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特開2023-89596ポリアミド酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム、金属張積層板、それらの製造方法及び回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089596
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】ポリアミド酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム、金属張積層板、それらの製造方法及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20230621BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20230621BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C08G73/10
B32B15/088
H05K1/03 610P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204198
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 康弘
【テーマコード(参考)】
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB01C
4F100AB17B
4F100AB17C
4F100AB33B
4F100AB33C
4F100AK46A
4F100AK49A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100EH46
4F100EJ41
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100GB43
4F100JA02
4F100JA05
4F100JA06A
4F100JA07A
4F100JG04A
4F100JK06
4F100JK07
4F100YY00A
4J043PA04
4J043PB08
4J043QB26
4J043RA05
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB03
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UB121
4J043UB152
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA061
4J043VA062
4J043XA16
4J043XB03
4J043YA06
4J043YA13
4J043YA28
4J043ZA02
4J043ZA12
4J043ZA31
4J043ZA32
4J043ZB50
4J043ZB58
(57)【要約】
【課題】ポリアミド酸溶液の状態でポリアミド酸の分子量と、粘度と、固形分濃度を相互に幅広く設定可能なポリアミド酸組成物を提供する。
【解決手段】 (a)テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン化合物を含むジアミン成分とを反応させて得られるポリアミド酸及び(b)有機溶媒を含有するポリアミド酸組成物。(a)成分は、分子内にケトン基を有するとともに、該ケトン基はテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミン化合物に由来するものであり、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が0.985未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a)及び(b);
(a)テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン化合物を含むジアミン成分と、を反応させて得られるポリアミド酸、
(b)有機溶媒 、
を含有するポリアミド酸組成物であって、
前記(a)成分は、分子内にケトン基を有するとともに、該ケトン基は前記テトラカルボン酸二無水物及び/又は前記ジアミン化合物に由来するものであり、
前記テトラカルボン酸二無水物成分と前記ジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が0.985未満であることを特徴とするポリアミド酸組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)が10,000以上500,000以下の範囲内である請求項1に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項3】
前記(a)成分中のケトン基の含有量が、前記酸二無水物残基及び前記ジアミン残基の合計100モル部に対して5モル部以上である請求項1又は2に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項4】
テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン化合物を含むジアミン成分と、を反応させて得られるポリイミドであって、
前記テトラカルボン酸二無水物成分と前記ジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が0.985未満であるとともに、前記テトラカルボン酸二無水物及び/又は前記ジアミン化合物に由来するケトン基と、前記ジアミン化合物に由来するアミノ基と、によって形成されたイミン結合を有しているポリイミド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミドフィルム。
