(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091219
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】シリコン試料の炭素濃度評価方法、シリコンウェーハ製造工程の評価方法、シリコンウェーハの製造方法およびシリコン単結晶インゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20230623BHJP
H01L 21/324 20060101ALI20230623BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
H01L21/66 L
H01L21/324 X
C30B29/06 A
C30B29/06 502H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205849
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】江里口 和隆
(72)【発明者】
【氏名】柾田 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】三次 伯知
(72)【発明者】
【氏名】佐俣 秀一
(72)【発明者】
【氏名】大戸 貴史
【テーマコード(参考)】
4G077
4M106
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BA04
4G077CE03
4G077CF01
4G077EB01
4G077EH06
4G077GA01
4G077GA07
4G077HA12
4G077PF52
4M106AA01
4M106BA20
4M106CA29
4M106CB01
4M106DH56
4M106DJ20
4M106DJ38
(57)【要約】
【課題】シリコン試料の炭素濃度を評価するための新たな方法を提供すること。
【解決手段】評価対象シリコン試料に水素原子を導入する水素原子導入処理を行うこと、上記水素原子導入処理後の評価対象シリコン試料をシリコンのバンドギャップ中のトラップ準位を評価する評価法による評価に付すこと、および上記評価により得られたEc-0.15eVのトラップ準位の密度に関する評価結果に基づき上記評価対象シリコン試料の炭素濃度を評価することを含み、上記水素原子導入処理前に上記評価対象シリコン試料を800℃以上の加熱温度に加熱する加熱処理を行うことを更に含み、かつ上記評価対象シリコン試料は窒素含有シリコン試料である、シリコン試料の炭素濃度評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象シリコン試料に水素原子を導入する水素原子導入処理を行うこと、
前記水素原子導入処理後の評価対象シリコン試料を、シリコンのバンドギャップ中のトラップ準位を評価する評価法による評価に付すこと、および
前記評価により得られたEc-0.15eVのトラップ準位の密度に関する評価結果に基づき、前記評価対象シリコン試料の炭素濃度を評価すること、
を含み、
前記水素原子導入処理前に、前記評価対象シリコン試料を800℃以上の加熱温度に加熱する加熱処理を行うことを更に含み、かつ
前記評価対象シリコン試料は、窒素含有シリコン試料である、シリコン試料の炭素濃度評価方法。
【請求項2】
前記評価法は、DLTS法である、請求項1に記載のシリコン試料の炭素濃度評価方法。
【請求項3】
前記水素原子導入処理は、前記評価対象シリコン試料をフッ硝酸と接触させることを含む、請求項1または2に記載のシリコン試料の炭素濃度評価方法。
【請求項4】
前記評価対象シリコン試料は、FZシリコン単結晶試料である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリコン試料の炭素濃度評価方法。
【請求項5】
前記評価対象シリコン試料は、CZシリコン単結晶試料である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリコン試料の炭素濃度評価方法。
【請求項6】
評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度を請求項1~5のいずれか1項に記載の炭素濃度評価方法により評価すること、および
前記評価の結果に基づき評価対象のシリコンウェーハ製造工程における炭素汚染の程度を評価すること、
を含む、シリコンウェーハ製造工程の評価方法。
【請求項7】
請求項6に記載の評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行うこと、および
前記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルと判定されたシリコンウェーハ製造工程において、または、前記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルを超えると判定されたシリコンウェーハ製造工程に炭素汚染低減処理を施した後に該シリコンウェーハ製造工程において、シリコンウェーハを製造すること、
を含む、シリコンウェーハの製造方法。
【請求項8】
シリコン単結晶インゴットを育成すること、
前記シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン試料の炭素濃度を、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭素濃度評価方法により評価すること、
前記評価の結果に基づき、シリコン単結晶インゴットの製造条件を決定すること、および、
決定された製造条件下でシリコン単結晶インゴットを育成すること、
を含む、シリコン単結晶インゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン試料の炭素濃度評価方法、シリコンウェーハ製造工程の評価方法、シリコンウェーハの製造方法およびシリコン単結晶インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン試料の炭素濃度を評価することが検討されている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-191800号公報
【特許文献2】特開2021-15905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体基板として使用されるシリコンウェーハには、デバイス特性の低下を引き起こす不純物汚染を低減することが望まれる。近年、シリコンウェーハに含まれる不純物として炭素が注目され、シリコンウェーハの炭素汚染を低減することが検討されている。
