(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091995
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】トナー用結着樹脂、静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像剤
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20230626BHJP
G03G 9/107 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/107 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206929
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】中井 貴司
(72)【発明者】
【氏名】川島 康成
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AB01
2H500BA22
2H500CA06
2H500CA13
2H500CA26
2H500CA31
2H500CB02
2H500EA32B
2H500EA39B
2H500FA04
(57)【要約】
【課題】低温定着性及び帯電性能の両方に優れるトナー用結着樹脂を提供する。
【解決手段】結晶性ポリエステルブロックおよび非晶性ポリエステルブロックを有するブロック共重合体であるトナー用結着樹脂であって、下記一般式(1)で表される構造を有するトナー用結着樹脂(前記一般式(1)中、U
1の末端、U
2の末端、R
1およびR
2の少なくとも1つは、-CON(R
3)
2で表されるアミド基を形成している)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステルブロックおよび非晶性ポリエステルブロックを有するブロック共重合体であるトナー用結着樹脂であって、下記一般式(1)で表される構造を有するトナー用結着樹脂。
【化1】
(前記一般式(1)中、
Arは芳香族環であり、
U
1およびU
2の一方は前記結晶性ポリエステルブロックであり、他方は前記非晶性ポリエステルブロックであり、
R
1およびR
2は、それぞれ独立に、カルボキシル基(-COOH)であり、
U
1の末端、U
2の末端、R
1およびR
2の少なくとも1つは、-CON(R
3)
2で表されるアミド基を形成しており、
R
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよい脂肪族基又は置換基を有してもよい芳香族基である。)
【請求項2】
R3が水素原子、炭素原子数1~12のアルキル基又は炭素原子数1~12のヒドロキシアルキル基である請求項1に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項3】
前記一般式(1)のArがベンゼン環である請求項1又は2に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項4】
酸価が10~24の範囲にある請求項1~3のいずれかに記載のトナー用結着樹脂。
【請求項5】
結晶性ポリエステル、非晶性ポリエステルおよび芳香族テトラカルボン酸を反応原料とするブロック共重合体にアミン化合物を反応させた樹脂である請求項1~4のいずれかに記載のトナー用結着樹脂。
【請求項6】
前記アミン化合物が、脂肪族アミンおよび/又はアルコールアミンである請求項5に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のトナー用結着樹脂を含む静電荷像現像用トナー。
【請求項8】
請求項7に記載の静電荷像現像用トナー及びキャリアを含む静電荷像現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用結着樹脂、静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
静電潜像(静電荷像)を経る画像形成方法においては、通常、結着樹脂及び着色剤を含むトナー粒子と、当該トナー粒子を撹拌及び搬送するためのキャリア粒子とを含有する二成分現像剤(トナー)が用いられている。
上記画像形成方法では、画像形成の高速化、環境への負荷軽減等の目的で、トナー粒子定着時の熱エネルギーの低減化(低温定着化)が求められている。
【0003】
トナー粒子の低温定着化の手段として、結晶性樹脂部位と非晶性樹脂部位の両方を同時に有する結着樹脂の使用が提案されている。結晶性樹脂部位と非晶性樹脂部位の両方を有する結着樹脂では、定着時の加熱により前記結晶性樹脂部位の融点を超えた際に、結着樹脂中の結晶性樹脂部位が融解し、その結果、結晶性樹脂部位と非晶性樹脂部位とが相溶して、トナー粒子の低温定着化を実現することができる。
【0004】
低温定着性をさらに高めたトナー粒子の結着樹脂として、結晶性ポリエステルブロックと非晶性ポリエステルブロックが化学的に結合したブロック共重合体が提案されている(特許文献1)。結晶性ポリエステルブロックと非晶性ポリエステルブロックが結合したブロック共重合体とすることで、結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルの相溶性が向上し、トナー粒子を微分散させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の結着樹脂は、結晶性ポリエステルブロックと非晶性ポリエステルブロックが結合したブロック共重合体は、その製造の際に酸が使用され、結着樹脂中には酸性官能基が含まれることになる。当該酸性官能基は結着樹脂の乳化性を低下させ、帯電安定性を低下させる問題があった。帯電安定性が低下した結着樹脂では、画像不良を招いてしまう問題がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、低温定着性及び帯電安定性の両方に優れるトナー用結着樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、結晶性ポリエステルブロック及び非晶性ポリエステルブロックが芳香族環を含む特定の構造で連結したブロック共重合体であって、ブロック共重体が有する酸性官能基をアミン化合物でキャッピングすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、結晶性ポリエステルブロックおよび非晶性ポリエステルブロックを有するブロック共重合体であるトナー用結着樹脂であって、下記一般式(1)で表される構造を有するトナー用結着樹脂に関するものである。
【0010】
【化1】
(前記一般式(1)中、
Arは芳香族環であり、
U
1およびU
2の一方は前記結晶性ポリエステルブロックであり、他方は前記非晶性ポリエステルブロックであり、
R
1およびR
2は、それぞれ独立に、カルボキシル基(-COOH)であり、
U
1の末端、U
2の末端、R
1およびR
2の少なくとも1つは、-CON(R
3)
2で表されるアミド基を形成しており、
R
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよい脂肪族基又は置換基を有してもよい芳香族基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明により、低温定着性及び帯電性能の両方に優れるトナー用結着樹脂が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
本願において「〇〇~□□の範囲」と表現されている場合、〇〇以上□□以下という意味である。
【0013】
[トナー用結着樹脂]
本発明のトナー用結着樹脂(以下、単に「本発明の結着樹脂」という場合がある)は、結晶性ポリエステルブロックおよび非晶性ポリエステルブロックを有するブロック共重合体であって、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0014】
【化2】
(前記一般式(1)中、
Arは芳香族環であり、
U
1およびU
2の一方は前記結晶性ポリエステルブロックであり、他方は前記非晶性ポリエステルブロックであり、
R
1およびR
2は、それぞれ独立に、カルボキシル基(-COOH)であり、
U
1の末端、U
2の末端、R
1およびR
2の少なくとも1つは、-CON(R
3)
