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特開2023-88718オルガノシロキサン系水素貯蔵用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088718
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】オルガノシロキサン系水素貯蔵用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20230620BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20230620BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20230620BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20230620BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20230620BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C08L83/04
C01B3/00 B
B01J31/28 M
B01J23/755 M
C08K3/00
C08K5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203630
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】砂田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍好
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
4J002
【Fターム(参考)】
4G140AA42
4G169AA03
4G169BA04B
4G169BA07A
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA10A
4G169BA21B
4G169BA22B
4G169BA26C
4G169BA27C
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB08A
4G169BB08B
4G169BB08C
4G169BB09A
4G169BB10C
4G169BB11A
4G169BB12C
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BB16C
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC29A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC43B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC69A
4G169BD03B
4G169BD05A
4G169BE06B
4G169BE32B
4G169CB02
4G169CB07
4G169CB65
4G169CB66
4G169CB81
4G169DA05
4J002CP012
4J002CP031
4J002DA086
4J002DD076
4J002DE096
4J002DE246
4J002DF036
4J002DG046
4J002EC046
4J002FD202
4J002FD206
(57)【要約】
【課題】貴金属フリー、高効率、または安全性などの点に優れる水素貯蔵手段を提供する。
【解決手段】 幾つかの形態では、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する水素貯蔵材料と、ニッケル担持触媒とを含む、水素貯蔵用組成物を提供する。好ましい幾つかの形態において、水素貯蔵材料は、シロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基を含むポリマーであるシリコーンオイルである。また、幾つかの形態では、水素貯蔵用組成物と水素とを接触させて、前記水素貯蔵材料の芳香族基に水素を付加させることを含む、水素の貯蔵方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する水素貯蔵材料と、ニッケル担持触媒とを含む、水素貯蔵用組成物。
【請求項2】
前記水素貯蔵材料は、シロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基を有するポリマーであるシリコーンオイルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記シリコーンオイルは、下記の構造(A)を含む、請求項2に記載の組成物。
【化49】
[式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、有機基、および-L-Arからなる群から選択され、
Lは、単結合、および、アルキレン基からなる群から選択され、
Arは、アリール基及びヘテロアリール基からなる群から選択される。]
【請求項4】
は、水素原子、メチル基、エチル基、およびArからなる群から選択され、
Lは、単結合、メチレン基、およびエチレン基からなる群から選択され、
Arは、置換または非置換のフェニル基;置換または非置換の炭素数12~30の多環式芳香族炭化水素基;置換または非置換の、酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択される1個以上のヘテロ原子および3~20個の炭素原子を含有する4~20員の単環式または多環式の芳香族基からなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記水素貯蔵材料の芳香族基の不飽和基の少なくとも一部が、水素付加反応によって水素付加されることにより水素を吸蔵することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ニッケル担持触媒は、ニッケル成分と、前記ニッケル成分を担持する固体担体とを含み、
前記固体担体は、金属酸化物、金属複合酸化物、金属硫化物、アパタイト類、粘土鉱物、金属塩、ゼオライト、活性炭、金属窒化物、およびケイ素系材料からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記固体担体は、粒子形状である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ニッケル成分は、水酸化ニッケル、金属ニッケル、ハロゲン化ニッケル、酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、チオシアン酸ニッケル、およびニッケル錯体からなる群から選択され、
前記ニッケル錯体は、アルケン、アルキン、カルボニル、ハロゲン原子、有機酸、ヒドロキシ、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、ケトンおよびカルベンからなる群から選択される少なくとも1種の配位子を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
さらに、還元剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物と水素とを接触させて、前記水素貯蔵材料の芳香族基に水素を付加させることを含む、水素の貯蔵方法。
【請求項11】
水素との接触反応を、25~250℃の温度および1~10気圧の圧力で行う、請求項11に記載の水素の貯蔵方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の水素貯蔵用組成物に含まれる芳香族基の少なくとも一部が水素付加された水素供給材料を含む、水素供給用組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の水素供給用組成物を用いて脱水素化反応することを含む、水素の製造方法。
【請求項14】
脱水素化反応を、貴金属触媒または遷移金属触媒の存在下、100~350℃の温度で行う、請求項13に記載の水素の製造方法。
【請求項15】
脱水素化反応を、ニッケル担持触媒の存在下、100~350℃の温度で行う、請求項13に記載の水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシロキサン骨格を有する水素貯蔵材料を含む水素貯蔵用組成物ならびにこれを使用した水素の貯蔵方法および水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トルエンなどの芳香族化合物を水素化し、水素化芳香族化合物(有機ハイドライド)の状態で水素の貯蔵や輸送を行う有機ケミカルハイドライド法が注目を集めている。この手法によれば、水素は、生産地において水素化芳香族化合物に転換され、水素化芳香族化合物の形態で輸送される。そして、水素の需要地において、水素化芳香族化合物の脱水素反応により水素と芳香族化合物とが生成される。脱水素反応によって生じた化合物は、再び水素生産地に輸送され、水素化反応に利用され得る。しかし、従来、このような有機ケミカルハイドライド法は、白金に代表される貴金属触媒により水素化反応が実施されている(例えば、特許文献1)。また、これらの従来法は作動温度・圧力が高く、多くのエネルギーを必要とする点にも課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-134141号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、貴金属フリー、高効率、または安全性などの点に優れる水素貯蔵手段が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は例えば以下の通りである。
[1] シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する水素貯蔵材料と、ニッケル担持触媒とを含む、水素貯蔵用組成物。
[2] 前記水素貯蔵材料は、シロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基を有するポリマーであるシリコーンオイルを含む、[1]に記載の組成物。
[3] 前記シリコーンオイルは、下記の構造(A)を含む、[2]に記載の組成物。
【化1】
[式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、有機基、および-L-Arからなる群から選択され、
Lは、単結合、および、アルキレン基からなる群から選択され、
Arは、アリール基及びヘテロアリール基からなる群から選択される。]
[4] Rは、水素原子、メチル基、エチル基、およびArからなる群から選択され、
Lは、単結合、メチレン基、およびエチレン基からなる群から選択され、
Arは、置換または非置換のフェニル基;置換または非置換の炭素数12~30の多環式芳香族炭化水素基;置換または非置換の、酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択される1個以上のヘテロ原子および3~20個の炭素原子を含有する4~20員の単環式または多環式の芳香族基からなる群から選択される、[3]に記載の組成物。
[4a] Arの置換基は、置換基が出現するごとに独立して、炭素数1~10の飽和炭化水素基(例えば、炭素数1~6または炭素数1~3のアルキル基)、アリ-ル基(例えば、フェニル基)、シリル基またはハロゲン原子からなる群から選択される、[4]に記載の組成物。
[4b] Arが置換基を有する場合、置換基の数は1~5または1~3である、[4]または[4a]に記載の組成物。
[5] 前記水素貯蔵材料の芳香族基の不飽和基の少なくとも一部が、水素付加反応によって水素付加されることにより水素を吸蔵することを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記ニッケル担持触媒は、ニッケル成分と、前記ニッケル成分を担持する固体担体とを含み、
前記固体担体は、金属酸化物、金属複合酸化物、金属硫化物、アパタイト類、粘土鉱物、金属塩、ゼオライト、活性炭、金属窒化物、ケイ素系高分子、およびケイ素微粒子からなる群から選択される、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[6a] 前記固体担体は、酸化セリウム、酸化チタン、活性炭、ハイドロキシアパタイト、およびSi-H基を有するケイ素系材料からなる群から選択される、[6]に記載の組成物。
[7] 前記固体担体は、粒子形状である、[6]に記載の組成物。
[8] 前記ニッケル成分は、水酸化ニッケル、金属ニッケル、ハロゲン化ニッケル、酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、チオシアン酸ニッケル、およびニッケル錯体からなる群から選択され、
前記ニッケル錯体は、アルケン、アルキン、カルボニル、ハロゲン原子、有機酸、ヒドロキシ、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、ケトンおよびカルベンからなる群から選択される少なくとも1種の配位子を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] さらに、還元剤を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の組成物と水素とを接触させて、前記水素貯蔵材料の芳香族基に水素を付加させることを含む、水素の貯蔵方法。
[11]水素との接触反応を、25~250℃の温度および1~10気圧の圧力で行う、[10]に記載の水素の貯蔵方法。
[12][1]~[9]のいずれかに記載の水素貯蔵用組成物に含まれる芳香族基の少なくとも一部が水素付加された水素供給材料を含む、水素供給用組成物。
[13][12]に記載の水素供給用組成物を用いて脱水素化反応することを含む、水素の製造方法。
[14] 脱水素化反応を、貴金属触媒または遷移金属触媒の存在下、100~350℃の温度で行う、[13]に記載の水素の製造方法。
[15] 脱水素化反応を、ニッケル担持触媒の存在下、100~350℃の温度で行う、[13]に記載の水素の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以下の一以上の効果を有する。 (1)シロキサン骨格を有する水素貯蔵材料(例えばシリコーンオイル)とニッケル担持触媒とを含む水素貯蔵用組成物が提供される。シロキサン骨格を有する材料は発火性や有害性がない、または低減され、安全性に優れる。また、ニッケル担持触媒という貴金属フリーな触媒を用いた水素付加反応により、材料内に水素を吸蔵することが可能である。
