(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088438
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
H01S 5/02255 20210101AFI20230620BHJP
H01S 5/02251 20210101ALI20230620BHJP
【FI】
H01S5/02255
H01S5/02251
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203147
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】出島 範宏
(72)【発明者】
【氏名】大森 雅樹
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173MA08
5F173MC15
5F173MD64
5F173ME23
5F173ME32
5F173ME44
5F173MF03
5F173MF13
5F173MF27
5F173MF28
5F173MF34
(57)【要約】
【課題】波長ビーム結合によって結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を更に高める。
【解決手段】波長ビーム結合装置は、複数のレーザビームを第1偏光方向に直線偏光した複数の第1偏光ビームと第2偏光方向に直線偏光した複数の第2偏光ビームとに分離する偏光ビームスプリッタと、第2偏光ビームを第1偏光方向に直線偏光した複数の第3偏光ビームに変換する第1偏光変換素子と、複数の第1偏光ビームを回折して同軸に重畳した第1波長結合ビームを形成し、複数の第3偏光ビームを回折して同軸に重畳した第2波長結合ビームを形成する回折格子と、第1波長結合ビームおよび第2波長結合ビームを同軸に重畳した第3波長結合ビームを形成して出射する偏光ビーム結合器と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム1を結合する波長ビーム結合装置であって、
前記複数のレーザビームを、それぞれ、第1偏光方向に直線偏光した複数の第1偏光ビームと、前記第1偏光方向に直交する第2偏光方向に直線偏光した複数の第2偏光ビームとに分離する偏光ビームスプリッタと、
前記複数の第2偏光ビームを、前記第1偏光方向に直線偏光した複数の第3偏光ビームに変換する第1偏光変換素子と、
前記複数の第1偏光ビームを回折して前記複数の第1偏光ビームを同軸に重畳した第1波長結合ビームを形成し、前記複数の第3偏光ビームを回折して前記複数の第3偏光ビームを同軸に重畳した第2波長結合ビームを形成する、1または複数の回折格子と、
前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームの少なくとも一方の偏光状態を変化させて、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームの偏光方向を直交させる第2偏光変換素子と、
前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームを同軸に重畳した第3波長結合ビームを形成して出射する偏光ビーム結合器と、
を備える、波長ビーム結合装置。
【請求項2】
前記1または複数の回折格子は、前記第1偏光方向に平行な回折溝を有する、請求項1に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項3】
前記ピーク波長は、430nmから480nmの範囲に含まれる、請求項1または2に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項4】
前記複数のレーザビームの本数は、10以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項5】
前記偏光ビームスプリッタは、前記複数のレーザビームが互いに平行に入射したとき、前記複数の第1偏光ビームを第1進行方向に反射し、かつ、前記複数の第2偏光ビームを透過するように構成されており、
前記偏光ビームスプリッタを透過した前記複数の第2偏光ビームを前記第1進行方向に反射するミラーを更に備え、
前記第1偏光変換素子は、前記ミラーによって反射された前記複数の第2偏光ビームを前記複数の第3偏光ビームに変換して前記第1進行方向に出射する、請求項1から4のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項6】
前記複数の回折格子は、
前記偏光ビームスプリッタによって前記第1進行方向に反射された前記複数の第1偏光ビーム、および、前記第1偏光変換素子から前記第1進行方向に出射される前記複数の第3偏光ビームを受ける位置に配置された第1回折格子と、
前記第1回折格子に対して平行に配置された第2回折格子と、
を含み、
前記第2回折格子は、前記複数の第1偏光ビームの前記第1回折格子による反射回折光を受けて前記第1進行方向に前記第1波長結合ビームを出射する第1領域と、前記複数の第3偏光ビームの前記第1回折格子による反射回折光を受けて前記第1進行方向に前記第2波長結合ビームを出射する第2領域と、を含む、請求項5に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項7】
前記第1回折格子および前記第2回折格子のそれぞれは、透過型回折格子である、請求項6に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項8】
前記第2回折格子において、前記第1領域および前記第2領域は、隙間を置いて分離された2個の素子である、請求項6または7に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項9】
前記第1領域および前記第2領域のそれぞれにおける回折溝は、前記第1偏光方向に平行であり、
前記第1領域および前記第2領域のそれぞれにおける前記回折溝の格子ピッチは200nm以上500nm以下であり、前記第1領域および前記第2領域のそれぞれにおける前記回折溝の本数は、2000本以上5000本以下である、請求項6から8のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項10】
前記第1波長結合ビーム、前記第2波長結合ビーム、および前記第3波長結合ビームの少なくとも1つに対する絞りを更に備える、請求項1から9のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置と、
それぞれが互いに異なるピーク波長のレーザ光を出射する複数の半導体レーザ装置と、
前記複数の半導体レーザ装置から出射された前記レーザ光から、前記波長ビーム結合装置の前記偏光ビームスプリッタに入射する前記複数のレーザビームを形成する光ファイバアレイ装置と、
を備える、ダイレクトダイオードレーザ装置。
【請求項12】
前記複数の半導体レーザ装置のそれぞれは、単一縦モードで発振するように構成されている、請求項11に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【請求項13】
