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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091515
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】レシプロ圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/10 20060101AFI20230623BHJP
   F04B 39/08 20060101ALI20230623BHJP
   F04B 49/06 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
F04B39/10 A
F04B39/08 A
F04B49/06 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206295
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 隆成
【テーマコード(参考)】
3H003
3H145
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003AC03
3H003CC02
3H003CC04
3H003CC06
3H003CF01
3H145AA03
3H145AA25
3H145BA19
3H145CA21
3H145DA12
(57)【要約】
【課題】気筒におけるガスの吸入量を微細に調整することができるレシプロ圧縮機を提供する。
【解決手段】レシプロ圧縮機10は、シリンダ室Scを形成する気筒40と、シリンダ室Scの周囲に設けられる吸入バルブ63と、吸入バルブ63が着座するように構成される吸入バルブシート61、または、吸入バルブ63を挟んで吸入バルブシート61とは反対側に位置する背面部材65のいずれか一方を含み、気筒40の軸線方向に移動するように構成される可動部60と、可動部60を軸線方向に移動させ、吸入バルブシート61と背面部材65との間における吸入バルブ63の可動範囲を変更するためのアクチュエータ100とを備える。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ室を形成する気筒と、
前記シリンダ室の周囲に設けられる吸入バルブと、
前記吸入バルブが着座するように構成される吸入バルブシート、または、前記吸入バルブを挟んで前記吸入バルブシートとは反対側に位置する背面部材のいずれか一方を含み、前記気筒の軸線方向に移動するように構成される可動部と、
前記可動部を前記軸線方向に移動させ、前記吸入バルブシートと前記背面部材との間における前記吸入バルブの可動範囲を変更するためのアクチュエータと
を備えるレシプロ圧縮機。
【請求項2】
前記可動部は、前記気筒の周方向に沿って連続して延在するリング状である
請求項1に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記吸入バルブの前記可動範囲が狭くなるよう前記可動部を移動させる移動部材を含み、
前記移動部材は、前記吸入バルブに対して前記可動部側に位置する
請求項1または2に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項4】
前記可動部は、前記吸入バルブシートである
請求項1乃至3の何れか1項に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項5】
前記アクチュエータは、
前記吸入バルブシートに対して前記背面部材とは反対側に位置し、前記軸線方向に移動するように構成される移動部材と、
前記移動部材に対して前記吸入バルブシートとは反対側に位置し、前記気筒の軸線を中心に回転するように構成されるカムリングとを含み、
前記カムリングは、回転方向に対して傾斜するカム面を有し、回転に伴い前記移動部材に対して摺動する前記カム面が、前記移動部材と前記吸入バルブシートとを前記背面部材に向けて移動させるように構成される
請求項4に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項6】
前記アクチュエータは、
直線移動に伴い前記カムリングを回転させるように構成される直動部材と、
前記直動部材に駆動力を付与するように構成される駆動源と
をさらに含む請求項5に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項7】
前記移動部材は、前記気筒の周方向に沿って複数配置され、
前記カム面は、前記複数の移動部材のそれぞれに対応して複数設けられる
請求項5または6に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項8】
前記アクチュエータは、前記移動部材を前記軸線方向に案内するように構成されるガイドを含む
請求項4乃至7の何れか1項に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項9】
前記気筒は、前記吸入バルブシートが載置されるように構成されたフランジを含み、
各々の前記ガイドは、前記フランジに設けられ、前記移動部材が内側に配置される案内孔を含む
請求項8に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項10】
前記背面部材は、前記気筒の径方向の内側を向いており、前記吸入バルブを前記軸線方向に案内するように構成される吸入バルブガイド面を含む
請求項1乃至9の何れか1項に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項11】
前記可動部は、前記背面部材である
請求項1乃至3の何れか1項に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項12】
前記背面部材は、前記気筒の径方向に対して傾斜する傾斜面を含み、
前記アクチュエータは、前記傾斜面に対向して当接する対向傾斜面を有し、前記径方向に沿って移動して前記背面部材を前記軸線方向に移動させるように構成される移動部材を含む
