(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091996
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】コンクリート構造体用充填材積層体、及びコンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
C04B 41/62 20060101AFI20230626BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230626BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20230626BHJP
C04B 41/65 20060101ALI20230626BHJP
C04B 41/63 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C04B41/62
E04G23/02 B
C09D133/00
C04B41/65
C04B41/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206931
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】西村 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】神崎 満幸
(72)【発明者】
【氏名】入江 博美
(72)【発明者】
【氏名】山崎 理恵
(72)【発明者】
【氏名】植村 幸司
【テーマコード(参考)】
2E176
4G028
4J038
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB13
4G028CA01
4G028CB01
4G028DA01
4J038CG001
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA12
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】大気開放条件下においても、層間密着性に優れ、優れた柔軟性を長期間保持可能なコンクリート構造体用充填材積層体、及び、該コンクリート構造体用充填材積層体により間隙を充填されたコンクリート構造体を提供することである。
【解決手段】有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に水性塗料から得られる塗膜(B)を有することを特徴とするコンクリート構造体用充填材積層体、及び、該コンクリート構造体用充填材積層体により間隙を充填されたことを特徴とするコンクリート構造体を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に水性塗料から得られる塗膜(B)を有することを特徴とするコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項2】
前記有機無機複合ヒドロゲル層(A)が、水溶性有機モノマーの重合体、水膨潤性粘土鉱物、及び水を含有するものである請求項1記載のコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項3】
前記有機無機複合ヒドロゲル層(A)が、揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm2・1時間あたり、0.1g以下(0.1g/cm2・hr・60℃・1atm以下)である低揮発性溶媒を含有するものである請求項2記載のコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項4】
前記水膨潤性粘土鉱物が、ホスホン酸変性ヘクトライトを含むものである請求項2又は3記載のコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項5】
前記水性塗料が、アクリル系樹脂を含有するものである請求項1~4いずれか1項記載のコンクリート構造体用充填材積層体。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項記載のコンクリート構造体用充填材積層体により間隙を充填されたことを特徴とするコンクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体用充填材積層体、及びコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物継目やひび割れに対し、各種の充填材が提案されてきた。しかしながら、複雑形状部や湿潤面では付着自体が難しく、また、構造物の季節変動による伸縮に追従できず、剥離、脆性破壊が生じる問題があった。
【0003】
これらの問題に対し、水溶性有機モノマーの重合体及び水膨潤性粘度鉱物により形成された高分子ヒドロゲルからなるコンクリート構造体用充填材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この充填材は、大気開放条件下で水が蒸散することにより、最終的に脆い材料へと変化し、コンクリート構造体と剥離してしまう問題があった。
【0004】
そこで、大気開放条件下においても柔軟性を長期間保持できるコンクリート構造体用充填材が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、大気開放条件下においても、層間密着性に優れ、優れた柔軟性を長期間保持可能なコンクリート構造体用充填材積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、有機無機複合ヒドロゲル層の上に水性塗料から得られる塗膜を有するコンクリート構造体用充填材積層体によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に水性塗料から得られる塗膜(B)を有することを特徴とするコンクリート構造体用充填材積層体を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体は、層間密着性に優れ、優れた柔軟性を長期間保持可能なことから、トンネル、道路、橋梁、軌道、ビル、護岸、上下水道等のコンクリート構造物の充填材として、また、それらの補修材として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体は、有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に水性塗料から得られる塗膜(B)を有するものである。
