(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092096
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】光変換層形成用インク組成物の印刷方法、およびカラーフィルタ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20230626BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230626BHJP
B41J 2/19 20060101ALI20230626BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230626BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C09D11/322 ZNM
B41J2/01 501
B41J2/19
B41M5/00 120
G02B5/20
G02B5/20 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207094
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】山口 沙織
(72)【発明者】
【氏名】古矢 智樹
【テーマコード(参考)】
2C056
2H148
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA15
2C056EC49
2C056EE18
2C056FB01
2C056FC01
2H148AA00
2H148AA18
2H148BC21
2H148BF12
2H148BF16
2H148BF20
2H148BF29
2H148BG02
2H148BH02
2H186AA15
2H186AA17
2H186AB11
2H186BA08
2H186DA18
2H186FB04
2H186FB18
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB53
2H186FB56
4J039AD21
4J039BA13
4J039BA19
4J039BA35
4J039BA39
4J039BC20
4J039BC56
4J039BE01
4J039BE27
4J039BE33
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA27
4J039EA46
4J039FA04
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】微細なサブピクセル(画素部形成領域)内に光変換層形成用インク組成物を均一に吐出でき、光学特性が良好でかつバラツキの少ない高精細な印刷が可能な、インクジェット方式による印刷方法、およびかかる印刷方法により得られる、発光特性に優れる光変換層およびカラーフィルタを提供すること。
【解決手段】発光性ナノ結晶粒子、および光重合性化合物を含む光変換層形成用インク組成物のインクジェット方式による印刷方法であって、
インクタンクからインクジェットヘッドまでのインク経路の途中に備えた脱気モジュールを減圧して内圧を下げる工程と、前記インク組成物を前記脱気モジュールに通液させる工程と、前記脱気モジュールを通液した前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出する工程と、を有し、前記インク組成物の25℃における粘度が50mPa・s以下である、印刷方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光性ナノ結晶粒子、および光重合性化合物を含む光変換層形成用インク組成物のインクジェット方式による印刷方法であって、
インクタンクからインクジェットヘッドまでのインク経路の途中に備えた脱気モジュールを減圧して内圧を下げる工程と、
前記インク組成物を前記脱気モジュールに通液させる工程と、
前記脱気モジュールを通液した前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出する工程と、を有し、
前記インク組成物の25℃における粘度が50mPa・s以下である、印刷方法。
【請求項2】
前記インク組成物中の前記発光性ナノ結晶粒子の含有量が30質量%以下である、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記インク組成物中の前記発光性ナノ結晶粒子の含有量が10質量%以上30質量%以下である、請求項1または2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記インク組成物中の前記光重合性化合物の含有量が10質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項5】
前記インク組成物が、さらに光散乱性粒子を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項6】
前記インク組成物が、さらに分散剤を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項7】
前記分散剤の重量平均分子量が50000以下である、請求項6に記載の印刷方法。
【請求項8】
前記インク組成物の静的表面張力が50mN/m以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の印刷方法を用いて得られる、カラーフィルタ。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の印刷方法を用いて得られるカラーフィルタを含む、ディスプレイデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光変換層形成用インク組成物の印刷方法に関する。詳細には、本発明は、発光性ナノ結晶粒子を含有するインク組成物を用いて、光変換層のカラーフィルタ画素部を形成する印刷方法、および該印刷方法により得られるカラーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、携帯端末、テレビ、モニター等の用途に広く用いられている。従来、液晶表示装置等のディスプレイにおけるカラーフィルタ画素部は、例えば、赤色有機顔料粒子または緑色有機顔料粒子と、アルカリ可溶性樹脂および/またはアクリル系単量体とを含有する硬化性レジスト材料を用いて、フォトリソグラフィ法により製造されてきた。フォトリソグラフィ法では、顔料や染料等の色材を含有する感光性樹脂組成物を基板上に塗布、乾燥後、UV照射でマスク露光し、アルカリ現像により未硬化部分を除去した後、焼成することが行われる。また、近年は、白色光を発光する有機EL素子とカラーフィルタとを組み合わせた自発光表示装置も、テレビ、モニター等の用途に広く用いられている。しかしながら、これらのカラーフィルタを使用した表示装置では、原理的に少なくとも67%の光がカラーフィルタで吸収されるため、カラーフィルタ自体の透過率の向上による低消費電力化には根本的な限界があった。
【0003】
近年、ディスプレイの低消費電力化が強く求められるようになり、上記赤色有機顔料粒子または緑色有機顔料粒子に代えて、例えば量子ドット、量子ロッド、その他の無機蛍光体粒子等の発光性ナノ結晶粒子を光変換層に使用して、赤色画素、緑色画素といったカラーフィルタ画素部を形成させる方法が、活発に研究されている。
この光変換層は、ブラックマトリクスを形成した基板上に、青色光により励起され、赤色の蛍光を発する赤色発光性量子ドット層と、青色光により励起され、緑色の蛍光を発する緑色発光性量子ドット層と、青色光を透過する青色光透過層とを形成してなる。かかる光変換層と、青色発光するLEDバックライトや青色発光する有機EL素子と組み合わせることにより、液晶表示装置や自発光表示装置が構成されている。
このような光変換層を備える表示装置では、従来のカラーフィルタを備える表示装置よりも光利用効率を高めることができる。また、量子ドットから発せられる半値幅の小さいスペクトルを有する蛍光を、そのまま表示装置の色表示に利用できるため、色再現範囲の広い表示装置とすることができる。
【0004】
例えば、光変換層を、量子ドットを含む感光性樹脂組成物を用いて、基板の一方の面側に塗膜を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターニングした後、得られた塗膜を加熱処理により硬化させて製造する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。しかし、上記フォトリソグラフィ法でのカラーフィルタの製造方法では、その製造方法の特徴から、比較的高価な発光性ナノ結晶粒子を含めた画素部以外のレジスト材料が無駄になるという欠点があった。
このような原材料の無駄を低減できる手法として、インクジェット法により、光変換基板画素部を形成することが検討されている。インクジェット法は、インクの微小液滴をインクジェットヘッドより飛翔させ、対象となる記録媒体に付着させて印刷を行う方法であり、その機構が比較的簡便で安価であり、高精細で高品位な画像を形成できる。
インクジェット法を適用できれば、光変換層における赤色発光性量子ドット層と、緑色発光性量子ドット層と、青色光透過層(または青色発光性ナノ結晶粒子を含有する量子ドット層)とを同時に形成できるため、製造効率を高められる。また、吐出されたインク(感光性樹脂組成物)の全てを使用できるため、フォトリソグラフィ法のような原材料の無駄も生じ難い。例えば、量子ドットを分散させたインクジェットインクとしては、青色発光する有機EL素子との組み合わせで使用される光変換層のパターニングに使用する例が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
インクジェット法として近年主流であるオンデマンド型の記録方式は、ピエゾ素子を用いるいわゆるピエゾ方式とサーマルジェット方式に分類される。その中で、ピエゾ方式では、インク吐出時に多数回の加圧および減圧を繰り返す。そのため、キャビテーションにより微小な気泡が発生しやすいことに起因し、インク吐出時のドット抜けや着弾位置ずれ等が、粒状性等のプリント画質を劣化させやすい。
これを防止すべく、有機染料や顔料を含有する一般的なインクジェットインクにおいては、含まれる気体量をできる限り少なくして吐出時の気泡発生を防止する観点より、通常、脱気処理が施される。脱気処理として、例えば、気体透過性のあるチューブの内側にインクを流し、チューブの外側を減圧、真空にすることにより脱気を行う方法(特許文献3参照)が提案されている。
【0006】
一方、量子ドットを含有するインク組成物やその製膜品は、大気に含まれる酸素や水分が原因で劣化する問題がある。量子ドットを含有するインク組成物を大面積の領域に供給してインクジェット法によりカラーフィルタを製造する際に、これらを完全に大気から隔離することは、ヘッド部分近傍や印刷基材上の印刷面等の印刷装置の大部分を、高純度の不活性ガス雰囲気下に配置せざるを得ず、巨額の設備投資等が必要となる。
大気中の酸素や水分に晒されても性能劣化の少ないインク組成物として、例えば、不活性ガスにより飽和または過飽和された溶媒、および機能性有機材料を含む調合物(特許文献4参照)、水分を実質的に含まない量子ドットを含む組成物(特許文献5参照)、不活性ガスを導入して溶存酸素を脱気し、また減圧により脱気する、量子ドットを含有するインク組成物(特許文献6参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-53716号公報
【特許文献2】国際公開第2008/001693号
【特許文献3】特開平5-17712号公報
【特許文献4】特表2016-501430号公報
【特許文献5】米国公開特許2014/0027673明細書
【特許文献6】国際公開第2013/122820号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
量子ドットを含有するインク組成物は、光変換層の光学特性(例えば外部量子効率(EQE))を向上させる観点から、発光性ナノ結晶粒子を多量に含有することが求められる。このような発光性ナノ結晶粒子を多量に含有するインク組成物は、有機染料または顔料を含有する一般的なインクジェットインクとは異なり、安定な分散状態を維持するのが難しいうえに高粘度になりやすいため、インクジェット法で安定に吐出するのが難しい。吐出安定性が低いと、量子ドットを含有するインク組成物を用いてインクジェット法で画素部を形成する際に、画素部形成領域への印刷のバラツキが生じやすく、得られるカラーフィルタの光学特性に面内ムラが生じてしまい、高解像度のディスプレイ等に要求される高精細性の水準に到達し難い。しかし、吐出安定性を担保するために発光性ナノ結晶粒子の含有量を減らしてしまうと、得られるカラーフィルタの光学特性が不十分となる。
一方、インクジェットにおける吐出安定性を低下させる重大な要素として、インク組成物に含まれる溶存気体が挙げられる。特に、発光性ナノ結晶粒子等を多量に含有する高濃度かつ高粘度のインク組成物においては、インクジェットヘッド内でわずかな溶存気体が引き起こすキャビテーションによって、吐出安定性が低下しやすい。
