(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091761
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】送信装置、受信装置、学習装置、無線伝送システム及び学習プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/0456 20170101AFI20230623BHJP
【FI】
H04B7/0456 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200042
(22)【出願日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2021206138
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省、「次世代映像素材伝送の実現に向けた高効率周波数利用技術に関する研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001106
【氏名又は名称】弁理士法人キュリーズ
(72)【発明者】
【氏名】牧野 仁宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】横澤 真介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 史人
(72)【発明者】
【氏名】中川 孝之
(57)【要約】
【課題】 ウェイトパラメータの劣化を適切に抑制することを可能とする送信装置、受信装置、学習装置、送信方法、受信方法及び学習方法を提供する。
【解決手段】 送信装置は、送信装置と受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータを抽出する抽出部と、前記第1パラメータを学習モデルに入力することによって、前記第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部と、前記第2パラメータに基づいて、前記受信装置に対する信号の送信処理を実行する送信処理部と、を備え、前記学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って受信装置に信号を送信する送信装置であって、
前記受信装置からのフィードバックパラメータとして、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータを抽出する抽出部と、
前記第1パラメータを学習モデルに入力することによって、前記第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部と、
前記第2パラメータに基づいて、前記受信装置に対する信号の送信処理を実行する送信処理部と、を備え、
前記学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される、送信装置。
【請求項2】
前記劣化要因は、前記第1パラメータの量子化劣化、前記第1パラメータの制御遅延劣化、前記第1パラメータの推定誤差劣化の中から選択された1以上の要因を含む、請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記劣化補償部は、前記第1学習パラメータと前記第2学習パラメータとの相関関係の学習によって得られる学習ベクトルと前記第1パラメータとの内積を演算する、請求項1に記載の送信装置。
【請求項4】
前記劣化補償部は、前記送信ウェイト行列を構成する要素毎に前記学習ベクトルからサポートベクトルを抽出し、前記サポートベクトルに対応する重みを前記学習ベクトルと前記第1パラメータとの内積に乗算する、請求項3に記載の送信装置。
【請求項5】
前記劣化補償部は、前記学習ベクトルに対応する重みを前記学習ベクトルと前記第1パラメータとの内積に乗算する、請求項3に記載の送信装置。
【請求項6】
MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って送信装置から信号を受信する受信装置であって、
前記送信装置に対するフィードバックパラメータとして、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータを生成する生成部と、
前記第1パラメータを学習モデルに入力することによって、前記第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部と、
前記第2パラメータに基づいて、前記送信装置から受信する信号の受信処理を実行する受信処理部と、を備え、
前記学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される、受信装置。
【請求項7】
前記劣化要因は、前記第1パラメータの量子化劣化、前記第1パラメータの制御遅延劣化、前記第1パラメータの推定誤差劣化の中から選択された1以上の要因を含む、請求項6に記載の受信装置。
【請求項8】
前記劣化補償部は、前記第1学習パラメータと前記第2学習パラメータとの相関関係の学習によって得られる学習ベクトルと前記第1パラメータとの内積を演算する、請求項6に記載の受信装置。
【請求項9】
前記劣化補償部は、前記送信ウェイト行列を構成する要素毎に前記学習ベクトルからサポートベクトルを抽出し、前記サポートベクトルに対応する重みを前記学習ベクトルと前記第1パラメータとの内積に乗算する、請求項8に記載の受信装置。
【請求項10】
前記劣化補償部は、前記学習ベクトルに対応する重みを前記学習ベクトルと前記第1パラメータとの内積に乗算する、請求項8に記載の受信装置。
【請求項11】
MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って送信装置から受信装置に信号を送信するシステムで用いる学習装置であって、
予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって学習モデルを生成する学習部を備え、
前記学習モデルは、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータに関する劣化の補償に用いられる、学習装置。
【請求項12】
前記劣化要因は、前記第1パラメータの量子化劣化、前記第1パラメータの制御遅延劣化、前記第1パラメータの推定誤差劣化の中から選択された1以上の要因を含む、請求項11に記載の学習装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項5の少なくともいずれか1項に記載の送信装置と、請求項6乃至請求項10の少なくともいずれか1項に記載の受信装置と、を備える、無線伝送システム。
【請求項14】
MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って送信装置から受信装置に信号を送信するシステムで用いる学習プログラムであって、コンピュータに、
予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって学習モデルを生成するステップを実行させ、
前記学習モデルは、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータに関する劣化の補償に用いられる、学習プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置、受信装置、学習装置、無線伝送システム及び学習プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
第1装置(例えば、移動局に設置されるFPU; Field Pickup Unit)から第2装置(例えば、放送局に設置されるFPU)に対してデジタル信号を無線で送信するデジタル無線伝送システムが知られている。デジタル無線伝送システムにおいて、固有モード伝送方式(SVD-MIMO(Time Division Duplex-Singular Value Decomposition-Multiple-Input Multiple-Output)、E-SDM(Eigenbeam-Space Division Multiplexing)の検討が進められている。固有モード伝送方式では、第2装置から第1装置に対して、送信ウェイト行列に関するパラメータ(以下、ウェイトパラメータ)などの伝送パラメータをフィードバックすることによって、固有モードの数と対応する独立伝送路を用いた伝送が実現される。独立伝送路は、等価的に直交するSISO(Single-Input Single-Output)伝送路を意味する(例えば、特許文献1、非特許文献1)。さらに、第2装置から第1装置に対して、MCS(Modulation and Coding Scheme)に関するパラメータ(以下、MCSパラメータ)などをフィードバックする適応制御によって、第1装置から第2装置への伝送を大容量かつ安定的に実行することができる。
【0003】
ところで、第2装置は、第1装置から受信する信号に基づいて伝搬路行列を推定し、推定された伝搬路行列に特異値分解(SVD)を適用することによって、特異値によって構成される対角行列(以下、特異値行列)を特定する。第2装置は、伝搬路行列及び特異値行列に基づいて、第1装置にフィードバックする送信ウェイト行列を特定する。第2装置は、特異値対角行列に基づいて換算変調エラー率(以下、換算MER(Modulation Error Ratio)を計算するとともに、換算MERに基づいて、第1装置にフィードバックするMCS(MCSパラメータ)を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「超高精細度テレビジョン放送番組素材伝送用可搬形マイクロ波帯OFDM方式デジタル無線伝送システム」 標準規格 ARIB STD-B75 1.0版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者等は、鋭意検討の結果、ウェイトパラメータの量子化劣化、制御遅延劣化、推定誤差劣化などの劣化要因が生じるため、送信ウェイト行列(受信ウェイト行列)が劣化し、第1装置から第2装置への伝送品質が劣化することを見出した。
【0007】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、送信ウェイト行列(受信ウェイト行列)の劣化を適切に抑制し、伝送品質の向上を図ることを可能とする送信装置、受信装置、学習装置、無線伝送システム及び学習プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の一態様は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って受信装置に信号を送信する送信装置であって、前記受信装置からのフィードバックパラメータとして、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータを抽出する抽出部と、前記第1パラメータを学習モデルに入力することによって、前記第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部と、前記第2パラメータに基づいて、前記受信装置に対する信号の送信処理を実行する送信処理部と、を備え、前記学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される、送信装置である。
【0009】
開示の一態様は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って送信装置から信号を受信する受信装置であって、前記送信装置に対するフィードバックパラメータとして、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータを生成する生成部と、前記第1パラメータを学習モデルに入力することによって、前記第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部と、前記第2パラメータに基づいて、前記送信装置から受信する信号の受信処理を実行する受信処理部と、を備え、前記学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される、受信装置である。
【0010】
開示の一態様は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って送信装置から受信装置に信号を送信するシステムで用いる学習装置であって、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって学習モデルを生成する学習部を備え、前記学習モデルは、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータに関する劣化の補償に用いられる、学習装置である。
【0011】
開示の一態様は、上述した送信装置と、上述した受信装置と、を備える、無線伝送システムである。
【0012】
