(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008880
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】顕微鏡システムにおける画像ドリフトの低減
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 E
H01J37/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022103385
(22)【出願日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】21182957.7
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ニック ファン へステル
(72)【発明者】
【氏名】ニック フェルヴィンプ
(72)【発明者】
【氏名】ルート クリーネン
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA04
5C101AA05
5C101EE78
5C101FF16
5C101FF43
5C101FF53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】顕微鏡システムの画像ドリフトを低減するための改善されたシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】顕微鏡に挿入されたときのサンプルホルダーのドリフトを低減するための低熱伝導率を有する材料を有する顕微鏡システム用のサンプルホルダー。また、サンプルホルダーを含む顕微鏡システム用のコールドトラップであって、少なくとも部分的に、サンプルホルダーとコールドトラップとの間の熱負荷を増加させるための高熱放射率を有するコーティングを含む、コールドトラップ。さらに、第1の温度(T1)を有するように構成された第1の要素、第2の温度(T2)を有するように構成された第2の要素、および第3の温度(T3)を有するように構成された第3の要素を備え、第3の要素は、第1の要素から複数の異なる距離に位置されるように構成され、顕微鏡システムは、少なくともサンプルを撮像し、画像のドリフトを低減するように構成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡に挿入されたときのサンプルホルダーのドリフトを低減するための低熱伝導率を有する材料を有する顕微鏡システム用のサンプルホルダーであって、細長いロッドおよびサンプルを保持するための先端を含み、中間部分は前記ロッドと前記先端との間に設けられ、前記中間部分は熱伝導率の低い材料を有する、サンプルホルダー。
【請求項2】
前記熱伝導率が0.1W/m/K~100W/m/Kの間である、請求項1に記載のサンプルホルダー。
【請求項3】
前記サンプルホルダーが超低膨張材料(ULE材料)を有し、前記ULE材料の熱膨張係数が10-9/℃~100/℃の間である、請求項1または2に記載のサンプルホルダー。
【請求項4】
サンプルホルダーを含む顕微鏡システム用の高放射率コンポーネントであって、少なくとも部分的に、前記サンプルホルダーと前記高放射率コンポーネントとの間の熱負荷を増加させるための高熱放射率を有するコーティングを含む、高放射率コンポーネント。
【請求項5】
前記コーティングが、熱放射率が0.5~1の間の材料を有する、請求項4に記載の高放射率コンポーネント。
【請求項6】
前記高放射率コンポーネントがコールドトラップを含む、請求項4または5に記載の高放射率コンポーネント。
【請求項7】
顕微鏡システムであって、
第1の温度(T1)を有するように構成された第1の要素、
第2の温度(T2)を有するように構成された第2の要素、および
第3の温度(T3)を有するように構成された第3の要素を備え、前記第3の要素は、前記第1の要素から複数の異なる距離に位置されるように構成され、
前記顕微鏡システムは、
少なくともサンプルを撮像し、画像ドリフトを低減するように構成される、顕微鏡システム。
【請求項8】
前記画像ドリフトの低減が1%~100%の間である、請求項7に記載の顕微鏡システム。
【請求項9】
前記第1の要素がサンプルホルダーを含む、請求項7または8に記載の顕微鏡システム。
【請求項10】
前記第1の要素が請求項1~3のいずれかに記載のサンプルホルダーを含む、請求項7~9のいずれかに記載の顕微鏡システム。
【請求項11】
前記第2の要素が、請求項4~6のいずれかに記載の高放射率コンポーネントを含む、請求項7~10のいずれかに記載の顕微鏡システム。
【請求項12】
前記第3の要素が検出器を含む、請求項7~11のいずれかに記載の顕微鏡システム。
【請求項13】
前記第2の温度が前記第1の温度とは異なり、前記第3の温度が
前記第1の温度とは異なる、請求項7~12のいずれかに記載の顕微鏡システム。
【請求項14】
前記第1の温度と前記第2の温度との間の差が20℃~1000℃の間、好ましくは50℃~300℃の間、さらに好ましくは100℃~200℃の間である、請求項7~13のいずれかに記載の顕微鏡システム。
【請求項15】
