(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091183
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】ヘッド制御装置、液体吐出システムおよびヘッド製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/04 20060101AFI20230623BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230623BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20230623BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
B41J2/04
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/015 101
B41J2/16 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205795
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】酒井 慶太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EA28
2C056EB07
2C056EB30
2C056EC07
2C056EC18
2C056EC42
2C056FA02
2C056FA15
2C056FB09
2C056KB03
2C056KB08
2C057AF81
2C057AL25
2C057AM22
2C057AN07
2C057BF04
(57)【要約】
【課題】温度によらず確実にノズルの閉じた状態を維持することが可能なヘッド制御装置およびヘッド製造方法を提供する。
【解決手段】
液体を吐出するノズルに対して該ノズルを閉じる位置と開く位置との間で移動する弁体と前記弁体を移動させるための動力を前記弁体に付与するアクチュエータとを有するヘッドと、温度測定手段とを備えるヘッドシステムを制御するためのヘッド制御装置であって、前記弁体は、前記アクチュエータへの第1駆動電圧により前記ノズルを閉じる方向に移動し、前記アクチュエータへの前記第1駆動電圧と異なる第2駆動電圧により前記ノズルを開く方向に移動する弁体であり、前記温度測定手段によって測定された温度が高いほど前記第1駆動電圧を高くする制御手段を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルに対して該ノズルを閉じる位置と開く位置との間で移動する弁体と前記弁体を移動させるための動力を前記弁体に付与するアクチュエータとを有するヘッドと、温度測定手段とを備えるヘッドシステムを制御するためのヘッド制御装置であって、
前記弁体は、前記アクチュエータへの第1駆動電圧により前記ノズルを閉じる方向に移動し、前記アクチュエータへの前記第1駆動電圧と異なる第2駆動電圧により前記ノズルを開く方向に移動する弁体であり、
前記温度測定手段によって測定された温度が高いほど前記第1駆動電圧を高くする制御手段を備える
ことを特徴とするヘッド制御装置。
【請求項2】
前記温度測定手段を、前記ヘッドの筐体、前記アクチュエータ、または前記アクチュエータを保持する弾性部材のいずれかの部材に備え、前記温度測定手段は前記部材の温度を測定することを特徴とする請求項1記載のヘッド制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記温度測定手段によって測定された温度が高いほど前記第1駆動電圧と共に前記第2駆動電圧を高くすることを特徴とする請求項1記載のヘッド制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1駆動電圧と前記第2駆動電圧との電位差が一定となるように前記第1駆動電圧および前記第2駆動電圧を可変することを特徴とする請求項1記載のヘッド制御装置。
【請求項5】
前記温度測定手段によって測定された温度が所定温度よりも低い場合は、前記温度が前記所定温度に達するまで前記ヘッドを前記第1駆動電圧よりも低い電圧で駆動することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のヘッド制御装置。
【請求項6】
液体を吐出するノズルに対して該ノズルを閉じる位置と開く位置との間で移動する弁体と前記弁体を移動させるための動力を前記弁体に付与するアクチュエータとを有するヘッドを制御するためのヘッド制御装置であって、
前記弁体は、前記アクチュエータへの第1駆動電圧により前記ノズルを閉じる方向に移動し、前記アクチュエータへの前記第1駆動電圧と異なる第2駆動電圧により前記ノズルを開く方向に移動する弁体であり、
前記ヘッドの駆動回数または駆動周波数の情報を取得する駆動情報取得手段と、
前記駆動情報取得手段が取得した駆動回数が大きいほど、または駆動周波数が高いほど前記第1駆動電圧を高くする制御手段と、
を備えることを特徴とするヘッド制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の前記温度測定手段を、前記ヘッドが搭載されたシステムであって液体を吐出する液体吐出システム側に備えることを特徴とする液体吐出システム。
【請求項8】
前記温度測定手段によって測定された温度が所定温度よりも低い場合は、前記温度が前記所定温度に達するまで前記ヘッドを前記第1駆動電圧よりも低い電圧で駆動することを特徴とする請求項7に記載の液体吐出システム。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のヘッド制御装置のヘッド製造方法であって、
前記ヘッドは、
前記弁体と、前記アクチュエータと、前記アクチュエータを保持し、該アクチュエータの駆動により弾性変形して前記アクチュエータの駆動力を前記弁体に伝える弾性部材とを有する駆動ユニットと、
前記駆動ユニットを保持する筐体と、
を備え、
前記第1駆動電圧および前記第2駆動電圧は、前記ヘッドで使用する液体の温度仕様、および前記ヘッドを使用する環境温度のうちの少なくとも一方に応じて設定するとともに、
前記筐体に対する前記駆動ユニットの保持位置を、前記設定によって求めた前記第1駆動電圧および前記第2駆動電圧に基づいて決定する
ことを特徴とするヘッド製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド制御装置、液体吐出システムおよびヘッド製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、アクチュエータの制御によってピンをノズルに対して離接可能とすることで、ピンがノズルから離間している間だけ液体をノズルから液滴として吐出するようにした液滴吐出ヘッドを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヘッドに使用するアクチュエータには、アクチュエータの温度が高まるとアクチュエータの全長が縮む特性を有するものがある。このような縮む特性を有したアクチュエータをヘッドに組み込む際、ヘッドで使用する液体の温度仕様、またはヘッド設置場所の環境等を考慮せずに組み立ててしまうと、実際の液体吐出動作でアクチュエータに縮みが生じる場合がある。そして、アクチュエータに縮みが生じた場合はノズルを閉じることができなくなり、ノズルから液体が出つづける状態をまねいてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、液体を吐出するノズルに対して該ノズルを閉じる位置と開く位置との間で移動する弁体と前記弁体を移動させるための動力を前記弁体に付与するアクチュエータとを有するヘッドと、温度測定手段とを備えるヘッドシステムを制御するためのヘッド制御装置であって、前記弁体は、前記アクチュエータへの第1駆動電圧により前記ノズルを閉じる方向に移動し、前記アクチュエータへの前記第1駆動電圧と異なる第2駆動電圧により前記ノズルを開く方向に移動する弁体であり、前記温度測定手段によって測定された温度が高いほど前記第1駆動電圧を高くする制御手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、温度によらず確実にノズルの閉じた状態を維持することが可能なヘッド制御装置およびヘッド製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態に係るヘッドの全体斜視図。
