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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090413
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/02 20060101AFI20230622BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
H01B13/02 Z
H01B13/00 511Z
H01B13/00 541
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205358
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591086843
【氏名又は名称】古河電工産業電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 純一
(72)【発明者】
【氏名】森 澄人
(72)【発明者】
【氏名】茂木 優太
【テーマコード(参考)】
5G325
【Fターム(参考)】
5G325BC01
(57)【要約】
【課題】高周波送電における損失を低減できる電線の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示は、絶縁性かつ円筒状又は円柱状の芯材と、芯材を囲むように配置された円筒状の集合導体と、集合導体を被覆する絶縁被覆とを備える電線の製造方法である。電線の製造方法は、集合導体の外周面からの距離が表皮深さ以下の特定領域における集合導体の占有断面積に基づいて、集合導体を構成する複数の導体素線の半径及び本数を決定する工程と、芯材の外周面に沿って複数の導体素線を配置する工程と、複数の導体素線を芯材の周りに同心撚りすることで集合導体を形成する工程と、芯材及び集合導体を絶縁被覆で被覆する工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性かつ円筒状又は円柱状の芯材と、前記芯材を囲むように配置された円筒状の集合導体と、前記集合導体を被覆する絶縁被覆とを備える電線の製造方法であって、
前記集合導体の外周面からの距離が表皮深さ以下の特定領域における前記集合導体の占有断面積に基づいて、前記集合導体を構成する複数の導体素線の半径及び本数を決定する工程と、
前記芯材の外周面に沿って前記複数の導体素線を配置する工程と、
前記複数の導体素線を前記芯材の周りに同心撚りすることで前記集合導体を形成する工程と、
前記芯材及び前記集合導体を絶縁被覆で被覆する工程と、
を備える、電線の製造方法。
【請求項2】
前記決定する工程では、
前記電線の断面において前記集合導体の外周面よりも内側の第1領域の面積から前記特定領域よりも内側の第2領域の面積を減じたものを前記占有断面積とし、
前記占有断面積の算出に用いる前記集合導体の外径を、同心撚りされる前の前記複数の導体素線の半径と、前記芯材の周方向に並んで配される前記複数の導体素線の本数との関数とする、請求項1に記載の電線の製造方法。
【請求項3】
前記決定する工程では、
前記特定領域内の前記複数の導体素線の断面積の和を前記占有断面積とし、
前記占有断面積の算出に用いる前記特定領域内で前記芯材の径方向に並んで配置される前記複数の導体素線の本数を、前記表皮深さと、同心撚りされる前の前記複数の導体素線の半径との関数とする、請求項1に記載の電線の製造方法。
【請求項4】
前記複数の導体素線は、ぞれぞれ、複数の素線が撚り合わせられた撚り線である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芯材の外周面に複数の導体を配置した高周波送電用の電線が公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-251101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高周波送電では、導体における表皮深さが小さくなるため、電流の損失が大きくなる。そのため、効率よく高周波送電を行うには、電流が集中する表皮深さの範囲での導体密度を高める必要がある。
【0005】
