(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090563
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】ノボラック型フェノール樹脂の探索方法、情報処理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20230622BHJP
G06F 8/35 20180101ALI20230622BHJP
G16C 20/40 20190101ALI20230622BHJP
【FI】
G06N20/00 130
G06F8/35
G16C20/40
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205590
(22)【出願日】2021-12-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】今田 知之
【テーマコード(参考)】
5B376
【Fターム(参考)】
5B376BC12
5B376BC61
(57)【要約】
【課題】フェノール化合物の探索技術を改善する
【解決手段】情報処理装置が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって、ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて、複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成するステップと、前記複数の予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索するステップと、を含み、前記実績データは、ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と、構造式と、反応溶媒と、反応パラメータとを含み、前記目的変数は、現像性と、耐熱性と、分子量とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって、
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて、複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成するステップと、
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索するステップと、
を含み、
前記実績データは、ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と、構造式と、反応溶媒と、反応パラメータとを含み、
前記目的変数は、現像性と、耐熱性と、分子量とを含む、ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項2】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記複数の予測モデルを生成するステップにおいて、前記実績データに基づき特徴量を算出し、該特徴量を前記複数の予測モデルの説明変数として用いる、ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項3】
前記特徴量は、分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含む、請求項2に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項4】
請求項3に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって、
前記特徴量はさらに、溶媒のSP値に係る情報を含む、ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって、
前記実績データは所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データと、前記所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データとを含み、
前記複数の予測モデルを生成するステップにおいて、
前記所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて前記複数の予測モデルを生成した後に、前記所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて前記複数の予測モデルを再学習させる、ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項6】
請求項5に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって、
前記所定用途は半導体製造用である、請求項5に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項7】
制御部を備えるノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置であって、
前記制御部は、
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて、複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成し、
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索し、
前記実績データは、前記ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と、反応溶媒と、反応パラメータとを含み、
前記目的変数は、現像性と、耐熱性と、分子量とを含む、情報処理装置。
【請求項8】
コンピュータに、
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて、複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成することと、
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索することと、を実行させ、
前記実績データは、ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と、反応溶媒と、反応パラメータとを含み、
前記目的変数は、現像性と、耐熱性と、分子量とを含む、ノボラック型フェノール樹脂を探索するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ノボラック型フェノール樹脂の探索方法、情報処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から微細再配線にはポリイミド等の絶縁性及び耐熱性の高い樹脂を用いたレジスト材料が利用されている。市場の微細化要求に応える技術としてクレゾールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂を添加剤とする技術があり、当該用途のノボラック型フェノール樹脂には、耐熱性(Tg)、現像性(ADR)等が求められる。しかし、ノボラック型フェノール樹脂のこれらの特性は相反するものである。そのため、必要な特性をバランス良く有するノボラック型フェノール樹脂を探索することは困難であった。
