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特開2023-92396補強部材、補強方法、補強構造、亀裂検出方法、及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092396
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】補強部材、補強方法、補強構造、亀裂検出方法、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20230626BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E01D22/00 B
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207614
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣暁
(72)【発明者】
【氏名】立石 晶洋
(72)【発明者】
【氏名】金塚 智洋
(72)【発明者】
【氏名】栗林 健一
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
【Fターム(参考)】
2D059GG02
2D059GG39
2D059GG40
2E176AA01
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】遮蔽層を破断させて光の照射による発光により構造物の亀裂を検出する構造において、構造物の亀裂の検出不良を抑制する。
【解決手段】補強部材は、構造物の表面への接着により使用される補強部材であって、光の照射により発光する繊維を含む繊維シートと、前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備え、前記補強部材に対し引張試験を行った場合に、前記繊維シートよりも先に前記遮蔽層が破断して当該破断部分から前記繊維シートが露出する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面への接着により使用される補強部材であって、
光の照射により発光する繊維を含む繊維シートと、
前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、
を備え、
前記補強部材に対し引張試験を行った場合に、前記繊維シートよりも先に前記遮蔽層が破断して当該破断部分から前記繊維シートが露出する補強部材。
【請求項2】
前記補強部材に対し引張試験を行った場合に、引張ひずみが2%以下で前記遮蔽層が破断し、前記繊維シートが露出する請求項1に記載の補強部材。
【請求項3】
構造物の表面への接着により使用される補強部材であって、
光の照射により発光する繊維を含む繊維シートと、
前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、
を備え、
前記補強部材の前記表面への接着状態において、前記構造物への亀裂の発生に伴って前記遮蔽層が破断して当該破断部分から前記繊維シートが露出する
補強部材。
【請求項4】
前記表面への接着は、前記表面へ直接、又は前記表面に配置された配置部へのいずれに対しても可能である
請求項1~3のいずれか1項に記載の補強部材。
【請求項5】
前記繊維シートは、前記遮蔽層の内部に配置されている
請求項1~4のいずれか1項に記載の補強部材。
【請求項6】
前記遮蔽層が前記表面に接着される
請求項5に記載の補強部材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の補強部材を、構造物の表面へ接着剤で接着する補強方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の補強部材が、構造物の表面へ接着剤で接着された補強構造。
【請求項9】
請求項8に記載の補強構造に対し光を照射して繊維シートの発光を検知することにより構造物に発生した亀裂を検出する亀裂検出方法。
【請求項10】
光の照射により発光する繊維を含む繊維シートに、光を遮蔽するための遮蔽材が配合された樹脂を用いて前記繊維シートが完全に埋没するように含浸したのち、当該樹脂を硬化する
請求項1~3のいずれか1項に記載の補強部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強部材、補強方法、補強構造、亀裂検出方法、及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高伸展性の下側層と、低伸展性の上側層とを用いて構造物の亀裂を検出する構造物の亀裂検出用接着シートであって、前記下側層を、励起光によって発光する蛍光色素が混入された高伸展性の樹脂シートからなるものとして、この樹脂シートの下面に粘着層を形成したうえに、前記下側層の上に、遮光材が混入された上側層を樹脂の塗布により形成したことを特徴とする構造物の亀裂検出用接着シートが開示されている。
【0003】
特許文献2には、基材フィルムと、この基材フィルムの一方の面側に積層される粘着層と、この粘着層の一方の面に剥離可能に積層される第1離型シートと、この基材フィルムの他方の面側に剥離可能に積層される第2離型シートとを備え、上記基材フィルムが、励起光によって発光する発光剤及び/又は蓄光剤を含有する第1層と、この第1層の他方の面側に積層され上記励起光及び/又は第1層から発光する光を遮蔽する遮蔽剤を含有する第2層と、を有し、上記第1層の破断伸び率が50%以上300%以下であり、上記第2層の破断伸び率が10%以下である亀裂検出用多層シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-52026号公報
