(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091923
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】偏光子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20230626BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20230626BHJP
B32B 27/30 20060101ALN20230626BHJP
B32B 7/023 20190101ALN20230626BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J7/00 Z CEX
B32B27/30 102
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206798
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】崔 正寧
(72)【発明者】
【氏名】朴 重萬
(72)【発明者】
【氏名】ジョ ミンヒョク
【テーマコード(参考)】
2H149
4F073
4F100
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149AB01
2H149BA02
2H149BA12
2H149BB01
2H149BB07
2H149BB08
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2H149EA12
2H149FA02X
2H149FA03W
2H149FA05X
2H149FA08X
2H149FA12X
2H149FA13X
4F073AA24
4F073AA26
4F073BA17
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4F100AK21
4F100AK21A
4F100AR00A
4F100AR00B
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4F100BA03
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4F100JN01
4F100JN10
4F100JN10A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】視感度補正偏光度が良好であり、かつニュートラルな色相(直交色相b値が0に近い)を有する偏光子の製造方法を提供すること。
【解決手段】偏光子の製造方法であって、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に浸漬して処理を施す処理工程を含み、前記処理工程において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを前記処理液に浸漬させる直前に前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して加湿処理を施す、偏光子の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子の製造方法であって、
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に浸漬して処理を施す処理工程を含み、
前記処理工程において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを前記処理液に浸漬させる前に前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して加湿処理を施す、偏光子の製造方法。
【請求項2】
前記処理工程は、染色工程、架橋工程および補色工程からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の偏光子の製造方法。
【請求項3】
前記処理工程は、染色工程および架橋工程からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の偏光子の製造方法。
【請求項4】
前記加湿処理は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して温度25℃湿度90%RH以上のエアを噴霧する方法により行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、偏光板のヒートサイクル試験に対する耐久性を向上させ、直交色相をニュートラルグレーとするために、偏光子中のホウ素含有量、加熱時の収縮力をコントロールすることを特徴とする偏光子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、視感度補正偏光度(以下、簡略化して偏光度ともいう)が良好であり、かつニュートラルな色相(直交色相b値が0に近い)を有する偏光子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の偏光子の製造方法を提供する。
[1] 偏光子の製造方法であって、
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に浸漬して処理を施す処理工程を含み、
前記処理工程において、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを前記処理液に浸漬させる前に前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して加湿処理を施す、偏光子の製造方法。
[2] 前記処理工程は、染色工程、架橋工程および補色工程からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の偏光子の製造方法。
[3] 前記処理工程は、染色工程および架橋工程からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の偏光子の製造方法。