【0003】
他方、物質モデルをモデリングして当該物質モデルを機械学習により学習した後、学習された物質モデルを用いて、目標物性情報から新規物質の構造を探索する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の物質の探索技術は一般的な物質モデルを対象としたものであるところ、半導体製造用に用いられるクレゾールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂を探索することについては従来技術では特段考慮されていなかった。
【0006】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、ノボラック型フェノール樹脂の探索技術を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る物質探索方法は、
情報処理装置が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって、
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて、複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成するステップと、
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索するステップと、
を含み、
前記実績データは、ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と、構造式と、反応溶媒と、反応パラメータとを含み、
前記目的変数は、現像性と、耐熱性と、分子量とを含む。
【0008】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法は、
前記複数の予測モデルを生成するステップにおいて、前記実績データに基づき特徴量を算出し、該特徴量を前記複数の予測モデルの説明変数として用いる。
【0009】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法において、
前記特徴量は、分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含む。
【0010】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法において、
前記特徴量はさらに、溶媒のSP値に係る情報を含む。
【0011】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法は、
前記実績データは所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データと、前記所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データとを含み
前記複数の予測モデルを生成するステップにおいて、
前記所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて前記複数の予測モデルを生成した後に、前記所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて前記複数の予測モデルを再学習させる。
【0012】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法において、
前記所定用途は、半導体製造用である。
【0013】
また本開示の一実施形態に係る情報処理装置は、
制御部を備えるノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置であって、
前記制御部は、
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて、複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成し、
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索し、
前記実績データは、前記ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と、反応溶媒と、反応パラメータとを含み、
前記目的変数は、現像性と、耐熱性と、分子量とを含む。
【0014】
また本開示の一実施形態に係るプログラムは、
コンピュータに、
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて、複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成することと、
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索することと、を実行させ、
前記実績データは、ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と、反応溶媒と、反応パラメータとを含み、
前記目的変数は、現像性と、耐熱性と、分子量とを含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一実施形態に係るノボラック型フェノール樹脂の探索方法、情報処理装置、及びプログラムによれば、ノボラック型フェノール樹脂の探索技術を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本開示の一実施形態に係るノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係るノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置の学習処理の動作を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の一実施形態に係るノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置の探索処理の動作を示すフローチャートである。
【
図5】合成例1で得られたノボラック型フェノール樹脂(A1)のGPCチャートである。
【
図6】合成例2で得られたノボラック型フェノール樹脂(A2)のGPCチャートである。
【
図7】合成例3で得られたノボラック型フェノール樹脂(A3)のGPCチャートである。
【
図8】合成例4で得られたノボラック型フェノール樹脂(A4)のGPCチャートである。
【
図9】合成例5で得られたノボラック型フェノール樹脂(A5)のGPCチャートである。
【
図10】比較合成例1で得られたノボラック型フェノール樹脂(B1)のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態にかかる物質探索方法ついて、図面を参照して説明する。
