(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092395
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】亀裂検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20230626BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230626BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20230626BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
G01N21/88 K
G01N21/64 B
E01D22/00 Z
E21D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207613
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣暁
(72)【発明者】
【氏名】立石 晶洋
(72)【発明者】
【氏名】金塚 智洋
(72)【発明者】
【氏名】栗林 健一
【テーマコード(参考)】
2D059
2D155
2G043
2G051
【Fターム(参考)】
2D059GG01
2D059GG40
2D155KB13
2D155LA06
2D155LA13
2D155LA16
2G043AA03
2G043CA05
2G043EA02
2G043FA01
2G043FA03
2G043KA03
2G051AB03
2G051BA05
2G051CA04
2G051GB02
2G051GC18
(57)【要約】
【課題】遮蔽層を破断させて光の照射による発光により構造物の亀裂を検出する構造において、構造物の亀裂の検出不良を抑制する。
【解決手段】亀裂検出方法は、構造物の表面に配置され光の照射により燐光を発する繊維を含む繊維シートと、前記繊維シートを前記表面に接着する接着層と、前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備える補強構造であって、前記繊維シート、前記接着層及び前記遮蔽層に対し押し抜き荷重試験を行った場合に、前記繊維シートよりも先に前記接着層及び前記遮蔽層が破断する前記補強構造に対して、前記光を照射する照射工程と、前記照射工程における光の照射により前記繊維シートから発せられた燐光を検知することにより、前記構造物に発生した亀裂を検出する検出工程であって、前記燐光の検知範囲が、前記照射工程における光の照射が終了した範囲を含んでいる前記検出工程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に配置され光の照射により燐光を発する繊維を含む繊維シートと、前記繊維シートを前記表面に接着する接着層と、前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備える補強構造であって、前記繊維シート、前記接着層及び前記遮蔽層に対し押し抜き荷重試験を行った場合に、前記繊維シートよりも先に前記接着層及び前記遮蔽層が破断する前記補強構造に対して、前記光を照射する照射工程と、
前記照射工程における光の照射により前記繊維シートから発せられた燐光を検知することにより、前記構造物に発生した亀裂を検出する検出工程であって、前記燐光の検知範囲が、前記照射工程における光の照射が終了した範囲を含んでいる前記検出工程と、
を有する亀裂検出方法。
【請求項2】
構造物の表面に配置され、光の照射により燐光を発する繊維を含む繊維シートと、前記繊維シートを前記表面に接着する接着層と、前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備える補強構造であって、前記構造物への亀裂の発生に伴って前記接着層及び前記遮蔽層が破断して当該破断部分から前記繊維シートが露出する前記補強構造に対して、前記光を照射する照射工程と、
前記照射工程における光の照射により前記繊維シートから発せられた燐光を検知することにより、前記構造物に発生した亀裂を検出する検出工程であって、前記燐光の検知範囲が、前記照射工程における光の照射が終了した範囲を含んでいる前記検出工程と、
を有する亀裂検出方法。
【請求項3】
前記照射工程は、前記遮蔽層が前記接着層を兼ねる補強構造に対して光を照射する
請求項1又は2に記載の亀裂検出方法。
【請求項4】
前記照射工程は、前記補強構造に対して照射装置から光を照射し、
前記検出工程は、前記燐光を検知装置で検知することにより、前記構造物に発生した亀裂を検出し、前記検知装置の検知範囲が、前記照射装置の照射範囲に対してずれている
請求項1~3のいずれか1項に記載の亀裂検出方法。
【請求項5】
前記検出工程は、前記検知装置の検知範囲が、前記照射装置の照射範囲から離間している
請求項4に記載の亀裂検出方法。
【請求項6】
前記検出工程は、前記検知装置の検知範囲が、前記照射装置の照射範囲から0.1m以上離間している
請求項5に記載の亀裂検出方法。
【請求項7】
前記検出工程において用いられる前記検知装置は、最低被写体照度が1lux以下であるデジタルカメラである
請求項4~6のいずれか1項に記載の亀裂検出方法。
【請求項8】
前記照射工程における光の照射により燐光を発する繊維の残光輝度が、D65光源を用いて1000luxで30分照射したのち、消灯10分後でも10mcd/m2を超える
請求項1~7のいずれか1項に記載の亀裂検出方法。
【請求項9】
前記照射工程は、平行光を照射する
請求項1~8のいずれか1項に記載の亀裂検出方法。
【請求項10】
前記照射工程は、紫外線を含む光を照射する
