも2個含有する。(A-2)成分は、好適には以下の平均構造式(2)で表すことができる:
(R3SiO1/2)g(R2SiO2/2)h (2)
(式(2)中、Rは、上述した(A-1)成分の一般式(1)におけるRと同様な一価の炭化水素基を表し、i)脂肪族不飽和結合を含まず非置換の若しくは置換基を含む一価の炭化水素基、またはii)一価のアルケニル基である。gおよびhは、それぞれ正数を表し、0.1≦g≦10.0、90.0≦h≦99.9、またg+h=1)(A-2)成分の重合度は100以上、150以上、または200以上、であり同時に300以下、400以下、または500以下の範囲内にあるような数である。
【0030】
(A-2)成分を構成する全シロキサン単位のうち、R3SiO1/2単位がモル%として0.1以上、0.5以上、または1.0以上であり同時に10.0以下、5.0以下、または3.0以下の範囲内の量であり、R2SiO2/2単位がその残りを占める、つまりモル%として90.0以上、95.0以上、または97.0以上であり同時に99.9以下、99.5以下、または99.0以下である。ここで、式2中のg:hの比が、これらモル%の比に相当する。なお、上記のR2SiO2/2単位とR3SiO1/2単位のモル比は、核磁気共鳴(NMR)によって測定して求めることができる。
【0031】
(A-2)成分の上記平均構造式(2)において、ケイ素原子に結合した一価の炭化水素基R全てのうち、ケイ素原子結合アルケニル基の割合がモル%として0.25以上、0.50以上、または1.00以上であり同時に4.00以下、3.00以下、または2.00であってよい。なお、上記のアルケニル基の量は、フーリエ変換型近赤外分光分析装置を用いて定量することができる。
【0032】
(A-2)成分の25℃における粘度は10~10,000mPa・sの範囲内であるが、25℃で1.0以上、または5.0以上であっても良く同時に5000以下、或いは1000以下のmPa・s値の範囲内であってもよい。
【0033】
(A-2)成分が、上記の構造を有することにより、硬化終了後JIS K 2220で規定される1/4ちょう度の直読値が10~150の範囲内である、柔軟性をもったいわゆるゲル状のオルガノポリシロキサン硬化物を得ることができる。上記の粘度を有することにより、(A-2)成分は、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の取扱作業性および流動性、並びに得られる硬化物の強度を良好なものにすることに貢献する。
【0034】
上記平均構造式(2)で表される直鎖状オルガノポリシロキサンとしては、ジメチルシロキサンからなる重合体が例示されるが、更に、例えば、メチルトリフルオロプロピルシロキサンからなる重合体、またはジメチルシロキサンおよび・またはメチルトリフルオロプロピルシロキサンに加えてメチルビニルシロキサンおよび・またはジフェニルシロキサン・フェニルメチルシロキサンを任意の比率で含む共重合体であるもの、また、これら重合体の両末端がジメチルビニルシロキシ基、メチルジビニルシロキシ基、またはトリビニルシロキシ基で封鎖された、あるいは一方の末端がトリメチルシロキシ基、もう一方の末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたもの;両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された、ビニルメチルシロキサンと、ジメチルポリシロキサンおよび・またはメチルトリフルオロプロピルポリシロキサンを任意の比率で含み、さらにジフェニルシロキサン、又はフェニルメチルシロキサンを任意で含む共重合体;等が挙げられる。
【0035】
上に例示された直鎖状オルガノポリシロキサンのうち、フェニル基を含有しないもの、いわゆるジメチルポリシロキサンは、本発明のオルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化物に機械的強度を改善する効果はあるが、上述の(A-1)成分の様には耐寒性を付与することはできない。これに対し、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体などのフェニル基を含有する共重合体(いわゆるフェニル基含有オルガノポリシロキサン)は耐寒性に貢献する。このため、耐寒性を求めない場合は(A-1)成分を加えずジメチルポリシロキサンのみを含む(A-2)成分を(A)成分として用いても良いが、耐寒性と機械的強度の両立を可能にするためには(A-1)成分と併用する、および・または(A-2)成分をフェニル基含有ポリシロキサンを含むものにすればよい。この時、組成物内のフェニル基の含有量を以下に述べる量に制御することで、得られる硬化物に耐寒性を付与することができる。
【0036】
(A-1)、(A-2)に関わらず、(A)成分の一部または全部として、フェニル基含有オルガノポリシロキサンを用いる場合、フェニル基の含有量はケイ素原子に結合した官能基全体に対してモル%として1以上または3以上、であり同時に10以下、または7以下であるような範囲内であるとよい。これはフェニル基の含有量が10モル%を超えると、硬化物中のフェニル基に由来してオルガノポリシロキサン硬化物の硬度が上昇し柔軟性が損なわれる場合があり、その配合量によっては、応力緩和特性に必要な低硬度を有するゲル状の硬化物を形成するのが困難になる場合があるからである。また、フェニル基の含有量が前記下限1モル%未満では、ジメチルポリシロキサン骨格を有するオルガノポリシロキサン硬化物に、十分な耐寒性を付与できなくなる場合があるからである。
【0037】
なお、(A-1)成分、(A-2)成分に関わらず、上述した、いわゆるフェニル基含有オルガノポリシロキサンを主剤として、これも上述したいわゆるジメチルポリシロキサンを添加することにより、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物の機械的強度を向上させることが可能である。この場合においても、硬化性オルガノポリシロキサン組成物のフェニル基の含有量は、前段落に例示した範囲内にあることが好ましい。特に、フェニル基の含有量が上記上限を超えると、併用するジメチルポリシロキサンと相互溶解し難くなり、組成物全体の均一性が損なわれる場合がある。
【0038】
(A-1)成分と(A-2)成分の量的関係としては、前述の通り、それぞれ単独で用いても、併用しても良いが、得られるオルガノポリシロキサン硬化物の耐寒性と機械的強度を両立できる観点から(A-1)成分100質量部に対してジメチルポリシロキサン系の(A-2)成分を2~150質量部、あるいは2~100質量部とするとよい。この量的範囲の割合とすることで、得られるオルガノポリシロキサン硬化物の耐寒性を改善しつつ、その物理的特性を改善できるとともに、硬化前のオルガノポリシロキサン組成物の取り扱い性をさらに改善でき、また、コスト的にも有利である。
【0039】
任意成分である(A-3)成分はアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂であり、樹脂状、すなわち三次元的な分岐構造を持ったオルガノポリシロキサン成分である。(A-3)成分は平均して少なくとも2個のアルケニル基を分子内に含み、RrSiO3/2(式中、Rrは一価有機基)で表されるシロキサン単位およびSiO4/2で表されるシロキサン単位から選ばれるシロキサン単位のモル合計が、全シロキサン単位の少なくとも20モル%であるオルガノポリシロキサン樹脂である。Rrは(A-1)成分の一般式(1)におけるRと同様な一価有機基すなわちi)脂肪族不飽和結合を含まず非置換の若しくは置換基を含む一価の炭化水素基、またはii)一価のアルケニル基、または水酸基である。
【0040】