【0005】
炭素汚染低減のためには、シリコン試料の炭素濃度を評価し、評価結果に基づき、シリコンウェーハの製造工程やシリコンウェーハを切り出すシリコン単結晶インゴットの製造工程を、製造工程で混入する炭素を低減するように管理することが望ましい。シリコン試料の炭素濃度を評価するための新たな方法を見出すことは、そのような工程管理を行ううえで有用である。
【0006】
本発明の一態様は、シリコン試料の炭素濃度を評価するための新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
評価対象シリコン試料に水素原子を導入する水素原子導入処理を行うこと、
上記水素原子導入処理後の評価対象シリコン試料を、シリコンのバンドギャップ中のトラップ準位を評価する評価法による評価に付すこと、および
上記評価により得られたEc(伝導帯の底のエネルギー)-0.15eVのトラップ準位の密度に関する評価結果に基づき、上記評価対象シリコン試料の炭素濃度を評価すること、
を含み、
上記水素原子導入処理前に、上記評価対象シリコン試料を800℃以上の加熱温度に加熱する加熱処理を行うことを更に含み、かつ
上記評価対象シリコン試料は、窒素含有シリコン試料である、シリコン試料の炭素濃度評価方法(「炭素濃度評価方法」とも記載する。)、
に関する。
【0008】
上記「加熱温度」とは、加熱処理によって加熱されたシリコン試料表面の温度をいうものとする。
【0009】
本発明者は、シリコン試料の炭素濃度を評価するための新たな方法を提供するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得るに至った。
上記評価方法において行われる水素原子の導入により、シリコンのバンドギャップ中にEc-0.15eVのトラップ準位を形成することができる。Ec-0.15eVのトラップ準位は、炭素原子と水素原子とによって形成された複合体(以下、「炭素水素複合体」とも記載する。)に起因するトラップ準位である。かかるトラップ準位を形成することによって、上記トラップ準位の密度に関する評価結果を得ることが可能となる。そのような評価結果の一例としては、DLTS法による測定によって得られるピーク強度(DLTS信号強度)を挙げることができる。この点について詳細は後述する。
トラップ準位に関しては、水素原子導入後のシリコンのバンドギャップ中のEc-0.15eVのトラップ準位は炭素水素複合体に関するトラップ準位であり、このトラップ準位の密度はシリコン試料の炭素濃度と相関し得る。したがって、水素原子導入処理後に行われる評価により得られる上記トラップ準位の密度に関する評価結果、即ち、トラップ準位の密度と相関する評価結果は、シリコン試料の炭素濃度と相関し得るため、かかる評価結果に基づき、評価対象シリコン試料の炭素濃度を評価することができる。
ただし、このEc-0.15eVのトラップ準位は、シリコンのバンドギャップ中で、窒素含有シリコン試料に特有の窒素関連欠陥のトラップ準位(キャリアトラップ)と近い位置にある。そのため、このキャリアトラップが活性な状態で窒素含有シリコン試料に水素原子を導入してEc-0.15eVのトラップ準位を評価すると、この評価の評価結果に基づき求められる炭素濃度は、上記キャリアトラップの影響も含むものとなってしまう。したがって、炭素濃度測定の感度を高めるためには、上記キャリアトラップの影響を低減または排除して炭素濃度とより良好に相関する評価結果を得ることが望ましい。
上記の点に関して本発明者は、窒素含有シリコン試料に特有の窒素関連欠陥のトラップ準位を不活性化した後に窒素含有シリコン試料に水素原子を導入すれば、上記キャリアトラップの影響を低減または排除することができ、炭素濃度とより良好に相関する評価結果が得られると考えた。そして本発明者は、窒素含有シリコン試料に特有の窒素関連欠陥のトラップ準位は、800℃以上の熱処理によって不活性化されることに着目し(N. E. Grant et al.“Thermal activation and deactivation of grown-in defects limiting the lifetime of float-zone silicon”, Phys. Status Solidi RRL, 1-5 (2016)参照)、更に鋭意検討を重ねた結果、上記の本発明の一態様にかかる炭素濃度評価方法を完成させた。
なお、上記の特許文献1(特開2017-191800号公報)には、水素原子導入処理前の加熱処理に関する記載はない。また、上記の特許文献2(特開2021-15905号公報)は、上記炭素濃度評価方法において水素原子導入処理前に行われる加熱処理の加熱温度を大きく下回る温度域(600℃以上650℃以下:特開2021-15905号公報の請求項2、段落0023、0024等参照)での加熱処理を開示するものである。したがって、いずれの文献も、上記炭素濃度評価方法に対する示唆を与えるものではない。
【0010】
一形態では、上記評価法は、DLTS(Deep-Level Transient Spectroscopy)法であることができる。
【0011】
一形態では、上記水素原子導入処理は、上記評価対象シリコン試料をフッ硝酸と接触させることを含むことができる。
【0012】
一形態では、上記評価対象シリコン試料は、FZシリコン単結晶試料であることができる。本発明および本明細書において、「FZシリコン単結晶」とは、FZ(浮遊帯域溶融(Floating Zone))法によって製造されたシリコン単結晶をいうものとする。
【0013】
一形態では、上記評価対象シリコン試料は、CZシリコン単結晶試料であることができる。本発明および本明細書において、「CZシリコン単結晶」とは、CZ法(チョクラルスキー法)によって製造されたシリコン単結晶をいうものとする。
【0014】
本発明の一態様は、
評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度を上記炭素濃度評価方法により評価すること、および
上記評価の結果に基づき評価対象のシリコンウェーハ製造工程における炭素汚染の程度を評価すること、
を含む、シリコンウェーハ製造工程の評価方法(以下、「製造工程評価方法」とも記載する。)、
に関する。
【0015】
本発明の一態様は、
上記製造工程評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行うこと、および
上記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルと判定されたシリコンウェーハ製造工程において、または、上記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルを超えると判定されたシリコンウェーハ製造工程に炭素汚染低減処理を施した後に、このシリコンウェーハ製造工程において、シリコンウェーハを製造すること、