【特許文献2】特開2017-096898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造物の表面への接着により使用される補強部材であって、光の照射により発光する発光層と、発光層の表面に配置され発光層へ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備え、構造物への亀裂の発生に伴って遮蔽層のみが破断するように、遮蔽層の伸度を発光層の伸度よりも小さくした補強部材では、以下の作用を有する。すなわち、補強部材では、構造物の表面への接着状態において構造物に亀裂が発生したときに、発光層が伸びて遮蔽層のみが破断した場合に、光を遮蔽層に向かって照射すると、光が遮蔽層の破断部分を通過して発光層が発光し、構造物に発生した亀裂を検出できる。
【0006】
しかしながら、上記補強部材では、構造物への亀裂の発生に伴って遮蔽層のみが破断するように、遮蔽層及び発光層の伸度を設定することが難しく、構造物に亀裂が発生した場合に、遮蔽層及び発光層の両方が破断すると、構造物の亀裂を検出できなくなる。
【0007】
また、破断伸びが高伸度の発光層は、直接構造物に接着される場合において構造物のひずみを遮蔽層に伝達できるかもしれないが、接着剤を介して貼り付けた場合では、構造物のひずみを遮蔽層まで伝達しにくく、構造物の亀裂検知不良の原因となる。
【0008】
本発明は、光の照射による発光により構造物の亀裂を検出する場合において、構造物の亀裂の検出不良を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様の補強部材は、構造物の表面への接着により使用される補強部材であって、光の照射により発光する繊維を含む繊維シートと、前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備え、前記補強部材に対し引張試験を行った場合に、前記繊維シートよりも先に前記遮蔽層が破断して当該破断部分から前記繊維シートが露出する。
【0010】
第1態様の補強部材によれば、構造物の表面への接着により使用することで、構造物を補強できる。
【0011】
ここで、第1態様の補強部材では、補強部材に対し引張試験を行った場合に、繊維シートよりも先に遮蔽層が破断して当該破断部分から繊維シートが露出する。引張試験では、繊維シート及び遮蔽層に対し、繊維シートの厚み方向に対して直交する方向(以下、直交方向という)への引張力が作用する。したがって、第1態様の補強部材では、繊維シート及び遮蔽層に対し、直交方向への引張力が作用した場合に、繊維シートよりも先に遮蔽層が破断して当該破断部分から繊維シートが露出する。
【0012】
このため、補強部材の構造物の表面への接着状態において、構造物に亀裂が発生して構造物の表面が面方向に広がったり、構造物の表面にせん断方向へのずれが生じたりした場合に、補強部材が直交方向に引っ張られると、繊維シートよりも先に遮蔽層が破断して当該破断部分から繊維シートが露出する。これにより、光を遮蔽層に向かって照射すると、露出した繊維シートが発光し、構造物に発生した亀裂を検出できる。
【0013】
そして、第1態様の補強部材では、光の照射により発光する発光体が繊維シートであるため、構造物の表面が表面に沿った方向に広がった場合、又は、構造物の表面にせん断方向へのずれが生じた場合でも、発光体が破断しにくい構造とすることが可能となり、構造物の亀裂の検出不良を抑制できる。
【0014】
第2態様の補強部材は、前記補強部材に対し引張試験を行った場合に、引張ひずみが2%以下で前記遮蔽層が破断し、前記繊維シートが露出する。
【0015】
このため、引張試験において引張ひずみが2%を超える場合に遮蔽層が破断する構成に比べ、遮蔽層が破断しやすく、補強部材の構造物の表面への接着状態において、構造物に発生した亀裂が小さくても、亀裂を検出できる。
【0016】
第3態様の補強部材は、構造物の表面への接着により使用される補強部材であって、光の照射により発光する繊維を含む繊維シートと、前記繊維シートへ照射される光を遮蔽する遮蔽層と、を備え、前記補強部材の前記表面への接着状態において、前記構造物への亀裂の発生に伴って前記遮蔽層が破断して当該破断部分から前記繊維シートが露出する。
【0017】
第3態様の補強部材によれば、構造物の表面への接着により使用することで、構造物を補強できる。
【0018】
ここで、第3態様の補強部材では、補強部材の構造物の表面への接着状態において、構造物への亀裂の発生に伴って遮蔽層が破断して当該破断部分から前記繊維シートが露出する。これにより、光を遮蔽層に向かって照射すると、露出した繊維シートが発光し、構造物に発生した亀裂を検出できる。
【0019】
そして、第3態様の補強部材では、光の照射により発光する発光体が繊維シートであるため、構造物に亀裂が発生した場合でも、発光体が破断しにくい構造とすることが可能となり、構造物の亀裂の検出不良を抑制できる。
【0020】
第4態様の補強部材は、前記表面への接着は、前記表面へ直接、又は前記表面に配置された配置部へのいずれに対しても可能である。
【0021】
このため、補強部材の構造物の表面への接着が、当該表面へ直接行われる場合のみ可能である場合に比べ、補強部材の接着対象の自由度が高くなる。
【0022】
第5態様の補強部材では、前記繊維シートは、前記遮蔽層の内部に配置されている。
【0023】
このため、遮蔽層が、繊維シートに対しその厚み方向の一方側及び他方側から照射される光を遮蔽することが可能となる。これにより、繊維シートの厚み方向の一方側及び他方側のいずれの面を構造物の表面に向けて補強部材を構造物の表面に接着しても、構造物に発生した亀裂を検出できる。
【0024】
第6態様の補強部材では、前記遮蔽層が前記表面に接着される。
【0025】
第6態様の補強部材によれば、遮蔽層が構造物の表面に接着されるので、遮蔽層とは別に、構造物の表面に接着される接着部分を設ける必要がなくなる。したがって、遮蔽層を形成するための材料とは別に、接着部分を形成するための材料が不要となる。
【0026】
第7態様の補強方法は、第1態様~第6態様のいずれか1つの補強部材を、構造物の表面へ接着剤で接着する。