前記互いに異なるピーク波長は、430nmから480nmの範囲に含まれる、請求項11または12に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【請求項14】
前記光ファイバアレイ装置は、前記複数のレーザビームを互いに平行に出射するように構成されている、請求項11から13のいずれか1項に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【請求項15】
請求項11から14のいずれかに記載の少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置と、
前記少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置から出射される前記第3波長結合ビームに結合される光伝送ファイバと、
前記光伝送ファイバに接続される加工ヘッドと、
を備える、レーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力高輝度のレーザビームを用いて多様な種類の材料に切断、穴あけ、マーキングなどの加工を行ったり、金属材料を溶接したりすることが行われている。従来、このようなレーザ加工に使用されてきた炭酸ガスレーザ装置およびYAG固体レーザ装置の一部は、エネルギー変換効率の高いファイバレーザ装置に置き換わりつつある。ファイバレーザ装置のポンプ光源には、レーザダイオード(以下、単にLDと記載する。)が使用されている。近年、LDの高出力化に伴い、LDをポンプ光源としてではなく、材料を直接に照射して加工するレーザビームの光源として用いる技術が開発されつつある。このような技術は、ダイレクトダイオードレーザ(DDL)技術と称されている。
【0003】
特許文献1は、複数のLDからそれぞれ出射された互いに波長が異なる複数のレーザビームを結合(combine)して光出力を増大させる光源装置の一例を開示している。互いに波長が異なる複数のレーザビームを同軸に結合することは、「波長ビーム結合(WBC)」または「スペクトルビーム結合(SBC)」と称され、例えばDDL装置などの光出力および輝度を高めるために用いられ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
波長ビーム結合によって結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を更に高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の波長ビーム結合装置は、ある実施形態において、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビームを結合する波長ビーム結合装置であって、前記複数のレーザビームを、それぞれ、第1偏光方向に直線偏光した複数の第1偏光ビームと、前記第1偏光方向に直交する第2偏光方向に直線偏光した複数の第2偏光ビームとに分離する偏光ビームスプリッタと、前記複数の第2偏光ビームを、前記第1偏光方向に直線偏光した複数の第3偏光ビームに変換する第1偏光変換素子と、前記複数の第1偏光ビームを回折して前記複数の第1偏光ビームを同軸に重畳した第1波長結合ビームを形成し、前記複数の第3偏光ビームを回折して前記複数の第3偏光ビームを同軸に重畳した第2波長結合ビームを形成する、1または複数の回折格子と、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームの少なくとも一方の偏光状態を変化させて、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームの偏光方向を直交させる第2偏光変換素子と、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームを同軸に重畳した第3波長結合ビームを形成して出射する偏光ビーム結合器と、を備える。
【0007】
本開示のダイレクトダイオードレーザ装置は、ある実施形態において、上記の波長ビーム結合装置と、それぞれが互いに異なるピーク波長のレーザ光を出射する複数の半導体レーザ装置と、前記複数の半導体レーザ装置から出射された前記レーザ光から、前記波長ビーム結合装置の前記偏光ビームスプリッタに入射する前記複数のレーザビームを形成する光ファイバアレイ装置と、を備える。
【0008】
本開示のレーザ加工機は、ある実施形態において、上記の少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置と、前記少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置から出射される前記第3波長結合ビームに結合される光伝送ファイバと、前記光伝送ファイバに接続される加工ヘッドと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施形態によれば、波長ビーム結合によって結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を更に高めることが可能な波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、偏光ビームスプリッタの構成例と機能を模式的に示す斜視図である。
【
図3A】
図3Aは、ピーク波長λnの光線が回折格子に入射して回折され、回折光線を形成する様子を模式的に示す斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、透過型の回折格子に光線が入射したときに形成される主要な回折光線を模式的に示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、ピーク波長がλ1、λ2、およびλ3である3本のレーザビームが波長結合された第1波長結合ビームのスペクトルを模式的に示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、ピーク波長がλ1、λ2、およびλ3である3本のレーザビームが波長結合された第2波長結合ビームのスペクトルを模式的に示すグラフである。
【
図5】
図5は、結合するレーザビームの本数がK本の場合(Kは4以上の整数)における第3波長結合ビームのスペクトルを模式的に示すグラフである。
【
図6】
図6は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態の構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、偏光ビームスプリッタの構成例を示す側面図である。
【
図8】
図8は、本開示による波長ビーム結合装置の第3実施形態の構成例を示す図である。
【
図9】
図9は、本開示によるダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態の構成例を示す図である。
【
図10】
図10は、本開示によるレーザ加工機の実施形態の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<波長ビーム結合装置の第1実施形態>