【請求項6】
絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の片側又は両側に積層されている金属層と、を備えた金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層が、請求項5に記載のポリイミドフィルムを含むことを特徴とする金属張積層板。
【請求項7】
下記の工程I及び工程II;
I)請求項1から3のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物を、基材上に塗布し、乾燥することによってポリアミド酸の塗布膜を形成する工程、
II)前記塗布膜を熱処理し、前記ポリアミド酸をイミド化することによりポリイミドフィルムを形成する工程、
を含むポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
下記の工程i及び工程ii;
i)請求項1から3のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物を、金属箔を含む基材上に塗布し、乾燥することによってポリアミド酸の塗布膜を形成する工程、
ii)金属箔を含む基材上で前記塗布膜を熱処理し、前記ポリアミド酸をイミド化することによりポリイミド層を形成する工程、
を含む金属張積層板の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の金属張積層板の金属層が配線に加工されている回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板などの材料として利用可能なポリアミド酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム、金属張積層板、それらの製造方法及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドは、その高い耐熱性と寸法安定性から、電子材料分野などで広く使用されている。特許文献1では、フレキシブル回路基板(FPC;Flexible Printed Circuits)の絶縁樹脂層として、高貯蔵弾性率であって分子内にケトン基(-CO-)を有するテトラカルボン酸二無水物から誘導される酸二無水物残基を所定量含有するポリイミドが提案されている。また、特許文献2では、FPCやHDDサスペンション向けの絶縁樹脂層として、特定の構成単位を含有し、引き裂き伝播抵抗を高めたポリイミドを適用することが提案されている。
【0003】
芳香族ポリイミドは、溶媒に不溶不融であるため、前駆体であるポリアミド酸の溶液を作製後、製膜し、熱処理によってイミド化させてフィルム化する2段階合成法が用いられることが多い。2段階合成法によって製造されるポリイミドフィルムの場合、前駆体であるポリアミド酸の分子量の大小によって、イミド化後のポリイミドの分子量の大小がほぼ一義的に決定される。通常、ポリイミドに限らず、高分子化合物は、その分子量が大きいほど強靭なフィルムが得られる傾向がある。しかしながら、高分子量のポリアミド酸の溶液は粘性が高くなってしまうため、製膜性を考慮した場合に、ポリアミド酸の分子量に対するポリアミド酸溶液の粘度及び固形分濃度の自由度が制限される、という問題があった。例えば、厚膜を作製する場合、高固形分濃度とした方が塗工に有利であるが、フィルム強度を高めるべくポリアミド酸の分子量を大きくすると高固形分濃度での粘度が上がり過ぎ、塗工が困難になってしまう。その一方で、薄膜を作製する場合、分子量が大きなポリアミド酸の溶液を低粘度に調整しようとすると、固形分濃度を大きく下げなければならず、製膜性悪化の要因となりうる。なお、ポリアミド酸の分子量を下げることによって、上記塗工性や製膜性の問題を解決できるものの、それでは十分なフィルム強度が得られなくなる。
【0004】
このように、芳香族ポリイミドフィルムの製造においては、ポリアミド酸の分子量に応じてポリアミド酸溶液の粘度と固形分濃度を適切な範囲に調整しなければならないことから、塗工性や製膜性を考慮して、低粘度にしたり、高固形分濃度にしたりする場合の調節幅に制約があった。別の観点では、塗工性や製膜性を優先してポリアミド酸溶液の粘度と固形分濃度を設定すると、ポリアミド酸の分子量が制約され、高分子量で高強度の芳香族ポリイミドフィルムを製造することが難しくなる、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-104340号公報
【特許文献2】特許第5009714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の第1の目的は、ポリアミド酸溶液の状態でポリアミド酸の分子量と、粘度と、固形分濃度を相互に幅広く設定可能なポリアミド酸組成物を提供することであり、第2の目的は、上記ポリアミド酸組成物を用いることによって、高分子量で高強度のポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリアミド酸に特定の官能基を導入するとともに、原料となるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分との比率を制御することによって、ポリアミド酸の分子量に対して、粘度と固形分濃度を幅広く設定可能なポリアミド酸組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のポリアミド酸組成物は、下記成分(a)及び(b);
(a)テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン化合物を含むジアミン成分と、を反応させて得られるポリアミド酸、
(b)有機溶媒 、
を含有する。そして、本発明のポリアミド酸組成物において、前記(a)成分は、分子内にケトン基を有するとともに、該ケトン基は前記テトラカルボン酸二無水物及び/又は前記ジアミン化合物に由来するものであり、