を含む、シリコンウェーハの製造方法、
に関する。
【0016】
本発明の一態様は、
シリコン単結晶インゴットを育成すること、
上記シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン試料の炭素濃度を、上記炭素濃度評価方法により評価すること、
上記評価の結果に基づき、シリコン単結晶インゴットの製造条件を決定すること、および、
決定された製造条件下でシリコン単結晶インゴットを育成すること、
を含む、シリコン単結晶インゴットの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、シリコン試料の炭素濃度を評価するための新たな方法を提供することができる。詳しくは、本発明の一態様によれば、窒素含有シリコン試料の炭素濃度を精度良く評価することができる炭素濃度評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】シリコン単結晶製造装置(FZ法)の構成を示す説明図である。
【
図2】シリコン単結晶引き上げ装置(CZ法)の構成を示す説明図である。
【
図3】実施例1で得られたDLTSスペクトルを示す。
【
図4】比較例1で得られたDLTSスペクトルを示す。
【
図5】比較例2で得られたDLTSスペクトルを示す。
【
図6】比較例3で得られたDLTSスペクトルを示す。
【
図7】実施例2、比較例4および比較例5で得られたDLTSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[シリコン試料の炭素濃度評価方法]
本発明の一態様は、評価対象シリコン試料に水素原子を導入する水素原子導入処理を行うこと、上記水素原子導入処理後の評価対象シリコン試料を、シリコンのバンドギャップ中のトラップ準位を評価する評価法による評価に付すこと、および上記評価により得られたEc-0.15eVのトラップ準位の密度に関する評価結果に基づき、上記評価対象シリコン試料の炭素濃度を評価することを含み、上記水素原子導入処理前に、上記評価対象シリコン試料を800℃以上の加熱温度に加熱する加熱処理を行うことを更に含み、かつ 上記評価対象シリコン試料は、窒素含有シリコン試料である、シリコン試料の炭素濃度評価方法に関する。
以下、上記炭素濃度評価方法について、更に詳細に説明する。
【0020】
<評価対象シリコン試料>
上記炭素濃度評価方法の評価対象シリコン試料は、例えば、シリコン単結晶試料であることができ、具体例としては、シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン単結晶試料を挙げることができる。例えば、シリコン単結晶インゴットからウェーハ形状に切り出した試料またはウェーハ形状に切り出した試料から更に一部を切り出して得た試料を、評価に付すことができる。また、評価対象シリコン試料は、半導体基板として用いられる各種シリコンウェーハ(例えば、ポリッシュドウェーハ、エピタキシャルウェーハ等)またはかかるシリコンウェーハから切り出したシリコン試料であることもできる。上記シリコンウェーハは、シリコンウェーハに通常行われる各種加工処理(例えば、研磨、エッチング、洗浄等)が付されたシリコンウェーハであることもできる。シリコン試料は、一形態ではn型シリコンであることができ、他の一形態ではp型シリコンであることができる。また、シリコン試料の抵抗率は、例えば1~1000Ω・cm程度であることができるが、特に限定されない。
【0021】
上記炭素濃度評価方法の評価対象シリコン試料は、窒素含有シリコン試料である。
窒素含有シリコン試料の一形態としては、FZシリコン単結晶試料を挙げることができる。FZ法では窒素ガス含有雰囲気中で結晶育成を行うことが多い等の理由から、FZシリコン単結晶は、通常、窒素を含有する。
また、窒素含有シリコン試料の他の一形態としては、CZシリコン単結晶試料を挙げることができる。CZ法では、結晶欠陥制御等のために、原料融解の段階で窒素ドープ処理が行われることがある。したがって、窒素を含有するCZシリコン単結晶試料の一例としては、窒素ドープCZシリコン単結晶試料を挙げることができる。
いずれの形態の窒素含有シリコン試料についても、窒素濃度は、FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)法により求められる窒素濃度として、例えば1E+12atoms/cm3以上であることができ、また、例えば1E+16atoms/cm3以下であることができる。ただし、上記炭素濃度評価方法の評価対象シリコン試料の窒素濃度は特に限定されるものではない。なお、「E+」は、公知の通り、べき乗を示す。例えば、「E+12」は、「×1012」を示す。
【0022】
<加熱処理>
上記炭素濃度評価方法において、測定対象シリコン試料には、水素原子の導入が行われる前に加熱処理が施される。この加熱処理は、先に記載した理由から800℃以上の加熱温度で行われる。加熱温度は、窒素含有シリコン試料に特有の窒素関連欠陥のトラップ準位(キャリアトラップ)の影響をより低減する観点からは、850℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。また、一般的な加熱処理は通常1200℃以下の温度で行われるため、加熱温度は例えば1200℃以下であることができる。
加熱処理は、加熱炉等の公知の加熱手段を用いて行うことができる。
加熱処理を行う雰囲気(例えば加熱炉の炉内雰囲気)は、大気雰囲気であることができ、または、大気雰囲気以外の雰囲気、例えば酸素、窒素、アルゴン等の単一雰囲気であることもできる。
加熱処理時間は、例えば10分間以上とすることができ、30分間以上とすることが好ましく、60分間以上とすることが更に好ましい。ここで加熱処理時間とは、シリコン試料の表面温度が加熱温度にある時間をいうものとする。加熱処理時間を長くするほど、上記キャリアトラップをより多く不活性化することができると考えられるが、加熱処理時間を長くするほど炭素濃度を求めるまでに要する時間は長くなる。炭素濃度を求めるまでに要する時間の短時間化の観点からは、加熱処理時間は120分間以下であることが好ましく、90分間以下であることがより好ましい。
また、上記加熱処理から水素原子導入処理までの間および水素原子導入処理から上記評価までの間の評価対象シリコン試料は、特記しない限り、例えば、室温の大気雰囲気中に配置することができる。ここで室温とは、例えば15℃~30℃の範囲の温度であることができる。
【0023】
<水素原子導入処理>