開示の一態様は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って送信装置から受信装置に信号を送信するシステムで用いる学習プログラムであって、コンピュータに、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって学習モデルを生成するステップを実行させ、前記学習モデルは、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータに関する劣化の補償に用いられる、学習プログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、送信ウェイト行列(受信ウェイト行列)の劣化を適切に抑制し、伝送品質の向上を図ることを可能とする送信装置、受信装置、学習装置、無線伝送システム及び学習プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態に係るデジタル無線伝送システム10を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る学習装置300を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る送信装置100を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る劣化補償部105を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る受信装置200を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る劣化補償部203を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る受信装置200を示す図である。
【
図8】
図8は、変更例1の比較例に係る劣化補償を説明するための図である。
【
図9】
図9は、変更例1の比較例に係る劣化補償を説明するための図である。
【
図10】
図10は、変更例1のオプション1に係る劣化補償を説明するための図である。
【
図11】
図11は、変更例1のオプション2に係る劣化補償を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0016】
したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0017】
[開示の概要]
開示の概要に係る送信装置は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って受信装置に信号を送信する送信装置であって、前記受信装置からのフィードバックパラメータとして、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータを抽出する抽出部と、前記第1パラメータを学習モデルに入力することによって、前記第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部と、前記第2パラメータに基づいて、前記受信装置に対する信号の送信処理を実行する送信処理部と、を備え、前記学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される。
【0018】
開示の概要に係る受信装置は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って送信装置から信号を受信する受信装置であって、前記送信装置に対するフィードバックパラメータとして、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータを生成する生成部と、前記第1パラメータを学習モデルに入力することによって、前記第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部と、前記第2パラメータに基づいて、前記送信装置から受信する信号の受信処理を実行する受信処理部と、を備え、前記学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される。
【0019】
開示の概要に係る学習装置は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式に従って送信装置から受信装置に信号を送信するシステムで用いる学習装置であって、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって学習モデルを生成する学習部を備え、前記学習モデルは、前記送信装置と前記受信装置との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータに関する劣化の補償に用いられる。
【0020】
開示の概要は、上述した送信装置に関する送信方法であってもよく、上述した受信装置に関する受信方法であってもよく、上述した学習方法に関する学習方法であってもよい。開示の概要は、上述した送信装置に関する送信プログラムであってもよく、上述した受信装置に関する受信プログラムであってもよく、上述した学習プログラムに関する学習プログラムであってもよい。開示の概要は、上述した送信装置及び受信装置を備える無線伝送システムであってもよい。
【0021】
開示の概要によれば、「予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって学習モデル」を新たに導入することによって、受信装置から送信装置にフィードバックされる第1パラメータ(すなわち、ウェイトパラメータ)に関する劣化を適切に補償することができる。従って、送信ウェイト行列(受信ウェイト行列)の劣化を適切に抑制し、送信装置から受信装置への伝送品質の向上を図ることができる。
【0022】
[実施形態]
(デジタル無線伝送システム)
以下において、実施形態に係るデジタル無線伝送システムについて説明する。
図1は、実施形態に係るデジタル無線伝送システム10を示す図である。
図1に示すように、デジタル無線伝送システムは、送信装置100及び受信装置200を備える。
【0023】
実施形態において、デジタル無線伝送システムは、4K8K放送番組素材の無線伝送に対応するシステムである。送信装置100は、移動局に設置されるFPU(Field Pickup Unit)であってもよく、受信装置200は、放送局又は基地局に設置されるFPUであってもよい。
【0024】
ここで、送信装置100は、N本のアンテナを有しており、受信装置200は、M本のアンテナを有する。デジタル無線伝送システム10では、N×MのMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式が適用される。
【0025】
デジタル無線伝送システム10で採用される方式は、固有モード伝送方式(SVD-MIMO(Time Division Duplex-Singular Value Decomposition-Multiple-Input Multiple-Output)、E-SDM(Eigenbeam-Space Division Multiplexing)が適用される。固有モード伝送方式では、伝搬路行列の特異値分解(SVD)によって、固有モードに対応するk本の独立伝送路を用いた伝送が実現される。kは、k=min(N,M)で表されてもよい。
