(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008834
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】カーボン棒ホルダーおよびカーボン棒削り方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20230112BHJP
G01N 1/28 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
C23C14/24 A
C23C14/24 E
G01N1/28 N
G01N1/28 F
G01N1/28 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091410
(22)【出願日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021110574
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】高須賀 博史
【テーマコード(参考)】
2G052
4K029
【Fターム(参考)】
2G052AA40
2G052AB27
2G052DA33
2G052FD06
2G052GA19
2G052GA35
2G052JA07
2G052JA10
2G052JA20
4K029BA34
4K029CA01
4K029DB02
4K029DB08
4K029DB12
4K029DB18
(57)【要約】
【課題】カーボン棒の利用率を高めることで、経済的で、作業効率を向上可能な技術を提供する。
【解決手段】直径1mmを超え且つ6mm以下の円柱状の長尺なカーボン棒を保持するホルダーであって、カーボン棒の円柱側面を長尺なホルダー本体に挟みこんだ状態でホルダー本体同士を螺合手段により近接させることによりカーボン棒を保持可能であり、ホルダー本体は、一端の内周が半円筒形状である長尺な被せホルダーと、一端の内周が半円筒形状である長尺な受けホルダーと、を、各々別体として備え、被せホルダーと受けホルダーとを重ねてホルダー本体とすることにより、カーボン棒を保持可能な長尺な空間が形成されるカーボン棒ホルダーおよびその関連技術を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径1mmを超え且つ6mm以下の円柱状の長尺なカーボン棒を保持するホルダーであって、
前記カーボン棒の円柱側面を長尺なホルダー本体に挟みこんだ状態で前記ホルダー本体同士を螺合手段により近接させることにより前記カーボン棒を保持可能であり、
前記ホルダー本体は、
一端の内周が半円筒形状である長尺な被せホルダーと、
一端の内周が半円筒形状である長尺な受けホルダーと、
を、各々別体として備え、
前記被せホルダーと前記受けホルダーとを重ねて前記ホルダー本体とすることにより、前記カーボン棒を保持可能な長尺な空間が形成される、カーボン棒ホルダー。
【請求項2】
前記螺合手段によって前記カーボン棒を保持した状態において、前記カーボン棒ホルダーを長尺方向から見た場合、前記ホルダー本体の輪郭が直径8mmの円内に収まる、請求項1に記載のカーボン棒ホルダー。
【請求項3】
前記螺合手段が無い状態且つ前記カーボン棒が有る状態で前記被せホルダーと前記受けホルダーとを重ねた時、前記被せホルダーと前記受けホルダーとの間に隙間ができる、請求項1に記載のカーボン棒ホルダー。
【請求項4】
長尺方向の所定の位置において、前記被せホルダーの前記一端の半円筒形状の内周の曲率半径は、前記受けホルダーの前記一端の半円筒形状の内周の曲率半径と等しく、且つ、
前記所定の位置における両内周は、前記曲率半径の半円弧よりも小さな寸法を有する、請求項1に記載のカーボン棒ホルダー。
【請求項5】
前記螺合手段は少なくとも二つ設けられ、
第1螺合手段および第2螺合手段の各々は、前記長尺な空間の中心軸を垂直方向から通過し、
前記第2螺合手段は、前記第1螺合手段よりも長尺方向の中央寄りに設けられ、
前記カーボン棒は、前記第2螺合手段よりも長尺方向の別の一端寄りの前記長尺な空間で保持される、請求項1に記載のカーボン棒ホルダー。
【請求項6】
前記第1螺合手段および前記第2螺合手段の各々は、雄ネジを備える固定ネジと、前記被せホルダーに設けられた孔および前記受けホルダーに設けられた雌ネジ孔と、を備え、
前記被せホルダーにはテラス部が設けられ、
前記ホルダー本体が前記カーボン棒を保持した状態で各々の前記固定ネジを回転させて前記カーボン棒を締め付け続けて各々の前記固定ネジの頭が前記テラス部に接触したとき、前記カーボン棒ホルダーを長尺方向から見た場合、各々の前記固定ネジは前記カーボン棒ホルダーの輪郭内に収まる、請求項5に記載のカーボン棒ホルダー。
【請求項7】
前記カーボン棒ホルダーは円筒形状であって、前記カーボン棒ホルダーの外径は7mm以上8mm以下である、請求項6に記載のカーボン棒ホルダー。
【請求項8】
前記カーボン棒は、電子顕微鏡用試料の前処理としてのカーボン蒸着用のカーボン棒である、請求項1~7のいずれか一つに記載のカーボン棒ホルダー。
【請求項9】
直径1mmを超え且つ6mm以下の円柱状の長尺なカーボン棒を保持するホルダーであって、前記カーボン棒の円柱側面を長尺なホルダー本体に挟みこんだ状態で前記ホルダー本体同士を螺合手段により近接させることにより前記カーボン棒を保持するカーボン棒ホルダーごと鉛筆削り器に挿入し、前記カーボン棒を削る、カーボン棒削り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン棒ホルダーおよびカーボン棒削り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン蒸着は表面処理として利用される。特許文献1には、酸化しやすいカーボンを、気密容器内で不活性ガスであるアルゴンガスを満たし、更に気密容器内の圧力を0.5Pa~5Paに設定するカーボン蒸着装置が開示されている。カーボン棒としては直径が0.5mmから1mm程度の太さのものを用いるのが望ましいと記載されている。