請求項1~9のいずれか1項に記載の亀裂検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亀裂検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、構造物を構成する基体の上に、励起光によって発光する蛍光色素が混入され且つ前記基体に亀裂が発生したときにも破断することなく延びる高弾性の第1塗布層を形成し、この第1塗布層の上に、励起光の透過を阻止する遮蔽材が混入され且つ前記基体に亀裂が発生したときにこれに追従して亀裂が発生する低弾性の第2塗布層を形成したのちに、当該構造物に励起光を照射して、前記塗布層形成後に基体に発生した亀裂を、第2塗布層に発生した亀裂から励起光を通過させて第1塗布層を発光させて検出することを特徴とする構造物の劣化検査方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、撮像に使用する撮像手段の特性と応力発光体の種類とに紐づけて画素値を輝度値に変換する変換式を格納する格納部と、測定対象に塗布または混入した応力発光体に励起光を照射する光源と、前記測定対象に塗布または混入した応力発光体の発光を撮像する撮像部と、前記撮像部による撮像で得た画像データから画素値を抽出する画素抽出部と、前記撮像部の特性と前記測定対象に塗布または混入した応力発光体の種類を入力可能にする入力部と、前記入力部に入力された前記撮像部の特性および前記測定対象に塗布または混入した応力発光体の種類に対応する変換式を前記格納部より読み出す変換式読出部と、前記変換式読出部により読み出された変換式を用いて、前記画素抽出部により抽出された画素値を輝度値に変換する変換部と、を備える応力発光測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5562310号公報
【特許文献2】特開2021-32740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造物の表面に配置され光の照射により発光する発光層と、発光層の表面に配置され発光層へ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備え、構造物への亀裂の発生に伴って遮蔽層のみが破断するように、遮蔽層の伸度を発光層の伸度よりも小さくした構造において、例えば、照射工程と検出工程とを有する亀裂検出方法を適用することができる。
【0006】
ここで、上記構造では、構造物に亀裂が発生すると、亀裂の発生に伴って発光層が伸びて遮蔽層のみが破断し、当該破断部分から発光層が露出する。
【0007】
そして、亀裂検出方法では、例えば、照射工程において、上記構造に対して光を照射する。これにより、光が遮蔽層の破断部分を通過して発光層が発光する。さらに、亀裂検出方法では、例えば、検出工程において、発光層の発光を検知することで、構造物に発生した亀裂を検出する。
【0008】
ここで、発光層の発光が蛍光である場合では、発光層は、光が照射されている期間のみ発光するため、当該期間に発光を検知できなかった場合では、亀裂を検出することができない。
【0009】
また、発光層の発光が蛍光である場合では、発光層は、光が照射されている期間のみ発光するため、発光層の発光と、構造物の表面からの反射光とが重なる範囲において、発光層の発光を検知する必要があるため、発光層の発光が検知しにくい。特に、検知箇所に対して離れた場所から目視により検知する場合では、発光層の発光が検知しにくく、構造物の亀裂の検出不良が生じる場合がある。
【0010】
本発明は、光の照射による発光により構造物の亀裂を検出する亀裂検出方法において、構造物の亀裂の検出不良を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1態様の亀裂検出方法は、構造物の表面に配置され、光の照射により燐光を発する繊維を含む繊維シートと、前記繊維シートを前記表面に接着する接着層と、前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備える補強構造であって、前記繊維シート、前記接着層及び前記遮蔽層に対し押し抜き荷重試験を行った場合に、前記繊維シートよりも先に前記接着層及び前記遮蔽層が破断する前記補強構造に対して、前記光を照射する照射工程と、前記照射工程における光の照射により前記繊維シートから発せられた燐光を検知することにより、前記構造物に発生した亀裂を検出する検出工程であって、前記燐光の検知範囲が、前記照射工程における光の照射が終了した範囲を含んでいる前記検出工程と、を有する。
【0012】
第1態様の亀裂検出方法に係る補強構造では、繊維シート、接着層及び遮蔽層に対し押し抜き荷重試験を行った場合に、繊維シートよりも先に接着層及び遮蔽層が破断する。押し抜き荷重試験では、繊維シート、接着層及び遮蔽層に対し、構造物の表面に沿った方向への引張力、及び該表面に対する法線方向にせん断力が作用する。したがって、当該補強構造では、繊維シート、接着層及び遮蔽層に対し、構造物の表面に沿った方向への引張力、又は、該表面に対する法線方向にせん断力が作用した場合に、繊維シートよりも先に接着層及び遮蔽層が破断する。このため、構造物に亀裂が発生し、構造物の表面が表面に沿った方向に広がった場合に、又は、構造物に亀裂が発生し、構造物の表面にせん断方向へのずれが生じた場合に、接着層及び遮蔽層が破断して繊維シートが露出した状態を生じさせることができる。
【0013】
第1態様の亀裂検出方法では、照射工程において、補強構造に対して光を照射する。そして、検出工程では、照射工程における光の照射により繊維シートから発せられた燐光を検知することにより、構造物に発生した亀裂を検出する。
【0014】
ここで、検出工程では、燐光の検知範囲が、照射工程における光の照射が終了した終了範囲を含んでいる。終了範囲では、光の照射による構造物の表面からの反射光が生じないため、構造物の表面からの反射光が、検知範囲に入射されにくく、繊維シートからの燐光が検知しやすい。この結果、構造物の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0015】
第2態様の亀裂検出方法は、構造物の表面に配置され、光の照射により燐光を発する繊維を含む繊維シートと、前記繊維シートを前記表面に接着する接着層と、前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備える補強構造であって、前記構造物への亀裂の発生に伴って前記接着層及び前記遮蔽層が破断して当該破断部分から前記繊維シートが露出する前記補強構造に対して、前記光を照射する照射工程と、前記照射工程における光の照射により前記繊維シートから発せられた燐光を検知することにより、前記構造物に発生した亀裂を検出する検出工程であって、前記燐光の検知範囲が、前記照射工程における光の照射が終了した範囲を含んでいる前記検出工程と、を有する。
