(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090456
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】下水汚泥発酵原料及び下水汚泥の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/02 20060101AFI20230622BHJP
C05F 17/00 20200101ALI20230622BHJP
C05F 7/00 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
C02F11/02
C05F17/00
C05F7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205419
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 知昭
(72)【発明者】
【氏名】古賀 明宏
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】宮下 裕之
【テーマコード(参考)】
4D059
4H061
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059BA06
4D059BA48
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4H061GG41
4H061GG49
4H061GG68
4H061GG69
4H061LL25
(57)【要約】
【課題】好気発酵を安定的に進行させることができ、下水汚泥の種類や栄養源資材の種類によらず、下水汚泥を安定して発酵させることができる発酵原料を提供すること。
【解決手段】本発明の好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥と栄養源とを含む。前記下水汚泥100質量部に対して、前記栄養源に由来する粗脂肪及び粗蛋白を、それらの合計量で3.5質量部以上130質量部以下含む。前記栄養源に由来する粗脂肪を、前記下水汚泥100質量部に対して0.07質量部以上104質量部以下含むことが好適である。前記栄養源に由来する粗蛋白を、前記下水汚泥100質量部に対して0.7質量部以上127質量部以下含むことも好適である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥と栄養源とを含む好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料であって、
前記下水汚泥100質量部に対して、前記栄養源に由来する粗脂肪及び粗蛋白を、それらの合計量で3.5質量部以上130質量部以下含む、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料。
【請求項2】
前記栄養源に由来する粗脂肪を、前記下水汚泥100質量部に対して0.07質量部以上104質量部以下含む、請求項1に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項3】
前記栄養源に由来する粗蛋白を、前記下水汚泥100質量部に対して0.7質量部以上127質量部以下含む、請求項1又は2に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項4】
前記栄養源は、該栄養源100質量部に対して粗脂肪を1質量部以上20質量部以下含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項5】
前記栄養源は、該栄養源100質量部に対して粗蛋白を5質量部以上45質量部以下含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項6】
前記栄養源は米糠、おから及び油粕からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項7】
通気助材を更に含む、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項8】
下水汚泥及び栄養源を含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備え、
前記下水汚泥100質量部に対して、前記栄養源に由来する粗脂肪及び粗蛋白を、それらの合計量で3.5質量部以上130質量部以下含む前記下水汚泥発酵原料を用いる、下水汚泥の処理方法。