【0018】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0019】
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係るノボラック型フェノール樹脂の探索方法の概要を説明する。
【0020】
まず、本実施形態の概要について説明する。本実施形態に係る物質探索方法では
図1に示す実績データ100が用いられる。また本実施形態に係る物質探索方法は
図2に示す情報処理装置10が実行する。情報処理装置10は、ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データ100を用いて、複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデル400を生成する。
【0021】
実績データ100は、所定用途の実績データ110と他用途の実績データ120とを含む。所定用途の実績データ110は、例えば半導体製造用のノボラック型フェノール樹脂に係る実績データである。すなわち例えば実績データ110は、g・i線のフォトレジスト用に用いられるノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを含む。他用途の実績データ120は、所定用途以外の用途(ここでは半導体製造用以外の用途)で用いられるノボラック型フェノール樹脂の実績データである。所定用途の実績データ110及び他用途の実績データ120は、それぞれノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成、構造式、反応溶媒、反応パラメータ、第1の物性~第Nの物性を含む。
【0022】
第1の物性から第Nの物性は、複数の目的変数に相当する。Nは正の整数である。情報処理装置10は、N個の目的変数に各々対応した第1予測モデル~第N予測モデルを生成する。複数の目的変数は、相反する特性を含む。例えば複数の目的変数は、耐熱性(Tg)、現像性(ADR)、分子量を含む。
なお、耐熱性の一例はガラス転移温度(Tg(℃))でありうる。また、現像性はアルカリ溶解速度(Alkali Dissolution Rate)(ADR(Å/s))あるいは所定長さ(例えば5μm)のパターンが解像している最低露光量(J/cm2)でありうる。例えば現像性がADRである場合、特開2021-152557号公報に記載のアルカリ現像性の評価に即した情報が得られる。分子量としては、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、ピークトップ分子量(Mtop)」及びZ平均分子量(Mz)からなる群から選択される1又は2以上でありうる。
【0023】
まず情報処理装置10は、他用途の実績データ110により、予測モデル400の学習処理310を行う。情報処理装置10は、他用途の実績データ110から特徴量210を算出する。情報処理装置10は、当該特徴量210を説明変数、各物性を目的変数とする複数の予測モデル400を生成する。具体的には情報処理装置10は、特徴量210を説明変数、第1の物性を目的変数とする第1予測モデルを生成する。また情報処理装置10は、特徴量210を説明変数、第2の物性を目的変数とする第2予測モデルを生成する。このように情報処理装置10は、特徴量210を説明変数、第Nの物性を目的変数とする第N予測モデルを生成する。
【0024】
次に情報処理装置10は、所定用途の実績データ120により、予測モデル400の再学習処理320を行う。まず情報処理装置10は、所定用途の実績データ120から特徴量220を算出する。情報処理装置10は、当該特徴量220を説明変数、各物性を目的変数として、各予測モデルの再学習処理を行う。具体的には情報処理装置10は、特徴量220を説明変数、第1の物性を目的変数として、第1予測モデルの再学習処理を行う。また情報処理装置10は、特徴量220を説明変数、第2の物性を目的変数として、第2予測モデルの再学習処理を行う。また情報処理装置10は、特徴量220を説明変数、第Nの物性を目的変数として、第N予測モデルの再学習処理を行う。このようにして学習された第1予測モデル~第N予測モデルを用いた逆解析により、情報処理装置10は、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索する。
【0025】
このように本実施形態によれば、ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データに基づき複数の予測モデルを生成する。そしてこれらの複数の予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索する。そのため、所望の特性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂の探索ができるという点で、探索技術が改善されている。
【0026】
(情報処理装置の構成)
次に、情報処理装置10の各構成について詳細に説明する。情報処理装置10は、ユーザによって使用される任意の装置である。例えばパーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、汎用の電子機器、又は専用の電子機器が、情報処理装置10として採用可能である。
【0027】
図2に示されるように、情報処理装置10は、制御部11と、記憶部12と、入力部13と、出力部14とを備える。
【0028】
制御部11には、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路、又はこれらの組み合わせが含まれる。プロセッサは、CPU(central processing unit)若しくはGPU(graphics processing unit)などの汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(field-programmable gate array)又はASIC(application specific integrated circuit)である。制御部11は、情報処理装置10の各部を制御しながら、情報処理装置10の動作に関わる処理を実行する。
【0029】
記憶部12には、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。半導体メモリは、例えば、RAM(random access memory)又はROM(read only memory)である。RAMは、例えば、SRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。ROMは、例えば、EEPROM(electrically erasable programmable read only memory)である。記憶部12は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部12には、情報処理装置10の動作に用いられるデータと、情報処理装置10の動作によって得られたデータとが記憶される。
【0030】