【
図2】本発明の実施形態に係るヘッドの全体断面図。
【
図3】本発明の実施形態に係る駆動ユニット単体の説明図。
【
図4】圧電素子温度と駆動ユニット収縮量の関係を示した説明図。
【
図5】本発明の実施形態に係るヘッド制御装置のハードウエア構成の一例を示す説明図。
【
図6】本発明の実施形態に係るアクチュエータ駆動電圧の説明図。
【
図7】本発明の実施形態に係るアクチュエータ駆動電圧の説明図。
【
図8】本発明の実施形態に係るアクチュエータ駆動電圧の説明図。
【
図9】本発明の実施形態に係るシステムの全体斜視図。
【
図11】本発明の実施形態に係る印刷装置のハードウエア構成の一例を示す説明図。
【
図12】アクチュエータ駆動電圧制御の一例を示すフローチャート。
【
図13】アクチュエータ駆動電圧制御の一例を示すフローチャート。
【
図14】本発明の実施形態に係るヘッド制御装置のハードウエア構成の他の例を示す説明図。
【
図15】本発明の実施形態に係るヘッド組立装置の構成例を示すブロック図。
【
図16】ヘッド製造工程の一例を示すフローチャート。
【
図17】本発明の実施形態に係るシステムの第1適用例を示す概略図。
【
図18】本発明の実施形態に係るシステムの第2適用例を示す概略図。
【
図19】本発明の実施形態に係るシステムの第3適用例を示す概略図。
【
図20】本発明の実施形態に係るシステムの第4適用例を示す概略図。
【
図21】本発明の実施形態に係るシステムの第5適用例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0008】
<ヘッドの構成>
はじめに
図1および
図2を用いてヘッドの構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るヘッドの全体斜視図である。
図2は、本発明の実施形態に係るヘッドの全体断面図(
図1のA-A線矢視断面図)である。
【0009】
図1においてヘッド300は、ハウジング310、コネクタ350、液体供給ポート311および液体回収ポート313を主に備える。ハウジング310は、金属材料または樹脂材料からなる。コネクタ350は、液体を吐出するための駆動信号等、電気信号を伝送するための端子であり、本実施形態ではハウジング310の上部にコネクタ350を設けている。
【0010】
液体供給ポート311と液体回収ポート313は、ハウジング310の左右に位置し、液体供給ポート311は液体をヘッド内に供給する。また、液体回収ポート313は液体をヘッドから排出する。次に
図2に基づきヘッド300の内部構成を説明する。
【0011】
図2においてハウジング310は、その上部に電気信号を伝送するためのコネクタ350を備えており、下部には液体を吐出するノズル302を備えたノズル板301を保持している。また、ハウジング310は、液体供給ポート311からの液体を、ノズル板301上を経て液体回収ポート313側へ送る流路312を備えている。
【0012】
さらに、ハウジング310は、液体供給ポート311と液体回収ポート313との間に、流路312内の液体をノズル302から吐出するための駆動ユニット330を収容している。駆動ユニット330についての詳細は後述するが、概略として駆動ユニット330は、ニードル弁331、圧電素子332および板バネ枠体333を備える。板バネ枠体333は圧電素子332を保持するとともに、圧電素子332の駆動により弾性変形して圧電素子332の駆動力をニードル弁331に伝える。ニードル弁331は、板バネ枠体333の弾性変形を受けてノズル302を開閉する。ここで、駆動ユニット330を構成するニードル弁331は「弁体」の一例であり、圧電素子332は「アクチュエータ」の一例であり、板バネ枠体333は「弾性部材」の一例である。また、ハウジング310は「筐体」の一例である。
【0013】
駆動ユニット330は、ノズル302の数と一致しており、本実施形態では1列に並べた8個のノズル302に対応する8個の駆動ユニット330を備えた構成を例示している。なお、ノズル302および駆動ユニット330の数および配列は上記に限るものではない。例えばノズル302および駆動ユニット330の数は、9個以上でもよいし、または複数ではなく1個であってもよい。また、ノズル302および駆動ユニット330の配列は、1列ではなく複数列で配置してもよい。
【0014】
上記構成において、液体の流れとしては、加圧した状態の液体を液体供給ポート311が外部から取り込み、液体を矢印a1方向へ送り、液体を流路312に供給する。流路312は、液体供給ポート311からの液体を矢印a2方向へ送る。そして、液体回収ポート313は、流路312に沿って配置したノズル302から吐出しなかった液体を矢印a3方向へ排出する。
【0015】
液体の吐出動作としては、圧電素子332を作動し、ニードル弁331が図において上方向へ変位すると、ニードル弁331によって閉じていたノズル302が開いた状態になり、流路312を流れる液体がノズル302から吐出する。また、圧電素子332を作動し、ニードル弁331が下方向へ変位すると、ニードル弁331の先端部がノズル302に当接してノズル302が閉じた状態になり、ノズル302から液体が吐出しなくなる。なお、ノズル302から液体を吐出している期間は、ノズル302からの吐出効率を下げないようにするために、液体回収ポート313からの液体の排出は一時的に行わないようにしてもよい。
【0016】
本実施形態ではノズル板301とハウジング310とを別々の部材としたが、両者を一体的に単一の部材で形成してもよい。両者を単一の部材で形成する場合、ニードル弁331の先端とノズル板301とが当接する位置を境に、ニードル弁331が設けられる側の部位をハウジング310、ニードル弁331を設けない側の部位をノズル板301と定義する。
【0017】
<駆動ユニットの構成>
次に
図3を用いて駆動ユニット330の構成を詳細に説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る駆動ユニット単体の説明図である。
【0018】
図3において駆動ユニット330は、ニードル弁331、圧電素子332および板バネ枠体333を備える。ノズル板301はハウジング310に接合している。また、流路312はハウジング310に設けた複数の駆動ユニット330に共通の流路である。
【0019】
ニードル弁331は、その先端がノズル板301に設けたノズル302に対向しており、ニードル弁331の先端がノズル板301に当接することでノズル302を閉じる。本実施形態において、ニードル弁331は、その先端に弾性体331aを設けることでノズル302に対する密着性を上げ、より確実にノズル302を閉じるようにしている。ハウジング310は、軸受321を介してニードル弁331を支持しており、軸受321とニードル弁331との間にはOリングなどのシール部材315を装着して、流路312内から圧電素子332側への液体の流れ込みを防いでいる。
【0020】
ハウジング310の内部に形成した空間322には、板バネ枠体333を配置している。板バネ枠体333は、ニードル弁保持部333a、枠部333b、伸縮部333c、空間333dおよび圧電素子保持部333e、333fを備える。ニードル弁保持部333aは、ニードル弁331の後端部を保持する。枠部333bは、例えば金属板からなり、中央部に空間333dを備えている。伸縮部333cは、枠部333bの一部に一体で形成した板バネであり、この部位が伸縮可能になっている。
【0021】
空間333dは、圧電素子332の設置スペースを形成する。圧電素子保持部333eは、枠部333bのニードル弁保持部333a後側から空間333dに向かって突出しており、圧電素子保持部333fは、枠部333bの圧電素子保持部333eと対面する部位において空間333dに向かって突出している。
【0022】
