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特開2023-89513下水汚泥発酵原料及び下水汚泥の処理方法
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  • 特開-下水汚泥発酵原料及び下水汚泥の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089513
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】下水汚泥発酵原料及び下水汚泥の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/02 20060101AFI20230621BHJP
   B09B 3/60 20220101ALI20230621BHJP
【FI】
C02F11/02 ZAB
B09B3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204046
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 知昭
(72)【発明者】
【氏名】古賀 明宏
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004BA02
4D004BA03
4D004BA04
4D004CA15
4D004CA19
4D004CB04
4D004CB26
4D004CC02
4D004CC03
4D004CC20
4D004DA10
4D004DA20
4D059AA01
4D059AA02
4D059AA03
4D059AA23
4D059BA03
4D059BA29
4D059BA45
4D059BJ06
4D059BJ07
4D059BJ15
4D059CC03
4D059CC04
4D059CC10
4D059DB36
4D059EB01
4D059EB05
4D059EB11
(57)【要約】
【課題】下水汚泥に特定の材料を特定量添加するという簡便な操作のみで、好気発酵を速やかに進行させることができ、資源の有効利用に繋げることができる発酵原料を提供すること。
【解決手段】本発明の好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥と油粕とを含む。油粕のpHは5以上9以下である。下水汚泥100質量部に対して、油粕を10質量部以上130質量部以下含む。油粕は菜種油粕、大豆油粕、胡麻油粕及び綿実油粕からなる群より選ばれる1種以上である。本発明の下水汚泥発酵原料は、通気助材を更に含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥と油粕とを含み、
以下の方法で測定される前記油粕のpHが5以上9以下であり、
下水汚泥100質量部に対して、前記油粕を10質量部以上130質量部以下含む、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料。
<pHの測定方法>
水10質量部に対して油粕1質量部を混合した混合液を10分間撹拌し、該混合液のpHを23℃で測定する。
【請求項2】
前記油粕は菜種油粕、大豆油粕、胡麻油粕及び綿実油粕からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項3】
通気助材を更に含む、請求項1または2に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項4】
下水汚泥及び油粕を含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備え、
前記下水汚泥100質量部に対して、pHが5以上9以下である前記油粕を、10質量部以上130質量部以下含む前記下水汚泥発酵原料を用いる、下水汚泥の処理方法。
【請求項5】
前記下水汚泥発酵原料を密閉式且つ縦型の発酵槽内で好気発酵させる、請求項4に記載の処理方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥を好気発酵させるための原料及び下水汚泥の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥は、有機物及び水を含む泥状の物質であり、生活活動に伴う下水処理の過程で不可避的に排出されるものである。下水汚泥は、その排出量が下水処理量の増加に伴って増えており、都市ゴミと同様に、その処理が問題となっている。下水汚泥を処理するために、例えば該汚泥を焼却処理して、その際に生じた熱をエネルギー源として利用する試みが行われているが、更なる効率的な焼却処理を行うために、下水汚泥の含水率を下げることが望まれている。
