(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090338
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/573 20060101AFI20230622BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230622BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230622BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20230622BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20230622BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20230622BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230622BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230622BHJP
A61K 31/4166 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61K31/573
A61P17/00
A61P43/00 121
A61K31/167
A61K31/355
A61K31/045
A61K9/10
A61K47/10
A61K31/4166
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205262
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】宅見 信哉
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅啓
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076BB31
4C076CC18
4C076DD37E
4C076FF15
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4C206AA01
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4C206MA48
4C206NA02
4C206NA05
4C206ZA89
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明は、プレドニゾロン類及びリドカインを含み、調剤時の油相の溶解性が向上し且つ泡がみが抑制される製剤処方を提供することを目的とする。
【解決手段】プレドニゾロン類及びリドカインを含む乳化組成物において、トコフェロール類、メントール、及びアラントインを配合することで、調剤時の油相の溶解性が向上し且つ泡がみが抑制される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)プレドニゾロン及び/又はその薬学的に許容される誘導体と、(B)リドカインと、(C)トコフェロール及び/又はその薬学的に許容される誘導体と、(D)メントールと、(E)アラントインとを含有する、乳化組成物。
【請求項2】
さらに(F)高級アルコールを含む、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
前記(A)成分1重量部に対する前記(C)成分の含有量が、3~20重量部である、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
前記(A)成分1重量部に対する前記(D)成分の含有量が、1~30重量部である、請求項1~3のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項5】
前記(E)成分の含有量が、0.05~2重量%である、請求項1~4のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項6】
界面活性剤1重量部に対する(E)成分の含有量が、0.007~0.3重量部である、請求項1~5のいずれに記載の乳化組成物。
【請求項7】
前記(F)成分1重量部に対する(E)成分の含有量が、0.005~0.05重量部である、請求項2~6のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項8】
クロタミトンを含まない、請求項1~7のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項9】
クリーム剤である、請求項1~8のいずれかに記載の乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレドニゾロン類及びリドカインを含み、優れた調剤性を有する乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の痛み、かゆみ、ほてり等を伴う皮膚疾患の治療等を目的とした製剤として、プレドニゾロン又はその誘導体を含む外用剤が知られている。プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル等のプレドニゾロン及びその誘導体は、外用副腎皮質ホルモン剤として知られ、かゆみ止めや湿疹治療の目的で外用のクリーム剤に配合して使用されている。
