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特開2023-87881空気流動の評価方法および評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087881
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】空気流動の評価方法および評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/06 20060101AFI20230619BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20230619BHJP
   G01P 13/00 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
G01M9/06
G01N11/00 Z
G01P13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202414
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】平岡 武宜
(72)【発明者】
【氏名】小池 真人
(72)【発明者】
【氏名】今川 翔平
(72)【発明者】
【氏名】安養寺 正之
(72)【発明者】
【氏名】土黒 聖斗
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中島 卓司
(72)【発明者】
【氏名】中村 優佑
【テーマコード(参考)】
2F034
2G023
【Fターム(参考)】
2F034AA02
2F034AB01
2G023AB24
2G023AB27
2G023AC01
2G023AC03
2G023AD03
(57)【要約】
【課題】3次元構造の物体であっても、油膜の膜厚変化による空気流動の観測を適切に行うことができるようにする。
【解決手段】自動車の車両を準備する工程と、車両の観測面に油膜を塗布する工程と、観測面に空気流を発生させる工程と、観測面に空気流が発生した状態における油膜の膜厚の変化から観測面の空気流動を評価する工程と、を含み、油膜を塗布する工程は、観測面が傾斜面または垂直面を含むときには、傾斜面または垂直面に塗布される特定油膜として、傾斜面または垂直面に塗布した後、空気流を発生させる前の特定油膜の移動速度が1.5mm/分以下となるように、オイルの粘度および膜厚が設定された油膜を形成する工程である。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面に位置する観測面に塗布された油膜を観測することで、該対象物周りの空気流動を評価する評価方法であって、
前記対象物として、前記表面に傾斜面または垂直面を有する三次元構造の物体を準備する対象物準備工程と、
前記対象物の前記観測面に油膜を塗布する油膜塗布工程と、
前記対象物の前記観測面に空気流を発生させる流動工程と、
前記流動工程中における前記油膜の膜厚の変化から前記観測面の空気流動を評価する評価工程と、を含み、
前記油膜塗布工程は、前記観測面が前記傾斜面または前記垂直面を含むときには、該傾斜面または該垂直面に塗布される特定油膜として、前記傾斜面または前記垂直面に塗布した後、前記空気流を発生させる前の該特定油膜の移動速度が1.5mm/分以下となるように、オイルの粘度および膜厚が設定された油膜を形成する工程であることを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の空気流動の評価方法において、
前記特定油膜は、前記オイルの粘度が10センチストークス(cs)~100csでありかつ膜厚が30μm以下の油膜であることを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の空気流動の評価方法において、
前記特定油膜は、前記オイルの粘度が10cs以上かつ30cs未満でかつ膜厚が10μm以下の油膜であるか、または前記オイルの粘度が30cs以上かつ50cs未満でかつ膜厚が20μm以下の油膜であることを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つ記載の空気流動の評価方法において、
前記特定油膜は、前記オイルの粘度が低いほど、膜厚が薄くなるように形成されることを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つ記載の空気流動の評価方法において、
前記油膜塗布工程は、前記観測面に含まれる前記傾斜面が、前記流動工程で発生させる空気流の上流側から下流側に向かって下側に傾斜した傾斜面であるとき、または前記観測面に含まれる前記垂直面が前記空気流の流れ方向に対して垂直に広がる垂直面であるときには、前記対象物における前記観測面の直上流側に位置する部分にも前記オイルを塗布する工程であることを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の空気流動の評価方法において、
前記特定油膜は、オイルと蛍光色素との混合物である蛍光オイルで形成された蛍光油膜であり、
前記評価工程は、前記特定油膜に光を照射したときの発光強度から膜厚の変化を観測する工程であり、
前記対象物準備工程は、前記対象物の観測箇所にガラス面が含まれているときには、該ガラス面に白色のフィルムを貼り付ける工程を含むことを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の空気流動の評価方法において、
前記対象物は、自動車の車両であり、
前記観測面は、前記傾斜面として、前記車両のリアウィンドウを含む車両後面部を含み、
前記流動工程は、車両前側から車両後側に向かって空気を流動させる工程であることを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項8】
請求項7に記載の空気流動の評価方法において、
前記観測面は、前記傾斜面として、前記車両のフロントウィンドウを含む車両前面部を更に含み、
前記車両前面部に形成される前記特定油膜は、前記車両後面部に形成される前記特定油膜と比較して、オイルの粘度が高くかつ膜厚が厚い油膜であることを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項9】