請求項11に記載のレシプロ圧縮機。
【請求項13】
前記移動部材は、前記気筒の周方向に沿って複数配置される
請求項12に記載のレシプロ圧縮機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レシプロ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転状態を変更できるレシプロ圧縮機が知られている。例えば、特許文献1では、レシプロ圧縮機の吸入弁を開いた状態に保持することが可能であり、レシプロ圧縮機の運転状態は負荷運転状態から無負荷運転状態に切り替わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-077841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献では、レシプロ圧縮機に設けられる複数の気筒の少なくとも1つにおけるガスの吸入量を微細に調整することが困難である。従って、レシプロ圧縮機が使用条件に応じた適した運転をすることができない可能性がある。
【0005】
本開示の目的は、気筒におけるガスの吸入量を微細に調整することができるレシプロ圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態に係るレシプロ圧縮機は、
シリンダ室を形成する気筒と、
前記シリンダ室の周囲に設けられる吸入バルブと、
前記吸入バルブが着座するように構成される吸入バルブシート、または、前記吸入バルブを挟んで前記吸入バルブシートとは反対側に位置する背面部材のいずれか一方を含み、前記気筒の軸線方向に移動するように構成される可動部と、
前記可動部を前記軸線方向に移動させ、前記吸入バルブシートと前記背面部材との間における前記吸入バルブの可動範囲を変更するためのアクチュエータと
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、気筒におけるガスの吸入量を微細に調整することができるレシプロ圧縮機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係るレシプロ圧縮機の概念的な断面図である。
図2】第1の実施形態に係るレシプロ圧縮機を概念的に示す断面図である。
図3】一実施形態に係る吸入バルブの可動範囲の調整幅を概念的に示す断面図である。
図4A】一実施形態に係る第2状態にあるレシプロ圧縮機のガス吸入行程を概念的に示す説明図である。
図4B図4Aに続く、レシプロ圧縮機のガス吸入行程を概念的に示す説明図である。
図5】一実施形態に係る気筒を概念的に示す斜視図である。
図6】一実施形態に係る複数の気筒を概念的に示す説明図である。
図7】第2の実施形態に係るレシプロ圧縮機を概念的に示す断面図である。
図8】第2の実施形態に係る別のレシプロ圧縮機を概念的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0010】
<1.レシプロ圧縮機10の概要>
図1は、本開示の一実施形態に係るレシプロ圧縮機10(以下、「圧縮機10」という場合がある)の概念的な断面図である。圧縮機10は、例えば、凝縮器及び蒸発器などの複数の熱交換器を含んだ冷凍サイクルに組み込まれる。冷凍サイクルとしては、2元冷凍サイクル、2段圧縮冷凍サイクル、または逆ブレイトン冷凍サイクルなどが挙げられる。この場合、圧縮機10によって圧縮されるガスは冷媒ガスである。
他の実施形態では、圧縮機10は内燃機関などに組み込まれてもよく、圧縮機10によって圧縮されるガスは燃焼ガスなどであってもよい。
【0011】
本開示の一実施形態に係る圧縮機10は、クランクケース16と、クランクケース16に収容される複数の気筒40とを備える。各気筒40は、ピストン42が収容されるシリンダ室Scを内側に形成する。各々のピストン42は、クランクケース16に設けられた軸受50によって支持されるクランク軸48に、コネクティングロッド52などを介して接続されている。また、クランク軸48の一端はモータ54に連結されており、モータ54の駆動によって各ピストン42は各気筒40の内部で往復動することができる。
なお、図1で示す例示的な実施形態では、2個の気筒40が並列に設けられ、2個の気筒40内のピストン42は、クランク軸48の回転角度で180°異なる位相で往復動するようにクランク軸48に接続されている。
以下の説明では、気筒40の軸線方向を単に「軸線方向」という場合がある。本実施形態では、軸線方向が鉛直方向と一致し、クランク軸48は水平方向に延在する。
【0012】
気筒40の一端側(図1では気筒40の上端側)には、吐出バルブ12を支持するためのバルブプレート44が設けられる。バルブプレート44に形成される開口の内側には、截頭円錐形のディスチャージバルブシート70が配置される。ディスチャージバルブシート70は、ボルト68によってバルブケージ66と結合されており、ディスチャージバルブシート70とバルブケージ66との間では吐出バルブ12が保持される。バルブケージ66は、ヘッドスプリング64によって気筒40に向けて付勢されている。また、バルブケージ66に設けられたスプリング穴69に収容されるバルブスプリング(図示外)によって、吐出バルブ12はディスチャージバルブシート70に向けて付勢されている。
【0013】
本開示の一実施形態に係る圧縮機10は、気筒40のシリンダ室Scの周囲に設けられる吸入バルブ63と、吸入バルブ63が着座するように構成される吸入バルブシート61(図2参照)をさらに備える。吸入バルブ63は、気筒40の軸線を基準とした周方向に亘り連続して延在するOリング状である。なお他の実施形態では、吸入バルブ63は、周方向に沿って配置される複数の板弁であってもよい。
【0014】
図1で示される圧縮機10の動作概要は以下の通りである。
モータ54の駆動に伴いピストン42が下降してシリンダ室Sc内の密閉空間が減圧されると、気筒40の外側に形成されている吸入空間Siの圧力が密閉空間の圧力を一定程度上回る。吸入バルブシート61に着座していた吸入バルブ63が押し上げられ、吸入空間Siにあるガスが吸入バルブシート61を通ってシリンダ室Scに吸入される。その後、ピストン42が下降を終えて上昇を開始する。ピストン42によってガスが圧縮されて密閉空間が加圧される結果、吸入バルブ63は押し下げられて吸入バルブシート61に着座する。ピストン42がさらに上昇して密閉空間の圧力が吐出空間Sdの圧力を一定程度上回ると、吐出バルブ12が押し上げられ、シリンダ室Scにある圧縮ガスは吐出空間Sdに吐出される。
