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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092624
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】水酸化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/02 20060101AFI20230627BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20230627BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230627BHJP
   C22B 3/42 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C01D15/02
C22B26/12
C22B3/44 101A
C22B3/42
C22B3/44 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207750
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA24
4K001DB22
4K001DB23
4K001JA01
4K001JA05
(57)【要約】
【課題】電気透析による転換工程よりも前段階で、不純物をあらかじめ定められたレベルにまで少なくし、高純度の水酸化リチウムを得ることができる水酸化リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】水酸化リチウムの製造方法は、次の工程(1)~(5)を包含する。(1)炭酸水素化工程:水と粗炭酸リチウムとが混合されたスラリーに、二酸化炭素を吹き込む工程。(2)脱炭酸工程:炭酸水素リチウム溶液を加熱する工程。(3)酸溶液溶解工程:精製炭酸リチウムを酸溶液に溶解させる工程。(4)不純物除去工程:第1リチウム含有溶液から金属イオンの一部を除去する工程。(5)転換工程:第2リチウム含有溶液に含まれるリチウム塩を、電気透析により水酸化リチウムに転換する工程。この製法により、リチウム以外の金属を確実に除去することができるので、得られる水酸化リチウムの純度を上げることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)~(5):
(1)炭酸水素化工程:水と粗炭酸リチウムとが混合されたスラリーに、二酸化炭素を吹き込んで炭酸水素リチウム溶液を得る工程、
(2)脱炭酸工程:前記炭酸水素リチウム溶液を加熱し、精製炭酸リチウムを得る工程、
(3)酸溶液溶解工程:前記精製炭酸リチウムを酸溶液に溶解させ、第1リチウム含有溶液を得る工程、
(4)不純物除去工程:前記第1リチウム含有溶液から金属イオンの一部を除去し、第2リチウム含有溶液を得る工程、
(5)転換工程:前記第2リチウム含有溶液に含まれるリチウム塩を、電気透析により水酸化リチウムに転換し、水酸化リチウムが溶解している水酸化リチウム含有溶液を得る工程、
を包含する、
ことを特徴とする水酸化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記転換工程の後に、前記水酸化リチウム含有溶液に溶解している前記水酸化リチウムを固形化する晶析工程が設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記不純物除去工程が、
第1リチウム含有溶液にアルカリを添加することでpH調整し、pH調整後液を得るpH調整工程と、
前記pH調整後液とイオン交換樹脂とを接触させて前記第2リチウム含有溶液を得るイオン交換工程と、
を包含する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記不純物除去工程が、
第1リチウム含有溶液に酸化剤を添加し、酸化後液を得る工程と、
前記酸化後液にアルカリを添加することでpH調整し、pH調整後液を得るpH調整工程と、
前記pH調整後液とイオン交換樹脂とを接触させて前記第2リチウム含有溶液を得るイオン交換工程と、