図1を参照しながら、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態を説明する。
図1を含む添付図面には、参考のため、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸が模式的に示されている。
【0012】
図1に示される本実施形態の波長ビーム結合装置100は、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム10を結合することができる。
図1では、簡単のため、ピーク波長がλ1、λ2、およびλ3である3本のレーザビーム10を同軸に結合する装置の構成例が記載されている。結合するレーザビーム10の本数は3本に限定されず、ピーク波長が互いに異なる2本または4本以上のレーザビーム10を結合してもよい。以下、結合する複数のレーザビーム10のピーク波長をλnと表記する場合がある。ここで、「n」は、1以上の整数であり、複数のレーザビーム10のそれぞれを区別(特定)する数値として用いられる。図示される例では、λ1<λ2<λ3の関係が成立している。ピーク波長λnの単位は、任意であるが、例えばナノメートル(nm)である。
【0013】
図1では、複数のレーザビーム10を、それぞれ、単純な直線で示している。実際のレーザビーム10は、進行方向に直交する平面内において強度分布を有する光ビームである。この強度分布は、光ビームの進行方向に直交する平面内において、例えばガウス分布などの分布関数によって近似することができる。光ビームの直径は、例えば、ビーム中心の強度に対して1/e
2倍以上の強度を有する断面領域のサイズによって定義される。本開示において、レーザビーム10は、コリメータレンズなどの光学系によってコリメートされている。図面では、レーザビーム10などのコリメートされた光ビームの進行方向を模式的に示すため、それぞれの光ビームの中心軸を直線によって表現している。これらの直線は、各光ビームの中心を通る光線を示していると考えてもよい。
【0014】
波長ビーム結合装置100は、複数のレーザビーム10が入射する偏光ビームスプリッタ20を備える。偏光ビームスプリッタ20は、入射したレーザビーム10の偏光状態に応じて透過率および反射率が異なる反射/透過面20Rを有している。光は電磁波であり、光の電磁場は進行方向に対して垂直な方向に振動する横波である。レーザビームの偏光状態は、レーザ光源の利得媒体、共振器、発振方式などに依存して異なり得る。また、レーザ光源から出射された段階では特定の偏光状態にあるレーザビームも、例えば光ファイバなどの伝送媒体を通過中に偏光状態が変動したり、偏光が解消(depolarize)したりする場合がある。偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rは、所定方向に直線偏光した偏光成分を選択的に反射し、当該所定方向に直交する方向に直線偏光した偏光成分を透過することができる。反射/透過面20Rには、例えば偏光依存性を有する誘電体多層膜が設けられている。
図1の例における偏光ビームスプリッタ20は、Z軸方向に進行するレーザビーム10を、第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第1偏光ビーム11と、第1偏光方向に直交する第2偏光方向(X軸方向)に直線偏光した複数の第2偏光ビーム12とに分離する。なお、複数のレーザビーム10は、偏光ビームスプリッタ20に入射するとき、互いに平行である必要はない。
図1の例において、3本のレーザビーム10の進行方向は、所定の角度を形成するように調整されている。この「所定の角度」の詳細については、後述する。
【0015】
一般に、物体表面に光線が入射するとき、入射点における物体表面の法線と光線の進行方向ベクトル(波数ベクトル)とを含む平面は、「入射面(plane of incidence)」と定義される。また、入射面に垂直な方向に直線偏光した光はS偏光、入射面に平行な方向に直線偏光した光はP偏光と呼ばれる。
図1の例において、偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rは、XZ面に垂直であり、反射/透過面20Rの法線はXZ面に平行な平面内にある。また、レーザビーム10の進行方向は、XZ面に平行である。このため、レーザビーム10が反射/透過面20Rに入射するときの「入射面」は、XZ面に平行である。本開示において、XZ面に垂直な方向である第1偏光方向に直線偏光した光を「S偏光」と称する。そして、XZ面に平行な方向(第1偏光方向に直交する第2偏光方向)に直線偏光した光を「P偏光」と呼ぶ。添付図面においては、小さな円でクロス記号を囲んだ符号で「S偏光」を示し、両端矢印の符号で「P偏光」を示す。「P偏光」の偏光方向は、XZ面に平行であるが、レーザビームの進行方向に対して垂直であるため、レーザビームの進行方向がXZ面に平行なまま、反射または回折によって回転すると、「P偏光」の偏光方向もXZ面に平行な面内で回転する。このため、本開示における「第2偏光方向」とは、レーザビームの進行方向に垂直、かつ、第1偏光方向に垂直な方向として定義される。
【0016】
図2は、偏光ビームスプリッタ20の構成例と機能を模式的に示す斜視図である。
図2の例において、S偏光およびP偏光を含むレーザビーム10がZ軸の正方向に進行して偏光ビームスプリッタ20に入射する。S偏光およびP偏光を含むレーザビーム10の偏光状態は、例えば、S偏光とP偏光とがランダムに混合した「無偏光」の状態にある。本開示において、「無偏光」とは、所定の方向に直線偏光していない光を意味する。したがって、このように広い意味での「無偏光」には、円偏光、楕円偏光も含まれ得る。また、偏光方向が時間または場所によってランダムまたは規則的に変化する直線偏光の混合状態も「無偏光」に含まれる。
【0017】
図2の例において、偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rは、レーザビーム10に含まれるS偏光を反射し、P偏光を透過する。その結果、レーザビーム10は、第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した第1偏光(S偏光)ビーム11と、第2偏光方向(X軸方向)に直線偏光した第2偏光(P偏光)ビーム12とに分離される。
【0018】
本開示において重要な点は、偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rによって、偏光方向が互いに直交する反射光および透過光を分離すること(偏光分離)にある。もし、レーザビーム10がS偏光のみから構成されているならば、レーザビーム10から第1偏光(S偏光)ビーム11は形成されるが、第2偏光(P偏光)ビーム12は形成されない。逆に、レーザビーム10がP偏光のみから構成されているならば、レーザビーム10から第1偏光(S偏光)ビーム11は形成されずに、第2偏光(P偏光)ビーム12のみが形成される。
【0019】
