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特開2023-91628電極、電気化学素子、電極の処理方法、電極の製造方法、電極の製造装置、絶縁層、及び絶縁層の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091628
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】電極、電気化学素子、電極の処理方法、電極の製造方法、電極の製造装置、絶縁層、及び絶縁層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20230623BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20230623BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230623BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20230623BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230623BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/02 Z
H01M4/62 Z
H01M4/04 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206455
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】齋賀 拓也
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】松岡 康司
(72)【発明者】
【氏名】座間 優
(72)【発明者】
【氏名】大村 知也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA14
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA09
5H050DA13
5H050EA12
5H050EA21
5H050FA04
5H050GA13
5H050GA18
5H050GA22
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA11
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】電極上の絶縁層の強度と、容量維持率を両立させることが可能な電極を提供する。
【解決手段】電極基体と、前記電極基体の上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の上に設けられた絶縁層と、を有し、前記絶縁層が、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む、電極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基体と、
前記電極基体の上に設けられた電極合材層と、
前記電極合材層の上に設けられた絶縁層と、を有し、
前記絶縁層が、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む、電極。
【請求項2】
前記化合物は、分子内の2つ以上の末端に水酸基を有する、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記化合物は、有機化合物である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記化合物は、少なくとも一つの末端に一般式(1)で表される構造を有する、請求項1乃至3の何れか一項に記載の電極。
-O-C-OH・・・(1)
【請求項5】
前記化合物の分子量は200以上である、請求項1乃至4の何れか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記電解質はヘキサフルオロリン酸を含む、請求項1乃至5の何れか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記無機酸化物は酸化アルミニウムである、請求項1乃至6の何れか一項に記載の電極。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の電極を有する電気化学素子。
【請求項9】
電極基体と、前記電極基体の上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の上に設けられた絶縁層と、を有し、前記絶縁層が、無機酸化物、及び末端に水酸基を有する化合物を含む電極を、電解液、及び非水溶媒を含む処理液で処理する、電極の処理方法。
【請求項10】
前記電極を前記処理液に含浸させる、請求項9に記載の電極の処理方法。
【請求項11】
前記電極を前記処理液に含浸させた状態で、前記電極と、前記電極とは異なる電極とを、隔離層を介して対極させ、2.0V以上の電圧を印加する、請求項9又は10に記載の電極の処理方法。
【請求項12】
前記処理液の電解質濃度は、0.7mol/L以上である、請求項9乃至11の何れか一項に記載の電極の処理方法。
【請求項13】
電極基体と、前記電極基体の上に設けられた電極合材層と、を有する電極素子の、前記電極合材層の上に、無機酸化物と末端に水酸基を有する化合物とを含有する絶縁層形成用液体組成物を塗布し絶縁層を設ける絶縁層形成工程と、
前記絶縁層形成工程で得られた前記絶縁層が形成された電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理する処理工程と、を有する電極の製造方法。
【請求項14】
前記絶縁層形成工程はインクジェット法により行われる、請求項13に記載の電極の製造方法。
【請求項15】
電極基体と、前記電極基体の上に設けられた電極合材層と、を備える電極素子の、前記電極合材層の上に、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む絶縁層を設ける絶縁層形成部と、
前記絶縁層形成部で前記絶縁層が設けられた電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理する処理部と、を有する電極の製造装置。
【請求項16】
電極基体と、前記電極基体の上に設けられた電極合材層と、を有する電極素子の前記電極合材層の上に設けられ、
無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む、電極用絶縁層。
【請求項17】
電極基体と、前記電極基体の上に設けられた電極合材層と、を有する電極素子の前記電極合材層の上に、無機酸化物と末端に水酸基を有する化合物とを含有する絶縁層形成用液体組成物を塗布し絶縁層を設ける絶縁層形成工程と、
前記絶縁層形成工程で得られた前記絶縁層が形成された電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理する処理工程と、を有する電極用絶縁層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、電気化学素子、電極の処理方法、電極の製造方法、電極の製造装置、絶縁層、及び絶縁層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子の高出力化、高容量化に伴い、蓄えられたエネルギーが起こす安全上の問題が課題となっている。例えば、電池の経時劣化や外部からの衝撃によって電池内部に欠陥や破損部位が発生し、発煙や発火する事例がある。
【0003】
電気化学素子の構造として、二次電池等の蓄電素子に用いられる正極と負極からなる各電極は、金属箔などの電極基体上に電極合材層が形成されている。そして、正極と負極の接触を防ぐため、正極-負極間にリチウムイオン透過性のセパレータが設けられている。このセパレータとしては、主に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂製の多孔性フィルムが使用されている。
【0004】