を包含する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記pH調整工程後のpH調整後液のpHは、6以上10以下である、
ことを特徴とする請求項3または4に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記アルカリが、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを含む、
ことを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記炭酸リチウムが、
前記脱炭酸工程で得られた精製炭酸リチウムである、
ことを特徴とする請求項6に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項8】
前記脱炭酸工程では、
炭酸水素リチウム溶液が60℃以上90℃以下で加熱される、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の水酸化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化リチウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、電気透析による転換工程を含む水酸化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載バッテリー用の正極材料として、ニッケル系正極材料であるNCAの需要が拡大している。そして、ニッケル系正極材料が車載バッテリーに使用される場合、その構成元素であるリチウムは、水酸化リチウムとして供給されることが経済的に好ましい。この水酸化リチウムは、例えば炭酸リチウムに消石灰を添加し、水酸基置換を行うことで得られる。非特許文献1では、炭酸リチウムから水酸化リチウムを得る方法が開示されている。炭酸リチウムが出発原料として用いられる理由は、他のリチウム化合物と比較して変質がしにくく長期保存が可能であるからである。しかし、この炭酸リチウムから水酸化リチウムを得る製造方法は、薬剤のコストが高く、生産コストが大きくなるという問題がある。加えて水酸化リチウム中のカルシウム濃度が高くなるという問題もある。
【0003】
特許文献1では、炭酸リチウムから水酸化リチウムを製造する方法として電気透析(膜分離)とイオン交換樹脂を用いた方法が開示されている。この方法では前述したカルシウムなど価数が2価以上の多価金属の低減は可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-270189号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小林正夫、リチウムの資源,生産,応用、日本鉱業会誌、日本、1984年、100巻1152号、115-122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の製造方法では、リチウムと同じアルカリ金属であるナトリウムやカリウムはリチウムと同様の挙動を示すことから、それらを除去する効果は限定的である。このため、原料の炭酸リチウム中のナトリウム濃度が高い場合、得られる水酸化リチウムの純度が低くなり、電池用の原料として使用できない場合がある。特に、塩湖かん水を原料として炭酸リチウムが製造された場合、不純物除去のための中和剤に水酸化ナトリウムが使用され、炭酸リチウム中のナトリウムが高くなる傾向があり、この場合、高純度の水酸化リチウムの製造は困難となる。
また、電気透析において、カルシウムなどの価数が2価以上の多価金属の電解液中の濃度が高くなると、用いられている隔膜が損傷しやすくなる。この損傷を抑制するために、電気透析を行う前に、電解液中のカルシウムなどの多価金属の濃度を、それぞれ0.05mg/L未満とする必要があるという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、電気透析による転換工程よりも前段階で、不純物をあらかじめ定められたレベルにまで少なくし、高純度の水酸化リチウムを得ることができる水酸化リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の水酸化リチウムの製造方法は、次の工程(1)~(5):(1)炭酸水素化工程:水と粗炭酸リチウムとが混合されたスラリーに、二酸化炭素を吹き込んで炭酸水素リチウム溶液を得る工程、(2)脱炭酸工程:前記炭酸水素リチウム溶液を加熱し、精製炭酸リチウムを得る工程、(3)酸溶液溶解工程:前記精製炭酸リチウムを酸溶液に溶解させ、第1リチウム含有溶液を得る工程、(4)不純物除去工程:前記第1リチウム含有溶液から金属イオンの一部を除去し、第2リチウム含有溶液を得る工程、(5)転換工程:前記第2リチウム含有溶液に含まれるリチウム塩を、電気透析により水酸化リチウムに転換し、水酸化リチウムが溶解している水酸化リチウム含有溶液を得る工程、を包含することを特徴とする。