請求項1に記載の空気流動の評価方法において、
前記特定油膜を構成するオイルの粘度および膜厚は、前記対象物とは別のパネル材を水平に配置した状態で油膜を塗布した後、該パネル材を垂直にしたときの、該油膜の移動速度が1.5mm/分以下となる、粘度および膜厚に設定されていることを特徴とする空気流動の評価方法。
【請求項10】
対象物の表面に位置する観測面に塗布された油膜を観測することで、該対象物周りの空気流動を評価する評価システムであって、
前記対象物としての自動車の車両と、
前記車両の表面に空気流を発生させる流動発生装置と、
前記流動発生装置により空気流が発生した状態で、前記観測面に塗布された前記油膜の画像を取得する撮像装置と、
前記撮像装置により取得された画像から前記油膜の膜厚を求めて、前記観測面における空気流動を評価する評価装置と、を備え、
前記油膜が塗布される前記観測面は、該車両のリアウィンドウを含む車両後面部であり、
前記流動発生装置は、車両前側に配置されかつ車両前側から車両後側に向かって空気を流動させ、
前記車両後面部に塗布される特定油膜は、前記車両後面部に塗布された後、前記空気流を発生させる前の該特定油膜の移動速度が1.5mm/分以下となるように、オイルの粘度および膜厚が設定された油膜であることを特徴とする空気流動の評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、空気流動の評価方法および評価システムに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
車両のような移動体のデザイン設計では、移動体の意匠性を高くしつつ空力抵抗を低減するような設計が求められている。空力抵抗は、移動体の表面を流れる空気流動が大きく寄与している。このため、移動体の表面における空気流動を観測することができれば、移動体の意匠性と空力抵抗低減とを両立するデザイン設計が可能となる。
【0003】
例えば、特許文献1では、風洞内に位置する車両載置台に実車を載せて、風洞を通る風の実車への影響を測定する風洞試験方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3716158号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tianshu Liu et al, AIAA JOURNAL, Vol.46, No.2, February 2008, p.476-p.485.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のような試験方法では、空力抵抗が移動体(ここでは車両)に与える影響を測定することはできても、空力抵抗の原因となる部分やその部分における空気の流れを特定することが困難である。移動体の意匠性と空力抵抗低減とを両立させるには、移動体の表面における空気流動を可視化する方法が求められる。
【0007】
移動体の表面における空気流動を可視化する手法として、非特許文献1に記載のような、蛍光油膜法が知られている。蛍光油膜法では、観測対象物の表面に蛍光色素を含有する油膜である蛍光油膜を塗布し、流体摩擦応力による蛍光油膜の膜厚の変化を、蛍光油膜の発光強度の変化として捉える。これにより、観測対象物の表面に生じる空気流動を摩擦応力ベクトルの分布として観測することができる。
【0008】
しかしながら、車両のような移動体は、3次元構造をしていることから、観測すべき表面は、水平面のみではなく、水平方向に対して傾斜した傾斜面や水平方向と直交する垂直面が存在する。それらに単純に油膜を形成すると、油膜を形成するオイルが自重により移動してしまう。このオイルの移動により油膜が部分的に薄くなってしまったり、オイルの移動による油膜の変化と空気流動による油膜の変化とが同時に発生したりすると、空気流動を適切に評価することが困難になってしまう。
【0009】
航空機のような、移動速度が速く(300km/時以上)表面付近の空気の流速が早いものでは、オイルの粘度を高くしてオイルの移動を抑制することで観測することが可能である。しかし、車両やドローンのような移動速度が比較的遅い(20km/時~180km/時)ものでは、オイルの粘度を高くしすぎると、表面に発生する流体摩擦応力ではオイルが流動しにくくなり、空気流動を適切に評価することが困難になる。特に、空気が剥離する部分は、流体摩擦応力が比較的小さいため、粘度の高いオイルでは空気流動の評価が困難である。
【0010】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、3次元構造の物体であっても、油膜の膜厚変化による空気流動の観測を適切に行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本願発明者らが鋭意研究したところ、油膜の膜厚および該油膜を構成するオイルの粘度を適切に調整することで、傾斜面や垂直面に油膜を形成したときに、自重による油膜の移動の影響を適切に低減することができることが分かった。
【0012】
すなわち、ここに開示された技術では、対象物の表面に位置する観測面に塗布された油膜を観測することで、該対象物周りの空気流動を評価する評価方法を対象として、前記対象物として、前記表面に傾斜面または垂直面を有する三次元構造の物体を準備する対象物準備工程と、前記対象物の前記観測面に油膜を塗布する油膜塗布工程と、前記対象物の前記観測面に空気流を発生させる流動工程と、前記流動工程中における前記油膜の膜厚の変化から前記観測面の空気流動を評価する評価工程と、を含み、前記油膜塗布工程は、前記観測面が前記傾斜面または前記垂直面を含むときには、該傾斜面または該垂直面に塗布される特定油膜として、前記傾斜面または前記垂直面に塗布した後、前記空気流を発生させる前の該特定油膜の移動速度が1.5mm/分以下となるように、オイルの粘度および膜厚が設定された油膜を形成する工程である、という構成とした。
【0013】
これにより、自重によるオイルの移動が、流体摩擦応力によるオイルの移動に与える影響を抑えることができる。この結果、傾斜面や垂直面についても油膜の膜厚変化を観測することで、空気流動を評価することができる。したがって、3次元構造の物体であっても、油膜の膜厚変化による空気流動の観測を適切に行うことができるようになる。
【0014】
本願発明者らの研究によると、前記特定油膜は、前記オイルの粘度が10センチストークス(cs)~100csでありかつ膜厚が30μm以下の油膜である、ことが好ましい。