(2)本形態の水素貯蔵用組成物は、温和な条件(低い反応温度および/または低い圧力)ならびに/または高い効率で水素付加反応が進行するため、省エネルギー性に優れる。
(3)いくつかの実施形態において、水素貯蔵用組成物は、水素貯蔵材料に貯蔵された水素を、ニッケル担持触媒を用いた脱水素反応により、放出することができる。かかる形態によれば、同一のニッケル担持触媒を用いて水素の貯蔵および供給が可能となり、水素化と脱水素を単一容器で効率的に実施することができる。いくつかの実施形態では、当該脱水素反応は温和な条件(低い反応温度および/または低い圧力)進行するため、省エネルギー性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も数値範囲として、本発明に範囲に含まれる。
【0008】
以下に本明細書において記載する用語等の意義を説明する。
「炭化水素基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、環状または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素から水素原子を1個または2個以上除いた基を意味する。具体的には、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキレン基、アルケニレン基などが挙げられる。
【0009】
「アルキル基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。アルキル基の炭素数は例えば2~20である。アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコサニル基等の直鎖または分岐鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、ノルボルニル、アダマンチル基等のシクロアルキル基などが挙げられる。
【0010】
「アルケニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の炭化水素基を意味する。アルケニル基の炭素数は例えば2~20である。アルケニル基の具体例としては、エテニル、n-1-プロペニル、n-2-プロペニル、1-メチルエテニル、n-1-ブテニル、n-2-ブテニル、n-3-ブテニル、2-メチル-1-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-エチルエテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、n-1-ペンテニル、n-1-デセニル、n-1-エイコセニル基等が挙げられる。
【0011】
「アルキニル基」としては、炭素数2~20のアルキニル基が好ましく、その具体例としては、エチニル、n-1-プロピニル、n-2-プロピニル、n-1-ブチニル、n-2-ブチニル、n-3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、n-1-ペンチニル、n-2-ペンチニル、n-3-ペンチニル、n-4-ペンチニル、1-メチル-n-ブチニル、2-メチル-n-ブチニル、3-メチル-n-ブチニル、1,1-ジメチル-n-プロピニル、n-1-ヘキシニル、n-1-デシニル、n-1-ペンタデシニル、n-1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0012】
「アルケニレン基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐の2価の炭化水素基を意味する。「アルケニル」や「アルケニレン」としては例えば、モノエン、ジエン、トリエン及びテトラエンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
「アルキニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の炭化水素基を意味する。
【0014】
「アリール」は芳香族性の単環又は縮合多環から構成される炭化水素を意味する。例えば、ベンゼン;およびナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン等の多環式芳香族化合物が挙げられる。アリール基は、アリールから誘導される一価または二価の基を指す。アリール基の炭素数は例えば6~30、または、6~20である。アリール基の具体例としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントリル、フェナントリル、o-ビフェニリル、m-ビフェニリル、p-ビフェニリル基等が挙げられる。
【0015】
「ヘテロアリール」は、酸素原子(O)、窒素原子(N)および硫黄原子(S)から選択される1個以上(例えば1~5個、又は1~3個)のヘテロ原子および炭素原子を含有する芳香族性の単環又は縮合多環を意味する。ヘテロアリールは、典型的には、酸素原子(O)、窒素原子(N)および硫黄原子(S)から選択されるヘテロ原子を少なくとも1個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個)含む3~20員の単環式または多環式の芳香族基である。例えば、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピラジン、ピリミジン、キノキサリン、ピロール、インドール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ビピリジン、フェナントロリン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、カルバゾール等のへテロ単環や多環式ヘテロ芳香族化合物などが挙げられる。ヘテロアリール基は、ヘテロアリールから誘導される一価または二価の基を指す。
【0016】
本明細書において、アリール基、ヘテロアリール基はその環上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。そのような任意の置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、アシル基、アリール基、又はヘテロアリール基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0017】
「アラルキル基」とは、アルキル基の水素原子の1つがアリール基で置換されている基を意味する。アラルキル基の炭素数は例えば7~30、または、炭素数7~20である。アラルキル基の具体例としては、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル、ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0018】
「アルコキシ基」とは、前記アルキル基が酸素原子に結合した構造であり、例えば直鎖状、分枝状、環状又はそれらの組み合わせである飽和アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個(C-C)、炭素数1~4個(C-C)である。
【0019】
「ハロゲン原子」としては、具体的にはフッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)が挙げられる。
【0020】
1.水素貯蔵用組成物
本発明の一形態は、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する水素貯蔵材料と、ニッケル担持触媒とを含む、水素貯蔵用組成物(以下単に「水素貯蔵用組成物」または「組成物」ともいう)に関する。水素貯蔵材料は、可逆的な水素の吸蔵および放出が進行することが必要である。本形態の水素貯蔵材料は、水素付加(水添)および脱水素化により、水素の貯蔵および水素の放出(供給)が可能である。
具体的には、水素貯蔵用組成物は、水素貯蔵材料がニッケル担持触媒下で水素と接触させることで、水素貯蔵材料の芳香族基の不飽和基の少なくとも一部に水素を付加させることができ、これにより、水素を貯蔵することができる。従来、水素付加反応は、貴金属触媒の存在下、高エネルギーな反応条件(高圧・高温)下で実施されることが一般的であった。これに対し、本形態の水素吸蔵用組成物は、貴金属フリーな触媒を使用し、より温和な反応条件(低い反応温度および/または低い圧力)で水素を吸蔵させることができ、コスト面や省エネルギー面に優れることに加え、取り扱い性や安全性にも優れる。
水素が付加された水素貯蔵材料(水素供給材料)は、脱水素反応により、水素付加された芳香族基が元の芳香族基となり、水素を供給し得る。
【0021】
(1)水素貯蔵材料
水素貯蔵材料は、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する。
本明細書において、「シロキサン骨格」とは、主骨格(ポリマーであれば主鎖)にSi-O-Si結合(シロキサン結合)を1つまたは複数有する構造(シロキサン構造)をいう。水素貯蔵材料はシロキサン骨格を有する化合物(低分子化合物)であってもよいし、シロキサン骨格を含む主鎖構造を有するポリマーまたはオリゴマーであってもよい。
水素貯蔵材料において、芳香族基は、骨格(ポリマーであれば主鎖)に含まれていてもよいし、側鎖部分に含まれていてもよい。幾つかの形態において、芳香族基は、シロキサン骨格の側鎖部分に含まれる。
水素貯蔵材料は、取り扱い性の点で、常温(25℃)で液体であることが好ましい。
水素貯蔵材料は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
(シリコーンオイル)
幾つかの実施形態において、水素貯蔵材料は、シロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基を有するポリマーであるシリコーンオイルを含む。シリコーンオイルは、発火性や有害性がなく、安全性が高いことに加え、広い温度域で不揮発性の液体であるという利点を有し、水素を貯蔵して運搬するうえで好適である。
本明細書において、「シリコーンオイル」は、Si-O-Si結合(シロキサン結合)を主骨格(主鎖構造)に含み、ケイ素原子に有機基が結合した有機ケイ素化合物の重合体(いわゆるシリコーン)のうち、常温(25℃)で油状であるのものをいう。
シリコーンオイルは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
幾つかの実施形態において、シリコーンオイルは、下記の構造(A)を含むポリマー(以下、「ポリマー(A)」ともいう)を含む。
【化2】
【0024】
式(A)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、有機基、および-L-Arからなる群から選択される。有機基としては、特に限定されるものではないが、炭素数1~30の1価炭化水素基が好ましい。Rとしての有機基は任意の位置に同一または異なる複数の置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基等のアミノ基等が挙げられる。有機基としての1価炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
幾つかの実施形態において、Rは、水素原子、炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルキル基およびArからなる群から選択される。一部の実施形態において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、およびArからなる群から選択される。
【0025】
式(A)中、Lは、単結合、および、アルキレン基からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、Lは、単結合、および、炭素数1~10(好ましくは炭素数1~6,より好ましくは炭素数1~3)のアルキレン基から選択される。一部の実施形態において、Lは、単結合、メチレン基、およびエチレン基からなる群から選択される。一実施形態において、Lは単結合である。
【0026】
式(A)中、Arは、アリール基及びヘテロアリール基からなる群から選択される。Arとしてのアリール基及びヘテロアリール基は任意の位置に同一または異なる複数の置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基等のアミノ基または有機基等が挙げられる。有機基としては、Rで挙げたものが同様に好ましく挙げられる。
Arとしてのアリール基としては、好ましくは炭素数6~30、より好ましくは炭素数6~24、さらに好ましくは炭素数6~20、特に好ましくは炭素数6~18のアリール基が挙げられる。
Arとしてのアリール基としては、置換または非置換のフェニル基(例えば、フェニル、トルエン、ビフェニル)、置換または非置換の、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、ぺニレニル基等の多環式芳香族炭化水素基(例えば、炭素数12~30、または炭素数12~20の多環式芳香族炭化水素基)が挙げられる。置換基は特に制限されず、典型的には、置換基が出現するごとに独立して、炭素数1~10の飽和炭化水素基(例えば、炭素数1~6または炭素数1~3のアルキル基)、アリ-ル基(例えば、フェニル基)、シリル基またはハロゲン原子からなる群から選択される。置換基の数は特に制限されず、例えば1~5または1~3であり得る。置換位置は任意の位置を選択することができる。
Arとしてのヘテロアリール基としては、酸素原子(O)、窒素原子(N)および硫黄原子(S)から選択される1個以上(例えば1~5個、又は1~3個)のヘテロ原子および3~20個(好ましくは4~15個、又は5~12個)の炭素原子を含有する、4~20員の単環式または多環式の芳香族基が挙げられる。ヘテロアリールとしての単環式または多環式の芳香族基は、任意の置換基で置換されていてもよい。ヘテロアリール基は、例えば、置換または非置換の、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピラジン、ピリミジン、キノキサリン、ピロール、インドール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ビピリジン、フェナントロリン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、カルバゾール由来の基である。置換基は特に制限されず、典型的には、置換基が出現するごとに独立して、炭素数1~10の飽和炭化水素基(例えば、炭素数1~6または炭素数1~3のアルキル基)、アリ-ル基(例えば、フェニル基)、シリル基またはハロゲン原子からなる群から選択される。置換基の数は特に制限されず、例えば1~5または1~3であり得る。置換位置は任意の位置を選択することができる。