[4] 前記加湿処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して温度25℃湿度90%RH以上のエアを噴霧する方法により行う、[1]~[3]のいずれかに記載の偏光子の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な偏光度を有し、かつニュートラルな色相を有する偏光子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】偏光子の製造方法における装置の配置例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の全ての図面においては、各構成要素を理解し易くするために縮尺を適宜調整して示しており、図面に示される各構成要素の縮尺と実際の構成要素の縮尺とは必ずしも一致しない。
【0009】
<偏光子の製造方法>
本発明の一態様に係る偏光子の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に浸漬して処理を施す処理工程を含み、処理工程において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に浸漬させる前にポリビニルアルコール系樹脂フィルムに加湿処理を施す偏光子の製造方法である。
【0010】
偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素等の二色性色素が吸着配向したものであることができる。偏光子は、例えばポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水を含有する処理液に浸漬させてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させる膨潤工程、ポリビニアルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素を含有する処理液に浸漬させてポリビニアルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着させる染色工程、ポリビニアルアルコール系樹脂フィルムを架橋剤を含有する処理液に浸漬させて吸着された二色性色素をポリビニルアルコール系樹脂フィルム中に固定するとともにポリビニルアルコール系樹脂を架橋させる架橋工程、ポリビニアルアルコール系樹脂フィルムを水を含有する処理液に浸漬させてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに付着している薬品や異物を洗浄除去する洗浄工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる乾燥工程を施し、架橋工程またはそれより前の工程において一軸延伸する延伸工程を施し、架橋工程と洗浄工程との間にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥する一次乾燥工程を施す方法により製造することができる。各工程については後述する。
【0011】
図1に、本発明の偏光子の製造方法における装置の配置例を断面模式図で示す。
図1に示す装置は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10が、繰出しロール11から巻き出され、膨潤処理を行うための膨潤槽13、染色処理を行うための染色槽15、および架橋処理を行うための架橋槽17を、順次通過するように構成されている。架橋槽17を経たフィルムは、上記した一次乾燥を行うための一次乾燥炉21を通って一次乾燥され、引き続き洗浄槽19を通って未反応のヨウ素等の二色性色素やホウ酸などが洗い流され、最後に最終乾燥炉23を通って乾燥され、偏光子30が得られるように構成されている。図示されていないが、架橋槽17で、またはそれより前に、一軸延伸が施される。得られた偏光子30は、巻取りロール27に巻き取る形態が示されているが、ここで巻き取らずに次の保護フィルムを貼る工程に供することもできる。
図1には、膨潤槽13、染色槽15、架橋槽17および洗浄槽19をそれぞれ1槽ずつ設けた例を示したが、ある一つの処理に対して複数の槽を設けてもよい。
図1における矢印は、フィルムの搬送方向を示している。
【0012】
偏光子の製造方法における装置は、フィルム搬送経路をニップロール12やガイドロール14等を適宜の位置に配置することによって構築することができる。例えば、ガイドロール14は、処理液を収容する処理槽の前後や処理槽中に配置することができ、これにより処理槽へのフィルムの導入・浸漬および処理槽からの引き出しを行うことができる。より具体的には、処理槽の入口および出口にニップロール12を配置し、フィルムに張力を掛けながら搬送させることができる。また、処理槽中に2以上のガイドロール14を設け、これらのガイドロール14に沿ってフィルムを搬送させることにより、処理槽にフィルムを浸漬させることができる。
【0013】
加湿処理を施し得る処理工程としては、染色工程、架橋工程および補色工程からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
図1に示す装置では、架橋槽17の入口側(上流側)のニップロール12と架橋槽17に収容される処理液との液面18との間に、後述の加湿処理を施す装置16が配置されている。
【0014】
偏光子の原料となるポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10は通常、図示されるように、繰出しロール11にロール状に巻かれており、この繰出しロール11から長尺状のまま巻き出される。ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10は、その厚みが通常20~100μmの範囲内、好ましくは30~80μmの範囲内であり、また、その工業上実用的な幅は1500~6000mmの範囲内である。
【0015】
(ポリビニルアルコール系樹脂フィルム)
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、偏光子の基材となる樹脂フィルムであり、具体的にはポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化して得られる樹脂からなるフィルムである。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体等を挙げることができる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類等がある。
【0016】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85~100モル%程度であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用できる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1000~10000程度であり、好ましくは1500~5000程度である。