【0003】
主にsp3混成軌道の炭素は、ダイヤモンド薄膜、ダイヤモンドライクカーボン薄膜等として絶縁性や潤滑性または強度に優れるコーティング層に適用される。
【0004】
主にsp2混成軌道の炭素は、導電性に優れているためエレクトロニクス材料等に適用される。
【0005】
sp2混成軌道の炭素は、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以降SEMと表記する)や電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:以降EPMAと表記する)のような電子顕微鏡観察の対象物への前処理にも使われる。
【0006】
SEMまたはEPMAで有機化合物等の非導電性試料の観察を行う際、導電処理をしないと試料が帯電し、像に歪みが生じたり、異常コントラスト像となり正確な画像を得ることができない。
【0007】
SEM観察には、カーボン以外に金、白金等の金属を蒸着源として使用可能である。但し、EPMAや、SEM観察視野内に含まれる元素を解析するためにSEMに備えつけたエネルギー分散型X線検出器(Energy Dispersive X-ray Spectrometer:以降EDSと表記する)を用いる場合、以下の懸念もある。
【0008】
金、白金等の金属を蒸着源として使用すると、該蒸着源の元素が試料中の含有元素と同じである場合、その含有元素の同定は不可能になる。または、蒸着源の元素と試料中の含有元素が違う場合でも、蒸着源から検出されるピークが妨害して試料中の含有元素の同定ができない場合がある。
【0009】
そのため、一般的にはカーボンを蒸着源として用いる。カーボンは酸化しやすいため、真空カーボン蒸着法が好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
蒸発対象となるカーボン棒の先端の部分は、軸芯を頂点とした円錐形に削る必要がある。具体的には、該先端の部分を20°以下に鋭角化する必要がある。鋭角化により、過剰な電流が流れることに起因するカーボン粗大粒子の生成を抑制できる。円錐形化により、昇華してガス化したカーボン量がカーボン棒の法線方向で均一となり、蒸着ムラを抑制できる。
【0012】
上記蒸着に使用されるカーボン棒は、直径(以降、外径ともいう。)が鉛筆より小さい。本明細書では円柱状のカーボン棒の外径が1mmを超え且つ6mm以下である場合を挙げる。
【0013】
上記円錐形化および上記鋭角化は、鉛筆削り器を利用すると容易に実施可能である。鉛筆削り器の中で、カーボン棒を偏芯させずに固定できるハンドル回転式鉛筆削り器がよい。ハンドル回転式鉛筆削り器のことを手鉛筆削り器と呼んでも構わない。
【0014】
カーボン棒は蒸着を繰り返すと消費され短くなる。その都度、ハンドル回転式鉛筆削り器で先端の部分を円錐形に削ることになる。
【0015】
ところが、ハンドル回転式鉛筆削り器にカーボン棒を挿入した際、鉛筆削り器のクリップ部がカーボン棒を把持するための長さが必要となる。ハンドル回転式鉛筆削り器にカーボン棒を挿入した時に鉛筆削り器のクリップ部が把持する部分を考慮して一具体例を挙げると、カーボン棒の長さが100mmのとき、60mmが手鉛筆削り器のクリップ部に収まるが、これは、カーボン棒を40mm使用すると手鉛筆削り器のクリップ部で保持できなくなることを意味し、ひいては真空蒸着には40mmしか使用できないことを意味する。そうなると、カーボン棒は60mm残っているにもかかわらず廃棄せざるを得ない。つまり、カーボン棒の利用率は40%となり、残り60%のカーボン棒は廃棄処分となる。これは経済的では無い。そのうえ、頻繁にカーボン棒を交換することになり、作業効率も悪くなる。
【0016】
本発明は、カーボン棒の利用率を高めることで、経済的で、作業効率を向上可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。そして、カーボン棒を保持する専用ホルダーを用いることで、カーボン棒の利用率を高めることができることを見出した。
【0018】
上記の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
直径1mmを超え且つ6mm以下の円柱状の長尺なカーボン棒を保持するホルダーであって、
前記カーボン棒の円柱側面を長尺なホルダー本体に挟みこんだ状態で前記ホルダー本体同士を螺合手段により近接させることにより前記カーボン棒を保持可能であり、
前記ホルダー本体は、
一端の内周が半円筒形状である長尺な被せホルダーと、
一端の内周が半円筒形状である長尺な受けホルダーと、
を、各々別体として備え、
前記被せホルダーと前記受けホルダーとを重ねて前記ホルダー本体とすることにより、前記カーボン棒を保持可能な長尺な空間が形成される、カーボン棒ホルダーである。
【0019】
本発明の第2の態様は、
前記螺合手段によって前記カーボン棒を保持した状態において、前記カーボン棒ホルダーを長尺方向から見た場合、前記ホルダー本体の輪郭が直径8mmの円内に収まる、第1の態様に記載のカーボン棒ホルダーである。
【0020】
本発明の第3の態様は、
前記螺合手段が無い状態且つ前記カーボン棒が有る状態で前記被せホルダーと前記受けホルダーとを重ねた時、前記被せホルダーと前記受けホルダーとの間に隙間ができる、第1または2の態様に記載のカーボン棒ホルダーである。
【0021】
本発明の第4の態様は、長尺方向の所定の位置において、前記被せホルダーの前記一端の半円筒形状の内周の曲率半径は、前記受けホルダーの前記一端の半円筒形状の内周の曲率半径と等しく、且つ、
前記所定の位置における両内周は、前記曲率半径の半円弧よりも小さな寸法を有する、第1~第3のいずれか一つの態様に記載のカーボン棒ホルダーである。
【0022】
本発明の第5の態様は、