第2発明の水酸化リチウムの製造方法は、第1発明において、前記転換工程の後に、前記水酸化リチウム含有溶液に溶解している前記水酸化リチウムを固形化する晶析工程が設けられていることを特徴とする。
第3発明の水酸化リチウムの製造方法は、第1発明または第2発明において、前記不純物除去工程が、第1リチウム含有溶液にアルカリを添加することでpH調整し、pH調整後液を得るpH調整工程と、前記pH調整後液とイオン交換樹脂とを接触させて前記第2リチウム含有溶液を得るイオン交換工程と、を包含することを特徴とする。
第4発明の水酸化リチウムの製造方法は、第1発明または第2発明において、前記不純物除去工程が、第1リチウム含有溶液に酸化剤を添加し、酸化後液を得る工程と、前記酸化後液にアルカリを添加することでpH調整し、pH調整後液を得るpH調整工程と、前記pH調整後液とイオン交換樹脂とを接触させて前記第2リチウム含有溶液を得るイオン交換工程と、を包含することを特徴とする。
第5発明の水酸化リチウムの製造方法は、第3発明または第4発明において、前記pH調整工程後のpH調整後液のpHは、6以上10以下であることを特徴とする。
第6発明の水酸化リチウムの製造方法は、第3発明から第5発明のいずれかにおいて、前記アルカリが、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを含むことを特徴とする。
第7発明の水酸化リチウムの製造方法は、前記炭酸リチウムが、前記脱炭酸工程で得られた精製炭酸リチウムであることを特徴とする。
第8発明の水酸化リチウムの製造方法は、第1発明から第7発明のいずれかにおいて、前記脱炭酸工程では、炭酸水素リチウム溶液が60℃以上90℃以下で加熱されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、電気透析による転換工程よりも前段階で、炭酸水素化工程、脱炭酸工程、酸溶液溶解工程を実行することにより、リチウム以外の金属を確実に除去することができるので、得られる水酸化リチウムの純度を上げることができる。また、カルシウムなどの価数が2価以上の多価金属の電解液中の濃度を低くできるので、この後段階にある転換工程で用いられる隔膜の損傷を抑制できる。
第2発明によれば、転換工程の後に水酸化リチウムを固形化する晶析工程が設けられていることにより、溶解度の違いを利用して、水酸化リチウムを高純度に固形化することができる。
第3発明によれば、不純物除去工程に、イオン交換樹脂を利用するイオン交換工程が設けられ、そのイオン交換工程の前にアルカリを添加するpH調整工程が設けられていることにより、pH調整工程において、その後のイオン交換工程に適したpHに調整することができ、イオン交換工程で2価以上の金属除去率が大幅に向上する。
第4発明によれば、不純物除去工程に、イオン交換樹脂を利用するイオン交換工程が設けられ、そのイオン交換工程の前に、酸化剤を添加する酸化工程と、アルカリを添加するpH調整工程とがあることにより、第1リチウム含有溶液にマンガンが含まれている場合に、マンガンを除去できると共に、pH調整工程において、その後のイオン交換工程に適したpHに調整することができ、イオン交換工程で2価以上の金属の除去率が大幅に向上する。
第5発明によれば、pH調整工程後のpH調整後液のpHが、6以上10以下であることにより、pH調整工程後のイオン交換工程での不純物の除去がより確実に行われる。
第6発明によれば、アルカリが、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを含むことにより、添加されるアルカリに、ナトリウムまたはカリウムなどの不純物が加えられるのを避けることができる。