本開示の一局面は、高周波送電における損失を低減できる電線の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、絶縁性かつ円筒状又は円柱状の芯材と、芯材を囲むように配置された円筒状の集合導体と、集合導体を被覆する絶縁被覆とを備える電線の製造方法である。
【0007】
電線の製造方法は、集合導体の外周面からの距離が表皮深さ以下の特定領域における集合導体の占有断面積に基づいて、集合導体を構成する複数の導体素線の半径及び本数を決定する工程と、芯材の外周面に沿って複数の導体素線を配置する工程と、複数の導体素線を芯材の周りに同心撚りすることで集合導体を形成する工程と、芯材及び集合導体を絶縁被覆で被覆する工程と、を備える。
【0008】
このような構成によれば、複数の導体素線を芯材の周りに同心撚りして集合導体を形成することで、導体密度を高めることができる。また、表皮深さの範囲における集合導体の占有断面積が大きくなるように複数の導体素線の半径及び本数を決定できる。そのため、高周波送電における損失を低減できる電線が得られる。
【0009】
本開示の一態様では、決定する工程では、電線の断面において集合導体の外周面よりも内側の第1領域の面積から特定領域よりも内側の第2領域の面積を減じたものを占有断面積とし、占有断面積の算出に用いる集合導体の外径を、同心撚りされる前の複数の導体素線の半径と、芯材の周方向に並んで配される複数の導体素線の本数との関数としてもよい。このような構成によれば、導体素線の配置効率と占有断面積とのバランスをとることができる。
【0010】
本開示の一態様では、決定する工程では、特定領域内の複数の導体素線の断面積の和を占有断面積とし、占有断面積の算出に用いる特定領域内で芯材の径方向に並んで配置される複数の導体素線の本数を、表皮深さと、同心撚りされる前の複数の導体素線の半径との関数としてもよい。このような構成によれば、製造コスト上昇のリスクを回避しつつ、占有断面積を確保して電流の損失を低減させることができる。
【0011】
本開示の一態様では、複数の導体素線は、ぞれぞれ、複数の素線が撚り合わせられた撚り線であってもよい。このような構成によれば、集合導体の単位断面積当たりの抵抗値を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A及び図1Bは、実施形態における電線の模式的な断面図である。
図2図2は、実施形態における電線の製造方法を示すフローチャートである。
図3図3は、第1の方法における占有断面積の算出手順を示す模式図である。
図4図4は、第1の方法における占有断面積と導体素線の本数との関係の一例を示すグラフである。
図5図5A及び図5Bは、第2の方法における単位領域を示す模式図である。
図6図6A図6B図6C及び図6Dは、第2の方法における占有断面積の算出手順を示す模式図である。
図7図7は、第2の方法における占有断面積と導体素線の半径との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
本実施形態の電線の製造方法は、図1A又は図1Bに示す電線10を得る目的で実施される。
【0014】
<電線>
電線10の用途は特に限定されないが、特に高周波電流の伝送に好適に用いられる。電線10は、例えば、鉄道車両、自動車、工場内の搬送装置等の移動体への非接触給電用のコイル、電気高炉における電源内配線又は給電路などにおいて使用される。
【0015】
電線10は、集合導体11と、絶縁被覆12と、芯材13とを備える。
集合導体11は、円筒状であり、芯材13を囲むように配置されている。集合導体11は、筒状に束ねられた複数の導体素線11Aが芯材13の周りに同心撚りされることによって構成されている。なお、導体素線11Aは、同心撚りによって電線10の径方向に圧縮されることで、縮径する。
【0016】
導体素線11Aは、例えば銅又は銅合金等の金属製である。また、複数の導体素線11Aは、それぞれ、金属製の複数の素線が撚り合わせられた撚り線である。導体素線11Aは、芯材13の周りを旋回するように螺旋状に撚られている。
【0017】
絶縁被覆12は、集合導体11を被覆する円筒状の絶縁体である。絶縁被覆12は、集合導体11の外周面上に配置されている。絶縁被覆12は、例えば絶縁性の樹脂によって形成されている。
【0018】
