(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090706
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】水酸化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01D 15/02 20060101AFI20230622BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20230622BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20230622BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230622BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230622BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
C01D15/02
C22B26/12
C22B3/24 101
C22B7/00 C
C22B3/44 101Z
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047099
(22)【出願日】2023-03-23
(62)【分割の表示】P 2020075635の分割
【原出願日】2020-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】有吉 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】富田 功
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋
(57)【要約】
【課題】炭酸リチウムから比較的低コストで水酸化リチウムを得ることができる水酸化リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】炭酸リチウムから水酸化リチウムを製造する方法であって、前記炭酸リチウムを水酸化カルシウムと液中で反応させ、水酸化リチウム溶液を得る水酸化工程と、陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を用いて、前記水酸化リチウム溶液中のカルシウムイオンを除去するカルシウム除去工程と、カルシウム除去工程を経た水酸化リチウム溶液で水酸化リチウムを析出させる晶析工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸リチウムから水酸化リチウムを製造する方法であって、
前記炭酸リチウムを水酸化カルシウムと液中で反応させ、水酸化リチウム溶液を得る水酸化工程と、陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を用いて、前記水酸化リチウム溶液中のカルシウムイオンを除去するカルシウム除去工程と、カルシウム除去工程を経た水酸化リチウム溶液で水酸化リチウムを析出させる晶析工程とを含む、水酸化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記カルシウム除去工程で、前記陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂と接触させる際の前記水酸化リチウム溶液のpHを9以上とする、請求項1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記カルシウム除去工程で、前記水酸化リチウム溶液を前記陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂に通す際の空間速度(SV)を5~20とする請求項1又は2に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記カルシウム除去工程で、官能基としてカルボキシル基を持つ弱酸性陽イオン交換樹脂を用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記炭酸リチウムが、焙焼後のリチウムイオン二次電池廃棄物中のリチウムを水又は酸性溶液で溶解させてリチウム溶解液を得るリチウム溶解工程と、リチウム溶解液のリチウムイオンを濃縮するリチウム濃縮工程とを含む処理で得られたものである請求項1~4のいずれか一項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項6】