偏光ビームスプリッタ20に入射する複数のレーザビーム10が「無偏光」であれば、レーザビーム10は、第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第1偏光(S偏光)ビーム11と、第2偏光方向(X軸方向)に直線偏光した複数の第2偏光(P偏光)ビーム12とに分離される。しかしながら、レーザビーム10がS偏光およびP偏光の重ね合わせ状態にある直線偏光であっても、その偏光方向が
図2のX軸およびY軸のいずれに対しても平行でなければ、そのようなレーザビーム10から第1偏光(S偏光)ビーム11および第2偏光(P偏光)ビーム12を形成することができる。また、偏光ビームスプリッタ20に入射する複数のレーザビーム10のそれぞれが、異なる方向に直線偏光している場合も、それら複数のレーザビーム10は、全体として、第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第1偏光(S偏光)ビーム11と、第2偏光方向(X軸方向)に直線偏光した複数の第2偏光(P偏光)ビーム12とに分離され得る。したがって、偏光ビームスプリッタ20に入射する「複数」のレーザビーム10の全てが
図2のX軸およびY軸の一方の軸の方向に揃って直線偏光していなければ、偏光ビームスプリッタ20による偏光分離が実現するため、複数のレーザビーム10は全体として「無偏光」であると解釈される。
【0020】
なお、
図2には、プリズム型の偏光ビームスプリッタ20が示されているが、偏光ビームスプリッタ20の種類は、この例に限定されず、キューブ型、プレート型、または他の型であってもよい。
図2の例において、偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rで反射された第1偏光(S偏光)ビーム11は、白抜きの矢印で示される第1進行方向Fに進む。一方、偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rを透過した第2偏光(P偏光)ビーム12は、Z軸の正方向に進む。しかし、これらの第1偏光(S偏光)ビーム11および第2偏光(P偏光)ビーム12のそれぞれの進行方向は、たとえばミラーなどの光学素子によって変化させることが可能である。
【0021】
再び
図1を参照する。波長ビーム結合装置100は、複数の第2偏光(P偏光)ビーム12を、第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第3偏光(S偏光)ビーム13に変換する第1偏光変換素子30を備える。第1偏光変換素子30は、例えば1/2波長板(半波長位相差板)である。1/2波長板は、複屈折性を有し、厚さ方向に進行する電磁波の直交する2成分における位相差を変化させる。1/2波長板の遅相軸または進相軸を第2偏光(P偏光)ビーム12の偏光方向に対して45°の角度を形成するように配置することにより、1/2波長板はP偏光をS偏光に変換することが可能になる。
【0022】
こうして、本実施形態における波長ビーム結合装置100は、例えば全体として無偏光である複数のレーザビーム10から、特定の同一方向に直線偏光した複数の第1偏光ビーム11および複数の第3偏光ビーム13を形成することができる。この段階において、複数の第1偏光ビーム11は、ピーク波長が異なり、かつ同軸に結合していない複数のレーザビームから構成されている。同様に、複数の第3偏光ビーム13も、ピーク波長が異なり、同軸に結合してない複数のレーザビームから構成されている。
【0023】
なお、1/2波長板が形成する位相差は、入射光の波長に依存する。したがって、ピーク波長がλ1、λ2、およびλ3である3本のレーザビームが1/2波長板を透過すると、すべてのピーク波長で正確に1/2波長の位相差は形成されず、P偏光から変換されたS偏光には、P偏光の成分が残る。このため、第1偏光変換素子30から出射される複数の第3偏光(S偏光)ビーム13には、P偏光の成分が残り、厳密には楕円偏光が含まれ得る。しかしながら、複数のピーク波長λnのすべてが、比較的狭い範囲、例えば10nm以下の範囲に含まれていれば、1/2波長板による位相差の違い(波長分散)は十分に小さい。このため、本開示の実施形態では、第3偏光ビーム13は主としてS偏光成分を含み、部分的にP偏光成分を含んでいてもよい。
【0024】
図1の波長ビーム結合装置100は、これらの複数の第1偏光(S偏光)ビーム11、および複数の第3偏光(S偏光)ビーム13をそれぞれ同軸化するための2つの回折格子40を更に備えている。2つの回折格子40の一方は、複数の第1偏光ビーム11を回折して複数の第1偏光ビーム11を同軸に重畳した第1波長結合ビーム21を形成し、他方は、複数の第3偏光ビーム13を回折して複数の第3偏光ビーム13を同軸に重畳した第2波長結合ビーム22を形成するように構成されている。
【0025】
次に、
図3Aを参照して、回折格子40の構成例と機能を説明する。
図3Aに示される回折格子40は、
図1における第1偏光ビーム11を回折する回折格子40である。以下の説明は、他の回折格子40にも当てはまる。
【0026】
図3Aは、ピーク波長λnの光線14Aが回折格子40に入射して回折され、回折光線14Bを形成する様子を模式的に示す斜視図である。光線14Aの入射角をαnとする。入射角αnの「n」は、ピーク波長λnの「n」と同じ整数である。入射角αnは、回折格子40の回折面の法線方向Nとピーク波長λnの光線14Aとが形成する角度である。回折格子40の表面には、多数の回折溝が設けられている。
図3Aには、仮想的な平面44が記載されている。この平面44は、回折格子40に入射する光線14Aと回折格子40から出射する回折光線14Bとを含む平面であり、回折溝に直交する。回折は、平面40内における光線14Aと回折光線14Bの間の角度が波長に応じて変化すること(分散)であるため、平面40が拡がる方向を「分散の方向」と呼んでもよい。
【0027】
回折光線14Bの回折角をβとすると、以下の式1の関係が成立する。
sin(αn) + sin(β) = N・m・λn ・・・(式1)
ここで、Nは回折格子40の1mmあたりの回折溝の本数、mは回折次数である。
【0028】
例えば、回折次数mを1、回折角βを45.0度とする場合、N=2500、波長λnが450nmであれば、入射角αnは、24.7度である。ピーク波長λnが異なる複数のレーザビームを回折格子40の同一位置に入射するとき、波長λnと入射角αnを適切に選択することにより、ピーク波長λnが異なる複数のレーザビームを同じ回折角βの方向に回折することが可能になる。
【0029】
図3Bは、透過型の回折格子40に光線Iが入射したときに形成される主要な回折光線を模式的に示す断面図である。
図3Bには、回折格子40により形成される反射0次回折光線R-0、反射1次回折光線R-1、透過0次回折光線T-0、および透過1次回折光線T-1が記載されている。透過型回折格子であっても、本実施形態に使用される回折格子40は、反射1次回折光線R-1が選択的に強く生成されるよう構成される。このため、透過型の回折格子40によって生成される反射0次回折光線R-0、透過0次回折光線T-0、および透過1次回折光線T-1は無視できる。その結果、回折格子に入射したレーザビームのほとんどは、回折格子40を構成する材料には吸収されず、光の損失が抑制される。透過型の回折格子とは異なり、反射型の回折格子は、反射のための部材(誘電体多層膜またはミラー)を備えており、この部材による光吸収は無視できない。そのため、反射型回折格子によれば、入射するレーザビームの強度が高くなると、光吸収による発熱が回折格子の性能を劣化させる可能性がある。このため、本開示の実施形態では、透過型回折格子を利用することが望ましい。回折格子40の基材は、レーザビームのピーク波長における吸収率の低い材料、例えば石英から形成され得る。格子断面の形状は、例えば矩形または台形である。