溶存気体に起因する吐出安定性の低下を防ぐ対策として脱気モジュールを用いる方法が考えられる。しかし、高濃度かつ高粘度のインク組成物を脱気モジュールに単に通液させることで溶存気体を除去するのは、圧力損失等の観点から容易ではない。また、このようなインク組成物を完全に脱気するためにはインク組成物を脱気モジュール内に長時間滞留させる必要があり、インク組成物の劣化や脱気モジュールの目詰まり等の別の問題も発生し得る。
なお、特許文献4~6では、インク組成物の劣化原因となる大気中の酸素や水分を除くことに着目しているが、いずれも溶存気体は除去できていないため、溶存気体に起因するキャビテーションによる吐出不良を解決する手段とはならない。
したがって、量子ドットを含有するインク組成物のインクジェット法における吐出安定性と、得られるカラーフィルタの光学特性(印刷品質)を両立できる方策が求められる。
【0009】
本発明の目的は、微細なサブピクセル(画素部形成領域)内に光変換層形成用インク組成物を均一に吐出でき、光学特性が良好でかつバラツキの少ない高精細な印刷が可能な、インクジェット方式による印刷方法、およびかかる印刷方法により得られる、発光特性に優れる光変換層およびカラーフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記(1)~(10)に関する。
(1) 発光性ナノ結晶粒子、および光重合性化合物を含む光変換層形成用インク組成物のインクジェット方式による印刷方法であって、
インクタンクからインクジェットヘッドまでのインク経路の途中に備えた脱気モジュールを減圧して内圧を下げる工程と、
前記インク組成物を前記脱気モジュールに通液させる工程と、
前記脱気モジュールを通液した前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出する工程と、を有し、
前記インク組成物の25℃における粘度が50mPa・s以下である、印刷方法。
(2) 前記インク組成物中の前記発光性ナノ結晶粒子の含有量が30質量%以下である、(1)の印刷方法。
(3) 前記インク組成物中の前記発光性ナノ結晶粒子の含有量が10質量%以上30質量%以下である、(1)または(2)の印刷方法。
(4) 前記インク組成物中の前記光重合性化合物の含有量が10質量%以上である、(1)~(3)のいずれかの印刷方法。
(5) 前記インク組成物が、さらに光散乱性粒子を含有する、(1)~(4)のいずれかの印刷方法。
(6) 前記インク組成物が、さらに分散剤を含有する、(1)~(5)のいずれかの印刷方法。
(7) 前記分散剤の重量平均分子量が50000以下である、(6)の印刷方法。
(8) 前記インク組成物の静的表面張力が50mN/m以下である、(1)~(7)のいずれかの印刷方法。
(9) (1)~(8)のいずれかの印刷方法を用いて得られる、カラーフィルタ。
(10) (1)~(8)のいずれかの印刷方法を用いて得られるカラーフィルタを含む、ディスプレイデバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細なサブピクセル(画素部形成領域)内に光変換層形成用インク組成物を均一に吐出でき、光学特性(外部量子効率等)が良好でかつバラツキの少ない高精細な印刷が可能な、インクジェット方式による印刷方法、およびかかる印刷方法により得られる、発光特性に優れる光変換層およびカラーフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の印刷方法の一実施形態である、インクタンクからインクジェットヘッドまでの構成例を示す図である。
【
図2】本発明の印刷方法により得られるカラーフィルタの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
また、本明細書において、「インク組成物の硬化物」とは、インク組成物(インク組成物が溶剤成分を含む場合には、乾燥後のインク組成物)中の硬化性成分を硬化させて得られる硬化物である。なお、乾燥後のインク組成物の硬化物中には、溶剤成分が含まれなくてよい。
【0014】
本発明は、発光性ナノ結晶粒子、および光重合性化合物を含む光変換層形成用インク組成物のインクジェット方式による印刷方法であって、インクタンクからインクジェットヘッドまでのインク経路の途中に備えた脱気モジュールを減圧して内圧を下げる工程と、前記インク組成物を前記脱気モジュールに通液させる工程と、前記脱気モジュールを通液した前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出する工程と、を有し、前記インク組成物の25℃における粘度が50mPa・s以下である、印刷方法である。
【0015】
本発明の印刷方法は、例えば、カラーフィルタ等が有する光変換層の画素部を形成するために用いられる。すなわち、本発明の印刷方法は、光変換層形成用(例えば、カラーフィルタ画素部の形成用)のインク組成物を用いて、光変換層のカラーフィルタ画素部を形成する印刷方法に使用することが好ましい。かかる印刷方法により得られるカラーフィルタは印刷のバラツキ(印刷ムラ)が少なく高精細で印刷品質に優れ、かつ光学特性の低下を防止することができる。
上記効果が得られる理由は明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。
【0016】
発光性ナノ結晶粒子等の量子ドットを多量に含有するインク組成物を大面積の領域に供給してインクジェット法によりカラーフィルタを製造する際、予め脱気してあるインク組成物をインクジェット法での流路に単に流すだけでは、インクが流路を流れてインクジェットヘッドに達するまでの間に気体が溶存し得る。先述した通り、発光性ナノ結晶粒子等の粒子を多量に含有するインク組成物のような高濃度かつ高粘度のインクにおいては、インクジェットヘッド内でわずかな溶存気体が引き起こすキャビテーションによって、吐出安定性が低下しやすいため、予め脱気してあるインク組成物をインクジェット法での流路に単に流すだけでは吐出不良を十分に抑制できない。
本発明の印刷方法では、インクタンクからインクジェットヘッドまでのインク経路の途中に脱気モジュールを備え、脱気モジュールを減圧して内圧を下げ、特定の粘度を有する光変換層形成用インク組成物をこの脱気モジュールに通液させて、通液した前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出させて印刷を行う。このため、インクジェットヘッドから吐出される時点において光変換層形成用インク中の溶存気体量を非常に低く保つことが可能となり、キャビテーションに起因する吐出不良を抑制することができる。
その結果、該インク組成物の吐出制御(吐出量および吐出のタイミングの制御等)が容易になるとともに、該インク組成物の着弾ズレの発生を抑制でき、微細なサブピクセルである画素部形成領域内に、インク量のバラツキなく確実に液滴を着弾させることができたと考えられる。
また、本発明の印刷方法により形成された印刷物、典型的にはカラーフィルタは、印刷ムラ(バラツキ)が少なく高精細で印刷品質に優れる。そのため、発光性ナノ結晶粒子が均一に分散した、外部量子効率に優れる画素部を有し、光学特性および光安定性が良好なカラーフィルタを得ることができたと考えられる。
【0017】
<光変換層形成用インク組成物>
まず、本発明の印刷方法に用いることができる、光変換層形成用インク組成物(以下、単に「インク組成物」とも称する。)の構成について説明する。かかるインク組成物は、発光性ナノ結晶粒子および光重合性化合物を含有する。
インク組成物は、特にカラーフィルタの製造用のインクとして適用が可能である。比較的高額である発光性ナノ結晶粒子、光重合性化合物等の材料を無駄に消費せずに、必要な箇所に必要な量を用いるだけで、画素部(光変換層)を形成できる点において、インク組成物はフォトリソグラフィ法よりもインクジェット法に適合するように適切に調製して用いることが好ましい。かかるインク組成物は、発光性ナノ結晶粒子および光重合性化合物に加えて、必要に応じて、後述する有機リガンド、光散乱性粒子、分散剤、酸化防止剤、有機溶剤等の他の成分をさらに含有することができる。
なお、本発明において、インク組成物はこれらの構成に限定されず、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【0018】
[発光性ナノ結晶粒子]
一般に、発光性ナノ結晶粒子は、励起光を吸収して蛍光または燐光を発するナノサイズの結晶体である。この発光性ナノ結晶粒子は、例えば、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡によって測定される最大粒子径が100nm以下である結晶体である。
【0019】
発光性ナノ結晶粒子は、例えば、所定の波長の光を吸収することにより、吸収した波長とは異なる波長の光(蛍光または燐光)を発することができる。発光性ナノ結晶粒子は、波長605~665nmの範囲に発光ピークを有する光(赤色光)を発する、赤色発光性ナノ結晶粒子であってよく、波長500~560nmの範囲に発光ピークを有する光(緑色光)を発する、緑色発光性ナノ結晶粒子であってよく、波長420~480nmの範囲に発光ピークを有する光(青色光)を発する、青色発光性ナノ結晶粒子であってもよい。
また、発光性ナノ結晶粒子が吸収する光は、例えば、波長400nm以上500nm未満(特に、波長420~480nm)の範囲の光(青色光)、または波長200nm~400nmの範囲の光(紫外光)であってよい。
なお、発光性ナノ結晶粒子の発光ピークの波長は、例えば、分光蛍光光度計を用いて測定される蛍光スペクトルまたは燐光スペクトルにおいて確認することができる。
【0020】
赤色発光性ナノ結晶粒子は、波長665nm以下、663nm以下、660nm以下、658nm以下、655nm以下、653nm以下、651nm以下、650nm以下、647nm以下、645nm以下、643nm以下、640nm以下、637nm以下、635nm以下、632nm以下または630nm以下の範囲に発光ピークを有することが好ましく、波長628nm以上、625nm以上、623nm以上、620nm以上、615nm以上、610nm以上、607nm以上または605nm以上の範囲に発光ピークを有することが好ましい。
なお、これらの上限値および下限値は、任意に組み合わせることができる。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値および下限値は、任意に組み合わせ可能である。
【0021】
緑色発光性ナノ結晶粒子は、波長560nm以下、557nm以下、555nm以下、550nm以下、547nm以下、545nm以下、543nm以下、540nm以下、537nm以下、535nm以下、532nm以下または530nm以下の範囲に発光ピークを有することが好ましく、波長528nm以上、525nm以上、523nm以上、520nm以上、515nm以上、510nm以上、507nm以上、505nm以上、503nm以上または500nm以上の範囲に発光ピークを有することが好ましい。
【0022】
青色発光性ナノ結晶粒子は、波長480nm以下、477nm以下、475nm以下、470nm以下、467nm以下、465nm以下、463nm以下、460nm以下、457nm以下、455nm以下、452nm以下または450nm以下の範囲に発光ピークを有することが好ましく、波長450nm以上、445nm以上、440nm以上、435nm以上、430nm以上、428nm以上、425nm以上、422nm以上または420nm以上の範囲に発光ピークを有することが好ましい。
【0023】
発光性ナノ結晶粒子が発する光の波長(発光色)は、井戸型ポテンシャルモデルのシュレディンガー波動方程式の解によれば、発光性ナノ結晶粒子のサイズ(例えば、粒子径)に依存するが、発光性ナノ結晶粒子が有するエネルギーギャップにも依存する。そのため、使用する発光性ナノ結晶粒子の構成材料およびサイズを変更することにより、発光色を選択(調節)することができる。
【0024】
発光性ナノ結晶粒子は、半導体材料を含む発光性ナノ結晶粒子(発光性半導体ナノ結晶粒子)であってよい。かかる発光性ナノ結晶粒子としては、量子ドット、量子ロッド等が挙げられる。これらの中でも、発光スペクトルの制御が容易であり、信頼性を確保した上で、生産コストを低減し、量産性を向上させることができる観点から、発光性ナノ結晶粒子としては量子ドットが好ましい。
【0025】
発光性ナノ結晶粒子は、第1半導体材料を含むコアのみからなっていてもよく、第1半導体材料を含むコアと、このコアの少なくとも一部を被覆し、第1半導体材料と異なる第2半導体材料を含むシェルとを有していてもよい。換言すれば、発光性ナノ結晶粒子の構造は、コアのみからなる構造(コア構造)であってもよく、コアとシェルとからなる構造(コア/シェル構造)であってもよい。
【0026】
また、発光性ナノ結晶粒子は、第2半導体材料を含むシェル(第1シェル)の他に、このシェルの少なくとも一部を被覆し、第1および第2半導体材料と異なる第3半導体材料を含むシェル(第2シェル)をさらに有していてもよい。換言すれば、発光性ナノ結晶粒子の構造は、コアと第1シェルと第2シェルとからなる構造(コア/シェル/シェル構造)であってもよい。
さらに、コアおよびシェルのそれぞれは、2種以上の半導体材料を含む混晶(例えば、CdSe+CdS、CIS+ZnS等)であってもよい。
【0027】
発光性ナノ結晶粒子は、II-VI族半導体、III-V族半導体、I-III-VI族半導体、IV族半導体およびI-II-IV-VI族半導体からなる群より選択される少なくとも1種の半導体材料を含むことが好ましい。
【0028】
