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特開2023-919認知機能レベルの検査キット及び検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000919
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】認知機能レベルの検査キット及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B10/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102002
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】福本 高大
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 俊文
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、嗅覚検査により認知機能レベルを簡便に検査できるキット及び方法を提供することである。
【解決手段】2種以上の香料液と、香料液毎に正答を含む複数の選択肢が示されている選択肢シートと、香料液毎に正答内容と回答の正誤に応じて付与されるスコアが示され、且つその合計スコアに応じた認知機能レベルの指標が示されている判定シートとを使用することにより、嗅覚検査における被験者の回答内容に応じて認知機能レベルを簡便に判定可能になる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嗅覚検査によって認知機能レベルを検査するためのキットであって、
嗅覚検査に使用される2種以上の香料液と、
嗅覚検査の回答に使用する選択肢シートと、
認知機能レベルを判定するための判定シートと、を有し、
前記選択肢シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に、正答を含む複数の選択肢が示されており、
前記判定シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に正答内容と回答の正誤に応じて付与されるスコアが示され、且つその合計スコアに応じた認知機能レベルの指標が示されている、検査キット。
【請求項2】
前記香料液として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料よりなる群から選択される少なくとも2種を含む、請求項1に記載の検査キット。
【請求項3】
前記香料液として、更に、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液よりなる群から選択される少なくとも1種の香料液を含む、請求項2に記載の検査キット。
【請求項4】
前記香料液として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、墨汁調香料、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を含む、請求項1~3のいずれかに記載の検査キット。
【請求項5】
前記選択肢シートには、香料液毎に、正答となる香りを示す選択肢1個、正答ではない香りのダミー選択肢1個以上、分からないとの選択肢1個、及びこの中にはないという選択肢1個が示されている、請求項1~4のいずれかに記載の検査キット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の検査キットを使用して認知機能レベルを検査する方法であって、
前記各香料液の香りを被験者に嗅がせて、前記選択肢シートに示された選択肢の中から感じた香りについて回答させる工程、及び
被験者の回答内容を前記判定シートに照査する工程を含む、検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嗅覚検査により認知機能レベルを簡便に検査できるキット及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会がますます進む中で、認知症患者は増加の一途をたどっている。更に、日本国としても認知症施策推進大綱という国策も進めており、社会的課題としての認知症に取り組んでいく必要がある。そのような中で、認知症の特効薬はなく、治療よりも予防が重要な課題となっている。また、早期で予防的介入を行うことで認知症の進行を抑えられることがわかっているため、認知機能低下等の臨床症状が出始めるよりも前段階でそのリスクを把握することができれば非常に有意義である。
【0003】
一方、認知機能レベルの低下には、嗅覚機能の低下を伴うため、嗅覚検査によって認知機能レベルを検査できることが知られている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、従来、嗅覚検査によって認知機能レベルを簡便に検査するためのキット及び方法については十分な検討はなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】勝沼紗矢香、日鼻誌、53(1)、73~74頁、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、嗅覚検査により認知機能レベルを簡便に検査できるキット及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、2種以上の香料液と、香料液毎に正答を含む複数の選択肢が示されている選択肢シートと、香料液毎に正答内容と回答の正誤に応じて付与されるスコアが示され、且つその合計スコアに応じた認知機能レベルの指標が示されている判定シートとを使用することにより、嗅覚検査における被験者の回答内容に応じて認知機能レベルを簡便に判定可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、以下に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 嗅覚検査によって認知機能レベルを検査するためのキットであって、