評価対象シリコン試料には、上記加熱処理後に水素原子導入処理が行われる。水素原子を導入することによって、炭素原子と水素原子とによって形成された複合体(炭素水素複合体)に起因するトラップ準位を形成することができる。水素原子の導入は、ドライ処理(乾式)によって行ってもよく、ウェット処理(湿式、即ち溶液の使用)によって行ってもよい。例えば、ドライ処理による水素原子の導入は、イオン注入法、水素プラズマ等によって行うことができる。なお、本発明および本明細書における水素原子の導入には、イオンまたはプラズマの状態で水素原子が導入される形態も包含されるものとする。
【0024】
ウェット処理による水素原子の導入は、シリコン試料を溶液に接触させる(例えば浸漬する)ことによって行うことができる。ウェット処理による水素原子導入処理の一例としては、評価対象シリコン試料をフッ硝酸に接触させる処理(フッ硝酸処理)を挙げることができる。ただし、シリコン試料と接触させる溶液は、フッ硝酸に限定されず、酸溶液であっても塩基溶液であってもよい。具体例として、酸溶液としては、フッ酸(フッ化水素酸水溶液)、フッ酸と硝酸との混合溶液(フッ硝酸)等のHFを含む溶液、硫酸と過酸化水素との混合溶液、塩酸と過酸化水素との混合溶液等を挙げることができる。また、塩基溶液としては水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、アンモニア水と過酸化水素との混合溶液等を挙げることができる。上記の各種溶液は、好ましくは水系溶液(水を含む溶液)であり、水溶液であることがより好ましい。酸溶液の酸濃度および塩基溶液の塩基濃度は、特に限定されるものではない。一例として、フッ酸としては、例えばHF濃度1~25質量%フッ酸(フッ化水素酸水溶液)を使用することができ、フッ硝酸としては、例えばHNO3濃度69質量%の硝酸(硝酸水溶液)とHF濃度50質量%のフッ酸(フッ化水素酸水溶液)との混合溶液を使用することができる。各溶液によるウェット処理は、例えば、評価対象シリコン試料を溶液に1~10分間接触(例えば浸漬)することによって行うことができる。溶液との接触の前および/または後に、水洗、乾燥等の処理の1つ以上を前処理および/または後処理として行うこともできる。
【0025】
水素原子導入処理後の評価対象シリコン試料は、シリコンのバンドギャップ中のトラップ準位を評価する評価法による評価に付される。
【0026】
<水素原子導入処理後のシリコン試料の評価および炭素濃度の評価>
上記炭素濃度評価方法では、800℃以上の加熱温度での加熱処理およびその後の水素原子導入処理に付された後の評価対象シリコン試料を、シリコンのバンドギャップ中のトラップ準位を評価する評価法による評価に付し、かかる評価により得られたEc-0.15eVのトラップ準位の密度に関する評価結果に基づき、評価対象シリコン試料の炭素濃度を評価する。
【0027】
シリコンのバンドギャップ中のトラップ準位を評価する評価法としては、DLTS法、ライフタイム法、ICTS法(Isothermal Capacitance Transient Spectroscopy)、低温フォトルミネッセンス(PL)法、カソードルミネッセンス(CL)法等を挙げることができる。なお、従来のPL法およびCL法(ルミネッセンス法)による炭素濃度の評価では、電子線照射処理が不可欠であった。これに対し上記炭素濃度評価方法によれば、水素原子導入処理により上記トラップ準位を活性化した状態で形成することができると考えられるため、電子線照射処理を行わなくとも、上記トラップ準位の密度に基づき炭素濃度を評価することができる。各種評価法による測定の手法については、公知技術を適用できる。本発明および本明細書における「電子線照射処理を行わない」とは、シリコン試料に対して積極的に電子線を照射する処理を行わないことをいい、太陽光、照明等の下で不可避的に生じる電子線照射は許容されるものとする。また、電子線とは、電子に加速電圧を加えて得られる電子の流れである。電子線照射処理は、リードタイムが長い、大規模設備を要する、コスト増を招く、電子線照射工程に加えて保護酸化膜の作製等を要し工程数が増える等の点で課題がある。したがって、電子線照射処理を行わなくともシリコン試料の炭素濃度を評価できることは好ましい。ただし、上記炭素濃度評価方法の一形態では、公知の方法により電子線照射を行うこともできる。
【0028】
例えばDLTS法は、より高感度な炭素定量を可能にする観点から、好ましい評価法である。評価法としてDLTS法を用いる場合、DLTS法により得られる各ピークの合計として得られるDLTSスペクトルを公知の方法でフィッティング処理することにより、炭素水素複合体に起因するトラップ準位のDLTSスペクトルを分離することができる。例えば、周波数250HzでのDLTS測定では、Ec-0.15eVのトラップ準位密度は、温度90~110Kのピークのピーク強度(DLTS信号強度)に基づき測定することができる。フィッティング処理により分離したEc-0.15eVのトラップ準位のDLTSスペクトルのピーク強度(DLTS信号強度)が大きいほど上記トラップ準位の密度が高く、評価対象シリコン試料の炭素濃度が高いと判定することができる。
【0029】
DLTS法では、通常、評価対象シリコン試料の一部を切り出して得た測定用試料に、半導体接合(ショットキー接合またはpn接合)およびオーミック層を形成して作製したダイオード(試料素子)について測定(DLTS測定)が行われる。一般に、DLTS測定に付される試料の表面は平滑性が高いことが好ましい。したがって、測定用試料を切り出す前の評価対象シリコン試料、または評価対象シリコン試料から切り出した測定用試料に、表面平滑性向上のためにエッチング、研磨加工等を任意に行うこともできる。エッチングは、ミラーエッチングが好ましい。また、研磨加工は鏡面研磨加工を含むことが好ましい。例えば、評価対象シリコン試料がシリコン単結晶インゴットまたはインゴットの一部の場合、かかる評価対象シリコン試料から切り出した測定用試料を研磨加工した後に試料素子を作製することが好ましく、鏡面研磨加工した後に試料素子を作製することがより好ましい。研磨加工としては、鏡面研磨加工等のシリコンウェーハに施される公知の研磨加工を行うことができる。一方、通常、シリコンウェーハは鏡面研磨加工等の研磨加工を経て得られる。したがって、評価対象シリコン試料がシリコンウェーハである場合、シリコンウェーハから切り出した測定用試料の表面は、研磨加工なしでも高い平滑性を有することが通常である。
【0030】