【請求項9】
前記下水汚泥発酵原料を密閉式且つ縦型の発酵槽内で好気発酵させる、請求項8に記載の下水汚泥の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥を好気発酵させるための原料及び下水汚泥の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥は、有機物及び水を含む泥状の物質であり、生活活動に伴う下水処理の過程で不可避的に排出されるものである。下水汚泥は、その排出量が下水処理量の増加に伴って増えており、都市ゴミと同様に、その処理が問題となっている。下水汚泥を処理するために、例えば該汚泥を焼却処理して、その際に生じた熱をエネルギー源として利用する試みが行われているが、更なる効率的な焼却処理を行うために、下水汚泥の含水率を下げることが望まれている。
【0003】
下水汚泥の含水率を安価に低下させる技術として、下水汚泥を好気発酵させる技術が知られている。例えば、特許文献1~3には、脱水効率の向上や減容化等のために、有機汚泥と有機質資材とを混合して発酵する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-079873号公報
【特許文献2】特開2005-111374号公報
【特許文献3】特開2009-274908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、好気発酵を安定的に行うためには、処理対象物に含まれる微生物の栄養源となる栄養素及び含水率、pH、通気量などの各種条件の最適化が必要である。下水処理の過程でメタン発酵を経た消化汚泥などの、微生物の栄養源となる栄養素の含有量が少ない下水汚泥を対象に好気発酵処理を行う場合、栄養素の不足に起因して微生物の活動が低調となり、対象物の好気発酵処理が十分に行えないことがある。
【0006】
このような微生物の活動が低調となった発酵系の好気発酵状態を改善する方法として、特許文献1~3では、栄養素を豊富に含む資材(以下「栄養源」又は「栄養源資材」ともいう。)を添加している。しかし、好気発酵処理の対象物として下水汚泥を使用する場合、下水汚泥の種類、並びに、添加する栄養源資材の種類及び添加量によっては、下水汚泥に含まれる微生物に適した栄養素が不足して、良好な好気発酵状態の維持が困難となる場合がある。したがって、好気発酵を良好に進行させるためには、使用する下水汚泥及び資材ごとに適切な材料設計を行うことが重要であった。
【0007】
下水汚泥発酵原料の材料設計においては、従来、実設備又は大容量の発酵槽からなる試験装置で試験されており、大量の試料が必要且つ時間を要するという問題があった。更に、近年、下水汚泥の発酵処理は全国各地に展開され始め、使用される下水汚泥や資材についても、近隣地域で入手が容易なものを選択することが推奨されていることから、使用される資材の種類は多岐にわたっている。そのため、栄養源資材の種類が異なる場合でも、好気発酵が良好に進行する下水汚泥発酵原料の材料配合が求められていた。
【0008】
したがって本発明の課題は、下水汚泥に添加する栄養源資材の種類によらず、安定的に発酵促進できる下水汚泥発酵原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下水汚泥に添加する栄養源に含まれる成分の中でも、粗脂肪及び粗蛋白の合計量によって、下水汚泥の発酵性が大きく変化することを見出した。本発明者はこれらの知見に基づき、下水汚泥に対し、栄養源に由来する粗脂肪及び粗蛋白の合計量が所定の範囲となるように、栄養源を下水汚泥へ添加することで、使用する栄養源の種類によらず、発酵対象物である下水汚泥の発酵が安定して促進されることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下水汚泥と栄養源とを含む好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料であって、
前記下水汚泥100質量部に対して、前記栄養源に由来する粗脂肪及び粗蛋白を、それらの合計量で3.5質量部以上130質量部以下含む、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料を提供するものである。
【0011】
また本発明は、下水汚泥及び栄養源を含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備え、