前記螺合手段は少なくとも二つ設けられ、
第1螺合手段および第2螺合手段の各々は、前記長尺な空間の中心軸を垂直方向から通過し、
前記第2螺合手段は、前記第1螺合手段よりも長尺方向の中央寄りに設けられ、
前記カーボン棒は、前記第2螺合手段よりも長尺方向の別の一端寄りの前記長尺な空間で保持される、第1~第4のいずれか一つの態様に記載のカーボン棒ホルダーである。
【0023】
本発明の第6の態様は、
前記第1螺合手段および前記第2螺合手段の各々は、雄ネジを備える固定ネジと、前記被せホルダーに設けられた孔および前記受けホルダーに設けられた雌ネジ孔と、を備え、
前記被せホルダーにはテラス部が設けられ、
前記ホルダー本体が前記カーボン棒を保持した状態で各々の前記固定ネジを回転させて前記カーボン棒を締め付け続けて各々の前記固定ネジの頭が前記テラス部に接触したとき、前記カーボン棒ホルダーを長尺方向から見た場合、各々の前記固定ネジは前記カーボン棒ホルダーの輪郭内に収まる、第5の態様に記載のカーボン棒ホルダーである。
【0024】
本発明の第7の態様は、
前記カーボン棒ホルダーは円筒形状であって、前記カーボン棒ホルダーの外径は7mm以上8mm以下である、第6の態様に記載のカーボン棒ホルダーである。
【0025】
本発明の第8の態様は、
前記カーボン棒は、電子顕微鏡用試料の前処理としてのカーボン蒸着用のカーボン棒である、第1~第7のいずれか一つの態様に記載のカーボン棒ホルダーである。
【0026】
本発明の第9の態様は、
直径1mmを超え且つ6mm以下の円柱状の長尺なカーボン棒を保持するホルダーであって、前記カーボン棒の円柱側面を長尺なホルダー本体に挟みこんだ状態で前記ホルダー本体同士を螺合手段により近接させることにより前記カーボン棒を保持するカーボン棒ホルダーごと鉛筆削り器に挿入し、前記カーボン棒を削る、カーボン棒削り方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、カーボン棒の利用率を高めることで、経済的で、作業効率を向上可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るカーボン棒ホルダーの概略平面図である。
【
図2】
図2(a)は、Y1方向からY2方向に見たときの本実施形態に係る被せホルダーの概略側面図である。
図2(b)は、本実施形態に係る被せホルダーの概略正面図である。
【
図3】
図3(a)は、Y1方向からY2方向に見たときの本実施形態に係る受けホルダーの概略側面図である。
図3(b)は、本実施形態に係る受けホルダーの概略正面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るカーボン棒ホルダーにカーボン棒を挿入したときの概略平面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るカーボン棒ホルダーにカーボン棒を挿入したときの概略正面図である。
【
図6】
図6(a)は、Y1方向からY2方向に見たときの本実施形態に係る被せホルダーの概略側面図である。
図6(b)は、Y1方向からY2方向に見たときの本実施形態に係る受けホルダーの概略側面図である。
【
図7】
図7は、ハンドル回転式鉛筆削り器の挿入孔に対する概略正面図である。
【
図8】
図8は、好適例を適用しない場合のハンドル回転式鉛筆削り器の内部に対する概略断面図である。
【
図9】
図9は、好適例を適用した場合のハンドル回転式鉛筆削り器の内部に対する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態について、以下の順番で説明する。
1.カーボン棒
2.カーボン棒ホルダー
3.カーボン棒ホルダー1の更なる具体例および変形例
4.カーボン棒ホルダー1の使用方法(カーボン棒削り方法)
【0030】
<1.カーボン棒>
前述の通り、例えば、SEMまたはEPMAのような電子顕微鏡で有機化合物等の非導電性試料の観察を行う際、蒸着源としてカーボンが頻繁に用いられる。その際、カーボン棒を使用する。具体的には、カーボン棒の先端を蒸発させてカーボンを観察対象物の表面に蒸着させる際にカーボン棒を使用する。つまり、本明細書に記載のカーボン棒は、本発明の一実施形態である電子顕微鏡用試料の前処理としてのカーボン蒸着用のカーボン棒であることが好ましい。
【0031】
カーボン棒としては、直径は1mmを超え且つ6mm以下の円柱状の長尺なカーボン棒を挙げる。長尺方向の長さには限定は無いが、70mm以上(例えば100mm)を例示する。なお、鉛筆とは異なりカーボン棒は、不可避不純物を除けばカーボン(炭素)のみにより構成される。
【0032】
カーボン蒸着を行う場合、カーボン棒の先端を20°以下の鋭角化、および、軸芯を頂点とした円錐形化する必要がある。この作業は、ハンドル回転式鉛筆削り器により実施可能である。但し、鉛筆削り器のクリップ部が把持する部分をカーボン棒において確保しなければならない。この点を考慮され、以下のカーボン棒ホルダーおよびその関連技術が本発明者により創出された。
【0033】
<2.カーボン棒ホルダー>
以下、本実施形態に係るカーボン棒ホルダーについて説明する。本実施形態に係るカーボン棒ホルダーは以下の構成を有する。
「直径1mmを超え且つ6mm以下の円柱状の長尺なカーボン棒を保持するホルダーであって、
前記カーボン棒の円柱側面を長尺なホルダー本体に挟みこんだ状態で前記ホルダー本体同士を螺合手段により近接させることにより前記カーボン棒を保持可能であり、
前記ホルダー本体は、
一端の内周が半円筒形状である長尺な被せホルダーと、
一端の内周が半円筒形状である長尺な受けホルダーと、
を、各々別体として備え、
前記被せホルダーと前記受けホルダーとを重ねて前記ホルダー本体とすることにより、前記カーボン棒を保持可能な長尺な空間が形成される、カーボン棒ホルダー。」
【0034】
