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特開2023-92329アンテナモジュールおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092329
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】アンテナモジュールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 23/00 20060101AFI20230626BHJP
   H01P 11/00 20060101ALI20230626BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20230626BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20230626BHJP
   C01B 32/184 20170101ALI20230626BHJP
【FI】
H01Q23/00
H01P11/00
H01Q1/38
H01L29/80 H
C01B32/184
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207486
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】吹留 博一
(72)【発明者】
【氏名】末光 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一世
(72)【発明者】
【氏名】川原 実
(72)【発明者】
【氏名】秋山 昌次
(72)【発明者】
【氏名】飛坂 優二
(72)【発明者】
【氏名】川合 信
【テーマコード(参考)】
4G146
5F102
5J021
5J046
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA07
4G146AB07
4G146AC03B
4G146AD01
4G146AD28
4G146BA08
4G146BA41
4G146BB23
4G146BC23
4G146BC34B
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ10
5F102GK02
5F102GK08
5F102GK10
5F102GL04
5F102GM04
5F102GR01
5F102HC01
5J021AA01
5J021AB02
5J021FA26
5J021HA05
5J021HA10
5J021JA09
5J046AA03
5J046AA12
5J046AB06
5J046AB11
5J046PA07
(57)【要約】
【課題】数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域での使用に適したアンテナモジュールを提供する。
【解決手段】アンテナモジュールは、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板と、前記基板の最上面に接して設けられた単結晶のグラフェン層と、前記基板上に設けられた窒化ガリウム層とを備える。そして、このアンテナモジュールは、前記グラフェン層における前記窒化ガリウム層に覆われていない領域をパターニングにして形成されたアンテナエレメント部と、前記窒化ガリウム層に形成されたアクティブ素子部と、前記アンテナエレメント部と前記アクティブ素子部とを接続する接続部とが一体的に形成されたことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板と、
前記基板の最上面に接して設けられた単結晶のグラフェン層と、
前記基板上に設けられた窒化ガリウム層と
を備え、
前記グラフェン層における前記窒化ガリウム層に覆われていない領域をパターニングにして形成されたアンテナエレメント部と、
前記窒化ガリウム層に形成されたアクティブ素子部と、
前記アンテナエレメント部と前記アクティブ素子部とを接続する接続部と
が一体的に形成されたことを特徴とするアンテナモジュール。
【請求項2】
前記窒化ガリウム層は、前記グラフェン層の一部を覆うように設けられることを特徴とする請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項3】
前記基板は、絶縁体のベース基板上に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項4】
前記窒化ガリウム層は、前記グラフェン層をバッファ層としてエピタキシャル成長された層であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項5】