入力部13には、少なくとも1つの入力用インタフェースが含まれる。入力用インタフェースは、例えば、物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーンである。また入力用インタフェースは、例えば、音声入力を受け付けるマイクロフォン、又はジェスチャー入力を受け付けるカメラ等であってもよい。入力部13は、情報処理装置10の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部13は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の入力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB(Universal Serial Bus)、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0031】
出力部14には、少なくとも1つの出力用インタフェースが含まれる。出力用インタフェースは、例えば、情報を映像で出力するディスプレイ等である。ディスプレイは、例えば、LCD(liquid crystal display)又は有機EL(electro luminescence)ディスプレイである。出力部14は、情報処理装置10の動作によって得られるデータを表示出力する。出力部14は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の出力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0032】
情報処理装置10の機能は、本実施形態に係るプログラムを、情報処理装置10に相当するプロセッサで実行することにより実現される。すなわち、情報処理装置10の機能は、ソフトウェアにより実現される。プログラムは、情報処理装置10の動作をコンピュータに実行させることで、コンピュータを情報処理装置10として機能させる。すなわち、コンピュータは、プログラムに従って情報処理装置10の動作を実行することにより情報処理装置10として機能する。
【0033】
本実施形態においてプログラムは、コンピュータで読取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読取り可能な記録媒体は、非一時的なコンピュータ読取可能な媒体を含み、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、又は半導体メモリである。プログラムの流通は、例えば、プログラムを記録したDVD(digital versatile disc)又はCD-ROM(compact disc read only memory)などの可搬型記録媒体を販売、譲渡、又は貸与することによって行う。またプログラムの流通は、プログラムを外部サーバのストレージに格納しておき、外部サーバから他のコンピュータにプログラムを送信することにより行ってもよい。またプログラムはプログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0034】
情報処理装置10の一部又は全ての機能が、制御部11に相当する専用回路により実現されてもよい。すなわち、情報処理装置10の一部又は全ての機能が、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0035】
本実施形態において記憶部12は、実績データ100、特徴量210、220、及び予測モデル400を記憶する。特徴量210、220は実績データ100のうちポリマー組成、構造式、反応溶媒、及び反応パラメータに基づき算出される。
【0036】
特徴量210は、ノボラック型フェノール樹脂の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量210は、分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含んでもよい。また特徴量210は、溶媒の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量210は、反応溶媒のSP値に係る情報を含んでもよい。反応溶媒のSP値に係る情報は、例えば反応溶媒のSP値、最終溶媒のSP値、SP値の相互作用項の少なくともいずれか1つを含んでもよい。
【0037】
特徴量220は、ノボラック型フェノール樹脂の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量220は、分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含んでもよい。また特徴量220は、溶媒の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量220は、反応溶媒のSP値に係る情報を含んでもよい。反応溶媒のSP値に係る情報は、例えば反応溶媒のSP値、最終溶媒のSP値、SP値の相互作用項の少なくともいずれか1つを含んでもよい。
【0038】
なお実績データ100、特徴量210、220、及び予測モデル400は、情報処理装置10とは別の外部装置に記憶されていてもよい。その場合、情報処理装置10は、外部通信用インタフェースを備えていてもよい。通信用インタフェースは、有線通信又は無線通信のいずれのインタフェースであってよい。有線通信の場合、通信用インタフェースは例えばLANインタフェース、USBである。無線通信の場合、通信用インタフェースは例えば、LTE、4G、若しくは5Gなどの移動通信規格に対応したインタフェース、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信に対応したインタフェースである。通信用インタフェースは、情報処理装置10の動作に用いられるデータを受信し、また情報処理装置10の動作によって得られるデータを送信可能である。
【0039】
(情報処理装置の動作)
図3及び
図4を参照して、本実施形態に係る情報処理装置10の動作について説明する。
図3は本実施形態に係る情報処理装置10が実行する学習処理及び再学習処理の一例を示すフローチャートである。
図4は本実施形態に係る情報処理装置10が実行する探索処理を示すフローチャートである。はじめに
図3を参照して、情報処理装置10が実行する学習処理及び再学習処理の一例を示す。
【0040】
ステップS101:情報処理装置10の制御部11は、他用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データ110を取得する。実績データ110の取得には、任意の手法が採用可能である。例えば制御部11は、ユーザからの実績データの入力を入力部13により受け付けることで、実績データ110を取得してもよい。また例えば制御部11は、実績データ110を記憶した外部装置から通信用インタフェースを介して、当該実績データ110を取得してもよい。
【0041】
ステップS102:制御部11は、入力された実績データ110に基づき特徴量210を算出する。具体的には制御部11は、実績データ110に含まれるポリマー組成、構造式、反応溶媒、及び反応パラメータに基づき特徴量210を算出する。特徴量210の算出のために、制御部11は、適宜データベース等を参照してもよい。この場合、かかるデータベースは、記憶部12に記憶されていてもよい。