以下、カーボン棒ホルダーの長尺方向であってカーボン棒を保持する空間の開口がある一端側をX1方向(前方)、その逆方向をX2方向(後方)とする。天地の天の方向をZ1方向(上方)、その逆方向をZ2方向(下方)とする。長尺方向および上下方向に垂直な方向であって開口に向かって正面視したときの左端方向をY1方向とし、その逆方向であって開口に向かって正面視したときの右端方向をY2方向とする。本明細書における平面視とは、Z1方向からZ2方向を見たときの状態であり、正面視とは、X1方向からX2方向を見たときの状態であり、断面視とはX1-X2方向に垂直なY-Z平面での断面視である。
【0035】
図1は、本実施形態に係るカーボン棒ホルダーの概略平面図である。
図2(a)は、Y1方向からY2方向に見たときの本実施形態に係る被せホルダーの概略側面図である。
図2(b)は、本実施形態に係る被せホルダーの概略正面図である。
図3(a)は、Y1方向からY2方向に見たときの本実施形態に係る受けホルダーの概略側面図である。
図3(b)は、本実施形態に係る受けホルダーの概略正面図である。
図4は、本実施形態に係るカーボン棒ホルダーにカーボン棒を挿入したときの概略平面図である。
【0036】
本実施形態においては、被せホルダー2が上方に設置され、受けホルダー3が下方に設置される。被せホルダー2も受けホルダー3も長尺方向の一端(本実施形態では前方端)が半円筒形状である。そのため、この一端同士を重ね合わせることにより、前方に開口4を有する長尺な円筒形状の空間を形成可能である。
【0037】
また、前述の通り、カーボン棒の先端を鋭角化、および、軸芯を頂点とした円錐形化するために、ハンドル回転式鉛筆削り器を使用することができる。鉛筆の外径はJIS S 6006で8mm以下と規定されている。本実施形態では、螺合手段によってカーボン棒を保持したときに、カーボン棒ホルダーを長尺方向から見た場合、ホルダー本体の輪郭を直径8mmの円内に収めることにより、カーボン棒ホルダーごと鉛筆削り器の挿入孔に挿入できるため、カーボン棒の利用率をより高めることができる。
【0038】
図5は、本実施形態に係るカーボン棒ホルダーにカーボン棒を挿入したときの概略正面図である。
【0039】
円筒形状の空間についてであるが、本実施形態においては、螺合手段が無い状態且つカーボン棒Cが有る状態で被せホルダー2と受けホルダー3とを重ねた時、被せホルダー2と受けホルダー3との間に隙間Gができるのが好ましい。この隙間Gから前記カーボン棒Cが露出するのが好ましい。つまり、螺合手段が無い状態で被せホルダー2と受けホルダー3とを接触させて上記円筒形状の空間を形成したとき、カーボン棒Cが該空間に収まりきらないのが好ましい。そのために螺合手段が存在する。
【0040】
カーボン棒Cが該空間に収まりきらずとも、螺合手段により被せホルダー2と前記受けホルダー3とを固定することにより、カーボン棒Cが両ホルダーによって上下方向から押さえつけられる。その結果、被せホルダー2と受けホルダー3からなる本体ホルダーに対してカーボン棒Cを固定できる。
【0041】
該空間の具体例は以下の通りである。
「長尺方向の所定の位置において、前記被せホルダー2の前記一端の半円筒形状の内周の曲率半径は、前記受けホルダー3の前記一端の半円筒形状の内周の曲率半径と等しく、且つ、
前記所定の位置における両内周は、前記曲率半径の半円弧よりも小さな寸法を有する。」
【0042】
言い方を変えると以下の構成が好ましい。
「前記被せホルダー2の前記一端の半円筒形状の断面の内周は、前記カーボン棒Cの断面の曲率半径と等しい曲率半径を有し、且つ、前記カーボン棒Cの断面の半円弧よりも小さな寸法を有し、
前記受けホルダー3の前記一端の半円筒形状の断面の内周は、前記カーボン棒Cの断面の曲率半径と等しい曲率半径を有し、且つ、前記カーボン棒Cの断面の半円弧よりも小さな寸法を有する。」
【0043】
「曲率半径が等しい」とは、両曲率半径の差が0.5mmR以下(好適には0.1mmR以下、特に好適には完全一致)であることを指す。
【0044】
「曲率半径の半円弧よりも小さな寸法」は、螺合手段が無い状態且つカーボン棒Cが有る状態で被せホルダー2と受けホルダー3とを重ねた時、被せホルダー2と受けホルダー3との間に隙間Gができることを表す一つの具体的表現である。
【0045】
長尺方向の所定の位置において、被せホルダー2の一端の半円筒形状の内周の形状は、受けホルダー3の一端の半円筒形状の内周の形状と同一であってもよい。両ホルダーを重ね合わせたときに両内周の形状が上下対称であるのが好ましい。
【0046】
仮に、両ホルダーを重ね合わせたときの空間の開口4の径がカーボン棒Cの外径よりも大きい場合、市販のOリングや輪ゴム等の空間充填部材を用いてカーボン棒Cの軸芯とカーボン棒ホルダー1の軸芯が一致するように固定可能である。つまり、空間の開口4の径がカーボン棒Cの外径よりも大きい場合、空間充填部材を備えることにより、被せホルダー2と前記受けホルダー3との間に隙間Gができ、最終的には、螺合手段により被せホルダー2と受けホルダー3とカーボン棒Cとを固定可能となる。
【0047】
図2、
図3に示すように、両ホルダーの内周の大きさを、前方から後方に向けて変化させてもよい。この変化は連続的でも不連続的でもよい(
図2、
図3だと、開口4から一定の地点で空間の断面が小さくなるように不連続変化)。この構成により、カーボン棒ホルダー1は、様々な外径のカーボン棒Cに対応可能となる。
【0048】
本実施形態における螺合手段は少なくとも二つ設けられ、
第1螺合手段5および第2螺合手段6の各々は、前記長尺な空間の中心軸を垂直方向から通過し、
第1螺合手段5は、前記ホルダー本体の長尺方向の一端寄りに設けられ、
第2螺合手段6は、前記第1螺合手段5よりも中央寄りに設けられ、
前記カーボン棒Cは、前記第2螺合手段6よりも長尺方向の別の一端寄りの前記長尺な空間で保持されるのが好ましい。
【0049】
螺合手段の一具体例は、固定ネジ5、6である雄ネジと、被せホルダー2に形成された貫通孔22、23と、受けホルダー3に形成された孔(すなわち雌ネジ孔)32、33である。