前記アクティブ素子部は窒化ガリウム層内に形成されたHEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いた増幅器を含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項6】
前記接続部は100μm未満の長さで前記アンテナエレメント部と前記アクティブ素子部とを接続することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項7】
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、
前記基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、
前記グラフェン層をバッファ層として窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、
前記窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、
前記窒化ガリウム層における前記アクティブ素子部が設けられていない領域を除去して前記グラフェン層を露出させるステップと、
露出した前記グラフェン層をパターニングしてアンテナエレメントおよび前記アクティブ素子部と前記アンテナエレメントとを接続する接続部を形成するステップと、
を含む、アンテナモジュールの製造方法。
【請求項8】
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、
前記基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、
前記グラフェン層の一部を除去するとともに、前記グラフェン層をパターニングしてアンテナエレメントおよび前記アクティブ素子部と前記アンテナエレメントとを接続する接続部を形成するステップと、
前記グラフェン層が除去された領域に、窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、
前記窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、
を含む、アンテナモジュールの製造方法。
【請求項9】
少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、
前記基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、
前記グラフェン層をパターニングしてアンテナエレメントを形成するステップと、
増幅器を含むアクティブ素子部が形成された前記窒化ガリウムデバイスを、前記基板上の前記グラフェン層に貼り合わせて窒化ガリウム層を設けるステップと、
を含む、アンテナモジュールの製造方法。
【請求項10】
前記アンテナエレメントを形成するステップにおいて、前記アンテナエレメントとともに、電極パッドおよび前記アンテナエレメントと前記電極パッドとを接続する接続部を形成し、
前記窒化ガリウム層を設けるステップにおいて、前記窒化ガリウムデバイスに設けられた電極と、前記電極パッドとが電気的に接続されるように、前記窒化ガリウムデバイスを前記基板上の前記グラフェン層に貼り合わせることを特徴とする請求項9に記載のアンテナモジュールの製造方法。
【請求項11】
前記グラフェン層を形成するステップにおいて、前記基板の最上面の炭化珪素の単結晶における珪素原子を昇華させることによりグラフェン層をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項8から10の何れか1項に記載のアンテナモジュールの製造方法。
【請求項12】
前記基板は、絶縁体のベース基板上に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板であることを特徴とする、請求項8から11の何れか1項に記載のアンテナモジュールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンをアンテナエレメントおよび/または配線として用い、増幅器等のアクティブ素子と一体に形成されたアンテナモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の移動通信システム(いわゆる6G、Beyond5G)を実現するにあたり、100GHz以上といった高周波での送受信に適した、高性能のアンテナが求められている。このようなアンテナの候補として、従来アンテナエレメントにおける導体として用いられた銅、ITO(Indiumtinoxide)等と比較して優れた特性(高導電率、高キャリア移動度、高熱伝導率)を有するグラフェンをアンテナエレメントに用いたアンテナが提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載されているマイクロ波帯アンテナは、銅箔上にCVD法により形成したグラフェン膜を基板に転写し、転写したグラフェン膜上に適宜Au膜を設けつつ、フォトリソグラフィ技術、エッチング技術、UV-オゾン処理等によりパターニングすることでアンテナエレメントを形成する。