(A-3)成分中のアルケニル基には(A-1)成分に有されるアルケニル基についての本願中の記載が当てはまる。このようなアルケニル基は、特にビニル基またはヘキセニル基が例示される。アルケニル基はヒドロシリル化反応性を有するため、オルガノポリシロキサン硬化物を形成する架橋反応に取り込まれ、得られる硬化物の機械的強度を向上される効果が期待できる。
【0041】
(A-3)成分中のケイ素原子に結合する基でアルケニル基以外のものとしては、水酸基、または脂肪族不飽和結合を含まない非置換のまたは置換基を含む一価の炭化水素基が例示され、その炭素原子数は、1以上であり同時に2以下、3以下、4以下、6以下の範囲に入るいずれの整数、或いは6以上または7以上でも良く、同時に8以下、9以下、10以下、12以下、16以下、18以下、または20以下の範囲に入るいずれの整数であっても良い。脂肪族不飽和結合を含まない非置換のまたは置換基を含む一価の炭化水素基とは、具体的には、アルキル基;アリール基;アラルキル基;または、これらの基の水素原子の一部または全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換した基、ヒドロキシル基で置換したアルコキシ基、が挙げられる。中でもメチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基、さらに、合成が容易であることから、特にメチル基、フェニル基または3,3,3-トリフルオロプロピル基が例示される。組成物に含まれる他の成分との相互溶解性の観点から、アルキル基、特にメチル基であることが好ましい。
【0042】
(A-3)成分を添加する場合の添加量は任意であるが、本発明のオルガノポリシロキサン組成物全体に対して質量%として、0.0を超える値、または0.10以上であると同時に10以下、7.5以下、または5.0以下である範囲で添加することができる。上記の(A-1)成分、(A-2)成分に加えて、(A-3)成分の量をこの範囲内にすることにより、得られるオルガノポリシロキサン硬化物の機械的強度を改善することが可能である。(A-3)成分の添加量が機械的強度を向上させる効果はその添加量が0.10質量%以上の場合有意に観察できると言える。また、10質量%を超えた場合は、オルガノポリシロキサン組成物の25℃での粘度が高くなりすぎる場合があり、さらに得られる硬化物が硬くなりすぎるので、実用上、好ましくない。
【0043】
(B)低分子量の分子種の含有量が少ない、アルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン樹脂
(B)成分は本発明の主成分の一つであり、アルケニル基を含まないオルガノポリシロキサン樹脂である。具体的には(R1
3SiO1/2)で表されるシロキサン単位(M単位)と(SiO4/2)で表されるシロキサン単位(Q単位)から構成されるMQレジンと呼ばれるオルガノポリシロキサン樹脂である。本発明において(B)成分は後述するように低分子量の生成反応副生物の含有量が少なく、それゆえに200℃下で1時間暴露した時の質量減少率が2.0質量%以下である。本発明ではこのMQレジンにおいて低分子量の生成反応副生物の含有量が少ないことを特徴とする。
【0044】
(B)成分のオルガノポリシロキサン樹脂は具体的には以下の平均構造式(3)により表すことができる:
(R1
3SiO1/2)a(SiO4/2)b(R2O1/2)c (3)
(式中、a、b、cは0.35≦a≦0.55、0.45≦b≦0.65、0≦c≦0.05、かつa+b=1)
上記の平均構造式(3)において、各R1は独立の、脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基であり、その炭素原子数は、1以上であり、同時に2以下、3以下、4以下、6以下、8以下、9以下、または10以下の範囲に入るいずれの整数であっても良い。その構造はアルキル基;アリール基;アラルキル基からなる群から選択される基であり、特にメチル基、フェニル基が例示される。ここで、1分子中の全R1の70モル%以上が炭素原子数が1~10の範囲内にあるアルキル基、特にメチル基である(B)成分が例示され、更に1分子中の全R1の88モル%以上が炭素原子数1~10の範囲内にあるアルキル基、特にメチル基であることが、工業生産上および発明の技術的効果の見地から注目される。
【0045】
また上記式(3)中、R2は水素原子又はアルキル基であり、アルキル基の場合その炭素原子数は1以上であり同時に2以下、3以下、4以下、6以下、8以下、9以下、または10以下の範囲に入るいずれの整数であっても良い。R2のアルキル基として、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、及びヘキシル基が例示できる。当該R2を含む基R2O1/2は、水酸基又はアルコキシ基に該当し、その酸素原子はシロキサン単位のケイ素原子に結合する。
【0046】
上記式(3)中、a、b、cはそれぞれM単位であるR1
3SiO1/2で表されるシロキサン単位、Q単位であるSiO4/2で表されるシロキサン単位、またR2O1/2で表される水酸基またはアルコキシ基の割合を示す。
【0047】
上記式(3)中、aは、0.35以上、0.40以上、または0.45以上であり同時に0.60以下、または0.55以下である範囲内の数である。aが前記の範囲の下限以上であれば、本成分を含む組成物の粘度が高くなるのを防ぐことができる。他方、aが前記範囲の上限以下であれば、本発明の硬化性シリコーン組成物を硬化させて得られるオルガノポリシロキサン硬化物の機械的強度(硬度、伸び率等)が低くなりすぎない。
【0048】
上記式(3)中、bは、0.40以上、または0.45以上であり、同時に0.7以下、または0.65以下である範囲内の数である。bが前記の数値範囲内であれば、本成分を含む組成物の粘度が高くなりすぎず、組成物を硬化させて得られる硬化物が機械的強度に優れるものとできる。
【0049】
上記式(3)中、cは0である場合もあるが、いずれにせよ0.0以上であり同時に0.05以下、または0.03以下の範囲内の数である。cが範囲の上限以下であれば、本成分を含む組成物は優れた熱硬化性を示す。
【0050】
(B)成分は樹脂状ポリマー部を成すQ単位とその末端となるM単位を提供する原料の平衡反応で生成されるため、M単位とQ単位の比率、つまりで前記aとbの数値により(B)成分の分子量の制御可能であり、上記のaとbの範囲内ではトルエンを溶媒として測定されるゲル透過クロマトグラフィー(GPC)測定(ポリスチレン標準物質を基準)で2,000~25,000の範囲の数値となる。
【0051】
(B)成分の主たる分子種であるいわゆるMQレジンは、公知の方法により所望の分子量および設計構造で合成可能であるが、本発明では組成物に配合するMQレジンは200℃下常圧で1時間暴露した時の質量減少率が2.0質量%以下であることを特徴とする。当該条件下での質量減少は、この条件下で揮発する低分子量成分の存在に起因する。(B)成分の生産工程においては、M単位とQ単位からなるオルガノポリシロキサン樹脂を重合するときに揮発性の低分子量成分が副生成物として現れる。この揮発性低分子量成分をここでは「M4Q構造体」と呼ぶ。M4Q構造体が本発明のオルガノポリシロキサン組成物に混入すると、当該オルガノポリシロキサン組成物を硬化して得られるオルガノポリシロキサン硬化物の硬度を著しく下げる効果があり、その含有量により得られるオルガノポリシロキサン硬化物の硬度が著しく変化し、硬度を表す針入度の数としても変化が歴然とする。
【0052】