嗅覚検査に使用される2種以上の香料液と、
嗅覚検査の回答に使用する選択肢シートと、
認知機能レベルを判定するための判定シートと、を有し、
前記選択肢シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に、正答を含む複数の選択肢が示されており、
前記判定シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に正答内容と回答の正誤に応じて付与されるスコアが示され、且つその合計スコアに応じた認知機能レベルの指標が示されている、検査キット。
項2. 前記香料液として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料よりなる群から選択される少なくとも2種を含む、項1に記載の検査キット。
項3. 前記香料液として、更に、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液よりなる群から選択される少なくとも1種の香料液を含む、項2に記載の検査キット。
項4. 前記香料液として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、墨汁調香料、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を含む、項1~3のいずれかに記載の検査キット。
項5. 前記選択肢シートには、香料液毎に、正答となる香りを示す選択肢1個、正答ではない香りのダミー選択肢1個以上、分からないとの選択肢1個、及びこの中にはないという選択肢1個が示されている、項1~4のいずれかに記載の検査キット。
項6. 項1~5のいずれかに記載の検査キットを使用して認知機能レベルを検査する方法であって、
前記各香料液の香りを被験者に嗅がせて、前記選択肢シートに示された選択肢の中から感じた香りについて回答させる工程、及び
被験者の回答内容を前記判定シートに照査する工程を含む、検査方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の検査キット及び検査方法によれば、非侵襲な嗅覚検査によって、認知機能レベルを簡便に検査することができるので、認知症に罹患するおそれがある者、認知症を罹患している者等を効率的にスクリーニングすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明で使用する選択肢シートの一記載例を示す図である。
図2】本発明で使用する判定シートの一記載例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.認知機能レベルの検査キット
本発明の検査キットは、嗅覚検査によって認知機能レベルを検査するためのキットであって、嗅覚検査に使用される2種以上の香料液と、嗅覚検査の回答に使用する選択肢シートと、認知機能レベルを判定するための判定シートとを有し、前記選択肢シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に、正答を含む複数の選択肢が示されており、前記判定シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に正答内容とスコアが示され、且つスコアの合計に応じて判定される認知機能レベルが示されていることを特徴とする。以下、本発明の検査キットについて詳述する。
【0011】
[嗅覚検査用香料液]
本発明の検査キットには、認知機能レベルを検査するための嗅覚検査に使用される香料液が2種以上含まれる。
【0012】
香料液は、認知機能レベルを評価し易い香りを呈するものであることが好ましく、例えば、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、墨汁調香料液、りんご調香料液、ひのき調香料液、石鹸調香料液、バニラアイス調香料液、蒸れた靴下調香料液、みかん調香料液、コーヒー調香料液等が挙げられる。
【0013】
バター調香料液とは、バターを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、バター調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、バター調香料液は、δ-デカラクトン、アセトアルデヒド、メチルブタノン、ヘプタナール等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、バター調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。バター調香料液における香料成分の含有量については、バターを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。認知機能レベルの検査精度をより向上させる観点から、バター調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.005~1.0重量%が挙げられる。
【0014】
歯磨き粉調香料液とは、歯磨き粉を想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、歯磨き粉調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、歯磨き粉調香料液は、カルボン、ミントオイル、メントフラン、メントール、メントン、メンチルアセテート、プレゴン、ロツンジホロン等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、歯磨き粉調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。歯磨き粉調香料液における香料成分の含有量については、歯磨き粉を想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。認知機能レベルの検査精度をより向上させる観点から、歯磨き粉調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.005~5.0重量%が挙げられる。