DLTS測定は、通常、以下の方法によって行われる。シリコン試料の一方の表面に半導体接合(ショットキー接合またはpn接合)を形成し、他方の表面にオーミック層を形成してダイオード(試料素子)を作製する。この試料素子の容量(キャパシタンス)の過渡応答を、温度掃引を行いながら周期的に電圧を印加し測定する。電圧の印加は、通常、空乏層を形成する逆方向電圧と空乏層中のトラップ準位にキャリアを充填するための順方向電圧を、交互かつ周期的に印加して行われる。測定領域の深さおよび幅は、逆方向電圧の大きさによって制御することができる。一形態では、測定領域は、例えば、評価対象シリコン試料の表面から深さ1μm~60μm程度の領域に、1~50μm程度の幅で形成することができ、好ましくは1~10μm程度の幅で形成することができる。測定領域の深さおよび幅は、逆方向電圧の大きさ、順方向電圧の大きさおよび評価対象シリコン試料の抵抗率から公知の方法で算出することができる。一方、評価対象シリコン試料の厚さは、例えば20μm以上1000μm以下であることができる。ただし、この範囲に限定されるものではない。温度に対してDLTS信号をプロットすることにより、DLTSスペクトルを得ることができる。DLTS測定により検出された各ピークの合計として得られるDLTSスペクトルを公知の方法でフィッティング処理することにより、各トラップ準位のDLTSスペクトルを分離しピークを検出することができる。
【0031】
<炭素濃度の評価>
評価法としていずれの方法を用いる場合にも、Ec-0.15eVのトラップ準位の密度に関する評価結果に基づく炭素濃度の評価は、検量線を用いて行うことができ、または検量線を用いずに行うことができる。検量線を用いない場合、例えば、評価結果として得られた値が大きいほど、炭素濃度が高いと判定する相対的な判定基準によって、炭素濃度を評価することができる。例えば、DLTSスペクトルのピーク強度(DLTS信号強度)の値が大きいほど炭素濃度が高いと判定することができる。また、検量線を用いる場合には、検量線としては、例えば、評価対象シリコン試料について得られた評価結果(例えばDLTS信号強度)から求められるトラップ準位の密度と既知炭素濃度との相関関係を示す検量線を作成することが好ましい。各種評価結果からトラップ準位の密度を求める関係式は、公知である。また、上記の既知炭素濃度は、評価対象シリコン試料の評価に用いる評価法以外の方法によって測定して求めることができる。例えば、評価対象シリコン試料をDLTS法により評価する場合、上記の既知炭素濃度は、例えばSIMS法(Secondary Ion Mass Spectrometry)やFT-IR法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)により求めることができる。これらの方法によって求められた評価結果から炭素濃度を求める関係式も公知である。検量線を作成するために評価対象シリコン試料と同じ評価法による評価に付されるシリコン試料(検量線作成用シリコン試料)と既知炭素濃度を求めるためのシリコン試料とは、同じシリコン試料(例えば、同じインゴット、同じウェーハ等)から切り出されたシリコン試料であるか、または同じ製造工程を経たシリコン試料であることが好ましい。検量線作成に関しては、特許文献1(特開2017-191800号公報)の段落0038~0040も参照できる。検量線作成用シリコン試料は、加熱処理、水素原子導入処理等の各種処理を評価対象シリコン試料と同様に施されたシリコン試料であることが好ましい。
【0032】
[シリコンウェーハ製造工程の評価方法およびシリコンウェーハの製造方法]
本発明の一態様は、評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度を上記炭素濃度評価方法により評価すること、および、上記評価の結果に基づき評価対象のシリコンウェーハ製造工程における炭素汚染の程度を評価すること、を含むシリコンウェーハ製造工程の評価方法に関する。
【0033】
また、本発明の一態様は、上記シリコンウェーハ製造工程の評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行うこと、および、上記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルと判定されたシリコンウェーハ製造工程において、または、上記評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルを超えると判定されたシリコンウェーハ製造工程に炭素汚染低減処理を施した後に、このシリコンウェーハ製造工程において、シリコンウェーハを製造すること、を含むシリコンウェーハの製造方法に関する。
【0034】
上記製造工程評価方法における評価対象のシリコンウェーハ製造工程は、製品シリコンウェーハを製造する一部の工程または全部の工程であることができる。製品シリコンウェーハの製造工程は、一般に、シリコン単結晶インゴットからのウェーハの切り出し(スライシング)、研磨やエッチング等の表面処理、洗浄工程、更にウェーハの用途に応じて必要により行われる後工程(エピタキシャル層形成等)を含む。これらの各工程および各処理はいずれも公知である。
【0035】
シリコンウェーハの製造工程では、製造工程で用いられる部材とシリコンウェーハとの接触等により、シリコンウェーハに炭素汚染が発生し得る。評価対象の製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度を評価して炭素汚染の程度を把握することにより、評価対象のシリコンウェーハ製造工程に起因して製品シリコンウェーハに炭素汚染が発生する傾向を把握することができる。即ち、評価対象の製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度が高いほど、評価対象の製造工程において炭素汚染が発生し易い傾向があると判定することができる。したがって、例えば、あらかじめ炭素濃度の許容レベルを設定しておき、評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハについて求められた炭素濃度が許容レベルを超えたならば、評価対象の製造工程を、炭素汚染発生傾向が高く製品シリコンウェーハの製造工程としては使用不可と判定することができる。そのように判定された評価対象のシリコンウェーハ製造工程は、炭素汚染低減処理を施した後に製品シリコンウェーハの製造に用いることが好ましい。この点の詳細は、更に後述する。
【0036】