【0026】
以下においては、受信装置200から送信装置100に対して、MCS(Modulation and Coding Scheme)に関するパラメータ(以下、MCSパラメータ)及び送信ウェイト行列に関するパラメータ(以下、ウェイトパラメータ)などの伝送パラメータ(以下、FBパラメータ)をフィードバックする動作について主として説明する。従って、このような動作以外の動作については、その説明を省略する。
【0027】
実施形態では、FBパラメータに含まれるウェイトパラメータ(以下、第1パラメータ)は、送信装置100及び受信装置200において学習モデルを用いて補償される。すなわち、送信装置100及び受信装置200は、第1パラメータを学習モデルに入力することによって、第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する。
【0028】
学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列を特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される。劣化要因は、第1パラメータの量子化劣化、第1パラメータの制御遅延劣化、第1パラメータの推定誤差劣化の中から選択された1以上の要因を含んでもよい。
【0029】
(学習装置)
以下において、実施形態に係る学習装置について説明する。
図2は、実施形態に係る学習装置300を示すブロック図である。特に限定されるものではないが、4×4 SVD-MIMOの環境が想定されてもよい。但し、受信アンテナの数及び送信アンテナの数は、4×4に限定されず、他のアンテナの数の組合せに適用されてもよい。
【0030】
図2に示すように、学習装置300は、生成部301と、変換部303と、変換部305と、学習部307と、を有する。
【0031】
生成部301は、学習パラメータを生成する。具体的には、生成部301は、以下に示す手順で学習パラメータを生成してもよい。
【0032】
第1に、生成部301は、フェージング行列及び相関行列を生成する。
【0033】
フェージング行列としては、実数部分及び虚数部分を正規分布で発生されたレイリー分布の行列を用いてもよい。フェージング行列は、移動局の移動速度を考慮した到来角一様分布(Jakes)を用いてもよく、移動局の移動速度を考慮した測定データを用いてもよい。
【0034】
相関行列は、送信アンテナが等間隔で配置され、受信アンテナが等間隔で配置された環境が想定されてもよい。相関行列は、互いに離れたアンテナの相関が減衰するように生成されてもよい。互いに隣接するアンテナの相関値は、0.0-1.0の範囲の一様分布で与えられてもよい。このような構成によれば、様々な相関に対応可能な学習データを生成することが可能である。但し、互いに隣接するアンテナの相関値は、正規分布で与えられてもよく、正規分布以外の他の分布で与えられてもよく、固定値で与えられてもよい。
【0035】
第2に、生成部301は、フェージング行列及び相関行列に基づいて伝搬路行列Hを生成する。伝搬路行列は、以下の式によって表されてもよい。
【0036】
【0037】
第3に、生成部301は、伝搬路行列Hに特異値分解(SVD)を適用することによって理想的な送信ウェイト行列Vを特定する。理想的な送信ウェイト行列Vは、以下の式によって表されてもよい。
【0038】
【0039】
第4に、生成部301は、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列V’を生成する。劣化要因は、FBパラメータに含まれる第1パラメータについて想定される要因である。劣化要因は、第1パラメータの量子化劣化を含んでもよい。第1パラメータの量子化劣化は、理想的な送信ウェイト行列Vを構成する要素の実数部分及び虚数部分の各々が3bitに量子化されることに伴って生じる劣化であってもよい。劣化要因は、第1パラメータの制御遅延劣化を含んでもよく、第1パラメータの推定誤差劣化を含んでもよい。すなわち、劣化要因は、第1パラメータの量子化劣化、第1パラメータの制御遅延劣化、第1パラメータの推定誤差劣化の中から選択された1以上の要因を含んでもよい。
【0040】
第5に、生成部301は、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列V’を変換部303に出力する。生成部301は、理想的な送信ウェイト行列Vを変換部305に出力する。
【0041】
変換部303は、送信ウェイト行列V’が複素行列であるため、送信ウェイト行列V’を学習で用いることが可能な実数ベクトルv’re.に変換する。実数ベクトルv’re.は、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列V’を特定するための第1学習パラメータの一例であると考えてもよい。変換部305は、第1学習パラメータ(実数ベクトルv’re.)を学習部307に出力する。実数ベクトルv’re.は、以下のように表現されてもよい。前半の16要素が実数部分に相当する値であり、後半の16要素が虚数部分に相当する値であってもよい。
【0042】
【0043】
変換部305は、送信ウェイト行列Vが複素行列であるため、送信ウェイト行列Vを学習で用いることが可能な実数ベクトルvre.に変換する。実数ベクトルvre.は、理想的な送信ウェイト行列Vを特定するための第2学習パラメータの一例であると考えてもよい。変換部305は、第2学習パラメータ(実数ベクトルvre.)を学習部307に出力する。実数ベクトルvre.は、以下のように表現されてもよい。前半の16要素が実数部分に相当する値であり、後半の16要素が虚数部分に相当する値であってもよい。
【0044】
【0045】
学習部307は、第1学習パラメータと第2学習パラメータとの相関関係の学習によって学習モデルを生成する学習部を構成する。学習は、回帰学習であってもよい。特に限定されるものではないが、回帰学習は、SVR(Support Vector Regression)であってもよい。回帰学習は、中間層を用いるFFNN(Feedforward Neural Network)、RNN(Recurrent Neural Network)などであってもよい。なお、FFNNやRNNなどのニューラルネットワーク(NNs)が学習で用いられる場合には、静止モードで学習が実行された後に、移動速度を考慮した学習が実行されてもよい(転移学習)。
【0046】
(送信装置)
以下において、実施形態に係る送信装置について説明する。
図3は、実施形態に係る送信装置100を示すブロック図である。
【0047】
図3に示すように、送信装置100は、抽出部101と、適応変調部103と、劣化補償部105と、送信部107と、を有する。
【0048】