【0027】
このため、第7態様の補強方法により構造物の表面へ接着した補強部材の遮蔽層が、構造物への亀裂の発生に伴って破断して当該破断部分から繊維シートを露出させることが可能となる。これにより、光を遮蔽層に向かって照射すると、露出した繊維シートが発光し、構造物に発生した亀裂を検出できる。
【0028】
そして、第7態様の補強方法に用いられる補強部材では、光の照射により発光する発光体が繊維シートであるため、構造物に亀裂が発生した場合でも、発光体が破断しにくい構造とすることが可能となり、構造物の亀裂の検出不良を抑制できる。
【0029】
第8態様の補強構造は、第1態様~第6態様のいずれか1つの補強部材が、構造物の表面へ接着剤で接着されている。
【0030】
このため、構造物の表面へ接着された補強部材の遮蔽層が、構造物への亀裂の発生に伴って破断して当該破断部分から繊維シートを露出させることが可能となる。これにより、光を遮蔽層に向かって照射すると、露出した繊維シートが発光し、構造物に発生した亀裂を検出できる。
【0031】
そして、第8態様の補強構造に用いられる補強部材では、光の照射により発光する発光体が繊維シートであるため、構造物に亀裂が発生した場合でも、発光体が破断しにくい構造とすることが可能となり、構造物の亀裂の検出不良を抑制できる。
【0032】
第9態様の亀裂検出方法は、第8態様の補強構造に対し光を照射して繊維シートの発光を検知することにより構造物に発生した亀裂を検出する。
【0033】
第9態様の亀裂検出方法に用いられる第8態様の補強構造は、光の照射により発光する発光体が繊維シートであるため、構造物に亀裂が発生した場合でも、発光体が破断しにくい構造とすることが可能となる。したがって、第9態様の亀裂検出方法によれば、構造物の亀裂の検出不良を抑制できる。
【0034】
第10態様の製造方法は、光の照射により発光する繊維を含む繊維シートに、光を遮蔽するための遮蔽材が配合された樹脂を用いて前記繊維シートが完全に埋没するように含浸したのち、硬化する、第1態様~第3態様のいずれか1つの補強部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、上記構成としたので、光の照射による発光により構造物の亀裂を検出する場合において、構造物の亀裂の検出不良を抑制できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】第1実施形態に係る補強部材を示す断面図である。
図2】第1実施形態に係る補強部材を用いた補強構造を示す断面図である。
図3】第1実施形態に係る補強部材を用いた補強構造において、遮蔽層が破断した状態を示す断面図である。
図4】比較例に係る補強構造の施工方法を説明するための断面図である。
図5】比較例に係る補強部材を示す断面図である。
図6】比較例に係る補強部材を用いた補強構造において、遮蔽層及び発光層が破断した状態を示す断面図である。
図7】第2実施形態に係る補強部材を示す断面図である。
図8】第2実施形態に係る補強部材を用いた補強構造において、遮蔽層及び発光層が破断した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0038】
〈第1実施形態〉
(補強部材10)
まず、本実施形態に係る補強部材10について説明する。図1は、本実施形態に係る補強部材10を示す断面図である。
【0039】
図1に示される補強部材10は、構造物90を補強する部材であり、構造物90の表面への接着により使用される。この補強部材10は、構造物90の表面へ接着されることで構造物90の剥落等を抑制する。補強対象である構造物90としては、例えば、コンクリート構造物などが挙げられる。コンクリート構造物としては、例えば、鉄道や道路のトンネルの覆工壁などが挙げられる。
【0040】
なお、コンクリート構造物としては、鉄道や道路のトンネルの覆工壁に限られず、例えば、建物、橋梁や橋脚などであってもよく、補強対象となる構造物であればよい。また、構造物90としては、コンクリート構造物に限られず、例えば、モルタル、セラミックス、金属、及びガラス等の構造物であってもよく、補強対象となる構造物であればよい。
【0041】
補強部材10は、具体的には、図1に示されるように、繊維シート40と、遮蔽層50と、を備えている。
【0042】
繊維シート40は、光(例えば紫外線を含む励起光)の照射により発光する繊維(以下、発光繊維という場合がある)を含むシートである。この繊維シート40は、当該繊維により、構造物90の表面を補強する補強機能を有している。
【0043】
発光繊維としては、光の照射により発光する発光材料を含む熱可塑性樹脂が用いられる。発光繊維に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンをはじめとするポリオレフィン、ビニロン等の樹脂を用いることができる。発光繊維に用いられる樹脂としては、上記のものに限られず、他の樹脂を用いてもよい。さらに、発光繊維としては、炭素繊維やガラス繊維との複合繊維を用いてもよい。
【0044】
発光繊維に用いられる発光材料としては、一例として、照射された光を蓄えて光照射が停止しても発光する蓄光材が用いられる。蓄光材としては、アルミン酸ストロンチウムなどを用いた蓄光顔料が挙げられる。なお、発光材料としては、光照射により発光し、光照射が停止すると発光も停止する蛍光材であってもよく、光照射により発光する材料であれば、希土類を賦活した金属酸化物などの無機系の蛍光材や、蛍光色素、蛍光増白剤のような有機系の蛍光材であってもよい。
【0045】
発光繊維は、発光材料を含む熱可塑性樹脂を紡糸することで、糸状の発光繊維として形成される。紡糸の方法としては、例えば、溶融紡糸、乾式紡糸及び湿式紡糸などの方法がある。
【0046】
溶融紡糸では、原料を熱で溶かした状態で、口金から押し出して繊維状にした後、冷やして固める。乾式紡糸では、原料を熱で気化する溶剤に溶かした状態で、熱雰囲気中で口金から押し出して溶剤を蒸発させて繊維状にする。湿式紡糸では、原料を溶剤に溶かした状態で、凝固浴と呼ばれる溶液中で口金から押し出して化学反応させたのち、溶剤を除去して繊維状にする。