評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハの炭素濃度は、上記の本発明の一態様にかかる炭素濃度評価方法によって求められる。評価対象のシリコンウェーハ製造工程において製造されたシリコンウェーハは、任意の段階で窒素が導入されたシリコンウェーハであることができる。先に記載したように、FZシリコン単結晶については、通常、結晶育成時にシリコン単結晶インゴットに窒素が導入される。CZシリコン単結晶については、先に記載したように、原料融解の段階で窒素ドープ処理が行われることによって窒素が導入されることがある。窒素ドープ処理については、公知技術を適用できる。上記炭素濃度評価方法の詳細は、先に詳述した通りである。炭素濃度評価に付すシリコンウェーハは、評価対象のシリコンウェーハ製造工程で製造された少なくとも1枚のシリコンウェーハであり、2枚以上のシリコンウェーハであってもよい。2枚以上のシリコンウェーハの炭素濃度を求めた場合には、例えば、求められた炭素濃度の平均値、最大値等を、評価対象のシリコンウェーハ製造工程の評価のために用いることができる。また、シリコンウェーハは、ウェーハ形状のまま炭素濃度評価に付してもよく、その一部を切り出して炭素濃度評価に付してもよい。1枚のシリコンウェーハから2つ以上の試料を切り出して炭素濃度評価に付す場合、2つ以上の試料について求められた炭素濃度の平均値、最大値等を、そのシリコンウェーハの炭素濃度として決定することができる。
【0037】
上記シリコンウェーハの製造方法の一形態では、上記製造工程評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行い、評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルと判定されたシリコンウェーハ製造工程においてシリコンウェーハを製造する。これにより、炭素汚染レベルが低い高品質なシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することが可能となる。また、上記シリコンウェーハの製造方法の他の一形態では、上記製造工程評価方法によりシリコンウェーハ製造工程の評価を行い、評価の結果、炭素汚染の程度が許容レベルを超えると判定されたシリコンウェーハ製造工程に炭素汚染低減処理を施した後に、このシリコンウェーハ製造工程においてシリコンウェーハを製造する。これにより、製造工程に起因する炭素汚染を低減することができるため、炭素汚染レベルが低い高品質なシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することが可能となる。上記の許容レベルは、製品ウェーハに求められる品質に応じて適宜設定することができる。また、炭素汚染低減処理とは、シリコンウェーハ製造工程に含まれる部材の交換、洗浄等を挙げることができる。一例として、シリコンウェーハの製造工程においてシリコンウェーハを載置する部材であるサセプタとしてSiC製サセプタを用いる場合、繰り返し使用されたサセプタの劣化により、サセプタとの接触部分が炭素汚染されることが起こり得る。このような場合には、例えばサセプタを交換することによりサセプタ起因の炭素汚染を低減することができる。
【0038】
[シリコン単結晶インゴットの製造方法]
本発明の一態様は、シリコン単結晶インゴットを育成すること、上記シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン試料の炭素濃度を、上記炭素濃度評価方法により評価すること、上記評価の結果に基づき、シリコン単結晶インゴットの製造条件を決定すること、および、決定された製造条件下でシリコン単結晶インゴットを育成すること、を含むシリコン単結晶インゴットの製造方法に関する。
【0039】
シリコン単結晶インゴットの育成は、FZ法、CZ法等の公知の方法により行うことができる。例えば、FZ法により製造されるFZシリコン単結晶インゴットには、シリコン原料の混入炭素、単結晶製造装置を構成する炭素含有材料製の部材の劣化、雰囲気ガスからの取り込み等に起因して、炭素が混入する可能性がある。また、CZ法により育成されるシリコン単結晶インゴットには、原料ポリシリコンの混入炭素、育成中に発生するCOガス等に起因して、炭素が混入する可能性がある。このような混入炭素濃度を評価し、評価結果に基づき製造条件を決定することは、炭素の混入が抑制されたシリコン単結晶インゴットを製造するために好ましい。そのために混入炭素濃度を評価する方法として、上記の本発明の一態様にかかる炭素濃度評価方法は好適である。
【0040】
シリコン単結晶インゴットから切り出されるシリコン試料の形状等の詳細については、上記炭素濃度評価方法の評価対象シリコン試料に関する先の記載を参照できる。炭素濃度評価に付されるシリコン試料の数は、少なくとも1つであり、2つ以上であってもよい。2つ以上のシリコン試料の炭素濃度を求めた場合には、例えば、求められた炭素濃度の平均値、最大値等を、シリコン単結晶インゴットの製造条件決定のために用いることができる。例えば、得られた炭素濃度が、あらかじめ定めた許容レベルであった場合には、炭素濃度を評価したシリコン試料を切り出したシリコン単結晶インゴットを育成した際の製造条件においてシリコン単結晶インゴットを育成することにより、炭素汚染が少ないシリコン単結晶インゴットを製造することができる。他方、例えば、得られた炭素濃度が許容レベルを超えた場合には、炭素濃度を低減するための手段を採用して決定された製造条件の下でシリコン単結晶インゴットを育成することにより、炭素汚染が少ないシリコン単結晶インゴットを製造することが可能となる。炭素汚染を低減するための手段としては、例えば、CZ法については、下記手段(1)~(3)の1つ以上を採用することができる。また、例えば、FZ法については、下記手段(4)~(6)の1つ以上を採用することができる。
(1)原料ポリシリコンとしてより炭素混入の少ない高グレード品を使用すること。
(2)ポリシリコン融液へのCO溶解を抑制するために引き上げ速度および/または結晶引き上げ時のアルゴン(Ar)ガス流量を適切に調整すること。
(3)引き上げ装置に含まれる炭素製部材の設計変更、取り付け位置の変更等を行うこと。
(4)シリコン原料として、より炭素混入の少ない高グレード品を使用すること。
(5)単結晶製造装置内に導入するガス流量を多くすることによって雰囲気ガスからの炭素の取り込みを抑制すること。
(6)単結晶製造装置に含まれる炭素含有材料製の部材の交換、部材の設計変更、取り付け位置の変更等を行うこと。
【0041】
こうして本発明の一態様によれば、低炭素濃度のシリコン単結晶インゴットおよびシリコンウェーハを提供することができる。
【0042】
以下、
図1を参照し、FZ法によるシリコン単結晶インゴットの育成の一例について説明する。ただし、本発明は以下に示す例に限定されるものではない。
図1に示すシリコン単結晶製造装置10は、FZ法によるシリコン単結晶製造装置である。
図1に示すシリコン単結晶製造装置10は、シリコン原料棒11と育成後の棒状のシリコン単結晶12とを収容する炉13を有する。
シリコン原料棒11としては、シリコン多結晶棒、途中まで育成したFZシリコン単結晶棒、CZ法により作製したシリコン単結晶棒等が挙げられる。この炉13内には、シリコン原料棒11とシリコン単結晶12との間に浮遊帯域12aを形成するための熱源となるスリットを有するリング状の誘導加熱コイル14が設けられる。この炉13内には、不活性ガスがガス供給口16から供給される。