【0017】
ポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光子の原反となる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されず、公知の方法によって製膜することができる。ポリビニルアルコール系原反フィルムの厚みも特に限定されないが、例えば、20~150μm程度の範囲から適宜選択すればよい。
【0018】
上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものが、偏光子となる。
【0019】
(加湿処理)
偏光子の製造方法は、処理工程において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に浸漬させる前にポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して加湿処理を施す。処理工程については後述する。加湿処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して水分を与える処理であることができる。上記加湿処理により、偏光子の偏光度が良好となり易い傾向を示し、かつニュートラルな色相を示し易くなる傾向にある。これは、加湿処理を実施することにより、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム中に含まれる水分量が増加し、さらなる膨潤が進行し、後述するヨウ素や架橋剤を含有する処理液がポリビニルアルコール系樹脂フィルムに浸透し易くなる。その結果、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのさらなる応力緩和が進行し、後述する延伸処理により延伸され易くなるためであると推測される。
【0020】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して水分を与える方法としては、例えばポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して湿度が調節されたエアを噴霧する方法、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを湿度が調節された雰囲気中を通過させる方法等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して湿度が調節されたエアを噴霧する方法が好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂フィルム対して噴霧するエアは、例えば温度25℃湿度90%RH以上であってよく、噴霧量が例えば0.1L/h以上10L/h以下であってよく、好ましくは1L/h以上5L/h以下である。加湿処理を施す装置としては、例えば加湿器、高湿炉等が挙げられる。
【0021】
加湿処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に浸漬させる前に行うことにより、加湿処理により増加したポリビニルアルコール系樹脂フィルム中の含水量を低減させることなく、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液中に浸漬させることができる。加湿処理を行う位置は、例えば処理液を収容する処理槽の入口に取り付けられたニップロールと処理槽に収容された処理液の液面との間であってよく、好ましくは液面から10cm~1m上流側である。加湿処理は、例えば処理液にフィルムを浸漬する0.5~4秒前、より好ましくは1~2秒前に行うことができる。
【0022】
上述のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して湿度が調節されたエアを噴霧する方法により加湿処理を行う場合、処理液を収容する処理槽の入口側(上流側)に取り付けられたニップロールと、処理槽に収容された処理液の液面との間に加湿器を設置し、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの片面または両面に湿度が調節されたエアを噴霧することでポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液に浸漬させる前に加湿処理を行うことができる。
【0023】
(処理工程)
処理工程は、ポリビニアルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素を含有する処理液に浸漬させる染色工程、ポリビニアルアルコール系樹脂フィルムを架橋剤を含有する処理液に浸漬させる架橋工程およびポリビニアルアルコール系樹脂フィルムを補色剤を含有する処理液に浸漬させる補色工程からなる群から選択される少なくとも1つであることができる。処理工程は、好ましくは染色工程および架橋工程からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0024】
処理工程において、処理液を収容する処理槽を複数用いて処理を行う場合、各処理槽ごとに加湿処理を施す装置を配置してもよいし、最初の処理槽のみに加湿処理を施す装置を配置してもよい。
【0025】
(膨潤工程)
膨潤処理を行う膨潤工程は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを水を含有する処理液に接触させ、膨潤させる(膨潤処理)工程であることができる。この膨潤処理は、フィルム表面に付着した異物の除去、フィルム中に含まれるグリセリン等の可塑剤の除去、後工程での易染色性の付与、フィルムの可塑化などの目的で行われる。膨潤処理の条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつポリビニルアルコール系樹脂フィルムの極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定される。具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを、例えば温度10~50℃、好ましくは20~50℃の水を含有する処理液に浸漬することにより、膨潤処理が行われる。膨潤処理の時間は、通常5~300秒であり、好ましくは20~240秒である。
【0026】