前記下水汚泥100質量部に対して、前記栄養源に由来する粗脂肪及び粗蛋白を、それらの合計量で3.5質量部以上130質量部以下含む前記下水汚泥発酵原料を用いる、下水汚泥の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、下水汚泥に栄養源資材を特定量添加するという簡便な操作のみで、好気発酵を安定的に進行させることができ、下水汚泥の種類や栄養源資材の種類によらず、下水汚泥を安定して発酵させることができる。更に、セメント工場のような工業地域や、下水処理場のような下水汚泥の発生元において、性状の異なる複数の下水汚泥及び栄養源資材を利用し、簡便且つ安定的に発酵処理することができ、資源の有効利用に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、密閉式縦型発酵槽の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例及び比較例における好気発酵評価に用いた発酵容器の外観及び寸法を示す模式的な斜視図であり、
図2(b)は温度測定時における各部材の配置位置を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の下水汚泥発酵原料は、その材料として、下水汚泥と、栄養源とを含む。この下水汚泥発酵原料は、下水汚泥の好気発酵処理に好適に用いられるものである。
【0016】
本発明に用いられる下水汚泥は、下水処理の過程で生じる廃棄物であり、有機物、無機物及び水を含む泥状の物質である。下水汚泥は、典型的には、活性汚泥法方式の排水処理設備から排出される余剰汚泥を脱水したものである。このような下水汚泥としては、例えば下水処理場で発生する一般下水汚泥、し尿処理施設で発生するし尿汚泥及び浄化槽汚泥などが挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて用いることができる。下水汚泥は、未消化汚泥としてそのまま用いてもよく、あるいは、消化汚泥などの下水汚泥の自己発酵処理物を用いてもよい。本発明によれば、微生物の栄養源となる栄養素が少ない消化汚泥であっても、好気発酵を十分に行うことができるという利点がある。
下水汚泥の含水率は特に限定されないが、例えば、50質量%以上90質量%以下程度であり、好ましくは50質量%以上85質量%以下である。下水汚泥の種類は、その含水率、消化の有無、及び脱水処理方法の少なくとも一つに基づいて選別することができる。
【0017】
本発明に用いられる栄養源は、粗脂肪及び粗蛋白を含むものである。一般的に、好気性微生物の栄養源としては、分解速度が速いものから、粗糖分、粗蛋白、粗脂肪、及び粗繊維などが挙げられるところ、本発明の下水汚泥発酵原料の好気発酵においては、好気性微生物による分解速度が中程度の粗脂肪及び粗蛋白の合計量が所定量となるように下水汚泥に栄養源資材を添加することで、好気発酵が安定的に進行することを見出した。また、好気性微生物の栄養源として用いられる資材には、粗脂肪及び粗蛋白を比較的多く含むものが多いことから入手が容易であるという利点もある。
【0018】
粗脂肪とは、食品や飼料などに含まれる脂溶性物質のことである。粗脂肪には、純粋な脂肪以外に、脂肪に溶解しているビタミンや他の成分も含まれる。栄養源に含まれる粗脂肪の含量は、ソックスレー抽出法により、求めることができる。ソックスレー抽出法は、脂肪が水には溶けず、有機溶媒によく溶ける性質を利用したもので、試料をエーテルで処理して試料中の脂肪をエーテル内に溶出させ、ろ過回収した溶液からエーテルを蒸発させることにより、残留する脂肪分を秤量する方法である。
【0019】
一方、粗蛋白とは、食品や飼料などに含まれる蛋白質のことである。粗蛋白には、アミノ酸やアミン類が含まれる。粗蛋白の含量は、試料を熱濃硫酸で酸化分解し、アンモニアやアミノ基をすべてアンモニウムイオンに変換し、その量を定量して求めた窒素量に、窒素換算係数とよばれる蛋白質の窒素含量の逆数を乗じて求める。
【0020】
本発明の下水汚泥発酵原料は、前記栄養源に由来する粗脂肪及び粗蛋白をそれらの合計量で、下水汚泥100質量部に対して、3.5質量部以上130質量部以下含むことが好ましく、4.0質量部以上80質量部以下含むことがより好ましく、4.5質量部以上50質量部以下含むことが更に好ましい。
【0021】
本発明の下水汚泥発酵原料に栄養源由来の粗脂肪及び粗蛋白を特定量で含有させることによって、好気発酵が安定的に進行する理由を、本発明者は以下のように推測している。