【0042】
ステップS103:制御部11は、算出した特徴量210を説明変数、各物性を目的変数とする複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を生成する。予測モデルは、例えばサポートベクターマシン、線形モデル、非線形モデル等の予測モデルであるがこれに限られない。例えば予測モデル400は、入力層、隠れ層、及び出力層からなる多層パーセプトロンに基づき生成されるモデルであってもよい。あるいは予測モデル400は、Convolutional Neural Network(CNN)、Recurrent Neural Network(RNN)、その他のディープラーニング等の機械学習アルゴリズムに基づき生成されるモデルであってもよい。
【0043】
ステップS104:制御部11は、本用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データ120を取得する。実績データ120の取得には、任意の手法が採用可能である。例えば制御部11は、ユーザからの実績データの入力を入力部13により受け付けることで、実績データ120を取得してもよい。また例えば制御部11は、実績データ120を記憶した外部装置から通信用インタフェースを介して、当該実績データ120を取得してもよい。なお当該実績データ120は、実績データ110より少量であってよい。
【0044】
ステップS105:制御部11は、入力された実績データ120に基づき特徴量220を算出する。具体的には制御部11は、実績データ120に含まれるポリマー組成、構造式、反応溶媒、及び反応パラメータに基づき特徴量220を算出する。特徴量210の算出のために、制御部11は、適宜データベース等を参照してもよい。この場合、かかるデータベースは、記憶部12に記憶されていてもよい。
【0045】
ステップS106:制御部11は、算出した特徴量220を説明変数、各物性を目的変数として、ステップS103にて生成した複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を再学習する。このようにして本実施形態にかかる予測モデル400が構築される。なお、ステップS103にて生成した複数の予測モデル400、及びステップS104にて生成した複数の予測モデル400とを区別するために、本実施形態においてそれぞれ「汎用予測モデル」、及び「本予測モデル」とも呼ぶ。
【0046】
なお、上記の処理により構築された予測モデル400について、既知データに基づき精度検証を行ってもよい。検証の結果、精度が実用範囲内である場合には当該予測モデル400を用いたノボラック型フェノール樹脂の探索処理を行うようにしてもよい。
【0047】
次に
図4を参照して、情報処理装置10が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索処理の一例を示す。概略として情報処理装置10は、複数の予測モデル400を用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索する。
【0048】
ステップS201:情報処理装置10の制御部11は、所望のノボラック型フェノール樹脂に係る物性(以下、目標特性という)を取得し、各予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)に入力する。例えば制御部11は、ユーザからの目標特性の入力を入力部13により受け付けることで、目標特性を取得する。
【0049】
ステップS202:制御部11は、ステップS201にて取得した目標特性を得られるノボラック型フェノール樹脂の特徴量を各予測モデル400により予測する。
【0050】
ステップS203:制御部11は、ステップS202により得られた予測結果に対して、最適化処理を実行し、探索結果を出力部14により出力する。例えば制御部11は、探索結果として、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂に係る組成及び合成方法を出力部14により出力する。あるいは制御部11は、探索結果として、所望の物性バランスを有する少なくとも1つのノボラック型フェノール樹脂に係る特徴量を、出力部14により出力してもよい。
【0051】
ここで最適化処理と再急降下法、ベイズ最適化やガウシアン過程最適化、その機構を利用したGPyOpt、Optuna、HyperOptなどのPythonライブラリ、遺伝的アルゴリズムにより、評価関数の最大化あるいは最小化を実施できるが、これらの手法に限定されるものではなく、最適化する対象に適した手法を一つ乃至は複数選択することができる。
【0052】
このように、本実施形態によれば、ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データ100に基づき複数の予測モデル400を生成する。そしてこれらの複数の予測モデル400を用いた逆解析により、所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索することができる。例えば、所望の耐熱性、及び所望の現像性を有するノボラック型フェノール樹脂を容易に探索することができる。
【0053】
なお本実施形態による探索方法を用いずに、担当者の経験と勘に基づきノボラック型フェノール樹脂を探索する方法も考えられる。この場合、既知のノボラック型フェノール樹脂、未知のノボラック型フェノール樹脂に係る予備実験を行って、実験結果に対して最小二乗法回帰計算を行い、担当者の経験と勘に基づき、所与の条件、物性の相関把握を行う。そして当該相関を把握した上で、探索候補に係るいくつかのノボラック型フェノール樹脂の合成実験を実施する。当該実験の結果に対して、さらに最小二乗法回帰計算を行う。これらの繰り返しによって所望のノボラック型フェノール樹脂を探索することも可能である。しかしながらかかる方法は、担当者の経験と勘に依存するものであり、また予備実験及び実験には膨大な工数が必要であり、一般的に1つの最適組成探索を実施するために、数ヶ月程度の時間を必要とする。他方、本実施形態によれば、学習した予測モデル400に基づき、情報処理装置10内で、所望のノボラック型フェノール樹脂を並列的に探索でき、また短時間で探索することができる。これにより開発工数を大幅に削減することができる。
【0054】
また本実施形態では、実績データ100が他用途の実績データ110と、所定用途の実績データ120とを含み、これらによりそれぞれ予測モデル400の学習処理及び再学習処理を行っている。このように学習処理では教師データを本用途よりも広範囲としているため、外挿による精度の低下を防止することができる。また、再学習処理において、教師データを本用途に限定している。このようにすることで、所定用途のノボラック型フェノール樹脂の探索において、高精度の予測モデルを生成することができる。なお、本実施の形態では学習処理と再学習処理をそれぞれ行ったが、精度が実用範囲内であれば、学習処理のみを行い、再学習処理を行わなくてもよい。なお当該学習処理においては、所定用途の実績データ又は他用途の実績データの少なくともいずれか一方を用いるようにしてもよい。このようにすることで、予測モデルの生成をより短時間で行うことができる。
