(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008930
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20230111BHJP
G03H 1/22 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G02B27/01
G03H1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104901
(22)【出願日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2021107810
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小田 好洸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
(72)【発明者】
【氏名】森口 嘉軌
(72)【発明者】
【氏名】三谷 永久
【テーマコード(参考)】
2H199
2K008
【Fターム(参考)】
2H199DA11
2H199DA12
2H199DA13
2H199DA17
2H199DA26
2H199DA32
2H199DA43
2K008AA14
2K008CC03
2K008FF17
2K008FF27
2K008HH01
2K008HH18
2K008HH26
(57)【要約】
【課題】小型化が可能となり、同時に距離感の異なる複数の虚像を鮮明に見ることができるヘッドアップディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】ヘッドアップディスプレイ装置10は、複数の所定像の各々が異なる所定位置に投影されるように作成されたホログラムに平行光が照射され、前記ホログラムの干渉情報に基づく回折光が射出されるホログラフィックプロジェクタ部10aと、傾斜して設けられ、前記回折光が照射・透過する第2ハーフミラー30と、第2ハーフミラー30の一面側から見たとき、第2ハーフミラー30を透過した前記回折光に照射されて前記所定像の各々に対応する投影像が投影されるように、第2ハーフミラー30の一面側から所定距離離れた位置に配置された再帰性反射シート32a、32bとから構成され、再帰性反射シート32a、32bの各々に投影された前記投影像は第2ハーフミラー30の他面側に距離感の異なる虚像として見える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の所定像の各々が異なる所定位置に投影されるように作成されたホログラムに平行光が照射され、前記ホログラムの干渉情報に基づいて回折された回折光が射出されるホログラフィックプロジェクタ部と、
傾斜して設置され、前記回折光が照射されて透過するハーフミラーと、
前記ハーフミラーの一面側から所定距離離れた位置であって、前記ハーフミラーを透過した前記回折光が照射されて前記所定像の各々に対応する投影像が投影される前記所定位置に配置された、一枚の再帰性反射素子又は互いに重なる部分なく配置された複数枚の再帰性反射素子とから構成され、
前記再帰性反射素子は、その再帰性反射光射出面から射出された前記投影像の再帰性反射光が前記ハーフミラーで反射し、前記ハーフミラーの他面側に虚像として見えるように、前記再帰性反射光射出面が前記ハーフミラーの一面側に向いて設置され、
前記一枚の再帰性反射素子又は前記複数枚の再帰性反射素子のうち少なくとも一枚の再帰性反射素子は、対応する前記所定像の投影位置に移動可能に設けられ、
或いは前記複数枚の再帰性反射素子の全部又は移動可能に設けられた前記再帰性反射素子を除く残余の再帰性反射素子の各々は、対応する前記所定像の投影位置に配置されていることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記ハーフミラーの一面側から見たとき、前記複数の所定像に対応する虚像の全てが同時に見えるように、前記所定像の各々に対応する前記投影位置に前記再帰性反射素子の各々が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記虚像の各々が、前記ハーフミラーの他面側から異なる距離に見えるように、前記虚像の各々に対応する前記再帰性反射素子の前記ハーフミラーの一面側からの距離が調整されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記ホログラムが、計算機合成ホログラムであって、前記平行光を前記計算機合成ホログラムの干渉情報に基づいて回折光に変調する空間光変調器が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記計算機合成ホログラムが、振幅ホログラムであって、前記振幅ホログラムが下記数式(1)