【0015】
特に、本願発明者らの研究によると、前記特定油膜は、前記オイルの粘度が10cs以上かつ30cs未満でかつ膜厚が10μm以下の油膜であるか、または前記オイルの粘度が30cs以上かつ50cs未満でかつ膜厚が20μm以下の油膜である、ことが好ましい。
【0016】
このように、特定油膜の膜厚とオイルの粘度とをより適切にすることで、自重によるオイルの移動を抑えつつ、比較的低い移動速度であっても流体摩擦によりオイルを移動させることができるようになる。これにより、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0017】
本願発明者らの研究によると、前記特定油膜は、前記特定油膜は、前記オイルの粘度が低いほど、膜厚が薄くなるように形成される、ことが好ましい。
【0018】
すなわち、オイルの粘度が低いほど、オイルは自重で移動しやすくなる。このため、オイルの粘度が低いほど膜厚を薄くして、オイルの質量を低減する。これにより、自重によるオイルの移動を出来る限り抑制できるようになり、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0019】
前記空気流動の評価方法において、前記油膜塗布工程は、前記観測面に含まれる前記傾斜面が、前記流動工程で発生させる空気流の上流側から下流側に向かって下側に傾斜した傾斜面であるとき、または前記観測面に含まれる前記垂直面が前記空気流の流れ方向に対して垂直に広がる垂直面であるときには、前記対象物における前記観測面の直上流側に位置する部分にも前記オイルを塗布する工程である、という構成でもよい。
【0020】
すなわち、流動工程において、空気流の流速が所望の流速に到達するまでに時間がかかると、所望の流速に到達する前に油膜が移動してしまい、所望の流速に到達した時に油膜が過剰に薄くなってしまうおそれがある。これに対して、観測面の直上流側の部分にオイルを塗布しておけば、当該部分のオイルが移動して観測面に供給されるため、油膜が過剰に薄くなるのを抑制することができる。これにより、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0021】
前記空気流動の評価方法において、前記特定油膜は、オイルと蛍光色素との混合物である蛍光オイルで形成された蛍光油膜であり、前記評価工程は、前記特定油膜に光を照射したときの発光強度から膜厚の変化を観測する工程であり、前記対象物準備工程は、前記対象物の観測箇所にガラス面が含まれているときには、該ガラス面に白色のフィルムを貼り付ける工程を含む、という構成でもよい。
【0022】
すなわち、ガラス面がむき出しの状態では、特定油膜に照射した光がガラス面を透過するため、特定油膜の発光強度が弱くなる。ガラス面に白色のフィルムを貼り付けるようにすれば、該フィルムで光が反射するため、特定油膜の発光強度を出来る限り強くすることができる。これにより、油膜の膜厚変化による空気流動の観測、特に実車両を用いた空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0023】
前記空気流動の評価方法において、前記対象物は、自動車の車両であり、前記観測面は、前記傾斜面として、前記車両のリアウィンドウを含む車両後面部を含み、前記流動工程は、車両前側から車両後側に向かって空気を流動させる工程である、という構成でもよい。
【0024】
すなわち、車両のリアウィンドウを含む車両後面部は、広い傾斜面を有するとともに、車両前側から車両後側に向かって空気を流動させた場合には、空気が剥離する領域となって、流体摩擦が比較的小さくなる。一方で、車両後面部には空気の剥離による渦が生じて、該渦が車両を引きつけて空力抵抗を発生させるため、評価の重要度としては高い。前述のように、特定油膜を適切に構成すれば、このような車両後面部であっても適切に空気流動を評価することができるようになる。特に、実車両を用いた空気流動の観測を適切に行うことができるようになる。
【0025】
対象物が車両である空気流動の評価方法において、前記観測面は、前記傾斜面として、前記車両のフロントウィンドウを含む車両前面部を更に含み、前記車両前面部に形成される前記特定油膜は、前記車両後面部に形成される前記特定油膜と比較して、オイルの粘度が高くかつ膜厚が厚い油膜である、という構成でもよい。
【0026】
すなわち、車両前面部は、車両後面部と比較して、空気の流速が高い。空気の流速が高ければ流体摩擦応力が比較的大きいため、粘度の高いオイルでも油膜が流体摩擦応力により十分に移動する。また、流体摩擦応力が大きいときには、油膜が移動する量が多くなるため、膜厚を出来る限り厚くして、油膜切れを抑制することが好ましい。このように、観測箇所に応じて、適切な特定油膜の条件を選択することで、実車両を用いた空気流動の観測をより適切に行うことができるようになる。
【0027】
前記空気流動の評価方法において、前記特定油膜を構成するオイルの粘度および膜厚は、前記対象物とは別のパネル材を水平に配置した状態で油膜を塗布した後、該パネル材を垂直にしたときの、該油膜の移動速度が1.5mm/分以下となる、粘度および膜厚に設定されている、という構成が好ましい。
【0028】
この構成によると、試験的に垂直面に形成された油膜の移動速度を調査して、特定油膜を構成するオイルの粘度および特定油膜の膜厚をそれぞれ適切に設定することができる。これにより、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0029】
ここに開示された技術は、空気流動の評価システムをも対象にする。具体的には、対象物の表面に位置する観測面に塗布された油膜を観測することで、該対象物周りの空気流動を評価する評価システムを対象として、前記対象物としての自動車の車両と、前記車両の表面に空気流を発生させる流動発生装置と、前記流動発生装置により空気流が発生した状態で、前記観測面に塗布された前記油膜の画像を取得する撮像装置と、前記撮像装置により取得された画像から前記油膜の膜厚を求めて、前記観測面における空気流動を評価する評価装置とを備え、前記油膜が塗布される前記観測面は、該車両のリアウィンドウを含む車両後面部であり、前記流動発生装置は、車両前側に配置されかつ車両前側から車両後側に向かって空気を流動させ、前記車両後面部に塗布される特定油膜は、前記車両後面部に塗布された後、前記空気流を発生させる前の該特定油膜の移動速度が1.5mm/分以下となるように、オイルの粘度および膜厚が設定された油膜である。