【0047】
発光繊維としては、紡糸された発光繊維を束ねたり、撚ったりしたものを用いてもよい。さらに、発光繊維としては、紡糸された繊維(発光材料を含まない繊維)に対して、発光材料を含む薬品で表面処理がなされた発光繊維であってもよい。
【0048】
繊維シート40には、短繊維を用いた不織布も使用することができるが、強度や検出性能などの観点から連続繊維を用いた連続繊維シートであることが好ましい。具体的には、繊維シート40としては、発光繊維から形成されたUD(Uni Direction)材(すなわち、繊維が一方向に並んだ一方向材)、織物、及び編物などが用いられる。織物としては、例えば、平織り、綾織り、朱子織などの方法で織られたものが挙げられる。編物としては、例えば、平編、ゴム編、パール編等の緯編により編成された編地や、デンビ編、コード編、アトラス編等の経編により編成された編地(トリコット等)が挙げられる。
【0049】
繊維シート40は、発光繊維を含んでいればよく、全体が発光繊維で形成されている必要はない。すなわち、繊維シート40は、発光しない非発光繊維を含んでいてもよい。例えば、経糸及び緯糸の一方を発光繊維とし、経糸及び緯糸の他方を非発光繊維とした織物を用いることができる。繊維シート40としては、例えば、発光繊維が5[vol%]以上含有されていればよい。
【0050】
さらに、繊維シート40としては、複数枚の繊維シート40を重ねて用いてもよい。複数枚のUD材を重ねる場合では、例えば、各シートの繊維の方向が直交するように重ねて用いられる。これにより、繊維が直交方向に並び、直交方向に引張強度が高まり、繊維シート40による補強効果が向上する。また、非発光繊維からなるUD材と発光繊維を含むUD材を重ねて使用することもできる。なお、繊維シート40として、織物及び編物などを用いた場合でも、複数枚の繊維シート40を重ねて用いても構わない。
【0051】
繊維シート40に対して発光作用を生じさせる光の一例としては、紫外線等の励起光が用いられる。なお、当該光の一例としては、紫外線に限られず、例えば、青色光(青色系可視光)などであってもよく、種々の光を用いることができる。
【0052】
遮蔽層50は、繊維シート40へ照射される光を遮蔽する機能を有している。具体的には、遮蔽層50は、光を遮蔽する遮蔽材を含んでいる。本実施形態では、遮蔽層50は、遮蔽材を含む樹脂(以下、遮蔽樹脂という)を繊維シート40に含侵させた後、その樹脂を硬化させることで形成される。
【0053】
補強部材10では、繊維シート40は、遮蔽層50の内部に配置されている。換言すれば、遮蔽層50が、繊維シート40に対するその厚み方向(矢印Y方向)の一方側及び他方側に配置され、繊維シート40をその厚み方向の一方側及び他方側の両側で覆っている。
【0054】
また、補強部材10では、遮蔽層50が構造物90の表面へ接着される。すなわち、補強部材10では、遮蔽層50の厚み方向の一方側または他方側の面が、構造物90に対して接着される接着面とされる。
【0055】
遮蔽層50には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、遮蔽層50としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、不飽和ポリエステル樹脂やアクリル樹脂といったエポキシ樹脂以外の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0056】
遮蔽材としては、繊維シート40が発光作用を生じる光(例えば紫外線)を物理的もしくは化学的に遮蔽できるものであればよく、無機フィラーや吸収剤が用いられる。
【0057】
遮蔽材としての無機フィラーは、繊維シート40が発光作用を生じる光を物理的に遮ることができるのであれば特に材質や形状は限定されないが、カーボンブラックや酸化チタンが好ましく使用される。
【0058】
遮蔽材としての吸収剤は、繊維シート40が発光作用を生じる光を化学的に吸収することができるものであり、繊維シート40が発光作用を生じる光が紫外線である場合には、遮蔽材として、紫外線を吸収する紫外線吸収材を用いる。なお、紫外線吸収材としては、紫外線以外の波長の光を吸収してもよい。さらに遮蔽材は、上記の無機フィラーと吸収剤を併用してもよい。
【0059】
ここで、補強部材10に対し引張試験を行った場合に、補強部材10は、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する。すなわち、補強部材10に対し引張試験を行った場合に、遮蔽層50による遮蔽が解消され、繊維シート40が、光を受けることが可能な状態になる。
【0060】
引張試験では、繊維シート40及び遮蔽層50に対し、繊維シート40の厚み方向に対して直交する方向(以下、直交方向という)への引張力が作用する。したがって、補強部材10では、繊維シート40及び遮蔽層50に対し、直交方向への引張力が作用した場合に、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する。
【0061】
このため、補強部材10の構造物90の表面への接着状態において、構造物90に亀裂が発生して構造物90の表面が面方向に広がったり、構造物90の表面にせん断方向へのずれが生じたりした場合に、補強部材10が直交方向に引っ張られると、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する(図3参照)。したがって、補強部材10は、構造物90の表面への接着状態において、構造物90への亀裂の発生に伴って遮蔽層50が破断して当該破断部分から繊維シート40が露出する構成とされている。
【0062】
なお、引張試験としては、例えば、JIS K7164:2005プラスチック-引張特性の試験方法に準拠した方法が用いられる。
【0063】
