(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088762
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】アンモニア合成触媒用担体の製造方法及びアンモニア合成触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/12 20060101AFI20230620BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230620BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230620BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20230620BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230620BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B01J31/12 M
B01J37/08
B01J37/04 102
B01J37/16
B01J37/02 101D
C01C1/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203692
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 能宏
(72)【発明者】
【氏名】菊川 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】今川 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 茉莉江
(72)【発明者】
【氏名】眞中 雄一
(72)【発明者】
【氏名】難波 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀行
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA04A
4G169BB05C
4G169BB06A
4G169BB12C
4G169BB19A
4G169BB19B
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC69A
4G169BC70B
4G169CB82
4G169DA06
4G169EB18Y
4G169EC23
4G169EC25
4G169EC27
4G169FB14
4G169FB19
4G169FB30
4G169FB31
4G169FB43
4G169FB57
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物を有するアンモニア合成触媒用担体を簡便に製造することが可能な方法を提供すること。
【解決手段】担体中のアルカリ土類金属元素の含有率が金属換算で1~10質量%の範囲内となるように、アルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩を溶媒に溶解した溶液にTiH2粒子を分散させた後、前記溶媒を除去することによって、前記TiH2粒子の表面に前記アルカリ土類金属元素を担持せしめる工程と、
前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめた前記TiH2粒子を不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中で焼成することによって、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHx〔前記式中、Aはアルカリ土類金属元素を表し、0<x≦1である〕が表面に形成されたTiH2粒子からなる担体を得る工程と
を含むことを特徴とするアンモニア合成触媒用担体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体中のアルカリ土類金属元素の含有率が金属換算で1~10質量%の範囲内となるように、アルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩を溶媒に溶解した溶液にTiH2粒子を分散させた後、前記溶媒を除去することによって、前記TiH2粒子の表面に前記アルカリ土類金属元素を担持せしめる工程と、
前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめた前記TiH2粒子を不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中で焼成することによって、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHx〔前記式中、Aはアルカリ土類金属元素を表し、0<x≦1である〕が表面に形成されたTiH2粒子からなる担体を得る工程と
を含むことを特徴とするアンモニア合成触媒用担体の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属元素が、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア合成触媒用担体の製造方法。
【請求項3】
焼成温度が300~600℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア合成触媒用担体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の方法によりアンモニア合成触媒用担体を製造する工程と、