【0015】
本実施形態では、圧縮機10の動作時における吸入バルブ63の可動範囲を変更するように構成される。可動範囲の変更は、吸入バルブシート61または背面部材65(後述)のいずれか一方を軸線方向に移動させることで可能である。以下、吸入バルブシート61を移動するように構成された第1の実施形態に係る圧縮機10A(10)と、背面部材65を移動するように構成された第2の実施形態に係る圧縮機10B、10C(10)とを順に例示する。
【0016】
<2.第1の実施形態に係る圧縮機10A(10)>
図2図6を参照し、第1の実施形態に係る圧縮機10A(10)を例示する。図2は、本開示の一実施形態に係る圧縮機10Aの気筒40を概念的に示す断面図である。図3は、本開示の一実施形態に係る吸入バルブ63の可動範囲の調整幅を概念的に示す断面図である。図4A図4Bは、本開示の一実施形態に係る第2状態の圧縮機10Aがガスを吸入するときの行程を概念的に示す説明図である。図5は、本開示の一実施形態に係る気筒40を概念的に示す斜視図である。図6は、本開示の一実施形態に係る複数の気筒40を概念的に示す説明図である。
【0017】
<2-1.圧縮機10Aの構成の概要>
図2で示されるように、第1の実施形態では、上述の吸入バルブシート61A(61)は気筒40の外周部とは別部材であり、軸線方向に移動するように構成される。吸入バルブシート61Aは、吸入バルブ63とは反対側に設けられたフランジ47に載置可能である。フランジ47は、一例として気筒40の外周部と一体的に形成されており、気筒40の全周に亘り周方向に連続して延在するOリング状である。このフランジ47には、シリンダ室Scに吸入されるガスが流れるための複数の流路47A(図5参照)が気筒40の周方向に沿って配置される。
【0018】
本実施形態の吸入バルブシート61Aは、気筒40の外周部とクランクケース16に設けられた開口部との間に設けられる。気筒40の外周部の全周に亘って形成される溝には、内側封止部材19が嵌め込まれている。内側封止部材19は、気筒40と吸入バルブシート61Aとの間をガスが通過するのを規制するように構成される。内側封止部材19は、一例として弾性変形可能なOリングであり、吸入バルブシート61Aに押し当たっている。
また、吸入バルブシート61Aの外周部の全周に亘って形成される溝には、外側封止部材17が嵌め込まれている。外側封止部材17は、吸入バルブシート61Aとクランクケース16との間をガスが通過するのを規制するように構成される。外側封止部材17は、一例として弾性変形可能なOリングであり、クランクケース16に押し当たっている。
【0019】
図2で示される圧縮機10Aは、吸入バルブ63に対して吸入バルブシート61Aとは反対側に位置する背面部材65A(65)を備える。第1の実施形態に係る背面部材65Aは、上述のバルブプレート44と同一の部材であり、規定の位置に固定されている。一例として、吸入バルブシート61から押し上げられる吸入バルブ63は背面部材65Aに当接する。吸入バルブ63の可動範囲は寸法Rmに該当する。また、背面部材65Aは、気筒40の径方向の内側を向いており、吸入バルブ63を軸方向に案内するように構成される吸入バルブガイド面67を含む。これにより、吸入バルブシート61は軸線方向に安定的に移動できる。
なお、他の実施形態では、背面部材65Aと吸入バルブ63との間に例えばスプリングが介在していてもよく、この場合の吸入バルブ63は、背面部材65Aに当接しなくてもよい。
【0020】
既述のように第1の実施形態では、吸入バルブシート61Aまたは背面部材65Aのうちで吸入バルブシート61Aが軸線方向に移動するように構成される。これにより、吸入バルブシート61の着座位置が軸線方向に調整されるので、吸入バルブシート61Aと背面部材65Aとの間にある吸入バルブ63の可動範囲は変更される。以下、第1の実施形態の説明では、吸入バルブシート61Aまたは背面部材65Aのうちで吸入バルブシート61Aを「可動部60A」という場合がある。可動部60A(60)は、圧縮機10Aの構成要素であるアクチュエータ100Aによって移動させられる。アクチュエータ100Aの詳細は後述する。
【0021】
図3を参照して、可動部60Aが移動することによる、吸入バルブ63の可動範囲の切り替わりを説明する。圧縮機10Aは、可動部60Aである吸入バルブシート61Aがフランジ47に載置される第1状態と、吸入バルブシート61Aがフランジ47から離隔する第2状態との間で変化する。このときの吸入バルブ63の可動範囲の調整量は寸法Rdに相当する。寸法Rdは、第2状態における吸入バルブシート61Aとフランジ47との離隔距離に等しい。圧縮機10Aが第2状態であるとき、第1状態に比べて、吸入バルブ63の可動範囲が狭い。詳細は後述するがこの場合、気筒40のガス吸入量は低減する。
【0022】
<2-2.ガス吸入量が低減したときの圧縮機10Aの吸入動作>
図4A図4Bを参照し、第2状態にある圧縮機10Aの気筒40がガスを吸入する1サイクルあたりの行程を説明する。図4A図4Bは、クランク軸48の軸線方向視における気筒40を含む機構を概念的に図示する。なお、ガス吸入行程に関する以下の説明では、図1を参照して説明したヘッドスプリング64及びバルブスプリングの付勢力の影響を考慮しない。あわせて、ピストン42、吸入バルブ63、吐出バルブ12、及びバルブケージ66などの各種部品の自重の影響も考慮しない。
【0023】
図4Aで示されるように、ピストン42が下降すると、シリンダ室Sc内の密閉空間の圧力(Pc)は低下し、吸入空間Siの圧力(Pi)以下となる。このとき、吸入バルブ63が吸入バルブシート61Aから押し上げられ、吸入ガス流路Ciが開放される(行程1)。吸入空間Siにあるガスは吸入バルブシート61及び吸入ガス流路Ciを順に通過してシリンダ室Scに流入する。ピストン42が移動範囲の下端に向けてさらに下降すると、ガスはシリンダ室Scにさらに吸引される(行程2)。ここで、圧縮機10Aが第2状態にあるとき、吸入ガス流路Ciの流路断面積が小さいため、シリンダ室Scに吸入されるガスの流量であるガス吸入量は第1状態に比べて制限される。