リチウムイオン二次電池の製造に用いる水酸化リチウムを製造する、請求項1~5のいずれか一項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、水酸化リチウムの製造方法に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、リチウムイオン二次電池廃棄物もしくは種々の電子機器等からの有価金属の回収プロセスや、塩湖かん水又は鉱石その他の処理では、炭酸リチウムが得られることがある。
【0003】
たとえば、リチウムイオン二次電池廃棄物に対する処理の一例では、リチウムイオン二次電池廃棄物に対して焙焼等の処理を施した後、そこに含まれるリチウムが溶解したリチウム溶解液を得る。リチウム溶解液は炭酸水素リチウム溶液である場合があり、この炭酸水素リチウム溶液から炭酸リチウムが得られる。これに関連する技術としては、たとえば特許文献1及び2に記載されたもの等がある。
【0004】
また、リチウム溶解液は、リチウムイオンの溶媒による抽出及び、溶媒から水相への逆抽出に供されて濃縮することがあり、この抽出及び逆抽出を経た後の逆抽出後液は、たとえば硫酸リチウム溶液である。なお、この種の抽出及び逆抽出については、特許文献3~5等に記載されている。
上述した逆抽出後に得られる逆抽出後液に対しては一般に、特許文献5にも記載されているように、炭酸塩の添加又は炭酸ガスの吹込みによる炭酸化を行う。この場合、リチウムは炭酸リチウムとして回収される。
【0005】
ところで、特許文献6、7には、炭酸リチウムから、リチウムイオン二次電池正極材用原料等に用いられ得る水酸化リチウムを製造する方法が記載されている。
具体的には、特許文献6には、「陽極槽と陰極槽と陽イオン交換膜から構成された電解装置において陽極槽に炭酸リチウム水溶液ないし懸濁液を供給して電解を行い、陽イオン交換膜を介した陰極槽において水酸化リチウム水溶液を生成させる水酸化リチウムの製造方法」が開示されている。
また特許文献7には、「陽極と陰極との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とが交互に配列され、陽極とカチオン交換膜とで陽極室が形成され、次に陽極側から陰極側にむけて当該カチオン交換膜とアニオン膜とで区画された酸室、当該アニオン交換膜ともうひとつのカチオン交換膜とで区画された塩室、このカチオン交換膜ともうひとつのアニオン交換膜とで区画されたアルカリ室、更にこのアニオン交換膜と新たなカチオン交換膜とで区画された水電解室の順に配列されている酸室、塩室、アルカリ室、水電解室からなる組がひとつ以上配列されていて最も陰極側のアニオン膜とで構成される水電解室をカチオン膜の代わりに陰極で区画し、陰極室とする電気透析装置を使用して塩室にリチウム塩の水溶液を供給して酸室から酸を、アルカリ室から水酸化リチウム水溶液を取り出すことを特徴とする水酸化リチウムの製造方法。」が提案されている。
【0006】
特許文献6及び7はいずれも、炭酸リチウムを原料とし、その炭酸リチウムから電解を用いて水酸化リチウムを製造するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-26916号公報
【特許文献2】特開2019-26531号公報
【特許文献3】特開2010-180439号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0135547号明細書
【特許文献5】特開2014-162982号公報
【特許文献6】特開2009-270188号公報
【特許文献7】特開2011-31232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炭酸リチウムから水酸化リチウムを製造するに当り、仮に特許文献6、7に記載された技術を用いた場合は、電解の実施によってコストが大きく嵩む。
【0009】