前記テトラカルボン酸二無水物成分と前記ジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が0.985未満であることを特徴とする。
【0009】
本発明のポリアミド酸組成物は、前記ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)が10,000以上500,000以下の範囲内であってもよい。
【0010】
本発明のポリアミド酸組成物は、前記(a)成分中のケトン基の含有量が、前記酸二無水物残基及び前記ジアミン残基の合計100モル部に対して5モル部以上であってもよい。
【0011】
本発明のポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン化合物を含むジアミン成分と、を反応させて得られるものである。そして、本発明のポリイミドは、前記テトラカルボン酸二無水物成分と前記ジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が0.985未満であるとともに、前記テトラカルボン酸二無水物及び/又は前記ジアミン化合物に由来するケトン基と、前記ジアミン化合物に由来するアミノ基と、によって形成されたイミン結合を有している。
【0012】
本発明のポリイミドフィルムは、上記ポリイミドを樹脂成分の主成分として含有する。
【0013】
本発明の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の片側又は両側に積層されている金属層と、を備えた金属張積層板であって、前記絶縁樹脂層が、上記ポリイミドフィルムを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、下記の工程I及び工程II;
I)上記ポリアミド酸組成物を、基材上に塗布し、乾燥することによってポリアミド酸の塗布膜を形成する工程、
II)前記塗布膜を熱処理し、前記ポリアミド酸をイミド化することによりポリイミドフィルムを形成する工程、
を含むものである。
【0015】
本発明の金属張積層板の製造方法は、下記の工程i及び工程ii;
i)上記ポリアミド酸組成物を、金属箔を含む基材上に塗布し、乾燥することによってポリアミド酸の塗布膜を形成する工程、
ii)金属箔を含む基材上で前記塗布膜を熱処理し、前記ポリアミド酸をイミド化することによりポリイミド層を形成する工程、
を含むものである。
【0016】
更に、本発明は、前述の金属張積層板の金属層が配線に加工されている回路基板を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリアミド酸組成物は、ポリアミド酸の分子量と、粘度と、固形分濃度を相互に幅広く設定可能であるため、塗工性や製膜性を犠牲にせずに、分子量、膜厚などが異なる種々のポリイミドフィルムを形成できる。特に、高分子量で強度の高いポリイミドフィルムを形成する場合に、ポリアミド酸組成物の粘度と固形分濃度の調節幅を広くできるため、工業的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一般的な芳香族ポリアミド酸における重量平均分子量(横軸)と、ポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗(縦軸)との関係を示す図面である。
図2】実施例、参考例及び比較例の芳香族ポリアミド酸におけるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(横軸)と、ポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗(縦軸)との関係を示す図面である。
図3】実施例、参考例及び比較例の芳香族ポリアミド酸における重量平均分子量(横軸)と、ポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗(縦軸)との関係を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
[ポリアミド酸組成物]
本発明の一実施の形態に係るポリアミド酸組成物は、下記成分(a)及び(b);
(a)テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン化合物を含むジアミン成分と、を反応させて得られるポリアミド酸、及び
(b)有機溶媒 、
を含有する。
【0021】
(成分(a):ポリアミド酸)
成分(a)のポリアミド酸は、その分子内にケトン基(-CO-)を有する。ケトン基は、ポリアミド酸の原料であるテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミン化合物に由来するものである。すなわち、ポリアミド酸は、酸二無水物残基及びジアミン残基を含むものであって、酸二無水物残基又はジアミン残基のいずれか片方又は両方に、ケトン基を有する残基が含まれている。本発明において、「酸二無水物残基」とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、「ジアミン残基」とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。原料であるテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン化合物を含むジアミン成分をほぼ等モルで反応させた場合には、原料の種類とモル比に対して、ポリイミド中に含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基の種類やモル比などをほぼ対応させることができる。
なお、「ジアミン化合物」は、末端の二つのアミノ基における水素原子が置換されていてもよい。
【0022】