2で表されるアミド基を形成しており、
R
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよい脂肪族基又は置換基を有してもよい芳香族基である。)
【0015】
本発明の結着樹脂は、芳香族テトラカルボン酸誘導体が、結晶性ポリエステル及び非晶性ポリエステルとそれぞれエステル結合を形成した構造を有している。本発明では、エステル結合を形成していない芳香族テトラカルボン酸誘導体のカルボキシル基、並びに、結晶性ポリエステルブロックおよび非晶性ポリエステルブロックの末端がカルボキシル基である場合の当該カルボキシル基の少なくとも一部がアミン化合物でキャッピングされている(アミド基を形成している)。カルボキシル基がアミン化合物でキャッピングされることによって、結着樹脂の酸価が低下し、トナー製造時の乳化剤添加による乳化が阻害されないと推測される。
トナー粒子の帯電性能は帯電量のみならず、帯電量が時間経過で変化しない帯電安定性も重要で、乳化性が維持される本発明の結着樹脂は、高い帯電安定性をトナー粒子に与えることができる。
【0016】
本発明の結着樹脂は、結晶性ポリエステルブロックと非晶性ポリエステルブロックを除く部分の構造の対称性が高いと好ましく、前記一般式(1)のU1及びU2を除く部分の構造が線対称又は点対称であるとより好ましい。
【0017】
本発明の結着樹脂の重量平均分子量(Mw)は、例えば5,000~100,000の範囲であり、好ましくは10,000~50,000の範囲であり、より好ましくは15,000~50,000の範囲の範囲であり、さらに好ましくは15,000~45,000の範囲である。
本発明の結着樹脂の数平均分子量(Mn)は、例えば1,000~50,000の範囲であり、好ましくは2,000~30,000の範囲であり、より好ましくは3,000~20,000の範囲であり、さらに好ましくは3,000~15,000の範囲である。
本発明の結着樹脂の重量平均分子量と数平均分子量は実施例に記載の方法で測定する。
【0018】
本発明の結着樹脂の酸価は、例えば5~30の範囲であり、好ましくは6~29の範囲であり、より好ましくは7~27の範囲であり、さらに好ましくは10~24の範囲である。結着樹脂の酸価がこれら範囲にあることで、結着樹脂中にアミンと反応していないカルボキシル基が一定程度存在していることが分かる。
結着樹脂の酸価は、実施例に記載の方法で測定する。
【0019】
本発明の結着樹脂の融点は、好ましくは55~90℃であり、より好ましくは58~88℃であり、さらに好ましくは60~85℃である。
結着樹脂の融点は、実施例に記載の方法で測定する。
【0020】
本発明の結着樹脂は、例えば結晶性ポリエステル、非晶性ポリエステルおよび芳香族テトラカルボン酸を反応原料とするブロック共重合体にアミン化合物を反応させた樹脂であり、前記芳香族テトラカルボン酸は、結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルとを連結するブロック化剤として機能する。
尚、反応原料とは、本発明の結着樹脂を構成する原料という意味であり、本発明の結着樹脂を構成しない溶媒や触媒を含まない意味である。
【0021】
前記一般式(1)において、U1及びU2を除く部分は、芳香族テトラカルボン酸に対応する構造であり、U1及びU2は、それぞれ結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルに対応する構造である。以下、本発明の結着樹脂を構成する各成分について説明する。
【0022】
(結晶性ポリエステル)
結晶性ポリエステルは、結晶性のポリエステル樹脂である。ここで「結晶性の」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、ポリエステル樹脂が階段状の吸熱量変化を示すのではなく、明確な吸熱ピークを示すことを意味する。具体的には、実施例に記載の示差走査熱量測定をした場合に、明確な吸熱ピークを示すポリエステルが結晶性ポリエステルである。
【0023】
結晶性ポリエステルの酸価は、例えば4.0~25.0の範囲であり、好ましくは6.0~22.0の範囲であり、より好ましくは8.0~20.0の範囲である。ブロック共重合体の乳化性を維持するため、結晶性ポリエステルの酸価は、下限が9.0超であるとさらに好ましい。
結晶性ポリエステルの酸価は、実施例に記載の方法で測定する。
【0024】
結晶性ポリエステルの融点は、好ましくは55~95℃であり、より好ましくは60~90℃であり、さらに好ましくは65~90℃である。
結晶性ポリエステルの融点は、実施例に記載の方法で測定する。
【0025】
結晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、例えば5,000~100,000の範囲であり、好ましくは8,000~60,000の範囲であり、より好ましくは9,000~40,000の範囲であり、さらに好ましくは10,000~30,000の範囲である。
結晶性ポリエステルの数平均分子量(Mn)は、例えば1,000~50,000の範囲であり、好ましくは1,000~10,000の範囲であり、より好ましくは1,500~10,000の範囲であり、さらに好ましくは1,800~9,000の範囲である。
結晶性ポリエステルの重量平均分子量と数平均分子量は実施例に記載の方法で測定する。
【0026】
結晶性ポリエステルとしては、例えば、脂肪族二塩基酸(c1)と、脂肪族ジオール(c2)とを必須の反応原料として得られる結晶性ポリエステルが挙げられる。
ポリエステル樹脂は通常は非晶性ポリエステルとして得られるが、脂肪族二塩基酸(c1)と脂肪族ジオール(c2)の組み合わせを反応原料とすることで結晶性のポリエステル樹脂が得られる。脂肪族二塩基酸(c1)と脂肪族ジオール(c2)は、いずれも対称性が高い及び/又は炭化水素鎖が長いものであるとより好ましい。
【0027】
脂肪族二塩基酸(c1)としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノニルデカン二酸等の脂肪族二塩基酸等が挙げられる。これらのうち、炭素原子数6~18の脂肪族二塩基酸が好ましく、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸がより好ましい。
これら脂肪族二塩基酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
脂肪族ジオール(c2)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-イコサンジオール等の直鎖のアルキレンジオール;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール等のエーテルグリコール;前記直鎖のアルキレンジオールと、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の種々の環状エーテル結合含有化合物との開環重合によって得られる変性ポリエーテルポリオール;前記直鎖のアルキレンジオールと、ε-カプロラクトン等の種々のラクトンとの重縮合反応によって得られるラクトン系ポリエステルポリオール等が挙げられる。
これらの脂肪族ジオール(c2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0029】
脂肪族ジオール(c2)は、炭素原子数4~18の直鎖のアルキレンジオールが好ましく、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオールがより好ましい。これらはいずれも対称性が高い脂肪族ジオールである。
【0030】
結晶性ポリエステルは、反応原料として多官能エポキシ化合物(c3)を用いてもよい。