特に、この明細書では、炭酸リチウムから比較的低コストで水酸化リチウムを得ることができる水酸化リチウムの製造方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この明細書で開示する水酸化リチウムの製造方法は、炭酸リチウムから水酸化リチウムを製造する方法であって、前記炭酸リチウムを水酸化カルシウムと液中で反応させ、水酸化リチウム溶液を得る水酸化工程と、陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を用いて、前記水酸化リチウム溶液中のカルシウムイオンを除去するカルシウム除去工程と、カルシウム除去工程を経た水酸化リチウム溶液で水酸化リチウムを析出させる晶析工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
上述した水酸化リチウムの製造方法によれば、炭酸リチウムから比較的低コストで水酸化リチウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一の実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法を示すフロー図である。
【
図2】
図1の水酸化リチウムの製造方法で用いることのできる炭酸リチウムを得る過程の例を示すフロー図である。
【
図3】試験例2の樹脂通液後の水酸化リチウム溶液のリチウム濃度及びカルシウム濃度とBV(Bed Volume)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、この明細書で開示する実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法は、炭酸リチウムから水酸化リチウムを製造する方法であって、たとえば
図1に示すように、炭酸リチウムを水酸化カルシウムと液中で反応させ、水酸化リチウム溶液を得る水酸化工程と、陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を用いて、水酸化リチウム溶液中のカルシウムイオンを吸着して除去するカルシウム除去工程と、カルシウム除去工程を経た水酸化リチウム溶液中の水酸化リチウムを析出させる晶析工程とを含む。
【0014】
水酸化リチウムは炭酸リチウムよりも融点が低く、リチウムイオン二次電池の正極材の原料等として有効に用いられる可能性がある。それ故に、この実施形態では、炭酸リチウムから、水酸化リチウムを低コストで容易に製造する。特にここでは、製造しようとする水酸化リチウム中の不純物を十分に低減し、正極材の原料として好適に用いられる程度の高純度の水酸化リチウムを製造することを目的とする。
【0015】
ここで、炭酸リチウムを水酸化カルシウムと反応させる水酸化工程により、Li2CO3+Ca(OH)2→2LiOH+CaCO3の式に基づいて、水酸化リチウムを比較的簡易に得ることができる。当該反応後、その反応で生成する炭酸カルシウムはある程度、固液分離によって取り除くことができる。
但し、水酸化リチウム溶液にカルシウムイオンが残留することは避けられず、このまま晶析しても当該カルシウムの存在によって水酸化リチウムの純度が低下する。
【0016】
そこで、この実施形態では、水酸化工程の後に、水酸化工程での水酸化カルシウムの添加に起因して水酸化リチウム溶液中に存在するカルシウムイオンを、陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂で吸着して除去するカルシウム除去工程を行い、その後に晶析工程を行う。これにより、カルシウム含有量の低い高純度の水酸化リチウムが得られる。
【0017】
(炭酸リチウム)
水酸化リチウムの製造の原料とする炭酸リチウムは、たとえば、リチウムイオン二次電池廃棄物から有価金属を回収するプロセス等で得られるものとすることができる。
【0018】
リチウムイオン二次電池は、その周囲を包み込む外装として、アルミニウムを含む筐体を有する。この筐体としては、たとえば、アルミニウムのみからなるものや、アルミニウム及び鉄、アルミラミネート等を含むものがある。また、リチウムイオン二次電池は、上記の筐体内に、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択される一種の単独金属酸化物又は、二種以上の複合金属酸化物等からなる正極活物質や、正極活物質が、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)その他の有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)を含むことがある。またその他に、リチウムイオン二次電池には、銅、鉄等が含まれる場合がある。さらに、リチウムイオン二次電池には通常、筐体内に電解液が含まれる。電解液としては、たとえば、エチレンカルボナート、ジエチルカルボナート等が使用されることがある。