このようなM4Q構造体はそれを含むオルガノポリシロキサン樹脂を200℃以上の温度で保つと減少しいずれ失われることは知られているが、これはM4Q構造体を含むオルガノポリシロキサン樹脂をその組成の一部とするオルガノポリシロキサン硬化物を200℃以上の温度でエージングするとM4Q構造体が徐々に揮発していくことを意味し、揮発が進むことでオルガノポリシロキサン硬化物の針入度が著しく低下、つまり硬化物の硬度が増す。すなわち、公知の方法でMQレジンを製造するとM4Q構造体を一定量以上含むため、特に精製しない既存のMQレジンを用いてオルガノポリシロキサン組成物を作製すると、硬化で得られる硬化物の耐熱特性は劣るものとなり、特に経時的に悪化してしまう。また、通常、MQレジンのロット毎にM4Q構造体の含有量が違うため、こういったMQレジンを硬化性オルガノポリシロキサン組成物に使用すると得られる硬化物の針入度はロットが変わる毎に変わるといった品質の安定性にも問題が生じる。よって、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、M4Q構造体を含まないことを特徴とし、そのためには(B)成分のオルガノポリシロキサン樹脂合成後、本発明のオルガノポリシロキサン組成物が硬化して硬化物となる以前にM4Q構造体を除去することが必要である。
【0053】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物がM4Q構造体を含まないようにするためには(B)成分のオルガノポリシロキサン樹脂が合成されたのち、本発明のオルガノポリシロキサン組成物に配合する前にM4Q構造体を除去することができる。その方法としては、オルガノポリシロキサン樹脂の製造工程において、重合反応後、得られた粗原料である粒子状のオルガノポリシロキサン樹脂を得た後に、それをオーブンなどで乾燥してするか、二軸混錬機にて前述した有機溶剤と一緒に取り除く方法などが挙げられる。より具体的には、M4Q構造体を含むオルガノポリシロキサン樹脂を、200℃程度の高温で樹脂の表面積に応じて一定時間、それ以上質量減少が見られないまで処理することで揮発成分は除去できる。例えば1gのオルガノポリシロキサン組成物を直径50mmのアルミカップ内で硬化して得たオルガノポリシロキサン硬化物を200℃に設定したオーブンで熱すると、概ね1時間その質量が減少し、その後一定となる。また、200℃に設定した二軸混錬機などで成分(B)となるオルガノポリシロキサン樹脂から有機溶剤とM4Q構造体等の揮発成分とを同時に除去することが可能である。この時200℃程度に設定すれば二軸混錬機内の滞在時間は5分程度で十分である。また、処理するオルガノポリシロキサン硬化物が粒状でこれを雰囲気中で撹拌しながらこの温度に加熱するなどすると、体積に対する表面積が大きいので揮発性の低分子量のM4Q構造体は数分で除去できる。
【0054】
なお、このようなオルガノポリシロキサン樹脂は原料モノマーと相溶性の高い有機溶剤の存在下での重合反応によって製造され、その有機溶剤を減圧乾燥等により取り除くことで生産物であるオルガノポリシロキサン樹脂を得ることができるが、M4Q構造体はこのような有機溶剤よりもオルガノポリシロキサン樹脂との相容性が高く、単に有機溶剤を取り除くような乾燥条件では除去することは困難である。また、本発明の硬化性オルガノシロキサン組成物を成す(A)成分、(C)成分、(D)成分、或いは任意の(E)成分にはこのようなM4Q構造体をその生成の過程で産生しないため、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物或いはその硬化物と、先行技術であるM4Q構造体を含むMQレジンを(B)成分の代わりに含む組成物およびその硬化物は、これら組成物或いは硬化物をあらかじめ150℃で加熱し有機溶剤などを揮発させ、その後200℃で加熱しその質量減少を測定することで区別できる。更に、揮発した成分をガスクロマトグラフィーなどで同定することができる。前記の様にM4Q構造体自体が溶剤などと比較すると揮発しにくいため、一般的な原料の準備方法では取り除くことができず、上記の様にM4Q構造体の除去を目的とした特定のプロセス内のステップにより取り除く必要がある。また、M4Q構造体よりも分子量の高い化合物、例えば、M6Q2やMVi4Qで表される構造体は200℃程度の温度で揮発することはないことからこのステップはM4Q構造体の除去に特化したものであると言える。
【0055】
(B)成分は、(A)成分質量部100に対して10~80質量部であることが例示される。より詳しくは、10以上、15以上、20以上、40以上、あるいは50以上、であると同時に60以下、70以下、或いは80以下であるような範囲内にある量が例示される。特に10~80質量部、または15~80質量部、40~70質量部の範囲が例示される。上記の範囲内で(B)成分を使用すると本発明の組成物中に入りうるM4Q構造体量は1.0質量部以下、あるいは0.5質量部以下となる。言うまでもないが、0質量部に近いほど好ましい。本発明の組成物をクロマトグラフィー処方により分析することで、M4Q構造体の分子量のピークからその残存量は定量することができる。
【0056】
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤
(C)成分は、架橋剤であり、ケイ素原子結合水素原子(SiH基とも表す)を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。成分(C)のSiH基が上記の成分(A)およびその他の成分に含まれる炭素-炭素二重結合とヒドロシリル化反応用触媒の存在下で反応することにより架橋可能な組成物である本発明のオルガノポリシロキサン組成物を硬化させる。
【0057】
(C)成分は、HR3
2SiO1/2で表される一価のハイドロジェンオルガノシロキシ単位(MH単位と表す。R3は独立に一価有機基)や、HR3SiO2/2で表される二価のハイドロジェンオルガノシロキシ単位(DH単位と表す。R3は独立に一価有機基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであればよい。その構造は特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状、環状または樹脂状であってよい。(C)成分の具体的な構造としては、MH単位を含む直鎖状のみ、もしくは直鎖状と分岐鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキキサンの組み合わせを用いることが例示される。ただし、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなるオルガノポリシロキサン硬化物を耐熱性が必要な用途に使用する場合、未反応のSiH成分が系内に残っていると、高温でさらなる架橋が進み、針入度が変化する懸念があるため、反応性が低く全てのSiH基が容易には反応しないDH単位よりは、反応性が良好で系内の全てのSiH基が速やかに反応するMH単位を含むオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用する方が好ましい。なお(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の量は、赤外分光装置によって測定することができる。
【0058】
(C)成分は、(C-1)鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンのみからなるか、(C-1)鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(C-2)分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの混合物であっても良い。それぞれの成分を以下に説明する。
【0059】
(C-1)成分の鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、上記(A)成分と反応し、本組成物の架橋剤として作用するものである。こうした鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に2個のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有し、2~10,000mPa・sの範囲内の粘度を有する。(C-1)成分は、分岐構造を殆どあるいは全く持たずその構造の大部分が鎖状であり、特に、直鎖状の構造を有してもよく、SiH基の位置は鎖の両末端であることが例示される。このような(C-1)成分は以下の平均構造式(4)で表すことができる:
(HR3
2SiO1/2)2(R3
2SiO2/2)v (4)
式(4)中、R3は、上述した(B)成分におけるi)脂肪族不飽和炭素結合を有さない一価炭化水素基と同様の基を表し、工業的見地からは、メチル基またはフェニル基が例示される。また式中、vは1以上の数であり、好ましくは2+vは500以下である。具体的な構造としては、以下の平均構造式:
(H(Me)2SiO1/2)(Me2SiO2/2)v1(SiO1/2(Me)2H)
(式中Meはメチル基)
で表される分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された分岐を持たないジメチルポリシロキサンが例示される。ここで、v1は、25℃における粘度が2.0~500mPa・sの範囲内、あるいは、2.0~150mPa・sの範囲内となる数である。つまり、v1は1以上であり同時に50以下、100以下、または200以下であるような整数である。また、以下の鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンも例示される。なお、式中、Me、Phは、それぞれ、メチル基、フェニル基を示し、v2は1~100の整数であり、v3は1~50の整数である。
HMe2SiO(Ph2SiO)v2SiMe2H
HMePhSiO(Ph2SiO)v2SiMePhH
HMePhSiO(Ph2SiO)v2(MePhSiO)v3SiMePhH
HMePhSiO(Ph2SiO)v2(Me2SiO)v3SiMePhH
【0060】
(C-1)鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンのオルガノポリシロキサン組成物中における含有量は、(A)成分のアルケニル基1個に対してケイ素原子に結合した水素原子が0を超える個数、或いは0.1以上の個数であり、同時に1.5以下の個数、または1.2個以下となる範囲内の量が例示される。
【0061】
(C-1)成分の25℃における粘度は2.0~10,000mPa・sの範囲内であるが、2.0~5000mPa・sの範囲内、あるいは2.0~1000mPa・sの範囲内であってもよい。こうした粘度を有する(C-1)成分は、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の取扱作業性および流動性、並びに得られる硬化物の強度が良好なものにすることに貢献する。
【0062】
(C-2)成分の分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、前述の(C-1)成分と組み合わせて使用されるもので、上記(A)成分と反応し、本組成物の架橋剤として作用する。こうした分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分岐構造を持つためにR4SiO3/2またはSiO4/2で表されるシロキサン単位を分子中の全シロキサン単位の少なくとも20モル%の割合で含有する。これらの分岐単位量が前記下限未満では、得られるオルガノポリシロキサン硬化物の針入度を効果的に調整できない場合がある。
【0063】
また、(C-2)成分は、1分子中に少なくとも3個のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有する。(C-2)成分のSiH基は1分子中3個以上であるが、4個以上、5個以上、または10個以上であっても良く、同時に500個以下、200個以下、100個以下、または80個以下であっても良い。
【0064】
(C-2)成分は、下記平均単位式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであっても良い:
(R4
3SiO1/2)j(R4
2SiO2/2)k(R4SiO3/2)m(SiO4/2)n(R5O1/2)p (5)
(式中、j、k、m、n及びpは、以下を満たす数である:0.1≦j≦0.80、0≦k≦0.5、0≦m≦0.8、0≦n≦0.6、0≦p≦0.05、但し、m+n≧0.2、かつj+k+m+n=1)
式中、各R4は同じか又は異なる、脂肪族不飽和炭素結合を有さない炭素原子数1~10の一価炭化水素基もしくは水素原子であり、但し、一分子中、少なくとも3個のR4は水素原子である。水素原子以外のR4である一価炭化水素基について、その炭素原子数は、1以上であり同時に2以下、3以下、4以下、6以下の範囲に入るいずれの整数、或いは6以上または7以上でも良く、8以下、9以下、または10以下の範囲に入るいずれの整数であっても良い。脂肪族不飽和結合を含まない非置換のまたは置換基を含む一価の炭化水素基とは、具体的には、アルキル基;アリール基;アラルキル基;アルキル基;アリール基;アラルキル基;または、これらの基の水素原子の一部または全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換した基、が挙げられる。中でもメチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基、さらに、工業的見地からは、合成が容易であることから、特にメチル基またはフェニル基が例示される。
【0065】
一方、R5は水素原子又は1以上であり同時に2以下、3以下、4以下、6以下の範囲に入るいずれの整数、或いは6以上または7以上でも良く、同時に8以下、9以下、10以下、の範囲内の整数の炭素原子を有するアルキル基である。つまり、R5O1/2は水酸基またはアルコキシ基を示す。R5としては、特に、水素原子、メチル基またはエチル基が例示され、よって、OR5としては、水酸基、メトキシ基またはエトキシ基が例示される。
【0066】
式中、j、k、m、n、及びpは、以下を満たす数である:0.1≦j≦0.80、0≦k≦0.5、0≦m≦0.8、0≦n≦0.6、0≦p≦0.05、但し、m+n≧0.2、かつj+k+m+n=1、であり、k=0であるものが特に例示される。本組成物を耐熱用途に使用する場合、(C-2)成分の例である樹脂状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは具体的には、MHMT樹脂、MHMTTH樹脂、MHMTQ樹脂、MHMQ樹脂、MHMTTHQ、MHQ樹脂が例示される。ここでこれらの樹脂は含まれるシロキサン単位で示されて、例えばMHMTQ樹脂はM単位、MH単位、T単位、Q単位を任意の割合で含む樹脂である。なお、M単位、MH単位、T単位、Q単位は上述のとおりでTH単位はHSiO3/2を表している。特に、(C-2)成分は、
(H(CH3)2SiO1/2)j1(SiO4/2)n1
で表される、MHQ樹脂であってよい。ここで、j1+n1=1であり、0.1≦j1≦0.80かつ、0.20≦n1≦0.90であることが例示される。
【0067】
(C-2)成分の含有量は、(A)成分のアルケニル基1個に対してSiH基が0.05~0.8個となる量が例示される。より詳細には、0.05個以上、または0.1個以上であり同時に0.8個以下、または0.75個以下となる範囲にある量が特に例示される。(C-2)成分のオルガノポリシロキサン組成物中における含有量をこの範囲内にすることにより、オルガノポリシロキサン硬化物の針入度を下げすぎない範囲でその硬さを効果的に制御することが可能である。(C-2)成分に含まれるSiH基が、(A)成分のアルケニル基1個に対して前記下限より少なくなると、この成分に因るオルガノポリシロキサン硬化物の針入度の調節が困難となる。
【0068】