【0003】
下水汚泥の含水率を安価に低下させる技術として、下水汚泥を好気発酵させる技術が知られている。例えば、特許文献1~3には、脱水効率の向上や減容化等のために、有機汚泥と有機質資材とを混合して発酵する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-079873号公報
【特許文献2】特開2005-111374号公報
【特許文献3】特開2009-274908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、好気発酵を安定的に行うためには、処理対象物に含まれる微生物の栄養源となる栄養素及び含水率、pH、通気量などの各種条件の最適化が必要である。下水処理の過程でメタン発酵を経た消化汚泥などの、微生物の栄養源となる栄養素の含有量が少ない下水汚泥を対象に好気発酵処理を行う場合、栄養素の不足に起因して微生物の活動が低調となり、対象物の好気発酵処理が十分に行えないことがある。
【0006】
このような微生物の活動が低調となった発酵系の好気発酵状態を改善する方法として、特許文献1~3では、栄養素を豊富に含む資材(以下「栄養源」又は「栄養源資材」ともいう。)を添加している。しかし、好気発酵処理の対象物として下水汚泥を使用する場合、下水汚泥の種類、及び添加する栄養源資材の種類及び添加量によっては、下水汚泥に含まれる微生物に適した栄養素が不足して、良好な好気発酵状態の維持が困難となる場合がある。したがって、好気発酵を良好に進行させるためには、使用する下水汚泥及び資材ごとに適切な材料設計を行うことが重要であった。
【0007】
下水汚泥発酵原料の材料設計においては、従来、実設備又は大容量の発酵槽からなる試験装置で試験されており、大量の試料が必要且つ時間を要するという問題があった。更に、近年、下水汚泥の発酵処理は全国各地に展開され始め、使用される下水汚泥や資材についても、近隣地域で入手が容易なものを選択することが推奨されていることから、使用される資材の種類は多岐にわたっている。そのため、微生物の活動に必要な栄養素を豊富に含み、且つ微生物の活動を促進する資材を選定し、好気発酵の促進効果を安定して得られる材料配合を設計することが求められていた。
【0008】
したがって本発明の課題は、発酵状態に応じて配合を都度調整することなく、簡便かつ安定的に発酵促進できる下水汚泥発酵原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、植物油を精製する際に発生する油粕中に、下水汚泥の発酵を促進する栄養素が多く含まれていることを見出した。また、油粕は植物油の精製工程において、酸等の薬品で処理される場合があるところ、油粕のpHが特定の範囲である場合に、下水汚泥の発酵が促進されることを見出した。本発明者はこれらの知見に基づき、pHが特定範囲にある油粕を、下水汚泥へ特定の配合割合で添加することで、発酵対象物である下水汚泥の発酵が安定して促進されることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下水汚泥と油粕とを含み、
以下の方法で測定される前記油粕のpHが5以上9以下であり、
下水汚泥100質量部に対して、前記油粕を10質量部以上130質量部以下含む、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料を提供するものである。
<pHの測定方法>
水10質量部に対して油粕1質量部を混合した混合液を10分間撹拌し、該混合液のpHを23℃で測定する。
【0011】
また本発明は、下水汚泥及び油粕を含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備え、