【0003】
また、リドカイン及びその塩は、世界で最も使用されている局所麻酔薬であり、作用発現が速いことから様々な部位に使用される公知の薬剤である。局所麻酔の目的で、リドカイン及びその塩をクリーム剤やテープ剤に配合したものが知られている。
【0004】
このようなプレドニゾロン及びその誘導体とリドカインを含む外用剤が知られている。例えば、特許文献1には、吉草酸酢酸プレドニゾロン及びリドカイン等の塩基性局所麻酔薬を配合してなる、外用剤が開示されている。プレドニゾロン又はその誘導体及びリドカインを含む外用剤は乳化クリーム剤等として製剤されており、特許文献2では、そのような乳化クリーム剤の使用感を向上させるために、ジフェンヒドラミンを配合し所定範囲の光透過率の増加速度を有するように調製する処方が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-72603号公報
【特許文献2】特開2018-108992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでも、プレドニゾロン類及びリドカインを含む乳化組成物の製剤処方は検討されてきたが、調剤時における成分の溶解性向上や気泡の抑制性については十分な検討がされていない。特に、プレドニゾロン類はそれ自体油性基剤への溶解性が悪いため、調剤効率に影響する。また、乳化組成物が界面活性剤を含むことで乳化時に発生する気泡(以下において、「泡がみ」とも記載する)は、調剤効率を低下させるだけでなく、乳化組成物が空気に接触する表面積を増大させるため、乳化組成物の質にも影響する。
【0007】
そこで、本発明の目的は、プレドニゾロン類及びリドカインを含み、調剤時の油相の溶解性が向上し且つ泡がみが抑制される製剤処方を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、プレドニゾロン類及びリドカインを含む乳化組成物において、トコフェロール類、メントール、及びアラントインを配合することで、調剤時の油相の溶解性が向上し且つ泡がみが抑制されることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)プレドニゾロン及び/又はその薬学的に許容される誘導体と、(B)リドカインと、(C)トコフェロール及び/又はその薬学的に許容される誘導体と、(D)メントールと、(E)アラントインとを含有する、乳化組成物。
項2. さらに(F)高級アルコールを含む、項1に記載の乳化組成物。
項3. 前記(A)成分1重量部に対する前記(C)成分の含有量が、3~20重量部である、項1又は2に記載の乳化組成物。
項4. 前記(A)成分1重量部に対する前記(D)成分の含有量が、1~30重量部である、項1~3のいずれかに記載の乳化組成物。
項5. 前記(E)成分の含有量が、0.05~2重量%である、項1~4のいずれかに記載の乳化組成物。
項6. 界面活性剤1重量部に対する(E)成分の含有量が、0.007~0.3重量部である、項1~5のいずれに記載の乳化組成物。
項7. 前記(F)成分1重量部に対する(E)成分の含有量が、0.005~0.05重量部である、項2~6のいずれかに記載の乳化組成物。
項8. クロタミトンを含まない、項1~7のいずれかに記載の乳化組成物。
項9. クリーム剤である、項1~8のいずれかに記載の乳化組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プレドニゾロン類及びリドカインを含み、調剤時の油相の溶解性が向上し且つ泡がみが抑制される製剤処方が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の乳化組成物は、(A)プレドニゾロン及び/又はその薬学的に許容される誘導体(以下において、「(A)成分」又は「プレドニゾロン類」とも表記する。)と、(B)リドカイン(以下において、「(B)成分」とも表記する。)と、(C)トコフェロール及び/又はその薬学的に許容される誘導体(以下において、「(C)成分」又は「トコフェロール類」とも表記する。)と、(D)メントール(以下において、「(D)成分」とも表記する。)と、(E)アラントイン(以下において、「(E)成分」とも表記する。)とを含有することを特徴とする。また、本発明の乳化組成物は、さらに、(F)高級アルコール(以下において、「(F)成分」とも表記する。)を含むことができる。以下、本発明の乳化組成物について詳述する。
【0012】
(A)プレドニゾロン類
本発明の乳化組成物は、(A)成分としてプレドニゾロン及び/又はその薬学的に許容される誘導体を含有する。
【0013】
プレドニゾロンは、脂溶性の外用副腎皮質ホルモン剤として、公知の薬剤である。また、プレドニゾロンの誘導体としては、脂溶性且つ薬学的に許容されることを限度として、特に制限されないが、例えば、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル、プレドニゾロン酢酸エステル、プレドニゾロンコハク酸エステル等の、プレドニゾロンとモノ又はジカルボン酸(炭素数2~7)とのエステル体;メチルプレドニゾロン;メチルプレドニゾロン酢酸エステル、メチルプレドニゾロンコハク酸エステル等の、メチルプレドニゾロンとモノ又はジカルボン酸(炭素数2~7)とのエステル体等が挙げられる。