【0030】
なお、波長ビーム結合装置100の構成要素を収容する筐体の内側面には、光吸収部材が設けられ得る。光吸収部材は、反射1次回折光線R-1以外の回折光線を吸収し、迷光の発生を抑制する。
【0031】
次に、また
図1を参照する。本開示の実施形態では、左の回折格子40に入射する複数の第1偏光ビーム11の入射角(αn)を波長λn(=λ1、λ2、λ3)に応じて式1を満たすよう決定する。また、同様に、右の回折格子40に入射する複数の第3偏光ビーム13の入射角(αn)を波長λn(=λ1、λ2、λ3)に応じて式1を満たすよう決定する。こうして、回折角(β)を等しくするように同軸化された第1波長結合ビーム21と第2波長結合ビーム22とを生成することができる。回折格子40の回折溝が形成されている面上における第1偏光ビーム11および第3偏光ビーム13のそれぞれの直径(ビーム径)は、例えば0.5mm以上10mm以下の範囲にある。
【0032】
本実施形態では、回折格子40に入射するレーザビームが、S偏光の第1偏光ビーム11およびS偏光の第3偏光ビーム13である。回折格子40が偏光依存性を有している場合、無偏光のレーザビームが入射すると、偏光成分によっては回折効率が低下してしまう。本実施形態では、回折格子40は、第1偏光方向(Y軸方向)に平行な回折溝を有している。本実施形態では、S偏光に対する回折効率がP偏光に対する回折効率よりも高い回折格子40を用いることにより、回折格子40で光損失が発生することを抑制できる。
【0033】
なお、レーザビーム10は、ピーク波長λnを略中心としてΔλnのスペクトル幅を有しているとき、このスペクトル幅Δλnは小さいほど好ましい。スペクトル幅Δλnが拡がると、回折角βが大きな幅を持つことになる。回折角βが大きな幅を持つことは、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22の進行方向に幅を与えてしまう。スペクトル幅Δλnは、例えば0.3nm以下に設定される。スペクトル幅Δλnの狭い複数のレーザビーム10を結合することにより、所望の波長範囲に複数のピーク波長を含む波長結合ビームを生成して、その光出力を効率的に高めることが可能になる。Cuなどの金属の加工・溶接を行う用途では、例えば、複数のピーク波長は430nmから480nmの範囲に含まれ得る。また、複数のレーザビーム10の本数は10以上であり得る。
【0034】
波長ビーム結合装置100は、更に、第2偏光変換素子50と、偏光ビーム結合器60とを備える。第2偏光変換素子50は、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22の少なくとも一方の偏光状態を変化させて、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22の偏光方向を直交させるように構成されている。第2偏光変換素子50は、第1偏光変換素子30と同様に、例えば1/2波長板(半波長位相差板)である。
図1の例において、第2偏光変換素子50は、第2波長結合ビーム22の偏光方向を90度回転させるように配置されている。第2偏光変換素子50を透過した第2波長結合ビーム22は、第2偏光方向に直線偏光している。これとは異なり、第2偏光変換素子50は、第1波長結合ビーム21の偏光方向を90度回転させる位置に置かれてもよい。
【0035】
偏光ビーム結合器60は、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22を同軸に重畳した第3波長結合ビーム23を形成して出射するように構成されている。偏光ビーム結合器60は、偏光ビームスプリッタ20と同様の構成を備えていてもよい。一般に、偏光ビームスプリッタは、偏光ビーム結合器としても使用可能である。
図1の例において、第1波長結合ビーム21はS偏光であり、第2偏光変換素子50を透過した第2波長結合ビーム22はP偏光である。偏光ビーム結合器60は、S偏光を反射し、P偏光は透過する反射/透過面60Rを備える。その結果、偏光ビーム結合器60は、S偏光である第1波長結合ビーム21とP偏光である第2波長結合ビーム22が同軸に重畳された第3波長結合ビーム23を出射することができる。
【0036】
第3波長結合ビーム23は、ピーク波長がλ1、λ2、およびλ3である3本のレーザビーム10が波長結合されたレーザビームである。こうして、波長ビーム結合装置100によれば、波長結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を高めることが可能になる。結合するレーザビーム10の本数が増えれば、それに比例して第3波長結合ビーム23の出力およびパワー密度は増加し得る。
【0037】
なお、上記の例とは反対に、偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rで第2偏光(P偏光)ビーム12を第1進行方向Fに反射し、第1偏光(S偏光)ビーム11は、Z軸の正方向に透過させることも可能である。この場合、第1偏光変換素子30は、複数の第2偏光(P偏光)ビーム12を透過する位置に置かれ、複数の第2偏光(P偏光)ビーム12を第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第3偏光(S偏光)ビーム13に変換する。
【0038】
図4Aは、ピーク波長がλ1、λ2、およびλ3である3本のレーザビーム10が波長結合された第1波長結合ビーム21のスペクトルを模式的に示すグラフである。グラフの縦軸は光強度、横軸は波長である。
図4Bは、ピーク波長がλ1、λ2、およびλ3である3本のレーザビーム10が波長結合された第2波長結合ビーム22のスペクトルを模式的に示すグラフである。グラフの縦軸は光強度、横軸は波長である。第1波長結合ビーム21と第2波長結合ビーム22とが同軸に重畳される第3波長結合ビーム23の光強度は、偏光ビーム結合器60による光損失を無視すれば、
図4Aに示される光強度と
図4Bに示される光強度の総和に等しい。
【0039】
図5は、結合するレーザビーム10の本数がK本の場合(Kは4以上の整数)における第3波長結合ビーム23のスペクトルを模式的に示すグラフである。グラフの縦軸は光強度、横軸は波長である。結合するレーザビーム10の本数を増加させることにより、光出力よびパワー密度が増大する。また、所定の波長範囲内で複数のレーザビーム10を結合するには、レーザビーム10のピーク波長の間隔を狭くすればよい。
【0040】
本実施形態の波長ビーム結合装置によれば、入射する光の偏光状態に適した回折格子を用いて回折効率を高め、回折格子によって生成された回折光を同軸化することにより、出力およびパワー密度を高めることが可能になる。
【0041】
<波長ビーム結合装置の第2実施形態>
