(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091835
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】金属ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/388 20140101AFI20230626BHJP
【FI】
B23K26/388
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206655
(22)【出願日】2021-12-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】302024375
【氏名又は名称】彦山精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
(72)【発明者】
【氏名】浅川 吉幸
(72)【発明者】
【氏名】彦山 勝
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD13
4E168AD15
4E168DA02
4E168DA28
4E168DA40
4E168DA43
4E168JA01
(57)【要約】
【課題】 熱負荷によるダメージの発生を抑えることが可能な金属ロールの製造方法を提供する。
【解決手段】 外周面にめっき被膜を有する金属ロールの外周肉厚部に、レーザービーム照射によるピアシング工程及びトレパニング工程により複数のガス放出孔を穿孔する金属ロールの製造方法であって、該ピアシング工程では、1パルス当たり1kJ/cm
2未満のパワー密度を有する複数の連続するパルスからなる積算パワー密度10kJ/cm
2未満のパルス群を繰り返し照射すると共に、相前後する該パルス群同士の間に1パルス群の照射時間の10倍以上の照射休止時間を設けることを条件とし、該トレパニング工程では、レーザービームのビーム中心のスキャン円直径が上記ピアシング工程により穿孔した貫通孔の内径を越えないようにスキャンすると共に、該貫通孔を1周スキャンする毎に該1周のスキャン時間の1/3を越える照射休止時間を設けることを条件とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にめっき被膜を有する金属ロールの外周肉厚部に、レーザービーム照射によるピアシング工程及びトレパニング工程により複数のガス放出孔を穿孔する金属ロールの製造方法であって、
前記ピアシング工程では、1パルス当たり1kJ/cm2未満のパワー密度を有する複数の連続するパルスからなる積算パワー密度10kJ/cm2未満のパルス群を繰り返し照射すると共に、相前後する該パルス群同士の間に1パルス群の照射時間の10倍以上の照射休止時間を設けることを条件とし、
前記トレパニング工程では、レーザービームのビーム中心のスキャン円直径が前記ピアシング工程により穿孔した貫通孔の内径を越えないようにスキャンすると共に、該貫通孔を1周スキャンする毎に該1周のスキャン時間の1/3を越える照射休止時間を設けることを条件とすることを特徴とする金属ロールの製造方法。
【請求項2】
前記レーザービームが、発振波長が近赤外線領域のパルスレーザーであることを特徴とする、請求項1に記載の金属ロールの製造方法。
【請求項3】
前記ガス放出孔の内径が、前記レーザービームのビーム径の10倍以内で且つ1mm以下であり、前記ガス放出孔の内径に対する該ガス放出孔の深さとして表わされるアスペクト比が5~20の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属ロールの製造方法。
【請求項4】
前記めっき被膜がハードクロムめっきであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス放出機構を備えた金属ロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等の電子機器には、耐熱性樹脂フィルム上に配線パターンが形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムにパターニング加工を施すことによって作製することができる。近年、電子機器の高性能化に伴い、フレキシブル配線基板の配線パターンはますます高精細化、高密度化する傾向にあり、これに対応可能なように金属膜付耐熱性樹脂フィルムにおいてもシワやキズのない高品質のものが求められている。
【0003】
上記の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法として、従来、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、上記メタライジング法では、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等が真空成膜法として一般的に採用されている。
【0004】
上記の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法の中では、メタライジング法が高精細化に特に適しており、これに関連する様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロム層をスパッタリングした後、銅をスパッタリングして導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2には、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングによる第1の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングによる第2の金属薄膜とがこの順でポリイミドフィルム上に成膜されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。これらスパッタリング法による成膜(以下、スパッタ成膜とも称する)は、密着力に優れた金属膜付耐熱性樹脂フィルムが得られるが、その反面、真空蒸着法に比べて基材としての耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかりやすく、耐熱性樹脂フィルムに熱負荷によるシワが生じやすいという問題を抱えている。