【0014】
本発明の乳化組成物において、(A)成分としては、プレドニゾロン及び/又はその誘導体の中から、1種の化合物を選択して単独で使用してもよく、また2種以上の化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本発明の乳化組成物において、(A)成分の中でも、好ましくはプレドニゾロンの誘導体が挙げられ、より好ましくはプレドニゾロンとモノ又はジカルボン酸(炭素数2~7)とのエステル体が挙げられ、さらに好ましくはプレドニゾロンとモノ又はジカルボン酸(炭素数2~7)とのエステル体が挙げられ、特に好ましくはプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルが挙げられる。
【0016】
本発明の乳化組成物における(A)成分の含有量としては特に限定されず、発揮させるべき薬効等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.01~5重量%、好ましくは0.05~1重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%が挙げられる。
【0017】
(B)リドカイン
本発明の乳化組成物は、(B)成分としてリドカインを含有する。リドカインは、局所麻酔効果を有することが知られており、キシロカインとも称される公知の脂溶性薬剤である。
【0018】
本発明の乳化組成物における(B)成分の含有量としては、発揮させるべき薬効等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.2~5重量%、好ましくは1~3重量%が挙げられる。
【0019】
本発明の乳化組成物において、(A)成分と(B)成分の含有割合については、各成分の上記含有量に応じて定まるが、(A)成分1重量部に対する(B)成分の含有量として、好ましくは5~20重量部、より好ましくは10~20重量部が挙げられる。
【0020】
(C)トコフェロール類
本発明の乳化組成物は、(C)成分としてトコフェロール及び/又はその薬学的に許容される誘導体を含有する。(C)成分は、本発明の乳化組成物において、他の成分とともに配合されることで、調剤時の油相の溶解性を向上する。
【0021】
トコフェロールは、ビタミンEとしても知られている公知の成分である。本発明で使用されるトコフェロールは、d体又はdl体のいずれであってもよく、またα、β、γ、δの構造のいずれであってもよい。
【0022】
トコフェロールの誘導体としては、薬学的に許容されることを限度として、特に制限されないが、例えば、トコフェロールと有機酸とのエステル等が挙げられる。トコフェロールと有機酸とのエステルとして、具体的には、トコフェロール酢酸エステル、トコフェロールニコチン酸エステル、トコフェロールコハク酸エステル、トコフェロールリノレン酸エステル等が挙げられる。
【0023】
本発明の乳化組成物において、トコフェロール及び/又はその誘導体の中から、1種を選択して使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明の乳化組成物において、(C)成分の中でも、好ましくはトコフェロールの誘導体が挙げられ、より好ましくはトコフェロール酢酸エステルが挙げられる。
【0025】
本発明の乳化組成物における(C)成分の含有量としては特に限定されず、付与すべき調剤時の油相の溶解性向上効果に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~2.5重量%が挙げられる。調剤時の油相の溶解性をより一層向上させる観点から、本発明の乳化組成物における(C)成分の含有量としては、好ましくは1~2.5重量%、より好ましくは1.8~2.5重量%が挙げられる。
【0026】
本発明の乳化組成物において、(A)成分と(C)成分の含有割合については、各成分の上記含有量に応じて定まるが、(A)成分1重量部に対する(C)成分の含有量として、例えば3~20重量部が挙げられ、調剤時の油相の溶解性をより一層向上させる観点から、好ましくは6~20重量部、より好ましくは10~20重量部、さらに好ましくは13~20重量部又は13~15重量部が挙げられる。
【0027】
(D)メントール
本発明の乳化組成物は、(D)成分としてメントールを含有する。(D)成分は、本発明の乳化組成物において、他の成分とともに配合されることで、調剤時の油相の溶解性を向上し、場合により、調剤時の溶解性向上に加え、泡がみを抑制する。
【0028】
メントールとしては、d体、l体、dl体のいずれであってもよいが、好ましくはl体が挙げられる。また、メントールとして、メントールを含む精油を使用してもよい。
【0029】
本発明の乳化組成物における(D)成分の含有量としては特に限定されず、付与すべき調剤時の油相の溶解性向上効果、若しくは当該効果と泡がみ抑制効果とに応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~5重量%が挙げられる。調剤時の油相の溶解性をより一層向上させる観点、若しくは当該観点に加え泡がみをより一層抑制する観点から、本発明の乳化組成物における(D)成分の含有量としては、好ましくは0.5~5重量%、より好ましくは2~5重量%、さらに好ましくは3~5重量%又は3~4重量%が挙げられる。