【数1】
に基づいて計算されていることを特徴とする請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記計算機合成ホログラムが位相ホログラムであって、前記位相ホログラムが下記数式(2)
【数2】
に基づいて計算されていることを特徴とする請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記平行光がレーザ光であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドアップディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
操作者が操作をしつつ視線を殆ど変えることなく操作に必要な情報を知ることのできるヘッドアップディスプレイ装置が種々の装置に用いられている。例えば、下記特許文献1には、車両用表示装置として、二台の表示デバイスの各々に表示される表示パターンがフロントガラス越しの異なる位置に虚像として見ることができるように、フロントガラスから所定距離離れた箇所に設置されたハーフミラーの両面側の各々に、ハーフミラー面との距離が異なる位置に表示デバイスが設置されているものが記載されている。また、下記特許文献2には、パチンコ機等の遊技機に用いられ、所定の遊技条件により本体枠の前方空間に仮想表示像が結像するように、画像表示部と、この画像表示部から投影される画像を遊技機の後方側に向けて反射するハーフミラーと、このハーフミラーで反射した反射画像をハーフミラーに向けて再帰反射させる再帰性反射部材とが設けられたものが記載されている。更に、特許文献2には、ハーフミラー又は再帰性反射部材の画像表示部に対する相対距離を調整する距離調整機構を設けることにより、仮想表示画像の大きさ、位置等を変化させることができる旨も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63-164038号公報
【特許文献2】特開2020-18486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1、2に記載されたヘッドアップディスプレイ装置によれば、運転者や遊技者は運転や遊技をしつつ運転に必要な情報や所定の遊技条件に達したことを、視線を殆ど変えることなく知ることができる。
しかしながら、特許文献1の装置によれば、表示する情報ごとに表示デバイスを設けなければならず、装置が大型化する。しかも、数多くの情報を表示しようとする場合、多数の表示デバイスが必要となって実用化が困難となる。また、特許文献2の装置によれば、ハーフミラー又は再帰性反射部材の画像表示部に対する相対距離を調整する際、画像表示部の調整をしないと、仮想表示画像が不鮮明となるおそれがある。
【0005】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、簡単な構造で且つ複数の情報を表示できる画像表示手段を用い、単数又は複数の情報についての明瞭な虚像を見ることのできるヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置は、複数の所定像の各々が異なる所定位置に投影されるように作成されたホログラムに平行光が照射され、前記ホログラムの干渉情報に基づいて回折された回折光が射出されるホログラフィックプロジェクタ部と、傾斜して設置され、前記回折光が照射されて透過するハーフミラーと、前記ハーフミラーの一面側から所定距離離れた位置であって、前記ハーフミラーを透過した前記回折光が照射されて前記所定像の各々に対応する投影像が投影される前記所定位置に配置された、一枚の再帰性反射素子又は互いに重なる部分なく配置された複数枚の再帰性反射素子とから構成され、前記再帰性反射素子は、その再帰性反射光射出面から射出された前記投影像の再帰性反射光が前記ハーフミラーで反射し、前記ハーフミラーの他面側に虚像として見えるように、前記再帰性反射光射出面が前記ハーフミラーの一面側に向いて設置され、前記一枚の再帰性反射素子又は前記複数枚の再帰性反射素子のうち少なくとも一枚の再帰性反射素子は、対応する前記所定像の投影位置に移動可能に設けられ、或いは前記複数枚の再帰性反射素子の全部又は移動可能に設けられた前記再帰性反射素子を除く残余の再帰性反射素子の各々は、対応する前記所定像の投影位置に配置されていることを特徴とするものである。
【0007】
前記ハーフミラーの一面側から見たとき、前記複数の所定像に対応する虚像の全てが同時に見えるように、前記所定像の各々に対応する前記投影位置に前記再帰性反射素子の各々が配置されていることにより、同時に複数の所定像についての明瞭な虚像を見ることができる。