具体的な半導体材料としては、例えば、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTe、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、CdHgZnTe、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe;GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InN、InP、InAs、InSb、GaNP、GaNAs、GaNSb、GaPAs、GaPSb、AlNP、AlNAs、AlNSb、AlPAs、AlPSb、InNP、InNAs、InNSb、InPAs、InPSb、GaAlNP、GaAlNAs、GaAlNSb、GaAlPAs、GaAlPSb、GaInNP、GaInNAs、GaInNSb、GaInPAs、GaInPSb、InAlNP、InAlNAs、InAlNSb、InAlPAs、InAlPSb;SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe、SnSeS、SnSeTe、SnSTe、PbSeS、PbSeTe、PbSTe、SnPbS、SnPbSe、SnPbTe、SnPbSSe、SnPbSeTe、SnPbSTe;Si、Ge、SiC、SiGe、AgInSe2、CuGaSe2、CuInS2、CuGaS2、CuInSe2、AgInS2、AgInGaS、AgGaSe2、AgGaS2、C、SiおよびGe等が挙げられる。
【0029】
発光性ナノ結晶粒子は、発光スペクトルの制御が容易であり、信頼性を確保した上で、生産コストを低減し、量産性を向上させ得る観点から、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTe、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、AgInS2、AgInSe2、AgInTe2、AgInGaS、AgGaS2、AgGaSe2、AgGaTe2、CuInS2、CuInSe2、CuInTe2、CuGaS2、CuGaSe2、CuGaTe2、Si、C、GeおよびCu2ZnSnS4からなる群より選択される少なくとも1種の半導体材料を含むことが好ましい。
【0030】
赤色発光性ナノ結晶粒子としては、例えば、CdSeのナノ結晶粒子、CdSeのコアおよびCdSのシェルを備えるナノ結晶粒子、ZnSeのコアおよびCdSのシェルを備えるナノ結晶粒子、CdSeとZnSとの混晶のナノ結晶粒子、InPのナノ結晶粒子、InPのコアおよびZnSのシェルを備えるナノ結晶粒子、InPのコアおよびZnSとZnSeとの混晶のシェルを備えるナノ結晶粒子、CdSeとCdSとの混晶のナノ結晶粒子、ZnSeとCdSとの混晶のナノ結晶粒子、InPのコア、ZnSeの第1シェルおよびZnSの第2シェルを備えるナノ結晶粒子、InPのコア、ZnSとZnSeとの混晶の第1シェルおよびZnSの第2シェルを備えるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0031】
緑色発光性ナノ結晶粒子としては、例えば、CdSeのナノ結晶粒子、CdSeとZnSとの混晶のナノ結晶粒子、InPのコアおよびZnSのシェルを備えるナノ結晶粒子、InPのコアおよびZnSとZnSeとの混晶のシェルを備えるナノ結晶粒子、InPのコア、ZnSeの第1シェルおよびZnSの第2シェルを備えるナノ結晶粒子、InPのコア、ZnSとZnSeとの混晶の第1シェルおよびZnSの第2シェルを備えるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0032】
青色発光性ナノ結晶粒子としては、例えば、ZnSeのナノ結晶粒子、ZnSのナノ結晶粒子、ZnSのコアおよびZnSeのシェルを備えるナノ結晶粒子、CdSのナノ結晶粒子、InPのコアおよびZnSのシェルを備えるナノ結晶粒子、InPのコアおよびZnSとZnSeとの混晶のシェルを備えるナノ結晶粒子、InPのコア、ZnSeの第1シェルおよびZnSの第2シェルを備えるナノ結晶粒子、InPのコア、ZnSとZnSeとの混晶の第1シェルおよびZnSの第2シェルを備えるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0033】
なお、ナノ結晶粒子は、同一の化学組成で、それ自体の平均粒子径を調整することにより、ナノ結晶粒子から発光させるべき色を赤色にも緑色にも変更することができる。
また、ナノ結晶粒子は、それ自体として、人体等に対する悪影響が極力低いものを使用することが好ましい。したがって、カドミウム、セレン等が極力含まれないナノ結晶粒子を単独で使用するか、上記元素(カドミウム、セレン等)を含有するナノ結晶粒子を発光性ナノ結晶粒子として使用する場合、これらの元素が極力少なくなるように、その他の発光性ナノ結晶粒子と組み合わせることが好ましい。
【0034】
発光性ナノ結晶粒子の形状は、特に限定されず、任意の幾何学的形状であってもよく、任意の不規則な形状であってもよい。発光性ナノ結晶粒子の形状は、例えば、球状、楕円体状、角錐形状、ディスク状、枝状、網状、ロッド状等であってもよい。
ただし、発光性ナノ結晶粒子としては、粒子形状として方向性の少ない粒子(例えば、球状、正四面体状等の粒子)を使用することが、インク組成物の均一性および流動性をより高められる点で、本発明の印刷方法において好ましい。
【0035】
発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径(体積平均径)は、所望の波長の発光が得られ易い観点、分散性および保存安定性に優れる観点から、1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であることがより好ましく、2nm以上であることがさらに好ましい。
また、発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径は、所望の波長の発光が得られ易い観点から、40nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。
なお、発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径(一次粒子径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)により、任意の複数個の発光性ナノ結晶粒子を直接観察し、投影二次元映像よる長短径比からそれぞれの粒子径を算出し、その平均値を求められる。なお、発光性ナノ結晶粒子の大きさや形状は、その化学組成、構造、製造方法や製造条件等に依存すると考えられる。
【0036】
発光性ナノ結晶粒子は、その表面近傍に有機リガンドを有していてもよく、その表面近傍に有機リガンドを有することが好ましい。
この有機リガンドは、発光性ナノ結晶粒子を分散させる機能を有する。有機リガンドは、例えば、光重合性化合物、有機溶剤等との親和性を確保するための官能基(以下、単に「親和性基」とも言う。)と、発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基(発光性ナノ結晶粒子への吸着性を確保するための官能基)とを有しており、発光性ナノ結晶粒子の表面に配位結合することができる。
【0037】
親和性基は、置換または無置換の脂肪族炭化水素基であってよい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。また、脂肪族炭化水素基は、不飽和結合を有していてもよく、不飽和結合を有していなくてもよい。
置換の脂肪族炭化水素は、脂肪族炭化水素基の一部の炭素原子が酸素原子で置換された基であってもよい。置換の脂肪族炭化水素基は、例えば、(ポリ)オキシアルキレン基を含んでいてよい。
ここで、「(ポリ)オキシアルキレン基」とは、オキシアルキレン基、および2以上のアルキレン基がエーテル結合で連結したポリオキシアルキレン基の少なくとも1種を意味する。
【0038】
発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基およびアルコキシシリル基が挙げられる。
【0039】
有機リガンドとしては、例えば、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、グルコン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、N-ラウロイルサルコシン、N-オレイルサルコシン、オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタンチオール、ドデカンチオール、ヘキシルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、フェニルホスホン酸およびオクチルホスフィン酸が挙げられる。
【0040】
インク組成物における有機リガンドの含有量は、発光性ナノ結晶粒子の分散安定性の観点および発光特性維持の観点から、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、10質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、30質量部以上、35質量部以上または40質量部以上であってよい。
インク組成物における有機リガンドの含有量は、インク組成物の粘度を低く保ち易い観点から、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、100質量部以下、90質量部以下または80質量部以下であってよい。
これらの観点から、インク組成物における有機リガンドの含有量は、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、例えば、10~100質量部であってもよく、15~80質量部であってもよい。
【0041】
発光性ナノ結晶粒子は、光重合性化合物や後述する有機溶剤の中に、コロイド形態で分散可能な粒子を好適に使用することができる。分散状態にある発光性ナノ結晶粒子の表面は、上記有機リガンドによってパッシベーションされていることが好ましい。本明細書では、かかる有機リガンドによってパッシベーションされた発光性ナノ結晶粒子を「発光性ナノ結晶粒子複合体」と称することがある。
発光性ナノ結晶粒子としては、市販品を用いることもできる。発光性ナノ結晶粒子の市販品としては、例えば、NN-ラボズ社製のインジウムリン/硫化亜鉛、D-ドット、CuInS/ZnS、アルドリッチ社製のInP/ZnS;Nanosys社製のInPナノ結晶分散体等が挙げられる。
【0042】
インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子の含有量、すなわちインク組成物の全質量を基準とする発光性ナノ結晶粒子の含有量は、本発明の印刷方法をより効果的に適用できるインク組成物の粘度と、得られるカラーフィルタの印刷品質の向上を両立させる観点から、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
また、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
なお、本明細書において、発光性ナノ結晶粒子の含有量は、発光性ナノ結晶粒子それ自体のみの含有量を意味し、上記した発光性ナノ結晶粒子複合体の場合であっても、有機リガンドの含有量は含まないものとする。
【0043】
インク組成物における発光性ナノ結晶粒子の含有量は、画素部の外部量子効率等の光学特性と、本発明の印刷方法で得られるカラーフィルタの印刷品質の向上を両立させる観点から、インク組成物に含まれる有機溶剤以外の成分の合計100質量部に対して、発光性ナノ結晶粒子の含有量が35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。また、上記有機溶剤以外の成分の合計100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましい。
なお、本明細書において、「インク組成物に含まれる有機溶剤以外の成分」とは、インク組成物の硬化物を構成する成分と言い換えてもよい。「インク組成物に含まれる有機溶剤以外の成分の合計」は、例えば、発光性ナノ結晶粒子と光重合性化合物との合計であることができる。
また、有機溶剤は、インク組成物の粘度を調整すること等を目的として、必要に応じて添加される成分であり、インク組成物に添加されていなくてもよい。
【0044】
本発明の印刷方法において、インク組成物は、発光性ナノ結晶粒子として、赤色発光性ナノ結晶粒子、緑色発光性ナノ結晶粒子および青色発光性ナノ結晶粒子のうちの2種以上を含んでいてもよいが、1種のみを含むことが好ましい。
インク組成物が赤色発光性ナノ結晶粒子を含む場合、緑色発光性ナノ結晶粒子の含有量および青色発光性ナノ結晶粒子の含有量は、発光性ナノ結晶粒子の全質量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
インク組成物が緑色発光性ナノ結晶粒子を含む場合、赤色発光性ナノ結晶粒子の含有量および青色発光性ナノ結晶粒子の含有量は、発光性ナノ結晶粒子の全質量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0045】
[光重合性化合物]