【0030】
本発明の乳化組成物において、(A)成分と(D)成分の含有割合については、各成分の上記含有量に応じて定まるが、(A)成分1重量部に対する(D)成分の含有量として、例えば1~30重量部が挙げられ、調剤時の油相の溶解性をより一層向上させる観点、若しくは当該観点に加え泡がみをより一層抑制する観点から、好ましくは3~30重量部、より好ましくは10~30重量部、さらに好ましくは20~30重量部又は20~25重量部が挙げられる。なお、ここで示す(D)成分の含有量は、(D)成分としてメントールを含む精油を使用する場合には、メントール量に換算した値である。
【0031】
(E)アラントイン
本発明の乳化組成物は、(E)成分としてアラントインを含有する。(E)成分は、本発明の乳化組成物において、他の成分とともに配合されることで、調剤時の泡がみを抑制し、場合により、調剤時の泡がみ抑制に加え、油相の溶解性を向上する。
【0032】
アラントインは、5-ウレイドヒダントインとも称される水溶性化合物であり、抗炎症作用、細胞賦活作用、止血作用、殺菌作用、抗潰瘍作用等を有することが知られている公知の薬剤である。
【0033】
本発明の乳化組成物における(E)成分の含有量としては特に限定されず、付与すべき調剤時の泡がみ抑制効果、若しくは当該効果と油相の溶解性向上効果とに応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.05~2重量%が挙げられる。調剤時の泡がみをより一層向上させる観点、若しくは当該観点に加え油相の溶解性をより一層向上させる観点から、本発明の乳化組成物における(E)成分の含有量としては、好ましくは0.1~2重量%、より好ましくは0.14~2重量%、さらに好ましくは0.19~2重量%、0.19~1重量%、0.19~0.3重量%、又は0.19~0.25重量%が挙げられる。
【0034】
本発明の乳化組成物において、界面活性剤と(E)成分の含有割合については、各成分の含有量に応じて定まるが、界面活性剤1重量部に対する(E)成分の含有量として、例えば0.007~0.3重量部が挙げられ、調剤時の泡がみをより一層向上させる観点、若しくは当該観点に加え油相の溶解性をより一層向上させる観点から、好ましくは0.01~0.3重量部、より好ましくは0.02~0.3重量部、さらに好ましくは0.025~0.1重量部又は0.025~0.03重量部が挙げられる。
【0035】
本発明の乳化組成物が(F)成分を含む場合、(F)成分と(E)成分の含有割合については、各成分の含有量に応じて定まるが、(F)成分1重量部に対する(E)成分の含有量として、例えば0.005~0.05重量部が挙げられる。調剤時の泡がみをより一層向上させる観点から、好ましくは0.01~0.05重量部、より好ましくは0.02~0.05重量部、さらに好ましくは0.025~0.05重量部、0.025~0.04重量部、又は0.025~0.03重量部が挙げられる。
【0036】
(F)高級アルコール
本発明の乳化組成物は、(F)成分として高級アルコールを含有することができる。(F)成分は、本発明の乳化組成物において、他の成分とともに配合される場合、調剤時の油相の溶解性をより一層向上する。また、高級アルコールは乳化組成物に配合すると泡がみが発生しやすくなるが、本発明の乳化組成物は調剤時の泡がみ抑制効果に優れているため、高級アルコールを含んでいても効果的に泡がみを抑制することができる。
【0037】
本発明で使用される高級アルコールとしては、薬学的又は香粧学的に許容される炭素数6以上の1価アルコールであればよく、例えば、炭素数10~24の1価アルコール(例えば、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、リノグリセリルアルコール等)、好ましくは炭素数14~22の1価アルコール、更に好ましくは炭素数16~18の1価アルコールが挙げられる。また、本発明で使用される高級アルコールの炭素鎖は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状が挙げられる。また、本発明で使用される高級アルコールの炭素鎖は、飽和型又は不飽和型のいずれであってもよいが、飽和型であることが好ましい。
【0038】
本発明の乳化組成物において、(F)成分の中でも、好ましくは炭素数10~24、好ましくは14~22の飽和直鎖状高級アルコールが挙げられ、さらに好ましくは、セタノール、ステアリルアルコール、及びベヘニルアルコールが挙げられ、特に好ましくはセタノール及びステアリルアルコールの混合物(セトステアリルアルコール)が挙げられる。
【0039】
本発明の乳化組成物が(F)成分を含む場合における(F)成分の含有量としては特に限定されず、付与すべき調剤時の油相の溶解性向上効果に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~10重量%が挙げられる。調剤時の油相の溶解性をより一層向上させる観点から、本発明の乳化組成物における(F)成分の含有量としては、好ましくは3~10重量%、より好ましくは5~10重量%、さらに好ましくは6~10重量%、6~9重量%、又は6~8重量%が挙げられる。
【0040】
本発明の乳化組成物が(F)成分を含む場合における、(A)成分と(F)成分の含有割合については、各成分の上記含有量に応じて定まるが、(A)成分1重量部に対する(F)成分の含有量として、例えば10~70重量部が挙げられ、調剤時の油相の溶解性をより一層向上させる観点から、好ましくは30~70重量部、より好ましくは40~70重量部、さらに好ましくは45~60重量部又は45~50重量部が挙げられる。