本実施形態では、補強部材10に対し引張試験を行った場合に、引張ひずみが2%以下で遮蔽層50が破断し、繊維シート40が露出する。引張試験において引張ひずみが2%を超える場合に遮蔽層50が破断する構成では、構造物90に発生する亀裂が小さい場合に、遮蔽層50が破断しないおそれがあるためである。
【0064】
なお、補強部材10に対し引張試験を行った場合に、引張ひずみが0.3%以上で且つ2%以下で遮蔽層50が破断し、繊維シート40が露出することが好ましい。引張試験において引張ひずみが0.3%未満である場合に遮蔽層50が破断する構成では、補強部材の持ち運びや取り付け時などにおける些細な外力で遮蔽層が破断する恐れがあり、誤検知の原因ともなるので適さない。
【0065】
さらに、補強部材10では、直交方向における引張伸び(伸度)にて、繊維シート40と遮蔽層50とを比較した場合、遮蔽層50よりも繊維シート40のほうが、当該引張伸び(伸度)が大きい。具体的には、繊維シート40の伸び率は、例えば、20数%とされ、遮蔽層50の伸び率は、例えば、3%以下とされ、好ましくは、0.5%以上3%以下とされ、さらに好ましくは0.5%以上2.5%以下とされている。当該伸び率は、いずれも23℃での伸び率である。なお、当該伸び率は、破断伸び(すなわち、破断後の引張試験片の標点間の伸び量を標点距離で割り百分率で表した値)である。
【0066】
補強部材10では、後述するように、構造物90の表面への接着は、当該表面へ直接、又は当該表面に配置された配置部へのいずれに対しても可能である。
【0067】
補強部材10は、繊維シート40に遮蔽層50となる樹脂組成物を含浸し、当該樹脂組成物を硬化することにより製造される。当該樹脂組成物は、遮蔽材が配合された樹脂の一例である。
【0068】
繊維シート40への遮蔽層50となる樹脂組成物の含浸は、ワニス化した樹脂組成物を含浸させるウェット法と、樹脂組成物を加熱により低粘度化して含浸させるホットメルト法(ドライ法)など公知の方法が知られている。なお、ホットメルト法には、加熱により低粘度化した樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法と、一旦樹脂組成物を離型紙等の上にコーティングしてフィルムを作製しておき、次いでこのフィルムを強化繊維の集合体の両面又は片面に重ね、加熱加圧することにより強化繊維にエポキシ樹脂を含浸させる方法がある。
【0069】
繊維シート40への遮蔽層50となる樹脂組成物の含浸は、繊維シート40が樹脂組成物中に完全に埋没している状態とする。繊維シート40の一部が露出している状態であると検査の際に発光してしまい誤認の原因となる。なお、樹脂組成物の繊維シート40への含浸量については繊維シート40が露出しなければ特に制限はないが、目安として樹脂含有率で20wt%以下が好ましい。
【0070】
樹脂組成物が含浸された繊維シート40は、熱プレス機を用いて樹脂組成物を繊維シート40に完全に含浸させるとともに熱硬化を行って遮蔽層50とする。熱プレス機は熱板式でもロール式、ベルトプレス式のいずれであってもよい。また、ベルトプレス式の熱プレス機を使用して繊維シート40への樹脂組成物含浸と遮蔽層50への硬化を一貫して行うこともできる。
【0071】
(補強部材10を用いた補強方法及び補強構造12)
次に、補強部材10を用いた補強方法及び補強構造12について説明する。図2は、本実施形態に係る補強部材10を用いた補強構造12を示す断面図である。図3は、本実施形態に係る補強構造12において、遮蔽層50が破断した状態を示す断面図である。
【0072】
本補強方法は、補強部材10を用いて構造物90を補強する方法であり、補強部材10を構造物90の表面へ接着する方法である。具体的には、本補強方法は、準備工程と、接着工程と、を有している。準備工程は、前述の補強部材10を準備する工程である。
【0073】
接着工程は、準備工程にて準備した補強部材10を、構造物90の表面へ接着剤で接着する工程である。接着工程では、接着剤を、構造物90の表面及び補強部材10の接着面の少なくとも一方に塗布し、構造物90の表面と補強部材10の接着面とを接着する。
【0074】
接着剤は、弾性率が低いと駆体の損傷を補強部材へ伝達しにくくなるため、23℃の圧縮弾性率が1000N/mm以上、好ましくは5000N/mm以上である。
【0075】
接着剤の一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、接着剤としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、アクリル樹脂といったエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができるが、無溶剤系の常温硬化型エポキシ樹脂が好ましく使用される。なお、接着工程において、塗布された接着剤は硬化して、接着層70が形成される。
【0076】
接着工程では、補強部材10を構造物90の表面に対して、直接、接着する場合に限られず、補強部材10を構造物90の表面に対して間接的に接着してもよい。具体的には、接着工程において、構造物90の表面に配置された配置部に対して、補強部材10を接着してもよい。
【0077】
配置部としては、保護部材(保護層)、及び構造物90の直表面などが挙げられる。保護部材は、構造物90の表面を保護する部材であり、例えば、コンクリート片の剥落防止部材が例示される。保護部材は、合成樹脂や金属、CFRPやGFRPなどの繊維強化樹脂材料、セメントモルタル等により形成されており、塗膜やパネル、シート、グリッド、メッシュ等の形態をとり、構造物90の表面に接着またはボルトやアンカーなどにより接合されている。
【0078】
不陸修正層は、構造物90の表面の凹凸を平滑化する不陸修正材を塗布することで形成される。不陸修正材には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、不陸修正材としては、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0079】