【0030】
この構成でも、自重によるオイルの移動を抑えるとともに、比較的低い移動速度であっても流体摩擦によりオイルを移動させることができる。これにより、傾斜面を有しかつ流体摩擦力の小さい車両後面部において、特定油膜の膜厚の変化から空気流動を適切に観測することができる。この結果、3次元構造の物体である実車両において、表面の空気流動の観測を適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、3次元構造の物体であっても、油膜の膜厚変化による空気流動の観測を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、例示的な実施形態に係る評価システムを示す概略図である。
図2図2は、リアウィンドウ付近を拡大して示す拡大斜視図である。
図3図3は、蛍光油膜法の原理を説明するための概略図である。
図4図4は、特定油膜の条件を設定するための実験システムを示す概略図である。
図5図5は、特定油膜の条件を設定するための実験のフローチャートを示す図である。
図6図6は、発光強度に対する膜厚の較正を行うための較正器を示す断面図である。
図7図7は、発光強度と膜厚との関係を示すグラフである。
図8図8は、オイル粘度が10csのときの発光強度を測定した結果を示すグラフである。
図9図9は、オイル粘度が10csのときのオイルの移動量を示すグラフである。
図10図10は、オイル粘度が30csのときのオイルの移動量を示すグラフである。
図11図11は、オイル粘度が50csのときのオイルの移動量を示すグラフである。
図12図12は、オイル粘度が100csのときのオイルの移動量を示すグラフである。
図13図13は、特定油膜の粘度と膜厚とを示すテーブルである。
図14図14は、空気流動を評価する際のフローチャートである。
図15図15は、リアウィンドウ周りにおける摩擦応力ベクトルの分布を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において、上、下、前、後、右、および左は、車両から見た上、下、前、後、右、および左を示す。
【0034】
〈評価システムの構成〉
図1は、本実施形態に係る空気流動の評価システム1(以下、システム1という)を概略的に示す。このシステムは、蛍光油膜法により、車両10の表面における空気流動を評価するシステムである。ここでは、特に車両10の背面のうちリアウィンドウ10a(図2参照)の周辺部分(以下、車両後面部という)を観測面として、該観測面における空気流動を評価する場合について説明する。
【0035】
システム1は、観測対象物としての車両10と、車両10の表面に空気流を発生させる流動発生装置2と、車両10の背面に光を照射する照明装置3と、車両10の背面を撮影する撮像装置4と、撮像装置4により取得された画像から、空気流動を評価する計算機5と、を備える。
【0036】
車両10は自動車の車両である。車両10における観測面である車両後面部は、後側に向かって下側に傾斜した傾斜面をなしている。特に本実施形態では、図1に示すように、車両10の前側から後側に向かって、空気流を発生させるため、車両後面部は、空気流の上流側から下流側に向かって下側に傾斜した傾斜面をなしている。尚、本明細書でいう傾斜面とは、水平面に対する鋭角側の角度が20度以上のものをいう。
【0037】
図2に示すように、車両後面部は、白色のフィルム11(以下、白フィルム11という)で覆われている。より詳しくは、白フィルム11は、リアウィンドウ10aのガラス面を表面側から覆うように貼り付けられている。また、車両10の後部において、トランク部分のバックドア1bとボディとの間の隙間は、該隙間を塞ぐように、白フィルム11で覆われている。観測時には、白フィルム11の上から油膜が塗布される。以下の説明では、この車両後面部に塗布される油膜を特定油膜という。
【0038】
特定油膜は、シリコーンオイルと蛍光色素とを所定の比率で混合させた蛍光オイルで構成される。蛍光色素は、少なくとも紫外線(UV:Ultra Violet)により発光する色素である。
【0039】
流動発生装置2は、車両10よりも前側に配置され、車両10に対して前側から後側に向かって空気を流動させる。流動発生装置2は、走行風に相当する速度の風を送る装置であって、例えば、20km/時~180km/時の風を送ることができるように構成された装置である。流動発生装置2は、例えば、扇風機で構成される。
【0040】
照明装置3は、紫外線光を照射可能な照明装置である。照明装置3は、例えば、LEDライトで構成されている。図1では、照明装置3は、上側から光を照射しているが、実際には、撮像装置4のように、車両10の後側に配置され、車両10の後側から車両後面部に光を照射するように配設される。照明装置3は、複数配設されてもよい。例えば、車両10の後側において、左右に1つずつ照明装置3を配置して、左右から観測面に光を照射するようにしてもよい。また、照明装置3は、観測面が複数ある場合には、観測箇所の数に応じて複数配設される。
【0041】
撮像装置4は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラで構成されている。撮像装置4は、流動発生装置2により空気流が発生した状態で、車両10の背面、具体的には、車両後面部に塗布された特定油膜の動画を取得する。撮像装置4は、観測箇所が複数ある場合には、観測箇所の数に応じて複数配設される。
【0042】
計算機5は、周知のマイクロコンピュータをベースとする装置である。計算機5は、演算部51と、記憶部52と、制御部53と、を備える。また、計算機5は、図示はしないが、例えばディスプレイ等からなる表示部、キーボード等からなる入力部等を備えてもよい。記憶部52には、各種データおよび演算処理プログラム等の情報が格納されている。演算部51は、中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)であり、記憶部92に格納された上記情報、入力部を介して入力された情報等に基づいて、各種演算処理を行う。記憶部52は、撮像装置4により取得された画像や制御部53を動作させるプログラム等記憶する。制御部53は、記憶部52に格納されたデータ、演算部51の演算結果等に基づいて、制御対象に制御信号を出力し、各種制御を行う。
【0043】