前記第1の温度と前記第3の温度との間の差が20℃~1000℃の間、好ましくは50℃~300℃の間、さらに好ましくは100℃~200℃の間である、請求項7~14のいずれかに記載の顕微鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡システムの分野に関する。特に、顕微鏡システムの画像ドリフトを低減するためのシステムに関わる。より具体的には、サンプルホルダーの熱ドリフトを低減するためのシステムおよびその対応する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡システムは、サンプルの観察だけでなく、サンプルの製造、加工、および機械加工にも広く使用されている。典型的な顕微鏡システムでは、粒子のビームがサンプルホルダーに支持されたサンプルに向けられ、ビーム内の粒子がサンプルと相互作用し、サンプルから様々な放出を引き起こし、それが様々な検出器によって捕捉され得る。ビームは、顕微鏡システムの使用目的と分解能に応じて、光子などの電荷中性粒子、または電子もしくはイオンなどの荷電粒子を含み得る。顕微鏡システムはまた、サンプル上の特定の場所にビームを向け、それを合焦させるための光学系(電磁的または静電的または静磁気的であり得る)を含み得る。
【0003】
電子およびイオンは、波長が短いため(光子と比較して電子およびイオンの質量が大きいため)、より高い分解能を提供し得る。しかしながら、光学顕微鏡と同等またはそれ以上の分解能を達成するには、荷電粒子を高い運動エネルギーに加速する必要がある場合がある。より高いエネルギーは、中性分子と相互作用するためのより大きな断面積につながる可能性があり、したがって、そのようなシステムは、通常、真空カラムまたは真空チャンバー内の真空条件で動作される。
【0004】
一部の真空チャンバーでは、蒸気による真空ポンプおよび/またはサンプルの汚染を防ぐために、コールドトラップが提供されてもよい。コールドトラップの温度は、通常、真空チャンバーの温度とは異なる場合がある。したがって、コールドトラップとサンプルホルダーとの間で熱流(真空チャンバーと熱平衡にあり得る)が発生する可能性がある。
【0005】
荷電粒子顕微鏡システム用の検出器は、暗電流を減らし、信号対雑音比を改善するために、通常、-40℃という低い温度に冷却されてもよい。さらに、検出器は格納式でもよく、検出のために展開され、それ以外の場合は格納され得る。検出器の展開および格納により、サンプルホルダーで大きな温度変化が生じ得る。例えば、一旦サンプルホルダー(サンプルを含む)が真空チャンバーに挿入されると、ビームはサンプルと位置合わせされ得、顕微鏡システムはその後の動作のために準備される。平衡化後、サンプルホルダーは、おそらくチャンバー内にコールドトラップがある状態で、真空チャンバーの周囲温度になる。
【0006】
後に、冷却された検出器をサンプルホルダーの近くで展開して、ビームとサンプルとの相互作用からの放出を捕捉し得る。冷却された検出器が展開されると、検出器の距離が変化することにより、サンプルホルダーと検出器との間の熱流が変化する可能性がある。検出器はまた、少なくとも部分的に、コールドトラップを遮蔽してもよく、その結果、サンプルホルダーとコールドトラップとの間の熱流が変化する。したがって、サンプルホルダーから/への熱流の全体的な変動は、検出器からの距離の変化によって生じ得る。これにより、熱ドリフトが発生する可能性がある。その結果、画像の位置合わせが乱れ得、画像がドリフトし始める可能性がある。ドリフトの大きさは、コールド検出器と検出器の展開前のサンプルホルダーの温度との温度差に依存してもよい。典型的なシステムでは、ドリフトは、例えば、200nmと大きくてもよいが、典型的な予想される分解能は、例えば、1nmであり得る。次に、システムを新しい平衡条件に落ち着かせる必要があり得、これには、例えば、1時間かかり得る。これにより、システムの動作が非効率になる可能性がある。
【0007】
本技術の実施形態は、サンプルホルダーでの熱的変動による画像のドリフトを低減することによって顕微鏡システムの効率を改善することを目的としている。それらは、ドリフトが特に悪影響を及ぼし得るマイクロまたはナノ構造の作成および/または機械加工に使用される顕微鏡システムに特に関連し得る。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、従来技術の欠点および不都合な点を克服するか、または少なくとも軽減することを試みる。より具体的には、本発明の目的は、顕微鏡システムの画像ドリフトを低減するための改善されたシステムおよび方法を提供することである。
【0009】
第1の態様では、本発明は、顕微鏡に挿入されたときのサンプルホルダーのドリフトを低減するための低熱伝導率を有する材料を有する顕微鏡システム用のサンプルホルダーに関する。ドリフトは、顕微鏡内部とは異なる温度からサンプルホルダーを挿入することによって生じる熱ドリフトである可能性がある。または、サンプルホルダーとは異なる温度で他の要素を顕微鏡に挿入することで生じる場合がある。いずれの場合も、熱ドリフトは、サンプルホルダーがその環境と熱平衡に達するまでサンプルの画像をドリフトさせる。平衡に達するまでに時間がかかる場合があるため、撮像処理の効率が低下する。
【0010】
サンプルホルダーは、顕微鏡でサンプルの少なくとも一部を撮像できるようにサンプルを保持するように構成され得る。これは、サンプルホルダーの並進および/または回転を含み得、そのような動きを駆動するための手段が提供される。
【0011】
サンプルホルダーは、細長いロッドおよびサンプルを保持するための先端を備えてもよく、中間部分はロッドと先端との間に設けられ、中間部分は熱伝導率の低い材料を有する。中間部分は、熱伝導率が1.46W/m/Kのゼロデュアなどの材料を含んでもよい。他方、通常、ロッドは、熱伝導率が75W/m/Kのリン青銅(CuSn)などの材料を含んでもよい。したがって、ロッドの熱伝導率が低下し、ロッド、その結果、サンプルホルダーの熱ドリフトが低下し得る。
【0012】
中間部分の長さは、ロッドの長さの0.01~20倍の間であってもよい。
【0013】
材料の熱伝導率は、0.1W/m/K~100W/m/Kの間であってもよい。
【0014】