これにより、基板上に所望の形状のアンテナエレメントを作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-75626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、移動通信システムに用いるアンテナは、アンテナエレメントで送受信する信号を増幅する増幅器とともに用いられる。数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域では、増幅器とアンテナエレメントとの間の伝送距離は、(例えば100μm未満となるように)極短くする必要がある。
【0006】
しかし、特許文献1は、アンテナエレメント単体としての実現性を示すのみであり、増幅器等と組み合わせたデバイスへの応用については具体的な教示がない。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域での使用に適したアンテナモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係るアンテナモジュールは、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板と、基板の最上面に接して設けられた単結晶のグラフェン層と、基板上に設けられた窒化ガリウム層とを備える。そして、このアンテナモジュールは、グラフェン層における窒化ガリウム層に覆われていない領域をパターニングにして形成されたアンテナエレメント部と、窒化ガリウム層に形成されたアクティブ素子部と、アンテナエレメント部とアクティブ素子部とを接続する接続部とが一体的に形成されたことを特徴とする。
【0009】
本発明では、窒化ガリウム層は、グラフェン層の一部を覆うように設けられるとよい。
【0010】
本発明では、基板は、絶縁体のベース基板上に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板とするとよい。
【0011】
本発明では、窒化ガリウム層は、グラフェン層をバッファ層としてエピタキシャル成長された層とするとよい。
【0012】
本発明では、アクティブ素子部は窒化ガリウム層内に形成されたHEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いた増幅器を含むとよい。
【0013】
本発明では、接続部は100μm未満の長さでアンテナエレメント部とアクティブ素子部とを接続するとよい。
【0014】
また、本発明の一実施形態に係るアンテナモジュールの製造方法は、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、グラフェン層をバッファ層として窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、窒化ガリウム層におけるアクティブ素子部が設けられていない領域を除去してグラフェン層を露出させるステップと、露出したグラフェン層をパターニングしてアンテナエレメントおよびアクティブ素子部とアンテナエレメントとを接続する接続部を形成するステップと、を含む。
【0015】
また、本発明の他の実施形態に係るアンテナモジュールの製造方法は、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、グラフェン層の一部を除去するとともに、グラフェン層をパターニングしてアンテナエレメントおよびアクティブ素子部とアンテナエレメントとを接続する接続部を形成するステップと、グラフェン層が除去された領域に、窒化ガリウム層をエピタキシャル成長するステップと、窒化ガリウム層に増幅器を含むアクティブ素子部を形成するステップと、を含む。
【0016】
また、本発明のさらに他の実施形態に係るアンテナモジュールの製造方法は、少なくとも最上面が炭化珪素の単結晶である基板を用意するステップと、基板の最上面にグラフェン層を形成するステップと、グラフェン層をパターニングしてアンテナエレメントを形成するステップと、増幅器を含むアクティブ素子部が形成された窒化ガリウムデバイスを、基板上のグラフェン層に貼り合わせて窒化ガリウム層を設けるステップと、を含む。
【0017】
本発明では、アンテナエレメントを形成するステップにおいて、アンテナエレメントとともに、電極パッドおよびアンテナエレメントと電極パッドとを接続する接続部を形成し、窒化ガリウム層を設けるステップにおいて、窒化ガリウムデバイスに設けられた電極と、電極パッドとが電気的に接続されるように、窒化ガリウムデバイスを基板上のグラフェン層に貼り合わせるとよい。
【0018】
上述のアンテナモジュールの各製造方法におけるグラフェン層を形成するステップにおいて、基板の最上面の炭化珪素の単結晶における珪素原子を昇華させることによりグラフェン層をエピタキシャル成長させるとよい。