幾つかの実施形態において、Arは、置換または非置換のフェニル基、ナフチル基、およびカルバゾール基からなる群から選択される。一部の実施形態において、Arは置換または非置換のフェニル基およびカルバゾール基からなる群から選択される。これらの実施形態において、置換基は、炭素数1~3のアルキル基またはフェニル基である。
特定の実施形態において、Arはフェニル基およびカルバゾール基からなる群から選択される。
【0027】
幾つかの実施形態において、構造(A)は、下記式(A1)で表される。
【化3】
式(A1)中、R11は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、および-L11-フェニル基からなる群から選択される。
式(A1)中、L11は、単結合、炭素数1~3のアルキレン基からなる群から選択される。
【0028】
幾つかの実施形態において、構造(A)は、下記式(A2)で表される。
【化4】
式(A2)中、R12は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基からなる群から選択される。
式(A2)中、L11は、単結合、炭素数1~3のアルキレン基からなる群から選択される。
【0029】
ポリマー(A)は、構造(A)で表される1種の構成単位から構成されるホモポリマーであってもよいし、構造(A)で表される複数の構成単位から構成されるコポリマー(例えば二元系樹脂、三元系樹脂など)であってもよいし、構造(A)で表される単位の少なくとも1種と構造(A)以外のその他の構成単位とから構成されるコポリマーであってもよい。あるいは、これらのホモポリマーどうし、あるいはホモポリマーおよびコポリマーのブレンドであってもよい。また、ポリマーは、ランダム、ブロック及び交互共重合構造のいずれでもよい。
ポリマー(A)における構造(A)の割合は、水素吸蔵量を十分に確保する観点から、ポリマーを構成する構成単位(100モル%)に対して、5~100モル%であることが好ましく、10~100モル%であることがより好ましく、20~100モル%であることがさらに好ましい。
【0030】
その他の構成単位としては特に制限されず、構造(A)と共重合可能な任意の構造であってよい。熱的安定性や、安定性、安全性、高沸点、低凝固点などの点では、その他の構造単位も、シロキサン骨格を有する構造であることが好ましく、例えば、以下の構造(B)が挙げられる。
【化5】
式(B)中、R21およびR22はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10(例えば、炭素数1~6、または、炭素数1~3)のアルキル基を表す。
構造(A)に加えて構造(B)を含むことにより、安定性の向上や粘度の低下による取り扱いやすさの向上、沸点や凝固点の制御が可能となるなどの利点がある。
【0031】
構造(B)を含む場合、ポリマー(A)における構造(B)の割合は、例えば、ポリマーを構成する構成単位(100モル%)に対して、0~95モル%であることが好ましく、5~90モル%であることがより好ましく、10~80モル%であることがさらに好ましい。
【0032】
ポリマー(A)の粘度は、特に限定されないが、10~5000mPa・sが好ましく、15~3000mPa・sがより好ましい。なお本明細書において、特に断りのない場合は、粘度は25℃で測定した時の値である。
【0033】
ポリマー(A)の末端は特に限定されない。例えば、水素原子、メチル基、TMS(トリメチルシリル基)などであってよい。
【0034】
以下にポリマー(A)の一例を示すが、ポリマー(A)が下記式のポリマーに限定されるわけではない。
【化6】
上記式(1)~(5)中、mおよびnは繰り返し単位を示し、1以上の整数である。
TMSはトリメチルシリル基を表す。上記式(1)~(5)中の各構成単位の配列はランダムであってもブロックであってもよい。
【0035】
(シリコーン環状化合物)
幾つかの実施形態において、水素貯蔵材料は、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する環状化合物(以下「シリコーン環状化合物」または「環状化合物」ともいう)である。
例えば、環状化合物は下記式(C)で表される。
【化7】
式(C)において、R、L、およびArの定義および好ましい態様は、上記構造(A)におけるR、L、およびArと同様である。
式(C)において、nは4~20の整数を表す。一部の実施形態において、nは6~10の整数である。一実施形態において、nは8である。
【0036】
環状化合物は、三次元網目構造のシロキサン結合を有する構造であってもよい。例えば、[(RSiO1.5](式中nは2以上の整数であり、Rの少なくとも1つが芳香族基を含む)の組成式で表されるシルセスキオキサンが挙げられる。シルセスキオキサンは、カゴ型、ハシゴ型、ランダム構造を有するものが知られており、これらのいずれであってもよい。
【0037】
以下に環状化合物の一例を示すが、環状化合物が下記化合物に限定されるわけではない。
【化8】
式中、Rは-CH-フェニルまたはフェニルを表す。
【0038】
(シリコーン非環状化合物)
幾つかの実施形態において、水素貯蔵材料は、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する非環状化合物(以下「シリコーン非環状化合物」または「非環状化合物」ともいう)である。
例えば、非環状化合物としては以下の構造が挙げられる。
【化9】
式(D)において、R、L、およびArの定義および好ましい態様は、上記構造(A)におけるR、L、およびArと同様である。
式(D)において、nは1~20の整数を表す。一実施形態において、nは1~3の整数である。
式(D)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、有機基、および-L-Arからなる群から選択される。
以下に非環状化合物の一例を示すが、非環状化合物が下記化合物に限定されるわけではない。
【化10】
【0039】
(2)ニッケル担持触媒
ニッケル担持触媒は、典型的には、ニッケル成分と、前記ニッケル成分を担持する固体担体とを含む。
本明細書において「担持」とは、ニッケル成分が、固体担体に、化学的および/または物理的手段により、付着または結合した状態をいう。上記化学的手段の代表例としては、化学結合が挙げられる。化学結合の具体例としては、共有結合、金属結合、配位結合、イオン結合、水素結合、分子間力(ファンデルワールス力)が挙げられる。幾つかの実施形態において、化学結合は、共有結合、配位結合、またはイオン結合である。一部の実施形態において、化学結合は共有結合である。上記物理的手段としては、化学的手段以外の任意の適切な固定手段が採用され得る。具体例としては、吸着等が挙げられる。
固体担体がニッケル成分を担持していることは、赤外吸収スペクトル、蛍光X線分析、XPS(X線光電子分光)、および/またはXAFS(エックス線吸収微細構造)解析を用いて確認することができる。
【0040】
(固体担体)
固体担体は、ニッケル担持触媒に通常用いられる担体であれば任意のものが使用できる。具体的には、金属酸化物、金属複合酸化物、金属硫化物、アパタイト類、粘土鉱物、金属塩、ゼオライト、活性炭、金属窒化物、ケイ素系高分子、およびケイ素微粒子が挙げられる。固体担体は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい
固体担体の形状は特に限定されず、粒子状、フィルム状、ハニカム構造、薄膜状、渦巻状、又はロール状などが挙げられる。一実施形態において、固体担体は粒子状である。
【0041】
金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、Al、Ce、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの金属の酸化物などが挙げられる。具体的には、アルミナ(Al23)、酸化セリウム(CeO)、酸化ケイ素(シリカ)(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO)および酸化ジルコニウム(ZrO)などが挙げられる。
金属複合酸化物としては、特に限定されないが、例えば、シリカ-アルミナ、シリカ-酸化チタン、酸化チタン-酸化ジルコニウム、燐酸アルミニウムなどが挙げられる。
金属硫化物としては、特に限定されないが、例えば、硫化カドミウム(CdS)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化鉛(PbS)等を用いることができる。
アパタイト類としては、特に限定されないが、例えば、ハイドロキシアパタイト(HAP)などが挙げられる。
粘土鉱物としては、特に限定されないが、例えば、ハイドロタルサイト(HT)、サポナイト、モンモリロナイト等が挙げられる。
金属窒化物としては、特に限定されないが、例えば、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの金属の窒化物が挙げられる。
【0042】
ケイ素系材料としては、例えば、ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、金属シリコンが挙げられる。中でも、Si-H基を有するケイ素系材料(ケイ素系ポリマー、ケイ素系セラミックス、金属シリコン)が好ましい。
【0043】
Si-H基を有するケイ素系ポリマーとしては、例えば、(i)主骨格(主鎖)にシリコン原子を含み、当該主骨格のシリコン原子の少なくとも1つが水素原子と結合し、Si-H基を有するポリマー、および、(ii)側鎖にSi-H基を有するポリマーが挙げられる。
(i)主骨格(主鎖)にシリコン原子(Si)を含むポリマーの例としては、ポリシラン系ポリマー、ポリシロキサン系ポリマー、ポリシラザン系ポリマー、ポリカルボシラン系ポリマー、ポリメタロカルボシラン系ポリマーおよびこれらの誘導体が挙げられる。これらのケイ素系ポリマーの主鎖骨格は直鎖状、はしご状、分岐状、籠状、ブラシ状、星状、環状、樹状などをとることができ、本発明においても任意の骨格のものを使用できる。
ポリシラン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)にSi-Si結合を複数有する構造(ポリシラン構造)を有するポリマーを指す。
ポリシロキサン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)にSi-O-Si結合(シロキサン結合)を複数有する構造(ポリシロキサン構造)を有するポリマーを指す。
ポリシラザン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)にSi-N結合を複数有する構造(ポリシラザン構造)を有するポリマーを指す。
ポリカルボシラン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)にSi-C結合(カルボシラン結合)を複数有する構造(ポリカルボシラン構造)を有するポリマーを指す。
ポリメタロカルボシラン系ポリマーとは、主骨格(主鎖)に、カルボシラン結合及び1種又は2種以上のメタロキサン(-MO-、M:Ti, Zr等の金属元素)結合を有し、該カルボシラン及びメタロキサンの各結合が主鎖骨格中でランダムに結合したポリマー及び/又は該カルボンシラン結合のケイ素原子の少なくとも一部が該メタロキサン結合の各元素と酸素原子を介して結合し、これによって主鎖中のカルボシラン部分が架橋されるポリマーを指す。
これらの他、本発明では、ポリシラン構造、ポリシロキサン構造、ポリシロキサン構造などのシリコン原子を含有する主鎖骨格を1分子中に2種以上併せ持つポリマーを使用することができる。
(ii)側鎖にSi-H基を有するポリマーとは、例えば、ポリビニルアルコール、ポリスチレンのようなビニル系ポリマーなどの主鎖構造を有するポリマーの側鎖にSi-H基を有する構造が導入された構造を有するポリマーが挙げられる。Si-H基を有する構造としては、例えば、ジメチルヒドロシリル基、メチルヒドロシリル基のような-Si(R)H(ここで、Rは、独立して、水素原子(H)または炭素数1~30のアルキル基である)が挙げられる。
具体例としては、ポリジメチルヒドロシリルビニルが挙げられる。
【0044】
本明細書において、ケイ素系セラミックスは、シリコン原子を含有する酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物などの無機化合物の焼結体を指す。
ケイ素系セラミックスの例としては、シリカセラミックス、窒化ケイ素セラミックスおよび炭化ケイ素セラミックス、ホウ化ケイ素セラミックスが挙げられる。
シリカセラミックスとは、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とするセラミックスを指す。
窒化ケイ素セラミックスとは、窒化ケイ素(Si)を主成分とするセラミックスを指す。
炭化ケイ素セラミックスは、炭化ケイ素粉が焼結した状態の非酸化物系セラミックスを指す。
ホウ化ケイ素セラミックスとは、ホウ化ケイ素(SiB、SiB、SiB、またはSiBなど)を主成分とするセラミックスを指す。
これらのケイ素系セラミックスのうちSi-H基を有する材料を好ましく用いることができる。ケイ素系セラミックスがSi-H基を含まない場合、ケイ素系セラミックスにSi-H基を導入する方法としては、例えば、水素ガスでの処理などの表面処理を行う方法がある。
【0045】
本明細書において、金属シリコンは、金属状ケイ素を指し、単体シリコンやアモルファスシリコンを含む。金属シリコンとしてはケイ素原子から構成され、主としてSi-Si結合から構成され、Si-H基を有するものを好ましく使用可能である。幾つかの実施形態において、Si-H基を有する金属シリコンは、Siのみを組成として有する金属シリコン(Si)にSi-H基が部分的に導入された構造を有する。幾つかの実施形態において、Si-H基を有する金属シリコンは、Siのみを組成として有する金属シリコン(Si)の表面に、Si-H基が部分的に導入された構造を有する。
【0046】
幾つかの実施形態において、固体担体は、酸化セリウム、酸化チタン、活性炭、ハイドロキシアパタイト、およびSi-H基を有するケイ素系材料からなる群から選択される。これらの固体担体にニッケル成分を担持させることで、水素付加反応の反応効率が向上し得る。
【0047】
(ニッケル成分)
ニッケル成分は、ニッケル原子(Ni)を含有し、触媒活性を発揮し得る形態であれば特に限定されない。
ニッケル成分としては、水酸化ニッケル(例えばNi(OH))、金属ニッケル、ハロゲン化ニッケル、酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、チオシアン酸ニッケルニッケル錯体などが挙げられる。
幾つかの実施形態において、ニッケル成分は、水酸化ニッケルまたはニッケル錯体からなる群から選択される。
幾つかの実施形態において、ニッケル成分は、水酸化ニッケルである。