栄養源に含まれる粗脂肪及び粗蛋白は、下水汚泥中に存在する微生物の好適な栄養素となる。この場合、下水汚泥に対して、粗脂肪及び粗蛋白の合計量を特定範囲の量、すなわち上述のとおり、下水汚泥100質量部に対して好ましくは3.5質量部以上130質量部以下の範囲で含有させると、微生物への栄養素の供給量が必要十分となり、好気発酵が安定的に進行するものと考えられる。下水汚泥の量に対して粗脂肪及び粗蛋白の配合量が少なすぎると、微生物への栄養素の供給量が不足し、また下水汚泥と栄養源の混合不良が起こりやすい。下水汚泥の量に対して粗脂肪及び粗蛋白の配合量が過度に多くなると、下水汚泥の処理量が低下し、また発酵原料中の微生物量が不足して好気発酵が安定的に行えなくなる可能性がある。
【0022】
下水汚泥に対する粗脂肪及び粗蛋白の合計量の好ましい範囲は上述のとおりであることころ、下水汚泥に対する粗脂肪及び粗蛋白の量それぞれの好ましい範囲は以下のとおりである。
粗脂肪に関しては、本発明の下水汚泥発酵原料は、栄養源に由来する粗脂肪を、下水汚泥100質量部に対して0.07質量部以上104質量部以下含むことが好ましく、0.28質量部以上50質量部以下含むことが更に好ましく、0.56質量部以上25質量部以下含むことが一層好ましい。粗脂肪の量をこの範囲に設定することで、微生物に対する栄養素の供給量が必要十分となるので好ましい。
一方、粗蛋白に関しては、本発明の下水汚泥発酵原料は、栄養源に由来する粗蛋白を、下水汚泥100質量部に対して0.7質量部以上127質量部以下含むことが好ましく、1.4質量部以上74質量部以下含むことが更に好ましく、2.2質量部以上44質量部以下含むことが一層好ましい。粗蛋白の量をこの範囲に設定することで、微生物に対する栄養素の供給量が必要十分となるので好ましい。
【0023】
粗脂肪及び粗蛋白を含む栄養源としては、例えば食品、飼料、食品汚泥、廃白土、肉骨粉、廃食油、生ごみ、し尿、家禽や家畜などの糞、種汚泥等が挙げられる。これらの栄養源は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、特に栄養価が高いこと、並びに粗脂肪及び粗蛋白の合計量を上述の範囲に設定しやすいことから、栄養源として、米糠、おから及び油粕からなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。油粕としては、例えば菜種、胡麻、綿実、大豆及びとうもろこしなどから油を搾り取った残渣を用いることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられる栄養源は、該栄養源100質量部に対して粗脂肪を1質量部以上20質量部以下含むことが、下水汚泥中の好気性微生物による分解速度が最適となるように、好気発酵に十分な量の粗脂肪を供給できる観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、栄養源は、該栄養源100質量部に対して粗脂肪を3質量部以上17.5質量部以下含むことが更に好ましく、5質量部以上15質量部以下含むことが一層好ましい。
【0025】
一方、本発明で用いられる栄養源は、該栄養源100質量部に対して粗蛋白を5質量部以上45質量部以下含むことが、下水汚泥発酵原料中の好気性微生物による分解速度が最適となるように、好気発酵に十分な量の粗蛋白を供給できる観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、栄養源は、該栄養源100質量部に対して粗蛋白を10質量部以上40質量部以下含むことが更に好ましく、15質量部以上35質量部以下含むことが一層好ましい。
【0026】
本発明で用いられる栄養源に含まれる粗脂肪と粗蛋白との比率は、質量比で表して、粗脂肪/粗蛋白の値が0.02以上4以下であることが、好気性微生物の栄養源としてのバランスの観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、栄養源における粗脂肪/粗蛋白の質量比は、0.075以上1.75以下であることが更に好ましく、0.14以上1以下であることが一層好ましい。
【0027】
本発明で用いられる栄養源は、粗脂肪及び粗蛋白の量が上述した値であれば特段限定されるものではないが、栄養源はその強熱減量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。栄養源の強熱減量は、該栄養源に含まれる有機成分の量を反映しており、このような強熱減量を有する栄養源を用いることによって、好気発酵を更に促進させることができ、下水汚泥の発酵処理を効率よく行うことができる。栄養源の強熱減量は、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」により測定される。