しかし、樹脂製のセパレータは、耐熱性が低く、正極-負極間の短絡が生じた際などに発生する熱により、セパレータが収縮又は溶融して短絡箇所が拡大しやすい。その結果、大きな電流が発生することで熱がさらに発生するというように、加速度的に異常加熱が発生して電池の発煙や発火に至るおそれがある。
【0005】
そこで、電極合材層の表面に電極活物質とは異なる材料としてセラミックス粉末粒子を用いて多孔性の絶縁層(以下、絶縁層と略記する)を設ける技術が開示知られている。このような技術では、短絡の広がりを穏やかにして発熱を防ぎ、セパレータの収縮や劣化から保護することが可能になる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、セラミックス粉末粒子等の無機酸化物粒子により形成された絶縁層は、安全性の観点から、剥離強度の点で改善の余地がある。これに対して、電極合材層の表面に、無機酸化物粒子と樹脂バインダーとを含む絶縁層を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、無機酸化物粒子の剥離を抑制するためには、粒子どうしを結着させるために多くの樹脂バインダーを添加しなければならない。樹脂バインダーを多く添加すると、電池内でリチウムイオンの移動を阻害したり、絶縁層の孔が塞がれたりして、電気化学素子の入出力特性やサイクル寿命である容量維持率が低下する懸念がある。
【0008】
本発明の課題は、電極上の絶縁層の強度と、容量維持率を両立させることが可能な電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、電極基体と、前記電極基体の上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の上に設けられた絶縁層と、を有し、前記絶縁層が、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む、電極である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、電極上の絶縁層の強度と、容量維持率を両立させることが可能な電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電極の一部を示す模式図である。
図2】電極の一例を示す模式図である。
図3図2の電極の断面を示す模式図である。
図4】電極の製造装置の一例を示す模式図である。
図5】電極の製造装置の一例を示す模式図である。
図6】本実施形態の電気化学素子の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<電極>
以下、本発明の実施の形態について、説明する。図1は、本実施形態に係る電極の一部を示す模式図であり、図2図3は、本実施形態に係る電極の一例を示す模式図である。本実施形態に係る電極5は、電極基体1、電極合材層2、及び絶縁層3を有する。
【0013】
<<電極基体>>
電極基体1を構成する材料としては、導電性材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。電極基体1としては、正極基体、負極基体がある。
【0014】
正極基体を構成する材料としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタル等が挙げられる。これらの中でも、ステンレススチール、アルミニウムが好ましい。
【0015】
負極基体を構成する材料としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅などが挙げられる。これらの中でも、ステンレススチール、銅が好ましい。
【0016】
電極基体1の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、電極基体の形状が薄い箔状であると、電極基体の表面と裏面の両方に電極活物質を塗布して電極化するだけでなく、複数の電極を積層して電池容量を増加させることができるため好ましい。
【0017】
<<電極合材層>>
電極合材層2は、電極基体1の上に設けられる。電極合材層2は、電極基体1上に活物質を含むスラリー状の電極合材液を塗布することによりを形成することができる。本実施形態では、電極基体1に電極合材層2が設けられ、電極素子4が形成される(図1)。電極合材液は、活物質、分散媒を含み、必要に応じて導電助剤、分散剤等を含んでいてもよい。
【0018】
活物質としては、正極活物質又は負極活物質を用いることができる。なお、正極活物質又は負極活物質は、単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0019】
正極活物質としては、アルカリ金属イオンを挿入又は放出することが可能であれば、特に制限はないが、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
【0020】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選択される一種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物が挙げられる。
【0021】
リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等が挙げられる。
【0022】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO四面体(X=P,S,As,Mo,W,Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、サイクル寿命の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。
【0023】
なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0024】
例えば、アルカリ金属含有遷移金属化合物として、LiNiCoMn(x+y+z=1)であるリチウムNi複合酸化物、LiMe(PO(0.5≦x≦4、Me=遷移金属、0.5≦y≦2.5、0.5≦x≦3.5)を基本骨格とするリチウムリン酸系材料等を用いることができる。
【0025】
LiNiCoMn(x+y+z=1)であるリチウムNi複合酸化物としては、例えば、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.2Mn等が挙げられる。
【0026】
LiMe(PO(0.5≦x≦4、Me=遷移金属、0.5≦y≦2.5、0.5≦x≦3.5)を基本骨格とするリチウムリン酸系材料としては、例えば、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO)、オリビン鉄(LiFePO)、オリビンマンガン(LiMnPO)、オリビンコバルト(LiCoPO)、オリビンニッケル(LiNiPO)、オリビンバナジウム(LiVOPO)、及びこれらを基本骨格とし、異種元素をドープした類似化合物などが挙げられる。
【0027】
負極活物質としては、アルカリ金属イオンを挿入又は放出することが可能であれば、特に制限はないが、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を用いることができる。
【0028】
炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス等の黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、非晶質カーボン等が挙げられる。これらの中でも、人造グラファイト、天然グラファイト、非晶質カーボンが特に好ましい。
【0029】
また、非水系蓄電素子のエネルギー密度の点から、負極活物質として、ケイ素、スズ、Si合金、スズ合金、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化スズ等の高容量材料を用いてもよい。
【0030】
分散媒としては、例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、シクロヘキサノン、酢酸ブチル、メシチレン、2-n-ブトキシメタノール、2-ジメチルエタノール、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0031】