【0055】
また本実施形態では、特徴量に分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含んでもよい。分子指紋又は記述子は、ノボラック型フェノール樹脂の特徴を示すことができるため、当該特徴量を説明変数として用いることで、予測モデル400の精度を向上させることができる。
【0056】
また本実施形態では、特徴量に反応溶媒のSP値に係る情報を含んでもよい。反応溶媒のSP値に係る情報は、合成反応における溶媒の特徴を示すことができるため、当該特徴量を説明変数として用いることで、予測モデル400の精度を向上させることができる。
なお、本明細書におけるSP値((J/cm3)1/2)は、(凝集エネルギー密度(いわゆる蒸発エネルギー))の平方根で表され、物性値から算出しても、あるいは分子構造から算出してもよい。本実施形態に使用可能なSP値の例としては、HildebrandのSP値(Hildebrand Ruleにより算出)、又は蒸発潜熱、表面張力若しくは溶解度の値、屈折率の値などの物性値から算出する方法、HansenのHSP(Hansenの計算方法により算出)、又はSmallの計算方法、Rheineck及びLinの計算方法、Krevelen及びHoftyzerの計算方法、Fedorsの計算方法若しくはHoyの計算方法などの分子構造から算出する方法が挙げられる。
本実施形態における溶媒(反応溶媒及び最終溶媒を包含する)のSP値は、上記各方法に算出されたSP値を1又は2以上併用して使用することができる。また、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒を使用する場合、SP値の相互作用項の算出は、例えば、各溶媒のSP値を上記方法により算出した後、基準となる1つの基準溶媒を選択し、他の溶媒と前記基準溶媒との差分をそれぞれ算出することにより求められる。さらには、ノボラック型フェノール樹脂又はその原料成分と溶媒とのSP値の相互作用項を算出する場合は、それぞれのSP値を上記方法により算出した後、基準となる1つの基準物質を樹脂、原料成分又は溶媒から選択し、前記基準物質と各成分との差分をそれぞれ算出することにより求められる。
【0057】
本実施形態におけるノボラック型フェノール樹脂は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物とアルデヒド基を有する化合物との縮合より生成された樹脂である。したがって、前記ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物から誘導される構造単位(A1)の1種又は2種以上とアルデヒド基含有化合物から誘導される構造単位(A2)の1種又は2種以上とを有する。本実施形態の好ましいノボラック型フェノール樹脂は、以下の一般式(1)で表される構造単位を主成分として含む。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1はそれぞれ独立して、アミノ基、シアノ基又は炭素原子数1~10のアルキル基を表し、但し、前記炭素原子数1~10のアルキル基中の-CH
2-は互いに隣接しない限り、-O-、-CO-又は-S-に置換されてもよく、R
2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又は無置換若しくは炭素原子数1~6のアルキル基に置換されてもよいフェニル基を表し、但し、前記炭素原子数1~6のアルキル基中の-CH
2-は互いに隣接しない限り、-O-、-CO-又は-S-に置換されてもよく、
pは0以上3以下の整数を表し、mは繰り返し単位数を表し、5~150であることが好ましく、nは繰り返し単位数を表し、5~150であることが好ましい。)
なお、上記一般式(1)中、複数存在するR
1はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。同様に、複数存在するR
2はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。また、「主成分」とは、ノボラック型フェノール樹脂全体(100質量%)に対して51質量%以上含有することをいい、好ましくは73質量%以上、より好ましくは87質量%、さらに好ましくは93質量%以上含有する。
上記一般式(1)で表される構造単位を有するノボラック型フェノール樹脂において、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物から誘導される構造単位(A1)(以下、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物から誘導される繰り返し単位数mを有する構造単位(A1)とも称する。)と、アルデヒド基含有化合物から誘導される構造単位(A2)(以下、アルデヒド基含有化合物から誘導される繰り返し単位数nを有する構造単位(A2)とも称する。)との組成比は、前記構造単位(A1)100質量部に対して、前記構造単位(A2)は80~150質量部含有することが好ましい。
本実施形態のより好ましいノボラック型フェノール樹脂は、以下の一般式(2)で表される構造単位を主成分として含む。
【化2】
(上記一般式(2)中、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又は無置換若しくは炭素原子数1~6のアルキル基に置換されてもよいフェニル基を表し、但し、前記炭素原子数1~6のアルキル基中の-CH
2-は互いに隣接しない限り、-O-、-CO-又は-S-に置換されてもよく、lは繰り返し単位数を表し10~100であることが好ましい。R
1、R
2、p、m及びnは上記一般式(1)と同義である。なお、R
2とR
3とは互いに異なる基である。)
なお、上記一般式(2)中、複数存在するR
1はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。同様に、複数存在するR
2はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。さらには、複数存在するR
3はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。
上記一般式(1)で表される構造単位を有するノボラック型フェノール樹脂は、少なくとも1種のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物から誘導される構造単位(A1)と、少なくとも1種のアルデヒド基含有化合物から誘導される構造単位(A2)とを有する共重合体を表している。一方、上記一般式(2)で表される構造単位を有するノボラック型フェノール樹脂は、前記一般式(1)で表される構造単位を有するノボラック型フェノール樹脂の好ましい形態の一例であり、1種のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物から誘導される構造単位(A1)と、2種のアルデヒド基含有化合物から誘導される構造単位(A2-1)及び(A2-2)とを有する三元以上の多元共重合体を表している。