次に
図6および
図7を参照しながら、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態を説明する。
【0042】
図6に示される本実施形態の波長ビーム結合装置200は、第1実施形態と同様に、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム10を結合することができる。
【0043】
図6の波長ビーム結合装置200は、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム10を、それぞれ、第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第1偏光ビーム11と、第1偏光方向に直交する第2偏光方向(XZ平面内の方向)に直線偏光した複数の第2偏光ビーム12とに分離する偏光ビームスプリッタ20を備える。この偏光ビームスプリッタ20は、
図7に詳しく示すように、入射するレーザビーム10を第1偏光(S偏光)ビーム11と第2偏光(P偏光)ビーム12とに分離する反射/透過面20Rと、第2偏光(P偏光)ビーム12を第1進行方向(F方向)に反射するミラー26Mとを有している。この例においては、断面が三角形である透明プリズムに、断面が平行四辺形の透明部材が、反射/透過面20Rを介して固定されている。そして、ミラー26Mは、断面が平行四辺形の透明部材の斜面に固定されている。
【0044】
ミラー26Mで反射された複数の第2偏光ビーム12は、第1偏光変換素子30によって第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第3偏光ビーム13に変換される。
【0045】
図6の波長ビーム結合装置200では、1個の回折格子40が、複数の第1偏光ビーム11を回折して複数の第1偏光ビーム11を同軸に重畳した第1波長結合ビーム21を形成し、複数の第3偏光ビーム13を回折して複数の第3偏光ビーム13を同軸に重畳した第2波長結合ビーム22を形成するように配置されている。複数の第1偏光ビーム11が入射する回折格子40上の位置は、複数の第3偏光ビーム13が入射する回折格子40上の位置と異なる。このため、
図6の回折格子40は、複数の第1偏光ビーム11が入射する第1の回折格子、複数の第3偏光ビーム13が入射する第2の回折格子に分離されていてもよい。複数のレーザビーム10が全体として有する出力が高くなると、それらが入射する回折格子40の温度が局所的に上昇する結果、熱膨張によって回折格子40が変形する可能性がある。そのような変形は、回折効率の低下を招き、回折格子40の性能を低下させる可能性がある。本実施形態では、1個の回折格子40を用いる形態においても、回折格子40の異なる領域に各々の偏光ビームを分けて当てるため、複数のレーザビーム10が全体として有する出力が増大しても、回折格子40の前述した性能低下を抑制することができる。
【0046】
図6の波長ビーム結合装置200も、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22の少なくとも一方の偏光状態を変化させて、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22の偏光方向を直交させる第2偏光変換素子50と、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22を同軸に重畳した第3波長結合ビーム23を形成して出射する偏光ビーム結合器60と、を備える。
【0047】
本実施形態における偏光ビーム結合器60は、偏光ビームスプリッタ20と同一の構成を有しているが、その向きはY軸の周りに90度だけ回転した関係にある。この例では、偏光ビーム結合器60に固定されたミラー60Mが、第2波長結合ビーム22を反射して、第1波長結合ビーム21と第2波長結合ビーム22を同軸に重畳することを可能にしている。
【0048】
本実施形態の波長ビーム結合装置によれば、入射する光の偏光状態に適した回折格子を用いて回折効率を高め、回折格子によって生成された回折光を同軸化することにより、出力およびパワー密度を高めることが可能になる。
【0049】
<波長ビーム結合装置の第3実施形態>
次に
図8を参照しながら、本開示による波長ビーム結合装置の第3実施形態を説明する。
【0050】
図8に示される本実施形態の波長ビーム結合装置300は、第2実施形態における偏光ビームスプリッタ20を備えているが、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム10が偏光ビームスプリッタ20に対して互いに平行に入射する。偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rは、複数の第1偏光ビーム11を第1進行方向(F方向)に反射し、かつ、複数の第2偏光ビーム12を透過する。本実施形態における波長ビーム結合装置300は、第2実施形態における波長ビーム結合装置200と同様に、偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rを透過した複数の第2偏光ビーム12を第1進行方向(F方向)に反射するミラー26Mを備えている。ミラー26Mで反射された複数の第2偏光ビーム12は、第1偏光変換素子30によって第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第3偏光ビーム13に変換される。第1偏光変換素子30は、他の実施形態と同様、例えば1/2波長板(半波長位相差板)である。
【0051】
本実施形態では、第2実施形態とは異なり、第1進行方向(F方向)に進行する複数の第1偏光ビーム11、および複数の第3偏光ビーム13は、それぞれ、平行である。
【0052】
本実施形態の波長ビーム結合装置300が備える回折格子は、偏光ビームスプリッタ20によって第1進行方向(F方向)に反射された複数の第1偏光ビーム11、および、第1偏光変換素子30から第1進行方向(F方向)に出射される複数の第3偏光ビーム13を受ける位置に配置された第1回折格子40Aと、第1回折格子40Aに対して平行に配置された第2回折格子40Bと、を含む。第2回折格子40Bは、複数の第1偏光ビーム11の第1回折格子40Aによる反射回折光を受けて第1進行方向(F方向)に第1波長結合ビーム21を出射する第1領域41と、複数の第3偏光ビーム13の第1回折格子40Aによる反射回折光を受けて第1進行方向(F方向)に第2波長結合ビーム22を出射する第2領域42と、を含む。
【0053】
第1回折格子40Aおよび第2回折格子40Bの構造は、前述の式1に基づいて設計される。より詳細には、第1回折格子40Aおよび第2回折格子40Bは、1mmあたりの回折溝の本数Nが等しく、互いに平行に配置されている。そして、第1回折格子40Aは、複数の第1偏光ビーム11および複数の第3偏光ビーム13がいずれも入射角α(例えば45度)で入射するよう配置される。第1回折格子40Aは、同じ入射角αで平行に入射する複数の第1偏光ビーム11および複数の第3偏光ビーム13を、それぞれのピーク波長λnに応じて異なる回折角βnで回折し、対向する第2回折格子40Bの所定の位置に入射させるように構成されている。第1回折格子40Aと同じ構造を有する第2回折格子40Bは、ピーク波長λnに応じて異なる入射角βnで入射する第1回折格子40Aからの反射回折光を、同じ回折角α(例えば45度)で出射するように構成されている。このようにして一対の回折格子40A、40Bの働きにより、同軸化された第1波長結合ビーム21、および、同軸化された第2波長結合ビーム22を、第1進行方向(F方向)に出射することが可能になる。