【0016】
第2態様の亀裂検出方法に係る補強構造では、構造物への亀裂の発生に伴って接着層及び遮蔽層が破断して当該破断部分から繊維シートが露出する。
【0017】
第2態様の亀裂検出方法では、照射工程において、補強構造に対して光を照射する。そして、検出工程では、照射工程における光の照射により繊維シートから発せられた燐光を検知することにより、構造物に発生した亀裂を検出する。
【0018】
ここで、検出工程では、燐光の検知範囲が、照射工程における光の照射が終了した終了範囲を含んでいる。終了範囲では、光の照射による構造物の表面からの反射光が生じないため、構造物の表面からの反射光が、検知範囲に入射されにくく、繊維シートからの燐光が検知しやすい。この結果、構造物の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0019】
第3態様の亀裂検出方法では、前記照射工程は、前記遮蔽層が前記接着層を兼ねる補強構造に対して光を照射する。
【0020】
照射工程において光が照射される補強構造では、遮蔽層が接着層を兼ねるので、繊維シートを遮蔽する効果が高い。したがって、検出工程において、不用意に繊維シートが露出することによる誤検出を抑制できる。
【0021】
第4態様の亀裂検出方法では、前記照射工程は、前記補強構造に対して照射装置から光を照射し、前記検出工程は、前記燐光を検知装置で検知することにより、前記構造物に発生した亀裂を検出し、前記検知装置の検知範囲が、前記照射装置の照射範囲に対してずれている。
【0022】
このように、検出工程では、検知装置の検知範囲が、照射装置の照射範囲に対してずれているため、検知装置の検知範囲が照射装置の照射範囲と一致する場合に比べ、照射装置の照射範囲で生じる構造物の表面からの反射光が、検知範囲に入射されにくい。これにより、繊維シートからの燐光が検知されやすく、構造物の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0023】
第5態様の亀裂検出方法では、前記検出工程は、前記検知装置の検知範囲が、前記照射装置の照射範囲から離間している。
【0024】
このように、検出工程では、検知装置の検知範囲が照射装置の照射範囲から離間しているため、検知装置の検知範囲が照射装置の照射範囲と隣接する場合に比べ、照射装置の照射範囲で生じる構造物の表面からの反射光が、検知範囲に入射されにくい。これにより、繊維シートからの燐光が検知されやすく、構造物の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0025】
第6態様の亀裂検出方法では、前記検出工程は、前記検知装置の検知範囲が、前記照射装置の照射範囲から0.1m以上離間している。
【0026】
このように、検出工程では、検知装置の検知範囲が、照射装置の照射範囲から0.1m以上離間しているため、検知装置の検知範囲が照射装置の照射範囲から0.1m未満しか離間していない場合に比べ、照射装置の照射範囲で生じる構造物の表面からの反射光が、検知範囲に入射されにくい。これにより、繊維シートからの燐光が検知されやすく、構造物の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0027】
第7態様の亀裂検出方法では、前記検出工程において用いられる前記検知装置は、最低被写体照度が1lux以下であるデジタルカメラである。
【0028】
検出工程において用いられる検知装置が、最低被写体照度が1lux以下であるデジタルカメラであるため、燐光の検知精度がよく、構造物の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0029】
第8態様の亀裂検出方法は、前記照射工程における光の照射により燐光を発する繊維の残光輝度が、D65光源を用いて1000luxで30分照射したのち、消灯10分後でも10mcd/m2を超える。
【0030】
照射工程における光の照射により燐光を発する繊維の残光輝度が、D65光源を用いて1000luxLで30分照射したのち、消灯10分後でも10mcd/m2を超えるため、当該残光輝度が、D65光源を用いて1000luxで30分照射したのち、消灯10分後において10mcd/m2を以下となる場合に比べ、燐光の検知精度がよく、構造物の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0031】
第9態様の亀裂検出方法では、前記照射工程は、平行光を照射する。
【0032】
このように、照射工程では、平行光を照射するため、照射工程において、拡散光を照射する場合に比べ、照射装置の照射範囲で生じる構造物の表面からの反射光が、検知範囲に入射されにくい。これにより、繊維シートからの燐光が検知されやすく、構造物の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0033】
第10態様の亀裂検出方法では、前記照射工程は、紫外線を含む光を照射する。
【0034】
このように、照射工程において、紫外線を含む光を照射するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、上記方法としたので、光の照射による発光により構造物の亀裂を検出する亀裂検出方法において、構造物の亀裂の検出不良を抑制できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本実施形態の亀裂検出方法に係る補強構造を示す断面図である。
【
図2】本実施形態の亀裂検出方法に係る補強構造において、遮蔽層が破断した状態を示す断面図である。
【
図3】本実施形態の亀裂検出方法を説明するための概略図である。
【
図4】本実施形態の亀裂検出方法における検知範囲と照射範囲との位置関係を示す概略図である。
【
図5】本実施形態の亀裂検出方法における検知範囲と照射範囲との位置関係の他の例を示す概略図である。
【
図6】本実施形態の亀裂検出方法における検知範囲と照射範囲との位置関係の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0038】
〈第1実施形態〉
(本実施形態の亀裂検出方法に係る補強構造10)
まず、本実施形態の亀裂検出方法に係る補強構造10について説明する。