【0011】
前記ヒドロゲル層(A)は、柔軟性に優れることから、水溶性有機モノマーの重合体、水膨潤性粘土鉱物、及び水を含有するものが好ましい。
【0012】
前記水溶性有機モノマーの重合体は、水溶性有機モノマーの重合により得られるが、前記水溶性有機モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド基を有するモノマー、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマー、ヒドロキシル基を有するアクリルモノマー等が挙げられる。
【0013】
前記(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、メタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0014】
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーとしては、例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシメチルアクリレート、エトキシメチルアクリレート等が挙げられる。
【0015】
前記ヒドロキシル基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、溶解性及び得られる有機無機ヒドロゲル層の物性の観点から、(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーを用いることが好ましく、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンを用いることがより好ましく、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンを用いることがさらに好ましく、重合が進行しやすい観点から、N,N-ジメチルアクリルアミドが特に好ましい。
【0017】
上述の水溶性有機モノマーは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記水溶性有機モノマーの重合体は、必要に応じて、前記水溶性有機モノマー以外のその他のモノマーを共重合することもできる。
【0019】
前記ヒドロゲル層(A)中の前記水溶性有機モノマーの重合体の含有量は、1~50質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。前記水溶性有機モノマーの重合体の含有量が1質量%以上であると、力学物性に優れるヒドロゲルを得ることができることから好ましい。一方、前記水溶性有機モノマーの重合体(A)が50質量%以下であると、重合前のヒドロゲル前駆体組成物の調製が容易にできることから好ましい。
【0020】
前記水膨潤性粘土鉱物は、上記水溶性有機モノマーの重合体とともに三次元網目構造を形成し、前記ヒドロゲル層(A)の構成要素となる。
【0021】
前記水膨潤性粘土鉱物としては、特に制限されないが、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性雲母等が挙げられる。
【0022】
前記水膨潤性スメクタイトとしては、例えば、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト等が挙げられる。
【0023】
前記水膨潤性雲母としては、例えば、水膨潤性合成雲母等が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、ヒドロゲル前駆体組成物の安定性の観点から、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイトを用いることが好ましく、水膨潤性ヘクトライトを用いることがより好ましい。
【0025】
前記水膨潤性粘土鉱物は、天然由来のもの、合成されたもの、および表面を修飾されたものを用いることもできる。表面を修飾された水膨潤性粘土鉱物としては、例えば、ホスホン酸変性ヘクトライト、フッ素変性ヘクトライト等が挙げられるが、得られる有機無機複合ヒドロゲルの強度及び接着性の観点から、ホスホン酸変性ヘクトライトを用いることが好ましい。
【0026】
前記ホスホン酸変性ヘクトライトとしては、例えば、ピロリン酸変性ヘクトライト、エチドロン酸変性ヘクトライト、アレンドロン酸変性ヘクトライト、メチレンジホスホン酸変性ヘクトライト、フィチン酸変性ヘクトライト等を用いることができる。これらのホスホン酸変性ヘクトライトは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