通常、膨潤工程では、図示されるように、水を含有する処理液が収容された膨潤槽13内に複数のガイドローラを配置して、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送する。また、フィルムが幅方向に膨潤してフィルムにシワが入るなどの問題が生じやすいので、エキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、テンタークリップ、ベンドバーなど、公知の拡幅装置でフィルムのシワを除きつつフィルムを搬送することが好ましい。さらに、浸漬中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤槽13中での水流を水中シャワーで制御したり、EPC装置(Edge Position Control装置:フィルムの端部を検出してフィルムの蛇行を防止する装置)などを併用したりすることも有用である。
【0027】
膨潤槽13で使用する水を含有する処理液は、純水のほか、ホウ酸や塩化物、その他の無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類などが0.01~10質量%の範囲で添加された水溶液であってもよい。ただし、上記した目的からは、実質的に溶解成分を含まない純水が好ましく用いられる。溶解成分のない純水は、通常の水に対して逆浸透膜処理を行う方法などにより得ることができる。
【0028】
膨潤工程において膨潤槽は
図1に示すように1槽のみ設けてもよいし、2槽以上設けてもよい。膨潤槽が2槽から構成される場合、上流側から第1膨潤槽、第2膨潤槽という。膨潤槽が3槽以上から構成される場合も同様である。
【0029】
膨潤槽13の入口側(上流側)に加湿処理を施す装置を配置し、加湿処理を行うことができる。膨潤槽が2槽以上から構成される場合、各槽ごとに加湿処理を施す装置を配置してもよいし、最初の膨潤槽のみに加湿処理を施す装置を配置してもよい。
【0030】
膨潤工程では、フィルムが幅方向および搬送方向の双方に膨潤することになる。膨潤工程では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、搬送方向のフィルムのたるみをなくすために、例えば、膨潤槽13の前後にある搬送ロールの速度をコントロールするなどの手段を講ずることが好ましい。具体的には、膨潤槽13の入口側搬送ロールの周速度に対する出口側搬送ロールの周速度の比を、処理浴の温度に応じて1.2~2倍程度にするのが好ましい。また、所望であれば、この工程で一軸延伸を施すこともできる。
【0031】
(染色工程)
染色工程は、二色性色素を含む処理液(以下、染色液ともいう)にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬してポリビニルアルコール系樹脂フィルムを染色し、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着させる(染色処理)ために行われる。この染色工程は、膨潤工程を経た後、場合によってはさらに水浸漬工程を経た後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、図示されるように、染色液が収容された染色槽15に浸漬することにより、通常行われる。染色処理の条件は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着させることが可能な範囲で、かつフィルムの極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定することができる。二色性色素としては、例えばヨウ素等が挙げられる。
【0032】
染色工程で使用する染色液は、二色性色素がヨウ素である場合、水100質量部に対して、ヨウ素を0.003~0.2質量部およびヨウ化カリウムを0.1~10質量部含む水溶液であることができる。また、ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛のような他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムに加えて他のヨウ化物を併用してもよい。さらに、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等のヨウ化物以外の化合物を共存させてもよい。本発明においてはヨウ素以外の成分を含む場合であっても、水100質量部に対し、ヨウ素を0.003質量部以上含む水溶液であれば、染色浴とみなすことができる。染色浴の温度(染色温度)は、通常10~50℃、好ましくは20~40℃であり、また染色処理する時間(染色時間)は、通常10~600秒、好ましくは30~200秒である。
【0033】
染色工程において染色槽は
図1に示すように1槽のみ設けてもよいし、2槽以上設けてもよい。染色槽が2槽から構成される場合、上流側から第1染色槽、第2染色槽という。染色槽が3槽以上から構成される場合も同様である。
【0034】
染色槽15の入口側(上流側)に加湿処理を施す装置を配置し、加湿処理を行うことができる。染色槽が2槽以上から構成される場合、各槽ごとに加湿処理を施す装置を配置してもよいし、最初の架橋槽のみに加湿処理を施す装置を配置してもよい。染色工程において加湿処理を行うことにより、膨潤したポリビニルアルコール系樹脂フィルム中の分子間に染色液が含浸される空間が確保され、二色性色素の吸着量が増加し、染色性が改善され、偏光子の色相(単体色相b値および直交色相b値)が向上し易くなる傾向にある。
【0035】
染色工程においても、膨潤工程と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するため、エキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバー等の拡幅装置を適宜配置することができ、これらの装置を用いる場合は、染色槽15の内部、その入口および出口のいずれか1以上に設置すればよい。
【0036】
(架橋工程)
架橋工程は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、架橋剤を含む処理液で処理し、ポリビニルアルコール系樹脂を架橋させるとともに、吸着されたヨウ素等の二色性色素を樹脂中に固定させる(架橋処理)ために行われる。この工程は、染色工程を経た後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、架橋剤を含む処理液が収容された架橋槽17に浸漬することにより、通常行われる。
【0037】