前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめたTiH2粒子の表面又は前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子の表面に貴金属を担持せしめる工程と
を含むことを特徴とするアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子を得た後、前記TiH2粒子の表面に貴金属を担持せしめることを特徴とする請求項4に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア合成触媒用担体の製造方法、及び、アンモニア合成触媒の製造方法に関し、より詳しくは、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物が表面に形成されたTiH2粒子からなるアンモニア合成触媒用担体の製造方法、並びに、前記アンモニア合成触媒用担体に貴金属が担持されたアンモニア合成触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素エネルギーのエネルギーキャリア等の用途に応用することが可能な成分としてアンモニアが注目されている。このようなアンモニアを合成する方法として、従来より触媒として鉄系触媒を用いたハーバーボッシュ法が工業的に利用されてきたが、近年では、ハーバーボッシュ法よりも穏やかな条件でアンモニアを合成することを目的として、様々な種類のアンモニア合成触媒の研究が進められている。
【0003】
例えば、国際公開第2015/136954号(特許文献1)には、ヒドリド(H-)を含有させたペロブスカイト型酸水素化物粉末を担体とし、前記担体にアンモニア合成に触媒活性を示す金属又は金属化合物が担持されているアンモニア合成触媒が開示されている。しかしながら、ヒドリド(H-)を含有させたペロブスカイト型酸水素化物粉末を合成する場合、原料の一つであるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物が大気中で不安定であるため、真空中または不活性ガス雰囲気中で合成を行う必要があり、工業的な大量生産には不向きであった。
【0004】
また、特開2017-148810号公報(特許文献2)には、遷移元素を含む半導体からなる担体と金属とを混合する工程と、前記混合する工程で得られた混合物を空気存在下で焼成し、アンモニア合成触媒を得る工程とを含むアンモニア合成触媒の製造方法が開示されている。しかしながら、このアンモニア合成触媒においては、ヒドリドが含まれておらず、アンモニア合成触媒活性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/136954号
【特許文献2】特開2017-148810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物を有するアンモニア合成触媒用担体及びアンモニア合成用触媒を簡便に製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩を溶媒に溶解した溶液にTiH2粒子を分散させた後、前記溶媒を除去することによって、前記TiH2粒子の表面に前記アルカリ土類金属元素を担持せしめ、前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめた前記TiH2粒子を不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中で焼成することによって、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物を有するアンモニア合成触媒用担体及びアンモニア合成触媒が簡便に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のアンモニア合成触媒用担体の製造方法は、
担体中のアルカリ土類金属元素の含有率が金属換算で1~10質量%の範囲内となるように、アルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩を溶媒に溶解した溶液にTiH2粒子を分散させた後、前記溶媒を除去することによって、前記TiH2粒子の表面に前記アルカリ土類金属元素を担持せしめる工程と、
前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめた前記TiH2粒子を不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中で焼成することによって、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHx〔前記式中、Aはアルカリ土類金属元素を表し、0<x≦1である〕が表面に形成されたTiH2粒子からなる担体を得る工程と
を含むことを特徴とする方法である。
【0009】
本発明のアンモニア合成触媒用担体の製造方法においては、前記アルカリ土類金属元素が、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、また、焼成温度が300~600℃の範囲内にあることが好ましい。
【0010】
また、本発明のアンモニア合成触媒の製造方法は、
前記本発明のアンモニア合成触媒用担体の製造方法によりアンモニア合成触媒用担体を製造する工程と、
前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめたTiH2粒子の表面又は前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子の表面に貴金属を担持せしめる工程と
を含むことを特徴とする方法である。
【0011】