導電助剤としては、例えば、ファーネス法、アセチレン法、ガス化法等により製造されている導電性カーボンブラックや、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛粒子等の炭素材料を用いることができる。炭素材料以外の導電助剤としては、例えば、アルミニウム等の金属粒子、金属繊維を用いることができる。なお、導電助剤は、予め活物質と複合化されていてもよい。
【0032】
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸系分散剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系分散剤、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系分散剤、ポリエーテル系分散剤、ポリアルキレンポリアミン系分散剤等の高分子分散剤、アルキルスルホン酸系分散剤、四級アンモニウム塩系分散剤、高級アルコールアルキレンオキシド系分散剤、多価アルコールエステル系分散剤、アルキルポリアミン系分散剤等の界面活性剤、ポリリン酸塩系分散剤等の無機型分散剤などが挙げられる。
【0033】
<<絶縁層>>
絶縁層3は、電極合材層2の上に設けられる。絶縁層3は、末端に水酸基を有する化合物及び無機酸化物粒子を含む絶縁層を形成するための液体組成物(以下、絶縁層形成用液体組成物又は絶縁層用液体組成物という)を電極合材層2上に塗布して形成する。本実施形態では、電極素子4上に絶縁層3が形成され、電極5が形成される(図2図3)。
【0034】
絶縁層用液体組成物は、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含み、必要に応じて溶媒、分散剤等を含む。
【0035】
無機酸化物は、無機酸化物粒子で構成されている。無機酸化物粒子は、電気的に絶縁性の高い金属酸化物等が挙げられる。
【0036】
金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、チタン酸バリウム、二酸化ジルコニウム、酸化ニッケル、酸化マンガン、二酸化バナジウム、二酸化ケイ素、ゼオライトなどの鉱物資源由来物質、またはこれらの人造物等が挙げられる。中でも、電気抵抗の大きさや安定性の観点から、酸化アルミニウム、二酸化チタンが好ましく、酸化アルミニウムがより好ましい。
【0037】
これらの無機酸化物粒子は、単独で使用してもよく、二種以上を目的に応じて併用することもできる。
【0038】
酸化アルミニウムの市販品は、例えば、高純度アルミナとして住友化学社製のAKP-15、AKP-20、AKP-30、AKP-50、AKP-53、AKP-700、AKP-3000、AA-03、AA-04、AA-05、AA-07、AKP-G07、AKP-G15、大明化学工業社製のTM-DA、TM-DAR、及びTM-5Dなどが挙げられる。
【0039】
無機酸化物粒子の体積平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。ここで、体積平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算が50%での平均一次粒子径(D50)を示す。
【0040】
無機酸化物粒子の体積平均粒径がこのような範囲であると、絶縁層における無機酸化物粒子の充填率を増加させることができる。その結果、無機酸化物粒子同士の接点が多くなり、絶縁層の強度が増加することができる。ここで、無機酸化物粒子同士の接点は、無機酸化物粒子と無機酸化物の接点であってもよく、それらの間にバインダーを挟んだ場合の接点であってもよい。
【0041】
絶縁層用液体組成物における無機酸化物の含有量は、薄く均一な絶縁層を形成する観点から、15質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0042】
末端に水酸基を有する化合物は、分子構造の端部や高分子の主鎖または側鎖の官能基の最端部に1つ以上の水酸基(-OH)を有する化合物である。絶縁層用液体組成物に溶解する化合物から適宜選択し、添加することで、絶縁層における無機酸化物粒子間の結着剤として機能し、強度を増大させる。このとき、水酸基(-OH)は、ヒドロキシ基としての水酸基であってもよく、カルボキシル基などの官能基に含まれる水酸基であってもよい。
【0043】
また、電極合材層に対する絶縁層の結着性を増大させる観点から、末端に水酸基を有する化合物は、分子内の2つ以上の末端に水酸基を有する化合物であることが好ましく、末端が水酸基の鎖状構造を有するポリオール系化合物等の有機化合物であることがさらに好ましい。
【0044】
さらに、絶縁層の結着性を向上させるため、末端に水酸基を有する化合物の末端の構造が、一般式(1)で表される構造(n=2以上)を有するブロック共重合体であることが好ましく、一般式(2)で表される構造であることがさらに好ましい。
-(O-C-O)-H・・・(1)
-O-C-OH・・・(2)
【0045】
ポリオール系化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリブタジエンポリオール、(メタ)アクリルポリオール、ポリシロキサンポリオール等が挙げられる。
【0046】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、ポリブチレンオキシド、ポリヘキサメチレンオキシド等のオキシアルキレン構造含有化合物などが挙げられる。
【0047】
ポリエーテルポリオールのオキシアルキレン繰り返し構造としては、無機酸化物粒子の結着性が増加するためポリエチレンオキシドからなる構造を含むことが好ましい。ポリエチレンオキシドが含まれると結着性が良好であり、電池特性への影響が比較的小さいため好適である。
【0048】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物、環状エステルの開環重合物などが挙げられる。
【0049】
ここで、多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、トリメチレングリコール、1,4-テトラメチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-テトラメチレンジオール、2-メチル-1,3-トリメチレンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタメチレンジオール、水添ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、グリセリン等が挙げられる。
【0050】
また、多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸などが挙げられる。
【0051】
また、環状エステルとしては、例えば、プロピオラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0052】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、多価アルコールとホスゲンとの反応物;炭酸エステル(アルキレンカーボネート)と多価アルコールとのエステル交換反応物などが挙げられる。
【0053】
ここで、多価アルコールとしては、上述した低分子量のジオール等が挙げられる。
【0054】
また、アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート及びジフェニルカーボネートなどが挙げられる。
【0055】
なお、ポリカーボネートポリオールは、分子内にカーボネート結合を有し、末端がヒドロキシル基である化合物であればよく、カーボネート結合とともにエステル結合を有していてもよい。
【0056】
ポリオレフィンポリオールとしては、飽和炭化水素骨格としてエチレン、プロピレン等のホモポリマーまたはコポリマーを有し、その分子の末端に水酸基を有するものが挙げられる。
【0057】
ポリブタジエンポリオールとしては、炭化水素骨格としてブタジエンの共重合体を有し、その分子末端に水酸基を有するものが挙げられる。ポリブタジエンポリオールは、その構造中に含まれるエチレン性不飽和基の全部または一部が水素化された水添化ポリブタジエンポリオールであってもよい。