上記構成の板バネ枠体333に圧電素子332を取り付ける場合は、伸縮部333cの弾性変形を利用して板バネ枠体333を若干伸ばして空間333dを広げた状態にする。広げた状態の空間333dに圧電素子332を挿入したならば、板バネ枠体333を伸ばした状態から解放する。これにより、板バネ枠体333は、伸縮部333cが元に戻ろうとする復元力によって、圧電素子332の長手方向両端を、圧電素子保持部333eと圧電素子保持部333fとで挟み込むようにして保持する。従って、空間333dに圧電素子332を挿入したデフォルト状態においては、伸縮部333cが自然長よりも僅かに伸びた状態になる。
【0023】
なお、本実施形態において、弾性部材としての板バネ枠体333は、ニードル弁保持部333a、枠部333b、伸縮部333cおよび圧電素子保持部333e、333fを一体の部材で構成しているが、このうち一部の部位を別部材で構成してもよい。例えば、伸縮部333cをバネなどで構成し、バネを枠部333bに取り付けてもよい。
【0024】
ハウジング310に対する駆動ユニット330の取り付けは、例えばハウジング310に設けたネジ穴310aと規制部材314に設けたネジ穴314aとをネジ310bで締結することにより行う。つまり、規制部材314は、板バネ枠体333の圧電素子保持部333f側の端部を保持しており、ハウジング310は規制部材314を介して駆動ユニット330を保持する構成となっている。これにより、規制部材314は、板バネ枠体333の位置を規制し、圧電素子332の伸張によって板バネ枠体333が上側へ動かないように固定点をなしている。なお、ネジ310bによる締結は1箇所に限るものではない。例えば、図において右側にも同様のネジ穴を設け、規制部材314を左右から締結するようにしてもよい。ここで、ネジ穴310a、314aおよびネジ310bによる締結部は、「保持位置」の一例である。
【0025】
上記構成により、ニードル弁331および圧電素子332は、板バネ枠体333を介して同軸上、すなわち液体の吐出方向に直列に並んだ配置となる。そして、圧電素子332に駆動電圧を印加すると、圧電素子332が伸張する。圧電素子332が伸張すると、板バネ枠体333の伸縮部333cが弾性変形して当該伸張を吸収し、圧電素子332の先端部に設置したニードル弁保持部333aをノズル302側(図において下側)へ押す。このように、板バネ枠体333が圧電素子332の駆動により弾性変形して、圧電素子332の駆動力をニードル弁331に伝える。これにより、ニードル弁331の先端部(本実施形態では弾性体331a)がノズル302に当接してノズル302を閉じ、流路312に加圧供給した液体のノズル302からの吐出を止める。
【0026】
また、圧電素子332への駆動電圧の印加を停止すると、圧電素子332は収縮する。圧電素子332が収縮すると、伸縮部333cが弾性変形して当該収縮を吸収し、圧電素子332の先端部に設置したニードル弁保持部333aを後端側(図において上側)へ引っ張る。これにより、ニードル弁331の先端部(本実施形態では弾性体331a)がノズル302から離間してノズル302を開き、流路312に加圧供給した液体をノズル302から吐出する。
【0027】
また、
図3の構成においては、板バネ枠体333の一部に温度測定手段としてのサーミスタ334を設け、サーミスタ334により板バネ枠体333の温度を測定している。なお、サーミスタ334の設置場所は板バネ枠体333に限るものではない。サーミスタ334は、ハウジング310または圧電素子332等、他のヘッド構成部品に設けてもよい。
【0028】
<駆動ユニットの収縮について>
次に
図4を用いて圧電素子332の温度と駆動ユニット330の収縮量との関係を説明する。
図4は、圧電素子温度と駆動ユニット収縮量の関係を示した説明図である。
【0029】
ヘッド300に使用する圧電素子332は、大きな変位量を発生することが可能な、いわゆる高変位タイプの圧電素子であり、この種の圧電素子の中には圧電素子の温度が高まると圧電素子の全長が縮む特性を有するものがある。この特性の圧電素子を用いる場合は、オーバーシュート(信号がローレベルからハイレベルへ変化する際、一時的に電圧が100%を超えてしまう現象)やリンギング(信号の振動)等による自己破壊を防ぐ配慮が必要である。そのため本実施形態では圧電素子332を板バネ枠体333で保持することで圧電素子332の自己破壊を防ぐようにしている。
【0030】
この板バネ枠体333は、圧電素子332を保持した状態では、上述のように自然長よりも僅かに伸びた状態になっている。しかし、圧電素子332の駆動による自己発熱等によって圧電素子332の温度が高まると圧電素子332の全長は縮み、圧電素子332の全長が縮むと、これに追従して板バネ枠体333も自然長に戻る方向へ縮む。そして、板バネ枠体333が縮むことにより、板バネ枠体333に取り付けたニードル弁331もノズル302から離れる方向へ動く。その結果、駆動ユニット330全体の長さが短くなる。
【0031】
例えば
図4においてヘッドA(実線)の場合は、圧電素子温度25°Cでは駆動ユニットは殆ど収縮しないが、圧電素子温度50°Cでは駆動ユニット全体の長さは約5μm縮んでしまう。
【0032】
この傾向はヘッドAと異なる材料を用いたヘッドB(破線)の場合も同様であり、圧電素子温度25°Cでは駆動ユニットは殆ど収縮しないが、圧電素子温度40°Cでは駆動ユニット全体の長さは約5μm縮んでしまう。
【0033】
従って、
図4のヘッドAを常温環境下で組み立て、例えば圧電素子の温度が50°C以上になるシステムに搭載して使用した場合は、圧電素子332の温度上昇に伴いニードル弁331がノズル302を閉じなくなるおそれがある。
【0034】
<ヘッド制御装置のハードウエア構成>
次に
図5を用いてヘッド制御装置のハードウエア構成を説明する。
図5は、本発明の実施形態に係るヘッド制御装置のハードウエア構成の一例を示す説明図である。なお、
図5に示すハードウエア構成は必要に応じて構成要素が追加または削除されてもよい。
【0035】
図5においてヘッド制御装置902は、制御部9020、駆動波形増幅部9022およびAD変換部9023を備える。このうちの制御部9020は、駆動波形生成部9021、温度データ格納部9024および補正値算出部9025を備える。また、ヘッド制御装置902はヘッドシステム30との電気的な接続が可能であり、ヘッドシステム30はヘッド300およびサーミスタ334を備える。ここで、サーミスタ334は「温度測定手段」の一例である。
【0036】
駆動波形生成部9021は、駆動波形を生成し、生成した駆動波形信号を駆動波形増幅部9022へ送信する。また、駆動波形生成部9021は、補正値算出部9025から圧電素子332の駆動電圧補正値に関する補正値情報を受信した場合は、その補正値情報に基づき駆動波形を補正する。駆動波形増幅部9022は、駆動波形生成部9021から受信した駆動波形信号の電圧および電流を増幅し、ヘッド300が有する圧電素子332に対して駆動電圧を印加する。AD変換部9023は、サーミスタ334から受信した信号に対してAD変換を行い、変換後の信号を温度データ格納部9024に出力する。
【0037】
温度データ格納部9024は、例えば温度と、当該温度での駆動ユニット330の収縮量と、当該収縮量を補うようにするための駆動電圧値とを紐づけたテーブルを格納している。また、温度データ格納部9024は、駆動波形生成部9021から受信した駆動波形信号の情報と、AD変換部9023を介してサーミスタ334から受信した信号の情報を格納する。補正値算出部9025は、温度データ格納部9024から受信した情報に基づいて補正値を算出し、算出した補正値情報を駆動波形生成部9021へ送信する。
【0038】
上記構成のヘッド制御装置902を
図2に示したヘッド300の圧電素子332それぞれに備えることでノズル毎に吐出状態を補正することが可能になり、液体の吐出量、液滴のサイズ等をノズル毎で調整することが可能になる。ここで、制御部9020は「制御手段」の一例である。
【0039】
なお、ヘッドシステム30が有するサーミスタ334の設置場所は特定の場所に限るものではない。サーミスタ334は、ハウジング310、圧電素子332または板バネ枠体333等のヘッド構成部品に設ける以外に、後述するシステム(印刷装置本体)側にヘッド300とは別の場所で備えてもよい。あるいは、サーミスタ334をヘッド300とシステムの両方に備えてもよい。この場合は、例えばヘッド300に備えたサーミスタでヘッド温度を測定し、システムに備えたサーミスタでシステム周囲の環境温度を測定し、複数のサーミスタの温度データに基づき駆動波形を生成する。