本発明のアンモニア合成触媒の製造方法においては、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子を得た後、前記TiH2粒子の表面に貴金属を担持せしめることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物を有するアンモニア合成触媒用担体及びアンモニア合成用触媒を簡便に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例3、実施例5、比較例1及び比較例4で得られた担体の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例1~5及び比較例1~4で得られた各担体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。(a)は2θが全範囲の粉末X線回折パターンであり、(b)は2θ=24°付近の粉末X線回折パターンであり、(c)は2θ=31.5°付近の粉末X線回折パターンである。
【
図3】比較例5~7で得られた各担体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。(a)は2θが全範囲の粉末X線回折パターンであり、(b)は2θ=24°付近の粉末X線回折パターンであり、(c)は2θ=31.5°付近の粉末X線回折パターンである。
【
図4】実施例5~6及び比較例8で得られた各担体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【
図5】実施例7~10で得られた各担体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
〔アンモニア合成触媒用担体の製造方法〕
先ず、本発明のアンモニア合成触媒用担体の製造方法について説明する。本発明のアンモニア合成触媒用担体の製造方法は、担体中のアルカリ土類金属元素の含有率が金属換算で1~10質量%の範囲内となるように、アルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩を溶媒に溶解した溶液にTiH2粒子を分散させた後、前記溶媒を除去することによって、前記TiH2粒子の表面に前記アルカリ土類金属元素を担持せしめる工程(アルカリ土類金属担持工程)と、前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめた前記TiH2粒子を不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中で焼成することによって、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHx〔前記式中、Aはアルカリ土類金属元素を表し、0<x≦1である〕が表面に形成されたTiH2粒子からなる担体を得る工程(焼成工程)とを含む方法である。
【0016】
(アルカリ土類金属担持工程)
本発明にかかるアルカリ土類金属担持工程は、TiH2粒子の表面にアルカリ土類金属元素を担持せしめる工程である。具体的には、アルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩を溶媒に溶解した溶液にTiH2粒子を分散させた後、前記溶媒を除去することによって、前記TiH2粒子の表面に前記アルカリ土類金属元素を担持せしめる。
【0017】
本発明においては、アルカリ土類金属源として、アルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩を使用する。これにより、TiH2粒子の表面に前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが形成され、高活性のアンモニア合成触媒を得ることができる。また、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが形成しやすく、より高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、アルカリ土類金属元素の水酸化物が好ましい。
【0018】
一方、アルカリ土類金属源として、アルカリ土類金属元素の水酸化物及び硝酸塩以外のアルカリ土類金属化合物(例えば、アルカリ土類金属元素の酢酸塩)を用いた場合には、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが生成しにくく、高活性のアンモニア合成触媒を得ることが困難となる。
【0019】
前記アルカリ土類金属元素としては、Ca、Sr、Baが好ましく、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが形成しやすく、より高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、Baが好ましい。また、このようなアルカリ土類金属元素は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0020】