ケトン基を有する酸二無水物残基としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(パラフェニレンジカルボニル)ジフタル酸無水物、4,4’-(メタフェニレンジカルボニル)ジフタル酸無水物等の「分子内にケトン基を有するテトラカルボン酸二無水物」から誘導される残基を挙げることができる。
【0023】
ケトン基を有する酸二無水物残基以外の酸二無水物残基としては、例えば後記実施例に示すもののほか、一般的にポリイミドの合成に使用されているテトラカルボン酸二無水物から誘導される酸二無水物残基を挙げることができる。ただし、酸二無水物残基は、ポリアミド酸組成物の保存安定性の観点から、芳香族テトラカルボン酸化合物から誘導される芳香族酸二無水物残基のみからなることが好ましい。
【0024】
ケトン基を有するジアミン残基としては、例えば、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ‐α,α‐ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン等の「分子内にケトン基を有するジアミン化合物」から誘導される残基を挙げることができる。
【0025】
ケトン基を有するジアミン残基以外のジアミン残基としては、例えば後記実施例に示すもののほか、一般的にポリイミドの合成に使用されているジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を挙げることができる。ただし、ジアミン残基は、ポリアミド酸組成物の保存安定性の観点から、脂肪族ジアミン化合物から誘導される脂肪族ジアミン残基を含まずに、芳香族ジアミン化合物から誘導される芳香族ジアミン残基のみからなることが好ましい。
【0026】
ポリアミド酸中に存在するケトン基の量(-CO-として)は、酸二無水物残基及びジアミン残基の合計100モル部に対して、5モル部以上であることが好ましく、10~50モル部の範囲内であることがより好ましい。ポリアミド酸中に存在するケトン基の含有量が5モル部未満であると、熱イミド化時におけるイミン化反応が十分に進行せず、所望のフィルム強度が得られないことがある。ケトン基の量の上限については特に制限はないが、酸二無水物残基及びジアミン残基の合計100モル部に対して、好ましくは50モル部以下とすることでポリイミドの分子設計自由度が上がり、物性制御がしやすくなる。
【0027】
本実施の形態では、ポリアミド酸として、好ましくは末端の大部分がアミノ基であるポリアミド酸、より好ましくは末端の全てがアミノ基であるポリアミド酸を使用する。このように、アミノ末端を豊富に有するポリアミド酸は、原料中のテトラカルボン酸二無水物成分に対してジアミン成分が過剰となるように、両成分のモル比を調節することによって形成できる。具体的には、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が0.985未満、好ましくは0.930~0.980の範囲内、より好ましくは0.970~0.980の範囲内となるように調節することによって、合成されるポリアミド酸の大部分を、アミノ末端(-NH)を有するポリアミド酸にすることができる。テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比を0.985未満にするとポリアミド酸の分子量が低くなるため、イミド化後のフィルムが脆くなる傾向があると考えられるが、本発明では熱イミド化時におけるイミン化反応によってポリイミドの段階で高分子量化することが可能となり、フィルムの強度を十分に高くすることが出来る。このように、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比が0.985未満である場合に本発明の効果が顕著に発現される。ジアミン成分1モルに対し、テトラカルボン酸二無水物成分の仕込み比率が0.985モル以上になると、ポリアミド酸自体が高分子量になるため、熱イミド化時におけるイミン化反応の有無にかかわらずイミド化後に強靭なフィルムが得られることが多いため、発明の効果が発現しにくい。一方、ジアミン成分に対するテトラカルボン酸二無水物成分の仕込み比率が小さすぎると、ポリアミド酸の高分子量化が十分に進行しない。そのため、ジアミン成分1モルに対するテトラカルボン酸二無水物成分の仕込みモル比は、例えば0.930以上、好ましくは0.930~0.980の範囲内、より好ましくは0.970~0.980の範囲内とすることがよい。
【0028】
(ポリアミド酸の合成)
ポリアミド酸は、上記テトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分を溶媒中で反応させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分を上記モル比で有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成するポリアミド酸が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解することが好ましい。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
合成されたポリアミド酸は、一般に溶媒可溶性に優れるため、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。
【0029】
ポリアミド酸の合成において、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物は、それぞれ、1種のみを使用してもよく2種以上を併用することもできる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類や、2種以上のテトラカルボン酸二無水物又はジアミン化合物を使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、ポリイミドの弾性率、機械的強度、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等の物性を制御することができる。