このようなリチウムイオン二次電池廃棄物から得られる炭酸リチウムの例を以下に示す。
【0019】
(リチウム溶解工程)
図2に例示するように、リチウムイオン二次電池廃棄物を、必要に応じて焙焼・破砕・篩別等で処理した後、そこに含まれるリチウムを水又は酸性溶液で溶解させるリチウム溶解工程で、リチウムを含有する溶解液(以下、リチウム溶解液と称する。)が得られる。リチウム溶解工程は、リチウムが溶解するにつれてアルカリ性を示すので、最終的にリチウム溶解液のpHが7~10になるように、必要に応じてpHを調整してもよい。この場合、pHが7~10であれば、コバルト、ニッケルやアルミニウム等の溶出を抑制して、主としてリチウムを選択的に溶解させることができるからである。
【0020】
リチウム溶解工程では、たとえば、炭酸ガスの吹き込み又は炭酸塩もしくは炭酸水の供給等により炭酸イオンを供給しながらリチウムを溶解することができる。この場合、炭酸リチウムについてはH2O+CO2→H2CO3及びLi2CO3+H2CO3→2LiHoCO3の反応、水酸化リチウムや酸化リチウムについては、2LiOH→Li2O+H2O及びLi2O+H2CO3+CO2→2LiHCO3や、Li2O+CO2→Li2CO3及びLi2CO3+H2CO3→2LiHoCO3の反応の下、リチウム溶解液としての炭酸水素リチウム溶液が得られる。炭酸ガスの吹き込みは、不純物の混入が抑えられるうえ、液量増加を抑制出来ることから、リチウム濃度の希釈が起こらない点で好ましい。なお、炭酸塩を添加する場合における炭酸塩の具体例としては、炭酸ナトリウム等を挙げることができ、この場合の炭酸塩の添加量は、たとえば1.0~2.0倍モル当量、好ましくは1.0~1.2倍モル当量とすることができる。
【0021】
リチウムイオン二次電池廃棄物を焙焼等で処理した後に水又は酸性溶液で溶解させて得られるリチウム溶解液は、不純物が少なく、後述する水酸化リチウムの原料として好適である。なお、リチウム溶解工程で生じる残渣は、酸浸出、中和及び溶媒抽出等によるコバルトやニッケル等の有価金属の回収プロセスに用いられ得る。
【0022】
あるいは、リチウム溶解液は、リチウムイオン二次電池廃棄物を焙焼・破砕・篩別工程で得られた篩下物から先にリチウムを回収せず、すべての元素を浸出して、不純物を除去しながら、有価金属であるコバルト、ニッケル、マンガン等を回収してリチウムが残った溶液としてもよい。
【0023】
(リチウム濃縮工程)
リチウム溶解液が炭酸水素リチウム溶液である場合、
図2(a)のように、加熱濃縮等によって、リチウム濃度を高めて濃縮することができる。ここでは、リチウム溶解液を、たとえば50℃~90℃の温度に加熱して濃縮することができる。これにより、リチウム溶解液から炭酸を炭酸ガスとして脱離させることができ、炭酸リチウムが得られる。または、リチウム溶解液に、メタノールやエタノール等を添加して、そのような非水溶媒による炭酸の脱離を行うことも可能である。なかでも、メタノールやエタノールは安価であることから非水溶媒として用いることが好ましい。ここで添加方法として具体的には、リチウム溶解液に対して非水溶媒を混合撹拌することを挙げることができる。
これにより得られる炭酸リチウムは、必要に応じて精製を行うことができる。炭酸リチウムの精製は具体的には、リチウム溶解液からの炭酸の脱離により得られた炭酸リチウムに対してリパルプ洗浄を行うとともに、そこに炭酸ガスを吹き込んで、液中に炭酸を溶解させ、次いで、固液分離により、炭酸水素リチウム溶液と、カルシウムやマグネシウムなどを分離させる。その後、脱炭酸・濃縮を行った後、固液分離により、精製炭酸リチウムと濾液とに分離させる。この精製炭酸リチウム中の不純物品位が高い場合は、さらに洗浄を行うことができる。
【0024】
或いは、
図2(b)に示すように、リチウム溶解液中のリチウムイオンを溶媒で抽出するとともに、溶媒中のリチウムイオンを逆抽出するリチウム濃縮工程を行ってもよい。溶媒による抽出及び逆抽出のリチウム濃縮工程を行うと、リチウムイオンが濃縮され、たとえば硫酸リチウム溶液等が得られる。なお、このリチウム濃縮工程では、リチウムイオンを抽出した後の溶媒をリチウムイオンを含むリチウム溶液でスクラビングしてもよい。この場合、スクラビングした後の溶媒に対して逆抽出を行う。これにより得られる硫酸リチウム溶液は、後述の炭酸化工程を行うことで、炭酸リチウムとすることができる。この抽出及び逆抽出の詳細について次に説明する。