また、本発明においては、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが形成し、高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、溶媒として、水又は水とエタノールとの混合溶媒を使用することが好ましく、TiH2粒子の表面に前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが均一に形成し、より高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、水とエタノールとの混合溶媒を使用することがより好ましい。また、この混合溶媒における水とエタノールとの混合比としては、水/エタノール(体積比)が10/90~90/10の範囲内にあることが好ましく、30/70~70/30の範囲内にあることがより好ましい。水/エタノール(体積比)が前記下限未満になると、混合溶媒中の水の量が少なく、アルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩を十分に溶解させることができない場合があり、他方、前記上限を超えると、混合溶媒中のエタノールの量が少ないため、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxの形成が十分に促進されない場合がある。
【0021】
本発明にかかるアルカリ土類金属担持工程においては、先ず、前記アルカリ土類金属元素の水酸化物及び硝酸塩を前記溶解した溶液に、TiH2粒子を分散させる。前記TiH2粒子としては特に制限はないが、TiH2粒子の表面に形成される前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxの比表面積が小さくなり、より高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、平均結晶子径が1~100nmの範囲内にあるTiH2粒子が好ましく、5~40nmの範囲内にあるTiH2粒子がより好ましい。
【0022】
また、本発明にかかるアルカリ土類金属担持工程においては、得られるアンモニア合成触媒用担体中のアルカリ土類金属元素の含有率が金属換算で1~10質量%(好ましくは3~10質量%、より好ましくは5~10質量%)の範囲内となるように、前記溶媒に対する前記アルカリ土類金属元素の水酸化物及び硝酸塩の溶解量(溶解濃度)及びTiH2粒子の分散量(分散濃度)を設定する。担体中のアルカリ土類金属元素の含有率が前記下限未満になると、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが十分に形成せず、アンモニア合成触媒の活性が低下し、他方、前記上限を超えると、アルカリ土類金属元素の炭酸塩が生成し、これが前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxを被覆するため、アンモニア合成触媒の活性が低下する。
【0023】
本発明にかかるアルカリ土類金属担持工程においては、次に、前記TiH2粒子を分散させた分散液から前記溶媒を除去する。これにより、前記TiH2粒子の表面に前記アルカリ土類金属元素が担持される。前記溶媒を除去する方法としては、特に制限はないが、加熱により溶媒を蒸発させる方法が好ましい。この場合の加熱温度としては、100~350℃が好ましく、200~300℃がより好ましい。加熱温度が前記下限未満になると、前記溶媒が十分に蒸発しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、TiH2が大気中の酸素と反応して分解し、ヒドリドが失われる場合がある。また、加熱時間としては、0.5~10時間が好ましく、1~5時間がより好ましい。
【0024】
(焼成工程)
本発明にかかる焼成工程は、前記アルカリ土類金属元素を担持せしめた前記TiH2粒子を不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中で焼成する工程である。これにより、前記TiH2粒子の表面でTiH2とアルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩とが反応し、TiH2粒子の表面に前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHx〔前記式中、Aはアルカリ土類金属元素を表し、0<x≦1である〕が容易に形成され、簡便に本発明のアンモニア合成触媒用担体を得ることができる。
【0025】
本発明にかかる焼成工程において、焼成は不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中で行う。
前記還元性雰囲気における還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、炭化水素(例えば、CH4)等が挙げられる。また、前記不活性雰囲気における不活性ガス及び前記還元性雰囲気において還元性ガスと混合される不活性ガスしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。このような焼成雰囲気のうち、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxからのヒドリドの脱離が抑制され、より高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、還元性雰囲気が好ましく、水素を含有する還元性雰囲気がより好ましい。
【0026】
また、本発明にかかる焼成工程においては、焼成温度が300~600℃の範囲内にあることが好ましく、300~500℃の範囲内にあることがより好ましく、300~400℃の範囲内にあることが特に好ましい。焼成温度が前記下限未満になると、TiH2とアルカリ土類金属元素の水酸化物又は硝酸塩とが十分に反応せず、TiH2粒子の表面に前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが容易に十分に形成されないため、アンモニア合成触媒の活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、TiH2の一部がTiへと分解され、アンモニア合成触媒の活性が低下する傾向にある。また、焼成時間としては、1~10時間が好ましく、2~5時間がより好ましい。