【0050】
長尺な空間の中心軸は、円筒形状の空間の断面視中心を通過するX軸を指す。円筒形状の空間の断面視中心が判別困難な場合は、断面視における空間の重心と言い換えてもよい。
【0051】
第1螺合手段5は、重ね合わされたときの円筒形状の空間の開口4の逆方向の端(後方)寄りに設けられるのがよい。そして、第2螺合手段6は、前記第1螺合手段5よりも中央寄り(長尺方向の別の一端寄り、前方寄り)に設けられるのがよい。
【0052】
第2螺合手段6が設けられることにより、長尺な空間は潰される。言い方を変えると、第2螺合手段6よりも前方にしか、カーボン棒Cを保持する空間を確保できない。第2螺合手段6の長尺方向での位置には限定は無いが、第1螺合手段5よりも中央寄り(前方)でありながらも可能な限り第1螺合手段5寄り(後方)に位置させるのがよい。それにより、カーボン棒Cを保持する空間を長尺方向に長く確保できる。
【0053】
少なくとも二つの螺合手段を設けることにより、固定ネジ5、6が被せホルダー2および受けホルダー3を貫通したときに両ホルダーが十分に固定される。例えば、ホルダー本体の長尺方向に沿って少なくとも二つの螺合手段が設けられてもよい。また、螺合手段の設置場所にも限定は無い。例えば、第1螺合手段5(後方側)も第2螺合手段6(前方側)も長尺方向の中央寄りに設けられても構わない。さらに、第1螺合手段5、第2螺合手段6に加えて、合計三つ以上の螺合手段を設けても構わない。
【0054】
第1螺合手段5および第2螺合手段6との間、すなわちカーボン棒を保持可能な長尺な空間が形成されない部分における被せホルダー2および受けホルダー3の内周の形状には限定は無く、第2螺合手段6から前方の内周の形状と同様に、半円筒形状であってもよい。その一方、第1螺合手段5および第2螺合手段6との間においては、被せホルダー2および受けホルダー3で形成される該空間を潰してもよい。
【0055】
螺合手段に関しては、以下の構成も好ましい。
「前記第1螺合手段5および前記第2螺合手段6の各々は、雄ネジを備える固定ネジ5、6と、前記被せホルダー2に設けられた孔および前記受けホルダー3に設けられた雌ネジ孔と、を備え、
前記被せホルダー2にはテラス部(以降、平坦部と称することがある)7、8が設けられ、
前記ホルダー本体が前記カーボン棒Cを保持した状態で各々の前記固定ネジ5、6を回転させて前記カーボン棒Cを締め付け続けて各々の前記固定ネジ5、6の頭が前記平坦部7、8に接触したとき、前記カーボン棒ホルダー1を長尺方向から見た場合、各々の前記固定ネジ5、6は前記カーボン棒ホルダー1の輪郭内に収まる。」
【0056】
本実施形態のカーボン棒ホルダー1は、カーボン棒Cを保持した状態を正面視したとき、各々の前記固定ネジ5、6は前記カーボン棒ホルダー1の輪郭内に収まるのが好ましい。この構成により、カーボン棒Cをカーボン棒ホルダー1ごと鉛筆削り器に挿入可能となる機会が生まれる。
【0057】
仮に、ホルダー本体の外径がハンドル回転式鉛筆削り器の挿入口径よりも小さい場合、カーボン棒Cをホルダー本体ごとハンドル回転式鉛筆削り器に挿入可能となる。その場合、ホルダー本体の後方端さえ鉛筆削り器のクリップ部が把持できればカーボン棒Cを加工可能となる。その一方、螺合手段の固定ネジ5、6が、カーボン棒ホルダー1の正面視の輪郭からはみ出る場合、固定ネジ5、6のせいで、ハンドル回転式鉛筆削り器の挿入口内への挿入長さが減ってしまうことがある。これを防ぐべく、前段落に記載の構成が創出された。
【0058】
上記構成を実現すべく、被せホルダー2には平坦部7、8が設けられる。この平坦部7、8は、各螺合手段に設けられるのが好ましい。つまり、第1螺合手段5に対して第1平坦部7が設けられ、第2螺合手段6に対して第2平坦部8が設けられるのが好ましい。この平坦部7、8が設けられるのは少なくとも被せホルダー2であればよいが、受けホルダー3に設けても構わない。例えば、受けホルダーに雌ネジ孔では無く貫通孔を設けた上で、受けホルダー3に平坦部を設けてナットで固定するようにしても良い。
【0059】
本実施形態では、平坦部7、8は略X-Y平面上である。この平坦部7、8のおかげで、各々の固定ネジ5、6を回転させてカーボン棒Cを締め付け続けて各々の固定ネジ5、6の頭が平坦部7、8に接触したとき、各々の固定ネジ5、6の頭は、正面視において本体ホルダーの陰に隠れやすくなる。その結果、固定ネジ5、6の頭がハンドル回転式鉛筆削り器の挿入孔に干渉することなく、カーボン棒Cをホルダー本体ごと該挿入孔に十分な長さだけ挿入可能となる。該挿入孔への干渉の可能性を低減すべく、固定ネジ5、6の頭を平たくするするのが好ましい。つまり、固定ネジ5、6は平ネジであるのが好ましい。
【0060】
固定ネジ5、6の頭が平坦部7、8に接触したときのカーボン棒ホルダー1(ひいてはホルダー本体)の円筒形状の外径は7mm以上8mm以下であるのが好ましい。本段落の「外径」は、カーボン棒Cを装着した状態での正面視における外接円の直径を指す。本段落の「外径」は、カーボン棒Cの装着前の本体ホルダーにおいて固定ネジ5、6の頭が平坦部7、8に接触したときの外接円の直径であってもよい。
【0061】
本実施形態におけるカーボン棒ホルダー1にカーボン棒Cを装着することにより、例えば、カーボン棒Cの長さが100mmのとき、今までハンドル回転式鉛筆削り器では40mmの部分しか使用できなかったものを65mmまでカーボン蒸着に使用できるようになる。
【0062】
この例を基に述べると、本実施形態におけるカーボン棒ホルダー1にカーボン棒Cを固定するための差し込み代として最低でも3mm(好適には5mm)が必要である。そして、ハンドル回転式鉛筆削り器の挿入口から奥までの距離(すなわち切削部の奥深さ)が30mm程度である。つまり、本実施形態におけるカーボン棒ホルダー1を使用するとカーボン棒Cのうち65mmを使用できる。また、カーボン棒Cをホルダー本体ごと挿入すれば、すなわち挿入口から切削刃までの筒状部分にホルダー本体を挿入すれば、上記30mm程度をさらに小さくすることができる。