このように、本実施形態において「構造物90の表面に接着する」という概念には、構造物90の表面に対して直接接着する場合だけでなく、構造物90の表面に対して間接的に接着する場合が含まれる。なお、構造物の表面の一例を、配置部の表面と把握してもよい。
【0080】
補強方法では、構造物90の表面へ接着された補強部材10の表面(構造物90とは反対側の面)に、補強部材10(具体的には、遮蔽層50)を保護する保護層を形成してもよい。保護層は、補強部材10を紫外線や排ガスなどによる劣化から保護するために形成される。保護層としては、一例として、遮蔽層50と同等の引張伸び(伸度)を有するアクリルウレタン樹脂や水系のアクリル樹脂、フッ素樹脂等の樹脂材料またはポリマーモルタル等で構成される。
【0081】
上記補強方法を実行することにより、補強構造12が形作られる。補強構造12は、図2に示されるように、構造物90を補強する構造であり、前述の補強部材10と、接着層70と、を備えている。
【0082】
接着層70は、補強部材10を構造物90の表面に接着する機能を有しており、前述の接着剤により構成された層である。接着層70は、具体的には、接着剤が、構造物90の表面及び補強部材10の接着面の少なくとも一方に塗布され、構造物90の表面と補強部材10の接着面とが接着された後に、硬化されることで形成される。
【0083】
以上のように、上記補強方法により補強構造12が形作られるので、本補強方法は、補強構造12を製造する製造方法ともいえる。
【0084】
(構造物90の亀裂検出方法)
次に、補強構造12において、構造物90に発生した亀裂を検出する亀裂検出方法について説明する。
【0085】
本亀裂検出方法では、まず、光(例えば紫外線)を遮蔽層50に対して照射する。ここで、補強構造12では、前述のように、繊維シート40及び遮蔽層50に対し引張試験を行った場合に、補強部材10は、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する。
【0086】
すなわち、補強部材10では、繊維シート40及び遮蔽層50に対し、直交方向への引張力が作用した場合に、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する。
【0087】
このため、補強部材10の構造物90の表面への接着状態において、構造物90に亀裂が発生して構造物90の表面が面方向に広がったり、構造物90の表面にせん断方向へのずれが生じたりした場合に、補強部材10が直交方向に引っ張られると、図3に示されるように、繊維シート40よりも先に遮蔽層50が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する。
【0088】
すなわち、補強部材10は、構造物90の表面への接着状態において、構造物90への亀裂の発生に伴って遮蔽層50が破断して当該破断部分から繊維シート40が露出する構成とされている。これにより、光を遮蔽層50に向かって照射すると、露出した繊維シート40が発光する。なお、図3では、遮蔽層50へ向けて照射された光が符号L1にて示され、繊維シート40の発光による光が符号L2にて示されている。
【0089】
次に、繊維シート40の発光を検知し、構造物90に発生した亀裂を検出する。発光の検知は、目視によって行ってもよいし、撮影カメラを用いて行ってもよい。
【0090】
なお、亀裂の発生とは、亀裂が生じていない状態から亀裂が生じる場合と、既に生じた亀裂の開口が進展する場合と、を含む概念である。したがって、構造物90に発生した亀裂とは、亀裂が生じていない状態の構造物90に生じた亀裂と、既に生じた亀裂の開口が進展することで生じた亀裂と、を含む概念であって、「ひび割れ損傷」と考えても良い。また、亀裂のモードとしては、面方向に開口を生じる場合だけでなく、せん断方向に段差を生じる場合も含む。
【0091】
本実施形態では、以上のように、繊維シート40の発光を検知することで、構造物90に発生した亀裂を検出する。
【0092】
(本実施形態の作用効果)
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
補強部材10は、構造物90の表面への接着により使用される補強部材であって、繊維シート40と、遮蔽層50と、を備えている。
【0093】
ここで、補強部材10を使用せずに、補強対象である構造物90に対して、補強構造を現場で形成する場合では、例えば、以下のような施工方法により施工される。
【0094】
本施工方法では、まず、図4に示されるように、構造物90の表面の突起物や該表面に付着した付着物(例えば、劣化層など)を除去する下地処理を行った後、プライマー80を塗布する。次に、プライマー80が塗布された表面に対して、不陸修正材30を塗布し、当該表面の凹凸を平滑化する。
【0095】
次に、不陸修正材30が塗布された表面に対して、繊維シート40を遮蔽樹脂により接着する。具体的には、遮蔽樹脂を下塗りし、下塗りした遮蔽樹脂に繊維シート40を貼り付け、脱泡する。その後、遮蔽樹脂を上塗りし、脱泡する。このように、補強部材10を使用せずに補強構造を形成する場合では、施工工程の工程数が多く、施工期間が長期化する場合がある。また、施工面積が狭い場合においても、前述の施工工程を実行する必要が有り、作業がしにくい場合がある。
【0096】
これに対して、本実施形態では、補強部材10は、構造物90の表面への接着により使用される補強部材であって、繊維シート40と、遮蔽層50と、を備えているため、補強部材10を構造物90の表面に接着する接着工程を実施すればよく、遮蔽樹脂を塗布する工程や含浸する工程が不要となる。このため、本実施形態によれば、補強部材10を使用せずに補強構造を形成する場合に比べ、施工工程数を低減でき、施工期間も短くできる。また、施工面積が狭い場合でも、補強部材10を所定のサイズに切断して、接着すればよいので、施工作業が簡素化できる。