【0028】
また本発明で用いられる栄養源は、その固形分発熱量が4000kcal/kg以上であるものを用いることが好ましく、4300kcal/kg以上であるものを用いることが更に好ましく、4500kcal/kg以上であるものを用いることが一層好ましい。この固形分発熱量は、栄養源一種あたりの発熱量である。一般的に、固形分発熱量が高いことは、好気発酵の進行に有用な栄養成分の一つである有機分が多く含まれていることを意味するので、このような発熱量を有する栄養源を用いることによって、好気発酵を更に促進させることができ、下水汚泥の発酵処理を効率よく行うことができる。このような発熱量を有する栄養源としては、例えば米糠、おから、油粕などが挙げられる。
【0029】
更に本発明で用いられる栄養源は、その含水率が10質量%以下であることが好ましく、7.5質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。このような含水率を有する栄養源を用いることによって、該栄養源を下水汚泥と混合した場合に、混合物の粘性や付着性の増加が抑制され、通気性を良好に保つことができる。その結果、好気発酵を安定して行うことができる。
栄養源の含水率の下限値は、下水汚泥に混合した場合の粘性や付着性の観点から決定される。この観点から、栄養源の含水率の下限値は0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、1質量%以上であることが一層好ましい。
栄養源の含水率は、飼料分析法に準拠し、135℃で2時間乾燥後の重量減少より測定される。
【0030】
本発明で用いられる栄養源は、採取された直後の含水状態のものをそのまま用いることができ、あるいは、乾燥させたものを用いることもできる。含水状態の栄養源は、一般的な方法で乾燥させることができ、例えば、熱風対流式乾燥器による強制乾燥や、天日による自然乾燥などにより乾燥させることができる。上述した含水率は、栄養源を下水汚泥と混合するときの値である。
【0031】
本発明の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥及び栄養源のみから構成されていてもよい。あるいは、これらに加えて、下水汚泥及び栄養源以外の他の資材(以下、これを単に「資材」ともいう。)を更に含むことも好ましい。
【0032】
資材としては、例えば、下水汚泥発酵原料を発酵に供する際に安定的な好気発酵を促すための材料が挙げられる。具体的には、下水汚泥の含水率を低減させたり、下水汚泥発酵原料の発酵時における通気性を向上させたり、好気発酵に寄与する多種多様の微生物を供給したり、する等を目的とした材料が挙げられる。
【0033】
特に、下水汚泥発酵原料の通気性を向上させて下水汚泥の好気発酵を促すための資材として、下水汚泥発酵原料は通気助材を更に含むことが好ましい。通気助材を含むことによって、下水汚泥発酵原料の圧密の状態に依存せず、下水汚泥発酵原料の通気性を簡便に改善することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的に行うことができる。特に、例えば後述する縦型発酵槽を用いて好気発酵する場合、下水汚泥発酵原料の堆積に起因して発酵槽内の下水汚泥が圧密され、下水汚泥の好気発酵が進行しづらくなるところ、通気助材を含むことによって、過度の圧密状態となることを更に抑制しつつ通気性を更に確保することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的且つ効果的に進行させることができる点で有利である。
【0034】
通気助材としては、例えば、稲わら、もみがら、草木又はこれらの乾燥物若しくは破砕物などの有機系通気助材や、パーライト、ゼオライト、珪藻土、若しくはフライアッシュ等の石炭灰などの無機系通気助材等が挙げられる。これらの材料は単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0035】
下水汚泥発酵原料が通気助材を更に含む場合、下水汚泥発酵原料における通気助材の含有量は、下水汚泥100質量部に対して、好ましくは5質量部以上50質量部以下、より好ましくは5質量部以上30質量部以下、更に好ましくは5質量部以上15質量部以下である。このとき、基準となる下水汚泥及び通気助材の質量はいずれも含水状態での質量とする。通気助材を複数種含む場合、通気助材の含有量は総量に基づく。このような範囲にあることによって、発酵開始から終了までの長い期間にわたって、下水汚泥発酵原料が過度の圧密状態となることを抑制しつつ通気性を均一に確保することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的且つ効果的に進行させることができる。