【0005】
そこで、上記のポリイミドフィルムなどの耐熱性樹脂フィルムに対してスパッタ成膜により金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製する工程では、冷却機能を有する金属ロールからなるいわゆるキャンロールを備えたスパッタリングウェブコータと称する成膜装置が一般的に使用されている。この成膜装置は、冷媒が内部で循環するキャンロールの外周面に、ロールツーロールで搬送される長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き付けながらスパッタ成膜を行なうものであり、耐熱性樹脂フィルムに対して、その表面側にスパッタ成膜する際に生じる熱をその裏面側から同時に除熱することができるので、シワの発生を効果的に防ぐことが可能になる。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されている。更に、クーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側にサブロールが設けられており、これにより耐熱性樹脂フィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、スパッタ成膜時にキャンロールの外周面に巻き付いている耐熱性樹脂フィルムと該外周面との間は、真空空間を介して離間する無数の隙間(ギャップ部)が存在している。このため、スパッタ成膜の際に生じる耐熱性樹脂フィルムの熱はキャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これがフィルムのシワ発生の原因となっていた。
【0008】
この問題を解決するため、外周面にガスを放出する機構を備えたガス放出機構付きキャンロール(以下、単にガス放出キャンロールとも称する)が提案されており、これにより、キャンロールの外周面と耐熱性樹脂フィルムとの間の上記ギャップ部にキャンロール側からガスを導入することができるので、該ギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くすることが可能になる。
【0009】
例えば特許文献4には、キャンロール側からガスを導入する方法として、キャンロールの外周面にガスの放出口となる多数の微細なガス放出孔を設ける技術が開示されている。なお、非特許文献2によれば、ギャップ部内に導入するガスが圧力500Paのアルゴンガスであって、且つこのギャップ部におけるキャンロールの外周面と耐熱性樹脂フィルムとの離間距離が約40μm以下の分子流領域の場合は、このギャップ部における熱コンダクタンスは250(W/m2・K)になると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2-98994号公報
【特許文献2】特許第3447070号公報
【特許文献3】特開昭62-247073号公報
【特許文献4】国際公開第2005/001157号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“Vacuum Heat Transfer Models for Web Substrates: Review of Theory and Experimental Heat Transfer Data,” 2000 Society of Vacuum Coaters, 43rd. Annual Technical Conference Proceedings, Denver, April 15‐20, 2000, p.335
【非特許文献2】“Improvement of Web Heat Condition by the Deposition Drum Design,” 2000 Society of Vacuum Coaters, 50th. Annual Technical Conference Proceedings (2007), p.749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4に示すようなガス放出機構を備えた金属ロールをキャンロールに採用することで、その外周面に耐熱性樹脂フィルムを巻きつけて成膜処理を施す際に該外周面のガス放出孔からガスを放出できるので、該成膜処理時に耐熱性樹脂フィルムにかかる熱負荷を効果的に低減することができる。よって、該耐熱性樹脂フィルムにシワが発生するのを抑制する技術として極めて有効である。とはいうものの、成膜処理時に耐熱性樹脂フィルムが接する金属ロールの外周面は、伝熱性を高めるためできるだけ平坦であるのが好ましく、そのため、該金属ロールの製造段階では、研磨後の外周面の表面粗さが該金属ロールの外周肉厚部を構成するステンレスの素地より小さくなるように、ハードクロムめっき等の表面処理を施すことが望ましい。このハードクロムめっきは、後述するようにレーザー照射によりガス放出孔を穿孔する前に施す必要がある。その理由は、レーザー照射によりガス放出孔を穿孔した後にハードクロムめっきを施すことを試みると、めっき槽内でガス放出孔に気泡が発生し、その結果、ガス放出孔の周囲にハードクロムめっきを形成するのが困難になるからである。
【0013】