【0015】
墨汁調香料液とは、墨汁を想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、墨汁調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、墨汁調香料液は、ボルネオール等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、墨汁調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。墨汁調香料液における香料成分の含有量については、墨汁を想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.0005~100重量%が挙げられる。認知機能レベルの検査精度をより向上させる観点から、墨汁調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.001~1重量%が挙げられる。
【0016】
りんご調香料液とは、りんごを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、りんご調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、りんご調香料液は、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、ヘプタン酸アリル、エチレンブラシレート、酢酸ヘキシル、ヘキサノール、ヘキサナール、トランス-2-ヘキセナール、エチルブチレート、ブチルアセテート、ブチルブチレート等の中の1種以上の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、りんご調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。りんご調香料液における香料成分の含有量については、りんごを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。認知機能レベルの検査精度をより向上させる観点から、りんご調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.01~50重量%、より好ましくは0.02~10重量%が挙げられる。
【0017】
ひのき調香料液とは、ひのきを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、ひのき調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、ひのき調香料液は、α-セドレン、セドロール、ツヨプセン、ヒノキチオール、αピネン等の中の1種以上の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、ひのき調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。ひのき調香料液における香料成分の含有量については、ひのきを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。認知機能レベルの検査精度をより向上させる観点から、ひのき調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.005~50重量%、より好ましくは0.005~10重量%が挙げられる。
【0018】
石鹸調香料液とは、石鹸を想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、石鹸調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、石鹸調香料液は、ジヒドロジャスモン酸メチル、フェニルアルコール、2-フェニルエタノール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、アルデハイド等の中の1種以上の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、石鹸調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。石鹸調香料液における香料成分の含有量については、石鹸を想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。認知機能レベルの検査精度をより向上させる観点から、石鹸調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.002~1.0重量%が挙げられる。
【0019】
バニラアイス調香料液とは、バニラアイスを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、バニラアイス調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、バニラアイス調香料液は、バニリン等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、バニラアイス調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。バニラアイス調香料液における香料成分の含有量については、バニラアイスを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%、好ましくは0.002~10重量%、より好ましくは0.02~10重量%が挙げられる。
【0020】