【0063】
<3.カーボン棒ホルダー1の更なる具体例および変形例>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。以下、更に具体的な例を挙げ、その後、変形例を挙げる。
【0064】
本実施形態のカーボン棒ホルダー1は、外径が1mmを超え且つ6mm以下のカーボン棒Cを保持するために、外半径が3.5mm以上4mm以下である半円柱形状の金属製の被せホルダー2と、被せホルダー2と同じ外径の半円柱形状の金属製の受けホルダー3と、被せホルダー2と受けホルダー3を覆合して円柱状とするための螺合手段とから構成される。
【0065】
被せホルダー2には、該被せホルダー2の一端側(前方側)に形成され、カーボン棒Cのための上部挿入溝が半円柱状に削孔された上部挿入部21(後の開口4の一部)と、被せホルダー2の他端側(後方側)近傍に形成された貫通孔22、23がある。
【0066】
受けホルダー3には、被せホルダー2の上部挿入部21に対して上下方向で対向する位置に、カーボン棒Cのための上部挿入溝と同じ内半径で半円柱状に下部挿入溝が削孔された下部挿入部31(後の開口4の一部)と、貫通孔22、23に対向する位置に、貫通孔22、23に延設するように形成された孔32、33がある。更に、螺合手段は、貫通孔22、23、孔32、33を介して被せホルダー2と受けホルダー3が固定される機能を有する。
【0067】
被せホルダー2および受けホルダー3の材質は、金属であれば特に制限されない。カーボン棒Cを確実に把持するための強度、剛性を備えた金属が必須となるが、一般的な炭素鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。その中でも、耐食性も備えたステンレス鋼が良い。貫通孔22、23は、螺合手段が貫通できる構成であれば、それで良い。
【0068】
被せホルダー2および受けホルダー3の外半径は4mm以下とする。そうすると、被せホルダー2と受けホルダー3を覆合したときに形成される円柱の外径(外直径)が8mm以下になる。本明細書では、市販の鉛筆削り器でカーボン棒Cを削ることを前提としている。JIS S 6006で規定された鉛筆の外径が8mm以下であり、本実施形態のカーボン棒ホルダー1は鉛筆と同じ外径を有するようになる。
【0069】
また、カーボン棒Cの外径が最大6mmなので、被せホルダー2および受けホルダー3の外半径は3.5mm以上とする。そうすると、被せホルダー2と受けホルダー3を覆合したときに形成される円筒形状の外径が7mm以上になる。
【0070】
被せホルダー2および受けホルダー3の材質を強度、剛性を備えた金属とするので、カーボン棒Cを上下方向から覆合する外郭部の厚さが0.5mm以上あれば鉛筆を軸芯に把持するためのクリップ部(チャック部)が安定的に把持できる最低限の太さになる。
【0071】
螺合手段はボルトナットを備えても構わない。固定ネジ5、6についても、頭部に平板を有する通常のネジが良いが、イモネジ、皿ネジ等、何でも良い。イモネジは頭部を有しないので、被せホルダー2の輪郭から外側にイモネジがはみ出ないようにするための平坦部7、8が小さくて済む。
【0072】
一般的なカーボン蒸着では、汎用品の外径が5mmのカーボン棒Cが使用される。本実施形態は外径が1mmを超え且つ6mm以下のカーボン棒Cであれば適用できるが、特に外径が5mmのカーボン棒Cに好適に使用できる。
【0073】
固定ネジ5、6の数、それに対応した貫通孔22、23、孔32、33の数は、1ヶ所以上であれば特に限定されない。しかしながら、固定ネジ5、6の数は2本、それに対応した貫通孔22、23、孔32、33の数は、それぞれ2ヶ所であることが好ましい。2ヶ所であれば、確実にカーボン棒Cを保持することができる。1ヶ所であれば、被せホルダー2と受けホルダー3が固定ネジを回転軸の中心としてずれる可能性がある。3ヶ所以上としても確実に保持するという効果は同じであり、構造が複雑になり、余計な製作の手間、取付けの手間が発生する。固定ネジ5、6の数が2本、それに対応した貫通孔22、23、孔32、33の数が、それぞれ2ヶ所である場合、その位置は
図2に示した通り、上部挿入部21と下部挿入部31とは逆の端面側の2ヶ所になる。
【0074】
更に、固定ネジ5、6の数が2本、それに対応した貫通孔22、23、孔32、33の数が、それぞれ2ヶ所である場合、固定ネジ5、6のうち上部挿入部21および下部挿入部31から遠い側の1本において、前記被せホルダー2と前記受けホルダー3の合わせ面に平ワッシャーが挟持されていることが好ましい。そうすると、箸やピンセットでつまむように、上部挿入部21と下部挿入部31の一端でカーボン棒Cを把持することになるので、保持圧力が高くなり、より確実にカーボン棒Cを把持することができる。該平ワッシャーは、いちいち固定ネジ5に嵌め入れる手間を省くべく、被せホルダー2または受けホルダー3に予め固着させてもよい。
【0075】
なお、固定ネジ5、6のうち上部挿入部21および下部挿入部31から近い側の1本において、前記被せホルダー2と前記受けホルダー3の合わせ面に平ワッシャーが挟持されてももちろん構わない。その一方、上記遠い側の1本にさえ平ワッシャーが挟持されていれば、上記遠い側の1本の固定ネジ5さえきつく締めればカーボン棒Cを安定して把持できる。つまり、上記近い側の1本の固定ネジ6は前記被せホルダー2と前記受けホルダー3の位置ずれ防止という役割を主に担うことになる。上記遠い側の1本の固定ネジ5に平ワッシャーが挟持されることにより、前記被せホルダー2と前記受けホルダー3との間に遊びのスペースを設けることが可能となる。その結果、上記遠い側の1本の固定ネジ5を締めた状態でも上記近い側の1本の固定ネジ6を締めたり緩めたりすることにより、カーボン棒Cを容易に着脱できる。
【0076】