また炉13内には、シリコン原料棒11を保持する上部保持治具17、種結晶18を保持する下部保持治具19、シリコン原料棒11を上下移動および回転させるための上軸21、育成した棒状のシリコン単結晶12を上下移動および回転させるための下軸22が設けられる。更に炉13の上部には、炉内のガスを排出するガス排出口24が設けられる。なお、
図1に示すシリコン単結晶製造装置10には、シリコン原料棒11の回転中心となる上軸21と、シリコン単結晶12の回転中心となる下軸22とが同一軸線上に設けられているが、上軸21と下軸22をずらして(即ち偏芯させて)単結晶を育成することもできる。上軸21と下軸22をずらすことにより単結晶化の際に溶融部が撹拌されるため、製造される単結晶の品質の均一性を高めることができる。偏芯量は、単結晶の直径に応じて適宜設定することができる。
不活性ガスを供給するためのガス供給口16は、誘導加熱コイル14近傍の炉壁、例えば誘導加熱コイル14とほぼ同一レベルの炉壁に設けられる。このガス供給口16から炉内に導入された不活性ガスは、スリットのみならず、浮遊帯域近傍の赤熱したシリコン原料棒11にも供給される。
図1に示すシリコン単結晶製造装置10を用いてFZ法によりFZシリコン単結晶インゴットを製造する際には、まず、シリコン原料棒11の溶融を開始する部分をコーン形状に加工し、加工歪みを除去するために表面のエッチングを行う。その後、炉13内にシリコン原料棒11を収容し、炉13内に設置された上軸21の上部保持治具17にシリコン原料棒11をネジ等で固定する。一方、下軸22の下部保持治具19には、シリコン単結晶からなる目的結晶方位を有する種結晶18を取り付ける。
次いで、ガス供給口16から不活性ガスを炉13内に導入しながら、高周波発振機25により誘導加熱コイル14に高周波電流を流すことにより、シリコン原料棒11の一端部を溶融させて、その融液に種結晶18を融着させる。その後、種絞りにより絞り部15を形成して無転位化を図り、溶融したシリコンを凝固させつつ単結晶を育成する。上軸21と下軸22を互いに反対方向に回転させながら、シリコン原料棒11を誘導加熱コイル14に対して軸線方向に相対移動させると同時に、溶融部を融着部からシリコン原料棒11の他端部に向けて徐々に移動させて単結晶化する。続いてシリコン原料棒11とこうして作製されたシリコン単結晶12を下降させることにより浮遊帯域12aをシリコン原料棒11と棒状のシリコン単結晶12の間に形成し、この浮遊帯域12aをシリコン原料棒11の他端部まで一定速度で移動させて、シリコン単結晶12を育成する。
【0043】
次に、
図2を参照し、CZ法によるシリコン単結晶インゴットの育成の一例について説明する。ただし、本発明は以下に示す例に限定されるものではない。
図2は、CZ法によるシリコン単結晶引き上げ装置の構成を示す説明図である。
図2に示すシリコン単結晶引き上げ装置30は、チャンバー41と、チャンバー41の底部中央を貫通して鉛直方向に設けられた支持回転軸42と、支持回転軸42の上端部に固定されたグラファイトサセプタ43と、グラファイトサセプタ43内に収容された石英るつぼ44と、グラファイトサセプタ43の周囲に設けられたヒーター45と、支持回転軸42を昇降および回転させるための支持軸駆動機構46と、種結晶を保持するシードチャック47と、シードチャック47を吊設する引き上げワイヤー48と、引き上げワイヤー48を巻き取るためのワイヤー巻き取り機構49と、ヒーター45および石英るつぼ44からの輻射熱によるシリコン単結晶インゴット50の加熱を防止すると共にシリコン融液51の温度変動を抑制するための熱遮蔽部材52と、各部を制御する制御装置53とを備えている。
チャンバー41の上部には、不活性ガスをチャンバー41内に導入するためのガス導入口54が設けられている。不活性ガスはガス管55を介してガス導入口54からチャンバー41内に導入され、その導入量はコンダクタンスバルブ56により制御される。
チャンバー41の底部には、チャンバー41内の不活性ガスを排気するためのガス排出口57が設けられている。密閉したチャンバー41内の不活性ガスはガス排出口57から排ガス管58を経由して外へと排出される。排ガス管58の途中にはコンダクタンスバルブ59および真空ポンプ60が設置されており、真空ポンプ60でチャンバー41内の不活性ガスを吸引しながらコンダクタンスバルブ59でその流量を制御することでチャンバー41内の減圧状態が保たれている。
更に、チャンバー41の外側にはシリコン融液51に磁場を印加するための磁場供給装置61が設けられている。磁場供給装置61から供給される磁場は、水平磁場であっても構わないし、カスプ磁場であっても構わない。
【実施例0044】
以下に、本発明を実施例に基づき更に説明する。ただし本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下の処理および操作は、特記しない限り、室温の大気雰囲気下で実施した。
【0045】
[FZシリコン単結晶試料の準備]
FZ法によって窒素ガスを含む雰囲気中で育成されたシリコン単結晶インゴット(n型シリコン)からウェーハ形状サンプルを切り出し、鏡面研磨加工等の加工処理を行いシリコンウェーハ(直径200mm)に加工した。抵抗率は50Ω・cmであった。このシリコンウェーハから複数のシリコン試料を切り出し、1つをFT-IR測定用シリコン試料として使用し、残りの複数のシリコン試料を実施例1、比較例1~比較例3においてそれぞれDLTS測定用シリコン試料として使用した。
【0046】
[FT-IR法による測定]
上記FT-IR測定用シリコン試料のFT-IR測定を行い、炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度を測定した。測定結果は以下の通りであった。
炭素濃度:<2E+15atoms/cm3
酸素濃度:<1E+16atoms/cm3
窒素濃度:4E+14atoms/cm3
【0047】
[実施例1]
上記で準備したDLTS測定用シリコン試料(FZシリコン単結晶試料)に対して、下記の(A)、(B)、(C)および(D)の処理を順次実施した。下記(B)において、下記(A)の加熱処理後のシリコン試料に水素原子導入処理が施される。下記(C)において水素原子導入処理後のシリコン試料の一方の面にショットキー接合を形成し、下記(D)において他方の面にオーミック層(Ga/In層)を形成することにより、ダイオードを作製した。
【0048】
(A)加熱炉にて900℃の加熱温度で60分間加熱
(B)フッ硝酸(HNO3濃度69質量%の硝酸(硝酸水溶液)とHF濃度50質量%のフッ酸(フッ化水素酸水溶液)との混合溶液)に、試料のシリコン表面を5分間浸漬