【0019】
上述のアンテナモジュールの各製造方法において、基板は、絶縁体のベース基板上に炭化珪素の単結晶層を作製したハイブリッド基板とするとよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアンテナモジュールおよびその製造方法によれば、グラフェンを用いたアンテナエレメントと、増幅器等のアクティブ素子とが一体に形成され、数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域での使用に適したアンテナモジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】アンテナモジュールの構造を示す模式図である。
図2】電極と接続部を接続する方法を示す図である。
図3】アンテナモジュールの作製する手順の第1の例を示す図である。
図4】アンテナモジュールの作製する手順の第2の例を示す図である。
図5】アンテナモジュールの構造の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。背景技術の説明に用いた図も含め、各図面における共通の構成要素については同じ符号を付す。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るアンテナモジュール1の構造を示す模式図である。図1に示すように、アンテナモジュール1は、基板2、グラフェン層3、および窒化ガリウム(GaN)層4がこの順に積層された層構成を有する。そして、アンテナモジュール1は、図1に示すように、前記の層構成を利用して、アンテナエレメント部10、アクティブ素子部12、および接続部14を実現する。
【0024】
基板2は、グラフェン層3を形成するための下地となる。基板2は、少なくともグラフェン層3と接する最上面21が単結晶の炭化珪素(SiC)となっている。基板2の最上面以外の部分はSiCとは異なる絶縁体であってもよい。つまり、基板2は、SiCの単結晶基板であってもよいし、絶縁体にSiCの単結晶層を作製したハイブリッド基板であってもよい。基板2におけるSiCの単結晶層の表面は(0001)面とするとよい。基板2は、グラフェン層3を成すグラフェンをエピタキシャル成長させるための下地となる。
【0025】
グラフェン層3は、基板2の最上面に接して設けられる。グラフェン層3は単層または複数層の単結晶のグラフェンにより構成される。グラフェン層3は、基板2とGaN層4の間でバッファ層として機能する。また、グラフェン層3は、所望のアンテナ形状にパターニングされることでアンテナエレメント部10および接続部14を構成する。
【0026】
GaN層4は、基板2の上に設けられる。一例として、GaN層4は、図1(a)に示したようにグラフェン層3に重ねて設けられる。他の例としては、図1(b)に示したように、GaN層4は、グラフェン層3を介さずに基板2の上に直接設けられてもよい。GaN層4には、アクティブ素子部12を構成する増幅器等が、HEMT(High Electron Mobility Transistor)等の高速動作が可能な素子を用いて形成される。
【0027】
なお、図1には示されていないが、必要に応じてグラフェン層3やGaN層4に重ねて電極や配線パターンを形成するための金属膜(例えばAu膜)や、保護膜等が設けられてもよい。
【0028】
基板2、グラフェン層3、およびGaN層4の層構成によるアンテナモジュール1において、アンテナエレメント部10、アクティブ素子部12、および接続部14は、基板2の平面において領域を区画して設けられる。図1に示すように、アクティブ素子部12はGaN層4に設けられる。アクティブ素子部12は、上述の増幅器に加えそれ以外のアクティブ素子を備えてもよい。アクティブ素子部12は外部(例えばアンテナエレメント部10や接続部14)からの配線が接続される電極42を備えてもよい。電極42は、GaN層4の基板2と対向する面に設けられてもよいし、基板2と対向する面とは反対の面に設けられてもよい。
【0029】
アンテナエレメント部10には、GaN層4が設けられない。アンテナエレメント部10は、グラフェン層3が所望のアンテナ特性を実現するための形状にパターニングされた構造を有する。パターニングされたグラフェンの一部または全部に重畳してAu等の金属膜が設けられもよい。グラフェンは銅(Cu)をはじめとする金属やITOと比べて、導電率、キャリア移動度、熱伝導率等の諸特性が高い値を有するため、Cuを凌ぐアンテナ特性を実現することができ、アンテナのサイズを縮小しても特性劣化を抑制することができる。
【0030】