第7発明によれば、炭酸リチウムが、脱炭酸工程で得られた精製炭酸リチウムであることにより、前段の工程で得られた生成物を用いるので、余計なコストを削減できる。
第8発明によれば、加熱が60℃以上90℃以下であることにより、脱炭酸工程での工程時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図である。
図2図1の水酸化リチウムの製造方法の不純物除去工程の詳細なフロー図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法を構成する不純物除去工程の詳細なフロー図である。
図4】転換工程における通電時間と、水酸化リチウム含有溶液中のリチウム濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための水酸化リチウムの製造方法を例示するものであって、本発明は水酸化リチウムの製造方法を以下のものに特定しない。
【0012】
本発明に係る水酸化リチウムの製造方法は、次の工程(1)~(5)を包含する。
(1)炭酸水素化工程:水と粗炭酸リチウムとが混合されたスラリーに、二酸化炭素を吹き込んで炭酸水素リチウム溶液を得る工程。
(2)脱炭酸工程:前記炭酸水素リチウム溶液を加熱し、精製炭酸リチウムを得る工程。
(3)酸溶液溶解工程:前記精製炭酸リチウムを酸溶液に溶解させ、第1リチウム含有溶液を得る工程。
(4)不純物除去工程:前記第1リチウム含有溶液から金属イオンの一部を除去し、第2リチウム含有溶液を得る工程。
(5)転換工程:前記第2リチウム含有溶液に含まれるリチウム塩を、電気透析により水酸化リチウムに転換し、水酸化リチウムが溶解している水酸化リチウム含有溶液を得る工程。
【0013】
本発明では、電気透析による転換工程よりも前段階で、炭酸水素化工程、脱炭酸工程、酸溶液溶解工程を実行することにより、リチウム以外の金属を確実に除去することができるので、得られる水酸化リチウムの純度を上げることができる。また、カルシウムなどの価数が2価以上の多価金属の電解液中の濃度を低くできるので、この後段階にある転換工程で用いられる隔膜の損傷を抑制できる。
【0014】
また、水酸化リチウムの製造方法においては、前記転換工程の後に、前記水酸化リチウム含有溶液に溶解している前記水酸化リチウムを固形化する晶析工程が設けられていることが好ましい。この態様により、溶解度の違いを利用して、水酸化リチウムを高純度に固形化することができる。
【0015】
また、水酸化リチウムの製造方法においては、前記不純物除去工程が、第1リチウム含有溶液にアルカリを添加することでpH調整し、pH調整後液を得るpH調整工程と、前記pH調整後液とイオン交換樹脂とを接触させて前記第2リチウム含有溶液を得るイオン交換工程と、を包含することが好ましい。この態様により、pH調整工程において、その後のイオン交換工程に適したpHに調整することができ、イオン交換工程で2価以上の金属除去率が大幅に向上する。
【0016】
また、水酸化リチウムの製造方法においては、前記不純物除去工程が、第1リチウム含有溶液に酸化剤を添加し、酸化後液を得る工程と、前記酸化後液にアルカリを添加することでpH調整し、pH調整後液を得るpH調整工程と、前記pH調整後液とイオン交換樹脂とを接触させて前記第2リチウム含有溶液を得るイオン交換工程と、を包含することが好ましい。この態様により、第1リチウム含有溶液にマンガンが含まれている場合に、マンガンを除去できると共に、pH調整工程において、その後のイオン交換工程に適したpHに調整することができ、イオン交換工程で2価以上の金属除去率が大幅に向上する。
【0017】
また、水酸化リチウムの製造方法においては、前記pH調整工程後のpH調整後液のpHは、6以上10以下であることが好ましい。この態様により、pH調整工程後のイオン交換工程での不純物の除去がより確実に行われる。
【0018】
また、水酸化リチウムの製造方法においては、前記pH調整工程で用いられるアルカリが、前記脱炭酸工程で得られた精製炭酸リチウムであることが好ましい。この態様により、ナトリウムまたはカリウムなどの不純物が加えられるのを避けることができる。また、前段の工程で得られた生成物を用いるので、余計なコストを削減できる。
【0019】
また、水酸化リチウムの製造方法においては、前記脱炭酸工程では、炭酸水素リチウム溶液が60℃以上90℃以下で加熱されることが好ましい。この態様により、脱炭酸工程での工程時間を短縮できる。