芯材13は、円筒状(図1A参照)又は円柱状(図1B参照)の絶縁体である。芯材13は、集合導体11の内側、つまり集合導体11の中空部に配置されている。集合導体11を構成する複数の導体素線11Aは、芯材13の外周面に沿って配置されている。
【0019】
<電線の製造方法>
本実施形態の電線の接続方法は、図2に示すように、決定工程S10と、配置工程S20と、同心撚り工程S30と、被覆工程S40とを備える。
【0020】
<決定工程>
本工程では、集合導体11の外周面からの距離が表皮深さδ以下の特定領域Rにおける集合導体11の占有断面積に基づいて、集合導体11を構成する複数の導体素線11Aの半径及び本数を決定する。
【0021】
表皮深さδは、集合導体11に高周波電流が流れるときの表皮効果によって、電流が表皮電流(つまり集合導体11の外周面を流れる電流)に対し1/eまで低下する距離を意味する。つまり、特定領域Rは、表皮電流の1/e以上の電流が流れる領域である。
【0022】
表皮深さδは、下記式(1)により算出される。式(1)中、fは周波数[Hz]、μは導体の比透磁率、μは真空の透磁率、σは導体の導電率[S/m]である。
δ=1/(π・f・μ・μ・σ)1/2 ・・・(1)
【0023】
集合導体11の占有断面積の算出、並びに導体素線11Aの半径及び本数の決定は、以下に説明する第1の方法、又は第2の方法によって算出される。
【0024】
(第1の方法)
第1の方法は、特定領域Rにおいて、複数の導体素線11Aが一層に(つまり電線10の径方向には重ならないように)配置される場合を対象とする。第1の方法では、複数の導体素線11Aによって特定領域Rが密に充填され、特定領域Rで導体素線11Aの間には隙間が存在しないと仮定して占有断面積Sを求める。
【0025】
すなわち、第1の方法では、占有断面積Sは、電線10の断面において集合導体11の外周面よりも内側の第1領域の面積から、電線10の断面において特定領域Rよりも内側の第2領域の面積を減じたものとする。
【0026】
具体的には、図3に示す第1円C1の面積から、第2円C2の面積を減じた面積(つまり、第1円C1と第2円C2とで挟まれた特定領域Rの面積)を集合導体11の占有断面積Sとする。なお、図3には、同心撚りされる前の導体素線11Aが図示されている。
【0027】
第1円C1は、同心撚りした後(つまり均した後)の複数の導体素線11Aを包含する最小円であり、集合導体11の外周と一致する。したがって、第1円C1の半径rcは、集合導体11の外径の1/2である。第2円C2は、第1円C1の半径から表皮深さδを減じた半径を有する第1円C1の同心円である。
【0028】
集合導体11の特定領域Rにおける占有断面積Sは、第1円C1の半径rcを用いて、下記式(2)で算出される。
S=π・rc-π・(rc-δ) ・・・(2)
【0029】
第1円C1の半径rcは、下記式(3)により算出される。式(3)中、rmは芯材13の半径(つまり外径の1/2)、tは集合導体11の厚み、raは同心撚りされる前の導体素線11Aの半径、nは芯材13の外周面上に配置された導体素線11Aの本数である。
rc=rm+t=(rm-n・ra1/2 ・・・(3)
【0030】
このように、占有断面積Sの算出(具体的には第1円C1の面積の算出)に用いられる集合導体11の外径(つまり第1円C1の半径)は、式(3)に示される、同心撚りされる前の複数の導体素線11Aの半径raと、芯材13の周方向に並んで配される複数の導体素線11Aの本数nとの関数rc(ra,n)で表される。
【0031】
導体素線11Aの半径raは、芯材13の半径rmと導体素線11Aの本数nとに対し、下記式(4)の関係を有する。
【0032】
【数1】
【0033】
式(2)、式(3)及び式(4)から、芯材13の半径rmが固定されたとき、占有断面積Sは、導体素線11Aの本数nの関数となる。図4に示すように、占有断面積Sは、導体素線11Aの本数nが増加するに伴って減少する。占有断面積Sの減少率は、導体素線11Aの本数nが大きいほど小さくなる。
【0034】
導体素線11Aの本数nは、必要とされる占有断面積Sが確保される数以下に制限される。一方、導体素線11Aの本数nが小さくなると導体素線11Aの半径raが増加する。すなわち、導体素線11Aの本数nが小さいほど特定領域R外に配置される導体素線11Aの部位が大きくなるため、導体素線11Aの配置効率が低下する。
【0035】