多官能エポキシ化合物(c3)としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2,2’-(2,6-ジオキサヘプタン-1,7-ジイル)ビスオキシラン、1,4-ビス(グリシジルオキシ)ブタン、2,3-ブチレングリコールジグリシジルエーテル、1,5-ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ビス(グリシジルオキシ)へキサン、1,7-へプチレングリコールジグリシジルエーテル、1,8-オクチレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族ジグリシジルエーテル;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等の分子構造中に3個以上のエポキシ基を有する脂肪族ポリグリシジルエーテル;(メタ)アクリル酸グリシジル、α-エチル(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有化合物と、ブタジエン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、フマル酸ジメチル等のビニル基を含有する脂肪族化合物とを重合させて得られるエポキシ基含有ビニル重合体;ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールBジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、1,4-ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、1,5-ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、2,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、ナフタレン-2,6-ジメタノールジグリシジルエーテル等の芳香族ジグリシジルエーテル;4,4’,4’’-メチリジントリスフェノールトリグリシジルエーテル等の分子構造中に3個以上のエポキシ基を有する芳香族ポリグリシジルエーテル;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール類のノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;(メタ)アクリル酸グリシジルやα-エチル(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有化合物と、スチレン等のビニル基を含有する芳香族化合物と、必要に応じてブタジエン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、フマル酸ジメチル等のビニル基を含有する脂肪族化合物とを重合させて得られるエポキシ基及び芳香環を含有するビニル重合体等が挙げられる。これらのうち、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
これら多官能エポキシ化合物(c3)は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
結晶性ポリエステルは、必要に応じて、反応原料としてメタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸等の脂肪族モノカルボン酸;フタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸を用いてもよい。
これら脂肪族二塩基酸(c1)以外の酸成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
脂肪族二塩基酸(c1)以外の酸成分を用いることにより結晶性ポリエステルの融点を調整することができる。
【0032】
結晶性ポリエステルは、必要に応じて、反応原料としてヘキサノール、オクタノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、n-トリデカノール、n-テトラデカノール、n-ペンタデカノール、n-ヘプタデカノール、n-オクタデカノール、n-ノナデカノール、エイコサノール等のモノアルコール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等の3官能以上の脂肪族ポリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール;前記ビスフェノールにエチレンオキサイド、プロプレンオキサイド等を付加して得られるビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物などを用いてもよい。
これら脂肪族ジオール(c2)以外のアルコール成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
脂肪族ジオール(c2)以外のアルコール成分を用いることにより結晶性ポリエステルの融点を調整することができる。
【0033】
結晶性ポリエステルは、必要に応じて、反応原料としてモノエポキシ化合物を用いてもよい。
前記モノエポキシ化合物としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、2-エトキシエチルグリシジルエーテル、ペンチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、ヘプチルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル等の脂肪族モノグリシジルエーテル;フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、4-ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジル-2-ナフチルエーテル等の分子構造中に芳香環を有するモノグリシジルエーテル;2,2-ジメチルプロピオン酸シクロプロピルメチル、ネオデカン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル等の脂肪族モノグリシジルエステル;スチレンオキサイド等の芳香族α-オレフィンオキサイド等が挙げられる。
これらモノエポキシ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
結晶性ポリエステルの酸価は、二塩基酸とジオールの割合を調整することで調整することができる。
【0035】
結晶性ポリエステルが、脂肪族二塩基酸(c1)と脂肪族ジオール(c2)とを必須の反応原料として得られる結晶性ポリエステルである場合、当該結晶性ポリエステルは、脂肪族二塩基酸(c1)が含むカルボキシル基のモル数(NCOOH)と、脂肪族ジオール(c1)が含む水酸基のモル数(NOH)との比[(NCOOH)/(NOH)]が1.00/0.95~1.00/1.00の範囲となるように脂肪族二塩基酸(c1)と脂肪族ジオール(c2)とを用い、180~260℃の温度で、ジブチル錫オキサイド等のエステル化触媒の存在下で反応させた結晶性ポリエステルであると好ましい。
【0036】
(非晶性ポリエステル)
非晶性ポリエステルは、非晶性のポリエステル樹脂である。ここで「非晶性の」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、明確な吸熱ピークを示さないことを意味する。具体的には、実施例に記載の示差走査熱量測定をした場合に、明確な吸熱ピークを示さないポリエステルが非晶性ポリエステルである。
【0037】
非晶性ポリエステルの酸価は、例えば4.0~20.0の範囲であり、好ましくは5.0~18.0の範囲であり、より好ましくは5.0~15.0の範囲である。ブロック共重合体の乳化性を維持するため、非晶性ポリエステルの酸価は、下限が5.0超であるとさらに好ましい。
非晶性ポリエステルの酸価は、実施例に記載の方法で測定する。
【0038】
非晶性ポリエステルは、低温環境下では分子運動性が低く流動性のないガラス状態であるが、温度が上がると分子運動性が大きくなり、剛性と粘度が低下して流動性を増したゴム状態となる性質を有する。このとき、ガラス状態からゴム状態に転移する温度をガラス転移温度(Tg)と言う。
非晶性ポリエステルのガラス転移温度は、例えば45~100℃であり、好ましくは50~90℃であり、より好ましくは50~80℃であり、さらに好ましくは50~70℃である。
非晶性ポリエステルのガラス転移温度は、実施例に記載の方法で測定する。
【0039】
非晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、例えば3,000~150,000であり、好ましくは4,000~80,000であり、より好ましくは10,000~60,000であり、さらに好ましくは10,000~30,000である。
非晶性ポリエステルの数平均分子量(Mn)は、例えば1,000~50,000であり、好ましくは2,000~10,000であり、より好ましくは2,000~8,000であり、さらに好ましくは2,000~6,000である。