【0036】
発酵初期の時点から好気発酵を安定的に進行させるために十分な水分量を確保する観点から、下水汚泥発酵原料全体の含水率は、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。含水率は、例えば市販のハロゲン水分計を用いて、120℃の加熱温度で乾燥したときの乾燥前後の質量の差に基づいて測定することができる。またこれに代えて、JIS A 1203「土の含水比試験方法」に準じて測定することができる。下水汚泥発酵原料の含水率は、例えば、含水率が高い下水汚泥と、乾燥状態の栄養源とを用いるなどして、所望の含水率となるように原材料を選択したり、原材料又は下水汚泥発酵原料に対して、水を添加したりすることによって適宜調整することができる。
【0037】
このような材料を含む下水汚泥発酵原料は、例えば下水汚泥及び栄養源と、必要に応じて各種資材とを混合するか又は堆積させて、混合物又は堆積物として製造することができる。詳細には、下水汚泥及び栄養源と、必要に応じて各種資材とを混合して下水汚泥発酵原料を得る方法、又は、屋内若しくは屋外で、各材料を任意の順序で堆積させた堆積物として下水汚泥発酵原料を得る方法等が挙げられる。あるいは、材料のうちいずれかを発酵槽等の容器に供給し、次いで他の材料を任意の順序で該容器内に供給して、該容器内で各原料を交互に若しくはランダムに堆積させた堆積物とし、これをそのままで、又はこれに加えて、該堆積物を発酵槽等の容器内で混合した混合物として、下水汚泥発酵原料を得る方法が挙げられる。
【0038】
上述の下水汚泥発酵原料は、堆積物及び混合物のいずれの形態であっても、下水汚泥の好気発酵処理の用途に適したものとなる。下水汚泥発酵原料は、これをそのまま屋外又は屋内に配するか、あるいはこれを堆積物又は混合物として容器内に収容して、下水汚泥の好気発酵処理を行うことができる。
【0039】
詳細には、下水汚泥発酵原料は、これを堆肥舎内に堆積させたり、これを開放系又は密閉系の発酵槽に収容したりして、下水汚泥を好気発酵させることができる。下水汚泥発酵原料を発酵槽に供給して好気発酵処理に供する場合、発酵槽内の撹拌設備の有無あるいは撹拌方法は問わず、発酵初期から長期間にわたり安定的に好気発酵を行い、下水汚泥を効率よく処理することができる。悪臭などの周囲環境への悪影響を低減する観点から、下水汚泥発酵原料中の下水汚泥を好気発酵処理させる場合、密閉系の発酵槽内で好気発酵させることが好ましい。密閉系とは、好気発酵時において外部環境からの空気の侵入や発酵槽内から発生した発酵ガスの外部への流出が制御された反応系を指し、開放系とは、空気やガスなどの気体の侵入及び流出が何ら制御されていない反応系を指す。
【0040】
特に、本発明の下水汚泥発酵原料は、密閉可能且つ縦型の発酵槽(以下、これを「密閉式縦型発酵槽」ともいう。)を用いて、密閉状態で好気発酵させて下水汚泥を発酵処理する場合に、成分の配合や通気量等の環境条件を発酵状態に応じて都度変更しなくとも、下水汚泥の好気発酵を長期間にわたり安定的に進行させることができるので好適である。つまり、下水汚泥を発酵処理する方法として、下水汚泥及び栄養源と、必要に応じて資材とを任意の順序で密閉式縦型発酵槽内に供給するか、あるいはこれらの原料を含む混合物を密閉式縦型発酵槽内に供給して、好気発酵させる工程を有することが好ましく、当該工程は密閉系で行われることが更に好ましい。密閉式縦型発酵槽は、該発酵槽内を撹拌する撹拌設備を備えて、発酵槽内に供給された各原料を連続的に又は断続的に撹拌してもよい。
【0041】
図1には、本発明の下水汚泥発酵原料を発酵処理に好適に用いられる密閉式縦型発酵槽の一実施形態が示されている。密閉式縦型発酵槽10は、設置面に対して鉛直方向に延びており、下水汚泥及び栄養源と、必要に応じて資材の混合物を収容可能な筒状の槽部20を有し、その上部に、該混合物を槽部20に投入可能な投入口30と、該槽部20の下部に、好気発酵処理された下水汚泥発酵原料を槽部20外へ排出可能な排出口40とを備えている。投入口30及び排出口40はともに開閉可能又は脱着可能な蓋状部材(図示せず)が設けられ、該蓋状部材を投入口30及び排出口40に装着することによって、発酵槽10における槽部20を密閉可能に構成されている。つまり、密閉式縦型発酵槽10は密閉系で下水汚泥の好気発酵を行って、下水汚泥を処理することができるものである。