【0020】
(第1実施形態)
<炭酸水素化工程>
図1には、本発明の第1実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図を示す。本実施形態は、(1)炭酸水素化工程、(2)脱炭酸工程、(3)酸溶液溶解工程、(4)不純物除去工程、(5)転換工程が、その順に実行される。本実施形態では、炭酸水素化工程が最初に実施される。炭酸水素化工程は、水と粗炭酸リチウムとが混合されたスラリーに、二酸化炭素を吹き込んで炭酸水素リチウム溶液を得る工程である。ここで「粗炭酸リチウム」は、炭酸リチウムを主成分とし、後述する「精製炭酸リチウム」と比較して、不純物の割合が高いものを意味する。具体的に「粗炭酸リチウム」は、塩湖かん水、地熱かん水、石油かん水などのかん水、またはリチウム鉱石の浸出液などから、非特許文献1に記載の方法により得られる、不純物の高い炭酸リチウムが該当する。
【0021】
数1に示すように、粗炭酸リチウムは、二酸化炭素および水と反応することで、溶解度の高い炭酸水素リチウムに転換され、炭酸水素リチウム溶液が得られる。すなわち炭酸水素リチウムは、液体に溶け込み炭酸水素リチウム溶液となり、他の難溶性の不純物が固体となる。例えばこの不純物とは、炭酸カルシウムである。このように固液分離することで、不純物である炭酸カルシウムなどを除去することができる。
【0022】
[数1]
LiCO+CO+HO → 2LiHCO
【0023】
本実施形態に係る炭酸水素化工程では、温度を20℃以上40℃以下とすることが好ましい。また、吹き込む二酸化炭素は、未反応かつ溶解できない二酸化炭素が気泡になって出始める直前の量が好ましい。
【0024】
<脱炭酸工程>
図1および数2に示すように、脱炭酸工程では炭酸水素リチウム溶液を加熱することで、炭酸水素リチウムを溶解度の低い精製炭酸リチウムに転換し、再沈澱させて精製炭酸リチウムを得る。粗炭酸リチウムには、ナトリウムを高濃度に含む場合がある。そこでこのナトリウム濃度を低減するために、粗炭酸リチウム中の炭酸リチウムを、炭酸水素化工程で溶解度の高い炭酸水素リチウムとして溶解し、その後、脱炭酸工程で精製炭酸リチウムという形で再度炭酸リチウムにして、精製炭酸リチウムを沈殿させる。ここで「精製炭酸リチウム」とは、炭酸リチウムを主成分として、前述した「粗炭酸リチウム」と比較して不純物の割合が低いものを意味する。沈殿した精製炭酸リチウムでは、ナトリウムがほぼ除去され、精製炭酸リチウムの純度を高くすることができる。沈殿物である精製炭酸リチウムと、上澄み液とは固液分離され、固形物である精製炭酸リチウムが得られる。
【0025】
[数2]
2LiHCO → LiCO+CO+H
【0026】
本実施形態に係る脱炭酸工程は、80℃で実施されたが、これに限定されない。例えば、60℃以上90℃以下で実施されることが好ましい。この態様により、脱炭酸工程での工程時間を短縮できる。加熱方法は特に限定されず、反応容器の規模に応じた方法を採用するのが好ましい。例えば、テフロン(登録商標)ヒータ、蒸気加熱を採用することができる。また、本実施形態に係る脱炭酸工程の固液分離では、フィルタープレスが用いられるのが好ましい。
【0027】
<酸溶液溶解工程>
図1に示すように、酸溶液溶解工程では脱炭酸工程で得られる精製炭酸リチウムを酸溶液で溶解し、リチウム塩溶液を得る。炭酸リチウムを、この後の転換工程に用いようとした場合、炭酸リチウムの溶解度が低いため、薄液でしか転換ができず、効率が悪くなる(処理量に対して設備の大きさが大きくなる)こと、転換時に炭酸ガスが出る可能性があり、膜を損傷させる可能性があることという2点の問題がある。これらの問題を解決するため、精製炭酸リチウムを酸溶液で溶解してリチウム塩溶液である第1リチウム含有溶液にする。酸溶液溶解後はpHが低下しているため、イオン交換工程で不純物除去に適したpHに調整することが好ましい。なお、酸溶液溶解工程で用いられる酸は、塩酸、硫酸、硝酸などが該当する。本実施形態では、塩酸が用いられ、酸溶液溶解工程ではリチウム塩溶液として塩化リチウム溶液が得られる。化学反応式を数3に示す。
【0028】
[数3]
LiCO+2HCl → 2LiCl+HO+CO
【0029】
なお、酸溶液溶解工程で用いられる酸溶液の量は、後述するイオン交換工程でpHを高くする必要があることから、必要最低限の量とすることが好ましい。例えば、pHが8.5となるように調整することが好ましい。