(C-2)成分は25℃における粘度が2.0~10,000mPa・sの範囲内であり、好ましくは、2.0~5000mPa・sの範囲内であり、より好ましくは2.0~1000mPa・sの範囲内である。こうした粘度を有する(C-2)成分の添加は、組成物の取扱作業性および流動性、並びに得られる硬化物の強度を良好なものにする。
【0069】
(C-2)成分は、得られるオルガノポリシロキサン硬化物の針入度を調整することに加え、耐クラック性(特に部材内部における温度差に起因する内部応力に基づく亀裂・破損等)を改善する効果がある。本発明にかかるオルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなるオルガノポリシロキサン硬化物の耐熱・耐寒性および耐クラック性を含む物理的性質の見地から、本組成物全体に含まれるアルケニル基1.0個に対して、(C-1)成分と(C-2)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計個数は0.7個以上、或いは0.8個以上であり同時に1.2個以下、または1.0個以下の範囲にある数である。
【0070】
(D)ヒドロシリル化反応用触媒
本発明の(D)成分は、前記(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基と前記(C)成分中のケイ素原子結合水素原子とのヒドロシリル化反応を促進させるための触媒として使用されるものである。(D)成分としては白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒、さらに鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒が例示されるが、本組成物の硬化を著しく促進できることから白金系触媒が特に例示される。この白金系触媒は公知のものから適宜選択することができるが白金-アルケニルシロキサン錯体が代表的であり、アルケニルシロキサンの構造は限定するものではないがその錯体の安定性が良好であることから1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが例示され、当該錯体のアルケニルシロキサン溶液の形態で添加することが好ましい。加えて、取扱作業性および組成物のポットライフの改善の見地から、熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。これらのヒドロシリル化反応用触媒は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0071】
熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒である場合、(D)成分である白金系付加反応触媒は、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂中に分散あるいはカプセル化した触媒である、白金含有ヒドロシリル化反応触媒を含む熱可塑性樹脂微粒子であってもよい。また、(D)成分の一部または全部は、高エネルギー線の照射により初めて組成物中で活性を示す触媒であってよく、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)白金(II)等に代表される高エネルギー線活性化触媒又は光活性化触媒であってもよい。
【0072】
(D)成分の配合量は有効量でよく、所望の硬化速度により適宜増減することができるが、例えば白金系触媒の場合、白金金属としての量が、通常組成物全体の質量に対して、0.1~1,000ppm、好ましくは1~300ppmの範囲内である。この配合量が前記した範囲の上限を超えても硬化速度の点で優位性がなく、白金の価格(コスト)の点から経済的に不利である。
【0073】
(E)(e1)アルカリ金属シラノレートと、(e2)塩化セリウムまたはセリウムのカルボン酸塩から選ばれる少なくとも1種以上のセリウム塩の反応生成物
(E)成分は、任意成分であり、本発明のオルガノポリシロキサン組成物を含むオルガノポリシロキサン組成物および・またはその硬化物をより高い耐熱性が必要な用途に使用する場合に使用できる。(E)成分であるこの反応生成物は、例えば特開昭49-83744,さらには特開昭60-240761号にその生成方法と共に記載されているが、(E)成分を生成する個々の成分とその反応を以下に要約する。
【0074】
(e1)アルカリ金属シラノレートは、例えば、(e1-1)1種類以上の環状オルガノポリシロキサンを(e1-2)アルカリ金属水酸化物により開環反応して得られた反応生成物に、(e1-3)25℃における粘度が10~10000mPa・sの範囲内であるオルガノポリシロキサンをさらに反応させて得ることができる。
【0075】
(e1-1)成分の環状オルガノポリシロキサンは特に限定されないが、例えば以下の一般式(6)を有する環状オルガノポリシロキサンを挙げることができる。
【化1】
式(6)中、Rは、上述した(A)成分の一般式(1)におけるRと同様な一価炭化水素基を表し、sおよびtは、それぞれ0~8の整数であり、但し、3≦s+t≦8である。(e1-1)環状オルガノポリシロキサンとしては、具体的にはヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、の他、これらのメチル基の一部がその他の炭化水素基、水素基、または(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ビニル基、アミノプロピル基などの反応性の基に置換されたものでもよく、また、これらの各種オルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0076】
(e1-2)成分のアルカリ金属水酸化物としては特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等を挙げることができる。こうした(e1-2)成分の量は、一般的に(e1-1)成分100質量部に対して、0.1質量部~10質量部であるがこれに限定されるものではなく反応状況によって調節すればよい。
【0077】
(e1-3)成分のオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が10~10,000mPa・sの範囲内である従来公知の鎖状オルガノポリシロキサンであればよく、常温で液体を保つ範囲ならば若干の分岐を含んでも良い。また、シロキサン単位のケイ素原子には、(A)成分の一般式(1)におけるRとして例示したものと同様な非置換のまたは置換基を含む一価炭化水素基(一価のアルケニル基でもよい)が結合するものである。また、このオルガノポリシロキサンの分子鎖末端は、トリメチルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基、ビニルジメチルシロキシ基等のアルケニルジアルキルシロキシ基、ジビニルメチルシロキシ基等のジアルケニルアルキルシロキシ基、トリビニルシロキシ基等のトリアルケニルシロキシ基などのトリオルガノシロキシ基や、水酸基、アルコキシ基などで封鎖されたものが挙げられる。
【0078】
(e1-3)成分のオルガノポリシロキサンの粘度は、25℃における粘度が10mPa・s以上、または50mPa・s以上であり、同時に、1,000mPa・s、または10,000mPa・sである粘度の範囲内である。(e1-3)成分の粘度が10mPa・s以下の場合、高温での蒸発量が多くなりやすく、質量変化が大きくなるという問題がある。(e1-3)成分の量は、特に限定されないが、一般的に(e1-1)成分100質量部に対して、0.1質量部~10質量部である。
【0079】
(e1)成分を得るための(e1-1)成分、(e1-2)成分、(e1-3)成分の反応は前述の特開昭60-240761号などにより公知であり、(e1-1)成分に(e1-2)成分を室温で加えて(e1-1)成分を開環させ、そこに(e1-3)成分を加え窒素気流下例えば115℃で2時間反応させることが例示される。