以上から、nの増加に対するSの減少率(つまり微分値)が予め定めた閾値を初めて超えるnの値を導体素線11Aの本数とすることで、配置効率と占有断面積Sとのバランスをとることができる。
【0036】
以上のように、第1の方法では、式(2)、式(3)及び式(4)によって表される占有断面積Sに基づいて、複数の導体素線11Aの本数nを決定する。
【0037】
(第2の方法)
第2の方法は、特定領域Rにおいて、複数の導体素線11Aが多層に(つまり電線10の径方向に多段に重ねて)配置される場合を対象とする。
【0038】
第2の方法では、特定領域Rにおける複数の導体素線11A間に隙間が存在すると仮定して占有断面積Sを求める。つまり、第2の方法では、集合導体11の占有断面積Sは、特定領域R内の複数の導体素線11Aの断面積の和とされる。
【0039】
具体的には、図5Aに示すように、まず、特定領域Rを、一辺の長さが表皮深さδ、他片の長さが2raである長方形状の単位領域R0に分割する。なお、図5Aでは、図の左側が電線10の径方向外側である。また、raは同心撚りされる前の導体素線11A(図5Aの導体素線W1-W4)の半径である。
【0040】
単位領域R0では、最外層の第1導体素線W1と最内層の第4導体素線W4との間に2つの中間層の第2導体素線W2及び第3導体素線W3が配置されている。第1導体素線W1と第4導体素線W4とは、中心軸が電線10の半径方向に並ぶように配置されている。なお、第1導体素線W1は、図5Aでは、1層で配置されているが、多層状に(つまり径方向に複数本並んで)配置されてもよい。
【0041】
第2導体素線W2と第3導体素線W3は、それぞれ、第1導体素線W1と第4導体素線W4とに接している。また、第2導体素線W2と第3導体素線W3とは、電線10の周方向に接している。第2導体素線W2と第3導体素線W3との接点は、第1導体素線W1の中心と第4導体素線W4の中心とを結ぶ線分上に存在する。
【0042】
電線10の中心軸と垂直な断面において、第1導体素線W1は、全体が単位領域R0に含まれる。一方、第4導体素線W4の一部の領域(つまり芯材13に近い領域)は、単位領域R0に含まれない。
【0043】
第2導体素線W2及び第3導体素線W3それぞれの電線10の周方向における半分は、単位領域R0に含まれない。そのため、第2導体素線W2の単位領域R0に含まれる部分の断面積と、第3導体素線W3の単位領域R0に含まる部分の断面積とを足し合わせたものは、図5Bに示すように、1つの仮想導体素線W5の断面積と等しい。
【0044】
仮想導体素線W5は、単位領域R0において、第1導体素線W1と第4導体素線W4とにそれぞれ重なっている。第2の方法では、単位領域R0を用いて、第1導体素線W1の断面積と、仮想導体素線W5のうち特定領域Rに含まれる部分の断面積と、第4導体素線W4のうち特定領域Rに含まれる部分の断面積との和を、占有断面積Sとする。
【0045】
具体的には、第2の方法では、図6Aに示すように、単位領域R0における第1面積S1、第2面積S2、及び第3面積S3を求める。
【0046】
図6Bに示すように、第1面積S1(図6A参照)は、第1導体素線W1全体の断面積S11と、仮想導体素線W5のうち第4導体素線W4よりも径方向外側の部分の断面積S12との和である。断面積S11は、下記式(5)で求められる。
S11=i・πra ・・・(5)
【0047】
iは、第1導体素線W1の総数(つまり単位領域R0に含まれる本数)であり、下記式(6)で表されるように、表皮深さδを第1導体素線W1の直径2raで除したときの最大の整数である。
【0048】
【数2】
【0049】
断面積S12は、中心角が(2π-θ)の扇形の面積であり、下記式(7)及び式(8)で求められる。
【0050】
【数3】
【0051】
【数4】
【0052】
(j-i)は、単位領域R0に含まれる仮想導体素線W5の本数である。jは、下記式(9)で表されるように、表皮深さδを31/2raで除したときの最大の整数であり、(j-i)は、1又は0である。
【0053】
【数5】
【0054】
式(9)によって求められるjは、特定領域R内で芯材13の径方向に並んで配置される複数の導体素線11Aの本数である。このように、占有断面積Sの算出に用いられる複数の導体素線11Aの径方向の本数は、表皮深さδと、同心撚りされる前の複数の導体素線11Aの半径raとの関数j(δ,ra)で表される。