また、本実施の形態のポリアミド酸において、構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。なお、後述するポリイミドについても同様である。
【0030】
(ポリアミド酸の重量平均分子量)
ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上500,000以下の範囲内であることが好ましく、この範囲内で目的に応じて適切なMwに調整すればよい。Mwが10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が500,000を超えると、粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0031】
(成分(b):有機溶媒)
成分(b)の有機溶媒としては、重合反応に用いる有機溶媒と同様のものを使用できる。すなわち、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。
ポリアミド酸組成物中の有機溶媒の含有量は特に制限されるものではないが、ポリアミド酸の濃度が5~30重量%程度となるようにすることが好ましい。
【0032】
(任意成分)
本実施の形態のポリアミド酸組成物は、任意成分として、例えば、有機フィラー、無機フィラー、閉環化剤、イミド化触媒、硬化剤、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、顔料、難燃剤、放熱剤等を含有することができる。
【0033】
[ポリイミド]
本実施の形態のポリイミドは、前駆体である上記構成のポリアミド酸をイミド化することによって得られる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば80~400℃の範囲内の温度条件で数分~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
なお、本発明で「ポリイミド」という場合、ポリイミドの他、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリシロキサンイミド、ポリベンズイミダゾールイミドなど、分子構造中にイミド基を有するポリマーからなる樹脂を意味する。
【0034】
本実施の形態のポリイミドは、ポリアミド酸と同様に、テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン化合物を含むジアミン成分と、を反応させて得られ、テトラカルボン酸二無水物から誘導される酸二無水物残基及びジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有するものである。原料のテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)もポリアミド酸と同様である。
【0035】
また、本実施の形態のポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミン化合物に由来するケトン基と、ジアミン化合物に由来するアミノ基と、によって形成されたイミン結合を有している。このイミン結合によって、ポリイミドのイミド結合による主鎖に対して分岐鎖が形成されることから、ポリアミド酸に比べてMwが大きく増大している。
【0036】
本実施の形態のポリイミドは、熱可塑性ポリイミド、非熱可塑性ポリイミドのいずれでもよい。本実施の形態のポリイミドを、金属箔や他の樹脂層との接着剤層として適用する場合のように、柔軟性や接着性を重視する場合は熱可塑性ポリイミドとすることが好ましい。接着剤層として適用する場合には、高いフィルム強度によって凝集破壊が生じ難く、優れたピール強度を発現できる。
一方、本実施の形態のポリイミドを、ポリイミドフィルム又は金属張積層板における絶縁樹脂層の主たる層(ベース層)として適用する場合のように、機械的強度を担保する機能を重視する場合は非熱可塑性ポリイミドとすることが好ましい。ベース層として適用する場合には、高いフィルム強度によって、優れた自己支持性、耐屈曲性、耐衝撃性などの機械的特性を発現できる。
本実施の形態のポリイミドを、熱可塑性ポリイミドとするか、非熱可塑性ポリイミドとするかは、原料のテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類や組み合わせ、モル比などによって設計できる。
なお、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満であるポリイミドをいう。また、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であるポリイミドをいう。
【0037】
[作用]
本実施の形態のポリイミドは、ポリアミド酸をイミド化する際の熱処理によって、ポリアミド酸中に含まれるケトン基と末端のアミノ基との間でイミン結合が生じていることが推測される。つまり、本実施の形態のポリアミド酸は、原料のテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が0.985未満であることから、ほぼすべての末端にアミノ基が存在する。そのため、ポリアミド酸中のケトン基と末端のアミノ基との間で加熱によって脱水縮合反応が生じ、ポリイミド中にイミン結合が形成されているものと考えられる。その結果、ポリイミドの主鎖に対してイミン結合による多数の分岐鎖が生成することになり、ポリアミド酸のMwに比べてポリイミドのMwが大幅に上昇する。このようなイミン結合による分岐鎖形成のモデルを以下に示した。なお、以下のモデルでは、酸無水物残基の全てが3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)から誘導されるBTDA残基である場合を例示したが、他の酸二無水物残基を含んでいてもよい。