前述した蛍光油膜法では、計算機5の演算部51は、撮像装置4により取得された動画を構成する各画像から油膜の膜厚を求めて、車両10の表面における空気流動を評価する。このように膜厚の変化から空気流動を評価する方法について、図3を参照しながら説明する。
【0044】
図3は、水平に広がるサンプルSに蛍光オイルの油膜OFを形成して、表面に沿った空気流を発生させた状態を示す。このとき、油膜OFは、空気流により部分的に流されて、波打つようになる。これにより、油膜OFの膜厚に差が生じるようになる。蛍光オイルで形成された油膜OFは、膜厚が厚いほど発光強度が上がり、膜厚が薄いほど発光強度が下がる。このため、油膜OFに照明装置3により光を照射して、そのときの発光を撮像装置4で撮影することにより、膜厚の変化を発光強度の変化として観測することができる。そして、発光強度から膜厚を算出することで、膜厚の変化を定量的に求めることができる。また、膜厚の分布からは、空気流の剥離箇所や渦の発生箇所などを求めることができる。
【0045】
また、撮像装置4で撮影された動画から、膜厚の分布の時間変化(発光の分布の時間変化)を解析することで、油膜の移動のベクトルを求めることができる。油膜の移動は、空気流動によるものであるため、この油膜の移動のベクトルを求めることで、空気流動を評価することができる。
【0046】
このように、発光強度から油膜の膜厚を求めることで、サンプルSの表面における空気流動を評価することができる。ここで、車両10において、図3に示すサンプルSのように略水平に広がる部分(例えば、ボンネットやルーフ)であれば、油膜は基本的に外力が作用しない限り移動しない。しかしながら、前述したように、車両10の車両後面部は、傾斜面となっている。このため、この部分に塗布される前記特定油膜にオイルは、自重によって移動するおそれがある。オイルが自重により移動すると、特定油膜が部分的に薄くなってしまったり、オイルの移動による膜厚の変化と空気流動による膜厚の変化とが同時に発生したりすると、空気流動を適切に観測することが困難になってしまう。
【0047】
そこで、本願発明者らは鋭意研究を行い、観測面が傾斜面であっても、空気流動を観測できるような特定油膜の条件、特に、特定油膜を構成するオイルの粘度と特定油膜の膜厚とを設定した。以下、図4図13を参照しながら、特定油膜の条件について詳細に説明する。
【0048】
〈特定膜厚の条件の設定〉
図4は、特定油膜の条件を設定するための実験システム100を概略的に示し、図5は、特定油膜の条件を設定するためのフローチャートを示す。
【0049】
(ステップS11)
特定油膜の条件を設定するためには、まずステップS11において、実験システム100の計測器を配置する。
【0050】
図4に示すように、実験システム100は、壁110に垂直になるように配置されたパネル101と、床111上に配置されたLED照明装置102およびカメラ103と、を備える。
【0051】
パネル101は、アルミニウムの板で構成されている。パネル101の表面全体には、白フィルム11が貼り付けられている。この白フィルム11は、前述の評価システム1において、車両後面部に貼り付けられた白フィルム11と同じ材質のフィルムである。実験時には該フィルムの表面には油膜が塗布される。パネル101は、計測器の配置が完了した後は、油膜を塗布するために外される。
【0052】
LED照明装置102は、カメラ103よりも後側に配置される。カメラ103よりも上側からパネル101に光を照射するように、カメラ103よりも上側に配置される。LED照明装置102は、パネル101の表面全体に光を照射する。
【0053】
カメラ103は、その光軸がパネル101に対して垂直になるように配置される。カメラ103はCCDカメラで構成されている。
【0054】
(ステップS12)
次にステップS12において、発光強度に対する膜厚の較正を行う。膜厚較正は、図6に示すように、底面が一定の勾配で傾斜する凹部121を有する較正器120を用いて行われる。較正器120の表面には、凹部121を除く部分にはグリス122が塗布されている。凹部121に蛍光オイルが充填された状態で、該凹部121を上側から覆うようにガラス板123により覆われる。このガラス板123は、較正器120を傾斜面や垂直面に配置した際に、蛍光オイルが漏れるのを抑制するためのものである。図示は省略するが、ガラス板123は、凹部121の全体を覆うことができるように、上側から見て凹部よりも大きい面積を有している。
【0055】
膜厚較正は、前述のようにして、蛍光オイルを凹部121内に充填してガラス板123を載せた後、凹部121内の蛍光オイルに光を照射して、そのときの発光強度を測定することで行う。図7は、膜厚較正を行った結果を示す。この図7は、粘度が50csの蛍光オイルに対して膜厚較正を行った結果である。図7の一点鎖線の曲線Cは、実際に測定を行った結果であり、図7の実線は、較正を行った結果求められる較正直線Lである。図7において、横軸は、凹部121に充填された蛍光オイルの膜厚であり、膜厚が0μmの位置は、較正器120の表面と凹部121の浅い側の端との境界である。曲線Cにおいて、膜厚が0μmの部分においても発光強度が観測されているのは、図6に示すように、実際にはグリス122の厚さ分だけの膜厚の油膜が形成されているためである。
【0056】
較正直線Lは、実測結果のうち膜厚が50μm未満の部分から近似直線を算出して、該近似直線を、傾きを維持したまま原点を通るように水平移動させることで求める。
【0057】
前述のような膜厚較正を、測定する各粘度の蛍光オイルに対して行って、各粘度の蛍光オイルについて較正直線Lを算出する。
【0058】
(ステップS13)
次にステップS13において、パネル101に蛍光オイルを塗布する。塗布作業は、パネル101を水平な状態にして、上側からスプレーにより蛍光オイルを拭きかけることにより行う。より具体的には、塗布作業は、水平にしたパネル101から上側に50cm程度離した位置にスプレーを配置して、パネル101に対して蛍光オイルを数回に分けて拭きかけることで行う。
【0059】
(ステップS14)
次いでステップS14において、パネル101に塗布された油膜の膜厚を確認するために、パネル101に光を照射して、そのときの油膜の発光強度を検出する。
【0060】
(ステップS15)
ステップS15では、パネル101に形成された油膜の膜厚が、所望の膜厚であるか否かを判定する。判定は、前記ステップS14で検出した発光強度を、前記ステップS12で算出した較正直線Lに当てはめて、膜厚を算出することで行う。油膜の膜厚が所望の膜厚になっているYESのときには、ステップS16に進む一方で、油膜の膜厚が所望の膜厚でないNOのときには、ステップS13に戻って、再度蛍光オイルを塗布する。