【0097】
さらに、本実施形態の作用効果を、図5に示される比較例に係る補強部材100と比較しつつ説明する。
【0098】
図5に示される補強部材100は、構造物90の表面への接着により使用される補強部材であって、光の照射により発光する発光層170と、発光層の表面に配置され発光層へ照射される光を遮蔽する遮蔽層150と、を備え、構造物90への亀裂の発生に伴って遮蔽層150のみが破断するように、遮蔽層150の伸度を発光層170の伸度よりも小さくした部材である。発光層170は、例えば、発光材が分散された樹脂フィルムや、発光材が分散された樹脂材料を塗工することで形成した樹脂層などで構成される。
【0099】
図5に示される補強部材100では、構造物90の表面への接着状態において構造物90に亀裂が発生したときに、発光層170が面方向へ伸びて、遮蔽層150のみが破断した場合において、光を遮蔽層150に向かって照射すると、光が遮蔽層150の破断部分を通過して発光層170が発光し、構造物90に発生した亀裂を検出できる。
【0100】
しかしながら、図5に示される補強部材100では、構造物90への亀裂の発生に伴って遮蔽層150のみが破断するように、遮蔽層150及び発光層170の伸度を設定することが難しく、構造物90に亀裂が発生した場合に、図6に示されるように、遮蔽層150及び発光層170の両方が破断すると、光を照射しても発光層170が発光せず、構造物90の亀裂を検出できなくなる。また、発光層170に炭素繊維やガラス繊維といった強化繊維を配置する考えもあるが、遮蔽層150が破断するまでのひずみが生じにくくなるので亀裂の検出感度を低下させてしまう場合がある。
【0101】
これに対して、本実施形態に係る補強部材10では、光の照射により発光する発光体が繊維シート40であるため、図5に示される補強部材100に比べ、構造物90の表面が、表面に沿った方向に広がった場合だけでなく、段差を生じるように損傷した場合でも、発光体が破断しにくい構造とすることが可能となり、構造物90の亀裂の検出不良を抑制できる。この結果、補強部材10を用いた補強方法及び補強構造12においても、構造物90の亀裂の検出不良を抑制できる。
【0102】
また、補強部材10では、遮蔽層50において、繊維シート40を構造物90に対して接着する部分(以下、接着部分)を含む全体が、繊維シート40よりも先に破断可能であるため、施工面に凹凸があるような場合であっても繊維シート40が露出されやすく、光照射を受けたときの発光量が多くなる。この点からも、構造物90の亀裂の検出不良を抑制できる。
【0103】
また、本実施形態では、補強部材10に対し引張試験を行った場合に、引張ひずみが2%以下で遮蔽層50が破断し、繊維シート40が露出する。
【0104】
このため、引張試験において引張ひずみが2%を超える場合に遮蔽層50が破断する構成に比べ、遮蔽層50が破断しやすく、補強部材10の構造物90の表面への接着状態において、構造物90に発生した亀裂が小さくても、亀裂を検出できる。
【0105】
また、補強部材10では、後述するように、構造物90の表面への接着は、当該表面へ直接、又は当該表面に配置された配置部へのいずれに対しても可能である。
【0106】
このため、補強部材10の構造物90の表面への接着が、当該表面へ直接行われる場合のみ可能である場合に比べ、補強部材10の接着対象の自由度が高くなる。
【0107】
また、補強部材10では、繊維シート40は、遮蔽層50の内部に配置されている。
【0108】
このため、遮蔽層50が、繊維シート40に対しその厚み方向の一方側及び他方側から照射される光を遮蔽することが可能となる。これにより、繊維シート40の厚み方向の一方側及び他方側のいずれの面を構造物90の表面に向けて補強部材10を当該表面に接着しても、構造物90に発生した亀裂を検出できる。
【0109】
また、補強部材10では、遮蔽層50が構造物90の表面へ接着される。
【0110】
このため、遮蔽層50とは別に、構造物90の表面に接着される接着部分を設ける必要がなくなる。したがって、遮蔽層50を形成するための材料とは別に、接着部分を形成するための材料が不要となる。この結果、材料コストの低減、材料管理の簡素化、及び施工の容易化を図ることができる。
【0111】
また、補強部材10では、遮蔽層50は接着部分を含む全体が同一材料で構成されるため、遮蔽層50の全体で破断強度が同じとなり、遮蔽層50の全体において破断タイミングのばらつきが小さくなる。
【0112】
さらに、補強部材10では、遮蔽層50が、構造物90の表面への接着部分を兼ねるので、繊維シート40を遮蔽する効果が高い。したがって、不用意に繊維シート40が露出することによる誤検出を抑制できる。
【0113】
加えて、補強部材10では、繊維シート40を有するため、構造物90の亀裂発生に伴う破片の剥落防止効果だけでなく、構造物90を補強するという比較例の補強部材100には無い効果も有する。
【0114】
〈第2実施形態〉
(補強部材200)
次に、第2実施形態に係る補強部材200について説明する。図7は、本実施形態に係る補強部材200を示す断面図である。なお、第1実施形態と同一機能を有する部分については、同一符号を付して、適宜、説明を省略する。
【0115】
前述の第1実施形態に係る補強部材10では、遮蔽層50が構造物90の表面に接着されていたが、第2実施形態に係る補強部材200では、構造物90の表面に接着される接着部分が、遮蔽層50とは別の層で形成される。すなわち、第2実施形態に係る補強部材200は、構造物90の表面へ接着される接着機能と、繊維シート40を遮蔽する遮蔽機能とが、機能分離された補強部材である。
【0116】
第2実施形態に係る補強部材200は、具体的には、図7に示されるように、繊維シート40と、被接着層20と、遮蔽層50と、を備えている。
【0117】
被接着層20は、補強部材10において構造物90の表面に接着される層である。被接着層20は、具体的には、樹脂を繊維シート40に含侵させた後、その樹脂を硬化させることで形成される。