光重合性化合物は、光の照射によって重合する化合物であり、例えば、光ラジカル重合性化合物または光カチオン重合性化合物である。光重合性化合物は、光重合性モノマーまたは光重合性オリゴマー(以下、これらを総称して「光重合性モノマー」とも記載する。)のいずれであってもよい。
これらの光重合性化合物は、好ましくは光重合開始剤とともに使用される。光ラジカル重合性化合物は、光ラジカル重合開始剤とともに使用され、光カチオン重合性化合物は、光カチオン重合開始剤とともに使用される。換言すれば、インク組成物は光重合性成分として光重合性化合物および光重合開始剤を含有することができる。
光重合性化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物とを併用してもよく、光ラジカル重合性と光カチオン重合性を具備した化合物を使用してもよい。また、光重合開始剤には、光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤とを併用してもよい。
【0046】
光ラジカル重合性化合物としては、例えば、エチレン性不飽和基を有するモノマー(以下、「エチレン性不飽和モノマー」とも言う。)、イソシアネート基を有するモノマー等が挙げられる。
ここで、エチレン性不飽和モノマーとは、エチレン性不飽和結合(炭素-炭素二重結合)を有するモノマーを意味する。エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基のようなエチレン性不飽和基を有するモノマーが挙げられる。なお、これらの基を有するモノマーは、「ビニルモノマー」と称される場合がある。
【0047】
エチレン性不飽和モノマーにおけるエチレン性不飽和結合の数(例えば、エチレン性不飽和基の数)は、1~3であることが好ましい。エチレン性不飽和モノマーは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
エチレン性不飽和モノマーは、インク組成物の吐出安定性と硬化性の観点、および外部量子効率がより向上する観点から、エチレン性不飽和基を1つまたは2つ有するモノマーと、エチレン性不飽和基を2つまたは3つ有するモノマーとを含んでいてよい。すなわち、エチレン性不飽和モノマーは、単官能モノマーと2官能モノマーとの組み合わせ、単官能モノマーと3官能モノマーとの組み合わせ、および2官能モノマーと3官能モノマーとの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの組み合わせとすることができる。
【0048】
エチレン性不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基およびビニリデン基の他、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」およびそれに対応する「メタクリレート」を意味する。また、「(メタ)アクリルアミド」、「(メタ)アクリロイル」との表現についても同様である。
光重合性化合物は、エチレン性不飽和基として(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含むことが好ましく、(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドがより好ましい。
【0049】
単官能モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]フタルイミド、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフタルイミド、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート等の(メタ)アクリレート;
【0050】
(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-t-オクチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-ドデシル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。
これらの中でも、ドデシル(メタ)アクリレート等の直鎖脂肪族(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0051】
エチレン性不飽和基を2個有するモノマー(2官能モノマー)としては、例えば、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化(2)ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート[ネオペンチルグリコールエチレンオキシド2モル付加物をジアクリレート化した化合物]、プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート[ネオペンチルグリコールプロピレンオキシド2モル付加物をジアクリレート化した化合物]等のグリコール(メタ)アクリレート;
【0052】
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のアルキレングリコール(メタ)アクリレート;
ネオペンチルグリコ-ルヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレ-ト、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、
ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキシド若しくはプロピレンオキシドを付加して得られるジオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、
変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド(PO)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド(EO)付加物ジ(メタ)アクリレート、
【0053】
トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキシド若しくはプロピレンオキシドを付加して得られるトリオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキシド若しくはプロピレンオキシドを付加して得られるジオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;
N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-エチレンビス(メタ)アクリルアミド等のビス(メタ)アクリルアミド;などが挙げられる。
これらの中でも、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐のアルキレンエーテルジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等の直鎖または分岐の脂肪族ジ(メタ)アクリレート、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル等のアリルエーテル化合物が好ましく用いられる。
【0054】
エチレン性不飽和基を3個有するモノマー(3官能モノマー)の具体例としては、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0055】
光重合性化合物としての(メタ)アクリレートは、リン酸基を有する、エチレンオキシド変性リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性アルキルリン酸(メタ)アクリレート等であってもよい。
【0056】
光カチオン重合性化合物としては、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0057】
エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ化合物、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロへキサン、1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン等の脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。
エポキシ化合物として市販品を使用することもでき、例えば、ダイセル化学工業株式会社製の「セロキサイド2000」、「セロキサイド3000」、「セロキサイド4000」等が挙げられる。
【0058】
カチオン重合性のオキセタン化合物としては、2―エチルヘキシルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-n-ブチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ベンジルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシブチル-3-メチルオキセタン等が挙げられる。
【0059】
オキセタン化合物として市販品を使用することも可能である。オキセタン化合物の市販品としては、例えば、東亜合成株式会社製のアロンオキセタンシリーズ(「OXT-101」、「OXT-212」、「OXT-121」、「OXT-221」等);ダイセル化学工業株式会社製の「セロキサイド2021」、「セロキサイド2021A」、「セロキサイド2021P」、「セロキサイド2080」、「セロキサイド2081」、「セロキサイド2083」、「セロキサイド2085」、「エポリードGT300」、「エポリードGT301」、「エポリードGT302」、「エポリードGT400」、「エポリードGT401」および「エポリードGT403」;ダウ・ケミカル日本株式会社製の「サイラキュアUVR-6105」、「サイラキュアUVR-6107」、「サイラキュアUVR-6110」、「サイラキュアUVR-6128」、「ERL4289」および「ERL4299」などを用いることができる。また、公知のオキセタン化合物(例えば、特開2009-40830等に記載のオキセタン化合物)を使用することもできる。
【0060】
ビニルエーテル化合物としては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルモノエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等が挙げられる。
【0061】
また、光重合性化合物として、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニルピロリドン、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリジノン等の、窒素原子と当該窒素原子に直接結合するビニル基とを有するN-ビニル化合物や、特開2013-182215号公報の段落0042~0049に記載の光重合性化合物を用いることもできる。
【0062】
光重合性化合物は、信頼性に優れるカラーフィルタ画素部(以下、単に「画素部」とも称する。インク組成物の硬化物である。)が得られ易い観点から、アルカリ不溶性であることが好ましい。
ここで、本明細書において、光重合性化合物がアルカリ不溶性であるとは、1質量%の水酸化カリウム水溶液に対する25℃における光重合性化合物の溶解量が、光重合性化合物の全質量を基準として、30質量%以下であることを意味する。
なお、光重合性化合物の溶解量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
【0063】
インク組成物における光重合性化合物の含有量は、発光性ナノ結晶粒子の分散安定性を高め、本発明の印刷方法において規定する粘度が得られ易い観点、インク組成物の硬化性が良好となる観点、形状安定性に優れる画素部(インク組成物の硬化物)を作製し易い観点、ならびに画素部の耐溶剤性および耐磨耗性が向上する観点から、有機溶剤以外の成分の合計100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。
光重合性化合物の含有量は、本発明の印刷方法に好適に適用できる粘度が得られ易い観点、およびより優れた発光特性(例えば、外部量子効率)が得られる観点から、有機溶剤以外の成分の合計100質量部に対して、90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることがさらに好ましい。
【0064】
[光重合開始剤]
光重合開始剤は、例えば、光ラジカル重合開始剤または光カチオン重合開始剤である。
光ラジカル重合開始剤としては、分子開裂型または水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤が好適である。
【0065】
分子開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾインイソブチルエーテル、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)エトキシフェニルホスフィンオキシド等が好適に使用可能である。