幾つかの実施形態において、ニッケル成分は、ニッケル錯体である。ニッケル錯体は、ニッケルとニッケル原子に配位する配位子とで構成される。配位子は、ニッケル原子に配位し得る有機基であればよく、特に制限されない。例えば、配位子に含まれる2つの電子がニッケル原子に配位する二電子配位子が挙げられる。二電子配位子としては特に限定されるものではなく、ニッケル錯体の二電子配位子として従来用いられている任意の配位子を用いることができる。例えば、非共有電子対および/またはπ電子を有する配位子が挙げられる。典型的には、アルケン、アルキン、ハロゲン原子、有機酸、ヒドロキシ、カルボニル(CO)、イソシアニド、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、分子状水素、アルデヒド、ケトンおよびカルベンから選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0048】
イソシアニドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、Y-NCで示されるものが好適である。
ここでYは、置換されていてもよく、かつ、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)およびリン原子(P)から選択される原子が1個または2個以上介在していてもよい炭素数1~30の1価有機基を表す。
炭素数1~30の1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭素数1~30の1価炭化水素基が好ましい。1価炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
アルキル基としては、直鎖、分岐鎖、環状のいずれでもよく、好ましくは炭素数1~10のアルキル基である。
アルケニル基としては、炭素数2~20のアルケニル基が好ましい。
アルキニル基としては、炭素数2~20のアルキニル基が好ましい。
アリール基としては、好ましくは炭素数6~30、より好ましくは炭素数6~20のアリール基である。
アラルキル基としては、好ましくは炭素数7~30、より好ましくは炭素数7~20のアラルキル基である。
また、Yとしての、炭素数1~30の1価の有機基は置換基を有していてもよく、任意の位置に同一または異なる複数の置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基等のアミノ基等が挙げられる。アルコキシ基としては、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数1~10である。
【0049】
イソシアニド化合物の具体例としては、メチルイソシアニド、エチルイソシアニド、n-プロピルイソシアニド、シクロプロピルイソシアニド、n-ブチルイソシアニド、イソブチルイソシアニド、sec-ブチルイソシアニド、t-ブチルイソシアニド、n-ペンチルイソシアニド、イソペンチルイソシアニド、ネオペンチルイソシアニド、n-ヘキシルイソシアニド、シクロヘキシルイソシアニド、シクロヘプチルイソシアニド、1,1-ジメチルヘキシルイソシアニド、1-アダマンチルイソシアニド、2-アダマンチルイソシアニド等のアルキルイソシアニド;フェニルイソシアニド、2-メチルフェニルイソシアニド、4-メチルフェニルイソシアニド、2,4-ジメチルフェニルイソシアニド、2,5-ジメチルフェニルイソシアニド、2,6-ジメチルフェニルイソシアニド、2,4,6-トリメチルフェニルイソシアニド、2,4,6-トリt-ブチルフェニルイソシアニド、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアニド、1-ナフチルイソシアニド、2-ナフチルイソシアニド、2-メチル-1-ナフチルイソシアニド等のアリールイソシアニド;ベンジルイソシアニド、フェニルエチルイソシアニド等のアラルキルイソシアニドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
アミンとしては、RNで示される第3級アミンが挙げられる。
ここで、Rは互いに独立して、ハロゲン原子、水酸基(OH)、アルコキシ基で置換されていてもよい、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。
ハロゲン原子、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびアラルキル基、ならびにアルコキシ基の具体例はYとしての有機基または置換基として上記で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0051】
イミンとしては、RC(=NR)R(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。中でも、触媒活性や触媒安定性の点で、ジイミン(例えば、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)ブタン-2,3-ジイミン、N,N’-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)エタン-1,2-ジイミンなど)、ビスイミノピリジン、ジアミン、トリアミンが好ましい。
【0052】
ホスフィンとしては、例えば、RP(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。中でも、触媒活性や触媒安定性の点で、3級アルキルホスフィンや3級アリールホスフィン(例えば、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなど)、3級アルキルホスファイト、3級アリールホスファイト(トリメチロールプロパンホスファイトなど)が好ましい。
【0053】
アルシンとしては、例えば、RAs(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0054】
アルコールとしては、例えば、ROH(Rは上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0055】
チオールとしては、上記アルコールの酸素原子を硫黄原子で置換したものが挙げられる。
【0056】
エーテルとしては、例えば、ROR(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0057】
スルフィドとしては、上記エーテルの酸素原子を硫黄原子で置換したものが挙げられる。
【0058】
ニトリルとしては、例えば、RCN(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0059】
アルデヒドとしては、例えば、RCHO(Rは上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0060】
ケトンとしては、例えば、RCOR(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0061】
カルベンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(i)で示されるものが挙げられる。
【化11】
上記式(i)において、Zは、炭素原子、窒素原子または酸素原子を表し、Zが炭素原子のとき、bは3であり、Zが窒素原子のとき、bは2であり、Zが酸素原子のとき、bは1である。
1およびR2は、互いに独立して、ハロゲン原子またはアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~30のアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、R1のいずれか1つと、R2のいずれか1つが結合して2価の有機基を構成して環状構造をとっていてもよく、この場合、環状構造内に窒素原子および/または不飽和結合を含んでいてもよい。
ハロゲン原子、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、およびアラルキル基、ならびにアルコキシ基の具体例はYとしての有機基または置換基として上記で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0062】
中でも、カルベンとしては、環状のカルベン化合物が好ましい。環状カルベン化合物の具体例としては、以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【化12】
【0063】
含窒素ヘテロ環としては、例えば、ピロール、イミダゾール、ピリジン、ターピリジン、ビスイミノピリジン、ピリミジン、オキサゾリン、イソオキサゾリン並びにこれらの誘導体等が挙げられる。中でも、下記式(ii)で表されるビスイミノピリジン化合物、式(iii)で表されるターピリジン化合物が好ましい。
【化13】
上記式(ii)および(iii)において、R10は、互いに独立して、水素原子または置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、アルキル基の具体例としては上記で例示した基と同様のものが挙げられる。
ビスイミノピリジン化合物の具体例としては、2,6-ビス[1-(2,6-ジメチルフェニルイミノ)エチル]ピリジン、2,6-ビス[1-(2,6-ジエチルフェニルイミノ)エチル]ピリジン、2,6-ビス[1-(2,6-ジイソプロピルフェニルイミノ)エチル]ピリジン等が挙げられる。
ターピリジン化合物の具体例としては、2,2’:6’,2”-テルピリジン等が挙げられる。
【0064】
アルケンとしては、直鎖状、分岐状または環状のアルケンのいずれでもよい。直鎖状、分岐状のアルケンとしては、例えば、炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~16の直鎖状、分岐状のアルケンが挙げられる。環状アルケン(シクロアルケン)としては、例えば、炭素数4~12、より好ましくは炭素数4~8のシクロアルケンであり、具体例としては、シクロオクタジエン、シクロオクタテトラエン等が挙げられる。
アルキンとしては、直鎖状、分岐状または環状のアルキンのいずれでもよい。直鎖状、分岐状のアルキンとしては、例えば、炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~14の直鎖状、分岐状のアルキンが挙げられる。
有機酸としては特に限定されず、従来ニッケル錯体の配位子として知られている任意のものを使用可能である。例えば、酢酸などのカルボン酸、アルコール、フェノール、スルホン酸などが挙げられる。
【0065】
このほか、ニッケル錯体を構成する配位子としては、複数の配位座を持つ配位子(キレート)であってもよい。
【0066】
中でも、入手容易性・構造多様性や触媒性能の点で、ニッケル錯体を構成する配位子としては、カルボニル(CO)、イソシアニド、含窒素配位子(ジイミンのようなイミン、ビスイミノピリジンのような含窒素ヘテロ環、トリアルキルアミンのようなアミン)、アルケン(例えば、エチレンやシクロオクタジエン)、含リン配位子(1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンのような3級アルキルホスフィンなどのホスフィン)、ヒドロキシ(OH)などが挙げられる。幾つかの実施形態において、ニッケル錯体を構成する配位子は、カルボニル(CO)、アルケン、ヒドロキシ(OH)から選択される。
【0067】
これらのニッケル成分は、反応中または反応前に、還元剤により還元された形態であってもよい。
幾つかの実施形態において、水素貯蔵用組成物は還元剤をさらに含む。
還元剤を含むことにより、水素付加反応時に、ニッケル成分のニッケルを還元し、還元されたニッケルが触媒活性成分として機能し得る。
還元剤はニッケル成分の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば、フェニルボロン酸、及びビス(ピナコラート)ジボロン等のホウ素化合物、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBHEt)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ジブチルアルミニウム(Al[(CHCHCHH)等の金属水素化物、トリエチルアルミニウム(AlEt)、エチルマグネシウムブロミド(MgBrCHCH)、n-ブチルリチウム(LiCHCHCHCH)などのアルキル金属化合物、フェニルマグネシウムブロミド(MgBrC)やフェニルリチウム(LiC)などのアリール金属化合物などが挙げられる。
幾つかの実施形態において、ニッケル成分はニッケル錯体であり、還元剤とともに用いられる。特定の実施形態において還元剤はホウ素化合物である。
幾つかの実施形態において、ニッケル成分は水酸化ニッケルであり、還元剤とともに用いられれる。特定の実施形態において還元剤はホウ素化合物である。
還元剤の量は特に限定されないが、例えば、ニッケル成分のニッケル原子1モルに対し、1~20モルの範囲、または、2~15モルの範囲、または、3~10モルの範囲でありうる。
【0068】
ニッケル成分の固体担体への担持量は、触媒効率や選択性などの所望の特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、ニッケル担持率(触媒中のニッケル原子の重量割合)は、例えば0.01~50重量%の範囲、または、0.1~10重量%の範囲、または、0.01~10重量%の範囲であり得る。ニッケル担持率は、蛍光X線分析により測定することができる。
【0069】
(ニッケル錯体とケイ素系材料との複合体)
幾つかの実施形態において、ニッケル成分はニッケル錯体であり、固体担体はSi-H基を有するケイ素系材料である。一部の実施形態において、ニッケル成分はニッケル錯体であり、固体担体はSi-H基を有するケイ素系ポリマーである。一部の実施形態において、ニッケル成分はニッケル錯体であり、固体担体はSi-H基を有する金属シリコンである。一部の実施形態において、ニッケル成分はニッケル錯体であり、固体担体はSi-H基を有するケイ素系セラミックスである。
【0070】
これらの実施形態においては、ニッケル錯体とケイ素系材料とは、ケイ素系材料のシリコン原子(Si)とニッケル錯体との間に化学結合が形成されることにより、複合体が形成されている。複合体の形成により、ニッケル錯体がケイ素系材料からなる固体担体に安定して担持され得、触媒構造の安定化により、触媒性能の向上、再使用性の向上などの利点がある。
特定の実施形態において、複合体は、下記式(I)で表される構造を有する。なお、本明細書においては、共有結合、配位結合およびイオン結合などの化学結合の種類を特に区別することなく実線で表す。
【化14】
式(I)中、Lは配位子を表し、mは、ニッケル原子に配位する配位子の数を表す。mはニッケル原子の酸化数や配位子の種類により決定される。mは0以上の整数を表す。