【0061】
(ステップS16~ステップS18)
前記ステップS16では、動画の撮影を開始する。具体的には、LED照明装置102とカメラ103とをオン状態にする。
【0062】
次にステップS17において、パネル101を水平方向に対して垂直な姿勢にして壁に配置する。これにより、パネル101は、図4に示すような状態になる。
【0063】
そして、ステップS18において、パネル101を所定時間(例えば5分)だけ撮影した後、撮影を終了する。
【0064】
(ステップS19)
次に、ステップS19において、前記ステップS16~S18で取得した画像に基づいて、蛍光オイルの自重による移動速度を求める。そして、移動速度が1.5mm/分以下となる粘度および膜厚を抽出する。
【0065】
図8は、蛍光オイルの粘度が10csでかつ膜厚が30μmのときの発光強度を検出した結果である。この発光強度曲線は、パネル101のx方向(パネル101を垂直にしたときの横方向)の任意の箇所におけるy方向(パネル101を垂直にしたときの上下方向)の各位置の発光強度を示す曲線である。横軸は、パネル101のy方向の位置であり、上端が0mmであり、下端が200mmである。発光強度がピーク状になっている位置は、その部分の膜厚が厚くなっていることを意味する。
【0066】
図8に示すように、油膜の条件が粘度10csかつ膜厚30μmのときには、計測開始直後に0mm付近にあるピークが、徐々にy方向に移動していることが分かる。これは、蛍光オイルが自重によって下側に移動していることを表す。このようなピーク部分の移動量を算出すれば、油膜の移動速度(厳密には、油膜を構成する蛍光オイルの移動速度)を算出することができる。
【0067】
図9は、蛍光オイルの粘度が10csの場合の蛍光オイルの移動量を示す。図10は、蛍光オイルの粘度が30csの場合の蛍光オイルの移動量を示す。図11は、蛍光オイルの粘度が50csの場合の蛍光オイルの移動量を示す。図12は、蛍光オイルの粘度が100csの場合の蛍光オイルの移動量を示す。図9図12において、破線の直線は、移動速度が1.5mm/分のときの移動量を示す。つまり、傾きが破線の傾き以下となる条件が特定油膜の条件として適当な条件である。
【0068】
図9に示すように、粘度が10csの場合には、膜厚が30μmおよび20μmのときには、傾きが破線よりも大きい一方、膜厚が10μmのときには、傾きが破線よりも小さいことが分かる。ここから、蛍光オイルの粘度が10csのときには、膜厚を10μm以下にすれば、蛍光オイルの自重の影響を無視できることが分かる。
【0069】
図10に示すように、粘度が30csの場合には、膜厚が30μmのときには、傾きが破線よりも大きい一方、膜厚が20μm以下のときには、傾きが破線よりも小さいことが分かる。ここから、蛍光オイルの粘度が30csのときには、膜厚を20μm以下にすれば、蛍光オイルの自重の影響を無視できることが分かる。
【0070】
図11に示すように、粘度が50csの場合には、膜厚が30μmのときには、傾きが破線よりも僅かに大きい一方、膜厚が20μm以下のときには、傾きが破線よりも小さいことが分かる。ここから、蛍光オイルの粘度が50csのときには、膜厚を20μm以下にすれば、蛍光オイルの自重の影響を無視できることが分かる。尚、粘度が50csの場合には、膜厚が10μm以下になると、オイルがほとんど移動せず、発光強度から移動量を算出することが困難であったため、移動量は0mmになっている。
【0071】
図12に示すように、粘度が100csの場合には、膜厚が40μmのときには、傾きが破線よりも僅かに大きい一方、膜厚が30μm以下のときには、傾きが破線よりも小さいことが分かる。ここから、蛍光オイルの粘度が100csのときには、膜厚を30μm以下にすれば、蛍光オイルの自重の影響を無視できることが分かる。尚、粘度が100csの場合には、膜厚が30μm以下になると、オイルがほとんど移動せず、発光強度から移動量を算出することが困難であったため、移動量は0mmになっている。
【0072】
図13は、特定油膜の条件として適当であるか否かを示すテーブルである。図13のテーブルにおいて、×は特定油膜として不適な条件であり、○は特定油膜として適当な条件である。○で示す条件は、発光強度曲線のピークの位置から油膜の移動速度を算出したときの、該移動速度が1.5mm/分以下となる条件である。これらの条件は、パネル101を垂直に配置したときの油膜の移動速度が1.5mm/分以下となる条件であるから、垂直面に油膜を塗布したときに、該油膜を構成する油膜の移動速度が1.5mm/分以下となるような、粘度および膜厚に相当する。これらの条件で垂直面に形成した油膜の移動速度が1.5mm/分以下であるから、これらの条件に適合するような、蛍光オイルの粘度および膜厚で傾斜面に油膜を形成したときには、油膜の移動速度は、当然1.5mm/分以下となる。したがって、○で示す条件は、傾斜面または垂直面に油膜が塗布された後、油膜の移動速度が1.5mm/分以下となるような、オイルの粘度および膜厚の条件に相当する。
【0073】
図13に示すように、本願発明者らの実験では、蛍光オイルの粘度が5csの場合についても計測を行ったが、この場合には蛍光オイルの揮発性が非常に高く、計測中に蛍光オイルが揮発して測定を行うことができなかった。蛍光オイルの揮発性が高すぎると、膜厚の変化を観測しにくくなるため、粘度が5csのものは全て不適としている。
【0074】
図13に示すように、特定油膜の条件としては、蛍光オイルの粘度が10cs~100csでありかつ膜厚が30μm以下という条件が適当であることが分かる。より詳しくは、特定油膜の条件は、蛍光オイルの粘度が10cs以上かつ30cs未満でかつ膜厚が10μm以下という条件、またはオイルの粘度が30cs以上かつ50cs未満でかつ膜厚が20μm以下という条件が適当であることが分かる。このように、特定油膜の条件は、蛍光オイルの粘度が低いほど、膜厚が薄い条件になる。これは、粘度が低いほどオイルが流れやすく、膜厚が厚いと自重により油膜が移動してしまうためである。
【0075】
〈空気流動の評価〉
次に、システム1により、空気流動を評価するプロセスについて説明する。ここでは、車両後面部を観測面とする場合について説明する。
【0076】
図14は、システム1により空気流動を評価するプロセスのフローチャートである。