ところで、ハードクロムめっきが施された金属ロールの外周面はステンレス素地より硬度が高く、しかも該外周面は所定の曲率で湾曲しているため、マイクロドリルによるガス放出孔の穿孔では、ドリルの先端を穿孔部位に当接させたときに滑って該穿孔部位から逃げてしまうので実質的に穿孔することができなかった。そこで、ハードクロムめっきが施された金属ロールの場合は、レーザーにより非接触でガス放出孔を穿孔するのが好ましい。ところが、ハードクロムめっきが外周面に施された金属ロールは、レーザーによる穿孔の際に熱負荷によって容易にクラックが入ることがあった。このようにハードクロムめっきにクラックが入ると、スパッタ成膜時に耐熱性樹脂フィルムの裏面に傷をつけるおそれがあるうえ、ガス放出キャンロールの冷却性能に悪影響を及ぼすおそれがあった。本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、外周面にハードクロムめっき等のめっき被膜を有する金属ロールの外周肉厚部にレーザーによりガス放出孔を穿孔する際に、該めっき被膜に熱負荷によってクラック等のダメージが発生するのを抑えることが可能な金属ロールの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属ロールの製造方法は、外周面にめっき被膜を有する金属ロールの外周肉厚部に、レーザービーム照射によるピアシング工程及びトレパニング工程により複数のガス放出孔を穿孔する金属ロールの製造方法であって、前記ピアシング工程では、1パルス当たり1kJ/cm2未満のパワー密度を有する複数の連続するパルスからなる積算パワー密度10kJ/cm2未満のパルス群を繰り返し照射すると共に、相前後する該パルス群同士の間に1パルス群の照射時間の10倍以上の照射休止時間を設けることを条件とし、前記トレパニング工程では、レーザービームのビーム中心のスキャン円直径が前記ピアシング工程により穿孔した貫通孔の内径を越えないようにスキャンすると共に、該貫通孔を1周スキャンする毎に該1周のスキャン時間の1/3を越える照射休止時間を設けることを条件とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外周面にめっき被膜を有する金属ロールの外周肉厚部に穿孔するに際して、該めっき被膜に熱負荷によるクラック等のダメージが発生するのを抑えることができる。これにより、熱伝導性能及び冷却性能に優れ、且つスパッタ成膜時に耐熱性樹脂フィルムの裏面に傷をつけることのないガス放出キャンロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態の金属ロールの製造方法を含んだキャンロールの製造方法を工程順に示す工程図である。
【
図2】本発明の実施形態の金属ロールの製造方法におけるピアシング工程において、連続する複数のパルスからなるパルス群が繰り返し照射される様子を示すタイミングチャートである。
【
図3】本発明の実施形態の金属ロールの製造方法におけるトレパニング工程において、予め穿孔した貫通孔に照射するレーザービームのスキャンパターンを模式的に示す平面図である。
【
図4】本発明の実施形態の金属ロールの製造方法におけるトレパニング工程において、予め穿孔した貫通孔に照射するレーザービームのパワー密度分布を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の金属ロールの製造方法で作製されたガス放出キャンロールを備えた真空成膜装置の一具体例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1を参照しながら、本発明の金属ロールの製造方法の実施形態について、該金属ロールを2重筒構造(ジャケット構造とも称する)のガス放出キャンロールとして作製する場合を例に挙げて説明する。先ず2重筒構造の第1筒部1を用意し、その外周面側に溝切り加工法により複数の溝1aを形成し(a工程)、この第1筒部1の外周面に内周面が接するようにパイプ状の第2筒部2を焼き嵌める(b工程)。次に、周方向に互いに隣接する溝1a同士の間に対応する第2筒部2の厚肉部分において、第1筒部1と第2筒部2とをレーザー溶接若しくは電子ビーム溶接により接合する(c工程)。そして、第2筒部2の外周面を円筒切削研磨加工し(d工程)、ハードクロムめっきを施すことで表面処理層3を形成し(e工程)、更に研磨加工する(f工程)。次に、第2筒部2の肉厚部にレーザー穴開け加工を施すことで、複数の溝1aと第2筒部2の内周面とでそれぞれ画定される複数のガス導入路の各々に対してその外周面側に開口する複数のガス放出孔2aを形成する(g工程)。そして、第2筒部2の両端に例えばレーザー溶接により側板4を取り付け(h工程)、最後に仕上げとして研磨加工を施す(i工程)。
【0018】
上記の第1筒部1と第2筒部2の材質は、互いに同種の金属でもよいし異種の金属でもよい。同種金属であれば熱膨張係数が同じになるので、昇温時や降温時に両者の間に互いに離間する方向の熱応力がほとんどかからないようにすることができる。一方、異種金属の場合は、例えば第1筒部1をアルミニウム製とし、第2筒部2をステンレス製とすることで、熱伝導率が高くて軽量であり且つ機械加工性にも優れた金属からなる第1筒部1と、クロムめっきを極めて強靱に密着させることが可能な金属からなる第2筒部2とで金属ロールを構成することができる。
【0019】
キャンロールの外周面となる第2筒部2の外周面は、スパッタ成膜時に耐熱性樹脂フィルムが接するため、研磨後の表面粗さができるだけ小さいのが好ましく、そのため上記のようにハードクロムめっき等の表面処理が施される。ハードクロムめっき以外の表面処理としては、例えばニッケルめっき、ダイヤモンドライクカーボンコーティング、タングステンカーバイトコーティング、窒化チタンコーティング等を挙げることができる。このハードクロムめっき等の表面処理は、前述したようにレーザーによりガス放出孔を穿孔する前に施すのが好ましい。その理由は、レーザーによりガス放出孔を穿孔した後にハードクロムめっきを施すことを試みると、めっき槽内でガス放出孔に気泡が発生してしまい、ガス放出孔の周囲にハードクロムめっきを形成することが困難になるからである。
【0020】
しかしながら、ハードクロムめっき等の表面処理を施した第2筒部2の外周面は、ステンレス素地より硬度が高く且つ所定の曲率で湾曲しているため、マイクロドリルによるガス放出孔の穿孔では、ドリルの先端を所定の穿孔部位に当接させたときにその部位に留めておくことができず、その部位から容易に滑って逃げてしまう。そこで、本発明の実施形態の金属ロールの製造方法では、マイクロドリルに代えて、レーザー照射により非接触でガス放出孔を穿孔することを選択した。ところが、ハードクロムめっき等の表面処理を外周面に施した金属ロールは、レーザーによるガス放出孔の穿孔時の熱負荷によって表面側にクラックが非常に入り易い。このようにハードクロムめっき等の表面処理層にクラックが入ると、スパッタ成膜時に耐熱性樹脂フィルムの裏面を傷つけてしまううえ、ガス放出キャンロールの冷却性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0021】