【0008】
前記虚像の各々が、前記ハーフミラーの他面側から異なる距離に見えるように、前記虚像の各々に対応する前記再帰性反射素子の前記ハーフミラーの一面側からの距離が調整されていることにより、同時に複数の所定像についての明瞭な虚像が異なる位置に見ることができる。
【0009】
前記ホログラムが、計算機合成ホログラムであって、前記平行光を前記計算機合成ホログラムの干渉情報に基づいて回折光に変調する空間光変調器が設けられていることにより、所望のホログラムを簡単に作成できる。
【0010】
前記計算機合成ホログラムが、振幅ホログラムであって、前記振幅ホログラムが下記数式(1)
【数1】
に基づいて計算されていることにより、振幅ホログラムの計算速度を高めることができる。
【0011】
前記計算機合成ホログラムが位相ホログラムであって、前記位相ホログラムが下記数式(2)
【数2】
に基づいて計算されていることにより、位相ホログラムの計算速度を高めることができる。
【0012】
前記平行光がレーザ光であることにより、明るい虚像ができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置は、表示装置として複数の投影像を同時に各所定位置に投影できるホログラフィックプロジェクタ部を用いていることにより、装置の小型化が可能となり、同時に距離感の異なる複数の虚像を鮮明に見ることができる。また、移動可能に設けた再帰性反射素子を予定された投影像が投影される位置に移動することにより、異なる虚像或いは遠近感が異なる虚像を鮮明に見ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用するヘッドアップディスプレイ装置を説明する略線図である。
【
図2】本発明を適用するヘッドアップディスプレイ装置で用いる再帰性反射シートの設置状態を説明する斜視図である。
【
図3】本発明を適用するヘッドアップディスプレイ装置を構成する第2ハーフミラーの他面側に遮光物を置いた場合の虚像の見え方を説明する略線図である。
【
図4】本発明を適用する他のヘッドアップディスプレイ装置を説明する略線図である。
【
図5】本発明を適用する他のヘッドアップディスプレイ装置を説明する略線図である。
【
図6】本発明を適用する他のヘッドアップディスプレイ装置を説明する略線図である。
【
図7】本発明を適用する他のヘッドアップディスプレイ装置に用いる再帰性反射シートの設置状態を説明する斜視図である。
【
図8】計算機合成ホログラムの作成の原理を説明するための概念図である。
【
図9】振幅ホログラムを計算するCGH計算部の構成を説明する略線図である。
【
図10】振幅ホログラムを計算する疑似コードである。
【
図11】振幅ホログラムを計算するフローチャートである。
【
図12】位相ホログラムを計算するCGH計算部の構成を説明する略線図である。
【
図13】位相ホログラムを計算する疑似コードである。
【
図14】位相ホログラムを計算するフローチャートである。
【
図15】
図15(a)は振幅ホログラムを計算する他の疑似コードであり、
図15(b)は位相ホログラムを計算する他の疑似コードである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0016】
本発明を適用するヘッドアップディスプレイ装置を
図1(a)に示す。
図1(a)に示すヘッドアップディスプレイ装置10はホログラフィックプロジェクタ部10aと投影部10bとから構成される。ホログラフィックプロジェクタ部10aは、タブレット型端末装置11が接続されたパーソナルコンピュータ(PC)12、反射型の空間光変調器(SLM)14、第1ハーフミラー22及び平行光射出部15から構成される。平行光射出部15は、レーザ光射出部16、対物レンズ18及び平凸レンズ20から成る。ホログラフィックプロジェクタ部10aは、タブレット型端末装置11から入力された文字や図形等の所定像の計算機合成ホログラム(CGH)がPC12のCGH計算部17で計算されてSLM14に表示される。SLM14に表示される干渉縞は、所定像が所定位置に結像されるように作成された干渉情報である。このような干渉縞が表示されているSLM14の表示面に平行光が照射される。この平行光は、平行光射出部15のレーザ光射出部16から射出されたレーザ光が対物レンズ18で一旦集光した後に広がり、平凸レンズ20で平行光となり、第1ハーフミラー22によりSLM14の表示面の方向に反射された光である。SLM14の表示面に照射された平行光は、表示面に表示されているホログラムの干渉情報に基づいて回折された回折光となって、SLM14の表示面から射出し、第1ハーフミラー22を透過して投影部10bに射出される。
【0017】