サンプルホルダーは、超低膨張(ULE)材料をさらに有し得、ここで、ULE材料の熱膨張係数は、10-9/℃~100/℃の間である。サンプルホルダーの熱膨張係数を下げることにより、サンプルホルダーの熱ドリフトを減らすこともできる。例えば、熱膨張係数が10-7/℃のゼロデュアをULE材料として使用することもできる。
【0015】
上記の中間部分は、ULE材料を含み得る。
【0016】
上記の中間部分は、鋳造処理によって製造することができる。
【0017】
上記の中間部分は、射出成形処理によって製造することができる。
【0018】
上記の中間部分は、追加の製造処理によって製造することができる。
【0019】
第2の態様では、本発明は、サンプルホルダーを含む顕微鏡システム用の高放射率コンポーネントに関わり、高放射率コンポーネントは、少なくとも部分的に、サンプルホルダーと高放射率コンポーネントとの間の熱負荷を増加させるための高熱放射率を有するコーティングを含む。高放射率コンポーネントは、サンプルおよび/または真空ポンプの汚染を防ぐのに役立ち得る。高放射率コンポーネントは、サンプルホルダーが熱交換を行うことができる物体の1つを含み得る。高放射率コンポーネントの放射率を増加させることによって熱負荷を増加させると、高放射率コンポーネントとの熱交換がサンプルホルダーにおける総熱負荷に大きく寄与する場合、サンプルホルダーでの熱負荷の変動を減らすのに役立ち得る。
【0020】
コーティングは、動作電磁波長が300nm~1000μmの間の材料を含んでもよい。
【0021】
コーティングは、熱放射率が0.5~1の間の材料を含んでもよい。
【0022】
コーティングは、動作温度が-273℃~0℃の間の材料を含んでもよい。
【0023】
コーティングは、面密度が0.1mg/cm2~10mg/cm2の間の材料を含み得る。
【0024】
高放射率コンポーネントは、少なくとも5%から最大で100%の範囲の表面積でコーティングされてもよい。コーティング面積がより大きいと、高放射率コンポーネントとサンプルホルダーとの間の熱交換率を高めるのに役立ち得る。
【0025】
コーティングは、高放射率コンポーネントのコーティングされた部分にわたって均一な厚さを有してもよい。均一な厚さは1nm~1cmの間であってもよい。
【0026】
代替的に、コーティングは、高放射率コンポーネントのコーティングされた部分にわたって、コーティングの最小厚さが1nm~1cmの間であり得、コーティングの最大厚さが1nm~1cmの間であり得るよう、高放射率コンポーネントのコーティングされた部分にわたって可変の厚さを有してもよい。これは、高放射率コンポーネントの表面積のごく一部だけがサンプルホルダーとの熱交換の大部分を占める場合に有利となり得る。
【0027】
コーティングは、非磁性材料、有機材料、または無機材料を含み得る。
【0028】
高放射率コンポーネントのコーティングされていない部分は、300nm~1000μmの波長に対して熱放射率が0~90の材料を含み得る。特に、コーティングの熱放射率は、サンプルホルダーでの熱負荷を増加させるために、高放射率コンポーネントのコーティングされていない部分の熱放射率よりも大きくてもよい。
【0029】
高放射率コンポーネントは、コールドトラップを含み得る。
【0030】
第3の態様では、本発明は、第1の温度(T1)を有するように構成された第1の要素、第2の温度(T2)を有するように構成された第2の要素、および第3の温度(T3)を有するように構成された第3の要素を備える顕微鏡システムに関わり、第3の要素は、第1の要素から複数の異なる距離に位置されるように構成され、顕微鏡システムは、少なくともサンプルを撮像し、画像のドリフトを低減するように構成される。
【0031】
第1の要素は、上記のようにサンプルホルダーを含み得る。または、第1の要素は、サンプルホルダーを含み得る。
【0032】
第2の要素は、上記のように高放射率コンポーネントを含み得る。
【0033】
第3の要素は、検出器を含み得る。したがって、顕微鏡システムは、格納および展開され得る検出器(または複数の検出器)を含み得る。これにより、サンプルのより良い位置決めが可能になり得る。
【0034】
第2の温度は第1の温度と異なってもよく、第3の温度は第1の温度と異なってもよい。温度差があるため、検出器の位置が変わると、サンプルホルダーとの熱交換が変動する可能性がある。例えば、検出器がサンプルホルダーよりも低温の場合、検出器が展開されたときの方が、格納されたときよりも大きな熱流が発生する可能性がある。これにより、サンプルホルダーがドリフトし得る。しかしながら、上記のようなサンプルホルダーを採用することにより、熱的変動によるサンプルホルダーの長さの変化を低減することができる。同様に、高放射率コーティングを施したコールドトラップを採用することにより、コールドトラップとの熱交換を十分に大きくし得、検出器の距離の変化によって生じる変動を小さくすることができる。
【0035】
第1の要素と第2の要素との間の熱流は、少なくとも部分的に、放射性であり得る。
【0036】
第1の要素と第3の要素との間の熱流は、少なくとも部分的に、放射性であり得る。
【0037】
第1の要素からの第3の要素の距離の変動の結果は、第1の要素からの放射熱流の変動である可能性がある。上記のように、例えば、コールド検出器(サンプルホルダーと比較して)は、サンプルホルダーの近くに位置決めされた場合、遠くに位置決めされた場合よりも高い放射熱流をもたらし得る。
【0038】
第1の要素からの第3の要素の距離の変動の結果は、第1の要素と第2の要素との間の放射熱流の変動である可能性がある。例えば、コールド検出器は、サンプルホルダーの近くで展開されたときに、サンプルホルダーからコールドトラップを部分的に遮蔽し得る。したがって、サンプルホルダーとコールドトラップとの間の放射熱流が変化する可能性がある。
【0039】
顕微鏡システムは、第3の要素までの距離が変化するにつれて第1の要素からの放射熱流の変動を低減することによって、画像のドリフトを低減するように構成され得る。