そこで、本発明の実施形態の金属ロールの製造方法では、外周面にハードクロムめっきを有する金属ロールの外周肉厚部にレーザー照射により複数のガス放出孔を穿孔するに際して、所定の条件下でピアシング及びトレパニングを行なうことによって過度に熱負荷がかからないようにしている。これにより、レーザー照射によりガス放出孔を穿孔する場合においても、金属ロールの外周面に施したハードクロムめっき等の表面処理層に対して熱負荷によるクラック等のダメージが発生するのを抑えることができる。
【0022】
以下、かかる金属ロールの製造方法のうち、表面処理層3を有する第2筒部2の肉厚部分にガス放出孔群を穿孔する上記のレーザー穴開け加工(g工程)において、各ガス放出孔の中心部に該当する部位にレーザー照射により貫通孔を穿孔するピアシング工程と、この穿孔した貫通孔の内径をレーザー照射により徐々に広げるトレパニング工程について別々に説明する。
【0023】
先ずピアシング工程では、
図2に示すように、表面処理層3を有する第2筒部2の表面側からのレーザー照射によるピアシングに際して、1パルス当たり1kJ/cm
2未満のパワー密度を有する複数の連続するパルスからなる積算パワー密度10kJ/cm
2未満のパルス群を繰り返し照射すると共に、相前後する該パルス群同士の間に1パルス群の照射時間の10倍以上の照射休止時間を設けることを条件とする。
【0024】
上記のように、レーザービームの1パルス当たりのパワー密度を1kJ/cm2未満とし、該パルスを連続パルス照射するときのパルス群の積算パワー密度を10kJ/cm2未満とし、相前後するパルス群同士の間に1パルス群の照射時間の10倍以上の照射休止時間を設けることにより、第2筒部2の外周面に施したハードクロムめっき等の表面処理層3への熱負荷によるダメージを最小限に抑えることができるので、該表面処理層3にクラックを生じさせることなく穿孔することが可能になる。なお、第2筒部2の外周面からガス導入路までの距離(すなわちガス放出孔の深さ)に応じて照射休止時間やパルス群の照射回数を適宜調整すればよい。上記のパワー密度(単位面積当たりのエネルギーとも称する)は、レーザーパワーにパルス幅を乗じて求めたパルスエネルギーを、レーザービーム径から求まる円の面積で除することで求めることができる。ここで、レーザービーム径とは加工表面に照射されるレーザービームの直径であり、一般的にレーザービームの強度分布はガウシャン分布と仮定できるので、そのピーク強度の1/e2の位置をレーザービーム径と表現する。このレーザービーム径内に総エネルギーの約86%のエネルギーが含まれている。
【0025】
一方、トレパニング工程では、
図3に示すように、表面処理層3を有する第2筒部2の表面側からのレーザー照射によるトレパニングに際し、レーザービームのビーム中心によって描かれる円形の軌跡の直径が上記ピアシング工程により穿孔した貫通孔の内径を越えないようにスキャン(走査)すると共に、該貫通孔のエッジに沿ってトレパニングのために1周スキャンする毎にこの1周のスキャン時間の1/3を越える照射休止時間を設けることを条件とする。これにより、第2筒部2の外周面に施したハードクロムめっき等の表面処理層3に熱負荷によるクラックを生じさせることなく貫通孔の内径を拡張することが可能になる。
【0026】
すなわち、
図4に示すように、従来のトレパニング工程では、加工速度を重視して、トレパニングのスキャン時にレーザービームのビーム中心によって描かれる円形の軌跡の直径(以降、スキャン円直径とも称する)が、パワー分布パターン1のように、ピアシングで予め穿孔した貫通孔若しくは既存の貫通孔の内径を越えるようにスキャンすることが多いが、この場合はパワー密度が高いレーザービームの中心部の熱負荷によってハードクロムめっき等の表面処理層にクラックが発生してしまうことがあった。この対策として、分布パターン2に示すようにレーザーパワーを低下させることでレーザービームの中心部付近のパワー密度を下げることが考えられるが、この分布パターン2ではレーザービームの中心部とその周囲とのパワー密度の分布パターンの傾きが分布パターン1に比べて小さく、よって、依然としてトレパニングで開口される部分より外側の領域におけるハードクロムめっきへの熱負荷が大きく、クラック発生の懸念がある。
【0027】
これに対して、本発明の実施形態の金属ロールの製造方法においては、分布パターン3に示すように、トレパニング時のレーザービームのビーム中心のスキャン円直径を、ピアシングで予め穿孔した貫通孔の内径よりも中心側となるようにスキャンする。これにより、レーザービームの中心部とその周囲のパワー密度分布の傾きを従来の分布パターン2に比べて大きくしても、該トレパニングで開口される部分より外側の領域のレーザービームのパワー密度を低く抑えることができ、結果的にこの領域における熱負荷を低減することができる。なお、上記のピアシング及びトレパニングによるガス放出孔の穿孔では、表面処理層3を有する第2筒部2の外周面に溶けた金属が付着したり、わずかな凹凸が生じたりすることがあるので、必要に応じて最終仕上げとしてこれらを除去して平坦にする仕上げを行なうのが好ましい。また、トレパニング対象となる貫通孔は、ピアシングにより予め穿孔されたものに限定されるものではなく、マイクロドリルなどの他の穿孔法で穿孔されたものであっても構わない。
【0028】
なお、上記のピアシング工程及びトレパニング工程で用いるレーザービームには、近赤外線領域の発振波長を有するパルスレーザーを用いることが好ましく、具体的には発振波長が780~2500nm程度であるのが好ましく、1000~1100nm程度であるのがより好ましい。その理由は、産業用高出力レーザーとして近赤外線領域の高出力ファイバレーザーが広く普及しているうえ、本発明の実施形態の金属ロールの製造方法において穴開け加工の対象となるワーク(被加工物)に対して、より光吸収されやすい波長であるからである。また、ガス放出孔の内径は、レーザービームのビーム径の10倍以内で且つ1mm以下であるのが好ましい。ガス放出孔の内径がレーザービームのビーム径の10倍を超えたり、1mmを超えたりした場合は、キャンロールの外周面に巻き付いている耐熱性樹脂フィルムのうち各ガス放出孔の特に中央部に対向する領域では、冷却されているキャンロールから離れ過ぎてしまうので、ガスを放出したとしても伝熱による冷却効果が期待できなくなるからである。更に、ガス放出孔の内径に対するガス放出孔の深さとして表わされるアスペクト比が5~20の範囲内であることが好ましい。このアスペクト比が5未満では外筒の強度を保つことが難しく、逆に20を超えると微細孔のレーザー加工が難しくなるからである。