【0030】
図1に示すように、不純物除去工程では、第1リチウム含有溶液から金属イオンの一部を除去して第2リチウム含有溶液を得る。また図2には、本実施形態に係る不純物除去工程の構成を示すフロー図を示す。本実施形態では、不純物除去工程は、pH調整工程と、イオン交換工程と、を包含する。なお、不純物除去工程は、ここで示す構成に限定されない。
【0031】
<不純物除去工程中のpH調整工程>
図2に示すように、pH調整工程では、第1リチウム含有溶液にアルカリが添加されpH調整されることにより、pH調整液が得られる。この時調整pHまたは不純物濃度によっては、若干の不純物を含んだpH調整澱物が得られる。pH調整工程では、この後段に位置するイオン交換工程において、Ca、Mgなどの不純物を除去するのに適したpHに、pH調整後液を調整する。具体的にpHは6以上10以下が好ましい。pHが6より小さい場合、イオン交換工程での不純物除去が不十分になる場合がある。また、pHが10よりも大きい場合、添加されるアルカリの量が多くなりすぎる。pH調整後液は、pH7.5以上8.5以下がさらに好ましい。中和剤の添加量を少なくすることができると共に、必要な不純物除去能力が期待できるためである。またアルカリとしては、ナトリウムおよびカリウムを含まないものが好ましい。例えばアルカリは、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを含むことが好ましい。この場合、炭酸リチウムは、純度99%以上の炭酸リチウムであり、水酸化リチウムは純度99%以上の水酸化リチウムである必要がある。またはこの炭酸リチウムは、上記脱炭酸工程を経た後に得られる精製炭酸リチウムであることがより好ましい。この態様により、ナトリウムまたはカリウムなどの不純物が加えられるのを避けることができる。また、前段の工程で得られた生成物を用いるので、余計なコストを削減できる。
【0032】
<不純物除去工程のイオン交換工程>
図2に示すように、イオン交換工程では、pH調整後液とイオン交換樹脂とを接触させることで、不純物の一部が取り除かれた第2リチウム含有溶液が得られる。イオン交換工程では、2価以上の金属イオンが除去されるが、このときpH調整工程のpH に応じて残留する溶解度分のカルシウム、アルミニウム、マンガンおよびマグネシウムも除去される。
【0033】
用いるイオン交換樹脂はキレート樹脂が好ましい。例えばイミノニ酢酸型の樹脂を用いることができる。具体的には、Amberlite IRC748を用いることが可能である。イオン交換工程におけるpH調整後液のpHは、イオン交換樹脂により好ましい値が決定される。ただし、酸溶液溶解工程で得られた第1リチウム含有溶液に対して、そのままイオン交換工程を行うのが好ましい。イオン交換樹脂と、pH調整後液との接触方法は、カラム方式が好ましい。ただし、バッチ混合方式が採用される場合もある。
【0034】
<転換工程>
図1に示すように、転換工程では、第2リチウム含有溶液に含まれるリチウム塩を水酸化リチウムに転換し、水酸化リチウムが溶解している水酸化リチウム含有溶液を得る。本実施形態では、リチウム塩は塩化リチウムである。第2リチウム含有溶液内には、不純物除去工程の酸溶液溶解工程で用いた酸によって、リチウム塩が溶解している。本工程では、例えばバイポーラ膜を用いた電気透析でこれらの水溶液を、水酸化リチウムを含有する水酸化リチウム含有溶液と、塩酸とに転換する。すなわち、電気透析を行うことにより、第2リチウム含有溶液中の塩化リチウムが分解され、塩化リチウムのリチウムイオンが、カチオン膜を通過して、水酸化物イオンと結びつき、水酸化リチウムとなり、塩化物イオンが、アニオン膜を通過して塩酸となる。回収した塩酸は溶離工程にリサイクルすることが可能である。これにより鉱酸の使用量を減らすことができる。
【0035】
なお、転換工程には、バイポーラ膜を用いた電気透析以外に、例えばイオン交換膜を用いた電気透析が該当する。イオン交換膜として陽イオン交換膜が用いられた場合、陰極室に水酸化リチウムが生成される。
【0036】
(第2実施形態)
図3には、本発明の第2実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法の不純物除去工程のフロー図を示す。本実施形態の、第1実施形態との相違点は、不純物除去工程において、pH調整工程の前に酸化工程が含まれている点である。他の点は、第1実施形態と同じである。以下に第2実施形態の酸化工程について説明する。