【0040】
第1の要素からの放射熱流の変動の低減は、1%~100%の間であり得る。
【0041】
顕微鏡システムは、第1の要素、第2の要素、および第3の要素を収容するように構成された真空チャンバーを備え得る。真空チャンバーは、熱流が、例えば、対流の代わりに放射によって支配されることを可能にし得る。
【0042】
真空チャンバー内の圧力は10-5Pa未満であり得る。
【0043】
真空チャンバーの温度は、第1の要素の温度(T1)と著しく同一であり得る。
【0044】
第1の温度と第2の温度との間の差は、20℃~1000℃の間、好ましくは50℃~300℃の間、さらに好ましくは100℃~200℃の間であり得る。特に、第2の要素は、第1の要素よりも高温でもよく、その結果、熱流の方向は、第2の要素から第1の要素となる。
【0045】
第1の温度と第3の温度との間の差は、20℃~1000℃の間、好ましくは50℃~300℃の間、さらに好ましくは100℃~200℃の間であり得る。特に、第3の要素は、第1の要素よりも高温でもよく、熱流の方向は、第3の要素から第1の要素となり得る。
【0046】
第1の温度は、0℃~100℃の間、好ましくは15℃~50℃の間、さらに好ましくは25℃~35℃の間であってもよい。
【0047】
第2の温度は、-273℃~0℃の間、好ましくは-269℃~-123℃の間、さらに好ましくは-253℃~-153℃の間であり得る。
【0048】
第3の温度は、-273℃~0℃、好ましくは-100℃~0℃、さらに好ましくは-75℃~-35℃であり得る。
【0049】
顕微鏡システムは、荷電粒子のビームをサンプルに向けるように構成されてもよい。
【0050】
荷電粒子は、電子またはイオンを含み得る。イオンは、中でも、Ga+、Ar+、Ne+、Xe+などの任意の正帯電イオンを含み得る。
【0051】
顕微鏡システムは、1V~1000kVの間の電圧を印加することによって荷電粒子を加速させるようにさらに構成されてもよい。
【0052】
画像ドリフトの低減は1%~100%の間であってもよい。この低減は、上記のようにサンプルホルダーおよび/または高放射率コンポーネントを採用する前のドリフトに関連している場合がある。
【0053】
第4の態様では、本発明は、第1の温度(T1)を有するように構成された第1の要素、
第2の温度(T2)を有するように構成された第2の要素、および第3の温度(T3)を有するように構成された第3の要素、を備える顕微鏡システムの画像ドリフトを低減するための方法に関し、第3の要素は第1の要素から複数の異なる距離に位置されるように構成され、方法は、サンプルを撮像し、画像のドリフトを低減することを含む。
【0054】
第1の要素は、上記のようなサンプルホルダーを含み得る。
【0055】
この方法は、サンプルホルダーの熱ドリフトを低減することによって画像のドリフトを低減することを含み得る。
【0056】
第2の要素は、上記のように高放射率コンポーネントを含み得る。
【0057】
第3の要素は、サンプルを撮像するように構成された検出器を含み得る。
【0058】
顕微鏡システムは、第1の要素、第2の要素、および第3の要素を収容するように構成された真空チャンバーをさらに備え得る。
【0059】
第2の温度は第1の温度と異なってもよく、第3の温度は第1の温度と異なってもよい。
【0060】
第1の要素と第2の要素との間の熱流は、少なくとも部分的に、放射性であり得る。
【0061】
第1の要素と第3の要素との間の熱流は、少なくとも部分的に、放射性であり得る。
【0062】
第1の要素からの第3の要素の距離の変動の結果は、第1の要素からの放射熱流の変動であり得、方法は、第3の要素までの距離が変化するにつれて第1の要素からの放射熱流の変動を低減することによって、画像のドリフトを低減することを含んでもよい。
【0063】
第1の要素からの第3の要素の距離の変動の結果は、第1の要素と第2の要素との間の放射熱流の変動であり得、方法は、第3の要素までの距離が変化するにつれて第1の要素からの放射熱流の変動を低減することによって、画像のドリフトを低減することを含んでもよい。
【0064】
以下では、サンプルホルダーの実施形態について考察する。これらの実施形態は、文字「H」とそれに続く数字によって略される。本明細書でサンプルホルダーの実施形態に言及するときはいつでも、これらの実施形態を意味する。
【0065】
H1.顕微鏡に挿入されたときのサンプルホルダーのドリフトを低減するための低熱伝導率の材料を有する顕微鏡システム用のサンプルホルダー。
H2.サンプルホルダーが、顕微鏡においてサンプルの少なくとも一部を撮像することを可能にするように、サンプルを保持するように構成される、先行する実施形態によるサンプルホルダー。
H3.サンプルホルダーが、細長いロッドおよびサンプルを保持するための先端を含み、中間部分がロッドと先端との間に設けられ、中間部分が熱伝導率の低い材料を有する、先行する実施形態のいずれかによるサンプルホルダー。
H4.中間部分の長さが、ロッドの長さの0.01倍~20倍の間である、先行する実施形態によるサンプルホルダー。
H5.熱伝導率が、0.1W/m/K~100W/m/Kの間である、先行する実施形態のいずれかによるサンプルホルダー。
H6.サンプルホルダーが、超低膨張(ULE)材料を含み、ULE材料の熱膨張係数が10-9/℃~100/℃の間である、先行する実施形態のいずれかによるサンプルホルダー。
H7.中間部分が、ULE材料を有する、実施形態H3の特徴を備えた、先行する実施形態によるサンプルホルダー。
H8.中間部分が、鋳造処理によって製造される、実施形態H3の特徴を備えた、先行する実施形態のいずれかによるサンプルホルダー。