上記一般式(2)で表される構造単位を有するノボラック型フェノール樹脂において、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物から誘導される繰り返し単位数mを有する構造単位(A1)と、アルデヒド基含有化合物から誘導される繰り返し単位数nを有する構造単位(A2-1)と、アルデヒド基含有化合物から誘導される繰り返し単位数lを有する構造単位(A2-2)との各組成比は、前記構造単位(A1)100質量部に対して、前記構造単位(A2-1)は10~90質量部含有することが好ましい。そして、前記構造単位(A2-2)は、前記構造単位(A1)100質量部に対して10~90質量部含有することが好ましい。このとき(A2-1)と(A2-2)とは合算で(A1)100質量部に対して30~150質量部含有することが好ましい。
なお、本実施形態におけるノボラック型フェノール樹脂は、ランダム重合体、ブロック重合体又は交互重合体のいずれであってもよい。
【実施例0058】
(学習処理及び再学習処理)
本実施形態によるノボラック型フェノール樹脂の学習処理及び再学習処理の具体例を以下に示す。まずノボラック型フェノール樹脂に係る他用途の実績データ110及び本用途の実績データ120を記憶部12に記憶した。上述の通り他用途の実績データ110及び本用途の実績データ120は、ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成、構造式、反応溶媒、反応パラメータ、第1の物性~第Nの物性(目的変数)を含む。
【0059】
本実施例に係る他用途の実績データ110及び本用途の実績データ120に含まれるノボラック型フェノール樹脂に係る構造式は、フェノール、o-クレゾール、p-クレゾール、m-クレゾール2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,4?キシレノール、3,5-キシレノール、2,3,5-トリメチルフェノール、3,4,5-トリメチルフェノール等の構造単位(A1)の構造、アルデヒド類である、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、クロロアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等の水酸基を含まない構造単位(A2-1)の構造、サリチルアルデヒド、4-ヒドロキシベンズアルデヒド、3-ヒドロキシベンズアルデヒド等の水酸基を含む構造単位(A2-2)の構造式である。当該構造式はSMILES文字列で表記される。当該データに基づき、分子指紋が特徴量として算出される。分子指紋の算出にはECFP2フィンガープリントが用いられる。これにより構造単位(A1)、(A2-1)、及び(A2-2)がベクトルの集合として表現される。また本実施例に係るポリマー組成としては上記構造単位それぞれの質量部が記憶部12に記憶される。
【0060】
また本実施例に係る他用途の実績データ110及び本用途の実績データ120に含まれる反応溶媒は、触媒種のデータである。本実施例に係る他用途の実績データ110及び本用途の実績データ120に含まれる反応パラメータは、反応スケール、昇温速度、反応温度、触媒除去工程等の反応プロセスを説明するデータである。ここで本実施例では、反応溶媒のSP値と最終溶媒とのSP値の比(反応溶媒SP/最終溶媒SP)を本用途の実績データ120に係る特徴量に含めている。
【0061】
本実施例に係る他用途の実績データ110に含まれる第1の物性~第Nの物性(目的変数)は、過去に他用途で生成実績のあるノボラック型フェノール樹脂の耐熱性(DSC測定によるTg)、ADR(Å/秒)、重量平均分子量(Mw)である。
【0062】
また本実施例に係る本用途の実績データ120に含まれる第1の物性~第Nの物性(目的変数)は、過去に本用途で生成実績のあるノボラック型フェノール樹脂の耐熱性(DSC測定によるTg)、ADR(Å/秒)、重量平均分子量(Mw)である。
【0063】
次に上記の他用途の実績データ110を用いて、本実施例に係る汎用予測モデルを構築した。本実施例に係る汎用予測モデルに対する予測と実測の整合性を表す決定係数(R^2値)は0.60~0.70を示した。
【0064】
続いて本用途の実績データ120を用いて、本実施例に係る汎用予測モデルを再学習して、本実施例に係る本予測モデルを生成した。本実施例に係る本予測モデルに対する予測と実測の整合性を表す決定係数(R^2値)は0.75~0.95を示した。
【0065】
(探索処理)
以下の実施例1~5は、本実施例に係る本予測モデルを用いて、ターゲットとする目標特性を有する結果(レシピ候補)を探索した具体例である。また比較例1は、本実施例に係る汎用予測モデルを用いて、ターゲットとする目的特性を有する結果(レシピ候補)を探索した具体例である。ここで最適化処理としては、ベイズ最適化を用い、ベイズ最適化により得られた探索候補の周辺に対してグリッドサーチを行った。
【0066】
(実施例1)
本実施例に係る本予測モデルを使用し、反応原料:m-クレゾール、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒド、酸性触媒:p-トルエンスルホン酸、反応溶剤:エタノール、最終溶剤:γ―ブチルラクトンを選択し、耐熱性(DSC測定によるTg150℃以上)、ADR1000Å/sec、重量平均分子量(Mw)3000をターゲットとして候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく合成方法を合成例1に示す。
【0067】
(実施例2)
実施例1のターゲットをADR2300Å/sec、重量平均分子量(Mw)2300に変更した以外は同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく合成方法を合成例2に示す。
【0068】
(実施例3)
実施例1のターゲットをADR900Å/sec、重量平均分子量(Mw)2800に変更した以外は同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく合成方法を合成例3に示す。
【0069】
(実施例4)
実施例1のターゲットをADR6000Å/sec、重量平均分子量(Mw)3000に変更した以外は同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく合成方法を合成例4に示す。
【0070】
(実施例5)
実施例1の反応溶媒をエタノール250g、1-プロパノール30g、2-プロパノール15gとし、ターゲットをADR1000Å/sec、重量平均分子量(Mw)3100に変更した以外は同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく合成方法を合成例5に示す。
【0071】
(比較例1)
本実施例に係る汎用予測モデルを使用し、m-クレゾール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、p-トルエンスルホン酸、反応溶剤エタノールとし、耐熱性(DSC測定によるTg150℃以上)、ADR1000Å/sec、重量平均分子量(Mw)3000をターゲットとして候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく合成方法を比較合成例1に示す。