(C)試料のシリコン表面に真空蒸着によるショットキー電極(Au電極)形成
(D)ガリウムおよびインジウム擦込みによる裏面オーミック層(Ga/In)形成
【0049】
上記で作製したダイオードのショットキー接合に、空乏層を形成する逆方向電圧と空乏層にキャリアを捕獲するための順方向電圧を交互かつ周期的に印加した。逆方向電圧は-2V、順方向電圧は0Vとした。これにより、シリコン試料の表面から深さ2.6~6.0μmの領域をDLTS測定領域とすることができる。上記電圧に対応して発生するダイオードの容量(キャパシタンス)の過渡応答を測定した。
上記の電圧印加および容量の測定を、試料温度を所定温度範囲で掃引しながら行った。DLTS信号強度ΔCを温度に対してプロットして、DLTSスペクトルを得た。測定周波数は250Hzとした。
得られたDLTSスペクトルに対してSEMILAB社製プログラムを用いてフィッティング処理(True shape fitting処理)を行い、90~110Kにピークを有するDLTSスペクトルを分離した。こうして得られたDLTSスペクトルを
図3に示す。
図3に示すDLTSスペクトルでは、101K付近の炭素水素複合体に起因するトラップ準位、即ちEc-0.15eVのトラップ準位のピークを明確に確認することができる。この101KでのDLTS信号強度から公知の関係式によりトラップ準位密度を求めた。更に、別途作成した検量線を利用して上記トラップ準位密度から炭素濃度を求めたところ、2.9E+14atoms/cm
3であった。
【0050】
[比較例1]
上記で準備したDLTS測定用シリコン試料(FZシリコン単結晶試料)に対して、上記(A)の加熱処理を行わなかった点以外は実施例1について記載した処理および操作を行った。
図4に、比較例1において得られたDLTSスペクトルを示す。
図4に示すDLTSスペクトルでは、98K付近に窒素関連欠陥の準位密度であるE+11~E+12/cm
3台の大きなピークが観測された結果、101K付近の炭素水素複合体に起因するトラップ準位のピーク(
図3のような1E+10/cm
3程度のピーク)を同定できない。また、窒素関連欠陥起因のピークを炭素水素複合体に起因するトラップ準位のピークと誤認識してしまう可能性がある。
98K付近のピーク位置でのDLTS信号強度から公知の関係式によりトラップ準位密度を求め、更に、別途作成した検量線を利用して上記トラップ準位密度から炭素濃度を求めたところ、2.0E+16atoms/cm
3であった。
以上の結果から、比較例1では炭素濃度が過剰に見積もられてしまうことが確認された。
【0051】
[比較例2]
上記で準備したDLTS測定用シリコン試料(FZシリコン単結晶試料)に対して、上記(A)の加熱処理の加熱温度を500℃に変更した点以外は実施例1について記載した処理および操作を行った。
図5に、比較例2において得られたDLTSスペクトルを示す。
図5に示すDLTSスペクトルにおいても、
図4に示すDLTSスペクトルと同様に98K付近に窒素関連欠陥の準位密度であるE+11~E+12/cm
3台の大きなピークが観測された結果、101K付近の炭素水素複合体に起因するトラップ準位のピーク(
図3のような1E10/cm
3程度のピーク)を同定できない。また、
図5に示すDLTSスペクトルにおいても、
図4に示すDLTSスペクトルと同様に、窒素関連欠陥起因のピークを炭素水素複合体に起因するトラップ準位のピークと誤認識してしまう可能性がある。
【0052】
[比較例3]
上記で準備したDLTS測定用シリコン試料(FZシリコン単結晶試料)に対して、上記(B)の水素原子導入処理を行わなかった点以外は実施例1について記載した処理および操作を行った。
図6に、比較例3において得られたDLTSスペクトルを示す。
比較例3は、加熱処理後に水素原子導入処理を行わなかった比較例である。
図6に示すように、DLTSスペクトルにはピークは観測されなかった。比較例3では、水素原子導入処理を行わなかったことにより炭素水素複合体に起因するトラップ準位が形成されなかったため、101K付近のピークが現れなかったと考えられる。
【0053】
[CZシリコン単結晶試料の準備]
原料融解の段階で窒素ドープ処理が施された、CZ法によって育成された窒素ドープCZシリコン単結晶インゴット(n型シリコン)からウェーハ形状サンプルを切り出し、鏡面研磨加工等の加工処理を行い、窒素含有シリコンウェーハ(直径300mm)に加工した。抵抗率は50Ω・cmであった。このシリコンウェーハから複数のシリコン試料を切り出し、1つをFT-IR測定用シリコン試料として使用し、残りの複数のシリコン試料を実施例2、比較例4および比較例5においてそれぞれDLTS測定用シリコン試料として使用した。
【0054】
[FT-IR法による測定]
上記FT-IR測定用シリコン試料のFT-IR測定を行い、炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度を測定した。測定結果は以下の通りであった。
炭素濃度:<2E+15atoms/cm3
酸素濃度:3.91E+17atoms/cm3
窒素濃度:1.19E+14atoms/cm3
【0055】
[実施例2]
上記で準備したDLTS測定用シリコン試料(CZシリコン単結晶試料)に対して、上記(A)の加熱処理の加熱温度を1100℃に変更した点以外は実施例1について記載した処理および操作を行った。
【0056】
[比較例4]
上記で準備したDLTS測定用シリコン試料(CZシリコン単結晶試料)に対して、上記(A)の加熱処理を行わなかった点以外は実施例1について記載した処理および操作を行った。
【0057】
[比較例5]
上記で準備したDLTS測定用シリコン試料(CZシリコン単結晶試料)に対して、上記(A)の加熱処理の加熱温度を1100℃に変更した点および上記(B)の水素原子導入処理を行わなかった点以外は実施例1について記載した処理および操作を行った。即ち、比較例5は、加熱処理後に水素原子導入処理を行わなかった比較例である。
【0058】
図7に、実施例2、比較例4および比較例5でそれぞれ得られたDLTSスペクトルを示す。
図7中、「a.u.」は任意単位を示す。
図7に示す結果から、以下の点を確認することができる。
加熱温度1100℃で加熱処理することでピークはいったん消失し(比較例5)、その後水素原子導入処理を実施することでEc-0.15eVの炭素水素複合体に起因するトラップ準位のみのピーク分離が可能になる(実施例2)。比較例4では、窒素関連欠陥準位の98Kのピークが重なり、炭素水素複合体に起因するトラップ準位(101K付近)のピークのみを正確に検出することはできない。なお、87K付近に見られるピークはCOH複合体起因の準位で、結晶中に酸素が含まれていると出現するピークである(FZシリコン単結晶では、結晶中の酸素濃度は通常極めて低濃度のため出現しない)。