【0025】
抽出は具体的には、たとえば、リチウム溶解液(水相)と溶媒(有機相)とを接触させ、ミキサーで撹拌混合し、リチウム溶解液中のリチウムイオン等を溶媒に移行させることにより行う。その後、セトラーで有機相と水相を比重差に基いて分離する。水相に対する有機相の体積比としてのO/A比は、リチウムイオン濃度その他の条件にもよるが、1.5/1.0より大きくすることができる。リチウムイオンの抽出率を高めるため、O/A比を調整し、また抽出段数を増やすことができる。
【0026】
ここでは、リチウム溶解液に対し、溶媒である抽出剤として、ホスホン酸エステル系抽出剤単独もしくは、リン酸エステル系抽出剤単独、または、ホスホン酸エステル系抽出剤とリン酸エステル系抽出剤とを混合した抽出剤を使用することができる。ホスホン酸エステル系抽出剤としては、ニッケルとコバルトの分離効率の観点から2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシル(商品名:PC-88A、Ionquest801)が好ましい。リン酸エステル系抽出剤としては、たとえばジ-2-エチルヘキシルリン酸(商品名:D2EHPA又はDP8R)等が挙げられる。
【0027】
抽出剤は、必要に応じて、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系等の炭化水素系有機溶剤で希釈して使用することができる。この場合、抽出剤の濃度は、たとえば15体積%~35体積%とすることができる。
【0028】
抽出時の平衡pHは7~8とすることが好ましい。これは、平衡pHが7未満ではリチウム抽出率が低くなると共に、分相不良となるおそれがあり、この一方で、平衡pHが8より高いとpH調整剤由来のアルカリ濃度が高くなる事で、抽出剤と希釈剤が分離する可能性があるからである。この観点から、抽出時の平衡pHは7.2~7.5とすることがより一層好適である。なお、ここでいう「平衡pH」とは、溶媒抽出操作、スクラビング操作、逆抽出操作後に静置し、水相と油相を分相させた際の水相のpHのことである。
【0029】
抽出時に上記のようなpHに調整するため、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム又はアンモニア水その他のアルカリ性溶液等のpH調整剤を用いることができる。なかでも、水酸化ナトリウムは、他の試薬に比べて安価である他、臭気が無い点で好ましい。
【0030】
リチウムイオンを抽出した溶媒はリチウム溶液でスクラビングすることができる。スクラビングに用いるリチウム溶液中のリチウムイオン濃度は、好ましくは1.0g/L~10.0g/L、より好ましくは1.0g/L~5.0g/Lとする。スクラビングの際には、溶媒とリチウム溶液が混ざり合った状態でのpHが5.0~9.0となるように調整することが好ましく、さらに当該pHが6.0~8.0となるように調整することがより一層好ましい。
【0031】
その後、溶媒から、そこに含まれるリチウムイオンを逆抽出する。逆抽出では、たとえば、酸性水溶液である逆抽出前液を用いて、ミキサー等で撹拌混合する。これにより、溶媒に含まれていたリチウムイオンが水相に移る。
【0032】
逆抽出に用いる逆抽出前液は、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸のいずれでもよいが、なかでも硫酸が好ましい。これは、硫酸を用いることにより、逆抽出後液が硫酸リチウム液となり、これを水酸化リチウムの原料に供する事が可能となるからである。
【0033】
逆抽出では、平衡pHが、好ましくは0.5~2.0の範囲内、より好ましくは1.0~1.5の範囲内に入るように、pHを維持する。逆抽出時の平衡pHが当該範囲から外れて低くなると、抽出時のpH調整剤量が増えるおそれがある。また平衡pHが当該範囲を超えて高くなると、溶媒中にリチウムイオンが残留することが懸念される。仮に逆抽出を複数段行う場合で、段数を重ねるとpHが上昇してくることがあるが、この場合も、たとえば硫酸を添加する等して、平衡pHが上記の範囲内に維持されるように管理することが好適である。