【0058】
(メタ)アクリルポリオールとしては、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体の分子内にヒドロキシル基を少なくとも2つ有しているものが挙げられる。
【0059】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0060】
ポリシロキサンポリオールとしては、例えば、主鎖にジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサンなどを有し、両末端をヒドロキシル基に変性させたポリオール等が挙げられる。
【0061】
末端に水酸基を有する化合物は、単独で使用してもよく、二種以上を選択して併用してもよい。また、末端に水酸基を有する化合物は、二種以上のランダムまたはブロック共重合体を用いてもよく、市販品を用いてもよい。
【0062】
末端に水酸基を有する化合物の市販品は、例えば、ポリカーボネートジオールとして旭化成社製のT5652、T5650J、T5650E、G4672、T4671、宇部興産社製のETERNACOLL(登録商標)UH-50、UH-100、UH-200、PH-50、PH-100、及びPH-200、両末端水酸基ポリブタジエンとして日本曹達社製のG-1000、G-2000、及びG-3000、両末端水酸基水素化ポリブタジエンとして日本曹達社製のGI-1000、GI-2000、及びGI-3000、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとして花王社製のエマルゲン(登録商標)PP-290、三洋化成工業社製のニューポール(登録商標)PE、日油社製のプロノン(登録商標)#104、プロノン#202B、及びプロノン#204、第一工業製薬社製のエパン(登録商標)410、エパン420、エパン450、エパン485、エパン680、エパン710、エパン720、エパン740、エパン750、エパン785、エパンU-103、エパンU-105、及びエパンU-108、ポリブチレングリコールとして日油社製のユニオール(登録商標)PB-500、及びPB-700、末端変性ポリジメチルシロキサンとしてGelest社製のDMS-C15、DMS-C16、DMS-C21、DMS-C23、A-B-AトリブロックコポリマーとしてGelest社製の[A=エチレンオキサイド、B=ジメチルシロキサン]DBE-C25、[A=プロピレンオキサイド、B=ジメチルシロキサン]DBP-C22などが挙げられる。
【0063】
末端に水酸基を有する化合物の分子量は、絶縁層における無機酸化物粒子どうしの結着性が大きくなり、絶縁層の強度が増加する観点から、200以上が好ましく、400以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましく、2000以上がさらに好ましい。
【0064】
末端に水酸基を有する化合物の添加量は、無機酸化物粒子に対して0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、0.7質量%以上5質量%以下がより好ましい。0.5質量%以上では、無機酸化物粒子の結着性が大きくなり絶縁層の強度が増加し、10質量%以下では、絶縁層の多孔質が塞がることなくイオン透過性が維持されるため、サイクル寿命やサイクル特性が向上する。
【0065】
電解質としては、特に限定されない。電解質を構成するカチオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。電気化学素子の寿命や絶縁層の強度の増加が大きいことから、リチウムイオンが好ましい。
【0066】
電解質としては、フッ素含有アニオンからなる強酸のアルカリ金属塩が好ましく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CFSOLi)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Li[(CFSON])、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(Li[(CSON])等が挙げられる。
【0067】
これらの電解質は、単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が、絶縁層の強度を増加させる観点から好ましい。なお、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)による絶縁層の強度の増加は、末端水酸基を有する化合物に対するLiPFの反応性に起因すると考えられる。
【0068】
絶縁層用液体組成物に用いる溶媒としては、無機酸化物粒子を分散させることが可能であれば、特に限定されないが、水、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒を用いることができる。
【0069】
溶媒の具体例としては、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、乳酸エチル、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、ジアセトンアルコール、イソプロピルアルコール、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸ブチル、イソプロピルグリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、へキシレングリコール、1-プロポキシ-2-プロパノール、2-ピロリドン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0070】
分散剤は、特に限定されないが、無機酸化物を溶媒中に均一に分散させる観点から、界面活性剤や吸着基を有する高分子化合物などの分散剤を用いることが好ましい。
【0071】
分散剤の市販品としては、例えば、DIC社製のメガファック(登録商標)F173、メガファックF444、及びメガファックF470、日油社製のマリアリム(登録商標)AAB-0851、マリアリムAFB-1521、マリアリムAKM-0531、マリアリムAWS-0851、マリアリムHKM-50A、マリアリムSC-0708A、マリアリムSC-0505K、マリアリムSC-1015F、BYK-Chemie社製のディスパーBYK103、及びディスパーBYK2000等が挙げられる。
【0072】
絶縁層用液体組成物は、その他に必要に応じて増粘剤、界面活性剤、防腐剤、防黴剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0073】
また、例えば、後述するインクジェット法により本実施形態の絶縁層用液体組成物を吐出しようとした場合の吐出性の観点から、絶縁層用液体組成物の粘度は、5.0mPa・s以上30mPa・s以下の範囲であることが好ましく、表面張力は15~40mN/mの範囲であることが好ましい。
【0074】
絶縁層用液体組成物の製造方法としては、特に限定されないが、無機酸化物粒子が溶媒中に均一に分散されていることが好ましい。例えば、無機酸化物粒子を溶媒A中に加え、分散機を使用して分散液を得た後、分散液に末端水酸基を有する化合物およびその他添加剤を溶解させた溶媒Bを加えて希釈することにより、製造することができる。溶媒Aと溶媒Bは同じ溶媒を用いてもよく、異なるものを用いてもよい。
【0075】
分散液の製造方法として、溶媒、無機酸化物粒子、分散剤を予備撹拌した後、分散機にて行う。分散機のとしては、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル、ビーズミル、キャビテーションミル等を目的に応じて用いることができる。
【0076】
本実施形態の電極では、上述のように、電極合材層の上に設けられた絶縁層が、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含むことで、電極合材層に対する絶縁層の結着性が向上し、電極に設けられた絶縁層の剥離強度を向上させることができる。また、本実施形態の電極では、該電極を電気化学素子に用いることで、電気化学素子の高い充放電容量を維持することができる。
【0077】
<電極用絶縁層>