架橋剤は例えばホウ酸であることができる。架橋剤を含む処理液は、ホウ酸を含む水溶液(ホウ酸処理液)であることができる。ホウ酸処理液は、水100質量部に対して、ホウ酸を0.5~15質量部含む水溶液であることができる。ホウ酸処理液におけるホウ酸の含有量が少なすぎると、十分な架橋効果が得られにくくなる傾向にあり、後述する水洗工程などにおいてヨウ素等の二色性色素がポリビニルアルコール系樹脂フィルムから溶出して、偏光子の直交色相が青色にシフトしやすくなる。一方、ホウ酸の含有量が多すぎると、加熱条件下において吸収軸方向への収縮力が大きくなる傾向にあり、偏光板化したときの、特にヒートサイクル試験に対する耐久性が低下することがある。本発明においては、ホウ酸処理液におけるホウ酸の含有量は、水100質量部に対して1~3.5質量部、とりわけ2~3.5質量部の範囲とすることが好ましい。
【0038】
二色性色素がヨウ素である場合、ホウ酸処理液は、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましく、その量は、水100質量部に対して、通常5~20質量部、好ましくは8~15質量部である。ホウ酸処理液におけるヨウ化物の含有量が少ないと、偏光子の直交色相が青色にシフトし易くなる。一方、ヨウ化物の含有量が多くなると、ホウ酸による架橋反応を阻害することがあり、やはり偏光子の直交色相は青色にシフトし易くなる。
【0039】
ホウ酸処理液に含有させることができるヨウ化物は、ヨウ化カリウムやヨウ化亜鉛などであることができる。また、ヨウ化物以外の化合物をホウ酸処理液中に共存させてもよく、その例として、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどを挙げることができる。さらに、必要に応じて、グリオキザール、グルタルアルデヒドなど、ホウ酸以外の架橋剤を、ホウ酸とともに使用してもよい。
【0040】
架橋処理は、通常50~70℃、好ましくは53~65℃の温度で行われる。温度が低すぎると、架橋反応の進行が不十分になり易く、一方で温度が高すぎると、架橋処理中にフィルムの切断が起き易くなって、加工安定性が著しく低下し易い。また、架橋処理の時間は、通常10~600秒、好ましくは20~300秒、より好ましくは20~100秒である。
【0041】
架橋工程において架橋槽は
図1に示すように1槽のみ設けてもよいし、2槽以上設けてもよい。架橋槽が2槽から構成される場合、上流側から第1架橋槽、第2架橋槽という。架橋槽が3槽以上から構成される場合も同様である。架橋槽が2槽以上から構成される場合、上流側の架橋槽のホウ酸濃度は、その後に設置された架橋槽の濃度より高くすることが好ましい。
【0042】
架橋槽17の入口側(上流側)に加湿処理を施す装置を配置し、加湿処理を行うことができる。架橋槽が2槽以上から構成される場合、各槽ごとに加湿処理を施す装置を配置してもよいし、最初の架橋槽のみに加湿処理を施す装置を配置してもよい。架橋工程において加湿処理を行うことにより、架橋前の膨潤により応力緩和が進行し、さらなる延伸が可能となり、配向度が向上し易くなり、また、膨潤したポリビニルアルコール系樹脂フィルム中の分子間に架橋剤が含浸される空間が確保され、架橋度が向上し易くなる傾向にある。
【0043】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、架橋工程中に一軸延伸されてもよい。延伸処理は以下に詳述するが、通常は機械的な流れ方向(搬送方向)に沿って施される。架橋工程において一軸延伸する場合、その延伸倍率は、例えば1.2~3倍の範囲内とすることが好ましい。このときの一軸延伸は、間隔を空けて配置された複数組のロールを用いて、多段で行ってもよい。
【0044】
(補色工程)
図示されていないが、色相調整(補色)のための補色処理を行ってもよい。補色処理を行う補色工程は、通常、架橋工程後に行うことができる。補色処理は、補色剤を含有する処理液を収容する補色槽にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することにより行うことができる。補色槽に収容される処理液の温度は、例えば10℃以上65℃以下であり、好ましくは20℃以上60℃未満である。二色性色素がヨウ素である場合、補色剤としてヨウ化物を用いることができる。補色剤を含有する処理液における架橋剤の含有量は、水100質量部あたり、例えば1~5質量部である。補色剤を含有する処理液におけるヨウ化物の含有量は、水100質量部あたり、例えば3~30質量部である。補色工程における補色液の温度は、架橋工程における架橋液の温度よりも低いことが好ましい。
【0045】
補色工程において補色槽は1槽のみ設けてもよいし、2槽以上設けてもよい。補色槽が2槽から構成される場合、上流側から第1補色槽、第2補色槽という。補色槽が3槽以上から構成される場合も同様である。
【0046】
補色槽17の入口側(上流側)に加湿処理を施す装置を配置し、加湿処理を行うことができる。補色槽が2槽以上から構成される場合、各槽ごとに加湿処理を施す装置を配置してもよいし、最初の補色槽のみに加湿処理を施す装置を配置してもよい。
【0047】
(洗浄工程)
洗浄工程は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄する(洗浄処理)ために行われる。具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに付着した余分なホウ酸やヨウ素等の薬剤がこの洗浄処理で除去される。
【0048】
洗浄処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄槽19に収容される水を含む処理液に浸漬する方法により行われる。また、洗浄槽中で水を含む処理液をシャワーとしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに噴霧してよい。水を含む処理液は、実質的に溶解成分を含まない純水が好ましく用いられる。洗浄処理の条件は、処理液の温度が通常2~40℃であり、処理時間が通常2~120秒である。
【0049】
洗浄工程は、
図1のように1つの洗浄槽を配置して1段階でも行ってもよいし、いくつかの洗浄槽を直列に配置して複数の段階で行ってもよい。洗浄工程を複数の段階で行う場合は、上流に配置したいずれかの処理液に無機塩の水溶液を用いてもよい。この無機塩は例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどから選択して用いることができる。また、これらの無機塩は一種類のみ使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0050】