抽出部101は、受信装置200から受信するFBパラメータを抽出する。上述したように、FBパラメータは、MCSパラメータ及びウェイトパラメータを含む。抽出部101は、MCSパラメータを適応変調部103に出力し、ウェイトパラメータを送信部107に出力する。
【0049】
MCSパラメータは、送信データに適用すべきMCSを特定するためのパラメータであればよい。MCSパラメータは、MSCを明示的に示すパラメータであってもよく、MCSを暗黙的に示すパラメータであってもよい。例えば、MCSパラメータは、固有モード毎に適用するMCSの組み合わせと対応付けられたインデックスであってもよい。このようなケースにおいて、固有モード毎に適用するMCSの組み合わせとインデックスとの対応付けは、送信装置100にとって既知である。
【0050】
ウェイトパラメータは、k本の独立伝送路に対応するkの固有モードを実現する固有ベクトルである。ウェイトパラメータは、行列によって表されるパラメータであり、送信ウェイト行列V’と称されてもよい。
【0051】
実施形態では、抽出部101は、送信装置100と受信装置200との間の推定伝搬路行列に特異値分解を適用することによって特定される送信ウェイト行列を特定するための第1パラメータを抽出する抽出部を構成する。
【0052】
適応変調部103は、MCSパラメータに基づいて、送信データに適用するMCSを特定する。適応変調部103は、特定されたMCSに基づいて、送信データの適応変調を実行する。適応変調部103は、変調後の信号x(シンボル系列x)を出力する。変調後の信号xは、送信ウェイト行列が適用される前のオリジナル信号xと称されてもよい。
【0053】
劣化補償部105は、第1パラメータによって特定される送信ウェイト行列V’の劣化が補償された送信ウェイト行列V”を取得する。劣化補償部105は、送信ウェイト行列V”を送信部107に出力する。
【0054】
実施形態では、劣化補償部105は、第1パラメータを学習モデルに入力することによって、第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部を構成する。第2パラメータは、劣化が補償された送信ウェイト行列V”を特定するためのパラメータである。
【0055】
学習モデルは、上述した学習装置300によって生成されるモデルである。すなわち、学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列V’を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列Vを特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される。
【0056】
具体的には、劣化補償部105は、
図4に示すように、変換部105Aと、出力部105Bと、変換部105Cと、を有する。
【0057】
変換部105Aは、送信ウェイト行列V’が複素行列であるため、送信ウェイト行列V’を学習モデルに入力可能な実数ベクトルv’re.に変換する。出力部105Bは、実数ベクトルv’re.を学習モデルに入力することによって、実数ベクトルv”re.を取得する。変換部105Aは、実数ベクトルv”re.を送信ウェイト行列V”に変換する。
【0058】
特に限定されるものではないが、送信ウェイト行列V’を構成する要素が第1パラメータの一例であると考えてもよく、実数ベクトルv’re.は、第1パラメータの一例であると考えてもよい。送信ウェイト行列V”を構成する要素が第2パラメータの一例であると考えてもよく、実数ベクトルv”re.は、第2パラメータの一例であると考えてもよい。
【0059】
送信部107は、送信ウェイト行列V”に基づいて、受信装置200に対する信号を送信する。具体的には、送信部107は、送信ウェイト行列V”にオリジナル信号xを乗算することによって送信信号V”xを生成する。送信部107は、MIMO方式に従って送信信号V”xを受信装置200に送信する。
【0060】
図3では省略しているが、送信データは、誤り訂正符号化及びインタリーブ処理が適用された後のデータであってもよい。誤り訂正符号としては、ターボ符号が用いられてもよく、LDPC(Low-Density Parity-check Code)が用いられてもよい。
【0061】
(受信装置)
以下において、実施形態に係る受信装置について説明する。
図5~
図7は、実施形態に係る受信装置200を示すブロック図である。
【0062】
第1に、送信装置100から送信される信号の受信に関する構成について説明する。
【0063】
図5に示すように、受信装置200は、受信部201と、劣化補償部203と、伝搬路推定部205と、補償部207と、復調部209と、を有する。
【0064】
受信部201は、MIMO方式に従って送信装置100から送信される信号を受信する。受信部201は、受信信号(
図5では、r
UL)を伝搬路推定部205及び補償部207に出力する。
【0065】
劣化補償部203は、送信装置100において劣化が補償された送信ウェイト行列V”が信号の送信に用いられるため、送信装置100と前提を揃えるために設けられた構成である。劣化補償部203は、送信装置100において送信ウェイト行列V”の生成で用いたと想定されるFBパラメータ(送信ウェイト行列V’)を送信ウェイト行列V”に変換する。劣化補償部203は、劣化が補償された送信ウェイト行列V”を伝搬路推定部205に出力する。
図5では、送信装置100において送信ウェイト行列V”の生成で用いたと想定されるFBパラメータ(送信ウェイト行列V’)として、前フレームの送信ウェイト行列V’が例示されている。
【0066】
実施形態では、劣化補償部203は、第1パラメータを学習モデルに入力することによって、第1パラメータに関する劣化が補償された第2パラメータを取得する劣化補償部を構成する。第2パラメータは、劣化が補償された送信ウェイト行列V”を特定するためのパラメータである。
【0067】
学習モデルは、上述した学習装置300によって生成されるモデルである。すなわち、学習モデルは、予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列V’を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列Vを特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって生成される。
【0068】
具体的には、劣化補償部203は、
図6に示すように、変換部203Aと、出力部203Bと、変換部203Cと、を有する。
【0069】
変換部203Aは、送信ウェイト行列V’が複素行列であるため、送信ウェイト行列V’を学習モデルに入力可能な実数ベクトルv’re.に変換する。出力部203Bは、実数ベクトルv’re.を学習モデルに入力することによって、実数ベクトルv”re.を取得する。変換部203Aは、実数ベクトルv”re.を送信ウェイト行列V”に変換する。