非晶性ポリエステルの重量平均分子量と数平均分子量は実施例に記載の方法で測定する。
【0040】
非晶性ポリエステルとしては、例えば、二塩基酸(a1)と、ジオール(a2)とを必須の反応原料として得られる非結晶性ポリエステルが挙げられる。
前記非晶性ポリエステルの反応原料は、前記結晶性ポリエステルの反応原料である脂肪族二塩基酸(c1)と脂肪族ジオール(c2)の組み合わせ以外の二塩基酸とジオールの組み合わせであると好ましい。
【0041】
二塩基酸(a1)としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデシルコハク酸、ドデシル無水コハク酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、オクテニルコハク酸、オクテニル無水コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、ジメチルマレイン酸、シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸、1-シクロへキセン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロへキセン-1,2-ジカルボン酸、フマル酸、メサコン酸、イタコン酸、グルタコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸;フタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらのうち、前記芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸及びイソフタル酸がより好ましい。
これら二塩基酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ジオール(a2)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2,2-トリメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-3-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘサン等の脂肪族ジオール;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール等のエーテルグリコール;前記脂肪族ジオールと、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の種々の環状エーテル結合含有化合物との開環重合によって得られる変性ポリエーテルポリオール;前記脂肪族ジオールと、ε-カプロラクトン等の種々のラクトンとの重縮合反応によって得られるラクトン系ポリエステルポリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール;前記ビスフェノールにエチレンオキサイド、プロプレンオキサイド等を付加して得られるビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらのうち、前記ビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
これらジオールは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
非晶性ポリエステルは、必要に応じて、反応原料としてメタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、安息香酸、パラ-t-ブチル安息香酸等のモノカルボン酸;1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、1,2,5-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等の3官能以上のポリカルボン酸等を用いてもよい。
これら二塩基酸(a1)以外の酸成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
二塩基酸(a1)以外の酸成分を用いることにより非晶性ポリエステルのガラス転移点を調整することができる。
【0044】
非晶性ポリエステルは、必要に応じて、反応原料としてヘキサノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、n-トリデカノール、n-テトラデカノール、n-ペンタデカノール、n-ヘプタデカノール、n-オクタデカノール、n-ノナデカノール、エイコサノール、5-エチル-2-ノナノール、トリメチルノニルアルコール、2-ヘキシルデカノール、3,9-ジエチル-6-トリデカノール、2-イソヘプチルイソウンデカノール、2-オクチルドデカノール、2-デシルテトラデカノール等のモノアルコール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等の3官能以上のポリオール等を用いてもよい。
これらジオール(a2)のアルコール成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ジオール(a2)以外のアルコール成分を用いることにより非晶性ポリエステルのガラス転移点を調整することができる。
【0045】
非晶性ポリエステルは、必要に応じて、反応原料として多官能エポキシ化合物を用いてもよい。非晶性ポリエステルに用いることができる多官能エポキシ化合物としては、結晶性ポリエステルに使用することができる多官能エポキシ化合物(c3)と同じものが使用できる。
【0046】
非晶性ポリエステルは、必要に応じて、反応原料としてモノエポキシ化合物を用いてもよい。
前記モノエポキシ化合物としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、2-エトキシエチルグリシジルエーテル、ペンチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、ヘプチルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル等の脂肪族モノグリシジルエーテル;フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、4-ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジル-2-ナフチルエーテル等の分子構造中に芳香環を有するモノグリシジルエーテル;2,2-ジメチルプロピオン酸シクロプロピルメチル、ネオデカン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル等の脂肪族モノグリシジルエステル;スチレンオキサイド等の芳香族α-オレフィンオキサイド等が挙げられる。
これらモノエポキシ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
酸価が4.0~16.0の範囲にある非晶性ポリエステルは、二塩基酸とジオールの割合を調整することで製造することができる。
【0048】
非晶性ポリエステルが、二塩基酸(a1)とジオール(a2)とを必須の反応原料として得られる非晶性ポリエステルである場合、当該非晶性ポリエステルは、二塩基酸(a1)が含むカルボキシル基のカルボキシル基のモル数(NCOOH)と、ジオール(a2)が含む水酸基のモル数(NOH)との比[(NCOOH)/(NOH)]が1.00/0.96~1.00/1.04の範囲となるように二塩基酸(a1)とジオール(a2)とを用い、180~260℃の温度で、ジブチル錫オキサイド等のエステル化触媒の存在下で反応させた非晶性ポリエステルであると好ましい。
【0049】
(芳香族テトラカルボン酸)
芳香族テトラカルボン酸の芳香族環は、前記一般式(1)のArに対応し、芳香族テトラカルボン酸の芳香族環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、及びこれらから選択される2つの環が単結合、エーテル結合、アミド結合、カルボニル結合のいずれかで連結した構造が挙げられ、好ましくはベンゼン環である。
前記芳香族環は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等の炭素原子数1~6のアルキル基がさらに置換していてもよい。
【0050】
芳香族テトラカルボン酸は、結晶性ポリエステル及び非晶性ポリエステルとの反応性の高さから、好ましくは4つのカルボキシル基(-COOH)すべてが芳香族環に直接置換している化合物であり、好ましくは芳香族テトラカルボン酸二無水物である。
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン類、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”-ターフェニル)-3,3”,4,4”-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物、4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物が挙げられる。
【0051】
前記一般式(1)で表される構造について、U1及びU2を除く部分の構造が線対称又は点対称となる構造であるとより高い電気誘電率とより高い結晶性を示すことができることから、芳香族テトラカルボン酸誘導体は、好ましくは線対称構造又は点対称構造の芳香族テトラカルボン酸である。
【0052】
(アミン化合物)
前記一般式(1)において、-CON(R3)2で表されるアミド基は、カルボキシル基がNH(R3)2で表されるアミン化合物によってキャッピングされた構造であり、R3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよい脂肪族基又は置換基を有してもよい芳香族基である。
【0053】
本発明の結着樹脂では、例えば結着樹脂中のカルボキシル基の80%以上が-CON(R3)2で表されるアミド基を形成しており、好ましくは結着樹脂中のカルボキシル基の90%以上が-CON(R3)2で表されるアミド基を形成しており、より好ましくは結着樹脂中のカルボキシル基の全てが-CON(R3)2で表されるアミド基を形成している。
【0054】
アミン化合物は、例えば1級アミン又は2級アミンであればよく、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、ラウリルアミン等の脂肪族アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、2-(メチルアミノ)エタノール等のアルコールアミン;N,N-ジノルマルブチルアミン、N,N-ジノルマルオクチルアミン、ビス[N-(2-エチルへキシル)]アミン等のジアルキルアミン;ベンジルアミン、ジベンジルアミン等の芳香族アミン;ジエタノールアミン、3-アミノ1,2-プロパンジオール等のアルカノールアミン;N-メチルシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルエチルアミン等の脂環式炭化水素アミンが挙げられる。
【0055】
前記一般式(1)のR3は、好ましくは水素原子、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数1~12のヒドロキシアルキル基である。
【0056】
R3の炭素原子数1~12のアルキル基は、直鎖のアルキル基でもよく、分岐のアルキル基でもよく、脂環構造を含んでもよい。
R3の炭素原子数1~12のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられる。
【0057】
R3の炭素原子数1~12のヒドロキシアルキル基は、上記アルキル基に1以上のヒドロキシ基が置換した基である。
【0058】
[トナー用結着樹脂の製造方法]
本発明の結着樹脂の製造方法では、結晶性ポリエステルと、非晶性ポリエステルと、芳香族テトラカルボン酸とからなる反応原料を反応させてブロック共重合体を製造する工程、および得られたブロック共重合体にアミン化合物を反応させる工程を含む。
【0059】
反応原料である結晶性ポリエステルは1種単独で用いてもよく、構造が互いに異なる2種以上を併用してもよい。
反応原料である非晶性ポリエステルは1種単独で用いてもよく、構造が互いに異なる2種以上を併用してもよい。
反応原料である芳香族テトラカルボン酸は1種単独で用いてもよく、構造が互いに異なる2種以上を併用してもよい。
【0060】
反応温度は、例えば130℃以上200℃未満であり、140℃以上170℃未満であると好ましく、140℃以上160℃以下であるとより好ましい。
芳香族テトラカルボン酸がカルボン酸無水物構造を有する場合、ポリエステル樹脂との反応性を高めることができ、200℃未満であっても結晶性ポリエステル及び非晶性ポリエステルと反応させることができる。本発明の結着樹脂の製造を200℃未満で行うことにより結晶性ポリエステルの結晶性が損なわれることがなく、得られる結着樹脂の低温定着性を高めることができる。
【0061】
結晶性ポリエステルと、非晶性ポリエステルと、芳香族テトラカルボン酸とからなる反応原料は、結晶性ポリエステルと、非晶性ポリエステルと、芳香族テトラカルボン酸のみであってもよく、任意にこれら以外の反応原料を用いてもよい。
前記反応原料に占める前記結晶性ポリエステル、前記非晶性ポリエステルおよび芳香族テトラカルボン酸の合計の割合は、例えば90質量%以上である。
【0062】
本発明の結着樹脂の製造に用いる前記結晶性ポリエステルと前記非晶性ポリエステルの質量比は、結晶性ポリエステル:非晶性ポリエステル=20:80~80:20であると好ましく、結晶性ポリエステル:非晶性ポリエステル=25:75~75:25であるとより好ましく、結晶性ポリエステル:非晶性ポリエステル=25:75~50:50であるとさらに好ましい。
【0063】
本発明の結着樹脂の製造に用いる芳香族テトラカルボン酸の量は、結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルの合計量を100質量部とした場合に、当該合計量100質量部に対して例えば1~15質量部の範囲であり、好ましくは3~12質量部の範囲であり、より好ましくは4~12質量部の範囲である。
【0064】
結晶性ポリエステルと、非晶性ポリエステルと、芳香族テトラカルボン酸とを含む反応原料の反応は、結着樹脂同士の反応等が抑制されて粘度上昇を抑えることができるので、無溶剤で実施することができる。溶剤を必要としないので、製造コストを抑えることができる。
前記反応は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で、反応で生じる水を除去しながら行うと好ましい。
【0065】
ブロック共重合体の製造では、結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルとが芳香族テトラカルボン酸で連結した樹脂だけでなく、2つの結晶性ポリエステルが芳香族テトラカルボン酸誘導体で連結した樹脂、2つの非晶性ポリエステルが芳香族テトラカルボン酸誘導体で連結した樹脂なども得られるが、本発明の効果は損なわれない。
【0066】
得られたブロック共重合体の構造は、例えば結着樹脂又はその加水分解物をNMRやエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)などの公知の機器分析法により確認又は推定することができる。
【0067】
得られたブロック共重合体にアミン化合物を反応させる工程において、反応に用いるアミン化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
アミン化合物の使用量は、ブロック共重合体の製造に使用した芳香族テトラカルボン酸1モルに対して例えば0.8~5モルの範囲であり、好ましくは0.9~4モルの範囲であり、より好ましくは1~3モルの範囲である。
ブロック共重合体中のすべてのカルボキシル基がアミン化合物と反応しない程度にアミン化合物を添加すると好ましい(ブロック共重合体中のカルボキシル基がある少なくとも一部は残るようにアミン化合物を添加すると好ましい)。
【0069】
ブロック共重合体にアミン化合物を反応させる工程において、反応条件は特に限定されず、ブロック共重合体の製造条件そのままにアミン化合物を加えて反応させることができる。
【0070】
[静電荷像現像用トナー]
本発明の静電荷像現像用トナーは、本発明のトナー用結着樹脂を含む。
本発明の静電荷像現像用トナー(以下、単に「本発明のトナー」という場合がある)は、本発明の結着樹脂を含むことにより、低温定着性及び帯電性能の両方に優れる。
【0071】