図1は、補強構造10を示す断面図である。
図2は、補強構造10において、後述の遮蔽層50が破断した状態を示す断面図である。
【0039】
図1に示される補強構造10は、構造物90を補強する構造であり、構造物90の剥落等を抑制する。構造物90としては、例えば、コンクリート構造物などが挙げられる。コンクリート構造物としては、例えば、鉄道や道路のトンネルの覆工壁などが挙げられる。
【0040】
なお、コンクリート構造物としては、鉄道や道路のトンネルの覆工壁に限られず、例えば、建物、橋梁や橋脚などであってもよく、補強対象となる構造物であればよい。また、構造物としては、コンクリート構造物に限られず、例えば、モルタル、セラミックス、金属、及びガラス等の構造物であってもよく、補強対象となる構造物であればよい。
【0041】
補強構造10は、具体的には、
図1に示されるように、プライマー20と、不陸修正材30と、繊維シート40と、遮蔽層50と、を備えている。補強構造10では、プライマー20、不陸修正材30及び遮蔽層50がこの順で積層され、遮蔽層50の内部に繊維シート40が配置される。
【0042】
プライマー20は、構造物90の表面に塗布される。プライマー20は、構造物90と、構造物90上に形成される層との接合性(接着性)を高める機能を有している。プライマー20には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、プライマー20としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0043】
不陸修正材30は、プライマー20の表面に塗布される。不陸修正材30は、構造物90の表面の凹凸を平滑化する機能を有している。不陸修正材30には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、不陸修正材30としては、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0044】
繊維シート40は、不陸修正材30の表面に配置される。すなわち、繊維シート40は、プライマー20及び不陸修正材30が塗布された構造物90の表面に配置される。なお、プライマー20及び不陸修正材30が塗布された構造物90全体を、特許請求の範囲における「構造物」と捉えてもよい。
【0045】
繊維シート40は、構造物90の表面を補強する機能を有している。この繊維シート40は、光(例えば紫外線を含む励起光)の照射により発光する繊維(以下、発光繊維という)を含んでいる。
【0046】
発光繊維としては、光の照射により発光する発光材料を含む熱可塑性樹脂が用いられる。発光繊維に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンをはじめとするポリオレフィン、ビニロン等の樹脂を用いることができる。発光繊維に用いられる樹脂としては、上記のものに限られず、他の樹脂を用いてもよい。さらに、発光繊維としては、炭素繊維やガラス繊維との複合繊維を用いてもよい。
【0047】
発光繊維に用いられる発光材料としては、一例として、照射された光を蓄えて光照射が停止しても発光する蓄光材が用いられる。すなわち、発光材料として、燐光を発する材料が用いられる。蓄光材としては、アルミン酸ストロンチウムなどを用いた蓄光顔料が挙げられる。
【0048】
発光繊維は、発光材料を含む熱可塑性樹脂を紡糸することで、糸状の発光繊維として形成される。紡糸の方法としては、例えば、溶融紡糸、乾式紡糸及び湿式紡糸などの方法がある。
【0049】
溶融紡糸では、原料を熱で溶かした状態で、口金から押し出して繊維状にした後、冷やして固める。乾式紡糸では、原料を熱で気化する溶剤に溶かした状態で、熱雰囲気中で口金から押し出して溶剤を蒸発させて繊維状にする。湿式紡糸では、原料を溶剤に溶かした状態で、凝固浴と呼ばれる溶液中で口金から押し出して化学反応させたのち、溶剤を除去して繊維状にする。
【0050】
発光繊維としては、紡糸された発光繊維を束ねたり、撚ったりしたものを用いてもよい。さらに、発光繊維としては、紡糸された繊維(発光材料を含まない繊維)に対して、発光材料を含む薬品で表面処理がなされた発光繊維であってもよい。
【0051】
繊維シート40には、短繊維を用いた不織布も使用することができるが、強度や検出性能などの観点から連続繊維を用いた連続繊維シートであることが好ましい。具体的には、繊維シート40としては、発光繊維から形成されたUD(Uni Direction)材(すなわち、繊維が一方向に並んだ一方向材)、織物、及び編物などが用いられる。織物としては、例えば、平織り、綾織り、朱子織などの方法で織られたものが挙げられる。編物としては、例えば、平編、ゴム編、パール編等の緯編により編成された編地や、デンビ編、コード編、アトラス編等の経編により編成された編地(トリコット等)が挙げられる。
【0052】
繊維シート40は、発光繊維を含んでいればよく、全体が発光繊維で形成されている必要はない。すなわち、繊維シート40は、発光しない非発光繊維を含んでいてもよい。例えば、経糸及び緯糸の一方を発光繊維とし、経糸及び緯糸の他方を非発光繊維とした織物を用いることができる。繊維シート40としては、例えば、発光繊維が5[vol%]以上含有されていればよい。
【0053】
さらに、繊維シート40としては、複数枚の繊維シート40を重ねて用いてもよい。複数枚のUD材を重ねる場合では、例えば、各シートの繊維の方向が直交するように重ねて用いられる。これにより、繊維が直交方向に並び、直交方向に引張強度が高まり、繊維シート40による補強効果が向上する。また、非発光繊維からなるUD材と発光繊維を含むUD材を重ねて使用することもできる。なお、繊維シート40として、織物及び編物などを用いた場合でも、複数枚の繊維シート40を重ねて用いても構わない。
【0054】
繊維シート40に対して発光作用を生じさせる光の一例としては、紫外線等の励起光が用いられる。なお、当該光の一例としては、紫外線に限られず、例えば、青色光(青色系可視光)などであってもよく、種々の光を用いることができる。
【0055】
遮蔽層50は、繊維シート40へ照射される光を遮蔽する機能を有している。遮蔽層50には、光を遮蔽する遮蔽材を含んでいる。
【0056】