【0077】
まず、ステップS201において、プロセスは、計測器を設置する。ここでは、車両10の周囲に、流動発生装置2、照明装置3、および撮像装置4を設置する。
【0078】
次に、ステップS202において、プロセスは、車両10の車両後面部に白フィルム11を貼り付ける。白フィルム11は、図2に示すように、ガラス面であるリアウィンドウ10aの全体が覆われるように、車両後面部に表面側から貼り付けられる。
【0079】
次いで、ステップS203において、プロセスは、膜厚較正を行う。膜厚較正の方法は、前述した実験のフローチャート(図5参照)における前記ステップS12の方法と同じである。
【0080】
次に、ステップS204において、プロセスは、白フィルム11の上から蛍光オイルを塗布する。このとき、蛍光オイルは、後で発生させる空気流の上流側から塗布される。本実施形態においては、前側から後側に向かう空気流を発生させるため、蛍光オイルは、車両後面部の上側から塗布される。蛍光オイルは、スプレーにより車両後面部に塗布される。これにより、車両後面部に特定油膜が塗布される。また、このステップS204では、車両後面部に対して、空気流の直上流側に位置するルーフ部分にも同じ蛍光オイルが塗布される。尚、ここで塗布される蛍光オイルは、その粘度が特定油膜の条件を満たす蛍光オイルである。
【0081】
次いで、ステップS205において、プロセスは、照明装置3および撮像装置4を作動させて、前記ステップS204で塗布された特定油膜の発光強度を確認する。
【0082】
次に、ステップS206において、プロセスは、計算機5により、前記ステップS205で確認した発光強度から膜厚を求めて、該膜圧が特定油膜における膜厚の条件を満たすか否かを判定する。膜厚の条件は、前述したように蛍光オイルの粘度により異なる。プロセスは、蛍光オイルの粘度に基づいて設定された膜厚の条件を満たすYESのときには、ステップS207に進む一方で、膜厚の条件を満たさないNOのときにはステップS204に戻って、蛍光オイルを塗布しなおす。
【0083】
前記ステップS207では、プロセスは、流動発生装置2を作動させて車両10に向かって送風する。このときの風速は、走行風の速度に相当する風速であり、評価の内容により設定される。
【0084】
次に、ステップS208において、プロセスは、車両後面部に塗布された特定油膜の撮影を開始する。ここでは、撮像装置4により動画が撮影される。
【0085】
次いで、ステップS209において、プロセスは、前記ステップS208で取得された画像から発光強度を算出して、該発光強度から特定油膜の膜厚の分布を算出する。
【0086】
そして、ステップS210において、プロセスは、前記ステップS209で算出された膜厚の分布および該分布の時間変化から車両後面部における空気流動を評価する。ステップS210の後は評価を終了する。
【0087】
図15は、撮影された特定油膜の画像から解析された摩擦応力ベクトルの一例を示す。この図15の解析結果が得られた評価条件は、特定油膜を構成する蛍光オイルの粘度は10csであり、特定油膜の膜厚は20μmである。また、流動発生装置2により発生された空気流の速度は72km/時である。また、本評価においてリアウィンドウ10aは、左右方向の端よりも中央が後側に位置するようにラウンド形状をなしている。
【0088】
図15では、空気流動が複数の線で表されており、空気は各線が延びる方向に流れている。図15に示すように、リアウィンドウ10aの左右方向の中央付近では、空気流動に乱れが生じていることが分かる。これは、空気の剥離が生じて渦が発生しているためである。特に、本評価に用いた車両のリアウィンドウ10aはラウンド形状をなしているため、左右方向の中央において空気の剥離が生じ易いと予測される。図15から分かるように、本評価では、この予測と合致する結果が得られている。したがって、特定油膜の条件を適切に設定したことにより、リアウィンドウ10aのような傾斜面を有する3次元構造の物体であっても、空気流動の観測、特に空気流動の可視化を十分に行うことができたといえる。
【0089】
ここでは、車両後面部における空気流動を評価する場合について説明したが、フロントウィンドウを含む車両前面部を観測面としてもよい。車両前面部のように空気流動の上流側に位置する部分を観測面とするときには、空気流動の下流側に位置する部分を観測面とするときと比較して、粘度が高い蛍光オイルを用いて、膜厚が厚い油膜が形成される。車両前面部は、車両後面部と比較して、空気の流速が高い。空気の流速が高ければ流体摩擦応力が大きくなるため、粘度の高い蛍光オイルでも油膜が流体摩擦応力により十分に移動するためである。また、流体摩擦応力が大きいときには、膜厚が薄いと油膜が移動することによる油膜切れが発生するおそれがある。このため、粘度が高い蛍光オイルを用いて出来る限り膜厚を厚くすることが好ましい。
【0090】
また、観測面がボンネットやルーフの場合にも、車両後面部を観測面とするときと比較して、粘度が高い蛍光オイルを用いることが好ましい。ボンネットやルーフのように略水平に広がる部分も空気の速度が速く、流体摩擦応力が比較的大きいため、粘度の高い蛍光オイルを用いて、膜厚を出来る限り厚くする方が、正確に空気流動を評価できるためである。
【0091】
したがって、本実施形態では、空気流動の評価方法は、表面に傾斜面を有する車両10を準備する対象物準備工程(ステップS201)と、車両10の観測面に油膜を塗布する油膜塗布工程(ステップS204)と、車両10の観測面に空気流を発生させる流動工程(ステップS207)と、流動工程中における油膜の膜厚の変化から観測面の空気流動を評価する評価工程(ステップS209,S210)と、を含み、油膜塗布工程は、観測面に傾斜面が含まれるときに、該傾斜面に塗布される特定油膜として、傾斜面に塗布した後、空気流を発生させる前の該特定油膜の移動速度が1.5mm/分以下となるように、オイルの粘度および膜厚が設定された油膜を形成する工程である。これにより、自重によるオイルの移動が、流体摩擦応力によるオイルの移動に与える影響を抑えることができる。この結果、リアウィンドウ10aのように上下方向および左右方向に傾斜した傾斜面についても油膜の膜厚変化を観測することで、空気流動を評価することができる。したがって、3次元構造の物体であっても、油膜の膜厚変化による空気流動の観測を適切に行うことができるようになる。
【0092】