【0040】
<アクチュエータ駆動電圧の説明>
次に、
図6乃至
図8を用いてアクチュエータ(圧電素子)の駆動電圧について説明する。
図6乃至
図8はアクチュエータ駆動電圧の説明図であり、
図6および
図7は液体吐出動作の実行中における駆動電圧の説明図、
図8は液体吐出動作開始前における駆動電圧の説明図である。
【0041】
図6において圧電素子332に第1駆動電圧V1を印加した場合、圧電素子332は伸びた状態となる。圧電素子332が伸びた状態では、板バネ枠体333を介してニードル弁331がノズル板301側へ動き、ニードル弁331はノズル302を閉じる。また、第2駆動電圧V2(本実施形態では0V)とした場合は圧電素子332が縮んだ状態となるため、板バネ枠体333がニードル弁331をノズル板301から離れる方向へ動かし、ノズル302が開く。
【0042】
そして、サーミスタ334が高い温度を測定した場合は、第1駆動電圧V1をそれより高い電圧V1Hに補正する。つまり、サーミスタ334によって測定された温度が高いほど第1駆動電圧V1を高くする。なお、駆動電圧V1から駆動電圧V1Hへの補正は、
図5に示した制御部9020が主となって実行する。第1駆動電圧V1をサーミスタ334によって測定された温度に応じて上記のように補正することで圧電素子332の縮みに伴う駆動ユニット330の収縮量を補うことが可能になり、温度によらず確実にノズルの閉じた状態を維持することができる。
【0043】
上述のように本実施形態は、液体を吐出するノズル302に対してノズル302を閉じる位置と開く位置との間で移動するニードル弁331と、ニードル弁331を移動させるための動力をニードル弁331に付与する圧電素子332とを有するヘッド300と、サーミスタ334とを備えるヘッドシステム30を制御するためのヘッド制御装置902であって、ニードル弁331は、圧電素子332への第1駆動電圧V1によりノズル302を閉じる方向に移動し、圧電素子332への第1駆動電圧V1と異なる第2駆動電圧V2によりノズル302を開く方向に移動するニードル弁であり、サーミスタ334によって測定された温度が高いほど第1駆動電圧V1を高くする(駆動電圧V1Hにする)制御部9020を備える。
【0044】
また、上述のようにサーミスタ334を、ヘッド300のハウジング310、圧電素子332、または圧電素子332を保持する板バネ枠体333のいずれかの部材に備え、サーミスタ334はその部材の温度を測定する。
【0045】
これらにより温度上昇による圧電素子332の収縮がもたらす駆動ユニット330の収縮量を補うことが可能になり、温度によらず確実にノズル302の閉じた状態を維持できる。
【0046】
図7は
図6の変形例である。第1駆動電圧V1のみを補正した場合、第2駆動電圧V2との電位差が補正前と補正後とで変わり(|V1-V2|<|V1H-V2|)、ノズル302からの液体の吐出特性(吐出量、吐出速度等)に影響を与える場合がある。本変形例では、サーミスタ334によって測定された温度に応じて、第1駆動電圧V1と共に第2駆動電圧V2も高くするようにしている。好ましくは、第1駆動電圧V1と第2駆動電圧V2との電位差が、補正前と補正後とで一定(|V1-V2|=|V1H-V2H|)となるように可変する。
【0047】
上述のように本実施形態において、制御部9020は、サーミスタ334によって測定された温度が高いほど第1駆動電圧V1と共に第2駆動電圧V2を高くする。
【0048】
また、上述のように制御部9020は、第1駆動電圧V1と第2駆動電圧V2との電位差が一定となるように第1駆動電圧V1および第2駆動電圧V2を可変する。
【0049】
これらにより温度によらず確実にノズル302の閉じた状態を維持できるとともに、液体の吐出特性の変動も低減できる。
【0050】
図8は、液体吐出動作開始前における駆動電圧の説明図である。本実施形態のヘッドシステム30およびヘッド制御装置902は、用途によって使用環境が多岐にわたるものであり、使用環境によってはヘッドが正常に動作する温度範囲よりもヘッド温度が低くなってしまっている場合がある。この場合、高い電圧を最初から圧電素子332に印加すると圧電素子332を伸ばし過ぎてしまい、ニードル弁331のノズル板301に対する当接が過剰になり、ニードル弁331やノズル板301の変形や破損を招くおそれがある。
【0051】
そこで、ヘッドが正常に動作する温度範囲よりもヘッド温度が低い場合、ヘッド制御装置902は圧電素子332に対して第1駆動電圧V1よりも低い電圧V1Lを印加する。電圧V1Lによる圧電素子332の駆動は、サーミスタ334によって測定された温度が正常動作可能な温度範囲(例えば30°C以上)になるまで続ける。
【0052】
なお、電圧V1Lで駆動している期間は、ヘッド300の流路312への液体の供給を停止し、ノズル302から液体を吐出しない状態で実施する。そして、ヘッド内部を加熱し、サーミスタ334によって測定された温度が例えば30°C以上になったならばヘッド制御装置902は圧電素子332に対して第1駆動電圧V1を印加してノズル302を閉じる。
【0053】
上述のように本実施形態において、サーミスタ334によって測定された温度が所定温度よりも低い場合は、温度が所定温度に達するまでヘッド300を第1駆動電圧V1よりも低い電圧V1Lで駆動する。
【0054】
これにより、ヘッド300が低温であることに起因して生じるニードル弁331のノズル板301への過剰な当接による変形や破損を防止することができる。
【0055】
<システムの概略>
次に、上述のヘッドを搭載したシステムについて説明する。
図9は、本発明の実施形態に係るシステムの全体斜視図である。ここに例示したシステムは、トラックの車体側面などに画像を形成する印刷装置である。
【0056】
図9において印刷装置1000は、トラックの車体側面などの対象物100に対向して設置している。印刷装置1000は、X軸レール101と、このX軸レール101と交差するY軸レール102と、X軸レール101およびY軸レール102と交差するZ軸レール103を備える。Y軸レール102は、X軸レール101がY方向(正側および負側)に移動可能なようにX軸レール101を保持する。X軸レール101は、Z軸レール103がX方向(正側および負側)に移動可能なようにZ軸レール103を保持する。Z軸レール103は、キャリッジ1がZ方向(正側および負側)に移動可能なようにキャリッジ1を保持する。
【0057】
印刷装置1000は、キャリッジ1をZ軸レール103に沿ってZ方向へ動かす第1のZ方向駆動部92と、Z軸レール103をX軸レール101に沿ってX方向へ動かすX方向駆動部72とを備える。また、印刷装置1000は、X軸レール101をY軸レール102に沿ってY方向へ動かすY方向駆動部82と、キャリッジ1に対してヘッド保持体70をZ方向へ動かす第2のZ方向駆動部93を備える。
【0058】
上記構成の印刷装置1000は、X軸レール101が一定間隔でY方向負側へ下降する毎に、キャリッジ1がX軸レール101上を左右(X方向負側および正側)に往復動作する。キャリッジ1の往復移動に伴い、ヘッド保持体70に設けたヘッドは対象物100を走査しながら液体の一例としてのインクを吐出し、対象物100に対して液体吐出処理の一例としての画像形成を行う。
【0059】
ここで、キャリッジ1およびヘッド保持体70のZ方向の移動は、必ずしもZ方向に平行であることを意味するものではなく、少なくともZ方向の成分を含んでいれば斜めの移動であってもよい。なお、図において対象物100の表面形状は平面としているが、対象物100の表面形状は、鉛直に近い面、曲率半径の大きい面、または多少の凹凸を有する面であってもよい。また、システムの構成は、対象物100に対してヘッドを動かすものに限るものではない。ヘッドと対象物100とは相対的に移動が可能であればよく、対象物100をヘッドに対して動かす構成のものであってもよい。
【0060】
<キャリッジの構成>
次に
図10を用いてキャリッジの構成を説明する。
図10は、
図9に示した印刷装置1000のキャリッジ1の全体斜視図であり、キャリッジ1を対象物100側から見たものである。
【0061】
図10においてキャリッジ1はヘッド保持体70を備えている。また、キャリッジ1は、