なお、上述の水膨潤性粘土鉱物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記ヒドロゲル層(A)中の水膨潤性粘土鉱物の含有量は、得られるヒドロゲルの力学物性がより向上することから、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、前記ヒドロゲル層(A)中の水膨潤性粘土鉱物の含有量は、ヒドロゲル前駆体組成物の粘度上昇をより抑制することができることから、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、前記ヒドロゲル層(A)は、水以外の有機溶媒を含んでいてもよく、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の力学物性を安定して保持できるヒドロゲルが得られることから、揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm2・1時間あたり、0.1g以下(0.1g/cm2・hr・60℃・1atm以下)のものが好ましく、0.05g以下のものがより好ましく、0.01g以下のものがさらに好ましい。具体的には、水と混和しやすい溶媒が好ましいことからグリセリン(0.001g以下/cm2・hr・60℃・1atm)、ジグリセリン(0.001g以下/cm2・hr・60℃・1atm)、エチレングリコール(0.01g以下/cm2・hr・60℃・1atm)、プロピレングリコール(0.001g以下/cm2・hr・60℃・1atm)、ポリエチレングリコール(0.001g以下/cm2・hr・60℃・1atm)等の揮発性が60℃1気圧の開放系において1cm2・1時間あたり、0.01g以下の多価アルコールが好ましく、グリセリン、ジグリセリンがより好ましい。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの有機溶媒は、本発明の有機無機複合ヒドロゲルに均一に含まれることが望ましい。
【0030】
前記ヒドロゲル層(A)中の水と前記有機溶媒との質量比(水/有機溶媒)は、大気開放条件下においても質量変化が小さく、基材密着性、破断強度等の各種物性に優れる有機無機ヒドロゲルが得られることから、60/40~20/80であることが重要であり、50/50~30/70であることが好ましい。
【0031】
前記ヒドロゲル層(A)の製造方法としては、簡便に三次元網目構造を有するヒドロゲルが得られることから、水溶性有機モノマー、水膨潤性粘度鉱物、水、及び、必要に応じて有機溶媒の混合液と、重合開始剤と、重合促進剤とを含むヒドロゲル前駆体組成物中で、前記水溶性有機モノマーを重合させる方法が好ましい。得られた水溶性有機モノマーの重合体は水膨潤性粘土鉱物ととともに三次元網目構造を形成し、ヒドロゲルの構成要素となる。
【0032】
前記重合開始剤は、空気雰囲気下においても、前記水溶性有機モノマーの重合を十分に進行させることができることから、20℃における水への溶解度が50g/100ml以上であることが好ましい。
【0033】
前記重合開始剤としては、例えば、20℃における水への溶解度が50g/100ml以上である水溶性の過酸化物、水溶性のアゾ化合物等が挙げられる。
【0034】
前記水溶性の過酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、t-ブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0035】
前記水溶性のアゾ化合物としては、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、前記水膨潤性粘度鉱物との相互作用の観点から、水溶性の過酸化物を用いることが好ましく、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0037】
なお、前記重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記ヒドロゲル前駆体組成物中の前記水溶性有機モノマーに対する前記重合開始剤のモル比は、空気雰囲気下においても、前記水溶性有機モノマーの重合を十分に進行させることができることから、0.01~0.1の範囲が好ましく、0.01~0.05の範囲がより好ましい。
【0039】
前記重合促進剤としては、例えば、3級アミン化合物、チオ硫酸塩、アスコルビン酸類等が挙げられる。
【0040】
前記3級アミン化合物としては、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、3-ジメチルアミノプロピオニトリルが挙げられる。
【0041】
前記チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0042】
前記アスコルビン酸類としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウムが挙げられる。
【0043】
これらのうち、水膨潤性粘土鉱物との親和性及び相互作用の観点から、3級アミン化合物を用いることが好ましく、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを用いることがより好ましい。
【0044】
なお、前記重合促進剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記ヒドロゲル前駆体組成物中の前記重合促進剤の含有量は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましい。0.01質量%以上であると、得られるヒドロゲルの有機モノマーの合成を効率よく促進できることから好ましい。一方、1質量%以下であると、前記ヒドロゲル前駆体組成物が重合前に凝集せずに使用することができて、取扱性が向上することから好ましい。
【0046】
前記ヒドロゲル前駆体組成物は、必要に応じて、有機架橋剤、防腐剤、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。
【0047】
前記水溶性有機モノマーの重合温度としては、10~80℃であることが好ましく、20~80℃であることがより好ましい。重合温度が10℃以上であると、ラジカル反応が連鎖的に進行できることから好ましい。一方、重合温度が80℃以下であると、水が沸騰せずに重合できることから好ましい。
【0048】
前記重合時間としては、前記重合開始剤や前記重合促進剤の種類によって異なるが、数十秒~24時間の間で実施される。特に、加熱やレドックスを利用するラジカル重合の場合は、1~24時間であることが好ましく、5~24時間であることがより好ましい。重合時間が1時間以上であると、前記水膨潤性粘土鉱物と前記水溶性有機モノマーの重合物が三次元網目を形成できることから好ましい。一方、重合反応は24時間以内にほぼ完了するので、重合時間は24時間以下が好ましい。