特に、本実施形態では、特定油膜を構成するオイルの粘度および膜厚は、パネル101を水平に配置した状態で油膜を塗布した後、該パネル101を垂直にしたときの、油膜の移動速度が1.5mm/分以下となる、粘度および膜厚に設定されている。これにより、試験的に垂直面に形成された油膜の移動速度を調査して、特定油膜を構成するオイルの粘度および特定油膜の膜厚をそれぞれ適切に設定することができる。垂直面におけるオイルの移動速度が1.5mm/分以下であるから、傾斜面におけるオイルの移動速度は当然1.5mm/分以下になる。これにより、特定油膜の条件(オイルの粘度および膜厚)をより適切に設定することができる。油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0093】
また、本実施形態では、特定油膜は、オイルの粘度が10cs~100csでありかつ膜厚が30μm以下の油膜である。より具体的には、特定油膜は、オイルの粘度が10cs以上かつ30cs未満でかつ膜厚が10μm以下の油膜であるか、またはオイルの粘度が30cs以上かつ50cs未満でかつ膜厚が20μm以下の油膜である。このように、特定油膜の膜厚とオイルの粘度とをより適切にすることで、自重によるオイルの移動を抑えつつ、比較的低い移動速度であっても流体摩擦によりオイルを移動させることができるようになる。これにより、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0094】
また、本実施形態では、特定油膜は、オイルの粘度が低いほど、膜厚が薄くなるように形成される。このように、オイルの粘度が低いほど膜厚を薄くして、オイルの質量を低減することで、自重によるオイルの移動を出来る限り抑制できるようになる。これにより、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0095】
また、本実施形態では、車両後面部のように、観測面に含まれる傾斜面が、空気流の上流側から下流側に向かって下側に傾斜した傾斜面であるときには、ルーフ部分のように、車両10における観測面の直上流側に位置する部分にもオイルを塗布する。これにより、空気流の流速が所望の流速に到達するまでに時間がかかって、所望の流速に到達する前に観測面の特定油膜が移動したとしても、当該直上流側の部分からオイルが供給される。この結果、特定油膜の膜厚が過剰に薄くなることを抑制することができ、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0096】
また、本実施形態では、特定油膜は、オイルと蛍光色素との混合物である蛍光オイルで形成された蛍光油膜であり、評価工程は、特定油膜に光を照射したときの発光強度から膜厚の変化を観測する工程であり、対象物準備工程は、ガラス面であるリアウィンドウ10aに白フィルム11を貼り付ける工程(ステップS202)を含む。リアウィンドウ10aに白フィルム11を貼り付けることで、白フィルム11で光が反射するため、特定油膜の発光強度を出来る限り強くすることができる。これにより、油膜の膜厚変化による空気流動の観測、特に実車両を用いた空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0097】
また、本実施形態では、観測面の位置に応じて、油膜の条件を変更する。特に、フロントウィンドウを含む車両前面部を観測面とするときには、油膜を、車両後面部よりも、蛍光オイルの粘度が高くかつ膜厚が厚い油膜にする。また、ボンネットやルーフのように、略水平に広がる部分を観測面とする場合も、油膜を、車両後面部よりも、蛍光オイルの粘度が高くかつ膜厚が厚い油膜する。このように、各観測箇所に形成する油膜の条件を、空気流動の強さに応じて観測に適した条件とすることで、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0098】
また、本実施形態では、油膜の膜厚に対する油膜の発光強度を求める膜厚較正工程(ステップS203)を更に含み、膜厚較正工程は、底面が一定の勾配で傾斜する凹部121を有する較正器120の該凹部121に、蛍光オイルを充填して、充填された蛍光オイルの発光強度を測定することで較正する工程である。これにより、発光強度から特定油膜の膜厚を出来る限り正確に算出することができる。これにより、空気流動の定量的な評価を行うことができ、油膜の膜厚変化による空気流動の観測をより適切に行うことができる。
【0099】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0100】
例えば、前述の実施形態では、評価方法は蛍光オイルを用いた蛍光油膜法であった。これに限らず、蛍光色素を含有していないオイルで行う油膜法により空気流動の評価を行ってもよい。この方法でも、空気流による油膜の動きについては画像を取得することにより特定することができるため、空気流動を評価することができる。
【0101】
また、前述の実施形態では、実車の車両10を用いて評価を行っていたが、これに限らず、車両10の形状を模したモデルを用いてもよい。この場合、モデルを白色の材料で作成すれば、白フィルム11を貼り付ける作業を省略することができる。
【0102】
また、前述の実施形態では、観測面となる車両後面部が空気流の上流側から下流側に向かって下側に傾斜した傾斜面である場合について説明した。これに限らず、所謂ボックスタイプの車両の後面部のように、空気流の流れ方向に対して垂直に広がる垂直面を観測面としてもよい。この場合でも、該垂直面に加えて、空気流の流れ方向における該垂直面の直上流側に位置するルーフ部分にもオイルを塗布することが好ましい。
【0103】
また、前述の実施形態では、車両10の車両後面部で空気流動の評価を行っていた。これに限らず、車両10のサイドドアやピラー部分における空気流動についても、油膜の条件を本実施形態で設定した条件にすることで、適切に評価することができる。
【0104】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0105】
ここに開示された技術は、対象物の表面に塗布された油膜を観測することで、対象物周りの空気流動を評価する方法として有用である。
【符号の説明】
【0106】
1 評価システム
2 流動発生装置
4 撮像装置
5 計算機(評価装置)
10 車両
10a リアウィンドウ
120 較正器
121 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15