【0118】
被接着層20には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、被接着層20としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、不飽和ポリエステル樹脂やアクリル樹脂といったエポキシ樹脂以外の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0119】
被接着層20は、遮蔽材を含んでおらず、透明な層とされており、繊維シート40が発光作用を生じる光を透過可能となっている。
【0120】
補強部材200では、遮蔽層50は、遮蔽樹脂が被接着層20の一方側の表面に塗布された後に硬化されることで形成される。
【0121】
補強部材200は、被接着層に遮蔽材を含まない樹脂組成物を使用すること以外、基本的に第1実施形態で使用される補強部材10と同じ方法で製造される。なお、被接着層20の一方側に形成される遮蔽層50は、例えば、被接着層20を硬化する際に塗工したり、離型フィルムなどに予め樹脂組成物を塗工して半硬化させた状態のものを積層することで、形成することができる。
【0122】
ここで、補強部材200に対し引張試験を行った場合に、補強部材200は、繊維シート40よりも先に遮蔽層50及び被接着層20が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する。引張試験では、繊維シート40、遮蔽層50及び被接着層20に対し、繊維シート40の厚み方向に対して直交する方向(以下、直交方向という)への引張力が作用する。したがって、補強部材200では、繊維シート40、遮蔽層50及び被接着層20に対し、直交方向への引張力が作用した場合に、繊維シート40よりも先に遮蔽層50及び被接着層20が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する。
【0123】
このため、補強部材200の構造物90の表面への接着状態において、構造物90に亀裂が発生して構造物90の表面が面方向に広がったり、構造物90の表面にせん断方向へのずれが生じたりした場合に、補強部材200が直交方向に引っ張られると、図8に示されるように、繊維シート40よりも先に遮蔽層50及び被接着層20が破断して、当該破断部分から繊維シート40が露出する。したがって、補強部材200は、構造物90の表面への接着状態において、構造物90への亀裂の発生に伴って遮蔽層50及び被接着層20が破断して当該破断部分から繊維シート40が露出する構成とされている。
【0124】
なお、引張試験としては、例えば、JIS K7164:2005プラスチック-引張特性の試験方法に準拠した方法が用いられる。
【0125】
本実施形態では、補強部材200に対し引張試験を行った場合に、引張ひずみが2%以下で遮蔽層50及び被接着層20が破断し、繊維シート40が露出する。すなわち、補強部材200に対し引張試験を行った場合に、遮蔽層50による遮蔽が解消され、繊維シート40が、光を受けることが可能な状態になる。
【0126】
引張試験において引張ひずみが2%を超える場合に遮蔽層50及び被接着層20が破断する構成では、構造物90に発生する亀裂が小さい場合に、遮蔽層50及び被接着層20が破断しないおそれがあるためである。
【0127】
なお、補強部材200に対し引張試験を行った場合に、引張ひずみが0.3%以上で且つ2%以下で遮蔽層50及び被接着層20が破断し、繊維シート40が露出することが好ましい。引張試験において引張ひずみが0.3%未満である場合に遮蔽層50及び被接着層20が破断する構成では、補強部材の持ち運びや取り付け時などにおける些細な外力で遮蔽層が破断する恐れがあり、誤検知の原因ともなるので適さない。
【0128】
さらに、補強部材200では、直交方向における引張伸び(伸度)にて、繊維シート40と遮蔽層50及び被接着層20とを比較した場合、遮蔽層50よりも繊維シート40のほうが、当該引張伸び(伸度)が大きい。具体的には、繊維シート40の伸び率は、例えば、20数%とされ、遮蔽層50及び被接着層20の伸び率は、例えば、3%以下とされ、好ましくは、0.5%以上3%以下とされ、さらに好ましくは0.5%以上2.5%以下とされている。当該伸び率は、いずれも23℃での伸び率である。なお、当該伸び率は、破断伸び(すなわち、破断後の引張試験片の標点間の伸び量を標点距離で割り百分率で表した値)である。
【0129】
なお、被接着層20と遮蔽層50との面方向における引張伸び(伸度)については、遮蔽層50の当該引張伸び(伸度)が被接着層20と同等もしくはそれ以下となるようにする。もし、被接着層20の方が、伸びが大きくなると遮蔽層50が破断しても被接着層20が残ってしまうことにより光照射による発光繊維の発光が物理的に遮られ好ましくない。
【0130】
補強部材200においても、構造物90の表面への接着は、当該表面へ直接、又は当該表面に配置された配置部へのいずれに対しても可能である。
【0131】
前述の補強方法と同様に、補強部材10に替えて、補強部材200を用いて、補強方法を実行可能である。なお、補強部材200を用いた補強方法では、補強部材200は、遮蔽層50が、繊維シート40に対する構造物90側とは反対側に配置された状態で、被接着層20が構造物90の表面に接着される。
【0132】
また、前述の補強構造12と同様に、補強部材10に替えて、補強部材200を用いて、補強構造12を構成することが可能である。さらに、この補強構造12において、前述の亀裂検出方法と同様に、亀裂検出方法を適用可能である。
【0133】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。
【符号の説明】
【0134】
10、200 補強部材
12 補強構造
20 被接着層
40 繊維シート
50 遮蔽層
70 接着層
90 構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8