蒸れた靴下調香料液とは、蒸れた状態の靴下を想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、蒸れた靴下調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、蒸れた靴下調香料液は、イソ吉草酸等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、蒸れた靴下調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。蒸れた靴下調香料液における香料成分の含有量については、蒸れた靴下を想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%、好ましくは0.005~25重量%、より好ましくは0.05~5.0重量%が挙げられる。
【0021】
みかん調香料液とは、みかんを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、みかん調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、みかん調香料液は、D-リモネン、ミルセン、α-ピネン、リナロール等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、みかん調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。みかん調香料液における香料成分の含有量については、みかんを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%、好ましくは0.05~50重量%、より好ましくは0.1~10.0重量%が挙げられる。
【0022】
コーヒー調香料液とは、コーヒーを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、コーヒー調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、コーヒー香料液は、メチルシクロペンテノロン、フルフラール、バニリン、フルフリルメルカプタン等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、コーヒー調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。コーヒー調香料液における香料成分の含有量については、みかんを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.00~100重量%、好ましくは0.002~10重量%、より好ましくは0.0025~5.0重量%が挙げられる。
【0023】
本発明の検査キットにおいて、香料液は2種以上含まれていればよいが、認知機能レベルの検査精度をより向上させる観点から、好ましくは3種以上、より好ましくは3~10種、更に好ましくは4~8種、特に好ましくは5~7種が挙げられる。
【0024】
また、本発明の検査キットにおいて、使用する香料液の組み合わせとしては、特に制限されないが、認知機能レベルの検査精度をより向上させる観点から、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液の中から2種以上、好ましくはこれらの3種が組み合わされて含まれていることが挙げられる。更に、認知機能レベルの検査精度をより一層向上させる観点から、本発明の検査キットにおいて使用する香料液の組み合わせとして、好ましくは、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液の中から2種以上と、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の中の少なくとも1種との組み合わせ;より好ましくは、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液の3種と、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の中の少なくとも1種との組み合わせ;更に好ましくは、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液の3種と、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の中の2種以上との組み合わせ;特に好ましくはバター調香料液、歯磨き粉調香料液、墨汁調香料液、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の6種の組み合わせが挙げられる。
【0025】
本発明の検査キット一実施形態では、香料液は、噴霧容器(スプレー容器等)、滴下容器、又は塗布用容器(ペン型容器等)に収容された状態でそれぞれ提供される。香料液が、これらの容器に収容された状態で提供される場合には、容器に収容された香料液を被付香基材に噴霧、滴下又は塗布することにより、被付香基材に付香させて、嗅覚検査を行えばよい。即ち、本発明の検査キットにおいて、香料液が、噴霧容器、滴下容器、又は塗布用容器に収容されている場合には、本発明の検査キットには被付香基材が更に付属されていてもよい。当該実施態様の検査キットにおいて、前記容器に収容された香料液の液量については、1回の検査で使用する量であってもよく、また2回以上の検査に使用できる量であってもよい。また、当該実施態様の検査キットにおいて、前記香料液を被付香基材に噴霧、滴下又は塗布する量については、被付香基材に各香料液の香りを付与できること限度として特に制限されず、使用する香料液の組成等に応じて適宜設定すれよいが、例えば、10~1000μl、好ましくは50~500μl、より好ましくは100~400μlが挙げられる。また、被付香基材の素材については、香料液によって付香され得ることを限度として特に制限されないが、例えば、紙、不織布、織布、編物、プラスチック等が挙げられる。また、被付香基材の形状についても、嗅覚検査が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、シート状、カップ状、ブロック状、スポンジ状等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の検査キットの他の一実施形態では、香料液は、開閉可能な開口部を有する容器に収容して密封した状態でそれぞれ提供される。香料液が当該容器に密封された状態で提供される場合には、容器の開口部を開口させた状態にして、当該開口部から発される香りを嗅ぐことにより、嗅覚検査を行えばよい。当該実施態様の検査キットにおいて、前記容器に収容される香料液の量については、開口部を開口させた状態にした際に、各香料液の香りが呈されることを限度として特に制限されないが、例えば、10~1000μl、好ましくは50~500μl、より好ましくは100~400μlが挙げられる。