前記下水汚泥100質量部に対して、pHが5以上9以下である前記油粕を、10質量部以上130質量部以下含む前記下水汚泥発酵原料を用いる、下水汚泥の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、下水汚泥に特定の材料を特定量添加するという簡便な操作のみで、好気発酵を速やかに進行させることができ、下水汚泥を安定して発酵させることができる。更に、セメント工場のような工業地域や、下水処理場のような下水汚泥の発生元において、性状の異なる複数の下水汚泥を大量に発酵処理することができ、資源の有効利用に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、密閉式縦型発酵槽の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2図2(a)は、実施例及び比較例における好気発酵評価に用いた発酵容器の外観及び寸法を示す模式的な斜視図であり、図2(b)は温度測定時における各部材の配置位置を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の下水汚泥発酵原料は、その材料として、下水汚泥と、油粕とを含む。この下水汚泥発酵原料は、下水汚泥の好気発酵処理に好適に用いられるものである。
【0016】
本発明に用いられる下水汚泥は、下水処理の過程で生じる廃棄物であり、有機物、無機物及び水を含む泥状の物質である。下水汚泥は、典型的には、活性汚泥法方式の排水処理設備から排出される余剰汚泥を脱水したものである。このような下水汚泥としては、例えば下水処理場で発生する一般下水汚泥、し尿処理施設で発生するし尿汚泥及び浄化槽汚泥などが挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて用いることができる。下水汚泥は、未消化汚泥としてそのまま用いてもよく、あるいは、消化汚泥などの下水汚泥の自己発酵処理物を用いてもよい。一般に、消化汚泥は未消化汚泥に比べて発酵に必要な栄養素が乏しいことから、本発明の処理の対象として消化汚泥を用いると本発明の効果が一層顕著となる。
下水汚泥の含水率は特に限定されないが、例えば、50質量%以上90質量%以下程度であり、好ましくは50質量%以上85質量%以下である。下水汚泥の種類は、その含水率、消化の有無、及び脱水処理方法の少なくとも一つに基づいて選別することができる。
【0017】
本発明に用いられる油粕は、農作物などから油を搾り取った残渣である。油粕は、好気性微生物の栄養源となり得る粗脂肪や粗蛋白等を含むことから、下水汚泥中に存在する有機物が微生物によって分解され、好気発酵が安定して進行するという利点がある。
【0018】
本発明で用いられる油粕は、下水汚泥100質量部に対して、10質量部以上130質量部以下用いられることが好ましく、20質量部以上100質量部以下用いられることがより好ましく、30質量部以上80質量部以下用いられることが更に好ましい。油粕を10質量部以上用いることで、下水汚泥の好気発酵が活発に行われるのに必要十分な栄養源が供給され、好気発酵が安定して進行するという利点があり、油粕を130質量部以下用いることで、下水汚泥が有するpH緩衝作用による発酵系全体のpH変化の抑制効果が顕著に発現し、且つ下水汚泥の好気発酵が活発に行われるのに必要十分な栄養源を供給できるという利点がある。
【0019】
前記含有量は、乾燥状態の油粕において測定されたものである。乾燥状態とは、油粕の含水率が10質量%以下であることをいい、7.5質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。油粕の含水率は、例えば、油粕を熱風対流式乾燥器による強制乾燥や、天日による自然乾燥等の一般的な方法で乾燥させることによって適宜調整することができる。油粕の含水率は、飼料分析法に準拠し、135℃で2時間乾燥後の重量減少より測定される。
【0020】
本発明の下水汚泥発酵原料にpHが特定範囲内の油粕を特定の添加量で含有させることによって、好気発酵が効率的に進行する理由を、本発明者は以下のように推測している。微生物の働きによって下水汚泥が発酵するときには酸性物質が生成し、該酸性物質によって該下水汚泥のpHが酸性側へ低下する。pHが低下すると、下水汚泥中の微生物の活動が停滞することに起因して発酵が抑制される。これに対して、本発明においては下水汚泥のpHと同程度(pH5以上9以下)のpHである所定量の油粕を栄養源として使用することから、下水汚泥が有するpH緩衝作用によりpHが低下しにくく、栄養源が供給されることにより発酵が促進されると本発明者は推測している。油粕のpHが5以上であると、下水汚泥が有するpH緩衝作用による発酵系全体のpHの低下の抑制効果が顕著なものとなり、油粕のpHが9以下であると、発酵系全体のpHが好気性微生物の活性に好適な範囲に保持されるという利点があることから、油粕のpHは5以上9以下であることが好ましく、5.5以上8.0以下であることが更に好ましく、5.7以上7.0以下であることが一層好ましい。