本発明のトナーにおける、本発明の結着樹脂の含有量としては、特に制限はないが、トナーの全質量に対して、10~95質量%であることが好ましく、25~90質量%であることがより好ましく、45~85質量%であることがさらに好ましい。
本発明の結着樹脂の含有量が上記範囲にあることで、優れた低温定着性及び帯電性能が得られる。
【0072】
(その他の結着樹脂)
本発明のトナーは、本発明の結着樹脂を含めばよく、本発明の結着樹脂以外のその他の結着樹脂を含んでもよい。
前記その他の結着樹脂としては、特に限定されず、例えばポリスチレン、スチレンブタジエン系ポリマー、スチレンアクリル系ポリマー、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらその他の結着樹脂は、ウレタン、ウレア、エポキシ等でさらに変性されていてもよい。
【0073】
本発明のトナーにおける本発明の結着樹脂の含有量は、トナー中の結着樹脂の全質量に対して、20~100質量%であることが好ましく、50~100質量%であることがより好ましい。
【0074】
(着色剤)
本発明のトナーは、得られる画像を着色する目的で、着色剤を含むと好ましい。
前記着色剤は、目的に応じて公知の着色剤を適宜選択して用いるとよく、各色の顔料及び染料を用いることができる。
【0075】
前記顔料としては、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、マグネタイト等の黒色顔料;黄鉛、亜鉛黄、黄色酸化鉄、カドミウムイエロー、クロムイエロー、ハンザイエロー、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントイエローNCG等の黄色顔料;赤口黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジRK、インダスレンブリリアントオレンジGK等の橙色顔料;ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀、ウォッチングレッド、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ブリリアントカーミン3B、ブリリアントカーミン6B、ピラゾロンレッド、ローダミンレーキB、レーキレッドC、ローズベンガル、エオシンレッド、アリザリンレーキ等の赤色顔料;紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、ファストスカイブルー、インダスレンブルーBC、ウルトラマリンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の青色顔料;マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ等の紫色顔料;酸化クロム、クロムグリーン、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファナルイエローグリーンG等の緑色顔料;亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛等の白色顔料;バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト等の体質顔料等を挙げることができる。
これら顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
前記染料としては、塩基性染料、酸性染料、分散染料、直接染料等の各種染料が挙げられる。
前記染料の具体例としては、ニグロシン、メチレンブルー、ローズベンガル、キノリンイエロー等が挙げられる。
これら染料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
前記着色剤は、例えば、着色剤粒子の分散液としてから用いてもよい。
着色剤粒子の分散液の調製方法としては、回転剪断型ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、アトライター等のメディア式分散機;高圧対向衝突式の分散機等を用いて着色剤粒子の分散液とする、又は、極性を有する界面活性剤を添加してホモジナイザーで着色剤粒子の分散液とする等が挙げられる。
【0078】
本発明のトナーの着色剤の含有量は、定着時の発色性を確保するために、トナーの固形分総質量の0.1~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましい。ただし、黒色着色剤として磁性体を用いる場合は、当該黒色着色剤の含有量は、トナーの固形分総質量の12~48質量%であると好ましく、15~40質量%であとより好ましい。
【0079】
前記着色剤の種類を適宜選択することにより、イエロートナー、マゼンタトナー、シアントナー、ブラックトナー等の各色トナーが得られる。
【0080】
(離型剤)
本発明のトナーは、離型性を向上させる目的で離型剤を含むと好ましい。
前記離型剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類;加熱により軟化点を有するシリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス;脂肪酸エステル、モンタン酸エステル、カルボン酸エステル等のエステル系ワックス等が挙げられる。
これら離型剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0081】
前記離型剤の添加量としては、トナー粒子の全量に対して、0.5~50質量%であることが好ましく、1~30質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましい。
【0082】
本発明のトナーは、本発明の効果を損なわない範囲で、結着樹脂、着色剤、離型剤以外のその他成分を含んでもよく、当該その他の成分としては、無機粒子、有機粒子、内添剤、帯電制御剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0083】
前記無機粒子は、一般にトナーの流動性を向上させる目的で使用される。
前記無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、塩化セリウム、ベンガラ、酸化クロム、酸化セリウム、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の粒子が挙げられる。これらの中でも、シリカ粒子が好ましく、疎水化処理されたシリカ粒子が特に好ましい。
【0084】
前記有機粒子は、クリーニング性、転写性、帯電性等を向上させる目的で使用される。
前記有機粒子としては、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリスチレン-アクリル共重合体等の粒子が挙げられる。
【0085】
前記内添剤としては、例えば、フェライト、マグネタイト、還元鉄、コバルト、ニッケル、マンガン等の金属、合金、又はこれら金属を含む化合物などの磁性体等が挙げられる。
前記帯電制御剤は、例えば、サリチル酸金属塩、含金属アゾ化合物、ニグロシンや第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0086】
本発明のトナーは、公知の方法により製造することができ、例えば混錬粉砕法、乳化凝集法、懸濁重合法、溶解懸濁法が挙げられ、乳化凝集法が好ましい。
前記混錬粉砕法とは、結着樹脂と、着色剤、離型剤、帯電制御剤等とを混練し、得られた混錬物を粉砕及び分級してトナー母粒子を製造する方法である。得られたトナー母粒子は、さらに機械的衝撃力又は熱エネルギーを加えて形状を変化させてもよい。
前記乳化凝集法とは、結着樹脂を乳化して分散した分散液と、着色剤、離型剤、帯電制御剤等の分散液とを混合し、凝集、加熱融着させ、トナー母粒子を製造する方法である。
前記懸濁重合法とは、結着樹脂を得るための重合性単量体と、着色剤、離型剤、帯電制御剤等の溶液とを水系溶媒に懸濁させてトナー母粒子を製造する方法である。
前記溶解懸濁法とは、結着樹脂と、着色剤、離型剤、帯電制御剤等の溶液とを水系溶媒に懸濁させてトナー母粒子を造粒する方法である。
上記方法で得られたトナー母粒子をコアにして、コア表面に凝集粒子を付着させ、加熱融合してコアシェル構造のトナーとしてもよい。
【0087】
[静電荷像現像剤]
本発明のトナーは、静電荷像現像剤として好適に使用される。