投影部10bは、傾斜角45°に傾斜して配置されている鏡24及び第2ハーフミラー30と、第2ハーフミラー30の一面側(傾斜面側)に配置された再帰性反射素子としての再帰性反射シート32a,32bとから構成される。再帰性反射シート32aは第2ハーフミラー30の傾斜面の下端側に配置され、再帰性反射シート32bは第2ハーフミラー30の傾斜面の上端側に配置されている。互いに重なる部分なく配置されている再帰性反射シート32a,32bは、いずれの再帰性反射光射出面も第2ハーフミラー30の一面側を向いており、PC12のCGH計算部17でCGHが計算された所定像の投影面でもある。この再帰性反射シート32a,32bは、
図1(b)に示すように反射シート33aの一面側に形成された透明樹脂層33c中に多数のガラスビーズ33bが配置されているものであり、
図1(b)に示すように再帰性反射光射出面からは入射光の入射経路に沿って入射光と逆方向に再帰性反射光が射出する。尚、
図1(b)に示す再帰性反射シート32は、多数のガラスビーズ33bを用いたものであったが、多数のプリズムを用いた再帰性反射シートであってもよい。
【0018】
このような投影部10bにホログラフィックプロジェクタ部10aから入射した回折光は、鏡24で反射し第2ハーフミラー30を透過して再帰性反射シート32a,32bの再帰性反射光射出面を照射する。回折光が照射された再帰性反射シート32aの再帰性反射光射出面には、投影像aが投影される。投影像aが投影された再帰性反射シート32aの再帰性反射光射出面からは、投影像aの入射光と逆方向に再帰性反射光が射出する。この再帰性反射光は、第2ハーフミラー30の一面側で反射されて人の目に入り、第2ハーフミラー30の他面側に投影像aに対応する虚像aが見える。第2ハーフミラー30の他面側から虚像aまでの奥行き(
図1(a)にFa′で示す)は、第2ハーフミラー30の一面側から再帰性反射シート32aまでの高さ(
図1(a)にFaで示す)に等しい。また、回折光が照射された再帰性反射シート32bの再帰性反射光射出面には、投影像bが投影される。投影像bが投影された再帰性反射シート32bの再帰性反射光射出面からは、投影像bの入射光と逆方向に再帰性反射光が射出する。この再帰性反射光は、第2ハーフミラー30の一面側で反射されて人の目に入り、第2ハーフミラー30の他面側に投影像bに対応する虚像bが虚像aよりも奥側に見える。第2ハーフミラー30の他面側から虚像bまでの奥行き(
図1(a)にFb′で示す)も、第2ハーフミラー30の一面側から再帰性反射シート32bまでの高さ(
図1(a)にFbで示す)に等しい。
ところで、第2ハーフミラー30の一面側から再帰性反射シート32aの投影面までの高さ(
図1(a)にFaで示す)は、第2ハーフミラー30の一面側から再帰性反射シート32bの投影面までの高さ(
図1(a)にFbで示す)よりも長いが、虚像bが虚像aよりも奥側に見えるのは、再帰性反射シート32aが第2ハーフミラー30の傾斜面の下端側に配置されていることによるものである。
【0019】
図2には、ヘッドアップディスプレイ装置10から、再帰性反射シート32aの再帰性反射光射出面である投影面(以下、単に投影面という。)に投影像aとして文字「A」を投影すると共に、再帰性反射シート32bの再帰性反射光射出面である投影面(以下、単に投影面という。)に投影像bとして文字「B」を投影した状態を示す。再帰性反射シート32aに投影された文字「A」は第2ハーフミラー30の他面側に虚像aとしての文字「A」が見え、再帰性反射シート32bの投影面に投影された文字「B」は第2ハーフミラー30の他面側に虚像bとしての文字「B」が虚像aの文字「A」よりも奥側に見える。このように、1台のホログラフィックプロジェクタ部10aにより、第2ハーフミラー30の一面側から第2ハーフミラー30の他面側に、距離感の異なる文字「A」と文字「B」との鮮明な虚像を同時に見ることができる。
【0020】
ここで、
図1(a)の再帰性反射シート32a,32bに代えて鏡を配置したところ、虚像a、bは見えなかった。鏡と再帰性反射シートとの反射の違いによるものと推察される。また、再帰性反射シート32a,32bに代えて白紙又は黒紙を配置したところ、虚像a、bは見えるものの著しく不鮮明であった。白紙又は黒紙の再帰反射する方向への反射率が再帰性反射シートよりも低いことによるものと推察される。
【0021】
図1(a)に示す虚像aと虚像bとの間に
図3に示すように遮光板31を挿入しても、遮光板31を透過して虚像bを見ることができる。また、
図4に示すように再帰性反射シート32bを、矢印Fの方向(第2ハーフミラー30の方向)に移動して位置32b′の位置にすることにより、虚像bの見える位置を矢印f(第2ハーフミラー30の方向)に移動し、虚像aよりも手前の位置b′とすることができる。但し、再帰性反射シート32bを移動する際に、