【0021】
油粕のpHは、水10質量部に対して測定対象となる油粕1質量部を混合した混合液を10分間撹拌し、該混合液のpHを23℃で測定することで得られる。
【0022】
油粕としては、植物の種子から油を搾り取った後の残差を用いることができ、例えば、菜種油粕、大豆油粕、胡麻油粕、綿実油粕、ひまし油粕、亜麻仁油粕、ひまわり油粕、ベニバナ油粕等が挙げられる。これらの油粕は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、上述した効果を一層奏させる観点から、菜種油粕、大豆油粕、胡麻油粕及び綿実油粕からなる群の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0023】
本発明で用いられる油粕は、その強熱減量が90質量%以上であることが好ましく、93質量%以上であることがより好ましい。油粕の強熱減量は、該油粕に含まれる有機成分の量を反映しており、このような強熱減量を有する油粕を用いることによって、好気発酵を更に促進させることができ、下水汚泥の発酵処理を効率よく行うことができる。油粕の強熱減量は、JIS R5202:2015「セメントの化学分析方法」により測定される。
【0024】
また本発明で用いられる油粕は、その固形分発熱量が4000kcal/kg以上であることが好ましく、4300kcal/kg以上であることが更に好ましく、4500kcal/kg以上であることが一層好ましい。この固形分発熱量は、下水汚泥発酵原料に用いられた油粕の全種類の合計量の発熱量である。一般的に、固形分発熱量が高いことは、好気発酵の進行に有用な栄養成分の一つである有機分が多く含まれていることを意味するので、このような発熱量を有する油粕を用いることによって、好気発酵を更に促進させることができ、下水汚泥の発酵処理を効率よく行うことができる。
【0025】
本発明の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥及び油粕のみから構成されていてもよい。あるいは、これらに加えて、下水汚泥及び油粕以外の他の資材(以下、これを単に「資材」ともいう。)を更に含むことも好ましい。
【0026】
資材としては、例えば、下水汚泥発酵原料を発酵に供する際に安定的な好気発酵を促すための材料が挙げられる。具体的には、下水汚泥の含水率を低減させたり、下水汚泥発酵原料の発酵時における通気性を向上させたり、好気発酵に寄与する多種多様の微生物を供給したり、する等を目的とした材料が挙げられる。
【0027】
特に、下水汚泥発酵原料の通気性を向上させて下水汚泥の好気発酵を促すための資材として、下水汚泥発酵原料は通気助材を更に含むことが好ましい。通気助材を含むことによって、下水汚泥発酵原料の圧密の状態に依存せず、下水汚泥発酵原料の通気性を簡便に改善することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的に行うことができる。特に、例えば後述する縦型発酵槽を用いて好気発酵する場合、下水汚泥発酵原料の堆積に起因して発酵槽内の下水汚泥が圧密され、下水汚泥の好気発酵が進行しづらくなるところ、通気助材を含むことによって、過度の圧密状態となることを更に抑制しつつ通気性を更に確保することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的且つ効果的に進行させることができる点で有利である。
【0028】
通気助材としては、例えば、稲わら、もみがら、草木並びにこれらの乾燥物及び破砕物などの有機系通気助材や、パーライト、ゼオライト、珪藻土及びフライアッシュ等の石炭灰などの無機系通気助材等が挙げられる。これらの材料は単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0029】