【0027】
また、本発明の検査キットの更に別の一実施形態では、香料液は、紙、不織布、織布、編物、濾紙、スポンジ、ゲル等の基材に含浸して密封した状態でそれぞれ提供される。香料液が当該基材に含浸させた状態で提供される場合には、香料液が含浸している基材を取り出して、その香りを嗅ぐことにより、嗅覚検査を行えばよい。当該実施態様の検査キットにおいて、前記基材に含浸させる香料液の量については、各香料液の香りが呈されることを限度として特に制限されないが、例えば、基材1個当たりに、10~1000μl、好ましくは50~500μl、より好ましくは100~400μlが挙げられる。
【0028】
本発明の検査キットにおいて、香料液の容器には、香料液毎に符号を付しておき、2以上の香料液が混同しないようにしておくことが望ましい。
【0029】
[選択肢シート]
本発明の検査キットには、被験者が嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートが含まれる。
【0030】
選択肢シートには、香料液毎に、正答を含む複数の選択肢が示されている。選択肢シートには、正答となる香りを示す選択肢1個、正答ではない香りのダミー選択肢1個以上、分からないとの選択肢1個、及びこの中にはないという選択肢1個が示されていることが好ましい。選択肢シートにおいて、前記ダミー選択肢は1個以上示されていればよいが、認知機能レベルをより高精度で検査するために、好ましくは2個以上、より好ましくは2~4個示されていることが望ましい。ダミー選択肢で示す香りの種類については、正答となる香りの種類を考慮して、認知機能のレベルに応じて正誤が分かれ易くなる香りに設定すればよい。
【0031】
例えば、バター調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「バター」(正答選択肢)、「尿臭」(ダミー選択肢)、「シナモン」(ダミー選択肢)、「りんご」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0032】
例えば、歯磨き粉調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「歯磨き粉(正答選択肢)、「下水道」(ダミー選択肢)、「わさび」(ダミー選択肢)、「ゴム」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0033】
例えば、墨汁調香料液の場合であれば、「墨汁」(正答選択肢)、「味噌」(ダミー選択肢)、「カレー」(ダミー選択肢)、「汗臭」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0034】
例えば、りんご調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「りんご」(正答選択肢)、「ひのき」(ダミー選択肢)、「土」(ダミー選択肢)、「にんにく」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0035】
例えば、ひのき調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「ひのき」(正答選択肢)、「カレー」(ダミー選択肢)、「コーヒー」(ダミー選択肢)、「にんにく」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0036】
例えば、石鹸調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「石鹸」(正答選択肢)、「生ごみ」(ダミー選択肢)、「にんにく」(ダミー選択肢)、「接着剤」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0037】
例えば、バニラアイス調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「バニラアイス」(正答選択肢)、「ハッカ」(ダミー選択肢)、「にんにく」(ダミー選択肢)、「汗臭」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0038】
例えば、蒸れた靴下調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「蒸れた靴下」(正答選択肢)、「畳」(ダミー選択肢)、「醤油」(ダミー選択肢)、「バラ」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0039】
例えば、みかん調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「みかん」(正答選択肢)、「線香」(ダミー選択肢)、「家庭用ガス」(ダミー選択肢)、「カレー」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0040】
例えば、コーヒー調香料液を使用した嗅覚検査を回答する際に使用する選択肢シートの一例として、「コーヒー」(正答選択肢)、「線香」(ダミー選択肢)、「生ごみ」(ダミー選択肢)、「ゴム」(ダミー選択肢)、「分からない」、及び「この中にはない」の計6個の選択肢を示している選択肢シートが挙げられる。