図9に示した第1のZ方向駆動部92からの動力によりZ軸レール103に沿ってZ方向(正側および負側)へ移動可能である。ヘッド保持体70は、
図9に示した第2のZ方向駆動部93からの動力によりキャリッジ1に対してZ方向(正側および負側)へ移動可能である。また、ヘッド保持体70はヘッド300を取り付けるためのヘッド固定板70aを備えている。本実施形態では、8つのノズル302を有するヘッドを、ヘッド固定板70aに6個取り付けた構成を例示しており、6個のヘッド300a~300fを積層状に並べて設けている。なお、以下の説明においてヘッド300a~300fを総称する場合は「ヘッド300」と記す。
【0062】
ヘッド300a~300fで用いるインクの色の種類や数は、ヘッド毎に異なる色としてもよいし、すべて同じ色としてもよい。例えば、印刷装置1000が、単色を用いる塗装装置である場合は、ヘッド300a~300fで用いるインクは同色でよい。また、ヘッド300を構成するヘッドの数は6つに限るものではない。6つより多くてもよく、また、6つより少なくてもよい。
【0063】
ヘッド300は、図示のように各ヘッドのノズル列が水平面(X-Z面)と交差し、かつ複数のノズル302の配列方向をX軸に対して傾けた状態でヘッド固定板70aに固定する。この状態でノズル302は、鉛直方向と交差する方向(Z方向正側)にインクを吐出する。
【0064】
<印刷装置のハードウエア構成>
次に、
図11を用いて印刷装置1000のハードウエア構成を説明する。
図11は、実施形態に係る印刷装置のハードウエア構成の一例を示す説明図である。なお、
図11に示すハードウエア構成は、必要に応じて構成要素が追加または削除されてもよい。
【0065】
図11において印刷装置1000は、コントローラ901、ヘッド制御装置902およびヘッドシステム30等を備える。また、コントローラ901には、コンピュータ903を接続している。コンピュータ903は、カラープロファイルやユーザの設定に応じて画像処理を行うRIP(Routing Information Protocol)部9031、対象物100に形成する画像の画像データを走査(キャリッジ1のX軸方向の移動)毎の画像データに分解するレンダリング部9032等を備える。また、コンピュータ903には、対象物100に形成する画像の画像データおよび座標データの設定や、画像形成モードの選択、画像形成(印刷)範囲の設定、印刷指示等を行う入力装置9033を接続している。入力装置9033は、キーボード、マウス、タッチパネル等からなり、ユーザからの入力を受け付ける。
【0066】
コントローラ901は、システム制御部9011、データ格納部9012、メモリ制御部9013、吐出周期信号生成部9014、キャリッジ制御部9015およびメンテナンス制御部9016等を備える。システム制御部9011は、コンピュータ903から画像データや指令を受信し、印刷装置1000の全体動作を制御する。データ格納部9012は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等のメモリを備え、コンピュータ903から受信した画像データ、印刷範囲データ等を格納する。メモリ制御部9013は、データ格納部9012を制御する。
【0067】
印刷装置1000は、例えばX軸レール101に沿って設置したリニアエンコーダを備える。リニアエンコーダの各スリットを光学的に検出するエンコーダセンサ109を、例えばキャリッジ1や維持回復装置105等、X軸レール101上で移動可能な部材に設置し、当該部材のX軸上での位置情報を取得できるようにしている。吐出周期信号生成部9014は、キャリッジ1におけるエンコーダセンサ109の出力信号と、コンピュータ903から受信した画像データの解像度を示す情報とから、インクの吐出周期信号を生成する。
【0068】
キャリッジ制御部9015は、エンコーダセンサ109の出力信号に基づきキャリッジ1の位置情報を算出して、X方向駆動部72、Y方向駆動部82、第1のZ方向駆動部92および第2のZ方向駆動部93の駆動を制御する。メンテナンス制御部9016は、維持回復装置105におけるエンコーダセンサ109の出力信号に基づき、維持回復装置105の位置情報を算出するとともに、維持回復装置105の動作制御を行う。ここで、維持回復装置105は、キャリッジ1に搭載したヘッド300に対して所定のタイミングで空吐出、ワイピング、洗浄等のメンテナンスを実施する装置である。
【0069】
以上のようにコントローラ901は、システム制御部9011、データ格納部9012、メモリ制御部9013、吐出周期信号生成部9014、キャリッジ制御部9015およびメンテナンス制御部9016等を備えている。コントローラ901は、演算処理装置および記憶装置を有し、記憶装置内に事前に記録されているプログラムを演算処理装置が実行することで、これら各機能部を実現する。
【0070】
ヘッド制御装置902は、コントローラ901の吐出周期信号生成部9014からの吐出周期信号を受信し、吐出周期信号に基づきヘッド300におけるインク吐出動作を制御する。また、ヘッド制御装置902は、サーミスタ334から受信する温度情報に基づきヘッド300の駆動波形を生成し、駆動波形に応じた駆動電圧をヘッド300(圧電素子332)に印加する。なお、ヘッド制御装置902およびヘッドシステム30の構成等は
図5で説明したので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0071】
なお、RIP部9031およびレンダリング部9032は、コンピュータ903に設けるのではなく、コントローラ901のシステム制御部9011に設ける構成としてもよい。また、本実施形態では、キャリッジ1および維持回復装置105等の位置を検出するセンサとしてエンコーダセンサを例示したが、センサはこれに限るものではない。エンコーダセンサ以外に例えばプッシュセンサ等のメカニカルセンサでもよいし、レーザー光などを用いた光学式センサであってもよい。
【0072】
<実施形態の動作>
次に、印刷装置1000における印刷動作の一例を説明する。
【0073】
印刷装置1000は、コンピュータ903から印刷指示を受信すると、X軸レール101をY方向正側へ動かし、キャリッジ1が印刷開始位置と対向する位置となるように設定する。印刷を開始すると、キャリッジ1は印刷開始位置からX方向正側へX軸レール101上を移動し、キャリッジ1に搭載したヘッド300が吐出するインクによって対象物100に所望の画像を形成する。キャリッジ1のX方向正側への移動による1回目の走査が終了したならば、X軸レール101をY方向負側へ一定間隔だけ移動(改行)する。
【0074】
その後、キャリッジ1は、今度はX軸レール101上をX方向負側へ移動し、ヘッド300が吐出するインクによって対象物100に所望の画像を形成する。キャリッジ1のX方向負側への移動による2回目の走査が終了したならば、X軸レール101をさらにY方向負側へ一定間隔だけ移動する。以上の動作を印刷終了位置まで繰り返すことにより、印刷装置1000は対象物100への画像形成が完了する。
【0075】
なお、キャリッジ1によるX方向の走査が終了する毎に、ヘッド300に対して維持回復装置105によるメンテナンス動作を実施するようにしてもよい。また、維持回復装置105は、キャリッジ1に搭載する構成であってもよいし、あるいはX軸レール101の端部に設置する構成であってもよい。
【0076】
<アクチュエータ駆動電圧制御の流れ>
次に、
図12および
図13を用いてアクチュエータ(圧電素子)駆動電圧の制御動作の一例を説明する。
図12はアクチュエータ駆動電圧制御の一例を示すフローチャートであり、温度測定からヘッド駆動までの処理を表している。
【0077】
図12において、まず圧電素子332の駆動電圧制御のための温度測定が開始する(ステップS1)。温度は、ハウジング310、圧電素子332または板バネ枠体333等のヘッド構成部品に設けたサーミスタ334、あるいは印刷装置1000本体等のヘッド300とは別の場所に設けたサーミスタ334によって測定する。そしてサーミスタ334は温度データをヘッド制御装置902へ送信する。ヘッド制御装置902は、受信した温度データを、ヘッド制御装置902内の温度データ格納部9024に格納する(ステップS2)。
【0078】