幾つかの実施形態において、mは1以上の整数を表し、通常、1~6の整数を表す。幾つかの実施形態において、mは0の整数を表す。mが0である場合、複合体は、ニッケルと、前記ニッケルを担持する担体とを含み、前記担体はSi-H基を有するケイ素系材料からなる。本実施形態に係る複合体は、ニッケル錯体とケイ素系材料からなる担体とから形成されるが、複合体の形成過程において、ニッケル錯体の配位子が解離し、複合体形成後に複合体を構成するニッケル錯体に配位子が含まれない場合(すなわち、上記式(I)中のmが0である場合)がある。すなわち、複合体に含まれるニッケル原子の一部は配位子を含むニッケル錯体(例えば上記式(I)中のm≧1)の形態で担体に担持され、一部は配位子を含まないニッケルの形態(例えば上記式(I)中のm=0)で担体に担持されてもよい。
【0071】
本発明において、ニッケル錯体とケイ素系材料との複合化形態は、上記形態に限定されるものではない。例えば、ニッケルは1つのシリコン原子との間で結合を形成していてもよいし、互いに隣接していない2つのシリコン原子と結合を形成してもよい。
幾つかの実施形態において、複合体は、下記式(II)で表される構造を有する。
【化15】
式(II)におけるLおよびmの定義は式(I)と同様である。
【0072】
幾つかの実施形態において、複合体は、下記式(III)で表される構造を含有する。
【化16】
式(III)におけるLおよびmの定義は式(I)と同様である。
式(III)中、Yは、-O-、-CR-、または-NR-を示す。RおよびRは各々独立して、水素原子又は炭素原子数1~30のアルキル基および炭素原子数6~30のアリール基である。
複合体におけるニッケル原子と担体との間の結合の形態は単一のもの(例えば、上記式(I)、式(II)、式(III)のいずれか)であっても、複数種類の組合せ(例えば、上記式(I)、式(II)、および式(III)の2種以上の組合せ)であってもよい。
【0073】
複合体におけるニッケル錯体の担持量は触媒効率や選択性などの所望の特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、複合体に含まれるケイ素原子(Si)とニッケル金属原子(Ni)とのモル比(Si:Ni)が、100:1~1:10の範囲、好ましくは100:1~1:5の範囲、より好ましくは50:1~1:2の範囲、さらに好ましくは20:1~1:1の範囲、特に好ましくは10:1~2:1の範囲となるようにニッケル原子(Ni)が含まれることが好ましい。ニッケル錯体の担体への担持割合(複合体中のケイ素原子(Si)とニッケル原子(Ni)との比率(モル比)は、蛍光X線分析により測定することができる。
【0074】
上記複合体は、ニッケル錯体とSi-H基を有するケイ素系材料とを混合することにより形成することにより製造することができる。
また、上記複合体は、ニッケル錯体の前駆体とSi-H基を有するケイ素系材料とを還元剤の存在下で、混合することにより形成することにより製造することができる。前駆体が還元剤により還元されて金属(ニッケル)に配位子分子が配位した錯体が形成され、この金属原子とケイ素系材料のSi-H基とが反応して、ケイ素系材料のシリコン原子(Si)と金属原子との間に結合が生じ、ニッケル錯体がケイ素系材料からなる担体に安定して担持され得る。
前駆体としては、ニッケルハライド(NiX[式中、XはF,Cl,Br,またはIを表す])、酢酸ニッケルなどのニッケルの有機酸の錯体(NiX[式中、Xは有機酸を表し、nは1以上の整数(例えば1~6の整数)を表す])、水酸化ニッケルなどの水酸化物(例えばNi(OH))が挙げられる。還元剤は前駆体の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば、上述したホウ素化合物や金属水素化物などが挙げられる。前駆体(Ni-X)のX(例えば、ハロゲン原子や有機酸分子)は形成された複合体には通常残存しないが、場合によっては、複合体において一部のXが残存し、金属原子に配位した構造をとることもあり得る。
なお、上記ニッケル錯体とケイ素系材料との複合体は、2021年1月18日に日本国に出願された特願2021-5602号明細書に記載されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0075】
水素貯蔵用組成物における、ニッケル担持触媒の量は、基質(水素貯蔵材料の不飽和基)1モルに対して触媒(Ni原子のモル量)として、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.05モル以上、さらに好ましくは0.1モル以上である。触媒の量に特に上限はないが、経済的な観点から基質(水素貯蔵材料の不飽和基)1モルに対して触媒(Ni原子のモル量)として、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下である。
【0076】
2.水素の貯蔵方法
本発明の一形態は、上記形態の組成物と水素とを接触させて、前記水素貯蔵材料の芳香族基に水素を付加させることを含む、水素の貯蔵方法に関する。すなわち、幾つかの形態において、水素の貯蔵方法は、前記水素貯蔵材料を、ニッケル担持触媒の存在下で水素と接触させることを含む。本形態の水素貯蔵材料は、ニッケル担持触媒の存在下で水素と接触させることにより、芳香族基の不飽和基の少なくとも一部に水素が付加される。従来の水素付加反応は、貴金属触媒を用いて高温(例えば300℃以上)、高圧下で行う必要があった。本形態の水素貯蔵材料は、ニッケル担持触媒を用いた貴金属フリーな触媒システムにおいて、従来と比較して温和な条件下で水素付加反応が進行し得るものであり、実用面で非常に有利である。
幾つかの実施形態において、水素の貯蔵方法は、前記水素貯蔵材料を、ニッケル担持触媒および還元剤の存在下で水素と接触させることを含む。ニッケル担持触媒の存在下で水素と接触させることを含む。還元剤を含むことにより、水素付加反応時に、ニッケル成分のニッケルを還元し、還元されたニッケルが触媒活性成分として機能し得る。 ニッケル担持触媒や還元剤は、上記「(2)ニッケル担持触媒」において上述したものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「(2)ニッケル担持触媒」において上述したものと同様である。
【0077】
水素との接触反応の条件は特に制限されない。
反応温度は、反応物によっても異なるが、反応効率および省エネルギーの点で、25~250℃の温度で行うことが好ましい。反応温度は、より好ましくは80~200℃であり、さらに好ましくは100~200℃である。
反応時間は、反応物によっても異なるが、反応効率の観点から、1~48時間が好ましく、1~24時間がより好ましい。
水素との接触反応の圧力は、反応効率および省エネルギーの点で、好ましくは1~10気圧の圧力であり、より好ましくは1~8気圧である。幾つかの実施形態において、反応圧力は1~5気圧である。幾つかの実施形態において、反応圧力は5~8気圧である。
【0078】
反応は無溶媒で行うこともできるが、必要に応じて溶媒を添加してもよい。
【0079】
3.水素供給用組成物
上記水素貯蔵材料は、水素との接触反応により、水素貯蔵材料の芳香族基の不飽和基の少なくとも一部が、水素付加反応によって水素付加され、水素が付加された水素貯蔵材料(水素供給材料)となる。
本発明の一形態は、上記水素貯蔵材料の芳香族基の少なくとも一部が水素付加された水素供給材料を含む、水素供給用組成物に関する。水素供給用組成物は、脱水素反応により、水素付加された芳香族基が元の芳香族基となり、水素を供給し得る。
【0080】
以下に、上記式(1)~(5)で示されるポリマー(A)の芳香族基が水素付加(水添)されて生成されたポリマーをそれぞれ式(1)’~(5)’として示す。
【化17】
【0081】
上記式(1)’~(5)’中、x、(m-x)、y、(m-x-y)およびnは繰り返し単位を示し、1以上の整数である。上記式(1)’~(5)’中の各構成単位の配列はランダムであってもブロックであってもよい。
TMSはトリメチルシリル基を表す。
【0082】
幾つかの実施形態において、水素供給用組成物は、前記水素供給材料と、貴金属触媒または遷移金属触媒とを含む。
【0083】
貴金属触媒としては、脱水素化反応において従来使用されている貴金属触媒を使用することができる。具体的には、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)から選択される少なくとも1種の貴金属が、固体担体に担持された触媒が挙げられる。固体担体としては、上述したニッケル担持触媒に用いられるものを好ましく使用可能である。
【0084】
遷移金属触媒としては、典型的には、遷移金属原子が固体担体に担持された触媒を使用することができる。固体担体としては、「(2)ニッケル担持触媒」において上述した固体担体を好ましく使用可能である。遷移金属原子は特に制限されず、周期表第3~11族に属する遷移金属原子からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属原子のいずれであっても良い。好ましくは周期表第7~11族に属する遷移金属原子からなる群より選択される少なくとも1種の非貴金属である遷移金属原子であり、中でも、価格や入手容易性の観点から、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属原子が好ましい。
遷移金属触媒は、遷移金属原子に1つまたは複数の配位子(L)が配位結合して、錯体を形成していてもよい。錯体を構成する配位子は特に制限されず、上述したニッケル担持触媒に用いられる配位子を使用可能である。
【0085】
水素供給用組成物における、触媒の量は、基質(水素化された不飽和基)1モルに対して触媒(貴金属原子または遷移金属原子のモル量)として、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.05モル以上、さらに好ましくは0.1モル以上である。触媒の量に特に上限はないが、経済的な観点から基質(水素化された不飽和基)1モルに対して触媒(貴金属原子または遷移金属原子のモル量)として、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下である。
【0086】
特定の実施形態において、水素供給用組成物は、前記水素供給材料と、ニッケル担持触媒とを含む。特定の実施形態において、水素供給用組成物は、芳香族基の少なくとも一部が水素付加された前記水素貯蔵材料と、ニッケル担持触媒と、を含む。
ニッケル担持触媒としては、上述した水素付加反応(水素の貯蔵)に用いられる「ニッケル担持触媒」を同様に使用することができる。
脱水素反応において水素付加反応と同一のニッケル担持触媒を用いることにより、前記水素貯蔵用組成物の水素付加反応物をそのまま水素供給用組成物として使用することが可能である。すなわち、特定の実施形態において、水素供給用組成物は、前記水素貯蔵用組成物の水素付加反応物である。また、このような形態によれば、同一のニッケル担持触媒を用いて水素の貯蔵および供給が可能となり、水素化と脱水素を単一容器で効率的に実施することができる。
【0087】
水素供給用組成物における、ニッケル担持触媒の量は、基質(水素化された不飽和基)1モルに対して触媒(Ni原子のモル量)として、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.05モル以上、さらに好ましくは0.1モル以上である。触媒の量に特に上限はないが、経済的な観点から基質(水素化された不飽和基)1モルに対して触媒(Ni原子のモル量)として、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下である。
【0088】
4.水素の製造方法
本発明の一形態は、水素供給用組成物を用いて脱水素化反応することを含む、水素の製造方法に関する。脱水素化反応により、水素が付加された水素貯蔵材料(水素供給材料)における水素付加された芳香族基は水素が脱離して元の芳香族基となり、水素を供給し得る。
脱水素化反応は、脱水素化が進行する条件であれば特に限定されない。
典型的には、脱水素化反応は、貴金属触媒または遷移金属触媒の存在下で行われる。貴金属触媒および遷移金属触媒は、上記「3.水素供給用組成物」において上述したものを使用可能であり、好ましい態様も、上記「3.水素供給用組成物」において上述したものと同様である。
反応温度は、反応物によっても異なるが、反応効率および省エネルギーの点で、100~350℃の温度で行うことが好ましい。反応温度は、より好ましくは100~300℃であり、さらに好ましくは100~250℃である。
反応時間は、反応物によっても異なるが、反応効率の観点から、1~48時間が好ましく、1~24時間がより好ましい。
反応の圧力は、反応効率および省エネルギーの点で、好ましくは1~50気圧の圧力であり、より好ましくは1~30気圧であり、さらに好ましくは1~10気圧である。
【0089】
幾つかの実施形態において、上記脱水素化反応は、ニッケル担持触媒の存在下で行われる。かかる実施形態においては、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する水素貯蔵材料の水素化(水素の貯蔵)と、脱水素化(水素の製造)とを同一の触媒システムで効率的に行うことができ、わせることができる。
ニッケル担持触媒を用いて脱水素化反応を行う際の反応条件は特に限定されない。一実施形態において、ニッケル担持触媒を用いた脱水化反応の反応温度は、100~350℃である。一実施形態において、ニッケル担持触媒を用いた脱水化反応の反応圧力は、1~10気圧である。
特定の実施形態では、ニッケル担持触媒を用いた脱水化反応の反応温度は、100~300℃であり、好ましくは100~250℃であり、より好ましくは150~250℃である。一実施形態において、ニッケル担持触媒を用いた脱水化反応の反応温度は、100~200℃であってもよい。一実施形態において、ニッケル担持触媒を用いた脱水化反応の反応圧力は、1~10気圧である。
【実施例0090】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書において、「室温」は通常約10℃から約35℃を示す。
本明細書において、用語「約」は、±10%を意味することができる。
【0091】
実施例において使用される略語は当業者に周知の慣用的な略語である。幾つかの略語を以下に示す。
a.q.:水溶液
activated carbon:活性炭
equiv.:当量
rt:室温
HBpin:ピナコールボラン
CPME:シクロペンチルメチルエーテル
CdCl:重水素化クロロホルム、重クロロホルム
Ph:フェニル
hydroxyapatite:ハイドロキシアパタイト
polysilane:ポリシラン
MeOH:メタノール
cod:1,5-シクロオクタジエン
Me:メチル
Ph:フェニル
Cy:シクロヘキシル
TMS:トリメチルシリル