遮蔽層50は、具体的には、遮蔽材を含む樹脂(以下、遮蔽樹脂という)が不陸修正材30の表面に塗布された後に硬化されることで形成される。遮蔽層50は、繊維シート40を不陸修正材30の表面に接着する機能も有している。
【0057】
遮蔽層50には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、遮蔽層50としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、アクリル樹脂といったエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができるが、無溶剤系の常温硬化型エポキシ樹脂が好ましく使用される。
【0058】
遮蔽材としては、繊維シート40が発光作用を生じる光(例えば紫外線)を物理的もしくは化学的に遮蔽できるものであればよく、無機フィラーや吸収剤が用いられる。
【0059】
遮蔽材としての無機フィラーは、繊維シート40が発光作用を生じる光を物理的に遮ることができるのであれば特に材質や形状は限定されないが、カーボンブラックや酸化チタンが好ましく使用される。
【0060】
遮蔽材としての吸収剤は、繊維シート40が発光作用を生じる光を化学的に吸収することができるものであり、繊維シート40が発光作用を生じる光が紫外線である場合には、遮蔽材として、紫外線を吸収する紫外線吸収材を用いる。なお、紫外線吸収材としては、紫外線以外の波長の光を吸収してもよい。さらに遮蔽材は、上記の無機フィラーと吸収剤を併用してもよい。
【0061】
なお、遮蔽層50は、特許請求の範囲における遮蔽層の一例であり、特許請求の範囲における接着層の一例でもある。すなわち、遮蔽層50は、接着層を兼ねている。
【0062】
ここで、補強構造10では、繊維シート40及び遮蔽層50に対し押し抜き荷重試験を行った場合に、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断する。押し抜き荷重試験では、繊維シート40及び遮蔽層50に対し、構造物90の表面に沿った方向(以下、面方向という)への引張力、及び該表面に対する法線方向にせん断力が作用する。したがって、補強構造10では、繊維シート40及び遮蔽層50に対し、面方向への引張力、又は、構造物90の表面に対する法線方向にせん断力が作用した場合に、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断する。
【0063】
このため、構造物90に亀裂が発生し、構造物90の表面が面方向に広がった場合に、又は、構造物90に亀裂が発生し、構造物90の表面にせん断方向へのずれが生じた場合に、
図2に示されるように、繊維シート40が破断していない状態において、遮蔽層50が破断する。したがって、補強構造10では、構造物90への亀裂の発生に伴って遮蔽層50が破断して当該破断部分から繊維シート40が露出する構成とされている。
【0064】
押し抜き荷重試験としては、例えば、土木工事標準仕様書(東日本旅客鉄道株式会社編)日本鉄道施設協会(2016年9月)の附属書17-2コンクリート表面被覆工法の試験方法に記載の「押し抜き荷重試験」が用いられる。
【0065】
さらに、補強構造10では、面方向における引張伸び(伸度)にて、繊維シート40と遮蔽層50とを比較した場合、遮蔽層50よりも繊維シート40のほうが、当該引張伸び(伸度)が大きい。具体的には、繊維シート40の伸び率は、例えば、20数%とされ、遮蔽層50の伸び率は、例えば、3%以下とされ、好ましくは、0.5%以上3%以下とされ、さらに好ましくは0.5%以上2.5%以下とされている(いずれも23℃での伸び率)。なお、当該伸び率は、破断伸び(すなわち、破断後の引張試験片の標点間の伸び量を標点距離で割り百分率で表した値)である。
【0066】
なお、補強構造10としては、遮蔽層50の表面に、遮蔽層50を保護する保護層を形成してもよい。保護層は、遮蔽層50を紫外線や排ガスなどによる劣化から保護するために形成される。保護層としては、一例として、遮蔽層50と同等の引張伸び(伸度)を有するアクリルウレタン樹脂や水系のアクリル樹脂、フッ素樹脂等の樹脂材料またはポリマーモルタル等で構成される。
【0067】
なお、補強構造10としては、プライマー20を有さない構造であってもよい。したがって、不陸修正材30が構造物90の表面に直接、塗布される構成であってもよい。また、補強構造10としては、プライマー20及び不陸修正材30を有さない構造であってもよい。したがって、遮蔽層50が構造物90の表面に直接、形成される構成であってもよい。また、補強構造10としては、プライマー20を有し、不陸修正材30を有さない構造であってもよい。したがって、遮蔽層50がプライマー20の表面に直接、形成される構成であってもよい。
【0068】
(補強構造10の施工方法)
次に、前述の補強構造10を構造物90に対して施工する施工方法について説明する。なお、本施工方法により補強構造10が形作られるので、本施工方法は、補強構造10を製造する製造方法ともいえる。
【0069】
本施工方法では、まず、構造物90の表面の突起物や該表面に付着した付着物(例えば、劣化層など)を除去する下地処理を行った後、プライマー20を塗布する。
【0070】
次に、プライマー20が塗布された表面に対して、不陸修正材30を塗布し、当該表面の凹凸を平滑化する。
【0071】
次に、不陸修正材30が塗布された表面に対して、繊維シート40を遮蔽樹脂により接着する。具体的には、遮蔽樹脂を下塗りし、下塗りした遮蔽樹脂に繊維シート40を貼り付け、脱泡する。その後、遮蔽樹脂を上塗りし、脱泡する。遮蔽樹脂は、例えば、外気温または加温により、硬化される。これにより、繊維シート40が内部に配置された遮蔽層50が形成される。
【0072】
なお、遮蔽層50の表面に保護層を形成する場合には、保護層を構成する樹脂が遮蔽層50の表面に塗布される。
【0073】
(補強構造10に適用される亀裂検出方法)
次に、補強構造10において、構造物90に発生した亀裂を検出する亀裂検出方法について説明する。なお、本実施形態では、一例として、構造物90がトンネル構造物である場合の亀裂検出方法について説明する。
【0074】
本亀裂検出方法は、照射工程と、検出工程と、を有している。ここで、本亀裂検出方法では、