次に、ヘッド制御装置902内の補正値算出部9025は、温度データ格納部9024に格納した温度データを基に駆動電圧の補正値を算出する(ステップS3)。温度データ格納部9024は、例えば温度と、当該温度での駆動ユニット330の収縮量と、当該収縮量を補うようにするための駆動電圧値とを紐づけたテーブルを格納している。そして、補正値算出部9025は、温度データ格納部9024のテーブルとサーミスタ334から受信した温度データとを照らし合わせて駆動電圧の補正値を算出し、算出した補正値の情報を駆動波形生成部9021へ送信する。
【0079】
駆動波形生成部9021は補正値の情報を受信すると、その補正値の情報に基づいて駆動波形を生成(補正)する(ステップS4)。つまり、
図6および
図7において破線で示した駆動波形を生成する。そして、駆動波形生成部9021は、生成した駆動波形信号を、駆動波形増幅部9022を介してヘッド300へ送信する。これにより、ヘッド300は駆動波形の電圧に応じて動作する(ステップS5)。
【0080】
図13はアクチュエータ駆動電圧制御の一例を示すフローチャートであり、低温状態のヘッドを駆動するまでの処理を表している。
【0081】
図13において、
図12との差異はステップS1(温度測定)とステップS2(温度データ格納)との間に、ヘッド300が使用温度範囲内かを判断するステップを追加した点である。つまり、ステップS1(温度測定)でのサーミスタ334によって測定された温度に基づき、ヘッド300が正常動作可能な温度範囲内かを判断する(ステップS11)。ステップS11での判断がNOの場合(正常動作可能な温度範囲内にない場合)は、
図8で説明したように圧電素子332に対して第1駆動電圧V1よりも低い駆動電圧V1Lを印加する(ステップS12)。
【0082】
駆動電圧V1Lの印加を続けながらサーミスタ334による温度測定を行い、ヘッド300が使用温度範囲内の温度に達したならば、ステップS2(温度データ格納)に移行する。ステップS2以降の処理は
図12と同様であるため説明は省略する。低温状態のヘッドを駆動する際は以上のように駆動電圧制御を実施することで、ヘッドが低温であることに起因して生じるニードル弁331のノズル板301への過剰な当接による変形や破損を防止することができる。
【0083】
<ヘッド制御装置の変形例>
図14は、本発明の実施形態に係るヘッド制御装置のハードウエア構成の他の例を示す説明図である。本変形例では
図5のようなサーミスタ等の温度測定手段を用いずにヘッド300の駆動回数または駆動周波数からヘッド300の温度を算出する。つまり、ヘッド300を連続して駆動するときの累積の駆動回数が増えるほど圧電素子332の温度は上昇し、また、ヘッド300の駆動周波数が高いほど圧電素子332の温度は早く上昇すると考えられる。本変形例では上記の考えのもと、ヘッド300の駆動回数または駆動周波数からヘッド300の温度を算出(推定)している。なお、
図14に示すハードウエア構成は、必要に応じて構成要素が追加または削除されてもよい。
【0084】
図14においてヘッド制御装置902は、制御部9020および駆動波形増幅部9022を備える。このうちの制御部9020は、駆動波形生成部9021、駆動情報取得部9026および補正値算出部9025を備え、ヘッド制御装置902はヘッド300との電気的な接続が可能である。
【0085】
駆動波形生成部9021は、駆動波形を生成し、生成した駆動波形信号を駆動波形増幅部9022および駆動情報取得部9026へ送信する。また、駆動波形生成部9021は、補正値算出部9025から圧電素子332の駆動電圧補正値に関する補正値情報を受信した場合は、その補正値情報に基づき駆動波形を補正する。駆動波形増幅部9022は、駆動波形生成部9021から受信した駆動波形信号の電圧および電流を増幅し、ヘッド300が有する圧電素子332に対して駆動電圧を印加する。
【0086】
駆動情報取得部9026は、駆動波形生成部9021から駆動波形信号を受信し、駆動波形信号よりヘッド300の駆動回数または駆動周波数の情報を取得する。そして、駆動情報取得部9026は、取得した駆動回数または駆動周波数の情報をもとに、ヘッド300の温度を算出する。補正値算出部9025は、駆動情報取得部9026から受信した情報に基づいて補正値を算出し、算出した補正値情報を駆動波形生成部9021へ送信する。そして、駆動情報取得部9026によって算出した温度が高いほど、第1駆動電圧V1が高くなるように制御部9020が駆動電圧を制御する。
【0087】
上記構成のヘッド制御装置902を、
図2に示したヘッド300の圧電素子332それぞれに備えることで、ノズル毎に吐出状態を補正することが可能になり、液体の吐出量、液滴のサイズ等をノズル毎で調整することが可能になる。ここで、駆動情報取得部9026は「駆動情報取得手段」の一例である。
【0088】
上述のように本実施形態は、液体を吐出するノズル302に対してノズル302を閉じる位置と開く位置との間で移動するニードル弁331と、ニードル弁331を移動させるための動力をニードル弁331に付与する圧電素子332とを有するヘッド300を制御するためのヘッド制御装置902であって、ニードル弁331は、圧電素子332への第1駆動電圧V1によりノズル302を閉じる方向に移動し、圧電素子332への第1駆動電圧V1と異なる第2駆動電圧V2によりノズル302を開く方向に移動するニードル弁であり、ヘッド300の駆動回数または駆動周波数の情報を取得する駆動情報取得部9026と、駆動情報取得部9026が取得した駆動回数が大きいほど、または駆動周波数が高いほど第1駆動電圧V1を高くする(駆動電圧V1Hにする)制御部9020とを備える。これにより、温度によらず確実にノズル302の閉じた状態を維持できる。
【0089】
<システムの変形例>
図11において、印刷装置として例示したシステムでは、温度測定手段の一例であるサーミスタ334をヘッドシステム30内に設けた構成としたが、温度測定手段の設置場所はこれに限るものではない。例えばヘッド300の設置箇所やサイズを小さくするためにサーミスタ334をヘッド300ではなく、印刷装置1000内のヘッド近傍の箇所に設けてもよい。
【0090】
すなわち、サーミスタ334を、ヘッド300が搭載されたシステムであって液体を吐出する印刷装置1000側に備える。ヘッド300を搭載した印刷装置1000内でヘッド近傍の温度をサーミスタ334により検知することで、ヘッド300の温度をおおよそ把握することができる。
【0091】
また、サーミスタ334によって測定された温度が所定温度よりも低い場合は、温度が所定温度に達するまでヘッド300を第1駆動電圧V1よりも低い電圧V1Lで駆動する。これにより、本変形例でもヘッド300が低温であることに起因して生じるニードル弁331のノズル板301への過剰な当接による変形や破損を防止することができる。
【0092】
<ヘッド組立装置の説明>
次に、
図15を用いてヘッド300を組み立てる際に用いる組立装置について説明する。
図15は、ヘッド組立装置の構成例を示すブロック図である。
【0093】
上述の駆動電圧制御を行うことでヘッドは温度によらず確実にノズルの閉じた状態を維持することができるようになる。しかしながらヘッドシステム30およびヘッド制御装置902は、用途によって使用環境およびヘッド300で使用する液体の温度仕様等が多岐にわたる。従って、ヘッド制御装置902による駆動電圧制御だけではなく、ヘッド300を組み立てる段階からヘッド300で使用する液体の温度仕様やヘッド300を使用する環境を考慮して組み立てることが好ましい。特にヘッド300のハウジング310に対する駆動ユニット330の保持位置(ネジ穴310a、314aおよびネジ310bによる締結部)は、上記を考慮して調整しておくことが好ましい。
【0094】
そこで、
図15に示すヘッド組立装置1500を用いてハウジング310に対する駆動ユニット330の保持位置を、ヘッド300で使用する液体の温度仕様、ヘッド300を使用する環境等に考慮して組み立てる。なお、
図15に示した構成は一例であり、必要に応じて構成要素が追加または削除されてもよい。
【0095】
図15においてヘッド組立装置1500は、入力装置1501、コンピュータ1502、ヘッド制御装置902およびヘッド300からなる。入力装置1501は、ヘッド300で使用する液体の温度仕様、ヘッド300を使用する環境温度等の情報を入力するための装置であり、キーボード、マウス、タッチパネル等からなり、作業者からの入力を受け付ける。コンピュータ1502は、入力装置1501から液体の温度仕様、ヘッド300の使用環境に関する情報や指示を受信する。また、コンピュータ1502は、入力装置1501から受信した情報をヘッド制御装置902(制御部9020)へ送信する。