洗浄槽19の入口側(上流側)に加湿処理を施す装置を配置し、加湿処理を行うことができる。洗浄槽が2槽以上から構成される場合、各槽ごとに加湿処理を施す装置を配置してもよいし、最初の洗浄槽のみに加湿処理を施す装置を配置してもよい。
【0051】
洗浄工程では、膨潤工程と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するため、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対してその機械的な流れ方向に沿って張力を付与することが好ましい。そのときの張力は、例えば300~1000N/mが好適である。
【0052】
洗浄工程におけるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの搬送速度は、最適な速度を適宜選択することができるが、例えば、走行速度5~30m/分とすることができる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの搬送速度が30m/分より速くなると、ロール上でフィルムが滑りやすくなる傾向があり、安定した延伸が困難になるなどの不具合が生じやすい傾向がある。
【0053】
また、洗浄工程中に一軸延伸処理を施してもよい。ここで延伸する場合、その延伸倍率は、例えば、1.05~1.2倍とすることができる。
【0054】
(その他の工程)
偏光子の製造方法は、上述の処理工程の他に、例えば延伸工程、一次乾燥工程および最終乾燥工程等をさらに含むことができる。
【0055】
(延伸工程)
延伸工程は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸に延伸して配向させ、その配向方向に沿ってヨウ素を配向させるためのものであり、上で説明した架橋工程またはそれよりも前の段階で行われる。具体的にはこの延伸工程は、膨潤工程、染色工程および架橋工程のうちのいずれか少なくとも1つの工程中、またはこれらいずれかの工程の前段階において行われる。膨潤工程、染色工程および架橋工程のいずれかで一軸延伸する場合は、例えば槽入口側の搬送ロールと槽出口側の搬送ロールに周速度差をつける方法などによって行うことができる。一方、膨潤工程、染色工程または架橋工程の前段階で一軸延伸する場合は、各工程の前に延伸槽を設ける湿式延伸を採用してもよいし、空気中で延伸する方法や、加熱したロールに接触させながら延伸する方法など、乾式延伸を採用してもよい。
【0056】
延伸処理は、少なくとも架橋工程において行うことが好ましく、さらには染色工程および架橋工程の両工程において行うことが好ましく、とりわけ、膨潤工程、染色工程および架橋工程のそれぞれにおいて行うことがより好ましい。これらの工程中に延伸処理を施す場合は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを槽内の処理液に浸漬した状態で、一軸延伸される。
図1を参照して説明すると、架橋工程において一軸延伸する場合は、架橋槽17内の処理液中で行われ、同様に、染色工程において一軸延伸する場合は、染色槽15内の処理液中で、膨潤工程において一軸延伸する場合は、膨潤槽13内の処理液中で、それぞれ行われる。
【0057】
すべての延伸工程を経たポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、最終的な積算延伸倍率(総累積延伸倍率)が4.5~8倍となるようにすることが好ましく、5~7倍となるようにすることがより好ましい。ここで、積算延伸倍率とは、繰出しロール11に巻かれた原反フィルム10における延伸軸方向の基準長さが、すべての延伸工程終了後のフィルムにおいてどれだけの長さになったかを意味する。ホウ酸処理工程において延伸するほか、膨潤工程や染色工程においても延伸された場合は、それらの延伸も含めた値となる。例えば、原反フィルムにおいて延伸軸方向の長さが1mであった部分が全ての延伸処理終了後に5mになっていれば、このときの積算延伸倍率は5倍となる。
【0058】
(一次乾燥工程)
図1に示されるように架橋工程と洗浄工程との間で一次乾燥工程が行ってもよい。この一次乾燥工程は、架橋処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに含まれる水分の割合、すなわち水分率を調整する目的で行われる。
【0059】
図1に示されるように、架橋槽17を出たフィルムは、一次乾燥炉21に導かれ、そこで加熱され、一次乾燥処理が施される。このときの加熱は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに熱風を吹き付ける方法、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを発熱部材に直接接触させる方法、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに輻射エネルギーを照射する方法などによって行うことができる。
【0060】
熱風を吹き付ける場合は、例えば、熱風を噴射する熱風ノズルが加熱手段となり、そこから、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに直接熱風を噴射すればよい。この方法によれば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面の水分を熱風で飛ばしつつ乾燥できるため、特にフィルム表面を効率的に乾燥することが可能となる。
【0061】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを発熱部材に直接接触させる場合は、例えば、加熱したロール(熱ロール)が加熱手段となり、そこに、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを巻きつけ、フィルムを加熱すればよい。この方法によれば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに発熱部材を直接接触させているため、フィルムの加熱温度を均一にすることが可能となり、乾燥ムラなどが生じにくくなる。
【0062】
輻射エネルギーを照射する場合は、例えば、赤外線ヒーターが加熱手段となり、そこから、輻射エネルギーをポリビニルアルコール系樹脂フィルムに照射することで、フィルム自体を発熱させて乾燥すればよい。この方法によれば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム自体を発熱させて乾燥するため、フィルムの内部も含めて全体を均一に加熱することが可能となる。