toluene:トルエン
mesitylene:メシチレン
Schlenk:シュレンク
THF:テトラヒドロフラン
mmol:ミリモル
wt%:重量パーセント
h:時間
IS:内部標準
NMR:核磁気共鳴
neat:溶媒希釈なし
balloon:バルーン
autoclave:オートクレーブ
nd:検出限界以下(not detected)
trace:痕跡量
【0092】
合成例、実施例および比較例で得た化合物および反応生成物の物性の測定は、以下に示す装置を用いて行った。
H NMR測定:JEOL社製 JNM-ECP600 spectrometerおよびJEOL社製 JNM-ECZ600R spectrometer
【0093】
1.触媒の合成
[合成例1:酸化セリウム担持水酸化ニッケル(Ni(OH)x/CeO2)の合成]
【化18】
空気下で、攪拌子を入れた100 mLのナスフラスコに塩化ニッケル・6水和物(119 mg, 0.5 mmol)と純水(60 mL)を混合し、続けて酸化セリウム(2.0 g)を加え、室温下攪拌した。これに水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHが10になるように調整し、室温下24時間攪拌した。反応終了後、吸引ろ過と純水での洗浄操作により固体粉末を単離した。得られた固体粉末を100 ℃の乾燥機で1時間乾燥させた後、150 ℃で1時間真空乾燥することで酸化セリウム担持ニッケル(Ni(OH)x/CeO2) (1.4 wt% Ni, 1.95 g)を得た。
【0094】
[合成例2:酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2-HBpin)の合成]
【化19】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコに酸化セリウム担持ニッケル触媒(1.4 wt% Ni, 400 mg, Niあたり0.1 mmol)とシクロペンチルメチルエーテル(CPME)(5 mL) 、ピナコールボラン(140 μL, 0.95 mmol)を混合し、100 ℃で30分間撹拌した。反応終了後の懸濁液から遠心分離によって固体粉末を単離し、ジエチルエーテルで洗浄した。その後、真空乾燥することで酸化セリウム担持ニッケル-ピナコールボラン活性化触媒(Ni(OH)x/CeO2-HBpin) (392 mg)を得た。
【0095】
[合成例3:酸化チタン担持水酸化ニッケル(Ni(OH)x/TiO2)の合成]
【化20】
空気下で、攪拌子を入れた100 mLのナスフラスコに塩化ニッケル・6水和物(59 mg, 0.25 mmol)と純水(30 mL)を混合し、続けて酸化チタン(1.0 g)を加え、室温下攪拌した。これに水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHが10になるように調整し、室温下24時間攪拌した。反応終了後、吸引ろ過と純水での洗浄操作により固体粉末を単離した。得られた固体粉末を100 ℃の乾燥機で1時間乾燥させた後、150 ℃で1時間真空乾燥することで酸化チタン担持ニッケル(Ni(OH)x/TiO2) (1.4 wt% Ni, 951 mg)を得た。
【0096】
[合成例4:ハイドロキシアパタイト担持水酸化ニッケル(Ni(OH)x/hydroxyapatite)の合成]
【化21】
空気下で、攪拌子を入れた100 mLのナスフラスコに塩化ニッケル・6水和物(59 mg, 0.25 mmol)と純水(30 mL)を混合し、続けてハイドロキシアパタイト(1.0 g)を加え、室温下攪拌した。これに水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHが12になるように調整し、室温下24時間攪拌した。反応終了後、吸引ろ過と純水での洗浄操作により固体粉末を単離した。得られた固体粉末を100 ℃の乾燥機で1時間乾燥させた後、150 ℃で1時間真空乾燥することでハイドロキシアパタイト担持ニッケル(Ni(OH)x/hydroxyapatite) (1.4 wt% Ni, 776 mg)を得た。
【0097】
[合成例5:炭素担持ニッケル触媒(Ni/C)の合成]
【化22】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのバイヤルに活性炭(500 mg)とテトラヒドロフラン(5 mL)を混合し、攪拌した。これにビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(69 mg, 0.25 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(5 mL)を滴下して加え、室温下24時間撹拌した。反応終了後の懸濁液から遠心分離によって固体粉末を単離し、テトラヒドロフランで洗浄した。その後、真空乾燥することで炭素担持ニッケル(Ni/C) (2.9 wt% Ni, 538 mg)を得た。
【0098】
[合成例6:ポリシラン担持ニッケル(Ni@polysilane, Si : Ni = 2 : 1)の合成]
(1)ポリシランの合成
【化23】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた100 mLのシュレンクフラスコに金属リチウム(830 mg, 120 mmol)とテトラヒドロフラン(30 mL)を混合した。このフラスコを0 ℃の氷浴につけ、窒素流下でトリクロロシラン(3.0 mL, 30 mmol)を滴下した。滴下終了後、室温下で24時間激しく撹拌した。反応終了後、金属リチウム片を取り除き、黄土色懸濁液を得た。この黄土色懸濁液から遠心分離によって黄土色粉末を単離し、テトラヒドロフランで2回洗浄した。この粉末を十分乾燥後に100 mLのシュレンクフラスコに移し、0 ℃の氷浴につけ、窒素流下でメタノール (20 mL)を滴下した。滴下終了後、室温下で終夜撹拌した。この黄土色懸濁液から遠心分離によって黄土色粉末を単離し、メタノールで2回洗浄し、真空乾燥することでポリシラン(802 mg, 13.8 mmol, 92%)を得た。
【0099】
(2)ポリシラン担持ニッケル(Ni@polysilane, Si : Ni = 2 : 1)の合成
【化24】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた50 mLのシュレンクフラスコにビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(275 mg, 1 mmol)とトルエン(10 mL)を混合し、続けてポリシラン(58 mg, 1 mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、100 ℃で24時間撹拌した。反応終了後の懸濁液から遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、真空乾燥することでポリシラン担持ニッケル(Ni@polysilane, Si : Ni = 2 : 1) (121 mg)を得た。
【0100】
[合成例7:ポリシラン担持ニッケル(Ni@polysilane, Si : Ni = 1 : 1)の合成]
合成例6(1)に記載の方法で合成したポリシランを用いて、下記手順によりポリシラン担持ニッケルを得た。
【化25】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(275 mg, 1 mmol)とトルエン(5 mL)を混合し、続けてポリシラン(29 mg, 0.5 mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60 ℃で24時間撹拌した。反応終了後の懸濁液から遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、真空乾燥することでポリシラン担持ニッケル(Ni@polysilane, Si : Ni = 1 : 1) (58 mg)を得た。
【0101】
[合成例8:ポリシラン担持ニッケル(Ni@polysilane, Si : Ni = 1 : 2)の合成]
合成例6(1)に記載の方法で合成したポリシランを用いて、下記手順によりポリシラン担持ニッケルを得た。
【化26】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(550 mg, 2 mmol)とトルエン(5 mL)を混合し、続けてポリシラン(29 mg, 0.5 mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、60 ℃で24時間撹拌した。反応終了後の懸濁液から遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、真空乾燥することでポリシラン担持ニッケル(Ni@polysilane, Si : Ni = 1 : 2) (81 mg)を得た。
【0102】
[合成例9:ポリシラン担持鉄(Fe@polysilane, Si : Fe = 2 : 1)の合成]
合成例6(1)に記載の方法で合成したポリシランを用いて、下記手順によりポリシラン担持鉄を得た。
【化27】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた100 mLのシュレンクフラスコにノナカルボニル二鉄(364 mg, 1 mmol)とメシチレン(20 mL)を混合し、続けてポリシラン(116 mg, 2 mmol)を加えた。シュレンクフラスコに窒素バルーンを取り付け、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後の懸濁液から遠心分離によって黒色粉末を単離し、テトラヒドロフランで2回洗浄した。その後、真空乾燥することでポリシラン担持鉄(Fe@polysilane, Si : Fe = 2 : 1) (198 mg)を得た。
【0103】
[合成例10:ポリシラン担持コバルト(Co@polysilane, Si : Co = 2 : 1)の合成]
合成例6(1)に記載の方法で合成したポリシランを用いて、下記手順によりポリシラン担持コバルトを得た。
【化28】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた300 mLのシュレンクフラスコにオクタカルボニル二コバルト(1.710 g, 5 mmol)とトルエン(100 mL)を混合し、続けてポリシラン(581 mg, 10 mmol)を加えた。シュレンクフラスコに窒素バルーンを取り付け、60 ℃で24時間撹拌した。反応終了後の懸濁液から遠心分離によってこげ茶色粉末を単離し、テトラヒドロフランで8回洗浄した。その後、真空乾燥することでポリシラン担持コバルト(Co@polysilane, Si : Co = 2 : 1) (1.292 g)を得た。
【0104】
2.芳香環への水素付加
2.1 ポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン)の芳香環への水素付加(触媒(0.5mol%)・常圧・150℃の条件)
上記合成例で合成した触媒を用い、ポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン)の芳香環への水素付加を行った(実施例A-1~A-8,比較例A-1~A-2)。使用した触媒および水素付加反応の結果を表1に示す。表1中の結果は、水素付加反応により得られた水素付加体におけるSiPh単位およびSiCy単位のモル比率をH NMRにより測定した値である。
ポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン)は、Aldrich社から購入により入手した(シリコーンオイル AP100(ポリフェニル-メチルシロキサン)、粘度:100mPa.s, neat(25℃))。
【化29】
【0105】
[実施例A-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコに酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2)(1.4 wt% Ni, 42 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)、ピナコールボラン(14 μL, 0.1 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率40%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0106】
[実施例A-2]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコに酸化セリウム担持ニッケル-ピナコールボラン活性化触媒(Ni(OH)x/CeO2-HBpin)(1.4 wt% Ni, 42 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率24%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0107】
[実施例A-3]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコに酸化チタン担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/TiO2)(1.4 wt% Ni, 42 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)、ピナコールボラン(14 μL, 0.1 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率26%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0108】
[実施例A-4]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにハイドロキシアパタイト担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/hydroxyapatite)(1.4 wt% Ni, 42 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)、ピナコールボラン(14 μL, 0.1 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率22%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0109】