【0024】
図4Bで示されるように、クランクピン53が下死点を通過することに伴いピストン42が上昇を開始すると、シリンダ室Sc内の密閉空間は加圧される(行程3)。
圧縮機10Aが例えば第1状態にあり、行程2の時点でシリンダ室Scに十分なガスが吸入されていれば、ピストン42が上昇を開始した直後、シリンダ室Sc内の密閉空間の圧力(Pc)は、吸入空間Siの圧力(Pi)以上になる。しかしながら、圧縮機10Aが第2状態であるとシリンダ室Scに十分なガスが吸入されていないため、密閉空間の圧力(Pc)が吸入空間Siの圧力(Pi)以上になるタイミングが遅くなる。結果、吸入バルブ63が吸入バルブシート61Aに着座するタイミングが遅れる、いわゆる吸入バルブ63の閉じ遅れが発生する(行程4)。
吸入行程後に行われる気筒40の吐出行程は既述の通りであるが、気筒40のガス吸入量が少ないため、圧縮機10Aの体積効率は第1状態に比べて低い。つまり圧縮機10Aの出力は低い。
【0025】
しかしながら、ピストン42が上昇動作を行うとき(行程3、4)、シリンダ室Scの圧力が十分に高くないため、ピストン42に加わる負荷は第1状態に比べて低い。従って、ピストン42を駆動するモータ54に必要とされる出力トルクが低減し、モータ54の消費電力は低減する。また、モータ54に必要とされる出力トルクが低減するため、モータ54の動力によってピストン42が往復動するときの機械損失も低減する。従って、圧縮機10Aの出力低下の度合いよりもモータ54の動力低下の度合いが大きい条件下などでは、圧縮機10Aの断熱効率は向上する。
よって、第2状態にある圧縮機10Aでは、第1状態に比べて、出力が低くなる一方で、消費電力を抑えた高効率な運転が可能となる。
【0026】
詳細な図示は省略するが、例えば圧縮機10Aが冷凍サイクルに組み込まれた実施形態においては、冷凍サイクルによって得られる冷熱を利用する冷凍装置が起動運転するときに、圧縮機10Aは第1状態で運転される。このとき、圧縮機10Aの出力が高いため、循環冷媒が規定温度まで下がる所要時間が低減するなどの利点が得られる。また、冷凍装置が定格運転をするときには、圧縮機10Aに求められる出力は比較的低いので、圧縮機10Aは第2状態で運転される。これにより、定格運転時の冷凍装置の消費電力を抑えることができるなどの利点が得られる。
圧縮機10Aが第1状態または第2状態に切り替わる具体例は、上記に限定されない。別の例を挙げると、定格運転中の冷凍装置に加わる熱負荷が変化した場合には、圧縮機10Aは第2状態から第1状態に一時的に切り替わってもよい。これにより、冷凍装置は熱負荷の変化に対して素早く応答することができる。
さらに別の例を挙げると、循環冷媒の種類や冷凍サイクルを構成する熱交換器の使用条件といった冷凍装置の仕様に応じて、圧縮機10Aは第1状態または第2状態のいずれかで定常的に運転してもよい。このように圧縮機10Aは、組み込まれる冷凍装置の種類に応じて性能を適正に発揮することができ、圧縮機10Aの高い汎用性が実現する。
【0027】
以上説明したように、圧縮機10Aは、吸入バルブシート61Aである可動部60Aを軸線方向に移動させるアクチュエータ100Aを備え、アクチュエータ100Aによって吸入バルブシート61Aと背面部材65Aとの間における吸入バルブ63の可動範囲が変更され、作動した時の吸入バルブ63と吸入バルブシート61Aとの間に形成される吸入ガス流路Ciの流路断面積を変更することができる。よって、気筒40におけるガス吸入量を段階的に調整することが可能な圧縮機10Aが実現する。よって、高い出力が求められる運転条件または消費電力を抑えることが求められる運転条件など、種々の運転条件に圧縮機10Aは適応することができる。
【0028】
なお、圧縮機10Aの出力制御は、複数の気筒40のいずれかを空運転(無負荷運転)するいわゆるアンローダ制御によっても可能である。これは、ピストン42の昇降中に吸入バルブ63を吸入バルブシート61A(61)から常時離隔させるように構成されたアンローダ機構が設けられることで実現可能である。しかしながら、気筒40の運転状態が負荷運転と無負荷運転との間で切り替わると、圧縮機10Aのガス吐出量の差異は大きく、圧縮機10Aの微細な出力制御は困難である(例えば圧縮機10Aに搭載される気筒40の個数が8つの場合、圧縮機10Aの出力は12.5%刻みで制御することとなり、微細な出力制御は困難である。)。従って、例えば圧縮機10Aの出力を下げるためにアンローダ制御を実行すると、出力が適正値よりも過剰に下がるおそれがある。
この点、本開示では、吸入バルブ63の可動範囲の調整によって、1つの気筒40における負荷運転状態を調整することが可能となり、圧縮機10Aの出力を微細に調整することが可能となる。なお、本開示の圧縮機10Aは、吸入バルブ63の可動範囲を調整する機構に加えて、アンローダ機構を備えてもよい。
【0029】
また、圧縮機10Aの出力制御は、モータ54の回転数を制御することによっても可能であるが、これはモータ54に供給する電力の周波数を制御するためのインバータを搭載する必要があり、圧縮機10Aの高コスト化を招くおそれがある。この点、本開示では、インバータを搭載することが必須とはならないため、圧縮機10Aの高コスト化を抑制しつつ微細な出力制御が実現可能となる。
【0030】
また本実施形態では、吸入バルブシート61Aである可動部60Aは、気筒40の周方向に沿って連続して延在するリング状である。より具体的な一例として、可動部60Aは、気筒40の周方向の全周に亘り連続して延在するOリング状である。これにより、可動部60Aが周方向に沿って複数配置される場合(より詳細には、吸入バルブ63がリードバルブである場合)に比べて、圧縮機10Aを構成する部品点数が低減するので、アクチュエータ100Aの構成を簡素化することができる。
【0031】
また本実施形態では、軸線方向に移動するように構成された可動部60Aが、背面部材65Aまたは吸入バルブシート61のうちで吸入バルブシート61に該当し、背面部材65Aを軸線方向に移動させる必要がない。これにより、アクチュエータ100Aは構成を簡素化することができる。
【0032】