【0054】
上述のように、第1回折格子40Aと第2回折格子40Bとは、それぞれの分散の方向が同一平面内に含まれる状態で平行関係にある。言い換えると、第1回折格子40Aと第2回折格子40Bとは、
図3Aに示される平面44を互いに共有するように平行に配置されている。この場合、第1回折格子40Aへの入射角と第2回折格子40Bからの回折角が同一角度となる。この関係は、波長に依らず維持されるため、複数のレーザビームの波長が変動しても、第2回折格子40Bからの回折角を一定に保つことが可能となり、光ファイバへの集光が容易となる。
【0055】
なお、第1回折格子40Aと第2回折格子40Bとの平行度は、第1回折格子40Aの回折溝が形成されている面に対する第1の法線と、第2回折格子40Bの回折溝が形成されている面に対する第2の法線との間の角度によって評価される。本開示の実施形態において、これら第1の法線と第2の法線との間の角度は、180度±1度の範囲にあることが望ましい。
【0056】
図8の波長ビーム結合装置300も、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22の少なくとも一方の偏光状態を変化させて、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22の偏光方向を直交させる第2偏光変換素子50と、第1波長結合ビーム21および第2波長結合ビーム22を同軸に重畳した第3波長結合ビーム23を形成して出射する偏光ビーム結合器60と、を備える。
図8の例において、偏光ビーム結合器60は、偏光ビームスプリッタ20と同一の構成を備えているが、向きがY軸周りに180度だけ回転した関係にある。
【0057】
本実施形態の波長ビーム結合装置によれば、入射する光の偏光状態に適した回折格子を用いて回折効率を高め、回折格子によって生成された回折光を同軸化することにより、出力およびパワー密度を高めることが可能になる。
【0058】
<ダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態>
以下、
図9を参照しながら、ダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態を説明する。
【0059】
本実施形態におけるダイレクトダイオードレーザ装置1000は、波長ビーム結合装置400と、それぞれが互いに異なるピーク波長のレーザ光を出射する複数の半導体レーザ装置72と、複数の半導体レーザ装置72から出射されたレーザ光から、波長ビーム結合装置400の偏光ビームスプリッタ20に入射するレーザビーム10を形成するように構成された光ファイバアレイ装置70とを備える。各半導体レーザ装置72から出射されるレーザ光は、光ファイバアレイ装置70の対応する光ファイバ74に光学的に結合される。複数の半導体レーザ装置72のそれぞれは、互いに異なるピーク波長の単一縦モードで発振するように構成されている。各ピーク波長は、例えば、430nmから480nmの範囲に含まれる。各半導体レーザ装置72から出射されるレーザ光が直線偏光であっても、光ファイバ74が偏光保持ファイバでない場合、レーザ光の偏光状態は光ファイバ74を通過する過程で変化する。このため、本実施形態における光ファイバアレイ装置70によって形成される複数のレーザビーム10のそれぞれは、無偏光である。
【0060】
単一縦モードで発振する半導体レーザ装置72の例は、外部共振型レーザ(External Cavity Laser:ECL)装置、分布帰還型(Distributed Feedback:DFB)レーザ装置、分布反射型(Distributed Bragg Reflector:DBR)レーザ装置を含む。
【0061】
光ファイバアレイ装置70を用いることにより、光ファイバ74を整列でき、レーザビーム10の出射角度を調整することが容易になる。その結果、光ファイバアレイ装置70から、複数のレーザビーム10を例えば高い正確度で平行に出射させることが容易になる。光ファイバアレイ装置70によれば、レーザ光源から延びる光ファイバを、光ファイバアレイ装置70の光ファイバ74に融着して接続することもできる。光ファイバアレイ装置70は、各光ファイバ74の先端から出射されたレーザ光をコリメートするレンズ系を備える。
【0062】
本実施形態における波長ビーム結合装置400は、第3実施形態と同様に、偏光ビームスプリッタ20を備える。ただし、本実施形態における偏光ビームスプリッタ20はプレート型である。このプレート型の偏光ビームスプリッタ20には、光ファイバアレイ装置70から第1進行方向(F方向)に直交する第2進行方向に平行に出射された、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム10が互いに平行に入射する。偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rは、複数の第1偏光ビーム11を第1進行方向(F方向)に反射し、かつ、複数の第2偏光ビーム12を透過する。偏光ビームスプリッタ20がプレート型であると、前述の実施形態における偏光ビームスプリッタ20に比べて、第2偏光ビーム12が偏光ビームスプリッタ20に吸収される割合が低下し、光エネルギーの損失が抑制され、かつ、偏光ビームスプリッタ20の昇温も抑制され得る。結合されるレーザビーム10のそれぞれの光エネルギーが増加し、また、結合されるレーザビーム10の本数が増加すると、装置内での光エネルギーの吸収による光学素子の加熱を可能な限り抑制することが望ましい。
【0063】
波長ビーム結合装置400は、偏光ビームスプリッタ20の反射/透過面20Rを透過した複数の第2偏光ビーム12を第1進行方向(F方向)に反射するミラー26Mを備えている。このミラー26Mもプレート型である。プレート型のミラー26Mで反射された複数の第2偏光ビーム12は、第1偏光変換素子30によって第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第3偏光ビーム13に変換される。第1偏光変換素子30は、他の実施形態と同様、例えば1/2波長板(半波長位相差板)である。本実施形態でも、第3実施形態と同様に、第1進行方向(F方向)に進行する複数の第1偏光ビーム11、および複数の第3偏光ビーム13は、それぞれ、平行である。
【0064】
波長ビーム結合装置400は、偏光ビームスプリッタ20によって第1進行方向(F方向)に反射された複数の第1偏光ビーム11、および、第1偏光変換素子30から第1進行方向(F方向)に出射される複数の第3偏光ビーム13を受ける位置に配置された第1回折格子40Aと、第1回折格子40Aに対して平行に配置された第2回折格子40Bとを含む。本実施形態では、第1回折格子40Aおよび第2回折格子40Bのそれぞれは、透過型回折格子である。