【0063】
上記の方法は、単独で実施してもよいし、異なる複数の方法を組み合わせてもよい。また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両面を乾燥できるように、フィルムの両側に上記の加熱手段を配置することが好ましい。
【0064】
一次乾燥は、例えば、移動しているフィルムにヒーターの熱を当てるような形で環境雰囲気中(外気)にて行うこともできるが、その場合は、外気による加熱効率の低下や、外気の乱れによる乾燥ムラなどが起こりやすい。このようなことを防ぐためには、
図1に示すように、一次乾燥炉21の内部で行うことが好ましく、とりわけ、乾燥炉の内部を閉鎖した閉鎖系で行うことが好ましい。特に、熱風や輻射エネルギーを利用する方法は、外気による影響が大きくなりやすいため、閉鎖系で乾燥処理を施すことが好適である。ただし、フィルムを熱ロールなどに直接接触させる方法のように、外気の影響が少ない場合は、乾燥炉の内部を閉鎖しないまたは乾燥炉自体を設けない解放系で乾燥を行うことも可能である。
【0065】
一次乾燥工程における乾燥温度は、40~300℃が好ましく、特に50~100℃が好適である。この乾燥温度は、上記のような閉鎖系であれば乾燥炉内で測定された温度と定義することができる。また、解放系であれば、加熱手段(熱ロールなど)自体の温度と定義することができる。
【0066】
一次乾燥工程における乾燥時間は、1~100秒程度、好ましくは3~30秒である。この乾燥時間は、閉鎖系であればポリビニルアルコール系樹脂フィルムが乾燥炉内に入ってから出るまでの時間、解放系であればポリビニルアルコール系樹脂フィルムが加熱手段の熱を受けうる位置に近接または加熱手段に接触してから、加熱手段の熱を受けにくい位置に離れるまたは加熱手段と非接触になるまでの時間と定義することができる。
【0067】
一次乾燥工程は、1つの加熱手段によって一段階で行ってもよいし、いくつかの加熱手段を連続して設けて複数の段階で行ってもよい。また、複数の段階で乾燥を行う場合は、各段階での乾燥温度が同一でも異なっていてもよいが、後の乾燥段階ほど乾燥温度が高くなるように温度勾配をつけることが好ましい。
【0068】
(最終乾燥工程)
最終乾燥工程は、水洗工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥炉23中で加熱して乾燥するために行われる。これにより、目的物である偏光子30が得られる。最終乾燥処理で行う乾燥処理方法としては、上記した一次乾燥工程で挙げた方法を用いることができる。
【0069】
最終乾燥処理の条件は、温度40~100℃、好ましくは50~100℃に保たれた乾燥炉中で、処理時間30~600秒程度とすることが好ましい。なお、複数の乾燥炉を用いて乾燥処理を施してもよい。この場合は、各々の乾燥炉の温度が同一でも異なっていてもよいが、好ましくは後段の乾燥炉になるにつれて炉内の温度が高くなるように温度勾配をつけることが好ましい。
【0070】
最終乾燥工程を経た偏光子30は、必要に応じて
図1に示す巻取ロール27に巻き取られて保管されるか、またはここで巻き取らずに、次の保護フィルムを貼る工程にそのまま供給され、偏光子30の表面に保護層が形成された偏光板まで製造される。
【0071】
(偏光子)
偏光子の厚みは、通常65μm以下であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。偏光子の厚みは、通常2μm以上であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。偏光子の厚みは、例えばポリビニルアルコール系樹脂フィルムの選定、延伸倍率の調節等により制御することができる。
【0072】
偏光子の偏光度は、例えば99.9800%以上であってよく、好ましくは99.9900%以上、より好ましくは99.9910%以上、さらに好ましくは99.9915%以上である。偏光子の偏光度は通常100%以下であり、実用的には100%未満であり、99.9950%以下であってよい。偏光子の偏光度は、後述の実施例の欄において説明する測定方法により測定することができる。
【0073】
偏光子の視感度補正単体透過率(以下、簡略化して透過率ともいう)は、例えば43.0%以上であってよく、好ましくは43.5%以上、より好ましくは43.9%以上である。透過率は通常50.0%以下であり、例えば50.0%未満あってもよいし、49.0%以下であってよい。偏光子の透過率は、後述の実施例の欄において説明する測定方法により測定することができる。
【0074】
偏光子の単体色相b値は、例えば2.50~4.0の範囲であってよく、好ましくは2.55~3.0以下である。偏光子の直交色相b値は、例えば-3~3の範囲であってよく、好ましくは-2~2の範囲、より好ましくは-1.5~1.5の範囲である。積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製の「V7100」)を用いて、得られた透過率に対してC光源の等色関数を用いて、L*a*b*(CIE)表色系における色度を算出することで、偏光子単体の単体色相b値、偏光子を直交配置した直交色相b値が得られる。偏光子の単体色相b値および直交色相b値は後述の実施例の欄において説明する測定方法により測定することができる。
【0075】
偏光子の配向度は、例えば0.100~0.300の範囲であってよく、好ましくは0.150~0.250の範囲、より好ましくは0.200~0.220の範囲である。偏光子の配向度は、後述の実施例の欄において説明する測定方法により測定することができる。
【0076】
偏光子の架橋度は、例えば5.00~6.00の範囲であってよく、好ましくは5.05~5.5の範囲である。偏光子の架橋度は、後述の実施例の欄において説明する測定方法により測定することができる。
【0077】
偏光子の少なくとも片面に、粘着剤層を介して保護フィルムを貼合することにより偏光板を得ることができる。保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂からなるフィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂からなるフィルム;ポリカーボネート系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルム;アクリル系樹脂フィルム;ポリプロピレン系樹脂の鎖状オレフィン系樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0078】