下水汚泥発酵原料が通気助材を更に含む場合、下水汚泥発酵原料における通気助材の含有量は、下水汚泥100質量部に対して、好ましくは5質量部以上50質量部以下、より好ましくは5質量部以上30質量部以下、更に好ましくは5質量部以上15質量部以下である。このとき、基準となる下水汚泥及び通気助材の質量はいずれも含水状態での質量とする。通気助材を複数種含む場合、通気助材の含有量は総量に基づく。このような範囲にあることによって、発酵開始から終了までの長い期間にわたって、下水汚泥発酵原料が過度の圧密状態となることを抑制しつつ通気性を均一に確保することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的且つ効果的に進行させることができる。
【0030】
発酵初期の時点から好気発酵を安定的に進行させるために十分な水分量を確保する観点から、下水汚泥発酵原料全体の含水率は、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。含水率は、例えば市販のハロゲン水分計を用いて、120℃の加熱温度で乾燥したときの乾燥前後の質量の差に基づいて測定することができる。またこれに代えて、JIS A1203「土の含水比試験方法」に準じて測定することができる。下水汚泥発酵原料の含水率は、例えば、含水率が高い下水汚泥と、乾燥状態の油粕とを用いるなどして、所望の含水率となるように原材料を選択したり、原材料又は下水汚泥発酵原料に対して、水を添加したりすることによって適宜調整することができる。
【0031】
本発明の下水汚泥発酵原料は、例えば下水汚泥及び油粕と、必要に応じて各種資材とを混合するか又は堆積させて、混合物又は堆積物として製造することができる。詳細には、下水汚泥及び油粕と、必要に応じて各種資材とを混合して下水汚泥発酵原料を得る方法、又は、屋内若しくは屋外で、各材料を任意の順序で堆積させた堆積物として下水汚泥発酵原料を得る方法等が挙げられる。あるいは、材料のうちいずれかを発酵槽等の容器に供給し、次いで他の材料を任意の順序で該容器内に供給して、該容器内で各原料を交互に若しくはランダムに堆積させた堆積物とし、これをそのままで、又はこれに加えて、該堆積物を発酵槽等の容器内で混合した混合物として、下水汚泥発酵原料を得る方法が挙げられる。
【0032】
上述の下水汚泥発酵原料は、堆積物及び混合物のいずれの形態であっても、下水汚泥の好気発酵処理の用途に適したものとなる。下水汚泥発酵原料は、これをそのまま屋外又は屋内に配するか、あるいはこれを堆積物又は混合物として容器内に収容して、下水汚泥の好気発酵処理を行うことができる。
【0033】
詳細には、下水汚泥発酵原料は、これを堆肥舎内に堆積させたり、これを開放系又は密閉系の発酵槽に収容したりして、下水汚泥を好気発酵させることができる。下水汚泥発酵原料を発酵槽に供給して好気発酵処理に供する場合、発酵槽内の撹拌設備の有無あるいは撹拌方法は問わず、発酵初期から長期間にわたり安定的に好気発酵を行い、下水汚泥を効率よく処理することができる。悪臭などの周囲環境への悪影響を低減する観点から、下水汚泥発酵原料中の下水汚泥を好気発酵処理させる場合、密閉系の発酵槽内で好気発酵させることが好ましい。密閉系とは、好気発酵時において外部環境からの空気の侵入や発酵槽内から発生した発酵ガスの外部への流出が制御された反応系を指し、開放系とは、空気やガスなどの気体の侵入及び流出が何ら制御されていない反応系を指す。
【0034】
特に、本発明の下水汚泥発酵原料は、密閉可能且つ縦型の発酵槽(以下、これを「密閉式縦型発酵槽」ともいう。)を用いて、密閉状態で好気発酵させて下水汚泥を発酵処理する場合に、成分の配合や通気量等の環境条件を発酵状態に応じて都度変更しなくとも、下水汚泥の好気発酵を長期間にわたり安定的に進行させることができるので好適である。つまり、下水汚泥を発酵処理する方法として、下水汚泥及び油粕と、必要に応じて資材とを任意の順序で密閉式縦型発酵槽内に供給するか、あるいはこれらの原料を含む混合物を密閉式縦型発酵槽内に供給して、好気発酵させる工程を有することが好ましく、当該工程は密閉系で行われることが更に好ましい。密閉式縦型発酵槽は、該発酵槽内を撹拌する撹拌設備を備えて、発酵槽内に供給された各原料を連続的に又は断続的に撹拌してもよい。
【0035】
図1には、本発明の下水汚泥発酵原料を発酵処理に好適に用いられる密閉式縦型発酵槽の一実施形態が示されている。密閉式縦型発酵槽10は、設置面に対して鉛直方向に延びており、下水汚泥及び油粕と、必要に応じて資材の混合物を収容可能な筒状の槽部20を有し、その上部に、該混合物を槽部20に投入可能な投入口30と、該槽部20の下部に、好気発酵処理された下水汚泥発酵原料を槽部20外へ排出可能な排出口40とを備えている。投入口30及び排出口40はともに開閉可能又は脱着可能な蓋状部材(図示せず)が設けられ、該蓋状部材を投入口30及び排出口40に装着することによって、発酵槽10における槽部20を密閉可能に構成されている。つまり、密閉式縦型発酵槽10は密閉系で下水汚泥の好気発酵を行って、下水汚泥を処理することができるものである。