【0029】
上記のようにして作製した金属ロールにガスロータリージョイントを取り付けることにより、互いに焼き嵌められ且つ溶接された第1筒部及び第2筒部からなる外筒部と、その内周部側に設けられた内筒部とで構成される2重筒構造のガス放出キャンロールが完成する。これら外筒部及び内筒部と、外筒部の両端部に設けた側板とによって画定される空間内に冷媒循環路が形成される。なお、上記の2重筒構造に代えて、外筒部の内側に冷媒循環路となるパイプを螺旋状に巻いた構造でもよい。
【0030】
上記の冷媒循環路内を流れる冷媒は、中心軸を例えば2重配管構造にすることで、外部のチラーなどの冷媒冷却装置との間で循環させることが可能になる。これにより、ガス放出キャンロールの外筒部の温度を調節することが可能になる。このガス放出キャンロールの中心軸は、回転軸の役割をも担っており、ガス放出キャンロールは該中心軸の周りを摺動するベアリングを介して回転自在に軸支されている。これにより該中心軸を中心としてガス放出キャンロールを回転させることができ、その外周面の速度にロールツーロールで搬送される長尺の耐熱性樹脂フィルムの搬送速度を合わせることで、該外周面に巻き付けられた耐熱性樹脂フィルムをその裏面側から効率よく冷却することが可能になる。
【0031】
上記のガス放出キャンロールの外周面のうち、耐熱性樹脂フィルムが巻き付く領域に設けたガス放出孔からガスが放出される。すなわち、ガス放出キャンロールの外筒部の肉厚部分には、その中心軸方向に延在する複数のガス導入路が周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って設けられている。これら複数のガス導入路は、前述したように、第1筒部1の外周面に設けられた複数の溝1aと第2筒部2の内周面とでそれぞれ画定される流路である。各ガス導入路には、その延在方向に沿って複数のガス放出孔が設けられており、それらは外筒部の外周面側に開口している。これら複数のガス導入路にガスロータリージョイントを介してガス供給源からガスが供給される。
【0032】
上記のガス導入路の本数や、各ガス導入路に設ける複数のガス放出孔の内径や個数は、ガス放出キャンロールの外周面に巻き付くときの長尺樹脂フィルムの抱き角や張力、ガス放出キャンロールの外周面に巻き付いたときに外周面と耐熱性樹脂フィルムとの間に生ずるギャップ部内に放出するガスの放出量等に応じて適宜定められる。一般的には、できるだけ小さな内径を有するガス放出孔を狭ピッチにして多数配置することが好ましく、これにより無数のギャップ部により均等にガスを導入できるので、外筒部の外周面の熱伝導性を全面に亘って均一化することが可能になる。しかしながら、内径の小さなガス放出孔を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴う。一方、ガス放出孔の内径が1000μmを超えるとガス放出孔付近の冷却効率が低下する原因となる。そのため、一般的にはガス放出孔の内径は30~1000μm程度が好ましく、200~300μm程度が現実的であるのでより好ましい。また、ガス放出孔は、ピッチ5~10mmで配置することが好ましい。
【0033】
上記の複数のガス導入路の各々には、前述したように、ガス供給源から供給されるガスがガスロータリージョイントによって分配されて供給される。このガスロータリージョイントは、ガス放出キャンロールの回転によって周方向に回転するガス導入路の各々に常にガスを供給するのではなく、長尺の耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられている角度範囲(この角度範囲を抱き角とも称する)以外の角度範囲を通過するときにはガスを供給しないような機能を有していることが好ましい。かかる機能は、例えば、ガスロータリージョイント内の分配配管を電気的又は電磁気的に作動するバルブで開閉したり、ガスロータリージョイント自身の回転を利用して機械的に開閉したりすることで実現可能となる。
【0034】
次に、
図5を参照しながら上記のガス放出キャンロールを備えたスパッタリングによる真空成膜装置について説明する。この
図5に示す真空成膜装置50はスパッタリングウェブコータとも称され、上記の冷却機能を備えたガス放出キャンロールの外周面に長尺樹脂フィルムFを巻き付けて裏面側から冷却しながら表面側にスパッタ成膜を行なう装置であり、ロールツーロールで連続的に搬送される長尺樹脂フィルムFに対して、スパッタ成膜時の熱的ダメージを抑えながら表面側に効率よくスパッタ成膜することが可能になる。
【0035】
具体的に説明すると、真空成膜装置50を構成する主要な機器は真空チャンバー51内に収められており、この真空チャンバー51内は、スパッタ成膜に際して先ず到達圧力10
-4Pa程度まで減圧された後、スパッタリングガスの導入により0.1~10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素などのガスが添加される。真空チャンバー51の形状は、上記の減圧状態に耐え得るものであれば
図5に示す直方体形状に限定されるものではなく、様々な形状や材質のものを使用することができる。なお、真空チャンバー51内の減圧状態を維持するため、真空成膜装置50には図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の真空生成装置が具備されている。
【0036】