【0038】
【化1】
【0039】
式中、Rは同一又は異なる種類のジアミン残基を意味し、m、nは繰り返し数を示す整数を意味する。また、(a)はイミン結合による分岐鎖となるポリアミド酸を示し、(b)はポリイミド鎖の主鎖となるポリアミド酸を示している。
【0040】
このような現象によって、本実施の形態のポリアミド酸・ポリイミドでは、あるMwのポリイミドを形成する場合にポリアミド酸の段階でのMwを低く抑えることが可能となり、その結果として、従来のポリアミド酸・ポリイミドに比べ、ポリアミド酸溶液の粘度については抑制する方向に、固形分濃度については高める方向に、それぞれ、調整可能な範囲が拡大している。
【0041】
なお、イミン結合を有するポリイミドとして、ケトン基を有するポリイミドに、ジヒドラジドなどのジアミノ化合物を反応させてイミン架橋構造を形成する手法が知られているが、この手法で得られるポリイミドフィルムは未反応架橋剤による可塑化や架橋密度が高すぎることによる脆弱化の可能性があるのに対し、本発明ではそのような弊害はない。
【0042】
次に、図1は一般的な芳香族ポリアミド酸におけるMw(横軸)と、これをイミド化して得られるポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗(縦軸)との関係を示している。図1では、2種類のポリアミド酸・ポリイミドフィルムについて示しているが、一般的傾向として、ポリアミド酸のMwが大きくなるに従い、ポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗も徐々に大きくなっていくことが理解される。なお、通常は原料であるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が1に近い方がポリアミド酸のMwを大きくする上で有利である。
【0043】
それに対して、本実施の形態のポリアミド酸・ポリイミドでは、意図的に原料であるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)を0.985未満としているので、ポリアミド酸の分子量を小さめに設計しても、イミド化反応とともに生じるイミン結合によって多数の分岐鎖が形成されるため、ポリイミドの分子量をポリアミド酸よりも大幅に増大させることができる。そのため、後記実施例に示すように、目標とする引き裂き伝播抵抗を有するポリイミドフィルムを得るために、ポリアミド酸の分子量を従来よりも低く設計することができる。つまり、目標とする強度のポリイミドフィルムを得るために、従来技術に比べてポリアミド酸のMwを小さくする方向に調整幅を拡大させることが可能となる。そのため、以下のような適用が可能になる。
【0044】
本実施の形態のポリアミド酸・ポリイミドでは、固形分濃度を上げてもポリアミド酸組成物の粘度(ポリアミド酸のMw)の上昇を抑えられる。例えば、厚みが50~200μm程度の比較的に厚いポリイミドフィルムを作製する場合に、塗工に有利な15~20重量%程度の高固形分濃度を選択しても、ポリアミド酸組成物の粘度を2,000~50,000cP程度にコントロールすることができる。その一方で、イミド化後のMwをポリアミド酸のMwよりも十分に大きくできるので、高強度のポリイミドフィルムを製造できる。かかる厚膜で高強度のポリイミドフィルムは、例えば、5G以降の高周波信号を伝送する回路基板、ストリップライン、マイクロストリップライン、RFケーブル、絶縁材、被覆材、断熱材、ポリイミドヒーターなどに極めて有用である。
【0045】
また、固形分濃度を下げなくてもポリアミド酸組成物を低粘度化(ポリアミド酸を低Mw化)できる。例えば、厚みが3~15μm程度の比較的に薄いポリイミドフィルムを作製する場合に、塗工に有利な500~10,000cP程度の低い粘度を選択しても、ポリアミド酸組成物の高固形分濃度を10~18重量%程度にコントロールすることができる。その一方で、イミド化後のMwをポリアミド酸のMwよりも十分に大きくできるので、製膜性を悪化させずに高強度のポリイミドフィルムを製造できる。かかる薄膜で高強度のポリイミドフィルムは、例えば、FPC等の回路基板の省スペース化や微細化への対応、放熱材、ポリイミドチューブなどに極めて有用である。
【0046】
以上のように、本発明のポリアミド酸組成物は、ポリアミド酸の分子量と、粘度と、固形分濃度を相互に幅広く設定可能であるため、塗工性や製膜性を犠牲にせずに、目的に応じて、Mw、膜厚などが異なる種々のポリイミドフィルムを形成できる。特に、高分子量で強度の高いポリイミドフィルムを形成する場合に、ポリアミド酸組成物の粘度と固形分濃度の調節幅を広くできることから、工業的規模でのポリイミドフィルムの製造において有利である。
【0047】
[ポリイミドフィルム]
本実施の形態のポリイミドフィルムは、上記構成のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有する。ここで、「樹脂成分の主成分」とは、全樹脂成分に対して50重量%を超えて含まれる成分を意味する。ポリイミドフィルムは、上記構成のポリイミドを全樹脂成分に対して70重量%以上含有することが好ましく、80重量%以上含有することがより好ましく、樹脂成分の全てが上記構成のポリイミドからなることが最も好ましい。なお、本実施の形態のポリイミドフィルムは、任意のポリイミド層と積層された構造であってもよい。
【0048】
本実施の形態のポリイミドフィルムは、下記の工程I及び工程IIを含む方法を実施することによって製造できる。
【0049】
I)上記ポリアミド酸組成物を基材上に塗布し、乾燥することによってポリアミド酸の塗布膜を形成する工程。