接続部14は、アクティブ素子部12の増幅器の電極42とアンテナエレメント部10とを接続する配線である。接続部14には、アンテナエレメント部10と同様にGaN層4が設けられないようにしてもよいし、その一部または全部にGaN層4が重ねて設けられていてもよい。接続部14は、グラフェン層3をパターニングすることにより形成されてもよいし、Au等の金属膜により形成されてもよい。また、接続部14は、一部が金属膜により形成され、他の部分がグラフェンにより形成されてもよく、グラフェンに金属膜が重畳して設けられている部分があってもよい。なお、アンテナエレメント部10や接続部14をグラフェンのみで形成すると、透明配線を実現することができる。接続部14は、アクティブ素子部12とアンテナエレメント部10との間で伝送される信号が劣化しないよう、極力短く(例えば、好ましくは100μm未満、より好ましくは30μm未満、さらに好ましくは10μm未満の伝送距離となるように)形成されることが好ましい。
【0031】
電極42が、GaN層4の基板2と対向する面に設けられる場合には、図2(a)に示すように、電極42と接続部14の一端に設けられる電極パッド15とが直接または導体を挟んで間接的に接続されるようにするとよい。また、電極42がGaN層4の基板2と対向する面とは反対の面に設けられる場合には、図2(b)に示すように、ワイヤボンディング14aにより電極42と接続部14とを接続してもよい。あるいは、図2(c)に示すように、金属、グラフェン等の導体層14bを付加して電極42接続部14とを接続してもよい。
【0032】
続いて、アンテナモジュール1の製造方法について説明する。
図3は、アンテナモジュールの作製する手順の第1の例を示す図である。
【0033】
図3に示すように、はじめに基板2を用意する(図3(a))。基板2は、上述の通り、少なくとも最上面が単結晶のSiCとなっている。この最上面のSiCの結晶構造は、4H-SiC、6H-SiC、3C-SiCのいずれかであることが好ましい。
【0034】
基板2としてSiCの単結晶基板ではなく、絶縁体にSiCの単結晶層を作製したハイブリッド基板を用いる場合には、単結晶シリコン、サファイヤ、多結晶シリコン、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド、多結晶SiCの何れかをベース基板として、その上に必要に応じて酸化シリコン、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミニウム、またはダイヤモンドの膜を設け、ベース基板及び炭化珪素基板の貼り合わせ面に表面化処理を施して貼り合わせをする。その後、研削研磨による薄化や剥離前の炭化珪素基板に水素イオンやヘリウムイオン等を注入し、貼り合せ後に熱処理によりイオン注入界面で剥離を行うイオン注入剥離法等によりSiCの単結晶層を薄化したハイブリッド基板を作製すればよい。また、上記ハイブリッド基板を作製後に表面を多結晶SiCでCVDしたのちに上記ベース基板を除去して絶縁体にSiCの単結晶層を作製したハイブリッド基板を得るとよい。
【0035】
続いて、基板2を好ましくは1,100℃以上に加熱することにより基板2の最上面近傍の珪素原子(Si)を昇華させて、所望の厚さ(例えば50~1,500nm程度)のグラフェン膜を形成し、グラフェン層3とする(図3(b))。グラフェンの典型的な成長条件の一例としては、アルゴン(Ar)雰囲気下で気圧10Pa(1bar)、1500~1600℃の温度で、5~30分間加熱するとよい。Siを昇華した際には、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブの何れかのナノカーボン膜が形成されるが、作成条件を適宜調整してグラフェンが得られるようにする。このようにして形成されるグラフェン層3は、下地となる基板2の最上面のSiC単結晶の結晶面に対して所定の向きに結晶が配向するように、いわゆるエピタキシャル成長する。
【0036】
続いて、グラフェン層3をバッファ層(すなわち、GaNエピ結晶の核形成層(テンプレート層))として、窒化ガリウム(GaN)をエピタキシャル成長させ、GaN層4を形成する(図3(c))。GaNは、例えば有機金属気相成長法(MOCVD法)によりエピタキシャル成長させるとよい。具体的には、Ga、Al、Nの前駆体として、それぞれトリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、アンモニア(NH)を用い、キャリアガスにはHとNを用いるとよい。成膜に先立ち、グラフェン層3を設けた基板2をH雰囲気中、1100℃で5分間程度の熱洗浄を行うとよい。洗浄後の基板表面に、AlNバッファ層を数10~数100nm程度成長させ、その後、1050℃で厚さ2μm程度のアンドープのGaN層4を成長させるとよい。AlNバッファ層は、780℃程度で成長させた低温のAlNバッファ層の上に1080℃程度で成長させた高温のAlNバッファ層が積層されるように成長させるとよい。なお、上記の例ではグラフェン層3をGaNエピ結晶の核形成層(テンプレート層)としたが、GaNエピ結晶の成長前に、GaNを成長させる部位(つまり、アクティブ素子部が設けられる部分)についてグラフェン層3を除去して、基板2の最上面21のSiC単結晶にGaNを直接成長するようにしてもよい。