【0027】
このようにして得られるアンモニア合成触媒用担体においては、より高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、粉末X線回折パターンに基づいて求められる、TiH2の111メインピークの面積S111に対する前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxの110メインピークの面積S110の割合〔S110/S111〕が0.5~20%の範囲内にあることが好ましく、3~20%の範囲内にあることがより好ましく、10~20%の範囲内にあることが更に好ましい。
【0028】
また、前記アンモニア合成触媒用担体においては、粉末X線回折パターンに基づいて求められる、TiH2の111メインピークの面積S111に対するアルカリ土類金属の炭酸塩の110+102メインピークの面積S110の割合〔S110+102/S111〕が4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。S110+102/S111が前記上限を超えると、アンモニア合成触媒の活性が低下する傾向にある。
【0029】
〔アンモニア合成触媒の製造方法〕
次に、本発明のアンモニア合成触媒の製造方法について説明する。本発明のアンモニア合成触媒の製造方法は、前記本発明のアンモニア合成触媒用担体の製造方法によりアンモニア合成触媒用担体を製造する工程(担体製造工程)と、前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめたTiH2粒子の表面又は前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子の表面に貴金属を担持せしめる工程(貴金属担持工程)とを含む方法である。
【0030】
(貴金属担持工程)
本発明にかかる貴金属担持工程は、前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめたTiH2粒子の表面又は前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子の表面に貴金属を担持せしめる工程である。
【0031】
本発明にかかる貴金属担持工程においては、前記アルカリ土類金属担持工程で得られた前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめたTiH2粒子の表面に貴金属を担持せしてもよいし(この場合、その後、焼成を行うことにより、アンモニア合成触媒が得られる)、前記焼成工程で得られた前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子の表面に貴金属を担持せしめてもよいが、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxに前記貴金属が埋没して触媒活性が低下することを防ぐという観点から、前記焼成工程で得られた前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子の表面に貴金属を担持せしめることが好ましい。
【0032】
貴金属を担持せしめる方法としては特に制限はなく、例えば、貴金属の前駆体を溶媒に溶解して調製した貴金属溶液に、前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめたTiH2粒子の表面又は前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子を分散させた後、前記溶媒を除去することによって前記TiH2粒子の表面に前記貴金属を担持させる方法等の、従来公知の貴金属担持方法を採用することができる。
【0033】
前記貴金属としては、アンモニア合成触媒に用いられる貴金属であれば特に制限はないが、より高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、ルテニウム(Ru)が好ましい。また、貴金属の前駆体としては、錯体(例えば、Ru3(CO)12、Ru(acac)3、RuCl2(PPh3)4、RuCl2(PPh3)3、Ru(C5H5)等のルテニウム錯体)、塩化物(例えば、RuCl3)、硝酸塩(例えば、硝酸ルテニウム)、ルテニウム酸のアルカリ金属塩(例えば、ルテニウム酸カリウム)、ルテニウムシアン化物のアルカリ金属塩(例えば、ルテニウムシアン化カリウム)、ニトロシル硝酸ルテニウム等が挙げられる。溶媒としては、貴金属を担持させる際に用いられる溶媒であれば特に制限はなく、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、ジメチルエーテル、エタノール、水等が挙げられる。
【0034】
また、本発明にかかる貴金属担持工程においては、得られるアンモニア合成触媒中の担体100質量部に対する貴金属の担持量が0.1~10質量部(好ましくは0.2~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部)の範囲内となるように、前記溶媒に対する前記貴金属の前駆体の溶解量(溶解濃度)及び担体の分散量(分散濃度)を設定する。
【0035】