【0070】
特に限定されるものではないが、送信ウェイト行列V’を構成する要素が第1パラメータの一例であると考えてもよく、実数ベクトルv’re.は、第1パラメータの一例であると考えてもよい。送信ウェイト行列V”を構成する要素が第2パラメータの一例であると考えてもよく、実数ベクトルv”re.は、第2パラメータの一例であると考えてもよい。
【0071】
伝搬路推定部205は、既知のパイロットシンボルに基づいて、推定伝搬路行列Hを推定する。伝搬路推定部205は、推定伝搬路行列H及び送信ウェイト行列V”に基づいて、実効伝搬路行列H’を特定する。送信ウェイト行列V”は、送信装置100にフィードバック済みの送信ウェイト行列の劣化が補償された行列である。推定伝搬路行列H及び実効伝搬路行列H’は、以下の式によって表されてもよい。例えば、伝搬路推定部205は、HV”を補償部207に出力する。
【0072】
【0073】
補償部207は、受信ウェイト行列を計算するとともに、計算された受信ウェイト行列に基づいて、送信装置100から送信される信号(
図5では、r
UL)の補償を実行する。補償部207は、受信ウェイト行列によって補償された信号を復調部209に出力する。
【0074】
受信ウェイト行列は、MMSE(Minimum Mean Square Error)によって計算されてもよい。このようなケースにおいて、受信ウェイト行列は、以下に示す式によって表されてもよい。
【0075】
【0076】
受信ウェイト行列は、ZF(Zero Forcing)によって計算されてもよい。このようなケースにおいて、受信ウェイト行列は、以下に示す式によって表されてもよい。
【0077】
【0078】
復調部209は、受信ウェイト行列によって補償された信号の適応復調を実行する。MCSパラメータが送信装置100にフィードバックされる前提であるため、復調部209によってMCSは既知である。復調部209は、受信データを出力する。
【0079】
第2に、送信装置100に送信するFBパラメータの送信に関する構成について説明する。
【0080】
図7に示すように、受信装置200は、伝搬路推定部205に加えて、分解部211と、量子化部213と、計算部215と、決定部217と、生成部219と、を有する。
図7では、伝搬路推定部205は、推定伝搬路行列Hを出力する。
【0081】
分解部211は、送信装置100と受信装置200との間の推定伝搬路行列Hに特異値分解(SVD)を適用することによって送信ウェイト行列Vを特定する。特異値分解は、以下の式によって表すことができる。
【0082】
【0083】
なお、特異値分解を利用すると、受信信号y(例えば、上述したrUL)は、以下の式によって表すことができる。
【0084】
【0085】
量子化部213は、特異値分解によって得られた送信ウェイト行列Vを量子化することによって、量子化済み送信ウェイト行列V’を特定する。実施形態では、量子化済み送信ウェイト行列V’を単に送信ウェイト行列V’と称することもある。送信ウェイト行列V’を構成する各成分は、3bitの実数部分及び3bitの虚数部分によって表されてもよい。量子化部213は、送信ウェイト行列Vを生成部219に出力する。
【0086】
計算部215は、換算変調エラー率(以下、換算MER(Modulation Error Ratio)を計算する。計算部215は、固有モード毎に換算MERを計算してもよい。計算部215は、推定伝搬路行列Hの逆行列に基づいて換算MERを計算する。計算部215は、以下の式に従って換算MERを計算してもよい。
【0087】
【0088】
決定部217は、計算部215によって計算された換算MERに基づいて、送信装置100から送信される送信データに適用される適応変調方式(MCS)を決定する。決定部217は、固有モード毎にMCSを決定してもよい。決定部217は、決定されたMCSを特定する情報を生成部219に出力する。
【0089】
生成部219は、FBパラメータを生成する。FBパラメータは、量子化済み送信ウェイト行列V’に関するウェイトパラメータを含む。FBパラメータは、換算MERに基づいて決定されたMCSに関するMCSパラメータを含む。FBパラメータは、受信装置200から送信装置100に送信(フィードバック)される。
【0090】
(作用及び効果)
実施形態では、「予め定められた劣化要因が反映された送信ウェイト行列V’を特定するための第1学習パラメータと理想的な送信ウェイト行列Vを特定するための第2学習パラメータとの相関関係の学習によって学習モデル」を新たに導入することによって、受信装置200から送信装置100にフィードバックされる第1パラメータ(すなわち、ウェイトパラメータ)に関する劣化を適切に補償することができる。従って、送信ウェイト行列(受信ウェイト行列)の劣化を適切に抑制し、送信装置100から受信装置200への伝送品質の向上を図ることができる。
【0091】
[変更例1]
以下において、実施形態の変更例1について説明する。以下においては、実施形態に対する差異について主として説明する。
【0092】
具体的には、変更例1では、送信装置100の劣化補償部105及び受信装置200の劣化補償部203において、送信ウェイト行列V’から送信ウェイト行列V”を演算する処理の詳細について説明する。以下においては、説明の簡略化のため、送信ウェイト行列V’に対応する実数ベクトルv’re.をベクトルvk’と表し、送信ウェイト行列V”に相当する実数ベクトルv”re.をスカラー集合{vk”}と表す。
【0093】
変更例1では、SVR(Support Vector Regression)を用いることによって、ベクトルvk’からスカラー集合{vk”}を導出するケースについて説明する。SVR処理は、カーネル(例えば、polynomialカーネル)を使用して実行される。
【0094】
具体的には、送信ウェイト行列V’及び送信ウェイト行列V”が4×4の行列で表され、ベクトルv
k’及びスカラー集合{v
k”}が28の要素(16の実数部分及び12の虚数部分)を含むケースについて例示する。
図8に示すように、送信ウェイト行列V’をベクトルv
k’に変換する変換処理が適用され、ベクトルv
k’の要素の各々にSVR処理1~28を適用することによってスカラー集合{v
k”}が導出されえ、スカラー集合{v
k”}を送信ウェイト行列V”に変換する変換処理が適用される。例えば、SVR処理の各々において、スカラー集合{v
k”}は、以下に示す式によって導出される。
【0095】
【0096】
図9に示すように、ベクトルv
k’からスカラー集合{v
k”}を導出する一連の処理は、内積(28回)、λ乗算(1回)、3乗(3回)、α
k,i乗算(1回)、和算、出力の順に実行される。内積から和算までの処理は、サポートベクトル数Nに相当する回数に亘って実行される。内積から出力までの処理は、要素(実数部分及び虚数部分)の数(28)に相当する回数に亘って実行される。