【0037】
そして、形成したGaN層4に、HEMT等のアクティブ素子、抵抗、キャパシタ、インダクタ等のパッシブ素子、配線、電極42等を形成して、増幅器等を含むアクティブ素子部12を形成する(図3(d))。
【0038】
続いて、エッチングによりアクティブ素子部12以外の部分からGaN層4を除去し、グラフェン層3を露出させる(図3(e))。さらに、グラフェン層3にアンテナエレメント部10と接続部14をパターニングする(図3(f))。このパターニングは、例えば、グラフェン層3にAu膜を蒸着した上で、Au膜に対しフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術によりパターニングを行い、Au膜で覆われていない露出したグラフェンをUV-オゾン処理等により除去し、さらにAu膜の不要部分を除去する、という手順で行うとよい。
【0039】
最後に、アクティブ素子部12の電極42と、接続部14とを電気的に接続する(図3(g))。なお、電極42と接続部14とは、ワイヤボンディングにより接続してもよい(図2(b))し、グラフェンや金属薄膜を付加することで接続してもよい(図2(c))。
【0040】
以上のような手順により、基板2上にアンテナエレメント部10とアクティブ素子部12が設けられ、両者が接続部14によって接続されたモノリシックのアンテナモジュールを作製することができる。なお、アクティブ素子部12の形成とアンテナエレメント部10および接続部14の形成は、順番を入れ替えて行ってもよいし、工程の一部または全部を同時に行ってもよい。
【0041】
上記のようにして作成されたアンテナモジュール1は、アンテナエレメント部10とアクティブ素子部12が近接して設けられ、両者がごく短い接続部14にて接続されるため、数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域においても、アンテナエレメント部10とアクティブ素子部12との間を伝搬する信号の劣化を抑制することができる。
【0042】
また、上記の手順で作製されたアンテナモジュール1では、グラフェン層3は、基板2の最上面のSiC単結晶上にエピタキシャル成長により形成された単結晶の膜となる。このため、別途作製した多結晶のグラフェンの膜を基板に転写する手法と比較して、グラフェンの特性(導電率、キャリア移動度、熱伝導性、膜の強度等)が優れたものとなる。このような単結晶のグラフェンをパターニングにして得られるアンテナエレメントは、銅等の金属薄膜で作製されたアンテナエレメントはもとより、多結晶グラフェン作製されたアンテナエレメントと比較しても優れた特性が期待でき、アンテナのサイズをより小型化しても特性が劣化しにくい。
【0043】
また、上記の手順で作製されたアンテナモジュール1では、グラフェン層3だけでなくGaN層4もエピタキシャル成長により形成される。したがって、グラフェン層3およびGaN層4は、いずれも基板2の最上面のSiC単結晶の結晶面に対してそれぞれ所定の向きに結晶が配向するように形成される。つまり、グラフェン層3とGaN層4とは、それぞれの結晶が相対的に予め決まった角度を成すように配向することになる。これにより、GaN-HEMTとグラフェン・アンテナ間の電気抵抗や寄生抵抗を抑制することができ、アンテナの放射効率等の特性を向上することができる。
【0044】
図4は、アンテナモジュールの作製する手順の第2の例を示す図である。この手順では、GaN層4をエピタキシャル成長せずに、別途GaNデバイス41を用意し、グラフェン層3が設けられた基板2にGaNデバイス41を貼り合わせることによりGaN層を設ける点で前記の第1の例と異なる。
【0045】
アンテナモジュールの作製する手順の第2の例では、まず、図3(a)および(b)を参照して説明したのと同様の手法により、基板2を用意し(図4(a))、基板2の最上面にグラフェン層3を形成する(図4(b))。
【0046】
続いて、グラフェン層3にアンテナエレメント部10と接続部14をパターニングする(図4(c))。また、後段においてGaNデバイス41を貼り合わせる際に、アクティブ素子部12の電極42と接続される電極パッド15も接続部14から延伸する形でパターニングする。その他、GaNデバイス41との接合に必要なグラフェン層3(またはその上に設けられるAu膜)のパターンを形成してもよい。つまり、グラフェン層3は、アクティブ素子部12を基板2に貼りつけるための接着層として機能してもよい。これらのパターニングは、例えば、グラフェン層3にAu膜を蒸着した上で、Au膜に対しフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術によりパターニングを行い、Au膜で覆われていない露出したグラフェンをUV-オゾン処理等により除去し、さらにAu膜の不要部分を除去する、という手順で行うとよい。このようにして、基板2上にアンテナエレメント部10をモノリシックに形成することができる。なお、GaNデバイス41との接合に用いられるパターンは、グラフェン層3を除去してAu等の金属薄膜のみにより形成してもよい。GaNデバイス41との接合に用いるパターンは、グラフェンによるもの、金属薄膜によるもの、あるいはこれらを積層したものであってよい。GaNデバイス41との接合に用いられるパターンは、電極42と接続される電極パッド15と同様に、GaNデバイス41内の素子と外部との電気的接続を確保する機能を兼ねてもよい。