【0049】
前記塗膜(B)は、前記ヒドロゲル層(A)上に水性塗料を塗装することにより得られるものであるが、前記ヒドロゲル層(A)と水性塗料との親和性が優れることから、前記ヒドロゲル層(A)と前記塗膜(B)は、優れた層間密着性を発現する。
【0050】
前記水性塗料は、樹脂が水性媒体中に溶解又は分散しているものである。
【0051】
前記樹脂は、塗膜形成用途に使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシエステル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、前記ヒドロゲル層(A)との親和性に優れ、層間密着性に優れることから、アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂等のアクリル系樹脂が好ましい。なお、これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
また、前記樹脂は、前記水性媒体への溶解性や分散性がより向上することから、親水性基を有することが好ましい。
【0053】
前記親水性基としては、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等が挙げられる。
【0054】
また、前記樹脂中に架橋性官能基を導入することで、2液硬化型の水性塗料として使用することもできる。
【0055】
前記水性媒体としては、例えば、水、親水性有機溶剤、及びこれらの混合物が挙げられるが、前記ヒドロゲル(A)との親和性に優れることから、水、又は、水と親水性有機溶剤の混合物が好ましい。
【0056】
前記親水性有機溶剤としては、水と分離することなく混和する水混和性有機溶剤が好ましく、これらの中でも水に対する溶解度(水100gに溶解する有機溶剤のグラム数)が25℃において3g以上の有機溶剤が好ましい。これら水混和性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル溶剤などが挙げられる。これら水混和性有機溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記水性塗料中の前記樹脂と前記水性媒体の質量比(樹脂/水性媒体)は、塗工性及び層間密着性が優れることから、20/80~60/40が好ましく、30/70~50/50がより好ましい。
【0058】
前記水性塗料は、前記ヒドロゲル層(A)と前記塗膜(B)との層間密着性がより向上することから、親水性可塑剤を含有することが好ましい。
【0059】
前記親水性可塑剤としては、前記ヒドロゲル層(A)との親和性に優れることから、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリオール可塑剤が好ましく、これらの中でも、グリセリン、ジグリセリンが好ましい。
【0060】
前記親水性可塑剤の含有量は、前記ヒドロゲル層(A)と前記塗膜(B)との層間密着性がより向上することから、前記樹脂の1~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0061】
また、前記水性塗料は、必要に応じて、界面活性剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、顔料等の各種の添加剤を含有することができる。
【0062】
前記水性塗料の前記ヒドロゲル層(A)への塗装方法としては、公知各種の塗装方法を用いることができるが、前記ヒドロゲル層(A)が複雑な形状を有する場合にも容易に塗装できることから、刷毛、スプレー、ローラーによる塗装が好ましい。
【0063】
また、前記水性塗料を塗装後、塗膜とする方法としては、常温下で0.5~7日間程度養生する方法が挙げられるが、40~80℃に加温し、養生時間を短縮することもできる。
【0064】
前記水性塗料の塗布量は、前記ヒドロゲル層(A)との層間密着性に優れ、前記ヒドロゲル層(A)からの水の蒸散をより抑制することができることから、塗布量が多く、膜厚を厚く形成できる方が好ましいが、塗布量が多くなると乾燥性が遅くなることから、0.05~0.5kg/m2が好ましい。
【0065】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体の製造方法としては、複雑形状部等にも容易に充填することができ、土木工事現場や建築工事現場等での作業性がより向上することから、前記ヒドゲル前駆体組成物をコンクリート構造体の間隙又は表面上に注入し、間隙内又は表面上で前記有機無機複合ヒドロゲルを生成させ、その上に前記水性塗料を塗装する方法が好ましい。
【0066】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体は、コンクリートとの親和性により毛細管現象で多孔質に入り密着する。
【0067】
本発明のコンクリート構造体用充填材積層体は、大気開放条件下においても、層間密着性に優れ、優れた柔軟性を長期間保持可能であることから、各種工業材料に用いることができる。例えば、トンネル、道路、橋梁、軌道、ビル、護岸、上下水道等のコンクリート構造物の充填材として、また、それらの補修材として用いることができる。
【実施例0068】
以下に、本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
(調製例1:ヒドロゲル前駆体組成物(1)の調製)
平底ガラス容器に、純水40g、精製グリセリン63g、ホスホン酸変性合成ヘクトライト(ビックケミー・ジャパン株式会社製「ラポナイトRDS」)4.8g、ジメチルアクリルアミド(以下、「DMAA」と略記する。)20g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド20mgを入れて、撹拌により均一透明な組成物(1)を調製した。この組成物(1)を水温25℃恒温槽に保持した後の粘度をB型粘度計(東機産業株式会社製「VISCOMETER TV-20」)を用いて測定したところ、50mPa・sであった。