工程Iにおいて、基材としては特に制限はなく、例えば、銅箔などの金属箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂フィルム、これらの積層体等を用いることができる。また、ポリアミド酸組成物を塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0050】
II)前記塗布膜を熱処理し、前記ポリアミド酸をイミド化することによりポリイミドフィルムを形成する工程。
工程IIにおいて、熱処理の条件は上述のポリイミドの合成と同様に実施できる。なお、工程IIでは、塗布膜を熱処理する前に基材から剥離し、ポリアミド酸のゲルフィルムの状態で熱処理を実施してもよいが、基材上で熱処理を実施してポリアミド酸のイミド化を完結させることが好ましい。この場合、ポリアミド酸の樹脂層が支持基材に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、ポリイミドフィルムの厚みや寸法精度を維持することができる。基材上で熱処理を実施する場合は、ポリイミドフィルムを基材から剥離する工程をさらに含むことができる。
【0051】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の片側又は両側に積層されている金属層と、を備えており、絶縁樹脂層が、上記ポリイミドフィルムによるポリイミド層を含むものである。なお、絶縁樹脂層は上記ポリイミドフィルムによるポリイミド層以外の任意の樹脂層を含んでいてもよい
【0052】
金属層としては、金属箔を好ましく使用することができる。金属箔の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔でも電解銅箔でもよく、市販されている銅箔を好ましく用いることができる。
【0053】
本実施の形態において、例えばFPCの製造に用いる場合の金属層の好ましい厚みは3~50μmの範囲内であり、より好ましくは5~30μmの範囲内である。
【0054】
金属層として使用する金属箔は、表面に、例えば防錆処理、サイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等の表面処理が施されていてもよい。また、金属箔は、カットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの形状とすることができるが、生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。さらに、回路基板における配線パターン精度の改善効果をより大きく発現させる観点から、金属箔は長尺に形成されたロール状のものが好ましい。
【0055】
金属張積層板は、下記の工程i及び工程iiを含む方法を実施することによって製造できる。
i)上記ポリアミド酸組成物を、金属箔を含む基材上に塗布し、乾燥することによってポリアミド酸の塗布膜を形成する工程。
ii)金属箔を含む基材上で前記塗布膜を熱処理し、前記ポリアミド酸をイミド化することによりポリイミド層を形成する工程。
【0056】
工程i及び工程iiは、金属箔を含む基材を用い、該基材上でイミド化を完結させる以外は、上記ポリイミドフィルムの製造方法の工程I及び工程IIと同様に実施できる。ここで、「金属箔を含む基材」としては、金属箔単体、金属箔と樹脂フィルムとの積層体、金属箔とポリアミド酸塗布膜との積層体などを意味する。
【0057】
[回路基板]
本発明の金属張積層板は、FPCなどの回路基板材料として有用であり、本発明の金属張積層板を加工して作製した回路基板も本発明の一態様である。この回路基板は、金属張積層板の製造方法によって得られた金属張積層板の金属層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって製造することができる。金属層のパターニングは、例えばフォトリソグラフィー技術とエッチングなどを利用する任意の方法で行うことができる。なお、回路基板を製造する際に、通常行われる工程として、例えば前工程でのスルーホール加工や、後工程の端子メッキ、外形加工などの工程は、常法に従い行うことができる。
【実施例0058】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0059】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0060】
[重量平均分子量の測定]
ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製、商品名;HLC-8420GPC)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、溶離液にはN,N-ジメチルアセトアミドを用いた。
【0061】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、商品名;TMA6100)を用い、一定の昇温速度で30℃から270℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0062】
[ガラス転移温度(Tg)及び貯蔵弾性率の測定]
動的粘弾性測定装置(DMA:TAインスツルメント社製、商品;RSA-G2)を用いて、30℃から400℃までの昇温速度を5℃/分、周波数1Hzの条件で測定した。ガラス転移温度は主分散に基づく損失弾性率極大値の温度より求めた。
【0063】
[引張弾性率の測定]
引張圧縮試験機(東洋精機製作所社製、商品名;ストログラフR-1)を用いて測定した。チャック間距離101.6mm、掃引速度10mm/分の速度で引っ張り、得られた応力‐変位曲線の傾きから引張弾性率を算出した。
【0064】
[引き裂き伝播抵抗の測定]
長さ63.5mm、幅50mmの試験片を準備し、試験片に長さ12.7mmの切り込みを入れ、東洋精機社製の軽荷重引き裂き試験機を用い測定した。
【0065】
[ピール強度の測定]