なお、その他の条件は適宜設定されるが、O/A比は、たとえば1.0以上、好ましくは1.0~1.5とすることができる。
【0034】
逆抽出工程で得られる逆抽出後液は、さらに逆抽出前液として逆抽出工程に供することができ、それにより、リチウムイオン濃度をさらに高めることができる。また、逆抽出後液は、リチウム溶液としてスクラビング工程に用いることもできる。
【0035】
逆抽出後液(硫酸リチウム溶液)は、そのリチウムイオン濃度が、たとえば10g/L~30g/L、典型的には20g/L~25g/Lである。
【0036】
特に、上述したようにしてリチウムイオン二次電池廃棄物から得られた硫酸リチウム溶液中のリチウムイオン濃度は、たとえば10.0g/L~30.0g/L、典型的には20.0g/L~25.0g/Lである。例えば、カリウム、カルシウム、鉄、銅、亜鉛、アルミ、ニッケル、コバルト、マンガン等は、溶媒抽出前から少ない状態が維持されている。一方、リン、塩素などの不純物は、溶媒抽出前に除去され、低い濃度となる。
【0037】
但し、リチウムイオン二次電池廃棄物からの有価金属の回収プロセスだけでなく、液体又は固体の硫酸リチウムが得られる種々のプロセスに適用することが可能である。
【0038】
(炭酸化工程)
上述したリチウム濃縮工程で溶媒による抽出及び逆抽出を行うことにより、たとえば炭酸リチウムの溶解度以上にリチウム濃度を濃縮し、
図2(b)に示すように、硫酸リチウム溶液が得られた場合、炭酸化工程を行う。
【0039】
ここでは、硫酸リチウム溶液に炭酸塩を添加し、又は炭酸ガスを吹き込むことにより、硫酸リチウム溶液中のリチウムイオンを炭酸リチウムとする。炭酸塩の添加ないし炭酸ガスの吹込み後は、たとえば、液温を20℃~50℃の範囲内として、必要に応じて撹拌して所定の時間を保持する。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等を挙げることができるが、回収率の観点から炭酸ナトリウムが好ましい。
【0040】
炭酸化の際の硫酸リチウム溶液のpHは10~13と比較的高くすることが好適である。pHが低い状態で炭酸塩を添加すると炭酸ガスとして抜けてしまうので、反応効率が低下することが懸念される。
【0041】
硫酸リチウム溶液に対して炭酸化工程を行うにより、炭酸リチウムが得られる。
【0042】
(水酸化工程)
Caを用いた水酸化工程では、上記の炭酸リチウムを液中で水酸化カルシウムと反応させ、水酸化リチウム溶液を得る。ここでの反応は、Li2CO3+Ca(OH)2→2LiOH+CaCO3で表すことができる。これにより、水酸化リチウムが溶解した水酸化リチウム溶液が生成し、炭酸カルシウムが沈殿する。水酸化工程で水酸化カルシウムを用いることは、たとえば硫酸リチウムを炭酸リチウムに変換したのち、炭酸リチウムと化成反応により水酸化リチウム溶液を生成できる点で有効である。
【0043】
より詳細には、炭酸リチウム溶液の場合、その炭酸リチウム溶液に水酸化カルシウムを添加し、液中で反応させる。あるいは、固体の炭酸リチウムの場合、水等の液体中に、当該炭酸リチウム及び水酸化カルシウムを添加してスラリーとし、反応を生じさせる。
【0044】
水酸化カルシウムは、上記の反応式においてモル等量で水酸化リチウムに対して1.05倍~1.10倍添加することが好ましい。水酸化カルシウムの添加量が過剰である場合は、反応に寄与しない水酸化カルシウムが増える。反応に寄与しない水酸化カルシウムは固液分離時の残渣量増加、および、晶析の際に不純物となるため、カルシウム除去工程の負荷が高くなり、トータルコスト増加となるおそれがある。
【0045】
炭酸リチウムと水酸化カルシウムとを反応させる際に、液体のpHは、9以上あればよい。上限は特には規定しないが、pHが12を超えると過剰になるだけなので、12以下が好ましい。pHが低いと、炭酸リチウムから水酸化リチウムへの反応が不十分になるおそれがあり、この一方で、pHが高いと、水酸化カルシウムが過剰であり、薬剤コスト、除去のためのコストがかかるおそれがある。
【0046】
上記の反応で生成される炭酸カルシウムの多くは、反応後に、シックナーもしくはフィルタープレス等を用いて固液分離を行うことにより除去することができる。つまり、反応後の固液分離により、水酸化リチウム溶液から炭酸カルシウムのほとんどを分離させることができる。
【0047】