これら以外の分子開裂型の光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンおよび2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オンを併用してもよい。
【0066】
水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド等が挙げられる。
なお、光重合開始剤としては、分子開裂型の光ラジカル重合開始剤と水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤とを併用してもよい。
【0067】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等のポリアリールスルホニウム塩;ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、p-ノニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等のポリアリールヨードニウム塩等が挙げられる。
【0068】
光カチオン重合開始剤には市販品を使用することもでき、例えば、サンアプロ社製の「CPI-100P」のようなスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤、BASF社製の「Lucirin TPO」のようなアシルホスフィンオキシド化合物、BASF社製の「Irgacure 907」、「Irgacure 819」、「Irgacure 379EG」、「Irgacure 184」および「Irgacure PAG290」等が挙げられる。
【0069】
インク組成物における光重合開始剤の含有量は、インク組成物の硬化性の観点から、光重合性化合物100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましく、3質量部以上であることが特に好ましく、5質量部以上であることが最も好ましい。
光重合開始剤の含有量は、画素部(インク組成物の硬化物)の経時安定性の観点から、光重合性化合物100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが特に好ましい。
【0070】
インク組成物において、光重合開始剤は重合促進剤と組み合わせて用いてもよい。
重合促進剤としては、例えばトリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p-ジエチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N-ジメチルベンジルアミン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の、光重合性化合物と反応性を有さないアミンが挙げられる。重合促進剤を用いる場合、その含有量は、光重合開始剤および重合促進剤の合計量に対し1~100質量%の範囲であることが好ましい。
【0071】
[光散乱性粒子]
インク組成物は、さらに、光散乱性粒子を含有していてもよい。光散乱性粒子は、例えば、光学的に不活性な無機粒子である。インク組成物が光散乱性粒子を含有する場合、カラーフィルタ画素部に照射された光源からの光を散乱させることができるため、優れた光学特性(例えば、外部量子効率)を得ることができる。
【0072】
光散乱性粒子を構成する材料としては、例えば、タングステン、ジルコニウム、チタン、白金、ビスマス、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、プラチナ、金のような単体金属;酸化ケイ素、タルク、クレー、カオリン、アルミナホワイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛のような酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、次炭酸ビスマス、炭酸カルシウムのような炭酸塩;水酸化アルミニウムのような水酸化物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムのような複合酸化物;硫酸バリウム、次硝酸ビスマスのような金属塩等が挙げられる。
【0073】
光散乱性粒子は、インク組成物(インクジェットインク)の吐出安定性に優れる観点、および外部量子効率の向上効果により優れる観点から、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウムおよび酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛およびチタン酸バリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0074】
光散乱性粒子の形状としては、例えば、球状、フィラメント状、不定形状等が挙げられる。ただし、光散乱性粒子の形状としては、方向性の少ない形状(例えば、球状、正四面体状等)であることが好ましい。かかる形状の光散乱性粒子を使用することにより、インク組成物の均一性、流動性および光散乱性をより高めることができ、優れた吐出安定性を確保することができる。
【0075】
光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、インク組成物の吐出安定性に優れる観点および外部量子効率の向上効果により優れる観点から、0.03μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。
光散乱性粒子の平均粒子径は、インク組成物の吐出安定性に優れる観点から、1μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましい。
【0076】
光散乱性粒子の平均粒子径は、0.05~1μm、0.05~0.6μm、0.05~0.4μm、0.1~1μm、0.1~0.6μm、0.1~0.4μm、0.2~1μm、0.2~0.6μm、0.2~0.4μm、0.3~1μm、0.3~0.6μmまたは0.3~0.4μmであることが好ましい。
本明細書において、光散乱性粒子の平均粒子径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計により測定し、体積平均径を算出することにより得られる。
また、使用する光散乱性粒子の平均粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡により各粒子の粒子径を測定し、体積平均径を算出することにより得られる。
【0077】
インク組成物における光散乱性粒子の含有量は、画素部の外部量子効率の向上効果により優れる観点から、インク組成物に含まれる有機溶剤以外の成分の合計100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。
光散乱性粒子の含有量は、インク組成物の吐出安定性に優れる観点および画素部の外部量子効率の向上効果により優れる観点から、インク組成物に含まれる有機溶剤以外の成分の合計100質量部に対して、25質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。
【0078】
発光性ナノ結晶粒子の含有量に対する光散乱性粒子の含有量の質量比(光散乱性粒子/発光性ナノ結晶粒子)は、画素部の外部量子効率の向上効果に優れる観点から、0.03以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。
上記質量比(光散乱性粒子/発光性ナノ結晶粒子)は、画素部の外部量子効率の向上効果により優れ、インクジェット法での連続吐出性(吐出安定性)に優れる観点から、5以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0079】
インク組成物における発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子との合計量は、本発明の印刷方法で規定するインク組成物の粘度が得られ易い観点から、インク組成物に含まれる有機溶剤以外の成分の合計100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。
インク組成物における発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子との合計量は、本発明の印刷方法で規定するインク組成物の粘度が得られ易い観点から、インク組成物に含まれる有機溶剤以外の成分の合計100質量部に対して、60質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0080】
[分散剤]
インク組成物は、さらに分散剤を含有していてもよい。分散剤としては、低分子分散剤および高分子分散剤が挙げられるが、高分子分散剤が好ましい。また、高分子分散剤は、750以上の重量平均分子量を有し、かつ、光散乱性粒子に対して親和性を有する官能基を有する高分子化合物であることが好ましい。
高分子分散剤は、光散乱性粒子をインク組成物中で安定的に分散させる機能を有する。この高分子分散剤は、光散乱性粒子に対して親和性を有する官能基を介して光散乱性粒子に吸着し、高分子分散剤同士の静電反発および/または立体反発により、光散乱性粒子をインク組成物中に分散させる。
高分子分散剤の重合平均分子量は50000以下が好ましく、40000以下がより好ましく、30000以下がさらに好ましい。
【0081】
高分子分散剤は、光散乱性粒子の表面に結合していることが好ましい。ただし、高分子分散剤は、発光性ナノ結晶粒子の表面に結合していてもよく、インク組成物中に遊離していてもよい。なお、高分子分散剤の光散乱性粒子の表面への結合の形態は化学結合に限られず、配位結合、静電力や分子間力等で吸着されていてもよい。
光散乱性粒子に対して親和性を有する官能基としては、酸性官能基、塩基性官能基および非イオン性官能基が挙げられる。酸性官能基は、解離性のプロトンを有しており、アミン、水酸化物イオンのような塩基により中和されていてもよく、塩基性官能基は、有機酸、無機酸のような酸により中和されていてもよい。
【0082】
酸性官能基としては、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、硫酸基(-OSO3H)、ホスホン酸基(-PO(OH)3)、リン酸基(-OPO(OH)3)、ホスフィン酸基(-PO(OH)-)、メルカプト基(-SH)等が挙げられる。
塩基性官能基としては、一級、二級および三級アミノ基、アンモニウム基、イミノ基、並びに、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、イミダゾール、トリアゾール等の含窒素ヘテロ環基等が挙げられる。
非イオン性官能基としては、ヒドロキシ基、エーテル基、チオエーテル基、スルフィニル基(-SO-)、スルホニル基(-SO2-)、カルボニル基、ホルミル基、エステル基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、チオアミド基、チオウレイド基、スルファモイル基、シアノ基、アルケニル基、アルキニル基、ホスフィンオキシド基、ホスフィンスルフィド基等が挙げられる。
【0083】
高分子分散剤は、単一のモノマーの重合体(ホモポリマー)であってよく、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。
また、高分子分散剤は、ランダム共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体のいずれであってもよい。高分子分散剤がグラフト共重合体である場合、くし形のグラフト共重合体であってよく、星形のグラフト共重合体であってもよい。
高分子分散剤としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレア樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンのようなポリアミン、ポリイミド等が挙げられる。
高分子分散剤には、市販品を使用することもできる。高分子分散剤の市販品としては、例えば味の素ファインテクノ株式会社製のアジスパーPBシリーズ、BYK社製のDISPER BYKシリーズ、BASF社製のEfkaシリーズ等が挙げられる。
【0084】
[酸化防止剤]
インク組成物は、さらに、酸化防止剤を含有していてもよい。酸化防止剤は、画素部に優れた外部量子効率の維持性能を付与する機能を有する化合物である。
酸化防止剤としては特に限定されず、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
フェノール系酸化防止剤は、一般的に、ヒンダードフェノール系化合物とも称される。フェノール系酸化防止剤としては、インク組成物への溶解性に優れることから、ペンタエリスリトールテトラキス[3-[3,5-ジ(t-ブチル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオナート]が好ましい。
リン系酸化防止剤としては、亜リン酸トリエステル化合物が好ましく、例えば、トリフェニルホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト、ジフェニルオクチルホスファイト等が挙げられる。亜リン酸トリエステル系化合物は、室温(25℃)で液体であっても、固体であってもよい。
【0085】