【0072】
(合成例1:ノボラック型フェノール樹脂(A1)の合成)
冷却管を設置した2000mlの4口フラスコに、m-クレゾール164g(1.52m
ol)、ベンズアルデヒド103g(0.97mol)、サリチルアルデヒド74g(0.61mol)及びp-トルエンスルホン酸8gを仕込み、反応溶媒としてエタノール300gに溶解させた後、マントルヒーターで、80℃還流下で16時間攪拌反応させた。反応後、酢酸エチルと水を添加し5回分液洗浄を行った。残った樹脂溶液から溶媒を減圧留去した後、真空乾燥を行い、淡赤色粉末のノボラック型フェノール樹脂粉末(A-1)281gを得た。ノボラック型フェノール樹脂(A1)のGPCは重量平均分子量(Mw)=3100であった。ノボラック型フェノール樹脂(A1)のGPCチャートを
図5に示す。
【0073】
(合成例2:ノボラック型フェノール樹脂(A2)の合成)
反応原料の仕込み量を、m-クレゾール164g(1.52mol)、ベンズアルデヒド96g(0.90mol)及びサリチルアルデヒド74g(0.6mol)と変更した以外は合成例1と同様の手法でノボラック型フェノール樹脂粉末(A2)280gを得た。ノボラック型フェノール樹脂(A2)のGPCは重量平均分子量(Mw)=2250であった。ノボラック型フェノール樹脂(A2)のGPCチャートを
図6に示す。
【0074】
(合成例3:ノボラック型フェノール樹脂(A3)の合成)
反応原料の仕込み量を、m-クレゾール164g(1.52mol)、ベンズアルデヒド117g(1.10mol)、サリチルアルデヒド58g(0.47mol)と変更した以外は合成例1と同様の手法でノボラック型フェノール樹脂粉末(A3)279gを得た。ノボラック型フェノール樹脂(A3)のGPCは重量平均分子量(Mw)=2700であった。ノボラック型フェノール樹脂(A3)のGPCチャートを
図7に示す。
【0075】
(合成例4:ノボラック型フェノール樹脂(A4)の合成)
反応原料の仕込み量を、m-クレゾール164g(1.52mol)、ベンズアルデヒド67g(0.63mol)、サリチルアルデヒド115g(0.94mol)と変更した以外は合成例1と同様の手法でノボラック型フェノール樹脂粉末(A4)282gを得た。ノボラック型フェノール樹脂(A4)のGPCは重量平均分子量(Mw)=2900であった。ノボラック型フェノール樹脂(A4)のGPCチャートを
図8に示す。
【0076】
(合成例5:ノボラック型フェノール樹脂(A5)の合成)
反応溶媒をエタノール250g、1-プロパノール30g、2-プロパノール15gと変更した以外は合成例1と同様の手法でノボラック型フェノール樹脂粉末(A5)274gを得た。ノボラック型フェノール樹脂(A5)のGPCは重量平均分子量(Mw)=3200であった。ノボラック型フェノール樹脂(A5)のGPCチャートを
図9に示す。
【0077】
(比較合成例1:ノボラック型フェノール樹脂(B1)の合成)
反応原料及び酸性触媒の仕込み量を、m-クレゾール164g(1.52mol)、ベンズアルデヒド120g(1.13mol)、サリチルアルデヒド58g(0.47mol)、p-トルエンスルホン酸5gした以外は合成例1と同様の手法でノボラック型フェノール樹脂粉末(B1)291gを得た。ノボラック型フェノール樹脂(B1)のGPCは重量平均分子量(Mw)=3450であった。ノボラック型フェノール樹脂(B1)のGPCチャートを
図10に示す。
【0078】
各種測定条件及び評価方法は以下の通りである。表1に実施例1~5及び比較例1により探索されたレシピ候補の検証結果を示す。
【0079】
(GPC測定条件)
測定装置:東ソー株式会社製「HLC-8220 GPC」、
カラム :昭和電工株式会社製「Shodex KF802」(8.0mmФ×300mm)+昭和電工株式会社製「Shodex KF802」(8.0mmФ×300mm)+昭和電工株式会社製「Shodex KF803」(8.0mmФ×300mm)+昭和電工株式会社製「Shodex KF804」(8.0mmФ×300mm)
カラム温度:40℃
検出器 :RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC-8020モデルIIバージョン4.30」
展開溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/分
試料 :樹脂固形分換算で0.5質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィル
ターでろ過したもの
注入量 :0.1mL
標準試料:下記単分散ポリスチレン
(標準試料:単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
【0080】
(試験用組成物の調製)
合成例1~5、比較合成例1で得たノボラック型フェノール樹脂4質量部をγ―ブチロラクトン6質量部に溶解後、0.5μmのエンブレンフィルターでろ過し、樹脂溶液である試験用組成物を得た。
【0081】
(ADRの測定)
試験用組成物をそれぞれ直径5インチのシリコンウェハ上に約1μmの厚さになるようにスピンコーターを用いて塗布後、110℃で60秒間乾燥させ塗膜を有するウェハを得た。得られたウェハを、現像液(2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液)に60秒間浸漬した後、110℃のホットプレート上で60秒乾燥させた。各サンプルの現像液浸漬前後の膜厚を測定し、その差分を60で除した値をアルカリ現像性[ADR(Å/s)]とした。
【0082】
(耐熱性評価)
先で得た試験用組成物を直径5インチシリコンウェハ上に約1μmの厚さになるようにスピンコーターを用いて塗布し、110℃のホットプレート上で60秒乾燥させた。得られたウェハより樹脂分をかきとり、そのガラス転移温度(Tg)を測定した。ガラス転移温度(Tg)の測定は示差走査熱量計(DSC)(株式会社TAインスツルメント製「Q100」)を用いて、窒素雰囲気下、温度範囲-100~250℃、昇温温度10℃/分の条件で行った。
【0083】
(評価基準及び評価)
合成例1~5、比較合成例1で得たノボラック型フェノール樹脂の評価基準及び評価は以下の通りとした。
評価基準:DSC測定によるTgはターゲット値の150℃を超えていること、分子量、ADRはそれぞれターゲット値の-10~10%の範囲内に入っていること。
評価:上記3項目全ての評価基準を満たす:〇、1項目の評価基準を満たさない:△、2項目以上の評価基準を満たさない:×
【0084】
【0085】
表1に示すとおり、実施例1~5の場合には、全ての評価基準を満足した。すなわち本実施例に係る本予測モデルを用いて探索処理をすることにより、本実施例に係る汎用予測モデルを用いるよりも精度良く、所望の特性を有するノボラック型フェノール樹脂を探索することができた。
【0086】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。