図4に示す位置32b′に投影像bが投影される計算機合成ホログラム(CGH)がPC12のCGH計算部17で計算されてSLM14に表示されていることが必要である。
【0022】
図1~
図4に示すように虚像a,bが見える位置は、再帰性反射シート32a,32bと第2ハーフミラー30との距離(光路長)に対応し、再帰性反射シートと第2ハーフミラー30との距離(光路長)が長いほど、虚像は第2ハーフミラー30よりも奥側に見える。再帰性反射シートと第2ハーフミラー30との距離(光路長)を長くとりたい場合であって、部屋の広さ等の物理的制約があるとき、
図5に示すように再帰性反射シート32aと第2ハーフミラー30との間に鏡34を設置して再帰性反射シート32aと第2ハーフミラー30との光路を曲折して光路長を長くしてもよい。
【0023】
図1~
図5に示す投影部10bでは、二枚の再帰性反射シートを配置していたが、
図6に示す投影部10bのように可動可能の一枚の再帰性反射シート32aのみであってもよい。ホログラフィックプロジェクタ部10aからは第2ハーフミラー30の一面側(傾斜面)の所定位置に投影像a,bを投影するように回折光が投射されているので、
図6に示す再帰性反射シート32aの位置では、投影像aが投影されて虚像aが第2ハーフミラー30の他面側に見える。投影像aの投影位置にある再帰性反射シート32aを、投影像bが投影される投影位置32a′に移動すると、虚像aは消滅するが、再帰性反射シート32aに投影像bが投影されて虚像bが第2ハーフミラー30の他面側に見える。虚像bは虚像aよりも奥側に見える。このように移動可能に設けた再帰性反射シート32aを投影像bが投影される位置に移動することにより、虚像aと遠近感が異なる虚像bを見ることができる。
【0024】
図1~6の投影部10bでは、
図2に示すように再帰性反射シート32a,32bを第2ハーフミラー30の下端側と上端側とに直列状に配置していたが、虚像a,bの位置は第2ハーフミラー30の傾斜にも影響される。このような第2ハーフミラー30の傾斜による影響を避けるには、
図7(a)に示すように長方形の第2ハーフミラー30の左右方向に再帰性反射シート32a,32bを並列状に配置することが好ましい。このような再帰性反射シート32a,32bの配置とすることにより、
図7(b)に示すように第2ハーフミラー30から再帰性反射シート32a,32bまでの各々の高さ(光路長)に応じた位置に虚像a,bが見えることを予測できる。
【0025】
以上、述べてきたヘッドアップディスプレイ装置10は、タブレット型端末装置11からPC12に入力された所定像の計算機合成ホログラム(CGH)をCGH計算部17で計算してSLM14に出力している。このCGH計算部17で計算する計算機合成ホログラム(CGH)について説明する。
図8に示すN個の物体点で構成された三次元物体の計算機合成ホログラム(以下、単にCGHと称する)は、三次元物体の各物体点を点光源とし、三次元物体上のn番目の点光源Pの位置座標をP(x
n,y
n,z
n)としたとき、
図8に示すCGH上の各点(x
h,y
h,0)における光強度I
comp(x
h,y
h,0)は下記数式(3)
【数3】
で表すことができる。
【0026】
ところで、SLM14には、振幅ホログラムを表示するものと、位相ホログラムを表示するものがある。ここで、
図8に示すように三次元物体上のn番目の点光源Pの位置座標をP(x
n,y
n,z
n)とし、その明るさをA
n、1ピクセルの大きさをΔ
x×Δ
y、x,y方向にi,j番目に位置するCGHのピクセルの座標を(x
h,y
h)=(iΔ
x,jΔ
y)とすると、振幅ホログラム上の各点(x
h,y
h,0)における光強度I
amp(x
h,y
h,0)は、下記数式(4)
【数4】
で表すことができる。
【0027】
また、位相ホログラム上の各点(x
h,y
h,0)における位相I
phase(x
h,y
h,0)は、下記数式(5)
【数5】
で表すことができる。
上記数式(5)のIm{I
comp}は虚部であり、Re{I
comp}は実部であって、上記数式(4)
と同じであるから、上記数式(5)は下記数式(6)
【数6】
で表すことができる。
【0028】
上記数式(4)に基づいて振幅ホログラムを、上記数式(6)に基づいて位相ホログラムを計算でき、三次元静止画のCGHの計算用として用いることができる。
唯、三次元動画においては、上記数式(4)又は上記数式(6)を用いたCGHの計算よりも、計算速度の更なる向上が求められる。このため、CGHの計算速度を向上すべく、振幅ホログラムの光強度(I
amp(x
h,y
h,0))を表す上記数式(4)を下記数式(7)
【数7】
のように変形した。
また、位相ホログラムの位相(I
phase(x
h,y
h,0))を表す上記数式(6)を下記数式(8)