インク組成物における酸化防止剤の含有量は、画素部の外部量子効率の低下を抑制し得る観点から、光重合性化合物100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、1質量部以上であることが特に好ましい。
酸化防止剤は、少量添加するだけでも、画素部の外部量子効率の低下を効果的に抑制することができる。このため、酸化防止剤の含有量は、光重合性化合物100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0086】
[有機溶剤]
インク組成物は、必要に応じ、さらに有機溶剤を含有していてもよい。
有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル、アジピン酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、1,4-ブタンジオールジアセテート、グリセリルトリアセテート等が挙げられる。
有機溶剤の沸点は、インク組成物(インクジェットインク)のノズルからの蒸発に起因する吐出不良を抑制する観点から、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。
また、画素部の形成時には、インク組成物の硬化前にインク組成物から有機溶剤を除去する必要があるため、有機溶剤を除去しやすい観点から、有機溶剤の沸点は300℃以下であることが好ましい。
【0087】
有機溶剤は、沸点が150℃以上のアセテート化合物を含むことが好ましい。この場合、発光性ナノ結晶粒子と有機溶剤との間の親和性がより向上し、発光性ナノ結晶粒子が優れた発光特性を発揮し得る。
かかるアセテート化合物の具体例としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のモノアセテート化合物、1,4-ブタンジオールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のジアセテート化合物、グリセリルトリアセテート等が挙げられる。
有機溶剤の25℃における粘度は、インク組成物全体の粘度を調節可能な観点から、1~10mPa・sの範囲が好ましい。
【0088】
インク組成物がさらに有機溶剤を含有する場合、その含有量は、インク組成物全体に対して3質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。なお、インク組成物において、光重合性化合物として25℃で液状であり、かつ本発明の印刷方法で規定するインク組成物の粘度を達成可能な化合物を選択して用いることができる。これにより、光重合性化合物が分散媒としても機能するため、無溶剤で、光散乱性粒子および発光性ナノ結晶粒子を分散させることが可能である。この場合、画素部を形成する際に有機溶剤を乾燥により除去する工程が不要となる利点を有するほか、環境悪化の原因となり得る有機溶剤の大気中への放出の心配が無くなると共に、有機溶剤の回収再利用のための設備も不要となることから好ましい。
【0089】
インク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述した成分以外の成分、例えば紫外線吸収剤、表面張力調整剤、褪色防止剤、導電性塩類等の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0090】
インク組成物の粘度は、本発明の印刷方法で得られるカラーフィルタの印刷品質を向上させる観点から、50mPa・s以下であり、45mPa・s以下であることが好ましく、40mPa・s以下であることがより好ましく、35mPa・s以下であることがさらに好ましい。インク組成物の粘度は、2mPa・s以上であることが好ましく、5mPa・s以上であることがより好ましく、8mPa・s以上であることがさらに好ましい。
インク組成物の粘度は、2~45mPa・s、2~40mPa・s、2~35mPa・s、5~45mPa・s、5~40mPa・s、5~35mPa・s、8~45mPa・s、8~40mPa・sまたは8~35mPa・sであることが好ましい。
本明細書において、インク組成物の粘度は、E型粘度計を使用して25℃で測定された値である。
【0091】
インク組成物の吐出時の粘度が2mPa・s以上である場合、インクジェットヘッドのインク吐出孔の先端におけるインク組成物のメニスカス形状が安定するため、インク組成物の吐出制御(例えば、吐出量および吐出のタイミングの制御)が容易となる。
一方、インク組成物の吐出時の粘度が50mPa・s以下である場合、インク吐出孔からインク組成物を円滑に吐出させることができ、得られるカラーフィルタの印刷品質を向上させることができる。また、本発明の方法における、脱気モジュール内の通過が容易になる。
【0092】
インク組成物の静的表面張力は、インクジェットインクに適した静的表面張力であることが好ましく、具体的には50mN/m以下であることが好ましく、20~40mN/mであることがより好ましく、25~35mN/mであることがさらに好ましい。かかる範囲に静的表面張力を調整することにより、インク組成物の吐出制御(例えば、吐出量および吐出のタイミングの制御)が容易になるとともに、飛行曲がりの発生を抑制することができる。すなわち、微細なサブピクセル(画素部形成領域)内に、インク量のバラツキなく確実に液滴を着弾させることができ、光学特性が良好でかつバラツキの少ない、高精細で印刷品質に優れるカラーフィルタを得ることができる。
なお、飛行曲がりとは、インク組成物をインク吐出孔から吐出させたとき、インク組成物の着弾位置が目標位置に対して30μm以上のズレを生じることをいう。
【0093】
静的表面張力が50mN/m以下である場合、インク吐出孔の先端におけるインク組成物のメニスカス形状が安定するため、インク組成物の吐出制御(例えば、吐出量および吐出のタイミングの制御)が容易となる。
一方、静的表面張力が20mN/m以上である場合、インク吐出孔の周辺がインク組成物で汚染されるのを防止できるため、飛行曲がりの発生を抑制できる。すなわち、着弾すべき画素部の形成領域に正確に着弾されず、インク組成物の充填が不充分な画素部が生じたり、着弾すべき画素部の形成領域に隣接する画素部の形成領域(または画素部)にインク組成物が着弾し、色再現性が低下したりするのを防止できる。
本願明細書において、インク組成物の表面張力は、リング法(輪環法とも言う。)を使用して23℃で測定された値である。
【0094】
<インク組成物の製造方法>
本実施形態のインク組成物は、例えば、上述した構成成分(発光性ナノ結晶粒子と、光重合性化合物と、その他の任意成分)を混合する工程を備える。
インク組成物の製造方法は、上記構成成分の混合物の分散処理を行う工程をさらに備えてもよい。
以下では、一例として、光散乱性粒子を含有するインク組成物の製造方法を説明する。
【0095】
光散乱性粒子を含有するインク組成物の製造方法は、例えば、光散乱性粒子の分散体を準備する第1工程と、光散乱性粒子の分散体と発光性ナノ結晶粒子とを混合する第2工程とを備える。
光散乱性粒子の分散体は、さらに分散剤を含有してもよい。この方法では、光散乱性粒子の分散体が、さらに、光重合性化合物を含有してよく、第2工程において、さらに、光重合性化合物を混合してもよい。
上記方法によれば、光散乱性粒子を充分に分散させることができる。そのため、画素部の光学特性(例えば、外部量子効率)を向上させることができるとともに、吐出安定性に優れるインク組成物を容易に得ることができる。
【0096】
第1工程では、光散乱性粒子と、必要に応じて分散剤と、光重合性化合物とを混合し、分散処理を行うことにより、光散乱性粒子の分散体を調製してもよい。
混合および分散処理は、例えば、ビーズミル、ペイントコンディショナー、遊星撹拌機、ジェットミルのような分散装置等を使用して行うことができる。光散乱性粒子の分散性が良好となり、光散乱性粒子の平均粒子径を所望の範囲に調整し易い観点から、ビーズミルまたはペイントコンディショナーを使用することが好ましい。
また、発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子とを混合する前に、光散乱性粒子と分散剤とを混合することにより、光散乱性粒子をより十分に分散させることができる。そのため、優れた吐出安定性および優れた外部量子効率をより一層容易に得ることができる。
【0097】
インク組成物の製造方法では、第2工程の前に、さらに、発光性ナノ結晶粒子と光重合性化合物とを含有する発光性ナノ結晶粒子の分散体を準備する工程を備えていてもよい。この場合、第2工程では、光散乱性粒子の分散体と、発光性ナノ結晶粒子の分散体とを混合する。
発光性ナノ結晶粒子の分散体を準備する工程では、発光性ナノ結晶粒子と光重合性化合物とを混合して分散処理を行うことにより、発光性ナノ結晶粒子の分散体を調製してもよい。
【0098】
混合および分散処理は、例えば、ビーズミル、ペイントコンディショナー、遊星撹拌機、ジェットミルのような分散装置等を使用して行うことができる。発光性ナノ結晶粒子の分散性が良好となり、発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径を所望の範囲に調整し易い観点から、ビーズミル、ペイントコンディショナーまたはジェットミルを使用することが好ましい。
かかる方法によれば、発光性ナノ結晶粒子を充分に分散させることができる。そのため、画素部の光学特性(例えば、外部量子効率)を向上させることができるとともに、吐出安定性に優れるインク組成物を容易に得ることができる。
【0099】
上記製造方法において、酸化防止剤、有機溶剤等の他の成分を配合する場合、これらの成分は、発光性ナノ結晶粒子の分散体に混合してもよく、光散乱性粒子の分散体に混合してもよく、発光性ナノ結晶粒子の分散体と光散乱性粒子の分散体とを混合して得られる混合分散体に混合してもよい。
【0100】
<インク組成物セット>
本発明の印刷方法において、インク組成物はセットの態様で使用してもよい。インク組成物セットの一実施態様は、上述した実施形態のインク組成物を備える。インク組成物セットは、上述した実施形態のインク組成物(発光性インク組成物)に加えて、発光性ナノ結晶粒子を含有しないインク組成物(非発光性インク組成物)を備えていてもよい。
非発光性インク組成物は、例えば、従来公知のインク組成物である。非発光性インク組成物は、発光性ナノ結晶粒子を含まない以外は、上述した実施形態のインク組成物(発光性インク組成物)と同様の組成とすることができる。
【0101】
非発光性インク組成物は、発光性ナノ結晶粒子を含有しない。このため、非発光性インク組成物により形成された画素部(非発光性インク組成物の硬化物を含む画素部)に光を入射させた場合、画素部から出射する光は、入射光とほぼ同一の波長を有する。
したがって、非発光性インク組成物は、光源からの光と同色の画素部を形成するために好適に使用される。例えば、光源からの光が波長420~480nmの範囲の光(青色光)であれば、非発光性インク組成物により形成される画素部は、青色画素部となり得る。
【0102】
非発光性インク組成物は、好ましくは光散乱性粒子を含有する。非発光性インク組成物が光散乱性粒子を含有する場合、非発光性インク組成物により形成される画素部では、入射した光を散乱させることができる。これにより、画素部からの出射光の視野角における光強度差を低減することができる。
【0103】
<印刷方法>
本発明の印刷方法は、ピエゾ方式のインクジェットプリンタに適用することが好ましい。ピエゾ方式では、吐出に当たり、インク組成物が瞬間的に高温に晒されることがない。そのため、発光性ナノ結晶粒子の変質が起こり難く、画素部(光変換層)において、所望の発光特性がより容易に得られ易い。また、本発明の印刷方法により得られるカラーフィルタの印刷品質の向上効果をより発揮することができる。
【0104】
本発明の印刷方法による工程を備えたインクジェットプリンタ、すなわちインクタンクからインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」とも称する。)までのインク経路の途中に脱気モジュールを備え、本発明の印刷方法を実施することができるインクジェットプリンタについて説明する。
脱気モジュールは、インクタンクからヘッドまでのインク経路の途中であればどこに配置されてもよい。インク経路には細い樹脂配管やジョイント部など給気箇所が多いため、出来るだけヘッドに近い場所が好ましい。脱気モジュールの上流側に加圧ポンプ(送液ポンプ)を配置し、脱気モジュール内部と真空ポンプを接続するのが好ましい。
脱気モジュールとしては、中空糸の外側にインク組成物を流し、中空糸の内側を減圧、真空にすることにより脱気を行う外部灌流型の中空糸脱気モジュール;中空糸の内部にインク組成物を流し、中空糸の外側を減圧・真空にすることにより脱気を行う内部灌流型の中空糸脱気モジュール等が挙げられる。
【0105】
上記の中空糸の材質としては、脱気性能が維持でき、インク組成物中の界面活性剤や分散剤等の付着が起きにくい観点等から、ポリ-4-メチルペンテン-1樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。中空糸の内径に特に制限はないが、通常、100~200μmであることが好ましい。
外部灌流型の中空糸脱気モジュールとしては市販のものが利用可能であり、例えば、DIC株式会社製の「SEPAREL EF-002A-P」、「SEPAREL EF-004P」が挙げられる。