【0036】
好気発酵効率をより向上させる観点から、密閉式縦型発酵槽10は、例えば槽部20の外周面に断熱材を配する等の方法によって、断熱構造を有していることが好ましい。また、密閉式縦型発酵槽10は、発酵槽内の原材料を混合して、成分の存在状態や通気性を均一にするための撹拌設備50を備えていることも好ましい。
図1に示す撹拌設備50は、例えば槽部20内に設けられた撹拌翼51と、該撹拌翼51に接続された撹拌軸52と、槽部20外に設けられたモータ(図示せず)とを備えている。撹拌翼51は、撹拌軸52を介して槽部20外に設けられたモータに接続されており、モータを駆動源として一定方向に回転するようになっている。撹拌設備50を更に備えることによって、反応系内の通気性を高めて、下水汚泥発酵原料の好気発酵効率を一層向上させることができる。
【0037】
また、密閉式縦型発酵槽10は、空気や酸素などの酸素含有気体を発酵槽内に供給するための空気流通設備60と、槽部20内の気体を槽部20外へ排気可能な排気口70とを備えていることも好ましい。これによって、反応系内外の空気やガスの流通を適切に制御して、特に密閉系において、好気発酵をより効率的に促進させることができる。
【0038】
図1に示す形態では、酸素含有気体Fは、槽部20外に設けられた空気流通設備60から、好ましくは中空の撹拌軸52及び撹拌翼51の各内部を介して、撹拌翼51の鉛直方向下方側に供給できるようになっている。撹拌翼51の鉛直方向下方側には、酸素含有気体Fを流通可能な気体流通孔(図示せず)を複数備えていることも好ましい。槽部20内に存在する酸素含有気体及び好気発酵によって生じたガスは、排気口70を介して、排気空気として槽部20の上部から排気される。
【0039】
酸素含有気体の供給を発酵槽の全体に行いやすくして、下水汚泥の好気発酵効率を高める観点から、酸素含有気体Fは槽部20の鉛直方向下方側から供給され、且つ、酸素含有気体F及びガスは、槽部20の鉛直方向上方側から排気されることが好ましい。下水汚泥発酵原料は、投入口30から連続的又は断続的に発酵槽における槽部20内に投入し、下水汚泥発酵原料を発酵槽内で2週間程度好気発酵させ、その後、発酵した下水汚泥発酵原料を汚泥発酵物として排出口から排出する。
【0040】
下水汚泥発酵原料を好気発酵に供することで生成される汚泥発酵物は、例えば肥料、土壌改良材、園芸用土壌等の緑農地材料、セメントクリンカ原料、固形燃料等の用途に用いることができ、資源の有効利用が可能となる。特に、汚泥発酵物は、これを石灰石などの原料と混合してセメントクリンカ原料として使用することが、生成された汚泥発酵物の有効使用量を増加させて資源の有効利用に一層寄与できる点から好ましい。また、この汚泥発酵物は、下水汚泥発酵原料の調製にあたって、本発明の栄養助材として再利用することも可能であり、この点でも資源の有効利用に寄与する。
【0041】
上述の説明から明らかなとおり、本明細書は、下水汚泥発酵原料だけでなく、下水汚泥発酵原料の製造方法、並びに下水汚泥発酵原料を用いた下水汚泥の処理方法も開示する。
下水汚泥の処理方法は、下水汚泥及び油粕を含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備えるものである。本処理方法に用いられる下水汚泥発酵原料に含まれる下水汚泥及び油粕、並びに必要に応じて含まれる各種資材の種類及びその含有量に関しては、上述した説明が適宜適用される。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下に示す油粕におけるpHは、水10質量部に対して測定対象となる油粕1質量部を混合し、マグネチックスターラー(600rpm、アドバンテック東洋社製)で10分間撹拌して得た撹拌液を、pH測定器(東亜ディーケーケー社製マルチ水質計ММ-60R)を用いて23℃で測定した。また、以下に示す下水汚泥及び下水汚泥発酵原料における含水率の測定は、ハロゲン水分計(アズワン株式会社製HM1105)を用いて120℃の加熱温度で乾燥したときの質量差から算出した。更に、以下に示す発熱量は、固形分発熱量を示す。
【0043】
〔実施例1ないし4並びに比較例1及び2〕