【数8】
のように変形した。
【0029】
図1に示すPC12のCGH計算部17で上記数式(7)に基づいて振幅ホログラムを計算するために、
図9に示すようにCGH計算部17内に、タブレット型端末装置11から入力される三次元像の点光源の位置座標のデータを記憶する位置座標データ記憶部17aと、位置座標データ記憶部17aの位置座標データに基づいてCGHのx方向のsinX,cosXを計算した値を記憶するCGHのx方向の三角関数テーブル17bと、位置座標データ記憶部17aの位置座標データに基づいてCGHのy方向のsinY,cosYを計算した値を記憶するCGHのy方向の三角関数テーブル17cと、三角関数テーブル17b、17cに記憶された三角関数値を用いて振幅ホログラムの光強度(I
amp(x
h,y
h,0))を計算する振幅ホログラム計算部17dと、振幅ホログラム計算部17dで算出された振幅ホログラムの光強度(I
amp(x
h,y
h,0))を記憶してSLM14に出力する振幅ホログラムデータ記憶部17eとが設けられている。
【0030】
図9に示すCGH計算部17で振幅ホログラムを計算するための疑似コードは
図10であり、そのフローチャートを
図11に示す。
図10に示す疑似コードは、CGHの解像度をW×Hとし、
図11に示すフローチャートは三次元動画のものであるが、三次元静止画であっても適用できる。
図10及び
図11では、三角関数テーブル17bを作成してから三角関数テーブル17cを作成しているが、三角関数テーブル17cを作成してから三角関数テーブル17bを作成してもよく、三角関数テーブル17b、17cを並列に作成してもよい。また、三角関数テーブル17b、17cの作成、振幅ホログラムの計算部17dでの振幅ホログラムの計算、振幅ホログラムデータ記憶部17eによる振幅ホログラムのSLM14への出力を並列処理してもよい。更に、三次元動画の各フレームにおいて、予め三角関数テーブル17b、17cが作成され、それを用いてSLM14に表示する振幅ホログラムを作成し表示できる場合、
図11に示すフローチャートで点光源ループを一番内側のループとしてもよい。
【0031】
図1に示すPC12のCGH計算部17で上記数式(8)に基づいて位相ホログラムを計算するために、
図12に示すようにCGH計算部17内に、タブレット型端末装置11から入力される三次元像の点光源の位置座標データを記憶する位置座標データ記憶部17aと、位置座標データ記憶部17aの位置座標データに基づいてCGHのx方向のsinX,cosXを計算した値を記憶するCGHのx方向の三角関数テーブル17bと、位置座標データ記憶部17aの位置座標データに基づいてCGHのy方向のsinY,cosYを計算した値を記憶するCGHのy方向の三角関数テーブル17cと、三角関数テーブル17b、17cに記憶された三角関数値を用いて虚部Im{Icomp}と、実部Re{Icomp}とを計算する虚部・実部計算部17fと、虚部・実部計算部17fで計算された虚部Im{Icomp}、実部Re{Icomp}の虚部・実部記憶部17gと、虚部・実部記憶部17gに記憶された虚部Im{Icomp}、実部Re{Icomp}を用いて位相ホログラムの位相(I
phase(x
h,y
h,0))を計算する位相ホログラム計算部17hと、位相ホログラム計算部17hで算出された位相ホログラムの位相(I
phase(x
h,y
h,0))を記憶してSLM14に出力する位相ホログラムデータ記憶部17iとが設けられている。
【0032】
図12に示すCGH計算部17で位相ホログラムを計算するための疑似コードは
図13であり、そのフローチャートを
図14に示す。
図13に示す疑似コードは、CGHの解像度をW×Hとし、
図14に示すフローチャートは三次元動画のものであるが、三次元静止画であっても適用できる。
図13及び
図14では、三角関数テーブル17bを作成してから三角関数テーブル17cを作成しているが、三角関数テーブル17cを作成してから三角関数テーブル17bを作成してもよく、三角関数テーブル17b、17cを並列に作成してもよい。また、三角関数テーブル17b、17cの作成、虚部・実部計算部17fでの虚部Im{Icomp}と、実部Re{Icomp}との計算、位相ホログラム計算部17hでの位相ホログラムの位相(I
phase(x
h,y
h,0))の計算、位相ホログラムデータ記憶部17iによる位相ホログラムのSLM14への出力を並列処理してもよい。更に、三次元動画の各フレームにおいて、予め三角関数テーブル17b、17cが作成され、それを用いてSLM14に表示する位相ホログラムを作成し表示できる場合、
図14に示すフローチャートで点光源ループを一番内側のループとしてもよい。
【0033】
上記数式(7)に基づいて振幅ホログラムを計算処理し、或いは上記数式(8)に基づいて位相ホログラムを計算処理する