また、背面部材65Aは、吸入バルブ63を軸線方向に案内するように構成される吸入バルブガイド面67を含む。これにより、アクチュエータ100によって吸入バルブシート61と背面部材65Aの軸線方向距離が変更された場合であっても、吸入バルブ63は安定的に作動することができる。
【0033】
<2-3.アクチュエータ100Aの構成の詳細>
図2図3図5図6を参照し、アクチュエータ100A(100)の構成の詳細を例示する。
【0034】
図2図3に示すように、本実施形態では、アクチュエータ100Aは、駆動源150A(150)と、駆動源150Aから伝わる駆動力によって可動部60Aを移動させる移動部材20A(20)とを含む。移動部材20Aは、可動部60Aを移動させることで、吸入バルブ63の可動範囲を狭く及び広くすることが可能であり、吸入バルブ63に対して可動部60A側(図3の例では、吸入バルブ63に対して下側)に位置する。より具体的な一例として、移動部材20Aは、吸入バルブシート61Aを挟んで背面部材65Aとは反対側において気筒40の外周部に設けられる。
本実施形態の移動部材20Aは、後述するように軸線方向に延在するピンである。他の実施形態では、移動部材20Aは、気筒40の外周部に回転可能に設けられたリングであってもよい。
【0035】
上記構成によれば、移動部材20Aが吸入バルブ63に対して可動部60A側に位置することで、アクチュエータ100Aの構成部品が吸入バルブ63に対して可動部60A側に集約される。よって、移動部材20Aが例えば吸入バルブ63に対して背面部材65A側に配置される場合に比べて、アクチュエータ100Aをコンパクト化することができる。
【0036】
本実施形態のアクチュエータ100Aは、移動部材20Aに対して吸入バルブシート61Aとは反対側に位置するカムリング130を含む。カムリング130は、気筒40の外周部に設けられたリテーニングリング139に載置されており、駆動源150Aから伝わる駆動力によって気筒40の軸線を中心に回転するように構成される。
また図5に示すように、カムリング130は、回転方向に対して傾斜すると共に移動部材20Aに当接するカム面135を有する。本実施形態のカム面135は、移動部材20を支持している。従って、カムリング130の回転に伴いカム面135が移動部材20Aに対して摺動すると、カムリング130は移動部材20Aと吸入バルブシート61A(図3参照)を軸線方向に移動させることができる。本例では、カムリング130が一方向に回転すると、移動部材20は吸入バルブシート61Aと共に上昇し、吸入バルブ63の可動範囲は狭まる。そして、カムリング130が逆転すると、カム面135と移動部材20Aとの当接位置が下側に変化する。これにより、移動部材20と吸入バルブシート61Aは共に下方に移動し、吸入バルブ63の可動範囲は広がる。なお、本実施形態では、吸入バルブシート61Aがフランジ47に載置された後も、移動部材20Aはさらに下方に移動する(吸入バルブシート61Aと移動部材20Aは互いに離隔する)。
【0037】
上記構成によれば、カムリング130の回転運動を移動部材20Aの軸線方向に沿った移動に変換する構成が採用されるので、カムリング130に対して移動部材20Aとは反対側にアクチュエータ100Aの可動部品を多数配置する必要性を低減できる。よって、軸線方向においてアクチュエータ100Aをコンパクト化できる。
【0038】
図5に示すように、本実施形態のアクチュエータ100Aは、直線移動に伴いカムリング130を回転させるように構成された直動部材140を含む。直動部材140は、一例として、軸線方向と交差する方向に延在するロッドである。上述の駆動源150Aは、直動部材140に駆動力を付与するように構成される(図6参照)。駆動源150Aは、一例として、油圧シリンダである。油圧シリンダの駆動に伴い直動部材140の位置が切替わることで、カムリング130の回転位置も切替わる。これにより、圧縮機10Aは第1の状態と第2状態との間で変化する。
【0039】
本実施形態では、カムリング130の外周面と直動部材140の外周面のいずれか一方に凸部が設けられ、いずれか他方に凸部を収容する凹部が設けられる。これにより、直線移動する直動部材140がカムリング130を回転方向に押すことができ、駆動源150Aからカムリング130に駆動力が伝達される。
なお、他の実施形態では、上述の凸部及び凹部が設けられなくてもよい。例えば、カムリング130のうちでカム面135とは反対側の端面が回転方向に対して傾斜しており、この傾斜した端面に対向して当接する当接面を直動部材140が備えてもよい。この場合であっても、直動部材140の直線移動に伴いカムリング130は回転することができる。
また、駆動源150Aは、エアシリンダ、ソレノイド、またはモータなどであってもよい。例えば駆動源150Aとしてモータが採用される場合、直動部材140の移動量を無段階に調整することができ、吸入バルブ63の可動範囲を無段階に調整することが可能となる。
【0040】
上記構成によれば、駆動源150Aにより駆動される直動部材140が直線移動するだけでカムリング130が回転するので、アクチュエータ100Aは構成を簡素化することができる。
【0041】
また図6に示すように、本実施形態では、単一の直動部材140が複数の気筒40(同図の例では2つの気筒40)のそれぞれのカムリング130を回転させるように構成される。これにより、アクチュエータ100Aの駆動源150Aの個数が低減するので、アクチュエータ100Aの構成を簡素化することができる。なお、ガス吸入量の調整は、複数の気筒40において同時に実行されることに限定されない。例えば、カムリング130に設けられる凹部または凸部のテーパ面の位相が複数の気筒40の間で異なるように配置される構成が採用され、且つ、直動部材140の移動量を制御可能な構成が採用されれば、ガス吸入量の調整タイミングを複数の気筒40の間でずらすことができる。これにより、複数の気筒40の各々におけるガス吸入量を微細且つ柔軟に調整することができる。なお、直動部材140が一方向に移動するときには一方の気筒40の吸入量が狭まり、直動部材140が他方向に移動するときには他方の気筒40の吸入量が狭まるような構成が採用されてもよい。
【0042】