[実施例A-5]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコに炭素担持ニッケル触媒(Ni/C)(2.9 wt% Ni, 20 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率15%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0110】
[実施例A-6]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにポリシラン担持ニッケル触媒(Ni@polysilane, Si : Ni = 2 : 1) (2.2 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率8%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0111】
[実施例A-7]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにポリシラン担持ニッケル触媒(Ni@polysilane, Si : Ni = 1 : 1) (2.2 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率21%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0112】
[実施例A-8]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにポリシラン担持ニッケル触媒(Ni@polysilane, Si : Ni = 1 : 2) (2.2 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率19%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0113】
[比較例A-1]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにポリシラン担持鉄触媒(Fe@polysilane, Si : Fe = 2 : 1) (2.2 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで芳香環への水素付加が全く進行していないことが示された。
【0114】
[比較例A-2]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた20 mLのシュレンクフラスコにポリシラン担持コバルト触媒(Co@polysilane, Si : Co = 2 : 1) (2.3 mg, 0.01 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合した。シュレンクフラスコに水素バルーンを取り付け、凍結脱気により系内を水素雰囲気に置換した後、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで芳香環への水素付加が全く進行していないことが示された。
【0115】
(結果)
【表1】
表1から、ニッケル担持触媒を用いた水素との接触反応により、常圧(1気圧)下、150℃の温和な条件で、シリコーンオイルの側鎖の芳香環への水素付加反応が進行することが確認された。シロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基を有するシリコーンオイルが水素貯蔵材料として機能し得ることが示された。
一方、鉄担持触媒およびコバルト担持触媒では、水素との接触反応は進行しなかった(比較例A-1,A-2)。
【0116】
2.2 ポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン)の芳香環への水素付加(触媒(2mol%)・加圧・150℃または100℃の条件)
上記合成例で合成した触媒を用い、ポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン)の芳香環への水素付加を行った(実施例A-9~A-14)。使用した触媒および水素付加反応の結果を表2に示す。表2中の結果は、水素付加反応により得られた水素付加体におけるSiPh単位およびSiCy単位のモル比率をH NMRにより測定した値である。
ポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン)は、Aldrich社から購入により入手した(シリコーンオイル AP100(ポリフェニル-メチルシロキサン)、粘度:100mPa.s, neat(25℃)))。
【化30】
【0117】
[実施例A-9]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブにポリシラン担持ニッケル触媒(Ni@polysilane, Si : Ni = 2 : 1) (8.8 mg, 0.04 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率91%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0118】
[実施例A-10]
反応温度を100℃に変更したこと以外は、実施例A-9と同様にして、水素付加反応を実施した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率31%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0119】
[実施例A-11]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブに炭素担持ニッケル触媒(Ni/C)(1.4 wt% Ni, 81 mg, 0.04 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで定量的に芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【化31】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ = 1.76-1.66 (br, 5H), 1.24-1.06 (m, 5H), 0.58-0.48 (m, 1H), 0.10- -0.04 (m, Si-Me);
【0120】
[実施例A-12]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブに酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2)(1.4 wt% Ni, 168 mg, 0.04 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)、ピナコールボラン(58 μL, 0.4 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで定量的に芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0121】
[実施例A-13]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブに酸化チタン担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/TiO2)(1.4 wt% Ni, 168 mg, 0.04 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)、ピナコールボラン(58 μL, 0.4 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで定量的に芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0122】
[実施例A-14]
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブにハイドロキシアパタイト担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/hydroxyapatite)(1.4 wt% Ni, 168 mg, 0.04 mmol)とポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン) (400 μL, Ph基あたり2 mmol)、ピナコールボラン(58 μL, 0.4 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率91%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【0123】
(結果)
【表2】
表2から、ニッケル担持触媒を用いた水素との接触反応により、加圧下、100℃または150℃の条件で、シリコーンオイルの側鎖の芳香環への水素付加反応が進行することが確認された。特に、加圧下で水素と接触させることにより、芳香環への水素付加率が顕著に高い水素付加率が達成されることが確認された。表2からもシロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基を有するシリコーンオイルが水素貯蔵材料として機能し得ることが示された。
【0124】
2.3 ポリ(メチルフェニルシロキサン)の芳香環への水素付加(触媒(2mol%)・加圧・150℃の条件)
[実施例A-15]
上記合成例1で合成した触媒を用い、ポリ(メチルフェニルシロキサン)の芳香環への水素付加を行った。使用した触媒および水素付加反応の結果を表3に示す。表3中の結果は、水素付加反応により得られた水素付加体におけるSiPh単位およびSiCy単位のモル比率をH NMRにより測定した値である。
ポリ(メチルフェニルシロキサン)は、Aldrich社から購入した(ポリ(メチルフェニルシロキサン)、CAS:63148-58-3、動粘度:450-550cSt)。
【化32】
【0125】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブに酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2)(1.4 wt% Ni, 168 mg, 0.04 mmol)とポリ(メチルフェニルシロキサン) (250 μL, Ph基あたり2 mmol)、ピナコールボラン(58 μL, 0.4 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで定量的に芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【化33】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ = 1.78-1.64 (br, 5H), 1.26-1.10 (br, 5H), 0.70-0.60 (m, 1H), 0.08 (brs, Si-Me);
【0126】
(結果)
【表3】
表3からも、ニッケル担持触媒を用いた加圧下、150℃の条件下における水素との接触反応により、極めて高い効率で、シリコーンオイルの側鎖の芳香環への水素付加反応が進行することが確認された。表3からもシロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基を有するシリコーンオイルが水素貯蔵材料として機能し得ることが示された。
【0127】
2.4 シラノール末端ポリ(ジフェニルシロキサン) の芳香環への水素付加(触媒(2mol%)・加圧・150℃の条件)
[実施例A-16]
上記合成例2で合成した触媒を用い、シラノール末端ポリ(ジフェニルシロキサン)の芳香環への水素付加を行った。使用した触媒および水素付加反応の結果を表4に示す。表4中の結果は、水素付加反応により得られた水素付加体におけるSiPh単位およびSiCy単位のモル比率をH NMRにより測定した値である。
シラノール末端ポリ(ジフェニルシロキサン)は、Gelest社から購入により入手した(CAS:63148-59-4、動粘度:2000cSt)。
【化34】
【0128】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブに酸化セリウム担持ニッケル-ピナコールボラン活性化触媒(Ni(OH)x/CeO2-HBpin)(1.4 wt% Ni, 168 mg, 0.04 mmol)とシラノール末端ポリ(ジフェニルシロキサン) (200 mg, Ph基あたり2 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率50%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【化35】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ = 7.70-6.77 (br, 5H), 1.90-1.35 (br, 5H), 1.35-0.50 (br, 6H);
【0129】
(結果)
【表4】
表4からも、ニッケル担持触媒を用いた加圧下、150℃の条件下における水素との接触反応により、優れた効率で、シリコーンオイルの側鎖の芳香環への水素付加反応が進行することが確認された。表4からもシロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基を有するシリコーンオイルが水素貯蔵材料として機能し得ることが示された。
【0130】
2.5 カルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の芳香環への水素付加(触媒(2mol%または5mol%)・加圧・150℃条件)
[実施例A-17]
上記合成例1で合成した触媒を用い、カルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の芳香環への水素付加を行った。
使用した触媒および水素付加反応の結果を表5に示す。表5中の結果は、水素付加反応により得られた水素付加体におけるインドール体、ピロール体、およびカルバゾール体のモル比率をH NMRにより測定した値である。
【0131】
カルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)(繰り返し数:約4)は、以下の手順で合成した。
(カルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の合成)