本発明にかかる貴金属担持工程においては、次に、前記アルカリ土類金属元素を表面に担持せしめたTiH2粒子の表面又は前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子を分散させた分散液から前記溶媒を除去する。これにより、前記TiH2粒子の表面に貴金属が担持される。前記溶媒を除去する方法としては、特に制限はないが、加熱により溶媒を蒸発させる方法が好ましい。この場合の加熱温度としては、0~100℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。加熱温度が前記下限未満になると、前記溶媒が十分に蒸発しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記ヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが大気中の酸素と反応して分解される場合がある。また、加熱時間としては、0.5~5時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。
【0036】
本発明のアンモニア合成触媒の製造方法においては、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxが表面に形成されたTiH2粒子の表面に貴金属を担持されたアンモニア合成触媒に、必要に応じて、乾燥処理を施してもよい。乾燥温度としては特に制限はないが、50~150℃が好ましく、70~130℃がより好ましい。また、乾燥時間としては、6~48時間が好ましく、12~24時間がより好ましい。
【0037】
(触媒前処理工程)
また、本発明により得られたアンモニア合成触媒においては、使用前に、必要に応じて不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中で加熱処理(触媒前処理)を施してもよい。前記還元性雰囲気における還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、炭化水素(例えば、CH4)等が挙げられる。また、前記不活性雰囲気における不活性ガス及び前記還元性雰囲気において還元性ガスと混合される不活性ガスしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。このような加熱雰囲気のうち、前記ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物ATiO3-xHxからのヒドリドの脱離が抑制され、より高活性のアンモニア合成触媒が得られるという観点から、還元性雰囲気が好ましく、水素を含有する還元性雰囲気がより好ましい。
【0038】
また、触媒前処理における加熱温度としては、300~600℃の範囲内が好ましく、300~500℃の範囲内がより好ましく、300~400℃の範囲内が特に好ましい。また、加熱時間としては、1~10時間が好ましく、2~5時間がより好ましい。
【0039】
なお、本発明のアンモニア合成触媒の製造方法において、前記アルカリ土類金属担持工程の後に前記貴金属担持工程を実施した場合には、この触媒前処理工程を前記焼成工程とすることができる。
【実施例0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
<担体調製>
担体中のBaの含有率が金属換算で1.6質量%となるように、Ba(OH)2・8H2Oを水/エタノール混合溶媒(体積比:3/2)に溶解して調製したBa溶液に、TiH2粒子(アルドリッチ社製、平均結晶子径:40nm)を添加して10分間攪拌した。得られた分散液を230℃のホットプレート上で2時間加熱して溶媒を蒸発させ、得られた粉末を10%H2/90%N2流通下、350℃で3時間焼成して、TiH2粒子にBaが担持したBa/TiH2担体を得た。
【0042】
<触媒調製>
担体100質量部に対するRuの担持量が1質量部となるように、Ru3(CO)12をテトラヒドロフランに溶解して調製したRu溶液に、前記担体を添加して5時間攪拌した。得られた分散液を27℃で2時間加熱して溶媒を蒸発させ、得られた粉末を80℃で18時間乾燥させて前記担体にRuが担持したRu-Ba/TiH2触媒を得た。
【0043】
(実施例2)
担体中のBaの含有率が金属換算で2.4質量%となるようにBa(OH)2・8H2Oの量を変更した以外は実施例1と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0044】
(実施例3)
担体中のBaの含有率が金属換算で4.0質量%となるようにBa(OH)2・8H2Oの量を変更した以外は実施例1と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0045】
(実施例4)
担体中のBaの含有率が金属換算で5.7質量%となるようにBa(OH)2・8H2Oの量を変更した以外は実施例1と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0046】
(実施例5)
担体中のBaの含有率が金属換算で8.2質量%となるようにBa(OH)2・8H2Oの量を変更した以外は実施例1と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0047】
(実施例6)
Ba(OH)2・8H2Oの代わりにBa(NO3)2を用いた以外は実施例5と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0048】
(実施例7)
水/エタノール混合溶媒の代わりに水のみを用いた以外は実施例5と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0049】
(実施例8)
平均結晶子径が40nmのTiH2粒子の代わりに平均結晶子径が90nmのTiH2粒子(株式会社高純度化学研究所製)を用いた以外は実施例5と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0050】
(実施例9)
10%H2/90%N2流通下に変えて100%N2流通下で焼成してBa/TiH2担体を調製した以外は実施例5と同様にして、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0051】