【0055】
図6Cに示すように、第2面積S2(図6A参照)は、仮想導体素線W5のうち単位領域R0に含まれる部分の断面積S21から、第1面積S1の算出で用いた断面積12を引いた値である。
【0056】
断面積S21は、中心角が(2π-α)の扇形の面積であり、下記式(10)及び式(11)で求められる。
【0057】
【数6】
【0058】
【数7】
【0059】
図6Dに示すように、第3面積S3(図6A参照)は、中心角がβの扇形の面積S31から、二等辺三角形の面積S32を減じた値であり、下記式(12)及び式(13)で求められる。
【0060】
【数8】
【0061】
【数9】
【0062】
以上の第1面積S1、第2面積S2及び第3面積S3により、単位領域R0における集合導体11の断面積S0は、下記式(14)で求められる。
S0=S1+S2+S3=(S11+S12)+(S21-S12)+S3
=S11+S21+S3 ・・・(14)
【0063】
特定領域Rにおける集合導体11の占有断面積Sは、下記式(15)で求められる。式(15)中、S10は単位領域R0の面積、S20は、特定領域Rの面積である。
S=(S0/S10)・S20 ・・・(15)
【0064】
式(15)によって得られる占有断面積Sは、図7に示すように、導体素線11Aの半径raが増加するに伴って減少する。また、占有断面積Sの減少率は、導体素線11Aの半径raが大きいほど小さくなる。
【0065】
導体素線11Aの半径raは、必要とされる占有断面積Sが確保される値以下に制限される。一方、導体素線11Aの半径raが小さくなると、素線の強度及び製造のし易さが低下する。そのため、半径raを小さくしすぎると、品質低下及び製造コスト上昇のリスクが生じる。
【0066】
以上から、raの増加に対するSの減少率(つまり微分値)が予め定めた閾値を初めて超えるraの値を導体素線11Aの半径とし、この半径に応じて導体素線11Aの本数を決定することで、上述したリスクを回避しつつ、占有断面積Sを確保することができる。
【0067】
このように、第2の方法では、式(15)によって表される占有断面積Sに基づいて、複数の導体素線11Aの半径raを決定する。
【0068】
<配置工程>
本工程では、芯材13の外周面に沿って複数の導体素線11Aを配置する。配置される導体素線11Aの本数及び半径は、決定工程S10で決定されたものである。
【0069】
<同心撚り工程>
本工程では、複数の導体素線11Aを芯材13の周りに同心撚りすることで、集合導体11を形成する。同心撚りにより、複数の導体素線11Aが芯材13の中心に向けて圧縮される。
【0070】
<被覆工程>
本工程では、同心撚り工程S30後の芯材13及び集合導体11を絶縁被覆12で被覆する。これにより、高周波送電用の電線10が得られる。
【0071】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)複数の導体素線11Aを芯材13の周りに同心撚りして集合導体11を形成することで、導体密度を高めることができる。また、表皮深さδの範囲における集合導体11の占有断面積Sが大きくなるように複数の導体素線11Aの半径ra及び本数nを決定できる。そのため、高周波送電における損失を低減できる電線10が得られる。
【0072】
(1b)第1の方法によって、導体素線11Aの配置効率と占有断面積Sとのバランスをとることができる。
(1c)第2の方法によって、製造コスト上昇のリスクを回避しつつ、占有断面積Sを確保して電流の損失を低減させることができる。
【0073】
(1d)複数の導体素線11Aがそれぞれ複数の素線が撚り合わせられた撚り線であることで、集合導体11の単位断面積当たりの抵抗値を低減することができる。
【0074】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0075】
(2a)上記実施形態の電線の製造方法において、複数の導体素線は、必ずしも撚り線でなくてもよい。
【0076】
(2b)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0077】
10…電線、11…集合導体、11A…導体素線、12…絶縁被覆、13…芯材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7