【0037】
<不純物除去工程中の酸化工程>
図3に示すように、酸化工程は、酸溶液溶解工程で得られた第1リチウム含有溶液に、空気、酸素、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を添加し、第1リチウム含有溶液中のマンガンを酸化し、不溶性の二酸化マンガンにすることで液中に溶解しているマンガンを沈殿除去し、酸化後液を得る工程である。マンガンは、上述したpH調整工程でも除去可能であるが、酸化工程が設けられることにより、マンガンがpH調整工程前に除去されるので、pH調整工程でのマンガンが除去される負荷を低減できる。また、酸化工程で沈殿除去されたマンガンは再利用することも可能である。酸化工程で用いられる酸化剤の種類は、空気、酸素、次亜塩素酸ナトリウムなどを採用することができる。第1リチウム含有溶液の酸化還元電位は電位pH図で二酸化マンガンの領域になっている、pHと電位に設定する。得られた酸化後液は、酸化工程の後のpH調整工程に付される。
【0038】
(その他)
<晶析工程>
上記いずれの実施形態においても、転換工程の後に、水酸化リチウム含有溶液に溶解している水酸化リチウムを固形化する晶析工程が設けられる場合がある。晶析工程は、図1では点線で示している。
【0039】
転換工程で得られた水酸化リチウム含有溶液を蒸発乾固すると水酸化リチウムが得られる。しかし、この水酸化リチウム含有溶液には、ナトリウムまたはカリウムなどのアルカリ金属が存在しており、そのまま蒸発乾固すると、そこから得られる固形物は、水酸化リチウム以外の水酸化物を多く含むこととなる。このため、転換工程のあとに、水酸化リチウム含有溶液に溶解している水酸化リチウムを固形化する晶析工程が設けられることが好ましい。
【0040】
晶析工程では、水酸化リチウム含有溶液に溶解している水酸化リチウムを固形化することで、固体水酸化リチウムが得られる。この固体水酸化リチウムと合わせて、晶析母液が得られる。転換工程では、リチウムが水酸化リチウムになるとともに、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属も水酸化物となる。よってこれらも転換工程で得られる水酸化リチウム含有溶液に含まれる。さらに、アニオンである塩素イオンも膜を通して、水酸化リチウム含有溶液に含まれる。晶析工程では各水酸化物の溶解度の違いを利用し、水酸化リチウムの固形化を行うとともに、含有する不純物を分離する。
【0041】
晶析工程では水酸化リチウム含有溶液が加熱濃縮される。この際液中に含有する金属イオン濃度が上昇し、最初に比較的溶解度の低い水酸化リチウムが析出固化する。この析出した水酸化リチウムは、固体水酸化リチウムとして回収される。この際、比較的溶解度の高い水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムは、析出させずに水溶液中に残存させる。これにより回収された水酸化リチウムの純度が上がる。
【0042】
例えば60℃ における、水酸化リチウムの溶解度は13.2g/100g-水であり、水酸化ナトリウムの174g/100g-水、水酸化カリウムの154g/100g-水と比較すると、水酸化リチウムの溶解度が極めて低いことがわかる。塩素イオンは加熱濃縮操作を行っている際も2g/Lであることから、アルカリ金属の塩化物として水酸化リチウム中に析出することはない。
【0043】
この工程は、工業的には晶析缶を用いた連続晶析で行うことが可能である。また、バッチ晶析で行うこともできる。晶析工程で発生する晶析母液は濃いアルカリ水溶液である。なおこの晶析母液には、溶解度分の水酸化リチウムが含まれるため、リチウム吸着工程に繰り返すことで、リチウムの回収率が上がる。加えて中和剤のコストが下がる。
【実施例0044】
以下に、本発明に係る水酸化リチウムの製造方法の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
<炭酸水素化工程>