次いで、別の平底ガラス容器に精製グリセリン12.6g、テトラメチルエチレンジアミン(以下、「TEMED」と略記する。)80μLを入れて撹拌し、均一なTEMED溶液を調製した。
200mLのガラスビーカーに前記組成物(1)を全量入れ、そこに過硫酸ナトリウム(以下、「NPS」と略記する。)0.5gを入れて、溶解するまで撹拌した。さらに上記で調製したTEMED溶液を加えていき、均一に混合するまで撹拌を続け、ヒドロゲル前駆体組成物(1)を調製した。
【0070】
(調製例2:ヒドロゲル前駆体組成物(2)の調製)
調製例1で用いたN,N’-メチレンビスアクリルアミド20mgを、ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトアクリレート4EG-A」)0.05gに変更した以外は調製例1同様にして、ヒドロゲル前駆体組成物(2)を調製した。
【0071】
アクリルエマルジョン(DIC株式会社製「バーノック WE-317」、不揮発分:45質量%、溶剤:水)を水性塗料(1)として用いた。
【0072】
ウレタン変性アクリルエマルジョン(DIC株式会社製「ボンコート HY-364」:不揮発分45質量%、溶剤:水)を水性塗料(2)として用いた。
【0073】
アクリルエマルジョン(DIC株式会社製「バーノック WE-317」、不揮発分:45質量%、溶剤:水)100質量部に、グリセリン5質量部を加え、均一に混合するまで撹拌し、水性塗料(3)を調製した。
【0074】
(実施例1)
モルタル平板(70mm×70mm×20mm)2枚の平面同士が平行になるように並べて、その間に40mm幅のポリプロピレン製スペーサーを2個挿入した。2個のスペーサーの距離を30mm開け、ヒドロゲルを充填する空間を作製して、モルタル板とスペーサー全体とをアルミテープで固定した。この型枠に上記で得たヒドロゲル前駆体組成物(1)110gを流し込み、20分間静置し、有機無機複合ヒドロゲルを作製後、型枠を撤去しH型試験体を得た。H型試験体の有機無機複合ヒドロゲルの上に、上記で得た水性塗料(1)を刷毛で塗布(塗布量:0.3kg/m2)し、24時間静置し、コンクリート構造体用充填材層(1)、及びコンクリート構造体(1)としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た。
【0075】
[層間密着性の評価]
上記で得たコンクリート構造体(1)のH型試験体を5mm/minの速度で、50%の伸度まで伸張し、その後、同速度で0%の伸度(元の位置)まで伸張を戻した。このサイクルを5回連続繰り返した後、さらに50%の伸度まで伸張し、目視により塗膜外観を観察し、層間密着性を下記の基準により評価した。
○:異常なし
×:塗膜に剥離がみられる
【0076】
[柔軟性の評価]
上記で得たコンクリート構造体(1)のH型試験体を5mm/minの速度で、50%伸張した試験体を、90日間放置した後の状態を目視により観察し、柔軟性を下記の基準により評価した。
○:異常なし
×:充填材積層体の柔軟性が低下し、モルタルとの剥離がみられる
【0077】
(実施例2)
実施例1で用いた水性塗料(1)を水性塗料(2)に変更した以外は実施例1と同様にして、コンクリート構造体用充填材層(2)、及びコンクリート構造体(2)としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た後、各性能を評価した。
【0078】
(実施例3)
実施例1で用いたヒドロゲル前駆体組成物(1)をヒドロゲル前駆体組成物(2)に変更した以外は実施例1と同様にして、コンクリート構造体用充填材層(3)、及びコンクリート構造体(3)としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た後、各性能を評価した。
【0079】
(実施例4)
実施例1で用いた水性塗料(1)を水性塗料(3)に変更した以外は実施例1と同様にして、コンクリート構造体用充填材層(4)、及びコンクリート構造体(4)としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た後、各性能を評価した。
【0080】
(比較例1)
実施例1で塗布した水性塗料(1)を塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして、コンクリート構造体(R1)としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た後、柔軟性を評価した。
【0081】
(比較例2)
実施例1で用いた水性塗料(1)を溶剤系塗料(DIC株式会社製「プライアデック T-46NX」)に変更した以外は、実施例1と同様にして、コンクリート構造体用充填材層(R2)、及びコンクリート構造体(R2)としてモルタル-ゲル-モルタル構造体(H型試験体)を得た後、各性能を評価した。
【0082】
なお、上記の実施例及び比較例の操作は、23℃、50%RH条件の試験室内で行ったものである。
【0083】
実施例1~4の組成及び評価結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
比較例1~2の組成及び評価結果を表2に示す。
【0086】
【0087】
実施例1~4の本発明のコンクリート構造体用充填材層は、層間密着性に優れ、優れた柔軟性を長期間保持可能であることが確認された。
【0088】
一方、比較例1は、有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に塗膜を有さない例であるが、柔軟性を長期間保持できないことが確認された。
【0089】
比較例2は、有機無機複合ヒドロゲル層(A)の上に、溶剤系塗料から得られた塗膜を有する例であるが、層間密着性が不十分であり、柔軟性を長期間保持できないことが確認された。