本実施形態の電極用絶縁層は、電極基体1と、電極基体1の上に設けられた電極合材層2と、を有する電極素子4の電極合材層2の上に設けられ、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む。本実施形態の電極用絶縁層は、上述の本実施形態に係る電極を構成する絶縁層3に対応する(図1図3参照)。
【0078】
すなわち、本実施形態の電極用絶縁層は、電極合材層の上に設けられ、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む絶縁層を構成することができる。
【0079】
これにより、本実施形態の電極用絶縁層は、電極合材層に対する絶縁層としての結着性が向上し、電極に設けられた絶縁層の剥離強度を向上させることができる。また、本実施形態の電極用絶縁層が電極合材層の上に設けられた電極は、該電極を電気化学素子に用いることで、電気化学素子の高い充放電容量を維持することができる。
【0080】
<電極の製造方法および電極の処理方法>
本実施形態に係る電極の製造方法は、電極基体上に電極合材層を形成する工程(以下、電極合材層形成工程という)、絶縁層を形成する工程(以下、絶縁層形成工程という)、絶縁層の処理工程(以下、処理工程という)を含む。
【0081】
また、本実施形態に係る電極の処理方法は、電極基体と、電極基体の上に設けられた電極合材層と、電極合材層の上に設けられた絶縁層と、を有し、絶縁層が、無機酸化物、及び末端に水酸基を有する化合物を含む電極を、電解液、及び非水溶媒を含む処理液で処理する。本実施形態に係る電極の処理方法は、電極の製造方法を構成する処理工程に対応する。
【0082】
<<電極合材層形成工程>>
電極合材層形成工程では、電極基体の上に電極合材層が設けられる。具体的には、正極を製造する場合は、正極基体に電極合材層用液体組成物(正極合材層用液体組成物)を塗布して、正極基体上に正極合材層を形成する。負極を製造する場合は、負極基体に電極合材層用液体組成物(負極合材層用液体組成物)を塗布して、負極基体上に正極合材層を形成する。
【0083】
電極合材層用液体組成物の塗布方法として、例えば、コンマコータ方式、ダイコータ方式、カーテンコート方式、スプレーコート方式、液体吐出方式(インクジェット法、IJ法)等を用いることができる。
【0084】
電極合材層用液体組成物塗布した後、溶媒を乾燥させるために加熱機構を設けてもよい。
【0085】
加熱機構としては、特に制限はないが、例えば、抵抗加熱ヒーター、赤外線ヒーター、ファンヒーター等で塗工面を加熱する方法、ホットプレート、ドラムヒーターなど塗工面の裏側から乾燥させる方法が挙げられる。塗工面を均一に加熱乾燥する観点から、塗工面を非接触で乾燥可能な抵抗加熱ヒーター、赤外線ヒーター、ファンヒーターが好ましい。これらの加熱機構は、一種を使用してもよく、二種以上を目的に応じて併用してもよい。
【0086】
加熱温度には特に制限はないが、電極基体や電極合材層の活物質を保護する観点から70℃以上150℃以下の範囲であることが好ましい。
【0087】
電極合材層が負極合材層の場合、負極合材層の平均厚さは、10~450μmであることが好ましく、20~100μmであることがより好ましい。負極合材層の平均厚さが10μm以上であると、電気化学素子のエネルギー密度が向上し、450μm以下であると、電気化学素子のサイクル特性が向上する。
【0088】
電極合材層が正極合材層の場合、正極合材層の平均厚さは、10~300μmであることが好ましく、40~150μmであることがより好ましい。正極合材層の平均厚さが20μm以上であると、電気化学素子のエネルギー密度が向上し、300μm以下であると、電気化学素子の負荷特性が向上する。
【0089】
電極合材層は、電極基体(正極基体及び/又は負極基体)の両面に形成されてもよい。
【0090】
なお、電極の充放電容量を増やすために電極を多重積層してもよい。正極や負極の積層数には特に制限はなく、必要に応じて増やすことができる。
【0091】
<<絶縁層形成工程>>
絶縁層形成工程では、電極合材層の上に、無機酸化物と末端に水酸基を有する化合物とを含有する絶縁層形成用液体組成物を塗布し絶縁層を設ける。具体的には、正極を製造する場合は、正極合材層上に絶縁層用液体組成物を塗布する。負極を製造する場合は、負極合材層上に絶縁層用液体組成物を塗布する。
【0092】
絶縁層用液体組成物の塗布方法として、例えば、コンマコータ方式、ダイコータ方式、カーテンコート方式、スプレーコート方式、液体吐出方式(インクジェット法、IJ法)等を用いることができる。これらの中でも、電極合材層に非接触かつオンデマンドで塗布可能なインクジェット法等の液体吐出方式が好ましい。
【0093】
絶縁層は、電極合材層における電極基体側の面と対向する面の90%以上を被覆していることが好ましい。このような範囲とすることで、電極に良好な絶縁性をもたせることができる。
【0094】
また、絶縁層は電極合材層における電極基体側の面と対向する面の90%以上であって、100%よりも小さい範囲を被覆していることがより好ましい。このような範囲とすることで、電極に良好な絶縁性をもたせつつ、高い出力及び/又は容量維持率を有する電気化学素子を実現することができる。
【0095】
絶縁層用液体組成物を塗布した後、溶媒を乾燥させるために加熱機構を設けてもよい。
【0096】
加熱機構としては、特に制限はないが、上述の電極合材層形成工程の例と同様のヒーターから、一種類または二種類以上を目的に応じ選択して使用してもよい。
【0097】
加熱温度には特に制限はないが、70℃以上150℃以下の範囲であることが好ましい。70℃以上では絶縁層の加熱により強度が増加するため好ましく、150℃以下では絶縁層表面の突沸由来の気泡を防ぐため好ましい。
【0098】
その後、電極合材層と絶縁層が形成された電極基体は、打ち抜き加工等により所望の大きさに切断されて、電極となる。
【0099】
なお、絶縁層は、電極合材層(正極合材層及び/又は負極合材層)の両面に形成されてもよい。
【0100】
<<処理工程>>
処理工程では、絶縁層形成工程で得られた絶縁層が形成された電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理する。具体的には、絶縁層が形成された電極を、電解質を含有する非水溶媒(以下、処理液という)に含浸させる。
【0101】
本実施形態に係る電極の処理方法(処理工程)では、電極を処理液で処理することで、絶縁層に残存した湿潤液等の成分を非水溶媒で置換し、絶縁層を高強度化することができる。また、本実施形態では、絶縁層が形成された電極を、処理液に含浸させるだけで、電極を処理液で処理することができるため、絶縁層の高強度化が容易である。
【0102】
処理工程における処理としては含浸の他、スプレーコート法等による塗布で行ってもよい。処理液は、電池素子に使用する電解液と同じ組成の液体を用いてもよい。また、後述の電気化学素子を組み立ててから処理工程を実施することもできる。具体的には、後述のように電極素子が電解質とともに外装により封止された状態の電気化学素子に電圧を印加してもよい。
【0103】
加えて、処理工程では処理液に含浸等を行った状態で、電極に電圧を印加すると、末端に水酸基を有する化合物および電解質により、絶縁層の無機酸化物粒子の結着性が増加し、高強度化するため好ましい。電極は、後述するセパレータ(隔離層)を介して導電性の電極(対向電極)を対極させ、電圧を印加する。
【0104】
印加電圧は、好ましくは2.0V以上であり、より好ましくは3.0V以上である。印加電圧が2.0V以上であると、絶縁層の強度増加が十分に進行するため好ましい。
【0105】
<<処理液>>
絶縁層の処理液は、非水溶媒、電解質を含む溶液である。
【0106】
<<非水溶媒>>
非水溶媒としては、電解質が可溶であれば特に制限はないが、非プロトン性有機溶媒を用いることが好ましい。
【0107】
非プロトン性有機溶媒としては、鎖状カーボネート、環状カーボネート等のカーボネート系有機溶媒を用いることができる。これらの中でも、電解質塩の溶解力が高い点から、鎖状カーボネートを含むことが好ましい。
【0108】
鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等が挙げられ、環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等が挙げられる。
【0109】