表1に示す粗炭酸リチウム78gと純水1.56Lとが2Lのプラスチックビーカーに入れられ、撹拌混合されスラリー状になった。そのスラリーに二酸化炭素が3時間吹き込まれ、未反応かつ溶解できない二酸化炭素が気泡になって出始めた。この二酸化炭素の吹込みにより、炭酸リチウムが炭酸水素リチウムに転換され、溶解された。この炭酸水素化工程は、30℃で行われた。そして炭酸水素化工程では、二酸化炭素吹込み後、スラリーが吸引されるとともに、残渣が除去され、表2に示す炭酸水素リチウム溶液が得られた。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
<脱炭酸工程>
炭酸水素化工程で得られた炭酸水素リチウム溶液1.56Lが、2Lのステンレス製のビーカーに入れられ、80℃に加熱されながら3時間程度、撹拌混合された。これにより炭酸水素リチウムは、炭酸リチウムに転換され、沈殿した。得られた精製炭酸リチウムは、純水でレパルプ洗浄、掛水洗浄され加熱乾燥が行われた。加熱乾燥後46gの精製炭酸リチウムが得られた。その分析値を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表1と表3とを比較すると、脱炭酸工程により、不純物を低下させることが可能であることがわかった。すなわち、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムの不純物濃度が低下することがわかった。
【0051】
<酸溶液溶解工程>
脱炭酸工程で得られた精製炭酸リチウム70gと純水400mlとが、1Lのプラスチックビーカーに入れられ、撹拌混合されスラリー状になった。このスラリーに37%HClが165ml添加され、第1リチウム含有溶液が700mlになるよう純水が加えられた。
【0052】
<pH調整工程(不純物除去工程)>
酸溶液溶解工程で得られた第1リチウム含有溶液に、上記脱炭酸工程で得られた精製炭酸リチウムを添加し、イオン交換工程で不純物を除去するためにpHが調整された。本実施形態では、pHは8.4になるように撹拌混合されpH調整後液が得られた。本工程はすべて常温で行われた。その不純物である含有金属を表4に示す。脱炭酸工程、酸溶液溶解工程、pH調整工程を経ることで、ナトリウムの含有量が顕著に少なくなっているのがわかる。
【0053】
【表4】
【0054】
<イオン交換工程(不純物除去工程)>
キレート樹脂(アンバーライト社:IRC748)20mlがガラスカラムに充填され、その官能基をLi型にするためコンディショニングが行われた。その後、pH調整工程で得られたpH調整後液をカラム内に通液速度1.67ml/min(SV5)で600mL(BV30)だけ通液した。表5に、カラムを流出した後の第2リチウム含有溶液の金属濃度を示す。このイオン交換工程により、カルシウムおよびマグネシウムをごく微量にまで低減できたことがわかる。
【0055】
【表5】
【0056】
<転換工程>
不純物除去工程で得られた第2リチウム含有溶液1Lがバイポーラ膜電気透析装置(アストム社製:アシライザーEX3B)に導入され、塩化リチウムが水酸化リチウムに転換された。転換後の水酸化リチウム含有溶液の液量は0.6Lであった。図4に通電時間と水酸化リチウム含有溶液中のリチウム濃度の関係を示す。通電とともに水酸化リチウム含有溶液中のリチウム濃度が増加し、最終的に28~29g/Lまで濃縮された。電気透析後の金属濃度を表6に示す。表からわかるように、不純物濃度が非常に低い、高純度の水酸化リチウム含有溶液が得られているのがわかる。
【0057】
【表6】
【0058】
<晶析工程>
転換工程で得られた水酸化リチウム含有溶液0.6Lがステンレス製ビーカーに入れられ、撹拌されながら加熱され、90~100℃の温度が保持され、0.2Lまで濃縮操作が行われ、析出した水酸化リチウム結晶が回収された。この水酸化リチウム結晶の分析値を表7に示す。不純物濃度の低い水酸化リチウム結晶を回収することができたことがわかる。
【0059】
【表7】
【0060】
(比較例1)
比較例1と実施例1との相違点は、実施例1の工程において、脱炭酸工程を行わなかった点である。これ以外はすべて同じ条件で比較例1は実施された。すなわち、炭酸水素化工程で得られた炭酸水素リチウム溶液に、そのまま塩酸を加えて酸溶液溶解工程を実施し、その後、不純物除去工程、転換工程を経て水酸化リチウムが入用液を得た。その結果を表8に示す。表6と比較して顕著にナトリウムが高い濃度で含まれているのがわかる。
【0061】
【表8】
図1
図2
図3
図4