本発明の静電荷像現像剤は、本発明のトナーを含めばよい。例えば静電荷像現像剤として本発明のトナーを単独で用いると、本発明の静電荷像現像剤は、一成分系の静電荷像現像剤となり、静電荷像現像剤として、本発明のトナーと公知のキャリアとを組み合わせて用いると二成分系の静電荷像現像剤となる。
【0088】
前記キャリアの芯材としては、例えば、鉄、鋼、ニッケル、コバルト等の磁性金属;前記磁性金属とマンガン、クロム、希土類等との合金;フェライト、マグネタイト等の磁性酸化物等が挙げられる。
【0089】
前記キャリアの芯材表面は樹脂で被覆されていてもよい。芯材表面を被覆する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルエーテル及びポリビニルケトン等のポリビニル系樹脂及びポリビニリデン系樹脂;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体;スチレン-アクリル酸共重合体;オルガノシロキサン結合からなるストレートシリコーン樹脂又はその変性品;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;シリコーン樹脂;ポリエステル;ポリウレタン;ポリカーボネート;フェノール樹脂;尿素-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ユリア樹脂、ポリアミド樹脂等のアミノ樹脂;エポキシ樹脂等が挙げられる。
これら樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
前記キャリアが、樹脂で被覆された芯材からなるキャリアである場合、当該樹脂被覆層中に樹脂粒子及び/又は導電性粒子が分散していると好ましい。
前記樹脂粒子としては、熱可塑性樹脂粒子、熱硬化性樹脂粒子が挙げられる。当該樹脂粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
前記導電性粒子としては、金、銀、銅等の金属粒子;カーボンブラック粒子;酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム等の表面をカーボンブラック又は金属で覆った粒子が挙げられる。これら導電性粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0091】
本発明のトナー又は本発明の静電荷像現像剤は、例えばカートリッジに収容された状態で用いられる。本発明のトナー又は本発明の静電荷像現像剤をカートリッジに収容させることで、画像形成装置に対して着脱可能となり、トナー又は静電荷像現像剤の画像形成装置への供給を容易とすることができる。
【実施例0092】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0093】
実施例における各種評価は下記方法で行った。
【0094】
(酸価及び水酸基価)
樹脂の酸価及び水酸基価は、JISK0070-1992(中和滴定法)に準拠して測定した。
【0095】
(数平均分子量及び重量平均分子量)
樹脂の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を用い、下記の条件により評価した。
測定装置:東ソー株式会社製 HLC-8120GPC
カラム :東ソー株式会社製 TSK-GUARDCOLUMN HXL-H
+東ソー株式会社製 TSK-GEL G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSK-GEL G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSK-GEL G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSK-GEL G2000HXL
検出器 :RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製 マルチステーションGPC-8020modelII
カラム温度:40℃
溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
標準 :単分散ポリスチレン
試料:樹脂固形分換算で0.5質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0096】
(融点)
樹脂の融点は、示差走査熱量分析(DSC)法を用い、下記の条件により求めた。
測定装置 :セイコーインスツル株式会社製 DSC-220C
データ処理:EXSTAR6000 PCステーション
測定条件 :(1)20℃から150℃まで昇温(10℃/分)
(2)150℃にて10分間保持
(3)150℃から0℃まで降温(10℃/分)
(4)0℃にて10分間保持
(5)0℃から150℃まで昇温(10℃/分)
解析:(5)において、融解熱の最大吸熱ピーク温度を融点とした。
【0097】
(ガラス転移温度)
樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)法を用い、下記の条件により求めた。
測定装置 :セイコーインスツル株式会社製 DSC-220C
データ処理:EXSTAR6000 PCステーション
測定条件 :(1)20℃から150℃まで昇温(10℃/分)
(2)150℃にて10分間保持
(3)150℃から0℃まで降温(10℃/分)
(4)0℃にて10分間保持
(5)0℃から150℃まで昇温(10℃/分)
解析:(5)において、低温側のベースラインの延長線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線との交点をガラス転移点とした。
【0098】
(合成例1-6:結晶性ポリエステル樹脂の合成)
撹拌機、窒素ガス導入口、温度計を備えた4つ口の3Lステンレスフラスコに、表1に示す原料を仕込んだ。原料の仕込み後、生成する水を除去しながら窒素気流下、6時間かけて220℃まで昇温し、220℃で目的の酸価と分子量となるまで反応し、結晶性ポリエステル樹脂C-1~C-6を得た。
得られた結晶性ポリエステル樹脂C-1~C-6について、酸価、水酸基価、数平均分子量、重量平均分子量及び融点をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
表1において、組成の各略号はそれぞれ以下を表す。
HD :1,6-ヘキサンジオール
EG :エチレングリコール
BG :1,4-ブタンジオール
DDD :1,12-ドデカンジオール
DDDA:ドデカン二酸
SeA :セバシン酸
【0101】
(合成例7~10:非晶性ポリエステル樹脂の合成)
撹拌機、窒素ガス導入口、温度計を備えた4つ口の3Lステンレスフラスコに、表2に示す原料を仕込み、触媒としてチタンテトライソプロポキシド0.8部を加えた。原料の仕込み後、生成する水を除去しながら窒素気流下、240℃で3時間反応させた後、220℃、5kPa減圧下で目的の酸価と分子量となるまでさらに反応させて、非晶性ポリエステル樹脂A-1~A-4をそれぞれ得た。
得られた非晶性ポリエステル樹脂A-1~A-4について、酸価、水酸基価、数平均分子量、重量平均分子量及びガラス転移点をそれぞれ評価した。結果を表2に示す。
尚、得られた非晶性ポリエステル樹脂A-1~A-4は、示差走査熱量分析において明確な吸熱ピークは得られなかった。
【0102】
【0103】
表2において、各略号は以下を表す。
BPAEO:ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物
BPAPO:ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物
TPA :テレフタル酸
DSA :ドデセニル無水コハク酸
【0104】
(合成実施例1~13:末端アミド変性ブロック共重合体B-1~B-13の合成)
撹拌機、窒素ガス導入口、温度計を備えた4つ口の1Lステンレスフラスコに、表3及び4に示す結晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂を仕込み、150℃で加熱溶融した。この溶融物に表3及び4に示すブロック化剤を加えて窒素気流下、150℃で4時間反応させ、その後、表3及び4に示すアミンを加えて150℃4時間さらに反応させた。このようにして結晶性ポリエステルブロック及び非晶性ポリエステルブロックを有する末端アミド変性ブロック共重合体B-1~B-13をそれぞれ得た。