カーボネート系有機溶媒以外の非水溶媒としては、例えば、環状エステル、鎖状エステル等のエステル系有機溶媒、環状エーテル、鎖状エーテル等のエーテル系有機溶媒等を用いることができる。
【0110】
環状エステルとしては、例えば、γ-ブチロラクトン(γBL)、2-メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0111】
鎖状エステルとしては、例えば、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル(例えば、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル)、ギ酸アルキルエステル(例えば、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル)等が挙げられる。
【0112】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン等が挙げられる。
【0113】
鎖状エーテルとしては、例えば、1,2-ジメトシキエタン(DME)、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
【0114】
非水溶媒中の鎖状カーボネートの含有量は、50質量%以上であることが好ましい。
【0115】
非水溶媒中の鎖状カーボネートの含有量が50質量%以上であると、鎖状カーボネート以外の非水溶媒が誘電率の高い環状物質(例えば、環状カーボネート、環状エステル)であっても、環状物質の含有量が少なくなる。このため、2M以上の高濃度の電解質の溶液を作製した場合でも、低粘度に抑えることが可能であり、絶縁層への浸透性やイオン拡散性が良好となる。
【0116】
<<電解質>>
電解質としては、イオン伝導度が高く、非水溶媒に溶解することが可能であれば、特に制限はない。
【0117】
電解質を構成するカチオンとしては、上述の電極を構成する絶縁層に含まれる電解質と同様にリチウムイオン等が挙げられ、これらの中でも、電気化学素子の寿命や絶縁層の強度の増加が大きい観点から、リチウムイオンが好ましい。
【0118】
電解質としては、上述の電極を構成する絶縁層に含まれる電解質と同様にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)等が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよく、これらの中でもヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が好ましい。
【0119】
処理液の電解質の濃度は、0.7mol/L以上であることが好ましい。処理液の電解質の濃度は、0.7mol/L以上であると、絶縁層の強度が増加するのに十分な量の電解質を絶縁層中に含めることができる。
【0120】
<<添加剤>>
処理液は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等が挙げられる。添加剤を含むことにより、複合電極のサイクル寿命が改善するため好ましい。
【0121】
本実施形態に係る電極の製造方法では、上述のように、絶縁層形成工程を有することで、電極基体の上に設けられた電極合材層を備える電極素子の該電極合材層の上に、絶縁層形成用液体組成物が塗布され、絶縁層を設けることができる。さらに、該電極の製造方法では、処理工程を有することで、絶縁層形成工程で絶縁層が形成された電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理することができる。
【0122】
これにより、本実施形態に係る電極の製造方法では、電極合材層の上に、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む絶縁層を設けることができる。このようにして得られた電極は、電極合材層に対する絶縁層の結着性が向上し、電極に設けられた絶縁層の剥離強度を向上させることができる。また、このような電極を電気化学素子に用いることで、電気化学素子の高い充放電容量を維持することができる。
【0123】
<電極用絶縁層の製造方法>
本実施形態の電極用絶縁層の製造方法は、電極基体と、電極基体の上に設けられた電極合材層と、を有する電極素子の電極合材層の上に、無機酸化物と末端に水酸基を有する化合物とを含有する絶縁層形成用液体組成物を塗布し絶縁層を設ける絶縁層形成工程と、絶縁層形成工程で得られた絶縁層が形成された電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理する処理工程と、を有する。
【0124】
電極用絶縁層の製造方法における絶縁層形成工程は、上述の電極の製造方法を構成する絶縁層形成工程に対応する。また、電極用絶縁層の製造方法における処理工程は、上述の電極の製造方法を構成する処理工程に対応する。
【0125】
本実施形態に係る電極用絶縁層の製造方法では、上述のように、絶縁層形成工程を有することで、電極基体の上に設けられた電極合材層を備える電極素子の該電極合材層の上に、絶縁層形成用液体組成物が塗布され、絶縁層を設けることができる。さらに、該電極用絶縁層の製造方法では、処理工程を有することで、絶縁層形成工程で絶縁層が形成された電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理することができる。
【0126】
これにより、本実施形態に係る電極用絶縁層の製造方法では、電極合材層の上に、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む絶縁層を設けることができる。このようにして得られた絶縁層は、電極合材層に対する結着性が向上し、電極に用いることで絶縁層の剥離強度を向上させることができる。また、このような絶縁層を備える電極を電気化学素子に用いることで電気化学素子の高い充放電容量を維持することができる。
【0127】
<電極の製造装置>
図4図5は、電極の製造装置を示す模式図である。本実施形態に係る電極の製造装置は、電極基体と、電極基体の上に設けられた電極合材層と、を備える電極素子の、電極合材層の上に、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む絶縁層を設ける絶縁層形成部と、絶縁層形成部で絶縁層が設けられた電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理する処理部と、を有する。電極の製造装置では、上述の電極用絶縁層の製造方法が実施される。
【0128】
図4に示す例では、電極として負極10を製造する。図4に示す電極の製造装置は、液体吐出装置300を構成し、負極基体11上に負極合材層12が設けられた電極素子14に絶縁層形成用液体組成物13Aを吐出する。絶縁層形成用液体組成物13Aは、タンク307に貯蔵されており、タンク307からチューブ308を経由して液体吐出ヘッド306に供給される(図4)。
【0129】
また、液体吐出装置300は、絶縁層形成用液体組成物13Aが液体吐出ヘッド306から吐出されていない際に、乾燥を防ぐため、液体吐出ヘッド306のノズル(図示せず)をキャップする機構が設けられていてもよい。
【0130】
負極10を製造する際には、加熱することが可能なステージ400上に、電極素子14を設置した後、電極素子14に絶縁層形成用液体組成物13Aの液滴を吐出した後に、加熱する。このとき、ステージ400が移動してもよく、液体吐出ヘッド306が移動してもよい。
【0131】
また、電極素子14に吐出され絶縁層形成用液体組成物13Aを加熱する際には、ステージ400により加熱してもよいし、ステージ400以外の加熱機構により加熱してもよい。
【0132】
加熱機構としては、絶縁層形成用液体組成物13Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、上述のヒータが用いられる。
【0133】
加熱温度は、分散媒を揮発させることが可能な温度であれば、特に制限はなく、消費電力の点から、70~150℃の範囲であることが好ましい。
【0134】
また、電極素子14に吐出された絶縁層形成用液体組成物13Aを加熱する際に、紫外光を照射してもよい。
【0135】
これにより、電極素子14に絶縁層13が形成された電極(負極)15が得られる(図4)。