図5に戻り、本実施形態の移動部材20Aは、気筒40の周方向に沿って等間隔に複数配置される。移動部材20Aは、一例として、軸線方向に延在するピンである。そして、上述したカムリング130のカム面135は、複数の移動部材20Aのそれぞれに対応して複数設けられる。
【0043】
上記構成によれば、複数のカム面135がそれぞれ複数の移動部材20Aに対して摺動することで、ピン形状を有する複数の移動部材20Aは、吸入バルブシート61Aを移動させる。吸入バルブシート61Aの移動が複数の移動部材20Aによって行われるので、吸入バルブシート61の移動を安定化させることができる。
【0044】
本実施形態のアクチュエータ100Aは、移動部材20Aを軸線方向に案内するように構成されたガイド170を含む。本実施形態では、複数のガイド170が、複数の移動部材20Aのそれぞれに対応して設けられる。各ガイド170は、軸線方向に間隔を空けて並ぶ第1ガイド171と第2ガイド172を含む。第1ガイド171は、カムリング130に近接する位置にて気筒40の外周面に設けられた突起と、突起に設けられた第1案内孔171Aを有する。ピン形状に形成される移動部材20Aの一端部(下端部)は、第1案内孔171Aの内側に配置されている。第2ガイド172は、フランジ47に設けられた第2案内孔172Aを含む。移動部材20Aの他端部(上端部)は、第2案内孔172Aの内側に配置されている。本例では、第2案内孔172Aは、フランジ47に形成される上述した複数の流路47Aのいずれか2つの間に設けられる。
【0045】
上記構成によれば、気筒40の径方向において、移動部材20Aはフランジ47の外周端よりも内側に位置する。よって、気筒40の径方向においてアクチュエータ100Aをコンパクト化できる。
【0046】
<3.第2の実施形態に係る圧縮機10B、10C>
図7図8を参照し、第2の実施形態に係る圧縮機10B、10C(10)を例示する。図7は、第2の実施形態に係る圧縮機10B(10)を概念的に示す断面図である。図8は、第2の実施形態に係る圧縮機10C(10)を概念的に示す断面図である。なお、圧縮機10Aと同様の構成については、図面において同じ符号を付与し、説明を簡略化または省略する場合がある。また、圧縮機10Aと同様の動作・利点についても説明を省略する場合がある。
【0047】
<3-1.圧縮機10B、10Cの構成の概要>
図7図8に示すように、第2の実施形態に係る圧縮機10B、10C(10)では、吸入バルブシート61B(61)が気筒40の外周部と一体的に形成されている。詳細な図示は省略するが一例として、吸入バルブシート61Bは、図5を参照して説明したフランジ47と同様な形状を有しており、流路47Aと同様の流路が形成されている(ただし、第2案内孔172Aは形成されていない)。吸入バルブシート61Bには、吸入バルブ63が着座するように構成される。
【0048】
図7図8に示すように、圧縮機10B、10C(10)はそれぞれ、吸入バルブ63に対して吸入バルブシート61Bとは反対側に位置する背面部材65B、65C(65)を備える。第2の実施形態に係る背面部材65B、65Cは、上述のバルブプレート44に対して昇降するように構成される。一例として、背面部材65B、65Cは、気筒40の周方向の全周に亘り連続して延在するOリング状である。
【0049】
第2の実施形態に係る圧縮機10B、10Cでは、吸入バルブシート61Bまたは背面部材65B、65Cのうちで背面部材65B、65Cが軸線方向に移動する。これにより、吸入バルブシート61の可動範囲の上端が軸線方向に調整される。つまり、吸入バルブシート61Bと背面部材65B、65Cとの間にある吸入バルブ63の可動範囲は変更される。以下、第2の実施形態に関する説明では、吸入バルブシート61Bまたは背面部材65B、65Cのうちで背面部材65B、65Cをそれぞれ「可動部60B、60C」という場合がある。可動部60B、60C(60)は、圧縮機10B、10Cの構成要素であるアクチュエータ100B、100C(100)によって移動させられる。
【0050】
上記構成によれば、圧縮機10B、10Cは、背面部材65B、65Cである可動部60B、60Cを軸線方向に移動させるアクチュエータ100B、100Cを備え、アクチュエータ100B、100Cによって吸入バルブシート61Bと背面部材65B、65Cとの間における吸入バルブ63の可動範囲が変更される。これにより、作動した時の吸入バルブ63と吸入バルブシート61B、61Cとの間に形成される吸入ガス流路Ciの流路断面積を変更することができる。よって、気筒40におけるガス吸入量を段階的に調整することが可能な圧縮機10B、10Cが実現する。
【0051】
また、背面部材65B、65Cである可動部60B、60Cは、気筒40の周方向に沿って連続して延在するリング状である。これにより、可動部60B、60Cが周方向に沿って複数配置される場合に比べて、圧縮機10B、10C構成する部品点数が低減するので、アクチュエータ100B、100Cの構成を簡素化することができる。
【0052】
また、可動部60B、60Cが背面部材65B、65Cであることで、吸入バルブシート61Bを軸線方向に移動させる必要がなく、アクチュエータ100B、100Cの構成を簡素化することができる。
【0053】
<3-2.アクチュエータ100B、100Cの構成の詳細>
図7図8に示されるように、アクチュエータ100B、100Cは、駆動源150B、150Cから伝わる駆動力によって可動部60B、60Cを移動させる移動部材20B、20C(20)を含む。
移動部材20B、20Cは、可動部60B、60Cを移動させることで、吸入バルブ63の可動範囲を狭く及び広くすることが可能であり、吸入バルブ63に対して可動部60B、60C側(図3の例では、吸入バルブ63に対して上側)に位置する。本実施形態の移動部材20B、20Cは、バルブプレート44に形成された収容穴に設けられ、気筒40の周方向に沿って複数配置される。
【0054】
図7で示される実施形態では、背面部材65Bは、気筒40の径方向に対して傾斜して延在する傾斜面77を含む。背面部材65Bは、アクチュエータ100Bの構成要素であるバネ78によって、吸入バルブ63とは反対側に向けて付勢される。この付勢により、例えばピストン42の下降に伴ってシリンダ室Sc内の密閉空間の圧力が低下する場合であっても、背面部材65Bが吸入バルブ63側に移動するのを抑制できる。