図1に示すCGH計算部17を、CPU(中央演算処理装置)及び/又はGPU(Graphics Processing Unit)内に設けることができる。
ところで、CPU及びGPUはいずれも複数のコアを持つが、三次元動画のリアルタイム再生を実現するには、1秒間に最低でも30枚のCGHを計算し、それを再生しなければならない。しかし、CPUが持つコア数はGPUに比べて格段に少なく、CPUによる処理速度は遅く、三次元静止画像の処理に用いることはできるものの、三次元動画処理には適しない。一方、GPUは多数のコアを持っており、三次元静止画像の処理には勿論のこと、三次元動画処理にも用いることができる。
尚、以上のCGHの説明は、三次元物体についてであったが、二次元物体の場合、上記数式(3)~(8)においてZnを一定値として計算することで対応できる。
【0034】
図1に示す投影像aの文字「A」を所定位置の再帰性反射シート32aに投影し、同時に、
図1に示す投影像bの文字「B」を所定位置の再帰性反射シート32bに投影するCGHはSLM14に表示される。このCGHは、数式(7)又は数式(8)において、タブレット型端末装置11から入力された文字「A」のZnを所定値aとし、タブレット型端末装置11から入力された文字「B」のZnを所定値bとして、まとめて1度に計算される。計算された1枚のCGHをSLM14に表示することで、文字「A」及び文字「B」は、それぞれの所定位置a,bに同時に投影できる。
【0035】
以上の説明では、SLM14として反射型のものを用いていたが、透過型のSLMであってもよく、タブレット型端末装置11からPC12に所定像を入力していたが、直接PC12に所定像を入力してもよい。また、PC12で計算した計算機合成ホログラムをSLM14に表示していたが、フィルムにホログラムの干渉縞を印刷したものであってもよい。更に、SLM14にレーザ光を照射していたが、発光ダイオード(LED)の光を照射してもよい。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
図1(a)に示すヘッドアップディスプレイ装置10の投影部10bでは、鏡24及び長方形の第2ハーフミラー30の傾斜角を45°とし、第2ハーフミラー30の一面側(傾斜面側)の所定高さに、
図7に示すように長方形の第2ハーフミラー30の左右方向に並列状に再帰性反射シート32a,32bの各々を水平に配置した。再帰性反射シート32a,32bは、3M Company製スコッチライト反射布8910を用い、各再帰性反射光射出面である投影面は第2ハーフミラー30の傾斜面に向いている。再帰性反射シート32aの投影面の第2ハーフミラー30の傾斜面からの高さ(
図1(a)にFaで示す)は100cmであり、再帰性反射シート32bの投影面の第2ハーフミラー30の傾斜面からの高さ(
図1(a)にFbで示す)は70cmである。
このような投影部10bに向けて、ホログラフィックプロジェクタ部10aのタブレット型端末装置11からPC12に文字「A」,「B」及び各文字の投影位置データを入力した。その入力されたデータにより数式(8)により1枚のCGHが計算されてSLM14に表示される。これにより、文字「A」が再帰性反射シート32aの投影面に、文字「B」が再帰性反射シート32bの投影面に同時に投影されることが可能となった。数式(8)を計算する際の疑似コードは
図13であり、そのフローチャートは
図14であった。
このように文字「A」,「B」に関するCGHが表示されているSLM14に、レーザ光射出部16から射出したグリーンレーザ光(波長532nm)を対物レンズ18及び平凸レンズ20を通して平行光とした光を照射し、SLM14に表示された文字「A」,「B」についての干渉情報に基づいて回折された回折光を、第1ハーフミラー22を透過して、
図1(a)に示す投影部10bに射出した。
投影部10bに入射した回折光は、鏡24と第2ハーフミラー30とを通過して、
図7に示すように再帰性反射シート32a,32bの投影面を照射し、再帰性反射シート32aの投影面に文字「A」が投影されており、再帰性反射シート32bの投影面に文字「B」が同時に投影されていた。
更に、第2ハーフミラー30の傾斜面側から見ると、
図7に示すように第2ハーフミラー30の他面側に虚像aである文字「A」と、虚像bである文字「B」とが明瞭に見え、虚像aの文字「A」が虚像bの文字「B」よりも奥側に見えた。
【0038】
(比較例1)
実施例1において、再帰性反射シート32a,32bに代えて鏡を用いたところ、各鏡の反射面には対応する文字が投影されているものの、第2ハーフミラー30の傾斜面側から見ると、虚像は全く見えなかった。
また、再帰性反射シート32a,32bに代えて黒紙を用いたところ、各黒紙の照射面には対応する文字が投影されているものの、第2ハーフミラー30の傾斜面側から見ると、虚像は不鮮明であった。この黒紙を白紙に代えても、各白紙の照射面には対応する文字が投影されているものの、第2ハーフミラー30の傾斜面側から見ると、虚像は不鮮明であった。
【0039】
(実施例2)
図1に示すPC12のCGH計算部17を、CPU又はGPU内に設け、振幅ホログラムのCGHの計算式の違いによるCGH作成速度を物体点の点数を変更して測定した。その結果を下記表1に示す。
振幅ホログラムの計算式
上記数式(4)[疑似コード:
図15(a)]
上記数式(7)[疑似コード:
図10]
CGH計算部17
CPU:INTEL Corporation 製のCore(商標)i7-8700K
GPU:NVIDIA Corporation 製のGeForce RTX(商標)3080
【0040】
【表1】
表1から明らかなように、数式(7)によるCGH作成速度は、数式(4)よりも速く、且つGPUのCGH作成速度はCPUよりもかなり速いことから、GPUの数式(7)による振幅ホログラムを三次元動画に適用可能であることが判る。
ここで、数式(4)の計算をCPUで行う際、cos関数の計算負荷が大きくなるため、0~2πの1周期において256等分にサンプリングし、サンプリングしたcos関数の値域-1~+1を8ビットの-127~127の整数値としたcosテーブルを用いて計算高速化した。また、コンパイラとしてIntel C++ compiler classic Version 2021.2.0 (オプション: -O3 -xCORE-AVX2 -qopenmp) を用い、OpenMPのスレッド数を12とした。
【0041】
(実施例3)
図1に示すPC12のCGH計算部17をCPU又はGPU内に設け、位相ホログラムのCGHの計算式の違いによるCGH作成速度を物体点の点数を変更して測定した。その結果を下記表2に示す。
位相ホログラムの計算式
上記数式(6)[疑似コード:
図15(b)]
上記数式(8)[疑似コード:
図13]
CGH計算部17
CPU:INTEL Corporation 製のCore(商標)i7-8700K
GPU:NVIDIA Corporation 製のGeForce RTX(商標)3080
【0042】
【表2】
表2から明らかなように、数式(8)によるCGH作成速度は、数式(6)よりも速く、且つGPUのCGH作成速度はCPUよりもかなり速いことから、GPUの数式(8)による位相ホログラムを三次元動画に適用可能であることが判る。
ここで、数式(6)の計算をCPUで行う際、cos及びsin関数の計算負荷が大きくなるため、0~2πの1周期において256等分にサンプリングし、サンプリングしたcos及びsin関数の値域-1~+1を8ビットの-127~127の整数値としたcos及びsinテーブルを用いて計算高速化した。また、コンパイラとしてIntel C++ compiler classic Version 2021.2.0 (オプション: -O3 -xCORE-AVX2 -qopenmp) を用い、OpenMPのスレッド数を12とした。
本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置は、案内用ヘッドアップディスプレイ、空中メッセージボード、ショーウインドやデジタルサイネージに用いることができる。
10:ヘッドアップディスプレイ装置、10a:ホログラフィックプロジェクタ部、10b:投影部、11:タブレット型端末装置、12:パーソナルコンピュータ(PC)、14:空間光変調器(SLM)、15:平行光射出部、16:レーザ光射出部、17:CGH計算部、17a:位置座標データ記憶部、17b:CGHのx方向の三角関数テーブル、17c:CGHのy方向の三角関数テーブル、17d:振幅ホログラム計算部、17e:振幅ホログラムデータ記憶部、17f:虚部・実部計算部、17g:虚部・実部データ記憶部、17h:位相ホログラム計算部、17i:位相ホログラムデータ記憶部、18:対物レンズ、20:平凸レンズ、22:第1ハーフミラー、24,34:鏡、30:第2ハーフミラー、31:遮光板、32a,32b:再帰性反射シート、32a′:再帰性反射シート32aの移動位置、32b′:再帰性反射シート32bの移動位置、33a:反射シート、33b:ガラスビーズ、33c:透明樹脂層、Fa,Fb:高さ、Fa′,Fb′:奥行き、F,f:矢印、b′:再帰性反射シート32bが位置32b′に移動したとき、虚像bが見える位置、W:CGHの横のピクセル数、H:CGHの縦のピクセル数、xh:ホログラム上のピクセルのx方向の位置座標、yh:ホログラム上のピクセルのy方向の位置座標、Δx:x方向のピクセルの大きさ、Δy:y方向のピクセルの大きさ、P(xn,yn,zn):三次元物体のn番目の物体点Pの位置座標