【0080】
(e2)成分のセリウム塩とは、セリウム又はセリウムを主成分とする希土類元素混合物の塩化物又はカルボン酸塩である。すなわちM1Clyで示される塩化物、および(R4COO)yM1で示されるカルボン酸塩(式中、R4は同種または異種の一価炭化水素基、M1はセリウム又はセリウムを主成分とする希土類元素混合物、yはM1の原子価により1~3)である。カルボン酸としては、2-エチルヘキサン酸、ナフテン酸、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸などが例示される。なお、このM1の塩化物またはカルボン酸塩はその取り扱いの容易さの面から、低級アルコール類または有機溶剤の溶液として使用されるのがよく、低級アルコールとしてはメタノールやエタノール、有機溶剤としては、ストッダードソルベント(ミネラルスピリット)、リグロイン、石油エーテルなどの石油系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤が例示される。
【0081】
(e2)成分の量は上記(e1)成分の全量100質量部に対して、M1の量が0.05以上、または0.1以上の質量部であり同時に5質量部以下、または3質量部以下となる量が例示されるが、これに限定されるものではなく、反応状況によって調節すればよい。
【0082】
(E)成分は、(A)成分100質量部に対して質量部として0.20以上、または0.3以上であってよく同時に10.0以下、5.0以下、または0.5以下である範囲内の質量部で添加され、より具体的には、0.2質量部、0.3質量部、0.4質量部程度の少量で添加される。さらに、(E)成分の添加量は、組成物全体に対して、(E)成分中のM1含有量が0.005以上、または0.01以上であり同時に0.15、または0.1質量%の範囲内となる量例示される。このM1はそのほとんどがそのM1原子が酸素原子を介してケイ素原子と結合した単位を少なくとも1個有する含ケイ素化合物であるシラノレートとして存在するが、それ以外の形状であっても(E)成分に含有されるものとして計量する。(E)成分の量をこの範囲内にすることにより、得られるオルガノポリシロキサン組成物の耐熱性の面で有利である。(E)成分の添加量が0.20質量部未満の場合、高温での耐熱性向上の効果が見られず、逆に10質量部を超えた場合、オルガノポリシロキサン硬化物の透明性が低下するほか、オルガノポリシロキサン組成物のコスト増となり経済的に不利である。
【0083】
(E)成分は、例えば上述のようにして得た(e1)成分を適切な溶剤(例えばイソプロパノール)に溶解し、室温で(e2)成分の溶解液を滴下して(e1)及び(e2)成分を混合後、150℃以上の温度で熱処理し、固体である反応物をろ過回収、減圧、弱加熱の下で溶剤を除去することによって得ることができる。その熱処理における加熱温度は、150℃以上、200℃以上、または250℃以上であると同時に310℃以下、305℃以下、または300℃以下の温度範囲内で熱処理することができる。加熱温度が150℃未満の場合、均一な組成を得ることが難しく、310℃を超えると、例えば(e1-3)成分の熱分解速度が大きくなるという問題がある。
【0084】
本発明の強度の高いオルガノシロキサン硬化物はさらに(E)成分を含むことにより長時間の高温条件下でも柔軟性を維持し、低弾性率且つ低応力という望ましい特徴を継続的に示す。つまり、本発明のオルガノポリシロキサン組成物に(E)成分を添加すると、200℃を超える高温下での耐熱性および透明性に優れ、高温での長期使用によっても低弾性率、低応力および高透明性を維持し、耐クラック性を持つオルガノポリシロキサン硬化物を成すことができるものになる。
【0085】
その他の任意成分
本発明の組成物には、上記(A)~(D)成分及び任意成分である(E)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、反応抑制剤、無機質充填剤、ケイ素原子結合水素原子およびケイ素原子結合アルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン、接着付与剤、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等の任意成分を配合しても良い。
【0086】
接着付与剤は、オルガノポリシロキサンの基材等への接着性を向上させる成分であり、当業者に一般的に知られるものから適宜選択することができる。接着付与剤は、その種類および量が、オルガノポリシロキサン硬化物の透明性を低下させたり、硬化阻害を発生させたりすることがない物質または量的範囲を選択して使用することが好適であり、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物が、本願実施例の項に記載の方法により評価した場合、実質的に透明であり、JIS K2220で規定される1/4ちょう度の直読値が200以下の範囲となるオルガノポリシロキサン組成物を与える範囲で、任意に使用することができる。本発明のオルガノポリシロキサン組成物に添加するには、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、チタンエチルアセトネート、チタンアセチルアセトネート等のチタン化合物、特開2002-322364号公報に開示された一般式(RaO)zSiRb
(4-z)(ここでRaはアルキル又はアルコキシアルキル基を表し、Rbは非置換の又は置換基を含む1価の炭化水素基を表し、zは3又は4)で示されるシランおよびその部分加水分解縮合物またはこれらの組み合わせ、特にメチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、が例示される。ここで、上述の接着付与剤の含有量は限定されず、適宜設計できるが、一般的には組成物全体に対して0.001~5質量%の範囲内である。
【0087】
反応抑制剤は、オルガノポリシロキサン組成物のヒドロシリル化反応を抑制するための成分であって、当業者に一般的に知られるものから適宜選択することができ、例えば、アセチレン系、あるいはアミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。反応抑制剤の添加量は、一般的にはオルガノポリシロキサン組成物全体の0.001~5質量%である。特に、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の取扱作業性を向上させる目的では、エチニルシクロヘキサノール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-フェニル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコール系化合物;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のシクロアルケニルシロキサン;ベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物等が特に制限なく使用することができる。
【0088】
機械的強度をより上げるために無機質充填剤を添加することも出来、その種類は特に制限されるものではないが、オルガノポリシロキサン組成物に低粘度、且つ透明性を要求される場合は、無機質充填剤を配合しないことが一般的で、配合する場合は20質量%以下、特に10質量%以下の量であると硬化物を透明にできる。また、ナノ微粒子を使用すると透明性を保持できる場合もある。透明性を問わない場合は、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤;これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で表面疎水化処理した充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0089】