(実施例10)
焼成温度を550℃に変更してBa/TiH2担体を調製した以外は実施例5と同様にして、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0052】
(比較例1)
Ba(OH)2・8H2Oを用いなかった以外は実施例1と同様にしてTiH2担体を調製し、さらに、Ru-TiH2触媒を得た。
【0053】
(比較例2)
担体中のBaの含有率が金属換算で0.8質量%となるようにBa(OH)2・8H2Oの量を変更した以外は実施例1と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0054】
(比較例3)
担体中のBaの含有率が金属換算で10.7質量%となるようにBa(OH)2・8H2Oの量を変更した以外は実施例1と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0055】
(比較例4)
担体中のBaの含有率が金属換算で12.4質量%となるようにBa(OH)2・8H2Oの量を変更した以外は実施例1と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0056】
(比較例5)
TiH2粒子(アルドリッチ社製、平均結晶子径:40nm)の代わりにTiO2粒子(アルドリッチ社製)を用い、Ba(OH)2・8H2Oを用いなかった以外は実施例1と同様にしてTiO2担体を調製し、さらに、Ru-TiO2触媒を得た。
【0057】
(比較例6)
TiH2粒子(アルドリッチ社製、平均結晶子径:40nm)の代わりにTiO2粒子(アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例3と同様にしてBa/TiO2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiO2触媒を得た。
【0058】
(比較例7)
TiH2粒子(アルドリッチ社製、平均結晶子径:40nm)の代わりにTiO2粒子(アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例5と同様にしてBa/TiO2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiO2触媒を得た。
【0059】
(比較例8)
Ba(OH)2・8H2Oの代わりにBa(OCOCH3)2を用いた以外は実施例5と同様にしてBa/TiH2担体を調製し、さらに、Ru-Ba/TiH2触媒を得た。
【0060】
<走査型電子顕微鏡観察>
実施例及び比較例で得られた各担体を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
図1に実施例3、実施例5、比較例1及び比較例4で得られた担体のSEM写真を示す。
【0061】
<粉末X線回折測定>
実施例及び比較例で得られた各担体のX線回折パターンを粉末X線回折装置により測定した。その結果を
図2~
図5に示す。なお、
図2~
図5に示したX線回折パターンにおいて、2θ=31.5°付近に観察されるピークはBaTiO
3-xH
xに由来するピークであり、2θ=24°付近に観察されるピークはBaCO
3に由来するピークである。
【0062】
また、得られた各担体のX線回折パターンに基づいて、TiH2の111メインピークの面積S111に対するBaTiO3-xHxの110メインピークの面積S110の割合〔S110/S111〕及びTiH2の111メインピークの面積S111に対するBaCO3の110+102メインピークの面積S110+102の割合〔S110+102/S111〕を求め、TiH2に対するBaTiO3-xHxとBaCO3の存在比率を定量化した。それらの結果を表1に示す。
【0063】
<NH3合成>
得られた触媒0.200gを反応管に充填し、これを固定床流通式反応装置に設置した。この触媒に水素と窒素の混合ガス(75容量%H2/25容量%H2)を流量80ml/min、圧力0.1MPaで供給しながら、先ず、前記触媒を400℃で2時間加熱して前処理を行い、次いで、350℃に降温してアンモニアの合成反応を開始した。合成反応開始から1時間後、反応装置の出口に設置した赤外分光装置を用いて触媒出ガスのアンモニア濃度を測定し、触媒1g当たりのアンモニア合成速度を求めた。その結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
図1に示した結果から明らかなように、比較例1で得られたTiH
2担体は、数μmレベルの粒子であることがわかった。
【0066】
一方、実施例3及び5で得られたBa/TiH
2担体においては、
図1に示したように、TiH
2粒子の表面に100nmレベルのナノ粒子が形成しており、特に、実施例5で得られたBa/TiH
2担体においては、TiH
2粒子の表面がすべて100nmレベルのナノ粒子でおおわれていることが確認された。また、
図2に示したように、実施例1~5で得られたBa/TiH
2担体の粉末X線回折スペクトルにおいては、BaTiO
3-xH
xに由来するピーク(2θ=31.5°付近)が観察された。この結果から、実施例5で得られたBa/TiH
2担体においては、TiH
2粒子の表面が100nmレベルのBaTiO
3-xH
xナノ粒子で覆われていることがわかった。したがって、実施例5で得られたBa/TiH
2担体は、TiH
2粒子をコア、BaTiO
3-xH
xをシェルとするコアシェル構造であることがわかった。
【0067】
他方、比較例4で得られたBa/TiH
2担体においては、
図1に示したように、TiH
2粒子の表面に、100nmレベルのナノ粒子のほかに、柱状の結晶が生成していることが確認された。また、