H9.中間部分が、射出成形処理によって製造される、実施形態H3の特徴を備えた、先行する実施形態のいずれかによるサンプルホルダー。
H10.中間部分が、追加の製造処理によって製造される、実施形態H3の特徴を備えた、先行する実施形態のいずれかによるサンプルホルダー。
【0066】
以下では、高放射率コンポーネントの実施形態について考察する。これらの実施形態は、文字「T」とそれに続く数字によって略される。本明細書で高放射率コンポーネントに言及するときはいつでも、これらの実施形態を意味する。
【0067】
T1.サンプルホルダーを含む顕微鏡システム用の高放射率コンポーネントであって、少なくとも部分的に、サンプルホルダーと高放射率コンポーネントとの間の熱負荷を増加させるための高熱放射率を有するコーティングを含む、高放射率コンポーネント。
T2.コーティングが、動作電磁波長が300nm~1000μmの間の材料を有する、先行する実施形態による高放射率コンポーネント。
T3.コーティングが、熱放射率が0.5~1の間の材料を有する、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T4.コーティングが、動作温度が-273℃~0℃の間の材料を有する、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T5.コーティングが、面密度が0.1mg/cm2~10mg/cm2の間の材料を有する、先行する4つの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T6.高放射率コンポーネントが、少なくとも5%から最大で100%の範囲の表面積でコーティングされる、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T7.コーティングが、高放射率コンポーネントのコーティングされた部分にわたって均一な厚さを有する、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T8.均一な厚さが1nm~1cmの間である、先行する実施形態による高放射率コンポーネント。
T9.コーティングが、高放射率コンポーネントのコーティングされた部分にわたって可変の厚さを有する、先行する2つの実施形態のいずれの特徴も有さない、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T10.高放射率コンポーネントのコーティングされた部分にわたって、コーティングの最小厚さが1nm~1cmの間であり、コーティングの最大厚さが1nm~1cmの間である、先行する実施形態による高放射率コンポーネント。
T11.コーティングが非磁性材料を有する、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T12.コーティングが有機材料を有する、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T13.コーティングが無機材料を有する、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T14.高放射率コンポーネントのコーティングされていない部分が、300nm~1000μmの波長に対して熱放射率が0から90の材料を有する、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
T15.高放射率コンポーネントがコールドトラップを含む、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネント。
【0068】
以下では、システムの実施形態について考察する。これらの実施形態は、文字「S」とそれに続く数字によって略される。本明細書でシステムの実施形態に言及するときはいつでも、これらの実施形態を意味する。
【0069】
S1.顕微鏡システムであって、
第1の温度(T1)を有するように構成された第1の要素、
第2の温度(T2)を有するように構成された第2の要素、および
第3の温度(T3)を有するように構成された第3の要素を備え、第3の要素は、第1の要素から複数の異なる距離に位置されるように構成され、
顕微鏡システムは、
少なくともサンプルを撮像し、画像のドリフトを低減するように構成される、顕微鏡システム。
S2.第1の要素が、サンプルホルダーを含む、先行する実施形態による顕微鏡システム。
S3.第1の要素が、前述のサンプルホルダーの実施形態のいずれかによるサンプルホルダーを含む、先行する2つの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S4.第2の要素が、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネントを含む、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S5.第3の要素が検出器を含む、先行する実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S6.第2の温度が第1の温度とは異なり、第3の温度が第1の温度とは異なる、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S7.第1の要素と第2の要素との間の熱流が、少なくとも部分的に放射性である、先行する実施形態による顕微鏡システム。
S8.第1の要素と第3の要素との間の熱流が、少なくとも部分的に放射性である、先行する2つの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S9.第1の要素からの第3の要素の距離の変動の結果が、第1の要素からの放射熱流の変動である、先行する実施形態による顕微鏡システム。