【0041】
選択肢シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に符号を付しておき、嗅覚検査時に被験者が回答を選ぶ選択肢群を混同しないようにしておくことが望ましい。
【0042】
例えば、本発明の検査キットにおいて、香料液として、ひのき調香料液、石鹸調香料液、バター調香料液、りんご調香料液、墨汁調香料液、及び歯磨き粉調香料液を使用する場合であれば、選択肢シートの記載例として、図1に示すものが挙げられる。図1に示す選択肢シートおいて、香り「ア」の欄はひのき調香料液を使用する際に用いる選択肢、香り「イ」の欄は石鹸調香料液を使用する際に用いる選択肢、香り「ウ」の欄はバター調香料液を使用する際に用いる選択肢、香り「エ」の欄はりんご調香料液を使用する際に用いる選択肢、香り「オ」の欄は墨汁調香料液を使用する際に用いる選択肢、香り「カ」の欄は歯磨き粉調香料液を使用する際に用いる選択肢を示している。
【0043】
[判定シート]
本発明の検査キットには、認知機能レベルを判定するための判定シートが含まれる。判定シートを利用することにより、被験者の嗅覚検査の結果をスコア化して認知機能レベルを簡便に判定することが可能になる。
【0044】
判定シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に正答内容と回答の正誤に応じて付与されるスコアが示されている。回答の正誤に応じて付与されるスコアは、使用する香料液毎に、認知機能レベルを識別し易くなるように適宜設定すればよい。
【0045】
例えば、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、墨汁調香料液、及び必要に応じて他の香料液を使用する場合であれば、香料液毎の嗅覚検査の回答の正誤に応じて付与するスコアは表1に示す比率(以下、「スコア勾配パターンA」と表記することもある)を満たすように設定すればよい。
【0046】
【表1】
【0047】
例えば、前記スコア勾配パターンAにおいて、他の香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の3種の香料液を組み合わせて使用する場合であれば、香料液毎の嗅覚検査の回答の正誤に応じて付与するスコアは表2に示す比率(以下、「スコア勾配パターンA’」と表記することもある)を満たすように設定すればよい。
【0048】
【表2】
【0049】
また、例えば、他の好適な一例として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、墨汁調香料液、及び必要に応じて他の香料液を使用する場合に、香料液毎の嗅覚検査の回答の正誤に応じて付与するスコアのとして、表3に示す比率表3に示す比率(以下、「スコア勾配パターンB」と表記することもある)を満たすように設定すればよい。
【表3】
【0050】
例えば、前記スコア勾配パターンBにおいて、他の香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の3種の香料液を組み合わせて使用する場合であれば、香料液毎の嗅覚検査の回答の正誤に応じて付与するスコアは表4に示す比率(以下、「スコア勾配パターンB’」と表記することもある)を満たすように設定すればよい。
【表4】
【0051】
また、判定シートには、嗅覚検査に使用する香料液毎に回答の正誤に応じて付与される各スコアから求められる合計スコアに応じた認知機能レベルの指標が示されている。例えば、認知機能レベルが良好な者の合計スコアと認知機能レベルが低下傾向にある者の合計スコアのカットオフ値、認知機能レベルが低下傾向にある者の合計スコアと認知機能レベルに懸念がある者の合計スコアのカットオフ値に基づいて、合計スコアに応じた認知機能レベルの指標を設定することにより、認知機能レベルが、「良好」、「低下傾向」、「懸念あり」のいずれに該当するかの指標を示すことができる。
【0052】
本発明の検査キットで使用する香料液の組み合わせ、香料液の香りの強度、嗅覚検査の手法等によって、同一被験者であっても嗅覚検査結果の合計スコアが変化し得るので、認知機能レベルの検査精度をより向上させるためには、実際に使用する検査キットを使用して、合計スコアに応じた認知機能レベルの指標を定めておけばよい。例えば、予め、認知機能レベルが良好な者(例えば、軽度認知障害ではないことが確認されている健常者)複数人、認知機能レベルが低下傾向にある者(例えば、軽度認知障害であることが診断されている者)複数人、及び認知機能レベルに懸念がある者(例えば、認知症であることが診断されている者)複数人に対して嗅覚検査を行い、それぞれの合計スコアを求めておき、認知機能レベルが良好な者の合計スコアと認知機能レベルが低下傾向にある者の合計スコアのカットオフ値、認知機能レベルが低下傾向にある者の合計スコアと認知機能レベルが明らかに低下している者の合計スコアのカットオフ値を求めておき、これらのカットオフ値に基づいて、合計スコアに応じて認知機能レベルが、「良好」、「低下傾向」、「懸念あり」のいずれに該当するかの指標を示すことができる。前記カットオフ値は、合計スコアをROC(receiver operating characteristic curve:受信者動作特性曲線)解析によって求めることができる。
【0053】
例えば、図1に示す選択肢シートを使用する場合であれば、判定シートの記載例として、図2に示すものが挙げられる。図2に示す選択肢シートおいて、「スコア表」の欄には、香料液(ア~カ)毎に選択肢シートに示している選択肢が記載されており、正答選択肢にはスコア(数字)が付されている。図2に示す選択肢シートにおいて、正答の場合には正答選択肢に付されたスコアが付与され、不正答の場合には付与されるスコアは0である。図2に示す選択肢シートおいて、「スコア表」の欄には、合計スコアを記入する欄も設けられている。また、図2に示す選択肢シートおいて、「認知機能レベルの指標」の欄には、合計スコアに応じた認知機能レベルの指標が示されており、合計スコアが9~10点の場合には認知機能レベルが良好、合計スコアが5~8点の場合には認知機能レベルが低下傾向、合計スコアが4点以下の場合には認知機能レベルに懸念ありとする指標が示されている。