偏光子と保護フィルムとの接着性を向上させるために、偏光子および/または保護フィルムの貼合面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射、プライマー塗布処理、ケン化処理などの表面処理を施してもよい。粘着剤層は、接着剤や粘着剤から構成することができる。
【0079】
図2に示す偏光板60は、偏光子30、粘着剤層40、保護フィルム50をこの順に有する。偏光板は、表示装置に用いられる直線偏光板や円偏光板であってよい。表示装置は、液晶表示装置、有機EL表示装置等いかなるものであってよい。表示装置は、テレビ、パーソナルコンピューター、携帯電話やタブレット端末等のモバイル機器用途に用いられる表示装置であってよい。
【実施例0080】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」および「部」は、特記のない限り、質量%および質量部である。
【0081】
<評価試験>
(1)偏光度の測定
実施例および比較例において作製した偏光子を4cm×4cmのサイズに切断した後、紫外可視光線分光計(V-7100、日本分光株式会社製)により偏光度を評価した。偏光度(P)は下記式により求めた。
偏光度(P)=[(T1-T2)/(T1+T2)]1/2×100
式中、T1は一対の偏光子を吸収軸が平行な状態に配置した場合に得られる平行透過率であり、T2は一対の偏光子を吸収軸が直交する状態に配置した場合に得られる直交透過率である。
【0082】
(2)透過率の測定
実施例および比較例において作製した偏光子を4cm×4cmのサイズに切断した後、紫外可視光線分光計(V-7100、日本分光株式会社製)により透過率を評価した。
【0083】
(3)色相(単体b値および直交色相b値)の測定
実施例および比較例において作製した偏光子を4cm×4cmのサイズに切断した後、紫外可視光線分光計(V-7100、日本分光株式会社製)により単体b値および直交色相b値を測定した。
【0084】
(4)架橋度の測定
実施例および比較例において作製した偏光子の中央部を10cm×10cmのサイズに切断した後、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(Nicolet 5700、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて架橋度を測定した。測定は、FT-IRチップとしてPike technologies社製VeeMAX III(ATR)を用いてスキャン回数16回、波数分解能4cm-1で行った。測定されたIRデータにおける波数1200~1360cm-1における領域を3.2基準で合わせたときの面積の和(a)を波数2850~3000cm-1における領域を同基準で合わせたときの面積の和(b)で除した値の3回の平均値を架橋度とした。波数1200~1360cm-1における領域はポリビニルアルコール樹脂とホウ酸とが結合されて形成されたB-O-C結合の伸縮振動に由来する吸収を表し、波数2850~3000cm-1における領域はポリビニルアルコール樹脂に含まれるC-H結合の伸縮振動に由来する吸収を表す。架橋度の値が高いほど、偏光子に含まれるホウ素が効率的に架橋していることを示す。
【0085】
(5)配向度の測定
実施例および比較例において作製した偏光子の中央部を10cm×10cmのサイズに切断した後、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(Nicolet 5700、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて配向度を測定した。配向度(S)は下記式により求めた。
配向度(S)=(A//-A⊥)/(A//+2A⊥)
式中、A//は一対の偏光子を吸収軸が平行な状態に配置した場合に得られる波数1290cm-1における吸光度を表し、A⊥は一対の偏光子を吸収軸が直交する状態に配置した場合に得られる波数1290cm-1における吸光度を表す。
【0086】
<実施例1>
厚さ45μmおよびケン化度99.9%以上の透明な未延伸ポリビニルアルコール系フィルム(TS4500、株式会社クラレ製)を25℃の水(脱イオン水)に1分20秒間浸漬して膨潤させた後(膨潤工程)、ヨウ素1.25mM/Lとヨウ化カリウム1.25質量%、ホウ酸0.3質量%を含む30℃の染色用水溶液に2分30秒間浸漬することにより染色した(染色工程)。このとき、膨潤工程および染色工程においてそれぞれ1.56倍、1.96倍の延伸比で延伸し、染色槽までの累積延伸比が3.05倍となるように延伸を行った。
【0087】
次いでヨウ化カリウム9質量%およびホウ酸3質量%を含む63℃の架橋用水溶液に26秒間浸漬して架橋させながら(第1架橋工程)、1.46倍の延伸比で延伸を行った。さらに、第1架橋工程において、第1架橋槽入口に加湿器(JINBANG産業用加湿器JB-620A)を設置して温度25℃湿度90%RH以上の湿分を噴霧量3L/hで与えた。
【0088】
その後、ヨウ化カリウム9質量%およびホウ酸3質量%を含む63℃の架橋用水溶液に20秒間浸漬して架橋させながら(第2架橋工程)、1.34倍の延伸比で延伸を行った。
【0089】
次いで補色工程において、ヨウ化カリウム9質量%およびホウ酸3質量%を含有する57℃の補色用水溶液に10秒間浸漬しながら1.00倍延伸した。このとき、膨潤工程、染色工程、架橋工程および補色工程における総塁積延伸比が6.0倍になるようにした。その後、13℃の水溶液から2秒間水洗を行い、フィルム表面に付着した異物を除去し、92℃で110秒間乾燥させ、偏光子を得た。得られた偏光子について評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0090】
<実施例2および比較例1>
実施例1において用いた加湿器を表1に示す位置に設置したこと以外は実施例1と同様にして偏光子を作製した。得られた偏光子について評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0091】
10 ポリビニルアルコール系樹脂の原反フィルム、11 繰出しロール、12 ニップロール、13 膨潤槽、14 ガイドロール、15 染色槽、16 加湿処理を施す装置、17 架橋槽、18 液面、19 洗浄槽、21 一次乾燥炉、23 最終乾燥炉、27 巻取ロール、30 偏光子、40 粘着剤層、50 保護フィルム、60 偏光板。