[オルガノポリシロキサン組成物の調製]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、上記(A)~(D)成分((E)成分やその他の任意成分が配合される場合には、任意成分も含む)を常法に準じて混合することにより調製することができる。その際に、混合される成分を必要に応じて2パートまたはそれ以上のパートに分割して混合してもよく、例えば、(A)成分の一部並びに(B)、(C)および任意成分からなるパートと、(A)成分の残部および(D)成分からなるパートとに分割して、それぞれ混合した後、これら2つのパートを混合して調製することもできる。特に、いずれかのパートに、任意成分として前記の反応抑制剤を含むことが好ましい。
【0090】
シリコーン組成物の各成分の混合方法は、従来公知の方法でよく特に限定されないが、通常、単純な攪拌により均一な混合物となる。また、任意成分として無機質充填剤等の固体成分を含む場合は、混合装置を用いた混合がより好ましい。こうした混合装置としては特に限定がなく、一軸または二軸の連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサー、ヘンシェルミキサー等が例示される。
【0091】
こうして得られるオルガノポリシロキサン組成物は、電子部品用の封止剤やディスプレイ用の張り合わせ剤として好適に用いることができる。特に、(E)成分を含むオルガノポリシロキサン組成物を半導体チップの封止剤やディスプレイの貼り合わせ剤として用いることにより、当該組成物が硬化した後は優れた耐熱性が要求される過酷な環境下でも熱源や局所的な加熱に対するクラックを生じることなく、半導体チップ又はディスプレイを効果的に保護することができる。
【0092】
[オルガノポリシロキサン組成物の硬化]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、常温もしくは用途に応じた温度条件下でヒドロシリル化反応により硬化させることによりゲル状、つまり下に示すJIS K2220で規定される1/4ちょう度の直読値が測定できる範囲内であるような硬度のオルガノポリシロキサン硬化物となる。硬化のための温度条件は、特に限定されないが、実用的には通常60℃~150℃の範囲内である。このようにして調整されたオルガノポリシロキサン硬化物も本発明の一様体である。
【0093】
[オルガノポリシロキサン硬化物]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物は、機械的強度及び接着特性に優れるので、大面積化及び信頼性の温度領域の広域化が進むディスプレイ様の張り合わせ剤に好適に使用できる。また(E)成分を併用することで、200℃を超える高温下での耐熱性および透明性に優れ、高温での長期使用によっても低弾性率、低応力および高透明性を維持することができ、且つ高温の熱源をオルガノポリシロキサン硬化物の一面(例えば、底面)のみに設置する場合に代表されるように、オルガノポリシロキサン硬化物の一方向のみが高温にさらされた状態で長時間放置しても、部材内部の温度差及び内部応力に起因してオルガノポリシロキサン硬化物にクラックなどの欠陥が生じにくい特性を有する。(E)成分を含む場合、さらに、半導体チップ、SiC半導体チップ、IC、ハイブリッドIC、パワーデバイス等の電子部品の保護用途に用いた場合、高温下でも透明性を維持し、耐熱性に優れるので長期耐久性の向上が期待されるだけでなく、低温下でも劣化しにくいので、温度差の激しい過酷な使用条件下であっても高信頼性且つ高耐久性の電子部品を提供できる利点がある。特に、オルガノポリシロキサン硬化物を封止剤等として備える電子部品は、温度差の激しい過酷な使用条件下であっても高信頼性且つ高耐久性を有する。なお、前記の半導体チップには、LED等の発光半導体素子が含まれる。
【0094】
(1/4ちょう度)
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物は、JIS K2220で規定される1/4ちょう度の直読値(読み取りの単位は1/10mm)が10以上、20以上、または30以上であり同時に150以下、120以下、または100以下である範囲内にあるものである。こうした範囲のJIS K2220で規定される1/4ちょう度の直読値を示すオルガノポリシロキサン硬化物は、低弾性率および低応力といったオルガノポリシロキサン硬化物の特徴を有するものになる。この針入度が10より小さい場合には、低弾性率、低応力といったオルガノポリシロキサン硬化物の特徴を発揮することが困難であり、150を超える場合には、オルガノポリシロキサン硬化物としての形態を保持し難く、流動してしまう。なお、「1/4ちょう度の直読値」とは、JIS K2220の1/4ちょう度計を用いて、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度試験と同様に、試料の表面から1/4コーンを落下させ、このコーンが進入した深さを読み取った値である。
【0095】
(透明性)
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物は、特にディスプレイ用途で使用される場合、透明であることが好ましい。一方で、パワーデバイス等の封止剤として使用される場合、着色などがあっても良いが、実質的に透明であることが工業的に好ましい。「実質的に透明」とは、アルミカップに事前に脱気したシリコーンゲル組成物を10mm厚になるように静かに注いで気泡が無いことを目視で確認し、その後80℃以上150℃以下の任意の温度で加熱して得た厚さ10mmのオルガノポリシロキサン硬化物が、上面から目視して、アルミカップの底面を目視できる程度に透明であることを意味する。オルガノポリシロキサン硬化物が、こうした透明性を有することにより、パワーデバイス等の半導体の封止剤等として有用である。
【0096】
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物はこれを備えた電子部品に優れた耐久性を付与することから、本発明の一様態は電子部品の保護方法であり、1)オルガノポリシロキサン組成物およびこれらの封止材や貼り合わせ部材を半導体などの電子部品に触れまたはその周辺に配置し、2)加熱により当該組成物を硬化させ、得られる硬化物をその場に配置する方法である。加熱は電子部品およびそれらが搭載された基盤の耐熱性にもよるが概ね80℃から150℃の範囲内で組成物が流動性を失うまで行うことができる。
【0097】
また、本発明の一様態は上述のオルガノポリシロキサン硬化物を備えた電子部品であり、車載電子部品、民生用電子部品、ディスプレイ用部材が例示される。電子部品は光電子部品であっても良く、LED等の発光半導体素子が例示され、これを備えた一般照明器具も本発明の一部である。特に、前記(E)成分を含むオルガノポリシロキサン硬化物を備えた電子部品は例えば宇宙空間など過酷な温度変化に晒されるものであっても良い。また、200℃以上の高温と冷却の周期に晒されるパワー半導体、特にSiC半導体を含む電子部品やそれを搭載したデバイスも本発明の一様態である。パワー半導体を備えたパワーデバイスとしてはモータ制御、輸送機用モータ制御、発電システム、または宇宙輸送システムを挙げることができる。
【実施例0098】
以下、本発明のオルガノポリシロキサン組成物およびシリコーン硬化物を実施例により詳細に説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例の記載に限定されるものではない。実施例中の粘度は25℃における値である。
【0099】
[(E)成分の生成]