【0042】
好気発酵効率をより向上させる観点から、密閉式縦型発酵槽10は、例えば槽部20の外周面に断熱材を配する等の方法によって、断熱構造を有していることが好ましい。また、密閉式縦型発酵槽10は、発酵槽内の原材料を混合して、成分の存在状態や通気性を均一にするための撹拌設備50を備えていることも好ましい。
図1に示す撹拌設備50は、例えば槽部20内に設けられた撹拌翼51と、該撹拌翼51に接続された撹拌軸52と、槽部20外に設けられたモータ(図示せず)とを備えている。撹拌翼51は、撹拌軸52を介して槽部20外に設けられたモータに接続されており、モータを駆動源として一定方向に回転するようになっている。撹拌設備50を更に備えることによって、反応系内の通気性を高めて、下水汚泥発酵原料の好気発酵効率を一層向上させることができる。
【0043】
また、密閉式縦型発酵槽10は、空気や酸素などの酸素含有気体を発酵槽内に供給するための空気流通設備60と、槽部20内の気体を槽部20外へ排気可能な排気口70とを備えていることも好ましい。これによって、反応系内外の空気やガスの流通を適切に制御して、特に密閉系において、好気発酵をより効率的に促進させることができる。
【0044】
図1に示す形態では、酸素含有気体Fは、槽部20外に設けられた空気流通設備60から、好ましくは中空の撹拌軸52及び撹拌翼51の各内部を介して、撹拌翼51の鉛直方向下方側に供給できるようになっている。撹拌翼51の鉛直方向下方側には、酸素含有気体Fを流通可能な気体流通孔(図示せず)を複数備えていることも好ましい。槽部20内に存在する酸素含有気体及び好気発酵によって生じたガスは、排気口70を介して、排気空気として槽部20の上部から排気される。
【0045】
酸素含有気体の供給を発酵槽の全体に行いやすくして、下水汚泥の好気発酵効率を高める観点から、酸素含有気体Fは槽部20の鉛直方向下方側から供給され、且つ、酸素含有気体F及びガスは、槽部20の鉛直方向上方側から排気されることが好ましい。下水汚泥発酵原料は、投入口30から連続的又は断続的に発酵槽における槽部20内に投入し、下水汚泥発酵原料を発酵槽内で2週間程度好気発酵させ、その後、発酵した下水汚泥発酵原料を汚泥発酵物として排出口から排出する。
【0046】
下水汚泥発酵原料を好気発酵に供することで生成される汚泥発酵物は、例えば肥料、土壌改良材、園芸用土壌等の緑農地材料、セメントクリンカ原料、固形燃料等の用途に用いることができ、資源の有効利用が可能となる。特に、汚泥発酵物は、これを石灰石などの原料と混合してセメントクリンカ原料として使用することが、生成された汚泥発酵物の有効使用量を増加させて資源の有効利用に一層寄与できる点から好ましい。また、この汚泥発酵物は、下水汚泥発酵原料の調製にあたって、本発明の栄養助材として再利用することも可能であり、この点でも資源の有効利用に寄与する。
【0047】
上述の説明から明らかなとおり、本明細書は、下水汚泥発酵原料だけでなく、下水汚泥発酵原料の製造方法、並びに下水汚泥発酵原料を用いた下水汚泥の処理方法も開示する。
下水汚泥の処理方法は、下水汚泥及び栄養源を含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備えるものである。本処理方法に用いられる下水汚泥発酵原料に含まれる下水汚泥及び栄養源、並びに必要に応じて含まれる各種資材の種類及びその含有量に関しては、上述した説明が適宜適用される。
【実施例0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下に示す原料における含水率の測定は、ハロゲン水分計(アズワン株式会社製HM1105)を用いて120℃の加熱温度で乾燥したときの質量差から算出した。また、以下に示す発熱量は、固形分発熱量を示す。
【0049】
〔実施例1~6及び比較例1~2〕
[下水汚泥発酵原料の調製]
栄養源として米糠を用いた場合について説明する。以下の(1)及び(2)に示す下水汚泥及び米糠を以下の表1に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水率が45.9質量%~80.7質量%の下水汚泥発酵原料を調製した。
【0050】
(1)下水汚泥:下水処理場から入手した消化汚泥(含水率84.4質量%)
(2)米糠:粗脂肪14.2質量%、粗蛋白11.9質量%、含水率7.4質量%、強熱減量92.2質量%、発熱量4669kcal/kg
【0051】
[好気発酵試験]