【0065】
第2回折格子40Bは、複数の第1偏光ビーム11の第1回折格子40Aによる反射回折光を受けて第1進行方向(F方向)に第1波長結合ビーム21を出射する第1領域41と、複数の第3偏光ビーム13の第1回折格子40Aによる反射回折光を受けて第1進行方向(F方向)に第2波長結合ビーム22を出射する第2領域42と、を含む。第2回折格子40Bにおいて、第1領域41および第2領域42は、隙間を置いて分離された2個の素子である。第1領域41および第2領域42のそれぞれにおける回折溝は、第1偏光方向(Y軸方向)に平行である。第1領域41および第2領域42のそれぞれにおける回折溝の格子ピッチは、例えば、200nm以上500nm以下である。第1領域41および第2領域42のそれぞれにおける回折溝の本数を、例えば、2000本以上5000本以下にすると、第1領域41および第2領域42のそれぞれのサイズ(回折溝に直交する方向における長さ)は、例えば15mm以下に制限される。第1回折格子40Aからの反射回折光が集まる第2回折格子40Bの領域を小さくすることにより、レーザビームのピーク波長が設定値から外れた場合には、第1回折格子40Aからの反射回折光が第1領域41および第2領域42に当たらず、その結果として、ビーム品質の低下が抑制される。ビーム品質が低下すると、集光レンズ80によって収束した波長結合ビームが光伝送ファイバ90のコア以外の部分を照射して光伝送ファイバ90に損傷を与える可能性がある。なお、第2回折格子40Bの背面側には、光吸収部材などが設けられ、第1領域41および第2領域42から外れた反射回折光を光吸収部材によって吸収させることが望ましい。
【0066】
波長ビーム結合装置400は、第1波長結合ビーム21、第2波長結合ビーム22、および第3波長結合ビーム23の少なくとも1つに対する絞り(ピンホール素子)95を更に備えていてもよい。例えば、
図9に示す位置にピンホール素子95を配置することにより、集光レンズ80によって収束した第3波長結合ビーム23が光伝送ファイバ90のコア以外の部分を照射して光伝送ファイバ90に損傷を与えることを抑制する。ピンホール素子95のピンホール径は、例えば1.0mm以上5mm以下の範囲であり得る。ピンホール素子95は、第1波長結合ビーム21に対する絞りとして機能する位置に設けられてもよいし、第2波長結合ビーム22に対する絞りとして機能する位置に設けられてもよい。ピンホール素子95の個数は1個に限定されない。
【0067】
本実施形態では、偏光ビームスプリッタ20、ミラー26M、回折格子40A、40B、偏光変換素子30、50などの光学素子が、いずれも、プレート型である。レーザビームのピーク波長が青色帯域に含まれる場合、これらの光学素子は、青色帯域の光を吸収しにくい材料、例えば石英から形成され得る。これらの光学素子を薄くして所定の空間内に集積することは、装置の小型化に寄与するだけではなく、複数の光学素子の温度を全体として調整することを容易にする。
【0068】
第3波長結合ビーム23は、集光レンズ80により光伝送ファイバ90に結合される。青色帯域の高出力光伝送に適した光伝送ファイバ90の例は、OH基含有率の高い「高OH-純石英」コアを有する光ファイバ、コアレスファイバ、および、フォトニクス結晶ファイバを含む。
【0069】
なお、本開示によるダイレクトダイオードレーザ装置は、
図9に示される構成を有する波長ビーム結合装置400を備える例に限定されず、他の実施形態における波長ビーム結合装置100、200、300、または、それらの変形例を備えていてもよい。
【0070】
本実施形態のダイレクトダイオードレーザ装置によれば、複数の半導体レーザ装置から出射されたレーザ光の偏光状態が光ファイバアレイ装置によって無偏光になっても、偏光ビームスプリッタによって直線偏光に変換されため、各偏光状態に適した回折格子を用いて回折効率を高めることが可能になる。そして、このような回折格子によって生成された回折光を同軸化することにより、出力およびパワー密度を高めることが可能になる。
【0071】
<レーザ加工機の実施形態>
次に、
図10を参照して、本開示によるレーザ加工機2000の実施形態を説明する。
図10は、本実施形態におけるレーザ加工機2000の構成例を示す図である。
【0072】
図示されているレーザ加工機2000は、光源装置1100と、光源装置1100から延びる光伝送ファイバ90に接続された加工ヘッド1200とを備えている。加工ヘッド1200は、光伝送ファイバ90から出射された波長結合ビームで対象物1300を照射する。図示されている例において、光源装置1100の個数は、1個である。加工ヘッド1200は、複数の光源装置1100と光伝送ファイバ90を介して接続され得る。
【0073】
光源装置1100は、前述した構成を有する波長ビーム結合装置と、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビームを出射する複数の半導体レーザ装置とを有するダイレクトダイオードレーザ装置である。光源装置1100が備える波長ビーム結合装置は、前述した種々の実施形態、および、それら実施形態の変形例であり得る。光源装置1100に搭載される半導体レーザ装置の個数は特に限定されず、必要な光出力または放射照度に応じて決定される。半導体レーザ装置から出射されるレーザ光の波長も、加工対象の材料に応じて選択され得る。
【0074】
本実施形態によれば、波長ビーム結合によって高出力のレーザビームを生成し、光ファイバに効率的に結合されるため、ビーム品質に優れた高パワー密度のレーザビームを高いエネルギー変換効率で得ることが可能になる。
【0075】
なお、加工ヘッド1200から出射されるレーザビームは、半導体レーザ装置から出射されて結合されたレーザビーム以外のレーザビームが含まれていてもよい。例えば、半導体レーザ装置から出射されて波長結合されるレーザビームのピーク波長は430nmから480nmの範囲に含まれるが、それとは別に、例えばピーク波長が近赤外のレーザビームが重畳されていてもよい。加工対象の材料に応じて、適宜、その材料の吸収率が高い波長のレーザビームが重畳され得る。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本開示の波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機は、高いビーム品質を持つ高出力高パワー密度のレーザ光が求められる用途、例えば各種材料の切断、穴あけ、局所的熱処理、表面処理、金属の溶接、3Dプリンティングなどに広く利用され得る。
【符号の説明】
【0077】
10・・・レーザビーム、20・・・偏光ビームスプリッタ、11・・・第1偏光ビーム、12・・・第2偏光ビーム、13・・・第3偏光ビーム、21・・・第1波長結合ビーム、22・・・第2波長結合ビーム、23・・・第3波長結合ビーム、30・・・第1偏光変換素子、40・・・回折格子、50・・・第2偏光変換素子、60・・・偏光ビーム結合器、100・・・波長ビーム結合装置、200・・・波長ビーム結合装置、300・・・波長ビーム結合装置、400・・・波長ビーム結合装置、1000・・・ダイレクトダイオードレーザ装置、2000・・・レーザ加工機