以下の方法で(E)成分を生成した。ヘキサメチルシクロトリシロキサンおよびオクタメチルシクロテトラシロキサンの混合物を水酸化カリウムにより開環反応してカリウムシラノレート化合物を調製した。このカリウムシラノレート化合物100gを150gのイソプロパノールに溶解し、これを撹拌させながら、無水の塩化セリウム2.5g、エタノール50g、及びメタノール50gの混合物を滴下して加えて反応させた。この反応混合物をろ過した後、ろ液を減圧下、40~50℃に加熱してエタノール、メタノールを留去した。次に、これを再度ろ過して、淡黄色液状の反応生成物を調製した。この反応生成物中のセリウムの含有量は1.4質量%であった。
【0100】
[オルガノポリシロキサン組成物およびオルガノポリシロキサン硬化物の評価]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物の透明性、1/4ちょう度、耐熱性、およびクラック耐性は次のようにして測定した。
【0101】
(オルガノポリシロキサン硬化物の作製)
50mlのガラスビーカーにビーカーの底から3cmの高さになるまでオルガノポリシロキサン組成物を静かに注いだ後、80℃で1時間加熱してオルガノポリシロキサン硬化物を作製した。
【0102】
(1/4ちょう度の測定)
JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度試験と同様に、JIS K2220の1/4ちょう度計を用いて、対象となるオルガノポリシロキサン硬化物の表面から1/4コーンを落下させ、このコーンが進入した深さを読み取り(読み取りの単位は1/10mm)、この値を「直読値」として記録した。
【0103】
(オルガノポリシロキサン硬化物の耐熱性)
上記の方法で硬化させたオルガノポリシロキサン硬化物を、225℃のオーブン中に静置した後、1000時間後に取り出し、室温に放置し25℃まで自然冷却した。その後、このオルガノポリシロキサン硬化物の1/4ちょう度を測定し直読値(読み取りの単位は1/10mm)を1/4ちょう度として記録した。
【0104】
(オルガノポリシロキサン硬化物のクラック耐性)
上記の方法で硬化させたオルガノポリシロキサン硬化物を、225℃に加熱したホットプレートの上に静置した後、ビーカー越しにオルガノポリシロキサンの外観の状態の観測を1000時間続けた。1000時間以内に目視にてクラックの発生が確認できた場合、その時間を記録した。
【0105】
(オルガノポリシロキサン硬化物の機械的強度・接着強度)
25mm×75mm×1mmのアルミニウム板を2枚用いてJIS K6850/1999で規定される方法で接着強度並びに機械的強度を測定した。なお、試験がオルガノポリシロキサンの凝集破壊で終了する場合、接着強度はそのままオルガノポリシロキサンの機械的強度を示す。
【0106】
[実施例1~8および比較例1~13]
下記の表1、表2、表3、表4に表す成分を表5および表6に示す組成(質量部)で均一に混合して、21種類のオルガノポリシロキサン組成物を調製した。これらのオルガノポリシロキサン組成物を、前記したそれぞれの評価方法に記載した方法で硬化させ、得られたオルガノポリシロキサン硬化物の1/4ちょう度、耐熱性、およびクラック耐性を評価し、結果を以下の表5および表6にまとめた。なお、表中のSiH/Viは(A-1)成分、(A-2)成分、(D)成分合計中に含まれるビニル基1モルに対する(C-1)成分、(C-2)成分合計中のケイ素原子結合水素原子のモル数を示したものである。また、(D)成分の白金金属含有量を組成物中のppmで示した。
【0107】
【0108】
【表2】
★ 揮発量とはこのオルガノポリシロキサン樹脂約1gを直径50mmのアルミカップに計量して200℃にて1時間放置したときの質量減少を%で表したもの。この数値は前述の通りB成分中に残るM
4Q構造体の量と一致する。
【0109】
【表3】
*SiH含有量=ケイ素原子結合水素原子の含有量
【0110】
【0111】
[総括]
表5に表すように、本願実施例1~5においては、本発明の基本的なオルガノポリシロキサン組成物の性能を示している。これらの組成物の硬化物は本発明において特徴的な(B)成分を添加しており、(B)成分を十分量含まない比較例1、2と比較すると高い接着強度並びに機械的強度が観測されたので、(B)成分を含む組成物はより強靭なオルガノポリシロキサン組成物を提供できる事がわかった。また、比較例3、4を見ると本発明の範囲内の(C)成分の性能に対する貢献を確認することができる。さらに、比較例5,6は(B)成分が揮発成分を含む以外は実施例4と同じ組成であるが、強度が相対的に劣り1/4ちょう度が高い上にバラツキがでている。よって、本発明の基本的なオルガノポリシロキサン硬化物は安定的に高い強度を示すことから強度が要求される用途に好適に使用できる。表6には任意成分である(E)成分を更に添加した実施例6~8および比較例を示す。これらの組成物から得られるオルガノポリシロキサン硬化物の耐熱性及び一方向から225℃で長時間加熱した場合の耐クラック性はおしなべて良好であり、かつ、高温で1000時間経過した後における1/4ちょう度も大きく変化しなかったが、比較例7~11のように(B)成分を含まない場合は強度が顕著に劣る。また、比較例12および13の組成物は、(B)成分が揮発成分を含む以外はそれぞれ実施例7、実施例8と同じ組成であるが、本発明の特徴である200℃下で1時間暴露した時の質量減少率が2.0質量%以下であるような(B)成分ではないので、耐クラック性が顕著に劣る。
【0112】
表5 基本組成物の性能
【表5】
(*1)B成分に含まれる200℃にて揮発する成分、つまりM
4Q構造体の量から算出した。
(*2)接着試験の破壊モードは全て凝集破壊となったので、接着強度=オルガノポリシロキサン硬化物の機械的強度となる。
【0113】
表6 (E)成分含有の耐熱性オルガノポリシロキサン組成物中の(B)成分の効果
【表6】
(*1)B成分に含まれる200℃にて揮発する成分、つまりM
4Q構造体の量から算出した。
(*2)接着試験の破壊モードは全て凝集破壊となったので、接着強度=オルガノポリシロキサン硬化物の機械的強度となる。
本発明のオルガノポリシロキサン組成物から得られるオルガノポリシロキサン硬化物は、強度、透明性を有するので、各種半導体素子の封止剤、保護材料、光学素子封止剤、ディスプレイ用張り合わせ部材、一般照明器具等に用いられる光学部材または光電子部材、レンズ(LEDパッケージの外側に設けられる二次的な光学レンズ材料を含む)や光拡散部材、ホワイトリフレクター部材、波長変換部材、光導波路(waveguide)や導光材(light guide)等が例示される。光学部材または光電子部材として使用する場合は、本発明のオルガノポリシロキサン組成物に各種機能性充填材(蛍光性、光拡散性、透光性、着色性、補強性充填材等)を添加しても良い。本発明のオルガノポリシロキサン組成物は従来の同様の光学特性を持つオルガノポリシロキサン組成物と同様に使用することができ、その高い強度により従来のものよりもこれを含むデバイスや部品の保護に優れ信頼性を高める。
さらに、(E)成分を含む本発明のオルガノポリシロキサン組成物から得られるオルガノポリシロキサン硬化物は、SiC半導体チップに求められるような200℃以上の耐熱性に加えて一方向からのみ高温が加えられてもクラックを発生し難いので、サーマルマネジメントを含む回路設計上の自由度が高く、デバイスの下部からのみ熱が発生するパワーデバイス用の封止剤または保護材料にも好適に用いられ、こうしたパワーデバイスの耐久性および信頼性を改善することができる。こうした耐熱性および耐クラック性が求められるパワーデバイスとしては、例えば、汎用インバータ制御、サーボモータ制御、工作機械・エレベータなどのモータ制御、電気自動車、ハイブリッドカー、または鉄道の輸送機用モータ制御、太陽光・風力・燃料電池発電等の発電機用システム、宇宙空間で使用される宇宙輸送システム等が挙げられる。