【0047】
続いて、別途用意したGaNデバイス41を、基板2の適切な位置に貼り合わせる(図4(d))。GaNデバイス41は、GaNの基板上に、アクティブ素子部12を構成する増幅器等の素子を形成して所定の寸法に切り出したものである。GaNデバイス41の表面(基板2に張り合わされる面)は、アクティブ素子部12内の素子と信号の授受を行うための電極42が設けられる。GaNデバイス41と基板2とを貼り合わせる際、GaNデバイス41の電極42と基板2上の電極パッド15とが電気的に接続される。GaNデバイス41と基板2との貼り合わせは、両者の表面に対し、活性化処理や表面処理を行った上で実施するとよい。また、GaNデバイス41をフリップチップボンディングによって基板2に貼り合わせることもできる。基板2に貼り合わされたGaNデバイス41は、アンテナモジュール1におけるGaN層4となる。
【0048】
以上のような手順により、基板2上にアンテナエレメント部10とアクティブ素子部12が設けられ、両者が接続部14によって接続された一体のアンテナモジュールを作製することができる。
【0049】
上記のようにして作成されたアンテナモジュール1は、アンテナエレメント部10とアクティブ素子部12が近接して設けられ、両者がごく短い接続部14にて接続されるため、数10GHzから100GHz以上の信号周波数帯域においても、アンテナエレメント部10とアクティブ素子部12との間を伝搬する信号の劣化を抑制することができる。
【0050】
また、上記の手順で作製されたアンテナモジュール1では、グラフェン層3は、基板2の最上面のSiC単結晶上にエピタキシャル成長により形成された単結晶の膜となる。このため、別途作製した多結晶のグラフェンの膜を基板に転写する手法と比較して、グラフェンの特性(導電率、キャリア移動度、熱伝導性、膜の強度等)が優れたものとなる。このような単結晶のグラフェンをパターニングにして得られるアンテナエレメントは、銅等の金属薄膜で作製されたアンテナエレメントはもとより、多結晶グラフェン作製されたアンテナエレメントと比較しても優れた特性が期待でき、アンテナのサイズをより小型化しても特性が劣化しにくい。
【0051】
また、上記の手順で作製されたアンテナモジュール1では、アクティブ素子部12が形成されたGaNデバイス41を別途用意してから基板2に貼り合わせることもできるため、クティブ素子部12の設計自由度が高い。また、貼り合わせるGaNデバイス41を、機能や性能が異なる複数種類準備すれば、アンテナエレメント部10を共通としつつ、様々なバリエーションのアンテナモジュール1を作ることができる。
【0052】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は上記の実施形態や実施例に限定されるものではない。
例えば、上記の実施形態では、アンテナエレメント部10とアクティブ素子部12が基板2の同一面上に設けられたが、図5に示すように、アンテナエレメント部10が、基板2におけるアクティブ素子部12が設けられる面とは反対の面に設けられてもよい。この場合、アンテナエレメント部10とアクティブ素子部12を接続する接続部14が、基板2を貫通して両面を電気的に接続する基板貫通ビア14cを含むとよい。また、この場合、基板2の両面にグラフェン層3を設け、アクティブ素子部12に引き出される接続部14の配線、アクティブ素子部12と接合する電極パッド、およびアンテナエレメント部10をグラフェンにて形成してもよい。
【0053】
また、上記の実施形態において、アンテナモジュールの作製する手順の第2の例では、アクティブ素子部12の基板接合面に電極42設けられ、基板2上の電極パッド15と電極42とが直接接続されたが、電極42はGaN層4の基板2と対向する面とは反対の面に設けられてもよい。この場合には、基板上には電極パッド15を設けず、図2(b)に示すように、ワイヤボンディングや導体層の付加により電極42と接続部14とを接続するとよい。
【0054】
また、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる変更がされたものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
1 アンテナモジュール
2 基板
3 グラフェン層
4 GaN層
10 アンテナエレメント部
12 アクティブ素子部
14 接続部
15 電極パッド
41 GaNデバイス
42 電極
図1
図2
図3
図4
図5