【0054】
なお、本発明の検査キットにおいて、選択肢シートと判定シートは、1枚に纏められた状態で提供され、使用時にこれらを切り離すように構成されていてもよい。
【0055】
[検査キットの使用方法]
本発明の検査キットを使用して認知機能レベルを検査するには、先ず、各香料液の香りを被験者に嗅がせて、選択肢シートに示された選択肢の中から感じた香りについて回答させる。被験者には、2個以上の香料液の香りを連続的に嗅がせてもよいが、嗅覚の馴化を防ぐために、1個の香料液の香りを嗅がせる度に数分間の休憩を挟んでもよく、また、数個の香料液の香りを連続的に嗅がせた後に数分間の休憩を挟んで更に数個の香料液の香りを連続的に嗅がせてもよい。
【0056】
次いで、被験者の回答内容を判定シートに照査することにより、被験者の回答の正誤に応じた合計スコア(香料液毎に付与されたスコアの合計)を算出し、当該合計スコアに基づいて、被験者の認知機能レベルを判定する。なお、被験者自身が、回答内容を判定シートに照査してもよく、また被験者以外の者が被験者の回答内容を判定シートに照査してもよい。
【0057】
2.認知機能レベルの検査方法
本発明の検査方法は、前記キットを使用して認知機能レベルを検査する方法であって、各香料液の香りを被験者に嗅がせて、選択肢シートに示された選択肢の中から感じた香りについて回答させる工程、及び被験者の回答内容を判定シートに照査する工程を含むことを特徴とする。本発明の検査方法の実施形態等については、前記「認知機能レベルの検査キット」の欄に示す通りである。
【0058】
3.認知機能レベルの検査に好適な香料液及びスコアの検討
以下に、認知機能レベルを高精度で検査できる香料液及びスコアを検討した結果に示す。但し、本発明は、以下に示す結果に限定されて解釈されるものではない。
【0059】
試験例
・被験者
健常者100名、軽度認知障害者(MCI)61名、及びアルツハイマー型認知症患者(AD)62名を被験者とした。
【0060】
100名の健常者は、MMSE(Mini-mental State Examination;ミニメンタルステート検査)が28点以上の者である。
【0061】
61名のMCIは、MMSEが24点以上27点以下であり、且つPetersenらの診断基準(Petersen RC: Mild cognitive impairment as a diagnostic entity. J. Intern. Med. 2004; 256(3): 183-194.)に基づく認知症専門医の判断により、記憶障害を有する軽度認知障害と診断された者である。
【0062】
62名のADは、MMSEが23点以下であり、且つICD-10(International classification of diseases-10)、DSM-5(Diagnostic and statistical manual of mental disorders-5)及びNIA-AA(National Institute on Aging and Alzheimer's Association )のいずれかに基づき、認知症専門医の判断により、アルツハイマー型認知症と診断された者である。
【0063】
・香料液の準備
以下に示す組成の各種香りを呈する香料液(合計20種類、香りのタイプは10種)を準備した。なお、香料液Bは、同じ香料を含む香料液Aに比べて、10~454倍量の香料が含まれている。
・バター調香料液A:バター調の香料成分(δ-デカラクトン含有)を0.01重量%含有し、バターの香りを呈する香料液
・バター調香料液B:バター調の香料成分(δ-デカラクトン含有)を0.5重量%含有し、バターの香りを呈する香料液
・歯磨き粉調香料液A:歯磨き粉の香料成分(カルボン含有)を0.01重量%含有し、歯磨き粉の香りを呈する香料液
・歯磨き粉調香料液B:歯磨き粉調の香料成分(カルボン含有)を2.5重量%含有し、歯磨き粉の香りを呈する香料液
・墨汁調香料液A:墨汁調の香料成分(ボルネオール含有)を0.001重量%含有し、墨汁の香りを呈する香料液
・墨汁調香料液B:墨汁調の香料成分(ボルネオール含有)を0.1重量%含有し、墨汁の香りを呈する香料液
・りんご調香料液A:りんご調の香料成分(酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、ヘプタン酸アリル、及びエチレンブラシレート及び酢酸ヘキシル含有)を0.04重量%含有し、りんごの香りを呈する香料液
・りんご調香料液B:りんご調の香料成分(酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、ヘプタン酸アリル、及びエチレンブラシレート及び酢酸ヘキシル含有)を5.0重量%含有し、りんごの香りを呈する香料液
・石鹸調香料液A:石鹸調の香料成分(ジヒドロジャスモン酸メチル及びフェニルアルコール含有)を0.00)重量%含有し、石鹸の香りを呈する香料液
・石鹸調香料液B:石鹸調の香料成分(ジヒドロジャスモン酸メチル及びフェニルアルコール含有)を0.12重量%含有し、石鹸の香りを呈する香料液
・ひのき調香料液A:ひのき調の香料成分(α-セドレン、セドロール及びツヨプセン含有)を0.011重量%含有し、ひのきの香りを呈する香料液
・ひのき調香料液B:ひのき調の香料成分(α-セドレン、セドロール及びツヨプセン含有)を5.0重量%含有し、ひのきの香りを呈する香料液
・バニラアイス調香料液A:バニラアイス調の香料成分(バニリン含有)を0.02重量%含有し、バニラアイスの香りを呈する香料液
・バニラアイス調香料液B:バニラアイス調の香料成分(バニリン含有)を5.0重量%含有し、バニラアイスの香りを呈する香料液
・蒸れた靴下調香料液A:蒸れた靴下調の香料成分(イソ吉草酸含有)を0.1重量%含有し、蒸れた靴下の香りを呈する香料液
・蒸れた靴下調香料液B:蒸れた靴下調の香料成分(イソ吉草酸含有)を2.5重量%含有し、蒸れた靴下の香りを呈する香料液