内部灌流型の中空糸脱気モジュールとしては市販のものが利用可能であり、例えば、DIC株式会社製の「SEPAREL PF-001D」が挙げられる。
脱気モジュールの上流側および下流側、またはどちらか一方にフィルターを配置してもよい。フィルターとしては、洗浄が可能な金属フィルターが好ましい。
なお、通液時の脱気モジュールの入口にかかる圧力は、脱気モジュールの上流側に圧力計を挿入しておくことで測定できる。
【0106】
インクタンクからヘッドまでの構成例を
図1に示すが、これに限定されない。
図1において、インクタンク5aに充填されているインク組成物は、送液ポンプ5bによりインクジェットヘッド5eに送られる間において、フィルター7を経て、真空ポンプ6に接続された脱気モジュール5cに送られ通液される。本発明の方法では、脱気モジュール5cを真空ポンプ6で減圧して内圧を下げる工程が行われ、インク組成物が通液され脱気されたのち、脱気モジュール5cを通液した前記インク組成物は、背圧調整器5dで圧力が調整され、フィルター7を通ってインクジェットヘッド5eに到達し、インクジェットヘッド5eから吐出される。
【0107】
インク組成物を脱気モジュールに通液させる工程におけるインク組成物の時間当たり流量は、脱気モジュールのサイズによっても変化するため適宜設定され得るが、通常、1000mL/min以下で行うのが好ましく、100mL/min以下がより好ましい。
ヘッドの形態は特に限定されず、複数のノズルを備えた1個のヘッドでも、複数のヘッドをノズル配列方向につないで1つのヘッドとして構成されたヘッドユニットであってもよい。また、ヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニアス方式でもよい。
なお、インクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、本明細書においてインクタンクとはインクの貯蔵場所であり、インクがボトルにより流通されプリンタに液体のみを流し込まれている場合にはそのリザーブタンクであり、インクがインクカートリッジまたはボトルで流通されカートリッジまたはボトル自体がインクタンクを兼ねる場合にはこれを指す。
【0108】
本発明の印刷方法による工程を備えたインクジェットプリンタは、ヘッドから排出されたインクジェットインクを再びヘッドに戻すインク循環経路を有するインクジェットプリンタにおいて、前記インク循環経路の途中に、前述の脱気モジュールを備え、本発明の印刷方法を実施することができるインクジェットプリンタであってもよい。
【0109】
インクジェット法による印刷方式は、記録媒体に対しインク組成物を1回のみ吐出して記録するシングルパス方式でも、記録媒体の最大記録幅の間を、記録媒体の搬送方向と直行する方向に短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら記録を行うマルチパス方式でもよい。
【0110】
ヘッドから吐出されるインク組成物の液滴量は、乾燥負荷軽減効果が大きく、印刷品質の向上の観点から、0.2~20ピコリットルが好ましく、1~15ピコリットルがより好ましい。
【0111】
<光変換層およびカラーフィルタ>
次に、上述した実施形態のインク組成物セットを使用し、本発明の印刷方法を適用することにより得られる光変換層およびカラーフィルタの詳細について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、同一または相当要素には、同一符号を用い、重複する説明は省略する。
図2は、本発明の一実施形態のカラーフィルタの模式断面図である。以下、説明の都合上、
図2中の上側を「上」または「上方」とも言い、下側を「下」または「下方」とも言う。
図2に示すカラーフィルタ100は、基材40と、基材40上に設けられた光変換層30とを有している。光変換層30は、複数の画素部10と、遮光部20とを備えている。
【0112】
光変換層30は、画素部10として、第1画素部10aと、第2画素部10bと、第3画素部10cとを有している。第1画素部10aと、第2画素部10bと、第3画素部10cとは、この順に繰り返すように格子状に配列されている。
遮光部20は、隣り合う画素部10同士の間、すなわち、第1画素部10aと第2画素部10bとの間、第2画素部10bと第3画素部10cとの間、第3画素部10cと第1画素部10aとの間に設けられている。換言すれば、隣り合う画素部10同士は、遮光部20によって隔てられている。
【0113】
第1画素部10aおよび第2画素部10bは、それぞれ上述したインク組成物の硬化物を含む発光性の画素部(発光性画素部)である。硬化物は、発光性ナノ結晶粒子と、硬化成分と、光散乱性粒子とを含有する。
図1に示すように、第1画素部10aは、第1硬化成分13aと、第1硬化成分13a中に分散された第1発光性ナノ結晶粒子11aおよび第1光散乱性粒子12aとを含む。同様に、第2画素部10bは、第2硬化成分13bと、第2硬化成分13b中に分散された第2発光性ナノ結晶粒子11bおよび第2光散乱性粒子12bとを含む。
【0114】
硬化成分は、光重合性化合物の重合によって得られた成分であり、光重合性化合物の重合体と、インク組成物中の有機成分(分散剤、未反応の光重合性化合物等)が含まれていてもよい。
第1画素部10aおよび第2画素部10bにおいて、第1硬化成分13aと第2硬化成分13bとは、同一であっても、異なっていてもよい。また、第1光散乱性粒子12aと第2光散乱性粒子12bとは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0115】
第1発光性ナノ結晶粒子11aは、波長420~480nmの範囲の光を吸収して、波長605~665nmの範囲に発光ピークを有する光を発する赤色発光性ナノ結晶粒子である。すなわち、第1画素部10aは、青色光を赤色光に変換するための赤色画素部と言うことができる。
また、第2発光性ナノ結晶粒子11bは、波長420~480nmの範囲の光を吸収して、波長500~560nmの範囲に発光ピークを有する光を発する緑色発光性ナノ結晶粒子である。すなわち、第2画素部10bは、青色光を緑色光に変換するための緑色画素部と言うことができる。
【0116】
発光性画素部における発光性ナノ結晶粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点および優れた発光強度が得られる観点から、発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。
発光性ナノ結晶粒子の含有量は、画素部の信頼性に優れる観点および優れた発光強度が得られる観点から、発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0117】
発光性画素部における光散乱性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点から、発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。
光散乱性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点および画素部の信頼性に優れる観点から、発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下、30質量%以下または25質量部%以下であることがさらに好ましく、20質量部%以下であることが特に好ましく、15質量%以下であることが最も好ましい。
【0118】
第3画素部10cは、上述した非発光性インク組成物の硬化物を含む非発光性の画素部(非発光性画素部)である。硬化物は、発光性ナノ結晶粒子を含有せず、光散乱性粒子と、硬化成分とを含有する。
図1に示すように、第3画素部10cは、第3硬化成分13cと、第3硬化成分13c中に分散された第3光散乱性粒子12cとを含む。
第3硬化成分13cは、例えば、光重合性化合物の重合によって得られる成分であり、光重合性化合物の重合体を含む。
第3光散乱性粒子12cは、第1光散乱性粒子12aおよび第2光散乱性粒子12bと同一であっても、異なっていてもよい。
【0119】
第3画素部10cは、例えば、波長420~480nmの範囲の光に対して、30%以上の透過率を有することが好ましい。この場合、第3画素部10cは、波長420~480nmの範囲の光を発する光源を使用すれば、青色画素部として機能することができる。
なお、第3画素部10cの透過率は、顕微分光装置により測定することができる。
【0120】
第3画素部(非発光性画素部)10cにおける光散乱性粒子の含有量は、視野角における光強度差をより低減する観点から、非発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。
光散乱性粒子の含有量は、光反射をより低減する観点から、非発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0121】
画素部(第1画素部10a、第2画素部10bおよび第3画素部10c)の厚さは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
画素部(第1画素部10a、第2画素部10bおよび第の画素部10c)の厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
【0122】
遮光部20は、隣り合う画素部同士を隔てて混色(クロストーク)を防ぐ目的および光源からの光の漏れを防ぐ目的で設けられる隔壁部(ブラックマトリックス)である。
遮光部20の構成材料としては、特に限定されないが、クロム等の金属の他、バインダー樹脂と、カーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料のような遮光性粒子とを含む樹脂組成物等が挙げられる。
バインダー樹脂には、例えば、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の1種または2種以上を含む樹脂、感光性樹脂、O/Wエマルジョン樹脂(例えば、反応性シリコーンエマルジョン)等を使用することができる。
遮光部20の厚さは、1~30μmであることが好ましい。
【0123】
基材40は、光透過性を有する透明基材である。基材40には、例えば、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、合成石英等で構成される透明なガラス基板、透明樹脂フィルム、光学用樹脂フィルムのような透明なフレキシブル基材等を使用することができる。中でも、基材40には、ガラス中にアルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなるガラス基板を使用することが好ましい。
無アルカリガラスの具体例としては、例えば、コーニング社製の「7059ガラス」、「1737ガラス」、「イーグル200」および「イーグルXG」、AGC社製の「AN100」、日本電気硝子社製の「OA-10G」および「OA-11」が挙げられる。これらは、熱膨脹率の小さい素材であり、寸法安定性および高温加熱処理における作業性に優れる。
【0124】
以上の光変換層30を備えるカラーフィルタ100は、波長420~480nmの範囲の光を発する光源と組み合わせて好適に使用することができる。
【0125】
カラーフィルタ100は、例えば、基材40上に遮光部20をパターン状に形成した後、基材40上の遮光部20で区画された画素部の形成領域に、上述した本発明の印刷方法によって画素部10を形成することにより製造することができる。
画素部10は、インク組成物(インクジェットインク)をインクジェット法により基材40上の画素部の形成領域に選択的に付着させる工程と、インク組成物に対して活性エネルギー線(例えば、紫外線)を照射し、インク組成物を硬化させる工程とを備える方法により形成することができる。
インク組成物として、上述した発光性インク組成物を使用すれば、発光性画素部が得られ、非発光性インク組成物を使用すれば、非発光性画素部が得られる。
【0126】
遮光部20は、クロム等の金属薄膜または遮光性粒子を含む樹脂組成物の薄膜をパターニングすることにより、基材40の一方の面の複数の画素部同士の境界となる領域に形成することができる。
金属薄膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により形成することができる。また、遮光性粒子を含有させた樹脂組成物の薄膜は、例えば、塗布、印刷等の方法により形成することができる。
パターニングを行う方法としては、フォトリソグラフィ法等が挙げられる。
【0127】
インクジェット方式としては、静電誘引力を利用してインキを吐出させる電荷制御方法、エネルギー発生素子として電気熱変換体を用いたバブルジェット(登録商標)方式、または圧電素子を用いたピエゾ方式等が挙げられるが、上述した通り、本発明の印刷方法はピエゾ方式に適用することが極めて好ましい。
インク組成物が有機溶剤を含む場合、その乾燥においては、有機溶剤の少なくとも一部を除去することが好ましく、有機溶剤の全てが除去することがより好ましい。
インク組成物の乾燥方法は、減圧による乾燥(減圧乾燥)であることが好ましい。減圧乾燥は、通常、インク組成物の組成を制御する観点から、1.0~500Paの圧力下、20~30℃で3~30分間で行われる。
【0128】
インク組成物の硬化は、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LED等を使用して行うことができる。