かかる減圧雰囲気の真空チャンバー51内において巻出ロール52から巻き出された長尺樹脂フィルムFは、モータで回転駆動されるガス放出キャンロール56の外周面に巻き付けられてスパッタ成膜が施された後、巻取ロール64で巻き取られる。巻出ロール52からガス放出キャンロール56までの搬送経路には、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール53、長尺樹脂フィルムFの張力測定を行なう張力センサロール54、及びガス放出キャンロール56の周速度に対する調整を行なうモータ駆動のフィードロール55がこの順に配置されている。これによりガス放出キャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルムFを密着させて搬送することが可能になる。ガス放出キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも、上記と同様に、ガス放出キャンロール56の周速度に対する調整を行なうモータ駆動のフィードロール61、長尺樹脂フィルムFの張力測定を行なう張力センサロール62、及び長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0037】
巻出ロール52及び巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって、ロールツーロールによる搬送時の長尺樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、ガス放出キャンロール56の回転と、これに連動して回転するモータ駆動のフィードロール55、61により、巻出ロール52から巻き出された長尺樹脂フィルムFは、ガス放出キャンロール56の外周面に矢印Aで示す抱き角で巻き付けられた後、巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
【0038】
上記のガス放出キャンロール56の外周面のうち、長尺樹脂フィルムFが巻き付けられる抱き角Aの範囲内の搬送経路に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が設けられている。マグネトロンスパッタリングは、磁石の力で磁場の中に高密度に捉えられているプラズマ状態の陽イオンが、マイナス電位のターゲットの表面に次々と衝突することで該ターゲットの金属粒子を弾き飛ばして長尺樹脂フィルムFの表面に成膜させる方式であり、効率よくスパッタ成膜を行なうことが可能になる。なお、ターゲットの形状は
図5に示す板状に限定されるものではなく、円筒状のターゲットを回転させてクリーニングしながらスパッタを行なう方式のロータリーターゲットを使用してもよい。これにより、ノジュール(異物の成長)の発生を抑えることができるうえ、ターゲットの使用効率を板状のものに比べて高めることができる。
【0039】
例えば搬送経路の最も上流側に位置するマグネトロンスパッタリングカソード57にNi系合金のターゲットを用い、残りのマグネトロンスパッタリングカソード58、59、60にCuのターゲットを用いることで、耐熱性の長尺樹脂フィルムFの表面にNi系合金膜及びCu膜をこの順に積層させることができる。この場合のNi系合金膜はシード層と呼ばれ、Ni-Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の各種公知の合金を用いることができるが、その組成は金属膜付耐熱性樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性に応じて適宜選択される。
【0040】
上記のスパッタ成膜で得た金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜を更に厚くしたい場合は、上記のスパッタ成膜による乾式めっきの後に湿式めっきすることで効率よく金属膜を厚くすることができる。この湿式めっきは、電気めっき処理のみで金属膜を形成してもよいし、一次めっきとしての無電解めっき処理と、二次めっきとしての電解めっき処理等とを組み合わせて金属膜を形成してもよい。この湿式めっきの処理条件については特に限定はなく、一般的な湿式めっき条件を採用することができる。
【0041】
このようにして製造された積層構造の金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムに対して、不要な金属膜部分を取り除くサブトラクティブ法によるパターニング加工を施すことにより、所定の回路パターンを有するフレキシブル配線基板が得られる。このサブトラクティブ法は、具体的には金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜の表面にレジストを塗布した後、このレジストをフォトマスクを介して露光及び現像することでパターニングし、パターニングされたレジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0042】
上記の金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの基材となる耐熱性樹脂フィルムには、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等を好適に用いることができる。これらの耐熱性樹脂フィルムは、フレキシブル配線基板として使用する際に求められる特性である柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有しているので好ましい。
【0043】
本発明の実施形態の金属ロールの製造方法で作製したガス放出キャンロールは、前述したように外周面のハードクロムめっき等の表面処理層にクラック等のダメージがほとんどないため、これを用いて長尺樹脂フィルムにスパッタ成膜を行なう際に該長尺樹脂フィルムの裏面を傷つけることがなく、また、外周面から放出されるガスによって該外周面とそこに巻き付く長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部の伝熱性を高めることができるので、熱負荷によるシワが生じにくい。すなわち、本発明の実施形態の金属ロールの製造方法で作製したガス放出キャンロールを用いることで、シワや傷がほとんどない高品質の金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製することが可能になる。