得られたブロック共重合体について、酸価、数平均分子量、重量平均分子量及び融点を評価した。結果を表3及び4に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
表3及び4において、各略号は以下を表す。
PMAn:無水ピロメリット酸
【0108】
(合成比較例1および2:ブロック共重合体B’-1およびB’-2の合成)
撹拌機、窒素ガス導入口、温度計を備えた4つ口の1Lステンレスフラスコに、表5に示す結晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂を仕込み、150℃で加熱溶融した。この溶融物に表5に示すブロック化剤を加えて150℃で4時間反応させた。このようにして結晶性ポリエステルブロック及び非晶性ポリエステルブロックを有するブロック共重合体B’-1およびB’-2をそれぞれ得た。
得られたブロック共重合体について、酸価、数平均分子量、重量平均分子量及び融点を評価した。結果を表5に示す。
【0109】
【0110】
表5において、アミンの欄の「-」はアミンが未添加であることを示す。
【0111】
(実施例1~13及び比較例1~2:トナーの製造)
(分散用樹脂の合成)
撹拌機、窒素ガス導入口、温度計を備えた4つ口の3Lステンレスフラスコに、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物281.7質量部、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物828.6質量部、テレフタル酸400.6質量部、アジピン酸72.4質量部、無水トリメリット酸23.8質量部を仕込み、触媒としてチタンテトライソプロポキシド0.8質量部を加えた。原料の仕込み後、生成する水を除去しながら窒素気流下、240℃で7時間反応し、分散用樹脂を得た。
【0112】
(顔料分散液の調製)
ファーストゲンブルーTGR(β型銅フタロシアニン顔料、C.I.ピグメントブルー15:3、DIC株式会社製)200質量部と前記分散用樹脂200質量部とを二本ロールで混練した。得られた混練物とメチルエチルケトン740質量部とをボールミルに仕込んで6時間撹拌し、メチルエチルケトンで固形分を20質量%に調整し、顔料分散液を得た。
【0113】
(離型剤分散液の調製)
カルナバワックス1号(融点83.1℃、加藤洋行株式会社製、植物系ワックス)200質量部と前記分散用樹脂200質量部とを加圧ニーダーで混練した。得られた混練物とメチルエチルケトン740質量部とをボールミルに仕込んで6時間撹拌し、メチルエチルケトンで固形分を20質量%に調整し、離型剤分散液を得た。
【0114】
(湿式混錬ミルベースの調製)
ブロック共重合体B-1~B-13及びブロック共重合体B’-1~B’-2、前記顔料分散液、並びに前記離型剤分散液をそれぞれ表6~8に示す量でデスパーで混合し、得られた混合物をメチルエチルケトンを加えて固形分を55質量%に調整して、ミルベースMB-1~MB-13及びミルベースMB’-1~MB’-2を得た。
【0115】
(トナーの製造)
マックスブレンド翼を有する2Lセパラブルフラスコに、ミルベースMB-1~MB-13及びミルベースMB’-1~MB’-2をそれぞれ545.5質量部、及び1規定アンモニア水23.8質量部を加えて、スリーワンモーターにより350rpmにて十分に撹拌した後、温度を30℃に調整し、脱イオン水266質量部を滴下して転相乳化した。転相乳化後、脱イオン水333質量部を加えて、微粒子分散体を調製した。
次いで、ノニオン型乳化剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エパン450、第一工業製薬社製)4.1質量部を添加し、温度を30℃に保ちながら回転数を250rpmに調整し、3%硫酸アンモニウム水溶液410質量部を滴下し、5分間撹拌して合一を行い、スラリーを得た。
【0116】
得られたスラリーについて、遠心分離機で固液分離し、洗浄を行い、真空乾燥機で乾燥して、トナー粒子を得た。ヘンシェルミキサーを用いて、トナー粒子100質量部に疎水性シリカ(H-2018、クラリアント株式会社製)0.5質量部と酸化チタン(JMT-150AO、テイカ株式会社製)0.5質量部とを外添し、トナーT-1~T-13及びトナーT’-1~T’-2をそれぞれ得た。尚、ミルベースMB’-1を用いた場合は、共重合体B’-1の酸価が高く、乳化剤による乳化が阻害されてしまっためにトナー化できなかった。
得られたトナーについて以下の評価を行った。結果を表6~8に示す。
【0117】
(結晶化比率)
トナーに含まれるブロック共重合体の結晶化比率を別途評価した。具体的にはブロック共重合体およびブロック共重合体を構成する結晶性ポリエステル樹脂の融解熱量(J/g)をそれぞれ示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製 DSC-220C)で測定した。
前記ブロック共重合体の融解熱量を、前記結晶性ポリエステル樹脂の融解熱量に含有割合を掛けた値で割り(ブロック共重合体の融解熱量/(結晶性ポリエステルの融解熱量×ブロック共重体中の結晶性ポリエステルの重量割合))、ブロック共重合体の結晶化比率を算出し、下記の基準で評価した。
◎:65%以上の場合
○:55~65%の場合
△:45~55%の場合
×:45%以下の場合
【0118】
結晶化比率が高いほどブロック共重合体のシャープメルト性が高く、トナーの低温定着性向上が期待できる。
【0119】
(低温定着性)
トナーを複写機に充填し、熱ロールの設定温度を5℃きざみに80℃から140℃まで変化させ、ベタ印刷を行った。ベタ印刷部分に堅牢度試験を行い、試験前後の画像濃度をマクベス濃度計(RD-918)で測定し、その試験前の値に対する剥離後の濃度値の比率を%で表示した場合に、その値が80%以上となる温度を定着開始温度とした。この温度が低いほど低温定着性が良好であることを示す。
トナーの低温定着性の評価基準は下記の通りとした。尚、堅牢度試験は学振型摩擦堅牢度試験機(荷重:200g、擦り操作:5ストローク)を用いて行った。
◎:定着開始温度が110℃未満の場合
○:定着開始温度が110℃以上、115℃未満の場合
△:定着開始温度が115℃以上、120℃未満の場合
×:定着開始温度が120℃以上の場合
【0120】
(耐熱保存性)
40℃50%RHの環境下で66g/cm2の負荷をかけて48時間放置したトナーをサンプルとして用いた。このサンプル400gを目開き45μmの篩いをセットした振動篩い装置で振幅1mm30秒間振動させた。篩いに残った凝集物の割合を下記の基準で評価した。凝集物の割合が小さいものほど耐熱保存性は良好であることを示す。
◎:10質量%未満の場合
○:10~20質量%未満の場合
△:20~30質量%未満の場合
×:30質量%以上の場合
【0121】
(帯電量及び帯電安定性)
吸引ブローオフ型帯電量測定機器(210HS-2A、トレックジャパン株式会社製)を用い、トナー1.5gとフェライトキャリア(MF-1008、日本鉄粉株式会社製)48.5gとの混合物を50mlのポリ容器にて1分間、10分間、30分間及び60分間ターブラシェイカーミキサーにてそれぞれ混合し、得られた混合物それぞれを前記帯電量測定機器によって帯電量を測定した。測定して得られた帯電量の平均値をトナーの帯電量とした。帯電量の評価基準は下記の通りとした。
◎ :-45μC/g以上
○ :-40μC/g以上-45μC/g未満
△ :-35μC/g以上-40μC/g未満
× :-30μC/g以上-35μC/g未満
××:-30μC/g未満
また、前記10分間、30分間及び60分間混合した混合物の帯電量について、最大帯電量と最小帯電量の差を求め、この値を帯電安定性の評価とした。この値が小さいほど帯電安定性に優れることを示す。帯電安定性の評価基準の評価基準は下記の通りとした。
◎:最大帯電量と最小帯電量の差が-3μC/g未満
○:最大帯電量と最小帯電量の差が-3μC/g以上-6μC/g未満
△:最大帯電量と最小帯電量の差が-6μC/g以上-9μC/g未満
×:最大帯電量と最小帯電量の差が-9μC/g以上-12μC/g未満
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
実施例1のブロック共重合体B-1と比較例1のブロック共重合体B’-1とはアミンの添加の有無のみが異なる。トナー製造の際、実施例1では乳化できた一方で、比較例1では乳化に失敗しており、アミン化合物添加によって乳化が阻害されないことが読み取れる。また、表6-8から、アミンブロックすることによって低温定着性が向上していることも読み取れる。