【0097】
ここで、ベクトルvk’からスカラー集合{vk”}を導出する一連の処理の演算回数は、(28+1+3+1)×800×28=740,000回(以下、740K回)である。なお、和算については演算回数から除外している。例えば、送信ウェイト補償を108個のプリコーディングブロックに対して実施するケースでは、送信ウェイト補償の総演算回数は、740K×108≒80,000,000回(以下、80M回)である。80M回は、比較例に係る総演算回数であると考えてもよい。
【0098】
このように、送信ウェイト補償の総演算回数は膨大な回数となるため、送信ウェイト補償の処理負荷が高い。
【0099】
変更例1では、このような課題を解決するために、実施形態で説明した学習によって得られる学習ベクトル(v^train._i’)を用いる。なお、上述したサポートベクトル(v^sup._k,i)は、学習ベクトル(v^train._i’)から抽出される。言い換えると、サポートベクトル(v^sup._k,i)は、学習ベクトル(v^ train._i’)の部分集合である。
【0100】
特に限定されるものではないが、学習ベクトル(v^ train._i’)の数が4,000である場合に、サポートベクトル(v^sup._k,i)の数が800であってもよい。学習ベクトル(v^train._i’)の数が6,000である場合に、サポートベクトル(v^sup._k,i)の数が1,500であってもよい。学習ベクトル(v^train._i’)の数が10,000である場合に、サポートベクトル(v^sup._k,i)の数が2,500であってもよい。
【0101】
変更例1では、内積から3乗までの処理(以下、カーネル処理)において、サポートベクトル(v^sup._k,i)として学習ベクトル(v^train._i’)を用いる。サポートベクトル(v^sup._k,i)は、学習ベクトル(v^train._i’)の部分集合であると考えてもよい。カーネル処理は、学習ベクトル数N’(例えば、4,000)に相当する回数に亘って実行される。カーネル処理の結果は、以下の式によって表される。
【0102】
【0103】
このような前提下において、変更例1の動作例としては以下に示すオプションが考えられる。以下に示すオプションでは、カーネル処理以降の処理が異なっている。 第1に、動作例のオプション1について説明する。
【0104】
図10に示すように、オプション1では、カーネル処理において、サポートベクトル(v^sup._k,i)として学習ベクトル(v^train._i’)を用いる。
【0105】
カーネル処理以降の処理において、カーネル処理の結果の全体から、要素(実数部分及び虚数部分、すなわち、k)毎のカーネル処理の結果を抽出する処理(
図10では、抽象処理)が適用される。カーネル処理以降の処理では、要素(実数部分及び虚数部分)の各々について、k毎に抽出されたカーネル処理の結果が用いられる。
【0106】
なお、カーネル処理以降の処理は、抽出処理によってカーネル処理と連続で実行されないため、カーネル処理の結果の全体について抽出処理の前段においてメモリに保持する必要があり、メモリ負荷が増大する。
【0107】
オプション1において、ベクトルvk’からスカラー集合{vk”}を導出する一連の処理の演算回数は、{(28+1+3+1)×4,000}+{800×28}≒150,000回(以下、150K回)である。例えば、送信ウェイト補償を108個のプリコーディングブロックに対して実施するケースでは、送信ウェイト補償の総演算回数は、150K×108≒16,000,000(以下、16M回)である。すなわち、オプション1に係る総演算回数(16M回)は、比較例に係る総演算回数(80M回)と比べて約1/5であるため、送信ウェイト補償の総演算回数を抑制することができる。
【0108】
以上説明したように、オプション1では、カーネル処理において、サポートベクトル(v^sup._k,i)として学習ベクトル(v^train._i’)を用いるとともに、要素(実数部分及び虚数部分、すなわち、k)毎のカーネル処理の結果を抽出する抽出処理を採用することによって、メモリ負荷が増大するものの、送信ウェイト補償の総演算回数を抑制することができる。
【0109】
第2に、動作例のオプション2について説明する。
【0110】
図11に示すように、オプション2では、オプション1と同様に、カーネル処理において、サポートベクトル(v^sup._k,i)として学習ベクトル(v^train._i’)を用いる。
【0111】
カーネル処理以降の処理において、学習ベクトル(v^train._i’)がそのまま用いられる。従って、サポートベクトル(v^sup._k,i)の各々に対応する重みの集合{αk,i}に代えて、学習ベクトル(v^train._i’)の各々に対応する重みの集合{α’k,I’}が用いられる。
【0112】
このようなケースにおいて、サポートベクトル(v^sup._k,i)として抽出されないと想定される学習ベクトル(v^train._i’)に対応する要素の重みについては0が適用されてもよい。すなわち、重みの集合{α’k,I’}は以下のように表されてもよい。
【0113】
【0114】
すなわち、オプション2では、学習ベクトル(v^train._i’)及び重みの集合{α’k,I’}を用いることによって、スカラー集合{vk”}は、以下に示す式によって導出される。
【0115】
【0116】
オプション2において、ベクトルvk’からスカラー集合{vk”}を導出する一連の処理の演算回数は、{(28+1+3+1)×4,000}+{4,000×28}≒240,000回(以下、240K回)である。例えば、送信ウェイト補償を108個のプリコーディングブロックに対して実施するケースでは、送信ウェイト補償の総演算回数は、240K×108≒26,000,000(以下、26M回)である。すなわち、オプション2に係る総演算回数(26M回)は、比較例に係る総演算回数(80M回)と比べて約1/3であるため、送信ウェイト補償の総演算回数を抑制することができる。
【0117】
以上説明したように、オプション2では、カーネル処理において、サポートベクトル(v^sup._k,i)として学習ベクトル(v^train._i’)を用いるとともに、学習ベクトル(v^train._i’)の各々に対応する重みの集合{α’k,I’}を用いることによって、送信ウェイト補償の総演算回数を抑制することができる。オプション2では、抽出処理が不要であるため、メモリ負荷の増大も抑制することができる。
【0118】
ここで、変更例1に係る劣化補償部105及び劣化補償部203は、以下に示すように表現されてもよい。
【0119】
オプション1及びオプション2において、劣化補償部105及び劣化補償部203の少なくともいずれか1つは、第1学習パラメータと第2学習パラメータとの相関関係の学習によって得られる学習ベクトル(v^train._i’)と第1パラメータ(ベクトルvk’)との内積を演算する。すなわち、劣化補償部105及び劣化補償部203の少なくともいずれか1つは、学習ベクトル(v^train._i’)を用いてカーネル処理を実行する。