【0041】
油性基剤
本発明の乳化組成物は、油相の基剤成分を含む。油性基剤としては薬学的又は香粧学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、油類(中鎖脂肪酸トリグリセリド、オリーブ油、サフラワー油、大豆油、つばき油、とうもろこし油、なたね油、ひまわり油、綿実油、落花生油、ラード、スクワラン、魚油等)、鉱物油(流動パラフィン、パラフィン、ゲル化炭化水素、ワセリン等)、ワックス類又はロウ類(ミツロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、セレシン、ライスワックス、マイクロクリスタリンワックス等)、エステル油(イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、オレイン酸エチル等)、脂肪酸アルキルエステル、高級脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、リノール酸、ラノリン等)、高級脂肪酸エステル(パルミチン酸セチル、パルミチン酸イソプロピル、リノール酸エチル等)、高級アルコール(ステアリルアルコール、セタノール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラノリンアルコール等)、コレステロール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、2-エチルヘキサン酸セチル、シリコーンオイル(ジメチルポリシロキサン、環状シリコーン等)等が挙げられる。
【0042】
これらの油分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
これらの油性基剤の中でも、好ましくは、鉱物油が挙げられ、より好ましくは流動パラフィン及びワセリンが挙げられる。
【0044】
本発明の乳化組成物における油性基剤の含有量(総量)としては、例えば1~20重量%、好ましくは5~15重量%、より好ましくは8~12重量%が挙げられる。
【0045】
水
本発明の乳化組成物は、水相の基剤成分として水を含む。本発明の乳化組成物における水の含有量についても特に限定されないが、例えば、55~85重量%、好ましくは60~80重量%、より好ましくは65~75重量%、さらに好ましくは65~70重量%が挙げられる。
【0046】
界面活性剤
本発明の乳化組成物は、油相と水相とを乳化させるための界面活性剤を含む。界面活性剤としては、薬学的又は香粧学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。これらの他の界面活性剤の中でも、乳化安定性を向上させる観点から、ノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0047】
ノニオン性界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート(モノステアリン酸ソルビタン)、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等);グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、モノ綿実油脂肪酸グリセリル、モノエルカ酸グリセリル、セスキオレイン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル(ステアリン酸グリセリン)、α,α’-オレイン酸ピログルタミン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等);プロピレングリコール脂肪酸エステル類(例えば、モノステアリン酸プロピレングリコール等);グリセリンアルキルエーテル;ステアレス-2;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレエート等);ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類(例えば、ポリオキシエチレンソルビットモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビットモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビットペンタオレエート、ポリオキシエチレンソルビットモノステアレート等);ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類(例えば、ポリオキシエチレングリセリンモノステアレート、ポリオキシエチレングリセリンモノイソステアレート、ポリオキシエチレングリセリントリイソステアレート等);ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類(例えば、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンモノステアレート(ステアリン酸ポリオキシル)、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンモノジオレエート、ジステアリン酸エチレングリコール等);ポリオキシエチレンアルキル又はアラキルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレン2-オクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアラキルエーテル、ポリオキシエチレンコレスタノールエーテル等)及びこれらのリン酸又はリン酸塩(ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸ナトリウム等);プルロニック(登録商標)型類(例えば、プルロニック(登録商標)等);ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン-セチルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン-2-デシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン水添ラノリン、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリセリンエーテル等);ステアレス-21等が挙げられる。
【0048】
これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
これらのノニオン性界面活性剤の中でも、乳化安定性をより一層向上させる観点から、
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びソルビタン脂肪酸エステル類(好ましくは、ソルビタンモノステアレート(モノステアリン酸ソルビタン))が挙げられる。
【0050】
本発明の乳化組成物における界面活性剤の含有量については、使用する当該界面活性剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば4~10重量%、好ましくは5~9重量%、より好ましくは6~8重量%が挙げられる。
【0051】
他の成分
本発明の乳化組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、通常使用される他の添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤としては、例えば、多価アルコール、増粘剤、pH調節剤、緩衝剤、可溶化剤、キレート剤、防腐剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤、香料、着色料等が挙げられる。
【0052】
増粘剤としては、例えば、セルロース系増粘剤(例えば、カルメロースナトリウム、ヒドロプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、キサンタンガム、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。これらの増粘剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの増粘剤の中でも、好ましくはセルロース系増粘剤が挙げられ、より好ましくはカルメロースナトリウムが挙げられる。本発明の乳化組成物が増粘剤を含む場合、増粘剤の含有量としては特に限定されないが、例えば0.3~3重量%、好ましくは0.5~2重量%、好ましくは0.8~1.2重量%が挙げられる。
【0053】
更に、本発明の乳化組成物は、前述する成分の他に、薬学的又は香粧学的な生理機能を発揮できる薬効成分が、必要に応じて含まれていてもよい。このような薬効成分としては、例えば、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗炎症剤、殺菌剤、鎮痒剤、保湿剤、血行促進成分、ビタミン類、ムコ多糖類等が挙げられる。これらの薬効成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよいまた、本発明の乳化組成物においてこれらの薬効成分を含有させる場合、その含有量については、使用する薬効成分の種類、期待する効果等に応じて適宜設定すればよい。
【0054】
上記の薬効成分の中でも、鎮痒剤としてクロタミトンが知られており、クロタミトンを含む乳化組成物は、一般的に、調剤時の油相の溶解性に特に優れ、クロタミトンを含まない場合は、調剤時の油相の溶解性が顕著に低下する。一方、本発明の乳化組成物は調剤時の油相の溶解性に優れるため、クロタミトンを含まなくとも、効果的に調剤時の油相の溶解性を向上できる。このような観点から、本発明の好適な態様においては、クロタミトンを含まない。
【0055】
製剤形態
本発明の乳化組成物の乳化状態については、水中油型又は油中水型のいずれであってもよい。本発明の乳化組成物は調剤時の油相の溶解性に優れるため、本来的に油性基剤が少ない、水中油型であっても効果的に油相の溶解性向上させることができる。このような観点から、本発明の乳化組成物の好適な乳化状態としては、水中油型が挙げられる。
【0056】
本発明の乳化組成物の製剤形態については特に制限されず、例えば、乳液剤、クリーム剤、クリーム剤、ローション剤等が挙げられる。本発明の乳化組成物は、調製時の泡がみ抑制効果に優れるため、粘度が高く気泡が発生すると消泡しにくいクリーム剤の場合に特に有用である。このような観点から、本発明の乳化組成物の製剤形態は、好ましくはクリーム剤である。