【0136】
なお、本実施形態では、予め負極基体11上に負極合材層12が設けられた電極素子14に絶縁層13を形成する例を示したが、絶縁層13を形成する電極素子14は、図4に示す装置と同じラインで、負極基体11に負極合材層12を形成したものを用いてもよい。
【0137】
図4に示す液体吐出装置300は、本実施形態に係る電極の製造装置を構成する絶縁層形成部の一例である。
【0138】
図5では、液体吐出装置300で絶縁層13が形成された電極(負極10)にセパレータ(隔離層)30を介して導電性の電極(正極20)を対極させて電気化学素子100を構成する。一方、液浴6に上述の処理液(非水溶媒、電解質を含む溶液)を溜め、これに電気化学素子100を浸漬する。この状態で、電気化学素子100に電圧を印加する。これにより、絶縁層が処理液で処理された電極(負極10)が得られる。
【0139】
図5に示す液浴6の処理液に浸漬した電気化学素子100に電圧を印加する構成は、本実施形態に係る電極の製造装置を構成する処理工程の一例である。
【0140】
なお、本実施形態では、電極の製造装置として、図4に示す構成と図5に示す構成を別個に設けたが、各構成を同じ装置内に設けてもよい。
【0141】
本実施形態に係る電極の製造装置では、上述のように、絶縁層形成部を有することで、電極基体の上に設けられた電極合材層を備える電極素子の該電極合材層の上に、絶縁層形成用液体組成物が塗布され、絶縁層を設けることができる。さらに、該電極の製造装置では、処理部を有することで、絶縁層形成部で得られた絶縁層が形成された電極を、電解液及び非水溶媒を含む処理液で処理することができる。
【0142】
これにより、本実施形態に係る電極の製造装置では、電極合材層の上に、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む絶縁層を設けることができる。このようにして得られた電極は、電極合材層に対する絶縁層の結着性が向上し、電極に設けられた絶縁層の剥離強度を向上させることができる。また、このような電極を電気化学素子に用いることで、電気化学素子の高い充放電容量を維持することができる。
【0143】
<電気化学素子>
図5は、本実施形態の電気化学素子の一例を示す模式図である。本実施形態の電気化学素子は、上述の電極を有する。
【0144】
電極を用いた電気化学素子の形状としては、特に制限はなく、例えば、平形の電極を積層したラミネートタイプ、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。
【0145】
電気化学素子100は、積層電極40に、非水電解質で構成される電解質層51が形成されており、外装52により封止されている。電気化学素子100において、引き出し線41及び42は、外装52の外部に引き出されている。
【0146】
積層電極40は、負極15と正極25が、セパレータ30を介して、積層されている。ここで、正極25は、負極15の両側に積層されている。また、負極基体11には、引き出し線41が接続されており、正極基体21には、引き出し線42が接続されている。
【0147】
負極15は、負極基体11の両面に、負極合材層12及び絶縁層13が順次形成されている。
【0148】
正極25は、正極基体21の両面に、正極合材層22が形成されている。
【0149】
積層電極40の負極15の個数と正極25の個数は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0150】
電気化学素子100は、必要に応じて、その他の部材を有してもよい。
【0151】
<非水電解質>
非水電解質としては、例えば、非水電解液を使用することができる。ここで、非水電解液とは、電解質塩が非水溶媒に溶解している電解液である。
【0152】
非水電解液に使用する非水溶媒としては、特に制限はないが、処理液と同様に非プロトン性有機溶媒等から適宜選択して使用することが出来る。
【0153】
<電解質塩>
電解質塩としては、イオン伝導度が高く、非水溶媒に溶解することが可能であれば、特に制限はない。
【0154】
電解質塩を構成するカチオンとしては、例えば、リチウムイオン等が挙げられる。
【0155】
アルカリ金属塩を構成するアニオンとしては、ハロゲン原子を含むことが好ましく、例えば、BF-、PF-、AsF-、CFSO-、(CFSON-、(CSON-等が挙げられる。
【0156】
アルカリ金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0157】
非水電解液中の電解質塩の濃度は、目的に応じて適宜選択することができるが、1mol/L以上4mol/L以下であることが好ましい。
【0158】
<電気化学素子の用途>
電気化学素子の用途としては、特に制限はなく、例えば、ラップトップパソコン、スマートデバイス、電子ブックプレーヤー、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等が挙げられる。
【0159】
本実施形態の電極化学素子では、上述のように、本実施形態の電極を有することで、本実施形態の電極と同様の効果が得られる。本実施形態の電極化学素子では、構成する電極の電極合材層に対する絶縁層の結着性が向上し、電極に設けられた絶縁層の剥離強度を向上させることができる。また、本実施形態の電気化学素子では、高い充放電容量を維持することができる。
【実施例0160】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例によって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0161】
[実施例1]
<負極の作製>
コンマコータを用いて、負極基体としての、銅箔の両面に、負極活物質SCMG-XRs(昭和電工社製)、水及び樹脂を混錬して得た負極合材層用スラリーを塗布した後、乾燥させて、負極合材層を形成した。その後、ロールプレス装置を使用して負極合材層に線圧100kN/mの圧力を加え、負極を作成した。
【0162】
<正極の作製>
コンマコータを用いて、正極基体としての、アルミニウム箔の両面に、正極活物質ニッケル酸リチウム503H(JFEミネラル社製)、N-メチルピロリドン及び樹脂を混錬して得た正極合材層用スラリーを塗布した後、乾燥させて、正極合材層を形成した。その後、ロールプレス装置を使用して正極合材層に線圧100kN/mの圧力を加え、正極を作成した。
【0163】
<絶縁層用液体組成物の調製>
ガラス容器に乳酸エチル38.8部、マリアリムSC-0708A(日油社製)0.8部からなる混合液を撹拌しながら、アルミナ粉末AKP-3000(住友化学社製)40部を加えた。
【0164】
十分に撹拌した後、ジルコニアビーズを加え、ボールミルにて72時間以上分散処理を行い、アルミナ分散液を得た。別のガラス容器にエパン740(第一工業製薬社製)0.4部、乳酸エチル10部、ヘキシレングリコール10.5部を加えてベース液とした。
【0165】
得られたベース液を撹拌しながら、アルミナ分散液を少量ずつ投入、十分に撹拌した後に5μmのメンブレンフィルターにて粗大粒子を除去し、実施例1の絶縁層用液体組成物を得た。
【0166】
表1に絶縁層用液体組成物の調製に使用した末端に水酸基を有する化合物を記載した。また、調製に使用した分散剤、無機酸化物粒子は下記の通りである。
【0167】
<無機酸化物粒子用分散剤>
・マリアリムSC-0708A(日油社製)
・マリアリムAAB-0851(日油社製)
・マリアリムSC-0505K(日油社製)
・マリアリムAKM-0531(日油社製)
・マリアリムSC-1015F(日油社製)
・マリアリムHKM-50A(日油社製)
・マリアリムHKM-150A(日油社製)
【0168】
<無機酸化物粒子>
・F-10(昭和電工社製):酸化チタン微粒子
・TZ-3YS(東ソー社製):ジルコニア微粒子
【0169】
<絶縁層の作成>
液体吐出装置EV2500(リコー社製)及び液体吐出ヘッドMH5421F(リコー社製)を用いて、絶縁層用液体組成物を電極合材層上に吐出して、絶縁層を形成し複合電極を得た。絶縁層の目付け量は1.0mg/cmとなるようにIJヘッドからの吐出量を調整した。
【0170】
<処理液の調製>