【化36】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた100 mLのシュレンクフラスコ中でビニルカルバゾール(4.25 g, 22 mmol)とトルエン(15 mL)を混合し、続けて重合度が約4のトリメチルシリル末端ポリ(メチルヒドロシロキサン)(2.30 mL, 5 mmol)とアルミナ担持白金(5 wt%, 780 mg, 0.2 mmol)を加えた。フラスコをガラス栓で封し、80 ℃で3日間撹拌した。反応終了後、遠心分離で触媒を取り除き、酢酸エチルを用いて目的物を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮することで粗生成物を得た後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製を行うことでカルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)を合成した(4.35 g, 3.74 mmol, 75%)。
【化37】
1H NMR(600 MHz, CDCl3) δ = 8.15-7.88 (br, 2H), 7.50-7.00 (br, 6H), 4.48-4.15 (br, 2H), 1.33-1.05 (br, 2H), 0.30-0.05(m, 3H)
【0132】
【化38】
【0133】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブに酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2)(1.4 wt% Ni, 17 mg, 0.004 mmol)とカルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン) (59 mg, カルバゾールあたり0.2 mmol)、ピナコールボラン(6 μL, 0.04 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで、32mol%の原料の転化と、芳香環への水素付加によるインドール体(23mol%)とピロール体(9mol%)の生成が示された。
【化39】
1H NMR(600 MHz, CDCl3) δ = 8.15-7.88 (br, 2H), 7.50-7.00 (br, 6H), 4.48-4.15 (br, 2H), 1.33-1.05 (br, 2H), 0.30-0.05(m, 3H);
【化40】
1H NMR(600 MHz, CDCl3) δ = 7.50-7.00 (br, 4H), 4.15-4.00 (br, 2H), 2.75-2.60 (br, 4H), 1.95-1.90 (br, 2H), 1.90-1.75 (br, 2H), 1.33-1.05 (br, 2H), 0.30-0.05(m, 3H);
【化41】
1H NMR(600 MHz, CDCl3) δ = 3.65-3.55 (br, 2H), 2.55-2.45 (br, 4H), 2.45-2.35 (br, 4H), 1.90-1.75 (br, 4H), 1.75-1.60 (br, 4H),1.33-1.05 (br, 2H), 0.30-0.05(m, 3H);
【0134】
[実施例A-18]
反応条件(触媒量)を変更すること以外は実施例A-17と同様にして、カルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の芳香環への水素付加を行った。使用した触媒および水素付加反応の結果を表5に示す。表5中の結果は、水素付加反応により得られた水素付加体におけるインドール体、ピロール体、およびカルバゾール体のモル比率をH NMRにより測定した値である。
【化42】
【0135】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブに酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2)(1.4 wt% Ni, 210 mg, 0.05 mmol)とカルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン) (295 mg, カルバゾールに対して1 mmol)、ピナコールボラン(30 μL, 0.2 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで、芳香環への水素付加により、69mol%の原料の転化とインドール体(46mol%)とピロール体(23mol%)の生成が示された。
【0136】
(結果)
【表5】
表5から、ニッケル担持触媒を用いた加圧下、150℃の条件下における水素との接触反応により、シリコーンオイルの側鎖のヘテロアリールであるカルバゾール環への水素付加反応が良好な効率で進行することが確認された。表5からもシロキサン骨格を含み、側鎖に芳香族基(ヘテロアリール)を有するシリコーンオイルが水素貯蔵材料として機能し得ることが示された。
【0137】
2.5 2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラフェニルシクロテトラシロキサンの芳香環への水素付加(触媒(2mol%)・加圧・150℃条件)
[実施例A-19]
上記合成例1で合成した触媒を用い、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラフェニルシクロテトラシロキサンの芳香環への水素付加を行った。使用した触媒および水素付加反応の結果を表6に示す。表6中の結果は、水素付加反応により得られた水素付加体におけるSiPh単位およびSiCy単位のモル比率をH NMRにより測定した値である。
2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラフェニルシクロテトラシロキサンは、Aldrich社から購入した。
【化43】
【0138】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブに酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2)(1.4 wt% Ni, 168 mg, 0.04 mmol)と2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラフェニルシクロテトラシロキサン(異性体混合物)(240 μL, Ph基あたり2 mmol)、ピナコールボラン(58 μL, 0.4 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、150℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで定量的に芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【化44】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ = 1.75-1.65 (br, 20H), 1.25-1.18 (br, 20H), 0.65-0.50 (br, 4H), 0.10- -0.1 (m, 12H);
【0139】
(結果)
【表6】
表6から、ニッケル担持触媒を用いた加圧下、150℃の条件下における水素との接触反応により、優れた効率で、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する環状化合物の芳香環への水素付加反応が進行することが確認された。表6からシロキサン骨格を含み、芳香族基を有する化合物が水素貯蔵材料として機能し得ることが示された。
【0140】
2.6 1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジフェニルジシロキサンの芳香環への水素付加(触媒(2mol%)・加圧条件)
[実施例A-20]
上記合成例6で合成した触媒を用い、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジフェニルジシロキサンの芳香環への水素付加を行った。使用した触媒および水素付加反応の結果を表7に示す。表7中の結果は、水素付加反応により得られた水素付加体におけるSiPh単位およびSiCy単位のモル比率をH NMRにより測定した値である。
1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジフェニルジシロキサンは、東京化成工業株式会社から購入により入手した(CAS:56-33-7)。
【化45】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた30 mLのオートクレーブにポリシラン担持ニッケル触媒(Ni@polysilane, Si : Ni = 2 : 1) (8.8 mg, 0.04 mmol)と1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジフェニルジシロキサン(295 μL, Ph基あたり2 mmol)を混合し、0.8 MPaの水素加圧条件下、100 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、内部標準として1,4-ジオキサン(85 μL, 1 mmol)を加え、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで収率82%で芳香環への水素付加が進行していることが示された。
【化46】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ = 1.76-1.64 (br, 10H), 1.24-1.14 (br, 6H), 1.14-1.02 (m, 4H), 0.60-0.48 (m, 2H), -0.01 (m, 12H);
【0141】
(結果)
【表7】
表7から、ニッケル担持触媒を用いた加圧下、150℃の条件下における水素との接触反応により、優れた効率で、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する化合物の芳香環への水素付加反応が進行することが確認された。表7からシロキサン骨格を含み、芳香族基を有する化合物が水素貯蔵材料として機能し得ることが示された。
【0142】
3.脱水素化
3.1 カルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の還元体混合物の脱水素化(触媒(2mol%または5mol%)・加圧・150℃または250℃条件)
[実施例B-1]
実施例A-17で得たカルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の還元体混合物(カルバゾール体(68mol%)、インドール体 (23mol%)、ピロール体(9mol%))の脱水素化を行った。
使用した触媒および脱水素反応の結果を表8に示す。表8中の結果は、反応終了後に得られた脱水素化物におけるインドール体、ピロール体、およびカルバゾール体のモル比率をH NMRにより測定した値である。
【化47】
【0143】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイヤルに酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2)(1.4 wt% Ni, 17 mg, 0.004 mmol)とカルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の還元体混合物(カルバゾール体(68mol%)、インドール体 (23mol%)、ピロール体(9mol%)) (50 mg)、ピナコールボラン(6 μL, 0.04 mmol)を混合した。バイヤルに窒素バルーンを取り付け、150 ℃で24時間撹拌した。反応終了後、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで、脱水素化が進行していることが示された(カルバゾール体(92mol%)、インドール体 (8mol%)、ピロール体(痕跡量))。
【0144】
[実施例B-2]
反応条件(触媒量および反応温度)を変更すること以外は実施例B-1と同様にして、実施例A-87で得たカルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の還元体混合物(カルバゾール体(31mol%)、インドール体 (46mol%)、ピロール体(23mol%))の脱水素化を行った。
使用した触媒および脱水素反応の結果を表8に示す。表8中の結果は、反応終了後に得られた脱水素化物におけるインドール体、ピロール体、およびカルバゾール体のモル比率をH NMRにより測定した値である。
【化48】
窒素雰囲気下で、攪拌子を入れた4 mLのバイヤルに酸化セリウム担持ニッケル触媒(Ni(OH)x/CeO2)(1.4 wt% Ni, 210 mg, 0.05 mmol)とカルバゾール修飾ポリ(メチルシロキサン)の還元体混合物(カルバゾール体(31 mol %)、インドール体 (4 mol 6%)、ピロール体(23mol%)) (250 mg)、ピナコールボラン(30 μL, 0.2 mmol)を混合した。バイヤルに窒素バルーンを取り付け、250℃で24時間撹拌した。反応終了後、重クロロホルムを用い1H NMR分光法で分析することで、脱水素化が進行していることが示された(カルバゾール体(98mol%)、インドール体(2mol%)、ピロール体(痕跡量))。
【0145】
(結果)
【表8】
表8の上段(実施例A-17および実施例B-1)に示されるように、ニッケル担持触媒を用いた、加圧下、150℃の条件下で脱水素反応により、実施例A-17で得られた水素付加体(インドールおよびピロール)の量が32mol%から8mol%まで減少したことから、水素発生が24mol%進行したことが示された。
また、表8の下段(実施例A-18および実施例B-2)に示されるように、ニッケル担持触媒を用いた、加圧下、250℃の条件下で脱水素反応により、実施例A-18で得られた水素付加体(インドールおよびピロール)の量が69mol%から2mol%まで減少したことから、水素発生が67mol%進行したことが示された。
ニッケル担持触媒を用いた、加圧下、150℃~250℃の条件下で脱水素反応により、優れた効率で、シリコーンオイルの水素付加物からの脱水素反応が進行することが確認された。
本実施例の結果から、シロキサン骨格を含み、水素付加された芳香族基を有する化合物を脱水素反応させることで水素を製造できることが確認された。特に、本実施例では、水素付加反応と同一のニッケル担持触媒を用いて優れた効率、従来よりも温和な条件で、脱水素反応を実施できることが示された。
【0146】
以上の結果は、シロキサン骨格を含み、芳香族基を有する材料(化合物、シリコーンオイル)が水素貯蔵材料として利用可能であることを実証するものである。
【0147】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の実施形態に係る水素貯蔵材料は、貴金属フリーの触媒を用いて水素の貯蔵が可能である、水素の貯蔵を高効率に実施できる、または安全性に優れる、などといった利点を有し、実用性及び有用性に優れたものである。