本実施形態のカーボン棒ホルダー1は、一般的なカーボン蒸着用のカーボン棒Cに広く用いることができるが、特に、電子顕微鏡用試料の前処理としてのカーボン蒸着に用いられることが好ましい。電子顕微鏡用試料の前処理としてのカーボン蒸着装置は蒸着部が小型のものが多く、100mm以下の短いカーボン棒Cが用いられる。短いカーボン棒Cに本実施形態を適用すれば、カーボン棒Cの利用率を高めるという効果をより享受することができる。
【0077】
被せホルダー2と受けホルダー3の高さは、被せホルダー2と受けホルダー3の外半径よりも0.1mm程度小さくする。そうすると、被せホルダー2と受けホルダー3を覆合したとき、若干の隙間Gが開き、カーボン棒Cを確実に把持できる。
【0078】
以下、変形例を記載する。
【0079】
一端の内周が半円筒形状である長尺な被せホルダー2と、一端の内周が半円筒形状である長尺な受けホルダー3とを一体として備えるホルダー本体を用いてもよい。例えば、両ホルダーの一端をヒンジにて連結し、ヒンジにて両ホルダーを回動させることにより両ホルダーの別の一端同士を近接させ、その後、螺合手段により一端同士を近接させて固定してもよい。
【0080】
螺合手段は、両ホルダーの一端(つまりは空間の中心軸から外れた位置)に設けてもよい。
【0081】
平坦部7、8に関してであるが、各々の固定ネジ5、6がカーボン棒ホルダー1の輪郭内に収まるのであれば、平面を構成しなくても構わず、若干の曲面形状であっても構わない。但し、固定ネジ5、6の雄ネジを、貫通孔22、23および孔32、33の雌ネジに確実に係合させるためには平坦部7、8が好ましい。
【0082】
図6(a)は、Y1方向からY2方向に見たときの本実施形態に係る被せホルダーの概略側面図である。
図6(b)は、Y1方向からY2方向に見たときの本実施形態に係る受けホルダーの概略側面図である。
【0083】
被せホルダー2と受けホルダー3とを組み合わせたとき、前方に向けて外径を小さくするのが好ましい。また、被せホルダー2と受けホルダー3との少なくともいずれかにおいて、前方に向けて外径を小さくするのが好ましい。外径を小さくし始める開始部分はカーボン棒ホルダーを鉛筆削り器のクリップ部で把持できるように開口部から35mm程度までがよく、前方に向けて、外径を小さくするのが好ましい。「外径を小さくする」とは、一例としては、外径を上下方向に狭くし、正面視で扁平にすることが挙げられる。
【0084】
図7は、ハンドル回転式鉛筆削り器の挿入孔に対する概略正面図である。
上記の構成が好適な理由であるが、ハンドル回転式鉛筆削り器9の挿入孔91は、ハンドル回転式鉛筆削り器9が鉛筆を保持するチャック部92の存在により、正面視にて完全な円形ではなく、略楕円形(例えば
図7のハッチ部分)であったり略逆三角形だったりする。
【0085】
図8は、好適例を適用しない場合のハンドル回転式鉛筆削り器の内部に対する概略断面図である。
図9は、好適例を適用した場合のハンドル回転式鉛筆削り器の内部に対する概略断面図である。
また、ハンドル回転式鉛筆削り器は、遊星ギアにより稼働する削り刃93が、所定角度に斜めに設置され且つ鉛筆の周りを回りながら鉛筆を削る方式を採用している。本実施形態では、この方式を考慮し、カーボン棒ホルダー1の外周に対して削り刃93と干渉しないように前方に向けて外径を小さくするのが好ましい。
図8、
図9において干渉位置を破線囲みで示す。
図8に比べず
図9だと干渉位置は奥側に移動する。その一具体例が、削り刃93と干渉しない角度のテーパをカーボン棒ホルダー1の外周に対して設定するという例である。
そのため、被せホルダー2と受けホルダー3との少なくともいずれか(好適には両方)において、中央近傍から前方に向けて外径を小さくしておけば、上記削り刃93と上記チャック部92に対するカーボン棒ホルダー1の干渉の影響を減らせ、ひいてはハンドル回転式鉛筆削り器9の挿入孔91に更に深くカーボン棒C及びカーボン棒ホルダー1を挿入できる。
【0086】
具体的には、例えば被せホルダー2の場合、
図2(a)のように側面視したとき、傾斜角度1~20度(好適な下限は2度、4度、好適な上限は15度、10度、8度)のテーパを設けてもよい。受けホルダー3についても同様の規定を採用できる。被せホルダー2と受けホルダー3とでテーパの傾斜角度を等しくしてもよい。この構成により、ハンドル回転式鉛筆削り器9の挿入・BR>E91に更に深くカーボン棒C及びカーボン棒ホルダー1を挿入できる。一例としては後掲の実施例だと、被せホルダー2と受けホルダー3とでテーパの傾斜角度を6度とした場合、ハンドル回転式鉛筆削り器9の挿入孔91に対して更に10mm奥にカーボン棒C及びカーボン棒ホルダー1を挿入できる。
なお、本明細書では、上記テーパが設けられている場合も、被せホルダー2と受けホルダー3を覆合したときに形成されるカーボン棒ホルダー1の一端の外周の形状は円筒形状と称する。上記テーパが設けられている場合、カーボン棒Cを保持する空間の開口に向かう方向(前方であるX1方向から後方であるX2方向に向かう方向)で該開口を見たとき、少なくとも外周形状においては左右方向(Y1-Y2方向)が長辺、上下方向(Z1-Z2方向)が短辺の楕円となる。
【0087】
テーパでなく細かい段差を設ける態様でも構わないが、カーボン棒ホルダー1の製造の難易度を加味すると、テーパがよい。
【0088】
<4.カーボン棒ホルダー1の使用方法(カーボン棒削り方法)>
次に、本実施形態に係るカーボン棒ホルダー1の使用方法について、以下に説明する。
【0089】
一般的なカーボン蒸着用のカーボン棒Cのサイズは、外径が5mm、長さが100mmである。そのカーボン棒Cの先端を、ハンドル回転式鉛筆削り器9で円錐形に削る。
【0090】
次に、円錐形に削ったカーボン棒Cを真空カーボン蒸着装置に設置する。このとき、カーボン棒Cの円錐形にした部分と、先端を削っていない断面が平らなカーボン棒Cを接触させて固定する。固定できたら装置内を真空にし、通電加熱をしてカーボン蒸着を実施する。カーボン蒸着を実施すると、円錐形に削った先端が損耗するので、カーボン蒸着を実施する毎に装置からカーボン棒Cを取り外し、ハンドル回転式鉛筆削り器9で円錐形に削る。