S10.第1の要素からの第3の要素の距離の変動の結果が、第1の要素と第2の要素との間の放射熱流の変動である、実施形態S7の特徴を備えた、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S11.顕微鏡システムが、第3の要素までの距離が変化するにつれて第1の要素からの放射熱流の変動を低減することによって、画像のドリフトを低減するように構成される、先行する2つの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S12.第1の要素からの放射熱流の変動の減少が、1%~100%の間である、先行する実施形態による顕微鏡システム。
S13.顕微鏡システムが、第1の要素、第2の要素、および第3の要素を収容するように構成された真空チャンバーを含む、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S14.真空チャンバー内の圧力が10-5Pa未満である、先行する実施形態による顕微鏡システム。
S15.真空チャンバーの温度が第1の要素の温度(T1)と著しく同一である、先行する2つの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S16.第1の温度と第2の温度との間の差が、20℃~1000℃の間、好ましくは50℃~300℃の間、さらに好ましくは100℃~200℃の間である、実施形態S6の特徴を備えた、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S17.第1の温度と第3の温度との間の差が、20℃~1000℃の間、好ましくは50℃~300℃の間、さらに好ましくは100℃~200℃の間である、実施形態S6の特徴を備えた、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S18.第1の温度が0℃~100℃の間、好ましくは15℃~50℃の間、さらに好ましくは25℃~35℃の間である、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S19.第2の温度が-273℃~0℃の間、好ましくは-269℃~-123℃の間、さらに好ましくは-253℃~-153℃の間である、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S20.第3の温度が-273℃~0℃、好ましくは-100℃~0℃、さらに好ましくは-75℃~-35℃である、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S21.顕微鏡システムが、荷電粒子のビームをサンプルに向けるように構成される、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S22.荷電粒子が電子を含む、先行する実施形態による顕微鏡システム。
S23.荷電粒子がイオンを含む、最後から2番目の実施形態による顕微鏡システム。
S24.顕微鏡システムが、1V~1000kVの間の電圧を印加することによって荷電粒子を加速させるようにさらに構成される、実施形態S21の特徴を備えた、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
S25.画像ドリフトの減少が1%~100%の間である、先行するシステムの実施形態のいずれかによる顕微鏡システム。
【0070】
以下では、方法の実施形態について考察する。これらの実施形態は、文字「M」とそれに続く数字によって略される。本明細書で方法の実施形態に言及するときはいつでも、これらの実施形態を意味する。
【0071】
M1.
第1の温度(T1)を有するように構成された第1の要素、
第2の温度(T2)を有するように構成された第2の要素、および
第3の温度(T3)を有するように構成された第3の要素を備え、第3の要素は、第1の要素から複数の異なる距離に位置されるように構成される、顕微鏡システムの画像ドリフトを低減するための方法であって、
サンプルを撮像し、画像のドリフトを低減することを含む、方法。
M2.第1の要素がサンプルホルダーを含む、先行する実施形態による方法。
M3.第1の要素が、先行するサンプルホルダーの実施形態のいずれかによるサンプルホルダーを含む、先行する実施形態による方法。
M4.サンプルホルダーの熱ドリフトを低減することによって、画像のドリフトを低減することを含む、先行する実施形態による方法。
M5.第2の要素が、前述の高放射率コンポーネントの実施形態のいずれかによる高放射率コンポーネントを含む、先行する方法の実施形態のいずれかによる方法。
M6.第3の要素が検出器を含む、先行する方法の実施形態のいずれかによる方法。
M7.顕微鏡システムが、第1の要素、第2の要素、および第3の要素を収容するように構成された真空チャンバーをさらに備える、先行する方法の実施形態のいずれかによる方法。
M8.第2の温度が第1の温度とは異なり、第3の温度が第1の温度とは異なる、先行する方法の実施形態のいずれかによる方法。
M9.第1の要素と第2の要素との間の熱流が、少なくとも部分的に放射性である、先行する実施形態による方法。
M10.第1の要素と第3の要素との間の熱流が、少なくとも部分的に放射性である、実施形態M8の特徴を備えた、先行する実施形態のいずれかによる方法。
M11.第1の要素からの第3の要素の距離の変動の結果が、第1の要素からの放射熱流の変動であり、方法が、第3の要素までの距離が変化するにつれて第1の要素からの放射熱流の変動を低減することによって画像のドリフトを低減することを含む、先行する実施形態による方法。