【0057】
本発明の乳化組成物としては、具体的には、医薬品、医薬部外品、化粧品等が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、好ましくは医薬品、医薬部外品が挙げられる。
【0058】
本発明の乳化組成物としては、好ましくは外用剤、より好ましくは皮膚外用剤が挙げられる。
【0059】
製造方法
本発明の乳化組成物は、公知の乳化組成物の製造方法に従って製造することができる。本発明の乳化組成物の製造方法として、例えば、以下に示す方法が挙げられる。先ず、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び油性基剤、並びに必要に応じて添加される(F)成分及び他の親油性成分を混合して油相用組成物を調製する。別途、(E)成分、水、及び必要に応じて添加される他の水溶性成分を混合して水相用組成物を調製する。なお、界面活性剤は、油相用組成物又は水相用組成物のいずれか一方又は双方に添加して混合すればよいが、油相用組成物に添加することが好ましい。次いで、得られた油相用組成物と水相用組成物を混合し、ホモミキサー等の乳化手法によって乳化させることにより、本発明の乳化組成物が製造される。
【実施例0060】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
試験例
表3及び表4に示す組成のクリーム状の水中油型乳化組成物を製造した。具体的には、表3及び表4に示す成分のうち、油相成分及び界面活性剤を所定量計り取り、80℃に加温して混合し、油相用組成物を調製した。調製された油相を、下記<1>の評価に供した。別途、水相成分を所定量計り取り、水相用組成物を調製した。水相用組成物を60℃に加温した後に、80℃の油相用組成物を少量ずつ添加し、200rpmで攪拌混合し、50℃まで温度が低下した後は100rpmで攪拌混合しながら乳化を行った。得られた乳化組成物を、下記<2>の評価に供した。
【0062】
<1>調剤時の油相の溶解性評価
以下の基準に基づき、油相の溶解性の程度に応じて8段階評価を行った。4点以上で、所望の溶解性向上効果が得られたと評価できる。8点と1点に相当する油相の具体的な外観を表1に示す。結果を表3及び表4に示す。
8点:均一な溶液で、未溶解の白色粒が全く見られない。
4点:均一な溶液で、未溶解の白色粒は少し確認できるのみである。
1点:溶液中に白色の未溶解原料が多数残っている。
【0063】
【0064】
<2>調剤時の泡がみの抑制性評価
得られた乳化組成物について0.5gを2枚のスライドガラスで挿み、以下の基準に基づき、泡がみの程度に応じて6段階評価を行った。3点以上で、所望の泡がみ抑制効果が得られたと評価できる。6点と1点に相当する乳化組成物の具体的な外観を表2に示す。結果を表3及び表4に示す。
6点:クリーム中に大きな泡がみがほぼ見られない。
3点:クリーム中に大きな泡がみが少し見られるのみである。
1点:クリーム中に大きな泡がみが多発している。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
比較例1に示す通り、(A)成分と(B)成分とを含む油相用組成物中では未溶解の原料が多数残っており、乳化後も多数の泡がみが確認された。比較例1と対比した比較例2に示す通り、(C)成分をさらに追加しても、油相溶解性が若干向上しただけで十分ではなかった。比較例2と対比した比較例3に示す通り、(D)成分をさらに追加しても、油相溶解性が向上したものの、依然として、乳化後に多数の泡がみが確認された。比較例2と対比した比較例4に示す通り、(E)成分をさらに追加すると、乳化後の泡がみは改善されたものの、油相溶解性は改善しなかった。比較例2と対比した比較例5に示す通り、(F)成分をさらに追加すると、油相溶解性は改善したが、乳化後の泡がみは顕著に悪化した。
【0069】
比較例3と対比した実施例1に示す通り、(A)~(D)成分に(E)成分をさらに追加することで、油相溶解性と泡がみとの両方が改善し、特に、泡がみの改善効果が顕著であった。さらに、実施例1と対比した実施例3に示す通り、(E)成分の量を増量すると、泡がみの改善効果がさらに顕著に向上した。同様の傾向が、他の実施例においても認められた。
【0070】
比較例4と対比した実施例1に示す通り、(A)~(C)成分及び(E)成分に(D)成分をさらに追加することで、油相溶解性と泡がみとの両方が改善し、特に、油相溶解性改善効果が顕著であった。また、実施例4と対比した実施例6に示す通り、(D)成分を増量すると、さらに油相溶解性が向上し、同様の傾向が、実施例5と対比した実施例7においても認められた。
【0071】
実施例1と対比した実施例2に示す通り、(C)成分を増量すると、さらに油相溶解性が向上し、同様の傾向が、実施例3と対比した実施例4でも認められた。
【0072】
実施例4と対比した実施例5に示す通り、(F)成分をさらに追加すると、油相溶解性が向上し、また、比較例2と対比した比較例5に見られたような泡がみの顕著な悪化は認められず、効果的に泡がみが抑制されていた。同様の傾向が、実施例6と対比した実施例7においても認められた。また、実施例5及び7の(F)成分のセトステアリルアルコールを、ステアリルアルコール、セタノール、又はベヘニルアルコールにそれぞれ置換した場合においても、それぞれ、実施例5及び7と同程度に油相溶解性が向上し、効果的に泡がみが抑制されていた。