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを重量比で1:1:1となるように混合した非水溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.5mol/L、ビニレンカーボネート1.0%となるよう溶解させて実施例1の処理液を得た。
【0171】
<絶縁層の処理>
調製した処理液を容器に入れ、絶縁層を形成した複合電極を処理液に含浸した。また、複合電極が正極合材層を備えている場合はセパレータを介して対向電極の負極を、複合電極が負極合材層を備えている場合はセパレータを介して対向電極の正極をそれぞれ配置し、複合電極の電極基体部分にあるリード線に電源装置を接続して電圧を印加した(図5参照)。
【0172】
<リチウムイオン二次電池(電気化学素子)の作製>
正極の引き出し線と負極の引き出し線が重ならない状態で、厚さ16μmのセルロース製セパレータを介して、3個の正極と4個の負極を交互に積層し、電極素子を得た。次に、アルミニウムラミネートシート間に、電極素子を挟んだ後、注液口を残してラミネーターで周囲を封止し、袋状の外装を形成した。次に、非水電解液LBG-00015(キシダ化学社製)を外装内に注入した後、注液口部分を脱気シーラーで封止して実施例1の電気化学素子を得た(図6参照)。
【0173】
[実施例2~7]
実施例1の電気化学素子の作製例において、絶縁層用液体組成物の添加化合物を表2の材料に置き換える以外は同様にして実施例2~7の電気化学素子を作成した。
【0174】
[実施例8~12]
実施例1の電気化学素子の作製例において、絶縁層用液体組成物の無機酸化物粒子用分散剤を表2の材料に置き換える以外は同様にして実施例8~12の電気化学素子を作成した。
【0175】
[実施例13]
実施例12の電気化学素子の作製例において、絶縁層の塗工基材を負極から正極に置き換える以外は同様にして実施例13の電気化学素子を作成した。
【0176】
[実施例14~15]
実施例1の電気化学素子の作製例において、処理工程の電圧を表2の条件に置き換える以外は同様にして実施例14~15の電気化学素子を作成した。
【0177】
[実施例16~23]
実施例1の電気化学素子の作製例において、絶縁層用液体組成物の添加化合物を表2の材料に置き換える以外は同様にして実施例16~23の電気化学素子を作成した。
【0178】
[実施例24]
実施例1の電気化学素子の作製例において、処理液のヘキサフルオロリン酸リチウムをテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)に置き換える以外は同様にして実施例24の電気化学素子を作成した。
【0179】
[実施例25~26]
実施例1の電気化学素子の作製例において、処理工程のヘキサフルオロリン酸リチウム濃度を表2の条件に置き換える以外は同様にして実施例25~26の電気化学素子を作成した。
【0180】
[実施例27~28]
実施例1の電気化学素子の作製例において、絶縁層用液体組成物の無機酸化物粒子を表2の材料に置き換える以外は同様にして実施例27~28の電気化学素子を作成した。
【0181】
[実施例29~30]
実施例1の電気化学素子の作製例において、絶縁層用液体組成物の無機酸化物粒子用分散剤を表2の材料に置き換える以外は同様にして実施例29~30の電気化学素子を作成した。
【0182】
[比較例1~4]
実施例1の電気化学素子の作製例において、絶縁層用液体組成物の添加化合物を表2の材料に置き換える以外は同様にして比較例1~4の電気化学素子を作成した。
【0183】
[比較例5]
実施例1の電気化学素子の作製例において、処理工程を行わない以外は同様にして比較例5の電気化学素子を作成した。
【0184】
[比較例6]
実施例1の電気化学素子の作製例において、処理液にヘキサフルオロリン酸リチウムを添加しない以外は同様にして比較例6の電気化学素子を作成した。
【0185】
<電極の評価>
電極の評価として、絶縁層の剥離強度、作成した電気化学素子のサイクル寿命を評価した。評価結果を表1に示す。
【0186】
[絶縁層の剥離強度]
絶縁層に処理を行った複合電極をジメチルカーボネートに含浸して洗浄し、ドラフトチャンバーにて48時間風乾した後、25℃にて真空乾燥を行い、電極に浸透した溶媒を除去した。
【0187】
乾燥した複合電極をSUS板に両面テープ(日東電工製、No.5000NS)で固定し、絶縁層にセロハンテープ(日東電工製、セロハンテープNo.29、幅18mm)を貼り付け、ハンドローラーで垂直に圧力をかけて、絶縁層とセロハンテープを密着させた。
【0188】
次いで、粘着・被膜剥離解析装置(協和界面科学製、VPA-3S)を使用し、セロハンテープを試料に対して90°で剥離することで絶縁層―活物質層間の剥離力を測定した。試験速度は30mm/分で剥離した。測定は3回行い、剥離力Nをセロハンテープの幅mmで除した値の平均値を剥離強度N/mとし、以下の基準で剥離強度を評価した。評価はAが最も優れた結果を示し、C以上は良好と評価した。
【0189】
[絶縁層の剥離強度の評価基準]
A:剥離強度が150N/m以上
B:剥離強度が80N/m以上150N/m未満
C:剥離強度が30N/m以上80N/m未満
D:剥離強度が30N/m未満
【0190】
[初期容量測定]
電気化学素子の正極引き出し線と負極引き出し線とを、充放電試験装置に接続し、最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で定電流定電圧充電し、充電完了後、40℃の恒温槽で5日間静置した。その後、電流レート0.2Cで2.5Vまで定電流放電させた。その後、最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で定電流定電圧充電し、10分の休止を挟んで、電流レート0.2Cで2.5Vまで定電流放電させた。このときの放電容量を初期容量とした。
【0191】
[電池寿命評価試験]
初期容量を測定した電気化学素子の正極引き出し線と負極引き出し線とを、充放電試験装置に接続し、最大電圧4.2V、電流レート1C、3時間で定電流定電圧充電し、充電完了後、電流レート1Cで2.5Vまで定電流放電させた。
【0192】
10分の休止を挟んで、これを1000サイクル繰り返した。サイクル完了後、最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で定電流定電圧充電し、充電完了後、10分の休止を挟んで、電流レート0.2Cで2.5Vまで定電流放電させた。このときの放電容量をサイクル後放電容量とし、サイクル容量維持率(サイクル後放電容量/初期放電容量×100)を算出し、以下の基準で電池寿命を評価した。評価はAが最も優れた結果を示し、C以上は良好と評価した。
【0193】
[電気化学素子の寿命評価の評価基準]
A:サイクル容量維持率が80%以上
B:サイクル容量維持率が70%以上80%未満
C:サイクル容量維持率が60%以上70%未満
D:サイクル容量維持率が60%未満
【0194】
【表1】
【0195】
【表2】
【0196】
表1より、電極基体と、電極基体の上に設けられた電極合材層と、電極合材層の上に設けられた絶縁層と、を有し、絶縁層が、無機酸化物、末端に水酸基を有する化合物、及び電解質を含む、電極を用いたリチウムイオン二次電池では、剥離強度、電池寿命が何れも良好であった(実施例1~30)。
【0197】
これに対して、絶縁層が、末端に水酸基を有する化合物を含まないリチウムイオン二次電池比較例では、剥離強度、電池寿命の少なくとも一方が不良であった(比較例1~6)。
【0198】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0199】
1 電極基体
2 電極合材層
3 絶縁層
4 電極素子
5 電極
6 液浴
7 処理液
11 負極基体
12 負極合材層
13 絶縁層
13A 絶縁層形成用液体組成物
15 負極
21 正極基体
22 正極合材層
25 正極
30 セパレータ
40 積層電極
41、42 引き出し線
51 電解質層
52 外装
100 電気化学素子
300 液体吐出装置
400 ステージ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0200】
【特許文献1】特開2000-277386号公報
【特許文献2】特許第3953026号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6