但し、固液分離を行っても、水酸化リチウム溶液にはカルシウムが溶解して残留し得る。水酸化リチウム溶液に含まれるカルシウムイオンは、晶析後の水酸化リチウムの品位を低下させるので、この実施形態では、次に述べるカルシウム除去工程を行って取り除く。
【0048】
(カルシウム除去工程)
カルシウム除去工程では、上記水酸化工程で得られた水酸化リチウム溶液中のカルシウムイオンを除去するため、水酸化リチウム溶液を陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂と接触させて、当該不純物を除去する。具体的には、水酸化リチウム溶液を当該樹脂に通液する。これにより、水酸化リチウム溶液に含まれ得るカルシウムイオンが当該樹脂に吸着されるので、水酸化リチウム溶液からカルシウムを除去することができる。その結果として、後述の晶析工程後に高純度の水酸化リチウムを得ることができる。
【0049】
ここでは、カルシウム除去工程で、水酸化リチウム溶液中のカルシウムイオンが効率よく除去されるように樹脂及び条件を選定することが重要である。
【0050】
カルシウムイオン等を除去する樹脂は、陽イオン交換樹脂及びキレート樹脂のうちの少なくとも一方とする。なお、水酸化リチウム溶液を、陽イオン交換樹脂又はキレート樹脂のいずれか一方と接触させた後、さらに他方と接触させてもよい。つまり、樹脂吸着の処理を複数段階にわたって行ってもよい。
【0051】
陽イオン交換樹脂とは、表面に酸性基を持つことによって陽イオンと結合する合成樹脂である。キレート樹脂は、金属イオンとの錯体を生成する官能基を持つ樹脂である。水酸化リチウム溶液にはカルシウムイオンの他、リチウムイオン等が含まれるので、この不純物除去工程では、リチウムイオンとの選択性の差が高い陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を用いることが望ましい。
【0052】
陽イオン交換樹脂を用いる場合は、当該陽イオン交換樹脂としては、官能基としてカルボキシル基を持つ弱酸性陽イオン交換樹脂を使用することが好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂は、一価金属と二価金属の選択性の差が低いため、通液の比較的早い段階から二価金属がリークするおそれがある。一方、弱酸性陽イオン交換樹脂は、二個のカルボキシル基で金属を挟み込むように吸着することから、二価の金属への選択性が高い。特に、イオン交換容量が高く物理強度に優れた弱酸性陽イオン交換樹脂が好適である。
【0053】
キレート樹脂は、官能基のイオン交換+配位結合によるキレート効果により特定の金属に対する選択性が高い。特にリチウムイオン等も共存する水酸化リチウム溶液では、キレート樹脂を有効に用いることができる。キレート樹脂にはイミノジ酢酸タイプやアミノリン酸タイプがあるが、なかでも、アミノリン酸タイプのキレート樹脂は、一価のイオンに対するカルシウム等の選択性が他のキレート樹脂より高い点で好ましい。
【0054】
陽イオン交換樹脂又はキレート樹脂をカラム内に充填し、該カラムに水酸化リチウム溶液を通す場合、カラム内での空間速度(SV)は、5~20の範囲とすることが好ましい。この空間速度(SV)は、カラム内に充填した陽イオン交換樹脂又はキレート樹脂に対する、一時間当たりの水酸化リチウム溶液の通過量の比(倍量)を意味する。一般に空間速度(SV)が速すぎると、当該樹脂へのカルシウムイオンの吸着時間が足りず、水酸化リチウム溶液中のカルシウムイオンが十分に除去されないことが懸念される。なお、空間速度(SV)が遅すぎると処理速度の低下により処理時間が増大する。
【0055】
水酸化リチウム溶液を陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂と接触させる際に、水酸化リチウム溶液のpHは9以上、すなわち水酸化リチウム溶液はアルカリ性とすることが好ましい。これは、ここでの水酸化リチウム溶液のpHを9未満とした場合は、ここで用いる樹脂によっては、カルシウムイオンの除去効率が低下することや、リチウムイオンまで吸着してしまう可能性が考えられるからである。樹脂と接触させる際の水酸化リチウム溶液のpHは、選定する樹脂の種類等に応じて変更することもある。
【0056】
(晶析工程)
晶析工程では、上記のカルシウム除去工程で不純物を除去した水酸化リチウム溶液中の水酸化リチウムを析出させる。それにより、水酸化リチウムを得ることができる。
【0057】