実施例及び比較例の下水汚泥発酵原料を好気発酵処理に供して、下水汚泥の好気発酵の進行度合を試料の温度変化として評価した。発酵容器として500mL容量のポリビーカーと、該ビーカーの側面及び底面を覆う簡易断熱容器を用いた。これらの配置位置及び寸法は、
図2(a)に示すとおりとした。各実施例及び比較例の下水汚泥発酵原料を、ポリビーカーへ約400mLずつ収容し、試料を調製した。
【0052】
次いで、各試料を収容したポリビーカーを
図2(b)に示すように断熱容器に設置し、ポリビーカー内の試料中心部にT型熱電対(株式会社チノー製)を挿入した。熱電対にデータロガーを接続し、試料の温度を連続的に計測可能な状態で好気発酵に供した。これらの実験は20℃に設定した室内で8日間行った。
好気発酵の進行度合は、測定された最高温度で評価した。最高温度が高いほど、下水汚泥の好気発酵が安定的に進行していることを意味する。下水汚泥を安定的に好気発酵処理する観点から、ピーク温度が38℃以上を合格とした。結果を以下の表1に示す。
【0053】
【0054】
表1に示すように、下水汚泥に対して栄養源由来の粗脂肪及び粗蛋白の合計量が所定の範囲となるように、米糠を添加した実施例1~6の下水汚泥発酵原料は、各比較例と比較してピーク温度が高かった。この理由は、下水汚泥に栄養源由来の粗脂肪及び粗蛋白を所定量混合することにより、発酵に必要な栄養源が十分に供給されたためと考えられる。以上より、実施例の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥に特定の材料を特定量添加するという簡便な操作で、安定的に下水汚泥の好気発酵を進行させることができる。
【0055】
〔実施例7~11及び比較例3~5〕
[下水汚泥発酵原料の調製]
栄養源としておからを用いた場合について説明する。上述の下水汚泥(1)に、以下の(3)に示すおからを、以下の表2に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水率が42.6質量%~84.0質量%の下水汚泥発酵原料を調製した。
【0056】
(3)おから:粗脂肪10.5質量%、粗蛋白31.6質量%、含水率0.8質量%、強熱減量95.8質量%、発熱量4623kcal/kg
【0057】
[好気発酵試験]
上述の実施例1と同様の方法で、各下水汚泥発酵原料の好気発酵の進行度合を評価した。下水汚泥を安定的に好気発酵処理する観点から、ピーク温度が38℃以上を合格とした。結果を以下の表2に示す。
【0058】
【0059】
表2に示すように、栄養源としておからを添加した場合でも、下水汚泥に対する栄養源由来の粗脂肪及び粗蛋白の合計量を所定の範囲とした実施例7~11の下水汚泥発酵原料は、各比較例と比較してピーク温度が高かった。この理由は、下水汚泥に栄養源由来の粗脂肪及び粗蛋白を所定量混合することにより、発酵に必要な栄養源が十分に供給されたためと考えられる。以上より、実施例の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥に特定の材料を特定量添加するという簡便な操作で、安定的に下水汚泥の好気発酵を進行させることができる。
【0060】
〔実施例12~17及び比較例6~7〕
[下水汚泥発酵原料の調製]
栄養源として油粕を用いた場合について説明する。上述の下水汚泥(1)に、以下の(4)に示す油粕を、以下の表3に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水率が46.2質量%~83.3質量%の下水汚泥発酵原料を調製した。
【0061】
(4)油粕:菜種油の抽出残渣(粗脂肪3.2質量%、粗蛋白36.8質量%、含水率8.0質量%、強熱減量93.6質量%、発熱量4821kcal/kg)
【0062】
[好気発酵試験]
上述の実施例1と同様の方法で、各下水汚泥発酵原料の好気発酵の進行度合を評価した。下水汚泥を安定的に好気発酵処理する観点から、ピーク温度が38℃以上を合格とした。結果を以下の表3に示す。
【0063】
【0064】
表3に示すように、栄養源として油粕を添加した場合でも、下水汚泥に対する栄養源由来の粗脂肪及び粗蛋白の合計量を所定の範囲とした実施例12~17の下水汚泥発酵原料は、各比較例と比較してピーク温度が高かった。この理由は、下水汚泥に栄養源由来の粗脂肪及び粗蛋白を所定量混合することにより、発酵に必要な栄養源が十分に供給されたためと考えられる。以上より、実施例の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥に特定の材料を特定量添加するという簡便な操作で、安定的に下水汚泥の好気発酵を進行させることができる。