図2に示したように、比較例4で得られたBa/TiH
2担体の粉末X線回折スペクトルにおいては、BaCO
3に由来するピーク(2θ=24°付近)が観察された。この結果から、比較例4で得られたBa/TiH
2担体のTiH
2粒子表面に生成した柱状の結晶はBaCO
3であると考えられる。
【0068】
表1に示したように、同一のTiH2粒子(平均結晶子径:40nm)、Ba塩(Ba(OH)2・8H2O)及び溶媒(水/エタノール混合溶媒)を用い、同一の焼成雰囲気(10%H2/90%N2)及び焼成温度(350℃)で調製したRu-Ba/TiH2触媒(実施例1~5及び比較例1~4)においては、Ba含有率が8.2質量%以下では、Ba含有率の増加とともに、S110/S111が増加し、また、NH3合成速度も向上した(実施例1~5及び比較例1~2)。一方、Ba含有率が10.7質量%以上になると、Ba含有率の増加とともに、S110/S111及びNH3合成速度はともに低下した(比較例3~4)。これらの結果から、BaTiO3-xHxの生成がNH3合成活性の向上に寄与していると考えられる。
【0069】
また、表1に示したように、S110+102/S111については、Ba含有率が4.0質量%以下では、0%であった(実施例1~3及び比較例1~2)が、Ba含有率が5.7質量%以上になると、Ba含有率が増加するにつれて、S110+102/S111も増加した(実施例4~5及び比較例3~4)。特に、比較例3で得られたRu-Ba/TiH2触媒は、実施例5で得られたRu-Ba/TiH2触媒と同等のS110/S111を有するものの、実施例5で得られたRu-Ba/TiH2触媒に比べて、S110+102/S111が大きく、NH3合成速度が低下した。この結果から、比較例3で得られたRu-Ba/TiH2触媒においては、NH3合成活性が低いBaCO3がBaTiO3-xHxを覆っているため、NH3合成速度が低下したと考えられる。
【0070】
表1に示したように、TiH
2粒子の代わりにTiO
2粒子を用いて調製したRu-Ba/TiO
2触媒(比較例5~7)においては、Ba含有率の増加とともに、NH
3合成速度が向上したが、比較例7で得られたRu-Ba/TiO
2触媒(Ba含有率:8.2質量%)のNH
3合成速度は、Ba含有率が同じRu-Ba/TiH
2触媒(実施例5)の約17%であった。また、
図3に示したように、比較例5~7で得られたBa/TiO
2担体の粉末X線回折スペクトルにおいては、BaTiO
3-xH
xに由来するピーク(2θ=31.5°付近)が観察されなかった。これらの結果から、NH
3合成活性の向上にはBaTiO
3-xH
xの生成が必要であり、BaTiO
3-xH
xの生成にはヒドリドを含むTiH
2の存在が不可欠であることがわかった。
【0071】
さらに、表1に示したように、Ba塩等として、Ba(NO
3)
2(実施例6)又はBa(OCOCH
3)
2(比較例8)を用いた場合には、Ba(OH)
2・8H
2Oを用いて調製した場合(実施例5)に比べて、NH
3合成速度が31%(実施例6)及び3%(比較例8)と低下した。また、表1に示したように、実施例6で得られたBa/TiH
2担体においては、実施例5で得られたBa/TiH
2担体に比べて、S
110/S
111が14%であり、比較例8得られたBa/TiH
2担体においては、
図4に示したように、BaTiO
3-xH
xに由来するピーク(2θ=31.5°付近)が観察されなかった。これらの結果から、NH
3合成活性の向上にはBaTiO
3-xH
xの生成が必要であり、BaTiO
3-xH
xの生成にはヒドリドを含むTiH
2の存在が不可欠であることがわかった。これらの結果は、BaTiO
3-xH
xの生成には水酸化物状態のBaが必要であることを示唆しており、Ba塩等としてはBa(OH)
2・8H
2Oが特に適していることがわかった。
【0072】
また、溶媒として水のみを用いた場合(実施例7)、平均結晶子径が90nmのTiH
2粒子を用いた場合(実施例8)並びに100%N
2N
2流通下で焼成した場合(実施例9)には、
図5に示したように、BaTiO
3-xH
xに由来するピーク(2θ=31.5°付近)が観察され、表1に示したように、溶媒として水/エタノール混合溶媒を用い、平均結晶子径が40nmのTiH
2粒子を用い、10%H
2/90%N
2流通下で焼成した場合(実施例5)と同等のS
110/S
111を有していたが、NH
3合成速度が低下した。これは、実施例7においては、溶媒にエタノールが含まれないためにTiH
2粒子の表面にBaTiO
3-xH
xが均一に形成されなかったこと、実施例8においては、BaTiO
3-xH
xの比表面積が小さくなったこと、実施例9においては、H
2が含まれない雰囲気下で焼成したためにBaTiO
3-xH
xのヒドリドが一部離脱したことによるものと推察される。また、550℃で焼成した場合(実施例10)には、表1に示したように、350℃で焼成した場合(実施例5)に比べて、NH
3合成速度が低下した。これは、実施例10においては、S
110/S
111が小さくなっており、550℃で焼成したことにより、TiH
2の一部がTiへ分解したためと考えられる。以上の結果から、TiH
2粒子の表面にBaを担持させる工程においては、エタノールを含有する溶媒及び平均結晶子径が50nm以下のTiH
2粒子を用い、H
2を含有する雰囲気下、300~400℃の温度下で焼成することが好ましいことがわかった。
以上説明したように、本発明によれば、ペロブスカイト型構造のヒドリド含有酸化物を有するアンモニア合成触媒用担体を容易に得ることが可能となる。したがって、本発明のアンモニア合成触媒の製造方法は、アンモニア合成触媒用担体の製造方法が簡便であるため、高活性のアンモニア合成触媒を容易に製造する方法として有用である。