M12.第1の要素からの第3の要素の距離の変動の結果が、第1の要素と第2の要素との間の放射熱流の変動であり、方法が、第3の要素までの距離が変化するにつれて第1の要素からの放射熱流の変動を低減することによって画像のドリフトを低減することを含む、実施形態M9の特徴を備えた、先行する実施形態のいずれかによる方法。
【図面の簡単な説明】
【0072】
ここで、本技術の実施形態を、添付の図面を参照して考察する。
【
図1】顕微鏡システムの真空チャンバーを示している。
【
図2】検出器が展開された真空チャンバーを示している。
【
図3】顕微鏡システム用のサンプルホルダーを示している。
【
図4】高放射率コーティングを施した顕微鏡システム用のコールドトラップを示している。
【
図5】真空チャンバー内で展開されたコールドトラップを示している。
【発明を実施するための形態】
【0073】
図1は、顕微鏡システムの真空チャンバー10を斜視図で示している。真空チャンバー10は、先端110上にサンプル(図示せず)を保持するように構成されたサンプルホルダー100を収容することができる。サンプルホルダー100は、真空チャンバー10に挿入および/または真空チャンバー10から引込められるように構成され得る。真空チャンバー10はまた、この例では、サンプルまたは真空ポンプを汚染する可能性のあるすべての蒸気を液化するように構成されたコールドトラップである、高放射率コンポーネント200を収容することができる。典型的な顕微鏡システムでは、真空チャンバー10は、サンプルを照らすことができる粒子のビームを向けるおよび/または合焦するための光学系を含む真空カラムに接続されてもよい。光学系は、粒子のビームを含む粒子の性質に応じて、電磁レンズ、静電レンズ、磁気レンズ、または光学レンズのいずれかを含むことができる。例えば、電子顕微鏡システムでは、光学系は電磁レンズを含み得る。粒子はまた、正帯電イオン、または中性光子を含み得る。
【0074】
真空チャンバー10内の圧力は、10-5バール未満であり得る。サンプルホルダー100は、0℃~100℃、好ましくは15℃~50℃の間、さらに好ましくは25℃~35℃の間の温度であり得る。これは、真空チャンバー10内の温度と著しく同一であり得る。他方、コールドトラップ200は、-273℃~0℃の間、好ましくは-269℃~-123℃の間、さらに好ましくは-253℃~-153℃の間の温度であり得る。代替的に、コールドトラップ200は、サンプルホルダー100よりも高い温度を有し得る。したがって、サンプルホルダー100とコールドトラップ200との間に温度差があり、それらの間で熱交換をもたらす可能性がある。熱交換は、真空チャンバー10内が低圧のため、かつ両者が互いに接触していない可能性があるため、放射によって支配され得る。
【0075】
図2は、真空チャンバー10を示しているが、少なくとも1つの検出器400も真空チャンバー10に挿入されている。検出器400はまた、複数の検出器を含み得る。検出器400は、CCDカメラ、CMOSカメラ、直接電子検出器、セグメント化シリコンドリフト検出器、エバーハートソーンリー検出器、荷電粒子増倍器、または顕微鏡システムで使用される他の任意の検出器のいずれかを含み得る。
【0076】
検出器400の少なくとも1つは、サンプルホルダー100から複数の異なる距離、例えば、少なくとも2つの異なる距離に位置されるように構成されてもよい。これは、粒子のビームに対するサンプルの位置決めを構成する際に有利となり得る。この場合、検出器400は、膨張および格納のための手段を備えていてもよい。
【0077】
検出器400は、-273℃~0℃の間、好ましくは-100℃~0℃の間、さらに好ましくは-75℃~-35℃の間の温度を有し得る。代替的に、検出器400は、サンプルホルダー100よりも高い温度を有し得る。温度が低いと、熱雑音が減少するため、暗電流が減少し、信号対雑音比が向上する可能性がある。より具体的には、検出器400の温度は、サンプルホルダー100、特にサンプルホルダー100の先端部110の温度とは異なってもよい。したがって、熱流は、サンプルホルダー100と検出器400との間で発生し得る。真空チャンバー10の低圧、および検出器400とサンプルホルダー100との間の接触の欠如により、熱流は放射によって支配され得る。
【0078】
上記のように、検出器400は、サンプルホルダー100から異なる距離に位置されるように構成され得る。その結果、検出器400とサンプルホルダー100との間の熱流交換の速度は変化し得る。検出器400がサンプルホルダー100に近い場合、熱交換の速度は、例えば、検出器400が遠い場合よりも大きくなり得る。同様に、サンプルホルダー100からの検出器400の距離の変動により、コールドトラップ200とサンプルホルダー100との間の熱交換の速度もまた、検出器400が、例えば、サンプルホルダー100に近い場合に、検出器400が少なくとも部分的にコールドトラップ200を熱的に遮蔽し得るため、変動し得る。したがって、サンプルホルダー100からの検出器400の距離の変動に起因して、サンプルホルダー100からの熱流の速度の変動が起こり得る。
【0079】
本発明の一態様は、検出器400の距離の変動に起因するサンプルホルダー100からの熱流の速度の変動を低減することである。これは、サンプルホルダー100の熱ドリフトを低減し、その結果、画像のドリフトを低減するのに有利になり得る。
【0080】
サンプルホルダー100からの熱流の速度の変動は、例えばヒーターを使用することによって、または検出器400、サンプルホルダー100、またはコールドトラップ200のいずれかの幾何学形状を変えることによって、温度を制御することで低減されてもよい。幾何学形状を変えることは、形状を変える、表面積を変える、または物体の任意の寸法を変えることを含んでもよい。上記の3つの要素の相対位置を変えることにより、変動を低減することもできる。本技術の実施形態は、3つの物体のいずれか、好ましくはコールドトラップ200の熱放射率を変更することによって、およびサンプルホルダー100での温度変動を低減することによって、変動を低減することを目的とする。これらについては、残りの図面を参照して説明する。