また、移動部材20Bは、傾斜面77に対して対向して当接する対向傾斜面29を有し、径方向に移動するように構成される。移動部材20Bは例えば油圧シリンダ、エアシリンダ、またはソレノイドなどであってもよい駆動源150B(150)によって動作する。移動部材20Bが駆動源150Bから動力を得て径方向の内側へ移動すると、対向傾斜面29は傾斜面77に対して摺動しながらバネ78の付勢力に抗って背面部材65Bを押し下げる。これにより、吸入バルブ63の可動範囲は狭まる。反対に、移動部材20Bが径方向の外側に移動すると、背面部材65Bはバネ78の付勢力によって押し上げられ、吸入バルブ63の可動範囲は広がる。なお、背面部材65Bは、バネ78の付勢力に加えて、例えばピストン42の上昇に伴うシリンダ室Sc内の密閉空間の圧力増加によって、押し上げられてもよい。
【0055】
上記構成によれば、移動部材20Bが径方向に移動することに伴い対向傾斜面29が傾斜面77に対して摺動するだけで、背面部材65Bの軸線方向に沿った移動が実現する。よって、アクチュエータ100Bを簡素化することができる。また、背面部材65Bの移動が複数の移動部材20Bによって行われるので、背面部材65Bをより安定的に移動させることができる。
【0056】
図8で示される実施形態では、バルブプレート44の収容穴に設けられた移動部材20Cは、揺動可能に設けられる。移動部材20Cの揺動方向における一端25は、吸入バルブ63とは反対側から背面部材65Cに当接し、移動部材20Cの他端26は、軸線方向に移動するように構成された作動部材49と当接する。作動部材49は、アクチュエータ100C(100)の構成要素であり、一例として、クランクケース16に設けられたガイド穴16Aに挿通されている。作動部材49は、例えば油圧シリンダ、エアシリンダ、またはソレノイドであってもよい駆動源150Cによって軸線方向に移動する。駆動源150Cと作動部材49との間には、例えば、図5を用いて例示したカムリング130のようなリング部材が介在してもよい。
作動部材49が移動部材20Cを揺動させることで、背面部材65Cは軸線方向に移動し、吸入バルブ63の可動範囲は変更される。
【0057】
以上説明したように、移動部材20B、20Cが吸入バルブ63に対して可動部60B、60C側に位置することで、アクチュエータ100B、100Cの構成部品が吸入バルブ63に対して可動部60B、60C側に集約される。よって、移動部材20B、20Cが例えば吸入バルブ63に対して吸入バルブシート61B側に配置される場合に比べて、アクチュエータ100B、100Cをコンパクト化することができる。
【0058】
なお、第2の実施形態の他の例として、可動部60Bは、油から上下動するための力を得てもよい。この場合、バルブプレート44の内部に形成された油充填部に油が充填され、この油の圧力が油圧シリンダの駆動によって調整されてもよい。油充填部を閉鎖するように設けられる可動部60Bは、油の圧力変動に応じて軸線方向に移動する。
【0059】
<4.まとめ>
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0060】
1)本開示の少なくとも一実施形態に係るレシプロ圧縮機(10)は、
シリンダ室(Sc)を形成する気筒(40)と、
前記シリンダ室(Sc)の周囲に設けられる吸入バルブ(63)と、
前記吸入バルブ(63)が着座するように構成される吸入バルブシート(61)、または、前記吸入バルブ(63)を挟んで前記吸入バルブシート(61)とは反対側に位置する背面部材(65)のいずれか一方を含み、前記気筒(40)の軸線方向に移動するように構成される可動部(60)と、
前記可動部(60)を前記軸線方向に移動させ、前記吸入バルブシート(61)と前記背面部材(65)との間における前記吸入バルブ(63)の可動範囲を変更するためのアクチュエータ(100)と
を備える。
【0061】
上記1)の構成によれば、アクチュエータ(100)によって吸入バルブシート(61)と背面部材(65)との間における吸入バルブ(63)の可動範囲が変更されることで、作動した時の吸入バルブ(63)と吸入バルブシート(61)との間に形成される吸入ガス流路(Ci)の流路断面積を変更することができる。これにより、気筒(40)におけるガス吸入量を微細に調整することができるレシプロ圧縮機(10)が実現する。
【0062】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載のレシプロ圧縮機(10)であって、
前記可動部(60)は、前記気筒(40)の周方向に沿って連続して延在するリング状である。
【0063】
上記2)の構成によれば、複数の可動部(60)が周方向に沿って配置される場合に比べて、レシプロ圧縮機(10)を構成する部品点数が低減するので、アクチュエータ(100)の構成を簡素化することができる。
【0064】
3)幾つかの実施形態では、上記1)または2)に記載のレシプロ圧縮機(10)であって、
前記アクチュエータ(100)は、前記吸入バルブ(63)の前記可動範囲が狭くなるよう前記可動部(60)を移動させる移動部材(20)を含み、
前記移動部材(20)は、前記吸入バルブ(63)に対して前記可動部(60)側に位置する。
【0065】
上記3)の構成によれば、移動部材(20)が吸入バルブ(63)に対して可動部(60)側に位置することで、アクチュエータ(100)の構成部品が吸入バルブ(63)に対して可動部(60)側に集約される。よって、アクチュエータ(100)をコンパクト化することができる。
【0066】
4)幾つかの実施形態では、上記1)から3)のいずれかに記載のレシプロ圧縮機(10A)であって、
前記可動部(60)は、前記吸入バルブシート(61A)である。
【0067】
上記4)の構成によれば、背面部材(65A)を移動させる必要がないので、アクチュエータ(100A)は構成を簡素化することができる。
【0068】
5)幾つかの実施形態では、上記4)に記載のレシプロ圧縮機(10A)であって、
前記アクチュエータ(100A)は、
前記吸入バルブシート(61A)に対して前記背面部材(65A)とは反対側に位置し、前記軸線方向に移動するように構成される移動部材(20A)と、