【0096】
ヘッド制御装置902は、例えば
図5で説明したヘッド制御装置を用いることができる。ヘッド300は、ヘッド組立装置1500での組立対象物であるので、組み立てが完了する毎に別のヘッド300と入れ替わることになる。また、ヘッド制御装置902は、ヘッド300側に設けてもよいし、ヘッド組立装置1500側に設けてもよい。前者の場合はヘッド300の入れ替えと共にヘッド制御装置902もヘッド組立装置1500に対して入れ替わることになる。後者の場合は、複数のヘッド300の組立において、1つのヘッド制御装置902を共通で用いることになる。なお、ヘッド制御装置902およびヘッド300の構成は
図5で説明したのでここでの説明は省略する。
【0097】
<ヘッド製造方法>
次に、ヘッド組立時の処理(作業)の流れを説明する。
図16は、ヘッド製造工程の一例を示すフローチャートであり、ヘッドを組み立てる際に実施する処理を表している。
【0098】
図16において、まず作業者はヘッド300が使用する液体の温度仕様、ヘッド300を使用する環境温度等の情報を入力する(ステップS161)。情報の入力はヘッド組立装置1500の入力装置1501より作業者が入力することにより行う。作業者が入力した情報は、コンピュータ1502を経由してヘッド制御装置902が受信する。そして、ヘッド制御装置902は、受信した液体の温度仕様、ヘッド使用環境温度等の情報を、ヘッド制御装置902の温度データ格納部9024(
図5参照)に格納する。
【0099】
次に、ヘッド制御装置902内の補正値算出部9025は、ステップS161で温度データ格納部9024に格納したデータを基に組立調整に用いる駆動電圧の補正値を算出する(ステップS162)。温度データ格納部9024は、例えば液体の温度仕様と、ヘッド使用環境温度と、各温度での駆動ユニット330の収縮量と、当該収縮量を補うようにするための駆動電圧値とを紐づけたテーブルを格納している。そして、補正値算出部9025は、温度データ格納部9024のテーブルと入力装置1501から受信した情報とを照らし合わせて組立調整に用いる駆動電圧の補正値を算出し、補正値の情報を駆動波形生成部9021へ送信する。
【0100】
駆動波形生成部9021は、補正値の情報を受信すると、その補正値の情報に基づいて駆動波形を生成する(ステップS163)。駆動波形生成部9021は、生成した駆動波形信号を、駆動波形増幅部9022を介してヘッド300へ送信し、ヘッド300に組立調整用の駆動電圧を印加する。そして作業者は、組立調整用の駆動電圧を印加した環境下でヘッド300の組立てを行う(ステップS164)。
【0101】
これにより、ヘッド300のハウジング310と駆動ユニット330とを、実際の使用条件や使用環境に近い環境で位置決めすることが可能になるので、補正処理における制御回路の負荷を軽減できる。また、システム設置場所での初期調整の時間を削減することが可能になる。以下、組立調整の具体例を説明する。
【0102】
例えばヘッド300を、温度30°C未満の環境で使用する用途のヘッドとして組み立てる場合は、
図4に示したように温度に起因した駆動ユニットの収縮量は小さい。そのため、第1駆動電圧V1(
図6の実線)を組立調整用の駆動電圧として用いてヘッド300を組み立てる。これにより、温度30°C未満の環境で正確にノズル開閉を行うことが可能なヘッドを製造(組立)できる。
【0103】
また、例えばヘッド300を、温度30°C以上50°C以下の環境で使用する用途のヘッドとして組み立てる場合は、温度に起因した駆動ユニットの収縮量が大きい。そのため、第1駆動電圧V1を用いて組立調整を行ったのでは、ニードル弁331がノズル302を閉じきらない状態となる可能性がある。この場合は、駆動電圧V1H(
図6の破線)を組立調整用の駆動電圧として用いてヘッド300を組み立てる。これによりヘッド300を温度30°C以上50°C以下の環境に置いた場合でも正確にノズル開閉を行うことが可能なヘッドを製造(組立)できる。以上のような製造工程を取り入れることで、実使用環境に即した組立調整が可能となる。
【0104】
<適用例>
以下、
図17乃至
図21を用いて本発明の実施形態に係るシステムの適用例を説明する。
【0105】
≪第1適用例≫
図17は、本発明の実施形態に係るシステムの第1適用例を示す概略図であり、
図17(a)は全体構成図、
図17(b)は
図17(a)の要部拡大図である。
【0106】
例示したシステムは、例えば航空機の機体側面などに画像を形成する印刷装置である。印刷装置2000は、キャリッジ1を往復直線移動可能に支持するリニアレール404と、リニアレール404を適宜所定の位置へ動かし、その位置で保持する多関節ロボット405とを備える。多関節ロボット405は、複数の関節によって人間の腕のように自由な動きを可能としたロボットアーム405aを備えており、ロボットアーム405aの先端を自由に動かし、正確な位置に配置することができる。
【0107】
多関節ロボット405としては、例えば、6つの軸、すなわち6つの関節を備えた6軸制御型の産業用ロボットを用いることができる。6軸型の多関節ロボットによれば予め動作に関する情報をティーチングしておくことで、きわめて正確、且つ迅速にリニアレール404を機体702の所定位置に対峙することができる。ロボット405は、6軸に限るものではなく、5軸、7軸など適宜の軸数を備えた多関節ロボットを用いることができる。
【0108】
ロボット405のロボットアーム405aはフォーク状の支持部材424を備えている。この支持部材424の左側の枝部424aの先端には垂直リニアレール423aを、右側の枝部424bの先端には垂直リニアレール423bを平行になるようにして取り付けている。そして、キャリッジ1を移動可能に保持したリニアレール404の両端を、2つの垂直リニアレール423a、423bが支持している。
【0109】
キャリッジ1は、上述のヘッドシステム30およびヘッド制御装置902などを備え、機体702に向けて液体を吐出するヘッドを備えている。ヘッドとしては、上述のヘッド300や、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、ホワイトなどの各色の液体を吐出する複数のヘッド300、または複数のノズル列を有するヘッド300を備えている。このキャリッジ1の各ヘッド300またはヘッド300の各ノズル列に対しては、インクタンク400から各色の液体を供給している。
【0110】
キャリッジ1は、リニアレール404上を移動することで第1の方向へ動き、このリニアレール404が垂直リニアレール423a、423b上を移動することで第1の方向と交差する第2の方向へ動くことが可能である。また、キャリッジ1には、第1の方向および第2の方向と交差する第3の方向(本例では機体702に向けての液体吐出方向)にてキャリッジ1を動かす第1のスライド機構を備えている。また、キャリッジ1は、ヘッドをキャリッジ1に対して第3の方向にて動かす第2のスライド機構を備えている。
【0111】
印刷装置2000は、ロボット405によりリニアレール404を機体702の画像形成領域に動かし、画像データに応じてキャリッジ1をリニアレール404に沿って移動しながらヘッド300を駆動して、画像形成を行う。そして、1ライン分の印刷が終了したときに、垂直リニアレール423a、423bを駆動することにより、キャリッジ1のヘッド300をあるラインから次のラインに動かす。この動作を繰り返して、機体702の所要の画像形成領域に画像形成することが可能となる。
【0112】
≪第2適用例≫
図18は、本発明の実施形態に係るシステムの第2適用例を示す概略図である。
【0113】
例示したシステムは、例えばウォールクライミングロボットのような無人車両型の印刷装置である。印刷装置7000は、対象物(本例では建物の壁面)100を印刷装置7000の底部で吸引しながらローラ710を駆動して移動することが可能である。印刷装置7000は、インク等の液体を吐出するヘッド720を備えており、液体タンク730に収容した液体を、ケーブル740を介してヘッド720へ供給する。そして、印刷装置7000はヘッド720から対象物100に向けて液体を吐出し、対象物100の塗装部Pに液体を塗布する。