図3に示されるように、亀裂検出用の車両60が用いられる。この車両60は、トンネルの延長方向(矢印X方向)に進行する。車両60には、照射装置62と、検知装置64と、が搭載されている。具体的には、照射装置62及び検知装置64は、例えば車両60のルーフ63上に車両60の幅方向にずれた位置(
図4参照)に設けられている。また、照射装置62は、
図3に示されるように、検知装置64に対して車両60の前方側に配置されている。
【0075】
照射装置62は、光(例えば紫外線を含む励起光)を、構造物90の覆工壁92(すなわち内壁)に対して照射する。具体的には、照射装置62は、車両60の前方側であって上方側に光を照射する。
【0076】
検知装置64としては、例えば、最低被写体照度が1lux以下であるデジタルカメラが用いられる。デジタルカメラは燐光を記録可能なものであれば、撮像素子についてはCCDやCMOSのいずれであっても構わないが、静止画撮影は撮影環境の影響によってシャッタースピードが遅くなることから、検査効率の面からは連続画像の撮影が可能なデジタルビデオカメラの使用が好ましい。なお、デジタルスチルカメラを使用するのであればISO感度が25600以上のものが良い。検知装置64では、車両60の前方側に向かって上方側を検知範囲としている。検知装置64では、繊維シート40から発せられた燐光を含む光が入射され、当該光の情報(光量及び位置等の情報)を記録する。
【0077】
本亀裂検出方法では、照射工程において、補強構造10に対して照射装置62から光を照射する。具体的には、照射工程では、補強構造10の遮蔽層50に対して、照射装置62から平行光を照射する。
【0078】
ここで、補強構造10では、前述のように、繊維シート40及び遮蔽層50に対し押し抜き荷重試験を行った場合に、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断する。すなわち、補強構造10では、繊維シート40及び遮蔽層50に対し、面方向への引張力、又は、構造物90の表面に対する法線方向にせん断力が作用した場合に、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断する。
【0079】
このため、構造物90に亀裂が発生し、構造物90の表面が面方向に広がった場合に、又は、構造物90に亀裂が発生し、構造物90の表面にせん断方向へのずれが生じた場合に、
図2に示されるように、繊維シート40が破断していない状態において、遮蔽層50が破断して繊維シート40が露出した状態を生じさせることができる。
【0080】
すなわち、補強構造10では、構造物90への亀裂の発生に伴って遮蔽層50が破断して当該破断部分から繊維シート40が露出する構成とされている。これにより、光を遮蔽層50に向かって照射すると、露出した繊維シート40が燐光を発する。なお、
図2を含む各図では、遮蔽層50へ向けて照射された光が符号L1にて示され、繊維シート40が発する燐光が符号L2にて示されている。
【0081】
ここで、照射工程における光の照射により燐光を発する繊維の残光輝度は、D65光源を用いて1000luxで30分照射したのち、消灯10分後でも10mcd/m2を超える。
【0082】
次に、検出工程では、照射工程における光の照射により繊維シート40から発せられた燐光を検知装置64で検知することにより、構造物90に発生した亀裂を検出する。検知装置64の燐光の検知範囲64Aは、
図4に示されるように、照射工程における光の照射が終了した範囲(具体的には照射範囲62Aに対する進行方向(矢印X方向)とは反対側の範囲)を含んでいる。具体的には、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aに対して進行方向(矢印X方向)の反対側へずれている。さらに具体的には、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aから進行方向(矢印X方向)の反対側へ離間している。さらに言えば、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aから進行方向(矢印X方向)の反対側へ0.1m以上離間している。さらに言えば、検知範囲64Aと照射範囲62Aとの離間距離は、0.1m以上であって、励起光の照射後60秒以内に検出可能な範囲内の離間距離であることが望ましい。なお、
図4では、繊維シート40における燐光が符号40Aで示されている。
【0083】
なお、亀裂の発生とは、亀裂が生じていない状態から亀裂が生じる場合と、既に生じた亀裂の開口が進展する場合と、を含む概念である。したがって、構造物90に発生した亀裂とは、亀裂が生じていない状態の構造物90に生じた亀裂と、既に生じた亀裂の開口が進展することで生じた亀裂と、を含む概念であって、「ひび割れ損傷」と考えても良い。また、亀裂のモードとしては、面方向に開口を生じる場合だけでなく、せん断方向に段差を生じる場合も含む。
【0084】
本亀裂検出方法では、以上のように、検出工程において、繊維シート40から発せられた燐光を検知することで、構造物90に発生した亀裂を検出する。なお、本亀裂検出方法では、照射装置62(照射範囲62A)及び検知装置64(検知範囲64A)を構造物90の周方向へ走査しながら、車両60を進行方向へ進行させる方法を用いてよい。また、車両60をトンネル延長方向に進行させる毎に、照射範囲62A及び検知範囲64Aの位置を構造物90の周方向へ替えて、車両60を複数回往復させる方法を用いてもよい。
【0085】
(本実施形態の作用効果)
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0086】
本実施形態に係る亀裂検出方法は、照射工程における光の照射により繊維シート40から発せられた燐光を検知することにより、構造物90に発生した亀裂を検出する。
【0087】
ここで、繊維シート40から発せられた蛍光を検知することにより、構造物90に発生した亀裂を検出する場合(以下、比較例Aという)では、繊維シート40は、光が照射されている期間のみ発光するため、当該期間に発光を検知できなかった場合では、亀裂を検出することができない。
【0088】
また、比較例Aでは、繊維シート40は、光が照射されている期間のみ発光するため、繊維シート40の発光と、構造物90の表面からの反射光とが重なる範囲において、繊維シート40の発光する必要があるため、繊維シート40の発光が検知しにくい。特に、検知箇所に対して離れた場所から目視により検知する場合では、繊維シート40の発光が検知しにくく、構造物90の亀裂の検出不良が生じる場合がある。