前記移動部材(20A)に対して前記吸入バルブシート(61A)とは反対側に位置し、前記気筒(40)の軸線を中心に回転するように構成されるカムリング(130)とを含み、
前記カムリング(130)は、回転方向に対して傾斜するカム面(135)を有し、回転に伴い前記移動部材(20A)に対して摺動する前記カム面(135)が、前記移動部材(20A)と前記吸入バルブシート(61A)とを前記背面部材(65A)に向けて移動させるように構成される。
【0069】
上記5)の構成によれば、カムリング(130)の回転運動を移動部材(20A)の軸線方向に沿った移動に変換する構成が採用されるので、カムリング(130)に対して移動部材(20A)とは反対側にアクチュエータ(100A)を構成する可動部品を多数配置する必要性を低減できる。よって、軸線方向においてアクチュエータ(100A)をコンパクト化できる。
【0070】
6)幾つかの実施形態では、上記5)に記載のレシプロ圧縮機(10A)であって、
前記アクチュエータ(100A)は、
直線移動に伴い前記カムリング(130)を回転させるように構成される直動部材(140)と、
前記直動部材(140)に駆動力を付与するように構成される駆動源(150A)と
をさらに含む。
【0071】
上記6)の構成によれば、駆動源(150A)により駆動される直動部材(140)が直線移動するだけでカムリング(130)が回転するので、アクチュエータ(100A)は構成を簡素化することができる。
【0072】
7)幾つかの実施形態では、上記5)または6)に記載のレシプロ圧縮機(10A)であって、
前記移動部材(20A)は、前記気筒(40)の周方向に沿って複数配置され、
前記カム面(135)は、前記複数の移動部材(20A)のそれぞれに対応して複数設けられる。
【0073】
上記7)の構成によれば、複数のカム面(135)がそれぞれ複数の移動部材(20A)に対して摺動することで、複数の移動部材(20A)は吸入バルブシート(61A)と共に背面部材(65A)に向けて移動する。吸入バルブシート(61A)の移動が複数の移動部材(20A)によって行われるので、吸入バルブシート(61A)の移動を安定化させることができる。
【0074】
8)幾つかの実施形態では、上記4)から7)のいずれかに記載のレシプロ圧縮機(10A)であって、
前記アクチュエータ(100A)は、前記移動部材(20A)を前記軸線方向に案内するように構成されるガイド(170)を含む。
【0075】
上記8)の構成によれば、ガイド(170)によって移動部材(20A)が軸線方向に案内されるので、アクチュエータ(100A)は吸入バルブシート(61A)をより安定的に移動させることができる。
【0076】
9)幾つかの実施形態では、上記8)に記載のレシプロ圧縮機(10A)であって、
前記気筒(40)は、前記吸入バルブシート(61A)が載置されるように構成されたフランジ(47)を含み、
各々の前記ガイド(170)は、前記フランジ(47)に設けられ、前記移動部材(20A)が内側に配置される案内孔(第2案内孔172A)を含む。
【0077】
上記9)の構成によれば、気筒(40)の径方向において、吸入バルブシート(61A)が載置されるように構成されたフランジ(47)の外周端よりも内側に移動部材(20A)は位置する。よって、気筒(40)の径方向においてアクチュエータ(100A)をコンパクト化できる。
【0078】
10)幾つかの実施形態では、上記1)から9)のいずれかに記載のレシプロ圧縮機(10A)であって、
前記背面部材(65A)は、前記気筒(40)の径方向の内側を向いており、前記吸入バルブ(63)を前記軸線方向に案内するように構成される吸入弁ガイド面(67)を含む。
【0079】
上記10)の構成によれば、吸入弁ガイド面(67)によって吸入バルブ(63)が軸線方向に案内されるので、アクチュエータ(100A)によって吸入バルブシート(61A)と背面部材(65A)の軸線方向距離が変更された場合でも、吸入バルブ(63)は安定的に作動することができる。
【0080】
11)幾つかの実施形態では、上記1)から3)のいずれかに記載のレシプロ圧縮機(10B、10C)であって、
前記可動部(60B、60C)は、前記背面部材(65B,65C)である。
【0081】
上記11)の構成によれば、吸入バルブシート(61A)を移動させる必要がないので、アクチュエータ(100B、100C)は構成を簡素化することができる。
【0082】
12)幾つかの実施形態では、上記11)に記載のレシプロ圧縮機(10B、10C)であって、
前記背面部材(65B,65C)は、前記気筒(40)の径方向に対して傾斜する傾斜面(77)を含み、
前記アクチュエータ(100B、100C)は、前記傾斜面(77)に対向して当接する対向傾斜面(29)を有し、前記径方向に沿って移動して前記背面部材(65B,65C)を前記軸線方向に移動させるように構成される移動部材(20B、20C)を含む。
【0083】
上記12)の構成によれば、移動部材(20B、20C)が径方向に移動することに伴い対向傾斜面(29)が当接傾斜面(77)に対して摺動するだけで、背面部材(65B,65C)の軸線方向に沿った移動が実現する。よって、アクチュエータ(100B、100C)を簡素化することができる。
【0084】
13)幾つかの実施形態では、上記12)に記載のレシプロ圧縮機(10B、10C)であって、
前記移動部材(20B、20C)は、前記気筒(40)の周方向に沿って複数配置される。
【0085】
上記13)の構成によれば、背面部材(65B,65C)の移動が複数の移動部材(20B、20C)によって行われるので、背面部材(65B,65C)をより安定的に移動させることができる。
【符号の説明】
【0086】
10 :レシプロ圧縮機
20 :移動部材
29 :対向傾斜面
40 :気筒
47 :フランジ
60 :可動部
61 :吸入バルブシート
63 :吸入バルブ
65 :背面部材
67 :吸入バルブガイド面
77 :傾斜面
100 :アクチュエータ
130 :カムリング
135 :カム面
140 :直動部材
150 :駆動源
170 :ガイド
172A :第2案内孔(案内孔)
Sc :シリンダ室

図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8