・みかん調香料液A:みかん調の香料成分(リモネン含有)を0.5重量%含有し、みかんの香りを呈する香料液
・みかん調香料液B:みかん調香料(リモネン含有)を5.0重量%含有し、みかんの香りを呈する香料液
・コーヒー調香料液A:コーヒー調の香料成分(メチルシクロペンテノロン含有)を0.0025重量%含有し、コーヒーの香りを呈する香料液
・コーヒー調香料液B:コーヒー調の香料成分(メチルシクロペンテノロン含有)を1.0重量%含有し、コーヒーの香りを呈する香料液
【0064】
・嗅覚検査
先ず、95ml容の紙コップの中に前記香料液をスプレーにて2回噴霧して約300μlの香料液を紙コップに付着させることにより、付香紙コップを準備した。付香紙コップは、前記20種の香料液毎に準備した。
【0065】
表5に示す5つの検査順番パターンP~Tを用意し、被験者に対してランダムに選択した検査順番パターンを設定した。設定された検査順番パターンに従って、検査順番1~10番の付香紙コップ(香料液Aを付着させた紙コップ)を机に並べて、被験者に検査順番1~5番の順で香りを嗅がせて、回答させた。その後、嗅覚の馴化を防ぐために2分間の休憩を挟んだ後、残りの検査順番6~10番の順で香りを嗅がせて、回答させた。その後、嗅覚の馴化を防ぐために5分間の休憩を挟んだ。次いで、設定された検査順番パターンに従って、検査順番11~20番の付香紙コップ(香料液Bを付着させた紙コップ)を机に並べて、被験者に検査順番11~15番の順で香りを嗅がせて、回答させた。その後、嗅覚の馴化を防ぐために2分間の休憩を挟んだ後、残りの検査順番16~20番の順で香りを嗅がせて、回答させた。
【0066】
被験者には、付香紙コップの香りを嗅ぐ度に、何らかの香りを感じるか否かについて回答させた。何らかの香りを感じると回答した場合には、表6に示す香料液毎に設定した選択肢A~Fを示し、感じた香りがA~Fのいずれに該当するかを回答させた。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
・結果
健常者、MCI、及びADの各被験者について、20種の香料液の検査において香りを正しく回答した割合(正答率)の平均値を表7に示す。同じ香料を含む香料液において、香料の濃度が低い香料液Aと香料の濃度が高い香料液Bを比べると、香料液Bの方が高い正答率になる傾向が認められた。但し、MCIと健常者との正答率の差、MCIとADのとの正答率の差の点では、香料液Aと香料液Bとでは同じ傾向が認められた。また、20種の香料液の検査において、正答率は、健常者、MCI、及びADの順で高くなっていた。
【0070】
但し、歯磨き粉調香料液、バター調香料液及び墨汁調香料液については、他の香料液に比べて、MCIと健常者との正答率の差が大きくなっていた。また、歯磨き粉調香料液、バター調香料液及び墨汁調香料液の正答率については、MCIとADとの差が大きくなっており、とりわけ墨汁調香料液の正答率については、MCIとADの差が顕著であった。更に、リンゴ調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液についても、MCIとMCIとの正答率の差が比較的大きく、且つMCIとADとの正答率の差も大きかった。以上の結果から、歯磨き粉、バター調香料液及び墨汁調香料液を使用して嗅覚検査を行うことにより、MCIと健常者の識別性、及びMCIとADの識別性が高く、MCIを高精度に検査できることが明らかとなった。また、前記香料液に加えて、リンゴ調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を使用して嗅覚検査を行うことにより、MCIをより高精度に検査できることが明らかとなった。
【0071】
【表7】
【0072】
次に、ROC解析を行い、複数の香料液を組み合わせた場合の検査精度を検討した。具体的には、香料の濃度が高い10種の香料液Bの結果に基づいて、1つの香料液Bを正答した場合を1点としてスコア化して、表8及び9に示す各香料液を組み合わせた場合のスコアの合計点を用いてROC解析を行い、ROC曲線のAUC(Area Under the Curve)、カットオフ値、感度、及び特異度を求めた。ROC解析には、SAS(release 9.4)(SAS Institute Japan株式会社)を使用し、カットオフ値はYouden Index法により算出した。結果を表8及び9に示す。歯磨き粉、バター及び墨汁の香りを呈する香料液の検査結果を組み合わせた場合には、MCIと健常者との間、及びMCIとADとの間で、ROC解析におけるAUC及び感度が高く、且つ特異度が低くなっており、MCIと健常者の識別、及びMCIとADの識別ができ、MCIの高精度の検査が可能になることが分かった。特に、歯磨き粉調香料液、バター調香料液及び墨汁調香料液に加えて、リンゴ調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の少なくとも1種、特にこれらの4種を組み合わせて嗅覚検査することにより、MCIの検査精度がより一層向上することが確認された。
【0073】
【表8】
【0074】
【表9】
【0075】
以上の通り、1つの香料液を正答した場合を1点としてスコア化してROC解析を行うことにより、歯磨き粉調香料液、バター調香料液、墨汁調香料液、リンゴ調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を用いた嗅覚検査が、とりわけ高精度なMCIの検査に有効であることが確認された。そこで、次に、香料液毎に正答した場合の点数を表10に示すように代えて、前記6種の香料液を組み合わせた場合の検査精度をROC解析によって検討した。結果を表11に示す。この結果、点数勾配パターンA’及びB’のように、香料液毎に正答した場合の点数をスコア化した場合には、MCIの検査精度が更に向上することが分かった。特に、点数勾配パターンA’に従ってスコア化することにより、MCIの検査精度が格段顕著に高まることが確認された。
【0076】
【表10】
【0077】
【表11】
図1
図2