【0089】
これに対して、本実施形態に係る亀裂検出方法では、照射工程において、繊維シート40から発せられた燐光を検知することにより、構造物90に発生した亀裂を検出するので、繊維シート40は、光の照射が終了した後も発光する。このため、光が照射されている期間に発光を検知できなかった場合でも、光の照射が終了した後に、発光を検知することで、亀裂を検出することができる。
【0090】
また、本実施形態に係る亀裂検出方法では、繊維シート40は、光の照射が終了した後も発光するため、繊維シート40の発光と、構造物90の表面からの反射光とが重なる範囲において、繊維シート40の発光を検知する必要がない。
【0091】
したがって、本実施形態に係る亀裂検出方法のように、検知装置64による燐光の検知範囲64Aが、照射工程における光の照射が終了した範囲を含んでいてもよい(
図4参照)。終了範囲では、光の照射による構造物90の表面からの反射光が生じないため、構造物90の表面からの反射光が、検知範囲64Aに入射されにくく、繊維シート40からの燐光が検知しやすい。この結果、構造物90の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0092】
また、本実施形態に係る亀裂検出方法では、
図4に示されるように、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aに対してずれている。このため、検知装置64の検知範囲64Aが照射装置62の照射範囲62Aと一致する場合に比べ、照射装置62の照射範囲62Aで生じる構造物90の表面からの反射光が、検知範囲64Aに入射されにくい。これにより、繊維シート40からの燐光が検知されやすく、構造物90の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0093】
また、本実施形態に係る亀裂検出方法では、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aから離間しているため、検知装置64の検知範囲64Aが照射装置62の照射範囲62Aと隣接する場合に比べ、照射装置62の照射範囲62Aで生じる構造物90の表面からの反射光が、検知範囲64Aに入射されにくい。これにより、繊維シート40からの燐光が検知されやすく、構造物90の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0094】
また、本実施形態に係る亀裂検出方法では、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aから0.1m以上離間しているため、検知装置64の検知範囲64Aが照射装置62の照射範囲62Aから0.1m未満しか離間していない場合に比べ、照射装置62の照射範囲62Aで生じる構造物90の表面からの反射光が、検知範囲64Aに入射されにくい。これにより、繊維シート40からの燐光が検知されやすく、構造物90の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0095】
また、本実施形態に係る亀裂検出方法では、照射工程において、平行光を照射する。このため、照射工程において、拡散光を照射する場合に比べ、照射装置62の照射範囲62Aで生じる構造物90の表面からの反射光が、検知範囲64Aに入射されにくい。これにより、繊維シート40からの燐光が検知されやすく、構造物90の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0096】
また、照射工程において光が照射される補強構造10では、遮蔽層50が接着層70を兼ねるので、繊維シート40を遮蔽する効果が高い。したがって、検出工程において、不用意に繊維シート40が露出することによる誤検出を抑制できる。
【0097】
また、本実施形態に係る亀裂検出方法では、検出工程において用いられる検知装置64が、最低被写体照度が1lux以下であるデジタルカメラであるため、燐光の検知精度がよく、構造物90の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0098】
また、本実施形態に係る亀裂検出方法では、照射工程における光の照射により燐光を発する繊維の残光輝度が、D65光源を用いて1000luxで30分照射したのち、消灯10分後でも10mcd/m2を超えるため、当該残光輝度が、D65光源を1000luxで30分照射したのち、消灯10分後において10mcd/m2を以下となる場合に比べ、燐光の検知精度がよく、構造物90の亀裂の検出不良が抑制できる。
【0099】
(検知装置64の検知範囲64Aの変形例)
本実施形態では、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aから進行方向(矢印X方向)の反対側へ離間していたが、これに限られない。例えば、
図5に示されるように、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aに隣接していてもよい。
図5では、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aに対する進行方向(矢印X方向)の反対側で隣接している。
【0100】
また、
図6に示されるように、検知装置64の検知範囲64Aの一部が、照射装置62の照射範囲62Aの一部と重なっていてもよい。
図6では、検知装置64の検知範囲64Aが、照射装置62の照射範囲62Aに対して進行方向(矢印X方向)の反対側にずれると共に、検知装置64の検知範囲64Aにおける進行方向側の部分と、照射装置62の照射範囲62Aにおける進行方向(矢印X方向)の反対側の部分とが重なっている。
【0101】
(変形例に係る補強構造12)
本実施形態の亀裂検出方法に係る補強構造としては、補強構造12であってもよい。
図7は、変形例に係る補強構造12を示す断面図である。なお、第1実施形態と同一機能を有する部分については、同一符号を付して、適宜、説明を省略する。
【0102】