[下水汚泥発酵原料の調製]
以下の(1)~(6)に示す下水汚泥及び油粕を以下の表1に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水率が65.2質量%~66.8質量%の下水汚泥発酵原料を調製した。
【0044】
(1)下水汚泥:下水処理場から入手した消化汚泥(含水率84.4質量%)
(2)菜種油粕:菜種油の抽出残渣(pH5.8、含水率8.0質量%、強熱減量93.6質量%、発熱量4821kcal/kg)
(3)大豆油粕:大豆油の抽出残渣(pH6.7、含水率6.9質量%、強熱減量93.8質量%、発熱量4520kcal/kg)
(4)胡麻油粕:胡麻油の抽出残渣(pH5.9、含水率1.5質量%、強熱減量92.1質量%、発熱量5550kcal/kg)
(5)綿実油粕:綿実油の抽出残渣(pH6.3、含水率6.2質量%、強熱減量94.0質量%、発熱量4450kcal/kg)
(6)コーン油粕:コーン油の抽出残渣(pH4.0、含水率1.4質量%、強熱減量92.6質量%、発熱量4520kcal/kg)
【0045】
[好気発酵試験]
実施例及び比較例の下水汚泥発酵原料を好気発酵処理に供して、下水汚泥の好気発酵の進行度合を試料の温度変化として評価した。発酵容器として500mL容量のポリビーカーと、該ビーカーの側面及び底面を覆う簡易断熱容器を用いた。これらの配置位置及び寸法は、図2(a)に示すとおりとした。各実施例及び比較例の下水汚泥発酵原料を、ポリビーカーへ約400mLずつ収容し、試料を調製した。
【0046】
次いで、各試料を収容したポリビーカーを図2(b)に示すように断熱容器に設置し、ポリビーカー内の試料中心部にT型熱電対(株式会社チノー製)を挿入した。熱電対にデータロガーを接続し、試料の温度を連続的に計測可能な状態で好気発酵に供した。これらの実験は20℃に設定した室内で8日間行った。
好気発酵の進行度合は、測定された最高温度で評価した。最高温度が高いほど、下水汚泥の好気発酵が安定的に進行していることを意味する。下水汚泥を安定的に好気発酵処理する観点から、ピーク温度が40℃以上、且つ40℃に48時間以内に到達した場合を合格とした。結果を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、下水汚泥に対してpHが所定の範囲にある油粕を所定の含有量となるように添加した実施例1ないし4の下水汚泥発酵原料は、各比較例と比較して発熱のピーク温度が高く、且つ40℃に到達するまでの時間が短かった。この理由は、菜種油粕、大豆油粕、胡麻油粕及び綿実油粕は下水汚泥のpHと近いpH5.8~6.7なので、下水汚泥に添加しても発酵遅延は起こらず、2日以内に40℃以上に温度が上昇したものと考えられる。一方、pHが低いコーン油粕を用いた比較例2の下水汚泥発酵原料は、ピーク温度は40℃に到達したものの、40℃に到達するまでに55時間要した。この理由は、コーン油粕はpHが低く、下水汚泥に添加した際に発酵原料のpHが酸性化し、発酵に好適なpHから外れて発酵遅延が起きたものと考えられる。
【0049】
[実施例5ないし9並びに比較例3及び4]
[下水汚泥発酵原料の調製]
上述の下水汚泥(1)に、上述の菜種油粕(2)を、以下の表2に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水率が46.2~83.3質量%の下水汚泥発酵原料を調整した。
【0050】
[好気発酵試験]
上述の実施例1ないし4並びに比較例1及び2と同様の方法で、各下水汚泥発酵原料の好気発酵の均衡度合いを評価した。下水汚泥を安定的に好気発酵処理する観点から、ピーク温度が40℃以上、且つ40℃に48時間以内に到達した場合を合格とした。結果を以下の表2に示す。同表には比較例1の結果も併記した。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示すように、下水汚泥に対してpHが所定の範囲にある菜種油粕を所定の含有量となるように添加した実施例5ないし9の下水汚泥発酵原料は、各比較例と比較してピーク温度が高く、且つ40℃に48時間以内に到達した。この理由は、下水汚泥に菜種油粕を所定量混合することにより、発酵に必要な栄養源が十分に供給されたことによると考えられる。
【符号の説明】
【0053】
10 密閉式縦型発酵槽
20 槽部
30 投入口
40 排出口
51 撹拌翼
52 撹拌軸
60 空気流通設備
70 排気口

図1
図2