【0081】
図3は、異なるセクションを備えた典型的なサンプルホルダー100を示している。サンプルホルダー100は、サンプルを保持するように構成された先端部110を備えてもよい。先端部110は、動作中、真空チャンバー10の内部に位置されてもよい。先端部110はまた、サンプルの傾斜を可能にするように構成された傾斜機構を備えてもよい。サンプルホルダー100の残りの部分は、先端部110を保持し、傾斜機構を制御することを可能にするように構成されたコンポーネントを備え得る。より具体的には、コンポーネント120および130を含むロッド部を含み得る。コンポーネント130は、先端部110とは異なる温度を有してもよい。これは、先端部110とコンポーネント130との間の熱交換につながる可能性があり、それは、先端部110の熱ドリフトにつながり得る。
【0082】
先端部110とコンポーネント130との間の熱流を低減するために、動作中に真空チャンバー10内にあるように構成され得るロッド部のコンポーネント120は、低熱伝導率の材料で作成され得る。熱伝導率は、例えば、0.1W/m/K~100W/m/Kの間であり得る。さらに、コンポーネント120は、先端部110の熱ドリフトをさらに低減することができる低い熱膨張係数を有する材料を含んでもよい。熱膨張係数は10-9/℃~100/℃の間であってもよい。
【0083】
サンプルホルダー100は、先端部110の傾斜機構を制御するように構成されたモーター140をさらに備え得る。
【0084】
図4は、コールドトラップ200を斜視図で示している。コールドトラップ200は、外側ケーシング210、およびこの特定の実施形態では、内側コーティング220を含み得る。コーティング220は、コールドトラップ200とサンプルホルダー100との間の熱流量を増加させるように、高熱放射率の材料を有し得る。熱流量が増加する結果として、サンプルホルダー100の近くで展開されたときの、検出器400によるコールドトラップ200の遮蔽の効果が減少する。したがって、サンプルホルダー100からの熱流量の変動を低減することができる。
【0085】
コーティング220は、コールドトラップ200の内表面積の5%~100%を覆うことができる。それは、0.5~1の間の熱放射率を有し得る。それは、適用される表面積全体にわたって均一な厚さを有し得、均一な厚さは、1nm~1cmの間であり得る。代替的に、コーティングが均一でなくてもよく、厚さが1nm~1cmの最小値から1nm~1cmの最大値で変化してもよい。コーティング220は、-273℃~0℃の間の動作温度を有し得、300nm~1000μmの間の動作波長を有し得る。0.1mg/cm2~10mg/cm2の面密度を有してもよい。
【0086】
上記の実施形態のいずれかを使用することにより、すなわち。コールドトラップ200をコーティングするか、またはサンプルホルダー100に断熱層を導入することにより、画像ドリフトは、上記の実施形態のいずれもなしに、画像ドリフトの1%~100%に低減され得る。
【0087】
図5は、真空チャンバー10に設置され得るコーティング220を有するコールドトラップ200を示している。コーティングにより、上記のように、サンプルホルダー100からの熱流量を増加させることができ、サンプルホルダー100と検出器400との間の距離の変化から生じる変動を低減することができる。したがって、サンプルホルダー100の熱ドリフトが低減され得、画像ドリフトが低減され得る。
【0088】
したがって、全体として、本技術の実施形態は、顕微鏡システムの画像ドリフトを低減し、撮像処理の効率の改善をもたらすことを可能にする。
【0089】
「約(about)」、「実質的に(substantially)」または「およそ(approximately)」などの相対的用語が本明細書で使用されるときはいつでも、そのような用語が、正確な用語も含むと解釈されるべきである。すなわち、例えば、「実質的にまっすぐ(substantially straight)」は、「(正確に)まっすぐ」も含むと解釈されるべきである。
【0090】
ステップが上記または添付の特許請求の範囲に列挙されるときはいつでも、本文でステップが列挙される順序は偶発的であり得ることに留意されたい。すなわち、別段の指定がない限り、または当業者に明らかでない限り、ステップが列挙される順序は、偶発的なものであり得る。すなわち、本明細書が、例えば、方法がステップ(A)および(B)を含むと記載している場合、これは、ステップ(A)がステップ(B)に先行することを必ずしも意味するものではなく、ステップ(A)がステップ(B)と(少なくとも部分的に)同時に実施されるかまたはステップ(B)がステップ(A)に先行することも可能である。さらに、ステップ(X)が別のステップ(Z)に先行すると記載されている場合、これは、ステップ(X)とステップ(Z)の間にステップがないことを意味するものではない。すなわち、ステップ(Z)に先行するステップ(X)は、ステップ(Z)の直前にステップ(X)が実施される状況を包含するが、ステップ(Z)が続く1つ以上のステップ(Y1)、・・・、の前にステップ(X)が実施される状況も包含する。対応する考慮事項は、「後」または「前」などの用語が使用される場合に適用される。
【0091】
上記において、好ましい実施形態が、添付の図面を参照して説明されたが、当業者は、この実施形態が例示目的のためのみとして提供されたものであり、特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を限定するものと決して解釈されるべきではないことを理解するであろう。
【外国語明細書】