補強構造10では、繊維シート40が遮蔽層50により構造物90の表面に接着されていたが、補強構造12では、繊維シート40を接着する接着層と、遮蔽層とが別の層で形成される。すなわち、補強構造12は、繊維シート40を接着する接着機能と、繊維シート40を遮蔽する遮蔽機能とが、機能分離された構造である。
【0103】
第2実施形態の補強構造12は、具体的には、
図7に示されるように、プライマー20と、不陸修正材30と、繊維シート40と、接着層70と、遮蔽層50と、を備えている。
【0104】
接着層70は、繊維シート40を構造物90に接着する機能を有している。接着層70は、具体的には、接着樹脂が不陸修正材30の表面に塗布された後に硬化されることで形成される。接着層70には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、接着層70としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、アクリル樹脂といったエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができるが、無溶剤系の常温硬化型エポキシ樹脂が好ましく使用される。
【0105】
接着層70は、遮蔽材を含んでおらず、透明な層とされており、繊維シート40が発光作用を生じる光を透過可能となっている。
【0106】
補強構造12では、遮蔽層50は、具体的には、遮蔽樹脂が接着層70の表面に塗布された後に硬化されることで形成される。
【0107】
ここで、補強構造12では、繊維シート40、接着層70及び遮蔽層50に対し押し抜き荷重試験を行った場合に、繊維シート40よりも先に接着層70及び遮蔽層50が破断する。押し抜き荷重試験では、繊維シート40、接着層70及び遮蔽層50に対し、構造物90の表面に沿った方向(以下、面方向という)への引張力、及び該表面に対する法線方向にせん断力が作用する。したがって、補強構造12では、繊維シート40、接着層70及び遮蔽層50に対し、面方向への引張力、又は、構造物90の表面に対する法線方向にせん断力が作用した場合に、繊維シート40よりも先に接着層70及び遮蔽層50が破断する。
【0108】
このため、構造物90に亀裂が発生し、構造物90の表面が面方向に広がった場合に、又は、構造物90に亀裂が発生し、構造物90の表面にせん断方向へのずれが生じた場合に、
図6に示されるように、繊維シート40が破断していない状態において、接着層70及び遮蔽層50が破断する。したがって、補強構造12では、構造物90への亀裂の発生に伴って接着層70及び遮蔽層50が破断して当該破断部分から繊維シート40が露出する構成とされている。
【0109】
押し抜き荷重試験としては、例えば、土木工事標準仕様書(東日本旅客鉄道株式会社編)日本鉄道施設協会(2016年9月)の附属書17-2コンクリート表面被覆工法の試験方法に記載の「押し抜き荷重試験」が用いられる。
【0110】
さらに、補強構造12では、面方向における引張伸び(伸度)にて、繊維シート40と接着層70及び遮蔽層50とを比較した場合、接着層70及び遮蔽層50よりも繊維シート40のほうが、当該引張伸び(伸度)が大きい。具体的には、繊維シート40の伸び率は、例えば、20数%とされ、接着層70及び遮蔽層50の伸び率は、例えば、3%以下とされ、好ましくは、0.5%以上3%以下とされ、さらに好ましくは0.5%以上2.5%以下とされている(いずれも23℃での伸び率)。なお、当該伸び率は、破断伸び(すなわち、破断後の引張試験片の標点間の伸び量を標点距離で割り百分率で表した値)である。
【0111】
なお、接着層70と遮蔽層50との面方向における引張伸び(伸度)については、遮蔽層50の当該引張伸び(伸度)が接着層70と同等もしくはそれ以下となるようにする。もし、接着層70の方が、伸びが大きくなると遮蔽層50が破断しても接着層70が残ってしまうことにより励起光による発光繊維の発光が物理的に遮られ好ましくない。
【0112】
補強構造12も補強構造10同様に、遮蔽層50の表面に、遮蔽層50を保護する保護層を形成してもよい。保護層としては、遮蔽層50と同等の引張伸び(伸度)を有するアクリルウレタン樹脂や水系のアクリル樹脂、フッ素樹脂等の樹脂材料またはポリマーモルタル等が例示される。
【0113】
(変形例に係る補強構造13)
本実施形態の亀裂検出方法に係る補強構造としては、補強構造13であってもよい。
図8は、変形例に係る補強構造13を示す断面図である。なお、第1実施形態と同一機能を有する部分については、同一符号を付して、適宜、説明を省略する。
【0114】
補強構造13は、
図8に示されるように、繊維シート40と遮蔽層50とを有する補強部材15と、接着層17と、を備えている。
【0115】
遮蔽層50は、前述の遮蔽樹脂を繊維シート40に含侵させた後、その樹脂を硬化させることで形成される。補強部材15では、繊維シート40は、遮蔽層50の内部に配置されている。
【0116】
接着層17は、補強部材15を構造物90の表面に接着する機能を有しており、接着剤により構成された層である。接着層17は、具体的には、接着剤が、構造物90の表面及び補強部材15の接着面の少なくとも一方に塗布され、構造物90の表面と補強部材15の接着面とが接着された後に、硬化されることで形成される。
【0117】
接着剤の一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、接着剤としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、アクリル樹脂といったエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができるが、無溶剤系の常温硬化型エポキシ樹脂が好ましく使用される。
【0118】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。例えば、上記に示した変形例は、適宜、複数を組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0119】
10、12、13 補強構造
15 補強部材
17 接着層
20 プライマー
30 不陸修正材
40 繊維シート
50 遮蔽層
60 車両
62 照射装置
62A 照射範囲
63 ルーフ
64 検知装置
64A 検知範囲
70 接着層
90 構造物
92 覆工壁