【0091】
この作業を繰返すと、徐々にカーボン棒Cが短くなる。カーボン棒Cは概ね60mmよりも長い場合はそのままハンドル回転式鉛筆削り器9で削ることができるが、短くなってきたら、本実施形態のカーボン棒ホルダー1にカーボン棒Cを装着する。
【0092】
カーボン棒Cの装着方法は、まず、被せホルダー2と受けホルダー3を両者がずれないように重ね合わせ、貫通孔22、23および孔32、33に固定ネジ5、6および平ワッシャーを入れて仮止めをする。次に、上部挿入部21と下部挿入部31で形成される空間にカーボン棒Cを挿入し、固定ネジ5、6を本締めしてカーボン棒Cを固定する。
【0093】
カーボン棒Cの長さが60mmより短くなった場合には、カーボン棒ホルダー1でカーボン棒Cを固定保持した状態で、カーボン棒C側をハンドル回転式鉛筆削り器9に挿入し、ハンドル回転式鉛筆削り器9のチャック部92でカーボン棒ホルダー1を固定して、カーボン棒Cを円錐形に削る。
【0094】
次に、カーボン棒Cを真空カーボン蒸着装置に設置する。このとき、カーボン棒Cをカーボン棒ホルダー1から外し、カーボン棒Cの円錐形にした部分と、先端を削っていない断面が平らなカーボン棒Cを接触させて固定する。真空カーボン蒸着装置には、円錐形にしたカーボン棒Cを設置する側にバネが内蔵されており、カーボン棒Cの長さが60mmより短くなった場合でも、カーボン棒Cの円錐形にした部分と、先端を削っていない断面が平らなカーボン棒Cを接触させて固定することができる。カーボン蒸着を実施する毎に装置からカーボン棒Cを取り外し、カーボン棒ホルダー1でカーボン棒Cを保持し、ハンドル回転式鉛筆削り器9で円錐形に削る。
【0095】
この作業を繰返すと、徐々にカーボン棒Cが短くなる。カーボン棒Cの長さがこれ以上削れない長さになったら廃棄する。これ以上削れない長さとは、例えば35mmである。
【0096】
上記の使用方法により、カーボン棒Cの利用率を高め、経済的で、作業効率を向上させられる。
【0097】
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0098】
カーボン棒ホルダー1を使用するのは、例えば、電子顕微鏡で非導電性試料を観察する場合に、導電処理をするために使用するカーボン棒Cの使うことができなかった部分を有効利用し、蒸着回数または蒸着時間を増加させるためである。
【0099】
カーボン棒Cを用いてカーボン蒸着をする場合、カーボン棒Cの先端を鋭い円錐形にしなければ蒸着時に蒸着むらが生じてしまうが、ハンドル回転式鉛筆削り器9を用いて削ると容易に先端を鋭い円錐形にできる。しかし、ハンドル回転式鉛筆削り器9は、カーボン棒Cを固定するために、例えば、60mmの長さが必要であり、例えば、カーボン棒Cの長さは100mmなので、40mmしか使用できない。
【0100】
カーボン棒ホルダー1にカーボン棒Cを装着することにより、例えば、カーボン棒Cの長さが100mmであるのに対して、ハンドル回転式鉛筆削り器9では40mmの部分しか使用できなかったものを、65mmまでカーボン蒸着に使用できるようになる。
【0101】
従って、例えば、カーボン棒Cの長さが100mmであれば、カーボン棒ホルダー1を装着することにより1.6倍のカーボン蒸着ができるようになる。
【実施例0102】
以下、本発明を更に詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。本実施例では
図1~
図3に記載の上記カーボン棒ホルダー1を使用した。カーボン棒Cの設置後を示すのが
図4である。
【0103】
SEM(日本電子(株)製 JSM―7900F)用試料台上に非導電性試料をカーボンテープで固定し、これを真空カーボン蒸着装置(日本電子(株)製 JEE-400)に入れカーボン蒸着を行った。使用したカーボン棒C(日本電子(株)製 CARBON RODS:外径5mm、長さ100mm)の先端を円錐形にするため、ハンドル回転式鉛筆削り器9(三菱鉛筆(株)製 KH-18 1800)を用いた。真空カーボン蒸着は、カーボン棒Cの先端を円錐形にした部分と、先端を削っていない断面が平らなカーボン棒Cを接触させて固定し、装置内を真空にしてから通電加熱をしてカーボン蒸着を実施した。カーボン棒Cは、使用の都度、先端を円錐形にする必要があるため、次第に長さが短くなった。
【0104】
長さが60mmになったカーボン棒Cをカーボン棒ホルダー1に取り付けた。使用したカーボン棒ホルダー1は、被せホルダー2と受けホルダー3の外半径が4mm、上部挿入部21と下部挿入部31の内径が5mm、上部挿入部21と下部挿入部31の長さが15mm、貫通孔22、23の径が3.5mm、孔32、33にはM3の雌ネジが切られたものを使用した。貫通孔22、23、孔32、33はそれぞれ2ヶ所である。螺合手段としては、市販のM3の平ネジを使用し、後方側の貫通孔22と孔32の間のみに、外径8mm、内径4mm、厚さ0.5mmの平ワッシャーを挟持した。被せホルダー2の平坦部7、8については、上端より1.5mm下がった位置に平坦面(X-Y平面)が形成されたものを使用した。被せホルダー2と受けホルダー3とを平ネジで仮止めした後、長さが60mmになったカーボン棒Cの削っていない側をカーボン棒ホルダー1の開口4から空間内に5mm挿入し、平ネジを本締めしてカーボン棒ホルダー1にカーボン棒Cを保持した。
【0105】
カーボン棒ホルダー1に保持されたカーボン棒Cの先端を、ハンドル回転式鉛筆削り器9で円錐形にした。カーボン棒Cをカーボン棒ホルダー1から取り外し、前述と同様にカーボン棒Cの円錐形にした部分と先端を削っていない断面が平らなカーボン棒Cを接触させて固定し、装置内を真空にしてから通電加熱をしてカーボン蒸着を実施した。カーボン蒸着とハンドル回転式鉛筆削り器9によるカーボン棒Cの加工とを繰り返したところ、本実施例のカーボン棒ホルダー1を用いた場合、カーボン棒Cの長さが35mmになるまでカーボン棒Cを使用できた。