フレキシブル銅張積層板の銅箔を幅1.0mmに回路加工したサンプルを用意し、ポリイミド層の表面を両面テープによりアルミ板に固定して、テンシロンテスター(東洋精機製作所社製、商品名;ストログラフVE-1D)を用いて測定した。銅箔を180度方向に50mm/分の速度で引っ張り、10mm剥離した時の中央値強度を求めた。
【0066】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BTDA:3,3’、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
m-TB:2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0067】
(合成例1)
255.0重量部のDMAcに21.43重量部のm-TB(100.92モル部)を加え室温で30分以上撹拌し、完全に溶解させた。次に、16.26重量部のPMDA(74.56モル部)及び7.31重量部のBPDA(24.85モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度27,400cP、重量平均分子量117,000のポリアミド酸溶液Aを得た。
【0068】
[実施例1]
264.0重量部のDMAcに10.62重量部のTPE-R(36.33モル部)及び7.71重量部のm-TB(36.33モル部)を加え、完全に溶解するまで室温で撹拌した。次に、6.85重量部のBTDA(21.25モル部)及び10.82重量部のPMDA(49.59モル部)を加え、室温で4時間撹拌を行い、粘度700cP、重量平均分子量101,000のポリアミド酸溶液1を得た。
ポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約25μmとなるように銅箔上へ均一に塗布した後、140℃以下で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、140℃から360℃まで段階的に昇温させて熱処理を行い、イミド化を完結した後、銅箔をエッチング除去し、ポリイミドフィルム1を得た。得られたポリイミドフィルム1の物性を表1に示す。
銅箔(電解銅箔、厚み;12μm、十点平均粗さRz;1μm)の上に、ポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布した後、140℃以下で加熱乾燥し、溶媒を除去した。その上に、ポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが21μmとなるように塗布した後、140℃以下で加熱乾燥し、溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布した後、140℃以下で加熱乾燥し、溶媒を除去した。その後、140℃から360℃まで段階的に昇温させてイミド化を行い、片面銅張積層板1を得た。得られた片面銅張積層板1を回路加工し測定したピール強度の値は0.9kN/mであった。
【0069】
[実施例2]
表1の組成比率とした以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液2,ポリイミドフィルム2,片面銅張積層板2を得た。各物性について表1に示す。
【0070】
[参考例1~3、比較例1~3]
表1の組成比率とした以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液3~8,ポリイミドフィルム3~8,片面銅張積層板3~8を得た。各物性について表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1より、実施例1、2では、ポリアミド酸のMwが参考例1~3に比べて低いにもかかわらず、参考例1~3と同等の引き裂き伝播抵抗及びピール強度を示した。このことから、実施例1、2では高いフィルム強度によって凝集破壊が生じ難くなっていることがわかる。
【0073】
以上の実施例1、2、参考例1~3及び比較例1~3におけるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)とポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗との関係を図2に示し、ポリアミド酸のMwとポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗との関係を図3に示した。なお、図2及び図3において、「実1」、「参1」、「比1」等は、それぞれ、対応する「実施例」、「参考例」、「比較例」とその番号を意味する。
【0074】
図2より、比較例1~3では、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分)が1を超えると、モル比の増加に伴って引き裂き伝播抵抗が低下している。それに対して、実施例1、2では、モル比が0.985未満でも、モル比が1付近である参考例1~3と同等の引き裂き伝播抵抗が発現していることがわかる。
一方、図3より、実施例1、2では、ポリアミド酸のMwが参考例1~3に比べて低いにもかかわらず、参考例1~3と同等の引き裂き伝播抵抗が発現していることがわかる。以上の結果から、実施例1、2では、熱イミド化時におけるイミン化反応によってポリイミドが高分子量化することによって参考例1~3と同等の引き裂き伝播抵抗が発現したものと考えられる。
なお、図3中の比較例1~3の結果は、上述の図1と合致しており、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比が1を超える場合には、ポリアミド酸のMwが大きくなるに伴い、ポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗も徐々に大きくなっていくことが示されている。
【0075】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。

図1
図2
図3