【0044】
なお、本発明の実施形態の金属ロールの製造方法で作製したガス放出キャンロールは、スパッタ成膜を行なう上記の真空成膜装置50に採用することで特に顕著な効果が得られるが、スパッタ成膜以外の長尺樹脂フィルムに熱負荷の掛かる真空成膜処理である、CVD(化学蒸着)や真空蒸着などの装置にも適用することができる。また、長尺樹脂フィルムの表面を改質して皮膜の密着性を高めるために成膜前に行なうプラズマ処理装置やイオンビーム処理装置にも適用することができる。上記のプラズマ処理は、例えばアルゴンと酸素の混合ガス又はアルゴンと窒素の混合ガスによる減圧雰囲気下において放電を行なうことにより、酸素プラズマ又は窒素プラズマを発生させて長尺樹脂フィルムを表面処理するものであり、上記のイオンビーム処理は、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させて、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして長尺樹脂フィルムに照射して表面処理するものである。
【実施例0045】
図5に示すような真空成膜装置50(スパッタリングウェブコータ)のガス放出キャンロール56に、本発明の実施例の金属ロールの製造方法を用いて作製した、完成寸法が直径800mm、幅750mmの金属ロール(ガス放出キャンロール)を採用し、長尺樹脂フィルムFの表面にシード層としてのNi-Cr膜とCu膜とをこの順に成膜した。なお、長尺樹脂フィルムFには、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの東レ・デュポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用した。
【0046】
ガス放出キャンロール56は
図1に示す工程に沿って製造した。すなわち、先ず外径798mm、肉厚15mmのステンレスのパイプを用意し、その内周面側に冷媒循環路の役割を担う内筒部、2重配管、及び回転軸等を組み込んで2重筒構造のジャケットロールからなる第1筒部1を製作した。この第1筒部1の外周面側に、中心軸方向に延在する幅3mm、深さ4mmの溝を溝切りカッターにより角度2°毎に掘っていくことで、全周に亘って180本の溝1aを形成した。その後、良好な焼き嵌めができるように第1筒部1の外周面を円筒研磨加工して外径796mmに仕上げた。
【0047】
次に、第2筒部2として内面研磨加工分及び焼き嵌め時の熱膨張分を考慮して上記の第1筒部1の仕上げ外径796mmよりも1~数mm小さな内径を有する肉厚12mmのステンレスのシームレスパイプを用意し、その内周面を良好な焼き嵌めができるように内面研磨加工した後、バーナーで加熱しながら第1筒部1の外側に第2筒部2を焼き嵌めた。そして、第1筒部1の複数の溝1aと第2筒部2の内周面とによってそれぞれ画定される複数のガス導入路の各々に対して次工程のレーザー穴開け加工で容易に複数のガス放出孔を穿孔できるようにするため、この焼き嵌めにより第1筒部1と第2筒部2とが一体化した金属ロールの外周面部をその外径が802mmになるまで円筒切削した。
【0048】
次に、第2筒部2のうち、周方向に互いに隣接する第1筒部1の溝1a同士の間に対応する部分に対して、その外周面からその肉厚方向に波長1.07μm、出力5kWのファイバレーザーを照射してレーザー溶接した。これにより、第1筒部1と第2筒部2とを接合した。この接合された金属ロールの外周部をその外径が800mmになるまで円筒切削・円筒研磨した。更に、厚み100μmのハードクロムめっきを施した後、研磨加工した。上記のようにして作製された表面処理層3を有する金属ロールに対して、発振波長が近赤外線領域のパルスレーザーからなるレーザービームによるピアシング及びトレパニングにより複数のガス放出孔を穿孔した。
【0049】
これら複数のガス放出孔の穿孔に採用した条件は、以下に示す別途作製したダミーロール(成膜には使用しない)に対して行なった試験結果に基づいて決定した。すなわち、先ず上記の製造方法と同じ工程を経て製作したダミーロールに対して、様々な条件でガス放出孔を穿孔してその仕上がりを目視にて評価することで、ピアシングに適した条件及びトレパニングに適した条件をそれぞれ求めた。
【0050】
具体的には、レーザービーム照射によるピアシング工程では、レーザーパワー、Duty比、照射周波数、1パルス群の照射時間、パルス群間の照射休止時間、及びパルス群の照射回数を様々に変えて貫通孔を穿孔した後、穿孔後の貫通孔の周囲の表面状態を目視により確認し、ハードクロムめっきにレーザー照射によりクラックが発生した場合をNG、クラックが発生していない場合をOKと評価した。なお、レーザービーム径は0.13mmのまま変化させなかった。その結果を下記表1に示す。
【0051】
【0052】
上記表1の結果から、レーザービーム照射によるピアシングでガス放出孔を穿孔する場合は、1パルス当たりのパワー密度を1kJ/cm2未満とし、且つ1パルス群当たりの連続パルス照射の積算パワー密度を10kJ/cm2未満とし、且つ相前後するパルス群同士の間に1パルス群の照射時間の10倍以上の照射休止時間を設けることで、第2筒部2の外周面に施したハードクロムめっきへの熱ダメージを抑えることができ、よってクラックを生じさせることなく貫通孔を穿孔できることが分かった。なお、第2筒部2の外周面からガス導入路までの距離(すなわち、ガス放出孔の深さ)に応じて照射休止時間を含むパルス群の照射回数を調整すればよいことが分かった。
【0053】
一方、レーザービーム照射によるトレパニング工程では、ピアシングで予め穿孔しておいた内径0.12mmの貫通孔に対して、レーザーパワー0.75kW、Duty比4%、照射周波数200Hz、レーザービーム径0.16mmの各条件は変えずに、ビーム中心のスキャン円直径、貫通孔を1周スキャンした後の照射休止時間を様々に変えて1~3回のトレパニングを行なった。そして上記のピアシング工程の場合と同様に穿孔後のガス放出孔の周囲の表面状態を目視により確認し、ハードクロムめっきにレーザー照射によりクラックが発生した場合をNG、クラックが発生していない場合をOKと評価した。なお、レーザービームのスキャン速度は毎分30mmとし、各回のトレパニングでは貫通孔を2周スキャンさせた。その結果を下記表2に示す。