晶析工程では、水酸化リチウムを析出させるため、加熱濃縮又は減圧蒸留等の晶析操作を行うことができる。加熱濃縮の場合、晶析時の温度は高いほど処理が速く進むので好ましい。ただし、晶析後、晶析物の乾燥時の温度は、結晶水が脱離しない60℃未満の温度で実施するのが好ましい。結晶水が脱離すると、無水の水酸化リチウムとなり潮解性を有するため取り扱いが困難となるからである。
【0058】
なおその後、上記の水酸化リチウムを、必要な物性に調整するため、粉砕処理等を行うことができる。
【0059】
これにより得られた水酸化リチウムは、上述したカルシウム除去工程を経たことにより、カルシウム含有量が、たとえば10質量ppm以下に十分に低減されたものになる。このような高純度の水酸化リチウムは、リチウムイオン二次電池の製造の原料として用いることに適している。
【実施例0060】
次に、上述したような水酸化リチウムの製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0061】
(試験例1)
250gの炭酸リチウム、648gの水酸化カルシウムを、5000mLの水に添加した後、濾過による固液分離を行い、水酸化リチウム溶液を得た。水酸化リチウム溶液中のLi濃度は6.0g/L、Ca濃度は0.03g/L、pHは12であった。
【0062】
実施例1では、上記のようにして得られた水酸化リチウム溶液を室温下で、カルボキシル基を持つ陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製のAMBERLITE IRC76)を20mL充填したカラムに通して、不純物の除去を行った。この通液の際の水酸化リチウム溶液のpHは12であり、空間速度(SV)は9とした。
【0063】
実施例2では、上記の水酸化リチウム溶液を室温下で、キレート樹脂(オルガノ株式会社製のAMBERLITE IRC747UPS)を20mL充填したカラムに通して、不純物の除去を行った。この通液の際の水酸化リチウム溶液のpHは12であり、空間速度(SV)は9とした。
【0064】
比較例1では、上記の水酸化リチウム溶液に対して樹脂吸着を行わなかった。
【0065】
その後、実施例1及び2並びに比較例1のいずれについても、50℃の温度で水酸化リチウム溶液を加熱濃縮し、水酸化リチウムを晶析させた。
【0066】
上記の実施例1及び2並びに比較例1のそれぞれで得られた水酸化リチウムの不純物含有量を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1より、実施例1及び2はいずれも、比較例1に比して、水酸化リチウム中のCa含有量が十分に低減されていることから、陽イオン交換樹脂やキレート樹脂による処理でカルシウムイオンが有効に除去されたことが解かる。
【0069】
(試験例2)
上述した実施例1で用いた陽イオン交換樹脂及び、実施例2で用いたキレート樹脂のそれぞれについて、樹脂量に対し通水する流量倍数であるBV(Bed Volume)を変化させた際の、当該樹脂に通液した後の水酸化リチウム溶液中のLi濃度及びCa濃度の変化を確認した。BVは、BV=通液量(L)/樹脂体積(L)で表される。なおここでは、試験例1と同様の水酸化リチウム溶液を用いた。その結果を
図3にグラフで示す。
【0070】
図3より、BVの比較的広範囲にわたって、通液後の水酸化リチウム溶液中の高いLi濃度及び、低いCa濃度が維持されていることが解かる。したがって、これによれば、硫酸リチウムから比較的高純度の水酸化リチウムを製造することに寄与できることが解かった。
【0071】
(試験例3)
焙焼後のリチウムイオン二次電池廃棄物中のリチウムを水又は酸性溶液で溶解させて、得られたリチウム溶解液から溶媒によりリチウムイオンを抽出、抽出後の溶媒をリチウム溶液でスクラビングし、スクラビングを経た後の溶媒からリチウムイオンを逆抽出し、それにより逆抽出後液としての硫酸リチウム溶液を得た。逆抽出後液の不純物組成を表2に示す。
【0072】
【0073】
上記の硫酸リチウム溶液に対して、炭酸ナトリウムを添加して炭酸化を行った後、水酸化カルシウムを添加し、濾過による固液分離を行い、水酸化リチウム溶液を得た。実施例1で用いた陽イオン交換樹脂及び、実施例2で用いたキレート樹脂のそれぞれを用いて、当該樹脂に通液した後の水酸化リチウム溶液を50℃の温度で加熱濃縮し、水酸化リチウムを晶析させた。
その結果、表1の実施例1及び実施例2と同様の水準の高純度の水酸化リチウムが得られた。