【0114】
なお、本適用例は、液体タンク730を地上に設置し、ケーブル740を介して液体タンク730からヘッド720への液体の供給を行っているが、液体タンク730は印刷装置7000に備えてもよい。印刷装置7000に液体タンク730を備えることで、ケーブル740による移動範囲の制限をなくすことができ、印刷装置7000を自由に動かすことが可能になる。
【0115】
そして、このような印刷装置7000のヘッド720に、上述したヘッドシステム30およびヘッド制御装置902を適用した場合にも、本発明の効果を得ることができる。
【0116】
≪第3適用例≫
図19は、本発明の実施形態に係るシステムの第3適用例を示す概略図である。
【0117】
例示したシステムは、例えば路面走行ロボットのような無人車両型の印刷装置である。無人車両9000は、対象物(本実施形態では車道、歩道等の路面)100を、ホイール910を駆動して移動することが可能である。無人車両9000は、インク等の液体を吐出するヘッド920を備えており、液体タンク930に収容した液体を、ケーブル940を介してヘッド920へ供給する。そして、無人車両9000はヘッド920から対象物100に向けて液体を吐出し、対象物100の塗装部Pに液体を塗布し、例えば横断歩道、停止線、センターライン等を路面に形成する。
【0118】
なお、本適用例は、液体タンク930を地上に設置し、ケーブル940を介して液体タンク930からヘッド920への液体の供給を行っているが、液体タンク930は無人車両9000に備えてもよい。無人車両9000に液体タンク930を備えることで、ケーブル940による移動範囲の制限をなくすことができ、無人車両9000を自由に動かすことが可能になる。
【0119】
そして、このような無人車両9000のヘッド920に、上述したヘッドシステム30およびヘッド制御装置902を適用した場合にも、本発明の効果を得ることができる。
【0120】
≪第4適用例≫
図20は、本発明の実施形態に係るシステムの第4適用例を示す概略図である。
【0121】
例示したシステムは、例えば自動車の車体を塗装する塗装ロボット8000である。塗装ロボット8000は、複数の関節によって人間の腕のように自由な動きを可能としたロボットアーム810を備え、ロボットアーム810の先端に液体を吐出するヘッド820を備えている。また、ロボットアーム810はヘッド820の近傍に3Dセンサ830を備えている。塗装ロボット8000としては、5軸、6軸、7軸など適宜の軸数を備えた多関節ロボットを用いることができる。塗装ロボット8000は、3Dセンサ830によって対象物(本実施形態では車体)100に対するヘッド820の位置を検知し、その検知結果に基づきロボットアーム810を動かして対象物100を塗装する。
【0122】
このような塗装ロボット8000のヘッド820に、上述したヘッドシステム30およびヘッド制御装置902を適用した場合にも、本発明の効果を得ることができる。
【0123】
≪第5適用例≫
図21は、本発明の実施形態に係るシステムの第5適用例を示す概略図である。
【0124】
例示したシステムは、例えばドローン(drone)のような無人航空機6000である。無人航空機6000は、自身に搭載した測距センサ等の検出器610の検出結果に基づき無人航空機6000の位置を制御する。無人航空機6000は、インク等の液体を吐出するヘッド620を備えており、液体タンク630に収容した液体を、ケーブル640を介してヘッド620へ供給する。そして、上記の位置制御に基づいて、無人航空機6000はヘッド620から対象物(本実施形態では建物の壁面)100に向けて液体を吐出し、対象物100の塗装部Pに液体を塗布する。
【0125】
なお、本適用例は、液体タンク630を地上に設置し、ケーブル640を介して液体タンク630からヘッド620への液体の供給を行っているが、液体タンク630は無人航空機6000に備えてもよい。無人航空機6000に液体タンク630を備えることで、ケーブル640による移動範囲の制限をなくすことができ、無人航空機6000を自由に動かすことが可能になる。
【0126】
そして、このような無人航空機6000のヘッド620に、上述したヘッドシステム30およびヘッド制御装置902を適用した場合にも、本発明の効果を得ることができる。
【0127】
<補足>
なお、本発明において、液体は、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどでもよい。これらは例えば、インクジェット用インク、塗装用塗料、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0128】
以上説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
【0129】
第1の態様は、液体を吐出するノズルに対して該ノズルを閉じる位置と開く位置との間で移動する弁体(例えばニードル弁331)と前記弁体を移動させるための動力を前記弁体に付与するアクチュエータ(例えば圧電素子332)とを有するヘッド(例えばヘッド300)と、温度測定手段(例えばサーミスタ334)とを備えるヘッドシステム(例えばヘッドシステム30)を制御するためのヘッド制御装置(例えばヘッド制御装置902)であって、前記弁体は、前記アクチュエータへの第1駆動電圧(例えば駆動電圧V1)により前記ノズルを閉じる方向に移動し、前記アクチュエータへの前記第1駆動電圧と異なる第2駆動電圧(例えば駆動電圧V2)により前記ノズルを開く方向に移動する弁体であり、前記温度測定手段によって測定された温度が高いほど前記第1駆動電圧を高くする(例えば駆動電圧V1Hにする)制御手段(例えば制御部9020)を備えることを特徴とするものである。
【0130】
第2の態様は、第1の態様において前記温度測定手段(例えばサーミスタ334)を、前記ヘッド(例えばヘッド300)の筐体(例えばハウジング310)、前記アクチュエータ(例えば圧電素子332)、または前記アクチュエータを保持する弾性部材(例えば板バネ枠体333)のいずれかの部材に備え、前記温度測定手段は前記部材の温度を測定することを特徴とするものである。
【0131】
第1の態様および第2の態様によれば、温度によらず確実にノズルの閉じた状態を維持できる。
【0132】
第3の態様は、第1の態様において、前記制御手段(例えば制御部9020)は、前記温度測定手段(例えばサーミスタ334)によって測定された温度が高いほど前記第1駆動電圧(例えば駆動電圧V1)と共に前記第2駆動電圧(例えば駆動電圧V2)を高くする(例えば駆動電圧V2Hにする)ことを特徴とするものである。
【0133】
第4の態様は、第1の態様において、前記制御手段(例えば制御部9020)は、前記第1駆動電圧(例えば駆動電圧V1)と前記第2駆動電圧(例えば駆動電圧V2)との電位差が一定となるように前記第1駆動電圧および前記第2駆動電圧を可変することを特徴とするものである。
【0134】
第3の態様および第4の態様によれば、温度によらず確実にノズルの閉じた状態を維持できるとともに、液体の吐出特性の変動も低減できる。
【0135】
第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様のいずれかにおいて、前記温度測定手段(例えばサーミスタ334)によって測定された温度が所定温度よりも低い場合は、前記温度が所定温度に達するまで前記ヘッド(例えばヘッド300)を前記第1駆動電圧(例えば駆動電圧V1)よりも低い電圧(例えば電圧V1L)で駆動することを特徴とするものである。
【0136】
第5の態様によれば、ヘッドが低温であることに起因して生じる弁体のノズル板への過剰な当接による変形や破損を防止することができる。
【符号の説明】
【0137】
30 ヘッドシステム
300 ヘッド
302 ノズル
331 ニードル弁
332 圧電素子
334 サーミスタ
902 ヘッド制御装置
9020 制御部
9021 駆動波形生成部
9022 駆動波形増幅部
9024 温度データ格納部
9025 補正値算出部
9026 駆動情報取得部
1000 印刷装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0138】