【0054】
【0055】
上記表2の結果から、レーザービーム照射によるトレパニング工程でガス放出孔を穿孔する場合は、トレパニングの際に予めピアシング又は他の穿孔法で穿孔しておいた貫通孔に対して同芯円状にスキャンさせるレーザービームのビーム中心が描くスキャンパターンのスキャン円直径が、該貫通孔の内径を越えないこと、且つ該貫通孔のエッジに沿ってトレパニングのために1周スキャンする毎に1周分のスキャン時間の1/3を越える照射休止時間を設けることで、第2筒部2の外周面に施したハードクロムめっきへの熱ダメージを抑えることができ、よってクラックを生じさせることなく該貫通孔の大きさを広げて所望の内径を有するガス放出孔を穿孔できることが分かった。
【0056】
なお、第2筒部2の外周面からガス導入路までの距離(すなわち、ガス放出孔の深さ)に応じて照射休止時間を含むスキャンの周回数を調整すればよいことが分かった。また、トレパニング対象となる予め穿孔しておいた貫通孔の内径に対して、トレパニングにより形成するガス放出孔の内径が約1.5倍を超える場合は、条件番号T14~T39に示すように、スキャンさせるレーザービームのビーム中心のスキャン円直径が該スキャン直前の貫通孔の内径を越えないようにしながらトレパニングを複数回行なうことで、徐々に広げていけば良いことが分かった。
【0057】
上記の表1及び表2の結果から、ピアシング工程は表1の条件番号P3(P6、P12、P16、P20も同じ)を採用し、トレパニング工程は表2の条件番号T37を採用して、前述した表面処理層3を有する金属ロールに対して、各ガス導入路に向けて法線方向からレーザービームを照射することで内径240μmのガス放出孔群を穿孔した。この場合、ガス放出孔の内径に対するガス放出孔の深さとして表わされるアスペクト比は8.33となった。また、上記のダミーロールに対して複数のガス放出孔を穿孔したときに採用したガス導入路の延在方向のピッチと同じ7mmピッチでガス放出孔群が並ぶように穿孔した。ただし、第2筒部2の外周面のうち、長尺樹脂フィルムが巻き付けられない領域である両端からそれぞれ20mm内側までの領域にはガス放出孔を穿孔しなかった。上記のようにしてレーザー穴開け加工によりガス放出孔群を穿孔した後、第1筒部1及び第2筒部2の両端に環状の側板をレーザー溶接し、鏡面研磨を施した。そして、得られた筒状体の一端部に、回転リングユニットと固定リングユニットで構成されるガスロータリージョイントを取り付けた。このようにしてガス放出キャンロールを完成させた。
【0058】
上記構造のガス放出キャンロールは、真空成膜装置50に搭載したとき、ロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムの抱き角Aは約330°となった。すなわち、ガス放出キャンロールの外周面のうち、長尺樹脂フィルムFが巻き付けられない角度範囲は約30°となり、この角度範囲内には15本のガス導入路が存在することになる。そこで、ガスロータリージョイントの回転リングユニット側の複数のガス供給路のうち、上記の約30°の角度範囲を通過するときの15本のガス導入路に連通するガス供給路の開口部が対向する固定リングユニット側の摺動面には、ガス供給路を設けずに流路を閉鎖することで、上記約30°の角度範囲内のガス導入路にはガスが供給されないようにした。
【0059】
長尺樹脂フィルムFにシード層としてのNi-Cr膜を成膜した後にCu膜を積層するため、マグネトロンスパッタリングカソード57にはNi-Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタリングカソード58~60にはCuターゲットを使用した。そして、ロール状の長尺樹脂フィルムFを巻出ロール52にセットし、その先端部を引き出してガス放出キャンロール56を含む複数のロール群を経由させて巻取ロール64に巻き付けた。その後、真空チャンバー51内を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10-3Paまで排気した。
【0060】
この状態で搬送速度4m/分で長尺樹脂フィルムFをロールツーロールで搬送させた。その際、巻出ロール52と巻取ロール64の張力は80Nとし、ガス放出キャンロール56の冷媒循環路には冷媒としてチラーにて20℃に温度制御された水を循環させた。マグネトロンスパッタリングカソード57~60の各々にアルゴンガスを300sccm(0℃、1気圧において毎分300cm3)で導入して5kWの電力を印加した。更に、ガス放出キャンロール56にはアルゴンガスを1000sccm(0℃、1気圧において毎分1000cm3)供給した。このようにして、長尺樹脂フィルムFの表面にNi-Cr膜及びCu膜をこの順に連続的にスパッタ成膜した。
【0061】
このスパッタ成膜の際、隣接するマグネトロンスパッタリングカソードの間に設置したレーザー変位計により、長尺樹脂フィルムFの表面形状を測定したところ、長尺樹脂フィルムFはガス放出キャンロール56の外周面から約40μm離れていることが確認された。そして、ガス放出キャンロール56の外周面上の成膜中の長尺樹脂フィルムFの表面の観察が可能な観察窓から観察しながら、マグネトロンスパッタリングカソード57~60への印加電力を徐々に増加していき、スパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)を求めた結果80kWであった。
【0062】
その後、ガス放出キャンロール56へのアルゴンガスの供給を停止し、上記と同様に観察窓から観察しながらスパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)を求めた結果40kWであった。上記の成膜終了後は巻取ロール64から金属膜付の長尺樹脂フィルムFを取り外してNi-Cr膜及びその上のCu膜が成膜されていない裏面側(耐熱性ポリイミドフィルム面)を観察したところ、傷は確認されなかった。