【0120】
オプション1において、劣化補償部105及び劣化補償部203の少なくともいずれか1つは、送信ウェイト行列V’を構成する要素(実数部分及び虚数部分)毎に学習ベクトル(v^train._i’)からサポートベクトル(v^sup._k,i)を抽出し、サポートベクトル(v^sup._k,i)に対応する重み(αk,i)を学習ベクトル(v^train._i’)と第1パラメータ(ベクトルvk’)との内積に乗算する。すなわち、劣化補償部105及び劣化補償部203の少なくともいずれか1つは、サポートベクトル(v^sup._k,i)を抽出した上で、カーネル処理以降の処理を実行する。
【0121】
オプション2において、劣化補償部105及び劣化補償部203の少なくともいずれか1つは、学習ベクトル(v^train._i’)に対応する重み(αk,I’)を学習ベクトル(v^train._i’)と第1パラメータ(ベクトルvk’)との内積に乗算する。すなわち、劣化補償部105及び劣化補償部203の少なくともいずれか1つは、サポートベクトル(v^sup._k,i)を抽出せずに、カーネル処理以降の処理を実行する。
【0122】
[実験]
以下において、学習モデルを用いた劣化補償に関する実験について説明する。実験では、以下に示す条件で劣化補償について検証した。
【0123】
モデル…11波レイリーフェージング(fDTs=0.002)/クロネッカーモデル
互いに隣接する送信アンテナの相関値=0.7
互いに隣接する受信アンテナの相関値=0.3
キャリア…シングルキャリア
変調方式…32QAM
補償方法…MMSE
劣化モデル…送信ウェイトの量子化劣化
【0124】
第1に、送信ウェイト行列の表現について説明する。
図12は、理想的な送信ウェイト行列Vを構成する各要素(実数部分及び虚数部分)の分布を示す図である。
図13は、FBパラメータに含まれる第1パラメータによって特定される送信ウェイト行列V’を構成する各要素(実数部分及び虚数部分)の分布を示す図である。
図14は、学習モデルによって劣化が補償された送信ウェイト行列V”を構成する各要素(実数部分及び虚数部分)の分布を示す図である。
【0125】
図12~
図14に示すように、学習モデルによって劣化が補償された送信ウェイト行列V”の分布は、少なくとも、FBパラメータに含まれる第1パラメータによって特定される送信ウェイト行列V’の分布と比べて、理想的な送信ウェイト行列Vの分布に近似することが確認された。
【0126】
第2に、SNR(Signal-to-Noise Ratio)とBER(Bit Error Rate)との関係について説明する。比較例では、FBパラメータに含まれる第1パラメータによって特定される送信ウェイト行列V’を用いた例である。実施例は、学習モデルによって劣化が補償された送信ウェイト行列V”を用いた例である。
【0127】
図15に示すように、実施例では、比較例と比べて、理想的な送信ウェイト行列Vを用いたSNR-BER特性に近似する結果が得られた。例えば、所要BERが10
-4であるケースを想定すると、実施例では、比較例と比べて、SNRが4dB程度の性能改善が得られることが確認された。すなわち、送信装置100から受信装置200への伝送品質の向上を図ることができることが確認された。
【0128】
[その他の実施形態]
本発明は上述した開示によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0129】
上述した開示では特に触れていないが、第1学習パラメータと第2学習パラメータとの相関関係の学習は、AI(Artificial Intelligence)に代表される深層学習によって実行されてもよい。第1学習パラメータと第2学習パラメータとの相関関係の学習において、GAN(Generative Adversarial Networks)が用いられてもよい。
【0130】
上述した開示では、送信ウェイト行列V及び送信ウェイト行列V’を実数ベクトルvre及び実数ベクトルv’re.に変換した上で、SVRによって実数ベクトルvre及び実数ベクトルv’re.の相関関係を学習する方法について例示した。しかしながら、上述した開示はこれに限定されるものではない。例えば、送信ウェイト行列Vと送信ウェイト行列V’との相関関係が直接的に学習されてもよい。このようなケースにおいて、第1学習パラメータは、送信ウェイト行列V’を構成する各要素そのものであると考えてもよく、第2学習パラメータは、送信ウェイト行列Vを構成する各要素そのものであると考えてもよい。
【0131】
上述した開示では特に触れていないが、デジタル無線伝送システム10では、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式が適用されてもよく、シングルキャリア方式が適用されてもよい。
【0132】
上述した開示では特に触れていないが、MCSパラメータは、送信データに適用すべき送信電力を明示的又は暗黙的に示すパラメータを含んでもよい。このようなケースにおいて、MCSパラメータは、固有モード毎に適用すべき送信電力の組み合わせを明示的又は暗黙的に示すパラメータを含んでもよい。
【0133】
上述した開示では、送信装置100がFPUであり、受信装置200が放送局であるケースについて説明した。しかしながら、上述した開示はこれに限定されるものではない。例えば、送信装置100が移動局であり、受信装置200が基地局であってもよい。
【0134】
上述した開示では特に触れていないが、送信装置100、受信装置200及び学習装置300が行う各処理をコンピュータに実行させるプログラムが提供されてもよい。また、プログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにプログラムをインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROMやDVD-ROM等の記録媒体であってもよい。
【0135】
或いは、送信装置100、受信装置200及び学習装置300が行う各処理を実行するためのプログラムを記憶するメモリ及びメモリに記憶されたプログラムを実行するプロセッサによって構成されるチップが提供されてもよい。
【符号の説明】
【0136】
10…デジタル無線伝送システム、100…送信装置、101…抽出部、103…適応変調部、105…劣化補償部、105A…変換部、105B…出力部、105C…変換部、107…送信部、200…受信装置、201…受信部、203…劣化補償部、203A…変換部、203B…出力部、203C…変換部、205…伝搬路推定部、207…補償部、209…復調部、211…分解部、213…量子化部、215…計算部、217…決定部、219…生成部