照射する光の波長は、200~440nmであることが好ましく、露光量は、10~4000mJ/cm2であることが好ましい。
【0129】
未反応物除去によるアウトガス低減や、熱架橋による密着性向上のため、硬化物の加熱処理(ポストベーク)を行う場合、加熱温度は、110~250℃であることが好ましい。加熱時間は、10~120分であることが好ましい。
【0130】
以上、光変換層およびカラーフィルタ、ならびに、これらの製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、光変換層は、第3画素部10cに代えて、または第3画素部10cに加えて、青色発光性ナノ結晶粒子を含有する発光性インク組成物の硬化物を含む画素部(青色画素部)を備えていてもよい。
また、光変換層は、赤色、緑色、青色以外の他の色の光を発する発光性ナノ結晶粒子を含有する発光性インク組成物の硬化物を含む画素部(例えば、黄色画素部)を備えていてもよい。この場合、光変換層の各画素部に含有される発光性ナノ結晶粒子のそれぞれは、同一の波長の範囲に吸収極大波長を有することが好ましい。
【0131】
また、光変換層30の画素部10の少なくとも一部は、発光性ナノ結晶粒子以外の顔料を含有する組成物の硬化物を含んで構成されてもよい。
また、カラーフィルタ100は、遮光部20上に、遮光部20よりも幅の狭い撥インク性を有する材料からなる撥インク層を備えていてもよい。
さらに、撥インク層を設けるのではなく、画素部の形成領域を含む領域に、濡れ性可変層としての光触媒含有層をベタ塗り状に形成した後、光触媒含有層にフォトマスクを介して光を照射して露光を行い、画素部の形成領域の親インク性(濡れ性)を選択的に増大させてもよい。光触媒としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0132】
カラーフィルタ100は、基材40と画素部10との間に、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン等を含むインク受容層を備えていてもよい。
また、カラーフィルタは、画素部10上に保護層を備えていてもよい。この保護層は、カラーフィルタを平坦化するとともに、画素部10に含まれる成分および光触媒含有層に含まれる成分の他の層への溶出を防止するために設けられる。
保護層の構成材料としては、カラーフィルタ100の保護層として使用されている公知の材料を使用することができる。
【0133】
また、本実施形態の光変換層30の画素部10は、上記した発光性ナノ結晶粒子に加えて、発光性ナノ結晶粒子の発光色と概ね同色の顔料をさらに含有してもよい。顔料を画素部10に含有させるため、インク組成物に顔料を混合してもよい。
【0134】
また、本実施形態の光変換層30中の赤色発光性画素部(R)、緑色発光性画素部(G)および青色発光性画素部(B)のうちの1種または2種の発光性画素部は、発光性ナノ結晶粒子を含まず、色材を含む画素部としてもよい。
ここで、使用可能な色材としては、例えば、赤色発光性画素部(R)には、ジケトピロロピロール顔料および/またはアニオン性赤色有機染料が挙げられる。緑色発光性画素部(G)には、ハロゲン化銅フタロシアニン顔料、フタロシアニン系緑色染料、フタロシアニン系青色染料とアゾ系黄色有機染料との混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。青色発光性画素部(B)には、ε型銅フタロシアニン顔料および/またはカチオン性青色有機染料が挙げられる。
これらの色材の使用量は、光変換層30に混合する場合、透過率の低下を防止できる観点から、画素部(インク組成物の硬化物)10の全質量を基準として、1~5質量%であることが好ましい。
【0135】
以上述べてきた通り、本発明の印刷方法から、発光特性に優れる光変換層や、携帯端末、テレビ、モニター等に使用されるカラーフィルタを提供できる。また、かかるカラーフィルタを含む、液晶表示装置や自発光表示装置、パブリックディスプレイ、フレキシブルディスプレイの各種ディスプレイデバイスを提供することができる。
【実施例0136】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
本実施例等で使用した化合物を以下に示す。液状の材料は全て、使用前に窒素ガスを導入して溶存酸素を窒素ガスに置換し、また、予めモレキュラーシーブス3Aで48時間以上脱水して用いた。酸化チタンは、使用前に予め133.3Pa(1mmHg)の減圧下、175℃で4時間加熱した後、窒素ガス雰囲気下で放冷したものを用いた。
【0137】
<光重合性化合物>
・HDM:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート
(製品名「ライトエステル1.6HX」、共栄社化学株式会社製)
・TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート
(製品名「ビスコート#295」、大阪有機化学工業株式会社製)
<光重合開始剤>
・光重合開始剤1:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
(製品名「Omnirad TPO-H」、IGM Resins B.V.社製)
<酸化防止剤>
・酸化防止剤1:トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト
(製品名「Irgafos 168」、BASF社製)
【0138】
<発光性ナノ結晶粒子複合体の製造例>
(1)有機リガンド1の合成
数平均分子量(Mn)350のポリエチレングリコール(Sigma-Aldrich社製)をフラスコに投入した後、窒素ガス環境にて撹拌しながら、ポリエチレングリコールと等モル量の無水コハク酸(Sigma-Aldrich社製)を添加した。フラスコの内温を80℃に昇温し、8時間撹拌することにより、淡い黄色の粘稠な油状物として下記式(A)で表される有機リガンド1を得た。
【0139】
【0140】
(2)リガンド交換による発光性ナノ結晶粒子複合体の製造
Nanosys社製のInPナノ結晶分散体(InP QD in Heptane Red InP QD、発光性ナノ結晶粒子濃度30%、有機リガンド:オレイン酸)に対して、2.0倍量のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)と、発光性ナノ結晶粒子の量(有機リガンドの量は含まない)に対し40質量%相当分の有機リガンド1とを添加し、80℃にて1時間撹拌してリガンド交換を実施した。この溶液に対して、4倍量のヘプタンを添加して発光性ナノ結晶粒子を凝集させ、遠心分離にて沈殿させた。上澄みを傾瀉して除き、真空乾燥機にて乾燥することで、発光性ナノ結晶粒子複合体1(発光性ナノ結晶粒子/有機リガンド1=75質量%/25質量%)を得た。
【0141】
<光散乱性粒子分散体の製造>
窒素ガスで満たした容器内で、酸化チタン(製品名:CR-60-2、石原産業株式会社製、平均粒子径(体積平均径):210nm)を5.23gと、高分子分散剤(アジスパーPB-821、味の素ファインテクノ株式会社製)を0.27gと、HDMを4.5gとを混合した。
その後、得られた混合物にジルコニアビーズ(直径:1.25mm)を加え、ペイントコンディショナーを用いて2時間振とうさせることで混合物を分散処理し、ポリエステルメッシュフィルターにてジルコニアビーズを除去することで光散乱性粒子分散体を得た。
【0142】
1.インク組成物の調製
(インク組成物1)
発光性ナノ結晶粒子複合体1を1.67gと、光散乱性粒子分散体を0.29gと、光重合開始剤1を0.15gと、光重合性化合物の混合物(HDM:TMPT=:85:15(質量比))を2.87gと、酸化防止剤1を0.03gと、を配合し、アルゴンガスで満たしたグローブボックス内で混合後、混合物を孔径1μmのフィルターでろ過することにより、インク組成物1を得た。
インク組成物1において、インク組成物の不揮発分の質量100質量部に対して、発光性ナノ結晶粒子の含有量(有機リガンド1の量は含まない)は25質量部であった。
【0143】
(インク組成物2~5)
発光性ナノ結晶粒子複合体1および光重合性化合物の混合物の配合量、並びにHDM:TMPT比率を表1の通りに変更した以外は、インク組成物1と同様の手順でインク組成物2~5を得た。
各インク組成物における、インク組成物の不揮発分の質量100質量部に対する発光性ナノ結晶粒子の含有量(有機リガンドの量は含まない)、およびE型粘度計を用いて25℃で測定した各インク組成物の粘度を表1に示す。
【0144】
【0145】
2.インク組成物塗膜の光学特性評価
2-1.外部量子効率評価用試料の作製
各インク組成物を、ガラス基板上に、膜厚が10μmとなるように、スピンコーターにて大気中で塗布した。
塗布膜を窒素雰囲気下、主波長395nmのLEDランプを用いたUV照射装置で積算光量10000mJ/cm2になるようにUVを照射して硬化させた後、窒素雰囲気下のグローブボックス中に設置した180℃のホットプレート上に移し、30分間加熱し、ガラス基板上にインク組成物の硬化物からなる層(光変換層)を形成した。これにより、光変換層を有する基材である、評価用試料を作製した。
【0146】
2-2.外部量子効率(EQE)の測定
面発光光源として、波長450nmに発光ピークを有する光を発する青色LED(シーシーエス株式会社製)を用いた。測定装置は、放射分光光度計(大塚電子株式会社製、「MCPD-9800」)に積分球を接続し、青色LEDの上側に積分球を設置した。
青色LEDと積分球との間に、2-1.で作製した各評価用試料を挿入し、青色LEDを点灯させて観測されるスペクトル、各波長における照度を測定した。
上記測定装置で測定されるスペクトルおよび照度より、以下のようにして外部量子効率(EQE)を求めた。
EQEは、光変換層に入射した光(光子)のうち、どの程度の割合で蛍光として観測者側に放射されるかを示す値である。したがって、この値が大きければ光変換層が発光特性に優れていることを示しており、重要な評価指標である。
EQE(%)=P1(Green)/E(Blue)×100
ここで、E(Blue)およびP1(Green)は、それぞれ以下の値を表す。
E(Blue)は、波長380~490nmの範囲における「照度×波長÷hc」の合計値を表す。
P1(Green)は、波長500~650nmの範囲における「照度×波長÷hc」の合計値を表す。
これらの値は、観測した光子数に相当する値である。なお、hは、プランク定数、cは光速を表す。
[評価基準]
◎:EQEが30%以上
〇:EQEが20%以上30%未満
△:EQEが10%以上20%未満
×:EQEが10%未満
【0147】
3.カラーフィルタの作製
[例1~8]
インク組成物1~5各々に対して、表2に示す脱気モジュールを使用して
図2のように機器を配置して、脱気モジュールを-80kPaに減圧して内圧を下げ、次いでインク組成物を脱気モジュールに通液し、通液したインク組成物をインクジェットヘッドからバンク付きガラス基板上のバンク内に充填し、厚さが15μmの前駆体層(インク組成物からなる層)を形成した。
続いて、前駆体層を、窒素雰囲気下、主波長395nmのLEDランプを用いたUV照射装置で積算光量10000mJ/cm
2になるようにUVを照射して硬化させた後、窒素雰囲気下のグローブボックス中に設置した180℃のホットプレート上に移し、30分間加熱してインク組成物の硬化物からなる層(光変換層)を形成し、光変換層を備えるカラーフィルタを得た。
なお、インクの流速は20ml/分とした。インクの送液にはKNF製ダイアフラムポンプを使用した。また、インクジェットヘッドはKM1024iMHE-Dを使用した。
【0148】
<脱気モジュール>
脱気モジュール1:DIC株式会社製、「EF-G2」
脱気モジュール2:DIC株式会社製、「PF-001D」
【0149】
4.カラーフィルタの品質評価
4-1.光学特性ばらつきの評価
トプコン社製の二次元分光放射計SR-5000を用いて、3.で作製したカラーフィルタ上のバンク内に形成された光変換層の正面輝度を測定し、その変動係数によって評価した。なお変動係数は、標準偏差/平均値より算出した。
[評価基準]
◎:変動係数が3%未満
〇:変動係数が3%以上5%未満
△:変動係数が5%以上10%未満
×:変動係数が10%以上
【0150】
4-2.膜厚ばらつきの評価
日立ハイテクサイエンス社製の走査型白色干渉顕微鏡を用いて、3.で作製したカラーフィルタ上のバンク内に形成された光変換層の厚さを測定し、その変動係数によって評価した。なお、変動係数は、標準偏差/平均値より算出した。
[評価基準]
◎:変動係数が3%未満
〇:変動係数が3%以上5%未満
△:変動係数が5%以上10%未満
×:変動係数が10%以上
以上の評価結果を表2に示す。
【0151】
【0152】
例1~2、例4~6は実施例に相当し、得られるカラーフィルタの印刷品質に優れる。
一方、例3、例7および例8は比較例に相当する。インクタンクからヘッドまでの流路中に脱気モジュールを備えない例3、粘度が本発明の規定範囲外であるインク組成物Dを用いた例7では、出射時の吐出安定性が低下することに起因し、得られるカラーフィルタの印刷品質に劣る。発光性ナノ結晶性粒子の含有量が低いインク組成物Eを用いた例8では、インク組成物塗膜の光学特性に劣る。
本発明の印刷方法によれば、発光特性に優れる光変換層や、携帯端末、テレビ、モニター等に使用されるカラーフィルタを提供でき、液晶表示装置や自発光表示装置の各種ディスプレイデバイスとして有用である。